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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G21F
管理番号 1334879
審判番号 不服2016-14004  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-20 
確定日 2017-11-24 
事件の表示 特願2014- 51632「放射能低減方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 5日出願公開、特開2015-175698〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月14日を出願日とする特願2014-51632号であって、平成28年2月15日付けで拒絶理由が通知され、同年4月1日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年6月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、当審において、平成29年5月30日付けで拒絶理由の通知がなされ、同年8月4日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされた。

第2 本願の特許請求の範囲の記載
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成29年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
放射性物質が付着した放射能汚染物質の放射能を低減する放射能低減方法であって、
放射能汚染物質に光合成細菌を有する水溶液を散布しながら当該放射能汚染物質を所定時間撹拌し、
その撹拌した後の放射能汚染物質を容器に詰めて所定時間保存することにより、当該放射能汚染物質の放射能を低減し、
前記光合成細菌は、紅色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌及び緑色硫黄細菌の少なくとも何れかであり、
前記放射能汚染物質の撹拌及び保存は、酸素飢餓状態で行われることを特徴とする放射能低減方法。
【請求項2】
前記放射能汚染物質は、炭化処理した後の炭化放射能汚染物質であることを特徴とする請求項1に記載の放射能低減方法。」

第3 特許法第36条第4項第1号(及び6項1号)の違反について
1 当審における拒絶理由
当審において(平成29年5月30日付けで)通知した、本願は特許法第36条第4項第1号(及び6項1号)の規定に違反しているとした拒絶理由は、以下のとおりである。
「第3 理由(2)について
1 発明の詳細な説明の記載事項
請求項1及び6の「放射性物質が付着した放射能汚染物質の放射能を低減する」について、この点が確認できたことを示すものとしての実験例については、平成28年9月20日付けの手続補正により補正された発明の詳細な説明の【0051】?【0056】に次のように記載されている。
「【0051】
次にこの発明の実験例を説明する。
1.実験条件
(1)実験日
(i)放射能汚染物質Aの熱分解炉1への投入日
平成25年12月16日
(ii)撹拌混合装置4による炭化放射能汚染物質Bと光合成細菌との撹拌混合日
平成25年12月17日
(1)放射能汚染物質Aの種類
福島県川俣地区の落葉
(2)放射能汚染物質Aの熱分解炉1への投入量
11Kg
(3)炭化放射能汚染物質Bの撹拌容器41への投入量
(熱分解炉1からの排出量に相当)
2.2Kg
(4)光合成細菌として紅色非硫黄細菌の水溶液の合計投入量
1.5リットル
(5)撹拌混合装置4における撹拌時間
30分
(6)撹拌混合後の炭化放射能汚染物質Bの保管条件
保存容器5としてのいわゆるフレコンバックに詰めて、雨にさらされない条件で保存した。
【0052】
2.実験方法
上記炭化放射能汚染物質Bの放射能の強さについて、撹拌容器41への投入前及び保存容器5に投入後において測定した。保存容器5に投入後は、時間の経過をみて複数回測定した。
【0053】
3.実験結果
【表1】

