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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C |
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管理番号 | 1335101 |
異議申立番号 | 異議2017-700113 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-02-06 |
確定日 | 2017-10-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5976158号発明「PTP用アルミニウム箔及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5976158号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5976158号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5976158号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成27年4月16日に特許出願され、平成28年7月29日にその特許権の設定登録がされ、同年8月23日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、平成29年2月6日に特許異議申立人 葛西 文枝により特許異議の申立てがされ、同年5月11日付けで当審から取消理由通知がなされ、同年7月21日付けで意見書および訂正請求書が提出されたものであり、この訂正請求について、異議申立人に意見を求めたところ、異議申立人からは応答がなかったものである。 第2 平成29年7月21日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否について 1 訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の第2行目から第3行目に「圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上」とあるのを「JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上」と訂正する。 イ 訂正事項2 明細書の段落0007の第2行目から第3行目に「圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上」とあるのを「JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 圧延方向に対して45°の方向の伸びの測定に用いられる試験片を特定したものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 そして、訂正事項1による訂正は、訂正前の明細書の段落0028の記載「伸びは、JIS Z2241に準じて5号試験片を作製し、各試料の試験片について室温で引張試験を行い測定した。」に基づくものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 イ 訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 本件訂正前の請求項2、3は、請求項1を引用しているから、本件訂正前の請求項1ないし3に対応する訂正後の請求項1ないし3は一群の請求項であり、また、本件明細書の訂正は、一群の請求項の全てについて行われるものである。 エ そして、本件特許異議申立ては、本件訂正前の請求項1ないし3の全ての請求項に対して申立てられているので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の規定は適用されない。 オ したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書きに掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、及び同条第9項で準用する特許法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」・・・「本件発明3」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上で、硬質箔であることを特徴とするPTP用アルミニウム箔。 【請求項2】 請求項1のPTP用アルミニウム箔を製造する方法であって、 アルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、冷間圧延の途中で少なくとも1回以上の中間焼鈍、最終冷間圧延をこの順に施してPTP用アルミニウム箔を製造する方法であって、 前記冷間圧延の際の最初の中間焼鈍までの圧下率を75%以上とすることを特徴とするPTP用アルミニウム箔の製造方法。 【請求項3】 片面にポケット部が複数形成され、該ポケット部の周囲が平面部に形成された樹脂製のフィルムと、該フィルムの前記ポケット部の開口を閉塞して前記平面部にシールされたアルミニウム箔とからなり、前記アルミニウム箔が請求項1記載のPTP用アルミニウム箔であることを特徴とするPTP。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の内容 訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して平成29年5月11日付けで通知した取消理由は以下のとおりである。 「本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 ア 第36条第6項第2号について 特許異議申立書の第26頁第1行?第28頁第4行参照。 イ 第36条第4項第1号について 特許異議申立書の第28頁第5行?第29頁第4行参照。 」 そして、その具体的内容は、概略、以下のとおりである。 「エ.