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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1335149
異議申立番号 異議2016-700684  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-04 
確定日 2017-11-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5861222号発明「印刷方法およびインクジェット吐出装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5861222号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5861222号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5861222号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成23年9月29日に特許出願され、平成28年1月8日に特許権の設定登録がされ、同年2月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?4及び請求項6に係る特許について、同年8月4日に特許異議申立人伊村友彰(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年11月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月5日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年2月16日に特許異議申立人から意見書が提出され、同年5月2日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年7月10日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年8月23日に異議申立人から意見書が提出されたものである。
なお、平成29年1月5日になされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
平成29年7月10日になされた訂正請求による訂正(以下、当該訂正請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正するものであって、訂正事項1?5からなり、その内容は次のア?オのとおりである(下線は、当審において付与した。以下同じ。)。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、
「ラテックスインクをマルチパスのインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、」とあるのを、
「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクをマルチパスのインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、」と訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、
「前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる加熱工程と、」とあるのを、
「前記転写媒体を加熱して、水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインクの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる加熱工程と、」と訂正する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5において、
「前記転写工程は、前記転写媒体を外壁部として取り付け可能もしくは外壁部の内側に取り付け可能であると共に内容積の変化に応じて該外壁部が変形もしくは移動可能であり、且つ該転写媒体が取り付けられた状態で気密保持が可能な筺体を準備し、
前記筺体の内部に、前記印刷対象物を格納し、
前記転写媒体を、前記インク塗布面を前記印刷対象物に向けて前記筺体の外壁部としてもしくは外壁部の内側に取り付けて、
前記筺体の内部を減圧することによって、該筺体の内容積が減少するように前記外壁部を該筺体の内方へ変形もしくは移動させて、前記転写媒体のインク塗布面を前記印刷対象物に密着させることで、該転写媒体上の前記ラテックスインクを該印刷対象物上に転写すること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。」とあるのを、
「ラテックスインクをマルチパスのインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、
前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる加熱工程と、
前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に該印刷対象物上に転写する転写工程と、
前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施され、
前記転写工程は、前記転写媒体を外壁部として取り付け可能もしくは外壁部の内側に取り付け可能であると共に内容積の変化に応じて該外壁部が変形もしくは移動可能であり、且つ該転写媒体が取り付けられた状態で気密保持が可能な筺体を準備し、
前記筺体の内部に、前記印刷対象物を格納し、
前記転写媒体を、前記インク塗布面を前記印刷対象物に向けて前記筺体の外壁部としてもしくは外壁部の内側に取り付けて、
前記筺体の内部を減圧することによって、該筺体の内容積が減少するように前記外壁部を該筺体の内方へ変形もしくは移動させて、前記転写媒体のインク塗布面を前記印刷対象物に密着させることで、該転写媒体上の前記ラテックスインクを該印刷対象物上に転写すること
を特徴とする印刷方法。」
に訂正する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6において、
「請求項1?5のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記ラテックスインクをインクジェット液滴として前記転写媒体上に噴射するインクジェットヘッドと、該転写媒体を加熱するヒータと、該ヒータの温度を制御する制御部と、を備えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。」とあるのを、
「請求項1?4のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記ラテックスインクをインクジェット液滴として前記転写媒体上に噴射するインクジェットヘッドと、該転写媒体を加熱するヒータと、該ヒータの温度を制御する制御部と、を備えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。」と訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6において、
「請求項1?5のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記ラテックスインクをインクジェット液滴として前記転写媒体上に噴射するインクジェットヘッドと、該転写媒体を加熱するヒータと、該ヒータの温度を制御する制御部と、を備えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。」とあるのを、
「請求項5に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記ラテックスインクをインクジェット液滴として前記転写媒体上に噴射するインクジェットヘッドと、該転写媒体を加熱するヒータと、該ヒータの温度を制御する制御部と、を備えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。」と訂正し、請求項7とする。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
(ア)上記訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「ラテックスインクをマルチパスのインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程」における「ラテックスインク」を、少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたものに限定するものである。したがって、上記訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正後の請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2?4,6についても同様である。
(イ)上記(ア)から明らかなように、上記訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)上記訂正事項1に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0020】には、「本実施形態に係るインクには、水と溶剤に熱可塑性樹脂と必要に応じて添加した色材を分散したエマルション(乳濁液)もしくはサスペンション(懸濁液)型インク(以下、これらを総称して「ラテックスインク」という)を用いる。」と記載されていることから、「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインク」は、本件特許の明細書に記載されているものと認められる。
よって、上記訂正事項1に係る訂正は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

イ 訂正事項2について
(ア)上記訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1の「前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる加熱工程」について、ラテックスインクの粘度が、水と溶媒とを蒸発させることを原因として、ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる態様のものに限定するものである。したがって、上記訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正後の請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2?4,6についても同様である。
(イ)上記(ア)から明らかなように、上記訂正事項2に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(ウ)上記訂正事項2に関し、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】には、「上記ラテックスインクは、後述の加熱工程において水と溶剤を蒸発させることによって、粘度を上昇させることができる。」と記載され、段落【0033】には、「一方、加熱工程では、ラテックスインクを加熱して、ラテックスインク中に含まれる水と溶剤を蒸散させること等により増粘させる。・・・当該ラテックスインクを加熱して、水と溶剤を所定量蒸発させることにより所望の粘度まで増粘している。」と記載され、段落【0041】には、「次いで、ヒータを用いて転写シート10上のラテックスインクを加熱して水と溶剤とを蒸発させることにより乾燥させる加熱工程を実施する。このとき、ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度に水と溶剤とを蒸発させて粘度を調整する。」と記載されていることから、「前記転写媒体を加熱して、水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインクの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる加熱工程」は、本件特許の明細書に記載されているものと認められる。
よって、上記訂正事項2に係る訂正は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

ウ 訂正事項3について
(ア)上記訂正事項3に係る訂正は、訂正前の請求項5が請求項1の記載を引用する記載であるところ、その引用関係を解消して、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。
(イ)上記(ア)から明らかなように、上記訂正事項3に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記訂正事項3に係る訂正は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

エ 訂正事項4について
(ア)上記訂正事項4に係る訂正は、請求項6の従属先を「請求項1?5」から「請求項1?4」へと絞る補正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)上記(ア)から明らかなように、上記訂正事項4に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記訂正事項4に係る訂正は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

オ 訂正事項5について
(ア)上記訂正事項5に係る訂正は、従属先を特許異議申立ての対象となっていない請求項5とする請求項6を請求項7として、不合理が生じないようにするものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(イ)上記(ア)から明らかなように、上記訂正事項5に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記訂正事項5に係る訂正は、本件特許の明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

カ 訂正における一群の請求項の存否
訂正事項1?訂正事項5に係る本件訂正前の請求項1?6について、請求項2?6はそれぞれ請求項1の記載を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。そして、本件訂正後の請求項1?5は、本件訂正前の請求項1?5にそれぞれ対応し、本件訂正後の請求項6は、本件訂正前の請求項6のうち請求項1?4の記載を引用するものに対応し、本件訂正後の請求項7は、本件訂正前の請求項6のうち請求項5の記載を引用するものに対応している。
したがって、本件特許の請求項1?7に係る訂正の請求は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正を認める。

3.取消理由についての判断
(1)本件発明
本件訂正後の請求項1?4,6に係る発明(以下、「本件発明1?4,6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4,6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクをマルチパスのインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、
前記転写媒体を加熱して、水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインクの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる加熱工程と、
前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に該印刷対象物上に転写する転写工程と、
前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施されること
を特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記ラテックスインクは、前記加熱工程を実施した後の状態において熱可塑性を有し、
前記転写工程は、前記転写媒体を加熱しながら該転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで該印刷対象物上に転写すること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項3】
前記加熱工程によって増粘した前記ラテックスインクの粘度が25℃において100mPa・sec?200000mPa・secであること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項4】
前記転写工程は、前記インク塗布面を前記印刷対象物に向けて配置した前記転写媒体を該インク塗布面とは逆側から押圧部材で押圧することによって、該インク塗布面を前記印刷対象物に密着させることで、該転写媒体上の前記ラテックスインクを該印刷対象物上に転写すること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。」
「【請求項6】
請求項1?4のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記ラテックスインクをインクジェット液滴として前記転写媒体上に噴射するインクジェットヘッドと、該転写媒体を加熱するヒータと、該ヒータの温度を制御する制御部と、を備えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。」

(2) 平成29年5月2日付けの取消理由の概要
「本件特許の請求項1?4,6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

引用例1:特開2003-26962号公報(甲第1号証)
引用例2:特開2010-120222号公報(甲第2号証)
引用例3:特開2006-96932号公報(甲第3号証)
引用例4:特開2010-221552号公報(甲第4号証)」

(3)引用例及びその記載事項
ア 引用例1
引用例1には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 記録剤、これを溶解又は分散する液媒体、及び30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物を含むインクであって、加熱した被記録媒体上に付着するとインクの粘度が増加することを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】 記録剤及びこれを溶解又は分散する液媒体を含む第1の液体と、30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物を含む第2の液体とを混合してなるインクであって、加熱した被記録媒体上に付着するとインクの粘度が増加することを特徴とするインクジェットインク。
【請求項3】 前記加熱した被記録媒体の温度が30?70℃の間の範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェットインク。
【請求項4】 請求項1記載のインクジェットインクを使用して、加熱保持した中間転写媒体上に画像を記録した後、該画像を最終記録媒体に再転写することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項5】 請求項2記載のインクジェットインクを使用して、加熱保持した中間転写媒体上に画像を記録した後、該画像を最終記録媒体に再転写することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】 前記加熱保持した中間転写媒体の温度が30?70℃の間の範囲であることを特徴とする請求項4又は5記載のインクジェット記録方法。
【請求項7】 インクを収容したインク収容部と、該インクをインク滴として吐出させるためのヘッド部を有する記録ユニットを備えたインクジェット記録装置であって、インクとして少なくとも記録剤、これを溶解又は分散する液媒体、非造膜ラテックス及び増粘性樹脂を含むインク液を使用して加熱保持した中間転写媒体上に画像を記録する手段と、該中間転写媒体上の画像を最終記録媒体に再転写する手段とを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項8】 インクを収容したインク収容部と、該インクをインク滴として吐出させるためのヘッド部を有する記録ユニットを備えたインクジェット記録装置であって、インクとして記録剤及びこれを溶解又は分散する液媒体を含む第1の液体と、非造膜ラテックス及び増粘性樹脂を少なくとも含む第2の液体を使用して加熱保持した中間転写媒体上に付着させて画像を記録する手段と、該中間転写媒体上の画像を最終記録媒体に再転写する手段とを備えたことを特徴とするインクジェット記録装置。」

(イ) 「【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしこのような従来の提案のものでは、次のような問題があった。即ち上記2つの特許では、プルーフ用途としてインクジェットを使用する場合、専用紙を使用しなければならないということである。色校正用途としては印刷本紙対応の要望が高いが、油性インクを受容する用途の印刷本紙に水性インクで画像を形成すると滲みや定着性、又用紙のコックリングによる搬送性の観点から上記の従来技術では困難であった。
【0011】本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は印刷本紙でも滲まずに定着させて発色性が良好な画像を得ることが出来、又コックリングによるジャムの発生を抑えて画像を形成することが出来るインクジェットインク、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は以下の構成により達成された。
【0013】1.記録剤、これを溶解又は分散する液媒体、及び30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物を含むインクであって、加熱した被記録媒体上に付着するとインクの粘度が増加することを特徴とするインクジェットインク。」

