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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01J
管理番号 1334892
審判番号 不服2017-3449  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-08 
確定日 2017-11-24 
事件の表示 特願2013- 90531「混練機用温度計」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月17日出願公開、特開2014-215085〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月23日の出願であって、平成28年5月30日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月25日付けで手続補正がされ、同年12月8日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成29年3月8日に拒絶査定不服審判請求がされると同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がされたものである。

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を次のとおり補正することを含むものである。

(本件補正前)
「【請求項1】
混練機内の混練物に先端部を接しさせて当該混練物の温度を測定する混練機用温度計であって、
先端が閉じられた筒状の閉端管と、
前記閉端管の内部に配置され、前記閉端管の先端部の内面から放射される赤外線エネルギーを検出する放射温度計部と、
を備え、
前記先端部の内面のうちの温度測定に関与する部分に表面安定化処理が施されていることを特徴とする、混練機用温度計。」

(本件補正後)
「【請求項1】
混練機内の混練物に先端部を接しさせて当該混練物の温度を測定する混練機用温度計であって、
先端が閉じられた筒状の閉端管と、
前記閉端管の内部に配置され、前記閉端管の先端部の内面から放射される赤外線エネルギーを検出する放射温度計部と、
を備え、
前記先端部の内面のうちの温度測定に関与する部分に表面安定化処理(黒色塗料によるものを除く)が施されていることを特徴とする、混練機用温度計。」
(下線は補正箇所。)

(2)上記補正は、請求項1に記載された「表面安定化処理」を「表面安定化処理(黒色塗料によるものを除く)」と限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 本件補正の適否
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)(本件補正後)に記載のとおりのものである。

(2)引用例、引用発明
ア 引用例1
(ア)原査定の拒絶理由に引用された特開昭62-39733号公報(以下、「引用例1」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は、当審による。以下、同じ。)。

(a)
「2.特許請求の範囲
(1)感温部と放射エネルギを検出する検温部よりなる放射温度計の被測定部に設置する感温部に黒体炉を形成する空洞を設けたことを特徴とする黒体炉形放射温度計。」

(b)
「本発明は中温度(数百度)から高温度(約2千度)に亘る広い温度範囲で、長期間正確で安定な出力が得られる放射温度計の改良に関するもので、例えば上記の温度範囲にある流体(ガス、流体、スラリ状固体等)の温度を求めるに好適であり、使用状況によっては固体の温度を求めることも可能である。」(第1頁右下欄第3行?第9行)

(c)
「第1図は本発明による黒体炉形放射温度計の構成原理図であって、図中の1は感温部となる空洞体、2は検温部、3はエネルギ検出器、4はレンズなどの光学系、5は感温部に設けられ黒体炉を形成するくぼみ(空洞)で内部表面は灰色で放射率は一定とする。ε_(a)はくぼみ部の見掛けの放射率、6は温度T_(0)を測定しようとする流体、7と8は流路を形成する。またくぼみ5からの放射光を集束して温度を計測する検温部の構成と動作はよく知られているので説明は省略する。
本発明の温度計はたとえば耐火れんが、金属、ファインセラミックスなとの固体ブロックを用いた感温部1のくぼみ5からの熱放射の原理を利用するもので、温度T_(0)の流体6中に設置した感温部は、その保持方式を考慮外に置けば流体と同一温度T_(0)になる。また感温部の有する見掛けの放射率ε_(a)はくぼみ5の形状によって決定される。」(第2頁右上欄第14行?左下欄第10行)

(d)
「第2図は本発明を実施した黒体炉形放射温度計の種々な構成例(1)?(6)を示すもので、図の左側1は感温部とくぼみ5の部分、右側2は検温部である。(1)は第1図と同じ基本形、(2)と(3)は放射エネルギの通路として感温部と検温部の全部または一部を内部に収容する外筒を有するもの(外筒は耐熱材を使用する)であるが、(2)は図示のように感温部が外筒と一体となっていて、(3)は外筒内に感温部が設けられている。」(第2頁右下欄第5行?第13行)

(e)「9…外筒」(第3頁左上欄第18行)

(f)



(イ)上記記載(d)ないし(f)(第2図(2))から、外筒9の先端に感温部1が一体となって、外筒9の先端が閉じられ、感温部1と外筒9が管状になり、検温部2が外筒9の内部に配置されている、と認められることを踏まえると、上記記載(a)ないし(f)から、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