【0054】
上記実験結果より、放射能汚染物質Aの熱分解炉1への投入日である平成25年12月16日から起算した場合でも約1カ月半で、厚生労働省が定める一般食品についての放射性セシウムの基準値(100ベクレル/Kg)未満になることが確認できた。
【0055】
上記のように構成された放射能除染装置においては、放射能汚染物質としての炭化放射能汚染物質Bを撹拌する撹拌容器41と、この撹拌容器41内に投入された炭化放射能汚染物質Bの上方から光合成細菌を有する水溶液44を散布するノズル45を備えているので、光合成細菌を炭化放射能汚染物質B内に均等に分散させることができる。従って、炭化放射能汚染物質Bの量が多い場合でも、当該炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質の放射能をむらなく効率的に低減することができる。
【0056】
また、炭化放射能汚染物質Bを撹拌して光合成細菌を均等に分散させた直後においては当該炭化放射能汚染物質Bの放射能がまだ強い状態にあるが、当該炭化放射能汚染物質Bについては撹拌容器41の下方に備えた排出用フィーダ42により、直接触れることなく安全に取り出して、保存容器5に詰めることができる。このようにして保存容器5に詰められた炭化放射能汚染物質Bの放射能は、その後の光合成細菌の作用により、保存開始時3500ベクレム/Kgであったものが、2月以内で81ベクレム/Kgまで下がるという測定結果が得られた。即ち、2月以内で、一般食品の基準値である100ベクレル/Kg未満に下げることができるという顕著な効果を奏する。」
2 実験の手法・条件等についての記載の不備(不明な点)
上記の発明の詳細な説明の【0052】の「上記炭化放射能汚染物質Bの放射能の強さについて、撹拌容器41への投入前及び保存容器5に投入後において測定した。」の記載について、上記の実験例の記載では、何を被検体(被測定部材)として、どのような装置でどのように測定したかが不明で、上記実験を再現することができず、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に記載したものということができない。
詳述すると、【0051】には、炭化放射能汚染物質B2.2Kgと光合成細菌の水溶液1.5リットルを撹拌混合装置4に投入し30分間撹拌混合したものを保存容器5に詰めたことが記載されているといえるが、
(1)何を測定の被検体として、具体的にどのように測定したのかが不明である。すなわち、
ア 上記の撹拌混合したものを詰めた保管容器を被検体として測定したのか、保管容器からサンプルを取り出して測定したのか不明である。
イ 保管容器を被検体として測定したとすれば、保管容器の大きさ・形状がどのようなもので、保管容器のどの部分に対してどのように(どれだけの距離を離して)測定機を設置して測定したものか不明である。
ウ サンプルを取り出して測定したとすれば、上記の撹拌混合して保管容器に詰めたものが保管容器の中でどのような状態で保管され、保管容器のどの部分からどのようにどれだけの量を取り出したサンプルを、どのような測定機を用いてどのように測定したものか不明である。
(2)「光合成細菌の水溶液」については、光合成細菌の菌種、水溶液における細菌の濃度、菌の比重等の具体的構成が不明であり、当業者が実験を再現できるように記載されたものではない。
(3)撹拌容器からの排出時の混合物の状況(水溶液の溶媒はどのように処理されているのか(処理されることなく全部保管されるのか)、混合物の粘度や菌の分散状況がどの程度であるのかなど)が不明である。
(4)撹拌混合後の具体的保管状況(保管容器の密閉性、保管時間の経過による状況(菌の増殖や分散の状況)の変化)などが不明である。なお、【0051】の(6)における「保存容器5としてのいわゆるフレコンバックに詰めて、雨にさらされない条件で保存した。」の記載の「雨にさらされない条件」が必要であったことから、「雨にさらされ」ることで影響を受ける程度の不完全な密閉状態ではないかとも推測できる。
3 実験結果(【表1】)についての不明点
(1)発明の詳細な説明の【表1】には、放射能の強さ(放射線の強度のことと推測される)の単位が、(ベクレル/Kg)とあるが、何の1Kg当たりの単位なのか(炭化放射能汚染物資Bと光合成細菌の水溶液を混合したもの1Kg当たりなのか、炭化放射能汚染物資Bのみ1Kg当たり(この場合、炭化放射能汚染物資Bと光合成細菌の水溶液を混合したものの重量から光合成細菌の水溶液の重量を引き算する等による処理が必要となる)なのか、またはそれ以外か)が不明である。
(2)「セシウム134」、「セシウム137」及び「合計」のそれぞれに対する数値は、どのように区別して測定した値かが不明である。
(3)「合計」の値は「セシウム134」と「セシウム137」それぞれの値の合計値と一致しており、放射能の強さ(放射線の強度)全部を合わせたものが、「セシウム134」と「セシウム137」から生じたもののみであることから、それ以外の放射性物質(例えばストロンチウム90等)は全く含まれなかった(採取した落ち葉に付着していなかった)ことになり、不自然ではないか。この【表1】についての説明が不足しおり不可解である。
(4)【表1】における数値の変化を見ると、「セシウム134」、「セシウム137」及び「合計」のいずれにおいても、「撹拌容器41への投入前」から「平成25年12月17日」に移ると半減以下に激減し、その後、「平成25年12月27日」まではほぼ不変で、さらにその後、「平成26年1月31日」まで急激に減少しているが、これについてはどのように考察するのか、何らの記載もなく、【表1】の結果から得られる技術的意義が不明である。(下記「4」に詳述)
