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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01B
管理番号 1334974
審判番号 不服2017-4864  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-01-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-06 
確定日 2017-12-19 
事件の表示 特願2015-525280「絶縁電線及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月 8日国際公開、WO2015/002278、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年7月3日(優先権主張 平成25年7月3日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年8月26日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月21日付けで手続補正がされ、平成29年1月5日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年4月6日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年1月5日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1乃至7
・引用文献等 1乃至2

<引用文献等一覧>
1.特開平06-044827号公報
2.特開平06-192420号公報

第3 本願発明
本願請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」という。)は、平成28年11月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
導体と絶縁皮膜とからなる絶縁電線であって、
該絶縁皮膜は、下記式(1):
【化1】

(式中、Rf^(1)及びRf^(2)は芳香環の置換基を表し、芳香環1つあたり4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(1)及びRf^(2)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミン、及び/又は、下記式(2):
【化2】

(式中、Rf^(3)は芳香環の置換基を表し、芳香環の4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(3)は、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)と、
下記式(3):
【化3】

(式中、Rf^(4)及びRf^(5)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)と、
を含み、重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上であるフッ素化ポリイミドからなり、
該絶縁皮膜の膜厚公差が±15%以内であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
フッ素化ポリイミドは、重合単位(B)が全重合単位の30モル%以上である請求項1記載の絶縁電線。
【請求項3】
フッ素化ポリイミドは、更に、非フッ素化ジアミンに基づく重合単位(C)を含む請求項1又は2記載の絶縁電線。
【請求項4】
フッ素化ポリイミドは、更に、他種の酸無水物に基づく重合単位(D)を含む請求項1?3のいずれかに記載の絶縁電線。
【請求項5】
下記式(1):
【化4】

(式中、Rf^(1)及びRf^(2)は芳香環の置換基を表し、芳香環1つあたり4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(1)及びRf^(2)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミン、及び/又は、下記式(2):
【化5】

(式中、Rf^(3)は芳香環の置換基を表し、芳香環の4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(3)は、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)と、
下記式(3):
【化6】

(式中、Rf^(4)及びRf^(5)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)と、
を含み、重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上であるフッ素化ポリイミド、及び、溶剤を含み、
前記溶剤は、溶剤全体の40質量%以上がケトン及び/又はエステルである
ことを特徴とするワニス。
【請求項6】
請求項5記載のワニスを導体上に塗布し、80?250℃で焼付けすることを特徴とする絶縁電線の製造方法。
【請求項7】
300℃以上に30分以上加熱することなく絶縁電線を製造する請求項6記載の絶縁電線の製造方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている。

a)「【0010】以下、本発明について詳述する。本発明の巻線は、フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を主たるポリマー成分として含有する塗料を導体上に塗布し焼付した巻線である。本発明において、フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体とは、分子構造中にフッ素基をもつものであればいかなるものでも使用可能である。
【0011】ポリイミドの代表的な合成法は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物を開環重付加-脱水環化反応させる二段合成法である。第一段の反応は、これら二種のモノマーをアミド系溶媒中、室温下で攪拌することによって行われ、高分子量のポリアミド酸(ポリイミド前駆体)が生成する。この可溶性のポリアミド酸を含む塗料を導体上に塗布し焼付けると、第二段の脱水環化反応が生じて、ポリイミドに転化する。もちろん、一段でポリイミドを生成する方法を採用してもよい。また、ポリアミド酸を使用する方法に代えて、有機溶媒可溶性ポリイミドを用いることもできる。
【0012】本発明では、ポリイミドまたはポリイミド前駆体を得るために、通常、原料モノマーとしてフルオロアルキル基などのフッ素基を有する化合物を使用する。例えば、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体(二無水物など)の両者またはいずれか一方にフッ素基を有する化合物を原料モノマーとして使用する。
【0013】フッ素基を有する芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の具体例としては、芳香族環にフッ素原子、フルオロアルキル基をもつピロメリット酸二無水物やビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、あるいは芳香族環以外にフルオロアルキル基をもつビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンとその二無水物等が挙げられる。
【0014】フッ素基を有する芳香族ジアミンの具体例としては、芳香族環にフッ素原子、フルオロアルキル基をもつp-またはm-フェニレンジアミンやジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノビフェニル、ジアミノジフェニルプロパン、あるいは芳香族環以外にフルオロアルキル基をもつジアミノジフェニルヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。」(【0010】?【0014】の記載。下線は当審で付与。)