「感温部と放射エネルギを検出する検温部よりなる放射温度計の被測定部に設置する感温部に黒体炉を形成する空洞を設け、空洞の内部表面は灰色で放射率は一定とし、
外筒の先端に感温部が一体となって、外筒の先端が閉じられ、感温部と外筒が管状になり、検温部が外筒の内部に配置されている、
流体(ガス、流体、スラリ状固体等)の温度を求めるに好適な黒体炉形放射温度計。」 (以下、「引用発明」という。)

イ 引用例2
(ア)原査定の拒絶理由に引用された特開2012-21817号公報(以下、「引用例2」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0002】
従来から、ゴムやプラスチック等の高粘度混練材料の混練機において混練する混練物の発熱温度の計測は、保護管に熱電対エレメントを収容して温度計測する熱電対温度検出器が用いられ、この熱電対温度検出器による発熱温度の計測は、熱電対温度検出器における熱電対エレメントの検出端を混練槽の底部あるいは側壁面から僅かに槽内に突出させて、それに接触する混練物の温度を感知するようにしている。
上記温度検出器は、混練操作中の混練物の温度変化を測定し、それを自動混練制御機構に送信して計測温度を表示したり、設定された混練終了温度等において必要な動作制御を行わせるなど、見えない混練槽内の状態のセンサーとしての重要な機能を要求されるものである。」

(イ)上記記載により、引用例2には、混練機において混練する混練物の発熱温度の計測は、温度検出器の検出端に接触する混練物の温度を感知して行う、という技術的事項が記載されている。

ウ 引用例3
原査定の拒絶理由に引用された特開2007-218591号公報(以下、「引用例3」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0011】
前述の課題および目的を解決するために、本発明の請求項1のハイブリッド型表面温度計では、薄膜金属を測定対象に所望の圧力で押圧接触させ、測定対象に接触していない薄膜金属の裏面からの放射輝度を光センサで計測することによって、測定対象の表面温度を測定するようにしたことを特徴とする。」

「【0030】
更に、光センサ17は、薄膜金属12の裏面12B、すなわち測定対象11と接触する面12Aの反対側の面12Bからの放射輝度を検出する。金や白金のような貴金属の場合、物性値としての光学定数は極めて安定で既知であるから、その放射率もまた極めて安定かつ既知と見なせるので、これを利用し放射輝度を補正し、真温度を求めることができる。あるいはアルミニウム、ステンレス、インコネル、チタン、ハステロイのような金属では表面を微細加工により粗面にして実効的な放射率を高めたり、表面に擬似黒体塗料を塗布するなどして0.95程度の高放射率にすることによってほとんど真温度に近い測温を実現できる。また、金、白金の場合、金黒、白金黒などの化学処理により同様に高放射率状態にすることができ、放射率補正なしで真温度測定を実現できる。このように放射率の補正は必要により行えばよいといえる。」

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明においては、「外筒の先端に感温部が一体となって、外筒の先端が閉じられ、感温部と外筒が管状にな」っているから、引用発明における「管状にな」っている「感温部と外筒」は、本件補正発明における「先端が閉じられた筒状の閉端管」に相当する。

イ 引用発明において、「放射温度計」を構成する「放射エネルギを検出する検温部」は、「外筒の内部に配置され」、「外筒の先端に」ある「感温部」の「黒体炉を形成する」(「内部表面」の「放射率」が「一定」である)「空洞」からの「放射エネルギを検出する」から、上記アを踏まえると、引用発明における「放射エネルギを検出する検温部」と、本件補正発明における「前記閉端管の内部に配置され、前記閉端管の先端部の内面から放射される赤外線エネルギーを検出する放射温度計部」は、共に、「前記閉端管の内部に配置され、前記閉端管の先端部の内面から放射されるエネルギーを検出する放射温度計部」である点で共通する。

ウ 引用発明における「被測定部」と本件補正発明における「混練機内の混練物」は、共に、「測定対象」である点で共通する。また、引用発明においては、「外筒の先端に」ある「感温部」は、「被測定部に設置する」から、被測定部に先端部を接しさせて被測定部の温度を測定するといえる。そうすると、引用発明における「流体(ガス、流体、スラリ状固体等)の温度を求めるに好適な黒体炉形放射温度計」と、本件補正発明における「混練機内の混練物に先端部を接しさせて当該混練物の温度を測定する混練機用温度計」は、共に、「測定対象に先端部を接しさせて当該測定対象の温度を測定する温度計」である点で共通する。

