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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H02K
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H02K
管理番号 1335139
異議申立番号 異議2016-701057  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-16 
確定日 2017-10-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5920258号発明「コイル製造用巻線部材、コイル、回転電機およびコイルの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5920258号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕、7、8について訂正することを認める。 特許第5920258号の請求項1-3、6-8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5920258号に係る出願は、平成25年3月19日の出願であって、平成28年4月22日に特許の設定登録がなされた。
これに対して、特許異議申立人梅津雅由より平成28年11月16日に、本件請求項1-3、6-8に係る発明の特許について特許異議の申立がなされ、平成29年1月30日付で取消理由が通知され(発送日:平成29年2月3日)、これに対し特許権者より平成29年3月31日付で意見書及び訂正請求書が提出され、当審より平成29年5月22日付で審尋がなされ(発送日:平成29年5月26日)、これに対し特許権者より平成29年7月7日付で回答書が提出され、平成29年7月25日付で特許異議申立人に訂正請求があった旨が通知され(発送日:平成29年7月31日)、これに対し特許異議申立人は期限内に意見書の提出を行わなかったものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成29年3月31日付の訂正請求による訂正の内容は以下のア?ウのとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「構成されている」とあるのを、「構成されており、前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」に訂正する。請求項1の記載を引用する請求項2-6も同様に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7に「略面一になるように構成されている」とあるのを、「略面一になるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」に訂正する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8に「略面一になるように構成されている」とあるのを、「略面一になるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」に訂正する。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1
(a)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「構成されている」を、「構成されており、前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」とするもので、第1の辺の長さは、第2の辺の長さよりも小さいという特徴を付加することで、訂正後の請求項1に係る発明は、コイル製造用巻線部材の第1の辺側の部分および第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げるだけで、コイルエンドを備えたコイルを容易に形成することができるという効果を奏することを明確にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とすると共に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の段落【0039】には「図7に示すように、U相コイル30を製造するためのコイル製造用巻線部材130は、互いに対向する第1の辺131および第2の辺132と、第1の辺131および第2の辺132を連結する第3の辺133および第4の辺134とを備える。また、第1の辺131、第2の辺132、第3の辺133および第4の辺134は、略逆台形形状を構成するように配置されている。なお、略逆台形形状を有するコイル製造用巻線部材130の4つの角部は、円弧形状を有する。ここで、第1実施形態では、第1の辺131は、コイル製造用巻線部材130の第1の辺131側の部分がステータコア1aの内周側に1回折り曲げられることにより、ステータコア1aの内周側に配置される一方側のコイルエンドの端辺(連結部36、図2参照)となる予定の辺である。また、第2の辺132は、コイル製造用巻線部材130の第2の辺132側の部分がステータコア1aの外周側に同じ方向に複数回(第1実施形態では2回)折り曲げられることにより、他方側のコイルエンドの端辺(連結部33、図2参照)となる予定の辺である。そして、第1の辺131(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の下方に位置する下底)の長さL11は、第2の辺132(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の上方に位置する上底)の長さL12よりも小さくなるように構成されている。」と記載されている。
この記載の、第1の辺131(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の下方に位置する下底)の長さL11、及び、第2の辺132(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の上方に位置する上底)の長さL12は、訂正後の請求項1の、「第1の辺の長さ」及び「第2の辺の長さ」に相当するから、願書に添付した明細書には、訂正事項1の「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」ことが記載されており、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(d)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1-6は、請求項1の記載を、請求項2-6がそれぞれ引用しているものであるから、当該訂正前の請求項1-6は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。
訂正事項1は一群の請求項ごとに請求されたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。
(e)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項1-3、6について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1-3、6に係る訂正事項1に関して、第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。
訂正後の請求項4、5に係る発明は、訂正後の請求項1を引用するものであって、訂正後の請求項1に係る発明に、さらに他の構成要素を付加したものに相当するから、訂正後の請求項4、5に係る発明は、特許異議申立において提出された甲第1号証(国際公開第2011/155083号)に記載されていない、コイル製造用巻線部材の互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき、「第1の辺の長さを第2の辺の長さよりも小さくする」点を有しており、訂正後の請求項4、5に係る発明が、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が本件特許出願前に容易に発明をすることができたとする理由はない。
訂正後の請求項4、5に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであり、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に適合するものである。