b)「【0017】本発明のフッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を含有する塗料に使用する溶剤は、通常のポリイミドまたはポリイミド前駆体におけるのと同じものが使用可能で、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の塩基性溶媒が挙げられる。
【0018】ポリイミドの合成は、周知の方法によって行うことができる。例えば、有機溶媒と芳香族テトラカルボン酸二無水物成分を反応容器に仕込み、窒素置換しながら芳香族ジアミン成分を加え、0?60℃、通常は室温で2?24時間程度反応を行うことによりポリアミド酸を得ることができる。各モノマー成分は、通常、濃度5?40重量%の範囲で使用し、前記有機溶媒中で反応させれば、本発明で使用する塗料が得られる。ポリイミド塗料は、所望により、トルエン、キシレン、芳香族ナフサ等で希釈してもよい。
【0019】フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を含む塗料を導体上に塗布・焼付する方法は、通常の巻線を製造する方法と同様でよく、例えば、ダイスまたはフェルトにより塗布した後、焼付炉にて硬化する方法が採用できる。本発明のフッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を含有する塗料を導体上に塗布・焼付した巻線は、絶縁皮膜の誘電率が3.0以下であると、本発明で目的とする高周波電圧の印加に対する寿命が長くなりより好ましい。」(【0017】?【0019】の記載。)

上記下線部及び関連箇所の記載によれば、引用文献1には、巻線として、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体(ポリアミド酸)を主たるポリマー成分として含有する塗料を導体上に塗布し焼付した巻線であって、
ポリアミド酸を使用する方法に代えて、有機溶媒可溶性ポリイミドを用いることもでき、
ポリイミドまたはポリイミド前駆体を得るために、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体(二無水物など)の両者またはいずれか一方にフッ素基を有する化合物を原料モノマーとして使用し、フッ素基を有する芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の具体例としては、芳香族環以外にフルオロアルキル基をもつビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンとその二無水物、フッ素基を有する芳香族ジアミンの具体例としては、フルオロアルキル基をもつp-フェニレンジアミンやジアミノビフェニルを使用し、
フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を含有する塗料に使用する溶剤は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の塩基性溶媒が挙げられる、
フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を含有する塗料を導体上に塗布・焼付した巻線。」

また、上記下線部及び関連箇所の記載によれば、引用文献1には、巻線に用いられる塗料として、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。

「フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体(ポリアミド酸)を主たるポリマー成分として含有する塗料であって、
ポリアミド酸を使用する方法に代えて、有機溶媒可溶性ポリイミドを用いることもでき、
ポリイミドまたはポリイミド前駆体を得るために、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体(二無水物など)の両者またはいずれか一方にフッ素基を有する化合物を原料モノマーとして使用し、フッ素基を有する芳香族テトラカルボン酸またはその誘導体の具体例としては、芳香族環以外にフルオロアルキル基をもつビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンとその二無水物、フッ素基を有する芳香族ジアミンの具体例としては、フルオロアルキル基をもつp-フェニレンジアミンやジアミノビフェニルを使用し、
フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を含有する塗料に使用する溶剤は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の塩基性溶媒が挙げられ、
各モノマー成分は、通常、濃度5?40重量%の範囲で使用し、前記有機溶媒中で反応させる、
フッ素基を有するポリイミドまたは該ポリイミドの前駆体を含有する塗料。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下の事項が記載されている。

