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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 一部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B22F
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
管理番号 1335138
異議申立番号 異議2017-700345  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-10 
確定日 2017-11-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6011803号発明「銀粒子の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6011803号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、3?7]について訂正することを認める。 特許第6011803号の請求項1、3?7に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6011803号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願日は、平成25年 3月21日であって、平成28年 9月30日にその特許権の設定登録がなされ、その後、その特許のうち、請求項1、3?7に係る特許に対し、平成29年 4月10日に特許異議申立人山崎達彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、当審において、同年 6月13日付けで取消理由を通知し、同年 8月17日付けで意見書の提出及び訂正の請求がなされたものであり、この訂正の請求について、申立人に意見を求めたところ、申立人からは意見書の提出はなされなかったものである。

第2 訂正請求の適否
1 訂正の内容
平成29年 8月17日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1に
「銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法において、
前記銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度を、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御することにより前記生成する銀粒子の平均粒子径を制御することを特徴とする銀粒子の製造方法。」とあるのを、
「銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法において、
前記還元剤溶液が、アスコルビン酸水溶液で、
前記銀アンミン錯体溶液に前記還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度を、30?50℃に保持し、
前記銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度を、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御することにより前記生成する銀粒子の平均粒子径を制御することを特徴とする銀粒子の製造方法。」に訂正する。
また、請求項1を引用する請求項3?7も同様に訂正する。

上記訂正は、訂正前の請求項1に、
「前記還元剤溶液が、アスコルビン酸水溶液で」あるとの事項と、
「前記銀アンミン錯体溶液に前記還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度を、30?50℃に保持し」ているとの事項との、2つの事項を追加するものである。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び独立特許要件
(1)一群の請求項について
訂正に係る本件訂正前の請求項3?7は、請求項1を引用するものであって、訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1、3?7に対応する訂正後の請求項1、3?7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)「前記還元剤溶液が、アスコルビン酸水溶液で」あるとの事項(以下、「訂正事項1」という。)について
訂正事項1は、願書に添付された明細書(以下単に「明細書」ということがある。)の【0028】の「用いる還元剤溶液としては、アスコルビン酸水溶液を用いることが好ましい。」との記載に基づいて、還元剤溶液を、アスコルビン酸水溶液に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付された明細書に記載した事項の範囲内でしたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないため、特許法第120条の5第2項第1号を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同第126条第5項?第6項に適合する。

(3)「前記銀アンミン錯体溶液に前記還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度を、30?50℃に保持し」ているとの事項「以下、「訂正事項2」という。」について
訂正事項2は、明細書の【0027】の「また、還元剤溶液を添加する際は、銀アンミン錯体溶液の温度を30?50℃に保持することが好ましい。」との記載に基づいて、請求項1に係る「銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加」する際の銀アンミン錯体溶液の温度範囲について「前記銀アンミン錯体溶液に前記還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度を、30?50℃に保持し」ていることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また訂正事項2は、願書に添付された明細書に記載した事項の範囲内でしたものであり、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。そのため、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項第1号を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同第126条第5項?第6項に適合する。

(4)また、上記訂正事項1及び訂正事項2は、特許異議の申立てがされている本件訂正前の請求項1、3?7を訂正するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同第126条第7項に規定する独立特許要件の適用はない。

(5)小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項に適合し、かつ、同条第9項において準用する特許法第126条第5項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、3?7〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、訂正請求により訂正された請求項1、3?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」?「本件発明7」という。)は、平成29年 8月17日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3?7に記載された事項により特定されるとおりである。
本件訂正後の特許請求の範囲を明示すると本件発明1?7は、次のとおりである。
「【請求項1】
銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法において、
前記還元剤溶液が、アスコルビン酸水溶液で、
前記銀アンミン錯体溶液に前記還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度を、30?50℃に保持し、
前記銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度を、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御することにより前記生成する銀粒子の平均粒子径を制御することを特徴とする銀粒子の製造方法。
【請求項2】
銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法において、
前記還元剤溶液が、還元剤のアスコルビン酸と分散剤の脂肪酸と界面活性剤を含み、
前記還元剤溶液の添加速度が、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御することを特徴とする銀粒子の製造方法。
【請求項3】
前記銀アンミン錯体溶液が、アンモニア水に塩化銀を溶解して生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤が、アスコルビン酸であることを特徴とする請求項1に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤溶液が、分散剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項6】
前記分散剤が、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属、キレート形成剤および保護コロイドからなる群から選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項5に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項7】
得られる銀粒子の走査型電子顕微鏡測定による平均粒子径が、0.1?1.5μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀粒子の製造方法。」