イ 訂正事項2
(a)訂正の目的について
上記訂正事項2は、請求項7の「略面一になるように構成されている」を、「略面ーになるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」に訂正するもので、第1の辺の長さは、第2の辺の長さよりも小さいという特徴を付加することで、訂正後の請求項7に係る発明は、コイル製造用巻線部材の第1の辺側の部分および第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げるだけで、コイルエンドを備えたコイルを容易に形成することができるという効果を奏することを明確にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とすると共に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の段落【0039】には「図7に示すように、U相コイル30を製造するためのコイル製造用巻線部材130は、互いに対向する第1の辺131および第2の辺132と、第1の辺131および第2の辺132を連結する第3の辺133および第4の辺134とを備える。また、第1の辺131、第2の辺132、第3の辺133および第4の辺134は、略逆台形形状を構成するように配置されている。なお、略逆台形形状を有するコイル製造用巻線部材130の4つの角部は、円弧形状を有する。ここで、第1実施形態では、第1の辺131は、コイル製造用巻線部材130の第1の辺131側の部分がステータコア1aの内周側に1回折り曲げられることにより、ステータコア1aの内周側に配置される一方側のコイルエンドの端辺(連結部36、図2参照)となる予定の辺である。また、第2の辺132は、コイル製造用巻線部材130の第2の辺132側の部分がステータコア1aの外周側に同じ方向に複数回(第1実施形態では2回)折り曲げられることにより、他方側のコイルエンドの端辺(連結部33、図2参照)となる予定の辺である。そして、第1の辺131(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の下方に位置する下底)の長さL11は、第2の辺132(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の上方に位置する上底)の長さL12よりも小さくなるように構成されている。」と記載されている。
この記載の、第1の辺131(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の下方に位置する下底)の長さL11、及び、第2の辺132(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の上方に位置する上底)の長さL12は、訂正後の請求項7の、「第1の辺の長さ」及び「第2の辺の長さ」に相当するから、願書に添付した明細書には、訂正事項2の「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」ことが記載されており、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(d)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項7について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項7に係る訂正事項2に関して、第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

ウ 訂正事項3
(a)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項8の「略面一になるように構成されている」を、「略面ーになるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている。」に訂正するもので、第1の辺の長さが、第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されているという特徴を付加することで、訂正後の請求項8に係る発明は、コイル製造用巻線部材の第1の辺側の部分および第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げるだけで、コイルエンドを備えたコイルを容易に形成することができるという効果を奏することを明確にしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とすると共に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
願書に添付した明細書の段落【0039】には「図7に示すように、U相コイル30を製造するためのコイル製造用巻線部材130は、互いに対向する第1の辺131および第2の辺132と、第1の辺131および第2の辺132を連結する第3の辺133および第4の辺134とを備える。また、第1の辺131、第2の辺132、第3の辺133および第4の辺134は、略逆台形形状を構成するように配置されている。なお、略逆台形形状を有するコイル製造用巻線部材130の4つの角部は、円弧形状を有する。ここで、第1実施形態では、第1の辺131は、コイル製造用巻線部材130の第1の辺131側の部分がステータコア1aの内周側に1回折り曲げられることにより、ステータコア1aの内周側に配置される一方側のコイルエンドの端辺(連結部36、図2参照)となる予定の辺である。また、第2の辺132は、コイル製造用巻線部材130の第2の辺132側の部分がステータコア1aの外周側に同じ方向に複数回(第1実施形態では2回)折り曲げられることにより、他方側のコイルエンドの端辺(連結部33、図2参照)となる予定の辺である。そして、第1の辺131(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の下方に位置する下底)の長さL11は、第2の辺132(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の上方に位置する上底)の長さL12よりも小さくなるように構成されている。」と記載されている。
この記載の、第1の辺131(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の下方に位置する下底)の長さL11、及び、第2の辺132(略逆台形形状のコイル製造用巻線部材130の上方に位置する上底)の長さL12は、訂正後の請求項8の、「第1の辺の長さ」及び「第2の辺の長さ」に相当するから、願書に添付した明細書には、訂正事項8の「前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」ことが記載されており、訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(d)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の請求項8について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項8に係る訂正事項3に関して、第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の独立特許要件は適用されない。

