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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C |
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管理番号 | 1335067 |
審判番号 | 不服2016-9917 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-07-01 |
確定日 | 2017-11-29 |
事件の表示 | 特願2014- 32130「金属被覆鉄ストリップ」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月17日出願公開、特開2014-132121〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2007年8月29日(パリ優先権主張 外国庁受理2006年8月29日(AU)オーストラリア)を国際出願日とする特願2009-525855号の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成26年2月21日に新たな特許出願として出願したものであって、平成27年3月17日付けで拒絶理由が通知され、同年9月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年2月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年7月1日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、同年8月18日付けで手続補正書(方式)が提出され、審判請求書の請求の理由が補正されたものである。 第2 補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成28年7月1日付けで提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?9を、補正後の特許請求の範囲の請求項1?7に補正するとともに、明細書の発明の詳細な説明を補正するものであり、補正前後の請求項1の記載は、それぞれ以下のとおりである。 (補正前) 「【請求項1】 ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素として、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、1質量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、要すれば意図的な合金化元素として存在するその他の元素と、を含み、アルミニウムの濃度は40?60質量%であり、亜鉛の濃度は40?60質量%であり、ケイ素の濃度は0.3?3質量%であり、マグネシウムの濃度は1?3質量%であり、(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回り、前記被覆が80g/m^(2)未満の被覆質量の金属合金を有し、前記被覆がストリップの各面上に20ミクロメートル未満の平均被覆厚さを有する、鉄ストリップ。」 (補正後) 「【請求項1】 ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素として、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、(a)カルシウムまたは(b)カルシウムおよびストロンチウムと、1質量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、要すれば意図的な合金化元素として存在するその他の元素と、 を含み、 アルミニウムの濃度は40?60質量%であり、 亜鉛の濃度は40?60質量%であり、 ケイ素の濃度は0.3?3質量%であり、 マグネシウムの濃度は1質量%以上3質量%未満であり、 (i)カルシウム又は(ii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ150ppm未満であり、 前記被覆が80g/m^(2)未満の被覆質量の金属合金を有し、前記被覆がストリップの各面上に20ミクロメートル未満の平均被覆厚さを有する、鉄ストリップ。」 2 本件補正の検討 (1)補正事項の整理 本件補正を整理すると以下のとおりである。 (補正事項1) 補正前の請求項1の「ストロンチウム及び/又はカルシウムと」を、補正後の請求項1の「(a)カルシウムまたは(b)カルシウムおよびストロンチウムと」にする。 (補正事項2) 補正前の請求項1の「(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回り」を、補正後の請求項1の「(i)カルシウム又は(ii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ150ppm未満であり」にする。 (補正事項3) 補正前の請求項1の「マグネシウムの濃度は1?3質量%であり」を、補正後の請求項1の「マグネシウムの濃度は1質量%以上3質量%未満であり」にする。 (2)新規事項の追加の有無及び補正の目的についての検討 ア 補正事項1、2について (ア)新規事項の追加の有無について a 本願の願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)には、以下の記載がある。 「【0021】 一般的には、本発明は、ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素として・・・マグネシウム・・・を含み、ストロンチウム及び/又はカルシウム・・・をも含み、マグネシウムの濃度は少なくとも1重量%であり、(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回る、鉄ストリップを提供する。」 「【0022】 ストロンチウム及びカルシウムは別々に又は組み合わせて添加されうる。」 「【0025】 より好ましくは、(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度は150ppm未満である。」 「【0029】 好ましくは、マグネシウムの濃度は3重量%未満である。」 b 上記記載によれば、当初明細書には、金属合金の被覆にストロンチウム及びカルシウムを別々に又は組み合わせて添加することができ、いずれの場合においても、その濃度は50ppmを上回り、より好ましくは150ppm未満であることが記載されているから、補正事項1、2は、いずれも当初明細書に記載した事項の範囲内のものであって、新規事項の追加には該当しない。 したがって、補正事項1、2は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 (イ)補正の目的について 補正事項1は、金属合金の被覆にストロンチウム及び/又はカルシウムを添加する態様を、補正前の「(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウム」という3通りの態様からストロンチウムを単独で添加する態様を除外して、「(a)カルシウムまたは(b)カルシウムおよびストロンチウム」という2通りの態様に限定するものであり、また、補正事項2は、これら元素の濃度を補正前の「50ppmを上回り」から、「50ppmを上回りかつ150ppm未満であり」として上限値を限定するものである。 そして、補正前後の請求項1に記載された発明は、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一であるから、補正事項1、2は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 補正事項3について (ア)新規事項の追加の有無について 当初明細書の前記記載によれば、【0021】には、金属合金の被覆に添加されるマグネシウムの濃度は少なくとも1重量%であることが記載され、他方、【0029】には、「好ましくは、マグネシウムの濃度は3重量%未満である。」と記載されているから、補正事項3は、当初明細書に記載した事項の範囲内のものであって、新規事項の追加には該当しない。 したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 (イ)補正の目的について 補正事項3は、金属合金の被覆に添加されるマグネシウムの濃度の範囲を、補正前の「1?3質量%」から上限値の3質量%を除外して、「1質量%以上3質量%未満」に限定するものであり、補正前後の請求項1に記載された発明は、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一であるから、補正事項3は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 ウ 小括 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項に規定する要件を満たしている。 (3)独立特許要件についての検討 以上のとおり、本件補正は、請求項1について、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むから、以下、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができたものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項に規定する要件を満たすものであるか)について検討する。 ア 本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後発明」という。) 補正後発明は、前記「1 本件補正の内容」「(補正後)」の請求項1に記載された事項により特定される発明である。 イ 特開2001-89838号公報(以下、「引用文献1」という。)の記載事項 本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である引用文献1には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%を含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数) 【請求項2】重量%で、Mg:0.1?10%を、さらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、家電製品の筐体等に適する、めっき表面の結晶(スパングル)の美麗な、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板に関する。」 「【0003】 【発明が解決しようとする課題】最近、家電製品においては、めっきの外観品位(美観)をさらに高めるために、スパングルの大きさを細かくすることが好まれるようになってきており、スパングルの大きさを制御することが新しい課題として求められてきた。スパングルの大きさを均一にする方法として、原板の粗度を制御する方法などが公知である。これらの方法では、原板表面を制御する必要があり、プロセスが煩雑になったりコストアップにつながる等の欠点があった。本発明の目的は、上記従来技術における問題点を解消し、スパングルの大きさを微小かつ均一で、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を提供することにある。」 「【0005】 【発明の実施の形態】本発明者らは、原板の板厚や板幅が変化しても細かい均一な大きさのスパングルを得られるめっき鋼板について検討した結果、めっき成分を最適化した上で、めっき直後の冷却速度を比較的速く制御することが有効であることを見出した。アルミニウム-亜鉛めっきの組成は、12?70重量%のAlとAlの含有量の0.5%以上のSiと、残部が亜鉛からなる組成で行う。また、Mgを0.1?10%含有してもよい。めっき層中のAl濃度を12?70%に限定したのは、この範囲以外ではスパングル模様が現れ難いためである。 【0006】また、Siの含有量をアルミニウム含有量の0.5?10%としたのは、0.5%未満では、めっき時に生成するFe-Al合金層の成長を抑制できず、10%超では析出するSiが加工性に悪影響を及ぼすためである。Mgの含有量を0.1?10%と限定したのは、0.1%未満では耐食性向上の効果が現れず、10%超ではめっき層の加工性が劣化するためである。」 「【0009】 【実施例】次に本発明を実施例によりさらに説明する。表1に示すようなめっき原板を準備し、板温780℃で60秒還元焼鈍し、温度600℃で表1に示すような組成のめっき浴に浸漬し、付着量を片面75g/m^(2)に制御した後冷却した。各試料に対してめっき表面のスパングル指標の測定を行った。スパングル指標の評価は、めっき表面の任意の位置における25mm平方中のスパングルの個数から算出した。なお、スパングル均一性の評価基準は、 ◎:スパングル均一、外観優 ○:スパングル均一、外観良 ×:スパングル一部不均一、外観不良、である。 【0010】 【表1】 」 「【0013】 【発明の効果】本発明は、スパングル模様が微細で均一なアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を提供できるので、産業上極めて価値の高い発明であるといえる。」 ウ 引用文献1に記載された発明の認定 a 引用文献1の上記記載によれば、引用文献1に記載された発明は、家電製品の筐体等に適する、めっき表面の結晶(スパングル)の美麗な、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板に関する(【0001】)。 従来、スパングルの大きさを均一にする方法として、原板の粗度を制御する等の方法が用いられていたところ、かかる方法では、原板表面を制御する必要があり、プロセスが煩雑になったりコストアップにつながる等の欠点があったことに鑑み、引用文献1に記載された発明では、このような問題点を解消し、スパングルの大きさを微小かつ均一で、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板を提供することを目的とする(【0003】)。 