エ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
「測定対象に先端部を接しさせて当該測定対象の温度を測定する温度計であって、
先端が閉じられた筒状の閉端管と、
前記閉端管の内部に配置され、前記閉端管の先端部の内面から放射されるエネルギーを検出する放射温度計部と、
を備える、温度計。」

(相違点1)
本件補正発明は、「混練機内の混練物」「の温度を測定する混練機用温度計」であるのに対し、引用発明は「流体(ガス、流体、スラリ状固体等)の温度を求めるに好適な黒体炉形放射温度計」である点。

(相違点2)
本件補正発明においては、「放射温度計部」が「赤外線エネルギーを検出する」のに対し、引用発明においては、「検温部」が「放射エネルギを検出する」点。

(相違点3)
本件補正発明においては、「前記先端部の内面のうちの温度測定に関与する部分に表面安定化処理(黒色塗料によるものを除く)が施されている」のに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用例2には、混練機において混練する混練物の発熱温度の計測は、温度検出器の検出端に接触する混練物の温度を感知して行う、という技術的事項が記載されている(上記(2)イ(イ))。
そして、引用発明の「黒体炉形放射温度計」は、先端にある「感温部」を「被測定部に設置」して温度を測定するものであるところ、温度計の端部を測定対象に接触させて温度を測定する際に用いることができることは、当業者であれば容易に理解しうるから、引用発明を、引用例2に記載されたような、温度検出器の検出端を測定対象である混練物を接触させて温度を計測する混練機用の温度計とし、上記相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
引用発明の検出する「放射エネルギ」が赤外線エネルギーを含むことは当業者にとって明らかである。仮にそうでないとしても、放射温度計において赤外線エネルギーを検出することは、周知の技術であるから、引用発明の「放射温度計」において、赤外線エネルギーを検出するようにして、上記相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について
引用発明においては、「黒体炉を形成する空洞」「の内部表面は灰色で放射率は一定」であることを前提として測定を行うため、「内部表面」の物理的な性質が安定していることが望ましいところ、測定に関与する部分が熱および時間経過により物理的に変化しないように安定化する処理を行うことは、測定精度等に応じて当業者が適宜行うべきことであり、また黒色塗料を用いない安定化処理方法も周知なものであるから、引用発明において、「先端」にある、温度測定に関与する「空洞」の「内部表面」等に表面安定化処理(黒色塗料によるものを除く)を行うようにして、上記相違点3に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

エ そして、上記相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明、引用例2に記載された技術的事項、及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明、引用例2に記載された技術的事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年7月25日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載される事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)(本件補正前)に記載のとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比
本件補正発明は、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに「(黒色塗料によるものを除く)」という限定を付加したものであるから、本願発明と引用発明との一致点は、上記第2[理由]2(3)エの(一致点)のとおりであり、また、本願発明と引用発明との相違点は、上記第2[理由]2(3)エの(相違点1)及び(相違点2)、並びに、本願発明においては、「前記先端部の内面のうちの温度測定に関与する部分に表面安定化処理が施されている」のに対し、引用発明においては、そのような特定がなされていない点(以下、相違点4という。)である。

4 判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1及び相違点2については、上記第2[理由]2(4)ア及びイで検討したとおりである。

イ 相違点4について
引用例3には、測定対象に接触していない薄膜金属の面からの放射輝度を光センサで計測することによって、測定対象の表面温度を測定する温度計において、表面に擬似黒体塗料を塗布するなどして0.95程度の高放射率にすることによってほとんど真温度に近い測温を実現できる、という技術的事項が記載されている(上記第2[理由]2(2)ウ)ところ、擬似黒体塗料によれば放射率の安定化処理ができるから、引用例3には、温度測定に関与する部分に表面安定化処理を施す、という技術的事項が記載されていると認められる。
そして、引用発明においては、「黒体炉を形成する空洞」「の内部表面は灰色で放射率は一定」であることを前提として測定を行うため、「内部表面」の物理的な性質が安定していることが望ましいから、引用発明において、引用例3に記載された技術的事項を適用し、「先端」にある、温度測定に関与する「空洞」の「内部表面」等に表面安定化処理を行うようにして、上記相違点4に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ したがって、本願発明は、引用発明、引用例2及び3に記載された技術的事項、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-09-25 
結審通知日 2017-09-26 
審決日 2017-10-10 
出願番号 特願2013-90531(P2013-90531)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01J)
P 1 8・ 121- Z (G01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越柴 洋哉  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
関根 洋之
発明の名称 混練機用温度計  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  

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