第4 特許異議の申立について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1、3?7に係る特許に対して平成29年 6月13日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
ア 訂正前の請求項1、3?7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
イ 訂正前の請求項1、3?7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
発明の詳細な説明の記載(【0008】)によれば、本件発明は、「容易に任意の平均粒子径に制御できる銀粒子の製造方法を提供すること」を発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)としていると認められる。
そして、発明の詳細な説明には、以下の記載がある(下線は当審が付与した。「・・・」は省略を表す。)。
「【0027】
また、還元剤溶液を添加する際は、銀アンミン錯体溶液の温度を30?50℃に保持することが好ましい。これにより、十分な還元反応が維持され、粒子径制御が容易になるとともに、アンモニア揮発量を抑制して組成を一定に保つことが容易となる。」
「【0028】
用いる還元剤溶液としては、アスコルビン酸水溶液を用いることが好ましい。
銀アンミン錯体は、比較的簡単に還元されて銀粒子を析出するため、還元力の強いヒドラジン等では急激に還元反応が起こり粒子径の制御が難しくなる。
一方、アスコルビン酸は比較的還元力が弱いため、還元反応は緩やかに進み、そのために容易に粒子径を制御することが可能である。」
「【実施例1】
【0034】
塩化銀362gと25質量%アンモニア水2.4Lを混合後、撹拌しながら36℃まで加温し、銀アンミン錯体溶液を作製した。
還元剤溶液として、還元剤のアスコルビン酸102.5g(銀アンミン錯体溶液中の銀に対して0.9当量)、分散剤のPVA12.1g、界面活性剤(SS5602、信越化学工業株式会社製)1.56gを、水655gに溶解した還元剤溶液を作製した。
【0035】
作製した銀アンミン錯体溶液を400rpmで攪拌しながら、作製した還元剤溶液を攪拌している銀アンミン錯体溶液に1秒で投入し、30分間攪拌した後、得られた銀粒子含有液を濾過して銀粒子を得た。
次に、得られた銀粒子を純水3.5Lに投入して攪拌後、濾過する洗浄を4回繰り返した。その後、40℃で真空乾燥して乾燥した銀粒子を得た。
【0036】
その銀粒子をSEM観察により粒子径の測長を行った。約500点の測定粒子径を統計処理することにより得られた平均粒子径は、1.20μmであった。
【実施例2】
【0037】
還元剤溶液を2秒で投入した以外は実施例1と同様にして銀粒子を得るとともに平均粒子径を測定した。
得られた銀粒子の平均粒子径は1.14μmであった。
【実施例3】
【0038】
還元剤溶液を9秒で投入した以外は実施例1と同様にして銀粒子を得るとともに平均粒子径を測定した。
得られた銀粒子の平均粒子径は0.73μmであった。
【実施例4】
【0039】
還元剤溶液を15秒で投入した以外は実施例1と同様にして銀粒子を得るとともに平均粒子径を測定した。
得られた銀粒子の平均粒子径は0.58μmであった。
【実施例5】
【0040】
還元剤溶液を61秒で投入した以外は実施例1と同様にして銀粒子を得るとともに平均粒子径を測定した。
得られた銀粒子の平均粒子径は0.45μmであった。
【実施例6】
【0041】
還元剤溶液を115秒で投入した以外は実施例1と同様にして銀粒子を得るとともに平均粒子径を測定した。
得られた銀粒子の平均粒子径は0.38μmであった。
【0042】
以上の実施例1?6の結果を図1に示す。
還元剤添加速度と平均粒子径の関係から、添加速度を大きくすれば平均粒子径は大きくなり、逆に添加速度を小さくすれば平均粒子径は小さくなることがわかる。また、この関係は連続的に変化していることが分かる。
したがって、この関係を用いることで、必要な平均粒子径の銀粒子を得るためには、添加速度、すなわち、銀アンミン錯体に対する還元剤の時間当たりの添加当量を、この図1の関係から求めて制御すればよいことになり、任意の平均粒子径の銀粒子を簡便に得ることができる。」
「【図1】