発明の明確性について 本件特許発明1は、・・・機械的性質の要件として、「(D)圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上」を必須要件としている。・・・一方、機械的性質の測定値は、その試験片の形状や試験条件等によって左右され、試験片の加工に不備があれば、正確な測定ができない場合もある。 ・・・ 本件については、その明細書【0028】に記載されているように、「JIS Z2241に準じて5号試験片を作製」して引張試験を行うことが示されている。・・・しかしながら、厚みが20μm程度のアルミニウム箔を切削加工することは、そのこと自体が困難であり、平行部に隣接する曲線部を設けることも難しい。・・・そのため、上述した甲第1号証や、甲第2号証に記載されているように、直線的な切断だけで作製可能な短冊状の試験片を用いて代用することが通常行われている。 これに対して、本件特許発明1に規定された機械的性質は、JISの5号試験片を用いて測定することが条件とされているところ、実施例に記載された17μmのアルミニウム箔を、どのようにしてその形状に加工したかの説明は全くない。 また、・・・JISの5号試験片の作製が可能であったとしても、5号試験片を用いた試験結果と、甲第1号証や甲第2号証に記載された短冊状の試験片において測定した試験結果とが同じなのか異なるかについても、不明である。・・・ したがって、本件特許発明1は、明確ではなく、特許法第36条第6項2号の規定を満たしていない。」 「オ.実施可能要件について ・・・ ・・・ 前述したように、非常に厚みが薄いアルミニウム箔を、特殊な形状である5号試験片に加工することは、通常では困難である。そうすると、5号試験片によって機械的性質を確認してはじめて発明が完成する本件特許発明1を実施することが困難となる。 ・・・ いずれにしても、本件特許発明1を実施しようとした場合、・・・その前提となる5号試験片の作製方法が不明である限りは、当業者においては実施することが困難である。 したがって、本件特許発明1は、当業者が容易に実施できるものではなく、特許法第36条第4項1号の規定を満たしていない。」 2 判断 ア 発明の明確性(特許法第36条第6項第2号)について 甲第6号証(JIS Z2201「金属材料引張試験片」)によれば、「 試験片の使用区分」の欄に、「板厚3mm以下」の「板」については、「5号試験片」により行うのが好ましい旨記載され、実際に、アルミニウム箔についても、5号試験片を用いた引張試験が行われていると認められる(下記乙第1、3号証、及び甲第7号証の表1.1に示されるA社の実施状況参照)。 そうすると、5号試験片の作製自体が不可能に近く引張試験が困難であるとはいえないから、「JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上」であることの技術的意味が不明確であるとはいえない。 ・乙第1号証(特開2011-144440号公報) 「実施例1 ・・・その後、冷間圧延を繰り返して15μmのアルミニウム合金箔を得た。 ・・・ 得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さと伸び、室温(25℃)の比抵抗値を下記の方法で測定した。 ・・・ 引張強さと伸び:JIS Z2241に準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取して測定した。」(【0028】?【0031】) ・乙第3号証(特開2014-88598号公報) 「次いで、途中で焼鈍を行うことなく箔圧延を含む冷間圧延を繰り返し行い、箔厚12μmのアルミニウム合金箔を得た。 ・・・ 次に、得られたアルミニウム合金箔を試験材として、引張強さ、耐力および伸び、比抵抗(電気抵抗率)、結晶粒径2μm以下のサブグレインの面積率の測定を行った。具体的には、引張強さ、耐力および伸びは、JIS Z2241準拠し、試験材からJIS5号試験片を採取して測定した。」(【0032】?【0033】) イ 実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について 上記アのとおり、5号試験片の作製自体が不可能に近く引張試験が困難であるとはいえないから、「JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上」である本件発明を実施することができないとはいえない。 第5 取消理由として採用しなかった異議申立理由(特許法第29条第2項)について (1)具体的内容 特許法第29条第2項についての異議申立理由の内容は、実質的に下記のとおりである。 「(ア)本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 (イ)本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第7号証等に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。 (ウ)本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証?甲第7号証等に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。」 (2)甲各号証の記載事項 (2-1)甲第1号証(特開平4-173941号公報) (1a)「2.特許請求の範囲 Fe0.8?1.8%、Al98.0?99.1%、その他不純物よりなるアルミニウム鋳塊を、面削、均質化処理及び熱間圧延して、所定厚の熱間圧延材を得、次いで冷間圧延して厚さ0.8?1.6mmのアルミニウム板を得た後、昇温速度50℃/分以上、保持温度350℃?530℃及び保持時間3?60分で中間焼鈍し、その後更に冷間圧延することを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。」 (1b)「【従来の技術】 従来より、アルミニウム箔を製造する方法としては、一般的に以下に示す如き(a)?(g)の工程を経て製造されている。