(ウ) 「【0022】以下、本発明について詳述する。
(請求項1のインク)本発明を実施するに際し、以下に述べる30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物(液粘度増加化合物)が本質的作用を及ぼすので、まずこれについて説明する。
【0023】本発明における液粘度増加化合物としては、例えば高分子論文集、Vol.38、p133(1981)に記載されている水溶性セルロースエーテルが挙げられる。
【0024】これら水溶性セルロースエーテルの水溶液の特徴は、水溶性セルロースエーテルの溶解度の温度係数が負であるために、昇温及び降温に伴って高分子ミクロゲルが可逆的に水相からの分離、水相への溶解を繰り返すことにある。このミクロゲルの水相からの分離が起こると水溶液の粘度は、急激に低下する。即ち、低温の溶液では分子は水和しており、単純な絡み合い以外のポリマー同士の相互作用はなく、温度上昇に伴い水和した水をポリマーが放出する脱水過程が起こり、溶液物性の変化として粘度低下が起こる。液粘度増加化合物の種類によっては、この溶液を冷却した場合、粘度変化の過程がヒステリシスを持つものもある。これらの物質を本発明に応用した場合の作用について詳細なことは明らかではないが、水相からこれらの物質が分離したときに記録剤を同時に取り込んでしまう作用によるものと考えられる。
【0025】又インク中における液粘度増加化合物の前述した作用を更に詳細に説明すると、水相からの固形分の分離はインクが紙に着弾した後に溶剤成分が速やかに被記録媒体中に浸透することを助けるものであり、高速定着性に寄与する。同時に液粘度増加化合物の凝集作用により記録剤の大きなフロックが形成され染料等の記録剤の浸透速度を抑制する効果が発生し、インクが紙中に深く浸透しすぎることなく色材が紙表面近傍に残り発色性が損なわれない。又、インクの深さ方向の浸透が抑制されるだけでなく同時に横方向の広がりも抑制されるので、フェザリング、文字太り等の印字品位が低下せず、エッジのシャープな印字が実現される。同様の理由から、フルカラー画像を形成した場合にもカラーインク同士の混色によるにじみ(ブリーディング)を抑制することが可能であり、しかも定着性の良好なカラーインクジェット記録が可能となる。
・・・(中略)・・・
【0027】次に好ましい実施態様を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明で使用される液粘度増加化合物としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシブトキシル変性メチルセルロース/ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテル、水溶性ポリビニルアセタール等が挙げられるが、特にこれらに限定されるわけではない。
・・・(中略)・・・。
【0033】本発明で使用するインクは、記録剤とともに上記の液粘度増加化合物、記録剤を溶解又は分散する液媒体を少なくとも含有することを特徴とするが、その他の構成成分として水、界面活性剤の他、各種の分散剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、防かび剤、pH調整剤等の添加剤から構成される。
【0034】インクに使用可能な記録剤としては、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料、分散染料、建染染料、可溶性建染染料、反応分散染料、油性染料、顔料が挙げられる。
【0035】これら記録剤の含有量は液媒体成分の種類、インクに要求される特性等に依存して決定されるが、一般的にはインク全質量に対して0.2?20質量%、好ましくは0.5?10質量%、より好ましくは1?5質量%を占める割合である。
【0036】本発明で使用可能な液媒体としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリン付加重合体、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、ヘキシレングリコール等のアルキレングリコール類、チオジグリコール、グリセリン、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコール低級アルキルエーテル類、トリエチレングリコールジメチル(又はジメチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はジエチル)エーテル等の多価アルコール類の低級ジアルキルエーテル類、スルホラン、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0037】上記液媒体の含有量は、一般にはインクの全質量に対して1?50%、好ましくは2?30%の範囲である。
【0038】上記液媒体は単独でも混合物としても使用できるが、最も好ましい液媒体組成は水と1種以上の有機溶剤からなり、該溶剤が少なくとも1種以上の水溶性高沸点溶剤、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコールを含有するものである。
・・・(中略)・・・
【0041】本発明では上述したインクを使用してインクジェット記録を行うが、このとき同時に記録媒体(場合により中間転写媒体)の温度を上記インクが分散状態になり固液分離が起こる温度に加熱保持されていることが必要である。被記録媒体の温度とは、最小限インクジェット記録が行われる被記録媒体の表面温度のことを指す。
・・・(中略)・・・
【0044】
・・・(中略)・・・
(請求項2のインク)当該インクは記録剤及びこれを溶解又は分散する液媒体を含んでなる第1の液体と、30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物を含んでなる第2の液体とを混合してなることを特徴としており、以下に詳述する。
【0045】ここで用いる第1の液体は記録剤として着色成分を含有する。該着色成分としては、通常用いられる水溶性染料、油溶性染料及び有機、無機顔料を使用した染料溶液、顔料溶液、水性エマルジョンインク、非水性エマルジョンインク、これら着色剤をマイクロカプセル化したインク、樹脂表面に官能基(アミノ基、カルボキシル基、水酸基、エポキシド基等)を導入した着色剤含有樹脂エマルジョン、界面活性剤水溶液(アニオン、カチオン、ノニオン)等を使用することができる。
・・・(中略)・・・
【0047】又、着色剤を含有する樹脂エマルジョンは、一般的なエマルジョン、自己架橋型・架橋型の反応性エマルジョン、アクリル酸又はメタクリル酸のような不飽和酸モノマーを共重合してラテックスポリマーをカルボキシル化することによって与えられるアルカリ増粘型エマルジョン等が使用される。アルカリ増粘は、アルカリ添加によりラテックス粒子が膨潤し、粒子表面が溶解して増粘する性質を利用する。又、マイクロカプセル化したインクとしては、前記樹脂エマルジョンの周りに着色剤を皮膜化・固定化させたり、樹脂中に着色剤を含浸させたりしたものが使用される。
【0048】第2の液体の液粘度増加化合物としては、上述の水溶性セルロースエーテル、水溶性ポリビニルアセタールの他に、・・・(中略)・・・増粘するものが使用できる。」

(エ) 「【0053】次にインクジェット記録方法及びインクジェット記録装置について詳述する。本発明のインクジェット記録装置は、上述したインク、その他を収容したインク収容部と、該インク等をインク滴として吐出させるためのヘッド部を有する記録ユニットを備え、加熱保持した中間転写媒体上に画像を記録する手段と、該中間転写媒体上の画像を最終記録媒体に再転写する手段とを備えている。
【0054】このインクジェット記録装置には、インクとして少なくとも記録剤、これを溶解又は分散する液媒体、非造膜ラテックス及び増粘性樹脂を含むインク液が使用される。又別の態様では、インクとして記録剤及びこれを溶解又は分散する液媒体を含んでなる第1の液体と、非造膜ラテックス及び増粘性樹脂を少なくとも含む第2の液体も使用される。
【0055】ここで使用される非造膜ラテックスとしては低分子量のポリエチレンのエマルジョン、タッキファイヤー等が挙げられ、又増粘性樹脂としてはアクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、熱ゲル化化合物である上述した液粘度増加化合物(セルロース系樹脂)等が挙げられる。
【0056】図2に本発明のインクジェット記録装置における記録手段の一態様の断面図を示す。この記録装置は4色のインクを用いることにより、フルカラーを表現するものである。インクは、それぞれブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの4色のインクからなる。
【0057】まず、図2(a)について説明する。インクジェット方式の記録ヘッド22が、プラテン21と対峙した位置に、プラテンの軸方向に移動するキャリッジ装置に搭載され、プラテン21には押さえローラ23と24が接していて、中間転写媒体25をプラテン21に沿わせている。プラテン21は、アルミニウム製の素管の周囲に、表面層としてシリコーンゴムなどを積層したものであり、図示しない駆動装置により回転する。記録ヘッド22は圧電素子を用いる形式のインクジェット記録ヘッドであり、1色につき32ノズルからなるカラーインク用ノズルを、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色分有しており、それぞれ任意のマトリクスで配置されている。そして、それぞれのノズルは、図示しない演算装置に与えられた印字データに基づき、図示しないヘッド駆動装置による電気信号でインクを吐出する。尚、インクは4色のインクが別々の部屋に注入されているインク容器221より供給される。
【0058】押さえローラ23は鋼製の芯材にアクリルニトリルゴムで形成したゴムローラであり、プラテン21に接しており、プラテン21の回転に従動する。押さえローラ24は鋼製の芯材にナイロン糸を植毛したローラであり、プラテン21に軽く接するとともに、プラテン21より僅かに早い速度で回転する。
【0059】次に、動作について説明する。印字動作開始に当たって、図示しない給紙装置によって、プラテン21と押さえローラ23の間に中間転写媒体25が送り込まれ、プラテン21と押さえローラ24が所定量回転することで、中間転写媒体25を記録ヘッド22の直下に位置させるとともに、中間転写媒体25をプラテン21に密着させる。インク容器221よりインクが供給された記録ヘッド22は、そのノズルから、キャリッジの移動と印字パターンに従って、選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体25上にインク像の書き込みを行なう。そのとき、個々のインク滴が被記録媒体上で、着色樹脂粒子と溶媒が分離し、着色樹脂粒子を固定させる為、次のドットが重ねれられるまでの時間差が少なくとも2秒になるように、キャリッジ移動とインクの吐出周波数及びノズル配列を調整している。プラテン21と押さえローラ24の所定量の回転と、キャリッジ移動による印字を繰り返すことで、記録紙全体への印字を行った後、図示しない排紙トレイに記録紙を排出し、印字終了とする。
【0060】次に、図2(b)について説明する。図2(b)では、像の書き込み時に中間転写媒体25を加熱し、着色樹脂粒子と溶媒の分離速度をより早くすることが可能である。プラテン21の内部にヒーター26を配置し、プラテン21を図示しない温度感知手段と図示しないヒーター制御手段により加熱し、表面温度がインク中の着色樹脂粒子と溶媒の分離速度アップができる温度になるように制御している。ここでは、プラテン21の温度が30?70℃になるよう制御されている。又、この記録方法ではプラテン温度30?70℃に対し、キャリッジ移動速度510mm/秒でインク吐出周波数12kHzとし、次のドットが重ねられるまでの時間差が2秒である例を示したがこれに限定されるものではなく、より高い温度においてはより早い速度での書き込みも可能であり、他の様々な組み合わせが可能である。又インク中の溶媒の浸透性は、インク成分に影響されるため、インク成分を変えれば温度と速度の組み合わせも変える必要性がある。好ましいプラテン温度は、十分な書き込み速度を確保し、かつ過大なエネルギー消費を防ぐため、50℃?100℃が好ましく、更には50?70℃が好ましい。」

(オ) 「【0063】次に、中間転写媒体を利用した画像形成装置の説明を行う。画像形成装置として、例えば図3に示すものが知られている。図3は、本発明の画像形成装置の主要構成を模式的に示す模式図である。
【0064】画像形成装置30は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の加熱溶融インク(ホットメルトインク)によってカラー画像を形成するものである。画像形成装置30には、図示しないモータによって駆動する駆動ローラ31と、この駆動ローラ31と一定間隔を隔てて対向するテンションローラ32とを備えており、駆動ローラ31及びテンションローラ32の周囲には、エンドレスの中間転写媒体33が巻き掛けられている。中間転写媒体33の右側下方には、最終記録媒体である記録用紙Pを案内すると共に、それを加熱する用紙ヒータ34が設けられている。
【0065】前記中間転写媒体33の上側部分であって前記中間転写媒体33に対向する箇所には、インクジェットヘッド35が設けられている。インクジェットヘッド35は、イエローインクを噴射するイエローヘッド35aと、マゼンタインクを噴射するマゼンタヘッド35bと、シアンインクを噴射するシアンヘッド35cと、ブラックインクを噴射するブラックヘッド35dとを有し、それらのノズル面が中間転写媒体33の上側部分の外周表面に対向するように並んで設けられている。又、前記各ヘッド35a?35dは、中間転写媒体33の幅方向に並んだノズルを有する、いわゆるラインヘッドであり、各ヘッド35a?35dから噴射される加熱溶融インクが中間転写媒体33上で重ね合わせられ、中間転写媒体33上にカラー画像が形成される。前記中間転写媒体33の上側部分の内周表面側には、中間転写媒体33を案内するガイドプレート36が設けられている。又、前記中間転写媒体33の下側部分の外周表面に対向して、圧力ローラ37が設けられており、該圧力ローラ37と対向して前記中間転写媒体33の内周表面側にはヒートローラ38が設けられている。圧力ローラ37の左側には、中間転写媒体33の外周表面に貼り付いた記録用紙Pを剥離するための剥離つめ39が設けられている。
・・・(中略)・・・
【0068】続いて、上記ヒートローラ38、又は図2で記載したような中間転写媒体を加熱保持する手段を駆動ローラ31に対して所定の位置に配置して中間転写媒体33を加熱し、中間転写媒体33の表面温度が着色樹脂粒子と溶媒の分離速度アップができる温度になるように制御している。ここでは、温度が30?70℃になるよう制御されている。
【0069】そして、図示しない給紙機構によって記録用紙Pが矢印F3で示す方向から用紙ヒータ34上に搬送され、記録用紙Pは用紙ヒータ34によって加熱されて、圧力ローラ37に向けて搬送される。記録用紙P上の転写開始位置が圧力ローラ37上に到達するタイミングとは同期するように制御される。中間転写媒体33上の加熱溶融インクは、ヒートローラ38の加熱によって軟化し、記録用紙Pは、圧力ローラ37及びヒートローラ38によって中間転写媒体33に圧接され、軟化した加熱溶融インクが記録用紙P上に転写される。そして、転写後の記録用紙Pは、剥離つめ39によって中間転写媒体33上から剥離され、矢印F4で示す方向へ搬送され、図示しない排出機構によってトレイ上へ排出される。」