上記記載によれば、還元剤として「アスコルビン酸」を用い、「還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度が30?50℃(実施例では36℃)であり」、「銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度を、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御する」場合に、上記課題を解決できることが認められる。

本件発明1、3?7は、これら上記事項を特定するものであるから、本件発明1、3?7は、発明の詳細な説明に記載したものである。
また、発明の詳細な説明には、少なくとも、本件発明1、3?7に該当する実施例1?6が記載されており、当業者であれば、当該記載に従って、本件発明1、3?7を実施することができるから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、3?7を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 申立理由A(特許法第36条第6項第2号)
ア-1 理由の具体的内容
「本件特許の特許請求の範囲請求項1において、「還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御することにより前記生成する銀粒子の平均粒子径を制御すること」と記載されているが、還元剤の時間当たり当量を制御することと銀粒子の平均粒子径の関係が明確ではない。すなわち、本件特許の明細書の【0042】段落には、「銀アンミン錯体に対する還元剤の時間当たりの添加当量を、この図1の関係から求めて制御すればよいことになり、任意の平均粒子径の銀粒子を簡便に得ることができる。」との記載があることから、明細書の【図1】の関係を利用することが「平均粒子径を制御すること」を意味していると解釈することもできるが、単に、「還元剤の時間当たり当量を制御すること」の結果として、何らかの一定の平均粒子径が得られることだけを意味しているとも解釈できる。したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は不明確である。
請求項1に従属している請求項3ないし7についても同様である。」(異議申立書第2頁第3行?第15行及び第5頁第3行?第6頁第最終行)

ア-2 判断
しかしながら、発明の詳細な説明の【0023】には、以下の記載がある。(下線は、当審が付与した。)
「【0023】
銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の時間当たり当量を0.005?1.5当量/秒の範囲内に制御することで、平均粒子径が0.1?1.5μmの範囲内の銀粒子を生成することができる。また、より好ましい平均粒子径の範囲である0.2?1.3μmの銀粒子を生成することも可能である。
なお、平均粒子径が0.1μm未満になると、粒子の凝集が多くなり、銀粉としての均一性が低下することがある。また、粒子が微細すぎて取り扱い性も低下する。一方、平均粒子径が1.5μmを超えると、微細配線用としては不向きであり、好ましくない。」

上記記載や、実施例1?6を参酌すると、「銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の時間当たり当量を0.005?1.5当量/秒の範囲内に制御すること」で、好ましい平均粒子径の範囲である、0.1?1.5μmの範囲内の銀粒子を得ることが理解されるから、本件発明1において、還元剤の時間当たり当量を制御することと銀粒子の平均粒子径の関係が明確でないとまではいうことはできない。
また、本件発明1を引用する本件発明3?7についても同様に、明確でないとまではいうことはできない。

イ 申立理由B (特許法第29条第1項第3号及び同条第2項)
イ-1 理由の具体的内容
申立人は、甲第1号証として、特開平10-88206号公報(以下、「甲1」という。)を提出して、次の主張をしている。
請求項1、7に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、7に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。(異議申立書第10頁第19行?第12頁第22行)