4 実験結果からの考察・結論の記載不備、不明点について
上記の実験結果を受けて、発明の詳細な説明においては「当該炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質の放射能をむらなく効率的に低減することができる。」(【0055】)と結論付けているが、不適切な結論であることを、以下に詳述する。
(1)上記「3」の「(1)」でも述べたように、【表1】における放射能の強さ(放射線の強度のことと推測される)の測定結果の数値が、何の1Kg当たりに対する数値なのか不明であり、ましてや「炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質」の単位量当たりに対する数値とは記載されておらず、【0051】【0052】の実験例の説明の記載からは、【表1】の数値が、「炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質」の単位量当たりに対するものとは想定できない。すなわち【表1】には、「炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質」の単位量当たりに対する数値は何ら示されていない(変化がない可能性もある)から、【表1】からは、上記の「放射性物質の放射能を・・・低減する」を結論付けることはできない。
(2)1つの仮定として、例えば、「撹拌容器41への投入前」から「平成25年12月17日」に移り半減以下に激減したのは、光合成細菌の水溶液を投入したことにより、測定対象物が薄まった、すなわち、「撹拌容器41への投入前」においては「炭化放射能汚染物質B」1Kg当たりに対する測定値が記載されているのに対して、「平成25年12月17日」以降においては、「炭化放射能汚染物質B」に「光合成細菌の水溶液」が混合されたもの1Kg当たりに対する測定値が記載されたものであって、「撹拌容器41への投入前」と「平成25年12月17日」との間で「炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質」の単位量当たりに対する数値には変化がない可能性もあるといえる。
(3)また、「平成26年1月14日」以降の数値が激減しているのは、保管容器の密閉状態が悪いことにより、混合物の乾燥とともに、セシウム自体を取り込んだ細菌が空中に飛散して拡散されてしまい、保管容器中のセシウムの残存量が減少したことによることも考えられ、この仮定の場合においても、「炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質」の単位量当たりに対する数値は何ら示されていない(変化がない可能性もある)といえる。
(4)また、本実験例の記載のみからは、他の仮定として、細菌が光合成により光からエネルギーを作れるのと同様に放射線を利用してエネルギーを作る能力を有しており、結果として細菌により放射線が遮蔽されているかのような現象が生じ、「平成26年1月14日」以降においては、細菌が繁殖(増殖)し、上記の放射線の遮蔽作用が大きくなったいう仮定も可能であるといるが、この場合においても、「炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質」から放射された放射線が遮蔽されただけであり、上記のように「当該炭化放射能汚染物質Bに付着した放射性物質の放射能をむらなく効率的に低減することができる。」ということはできない。
(5)いずれにしても、請求項1及び6の「放射性物質が付着した放射能汚染物質の放射能を低減する」は、上記の発明の詳細な説明の実験例から考察し、結論付けられる事項ではなく、発明の詳細な説明によってサポートされた事項であるとことができない。
また、請求項1及び6の「放射性物質が付着した放射能汚染物質の放射能を低減する」ことは、上記の実験例によって実施できるできるものではなく、発明の詳細な説明は、上記の「放射性物質が付着した放射能汚染物質の放射能を低減する」ことを発明特定事項とする請求項1及び6に係る発明が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。
(6)備考(補足)
審判合議体は,上記(2)(3)で仮定した状況が生じている可能性が高いと考える。この点に関して、請求人が審判請求書で「光合成細菌による放射能低減効果が技術的に説明することが困難であるからこそ、その放射能低減効果を実験で求めているのであります。」(審判請求書第14頁第1?3行)と述べているような実験であれば、上記のような疑義が生じないようにするには、通常より一層、実験の内容・結果について、詳細に、丁寧に説明する必要があることは当然である。
5 まとめ
したがって、本願の請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?5に係る発明並びに請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明において記載された範囲内のものということができないから、本願は特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。
また、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願の請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?5に係る発明並びに請求項6に係る発明及び請求項6を引用する請求項7に係る発明を十分かつ明確に理解できる程度に記載されたものということができないから、本願は特許法第36条第4項第1号の規定に違反する。」