(カ) 「【0070】
【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の態様はこれに限定されるものではない。なお、以下において「%」は、全て「質量%」である。
(インク液の作製)
インク液1
水性染料(C.I.フッドブラック) 2%
熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製) 15%
タッキファイヤー(エステルガムH 荒川化学製) 10%
エチレングリコール 24%
ジエチレングリコール 15%
グリセリン 7%
界面活性剤(サーフィノール104E 信越化学製) 1%
蒸留水 26%
インク液2
顔料分散液(カーボンブラック 商品名;Mogul L.キャノラック)
15%
熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製) 15%
タッキファイヤー(エステルガムH 荒川化学製) 10%
エチレングリコール 24%
ジエチレングリコール 15%
グリセリン 7%
界面活性剤(サーフィノール104E 信越化学製) 1%
蒸留水 18%
インク液3
・第1の液体
水性染料(C.I.フッドブラック) 2%
エチレングリコール 29%
ジエチレングリコール 15%
グリセリン 7%
界面活性剤(サーフィノール104E 信越化学製) 1%
蒸留水 46%
・第2の液体
熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製) 35%
プラスコートZ446(互応化学) 15%
蒸留水 50%
・・・(中略)・・・
(インクジェット記録)上記各インク液を用いて、ピエゾ振動子によってインクを吐出させる市販のオンデマンド型インクジェットプリンター装置(記録ヘッドの吐出オリフィス径50μm、ピエゾ振動子駆動電圧50V、周波数5kHz)の試作マルチヘッドから超音波霧化を利用した帯電インクミスト方式(超音波駆動周波数5kHz、駆動電圧50V)で高速記録を行った。尚、中間転写媒体は65℃に加熱した。その後、以下の評価を行い、結果を表1に示す。
(評価)
・滲み
100%べタ部の画像のエッジ部分の滲みの評価を以下の基準で行った。
【0071】
○・・・滲んでいない
△・・・目視で若干滲みが判る
×・・・かなり滲んでエッジがギザギザしている
・速乾燥性
印字後3秒後、6秒後、12秒後にエッジ部分を紙で擦り、以下の基準で評価を行った。
【0072】
○・・・3秒後で擦れなし
△・・・6秒後で擦れあり
×・・・12秒後で擦れあり
・定着性
印字部を2時間後に指で強く擦り、その状況を以下の基準で評価を行った。
【0073】
○・・・印字部が取れない
×・・・印字部が取れる
【0074】
【表1】


【0075】表1から明らかなように、インク液1?3は滲み、速乾燥性及び定着性の何れの評価においても優れた効果を奏していることが判る。しかしながら本発明とは相違するインク4、5を使用してインクジェット記録された画像は何れの評価においても良好な結果を得られないことが判る。
【0076】
【発明の効果】本発明によれば、印刷本紙でも滲まずに定着させ、発色性が良好な画像を得ることが出来、又コックリングによるジャムの発生なく画像を形成することが出来るという顕著に優れた効果を奏する。」

(キ) 「【図2】



(ク) 「【図3】



(ケ) 引用例1の段落【0070】(上記(カ)参照)には、実施例の「インクジェット記録」に用いられる「インク液1」として、次の「インク液」が記載されている。

「水性染料(C.I.フッドブラック)2質量%、熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)15質量%、タッキファイヤー(エステルガムH 荒川化学製)10質量%、エチレングリコール24質量%、ジエチレングリコール15質量%、グリセリン7質量%、界面活性剤(サーフィノール104E 信越化学製)1質量%、蒸留水26質量%から作製したインク液。」

(コ) 引用例1の段落【0060】(上記(エ)参照)には、図2(b)の「インクジェット記録装置における記録手段の一態様」に関して、「像の書き込み時に中間転写媒体25を加熱」するように、「プラテン21の内部にヒーター26を配置し」、「プラテン21を」「温度感知手段と」「ヒーター制御手段により加熱し」、「プラテンの温度が30?70℃になるよう制御」するものが記載されている。
また、引用例1の段落【0057】及び【0059】(上記(エ)参照)の図2(a)についての記載によれば、「記録ヘッド22」は「インクジェット方式の記録ヘッド22」であり、「中間転写媒体25を記録ヘッド22の直下に位置させるとともに、中間転写媒体25をプラテン21に密着させ」、「記録ヘッド22」「のノズルから」、「選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体25上にインク像の書き込みを行なう」ものである。そして、引用例1の段落【0056】には、「図2に本発明のインクジェット記録装置における記録手段の一態様の断面図を示す」と記載されているから、図2(a)についての上記構成は、図2(b)のインクジェット記録装置についても妥当する構成と解するのが相当である(図2(a)及び図2(b)の対比からも、明らかに看取される事項である。)。

(サ) 引用例1の段落【0054】(上記(エ)参照)によれば、「インクとして」「インク液が使用される」。
そうすると、上記(ケ)と(コ)から、引用例1には、「インク」として、実施例の「インクジェット記録」に用いられる「インク液1」を使用した図2(b)の「インクジェット記録装置における記録手段」による「インクジェット記録」方法として、次のものが記載されているものと認められる(以下、「引用発明1」という。)。

「インクとして、水性染料(C.I.フッドブラック)2質量%、熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)15質量%、タッキファイヤー(エステルガムH 荒川化学製)10質量%、エチレングリコール24質量%、ジエチレングリコール15質量%、グリセリン7質量%、界面活性剤(サーフィノール104E 信越化学製)1質量%、蒸留水26質量%から作製したインク液を使用し、
中間転写媒体をインクジェット方式の記録ヘッドの直下に位置させるとともに、中間転写媒体をプラテンに密着させ、記録ヘッドのノズルから、選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体上にインク像の書き込みを行ない、
像の書き込み時に中間転写媒体を加熱するように、プラテンの内部にヒーターを配置し、プラテンを温度感知手段とヒーター制御手段により加熱し、プラテンの温度が30?70℃になるよう制御する、
インクジェット記録方法。」

(シ)また、引用例1には、「インクジェット記録装置」として、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)も記載されているものと認められる。

「インクとして、水性染料(C.I.フッドブラック)2質量%、熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)15質量%、タッキファイヤー(エステルガムH 荒川化学製)10質量%、エチレングリコール24質量%、ジエチレングリコール15質量%、グリセリン7質量%、界面活性剤(サーフィノール104E 信越化学製)1質量%、蒸留水26質量%から作製したインク液を使用し、
中間転写媒体をインクジェット方式の記録ヘッドの直下に位置させるとともに、中間転写媒体をプラテンに密着させ、記録ヘッドのノズルから、選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体上にインク像の書き込みを行ない、
像の書き込み時に中間転写媒体を加熱するように、プラテンの内部にヒーターを配置し、プラテンを温度感知手段とヒーター制御手段により加熱し、プラテンの温度が30?70℃になるよう制御する、インクジェット記録方法に用いられるインクジェット記録装置であって、ノズルから、選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体上にインク像の書き込みを行なうインクジェット方式の記録ヘッドと、プラテンの内部に配置されたヒーターと、プラテンの温度が30?70℃になるよう制御する、温度感知手段とヒーター制御手段と、を備える、
インクジェット記録装置。」

イ 引用例2
引用例2には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【0001】
本発明は、画像形成装置、画像形成方法及びプログラムに関し、特に、オーバーラップ領域におけるバンディングの発生を抑制する画像形成装置、画像形成方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置、これらの複合機等の画像形成装置として、例えば、記録液(液体)の液滴を吐出する液体吐出ヘッドで構成した記録ヘッドを含む装置を用いて、媒体(以下「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、また、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。)を搬送しながら、液体としての記録液(以下、インクともいう。)を用紙に付着させて画像形成(記録、印刷、印写、印字も同義語で用いる。)を行なう、いわゆるインクジェット方式の画像形成装置がある。【0003】
インクジェット方式の画像形成装置(以下、「インクジェットプリンタ」という)は、高速な印刷(画像形成)を実現するため、記録ヘッドにインク(液滴)を吐出するノズルを複数搭載している。用紙を紙送り(搬送)し、かつ記録ヘッドを紙送り方向と直行する方向に走査しながらインクの吐出を行うことにより用紙上に画像を形成するインクジェットプリンタは、高画質化を図るために、用紙の同一領域に対して同一のノズル群又は異なるノズル群によって複数回の主走査(マルチスキャン)を行って画像を形成するマルチパス方式が採用されている。しかしながら、2方向の走査を必要とするため印刷速度に限界があり、印刷速度の高速化が望まれている。」

(イ) 「【0053】
ここで、この画像形成装置において使用する記録液であるインクについて説明する。
記録液は、次の構成(1)?(10)よりなる。
(1)顔料(自己分散性顔料)6wt%以上
(2)湿潤剤1
(3)湿潤剤2
(4)水溶性有機溶剤
(5)アニオンまたはノニオン系界面活性剤
(6)炭素数8以上のポリオールまたはグリコールエーテル
(7)エマルジョン
(8)防腐剤(防腐防黴剤)
(9)pH調製剤
(10)純水
すなわち、印字(記録)するための着色剤として顔料を使用し、それを分解、分散させるための溶剤とを必須成分とし、更に添加剤として、湿潤剤、界面活性剤、エマルジョン、防腐剤、pH調整剤とを含んでいる。湿潤剤1と湿潤剤2とを混合するのは各々湿潤剤の特徴を活かすためと、粘度調整が容易にできるためである。」

(ウ) 「【0075】
インクには前記(7)エマルジョンとして、樹脂エマルジョンが添加されている方が好ましい。樹脂エマルジョンとは、連続相が水であり、分散相が次の様な樹脂成分であるエマルジョンを意味する。分散相の樹脂成分としてはアクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル-スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂などが挙げられる。
【0076】
インクの好ましい態様によれば、この樹脂は親水性部分と疎水性部分とを併せ持つ重合体であるのが好ましい。また、これらの樹脂成分の粒子径はエマルジョンを形成する限り特に限定されないが、150nm程度以下が好ましく、より好ましくは5?100nm程度である。
【0077】
これらの樹脂エマルジョンは、樹脂粒子を、場合によって界面活性剤とともに水に混合することによって得ることができる。例えば、アクリル系樹脂またはスチレン-アクリル系樹脂のエマルジョンは、(メタ)アクリル酸エステルまたはスチレンと、(メタ)アクリル酸エステルと、場合により(メタ)アクリル酸エステルと、界面活性剤とを水に混合することによって得ることができる。樹脂成分と界面活性剤との混合の割合は、通常10:1?5:1程度とするのが好ましい。界面活性剤の使用量が前記範囲に満たない場合、エマルジョンとなりにくく、また前記範囲を超える場合、インクの耐水性が低下したり、浸透性が悪化する傾向があるので好ましくない。
【0078】
前記エマルジョンの分散相成分としての樹脂と水との割合は、樹脂100重量部に対して水60?400重量部、好ましくは100?200の範囲が適当である。
【0079】
市販の樹脂エマルジョンとしては、マイクロジェルE-1002、E-5002(スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ペイント株式会社製:いずれも商品名)、ボンコート4001(アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製:商品名)、ボンコート5454(スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、大日本インキ化学工業株式会社製:商品名)、SAE-1014(スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン株式会社製:商品名)、サイビノールSK-200(アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学株式会社製:商品名)、などが挙げられる。
【0080】
インクは、樹脂エマルジョンを、その樹脂成分がインクの0.1?40重量%となるよう含有するのが好ましく、より好ましくは1?25重量%の範囲である。
樹脂エマルジョンは、増粘・凝集する性質を持ち、着色成分の浸透を抑制し、さらに記録材への定着を促進する効果を有する。また、樹脂エマルジョンの種類によっては記録材上で皮膜を形成し、印刷物の耐擦性をも向上させる効果を有する。」