上記目的を達成するため、引用文献1には、めっき成分を最適化した上で、めっき直後の冷却速度を比較的速く制御することが有効であるとの知見に基づき(【0005】)、請求項1を引用する請求項2に係る発明として「重量%で、Al:12?70%、Si:アルミニウムの含有量の0.5?10%を含有し、残部がZnと不可避不純物からなる合金めっき鋼板において、Mg:0.1?10%を、さらに含有し、めっき表面のスパングル指標Nが8.6以上であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数)」が記載されており、その実施例の1つとして、表1のNo27には、めっき浴の組成が、Al:55重量%、Si:1.2重量%、Mg:1重量%、残部Zn及び不可避不純物:42.8重量%(100%からAl、Si、Mgの濃度を減じた値)とし、めっき浴の付着量を片面75g/m^(2)に制御した(【0009】)本発明例が記載され、そのスパングル指標は10.2となっている。 b 引用文献1には、めっき層の組成とめっき浴の組成との関係について明示的な記載はないが、溶融めっきによってめっき鋼板を製造する場合に、めっき層の組成がめっき浴の組成とほぼ同一となることは、例えば、下記の周知文献1、2にも記載されるとおり、本願の出願日前において当業者に周知の技術であったと認められるから、引用文献1の表1のNo27の実施例におけるめっき層の組成は、めっき浴の組成とほぼ同一であったと認められる。 (a)周知文献1(特開2000-328214号公報(拒絶査定で引用した引用文献2))の記載事項(下線は当審で付した。以下同様。) 「【0024】本発明のMg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板は、通常の連続溶融めっきラインを用いて製造することができる。この系の合金めっきでは、めっき浴組成がほぼそのままめっき鋼板におけるめっき層組成に反映されることを発明者らは別途実験によって確かめている。したがって、本発明のMg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板の製造に際しては、めっき浴中のAl,Si,Mg,Srの含有量を目標とするめっき層組成に合致させるようにコントロールすればよい。」 (b)周知文献2(特開2002-173753号公報)の記載事項 「【0032】母材は、熱間圧延板、冷間圧延板のいずれを用いてもよい。・・・ 【0033】めっきの方法は公知の方法でよい。・・・ 【0034】・・・母材を・・・溶融めっき浴に浸漬する。・・・ 【0035】めっき皮膜のAl、Mgなどの合金元素含有量は、めっき浴における含有量とほぼ同一になる。従って、めっき浴の化学組成は、所望のめっき皮膜化学組成と同一でよい。・・・」 c したがって、引用文献1の請求項2に係る発明及び表1のNo27の本発明例に着目すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 (引用発明1) 重量%で、Al:55%、Si:1.2%、Mg:1%を含有し、残部42.8%がZnと不可避不純物からなり、合金めっきの付着量が片面75g/m^(2)である合金めっき鋼板において、めっき表面のスパングル指標Nが10.2であることを特徴とする、表面外観に優れたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板。ただし、N=logn/0.301+1(nは25mm四方中のスパングル個数) エ 補正後発明と引用発明1との対比 補正後発明と引用発明1とを対比する。 a 引用発明1の「鋼板」は、補正後発明の「鉄ストリップ」に相当し、引用発明1の「合金めっき」は、補正後発明の「金属合金の被覆」に相当するから、引用発明1の「合金めっきの付着量が片面75g/m^(2)である合金めっき鋼板」は、補正後発明の「ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップ」に相当する。 b 補正後発明の「金属合金の被覆」と引用発明1の「合金めっき」について各構成元素の含有量を対比すると、アルミニウムについては、引用発明1では、重量%で「Al:55%」となっており、補正後発明の「アルミニウムの濃度は40?60質量%」の範囲内となっている。 ケイ素については、引用発明1では、重量%で「Si:1.2%」となっており、補正後発明の「ケイ素の濃度は0.3?3質量%」の範囲内となっている。 マグネシウムについては、引用発明では、重量%で「Mg:1%」となっており、補正後発明の「マグネシウムの濃度は1質量%以上3質量%未満」の範囲内となっている。 亜鉛については、引用発明1では、重量%で「残部42.8%がZnと不可避不純物」となっており、「Si:1.2%」「Mg:1%」の濃度からみて、不可避不純物の濃度が2.8%を超えることはあり得ないと考えられるから、引用発明1では、亜鉛の濃度は40重量%以上であると認められ、この値は、補正後発明の「亜鉛の濃度は40?60質量%」の範囲内となっている。 したがって、引用発明1の「合金めっき」が「重量%で、Al:55%、Si:1.2%、Mg:1%を含有し、残部42.8%がZnと不可避不純物からな」る点は、補正後発明の「金属合金の被覆」の「金属合金は主要元素として、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、」「不可避的な不純物と、」「を含み、 アルミニウムの濃度は40?60質量%であり、 亜鉛の濃度は40?60質量%であり、 ケイ素の濃度は0.3?3質量%であり、 マグネシウムの濃度は1質量%以上3質量%未満であ」との特定事項に該当する。 c 補正後発明では「金属合金の被覆」の「金属合金」が「要すれば意図的な合金化元素として存在するその他の元素」を含むことが特定されているが、かかる元素を含むことは「要すれば」とあるとおり、任意であるから、引用発明1の「合金めっき」がこれに相当する元素を含まないことは、両者の相違点とはならない。 d よって、両者は 「ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素として、アルミニウム、亜鉛、及び、ケイ素と、不可避的な不純物と、を含み、 アルミニウムの濃度は55質量%であり、 ケイ素の濃度は1.2質量%であり、 マグネシウムの濃度は1質量%であり、 残部Znと不可避不純物が42.8質量%である、」 鉄ストリップ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 補正後発明における「金属合金の被覆」の「金属合金」は「(a)カルシウムまたは(b)カルシウムおよびストロンチウム」を含み、「(i)カルシウム又は(ii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ150ppm未満であ」るのに対して、引用発明1における「合金めっき」は、それらの元素を含まない点。 (相違点2) 補正後発明における「金属合金の被覆」の「金属合金」は「不可避的な不純物」として「1質量%未満である鉄」を含むのに対して、引用発明1における「合金めっき」は「不可避不純物」に1質量%未満の鉄を含むか否かが明示的には明らかでない点。 (相違点3) 補正後発明では「金属合金の」「被覆が80g/m^(2)未満の被覆質量の金属合金を有し、前記被覆がストリップの各面上に20ミクロメートル未満の平均被覆厚さを有する」のに対して、引用発明1では「合金めっき」の「付着量が片面75g/m^(2)である」点。 オ 相違点についての検討 上記相違点について検討する。 (ア)相違点1について a 国際公開第2004/083480号(以下、「引用文献2」という。)の記載事項 本願の優先日前に頒布された引用文献2には、以下の事項が記載されている。なお、訳文は当審による。 (a)「The present invention relates to controlling surface defects, as described hereinafter, in steel strip that has a corrosion-resistant metal coating that is formed on the strip by hot-dip coating the strip in a molten bath of coating metal.」 (第1頁第4?8行。ただし、空行を含む。以下同様。) 「本発明は、以下に記載されるように、コーティング金属の溶融浴に浸漬する溶融めっきによって形成される耐腐食性金属コーティングを有する鋼ストリップの表面欠陥を制御することに関する。」 (b)「The term "aluminium-zinc-silicon alloy" is understood herein to mean alloys comprising the following ranges in weight percent of the elements aluminium, zincs and silicon: Aluminium: 50-60 Zinc: 37-46 Silicon: 1.2-2.3 The term "aluminium-zinc-silicon" alloy is also understood herein to mean alloys that may or may not contain other elements, such as, by way of example, any one or more of iron, vanadium, chromium, and magnesium.」(第1頁第34行?第2頁第9行) 「“アルミニウム-亜鉛-シリコン合金”という用語は、ここでは、重量%でアルミニウム、亜鉛、及びシリコンの各元素が以下の範囲からなる合金を意味すると理解される。) アルミニウム:50-60 亜鉛: 37-46 シリコン: 1.2-2.3 また、“アルミニウム-亜鉛-シリコン”合金という用語は、ここでは、例えば、鉄、バナジウム、及びマグネシウムのいずれか1つ以上のような他の元素を含むか、又は含まない合金を意味すると理解される。」 (c)「The present invention is concerned particularly but not exclusively with minimising the presence of particular surface defects on steel strip that has been hot dip coated -with an aluminium-zinc-silicon alloy. The particular surface defects are described by the applicant as "rough coating" and "pinhole - uncoated" defects. Typically, a "rough coating" defect is a region that has a substantial variation in coating over a 1mm length of strip, with the thickness varying between 10 micron thick and 40 micron thick. Typically, a "pinhole - uncoated" defect is a very small region (<0.5mm in diameter) that is uncoated.」(第3頁第1?13行) 「本発明は、アルミニウム-亜鉛-シリコン合金で溶融被覆された鋼ストリップ上の特定の表面欠陥の存在を最小にすることに特に関するが、これに限定されるものではない。 特定の表面欠陥は、本出願人により『粗いコーティング』及び『ピンホール-無コーティング』欠陥として記載されている。典型的には『粗いコーティング』欠陥は、ストリップの1mmの長さにわたって厚さが10ミクロンと40ミクロンとの間で変化するコーティングの実質的な変化を有する領域である。典型的には『ピンホール-無コーティング』欠陥は、コーティングされていない非常に小さい領域(直径<0.5mm)である。」 (d)「The applicant has observed that "rough coating" and"pinhole - uncoated" surface defects are always associated with small areas where the metal coating has not alloyed with the steel strip. Whilst not wishing to be bound by the following comments, the applicant believes that oxides on the surface of the strip may be one factor that causes the absence of alloying of the aluminium-zinc-silicon alloy coating and the steel strip in the small areas. The applicant also believes that one major source of the oxides is the surface of the molten bath. The surface oxides are solid oxides that are formed from metals in the molten bath as a result of reactions between molten bath metal and water vapour in the snout above the molten bath. In a molten bath of an aluminium-zinc-silicon. alloy, in addition to aluminium, zinc, and silicon, the molten bath contains minor amounts of other metals including magnesium. The applicant believes that surface oxides are taken up by