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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1335155
異議申立番号 異議2016-701184  
総通号数 217 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-01-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-26 
確定日 2017-11-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5946015号発明「廃水処理装置及び廃水処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5946015号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1-10について訂正することを認める。 特許第5946015号の請求項1、2、4ないし7、9に係る特許を維持する。 特許第5946015号の請求項3、8、10に係る特許についての特許異議の申立を却下する。 
理由 I.手続の経緯
特許第5946015号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成24年5月7日に特許出願され、平成28年6月10日に特許権の設定登録がなされ、同年12月26日付けで特許異議申立人の吉田秀平より特許異議申立書が提出され、平成29年4月18日付けの取消理由を特許権者の三菱レイヨン株式会社に通知し、特許権者より同年6月20日付けで訂正請求及び意見書が提出され、これに対して、異議申立人より同年8月14日付けで意見書が提出されたものである。

II.訂正の適否についての判断
平成29年6月20日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による請求項1?10に係る訂正の適否について、以下、検討する。
(1)請求項1?5に係る訂正について
ア 訂正事項
a 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、」という記載を追加する。

b 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「この膜モジュールにエアを吹き付けて膜モジュールを洗浄するための洗浄手段」とあるのを、「この膜モジュールにエアを吹き付けて膜モジュールを洗浄するためのブロワーを有する洗浄手段」に訂正する。

c 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記膜モジュールにエアを吹き付ける」とあるのを、「前記ブロワーを作動させて前記膜モジュールにエアを吹き付ける」に訂正する。

d 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「なっている、」とあるのを、「なっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、」に訂正する。

e 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、」という記載を追加する。(請求項2の記載を引用する請求項4及び請求項5も同様に訂正する。)

f 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項2に「空気の供給源とを有しており」とあるのを、「空気の供給源であるブロワーとを有しており」と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項4及び請求項5も同様に訂正する。)

g 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2に「廃水を濾過していないときにのみ作動する」とあるのを、「廃水を濾過していないときにのみ前記ブロワーを作動させることで、作動する」と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項4及び請求項5も同様に訂正する。)

h 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項2に「なっている、」とあるのを、「なっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールに空気を吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、」と訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項4及び請求項5も同様に訂正する。)

i 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

イ 訂正の理由の検討
(ア)一群の請求項について
訂正事項1?9に係る訂正前の請求項1?5について、請求項3は、請求項1又は請求項2を引用しているものであり、請求項4は請求項2を引用するものであり、請求項5は請求項4を引用するものである。よって、これらの請求項は一群の請求項として訂正されるべきものである。したがって、訂正前の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1?9は、これらの一群の請求項について訂正後の請求項1?5のとおりに訂正するものである。

(イ)訂正事項が全ての訂正要件に適合していることについて
以下、各訂正事項について順に検討する。
a 訂正事項1
(a) 訂正の目的について
訂正事項1は、廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項1は、廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0034には、「膜モジュール43には吸引ポンプP2が接続され、」と記載され、段落0050には、「膜分離手段40内では、膜分離槽42内の廃水W_(0)を廃水吸引ポンプP2により膜モジュール43の濾過膜の細孔を介して吸引ろ過することで、廃水W_(0)を濾過水W_(1)と、不溶化物のフロックを含む膜分離濃縮水W_(2)とに分離する。」と記載されている。したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

b 訂正事項2
(a) 訂正の目的について
訂正事項2は、廃水処理装置がブロワーを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項2は、廃水処理装置がブロワーを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0034には、「散気装置44にはブロワーBが接続されている。」と記載され、段落0036には、「また、散気装置44は膜モジュール43の下方に設けられ、ブロワーBより送気されたエアを膜分離槽42内に放出する。これにより、散気装置44から散気された気泡が、廃水W_(0)の液中を通って膜モジュール43に達し、その後、水面から放出される。このとき、上昇する気泡が濾過膜に当たって濾過膜が揺れるので、濾過膜に付着した不溶化物が濾過膜から離脱するので膜モジュール43の濾過膜を洗浄することができる。」と記載されている。したがって、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

c 訂正事項3
(a) 訂正の目的について
訂正事項3は、ブロワーを作動させることにより膜モジュールにエアを吹き付ける点を限定するものである。したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項3は、ブロワーを作動させることにより膜モジュールにエアを吹き付ける点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0036には、「また、散気装置44は膜モジュール43の下方に設けられ、ブロワーBより送気されたエアを膜分離槽42内に放出する。これにより、散気装置44から散気された気泡が、廃水W_(0)の液中を通って膜モジュール43に達し、その後、水面から放出される。このとき、上昇する気泡が濾過膜に当たって濾過膜が揺れるので、濾過膜に付着した不溶化物が濾過膜から離脱するので膜モジュール43の濾過膜を洗浄することができる。」と記載され、また段落0053には、「そして予め決定された時間t_(l)だけ廃水W_(0)を吸引濾過して膜モジュール43の表面にフロックが捕捉されると、制御装置46は、一旦ポンプP2を停止させることによって廃水W_(0)の吸引濾過を停止し、これとほぼ同時にブロワーBを作動させて曝気を開始する。」と記載され、また、「そして所定時間t_(2)、曝気を行った後、制御装置46は、ブロワーBを停止させて曝気を停止させ、これとほぼ同時にポンプP2を作動させて廃水W_(0)の吸引濾過を再開する。」と記載されている。したがって、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

d 訂正事項4
(a) 訂正の目的について
訂正事項4は、廃水処理装置の動作の際、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、という点を限定するものである。したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項4は、廃水処理装置の動作を具体的に限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0054には、「そして発明者等による実験によれば、吸引濾過を行う時間t_(l)は約5分?20分であるのが良い。」と記載され、また、「そして発明者等による実験によれば、曝気を行う時間t_(2)は、約30秒?300秒であるのが良い。」と記載され、さらに「また、吸引濾過を行う時間t_(1)と、曝気を行う時間t_(2)とは、上述した範囲の中で比例させることが好ましく、吸引濾過を行う時間t_(1)が短ければ曝気を行う時間t_(2)を短くし、一方で、吸引濾過を行う時間t_(l)が長ければ曝気を行う時間t_(2)を長くするのが良い。」と記載されている。したがって、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

e 訂正事項5
(a) 訂正の目的について
訂正事項5は、廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項5は、廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0034には、「膜モジュール43には吸引ポンプP2が接続され、」と記載され、段落0065には、「図8に示すように、膜分離手段40において、廃水W_(0)を濾過している場合、即ちポンプP2が作動しており、」と記載されている。したがって、当該訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

f 訂正事項6
(a) 訂正の目的について
訂正事項6は、廃水処理装置が空気の供給源としてブロワーを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項6は、廃水処理装置が空気の供給源としてブロワーを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0060には「ブロワーBから供給された空気を、第1空気供給管61および第1空気分岐管63を通って第1散気管65aに供給するように、又は第2空気供給管62および第2空気分岐管64を通って第2散気管66aに供給するようになっている。」と記載され、段落0061には、「第1空気分岐管63及び第2空気分岐管64と、ブロワーBとの間には、切り替えバルブ71が設けられている。この切り換えバルブ71は、第1空気供給管61に設けられたバルブ71aと、第2空気供給管62に設けられたバルブ71bとを備えている。」と記載されている。したがって、当該訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

g 訂正事項7
(a) 訂正の目的について
訂正事項7は、散気ユニットがブロワーを作動させることにより作動する点を限定するものである。したがって、訂正事項7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項7は、散気ユニットがブロワーを作動させることにより作動する点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0058には、「図3及び図4に示すように、散気手段は、散気装置44と、ブロワーBに接続され、」と記載され、また「散気装置44は、第1空気分岐管63に接続された2本以上の直線状の第1散気管65aを有する第1散気ユニット65と、第2空気分岐管64に接続された2本以上の直線状の第2散気管66aを有する第2散気ユニット66とを備えている」と記載され、段落0065には「そして所定時間t_(l)だけ廃水W_(0)を吸引濾過して膜モジュール43の表面にフロックが捕捉されると、廃水処理装置1の制御装置46は、一旦ポンプP2を停止させることによって廃水W_(0)の吸引濾過を停止し、これとほぼ同時にブロワーBを起動させ散気装置44によって所定時間t_(2)だけ曝気を行う。これにより、散気装置44から膜モジュール43に向けて空気が放出される。」と記載され、さらに段落0066には「そして所定時間t_(2)、曝気を行った後、廃水処理装置1は、ブロワーBを停止させて曝気を停止させ、これとほぼ同時にポンプP2を作動させて廃水W_(0)の吸引濾過を再開する。」と記載されている。したがって、当該訂正事項7は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

h 訂正事項8
(a) 訂正の目的について
訂正事項8は、廃水処理装置の動作の際、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、という点を限定するものである。したがって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項8は、廃水処理装置の動作を具体的に限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0068には、「そして発明者等による実験によれば、吸引濾過を行う時間t_(l)は約5分?20分であるのが良い。」と記載され、また、「そして発明者等による実験によれば、曝気を行う時間t_(2)は、約30秒?300秒であるのが良い。」と記載され、さらに「また、吸引濾過を行う時間t_(l)と、曝気を行う時間t_(2)とは、上述した範囲の中で比例させることが好ましく、吸引濾過を行う時間t_(l)が短ければ曝気を行う時間t_(2)を短くし、一方で、吸引濾過を行う時間t_(l)が長ければ曝気を行う時間t_(2)を長くするのが良い。」と記載されている。したがって、当該訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

i 訂正事項9
(a) 訂正の目的について
訂正事項9は、訂正前の請求項3を削除するものである。したがって、訂正事項9は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項9は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項9は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(2)請求項6?10に係る訂正について
ア 訂正事項
a 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項6に「この膜分離手段」とあるのを、「この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、前記膜分離手段」に訂正する。

b 訂正事項11
特許請求の範囲の請求項6に「膜モジュールを洗浄するための洗浄手段」とあるのを、「膜モジュールを洗浄するためのブロワーを有する洗浄手段」に訂正する。

c 訂正事項12
特許請求の範囲の請求項6に「廃水を濾過していないときにのみ、前記洗浄手段によって」とあるのを、「廃水を濾過していないときにのみ、前記ブロワーを作動させて前記洗浄手段によって」に訂正する。

d 訂正事項13
特許請求の範囲の請求項6に「なっている、」とあるのを、「なっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、」に訂正する。

e 訂正事項14
特許請求の範囲の請求項7に「空気の供給源を有する」とあるのを、「空気の供給源であるブロワーを有する」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)

f 訂正事項15
特許請求の範囲の請求項7に「膜分離手段によって」とあるのを、「膜分離手段、この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプによって」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)

g 訂正事項16
特許請求の範囲の請求項7に「廃水を濾過していないときにのみ作動する」とあるのを、「廃水を濾過していないときにのみ前記ブロワーを作動させることで、作動する」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)

h 訂正事項17
特許請求の範囲の請求項7に「なっている、」とあるのを、「なっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールに空気を吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、」に訂正する。(請求項7の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)

i 訂正事項18
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

j 訂正事項19
特許請求の範囲の請求項9に「前記廃水処理装置は、少なくとも2つの散気ユニットの各散気ユニットをすべて同時に作動させないように制御する制御手段を有する、請求項7に記載の廃水処理方法。」とあるのを「前記廃水処理方法は、前記少なくとも2つの散気ユニットの各散気ユニットをすべて同時に作動させないようにする、請求項7に記載の廃水処理方法。」に訂正する。

k 訂正事項20
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

イ 訂正の理由の検討
(ア)一群の請求項について
訂正事項10?20に係る訂正前の請求項6?10について、請求項8は、請求項6又は請求項7を引用しているものであり、請求項9は請求項7を引用するものであり、請求項10は請求項9を引用するものである。よって、これらの請求項はー群の請求項として訂正されるべきものである。したがって、訂正前の請求項6?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項10?20は、これらの一群の請求項について、訂正後の請求項6?10のとおりに訂正するものである。