(エ) 「【0106】
本発明の画像記録装置による画像記録方法として、記録媒体に対して1回の主走査で画像を形成する、いわゆる1パス印字を用いても良いし、記録媒体の同一領域に対して同一のノズル群あるいは異なるノズル群によって複数回の主走査を行うことにより画像を形成する、いわゆる「マルチパス印字」を用いても良い。また、主走査方向に複数のヘッドを並べて、同一領域を異なるノズルで打ち分けても良い。これらの記録方法は適宜組み合わせて用いることができる。
【0107】
以下、マルチパス印字について説明する。
ここでは、一つの記録領域に対して4回の主記録走査(4パス)を実行することによって画像を完成させる場合を例として説明する。
図12は、この実施形態における画像処理部を概略的に示すブロック図である。図中、601は入力端子、602は記録バッファ、604はパス数設定部、605はマスク処理部、606はマスクパターンテーブル、607はヘッドI/F部、608は記録ヘッドを示している。入力端子601から入力されたビットマップデータは記録バッファ制御部により、記録バッファ602の所定のアドレスに格納される。記録バッファ602は1スキャンと紙送り量分のビットマップデータを格納できる容量を有し、FIFOメモリのような紙送り量単位のリングバッファを構成している。記録バッファ制御部は、記録バッファ602を制御し、1スキャン分のビットマップデータが記録バッファ602に格納されるとプリンタエンジンを起動し、記録ヘッドの各ノズルの位置に応じて記録バッファ602よりビットマップデータを読み出し、パス数設定部604に入力する。また、入力端子601から次回のスキャンのビットマップデータが入力されると、記録バッファ602の空き領域(記録が完了した紙送り量に相当する領域)に格納するように記録バッファ602を制御する。
【0108】
次に、画像処理部におけるパス数設定部のより具体的構成例を説明する。パス数設定部604では分割パス数を決定し、そのパス数をマスク処理部605へ出力する。マスクパターンテーブル606では予め格納されているマスクパターンテーブル、例えば、1パス記録、2パス記録、4パス記録、8パス記録のマスクパターンから、必要なマスクパターンを決定された分割パス数に応じて選択し、マスク処理605に出力する。マスク処理部605は、記録バッファ602に格納されているビットマップデータを、マスクパターンを用いて各パス記録毎にマスクしてヘッドドライバに出力すると、ヘッドドライバではそのマスクされたビットマップデータを記録ヘッド608が用いる順に並び替え、記録ヘッド608に転送する。
【0109】
このようにマルチパス印字を用いることで、1パス印字では目立つバンディングを平均化して目立たなくすることができる。印刷の高速化を行う手段のひとつとして、1パス印字や用紙幅以上のサイズのヘッドを有するプリンタ(一般に、ラインヘッド型プリンタ)が挙げられるが、1パス印字では用紙送り量のズレによるバンディングや、ヘッドを副走査方向に複数並べてノズル群を長尺化するような場合ではヘッドのつなぎ部のズレによるバンディングが発生する。」

ウ 引用例3
引用例3には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料、水及び高分子微粒子を含有するインクジェットインクにおいて、25℃におけるインク粘度をη_(1)とし、インク全質量の10質量%相当の水を蒸発させた時の25℃におけるインク粘度をη_(2)とした時、インク粘度比η_(2)/η_(1)が下式(1)で規定する条件を満たすことを特徴とするインクジェットインク。
式(1)
0.8<η_(2)/η_(1)<5.0
・・・(中略)・・・
【請求項8】
25℃におけるインク粘度が、10mPa・s以上、300mPa・s以下であることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか1項に記載のインクジェットインクを、インクジェット記録ヘッドより吐出して画像記録することを特徴とする記録方法。
【請求項10】
前記インクジェット記録ヘッドより吐出する前記インクジェットインクの吐出量が、1液滴あたり0.1?2.0plであることを特徴とする請求項9に記載の記録方法。」

(イ) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形成した文字、画像の耐擦過性、画像平滑性が改良された印刷物が得られ、かつ印画時の出射安定性に優れたインクジェットインク及びそれを用いた記録方法に関する。」

(ウ) 「【0025】
本発明のインクジェットインクは、少なくとも顔料、水及び高分子微粒子を含有し、前記式(1)で規定する体積変化に対する粘度挙動を有することを特徴とする。
【0026】
すなわち、本発明のインクジェットインクにおいては、25℃におけるインク粘度をη_(1)とし、インク全質量の10質量%相当の水を蒸発させた時の25℃におけるインク粘度をη_(2)とした時、インク粘度比η_(2)/η_(1)が0.8<η_(2)/η_(1)<5.0の範囲であることを特徴とし、更に好ましくは、0.8<η_(2)/η_(1)<2.5である。 」

(エ) 「【0036】
次いで、本発明に係る高分子微粒子について説明する。
【0037】
本発明で用いることのできる高分子微粒子として、特に制限はないが、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル共重合体、ポリウレタン、シリコン-アクリル共重合体およびアクリル変性フッ素樹脂等のラテックスが挙げられる。ラテックスは、乳化剤を用いてポリマー粒子を分散させたものであっても、また乳化剤を用いないで分散させたものであってもよい。乳化剤としては界面活性剤が多く用いられるが、スルホン酸基、カルボン酸基等の水に可溶な基を有するポリマー(例えば、可溶化基がグラフト結合しているポリマー、可溶化基を持つ単量体と不溶性の部分を持つ単量体とから得られるポリマー)を用いることも好ましい。
【0038】
また、本発明のインクジェットインクでは、ソープフリーラテックスを用いることが特に好ましい。ソープフリーラテックスとは、乳化剤を使用していないラテックス、およびスルホン酸基、カルボン酸基等の水に可溶な基を有するポリマー(例えば、可溶化基がグラフト結合しているポリマー、可溶化基を持つ単量体と不溶性の部分を持つ単量体とから得られるポリマー)を乳化剤として用いたラテックスのことを指す。
【0039】
近年、ラテックスのポリマー粒子として、粒子全体が均一であるポリマー粒子を分散したラテックス以外に、粒子の中心部と外縁部で組成を異にしたコア・シェルタイプのポリマー粒子を分散したラテックスも存在するが、このタイプのラテックスも好ましく用いることができる。
【0040】
本発明のインクジェットインクにおいて、高分子微粒子の平均粒径は10nm以上、300nm以下が好ましく、インク安定性、吐出安定性の観点からさらに好ましくは、10nm以上、200nm以下である。高分子微粒子の平均粒径が300nm以下であれば、形成した画像の良好な光沢感を得ることができ、また10nm以上であれば、良好な耐水性、耐擦過性を得ることができる。高分子微粒子の平均粒径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。
【0041】
また、本発明のインクジェットインクにおいて、本発明に係る高分子微粒子の含有量としては、5質量%以上、30質量%以下とすることが、本発明の目的効果をより一層発揮できる観点から好ましい。本発明に係る高分子微粒子の含有量が5質量%以上であれば充分な耐擦過性を得ることができ、また30質量%以下であれば、インク粘度が適度な範囲となり安定したインク出射性を得ることができる。
【0042】
本発明に係る高分子微粒子は、ガラス転移点が-20℃以上、80℃以下であることが好ましく、更に好ましくは-10℃以上、60℃以下である。ガラス転移点が低すぎるほど耐擦過性は向上するが、逆に画像同士を重ねて放置すると、接着が起こり、画像部の剥がれが生じてしまう。また、ガラス転移点が高すぎると、擦過性が劣ってしまうためである。
【0043】
本発明に係る高分子微粒子は、記録媒体上へ吐出された後、乾燥、浸透により系外へ水及び有機溶媒がある程度除外された後、成膜し、顔料を定着する効果を示す。」

(オ) 「【0060】
上記のような構成からなる本発明のインクジェットインクは、25℃におけるインク粘度が10mPa・s以上、300mPa・s以下であることが好ましく、更に好ましくは10mPa・s以上、200mPa・s以下である。インク粘度を10mPa・s以上とすることにより、画像記録時の好ましいインク流動性が得られ、高い画像鮮鋭性を実現することができる。また、300mPa・s以下とすることにより、適度なインク粘度が得られ、記録ヘッドからの安定した出射を行うことができる。」

エ 引用例4
引用例4には、次の事項が記載されている。
(ア) 「【請求項1】
回転可能な印刷胴と、
該印刷胴に対接して同期回転可能であると共に前記印刷胴との間に印刷媒体を挟んで搬送可能なブランケット胴と、
該ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、
前記印刷胴と前記ブランケット胴との対接部に搬送される印刷媒体または前記ブランケット胴を加熱する第1加熱装置と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記第1加熱装置は、前記ブランケット胴から画像が転写される前の印刷媒体の印刷面を加熱することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記第1加熱装置は、前記インクジェットヘッドからヒートセットインキが吹き付けられる前の前記ブランケット胴の表面を加熱することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記ブランケット胴から印刷媒体に転写された画像を加熱する第2加熱装置を設けることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記ブランケット胴の表面に形成された画像を予備加熱する予備加熱装置が設けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の印刷装置。
・・・(中略)・・・
【請求項7】
回転するブランケット胴または該ブランケット胴と印刷胴との対接部に搬送される印刷媒体を加熱し、
前記ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成し、
前記ブランケット胴に形成された画像を前記印刷胴との対接部で印刷媒体に転写する、
ことを特徴とする印刷方法。
【請求項8】
印刷媒体に転写された画像を加熱して乾燥することを特徴とする請求項7に記載の印刷方法。」

(イ) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドを用いて印刷を行う印刷装置及び印刷方法、並びに、この印刷装置を備える枚葉印刷機、輪転印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドを用いて印刷を行う印刷装置として、下記特許文献1、2に記載されたものがある。この特許文献1に記載されたインクジェット印刷機は、ブランケット胴と、このブランケット胴に対面する複数のノズルと、ブランケット胴に対して一定のニップ幅をもつ加圧ゴムローラとを設け、ノズルからブランケット胴にインク滴を吐出してインク像を記録し、ブランケット胴を回転して加圧ゴムローラとの当接部で印刷用紙にインク像を転写するものである。
【0003】
また、特許文献2に記載されたインクジェット方式を利用したオフセット印刷方法は、UVヒートセットインキを使用したインクジェットにより平面原板にUVインキ画像を印刷し、UVまたは電子ビームによる照射を行ってUVインキ画像を半乾燥状態とし、半乾燥状態のUVインキ画像を弾性ブランケット表面に写しとり、弾性ブランケットに写しとったUVインキ画像を被印刷体にオフセット印刷し、オフセット印刷されたUVインキ画像を乾燥定着するものである。
・・・(中略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載されたインクジェット印刷機では、インクジェットヘッドによりブランケット胴にインク像を記録し、このインク像を印刷用紙に転写している。一般に、インクジェットヘッドを用いて印刷を行う印刷装置では、複数のノズルからインキを吐出して対象物に画像(絵柄や文字)を形成するため、低粘度のインキを使用する。そのため、従来のインクジェット印刷機にて、インク像が印刷用紙に転写されるとき、インキが印刷用紙に浸透し、印刷精度が低下してしまうおそれがある。
【0006】
特許文献2に記載されたインクジェット方式を利用したオフセット印刷方法では、平面原板に印刷したUVインキ画像をUVまたは電子ビームの照射により半乾燥状態とし、この半乾燥のUVインキ画像を弾性ブランケット表面に写しとり、更に被印刷体にオフセット印刷している。この場合、UVインキを使用することから、印刷コストが上昇してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するものであり、印刷精度の向上を図ると共に高コスト化を抑制可能とする印刷装置及び印刷方法並びに枚葉印刷機と輪転印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の印刷装置は、回転可能な印刷胴と、該印刷胴に対接して同期回転可能であると共に前記印刷胴との間に印刷媒体を挟んで搬送可能なブランケット胴と、該ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、前記印刷胴と前記ブランケット胴との対接部に搬送される印刷媒体または前記ブランケット胴を加熱する第1加熱装置と、を備えることを特徴とするものである。
・・・(中略)・・・
【0010】
本発明の印刷装置では、前記第1加熱装置は、前記インクジェットヘッドからヒートセットインキが吹き付けられる前の前記ブランケット胴の表面を加熱することを特徴としている。
・・・(中略)・・・
【0014】
また、本発明の印刷方法は、回転するブランケット胴または該ブランケット胴と印刷胴との対接部に搬送される印刷媒体を加熱し、前記ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成し、前記ブランケット胴に形成された画像を前記印刷胴との対接部で印刷媒体に転写する、ことを特徴とするものである。
・・・(中略)・・・
【0016】
また、本発明の枚葉印刷機は、給紙台上に積み重ねられた枚葉紙を吸引して送り出す給紙装置と、該給紙装置から送り出された枚葉紙を印刷胴とブランケット胴との間に挟んで搬送すると共に前記ブランケット胴に形成された画像を枚葉紙に転写して印刷を行う印刷装置と、該印刷装置で印刷が施された枚葉紙を排紙台に積み重ねて排紙する排紙装置とを備える枚葉印刷機において、前記印刷装置は、前記ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、前記印刷胴と前記ブランケット胴との対接部に搬送される印刷媒体または前記ブランケット胴を加熱する第1加熱装置と、を有することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の輪転印刷機は、巻取紙からウェブを供給する給紙装置と、該給紙装置から繰り出されたウェブを印刷胴とブランケット胴との間に挟んで搬送すると共に前記ブランケット胴に形成された画像をウェブに転写して印刷を行う印刷装置と、該印刷装置により印刷が施されたウェブを乾燥する乾燥装置と、該乾燥装置により乾燥されたウェブを裁断して折り曲げることで折帖を形成する折り装置と、該折り装置により形成された折帖を排紙する排紙装置とを備える輪転印刷機において、前記印刷装置は、前記ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、前記印刷胴と前記ブランケット胴との対接部に搬送される印刷媒体または前記ブランケット胴を加熱する第1加熱装置と、を有することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の印刷装置によれば、印刷胴とブランケット胴との間に印刷媒体を挟んで搬送可能とし、ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、印刷胴とブランケット胴との対接部に搬送される印刷媒体またはブランケット胴を加熱する第1加熱装置とを設けている。従って、第1加熱装置により事前に印刷媒体またはブランケット胴が加熱されることで、インクジェットヘッドによりブランケット胴の表面に形成された画像のヒートセットインキは、印刷媒体上でまたはブランケット胴上で乾燥されることとなり、インキが印刷媒体に浸透せず、印刷精度の向上を図ることができ、また、高価なインキを使用する必要はなく高コスト化を抑制することができる。
・・・(中略)・・・
【0020】
本発明の印刷装置によれば、第1加熱装置は、インクジェットヘッドからヒートセットインキが吹き付けられる前のブランケット胴の表面を加熱するので、インクジェットヘッドによりブランケット胴の表面にヒートセットインキが吹き付けられるとき、ここで、画像が一次乾燥されることとなり、インキを早期に乾燥することができる。
・・・(中略)・・・
【0024】
また、本発明の印刷方法によれば、回転するブランケット胴またはブランケット胴と印刷胴との対接部に搬送される印刷媒体を加熱し、ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成し、ブランケット胴に形成された画像を前記印刷胴との対接部で印刷媒体に転写し、この印刷媒体に転写された画像を加熱して乾燥している。従って、インキが印刷媒体に浸透せず、印刷精度の向上を図ることができ、また、高価なインキを使用する必要はなく高コスト化を抑制することができる。
【0025】
本発明の印刷方法によれば、印刷媒体に転写された画像を加熱して乾燥するので、インキを早期に乾燥することができる。
【0026】
また、本発明の枚葉印刷機によれば、給紙装置と印刷装置と排紙装置とを設けて構成し、印刷装置として、ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、印刷胴とブランケット胴との対接部に搬送される印刷媒体またはブランケット胴を加熱する第1加熱装置とを設けている。従って、第1加熱装置により事前に印刷媒体またはブランケット胴が加熱されることで、インクジェットヘッドによりブランケット胴の表面に形成された画像のヒートセットインキは、印刷媒体上でまたはブランケット胴上で乾燥されることとなり、インキが印刷媒体に浸透せず、印刷精度の向上を図ることができ、また、高価なインキを使用する必要はなく高コスト化を抑制することができる。
【0027】
また、本発明の輪転印刷機によれば、給紙装置と印刷装置と乾燥装置と折り装置と排紙装置とを設けて構成し、印刷装置として、ブランケット胴の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、印刷胴とブランケット胴との対接部に搬送される印刷媒体またはブランケット胴を加熱する第1加熱装置とを設けている。従って、第1加熱装置により事前に印刷媒体またはブランケット胴が加熱されることで、インクジェットヘッドによりブランケット胴の表面に形成された画像のヒートセットインキは、印刷媒体上でまたはブランケット胴上で乾燥されることとなり、インキが印刷媒体に浸透せず、印刷精度の向上を図ることができ、また、高価なインキを使用する必要はなく高コスト化を抑制することができる。」