strip as the strip passes through the oxide layer in order to enter the molten bath. The applicant has established that strontium and calcium minimise the amount of oxides that form on the bath surface and suspects that these elements may reduce the amount of oxides that are available to be taken up by the strip. The applicant also suspects that, alternatively or in combination, strontium and calcium may modify the properties of the surface oxides and, for example, increase the strength of the oxides whereby there is less likelihood that oxides will break away from the bath surface and be taken up by strip. The above-described method is characterised by the deliberate inclusion of the elements strontium and/or calcium in the coating aluminium-zinc-silicon alloy.」(第4頁第5?34行) 「出願人は、『粗いコーティング』及び『ピンホール-無コーティング』欠陥は、金属コーティングが鋼ストリップと合金化していない小領域に常に発生することに注目した。 以下のコメントによりしばられることは望まないが、出願人は、ストリップ表面上の酸化物が、小領域におけるアルミニウム-亜鉛-シリコン合金コーティングと鋼ストリップの無合金化の一つの要素あるいは原因であると考えている。出願人は、また、酸化物の一主要源が、溶融浴の表面であると考えている。表面酸化物は、固体酸化物であって、溶融浴金属と溶融浴上のスナウト内の水蒸気との反応生成物として溶融浴の金属から形成される。アルミニウム-亜鉛-シリコン合金浴中では、合金浴は、アルミニウム、亜鉛、シリコンに加え、少量のマグネシウムを含む他の金属を含有する。出願人は、表面酸化物が、溶融浴へ浸漬するためにストリップが酸化物層内を通過する際に、ストリップによって取り込まれるものと考えている。出願人は、ストロンチウムとカルシウムが、浴表面上に形成される酸化物量を最小化することを認め、これらの成分が、ストリップにより取り込まれる酸化物量を減少させるものと思われる。出願人は、また、ストロンチウムとカルシウムのどちらか一方、あるいは両方が表面酸化物の特性を変更し、また、例えば、酸化物の強度を増加させ、それによって浴表面から酸化物が剥がれ、ストリップにより取り込まれることは起こりにくいものと考える。 上述の方法はストロンチウム及び/またはカルシウム成分のアルミニウム-亜鉛-シリコン合金コーティングへの意図的な含有により特徴づけられる。」 (e)「The applicant has found that the control of strontium and calcium concentrations in the molten bath has a particularly beneficial effect on aluminium-zincs-silicon alloys that contain magnesium. Preferably aluminium-zinc-silicon alloys have a magnesium concentration of less than 1%.」(第6頁第13?19行) 「出願人は、溶融浴中のストロンチウム及びカルシウム濃度の制御が、特にマグネシウムを含有するアルミニウム-亜鉛-シリコン合金に効果的であることを見出した。 好ましくは、アルミニウム-亜鉛-シリコン合金は、1%未満のマグネシウム濃度を有する。」 (f)「The above-described method is characterised by controlling the concentration of (i) strontium or (ii) calcium or (iii) strontium and calcium in the aluminium- zinc-silicon alloy in the bath to be at least 2ppm, more preferably at least 3ppm, and preferably less than 150ppm and more preferably less than 5Oppm.」 (第10頁第6?11行) 「上述の方法は、浴中のアルミニウム-亜鉛-シリコン合金内の(i)ストロンチウムあるいは(ii)カルシウムあるいは(iii)ストロンチウム及びカルシウムの濃度を、少なくとも2ppm、より好ましくは少なくとも3ppm、そして好ましくは150ppm未満、より好ましくは50ppm未満に制御することにより特徴づけられる。」 b 引用文献2の上記記載によれば、引用文献2には、コーティング金属の溶融浴に浸漬する溶融めっきによって形成される耐腐食性金属コーティングを有する鋼ストリップの表面欠陥を制御すること((a))、特に、アルミニウム-亜鉛-シリコン合金で溶融被覆された鋼ストリップ上の特定の表面欠陥の存在を最小にすることに関し((c))、アルミニウム-亜鉛-シリコン合金は、重量%で、アルミニウム:50?60%、亜鉛:37?46%、シリコン:1.2?2.3%の範囲で含むとともに((b))、1%未満のマグネシウムを有することが好ましいとされ((e))、このような合金のコーティングにおいて、粗いコーティング欠陥(ストリップの1mmの長さにわたって厚さが10ミクロンと40ミクロンとの間で変化するコーティングの実質的な変化を有する領域)や、ピンホール-無コーティング欠陥(直径0.5mm未満のコーティングされていない非常に小さい領域)といった表面欠陥((c))が発生する一つの原因が、溶融浴表面の酸化物が鋼ストリップに取り込まれることにあり、この酸化物の量を最小化するために、ストロンチウム及び/又はカルシウムをアルミニウム-亜鉛-シリコン合金コーテイングに意図的に含有させることが記載され((d))、ストロンチウム及びカルシウムの濃度制御は、特にマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-シリコン合金において効果的であり((e))、このようなストロンチウム、カルシウムあるいはストロンチウム及びカルシウムの濃度は、少なくとも2ppmであり、好ましくは150ppm未満であること((f))が記載されている。 