(イ)訂正事項が全ての訂正要件に適合していることについて
以下、各訂正事項について順に検討する。
a 訂正事項10
(a) 訂正の目的について
訂正事項10は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項10は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0034には、「膜モジュール4 3には吸引ポンプP2が接続され、」と記載され、段落0050には、「膜分離手段40内では、膜分離槽4 2内の廃水W_(0)を廃水吸引ポンプP2により膜モジュール43の濾過膜の細孔を介して吸引ろ過することで、廃水W_(0)を濾過水W_(1)と、不溶化物のフロックを含む膜分離濃縮水W_(2)とに分離する。」と記載されている。したがって、当該訂正事項10は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

b 訂正事項11
(a) 訂正の目的について
訂正事項11は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置がブロワーを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項11は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置がブロワーを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0034には、「散気装置44にはブロワーBが接続されている。」と記載され、段落0036には、「また、散気装置44は膜モジュール43の下方に設けられ、ブロワーBより送気されたエアを膜分離槽42内に放出する。これにより、散気装置44から散気された気泡が、廃水W_(0)の液中を通って膜モジュール43に達し、その後、水面から放出される。このとき、上昇する気泡が濾過膜に当たって濾過膜が揺れるので、濾過膜に付着した不溶化物が濾過膜から離脱するので膜モジュール43の濾過膜を洗浄することができる。」と記載されている。したがって、当該訂正事項11は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

c 訂正事項12
(a) 訂正の目的について
訂正事項12は、ブロワーを作動させることにより膜モジュールにエアを吹き付ける点を限定するものである。したがって、訂正事項12は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項12は、ブロワーを作動させることにより膜モジュールにエアを吹き付ける点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0036には、「また、散気装置44は膜モジュール43の下方に設けられ、ブロワーBより送気されたエアを膜分離槽42内に放出する。これにより、散気装置44から散気された気泡が、廃水W_(0)の液中を通って膜モジュール43に達し、その後、水面から放出される。このとき、上昇する気泡が濾過膜に当たって濾過膜が揺れるので、濾過膜に付着した不溶化物が濾過膜から離脱するので膜モジュール43の濾過膜を洗浄することができる。」と記載され、また段落0053には、「そして予め決定された時間t_(l)だけ廃水W_(0)を吸引濾過して膜モジュール43の表面にフロックが捕捉されると、制御装置46は、一旦ポンプP2を停止させることによって廃水W_(0)の吸引濾過を停止し、これとほぼ同時にブロワーBを作動させて曝気を開始する。」と記載され、また、「そして所定時間t_(2)、曝気を行った後、制御装置46は、ブロワーBを停止させて曝気を停止させ、これとほぼ同時にポンプP2を作動させて廃水W_(0)の吸引濾過を再開する。」と記載されている。したがって、当該訂正事項12は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

d 訂正事項13
(a) 訂正の目的について
訂正事項13は、廃水処理方法において、吸引濾過を行う時間11が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、という点を限定するものである。したがって、訂正事項13は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項13は、廃水処理方法を具体的に限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0054には、「そして発明者等による実験によれば、吸引濾過を行う時間t_(l)は約5分?20分であるのが良い。」と記載され、また、「そして発明者等による実験によれば、曝気を行う時間t_(2)は、約30秒?300秒であるのが良い。」と記載され、さらに「また、吸引濾過を行う時間t_(l)と、曝気を行う時間t_(2)とは、上述した範囲の中で比例させることが好ましく、吸引濾過を行う時間t_(l)が短ければ曝気を行う時間t_(2)を短くし、一方で、吸引濾過を行う時間t_(l)が長ければ曝気を行う時間t_(2)を長くするのが良い。」と記載されている。したがって、当該訂正事項13は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

e 訂正事項14
(a) 訂正の目的について
訂正事項14は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置が空気の供給源としてブロワーを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項14は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項14は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置が空気の供給源としてブロワーを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0060には「ブロワーBから供給された空気を、第1空気供給管61および第1空気分岐管63を通って第1散気管65aに供給するように、又は第2空気供給管62および第2空気分岐管64を通って第2散気管66aに供給するようになっている。」と記載され、段落0061には、「第1空気分岐管63及び第2空気分岐管64と、ブロワーBとの間には、切り替えバルブ71が設けられている。この切り換えバルブ71は、第1空気供給管61に設けられたバルブ71aと、第2空気供給管62に設けられたバルブフ1bとを備えている。」と記載されている。したがって、当該訂正事項14は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

f 訂正事項15
(a) 訂正の目的について
訂正事項15は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものである。したがって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項15は、廃水処理方法に用いられる廃水処理装置が吸引ポンプを備える点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0034には、「膜モジュール43には吸引ポンプP2が接続され、」と記載され、段落0065には、「図8に示すように、膜分離手段40において、廃水W_(0)を濾過している場合、即ちポンプP2が作動しており、」と記載されている。したがって、当該訂正事項15は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