即ち、(a)JIS H 4160 IN30で規定される化学組成のアルミニウム鋳塊(Si+Fe=0.7%以下、Cu=0.1%以下、Mn=0.05%以下、Mg=0.05%以下、Zn=0.05%以下、Al=99.30%以上、その他の不可避不純物よりなるもの、但し、%はすべて重量%を示している。)を準備する。 ・・・ ・・・ (g)中間焼鈍後、冷間圧延を繰り返しして厚さ0.2mm以下のアルミニウム箔を得るというものである。」(第1頁左欄下から3行?右欄下から6行) (1c)「まず、本発明においては、Fe0.8?1.8%、Al98.0?99.1%、その他不純物よりなるアルミニウム鋳塊を準備する。ここで、%はすべて重量%を表している。このアルミニウム鋳塊は、従来のアルミニウム鋳塊に比べて、Feの含有量が比較的高いものである。・・・ ・・・ なお、このアルミニウム鋳塊中に存在する不純物としては、Si、Cu、Mn、Mg、Zn等である。」(第2頁右上欄第5行?下から2行) (1d)「即ち、本発明に係る方法は、厚さの薄いアルミニウム箔を良好に得る方法であり、特に20μ以下のアルミニウム箔を得るのに適した方法なのである。このように、厚さの薄いアルミニウム箔は、プレススルーパックの蓋材として、或いは各種包装材の素材等として好適に使用しうるものである。」(第3頁左上欄第13行?第18行) (1e)「【実施例】 第1表に示したFe含有量を持つアルミニウム鋳塊(Fe以外の成分はAIであり、その他不可避不純物が若干含有されている。)を準備した。このアルミニウム鋳塊の両面を各々5mmずつ面削し、従来公知の方法で均質化処理及び熱間圧延して、6厚さ6mmの熱間圧延材を得た。そして、この熱間圧延材を従来公知の方法で冷間圧延し、第1表に示すアルミニウム板を得た。 このアルミニウム板を、第1表に示す条件で中間焼鈍し、その後更に冷間圧延を繰り返し、20μ及び6μの厚さのアルミニウム箔を得た。そして、この冷間圧延中における圧延切れを観察し、その結果を第1表に示した。 更に、得られたアルミニウム箔の引張強度、伸び及びピンホールの数を測定し、第1表に示した。 ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ 第1表及び第2表から明らかなとおり、実施例に係る方法は、中間焼鈍後の冷間圧延時において、圧延切れが少なく、また実施例の方法で得られたアルミニウム箔は引張強度が高く且つ伸びも良好で、更にピンホールの少ないものであった。従って、ブレススルーパック用の蓋材として好適に使用しうるものであった。」(第3頁左上欄第19行?第4頁左下欄第7行) (2-2)甲第2号証(特開2007-253949号公報) (2a)「【0001】 本発明は、包装材料、その製造方法およびプレススルーパックに関し、詳しくは両面に印刷層を有する包装材料、その製造方法およびプレススルーパックに関するものである。」 (2b)「【0009】 上記のアルミニウム箔の耐力は、130MPa?180MPaの範囲にあるのがよい。コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に、乾燥のために加熱され、アルミニウム箔は軟化して耐伸び性が劣化するが、包装材料の段階で耐力(0.2%耐力)が130MPa?180MPaあれば、十分な強度を維持している。このため上記の耐力の下では、耐伸び性の劣化は限定的であり、上記のコーティング層の作用を得て、両面印刷のずれが問題にならないようにできる。 【0010】 また、上記のアルミニウム箔の破断伸びは、1.5%?3.0%の範囲内にあるのがよい。コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に、乾燥のために加熱され、アルミニウム箔は軟化して耐伸び性が劣化する(破断伸びが増大する)が、包装材料の段階で破断伸びが1.5%?3.0%の範囲内にあれば、十分な耐伸び性を維持している。このため上記の破断伸び下で、耐伸び性の劣化は限定的であり、上記のコーティング層の作用を得て、両面印刷のずれが問題にならないようにできる。上記の包装材料の段階で、耐力130MPa?180MPaまたは破断伸び1.5%?3.0%の範囲内のアルミニウム箔は、硬質アルミニウム箔を出発原料に用いている。硬質アルミニウム箔は、アルミニウム箔地を薄くロールで圧延して箔にしたあと、焼鈍しない状態のものをさす。」 (2c)「【発明を実施するための最良の形態】 【0019】 次に図面を用いて本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態における包装材料10を示す図である。本発明に用いるアルミニウム箔1(出発材料としての長尺のアルミニウム箔)は、アルミニウム箔を用いる限り、公知のアルミニウム箔を使用することができるが、好ましくは耐力(0.2%耐力)160MPa以上(さらに好ましくは160MPa?180MPa)、伸び(破断伸び)1.0%?2.5%の硬質アルミニウム箔を用いるのがよい。耐力160MPa未満の場合には、焼き付けの加熱処理および工程中にかかる張力によりアルミニウム箔が伸びてしまい、ピッチ印刷の場合、印刷ピッチが狂ってしまうおそれがある。アルミニウム箔の純度は特に制限されるものではないが、JIS等に規定される公知のアルミニウム箔を使用することができる。なお、本説明において耐力(0.2%耐力)および伸び(破断伸び)は、特に断りのない限り、アルミニウム箔の長手方向(アルミニウム箔の圧延方向:長尺のアルミニウム箔をコイル状に巻き取った際の巻取り方向)の機械的性質である。ピッチ印刷は長手方向に一定のピッチで繰り返し印刷する。 【0020】 機械的性質を得るための試験条件は、つぎのとおりである。 (1)試料(試験片)全長:200mm (2)試料(試験片)幅:15mm (3)つかみ具間の距離:100mm (4)標点:なし(伸びはつかみ具の移動距離=チャートによる) (5)歪速度:30mm/分 (6)測定機種:島津製作所株式会社製オートグラフ。」 (2-3)甲第3号証(特開2006-36310号公報) (3a)「【0002】 従来、薬品等の包装材は、合成樹脂、アルミニウム箔、熱接着層等を適宜組み合わせ、特許文献1に示すように、包装材の外面から内面に向けて順に、オーバープリント層、印刷層、アルミニウム箔、熱接着層を接着または積層する構成が一般的であった。