c 以上によれば、引用発明1と引用文献2に記載された技術は、いずれも溶融めっきで形成されたアルミニウム-亜鉛めっき鋼板の技術分野に属するものであり、引用発明1における「重量%で、Al:55%、Si:1.2%、Mg:1%を含有し、残部42.8%がZnと不可避不純物からな」る引用発明1の「合金めっき」の組成は、引用文献2に記載されたマグネシウムを含むアルミニウム-亜鉛-シリコン合金の組成(重量%で、アルミニウム:50?60%、亜鉛:37?46%、シリコン:1.2?2.3%、マグネシウム:1%未満)と同程度であることに照らせば、引用文献1、2に接した当業者は、引用発明1の合金めっきにおいても、引用文献2に記載された粗いコーティング欠陥やピンホール-無コーティング欠陥といった表面欠陥が発生することを当然に予想することができる。 したがって、引用発明1において、このような表面欠陥を低減するために「(a)カルシウムまたは(b)カルシウムおよびストロンチウム」を合金めっきに添加するともに、その添加量を溶融めっきの条件や許容できる表面欠陥の程度等に応じて2?150ppmの範囲で最適化し「(i)カルシウム又は(ii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回りかつ150ppm未満」とすることは、当業者であれば、容易になし得たことである。 また、補正後発明における相違点1に係る効果についても、引用文献1、2に記載された事項に基づいて当業者が予測し得る程度のものにすぎない。 (イ)相違点2について 溶融めっきによってめっき鋼板を製造する場合、めっき浴中に、めっき機器や鋼板(ストリップ)から不可避的に約1質量%までのFeが溶出し、めっき層に不可避的に同程度のFeが含まれることは、例えば、下記の周知文献1、3、4に記載されるとおり、本願の出願日前において当業者に周知の技術であったと認められるから、引用発明1における「合金めっき」についても「不可避不純物」に1質量%未満の鉄を含むものと認められる。 したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。 仮に、相違点2が実質的な相違点であって、引用発明における合金めっきに不可避的に含まれる鉄の含有量が1質量%以上であったとしても、溶融めっきの条件等を調整して、その値を1質量%未満にすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 a 周知文献1(特開2000-328214号公報(拒絶査定で引用した引用文献2))の記載事項 「【0022】本発明におけるめっき層組成において・・・めっき鋼板の基本特性すなわち耐食性および表面外観を損なわない程度の他の物質が含まれていても良い・・・。例えば合金めっきのための溶融めっき浴に通常許容されている不純物として、約1質量%までのFeを含有することができる。」 b 周知文献3(特開2001-316791号公報(拒絶査定で引用した引用文献1))の記載事項 「【0019】 【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。 (実施例1)・・・溶融亜鉛-アルミめっきは無酸化炉-還元炉タイプのラインを使用し・・・た。焼鈍温度は800?850℃とした。めっき浴組成は・・・不純物元素として、めっき機器やストリップから供給されるFeが0.1?1%程度含有されていた。・・・」 c 周知文献4(特開2002-12959号公報(拒絶理由通知で引用した引用文献5))の記載事項 「【0023】・・・溶融めっきによる製造においては・・・ 【0024】・・・めっき層には、これら元素のほかに、不可避的不純物としてFeを含有しうるが、この量は通常1%以下であり、めっき組織への影響も比較的少ない。・・・」 (ウ)相違点3について 溶融めっきによって鋼板にZn-Al系の合金層を形成する場合に、その付着量を鋼板片面当たり10?150g/m^(2)程度とし、その厚さを3?35μm程度とすることは、例えば、下記の周知文献1、3、5に記載されるとおり、本願の出願日前において当業者に周知の技術であったと認められるから、引用発明1における「合金めっき」の付着量を、合金めっき鋼板に必要とされる耐食性、加工性、溶接性等に応じて上記の範囲で最適化し「被覆が80g/m^(2)未満の被覆質量の金属合金を有し、前記被覆がストリップの各面上に20ミクロメートル未満の平均被覆厚さを有する」ようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 a 周知文献1(特開2000-328214号公報(拒絶査定で引用した引用文献2))の記載事項 「【請求項4】めっき付着量が鋼板片面あたり40?120(g/m^(2))である請求項1?3に記載のMg含有溶融Zn-Al系合金めっき鋼板。」 b 周知文献3(特開2001-316791号公報(拒絶査定で引用した引用文献1))の記載事項 「【0018】・・・最後にめっきの付着量であるが、めっき付着量が増大すると一般に耐食性は向上し、加工性、溶接性等は低下する。本発明は耐食性に優れるめっき組成であり、付着量は低くすることが可能で、めっき層と合金層の合計被覆量(以降めっき付着量と称する)は片面当たり10?100g/m^(2)とすることが望ましい。この時膜厚としては3?35μm程度となる。 【0019】 【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。 (実施例1)・・・溶融亜鉛-アルミめっきは無酸化炉-還元炉タイプのラインを使用し・・・た。・・・めっき後N_(2)ガスワイピング法でめっき付着量を両面約150g/m^(2)に調節し・・・た。・・・」 c 周知文献5(特開2004-238682号公報(拒絶理由通知で引用した引用文献3))の記載事項 「【0025】 ・・・ 【実施例】 (実施例1) 通常の熱延、冷延工程を経た・・・鋼成分の冷延鋼板・・・を材料として、溶融Alめっきを行った。・・・めっき付着量は両面120g/m^(2)で、両面均一であった。・・・」 (エ)前記(ア)?(ウ)を総合すれば、引用発明1において相違点1?3に係る事項を採用することは、いずれも当業者であれば容易になし得たことであり、これらを備えることによる効果についても、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。 カ したがって、補正後発明は、引用文献1、2に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることはできない。 (4)小括 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項に規定する要件を満たさないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成27年9月24日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素として、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、ストロンチウム及び/又はカルシウムと、1質量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、要すれば意図的な合金化元素として存在するその他の元素と、を含み、アルミニウムの濃度は40?60質量%であり、亜鉛の濃度は40?60質量%であり、ケイ素の濃度は0.3?3質量%であり、マグネシウムの濃度は1?3質量%であり、(i)ストロンチウム又は(ii)カルシウム又は(iii)ストロンチウム及びカルシウムを併せた濃度が50ppmを上回り、前記被覆が80g/m^(2)未満の被覆質量の金属合金を有し、前記被覆がストリップの各面上に20ミクロメートル未満の平均被覆厚さを有する、鉄ストリップ。」 