g 訂正事項16
(a) 訂正の目的について
訂正事項16は、廃水を濾過していないときにのみブロワーを作動させることにより散気ユニットが作動する点を限定するものである。したがって、訂正事項16は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項16は、廃水を濾過していないときにのみブロワーを作動させることにより散気ユニットが作動する点を限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0058には、「図3及び図4に示すように、散気手段は、散気装置44と、ブロワーBに接続され、」と記載され、また「散気装置44は、第1空気分岐管63に接続された2本以上の直線状の第1散気管65aを有する第1散気ユニット65と、第2空気分岐管64に接続された2本以上の直線状の第2散気管66aを有する第2散気ユニット66とを備えている」と記載され、段落0065には「そして所定時間t_(l)だけ廃水W_(0)を吸引濾過して膜モジュール43の表面にフロックが捕捉されると、廃水処理装置1の制御装置46は、一旦ポンプP2を停止させることによって廃水W_(0)の吸引濾過を停止し、これとほぼ同時にブロワーBを起動させ散気装置44によって所定時間t_(2)だけ曝気を行う。これにより、散気装置44から膜モジュール43に向けて空気が放出される。」と記載され、さらに段落0066には「そして所定時間t_(2)、曝気を行った後、廃水処理装置1は、ブロワーBを停止させて曝気を停止させ、これとほぼ同時にポンプP2を作動させて廃水W_(0)の吸引濾過を再開する。」と記載されている。したがって、当該訂正事項16は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

h 訂正事項17
(a) 訂正の目的について
訂正事項17は、廃水処理方法において、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、という点を限定するものである。したがって、訂正事項17は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項17は、廃水処理方法を具体的に限定するものであって、それによって発明の解決すべき課題や技術分野を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
段落0068には、「そして発明者等による実験によれば、吸引濾過を行う時間t_(l)は約5分?20分であるのが良い。」と記載され、また、「そして発明者等による実験によれば、曝気を行う時間t_(2)は、約30秒?300秒であるのが良い。」と記載され、さらに「また、吸引濾過を行う時間t_(1)と、曝気を行う時間t_(2)とは、上述した範囲の中で比例させることが好ましく、吸引濾過を行う時間t_(l)が短ければ曝気を行う時間t_(2)を短くし、一方で、吸引濾過を行う時間t_(l)が長ければ曝気を行う時間t_(2)を長くするのが良い。」と記載されている。したがって、当該訂正事項8は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

i 訂正事項18
(a) 訂正の目的について
訂正事項18は、訂正前の請求項8を削除するものである。したがって、訂正事項18は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項18は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項18は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

j 訂正事項19
(a) 訂正の目的について
訂正事項19は、訂正前の請求項9に含まれていた「前記廃水処理装置」という誤記を、「前記廃水処理方法」と訂正し、「少なくとも2つの散気ユニット」の前に「前記」という記載が欠落していたという誤記を訂正し、そして、「作動させないように制御する制御手段を有する」という誤記を「作動させないようする」と訂正するものである。したがって、訂正事項19は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項19は廃水処理方法に係る発明を特定する請求項9に含まれていた誤記を訂正し、方法の発明を特定する特許請求の範囲の記載として適切な記載に改めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
願書に添付した特許請求の範囲の請求項7には、「廃水処理方法」と記載され、また、段落0019には「このように構成された本発明によれば、複数のバルブを同時に開らかないように構成して少なくとも2つの散気ユニットの各散気ユニットが同時に作動させないようにすることで、各々の散気ユニットを間欠的に作動させることができる。」と記載されている。したがって、当該訂正事項19は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

k 訂正事項20
(a) 訂正の目的について
訂正事項20は、訂正前の請求項10を削除するものである。したがって、訂正事項20は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(b) 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記(a)の理由から明らかなように、訂正事項20は、請求項を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(c) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることについて
訂正事項20は、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1、2号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?10について、訂正することを認める。
なお、請求項1?10について特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件の検討は要さないものである。

III.本件特許発明について
上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1、2、4ないし7、9に係る発明(以下「本件特許訂正発明1、2、4ないし7、9」といい、これらを纏めて「本件訂正特許発明」という。)は、訂正後の請求項1、2、4?7、9に記載された次の事項のとおりのものと認める。(当審注:下線部は訂正箇所であり、特許権者が付与したものである。)
「【請求項1】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段と、
この不溶化処理手段の下流側に設けられ、不溶化処理手段から流れてきた廃水を濾過するための膜分離手段と、
この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、を備えており、
この膜分離手段には、廃水を濾過するための膜モジュールと、この膜モジュールにエアを吹き付けて膜モジュールを洗浄するためのブロワーを有する洗浄手段とが設けられており、
前記洗浄手段は、前記膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、前記ブロワーを作動させて前記膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、廃水処理装置。
【請求項2】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段と、
この不溶化処理手段の下流側に設けられ、不溶化処理手段から流れてきた廃水を濾過するための膜分離手段と、
この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、を備え、
この膜分離手段は、廃水を濾過するための少なくとも1つの膜モジュールと、
これら少なくとも1つの膜モジュールの下方に各々設けられ、当該膜モジュールに空気を吹き付けて膜モジュールを洗浄するための少なくとも2つの散気ユニットと、
これら少なくとも2つの散気ユニットの各々に連結された複数のバルブと、
これら複数のバルブに連結された空気の供給源であるブロワーとを有しており、
少なくとも2つの散気ユニットは、各膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ前記ブロワーを作動させることで、作動するようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールに空気を吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、廃水処理装置。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
少なくとも2つの散気ユニットの各散気ユニットをすべて同時に作動させないように制御する制御手段を有する、請求項2に記載の廃水処理装置。
【請求項5】
前記制御手段は、複数のバルブを同時に開かないように、当該複数のバルブを制御するように構成されている請求項4に記載の廃水処理装置。
【請求項6】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段と、この不溶化処理手段の下流側に設けられ、不溶化処理手段から流れてきた廃水を濾過するための膜分離手段と、この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、前記膜分離手段に設けられ、廃水を濾過するための膜モジュールと、この膜モジュールにエアを吹き付けて膜モジュールを洗浄するためのブロワーを有する洗浄手段と、を備えた廃水処理装置を用いた廃水処理方法であって、
前記膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、前記ブロワーを作動させて前記洗浄手段によって前記膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、廃水処理方法。
【請求項7】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理工程と、
廃水を濾過するための少なくとも1つの膜モジュール、これら少なくとも1つの膜モジュールの下方に各々設けられ、当該膜モジュールに空気を吹き付けて膜モジュールを洗浄するための少なくとも2つの散気ユニット、これら少なくとも2つの散気ユニットの各々に連結された複数のバルブ、及びこれら複数のバルブに連結された空気の供給源であるブロワーを有する膜分離手段、この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプによって不溶化物を含む廃水を濾過する工程と、を備える廃水処理方法であって、
少なくとも2つの散気ユニットは、各膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ前記ブロワーを作動させることで、作動するようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールに空気を吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、廃水処理方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記廃水処理方法は、前記少なくとも2つの散気ユニットの各散気ユニットをすべて同時に作動させないようにする、請求項7に記載の廃水処理方法。
【請求項10】(削除)」