このような構成の場合、印刷層が包装材の最外面に設けられることはなく、印刷層の外面にはオーバープリント層や合成樹脂フィルム等が積層されている。」 (3b)「【0007】 フレキソ印刷層は、包装材の最外面に設けられているのがよく、フレキソ印刷層に使用するインキは、紫外線硬化型インキがよい。また、フレキソ印刷層に使用するインキの硬化後の耐熱温度が、250℃以上であるのが好ましい。さらに、基材が、少なくともアルミニウム箔を含むことが好ましく、基材が、プライマーコート層を含むことがより好ましい。なお、プライマーコート層には、マット剤を含有させるのが好ましい。これらの包装材は、包装体に使用され、プレススルーパックの容器の蓋材に使用するのに最も適する。」 (3c)「【0020】 基材2に用いるアルミニウム箔は、純アルミニウム箔又はアルミニウム系合金箔のいずれであっても良い。具体的には、純アルミニウム(JIS(AA)1000系、例えば1N30、1N70等)、Al-Mn系(JIS(AA)3000系、例えば3003、3004等)、Al-Mg系(JIS(AA)5000系)、Al-Fe系(JIS(AA)8000系、例えば8021、8079等)等が例示できる。アルミニウム箔に含まれるFe、Si、Cu、Ni、Cr、Ti、Zr、Zn、Mn、Mg、Ga等の成分については、JIS等で規定されている公知の含有量の範囲内であれば差し支えない。」 (2-4)甲第4号証(JIS H4160 「アルミニウム及びアルミニウム合金はく」1994) 第801頁の表2には、JISの合金番号「IN30」の化学成分が、「Si+Fe:0.7%以下、Cu:0.10%以下、Mn:0.05%以下、Mg::0.05%以下、Zn:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部」であり、「8021」の化学成分が、「Si:0.15%以下、Fe:1.2?1.7%、Cu:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部。」であること、「8079」の化学成分が、「Si:0.05?0.30%、Fe:0.7?1.3%、Cu:0.05%以下、その他個々の元素:0.05%以下、Al:残部。」であることが示されている。 (2-5)甲第5号証(JIS Z2241 「金属材料引張試験方法」 1998) 「5.試験片 試験片は次による。 a)試験片は、JIS Z2201による。ただし、別に規定されている場合はこの限りでない。 b)試験片の採取・作製は、それぞれの日本工業規格の材料規格によって行い、試験片となる部分の材質に変化を生じるような変形又は加熱は避ける。上降伏点、下降伏点又は耐力を測定する場合には、特にこのことが必要である。」(第33頁) (2-6)甲第6号証(JIS Z2201 「金属材料引張試験片」1998) (6a)「 」(第19頁) (6b)「 」(第21頁) (2-7)甲第7号証(「アルミニウム箔の引張試験に関する研究」、社団法人軽金属協会、昭和63年3月発行) 「統一された箔の引張試験方法がなく、箔メーカ各社が独自の試験方法を持って実施している現状であるため、同一材料でも測定値は各社によってかなりばらつくことが予想される。」(第1頁「まえがき」)と記載されている。 第2頁の表1.1には、箔の引張試験方法に関する実態調査につき、A?Gの7社の実施状況が記載され、A社では、肉厚にかかわらずJIS5号試験片を用いること、そして、他の6社では、80μm未満の薄肉のものは短冊を用いることが記載されている。 (3)甲第1号証記載の発明 上記(1a)、(1c)によれば、Fe0.8?1.8重量%、Al98.0?99.1重量%、その他不純物よりなるアルミニウム鋳塊を、面削、均質化処理及び熱間圧延し、次いで冷間圧延、中間焼鈍、その後更に冷間圧延するアルミニウム箔の製造方法が記載され、上記(1e)の第1表には実施例1?10が示されており、これら実施例に係るアルミニウム箔は、Fe:0.9?1.7重量%を含有し、残部Al及び不可避不純物(Cuを含む)からなり、短冊片による伸びが2?5%の範囲にある。 また、実施例1?10は、いずれも、熱間圧延終了後の中間焼鈍までの圧下率は、75(=4.5/6)%以上である。 そして、これら実施例に係るアルミニウム箔は、プレススルーパックの蓋材に好適に使用されるものである。 なお、「プレススルーパック」とは、通常、片面にポケット部が複数形成され、該ポケット部の周囲が平面部に形成された樹脂製のフィルムと、該フィルムの前記ポケット部の開口を閉塞して前記平面部にシールされたアルミニウム箔とからなるものであることは技術常識である。 よって、甲第1号証には、以下の3つの発明が記載されているといえる。 「Fe:0.9?1.7重量%を含有し、残部Al及びその他不可避不純物(Cuを含む)からなり、短冊片による伸びが2?5%であるプレススルーパック用アルミニウム箔。」(以下、「甲1発明」という。) 「Fe:0.9?1.7重量%を含有し、残部Al及びその他不可避不純物(Cuを含む)からなり、短冊片による伸びが2?5%であるプレススルーパック用アルミニウム箔を製造する方法であって、 アルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、中間焼鈍、その後更に冷間圧延を施してプレススルーパック用アルミニウム箔を製造する方法であって、 前記冷間圧延の際の最初の中間焼鈍までの圧下率を75%以上とする、 プレススルーパック用アルミニウム箔の製造方法。」(以下、「甲1’発明」という。) 「片面にポケット部が複数形成され、該ポケット部の周囲が平面部に形成された樹脂製のフィルムと、該フィルムの前記ポケット部の開口を閉塞して前記平面部にシールされたアルミニウム箔とからなり、前記アルミニウム箔がFe:0.9?1.7重量%を含有し、残部Al及びその他不可避不純物(Cuを含む)からなり、短冊片による伸びが2?5%であるプレススルーパック用アルミニウム箔であるプレススルーパック。」(以下、「甲1’’発明」という。) (4)対比・判断 (4-1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は、Feの含有量が「0.9質量%?1.4質量%」で重複する。 