c)「【0004】これに対して近年、成形時に化学反応を伴わない有機溶媒可溶のポリイミドが開発されている。溶剤可溶のポリイミド組成物は、ポリイミドの形態のまま成形できるため成形時は単に溶媒の除去のみであるため、成形性が非常にすぐれ、更には脱水によるピンホールの生成もなくなり、平滑性のよいポリイミドフィルムがえられる利点がある。」(【0004】の記載。)

d)「【0021】可溶性ポリイミドの製造に用いられる溶媒は、フェノール系溶媒を除いた極性溶媒であって、たとえばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N、N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシド、及びスルホラン、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の複素環式化合物が利用される。フェノール系溶媒はイミド化反応に特異の挙動を示す理由で除外される。
【0022】他の極性溶媒としては、ケトン類としてアセトン、2-ブタノン、シクロヘキサン、アセトフェノンが用いられる。またハロゲン化芳香族炭化水素としてクロルベンゼン、ジクロルベンゼン、クロルトルエンが用いられる。脂肪族及び芳香族のカルボン酸エステルとしてメチル、エチル、ブチル、フェニルの酢酸エステル、安息香酸メチル、テレフタル酸ジメチルエステル類が用いられる。エーテル類としてはジブチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、エチレングリコールのモノ及びジメチル、及びエチルエーテル等が利用できる。」(【0021】?【0022】の記載。)

e)「【0024】本発明に用いられる酸ジ無水物は特に限定されないが
ビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物
ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジ無水物
ビス(-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物
4、4′-[2、2、2-トリフルオロ-1-(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス(1、2-ベンゼンジカルボン酸無水物)(6FDA)

・・・中略・・・

【0028】をあげることができる。これらは単独でも二種以上混合してポリイミド組成物とすることができる。
【0029】芳香族ジアミンとしては特に限定されないが、
1、4ベンゼンジアミン
1、3ベンゼンジアミン
6-メチル1、3-ベンゼンジアミン
4、4′-ジアミノ-3、3′-ジメチル-1、1′-ビフェニル
4、4′-アミノ-3、3′-ジメトキシ-1、1′-ビフェニル

・・・中略・・・

【0033】ビス(4-(4アミノフェノキシ)フェニル)スルホン
ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)エチル
1、4-ビス(4-アミノフェノキン)ベンゼン
1、3ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
4、4′-ジアミノベンズアニリド
9、9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン
等をあげることができる。これらは単独でも二種以上混合したポリイミド組成物とすることができる。
【0034】この発明の方法においては酸ジ無水物と芳香族ジアミンとは、ほぼ等しいモル数で使用し、前記の極性溶媒に有機酸又は鉱酸の塩を加えて、加熱反応させる。原料と有機溶媒の割合は原料の溶解性に基づき決定され、通常原料5%?60%、溶媒95%?40%、好ましくは原料10%?40%、溶媒90%?60%である。有機極性溶媒と酸又は鉱酸の塩の割合は特に限定されないが、有機溶媒100に対して2?50重量%の酸又は塩が使用される。イミド化のための反応温度は100?200℃、好ましくは140?180℃である。酸化を防ぐために不活性ガス(窒素、アルゴン、ネオン等)中で反応させる方が好ましい。」(【0024】?【0034】の記載。)

f)「【0039】この発明で得られるポリイミド溶液組成物は、酸ジ無水物と芳香族ジアミンより生成した高分子量ポリイミド、触媒としての酸及び揮発性の極性溶媒の組成を有し、キャストした後、加熱脱水してフィルムを成形するのに好適であるばかりでなく、ガラスクロス、炭素繊維、その他のクロスに含浸させて、複合材料にしたり、電線被覆用ワニス、塗料、接着剤等に使用することができる。」(【0039】の記載。)

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1を対比すると次のことがいえる。

ア.引用発明1の「塗料を導体上に塗布し焼付した巻線」は、本願発明1の「導体と絶縁皮膜とからなる絶縁電線」に相当する。

イ.引用発明1の「塗料を導体上に塗布し焼付した巻線」に用いる「フッ素基を有するポリイミド」「を主たるポリマー成分として含有する塗料」に、「フルオロアルキル基をもつp-フェニレンジアミンやジアミノビフェニルを使用」することは、本願発明1の「絶縁皮膜」は「式(1)」及び/又は、「式(2)」「で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」を含む「フッ素化ポリイミド」からなることに相当する。