IV.特許異議申立について
特許異議申立人は、以下で示す甲第1号証ないし甲第7号証を証拠方法として提出すると共に、特許異議申立書及び平成29年8月14日付け意見書において、以下(A)ないし(F)を特許異議申立理由として主張する、ものと認める。
ア 証拠方法
甲第1号証:特開2003-19404号公報
甲第2号証:特開平10-15551号公報
甲第3号証:国際公開第2011/114897号
甲第4号証:特開2007-167779号公報
甲第5号証:特開平11-235586号公報
甲第6号証:特開平11-314026号公報
甲第7号証:特開2000-37616号公報

イ 特許異議申立理由の概略
<特許異議申立書>
(A)本件特許明細書及び図面の記載からして、本件特許発明が解決しようとする課題を解決する手段は、「濾過していないときのみ、膜モジュールにエアを吹き付ける」ことではなく、「濾過時間(t1)を20分以下、又は、曝気時間(t2)を30秒以上とする」こと(手段)にあるといえるものの、本件請求項1、2、4ないし7、9、10に係る発明は、この手段を反映するものではないので、本件の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。つまり、本件請求項1、2、4ないし7、9、10の記載は、本件の発明の詳細な説明の範囲を超えるものであるので、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものではない。(以下、「申立理由(A)」という。)
(B)本件請求項1、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するものである。(以下、「申立理由(B)」という。)
(C)本件請求項2ないし5、7ないし10に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定を満たすものではない。(以下、「申立理由(C)」という。)
(D)本件請求項1、6に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び出願日前周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定を満たすものではない。(以下、「申立理由(D)」という。)
(E)本件請求項2ないし5、7ないし10に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定を満たすものではない。(以下、「申立理由(E)」という。)

<平成29年8月14日付け意見書>
(F)本件訂正請求項6、7、9の「吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している」との記載は、「t1とt2の比例関係」が、t1とt2の時間の長さの比を一定とする関係にあるのか、もしくは、t1とt2の時間の長さの比を問わず、増減の関係のみが等しくなる様な関係であるのかを明らかにするものではないことからして、本件訂正請求項6、7、9の記載は、発明を明確に記載するものではないので、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものではない。(以下、「申立理由(F)」という。)
なお、本件訂正特許発明1、2、4、5も「吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している」ことを発明特定事項にするものであるので、合議体は、本件訂正請求項1、2、4、5の記載についても、申立理由(F)があるものと認める。

V.取消理由通知に記載した取消理由の概要
(α)本件特許発明1ないし5は、甲第2号証記載の発明及び甲第3、5号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定を満たすものではない。(以下、「取消理由(α)」という。)

(β)本件特許発明6ないし10は、甲第2号証記載の発明及び甲第3、5号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定を満たすものではない。(以下、「取消理由(β)」という。)

VI.甲第1ないし7号証に記載の事項
VI-1 甲第1号証には、以下の記載がある。
(甲1-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は各種の水処理の分野で、ヒ素を除去するための吸着材、及びヒ素の除去方法に関する。」

(甲1-2)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、アルミニウム塩や鉄塩などの無機凝集剤から中性領域で生成した金属水酸化物の凝集フロックが、フロックを形成した後でもヒ素に対して優れた吸着能力を示し、ヒ素を除去出来るということに注目した。即ち本発明の第一の要旨は、無機凝集剤の水溶液であって、pHが5.8?8.6の範囲内であり、該無機凝集剤の濃度が0.00001?50重量%の範囲に調製されてなるヒ素吸着材である。また、ここで使用する無機凝集剤は、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸アルミニウム、硫酸バンド、塩化アルミニウム、鉄を含む硫酸アルミニウム、カリミョウバン、ポリ硫酸鉄、ポリ塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄のうち、少なくとも1種類以上の凝集剤であることが好ましい。さらに、この無機凝集剤の水溶液を固形化してなるヒ素除去剤は、貯蔵、運搬等の取り扱いに優れるため好ましい。さらに、固形物の少なくとも一部がベーマイト構造からなる結晶構造を含むと、ヒ素吸着性能が高く、より好ましい。また、本発明の第二の要旨は、前述のヒ素吸着材を、ヒ素を含む被処理水に添加し接触させる吸着処理を行うことを特徴とするヒ素の除去方法である。この際、ヒ素を含む被処理水の濁質を予め除去した後吸着処理を行うと、必要な吸着材量が少なくてすむため好ましい。さらに、吸着処理の際にpHを5.8?8.6に調整すると、凝集フロックがより安定するため好ましい。さらに、吸着処理の後、膜濾過を行うと、良好な水質の処理水が得られるため好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。無機凝集材を高濃度で水に溶解させるとpH2?4の酸性になる。これに中和剤として、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性水溶液を添加し、pH5.8?8.6の中性領域にて、ヒ素吸着用凝集フロック懸濁液を得る。この凝集フロック懸濁液は、浮遊したスラリー状であるためヒ素の吸着速度が顕著に速く、ヒ素吸着能力も著しく優れている。無機凝集材としては、ポリ塩化アルミニウム、ポリ硫酸アルミニウム、硫酸バンド、塩化アルミニウム、鉄を含む硫酸アルミニウム、カリミョウバン、ポリ硫酸鉄、ポリ塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等を用いることができる。」

(甲1-3)「 【0018】以下、実施例および比較例によって、具体的に詳しく説明する。なお、ヒ素濃度は、JIS K0102における原子吸光法により測定した。
<実施例1>図1は、本実施例の処理方法を示す概略図の1例である。容量0.1m^(3)のフロック生成槽1内に、ポリ塩化アルミニウムを濃度10%となるように添加して攪拌羽7でゆっくり攪拌(数回/分)し、それと同時にpHが5.8?8.6を維持するように監視しながら中和剤(水酸化ナトリウム水溶液)の添加を行い、あらかじめ凝集フロックを生成させた。
【0019】次に容量3m^(3)の反応槽2内にヒ素(V)濃度0.05mg/Lの被処理水を導入し、攪拌羽7でゆっくり攪拌(数回/分)しながら、反応槽2内のポリ塩化アルミニウム濃度が50mg/Lになるように、あらかじめ生成させた凝集フロック水溶液を添加し、それと同時にpHが5.8?8.6を維持するように監視しながら中和剤(水酸化ナトリウム水溶液)の添加を行った。その上澄み液を膜浸漬槽3へ導入した。
【0020】容量1m^(3)の膜浸漬槽3には、多孔質膜8として中空糸膜モジュールを浸漬した。ここで用いた中空糸膜モジュールは、エチレン-ビニルアルコール共重合体を表面に保持したポリエチレン製多孔質中空糸膜(平均孔径0.1μm)をシート状に配列し、その両端が、別々の集水管内で開口して樹脂固定された平型中空糸膜モジュール(三菱レイヨン(株)製ステラポアLF、有効膜面積8m^(2))である。中空糸膜の長手方向が水平方向に、そして中空糸膜のシート面が垂直方向になるように膜浸漬槽内に配設した。
【0021】中空糸膜モジュールに連通させた吸引ポンプ13により、中空糸膜モジュールの二次側を吸引し、膜浸漬槽3内の被処理水の濾過を行った。なお、濾過処理は、0.042m^(3)/m^(2)・hの定流量濾過とし、反応槽2と膜浸漬槽3内の水位を一定に保つように、反応槽2内に被処理水の導入を行った。また、反応槽2内のポリ塩化アルミニウム濃度が50mg/Lに保たれるように、あらかじめ生成させた凝集フロック水溶液を反応槽2へ連続的に添加した。なお、濾過処理は、25分間の濾過、5分間の逆洗を1サイクルとし、これを繰り返すことにより実施した。逆洗の間は濾過を停止し、中空糸膜モジュールの下方に設置した散気管9からエアーバブリングを行い、膜面の洗浄を行った。このエアー量は4m^(3)/hで行い、中空糸膜モジュールの中空糸膜全体に均一にエアーバブルが当たるようにスクラビングした。24時間後、膜浸漬槽内に導入し中空糸膜モジュールにて濾過を行って得られた処理水のヒ素濃度は、0.002mg/L以下であった。」

(甲1-4)「 【図1】




VI-2 甲第2号証には、以下の記載がある。
(甲2-1)「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような不都合に鑑みてなされたものであり、廃水からの重金属イオンの除去を、小型の処理装置を用いて高い処理効率で行うための、廃水の処理方法を検討した結果なされたものである。」

(甲2-2)「【0016】添加する無機凝集剤の量は、廃水中に含まれる金属イオンの濃度、前段で添加した難溶化析出剤の量等を考慮して適宜設定する。難溶化析出剤の添加により析出した重金属イオンの微粒子を、無機凝集剤の添加によりフロック化して肥大化させることにより、極微小な微粒子が濾過フィルターを通過して、処理水に混入することを防止することができるとともに、濾過フィルターによる濾過抵抗を低減させることができ、高い処理量で廃水の処理を行うことができる。」

(甲2-3)「【0027】重金属イオンを含む廃水の原水を反応槽に導入し、難溶化析出剤としてMg(OH)_(2)を200mg/リットルの割合で添加した後に、廃水を濾過槽に送水し、中空糸膜フィルターステラポアL(商品名、三菱レイヨン(株)社製、分画0.1μm、膜面積4m^(2))を用いて、LV0.015m^(3)/m^(2)・hrで吸引濾過を行い、処理水を得た。なお、中空糸膜フィルターの下方には散気管を設け、10分間に一度10秒間散気管より60Nl/minの流速でエアーの散気を行い、中空糸膜フィルターの洗浄を行った。」

(甲2-4)「 【図1】




VI-3 甲第3号証には、以下の記載がある。
(甲3-1)「[0002] 有機性の汚水の処理においては、汚水を活性汚泥により生物処理した後、固液分離する方法が広く行われている。その際の固液分離する方法としては、沈降槽中で自然沈降させる方法、膜分離する方法が知られている。
膜分離においては、濾過時間が長くなるにつれて膜表面に被処理水中に含まれる固形分等が蓄積して、濾過差圧が次第に高くなる。そのため、通常は、膜の下方から散気させて膜表面を気液混合流で洗浄している。しかし、膜表面洗浄に要する空気量は多量であり、汚水処理におけるランニングコストを増大させる要因となっていた。
そこで、膜表面洗浄に要する空気量を削減させる方法として、特許文献1では、膜洗浄における散気を、継続時間120秒以下の繰り返し周期で、高流量と、この高流量の2分の1以下の流量の低流量との間で切り換える方法が提案されている。」