そして、甲1発明における「プレススルーパック」は、本件発明1における「PTP」に相当する。 そうすると、両者は、 「Fe:0.9質量%?1.4質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる、PTP用アルミニウム箔。」である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件発明1は、「硬質箔」であって、さらに必須成分としてCuを「0.01質量%?0.10質量%含有」するのに対し、甲1発明では、「硬質箔」との特定はなく、また、Cuを不可避的不純物として含有し、その含有量は不明である点。 (相違点2) 本件発明1は、JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上であるのに対し、甲1発明では、短冊片による伸びが2?5%である点。 イ 判断 上記相違点1について検討する。 (ア)甲第1号証の第1表に示される実施例1?10は、いずれも、中間焼鈍後の圧下率は、97.5(=(800-20)/800)%以上であり、その後の焼鈍等は行われていないことから、得られたアルミニウム箔は、硬質箔といえる。 (イ)次に、本件発明に係るPTP用アルミニウム箔においては、本件明細書(【0009】)の記載によれば、PTPの開封性向上、伸びの低下防止のために、Cuの含有量を「0.01質量%?0.10質量%」に規定したものである。 (ウ)これに対し、甲1発明においては、Cuは不可避的不純物として含有されるにすぎず、その含有量は明らかではない。 (エ)そして、甲第2号証には、PTP用のアルミニウム箔において、0.2%耐力が130MPa?180MPaの範囲であれば、コーティング層形成時、ならびに第1および第2の印刷層形成時に加熱によりアルミニウム箔が軟化して耐伸び性が劣化することを防止でき、両面印刷のずれが問題とならないことが記載され、甲第3号証には、プレススルーパック用アルミニウム箔として、Al-Fe系(JIS(AA)8000系、例えば、8021、8079等)が使用でき、甲第4号証には、これら8021,8079には、最大0.05%のCuが含まれることが記載され、甲第5、6号証には、金属材料の引張試験片、及び5号試験片について記載され、甲第7号証には、アルミニウム箔の引張試験について記載されているが、甲第1?7号証のいずれにも、PTP用アルミニウム箔にCuを必須成分として含有させることや、PTPの開封性向上、伸びの低下防止について記載も示唆もなく、これらが本件出願時において周知であったと認めるに足る証拠も無い。 (オ)そうすると、本件発明1がCuを必須成分として「0.01質量%?0.10質量%含有」させる点は、実質的な相違点であり、また、甲1発明において、PTPの開封性向上、伸びの低下防止のために、Cuを必須成分として「0.01質量%?0.10質量%含有」させることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (カ)よって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4-2)本件発明2について ア 対比 本件発明2と甲1’発明とを対比すると、両者は、Feの含有量が「0.9質量%?1.4質量%」で重複する。 また、甲1’発明における「プレススルーパック」は、本件発明2における「PTP」に相当する。 そして、甲1’発明における「アルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、中間焼鈍、その後更に冷間圧延を施して」は、本件発明2における「アルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、冷間圧延の途中で少なくとも1回以上の中間焼鈍、最終冷間圧延をこの順に施して」に相当する。 よって、両者は、 「Fe:0.9質量%?1.4質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる、PTP用アルミニウム箔の製造方法であって、 アルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、冷間圧延の途中で少なくとも1回以上の中間焼鈍、最終冷間圧延をこの順に施してPTP用アルミニウム箔を製造する方法であって、 前記冷間圧延の際の最初の中間焼鈍までの圧下率を75%以上とするPTP用アルミニウム箔の製造方法。」である点で一致し、上記相違点1、2と同じ相違点を有する。 イ 判断 当該相違点についての判断は上記(4-1)のとおりであるから、本件発明2は、甲1’発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4-3)本件発明3について ア 対比 本件発明3と甲1’’発明とを対比すると、両者は、Feの含有量が「0.9質量%?1.4質量%」で重複する。 また、甲1’’発明における「プレススルーパック」は、本件発明3における「PTP」に相当する。 よって、両者は、 「片面にポケット部が複数形成され、該ポケット部の周囲が平面部に形成された樹脂製のフィルムと、該フィルムの前記ポケット部の開口を閉塞して前記平面部にシールされたアルミニウム箔とからなり、前記アルミニウム箔がFe:0.9質量%?1.4質量%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるPTP用アルミニウム箔であるPTP。」である点で一致し、上記相違点1、2と同じ相違点を有する。 イ 判断 当該相違点についての判断は上記(4-1)のとおりであるから、本件発明3は、甲1’’発明と、甲第2号証?甲第7号証に記載された周知技術等に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 PTP用アルミニウム箔 【技術分野】 【0001】 本発明は、プレススルーパッケージ等に用いて好適なPTP用アルミニウム箔及びその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 プレススルーパッケージ(Press Through Package;以下PTPという。