(3)むすび
したがって、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第7項の規定に適合するので、本件訂正を認める。

3.特許異議の申立について
(1)本件発明
本件訂正により訂正された請求項1-8に係る発明(以下、請求項順に「本件発明1」、「本件発明2」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1-8に記載された以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ステータコアのスロットに巻回されるコイルを製造するためのコイル製造用巻線部材であって、
互いに対向する第1の辺および第2の辺と、
前記第1の辺および前記第2の辺を連結する第3の辺および第4の辺とを備え、
前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方は、前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分および前記第2の辺側の部分の少なくとも一方が折り曲げられることにより、コイルエンドの端辺となる予定の辺であり、
前記コイルエンドの端辺となる予定の辺である前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方は、前記コイルエンドの端辺を構成した後の外周側の側端部が略面一になるように、外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられており、
前記第3の辺および前記第4の辺の外周側および内周側の側端部は、略面一になるように構成されており。
前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている、コイル製造用巻線部材。
【請求項2】
前記コイル製造用巻線部材は、前記コイルエンドの端辺となる予定の辺である前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の前記側端部が外周側にずれている帯状のエッジワイズコイルである、請求項1に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項3】
複数の前記スロットに分布して巻回される分布巻用のコイルを製造するための、前記コイルエンドの端辺となる予定の辺である前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の前記側端部が外周側にずれるように構成されている前記コイル製造用巻線部材である、請求項1または2に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項4】
前記第1の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分が前記ステータコアの内周側に1回折り曲げられることにより一方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺であり、
前記第2の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第2の辺側の部分が前記ステータコアの外周側に同じ方向に複数回折り曲げられることにより他方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺である、請求項1?3のいずれか1項に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項5】
前記第1の辺、前記第2の辺、前記第3の辺および前記第4の辺は、略逆台形形状を構成するように配置されており、
前記コイル製造用巻線部材が折り曲げられて前記コイルエンドの端辺を構成する予定の、前記略逆台形形状の上方に位置する上底および下方に位置する下底の少なくとも一方の外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられている、請求項1?4のいずれか1項に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項6】
前記第1の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分が前記ステータコアの内周側に1回以上折り曲げられることにより、前記ステータコアの内周側に配置される前記一方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺であり、
前記第2の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第2の辺側の部分が前記ステータコアの外周側に1回以上折り曲げられるか、または、折り曲げられないことにより、前記ステータコアの外周側に配置される前記他方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺である、請求項1?3のいずれか1項に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項7】
ステータコアのスロットに巻回されるコイルを備える回転電機の製造方法であって、
互いに対向する第1の辺および第2の辺と、前記第1の辺および前記第2の辺を連結する第3の辺および第4の辺とを備え、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられており、前記第3の辺および前記第4の辺の外周側および内周側の側端部は、略面一になるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の年の長さよりも小さくなるように構成されているコイル製造用巻線部材を準備する工程と、
前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分および前記第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げることによって、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方により、外周側の側端部が略面一であるコイルエンドの端辺を形成する工程とを備える、回転電機の製造方法。
【請求項8】
ステータコアのスロットに巻回されるコイルを製造するためのコイルの製造方法であって、互いに対向する第1の辺および第2の辺と、前記第1の辺および前記第2の辺を連結する第3の辺および第4の辺とを備え、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられており、前記第3の辺および前記第4の辺の外周側および内周側の側端部は、略面一になるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されているコイル製造用巻線部材を準備する工程と、
前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分および前記第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げることによって、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方により、外周側の側端部が略面一であるコイルエンドの端辺を形成する工程とを備える、コイルの製造方法。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1-3、6-8に係る特許に対して平成29年1月30日付で通知した取消理由は、要旨以下のとおりである。
「1.本件特許の請求項1-3、6-8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記の甲第1号証に記載された発明であるから、本件の請求項1-3、6-8に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。