(甲3-2)「[0009] (濾過装置)
図1に、本実施形態の濾過方法が適用される濾過装置を示す。この濾過装置1は、汚泥を含む被処理水が溜められた処理槽10と、処理槽10内に設置された膜ユニット20と、膜ユニット20に散気する散気装置30と、膜ユニット20に吸引管41を介して接続された濾過ポンプ40と、濾過ポンプ40を制御する制御装置50とを備える。」

(甲3-3)「[0014] 上記図1,3に示す散気装置30では、ブロワ31によって供給された空気が、第1空気供給管32および第1空気分岐管34を通って第1散気管36aに供給され、第2空気供給管33および第2空気分岐管35を通って第2散気管37aに供給される。ただし、ブロワ31から供給された空気は、流路切り換えバルブ38(38a、及び38b)(例えば、回転式バルブ、往復式バルブ等)によって、第1空気供給管32と第2空気供給管33のいずれか一方のみに供給されるように切り換えられる。したがって、空気は、第1散気管36aと第2散気管37aとのいずれか一方のみから噴出されるようになっている。
流路切り換えバルブ38は、図1のように38aと38bとの2つのバルブで構成されていてもよく、38aと38bとを一つのバルブで構成してもよい。
[0015] (濾過方法)
上記濾過装置1を用いた濾過方法では、濾過ポンプ40を作動させ、吸引管41を介して吸引して、分離膜モジュール21の中空糸膜の内部を陰圧とする。中空糸膜の内部を陰圧にすると、被処理水の水は中空糸膜の微細孔を通過するが、微細孔より大きい汚泥等は微細孔を通過しない。したがって、被処理水を濾過することができる。
濾過と同時に、制御装置50によりブロワ31を制御し、第1空気供給管32および第1空気分岐管34を介して第1散気ユニット36に空気を供給し、第2空気供給管33および第2空気分岐管35を介して第2散気ユニット37に空気を供給する。ここで、流路切り換えバルブ38を用いて、第1散気ユニット36または第2散気ユニット37から空気を噴出させ、さらに、一定の散気時間t_(1)毎に、空気を噴出させる散気ユニットを切り換える。具体的には、まず、散気時間t_(1)の間、第2散気ユニット37から空気を噴出させずに第1散気ユニット36から空気を噴出させた後、第1散気ユニット36からの空気の噴出を停止し、散気時間t_(1)の間、第2散気ユニット37から空気を噴出させる。
第1散気ユニット36または第2散気ユニット37から空気を噴出すると、気泡が被処理水中を揺れ動きながら浮上する。その際、気泡による気液混合流が分離膜モジュール21の膜面21a_(1)付近を上昇することによって、膜面21a_(1)に付着した付着物を剥離することができる。
したがって、第1散気ユニット36と第2散気ユニット37との切り換えを繰り返すことにより、分離膜モジュール21の各膜面21a_(1)の両膜面を交互に洗浄する。
[0016] 本発明において、散気時間t_(1)は90秒以上、300秒以下であり、100秒以上、180秒以下であることが好ましい。膜の洗浄性の点からは散気時間t_(1)は小さいほど好ましいが、90秒未満であると、流路切り換えバルブ38の動作回数が1日あたり960回以上にもなってしまい、流路切り換えバルブ38が損傷しやすくなる。また、散気時間t_(1)が90秒以上であれば、膜シート21aの揺動を抑制して損傷を防ぐことができる。一方、散気時間t_(1)が300秒以下であれば、膜面21aを充分に洗浄できるが、300秒を越えると、濾過差圧上昇率の上昇が見られる傾向がみられ、安定な運転に支障をきたす場合が生じる恐れがある。
[0017] 通常、第1散気ユニット36および第2散気ユニット37のいずれか一つが散気することによって、散気装置30が連続的に散気することが好ましいが、第1散気ユニット36および第2散気ユニット37の両方が散気を一時的に停止してもよい。しかし、散気を停止した状態での濾過時間が300秒を越えると、膜面21a_(1)への汚泥付着量が多くなるため、散気を再開しても付着した汚泥を除去することが困難となり、濾過差圧を上昇させるおそれがある。
各散気の1サイクル(ここで、散気の1サイクルとは、各散気ユニットにおける散気管からの散気開始から散気停止後に再び散気を開始するまでの時間をいう。)、すなわち、1回の散気時間t_(1)と前記1回の散気に連続して行われる散気停止時間との和は180秒以上、600秒以下であることが流路切り換えバルブの耐久性及び濾過差圧の面から好ましく、200秒以上、360秒以下であることが、より好ましい。
[0018] 上記濾過処理では濾過ポンプ40を間欠的に作動させて一時的に濾過を停止させる。ここで、濾過時間t_(2)とは、被処理水を濾過している時間を意味する。
濾過時間t_(2)は30分以下が好ましく、5分以上、20分以下がより好ましい。濾過時間t_(2)が30分以下であると、膜面21a_(1)への汚泥付着および微細孔の閉塞が進行しにくいため、濾過停止時の洗浄により、膜面21a_(1)に付着した汚泥をより容易に剥離できる。
ここで、濾過停止時間においては、洗浄用水による逆洗浄を定期的に実施してもよい。
逆洗浄とは、分離膜モジュールの2次側から1次側に洗浄用水を通水することにより膜面や膜内部を洗浄することをいう。洗浄用水は、濾過水や水道水であってもよい。あるいは、次亜塩素酸ナトリウムなどの酸化剤を含む溶液であってもよい。
さらに、逆洗浄の頻度及び洗浄用水量は、濾過運転時のフラックスや差圧上昇から任意に設定すれば良い。濾過停止時間t_(3)とは、濾過を停止している時間を意味する。
濾過停止時間t_(3)は5秒以上、600秒以下が好ましく、10秒以上、300秒以下がより好ましい。濾過停止時間t_(3)が5秒以上であれば、濾過停止時に膜面21a_(1)に付着した汚泥を剥離する時間を充に確保でき、洗浄性がより高くなる。濾過停止時間t_(3)が長いほど、洗浄性はより高くなるが、濾過停止時間t_(3)が長くなると、1日当りの処理量が低下する。そのことから、濾過停止時間t_(3)は600秒以下であることが好ましい。」