(ウ) 「【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の実施例1に係る印刷装置を備えた枚葉印刷機を表す概略構成図、図2は、実施例1の印刷装置の要部を表す概略図である。
【0031】
実施例1のオフセット枚葉印刷機は、図1に示すように、給紙装置11と搬送装置12と印刷装置13と排紙装置14とから構成されている。なお、本実施例にて、給紙装置11に積み重ねて載置される枚葉紙としての印刷シート(印刷媒体)Sは、図示しない多色刷り枚葉印刷機で所定領域を除く部分が印刷されたものであり、印刷装置13により白紙の所定領域に対して印刷が行われる。なお、多色刷り枚葉印刷機は、例えば、黒(Black)、藍(Cyan)、紅(Magenta)、黄(Yellow)の4色に対応する4台の印刷ユニットを有している。この各印刷ユニットは、ほぼ同様の構成をなし、インキ装置と版胴とブランケット胴と圧胴とを備え、印刷シートSがブランケット胴と圧胴との間を通過するときに、ブランケット胴から印刷シートSにインキ(印刷画像)が転写されて印刷が行われる。
・・・(中略)・・・
【0035】
ブランケット胴31の外周辺には、このブランケット胴31の表面にヒートセットインキ(以下、インキ熱硬化性インキ-熱硬化性樹脂を含有する水性インキまたは油性インキ)を吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッド34が設けられている。このインクジェットヘッド34は、ブランケット胴31の軸方向に沿って並んだ複数のノズル(図示略)を有しており、印刷シートSの幅方向の全域にヒートセットインキを吹き付けることができる。
【0036】
また、圧胴32の外周辺には、この圧胴32とブランケット胴31の対接位置より圧胴32の回転方向上流側に位置して、圧胴32により搬送される印刷シートSの印刷面を加熱する第1加熱装置としての予熱ランプ35が設けられている。更に、圧胴32の外周辺には、この圧胴32とブランケット胴31との対接位置より圧胴32の回転方向下流側に位置して、ブランケット胴31から印刷シートSの印刷面に転写された画像(ヒートセットインキ)を加熱する第2加熱装置としての加熱ランプ36が設けられている。この場合、予熱ランプ35及び加熱ランプ36は、ハロゲンランプや赤外線ランプであり、インクジェットヘッド34が吹き付けたヒートセットインキの画像を完全に乾燥する出力に対して、予熱ランプ35の出力をその10?30%とし、加熱ランプ36の出力をその70?90%としている。
・・・(中略)・・・
【0039】
ここで、このように構成された実施例1のオフセット枚葉印刷機による印刷方法について説明する。
【0040】
まず、給紙装置11の給紙台21に積載された印刷シートSは、セパレータ装置22により最上部から1枚ずつ取り出されて搬送装置12に送り出され、次に、この搬送装置12は、印刷シートSを前当て27で位置決めした後、順次、印刷装置13に供給する。
【0041】
続いて、印刷装置13にて、インクジェットヘッド34は、複数のノズルからヒートセットインキをブランケット胴31に向けて吹き付けることで、このブランケット胴31の表面に所定の画像を形成する。一方、中間胴33は、搬送装置12から送り出された印刷シートSを受取り、圧胴32に受け渡し、圧胴32により印刷シートSがブランケット胴31との対接位置に搬送される前に、予熱ランプ35の光熱により印刷面が予熱される。
【0042】
そして、この印刷シートSが圧胴32に搬送されてブランケット胴31との対接位置に至ると、各胴31,32の間を加圧されながら通過するとき、ブランケット胴31の画像が印刷シートSに転写される。このとき、印刷シートSに転写された画像(ヒートセットインキ)は、高温状態の印刷シートSから熱が付与されることで、一次乾燥、つまり、半乾燥される。その後、圧胴32の回転に伴って移動する画像は、加熱ランプ36からの光熱により二次乾燥、つまり、本乾燥される。
【0043】
なお、表面の画像が印刷シートSに転写したブランケット胴31は、クリーニングローラ37に接触することで、表面に残留したヒートセットインキが除去される。
【0044】
上述した画像(ヒートセットインキ)の乾燥及び生成について詳細に説明する。図2に示すように、インクジェットヘッド34からブランケット胴31の表面に吹き付けられ、このブランケット胴31の表面に形成された画像のヒートセットインキ(白抜き)Aは、低粘度状態にある。ブランケット胴31が回転して移動した低粘度状態の画像のヒートセットインキAは、ブランケット胴31と圧胴32により搬送された印刷シートSとの間に所定のニップが作用することで、この印刷シートSの表面に転写される。このとき、低粘度状態の画像のヒートセットインキAは、予熱ランプ35により加熱された印刷シートSから熱が付与されることで半乾燥状態のヒートセットインキ(斜線)Bとなる。そして、圧胴32が回転して印刷シートSが移動すると、この印刷シートSと共に移動した半乾燥状態の画像のヒートセットインキBは、加熱ランプ36からの光熱により完全乾燥状態のヒートセットインキ(黒塗り)Cとなる。
・・・(中略)・・・
【0046】
このように実施例1のオフセット枚葉印刷機にあっては、回転可能な圧胴32と、この圧胴32に対接して同期して回転可能であると共に圧胴32との間に印刷シートSを挟んで搬送可能なブランケット胴31と、ブランケット胴31の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッド34と、ブランケット胴31と圧胴32との対接位置に搬送される印刷シートSを加熱する予熱ランプ35と、ブランケット胴31から印刷シートSに転写された画像を加熱する加熱ランプ36とを設けている。
【0047】
従って、予熱ランプ35により事前に印刷シートSが加熱されることで、インクジェットヘッド34によりブランケット胴31の表面に形成された画像のヒートセットインキは、印刷シートSに転写されるときに一次乾燥され、その後、加熱ランプ36により二次乾燥されることとなり、インキが印刷シートSに浸透せず、印刷精度の向上を図ることができ、また、高価な紫外線硬化性インキを使用する必要はなく、高コスト化を抑制することができる。
【0048】
また、実施例1のオフセット枚葉印刷機では、第1加熱装置として、ブランケット胴31から画像が転写される前の印刷シートSの印刷面を加熱する予熱ランプ35としている。従って、ブランケット胴31から印刷シートSの印刷面に画像が転写されるとき、ここで、画像を形成しているヒートセットインキが印刷シートSから熱をもらって一次乾燥されることとなり、インキを早期に乾燥することができる。
【0049】
また、実施例1のオフセット枚葉印刷機では、ブランケット胴31の表面に形成された画像を印刷シートSに転写した後、ブランケット胴31の表面に残留するインキを除去するクリーニングローラ37を設けている。従って、ブランケット胴31に残留するインキが一回の印刷ごとに除去されることで、ブランケット胴31に残留したインキが次の印刷に悪影響を及ぼすことがなく、印刷品質を向上することができる。
【実施例2】
【0050】
図3は、本発明の実施例2に係る印刷装置を備えた枚葉印刷機を表す概略構成図、図4は、実施例2の印刷装置の要部を表す概略図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0051】
実施例2のオフセット枚葉印刷機は、図3に示すように、給紙装置11と搬送装置12と印刷装置13と排紙装置14とから構成されている。ここで、給紙装置11と搬送装置12と排紙装置14は、上述した実施例1の構成と同様であり、印刷装置13の構成のみ相違している。
【0052】
即ち、印刷装置13にて、ブランケット胴31の外周辺には、このブランケット胴31の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッド34が設けられている。また、ブランケット胴31の外周辺には、インクジェットヘッド34よりブランケット胴31の回転方向上流側に位置して、このブランケット胴31の表面を加熱する第1加熱装置としての予熱ランプ38が設けられている。更に、圧胴32の外周辺には、この圧胴32とブランケット胴31との対接位置より圧胴32の回転方向下流側に位置して、ブランケット胴31から印刷シートSの印刷面に転写された画像(ヒートセットインキ)を加熱する第2加熱装置としての加熱ランプ36が設けられている。この場合、予熱ランプ38及び加熱ランプ36は、ハロゲンランプや赤外線ランプであり、インクジェットヘッド34が吹き付けたヒートセットインキの画像を完全に乾燥する出力に対して、予熱ランプ38の出力をその10?30%とし、加熱ランプ36の出力をその70?90%としている。
【0053】
また、ブランケット胴31の外周辺には、圧胴32との対接位置よりブランケット胴31の回転方向下流側で、且つ、予熱ランプ38よりブランケット胴31の回転方向上流側に位置して、ブランケット胴31の表面に形成された画像が印刷シートSに転写された後に、クリーニングローラ37が設けられている。
【0054】
ここで、このように構成された実施例2のオフセット枚葉印刷機による印刷方法について説明する。
【0055】
まず、給紙装置11の給紙台21に積載された印刷シートSは、セパレータ装置22により最上部から1枚ずつ取り出されて搬送装置12に送り出され、次に、この搬送装置12は、印刷シートSを前当て27で位置決めした後、順次、印刷装置13に供給する。
【0056】
続いて、印刷装置13にて、ブランケット胴31は、予熱ランプ38の光熱によりその表面が予熱された後、インクジェットヘッド34は、複数のノズルからヒートセットインキを予熱されたブランケット胴31に向けて吹き付けることで、このブランケット胴31の表面に所定の画像を形成する。このとき、具体的には、ヒートセットインキがブランケット胴31に付着してから印刷シートSに転写される間、ブランケット胴31に形成された画像(ヒートセットインキ)は、高温状態のブランケット胴31から熱が付与されることで、一次乾燥、つまり、半乾燥される。
【0057】
一方、中間胴33は、搬送装置12から送り出された印刷シートSを受取り、圧胴32に受け渡し、圧胴32により印刷シートSがブランケット胴31との対接位置に搬送される。そして、この印刷シートSが圧胴32に搬送されてブランケット胴31との対接位置に至ると、各胴31,32の間を加圧されながら通過するとき、ブランケット胴31の画像が印刷シートSに転写される。そして、圧胴32の回転に伴って移動する画像は、加熱ランプ36からの光熱により二次乾燥、つまり、本乾燥される。
【0058】
上述した画像(ヒートセットインキ)の乾燥及び生成について詳細に説明する。図4に示すように、インクジェットヘッド34からブランケット胴31の表面に吹き付けられるヒートセットインキ(白抜き)は、低粘度状態にある。しかし、ブランケット胴31が予熱ランプ38により加熱されていることから、低粘度状態にあるヒートセットインキがブランケット胴31の表面に付着して画像が形成されると、ヒートセットインキは粘度が上昇し、半乾燥状態のヒートセットインキ(斜線)Bとなる。そして、ブランケット胴31が回転して移動した半乾燥状態の画像のヒートセットインキBは、ブランケット胴31と圧胴32により搬送された印刷シートSとの間に所定のニップが作用することで、この印刷シートSの表面に転写される。その後、圧胴32が回転して印刷シートSが移動すると、この印刷シートSと共に移動した半乾燥状態の画像のヒートセットインキBは、加熱ランプ36からの光熱により完全乾燥状態のヒートセットインキ(黒塗り)Cとなる。
【0059】
このように実施例2のオフセット枚葉印刷機にあっては、回転可能な圧胴32と、この圧胴32に対接して同期して回転可能であると共に圧胴32との間に印刷シートSを挟んで搬送可能なブランケット胴31と、ブランケット胴31の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッド34と、ブランケット胴31を加熱する予熱ランプ38と、ブランケット胴31から印刷シートSに転写された画像を加熱する加熱ランプ36とを設けている。
【0060】
従って、予熱ランプ38により事前にブランケット胴31が加熱されることで、インクジェットヘッド34によりブランケット胴31の表面に形成された画像のヒートセットインキは一次乾燥され、その後、加熱ランプ36により二次乾燥されることとなり、インキが印刷シートSに浸透せず、印刷精度の向上を図ることができ、また、高価な紫外線硬化性インキを使用する必要はなく、高コスト化を抑制することができる。
【0061】
また、実施例2のオフセット枚葉印刷機では、第1加熱装置として、インクジェットヘッド34からヒートセットインキが吹き付けられる前のブランケット胴31の表面を加熱する予熱ランプ38を設けている。従って、インクジェットヘッド34によりブランケット胴31の表面にヒートセットインキが吹き付けられるとき、ここで、画像が一次乾燥されることとなり、インキを早期に乾燥することができる。
【実施例3】
【0062】
図5は、本発明の実施例3に係る印刷装置を備えた枚葉印刷機を表す概略構成図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0063】
実施例3のオフセット枚葉印刷機は、図5に示すように、給紙装置11と搬送装置12と印刷装置13と排紙装置14とから構成されている。ここで、給紙装置11と搬送装置12と排紙装置14は、上述した実施例1の構成と同様であり、印刷装置13の構成のみ相違している。具体的に、実施例3の印刷装置13は、実施例1と実施例2を組み合わせた構成となっている。
【0064】
即ち、印刷装置13にて、ブランケット胴31の外周辺には、このブランケット胴31の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッド34が設けられている。圧胴32の外周辺には、この圧胴32とブランケット胴31の対接位置より圧胴32の回転方向上流側に位置して、圧胴32により搬送される印刷シートSの印刷面を加熱する第1加熱装置としての第1予熱ランプ35が設けられている。また、ブランケット胴31の外周辺には、インクジェットヘッド34よりブランケット胴31の回転方向上流側に位置して、このブランケット胴31の表面を加熱する第1加熱装置としての第2予熱ランプ38が設けられている。更に、圧胴32の外周辺には、この圧胴32とブランケット胴31との対接位置より圧胴32の回転方向下流側に位置して、ブランケット胴31から印刷シートSの印刷面に転写された画像(ヒートセットインキ)を加熱する第2加熱装置としての加熱ランプ36が設けられている。この場合、各ランプ35,36,38は、ハロゲンランプや赤外線ランプであり、インクジェットヘッド34が吹き付けたヒートセットインキの画像を完全に乾燥する出力に対して、各予熱ランプ35,38の出力をその10?30%とし、加熱ランプ36の出力をその70?90%としている。
【0065】
従って、印刷装置13にて、ブランケット胴31は、予熱ランプ38の光熱によりその表面が予熱された後、インクジェットヘッド34は、複数のノズルからヒートセットインキを予熱されたブランケット胴31に向けて吹き付けることで、このブランケット胴31の表面に所定の画像を形成する。ヒートセットインキがブランケット胴31に付着してから印刷シートSに転写される間、ブランケット胴31に形成された画像(ヒートセットインキ)は、高温状態のブランケット胴31から熱が付与されることで乾燥される。
【0066】
一方、中間胴33は、搬送装置12から送り出された印刷シートSを受取り、圧胴32に受け渡し、圧胴32により印刷シートSがブランケット胴31との対接位置に搬送される前に、予熱ランプ35の光熱により印刷面が予熱される。そして、この印刷シートSが圧胴32に搬送されてブランケット胴31との対接位置に至ると、各胴31,32の間を加圧されながら通過するとき、ブランケット胴31の画像が印刷シートSに転写される。このとき、印刷シートSに転写された画像(ヒートセットインキ)は、高温状態の印刷シートSから熱が付与されることで乾燥される。この場合、印刷シートSの画像(ヒートセットインキ)は、ブランケット胴31からの熱と印刷シートSからの熱により一次乾燥、つまり、半乾燥されることとなり、それぞれの熱量を調整することで、より理想的な半乾燥状態を実現することができる。その後、圧胴32の回転に伴って移動する画像は、加熱ランプ36からの光熱により二次乾燥、つまり、本乾燥される。
【0067】
このように実施例3のオフセット枚葉印刷機にあっては、回転可能な圧胴32と、この圧胴32に対接して同期して回転可能であると共に圧胴32との間に印刷シートSを挟んで搬送可能なブランケット胴31と、ブランケット胴31の表面にヒートセットインキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッド34と、ブランケット胴31と圧胴32との対接位置に搬送される印刷シートSを加熱する予熱ランプ35と、ブランケット胴31を加熱する予熱ランプ38と、ブランケット胴31から印刷シートSに転写された画像を加熱する加熱ランプ36とを設けている。
【0068】
従って、予熱ランプ38により事前にブランケット胴31が加熱されることで、インクジェットヘッド34によりブランケット胴31の表面に形成された画像のヒートセットインキは一次乾燥され、また、ブランケット胴31の表面に形成された画像のヒートセットインキは、印刷シートSに転写されるときに一次乾燥され、その後、加熱ランプ36により二次乾燥されることとなり、インキが印刷シートSに浸透せず、印刷精度の向上を図ることができ、また、高価な紫外線硬化性インキを使用する必要はなく、高コスト化を抑制することができる。
【0069】
また、この場合、一次乾燥(半乾燥)のために、2つの予熱ランプ35,38を設けることで、十分な一次乾燥を可能とし、ブランケット胴31に対するインキの離型性を向上することができると共に、印刷シートSへのインキの付着性(転写性)を向上することができ、印刷精度を向上することができる。」