ウ.引用発明1の「塗料を導体上に塗布し焼付した巻線」に用いる「フッ素基を有するポリイミド」「を主たるポリマー成分として含有する塗料」に、「芳香族環以外にフルオロアルキル基をもつビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンとその二無水物」を使用することは、本願発明1の「絶縁皮膜」は「式(3)」「で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」を含む「フッ素化ポリイミド」からなることに相当する。

したがって、本願発明1と引用発明1との間には、以下の一致点と相違点があるといえる。

〈一致点〉
「導体と絶縁皮膜とからなる絶縁電線であって、
該絶縁皮膜は、下記式(1):
【化1】

(式中、Rf^(1)及びRf^(2)は芳香環の置換基を表し、芳香環1つあたり4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(1)及びRf^(2)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミン、及び/又は、下記式(2):
【化2】

(式中、Rf^(3)は芳香環の置換基を表し、芳香環の4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(3)は、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)と、
下記式(3):
【化3】

(式中、Rf^(4)及びRf^(5)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)と、
を含むフッ素化ポリイミドからなる、
絶縁電線。」

〈相違点1〉
絶縁皮膜を構成するフッ素化ポリイミドが、本願発明1は「重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上である」のに対し、引用発明1は、「重合単位(A)及び(B)」の全重合単位に占める割合が特定されていない点。

〈相違点2〉
本願発明1は、「絶縁皮膜の膜厚公差が±15%以内である」のに対し、引用発明1は、導体上に塗布し焼付けされた「塗料」(絶縁皮膜)の膜厚公差が特定されていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討すると、相違点2に係る本願発明1の「絶縁皮膜の膜厚公差が±15%以内である」という構成は、上記引用文献1,2には記載されておらず、示唆されてもいない。
また、絶縁電線のフッ素化ポリイミドからなる「絶縁皮膜の膜厚公差が±15%以内である」という技術的事項は、本願優先日前において周知技術であったとはいえない。
そして、本願発明1は、本願の明細書発明の詳細な説明段落【0065】【0100】に記載されるように、膜厚公差を±15%以内にすることにより、「部分放電開始電圧の高い」絶縁電線が得られるという、効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、相違点1を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明1、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.請求項2?4について
本願発明2?4は、本願発明1を直接あるいは間接的に引用するものであり、上記「1.請求項1について」にて述べたのと同じ理由により、引用発明1及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3.請求項5について
(1)対比
本願発明5と引用発明2を対比すると次のことがいえる。

ア.引用発明2の「フッ素基を有するポリイミド」「を主たるポリマー成分として含有する塗料」は、本願発明5の「ワニス」に相当する。

イ.引用発明2の「フッ素基を有するポリイミド」「を主たるポリマー成分として含有する塗料」に、「フルオロアルキル基をもつp-フェニレンジアミンやジアミノビフェニルを使用」することは、本願発明5の「ワニス」が「式(1)」及び/又は、「式(2)」「で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)」を含む「フッ素化ポリイミド」を含むことに相当する。

ウ.引用発明2の「フッ素基を有するポリイミド」「を主たるポリマー成分として含有する塗料」に、「芳香族環以外にフルオロアルキル基をもつビス(ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンとその二無水物」を使用することは、本願発明5の「ワニス」が「式(3)」「で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)」を含む「フッ素化ポリイミド」を含むことに相当する。

エ.引用発明2の「塗料に使用する溶剤は、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の塩基性溶媒が挙げられる」ことは、本願発明5の「ワニス」が「溶剤を含む」ことに相当する。

したがって、本願発明5と引用発明2との間には、以下の一致点と相違点があるといえる。

〈一致点〉
「下記式(1):
【化4】

(式中、Rf^(1)及びRf^(2)は芳香環の置換基を表し、芳香環1つあたり4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(1)及びRf^(2)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミン、及び/又は、下記式(2):
【化5】