2.本件特許の請求項1-3、6-8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1-3、6-8に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


甲第1号証:国際公開第2011/155083号
甲第2号証:国際公開第2011/142264号

[理由1](特許法第29条第1項第3号)
(1)請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(2)請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(3)請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(4)請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(5)請求項7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
(6)請求項8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。
[理由2](特許法第29条第2項)
(1)請求項1,2に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が容易に想到し得たものである。
(2)請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が容易に想到し得たものである。
(3)請求項6に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて、もしくは、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証の記載事項を適用することで、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が容易に想到し得たものである。
(4)請求項7、8に係る発明は、甲第1号証に記載の発明に基づいて、この発明の属する分野において通常の知識を有する者が容易に想到し得たものである。」

(3)甲号証の記載
甲第1号証(国際公開第2011/155083号)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
・「本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、平角導線を用いた分布巻きコイルを軸心方向から容易にスロット内に挿入できる低コストのモータを提供することを目的とする。」([0006])
・「基準ユニット11,12の製造方法は、巻取り工程、外周形成工程、円弧形成工程、レーンチェンジ部形成工程、及び折り曲げ工程を有している。 図9に、基準ユニット11,12の製造工程のうち、巻取り工程により巻き取られたコイル21の平面図を示す。使用している平角導線は、断面が約1mm×約10mmである。」([0024])
・「次に、レーンチェンジ部形成工程について説明する。図13に示す第3中間コイル23の凸状部Gに、レーンチェンジ部GA、レーンチェンジ部GBを形成する工程である。図16に示すように、下型41、下型44と、段差のある上型42、上型43とで、コイル23を挟み込むことにより、レーンチェンジ部GAとレーンチェンジ部GBとを同時に形成する。すなわち、下型41と上型42とで挟持されたコイル23部分に対して、下型44と上型43とで挟持されたコイル23部分を上下方向に移動することにより、レーンチェンジ部GA、GBが形成される。図15にレーンチェンジ部GA、GBが形成されたコイル24を示す。
次に、折り曲げ工程について説明する。
図17に示すように、移動型51に、コイル24を把持させる。移動型51は、固定型52に対して、移動可能に保持されている。次に移動型51が固定型52に対して移動することにより、図18に示すように、折り曲げ部JAと折り曲げ部JBが形成される。
図15に示すコイル24においては、半円部Hと水平部FAとは、フラットワイズの長さ分ずれている。また、スロット内導線部SAと水平部FAとのなす角度は、平角導線毎に異なる角度で形成されている。
これらのずれ、異なる角度があることにより、折り曲げ部JA、JBが形成された後では、図1-図4に示すように、半円部Hと水平部FAとは、重ね合わされて、径方向において一致した位置に形成される。」([0026]、[0027])

そうすると、甲第1号証には、軸心方向から容易にスロット内に挿入できるコイルの製造工程が示されている。
しかし、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき、「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」ことは記載されていない。