また、ブリスターパックとも称される場合がある。)は、錠剤やカプセル等の薬剤を収容する複数のポケット部を形成したポリプロピレン樹脂等からなるフィルムの片面にアルミニウム箔が接合されることにより、各ポケット部が密封状態にシールされた構成とされ、ポケット部の裏側を押すことにより、ポケット部内の薬剤がアルミニウム箔を突き破って薬剤をポケット部から取り出すことができるようになっている。このPTPは、フィルムの各ポケット部の周囲が平面部とされ、その平面部でフィルムとアルミニウム箔とがシールされており、そのシール部に、各ポケット部を分離可能なミシン目が形成されるとともに、一般に溝状にエンボス加工が施される。 【0003】 特許文献1には、このようなPTP用包装材のうちのアルミニウム箔として、耐力(0.2%耐力)160MPa以上(さらに好ましくは160MPa?180MPa)、伸び(破断伸び)1.0%?2.5%の硬質アルミニウム箔を用いて、PTPを製造することが開示されている。アルミニウム箔の純度については特に制限されないと記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2007-253949号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 ところで、PTPでは、ピール強度確保等を目的として、前述したようにシール時にエンボス模様を付与することがある。このエンボス部において、アルミニウム箔とフィルムとのシール時、あるいは1シート単位に打ち抜くカット時、又はシール後の充填機内搬送時にアルミニウム箔に亀裂が生じ、不良品が発生してしまうことがある。この亀裂防止のために、アルミニウム箔に高強度のものを用いると、内容物の取り出しが困難になる。これを回避するために、アルミニウム箔の製造ロット等に応じてシール条件等を調整することが必要になるが、アルミニウム箔を切り替える毎に調整作業すると生産性が大幅に低下する。 【0006】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、内容物の取り出し性を損なうことなく、エンボス部での亀裂の発生を防止したPTP用アルミニウム箔及びその製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明のPTP用アルミニウム箔は、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上で、硬質箔である。 そして、本発明のPTPは、片面にポケット部が複数形成され、該ポケット部の周囲が平面部に形成された樹脂製のフィルムと、該フィルムの前記ポケット部の開口を閉塞して前記平面部にシールされたアルミニウム箔とからなり、前記アルミニウム箔が上記記載のPTP用アルミニウム箔である。 【0008】 前述した亀裂は、圧延方向に対して45°±15°の方向に沿って溝状のエンボス部が形成される場合に発生し易いため、圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%よりも低いと破断に至り易くなる。圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.4%以上であるのがより好ましい。 【0009】 Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物等を晶出し、圧延により微細な化合物粒子が均一に分散することでアルミニウム箔の強度と伸びを向上させる効果があるが、その含有量が0.2質量%未満では、伸びが不足するおそれがある。また、高純度地金の使用により、コストが増加する。Feの含有量が1.4質量%を超えると金属間化合物が多くなり、ピンホールが発生するおそれが高くなる。このFeの含有量の好ましい範囲は0.3質量%?0.7質量%であり、さらに好ましくは0.3質量%?0.55質量%である。 Cuはアルミニウム中に固溶して存在する元素であり、わずかに含有することで伸びを低下させるがPTPの開封性を向上させる効果がある。このCuの含有量が0.01質量%未満では、PTPとしての使用時の開封性が低下し、0.10質量%を超えると、伸びが低下して圧延時にクラックが発生し易くなり、トリムや中間焼鈍を追加しなくてはならず、生産性が低下する。このCuの含有量のより好ましい範囲は0.015質量%?0.05質量%である。 【0010】 本発明のPTP用アルミニウム箔の製造方法は、アルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、冷間圧延の途中で少なくとも1回以上の中間焼鈍、最終冷間圧延をこの順に施してPTP用アルミニウム箔を製造する方法であって、前記冷間圧延の際の最初の中間焼鈍までの圧下率が75%以上である。 【0011】 冷間圧延時に少なくとも1回の中間焼鈍を行うことにより、冷間圧延によるひずみ硬化を除去し、材料の変形抵抗を小さくして、その後の冷間圧延を容易にする。この場合、最初の中間焼鈍までの圧下率が75%未満であると、圧延集合組織の発達が十分でなく、圧延方向に対して45°の方向の伸びを十分に高めることができない。この最初の中間焼鈍までの圧下率の好ましい範囲は85%以上である。またこの中間焼鈍の好ましい回数は1回であり、中間焼鈍回数が増加するとコストの増加や生産性の低下を招く。 【発明の効果】 【0012】 本発明のPTP用アルミニウム箔によれば、内容物の取り出し性を損なうことなく、エンボス部での亀裂の発生を防止することができる。 【図面の簡単な説明】 【0013】 【図1】本発明のPTP用アルミニウム箔が適用されるPTPの例を示す斜視図である。 【図2】図1の一部の縦断面図である。 【発明を実施するための形態】 【0014】 以下、本発明のPTP用アルミニウム箔の実施形態について、詳細に説明する。 PTPについて説明しておくと、図1及び図2に示すように、PTP1は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の樹脂製のフィルム2とアルミニウム箔3とにより構成される。フィルム2には、真空成形等により、その片面に開口するポケット部4が複数形成され、各ポケット部4の周囲は平面部5に形成されている。