2 拒絶理由に対する請求人(出願人)の対応
(1)上記の拒絶理由に対して、請求人は、平成29年8月4日付けの手続補正により、特許請求の範囲の請求項1及び2を上記「第2 本願の特許請求の範囲の記載」に記載したとおりに補正するとともに、同日付けで意見書を提出している、
上記の意見書において、上記「第3 特許法第36条第4項第1号(及び6項1号)の違反について」に記載した当審の拒絶理由中の、特許法第36条第4項第1号違反に関する「2 実験の手法・条件等についての記載の不備(不明な点)」の「(1)」の
・「ア 上記の撹拌混合したものを詰めた保管容器を被検体として測定したのか、保管容器からサンプルを取り出して測定したのか不明である。」(以下「アの拒絶理由」という。)
及び
・「ウ サンプルを取り出して測定したとすれば、上記の撹拌混合して保管容器に詰めたものが保管容器の中でどのような状態で保管され、保管容器のどの部分からどのようにどれだけの量を取り出したサンプルを、どのような測定機を用いてどのように測定したものか不明である。」(以下「ウの拒絶理由」という。)
については次のように主張している。

(2)「アの拒絶理由」に対しての請求人の主張(反論)
上記の当審拒絶理由の「アの拒絶理由」に対し意見書において次のように主張している。
「3-2-2 拒絶理由(2)-2に対する反論
出願当初の明細書の【0052】に「上記炭化放射能汚染物質Bの放射能の強さについて、撹拌容器41への投入前及び保存容器5に投入後において測定した。」の記載があることから、被検体が炭化放射能汚染物質Bであることが明確であります。
また、明細書の【0052】には、「保存容器5に投入後は、時間の経過をみて複数回測定した。」とあることから、保管容器5内の炭化放射能汚染物質Bのうち所定の質量のものを取り出して、即ち保管物からサンプルを取り出して測定していることは当業者にとっては自明であります。」

(3)「ウの拒絶理由」に対しての請求人の主張(反論)
上記の当審拒絶理由の「ウの拒絶理由」に対し意見書において次のように主張している。
「3-4-2 拒絶理由(2)-4に対する反論
放射能は、ゲルマニウム半導体検出器を用いて測定することになるのは当業者にとって自明です。ゲルマニウム半導体検出器は、液体窒素などによる冷却が必要であるため運用費が高く、かつその検出器自体も高価(1,500?2,000万円)であり、高重量(1.5?2t)であります(例えば末尾に添付した「証拠物件1」)。しかも、ゲルマニウム半導体検出器を用いてガンマ線スペクトロメトリーによる核種分析法により放射能を測定するには、『放射能測定法7「ゲルマニウム半導体検出器を用いてガンマ線スペクトロメトリー」平成4年改訂 文部科学省 科学技術・学術政策局 原子力安全課防災環境対策室』(以下「測定基準」という。)に基づいて行うことにより、単に機器等の操作手引書に従って操作するだけでなく、十分な理解と経験により正確な測定結果を得る必要があります。このため、放射能を測定するためには、専門の測定機関に依頼するのが一般的であり、かつ最良の方法であります。しかも、放射能を第三者の測定機関で測定することは、その測定結果の客観性を高めると共に、捏造等を防止する上でも極めて重要であると判断されます。
上記測定基準には、例えば末尾に添付した「証拠物件2」に示すように、7.1試料容器、7.2試料の充填、7.2.1試料詰めの準備、7.2.2試料詰めに必要な器具、7.2.3土壌、海底土、灰化物、乾燥物試料の詰め方等々について示され、試料の容量(7.2.3(2)1)丸5)や、試料重量の測定精度(7.2.3(2)1)丸9)、それらの手順等について詳細に記載されています。
出願当初の明細書に示す表1は、光合成細菌(明細書の内容から当該光合成細菌が紅色非硫黄細菌であることは当業者にとっては自明です。)の水溶液を攪拌混合後の炭化放射能汚染物質Bを保存容器5に詰めた上で、専門の放射能測定機関に搬送し、当該専門の放射能測定機関で測定して得た結果をそのまま転写したものに相当します。この際、光合成細菌の水溶液の攪拌混合前の炭化放射能汚染物質Bについても、保存容器5に詰めて放射能測定機関に搬送し、当該専門の放射能測定機関において放射能を測定しています。
保存容器5としてはフレコンバック等の袋、具体的にはビニール袋等の袋を使用し、当該袋で炭化放射能汚染物質Bを密閉しています。この密閉により炭化放射能汚染物質Bからの放射性物質の飛散を防止することができます。フレコンバックを用いるか否かを問わず、炭化放射能汚染物質B(放射能汚染物質)を密閉して保存し、またその密閉した状態で放射能測定機関に搬送することは、当業者にとっては基本中の基本であって絶対に行わなければならない当然のことであります。この場合、光合成細菌は、嫌気性でもあることから、密閉されることにより、生存のための良好な環境が維持されることになります。
放射能測定機関は、時期をみて、密閉された炭化放射能汚染物質Bの中から所定量の炭化放射能汚染物質Bを取り出して、当該炭化放射能汚染物質Bの放射能を測定し、本願の表1に示す測定結果を得ています。
従いまして、保管物が保管容器の中でどのような状態で保管されているかについては、放射能測定機関が密閉した状態、即ち酸素飢餓状態で保管していることは自明であります。
保管物のどの部分からどのようにどれだけの量を取り出したサンプルを、どのような測定器を用いてどのように測定したものか不明であっても、専門の放射能測定機関に放射能の測定を依頼することで、何らの支障もなく、上記測定基準に従って、サンプルの放射能を正確かつ安全に測定することができます。
なお、上記放射能測定機関は「環境保全株式会社」であり、この会社による「実験成績証明書2」?「実験成績証明書5」を、末尾に証拠物件3として添付致します。この「実験成績証明書2」?「実験成績証明書5」は、平成28年4月1日に提出の意見書に添付した「実験成績証明書2」?「実験成績証明書5」と同一のものです。
「環境保全株式会社」による放射能測定結果は、本願の表1に記載した測定結果と完全に一致しております。即ち、出願人らは、放射能の測定結果に関して何らの捏造も全く加えておりません。
また、放射能汚染物質Aを熱分解炉1で加熱して炭化放射能汚染物質Bを得る過程で攪拌が行われると共に、当該炭化放射能汚染物質Bに光合成細菌の水溶液を投入する際にも攪拌が行われることから、放射性物質についても、また光合成細菌についても、ほぼ均等に炭化放射能汚染物質Bに混在していると判断されます。従いまして、保管物のどの部分から試料を取りだしても、放射能の測定値に基本的に問題が生じることがないと考えられます。
但し、「環境保全株式会社」では、上述した証拠物件3の「実験成績証明書3」に示すように、「なお、資料採取におきましては中心部1点の中層部より採取致しました。」という記載があり、より平均的な部位から試料を取りだして放射能を測定していることがわかります。また、この記載は、「環境保全株式会社」において上記測定基準に従って保存しておいた炭化放射能汚染物質Bの中から、当該「環境保全株式会社」が上記測定基準に従ってサンプルを取り出して放射能を測定している明確な証拠ともなっています。」

3 当審の判断
(1)「アの拒絶理由」について
請求人は、出願当初の明細書の【0052】には、「保存容器5に投入後は、時間の経過をみて複数回測定した。」とあることから、保管容器5内の炭化放射能汚染物質Bのうち所定の質量のものを取り出して、即ち保管物からサンプルを取り出して測定していることは当業者にとっては自明である旨を主張する。
しかしながら、被検物の放射能の変化を見るために、保存用に投入後に時間の経過をみて複数回測定することは、保管容器自体を被検体として測定する場合においても、保管容器からサンプルを取り出して測定する場合においても当然することであるから、「保存容器5に投入後は、時間の経過をみて複数回測定した。」の記載が、保管物からサンプルを取り出して測定していることを示唆もしない。すなわち、「時間の経過をみて複数回測定」することと、「サンプルを取り出して測定」することとの間には何らの関係もなく、出願当初の明細書の【0052】の上記記載から保管物からサンプルを取り出して測定していることは当業者にとっては自明であるとは到底言えないから、上記の請求人の主張を採用することはできない。
そして、実験において被検物からサンプルを取り出して測定する場合には、実験の正当性及び再現性を検証するためにも、少なくとも、被検物がどのような状況に管理されているもとで、どの部分からどれだけの量のサンプルを取り出して測定したのかについては、開示する必要があるものと認められるところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、サンプルを取り出して測定した事実すら記載されていない(意見書の記載で初めて知ることができた)のであるから、発明の詳細な説明における実験についての記載は、不備があるといわざるを得ない。

(2)「ウの拒絶理由」について
意見書 において、請求人は、
「光合成細菌(明細書の内容から当該光合成細菌が紅色非硫黄細菌であることは当業者にとっては自明です。)の水溶液を攪拌混合後の炭化放射能汚染物質Bを保存容器5に詰めた上で、専門の放射能測定機関に搬送し、当該専門の放射能測定機関で測定して得た結果をそのまま転写したものに相当します。」
と述べ、実験の測定結果は専門の放射能測定機関で測定して得た結果であるから、実験が正しく行われた旨を主張する。
しかしながら、測定を専門の測定機関に依頼すること自体が非難されることではないとしても、専門の測定機関が測定したことが、実験が正当に行われたことの証拠にはならない。上記(1)でも述べたように、実験において被検物をサンプルを取り出して測定する場合には、実験の正当性及び再現性を検証するためにも、少なくとも、被検物がどのような状況に管理されているもとで、どの部分からどれだけの量のサンプルを取り出して測定したのかについては、開示する必要がある。専門の測定機関に測定を依頼した場合であっても、請求人は実験を専門の測定機関に丸投げすることなく、実験の手順について指示し、あるいは、実験状況を監視して、上記事項を把握し、明細書の発明の詳細な説明に記載しなければならないことは当然である。
仮に、丸投げしたとしても、専門の測定機関から、被検物がどのような状況に管理されているもとで、どの部分からどれだけの量のサンプルを取り出して測定したのかについての報告を受けて、それを発明の詳細な説明に、記載しなければならない。
上記の事項の開示のない発明の詳細な説明の記載は不備があるものといわざるを得ず、請求人の主張を採用することはできない。