甲第2号証(国際公開第2011/142264号)には、図面と共に、以下の事項が記載されている。
・「図3及び図4に示すように、コイル30は、断面が長方形の均一な幅のコイル線(平角線)を所定の形状に巻回して形成される。コイル線は絶縁被覆されている。コイル30は、2つのスロット12内に挿入される一対の挿入部31(第1挿入部及び第2挿入部)と、両挿入部31の第1端に連続する第1コイルエンド部32と、両挿入部31の第2端に連続する第2コイルエンド部33とを有する。図1(b)に示すように、両挿入部31は、スロット12内に挿入可能となるように断面矩形状に整列巻きされて形成されている。また、図3に示すように、第1コイルエンド部32は、第1起立部32aと第1渡り部32bとを備えている。第1起立部32aは、両挿入部31からステータコア11の半径方向に沿ってステータコア11の半径方向外側となる方に向けて延びる。第1渡り部32bは、両第1起立部32a同士を繋ぐようにステータコア11の周方向に沿って弧状に延びる。
また、コイル30において、第2コイルエンド部33は、挿入部31からステータコア11の半径方向内側となる方に向けて延びる第2起立部33aを備えるとともに、両第2起立部33a同士を繋ぐようにステータコア11の周方向に沿って延びる第2渡り部33bを備えている。そして、第2渡り部33bにおいて、ステータコア11の半径方向に沿った積層厚さは、スロット12の幅方向に沿った積層厚さと同じになっている。」([0017]、[0018])

そうすると、甲第2号証には、スロット12内に挿入可能となるように断面矩形状に整列巻きされて形成されているコイル線が示されている。
しかし、コイル線の互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき、「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」ことは記載されていない。