イ-2 判断
甲1には以下の記載がある。(下線は当審が付与した。)
「【請求項1】 銀塩と酸化銀の少なくとも一方を含有する水性反応系に還元剤含有水溶液を添加し銀粒子を還元析出させる銀粉の製造方法において、該還元剤含有水溶液の添加速度が含有銀量に対し1当量/分以上であることを特徴とする銀粉の製造方法。」
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来技術の方法は、界面活性剤や脂肪酸等の分散剤を反応溶液中に添加する方法であるため、例えば特開昭49-113754号公報、特開昭54-121270号公報、特開昭61-243105号公報および特開昭61-276904号公報?特開昭61-276907号公報の方法では、添加量が多くなると銀の未還元部分が生じて歩留りが悪化してしまい、特開昭63-213606号公報の場合はパラジウムを使用するためコスト高になるなどの課題があった。したがって本発明の目的は、還元前に反応液に分散剤を加える従来の分散剤の添加方法を含む銀粉の製造方法のように、添加量によって未還元反応が生じたり分散剤の種類、量が限定されたりすることがなく、しかも分散性の優れた銀粉が得られる銀粉製造方法とその銀粉を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記目的を達成するために鋭意研究した結果、銀イオンもしくは銀を含む錯イオンまたは酸化銀のうち少なくとも一つを含有する水性液に還元剤を加える際、還元された銀粒子の凝集を防ぐために還元剤水溶液の添加速度を速くして、還元剤1当量/分以上の速度で添加し、さらに、好ましくは還元後の銀粉含有スラリー溶液に分散剤を加えるようにすれば、前記課題が解消されて優れた分散性を有する銀粉が得られることを見いだし本発明に到達した。」
「【0010】次に還元剤であるが、水溶液中の酸化還元反応を利用して、銀粉を製造する公知の方法で用いる還元剤であれば何ら問題はない。具体例としては、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ホルマリン、ぶどう糖、水素化ほう酸ナトリウム、次亜りん酸ナトリウム、亜硫酸塩、ギ酸、ギ酸ナトリウム、無水亜硫酸ナトリウム、L(+)酒石酸、ギ酸アンモニウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸のうちの1種またはこれらの混合物である。そしてこれらの還元剤のうち固体状のものは水溶液として使用する。したがって使用の際には水溶液とした際に分解してしまう物質については、溶液pHをアルカリ側にするなどの処理が必要である。還元剤の添加方法については、銀粉の凝集を防ぐために、1当量/分以上の速さで添加する必要がある。この操作の理由は定かではないが、還元剤を短時間で添加することで、銀粒子への還元析出が一挙に生じ、短時間で還元反応が終了するために発生した核同士の凝集が生じにくいため、分散性が向上するものと考えられる。また還元の際には、より短時間で反応が終了するように反応液を撹拌することが好ましい。」
「【0012】これら工程を通して製造された銀粉は、タップ密度が2g/cm^(3) 以上、レーザー回折法による平均粒径が0.1?5μm、比表面積が5m^(2) /g以下の物性を有するものである。タップ密度はJIS K5101-1991の20.2のタップ法に準じた方法により測定した。タッピング回数は1,000回である。従来法により製造した銀粉は分散性が不十分であり、この方法で測定したタップ密度は2g/cm^(3)未満であるのに対し、本発明により得られる銀粉は単分散により近い状態のためタップ密度は2g/cm^(3) 以上となる。銀粉の平均粒径については、レーザー回折法により測定しており、装置は島津製作所製レーザー回折式粒度測定機SALD-1100を用いた。分散媒は、ヘキサメタリン酸ナトリウムを蒸留水に溶解し、0.2%水溶液として用いた。また測定時に分散媒50ml当り1滴の家庭用液体洗剤を加える。これは、分散剤を被覆した銀粉をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液のみの分散媒で測定すると、安定した測定値が得られないのに対し、家庭用液体洗剤1滴を加えることで安定した再現性ある平均粒径が得られるためである。測定時の屈折率はA3として平均径を測定する。この方法で測定した場合、本発明により得られた銀粉は平均粒径0.1?5μmとなるのに対し、従来法による銀粉は5μmを越える値となり分散性が劣っている。比表面積はBET法で測定した。本発明法で製造した銀粉は5m^(2) /g以下となる。」
「【0018】
【実施例1】銀イオンとして10g/lの硝酸銀水溶液2000mlに、25%アンモニア水175mlを加え、銀アンミン錯塩水溶液を得た。この水溶液を液温20℃とし、攪拌しながら37%ホルマリン水溶液23mlを30秒間で加え、銀粉を析出させ銀粉含有スラリーを得た。このスラリー中に、銀量に対して1重量%分のオレイン酸を加え10分間攪拌した。その後ブフナー漏斗で濾過、水洗し、60℃、24時間真空雰囲気で乾燥し銀粉を得た。得られた銀粉はタップ密度3.5g/cm^(3) 、レーザー回折法平均粒径1.0μm、比表面積0.9m^(2) /gであった。さらにこの粉末をペースト化し、評価を行った。方法は前項「発明の実施の形態」の項で記述した方法である。その結果、塗膜密度は5.4g/cm^(3) 、塗膜Ra=0.5μm、焼成膜密度10.3g/cm^(3) 、焼成膜Ra=0.4μm、塗膜密度、焼成膜密度とも良好な結果が得られた。
【0019】
【実施例2】銀イオン濃度として20g/lの硝酸銀水溶液2000mlを温度25℃とした後に、攪拌しながら、200g/lの水酸化ナトリウム水溶液150mlを加え、酸化銀スラリーを得た。このスラリー溶液に37%ホルマリン溶液35mlを40秒間で添加して銀粒子へ還元し、銀粉含有スラリーを得た。次いであらかじめ銀量に対して0.5重量%分のミリスチン酸ナトリウムを温水50mlに溶解しておき、先のスラリー中に攪拌しながら添加する。そして10分間攪拌しながらブフナー漏斗で濾過、水洗し、80℃、24時間の乾燥を行った。得られた銀粉はタップ密度2.1g/cm^(3) 、レーザー回折法平均粒径0.25μm、比表面積2.0m^(2 )/gであった。さらにこの粉末をペースト化し評価を行った。方法は前項「発明の実施の形態」の項で記述した方法である。その結果、塗膜密度は4.6g/cm^(3) 、塗膜Ra=1.6μm、焼成膜密度10.1g/cm^(3 )、焼成膜Ra=1.0μmで良好な結果が得られた。」