(エ) 「【図1】



(オ) 「【図2】



(カ) 「【図3】



(キ) 「【図4】



(ク) 「【図5】



(ケ) 引用例4の段落【0035】(上記(ウ)参照)によれば、「ヒートセットインキ」は、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキまたは油性インキ」である。
そうすると、引用例4の段落【0050】?【0058】、図3及び図4(上記(ウ)、(カ)及び(キ)参照)には、「実施例2の」「印刷方法」であって、「ヒートセットインキ」が「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」であるものとして、次の「印刷方法」(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

「インクジェットヘッドは、複数のノズルから熱硬化性樹脂を含有する水性インキを予熱されたブランケット胴に向けて吹き付けることで、ブランケット胴の表面に所定の画像を形成し、
ブランケット胴の外周辺には、インクジェットヘッドよりブランケット胴の回転方向上流側に位置して、ブランケット胴の表面を加熱する第1加熱装置としての予熱ランプが設けられ、ブランケット胴が予熱ランプにより加熱されていることから、低粘度状態にある熱硬化性樹脂を含有する水性インキがブランケット胴の表面に付着して画像が形成されると、ブランケット胴に形成された画像(熱硬化性樹脂を含有する水性インキ)は、高温状態のブランケット胴から熱が付与され、熱硬化性樹脂を含有する水性インキは粘度が上昇し、半乾燥状態の熱硬化性樹脂を含有する水性インキとなり、
ブランケット胴が回転して移動した半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキは、ブランケット胴と圧胴により搬送された印刷シートとの間に所定のニップが作用することで、印刷シートの表面に転写され、
圧胴とブランケット胴との対接位置より圧胴の回転方向下流側に位置して、ブランケット胴から印刷シートの印刷面に転写された画像(熱硬化性樹脂を含有する水性インキ)を加熱する第2加熱装置としての加熱ランプが設けられ、圧胴が回転して印刷シートが移動すると、印刷シートと共に移動した半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキは、加熱ランプからの光熱により完全乾燥状態の熱硬化性樹脂を含有する水性インキとなる、
印刷方法。」

(コ) 引用例4の段落【0050】?【0058】、図3及び図4(上記(ウ)、(カ)及び(キ)参照)には、
「実施例2の」「印刷方法」であって、「ヒートセットインキ」が「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」であるもの用いられる「実施例2に係る印刷装置」として、次の「印刷装置」(以下、「引用発明4」という。)が記載されている。

「インクジェットヘッドは、複数のノズルから熱硬化性樹脂を含有する水性インキを予熱されたブランケット胴に向けて吹き付けることで、ブランケット胴の表面に所定の画像を形成し、
ブランケット胴の外周辺には、インクジェットヘッドよりブランケット胴の回転方向上流側に位置して、ブランケット胴の表面を加熱する第1加熱装置としての予熱ランプが設けられ、ブランケット胴が予熱ランプにより加熱されていることから、低粘度状態にある熱硬化性樹脂を含有する水性インキがブランケット胴の表面に付着して画像が形成されると、ブランケット胴に形成された画像(熱硬化性樹脂を含有する水性インキ)は、高温状態のブランケット胴から熱が付与され、熱硬化性樹脂を含有する水性インキは粘度が上昇し、半乾燥状態の熱硬化性樹脂を含有する水性インキとなり、
ブランケット胴が回転して移動した半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキは、ブランケット胴と圧胴により搬送された印刷シートとの間に所定のニップが作用することで、印刷シートの表面に転写され、
圧胴とブランケット胴との対接位置より圧胴の回転方向下流側に位置して、ブランケット胴から印刷シートの印刷面に転写された画像(熱硬化性樹脂を含有する水性インキ)を加熱する第2加熱装置としての加熱ランプが設けられ、圧胴が回転して印刷シートが移動すると、印刷シートと共に移動した半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキは、加熱ランプからの光熱により完全乾燥状態の熱硬化性樹脂を含有する水性インキとなる、
印刷方法に用いられる印刷装置であって、
ブランケット胴の表面に熱硬化性樹脂を含有する水性インキを吹き付けて画像を形成するインクジェットヘッドと、ブランケット胴の外周辺には、インクジェットヘッドよりブランケット胴の回転方向上流側に位置して、ブランケット胴の表面を加熱する第1加熱装置としての予熱ランプと、を備える
印刷装置。」