2 本願の優先日前に日本国内で頒布された刊行物であり、拒絶査定において引用文献1として引用された特開2001-316791号公報(以下、「引用文献3」という。)の記載事項 上記の引用文献3には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】鋼板表面に質量%で、Zn:26?65%、Mg:1?15%、Si:0.3?10%に加え、Mg以外のアルカリ土類金属元素を0.005?5%含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる亜鉛-アルミ系めっき層を有することを特徴とする耐食性、外観に優れた溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板。 【請求項2】アルカリ土類金属元素がCaであることを特徴とする請求項1に記載の耐食性、外観に優れた溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板。 ・・・ 【請求項4】めっ層(当審注:「めっき層」の誤記。)に更に質量%で、Sn:0.5?20%を含有することを特徴とする請求項1?3に記載の耐食性、外観に優れた溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板。」 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、屋根壁等の金属建材、トースター、ストーブ等の家庭用熱器具に使用される、耐食性に優れた溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板に関する。」 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】・・・めっき層へMgを添加し、めっき層中にMg_(2)Si相を存在させることで、地鉄の防食という意味で極めて優れた性能が得られ、かつめっき層自体の耐食性も向上する。・・・」 「【0006】Mgは極めて酸素との親和力の強い元素であるため・・・表面にMg系の酸化皮膜を形成しやすい。そして・・・中はなお溶融状態にあるため、重力、冷却ガス等の影響で表面に皺が発生しやすい。・・・」 「【0007】 【課題を解決するための手段】本発明は、このように耐食性には優れるが外観という製造上の課題を有する亜鉛-アルミ系めっきにおいて、表面酸化に起因する皺発生を抑制し、良好な外観を達成したものである。・・・この浴面におけるMg系酸化皮膜の生成を抑制するには、ZnにAl,Si,Mgに加え、Mg以外のアルカリ土類金属の添加、特にCaが有効であるとの知見に至った。」 「【0009】・・・Zn-55%Al-1.5%Siめっき鋼板にはめっき層と鋼板の界面に合金層が成長しやすく、その成長抑制のためにSiが添加されている。本発明でいうめっき層とは合金層を含まない層と定義する。・・・」 「【0010】Mgは1%以上の添加で特に塩害環境下での耐食性向上に奏功する。しかし、過大な添加は浴粘度の上昇、浴面での酸化、浴融点の上昇等の課題があり、上限を15%とする。・・・」 「【0011】更に本発明において、浴面酸化を抑制し、外観を改善するためにMg以外のアルカリ土類元素を添加するものとする。特に好ましいのはCaであり・・・その添加量は0.005%以上で効果があり、浴融点上昇から上限は5%に定める。・・・」 「【0018】・・・最後にめっきの付着量であるが、めっき付着量が増大すると一般に耐食性は向上し、加工性、溶接性等は低下する。本発明は耐食性に優れるめっき組成であり、付着量は低くすることが可能で、めっき層と合金層の合計被覆量(以降めっき付着量と称する)は片面当たり10?100g/m^(2)とすることが望ましい。この時膜厚としては3?35μm程度となる。 【0019】 【実施例】次に実施例により本発明をさらに詳細に説明する。 (実施例1)・・・冷延鋼板(板厚0.8mm)を・・・材料として・・・溶融亜鉛-アルミめっきを行った。溶融亜鉛-アルミめっきは無酸化炉-還元炉タイプのラインを使用し・・・た。めっき浴組成はAl,Zn,Si,Mg,Ca量を種々変化させた。これら以外に不純物元素として、めっき機器やストリップから供給されるFeが0.1?1%程度含有されていた。浴への侵入板温、浴温は同じ温度とし、組成により550?600℃の範囲で変動させた。めっき後N_(2)ガスワイピング法でめっき付着量を両面約150g/m^(2)に調節し・・・た。・・・」 「【0027】 【表2】 」 3 引用文献3に記載された発明の認定 (1)引用文献3の上記記載によれば、引用文献3には、請求項2を引用する請求項4に係る発明として「鋼板表面に質量%で、Zn:26?65%、Mg:1?15%、Si:0.3?10%に加え、Caを0.005?5%含有し、更にSn:0.5?20%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる亜鉛-アルミ系めっき層を有することを特徴とする耐食性、外観に優れた溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板。」が記載されており、その実施例の1つとして、表2のNo.3には、めっき層の組成が質量%で、Zn:40%、Si:1.5%、Mg:3%、Sn:0.5%、Ca:0.05%、残部Al及び不可避的不純物:54.95%(100%から、他の元素の濃度を減じた値)で、めっき付着量150g/m^(2)とした本発明例が記載されており、さらに、めっき浴にめっき機器やストリップから供給されるFeが0.1?1%程度含有されていたことも記載されている。 ここで、めっき浴に含まれる上記のFeは、Zn、Si、Mg、Sn、Ca、Alのいずれとも異なるから、不可避的不純物に該当すると認められ、前記「第2 補正の却下の決定」「2 本件補正の検討」「(3)独立特許要件についての検討」「ウ 引用文献1に記載された発明の認定」「b」で検討したとおり、めっき層の組成とめっき浴の組成はほぼ等しくなるから、上記No.3のめっき層に含まれるFeの含有量は0.1?1%程度であると認められる。 また、「めっき層と合金層の合計被覆量(以降めっき付着量と称する)は片面当たり10?100g/m^(2)とすることが望ましい」(【0018】)という記載に照らせば、めっき付着量を両面150g/m^(2)に調節する(【0019】、表2のNo.3)とは、めっき付着量を両面合計で150g/m^(2)(片面で75g/m^(2))に調節することを意味するものと解される。 (2)したがって、引用文献3の請求項2を引用する請求項4に係る発明及び表1のNo.3の本発明例に着目すると、引用文献3には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。 (引用発明3) 鋼板表面に質量%で、Zn:40%、Si:1.5%、Mg:3%、Sn:0.5%、Ca:0.05%を含有し、残部Al及び0.1?1%程度のFeを含む不可避的不純物:54.95%からなり、めっき付着量を両面合計で150g/m^(2)に調節した亜鉛-アルミ系めっき層を有することを特徴とする耐食性、外観に優れた溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板。 4 本願発明と引用発明3との対比 本願発明と引用発明3とを対比する。 (1)引用発明3の「鋼板」及び「亜鉛-アルミ系めっき層」は、それぞれ、本願発明の「鉄ストリップ」及び「金属合金の被覆」に相当し、引用発明3では、めっき層が鋼板の両面に形成されているから、引用文献3の「めっき付着量を両面合計で150g/m^(2)に調節した亜鉛-アルミ系めっき層を有することを特徴とする溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板」は、本願発明の「ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップ」に相当する。 (2)本願発明の「金属合金の被覆」と引用発明3の「亜鉛-アルミ系めっき層」について、各元素の含有量を対比すると、亜鉛については、引用発明3では、質量%で「Zn:40%」となっており、本願発明の「亜鉛の濃度は40?60質量%」の範囲内となっている。 ケイ素については、引用発明3では、質量%で「Si:1.5%」となっており、本願発明の「ケイ素の濃度は0.3?3質量%」の範囲内となっている。 マグネシウムについては、引用発明3では、質量%で「Mg:3%」となっており、本願発明の「マグネシウムの濃度は1?3質量%」の範囲内となっている。 スズについては、本願発明では「金属合金」に含まれる「意図的な合金化元素として存在するその他の元素」の種類が具体的に特定されていないが、本願の願書に添付された明細書には「アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウム合金はその他の元素を含有しうる。例示の目的で、その他の元素には、インジウム、スズ、ベリリウム、チタン、銅、ニッケル、コバルト、及びマンガンのいずれか一種以上が含まれる。」(【0034】)と記載されるとおり「その他の元素」には、スズが含まれるから、引用発明3の「亜鉛-アルミ系めっき層」が、質量%で「Sn:0.5%」を含有することは、本願発明の「金属合金の被覆」の「金属合金」が「意図的な合金化元素として存在するその他の元素と、を含」むことに相当する。 カルシウムについては、0.05%=500ppmであるから、引用発明3の「亜鉛-アルミ系めっき層」が、質量%で「Ca:0.05%」を含有」することは、本願発明の「金属合金」が「カルシウムと」「を含み、」「(ii)カルシウム」の「濃度が50ppmを上回」ることに相当する。 アルミニウムについては、引用発明3では「残部Al及び0.1?1%程度のFeを含む不可避的不純物:54.95%」となっており、「Si:1.5%、Mg:3%、Sn:0.5%、Ca:0.05%」の含有量からみて「0.1?1%程度のFeを含む不可避的不純物」の含有量が14.95%を上回ることはあり得ないと考えられるから、引用発明3では、Alの含有量は40質量%以上であると認められ、この値は、本願発明の「アルミニウムの濃度は40?60質量%」の範囲内となっている。 鉄については、引用発明3では、質量%で「0.1%?1%程度」となっており、本願発明の「1質量%未満」とは、0.1質量%以上1質量%未満の範囲で重複する。 したがって、引用発明3における「亜鉛-アルミ系めっき層」が「質量%で、Zn:40%、Si:1.5%、Mg:3%、Sn:0.5%、Ca:0.05%を含有し、残部Al及び0.1?1%程度のFeを含む不可避的不純物:54.95%からな」ることは、本願発明における「金属合金の被覆」の「金属合金」が「アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、」「カルシウムと、1質量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、」「意図的な合金化元素として存在するその他の元素と、を含み、アルミニウムの濃度は40?60質量%であり、亜鉛の濃度は40?60質量%であり、ケイ素の濃度は0.3?3質量%であり、マグネシウムの濃度は1?3質量%であり、」「(ii)カルシウム」の「濃度が50ppmを上回」るとの特定事項に該当する。 (3)よって、両者は 「ストリップの少なくとも片面上に金属合金の被覆を有する鉄ストリップであって、該金属合金は主要元素として、アルミニウム、亜鉛、ケイ素、及びマグネシウムを含み、カルシウムと、0.1質量以上1質量%未満である鉄を含む不可避的な不純物と、意図的な合金化元素として存在するその他の元素であるスズと、を含み、亜鉛の濃度は40質量%であり、ケイ素の濃度は1.5質量%であり、マグネシウムの濃度は3質量%であり、カルシウムの濃度は500ppmであり、残部Al及び0.1質量%以上1質量%程度のFeを含む不可避的不純物の濃度は54.95%である鉄ストリップ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点4) 本願発明では「金属合金の」「被覆が80g/m^(2)未満の被覆質量の金属合金を有し、前記被覆がストリップの各面上に20ミクロメートル未満の平均被覆厚さを有する」のに対して、引用発明1では「亜鉛-アルミ系めっき層」の「めっき付着量を両面合計で150g/m^(2)に調節した」点。 5 相違点についての検討 上記相違点4について検討すると、前記の「第2 補正の却下の決定」「2 本件補正の検討」「(3)独立特許要件についての検討」「オ 相違点についての検討」「(ウ)相違点3について」で検討したのと同様の理由により、引用発明3における「亜鉛-アルミ系めっき層」の付着量を、溶融亜鉛-アルミ系めっき鋼板に必要とされる耐食性、加工性、溶接性等に応じて最適化し「被覆が80g/m^(2)未満の被覆質量の金属合金を有し、前記被覆がストリップの各面上に20ミクロメートル未満の平均被覆厚さを有する」ようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。 6 小括 したがって、本願発明は、引用文献3に記載された発明及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-28 |
結審通知日 | 2017-07-04 |
審決日 | 2017-07-18 |
出願番号 | 特願2014-32130(P2014-32130) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
WZ
(C23C)
P 1 8・ 121- WZ (C23C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 祢屋 健太郎 |
特許庁審判長 |
鈴木 正紀 |
特許庁審判官 |
金 公彦 長谷山 健 |
発明の名称 | 金属被覆鉄ストリップ |
代理人 | 田中 光雄 |