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)[理由1](特許法第29条第1項第3号)について
(本件発明1について)
本件発明1は、甲第1号証に記載のない、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有するものであり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
(本件発明2、3、6について)
本件発明2、3、6は、本件発明1にさらに他の構成要素を付加したものに相当するから、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有しており、本件発明2、3、6は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
(本件発明7について)
本件発明7は、甲第1号証に記載のない、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有するものであり、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
(本件発明8について)
本件発明8は、甲第1号証に記載のない、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有するものであり、本件発明8は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(イ)[理由2](特許法第29条第2項)について
(本件発明1について)
本件発明1は、甲第1号証に記載のない、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有することで、コイル製造用巻線部材の第1の辺側の部分および第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げるだけで、コイルエンドを備えたコイルを容易に形成することができるという顕著な効果を奏するものであり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(本件発明2、3、6について)
本件発明2、3、6は、本件発明1にさらに他の構成要素を付加したものに相当するから、本件発明1と同様、甲第1号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件発明6、甲第2号証の記載事項の適用について)
甲第2号証にも、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項は記載されていない。
本件発明6は、本件発明1にさらに他の構成要素を付加したものに相当するから、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有することで、コイル製造用巻線部材の第1の辺側の部分および第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げるだけで、コイルエンドを備えたコイルを容易に形成することができるという顕著な効果を奏するものであり、本件発明6は、甲第1号証に記載の発明に甲第2号証の記載事項を適用したとしても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(本件発明7について)
本件発明7は、甲第1号証に記載のない、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有することで、コイル製造用巻線部材の第1の辺側の部分および第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げるだけで、コイルエンドを備えたコイルを容易に形成することができるという顕著な効果を奏するものであり、本件発明7は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(本件発明8について)
本件発明8は、甲第1号証に記載のない、コイルの互いに対向する第1の辺及び第2の辺につき「前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている」という事項を有することで、コイル製造用巻線部材の第1の辺側の部分および第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げるだけで、コイルエンドを備えたコイルを容易に形成することができるという顕著な効果を奏するものであり、本件発明8は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由により、本件請求項1-3、6-8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1-8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアのスロットに巻回されるコイルを製造するためのコイル製造用巻線部材であって、
互いに対向する第1の辺および第2の辺と、
前記第1の辺および前記第2の辺を連結する第3の辺および第4の辺とを備え、
前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方は、前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分および前記第2の辺側の部分の少なくとも一方が折り曲げられることにより、コイルエンドの端辺となる予定の辺であり、
前記コイルエンドの端辺となる予定の辺である前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方は、前記コイルエンドの端辺を構成した後の外周側の側端部が略面一になるように、外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられており、
前記第3の辺および前記第4の辺の外周側および内周側の側端部は、略面一になるように構成されており、
前記第1の辺の長さは、前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されている、コイル製造用巻線部材。
【請求項2】
前記コイル製造用巻線部材は、前記コイルエンドの端辺となる予定の辺である前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の前記側端部が外周側にずれている帯状のエッジワイズコイルである、請求項1に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項3】
複数の前記スロットに分布して巻回される分布巻用のコイルを製造するための、前記コイルエンドの端辺となる予定の辺である前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の前記側端部が外周側にずれるように構成されている前記コイル製造用巻線部材である、請求項1または2に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項4】
前記第1の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分が前記ステータコアの内周側に1回折り曲げられることにより一方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺であり、
前記第2の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第2の辺側の部分が前記ステータコアの外周側に同じ方向に複数回折り曲げられることにより他方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺である、請求項1?3のいずれか1項に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項5】
前記第1の辺、前記第2の辺、前記第3の辺および前記第4の辺は、略逆台形形状を構成するように配置されており、
前記コイル製造用巻線部材が折り曲げられて前記コイルエンドの端辺を構成する予定の、前記略逆台形形状の上方に位置する上底および下方に位置する下底の少なくとも一方の外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられている、請求項1?4のいずれか1項に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項6】
前記第1の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分が前記ステータコアの内周側に1回以上折り曲げられることにより、前記ステータコアの内周側に配置される前記一方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺であり、
前記第2の辺は、前記コイル製造用巻線部材の前記第2の辺側の部分が前記ステータコアの外周側に1回以上折り曲げられるか、または、折り曲げられないことにより、前記ステータコアの外周側に配置される前記他方側のコイルエンドの端辺となる予定の辺である、請求項1?3のいずれか1項に記載のコイル製造用巻線部材。
【請求項7】
ステータコアのスロットに巻回されるコイルを備える回転電機の製造方法であって、
互いに対向する第1の辺および第2の辺と、前記第1の辺および前記第2の辺を連結する第3の辺および第4の辺とを備え、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられており、前記第3の辺および前記第4の辺の外周側および内周側の側端部は、略面一になるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されているコイル製造用巻線部材を準備する工程と、
前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分および前記第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げることによって、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方により、外周側の側端部が略面一であるコイルエンドの端辺を形成する工程とを備える、回転電機の製造方法。
【請求項8】
ステータコアのスロットに巻回されるコイルを製造するためのコイルの製造方法であって、互いに対向する第1の辺および第2の辺と、前記第1の辺および前記第2の辺を連結する第3の辺および第4の辺とを備え、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方の外周側の側端部が、外周側にずれるように巻き重ねられており、前記第3の辺および前記第4の辺の外周側および内周側の側端部は、略面一になるように、且つ、前記第1の辺の長さが前記第2の辺の長さよりも小さくなるように構成されているコイル製造用巻線部材を準備する工程と、
前記コイル製造用巻線部材の前記第1の辺側の部分および前記第2の辺側の部分の少なくとも一方を折り曲げることによって、前記第1の辺および前記第2の辺の少なくとも一方により、外周側の側端部が略面一であるコイルエンドの端辺を形成する工程とを備える、コイルの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-13 
出願番号 特願2013-56296(P2013-56296)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (H02K)
P 1 652・ 121- YAA (H02K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安池 一貴  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 遠藤 尊志
矢島 伸一
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5920258号(P5920258)
権利者 株式会社安川電機
発明の名称 コイル製造用巻線部材、コイル、回転電機およびコイルの製造方法  
代理人 益田 博文  
代理人 益田 博文  
代理人 益田 弘之  
代理人 益田 弘之  

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