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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B09B |
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管理番号 | 1335083 |
審判番号 | 不服2016-4435 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-24 |
確定日 | 2017-11-28 |
事件の表示 | 特願2012-552380「再利用カーボン繊維を使用した炭素材料からの成形品の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月18日国際公開、WO2011/098486、平成25年 5月30日国内公表、特表2013-519498〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成23年2月9日(パリ条約による優先権主張 平成22年2月10日 独国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年4月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月16日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年11月14日付けで意見書が提出され、平成27年4月22日付けで拒絶理由が通知され、同年11月4日付けで意見書が提出され、同年11月20日付で拒絶査定がされたのに対し、平成28年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、その後、当審において平成29年2月16日付けで拒絶理由を通知し、これに対し、同年5月19日付けで意見書及び手続補正書が請求人より提出されたものである。 そして、本願の請求項1?16に係る発明は、平成29年5月19日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 カーボン繊維を20質量%未満の量で含有する炭素からの成形品の製造方法であって、 以下の工程: a) カーボン繊維強化複合材からのくず部分またはスクラップ部分を破砕する工程、 b) 工程a)において得られた破砕生成物、結合剤および炭素材料からの混合物を製造する工程、その際、該混合物は20質量%未満の繊維を含有する、 c) 工程b)において得られた混合物を成形品に成形する工程、および d) 工程c)において得られた成形品を炭化する工程 を含み、工程a)においてマトリックスをカーボン繊維から取り除き、従って、工程b)に、工程a)の生成物として、カーボン繊維のみが供給される、 前記製造方法。」 第2 当審の拒絶理由 当審において平成29年2月16日付けで通知した拒絶の理由は、本願の(平成26年4月14日付け手続補正書による)請求項1?19に係る発明は、その出願(優先日)前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用例1:特開2001-187888号公報 周知例2:特開平6-99160号公報 周知例3:特開2000-219780号公報 周知例4:特開平11-50338号公報 第3 引用例及びその記載事項 1 引用例1について 上記引用例1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。 (1ア)「【0006】従って、従来技術の問題点および欠陥に鑑み、本発明の目的は、炭素繊維を利用して、炭素体、特に黒鉛電極の縦CTEだけでなく横CTEも低下させる方法を提供することである。 【0007】本発明の別の目的は、炭素繊維をランダムに配列させるようにピッチバインダー中に炭素繊維を分散させ、得られた黒鉛電極の横および縦CTEを低下させる方法を提供することである。 【0008】本発明の他の目的は、最小量の炭素繊維を利用して上述の所望の効果を達成する方法を提供することである。 【0009】本発明のさらに別の目的は低い熱膨張率の炭素体を提供することである。 【0010】本発明のさらに別の目的は、縦CTEだけでなく横CTEも低い黒鉛電極を提供することである。」 (1イ)「【0022】最後の態様において、本発明は、(a)約260?140℃の温度で約0.1?約5ポイズの粘度を有するピッチと、ランダム配列の実質的に単一のモノフィラメントとしてピッチ中に実質的に均質分散された、ピッチの約0.5?約10.0重量%の炭素繊維との混合物を含むバインダーと、コークス充填剤とを混練して、バインダー-充填剤配合物を形成させ、(b)バインダー-充填剤配合物を押出して炭素体を形成させ、(c)炭素体を炭化させ、(d)炭素体を黒鉛化させて黒鉛体を生成させることによって製造された黒鉛体に関するものであり、黒鉛体は、黒鉛体の約1.5?約3.0重量%の炭素繊維を有し、炭素繊維は、ランダム配列の実質的に単一のモノフィラメントとして黒鉛体中に分散されている。」 上記記載事項から、引用例1には、以下の発明が記載されている。 「黒鉛体の約1.5?約3.0重量%の炭素繊維を有する黒鉛体の製造方法であって、 ピッチと、炭素繊維との混合物を含むバインダーと、コークス充填剤とを混練して、バインダー-充填剤配合物を形成させ、バインダー-充填剤配合物を押出して炭素体を形成させ、炭素体を炭化させ、炭素体を黒鉛化させて黒鉛体を生成させる製造方法。」(以下「引用発明」という。) 第4 対比・判断 1 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「黒鉛体の約1.5?約3.0重量%の炭素繊維を有する黒鉛体」は、「押出して炭素体を形成させ、炭素体を炭化させ、炭素体を黒鉛化させ」たもので「成形品」であるから、本願発明の「カーボン繊維を20質量%未満の量で含有する炭素からの成形品」に相当する。 (2)そして、引用発明の「ピッチ」及び「コークス」は本願発明の「結合剤および炭素材料」に相当するから、 引用発明の「ピッチと、炭素繊維との混合物を含むバインダーと、コークス充填剤とを混練して、バインダー-充填剤配合物を形成させ、バインダー-充填剤配合物を押出して炭素体を形成させ、炭素体を炭化させ」ることと、 本願発明の「a)カーボン繊維強化複合材からのくず部分またはスクラップ部分を破砕する工程、b)工程a)において得られた破砕生成物、結合剤および炭素材料からの混合物を製造する工程、その際、該混合物は20質量%未満の繊維を含有する、c)工程b)において得られた混合物を成形品に成形する工程、およびd)工程c)において得られた成形品を炭化する工程を含み、工程a)においてマトリックスをカーボン繊維から取り除き、従って、工程b)に、工程a)の生成物として、カーボン繊維のみが供給される」こととは、 「b)カーボン繊維、結合剤および炭素材料からの混合物を製造する工程、その際、該混合物は20質量%未満の繊維を含有する、c)工程b)において得られた混合物を成形品に成形する工程、およびd)工程c)において得られた成形品を炭化する工程を含」む点で共通する。 (3)してみれば、本願発明と引用発明とは、 (一致点) 「カーボン繊維を20質量%未満の量で含有する炭素からの成形品の製造方法であって、 b)カーボン繊維、結合剤および炭素材料からの混合物を製造する工程、その際、該混合物は20質量%未満の繊維を含有する、 c)工程b)において得られた混合物を成形品に成形する工程、および d)工程c)において得られた成形品を炭化する工程を含む製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) カーボン繊維について、本願発明は「カーボン繊維強化複合材からのくず部分またはスクラップ部分を破砕する工程」を経て「マトリックスをカーボン繊維から取り除き、従って、工程b)に、工程a)の生成物として、カーボン繊維のみが供給され」たカーボン繊維であるのに対し、引用発明では、そのような工程を経て得られた炭素繊維なのかどうか不明である点。 2 相違点についての判断 上記相違点について検討するに、カーボン繊維強化複合材からのくず部分またはスクラップ部分を破砕し、マトリックスをカーボン繊維から取り除き、カーボン繊維のみを得て、そのカーボン繊維を含有した物品の製造に用いることは、本願優先日前に周知技術(例えば、周知例2の【0001】及び【0013】?【0015】、周知例3【0018】、周知例4の【0015】、等参照)である。 そして、引用発明の炭素繊維として、引用例1には、再利用ではない新しい炭素繊維でなければならないという記載はなく、当業者であれば経費削減あるいは環境問題などを考慮して物品を製造することは引用例1にも内在する自明の技術課題であるから、引用発明における炭素繊維として上記周知の再利用カーボン繊維を用いること、すなわち、引用発明の製造方法において、上記相違点に係る構成を採用して本願発明とすることは当業者が容易になし得たことである。 3 本願発明の効果について 本願明細書で、本願発明の効果として、 「新たに製造された短いカット繊維を含有する比較例2による成形材料と同様に、リサイクル繊維を含有する実施例4?7による成形材料も、繊維を含有しない比較例1による成形材料と比べて、より少ないCTE値を有する、つまり、CTEが減少されたことがわかる。」(【0061】)と記載され、カーボン繊維としてリサイクル繊維を用いた場合でも、繊維を含有しない成形材料と比べてより少ないCTE値を有するということであるが、引用発明においても、摘記(1ア)に記載されているとおり、炭素繊維を利用してCTEを低下させるものであるから、その炭素繊維としてリサイクル繊維を用いた場合でも、繊維を含有しない成形材料と比べて少ないCTE値となることは当業者が予期しうる範囲のことである。 4 請求人の主張について 請求人は、平成29年5月19日付け意見書で、 「引用文献1の明細書の段落番号0030には、市販の、つまり新品のカーボン繊維が用いられたことが記載されています。従って、引用文献1に記載された発明により得られる熱膨張係数は、新品のカーボン繊維を用いて達成されるものです。たとえ、周知例2?4に、カーボン繊維強化プラスチックからのカーボン繊維の回収方法が記載されていたとしても、そのカーボン繊維を用いて新品のカーボン繊維を用いた場合に匹敵する優れた特性を有する成形品が得られることの根拠はありません。」(主張1) 「本願発明1においては、カーボン繊維を含む結合剤を製造するのではなく、カーボン繊維と結合剤とは別成分です。」(主張2)と主張している。 まず、主張1について検討するに、周知例2?4にも記載されているように、リサイクルカーボン繊維は、新品のカーボン繊維と同様に種々の用途に用いられるものであり、引用発明は、上記摘記(1ア)に「本発明の目的は、炭素繊維を利用して、炭素体、特に黒鉛電極の縦CTEだけでなく横CTEも低下させる方法を提供することである。」と記載されているように、具体的に炭素繊維を有する黒鉛電極に用いられるものであるが、黒鉛電極に用いる炭素繊維が新品でなければならないという技術常識も存在せず、むしろ、当業者であれば、黒鉛電極においても他の用途と同様に、経費削減等のために炭素繊維としてリサイクルカーボン繊維を用いることは当業者が容易になし得たことといわざるを得ない。請求人の指摘する引用例1の箇所には、確かに「【0030】好ましい実施態様において、メソフェーズピッチ系炭素繊維は、アモコ社(Amoco Corporation)からGPX(商標)として得た。」との記載はあるものの、この記載は炭素繊維の一例としてアモコ社のGPXという炭素繊維を用いたということであり、この記載をもってして引用発明における炭素繊維は新品でなければならないということを示しているとはいえない。 次に、主張2について検討するに、引用発明では「ピッチと、炭素繊維との混合物を含むバインダー」と記載されているが、引用例1の【0002】に「充填剤として炭素繊維を用い、バインダーとしてピッチを用いることは、低い熱膨張率(coefficient of thermal expansion:以下、CTEという)を有する炭素体、例えば黒鉛電極、の製造技術においては周知である。」と記載されているように、炭素繊維はバインダー(結合材)としての役割を果たすものではなく、引用発明の「ピッチと、炭素繊維との混合物を含むバインダー」はピッチであるバインダーと炭素繊維が混合されるということであるから、引用発明においても、請求人が本願発明として主張している「カーボン繊維と結合剤とは別成分です」ということを満たしているものといえる。 よって、請求人の主張によって、上記当審の判断が覆るものではない。 5 小括 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-06-30 |
結審通知日 | 2017-07-03 |
審決日 | 2017-07-18 |
出願番号 | 特願2012-552380(P2012-552380) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B09B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 森井 隆信、小久保 勝伊 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
山本 雄一 三崎 仁 |
発明の名称 | 再利用カーボン繊維を使用した炭素材料からの成形品の製造方法 |
代理人 | 前川 純一 |
代理人 | 上島 類 |
代理人 | 二宮 浩康 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |