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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特174条1項  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1335110
異議申立番号 異議2017-700450  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-08 
確定日 2017-10-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6025927号発明「アクリルフィルムおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6025927号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項20、〔21-23〕について訂正することを認める。 特許第6025927号の請求項1ないし19、21ないし24に係る特許を維持する。 特許第6025927号の請求項20に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6025927号(以下、「本件特許」という。)に係る特許出願は、平成20年6月2日に出願した特願2008-145086号の一部を平成25年2月25日に新たな特許出願とした特願2013-34447号の一部を平成27年7月6日にさらに新たな特許出願としたものであって、平成28年10月21日に設定登録がされ、同年11月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成29年5月8日(受理日:5月9日)に特許異議申立人 庄司元(以下、単に「特許異議申立人1」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月12日(受理日:5月15日)に特許異議申立人 中井博(以下、単に「特許異議申立人2」という。)により特許異議の申立てがされ、同年7月18日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年9月14日(受理日:9月15日)に意見書の提出及び訂正請求がされたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年9月14日付けでされた訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項20を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項21に「セルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする請求項19または20に記載の偏光板。」とあるのを「セルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする請求項19に記載の偏光板。」に訂正する。請求項21の記載を引用する請求項22および23も同様に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項22に「請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムまたは19?21のいずれか一項に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。」とあるのを「請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムまたは19または21のいずれか一項に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。」に訂正する。請求項22の記載を引用する請求項23も同様に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1は、請求項20の記載を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2は、訂正前の請求項21の従属先から請求項20を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3は、訂正前の請求項22の従属先から請求項20を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正前の請求項20ないし23について、訂正前の請求項21ないし23は訂正前の請求項20を引用しているから、訂正前において一群の請求項である。
したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合するので、本件訂正の請求による訂正を認める。
訂正後の請求項21ないし23に係る訂正事項2および3は、従属先から請求項20を削除する訂正であって、その訂正は認められるものである。そして、特許権者から、訂正後の請求項21ないし23について訂正が認められるときは請求項20とは別の訂正単位として扱われることの求めがあったことから、訂正後の請求項20、〔21-23〕について請求項ごとに訂正することを認める。

第3 本件特許に係る発明
上記第2 3のとおり、本件訂正請求による訂正は認容されるので、本件特許の請求項1ないし19、21ないし24に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件特許発明19」、「本件特許発明21」ないし「本件特許発明24」という。)は、平成29年9月14日提出の訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし19、21ないし24に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
厚みが20?60μmであり、
40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃であり、
アクリル樹脂を含み、
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-30nmであり、
共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有せず、
単層であることを特徴とするアクリルフィルム。
【請求項2】
25℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の弾性率がともに2800?3800MPaである請求項1に記載のアクリルフィルム。
【請求項3】
厚みが20?60μmであり、
40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃であり、
アクリル樹脂を含み、
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-30nmであり、
25℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の弾性率がともに2800?3800MPaであり、
単層であることを特徴とするアクリルフィルム。
【請求項4】
25℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の弾性率がともに2800?3700MPaである請求項1?3のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項5】
厚みが20?60μmであり、
40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃であり、
25℃におけるフィルム長手方向(MD)の破断伸度が15?38%であり、
アクリル樹脂を含み、
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-30nmであり、
単層であることを特徴とするアクリルフィルム。
【請求項6】
25℃におけるフィルム幅方向(TD)の破断伸度が15?55%である請求項5に記載のアクリルフィルム。
【請求項7】
25℃におけるフィルム長手方向(MD)の破断伸度が20?38%である請求項5または6に記載のアクリルフィルム。
【請求項8】
光学異方性層を設けた請求項1?7のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項9】
反射防止層を設けた請求項1?7のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項10】
40℃?90℃における前記アクリルフィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに60?100ppm/℃である請求項1?7のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項11】
面内方向のレターデーション(Re)の遅相軸が幅方向を向いている請求項1?10のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項12】
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-15nmである請求項1?11のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項13】
前記アクリル樹脂が共重合成分としてスチレン、核アルキル置換スチレン、α-アルキル置換スチレンからなる群の少なくとも1種を含有する請求項1?12のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項14】
全光線透過率が91?94%である請求項1?13のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項15】
プライマー層を有する請求項1?14のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項16】
前記プライマー層が少なくともセルロース系樹脂を含有する請求項15に記載のアクリルフィルム。
【請求項17】
安定剤を含有する請求項1?16のいずれか1項に記載のアクリルフィルム。
【請求項18】
前記安定剤がフェノール系安定剤である請求項17に記載のアクリルフィルム。
【請求項19】
請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムを用いた偏光板。
【請求項20】(削除)
【請求項21】
セルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする請求項19に記載の偏光板。
【請求項22】
請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムまたは19または21のいずれか一項に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。
【請求項23】
IPSまたはVA液晶を有する請求項22に記載の液晶表示装置。
【請求項24】
請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムの製造方法であって、
未延伸アクリルフィルムをMD延伸および/またはTD延伸する工程を含むアクリルフィルムの製造方法。」

第4 平成29年7月18日付けの取消理由通知について
1 取消理由の概要
当審において平成29年7月18日付けで通知した取消理由の概要は、

(1)本件特許の請求項20ないし23に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当する(以下、「取消理由1」という。)、

(2)本件特許の請求項20ないし23に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであり、同法第113条第1号に該当する(以下、「取消理由2」という。)、

というものである。

2 当合議体の判断
上記第2および第3のとおり、本件特許の請求項20は削除され、また、請求項21ないし23については、上記取消理由(1)および(2)の対象となった請求項20に記載されていた発明特定事項が存在しない。
よって、上記の取消理由は存在しない。

第5 特許異議申立人1および2が申し立てたその他の特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
(1)特許異議申立人1は、証拠として下記(3)の刊行物1ないし19を提出し、特許異議の申立ての理由として、概略、以下のとおり主張している。

ア 取消理由A(特許法第29条第2項:進歩性)
本件特許の請求項1ないし4、10ないし12、14、15および24に係る各特許発明は、刊行物1に記載された発明および刊行物2ないし12に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

イ 取消理由B(特許法第17条の2第3項:新規事項)
本件特許の請求項1、2、4、10ないし12、14、15および24に係る各特許発明について、平成28年3月7日付け手続補正書によりされた補正が、本願の願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でされたものでなく、本願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正がされた特許出願であるから、その特許は同法第113条第1号に該当し、取り消すべきものである。

ウ 取消理由C(特許法第36条第6項第1号:サポート要件)
本件特許の請求項1、2、4、10ないし12、14、15および24に係る各特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

エ 取消理由D(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)
本件特許の請求項1ないし4、10ないし12、14、15および24に係る各特許発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

(2)特許異議申立人2は、証拠として下記(3)の刊行物5および20ないし23を提出し、特許異議の申立ての理由として、概略、以下のとおり主張している。なお、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)については、取消理由として採用した。

ア 取消理由E(特許法第29条第1項第3項:新規性)
本件特許の請求項1ないし8、10、12ないし14、17ないし19、22および24に係る各特許発明は、刊行物5に記載された発明であり、本件特許の請求項11に係る特許発明は、刊行物22に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

イ 取消理由F(特許法第29条第2項:進歩性)
本件特許の請求項9、11、15、16、21および23に係る各特許発明は、刊行物5に記載された発明および刊行物20ないし23に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

ウ 取消理由G(特許法第36条第4項第1号:実施可能要件)
本件特許の請求項11に係る特許発明について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。

(3)特許異議申立人1および2提示の刊行物
刊行物1:特開2006-241263号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第1号証)
刊行物2:特開2006-243266号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第2号証)
刊行物3:特開2006-235576号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第3号証)
刊行物4:国際公開第2007/119560号
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第4号証)
刊行物5:特開2008-101202号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第5号証、特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に添付された甲第1号証)
刊行物6:国際公開第2007/026591号
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第6号証)
刊行物7:特開2007-147884号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第7号証)
刊行物8:特開平10-10320号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第8号証)
刊行物9:特開平11-143641号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第9号証)
刊行物10:特開2000-147475号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第10号証)
刊行物11:特開2007-197703号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第11号証)
刊行物12:特開2008-83285号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第12号証)
刊行物13:JIS K 7121 プラスチックの転移温度測定方法(追補1)、平成24年7月20日発行、(財)日本規格協会
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第13号証)
刊行物14:畠山立子「初心者のための熱分析(2)DTA,DSCの高分子,液晶物質などへの応用」,熱測定,1980年,第7巻,第1号,p.18-25
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第14号証)
刊行物15:国際公開第2011/065124号
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第15号証)
刊行物16:特開2009-235249号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第16号証)
刊行物17:特開2008-9378号公報
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第17号証)
刊行物18:社団法人高分子学会編「基礎高分子科学」、株式会社東京化学同人、2006年7月1日、p.262-263
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第18号証)
刊行物19:大江航編「フィルム製膜・延伸の最適化とトラブル対策」、株式会社技術情報協会、2007年11月30日、P.5
(特許異議申立人1が提出した特許異議申立書に添付された甲第19号証)
刊行物20:特開2006-206881号公報
(特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に添付された甲第2号証)
刊行物21:特開2002-331616号公報
(特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に添付された甲第3号証)
刊行物22:特開2007-128025号公報
(特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に添付された甲第4号証)
刊行物23:特開2007-256475号公報
(特許異議申立人2が提出した特許異議申立書に添付された甲第5号証)

2 当審の判断
(1)取消理由Aについて
ア 刊行物1に記載された発明および刊行物2、4ないし6に記載された事項
(ア)刊行物1に記載された発明
刊行物1の特許請求の範囲、段落【0001】、【0010】、【0049】、【0090】、【0091】、【0095】、【0097】?【0098】、【0101】、【0103】、【0104】、実施例1?3、特に、請求項5、請求項6、【0010】、【0091】、【0097】、【0098】、【0101】より、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。

「アクリル樹脂組成物フィルムのヘイズ値が2%以下、残存溶媒量が5質量%以下、厚みが10?100μm、波長550nmの光線に対する位相差が10nm以下であり、アクリル樹脂を30重量%以上含む組成物を含み、単層でもよく、少なくとも一方向のヤング率が1GPa以上であり、厚み方向の位相差Rthが30nm以下であり、温度範囲25℃から80℃における熱膨張係数が100ppm/℃以下である、アクリル樹脂組成物フィルム。」

(イ)刊行物2に記載された事項
「本発明の光学積層体と反対側の保護フィルムとしては、従来公知の透明フィルムを使用できるが、例えば、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性などに優れるものが好ましい。このような保護フィルムの材質の具体例としては、・・・アクリル系、・・・等の透明樹脂、・・・もあげられる。・・・
また、前記保護フィルムは、例えば、色付きが無いことが好ましい。具体的には、Rthが、-90nm?+75nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは-80nm?+60nmであり、特に好ましくは-70nm?+45nmの範囲である。前記Rthが-90nm?+75nmの範囲であれば、十分に保護フィルムに起因する偏光板の着色(光学的な着色)を解消できる。
本発明の光学積層体と反対側の保護フィルムの厚みは、40μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは60?150μmの範囲である。」(段落【0200】?【0202】)

(ウ)刊行物4に記載された事項
「実施例1-3では、第1の保護フィルムとして、前記積層フィルム(A1)を用い、第2の保護フィルムにも前記積層フィルム(A1)を用いた。実施例1-4では、第1の保護フィルムとして、前記積層フィルム(A1)を用い、第2の保護フィルムとして、後述する第2の保護フィルム(B3)を用いた。
また、実施例1-5では、・・・第2の保護フィルムとして、積層フィルム(A1)を用いた。
また、実施例1-6では、・・・第2の保護フィルムとして、積層フィルム(A1)を用いた。
また、実施例1-7では、・・・第2の保護フィルムとして、後述する前記積層フィルム(A1)を用いた。」(段落[0154]?[0157])

「(製造例10:第2の保護フィルム(B3)の作成)
数平均粒子径0.4μmの弾性体粒子を含むポリメチルメタクリレート樹脂(引張弾性率2.8GPa)を単層押出し、成形し厚み80μmの第2の保護フィルム(B3)を得た。」(段落[0179])



」(段落[0246]表5)

(エ)刊行物5に記載された事項
「【請求項1】
以下の(i)?(iii)を同時に満足するアクリル系フィルム。
(i)フィルムの長手方向、幅方向の破断点伸度がいずれも5%以上150%以下
(ii)面内の位相差Retが10nm以下でありかつ、厚み方向の位相差Rthが-10nm以上10nm以下
(iii)ナノインデンテーション法で測定したフィルム表面の硬度が0.2GPa以上0.35GPa以下
【請求項7】
請求項1?6のいずれかに記載のアクリル系フィルムを用いた偏光子用保護フィルム。」(特許請求の範囲 請求項1、7)

(オ)刊行物6に記載された事項
「液晶層と、それを挟持する一対の基板とを含む液晶セルと、
当該液晶セルの両側に配置される一対の偏光板とを有する液晶表示装置において、
前記一対の偏光板のうちの一方の偏光板の液晶セル側の第1透明保護層が、請求の範囲第1?12項のいずれか一項に記載の光学フィルムから構成されているとともに、
前記一対の偏光板のうちの他方の偏光板の液晶セル側の第2透明保護層の面内レタデーションRe2が150nm以上300nm以下であり、かつ厚さ方向レタデーションRt2が-20nm以上20nm以下であることを特徴とする液晶表示装置、
但し、
Re2=(nx2-ny2)×d2
Rt2={(nx2+ny2)/2-nz2}×d2
nx2:光学異方性層面内の遅相軸方向の屈折率、
ny2:光学異方性層面内の進相軸方向の屈折率、
nz2:光学異方性層の厚み方向の屈折率
d2:前記第2透明保護層の厚さ、
である。」(請求の範囲 請求項16)

イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と刊行物1発明とを対比する。
厚みについて、刊行物1発明と本件発明1とは重複一致する。
刊行物1発明の「アクリル樹脂を30重量%以上含む組成物を含」むことは、本件発明1の「アクリル樹脂を含」むことに相当する。
刊行物1発明の「アクリル樹脂組成物フィルム」は、本件発明1の「アクリルフィルム」に相当する。

以上の点からみて、本件発明1と刊行物1発明とは、

[一致点]
「厚みが20?60μmであり、
アクリル樹脂を含み、
単層である、アクリルフィルム。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点1]
熱膨張係数に関し、本件発明1は「40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃」と特定するのに対し、刊行物1発明では「温度範囲25℃から80℃における熱膨張係数が100ppm/℃以下」である点。

[相違点2]
厚み方向のレターデーション(Rth)に関し、本件発明1は「0?-30nm」と特定するのに対し、刊行物1発明では「30nm以下」である点。

[相違点3]
組成に関し、本件発明1は「共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有せず」と特定するのに対し、刊行物1発明ではそのような特定がない点。

(イ)判断
事案に鑑みて、はじめに上記相違点2について検討する。
刊行物1には、段落【0097】に、「厚み方向の光学等方性が要求される用途において、厚み方向の位相差Rthは小さい方が好ましいが、現実的に下限は0.1nm程度と考えられる」と記載され、実施例1?3においてもRthが1.7?2.6のものが記載されていることから、刊行物1発明において、現実的な下限を越えて、Rthを0.1よりも小さな0?-30nmの範囲とする動機付けは何ら見いだせない。

また、刊行物2には、アクリル系等の透明樹脂からなる光学積層体の保護フィルムとして、Rthが、-90nm?+75nmの範囲のものが記載され、刊行物4には、積層フィルムからなるRthが-2.6の第2の保護フィルム、弾性体粒子を含む、単層、厚み89μm、Rthが-3.8の第2の保護フィルムが記載され、刊行物5には、厚み方向の位相差Rthが-10nm以上10nm以下のアクリル系フィルムを用いた偏光子用保護フィルムが記載され、刊行物6には、厚さ方向レタデーションRt2が-20nm以上20nm以下である第2透明保護層が記載されるものの、刊行物1発明において、Rth以外の物性を維持したまま、刊行物2、4ないし6に記載されるRthの範囲内で、現実的な下限を越えて0?-30nmの範囲とすることが可能であるかは不明であって、単にRthが0?-30nmの保護フィルムが知られていることをもって、Rthを0?-30nmとすることが動機付けられるとはいえない。
さらに、刊行物3、7ないし12にも、Rthを0?-30nmの範囲とすることは記載も示唆もない。

よって、上記相違点1および3について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1発明および刊行物2ないし12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3について
本件発明3と刊行物1発明とを対比すると、上記イ(ア)と同様に、少なくとも、厚み方向のレターデーション(Rth)に関し、本件発明3は「0?-30nm」と特定するのに対し、刊行物1発明では「30nm以下」である点において、両者は相違する。
そして、当該相違点については、上記イ(イ)で述べたと同様に、刊行物1発明において、Rth以外の物性を維持したまま、刊行物2、4ないし6に記載されるRthの範囲内で、現実的な下限を越えて0?-30nmの範囲とすることが可能であるか不明であって、単にRthが0?-30nmの保護フィルムが知られていることをもって、Rthを0?-30nmとすることが動機付けられるとはいえない。
さらに、刊行物3、7ないし12にも、Rthを0?-30nmの範囲とすることは記載も示唆もない。
よって、本件発明3は、刊行物1発明および刊行物2ないし12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明2、4、10ないし12、14、15、24について
本件発明2、4、10ないし12、14、15、24は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、刊行物1発明および刊行物2ないし12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明4、10ないし12、14、15、24は、いずれも請求項3に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明3についての判断と同様の理由により、刊行物1発明および刊行物2ないし12に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)取消理由E、Fについて
ア 刊行物5、刊行物22に記載された発明および刊行物5、刊行物20に記載された事項
(ア)刊行物5に記載された発明および刊行物5に記載された事項
刊行物5の特許請求の範囲、段落【0011】、【0012】、【0014】より、刊行物5には以下の発明(以下、「刊行物5発明」という。)が記載されているといえる。

「以下の(i)?(iii)を同時に満足し、厚みが20μm以上200μm以下であり、アクリル系ポリマーからなる、アクリル系フィルム。
(i)フィルムの長手方向、幅方向の破断点伸度がいずれも5%以上150%以下
(ii)面内の位相差Retが10nm以下でありかつ、厚み方向の位相差Rthが-10nm以上10nm以下
(iii)ナノインデンテーション法で測定したフィルム表面の硬度が0.2GPa以上0.35GPa以下」

また、刊行物5には、以下の事項が記載されている。

「靭性の高いアクリル系フィルムを得るために弾性体粒子を加えることができるが、弾性体粒子を加えることで、この硬度は低下するため傾向にある。」(段落【0020】)

「次に溶融製膜法を例にとってアクリル系フィルムを得る方法を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。溶融製膜法には単軸あるいは二軸の押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。そのスクリューのL/Dとしては、25?120とすることが着色を防ぐために好ましい。溶融押出温度としては、好ましくは150?350℃、より好ましくは200?300℃である。溶融剪断速度としては、1,000s^(-1)以上5,000s^(-1)以下が好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下で、あるいは窒素気流下で溶融混練を行うことが好ましい。
Tダイ法は溶融した樹脂をギアポンプで計量した後にTダイ口金から吐出させ、静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などでドラムなどの冷却媒体上に密着させて冷却固化し、フィルムを得ることができる。特に厚みムラが少なく透明なフィルムを得るには、プレスロール法が好ましい。
アクリル系フィルムの長手方向、幅方向の破断点伸度をいずれも5%以上とするためには、こうして得られた未延伸のフィルムを二軸延伸することが好ましい。二軸延伸の延伸方式は特に限定されず、逐次二軸延伸方式、同時二軸延伸方式などの方法を用いることができる。
・・・
延伸は、アクリル系フィルムのガラス転移温度をTgとしたとき(Tg-20)℃以上、(Tg+20)℃以下の温度で行うことが好ましい。延伸温度がこの範囲を外れると均一延伸ができなくなり、厚みムラやフィルム破れが生じることがある。また、(Tg-20)℃よりも低い温度での延伸はより分子の配向が大きくなるため位相差がつきやすく、(Tg+20)℃より高い温度での延伸は分子の配向が起こらないため破断点伸度が向上せず、また延伸時にフィルムの面状態が低下しやすい。延伸温度は、より好ましくは(Tg-10)℃以上、(Tg+10)℃以下で行う。延伸倍率は長手方向および幅方向に1.2?2.0倍延伸することが好ましい。延伸倍率が高いほど、分子の配向が大きくなるため位相差が大きくなることがある。延伸倍率は1.2?1.5倍の延伸を行うことがより好ましい。延伸速度は特に限定されないが100?50,000%/分が好ましい。延伸速度が遅い場合、生産性が低下する。延伸速度が速すぎると、フィルム破れが生じやすい、厚みムラが生じやすいといった問題が生じることがある。
延伸したアクリル系フィルムは、特に厚み方向の位相差Rthを低減するためにアニール処理を行うことが好ましい。アニール処理は、水浴、湿熱処理、溶媒浴によって行うことができる。処理方法は、延伸してロールに巻き取ったフィルムに対し行ってもよいし、製膜中にアニール処理条件に制御した槽を通すことで実施してもよい。」(段落【0073】?【0079】)

「[実施例]
(1)アクリル系ポリマーの調製
アクリル系ポリマー(あ)
先ず、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、次の様にして調整した。
メタクリル酸メチル20質量部、
アクリルアミド80質量部、
過硫酸カリウム0.3質量部、
イオン交換水1500質量部
を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで、70℃に保ち反応を進行させた。得られた水溶液を懸濁剤とした。容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
次に、下記仕込み組成の混合物質を、反応系を撹拌しながら添加した。
メタクリル酸 :27質量部
メタクリル酸メチル :73質量部
t-ドデシルメルカプタン :1.2質量部
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル:0.4質量部
添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体を得た。この共重合体の重合率は97%であり、質量平均分子量は13万であった。上記共重合体に添加剤(NaOCH_(3))を0.2質量%配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル系ポリマー(あ)を得た。アクリル系ポリマー(あ)の分子量は13万、Tgは140℃であった。」(段落【0106】?【0110】)

「(実施例7)
100℃で3時間乾燥したアクリル系ポリマー(あ)を45mmφの一軸押出機(S1)(設定温度250℃)で溶融してギアポンプで移送し、濾過精度50μmのフィルターで濾過した後、Tダイ(設定温度250℃、スリット間隙0.6mm、スリット幅400mm)を介してシート状に押出した。
ダイから吐出後のシートをタッチロール式の製膜機を用い、130℃の冷却ロールに片面を完全に接着させるようにして冷却し、アクリル系フィルムを得た。このとき、Tダイのリップ間隙/フィルム厚み=2.4となるよう、冷却ロールの速度を調整した。得られたフィルムの厚みは250μmであった。
このアクリル系フィルムを、延伸温度135℃にてフィルムの長手方向、幅方向いずれも2.5倍となるように二軸延伸を行い、60℃の水浴によるアニール処理を30分行った。」(段落【0124】、【0125】)



」(段落【0136】表1)

(イ)刊行物20に記載された事項
「本発明のアクリル樹脂フィルムは、温度範囲25℃から80℃における熱膨張係数が100ppm/℃以下であることが好ましく、80ppm/℃以下であることがより好ましい。このような熱膨張係数のアクリル樹脂フィルムを得るためには、アクリル樹脂(A)の分子量やグルタル酸無水物単位の含有量、アクリル弾性体粒子(B)の組成、粒子径、添加量などを適宜調整するとよい。」(段落【0046】)

「[実施例1]
(1)アクリル樹脂(a)の調製
まずメタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を、以下の割合で調整した。
メタクリル酸メチル:20質量%
アクリルアミド:80質量%
過硫酸カリウム:0.3質量%
イオン交換水:1500質量%
上記メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら、単量体が完全に重合体に転化するまで70℃に保ち反応を進行させ懸濁剤を得た。
次に容量5リットルのバッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、上記懸濁剤0.05質量%をイオン交換水165質量%に溶解した溶液を供給し、系内を窒素ガスで置換しながら400rpmで撹拌した。
次に下記組成の混合物を、反応系を撹拌しながら添加した。
メタクリル酸:27質量%
メタクリル酸メチル:73質量%
t-ドデシルメルカプタン:1.2質量%
2,2’-アゾビスイソブチロニトリル:0.4質量%
上記混合物を添加後、70℃まで昇温し、内温が70℃に達した時点を重合開始時点として、180分間保ち、重合を進行させた。
その後、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状のアクリル樹脂(a)を得た。このアクリル樹脂(a)の重合度は98%であり、質量平均分子量は13万であった。
・・・
(3)アクリル樹脂組成物(a-1)の調製
上記(1)で得たアクリル樹脂(a)80質量%、上記(2)で得たコアシェル型のアクリル弾性体粒子20質量%、添加剤としてNaOCH_(3)を0.2質量%配合し、日本製鋼社製2軸押出機TEX30(L/D=44.5)を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/時間、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル樹脂組成物(a-1)を得た。
このアクリル樹脂組成物(a-1)のグルタル酸無水物単位は30質量%、メタクリル酸メチル単位は69質量%、メタクリル酸単位は1質量%であった。またガラス転移温度Tgは128℃であった。
(4)製膜原液の調製
上記(3)で得たアクリル樹脂組成物(a-1)を、真空乾燥機を用いて80℃で8時間の乾燥を行い水分を除去した。次いで冷却器を取り付けたセパラブルフラスコに、乾燥したアクリル樹脂組成物(a-1)25質量%、メチルエチルケトン75質量%を添加して、ダブルヘリカルリボン撹拌翼を用い、150rpm、50℃で8時間の撹拌を行い、ポリマー濃度25%のポリマー溶液を得た。
次いで濾過精度1μmの焼結金属フィルターで上記ポリマー溶液を加圧濾過し、製膜原液を得た。
(5)アクリル樹脂フィルムの溶液製膜
日本シーダースサービス(株)製ベーカ式アプリケーターを用いて、厚さ1.5mmのガラス板に両面テープで固定した厚さ100μmのPETフィルム(以下、基材Aと称す)上に、上記(4)で得た製膜原液を乾燥後のフィルム厚みが80μmとなるようにキャストした。次いで熱風オーブンを用いて以下の乾燥条件で溶媒乾燥を行った。
初期乾燥:50℃/10分
2次乾燥:80℃/10分
3次乾燥:120℃/20分
4次乾燥:140℃/20分
最終乾燥:170℃/40分
上記最終乾燥フィルムを基材Aから剥離して、アクリル樹脂フィルムを得た。上記アクリル樹脂フィルムの組成等を表1に、揮発分、ヘイズ値、ガラス転移温度、全光線透過率、波長550nmでの位相差、フィルム欠点の評価結果を表2に示す。また上記アクリル樹脂フィルムの特性値を以下に示す。
引張りヤング率:2.3GPa
破断伸度:15%
吸湿率:1.1%
熱膨張係数:87ppm/℃
湿度膨張係数:54ppm/%RH。」(段落【0120】?【0124】)

「[実施例14]
上記実施例1と同様の方法で得たアクリル樹脂組成物(a)100質量%を、実施例1と同様の方法で2軸押出機を用いて分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル樹脂組成物(a-4)を得た。
このアクリル樹脂組成物(a-4)のグルタル酸無水物単位は30質量%、メタクリル酸メチル単位は68質量%、メタクリル酸単位は2質量%であった。またガラス転移温度は138℃であった。
次に実施例1の製膜原液の調製方法と同様にして、アクリル樹脂組成物(a-4)25質量%と、メチルエチルケトン75質量%を混合し、ポリマー濃度25%のポリマー溶液を得た。
次に基材Bを用いた実施例2のアクリル樹脂フィルムの溶液製膜方法と同様にして、アクリル樹脂フィルムを得た。
上記アクリル樹脂フィルムの組成等を表1に、揮発分、ヘイズ値、ガラス転移温度、全光線透過率、波長550nmでの位相差、フィルム欠点の評価結果を表2に示す。」(段落【0131】)

(ウ)刊行物22に記載された発明
刊行物22には、【0043】、【0044】、【0047】、表2より、特に、実施例F-14より、刊行物22には以下の発明(以下、「刊行物22発明」という。)が記載されているといえる。

「メタクリル酸メチル89.2質量部、アクリル酸メチル5.8質量部、およびキシレン5質量部からなる単量体混合物に、1,1-ジ-t-ブチルパ-オキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン0.0294質量部、およびn-オクチルメルカプタン0.115質量部を添加し、均一に混合し、この溶液を内容積10リットルの密閉式耐圧反応器に連続的に供給し、攪拌下に平均温度130℃、平均滞留時間2時間で重合した後、反応器に接続された貯槽に連続的に送り出し、一定条件下で揮発分を除去し、さらに押出機に連続的に溶融状態で移送し、押出機にて(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)共重合体のペレットP-1を得、テクノベル製Tダイ装着押し出し機(KZW15TW-25MG-NH型/幅150mmTダイ装着/リップ厚0.5mm)のホッパーに、P-1のペレットを100重量部、ドライブレンドして投入し、押出機のシリンダー温度240℃、Tダイの温度240℃に調整し押出成形をすることにより未延伸フィルムを得て、さらに延伸機により、延伸温度125℃、延伸倍率(MD方向/TD方向)100%/100%の延伸条件で延伸して得た、厚み43μmのフィルム。」

イ 本件発明1の新規性について
(ア)対比
本件発明1と刊行物5発明とを対比する。
厚みについて、刊行物5発明と本件発明1とは重複一致する。
刊行物5発明の「アクリル系ポリマーからなる」ことは、本件発明1の「アクリル樹脂を含」むことに相当する。
刊行物5発明の「厚み方向の位相差Rth」は、本件発明1の「厚み方向のレタデーション(Rth)」に相当し、その値について両者は重複一致する。
刊行物5発明の「アクリル系フィルム」は、本件発明1の「アクリルフィルム」に相当する。

以上の点からみて、本件発明1と刊行物5発明とは、

[一致点]
「厚みが20?60μmであり、
アクリル樹脂を含み、
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-30nmである、
アクリルフィルム。」
である点で一致し、

次の点で一応相違する。

[相違点4]
熱膨張係数に関し、本件発明1は「40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃」と特定するのに対し、刊行物5発明ではそのような特定がない点。

[相違点5]
組成に関し、本件発明1は「共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有せず」と特定するのに対し、刊行物5発明ではそのような特定がない点。

[相違点6]
層構造に関し、本件発明1は「単層である」と特定するのに対し、刊行物5発明ではそのような特定がない点。

(イ)判断
各相違点が実質的な相違点であるかについて検討する。
a 相違点4について
刊行物5には、アクリル系フィルムの熱膨張係数についての記載はない。
一方、本件特許明細書の段落【0107】?【0117】、【0120】には、所定の延伸温度、所定の延伸倍率、所定の延伸速度条件下でMD方向延伸工程およびTD方向延伸工程による二軸延伸を行うことで、熱膨張係数がMD方向とTD方向ともに40?90ppm/℃であるアクリルフィルムが製造されることが記載され、実施例、比較例において、溶融成膜により成膜したフィルムに対し、延伸条件によりMD方向、TD方向の熱膨張係数が変わることが示されている。
ここで、刊行物5には、段落【0073】?【0079】に延伸条件についての記載があるものの、延伸温度、延伸倍率、延伸速度のうち、延伸速度が本件特許明細書に示される範囲と大きく異なっており、また、刊行物5に記載される具体例についても延伸速度が示されておらず、刊行物5発明において、所定の熱膨張係数が本件発明1の範囲となる蓋然性が高いとはいえない。

特許異議申立人2は、刊行物5に記載される実施例7と刊行物20の実施例14とに基づいて、刊行物5に記載された発明において、熱膨張係数の条件が満たされる旨主張している。
しかしながら、刊行物5に記載される実施例7のアクリル系フィルムのアクリル系ポリマーと刊行物20に記載される実施例14のアクリル樹脂フィルムのアクリル樹脂は、モノマー構成、合成条件が同じものの、フィルムの製造に関し、前者は、溶融成膜法により成膜し、二軸延伸を行って得られたものであるのに対して、後者は、溶液製膜法により成膜し、延伸を行わないで得られたものであって、フィルムの製造方法が異なるから、製造方法が関与する物性については、必ずしも同じになるとはいえない。
そうすると、刊行物20に記載される実施例14のアクリル樹脂フィルムが、刊行物20の段落【0046】に記載されるように、温度範囲25℃から80℃における熱膨張係数が100ppm/℃以下であるとしても、実施例7のアクリル系フィルムについて、同じ熱膨張係数になるとはいえない。
そして、仮に、刊行物5に記載される実施例7のアクリル系フィルムとと刊行物20に記載される実施例14のアクリル樹脂フィルムの熱膨張係数が同じであったとしても、その関係が適用できるのは、刊行物5に記載されるRthが4.4の実施例7についてのことであり、Rthの値が本件発明1とは相違する。

したがって、相違点4は実質的な相違点である。

b 相違点5について
刊行物5には、段落【0020】に、弾性体粒子を加えることができるが、弾性体粒子を加えると所定の硬度が低下することが記載されていることから、共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体が含まれる得る弾性体粒子を加えないものも示されると解される。
そうすると、相違点5は実質的な相違点ではない。

c 相違点6について
刊行物5には、フィルムを積層構造とすることが記載されていないから、フィルムは単層であるといえる。
そうすると、相違点6は実質的な相違点ではない。

d まとめ
以上より、相違点4は実質的な相違点であって、本件発明1と刊行物5発明とは、相違点4において相違するから、本件発明1は、刊行物5発明ではない。

ウ 本件発明3の新規性について
本件発明3と刊行物5発明とを対比すると、上記イと同様に、少なくとも、熱膨張係数に関し、本件発明3は「40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃」と特定するのに対し、刊行物5発明ではそのような特定がない点において、両者は相違する。
よって、本件発明3は、刊行物5発明ではない。

エ 本件発明5の新規性について
本件発明5と刊行物5発明とを対比すると、上記イ、ウと同様に、少なくとも、熱膨張係数に関し、本件発明5は「40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃」と特定するのに対し、刊行物5発明ではそのような特定がない点において、両者は相違する。
よって、本件発明5は、刊行物5発明ではない。

オ 本件発明11の新規性について
(ア)対比
本件発明11と刊行物22発明とを対比する。
厚みについて、刊行物22発明と本件発明11とは重複一致する。
刊行物22発明の「(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)共重合体」は、本件発明11の「アクリル樹脂」に相当し、刊行物22発明において、「(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)共重合体のペレットP-1」をフィルムの材料とすることは、本件発明11の「アクリル樹脂を含」むことに相当するから、刊行物22発明の「フィルム」は、本件発明11の「アクリルフィルム」に相当する。
そして、刊行物22発明のフィルムは、その製造過程より単層のフィルムである。

以上の点からみて、本件発明11と刊行物22発明とは、

[一致点]
「厚みが20?60μmであり、
アクリル樹脂を含み、
単層である、アクリルフィルム。」
である点で少なくとも一致し、

少なくとも、次の点で一応相違する。

[相違点7]
熱膨張係数に関し、本件発明11は「40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃」と特定するのに対し、刊行物22発明ではそのような特定がない点。

[相違点8]
厚み方向のレターデーション(Rth)に関し、本件発明11は「0?-30nm」と特定するのに対し、刊行物22発明ではそのような特定がない点。

[相違点9]
本件発明11は「面内方向のレターデーション(Re)の遅相軸が幅方向を向いている」と特定するのに対し、刊行物22発明ではそのような特定がない点。

(イ)判断
上記相違点7について検討する。
刊行物22には、アクリル系フィルムの熱膨張係数についての記載はない。
一方、本件特許明細書の段落【0107】?【0117】、【0120】には、所定の延伸温度、所定の延伸倍率、所定の延伸速度条件下でMD方向延伸工程およびTD方向延伸工程による二軸延伸を行うことで、熱膨張係数がMD方向とTD方向ともに40?90ppm/℃であるアクリルフィルムが製造されることが記載され、実施例、比較例において、溶融成膜により成膜したフィルムに対し、延伸条件によりMD方向、TD方向の熱膨張係数が変わることが示されている。
ここで、刊行物22には、表2に延伸条件のうち延伸温度と延伸倍率についての記載があるものの、延伸速度が記載されておらず、延伸速度も熱膨張係数に寄与することからすると、刊行物22発明において、所定の熱膨張係数が本件発明11の範囲となる蓋然性が高いとはいえない。

特許異議申立人2は、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体[住友化学(株)製、商品名:スミペックスEX]を用い、刊行物22に記載される実施例F-14の延伸条件に準じ、以下表1の延伸条件に上記実施例F-14を追試したところ、以下表2に示すとおりの、本件発明1のアクリルフィルムと同様の物性を示すフィルムが得られ、MD方向を0°として45°を越えて135°未満の方向に遅相軸を有することを「幅方向を向いている」と定義すると、上記追試のフィルムについて面内方向のレタデーションの遅相軸は、幅方向を向いていると主張している(特許異議申立人2が提出した特許異議申立書第21?22頁参照。)。


しかしながら、刊行物22発明の材料の(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル)共重合体は、所定のモノマー、所定の条件により合成されたものであるところ、特許異議申立人2が行った追試の材料は市販のスミペックスEXであり、該製品が刊行物22発明の材料の共重合体と合成条件等が全て同じとはいえないから、上記追試は刊行物22発明の追試とは認められない。
さらに、刊行物22には延伸速度の記載がないところ、追試においては本件特許明細書に記載される延伸速度を採用していることからも、上記追試は刊行物22発明の追試とは認められない。
そうすると、上記追試の結果を刊行物22発明に適用することはできず、刊行物22に記載のない熱膨張性係数に関し、刊行物22発明で熱膨張係数の値が所定の範囲にあるとはいえない。

したがって、相違点7は実質的な相違点であるから、上記相違点8および9について検討するまでもなく、本件発明11は、刊行物22発明ではない。

カ 本件発明2、4、6ないし8、10、12ないし14、17ないし19、22、24の新規性について
本件発明2、4、8、10、12ないし14、17ないし19、22、24は、いずれも請求項1に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、刊行物5に記載された発明ではない。
また、本件発明4、8、10、12ないし14、17ないし19、22、24は、いずれも請求項3に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明3についての判断と同様の理由により、刊行物5に記載された発明ではない。
そして、本件発明6ないし8、10、12ないし14、17ないし19、22、24は、いずれも請求項5に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明5についての判断と同様の理由により、刊行物5に記載された発明ではない。

キ 本件発明9の進歩性について
(ア)対比
本件発明9と刊行物5発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

[相違点4]
熱膨張係数に関し、本件発明9は「40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃」と特定するのに対し、刊行物5発明ではそのような特定がない点。

[相違点10]
本件発明9は「反射防止層を設けた」と特定するのに対し、刊行物5発明ではそのような特定がない点。

(イ)判断
相違点4について検討する。
刊行物5には、アクリル系フィルムの熱膨張係数についての記載はない。
そして、刊行物5には、光学的品位ならびに靱性、加工ハンドリング性といった機械特性を優れたアクリル系フィルムを提供することが記載されており、アクリル系フィルムを液晶表示装置に組み込んだ際に温度変化による色味変化を小さくすることの記載、示唆もない。
さらに、刊行物20ないし23にも、アクリル系フィルムを液晶表示装置に組み込んだ際に温度変化による色味変化を小さくすることの記載、示唆もない。
よって、刊行物5発明において、40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃の範囲とすることの動機付けは何ら見いだせない。

したがって、上記相違点10について検討するまでもなく、本件発明9は、刊行物5発明および刊行物20ないし23に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク 本件発明11、15、16、21、23の進歩性について
本件発明11、15、16、21、23は、いずれも請求項1、3または5に係る発明を更に減縮したものであるから、上記本件発明9についての判断と同様の理由により、刊行物5発明および刊行物20ないし23に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)取消理由Bについて
特許異議申立人1は、平成28年3月7日付けの手続補正は、「共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有せず」という発明特定事項を追加する補正を含んでいるが、この補正は、新たな技術事項を導入するものである旨主張している。
しかしながら、本件の当初明細書等には、共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有させることは記載されておらず、実施例においても、共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有しないアクリルフィルムが記載されている。
よって、本件補正は、新たな技術事項を導入するものではなく、願書に最初に添付した明細書および特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものである。

(4)取消理由Cについて
特許異議申立人1は、本件特許の出願時における明細書および図面を精査してみても、「アクリルフィルムが共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有しない」という記載は存在しない旨主張している。
しかしながら、本件特許明細書の詳細な説明に記載される各実施例においては、共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有しないアクリルフィルムが記載されている。
よって、本件特許の請求項1、2、4、10ないし12、13、14および24に係る各特許発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。

(5)取消理由Dについて
ア ガラス転移温度(Tg)について
特許異議申立人1は、刊行物13?15を提示し、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)が明確でないから、当業者が本件発明1ないし4、10ないし12、13、14および24を実施することができない旨主張する。

しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載される実施例において、少なくとも実施例10?12については、ガラス転移温度Tgが記載され、該Tgに基づいて延伸温度が調整されて、熱膨張係数を含めた所定の物性を示すアクリルフィルムが得られている。
そうすると、各実施例がその範囲に含まれる本件発明1ないし4、10ないし12、13、14および24について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基いて、当業者が実施することができるといえる。

イ Rthを負にすることについて
特許異議申立人1は、刊行物16の比較例1、2、4のアクリルフィルムの組成とRthの傾向および刊行物17の実施例1、比較例1、3のアクリルフィルムの組成とRthの傾向から、本権明細書の実施例12、実施例11、比較例11のアクリルフィルムについて、Rthは「正」になると考えられるところ、「負」の値となっており、刊行物18、19を提示して、複屈折率の符号は、高分子化合物に固有であって、溶融成膜工程などの製造条件に左右されないから、アクリルフィルムの延伸後のRthを負にする具体的な手段が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されおらず、当業者が本件発明1ないし4、10ないし12、13、14および24を実施することができない旨主張する。

しかしながら、特許異議申立人1が示す刊行物16の各比較例、刊行物17の各具体例のフィルムは、溶液製膜法により成膜されたものであり、本件特許明細書の各実施例、比較例は溶融成膜法により成膜されたものであるから、製造方法、製造条件が関与する物性については、一方の傾向がそのまま他方にも見られるとはいえない。
そして、刊行物18に記載される高分子固有の複屈折率Δn=n_(?)-n_(⊥)は、厚み方向のレタデーション(厚み方向の位相差)と同義ではなく、刊行物19にも単に「構成するポリマー自身の物性により、未延伸フィルムやシートの性質は大略決まる。」と、一般的な記載があるのみである。
さらに、本件特許明細書には、段落【0039】に「このような熱分解し易いアクリル系樹脂・・・に対し、本発明のアクリルフィルムの製造方法によれば、本発明の好ましい範囲のRe、Rthのアクリルフィルムを得ることができる。すなわち、熱分解しやすい樹脂を用いてフィルムを製膜する場合は溶融温度を上げられないために高粘度の状態で製膜する必要があり、高粘度のメルトを用いて製膜するとダイ出口で大きな力で延伸されたり、タッチ・チルロール間で大きな力でズリが加えられやすい。その結果、従来のアクリルフィルムの製造方法では、好ましいReおよびRthの範囲を超えてしまう。これに対し、本発明のアクリルフィルムの製造方法を用いることで、高粘度のアクリル樹脂から好適なReおよびRthの範囲に制御された本発明のアクリルフィルムを得ることができる。」と記載され、段落【0077】に「また、前記C/Tの範囲でダイからメルトを押出すことで、本発明のアクリルフィルムの好ましい範囲のReおよびRthに制御できる。溶融樹脂(メルト)はダイから押出された後、固化するまでの間に上記倍率で延伸・薄化が行われ、これが残留歪となり、ReおよびRthを発現させる。前記C/Tの範囲にすることでドロー比を抑えることとなり、ReおよびRthを好ましい範囲に制御することができる。」と記載されていることから、溶融成膜法における成膜条件を調整することで、Rthを所定の範囲に制御できることが示され、また、各実施例においてもRthが負のフィルムが得られている。
そうすると、Rthが所定の範囲にあるアクリルフィルムについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基いて、当業者が製造することができるといえる。

ウ まとめ
以上のとおり、本件発明1ないし4、10ないし12、13、14および24について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(6)取消理由Gについて
特許異議申立人2は、本件発明11について、面内方向のレターデーション(Re)の遅相軸が幅方向を向かせるための具体的な手段が発明の詳細な説明に記載されていないから、当業者が本件発明11を実施することができない旨主張している。
しかしながら、特許異議申立人2が提出した特許異議申立書の第20頁?第22頁において、刊行物22に記載の実施例F-14に準じ、延伸速度として本件特許明細書に記載される条件を適用して、市販のアクリル系樹脂を用いてアクリルフィルムを製造する追試を行ったところ、「追試により得られたフィルムの面内方向のレタデーションの遅相軸は、幅方向を向いている」と述べており、実施できないとする主張と矛盾している。
そうすると、実施できないとする上記主張は採用できない。

よって、本件発明11について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

第6 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし19、21ないし24に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし19、21ないし24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項20は、訂正により削除されたので、請求項20に係る特許に関しては、特許異議の申し立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが20?60μmであり、
40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃であり、
アクリル樹脂を含み、
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-30nmであり、
共役ジエン系ゴムを含むグラフト共重合体を含有せず、
単層であることを特徴とするアクリルフィルム。
【請求項2】
25℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の弾性率がともに2800?3800MPaである請求項1に記載のアクリルフィルム。
【請求項3】
厚みが20?60μmであり、
40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃であり、
アクリル樹脂を含み、
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-30nmであり、
25℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の弾性率がともに2800?3800MPaであり、 単層であることを特徴とするアクリルフィルム。
【請求項4】
25℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の弾性率がともに2800?3700MPaである請求項1?3のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項5】
厚みが20?60μmであり、
40℃?90℃におけるフィルム長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに50?100ppm/℃であり、
25℃におけるフィルム長手方向(MD)の破断伸度が15?38%であり、
アクリル樹脂を含み、
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-30nmであり、
単層であることを特徴とするアクリルフィルム。
【請求項6】
25℃におけるフィルム幅方向(TD)の破断伸度が15?55%である請求項5に記載のアクリルフィルム。
【請求項7】
25℃におけるフィルム長手方向(MD)の破断伸度が20?38%である請求項5または6に記載のアクリルフィルム。
【請求項8】
光学異方性層を設けた請求項1?7のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項9】
反射防止層を設けた請求項1?7のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項10】
40℃?90℃における前記アクリルフィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)の熱膨張係数がともに60?100ppm/℃である請求項1?7のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項11】
面内方向のレターデーション(Re)の遅相軸が幅方向を向いている請求項1?10のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項12】
厚み方向のレターデーション(Rth)が0?-15nmである請求項1?11のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項13】
前記アクリル樹脂が共重合成分としてスチレン、核アルキル置換スチレン、α-アルキル置換スチレンからなる群の少なくとも1種を含有する請求項1?12のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項14】
全光線透過率が91?94%である請求項1?13のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項15】
プライマー層を有する請求項1?14のいずれか一項に記載のアクリルフィルム。
【請求項16】
前記プライマー層が少なくともセルロース系樹脂を含有する請求項15に記載のアクリルフィルム。
【請求項17】
安定剤を含有する請求項1?16のいずれか1項に記載のアクリルフィルム。
【請求項18】
前記安定剤がフェノール系安定剤である請求項17に記載のアクリルフィルム。
【請求項19】
請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムを用いた偏光板。
【請求項20】(削除)
【請求項21】
セルロースアシレートフィルムを有することを特徴とする請求項19に記載の偏光板。
【請求項22】
請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムまたは19または21に記載の偏光板を用いた液晶表示装置。
【請求項23】
IPSまたはVA液晶を有する請求項22に記載の液晶表示装置。
【請求項24】
請求項1?18のいずれか一項に記載のアクリルフィルムの製造方法であって、
未延伸アクリルフィルムをMD延伸および/またはTD延伸する工程を含むアクリルフィルムの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-03 
出願番号 特願2015-134890(P2015-134890)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08J)
P 1 651・ 113- YAA (C08J)
P 1 651・ 536- YAA (C08J)
P 1 651・ 121- YAA (C08J)
P 1 651・ 55- YAA (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大村 博一  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 上坊寺 宏枝
渕野 留香
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6025927号(P6025927)
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 アクリルフィルムおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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