上記甲1の実施例1の内容を、本件発明1の記載に則して記載すると、以下のとおりである。
「銀アンミン錯塩水溶液にホルマリン水溶液を添加して、銀粉を析出させる製造方法であって、
銀アンミン錯塩水溶液にホルマリン水溶液を添加する際の銀アンミン錯塩水溶液の液温は20℃であり、
37%ホルマリン水溶液23mlを30秒間で、銀アンミン錯塩水溶液に加え、
得られた銀粉は、レーザー回折法平均粒径1.0μmである、製造方法。」

上記実施例1では、37%ホルマリン水溶液23mlを30秒間という添加速度で添加しているところ、上記請求項1や【0006】には、還元剤水溶液の添加速度について、還元剤1当量/分以上であることが記載され、さらに、上記【0012】には、そのような還元剤水溶液の添加速度によって製造された銀粉は、レーザー回折法による平均粒径が0.1?5μmであることが記載されている。
さらにまた、上記実施例1では、還元剤水溶液を添加する際の銀アンミン錯塩水溶液の液温は20℃とされているところ、上記実施例2には、還元剤水溶液を添加する際の銀水溶液である硝酸銀水溶液を25℃とすることが記載されている。

以上の甲1の各記載より、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「銀アンミン錯塩水溶液にホルマリン水溶液を添加して、銀粉を析出させる製造方法であって、
銀アンミン錯塩水溶液にホルマリン水溶液を添加する際の銀アンミン錯塩水溶液の液温は20℃?25℃であり、
ホルマリン水溶液を、還元剤1当量/分以上の添加速度で、銀アンミン錯塩水溶液に加え、
得られた銀粉は、レーザー回折法平均粒径0.1?5μmである、製造方法。」(以下「甲1発明」という。)