(3)本願の明細書に記載された実験結果について
上記意見書において、サンプルは「中心部1点の中層部より採取」した旨が記載されている。
また、【表1】では、時間の経過とともに、セシウム(セシウム134とセシウム137)のベクレル値が減少している。このベクレル値は、実際には、放射線の1つであるγ線を検出して、ベクレル値を求めていることを考慮すると、この【表1】は、時間の経過とともに、サンプルからの検出されるγ線が減少していることを示すことは明らかである。
以上のことを前提にして、本願の明細書に記載された実験結果について考察する。一般に、検出されるγ線が減少するには、以下のような理由が考えられる。
(a)セシウムから放射されたγ線の遮蔽率が上がる。
(b)セシウムからのγ線の放射量が減少する。
(c)サンプルからセシウムが除かれる、すなわち、サンプルを採取する中心部から他の箇所へセシウムが移動する。
(a)について、請求人は、光合成細菌が光(可視光近辺の光)を吸収するようにγ線を吸収しているのかもしれないと主張しているが、現在のところ、そのような現象の正否は明らかになっていない。
(b)について、セシウムが崩壊して放射線を放射する量は、ある定まった半減期により決まるものであって、この半減期が変わることはないから、セシウムからのγ線の放射量は、半減期により決められる減少量以上に大きく【表1】のように減少することはない。
(c)について、例えば、炭化放射能汚染物質Bを保存容器5に詰めて保管されたものにおいて、測定当初ではセシウム(セシウム134、セシウム137)が均一に拡散されていたが、放射性セシウム化合物を含むセシウム化合物は水溶性のものが多く、炭化放射能汚染物質B:2.2Kgに光合成細菌の水溶液:1.5リットルを混合したものでは、水が多く含まれるから、セシウム化合物が水に溶けた状態のものが多く含まれると認められるところ、時間の経過とともに溶けたセシウム(セシウムイオン)を含む水が下方に沈殿していったと仮定すると明細書の【0053】における【表1】をうまく説明できる。
すなわち、炭化放射能汚染物質Bの全体にセシウムが拡散された状況から、時間を掛けて水とともに下方に沈殿すると考えると、サンプルの採取箇所である中心部より上にセシウムが存在する間(【表1】では、平成25年12月17日から平成25年12月27日までの間がそのような状況にあったと仮定することができる)サンプルされる炭化放射能汚染物質B中のセシウムの量は減少しないが、セシウムの沈殿により中心部より上でのセシウムの存在が少なくなった(【表1】では、平成25年12月7日以降がそのような状況にあったと仮定することができる)後に、サンプルされる中心部の炭化放射能汚染物質B中のセシウムの量が大きく減少し、上記の【表1】の結果が得られたと考えることもできる。
つまり、セシウムは時間とともに、沈殿して保存容器の下方に移動していっただけであり、炭化放射能汚染物質B全体での放射能が減少したわけではないという仮説も可能である。
上記は一つの仮説にすぎないものであるが、請求人の、光合成細菌がγ線を吸収するという説明の他に、そのような仮説を可能とすること自体において、本件明細書の発明の詳細な説明における実験の記載に不備があるといえる。

(4)まとめ
上記(1)?(3)から、本件明細書の発明の詳細な説明における実験及びその結果の記載は、不備を含むものであり、実験の正当性、再現性は確証されないから、本件発明によって炭化放射能汚染物質の放射能が低減することは全く証明されていないといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、発明の技術上の意義が理解できるように、また、発明を実施することができるように明確かつ十分に記載されたものであるということはできない。

第4 結言
以上のとおりであり、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさないから、他の拒絶理由については検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-21 
結審通知日 2017-09-26 
審決日 2017-10-11 
出願番号 特願2014-51632(P2014-51632)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 伸二  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 放射能低減方法  
代理人 下坂 スミ子  
代理人 下坂 スミ子  

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