(4) 引用例1を主引用例とする平成29年5月2日付けの取消理由についての判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と引用発明1とを対比すると、以下のとおりとなる。
a 引用発明1の「インク液」における「エチレングリコール」、「ジエチレングリコール」及び「グリセリン」は、引用例1の段落【0033】,【0034】,【0036】(上記(3)ア(ウ)参照)によれば、「記録剤を溶解又は分散する液媒体」であるから、「溶剤」であることは明らかである。

b 引用発明1の「インク液」における「タッキーファイヤー(エステルガムH 荒川化学製)」は、引用例1の段落【0053】?【0055】(上記(3)ア(エ)、特に段落【0055】の「非造膜ラテックスとして・・・タッキファイヤー等が挙げられ」を参照。)によれば、「非造膜ラテックス」である。
また、「タッキーファイヤー(エステルガムH 荒川化学製)」が、「熱可塑性樹脂」であることは技術常識である。

c 引用発明1の「インク液」における「熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)」は、引用例1の段落【0053】?【0055】(上記(3)ア(エ)、特に、段落【0055】の「増粘性樹脂としては・・・液粘度増加化合物(セルロース系樹脂)等が挙げられる」を参照。)によれば、「増粘性樹脂」としてインク液に含まれる「液粘度増加化合物(セルロース系樹脂)」である。
また、該「液粘度増加化合物」は、引用例1の段落【0022】(上記(3)ア(ウ)参照)によれば、「30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物」の具体例と解するのが相当である。

d 上記a?cより、引用発明1の「インク液」は、「蒸留水」と、「エチレングリコール」、「ジエチレングリコール」及び「グリセリン」等の「溶剤」と、「熱可塑性樹脂」であり「非造膜ラテックス」である「タッキーファイヤー(エステルガムH 荒川化学製)」と、「30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物」である 「熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)」と、「水性染料(C.I.フッドブラック)」とから作製されたものである。
ここで、「非造膜ラテックス」における「ラテックス」は、天然ゴム、合成ゴムあるいは高分子が水中に分散し、懸濁液・乳濁液となるものを意味するものであり、「非造膜」は、(常温において、)膜を形成しないものと解される。そうすると、「非造膜ラテックス」は、膜を形成せず、水中に分散して、懸濁液・乳濁液となるものである。
以上まとめると、引用発明1の「インク液」は、「蒸留水」と、「エチレングリコール」、「ジエチレングリコール」及び「グリセリン」等の「溶剤」に、「熱可塑性樹脂」である「非造膜ラテックス」を分散させた懸濁液・乳濁液である。
してみると、引用発明1の「インク液」は、本件発明1の「ラテックスインク」に相当するとともに、本件発明1の「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させた」という構成を具備する。
また、引用発明1における「インク」は、「インキ液を使用」するものである。
そうすると、引用発明1における「インク」は、本件発明1における「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインク」に相当する。

e 引用発明1の「インクジェット記録方法」は、「インクジェット方式の」「記録ヘッドのノズルから、選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体上にインク像の書き込みを行な」うものであるから、「インクジェット印刷」によるものということができる。
引用発明1における「中間転写媒体」は、本件発明1における「転写媒体」に相当する。
引用発明1においては、「インクジェット方式の」「記録ヘッドのノズルから、選択的にインク滴を吐出し」て、「インク滴」を「中間転写媒体」上に着弾させることによって、「中間転写媒体上にインク像の書き込みを行な」っていることは技術的に明らかである。
そうすると、引用発明1において、「インク滴」を「吐出」することは、本件発明1における「塗布」することに相当する。
引用発明1において、「インクジェット方式の」「記録ヘッドのノズルから、選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体上にインク像の書き込みを行な」うということは、「インク」「滴」を「中間転写媒体」上に着弾させて、「中間転写媒体」上に「インク」が「塗布」された「面」を形成することを意味することから、引用発明1における「中間転写媒体」上へ「インク」「滴」を「吐出」し、「中間転写媒体上にインク像の書き込みを行な」うことは、本件発明1における「インク塗布面」を形成することに相当する。
してみると、引用発明1は、「インク」を「インクジェット印刷」により「転写媒体」上に「塗布」して「インク塗布面を形成する」ものである。
そうすると、上記dより、引用発明1は、本件発明1の「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクをインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する」「塗布工程」を備えている。

f 引用発明1においては、「中間転写媒体を加熱するように、プラテンの内部にヒーターを配置し、プラテンを温度感知手段とヒーター制御手段により加熱し、プラテンの温度が30?70℃になるよう制御」するものであるから、プラテンの内部に配置されたヒーターにより、プラテンの温度が30?70℃になるよう加熱制御することにより、「中間転写媒体を加熱」している。
引用発明においては、「中間転写媒体」が加熱されるのであるから、「中間転写媒体」上に「吐出」された「インク」も「中間転写媒体」によって加熱されることとなる。
「インク」である「インク液」に含まれる「熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)」は、上記cより、「30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る化合物」である。
そうすると、引用発明1においては、「中間転写媒体」上に「吐出」された「インク」は、「中間転写媒体」によって加熱されるのであるから、「インク」は、「熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)」により、「インク」の「粘度」が上がることとなる。
してみると、引用発明1は、「中間転写媒体を」「加熱して」、「インク」の「粘度」を上げるものである。
上記dとeより、引用発明1は、本件発明1の「前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる」「加熱工程」を備えている。

g 引用発明1は、「中間転写媒体」上に「インク像」の書き込みを行なうものであるから、引用発明1のインクジェット記録方法が、「中間転写媒体上のインク像を最終記録媒体へ転写する転写工程」を備えていることは技術的に明らかなことである。
引用発明1における「中間転写媒体上のインク像」は、「インク」で構成されたものである。
そうすると、引用発明1は、「中間転写媒体」上の「インク」を「最終記録媒体」へ転写する「転写工程」を備えている。
引用発明1における「最終記録媒体」は、本件発明1における「印刷対象物」に相当する。
引用発明1における「インク」及び「中間転写媒体」は、本件発明1における「ラテックスインク」及び「転写媒体」に相当する。
してみると、引用発明1は、本件発明1の「前記転写媒体上の前記ラテックスインクを該印刷対象物上に転写する」「転写工程」を備えている。

h 引用発明1においては、「中間転写媒体をインクジェット方式の記録ヘッドの直下に位置させるとともに、中間転写媒体をプラテンに密着させ」、「プラテンの内部にヒーターを配置し」、「像の書き込み時に中間転写媒体を加熱し」ているから、「インクジェット方式の記録ヘッド」に対して、「中間転写媒体」及び「プラテン」が下側にあることが分かる。
また、「ヒーター」は、「プラテン」及び「中間転写媒体」に対して下側に配置されて、「中間転写媒体」を下側から加熱していることが分かる。
さらに、「中間転写媒体をインクジェット方式の記録ヘッドの直下に位置させ」るとともに、「像の書き込み時に中間転写媒体を加熱し」ているのであるから、「中間転写媒体」を加熱する箇所と像の書き込みを行う箇所とが一致していることが把握できる。
そうすると、「ヒーター」が「中間転写媒体」を下側から加熱し、そのすぐ上、すなわち「直上」の「中間転写媒体」上に書き込みが行われていることが分かる。
ここで、引用発明1における「像の書き込み」は、「インクジェット方式の記録ヘッド」の「ノズルから、選択的にインク滴を吐出し、中間転写媒体上にインク像の書き込み」が行われることによるものであり、上記eより、本件発明1の「塗布工程」におけるものである。
また、「中間転写媒体」の加熱は、上記fより、本件発明1の「加熱工程」におけるものである。
そうすると、「中間転写媒体」の加熱と「像の書き込み」を同時に実施することは、「加熱工程」と「塗布工程」とを同時に実施していることになる。
してみると、引用発明1は、本件発明1の「前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施される」構成を有している。
(引用例1の図2(b)の配置構成からも確認できることである。)

i 以上a?hにより、引用発明1における「インクジェット記録方法」は、本件発明1の「印刷方法」に相当する。

j 一致点
本件発明1と引用発明1とは、以下の点において一致する。
(一致点)
「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクをインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、
前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる加熱工程と、
前記転写媒体上の前記ラテックスインクを該印刷対象物上に転写する転写工程と、を備え、
前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施される、
印刷方法。」

k 相違点
本件発明1と引用発明1とは、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1においては、「塗布工程」の「インクジェット印刷」が「マルチパス」であるのに対して、
引用発明1においては、「塗布工程」の「インクジェット印刷」が「マルチパス」であるのかどうか明らかでない点。
(相違点2)
本件発明1においては、「加熱工程」が、「水と溶剤とを蒸発させて」「前記ラテックスインクの粘度を」「前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで」「上げる」ものであるのに対して、
引用発明1においては、「加熱工程」が、「熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)により」「前記ラテックスインクの粘度を上げる」ものであって、「水と溶剤とを蒸発させて」「前記ラテックスインクの粘度を」「前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで」「上げる」ものであるかどうか明らかでない点。
(相違点3)
本件発明1においては、「転写工程」が、「前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に」行うものであるのに対して、
引用発明1においては、「転写工程」が、「前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に」行うものであるのかどうか、一応、明らかでない点。
(相違点4)
本件発明1においては、「前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる乾燥工程」を備えているのに対して、
引用発明1においては、「前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる乾燥工程」を備えているのどうか、一応、明らかでない点。

(イ) 相違点についての判断
a 上記相違点2について検討する。
(a)引用例1には、発明の課題として、印刷本紙でも滲まずに定着させて発色性が良好な画像を得ることが出来、又コックリングによるジャムの発生を抑えて画像を形成することが出来るインクジェットインク、インクジェット記録方法及びインクジェット記録装置を提供すること(段落【0010】?【0011】(上記(3)ア))が記載され、当該課題を解決するために、引用発明1の「熱ゲル化化合物」ような30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る液粘度増加化合物を含むインクを使用して、加熱保持した中間転写媒体上に画像を記録する構成としたものである(請求項1、請求項4、請求項6、請求項7、【0013】、【0022】、【0055】、【0070】(上記(3)ア))。
そうすると、引用発明1は、30?70℃の間の温度範囲で液粘度を増加し得る液粘度増加化合物である「熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)」の加熱により、すなわち、「熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)」の加熱を原因として、インク液(ラテックスインク)の粘度を、所望の粘度まで上げることがその技術的特徴である。

(b)一方、本件発明1の「加熱工程」における「水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインクの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる」は、「水と溶剤とを蒸発させ」ることを原因として、「前記ラテックスインクの粘度を」「前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで」「上げる」ということを意味する(本件特許明細書段落【0022】、【0033】及び【0041】参照。なお、平成29年7月10日提出の意見書3頁「ア-2 相違点2’についての判断」(ア)、同8頁「イ-2 相違点10’についての判断」(ア)も参照。)。

(c)そうしてみると、引用発明1の「加熱工程」において、その技術的特徴である、熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)の加熱を原因として、ラテックスインクの粘度を、所望の粘度まで上げる構成に替えて、熱ゲル化化合物(メトローズSH 信越化学製)の加熱を原因とせずに、水と溶媒とを蒸発させることを原因として、ラテックスインクの粘度を、所望の粘度まで上げる構成とすることには、動機付けがない。
してみると、引用発明1において、加熱工程が、水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインクの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

b 上記aより、他の相違点1,3及び4について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ) まとめ
したがって、本件発明1は、引用発明1及び引用例2,3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4の印刷方法は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものである。
してみると、本件発明1の理由(上記ア(イ))と同様な理由により、本件発明2?4は、引用発明1及び引用例2,3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明6について
本件発明6は、上記相違点2に係る発明特定事項を具備するから、本件発明1の理由(上記ア(イ)a)と同様な理由により、本件発明6は、引用発明2及び引用例2,3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5) 引用例4を主引用例とする平成29年5月2日付けの取消理由についての判断
ア 本件発明1について
(ア) 本件発明1と引用発明3とを対比すると、以下のとおりとなる。
a 引用発明3における「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」は「水性インキ」であることから、水及び溶剤を有すること、色材が分散されていることは明らかである。
また、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」ということから、熱硬化性樹脂が分散された懸濁液もしくは乳濁液となっていることも、技術的に明らかである。
そうすると、引用発明3の「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」は、本件発明1の「ラテックスインク」に相当する。
また、引用発明3の「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」は、少なくとも水と溶剤に熱硬化性樹脂を分散させたものである。

b 引用発明3において、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を「インクジェットヘッド」の「複数のノズルから」「ブランケット胴に向けて吹き付けることで」、「ブランケット胴の表面に所定の画像を形成」することは、本件発明1における「インクジェット印刷」に相当する。
また、引用発明3における、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を「インクジェットヘッド」の「複数のノズル」から「ブランケット胴」に向けて「吹き付ける」ことは、本件発明1における「塗布する」ことに相当し、該「吹き付ける」ことで「所定の画像を形成」することは、本件発明1における「インク塗布面を形成」することに相当する。
また、引用発明3における「ブランケット胴」は、本件発明1における「転写媒体」に相当し、引用発明3における「ブランケット胴の表面」は、本件発明1における「転写媒体」「上」に相当する。
そうすると、上記aより、引用発明3において、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を「インクジェットヘッド」の「複数のノズル」から「ブランケット胴」に向けて「吹き付ける」ことで、「ブランケット胴の表面」に「所定の画像を形成」するということは、「ラテックスインク」を「インクジェット印刷」により「転写媒体上」に「塗布」して「インク塗布面を形成する」ということができる。
してみると、引用発明3は、本件発明1における「ラテックスインクをインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する」「塗布工程」を備えている。

c 引用発明3においては、「ブランケット胴が予熱ランプにより加熱されていることから」、「予熱ランプ」により、「ブランケット胴」を「加熱」している。
また、引用発明3においては、「ブランケット胴に形成された画像(熱硬化性樹脂を含有する水性インキ)は、高温状態のブランケット胴から熱が付与され」、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキは粘度が上昇し」、「半乾燥状態の熱硬化性樹脂を含有する水性インキと」しているから、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」の「粘度」を上げている。
そうすると、引用発明3は、「ブランケット胴」を「加熱」して、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」の「粘度」を上げているから、上記a,bより、「転写媒体」を「加熱」して、「ラテックスインク」の「粘度」を上げている。
してみると、引用発明3は、本件発明1における「前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる」「加熱工程」を備えている。