本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「銀アンミン錯塩水溶液」は、本件発明1の「銀アンミン錯体溶液」に相当する。
また、上記甲1の【0006】、【0010】の記載を参酌すると、甲1発明の「ホルマリン水溶液」は、本件発明1の「還元剤溶液」に相当するから、甲1発明の「銀アンミン錯塩水溶液にホルマリン水溶液を添加して、銀粉を析出させる製造方法」は、本件発明1の「銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法」に相当する。
さらに、甲1発明の「1当量/分以上」は、「0.0166当量/秒以上」であるから、甲1発明は、本件発明1の「銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度を、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御する」との事項のうち、「銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度」が、「銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で」0.0166当量/秒?1.5当量/秒の範囲において重複している。

したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法において、
前記銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度を、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.0166当量/秒?1.5当量/秒の範囲に制御する銀粒子の製造方法。」という点で一致しており、以下の点で相違している。

相違点1
本件発明1では、還元剤溶液が、アスコルビン酸水溶液であるのに対し、甲1発明では、還元剤溶液が、ホルマリン水溶液である点。
相違点2
本件発明1では、銀アンミン錯体溶液に前記還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度を、30?50℃に保持するのに対し、甲1発明では、20℃?25℃である点。
相違点3
本件発明1では、「生成する銀粒子の平均粒子径を制御する」と特定しているのに対し、甲1発明では、「得られた銀粉は、レーザー回折法平均粒径0.1?5μmである」ものの、「生成する銀粒子の平均粒子径を制御する」のか否か明らかでない点。

相違点1?3についての判断
本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(下線は当審が付与した。)
「【0006】
また、特許文献2には、銀錯塩もしくは酸化銀の一方または両者を含有する水性反応系に、還元剤を1当量/分以上の速度で添加して還元後、スラリーに分散剤を加える銀粉の製造方法が開示されている。
この方法によれば、短時間で還元反応が終了するため、凝集が防止され、分散性の優れた銀粉が得られるとされている。しかしながら、凝集の抑制については検討され、銀粒子が凝集した粉末の粒径については制御されているものの、銀粒子そのものの粒径の制御に関しては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-111302号公報
【特許文献2】特開平10-088206号公報」
「【0008】
本発明は、このような状況に鑑み、容易に任意の平均粒子径に制御できる銀粒子の製造方法を提供することを目的とする。」
「【0024】
ここで、上記銀粒子は、走査型電子顕微鏡観察によって外観的に1個の粒子と判断される粒子であり、凝集粒子や二次粒子ではそれぞれを構成する一次粒子を意味する。したがって、上記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察によって一次粒子の最大径を、例えば、100個以上、好ましくは300?600個測定して個数平均することで求めることができる。」
「【0027】
また、還元剤溶液を添加する際は、銀アンミン錯体溶液の温度を30?50℃に保持することが好ましい。これにより、十分な還元反応が維持され、粒子径制御が容易になるとともに、アンモニア揮発量を抑制して組成を一定に保つことが容易となる。
【0028】
用いる還元剤溶液としては、アスコルビン酸水溶液を用いることが好ましい。
銀アンミン錯体は、比較的簡単に還元されて銀粒子を析出するため、還元力の強いヒドラジン等では急激に還元反応が起こり粒子径の制御が難しくなる。
一方、アスコルビン酸は比較的還元力が弱いため、還元反応は緩やかに進み、そのために容易に粒子径を制御することが可能である。」