アルミニウム箔3は、フィルム2のポケット部4の開口を閉塞してフィルム2の平面部5に重ね合わせられ、この平面部5に熱接着等によりシールされている。 【0015】 また、そのシール部6には、各ポケット部4を個々にあるいは複数ずつに分離可能なミシン目7が形成されるとともに、エンボス状に溝8が形成される。ミシン目7は、表裏貫通状態のスリットが一列に並んで形成される。エンボス状の溝8は、フィルム2とアルミニウム箔3とを熱接着する際に用いられる一組のロール(図示略)によって形成される。これらロールのうちの一方が凸条を表面に形成したエンボスロールであり、これらロールの間にフィルム2とアルミニウム箔3との積層体を通過させ、これらをシールしながらエンボスロールの凸条によって微細な溝8が形成される。この溝8は、ストライプ状、格子目状、網目状等に形成される。 そして、ポケット部4内に錠剤やカプセル等の薬剤9が収納される。 【0016】 次に、このPTP用アルミニウム箔3について説明する。 このアルミニウム箔は、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、厚さが10μm?30μm、圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上である。 【0017】 Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物等を晶出し、圧延により微細な化合物粒子が均一に分散することでアルミニウム箔の強度と伸びを向上させる効果があるが、その含有量が0.2質量%未満では、伸びが不足するおそれがある。また、高純度地金の使用により、コストが増加する。Feの含有量が1.4質量%を超えると金属間化合物が多くなり、ピンホールが発生するおそれが高くなる。このFeの含有量の好ましい範囲は0.3質量%?0.7質量%であり、さらに好ましくは0.3質量%?0.55質量%である。 【0018】 Cuはアルミニウム中に固溶して存在する元素であり、わずかに含有することで伸びを低下させるが、PTPの開封性を向上させる効果がある。このCuの含有量が0.01質量%未満では、PTPとしての使用時の開封性が低下し、0.10質量%を超えると、伸びが低下して圧延時にクラックが発生し易くなり、トリムや中間焼鈍を追加しなくてはならず、生産性が低下する。このCuの含有量のより好ましい範囲は、0.015質量%?0.05質量%である。 【0019】 なお、本発明のPTP用アルミニウム箔の厚さは、特に限定されるものではないが、PTPとしての機能を発揮するうえで、10μm以上30μm以下であることが好ましい。10μm未満ではピンホールが存在したり、透湿度が上昇して内容物を保護することができず、また輸送時や取り扱い時に破れてしまうおそれが増加する。厚さが30μmを超えると、内容物を取り出す際の力が大きくなり、高齢者や子供が開封し難くなる。この厚さは15μm?25μmがより好ましく、17μm?22μmがさらに好ましい。 PTPのアルミニウム箔に生じる亀裂は、圧延方向に対して45°±15°の方向に沿って溝状のエンボス部が形成される場合に発生し易いため、圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%よりも低いと破断に至り易くなる。圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上あれば、圧延方向の伸びは2.0%より小さくてもよい。逆に、圧延方向の伸びが2.0%以上あっても、圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%未満では亀裂の発生を抑制することはできない。圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.4%以上であるのがより好ましい。 【0020】 次に、このような構成のPTP用アルミニウム箔を製造する方法について説明する。 (鋳造工程) まず、Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成に調整したアルミニウム溶湯から、適宜の鋳造法により鋳造して、アルミニウム鋳塊を形成する。 【0021】 (均質化処理工程) 次に、アルミニウム鋳塊を面削後、アルミニウム鋳塊の組織を均一化させる目的で均質化処理を行う。例えば、アルミニウム鋳塊を450℃?620℃に加熱して1時間?12時間保持することにより均質化処理を施す。 【0022】 (圧延工程) 均質化処理工程後のアルミニウム鋳塊に熱間圧延を施し、2mm?10mmの熱延板を作製する。熱間圧延は、均質化処理に続けて行っても良く、また均質化処理後、一旦常温まで冷却してから再度加熱して実施しても良い。 続いて冷間圧延、冷間圧延の途中で中間焼鈍、仕上げの最終冷間圧延をこの順に施して箔を作製する。熱間圧延及び冷間圧延の温度は特に限定されるものではなく、常法に従えばよい。 【0023】 冷間圧延では、その後の中間焼鈍までの間の圧下率が75%以上となるように圧延する。冷間圧延時に中間焼鈍が複数回行われる場合は、最初の中間焼鈍までの圧下率が75%以上となるようにする。最初の中間焼鈍までの圧下率が75%未満であると、圧延集合組織の発達が十分でなく、圧延方向に対して45°の方向の伸びを十分に高めることができない。 この中間焼鈍までの冷間圧延で0.3mm?1.0mmの厚みのアルミニウムシートとする。 【0024】 次いで、中間焼鈍は、280℃?400℃に1時間?12時間保持することにより、冷間圧延によるひずみ硬化を除去し、材料の変形抵抗を小さくして、続く冷間圧延と最終冷間圧延を容易にする。この中間焼鈍は常法により行うことができる。前述したように中間焼鈍を複数回行いながら冷間圧延を施してもよい。 最終冷間圧延では、2枚のアルミニウムシートを重ねて圧延する重合圧延とする。1回の圧下率を30%?60%とし、1枚の厚さが10μm?30μmのアルミニウム箔を得る。最終冷間圧延後の仕上げ焼鈍は行わない。 