(式中、Rf^(3)は芳香環の置換基を表し、芳香環の4つの置換可能部位のうちいずれか1つが当該置換基で置換されていることを表す。Rf^(3)は、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化ジアミンに基づく重合単位(A)と、
下記式(3):
【化6】

(式中、Rf^(4)及びRf^(5)は、同一又は異なって、フッ素原子、炭素数1?8の含フッ素アルキル基を表す。)で表されるフッ素化酸無水物に基づく重合単位(B)と、
を含むフッ素化ポリイミド、及び、溶剤を含む
ことを特徴とするワニス。」

〈相違点1〉
ワニスに含まれるフッ素化ポリイミドが、本願発明5は「重合単位(A)及び(B)が全重合単位の60モル%以上である」であるのに対し、引用発明は、「重合単位(A)及び(B)」の全重合単位に占める割合が特定されていない点。

〈相違点2〉
ワニスに含まれる溶剤が、本願発明5は、「溶剤全体の40質量%以上がケトン及び/又はエステルである」であるのに対し、引用発明は、「N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)等の塩基性溶媒」である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討すると、引用文献2には、脱水によるピンホールの生成もなくなり、平滑性のよいポリイミドフィルムがえられる可溶性ポリイミドの製造に用いられる溶媒として、ケトン、エステルを用いることが記載されているものの、相違点2に係る本願発明5の「溶剤全体の40質量%以上がケトン及び/又はエステルである」という構成は、上記引用文献1,2には記載されていない。
また、本願の明細書発明の詳細な説明段落【0070】の「これに対して、本発明におけるフッ素化ポリイミドは、上述した特定の重合単位を特定割合で含むものであるために、ワニスの溶剤として、ケトン及び/又はエステルの合計が全溶剤の40質量%以上を占める溶剤を用いることができる。そしてこれにより、ワニスが銅線等の導体にはじかず、膜厚公差なく塗れて、均一性の高い被覆とすることができるため、上述した膜厚差が大きい場合に現れるような悪影響の発生を抑えることが可能となる。」なる記載、
段落【0097】?【0100】の
「【0097】
(実施例2?4、比較例1?2)
閉環ポリマーを溶解させる溶剤の種類及びその濃度を下記表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして、被覆電線を得た。
得られた被覆電線について、被覆膜厚、膜厚公差、部分放電開始電圧を、実施例1と同様に測定、算出した結果、下記表1の通りであった。
【0098】

【0099】
表1中、略号は以下の通りである。
MEK:メチルエチルケトン
MIBK:メチルイソブチルケトン
γ-BL:γ-ブチロラクトン
NMP/MEK(3/7):N-メチルピロリドンとメチルエチルケトンとの質量比3:7の混合溶剤
NMP:N-メチルピロリドン
NMP/MEK(7/3):N-メチルピロリドンとメチルエチルケトンとの質量比7:3の混合溶剤
【0100】
表1の結果から、ケトン及び/又はエステルの合計が全溶剤の40質量%以上を占める溶剤を用いて塗布した被覆材では、膜厚公差が小さく、部分放電開始電圧を上げることができることが分かった。」なる記載を考慮すれば、
本願発明5は、ワニスの「閉環ポリマーを溶解させる溶剤」として「ケトン及び/又はエステルの合計が全溶剤の40質量%以上を占める溶剤を用いる」ことにより、当該ワニスを用いて製造された絶縁電線の「絶縁皮膜の膜厚公差が±15%以内」になるという効果を得るものである。
したがって、本件発明5は、相違点1を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明2、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4.請求項6?7について
本願発明6?7は、本願発明5を直接あるいは間接的に引用するものであり、上記「3.請求項5について」にて述べたのと同じ理由により、引用発明2及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?7は、当業者が引用発明1,2及び引用文献2に記載された技術に基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-04 
出願番号 特願2015-525280(P2015-525280)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 和田 財太  
特許庁審判長 和田 志郎
特許庁審判官 稲葉 和生
山田 正文
発明の名称 絶縁電線及びその製造方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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