上記【0027】、【0028】の記載を参酌すると、上記相違点1、相違点2に係る本件発明1の各特定事項は、銀粒子の粒子径を制御することを目的としていることが読み取れる。
そして、上記【0024】には、本件発明1の「銀粒子」は、「一次粒子を意味する。」との記載があることから、本件発明1の「生成する銀粒子の平均粒子径を制御する」における「銀粒子の平均粒子径」とは、「一次粒子」の「平均粒子径」であると解釈できる。
一方、上記【0006】に記載されるように、甲1は、分散性の優れた銀粉を得ることを課題としており、甲1発明では、得られた銀粉のレーザー回折法平均粒径が0.1?5μmであるが、一次粒子の粒径であるかは不明であり、その測定方法からして、技術常識を考慮すると、二次粒子等も含んだ粒径であると推認できる。
また、当該推認は、上記【0006】、【0007】における、「特許文献2(甲1)には、」「銀粒子そのものの粒径の制御に関しては開示されていない」との記載とも整合する。
そうすると、甲1には、銀粒子の一次粒子径の制御を行うという技術思想がそもそも記載も示唆もされておらず、甲1発明において、相違点3に係る事項を、当業者が容易に想到できたとはいえない。

また、甲1には、上記【0010】に、還元剤として、アスコルビン酸の記載が、例示として一応あるものの、上記【0028】に、本件発明において好ましくないとされているヒドラジン等のその他の還元剤と同列に例示されているにすぎず、甲1には、銀粒子の一次粒子径の制御を行うという技術思想がそもそも記載されていないから、当該目的にしたがって、還元剤としてアスコルビン酸を選択することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

さらにまた、甲1には、還元剤溶液を添加する際に、銀アンミン錯体溶液の温度を30?50℃に保持することは、記載も示唆もされておらず、甲1には、銀粒子の一次粒子径の制御を行うという技術思想がそもそも記載されていないから、当該目的にしたがって、銀アンミン錯体溶液の温度を30?50℃に保持すると特定することも、当業者にとって容易であるとはいえない。

さらに、銀粒子の一次粒子径の制御を行うために、還元剤としてアスコルビン酸を用い、還元剤溶液を添加する際に、銀アンミン錯体溶液の温度を30?50℃に保持することが、周知の事項であるとも、技術常識であるともいえない。

したがって、本件発明1は、甲1に記載されたものではないし、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明1を引用する本件発明7も、同様に、甲1に記載されたものではないし、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1、3?7に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許の請求項1、3?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法において、
前記還元剤溶液が、アスコルビン酸水溶液で、
前記銀アンミン錯体溶液に前記還元剤溶液を添加する際の銀アンミン錯体溶液の温度を、30?50℃に保持し、
前記銀アンミン錯体溶液に添加する還元剤溶液の添加速度を、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御することにより前記生成する銀粒子の平均粒子径を制御することを特徴とする銀粒子の製造方法。
【請求項2】
銀アンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体を還元することにより銀粒子を生成する銀粒子の湿式還元製造方法において、
前記還元剤溶液が、還元剤のアスコルビン酸と分散剤の脂肪酸と界面活性剤を含み、
前記還元剤溶液の添加速度が、前記銀アンミン錯体溶液に含まれる銀アンミン錯体中の銀に対する還元剤の時間当たり当量で0.005?1.5当量/秒の範囲に制御することを特徴とする銀粒子の製造方法。
【請求項3】
前記銀アンミン錯体溶液が、アンモニア水に塩化銀を溶解して生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤が、アスコルビン酸であることを特徴とする請求項1に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項5】
前記還元剤溶液が、分散剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項6】
前記分散剤が、脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属、キレート形成剤および保護コロイドからなる群から選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項5に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項7】
得られる銀粒子の走査型電子顕微鏡測定による平均粒子径が、0.1?1.5μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の銀粒子の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-27 
出願番号 特願2013-58216(P2013-58216)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B22F)
P 1 652・ 537- YAA (B22F)
P 1 652・ 536- YAA (B22F)
P 1 652・ 113- YAA (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 結城 佐織
小川 進
登録日 2016-09-30 
登録番号 特許第6011803号(P6011803)
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 銀粒子の製造方法  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 押田 良隆  
代理人 押田 良隆  
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