【0025】 このように製造されたアルミニウム箔においては、PTPを構成するためにフィルムに熱接着される際に、エンボスロールの凸条に押圧されるが、圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上とされているので、エンボス部で破断しにくく、また、10μm?30μmの厚さであるので、酸素や湿度のバリア性に優れ、ポケット部内の薬剤を外部環境から保護することができ、かつ輸送時や取扱時に不用意に破れるなどの不具合もない。しかも、開封時に、通常の取り出し操作で容易にアルミニウム箔を破ることができる。 【0026】 なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において上記実施形態に種々の変更を加えることが可能である。 【実施例】 【0027】 次に、本発明のPTP用アルミニウム箔の効果を確認するために行った実験結果について説明する。 表1に示すようにFe,Cuの各成分を調整したアルミニウム溶湯から鋳造して厚さ500mmのアルミニウム鋳塊を作製した。なお、残部はAlと不可避不純物からなる。 そして、このアルミニウム鋳塊の表面を面削後、550℃で5時間の均質化処理を行い、熱間圧延でアルミニウムシートとした。次に冷間圧延を施し、途中で中間焼鈍を行って、最終冷間圧延で2枚のアルミニウムシートを重合圧延することにより、アルミニウム箔を得た。このとき、熱間圧延終了後の板厚t1と、冷間圧延して最初の中間焼鈍を行なう前の板厚t2とをそれぞれ測定し、中間焼鈍までの圧下率((t1-t2)/t1の百分率)を算出した。 最終のアルミニウム箔の厚さは、いずれの実施例、比較例とも20μmとした。なお、箔の厚さの影響を調べるため実施例2の成分において8μmと35μmのサンプルも作製したが、8μmの厚さの箔においてはピンホールが発生し、PTP用アルミニウム箔として使用不可であった。また35μmの厚さの箔ではPTPとして使用したときに開封抵抗が大きすぎ、開封性が著しく損なわれるため同じく使用不可であった。 【0028】 得られたアルミニウム箔の各試料について、圧延方向及び圧延方向に対して45°の方向の伸び、亀裂発生の有無を測定、評価した。比較例4についてはピンホールが発生していたため、PTP用アルミニウム箔として不適であるので、これらの測定をしなかった。 伸びは、JIS Z2241に準じて5号試験片を作製し、各試料の試験片について室温で引張試験を行い測定した。 亀裂発生の有無は、寸法を100mm×200mmとしたアルミニウム箔と厚さ0.5mmのポリ塩化ビニルフィルムとの積層体を250℃に加熱したエンボスロールに通して、熱接着させた結果を目視により確認し、全く亀裂が認められなかったものを「無」、0.5mm以下の亀裂が2個以下の範囲で認められたものを「僅か」、0.5mm以下の亀裂が3個以上又は亀裂のサイズが0.5mmを超えたものを「多」とした。この基準における「僅か」の評価では、製品として使用可能な許容範囲と認められる。 これらの結果を表1に示す。 【0029】 【表1】 【0030】 表1から明らかなように、本発明に係る実施例1?7の試料においては、いずれも亀裂の発生がないか、許容範囲とされる僅かなものであった。 比較例1では、Feの含有量が0.05質量%と少ないため、また比較例2ではCuの含有量が0.32質量%と多かったため、伸びが小さく、亀裂の発生が多くなった。比較例3では、冷間圧延時の中間焼鈍までの圧下率が50%と小さかったため、圧延方向の伸びは大きいものの、圧延方向に対して45°の方向の伸びが小さく、亀裂の発生が多かった。各実施例の結果からわかるように、亀裂発生を抑制するためには、圧延方向の伸びよりも、圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上あることが必要である。なお、いずれの実施例も、圧延方向の伸びは1.5%以上であった。 比較例4はFeの含有量が1.70質量%と多かったため、ピンホールが発生した。 【符号の説明】 【0031】 1 PTP 2 フィルム 3 アルミニウム箔 4 ポケット部 5 平面部 6 シール部 7 ミシン目 8 溝 9 薬剤 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 Fe:0.2質量%?1.4質量%、Cu:0.01質量%?0.10質量%含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、JIS Z2241に準じた5号試験片による圧延方向に対して45°の方向の伸びが2.0%以上で、硬質箔であることを特徴とするPTP用アルミニウム箔。 【請求項2】 請求項1のPTP用アルミニウム箔を製造する方法であって、 アルミニウム鋳塊を熱間圧延した後、冷間圧延、冷間圧延の途中で少なくとも1回以上の中間焼鈍、最終冷間圧延をこの順に施してPTP用アルミニウム箔を製造する方法であって、 前記冷間圧延の際の最初の中間焼鈍までの圧下率を75%以上とすることを特徴とするPTP用アルミニウム箔の製造方法。 【請求項3】 片面にポケット部が複数形成され、該ポケット部の周囲が平面部に形成された樹脂製のフィルムと、該フィルムの前記ポケット部の開口を閉塞して前記平面部にシールされたアルミニウム箔とからなり、前記アルミニウム箔が請求項1記載のPTP用アルミニウム箔であることを特徴とするPTP。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-10-05 |
出願番号 | 特願2015-84323(P2015-84323) |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C) P 1 651・ 537- YAA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 相澤 啓祐 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
鈴木 正紀 金 公彦 |
登録日 | 2016-07-29 |
登録番号 | 特許第5976158号(P5976158) |
権利者 | 三菱アルミニウム株式会社 |
発明の名称 | PTP用アルミニウム箔及びその製造方法 |
代理人 | 青山 正和 |
代理人 | 青山 正和 |