d 引用発明3においては、「ブランケット胴が回転して移動した半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」は、「ブランケット胴と圧胴により搬送された印刷シート」との間に所定の「ニップ」が作用することで、「印刷シート」の表面に「転写」されるものである。
ここで、「ニップ」とは、「2つの円筒がある圧力を持って接触する」という意味であるから、引用発明3においては、「ブランケット胴」上の「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を、「ブランケット胴と圧胴により搬送された」「印刷シート」と「接触」させることで、「印刷シート」に「転写」するものである(「印刷シート」と「ヒートセットインキ」とを「接触」させて「ヒートセットインキ」の「転写」を行うことは、引用例4の図4からも確認できることである。)。
また、「ブランケット胴」から「印刷シート」への「半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」の「転写」は、「半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」と「印刷シート」とが「接触」することによるものであるから、「直接」に行われていることは明らかである。
そうすると、引用発明3は、「ブランケット胴」上の「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を「ブランケット胴と圧胴により搬送された印刷シート」と「接触」させることで、「直接」に「印刷シート」に「転写」するものである。
引用発明3における「印刷シート」は、本件発明1における「印刷対象物」に相当する。
してみると、上記aとbより、引用発明3は、本件発明1における「前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に該印刷対象物上に転写する」「転写工程」を有する。

e 引用発明3においては、「印刷シートと共に移動した」「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を、「加熱ランプからの光熱により」、「半乾燥状態」から「完全乾燥状態」とするものである。
引用発明3においては、「印刷シートと共に移動した半乾燥状態の画像の熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」は、「印刷シート」上の「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」である。
そうすると、引用発明3は、「印刷シート」上の「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を、「加熱ランプからの光熱により」、「半乾燥状態」から「完全乾燥状態」とするものである。
引用発明3において、「熱硬化性樹脂を含有する水性インキ」を、「加熱ランプからの光熱により」、「半乾燥状態」から「完全乾燥状態」とすることは、本件発明1における「乾燥させる」ことに相当する。
してみると、上記a,b及びdより、引用発明3は、本件発明1における「前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる」「乾燥工程」を備えている。

f 以上a?eにより、引用発明3における「印刷方法」は、本件発明1の「印刷方法」に相当する。

g 一致点
本件発明1と引用発明3とは、以下の点において一致する。
(一致点)
「ラテックスインクをインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、
前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる加熱工程と、
前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に該印刷対象物上に転写する転写工程と、
前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる乾燥工程と、を備えた
印刷方法。」

h 相違点
本件発明1と引用発明3とは、以下の点で相違する。
(相違点5)
本件発明1においては、「ラテックスインク」は、少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたものであるのに対して、
引用発明3においては、熱硬化性樹脂を含有する水性インキ(ラテックスインク)は、少なくとも水と溶剤に熱硬化性樹脂を分散させたものである点。
(相違点6)
本件発明1においては、「塗布工程」の「インクジェット印刷」が「マルチパス」であるのに対して、
引用発明3においては、「塗布工程」の「インクジェット印刷」が「マルチパス」であるのかどうか明らかでない点。
(相違点7)
本件発明1においては、「加熱工程」が、「水と溶剤とを蒸発させて」「前記ラテックスインクの粘度を」「前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで」「上げる」ものであるのに対して、
引用発明3においては、「加熱工程」が、半乾燥状態の熱硬化性樹脂を含有する水性インキ(ラテックスインク)となり、熱硬化性樹脂を含有する水性インキ(ラテックスインク)の粘度を上げるものであり、「水と溶剤とを蒸発させて」「前記ラテックスインクの粘度を」「前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで」「上げる」ものであるのか明らかでない点。
(相違点8)
本件発明1においては、「前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施される」のに対して、
引用発明3においては、「前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施される」のかどうか明らかでない点。

(イ) 相違点についての判断
a 相違点5及び相違点7について
(a)引用例4には、発明の課題として、インクジェットヘッドを用いて印刷を行う印刷装置では、複数のノズルからインキを吐出して対象物に画像(絵柄や文字)を形成するために低粘度のインキを使用すると、インク像が印刷用紙に転写されるとき、インキが用紙に浸透し、印刷精度が低下してしまうおそれがあること(段落【0005】(上記3.(3)エ)、インクジェット方式を使用したオフセット印刷法では、平面原板に印刷したUVまたは電子ビームの照射により半乾燥状態とし、この半乾燥のUVインキ画像を弾性ブラケット表面に写しとり、更に被印刷体にオフセット印刷しているが、UVインキを使用することから、印刷コストが上昇してしまうという問題があること(段落【0006】(上記3.(3)エ))ことが記載され、当該課題を解決するために、ヒートセットインキ(熱硬化性樹脂を含有する水性インキまたは油性インキ)を使用して、ヒートセットインキが吹き付けられるブランケット胴を事前に加熱することにより、インクジェットヘッドによりブランケット胴に表面に形成された低粘度のヒートセットインキの粘度を上昇させて早期に一次乾燥(半乾燥)状態とすることができる構成としたもの(段落【0018】、【0026】、【0027】、【0035】、【0060】、【0068】(上記3.(3)エ))である。
ここで、ヒートセットインキの粘度の上昇は、熱硬化性樹脂の加熱による熱硬化を原因とするものであることは明らかであるから、引用発明3においては、熱硬化性樹脂を含有したインキを使用して、熱硬化性樹脂を加熱による熱硬化を原因として、所望の粘度(一次乾燥(半乾燥)状態)まで粘度を上げることが、その技術的特徴である。

(b)そうすると、上記(a)より、引用発明3において、少なくとも水と溶剤に熱硬化性樹脂を分散させた水性インキ(ラテックスインク)を、加熱による熱硬化する熱硬化性樹脂の特性とは逆に加熱により軟化する特性を有する熱可塑性樹脂を、水と溶剤に分散させた構成とすることは、動機付けがない。
よって、引用発明3において、少なくとも水と溶剤に熱硬化性樹脂を分散させた水性インキ(ラテックスインク)を、少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させた構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(c)また、上記(a)より、引用発明3の「加熱工程」において、半乾燥状態の熱硬化性樹脂を含有する水性インキ(ラテックスインク)となり、熱硬化性樹脂を含有する水性インキ(ラテックスインク)の粘度を上げる構成に替えて、熱硬化性樹脂の熱硬化を原因とせずに、水と溶媒とを蒸発させることを原因として、ラテックスインクの粘度を、所望の粘度まで上げる構成とすることは、動機付けがない。
してみると、引用発明3において、加熱工程が、水と溶剤とを蒸発させて熱硬化性樹脂を含有する水性インキ(ラテックスインク)の粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる構成とすることは、当業者が容易になし得たものとはいえない。

b 上記aより、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(ウ) まとめ
本件発明1は、引用発明3及び引用例1,2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2?4及び6について
本件発明2?4の印刷方法は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものである。
してみると、本件発明1の理由(上記ア(イ)a)と同様な理由により、本件発明2?4は、引用発明3及び引用例1,2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明6について
本件発明6は、上記相違点5及び相違点7に係る発明特定事項を具備するから、本件発明1の理由(上記ア(イ)a)と同様な理由により、本件発明6は、引用発明4及び引用例1,2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4.特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年8月23日提出の意見書において、本件特許の出願の前に公然と行われていた技術を示すために、甲第5号証として特開平6-200199号公報を提出するとともに、(1)甲1号証及び甲2号証には、「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインキ」が開示されていること(意見書1頁下から3行-3頁3行)、(2)「・・・ラテックスインキの粘度を前記ラテックスインキが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる加熱工程と、」いう限定は、元々当然含まれている内容を改めて付加しただけにすぎないこと(3頁4行-4頁12行)、(3)甲第1号証には「インクをインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成」可能な構成が開示され、甲第2号証には、「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクを印刷可能」な構成が開示されているため、甲第1号証及び甲第2号証に基づけば、相違点2が実質的な相違点を構成することがないこと、(4)加熱工程において「水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインキの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる」ことは、転写工程をその後に行うのであれば、言うまでもなく当然に満たされていることであるから、相違点7は実質的な相違点を構成することはないこと、(5)「少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクを・・・塗布工程と、」という限定をしても、依然として甲第2号証で開示されるインクに含まれるものでしかなく、また、「・・・ラテックスインクの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる・・・」という限定をしたとしても、依然として、甲第1号証及び甲第2号証に基づいて特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことは明らかである旨主張している。
しかしながら、上記3.(4)あるいは上記3.(5)において示したとおり、引用例1(甲第1号証)に記載された引用発明1を主引用発明として、引用発明1において、「加熱工程」を「水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインキの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる」構成とすることや、引用例4(甲第4号証)に記載された引用発明3を主引用発明として、引用発明3において、少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクの構成とすることや、「加熱工程」を「水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインキの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる」構成とすることが、当業者にとって容易になし得たものではないのであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

5.むすび
上記3.(4)のとおり、本件発明1?4,6は、引用例1?3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1?4,6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。
また、上記3.(5)のとおり、本件発明1?4,6は、引用例4、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1?4,6の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるとはいえない。
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4,6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4,6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも水と溶剤に熱可塑性樹脂を分散させたラテックスインクをマルチパスのインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、
前記転写媒体を加熱して、水と溶剤とを蒸発させて前記ラテックスインクの粘度を前記ラテックスインクが滲まず、且つ、転写が可能な程度の粘着性を維持できる程度まで上げる加熱工程と、
前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に該印刷対象物上に転写する転写工程と、
前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施されること
を特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記ラテックスインクは、前記加熱工程を実施した後の状態において熱可塑性を有し、
前記転写工程は、前記転写媒体を加熱しながら該転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで該印刷対象物上に転写すること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項3】
前記加熱工程によって増粘した前記ラテックスインクの粘度が25℃において100mPa・sec?200000mPa・secであること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項4】
前記転写工程は、前記インク塗布面を前記印刷対象物に向けて配置した前記転写媒体を該インク塗布面とは逆側から押圧部材で押圧することによって、該インク塗布面を前記印刷対象物に密着させることで、該転写媒体上の前記ラテックスインクを該印刷対象物上に転写すること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項5】
ラテックスインクをマルチパスのインクジェット印刷により転写媒体上に塗布してインク塗布面を形成する塗布工程と、
前記転写媒体を加熱して、前記ラテックスインクの粘度を上げる加熱工程と、
前記転写媒体上の前記ラテックスインクを印刷対象物に接触させることで直接に該印刷対象物上に転写する転写工程と、
前記印刷対象物上の前記ラテックスインクを乾燥させる乾燥工程と、を備え、
前記塗布工程と前記加熱工程とは、前記転写媒体の下側から加熱しながらその直上の該転写媒体上に前記ラテックスインクを塗布することによって同時に実施され、
前記転写工程は、前記転写媒体を外壁部として取り付け可能もしくは外壁部の内側に取り付け可能であると共に内容積の変化に応じて該外壁部が変形もしくは移動可能であり、且つ該転写媒体が取り付けられた状態で気密保持が可能な筺体を準備し、
前記筺体の内部に、前記印刷対象物を格納し、
前記転写媒体を、前記インク塗布面を前記印刷対象物に向けて前記筺体の外壁部としてもしくは外壁部の内側に取り付けて、
前記筺体の内部を減圧することによって、該筺体の内容積が減少するように前記外壁部を該筺体の内方へ変形もしくは移動させて、前記転写媒体のインク塗布面を前記印刷対象物に密着させることで、該転写媒体上の前記ラテックスインクを該印刷対象物上に転写すること
を特徴とする印刷方法。
【請求項6】
請求項1?4のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記ラテックスインクをインクジェット液滴として前記転写媒体上に噴射するインクジェットヘッドと、該転写媒体を加熱するヒータと、該ヒータの温度を制御する制御部と、を備えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。
【請求項7】
請求項5に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記ラテックスインクをインクジェット液滴として前記転写媒体上に噴射するインクジェットヘッドと、該転写媒体を加熱するヒータと、該ヒータの温度を制御する制御部と、を備えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-01 
出願番号 特願2011-215461(P2011-215461)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B41M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 定文  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
登録日 2016-01-08 
登録番号 特許第5861222号(P5861222)
権利者 株式会社ミマキエンジニアリング
発明の名称 印刷方法およびインクジェット吐出装置  
代理人 鈴木 守  
復代理人 安井 友章  
代理人 井上 義隆  
復代理人 安井 友章  
代理人 鈴木 守  
代理人 井上 義隆  

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