VI-4 甲第4号証には、以下の記載がある。
(甲4-1)「【0024】
(a)(1)濾過運転開始(散気停止)→濾過運転(散気停止)→濾過運転停止・濾過膜の逆圧洗浄(逆圧洗浄中に散気)
(2)→濾過運転再開(散気停止)→……
方法(a)は、濾過運転中は散気を停止して、逆圧洗浄時にのみ散気する方法である。即ち、逆圧洗浄の開始直前は散気が停止されている。」

(甲4-2)「【0036】
なお、方法(a)のように、濾過運転中に散気されず、逆圧洗浄時のみ散気され、逆圧洗浄の開始直前に懸濁成分の抜き取りが行われる場合は、最も懸濁成分の除去効率(懸濁成分の抜き取りに要する時間当たりの懸濁成分の抜き取り量)が大きい。」

VI-5 甲第5号証には、以下の記載がある。
(甲5-1)「【0016】濾過を行うにあたって、被処理液中の固形分(SS)粒子による膜面の閉塞の進行を防ぐため、洗浄を行うことが望ましい。そこで、膜モジュール2の下方には、図示例のように、散気装置4を配置しておくことが望ましい。散気装置4は、気体供給源であるブロワー5から送られてくる空気などの気体を多数の細孔の形成された中空体から気泡として発散し、所謂エアーバブル処理を行うもので、濾過中もしくは濾過停止中に、散気装置4から発散し上昇する気泡により、膜モジュール2の中空糸膜が揺動し、この揺動により中空糸同しが擦れあったり、又は中空糸と水の相対的流動により、被処理液を攪拌し、中空糸の表面に付着した汚泥、SSを掻き落とすことができる。また、被処理液槽1が曝気槽である場合、空気または酸素ガスを発散することにより曝気処理を促進することができる。散気装置4には、複数の0.5mm?20mm程度の散気孔が形成されている中空管等を利用することができる。
【0017】散気装置4への気体供給源と、気体供給管7への気体供給源は、それぞれ別個に設け、独立系として散気装置4、または気体供給管7に気体を送給するようにしてもよいが、図1?3に示す如く、散気装置4への気体供給源と、気体供給管7への気体供給源とを兼用することが、装置的に簡便となり、かつエネルギーコスト的にも安くなり、好ましい。
【0018】この洗浄の必要頻度は、一般にSS濃度に依存し、濃度が高いほど頻繁に行う必要があり、例えば活性汚泥のように、SS濃度が数千ppmに達する場合はバブリングによる洗浄を常時行いつつ濾過する必要がある。この場合はブロワーからの空気を散気装置4と貯溜室へと両者に同時に空気を供給すればよい。また、例えば河川水のように、SS濃度が数百ppm以下の場合には、常時バブリング洗浄を行う必要はなく、洗浄は間欠的に行えばよい。この場合は図3に示す如く、散気管4への配管途中に切換弁12を設け、濾過時には散気装置4への空気の供給を遮断し、濾過停止時に散気装置4へ空気を供給するようにすればよい。ブロワー5として、圧空ポンプなどの各種のコンプレッサを使用することもできるが、その場合にも、貯溜室6から濾液を排出するのに必要なエネルギは、従来のように膜モジュールでの吸引濾過をコンプレッサで強制的に行なうのに必要なエネルギよりも格段に小さく、本発明の固液分離装置であれば省エネルギを達成することができる。」

(甲5-2)「 【図3】




VI-6 甲第6号証には、以下の記載がある。
(甲6-1)「【0008】このような平型中空糸膜モジュールは、円筒型タイプの中空糸膜モジュールに比較して、膜面洗浄をする際、中空糸膜表面を均等に洗浄することが極めて容易となるので、濾過効率の低下を抑えることができ、高汚濁性水の濾過を好適に行うことができる。
【0009】しかしながら、平型中空糸膜モジュールを用いて、中空糸膜を弛緩させて固定し、下方からのエアーのスクラビングで膜面洗浄を行うと、エアーバブルが中空糸膜シートを通過することによって、中空糸膜が部分的に収束して膜の固着一体化が若干起き、チャンネルが形成される。そして、このチャンネルを集中的にエアーバブルが通過するため、モジュール全体に効率良く膜面洗浄が行われない場合がある。
【0010】又中空糸膜の弛緩を充分にとって(例えば弛緩率5%)平型中空糸膜モジュールを固定した場合、水中では中空糸膜は浮力を受けて大きく揺動する。
【0011】そして、その中空糸膜の大きな揺動により中空糸膜集束端部を固定するポッティング樹脂硬化部と個々の中空糸膜の基部における座屈による応力が大きくなり、界面部分の強度が低下する結果、樹脂硬化部付近で中空糸膜の亀裂や切損が生じ、短期間の使用でモジュール機能を消滅させる原因となる等の問題がある。」

VI-7 甲第7号証には、以下の記載がある。
(甲7-1)「【0004】しかし、上記のようなモジュールにおいては、モジュール内に導入したエアーが接着固定部付近の中空糸膜を過剰に揺動させてしまうために、中空糸膜の損傷を発生させ、またモジュール内に導入されたエアーを排出するノズルへの中空糸膜の引き込まれを発生させていた。」

VII.当審の判断
VII-1 取消理由(α)(β)について
VII-1-1 甲第2号証に記載の発明
上記(甲2-1)ないし(甲2-4)からして、甲第2号証には、「重金属を含む廃水(原水)を反応槽に導入し、この廃水(原水)に難溶化析出剤を添加し、難溶化析出剤を添加した後の廃水を濾過槽に送水し、中空糸膜フィルターを用いて、難溶化析出剤を添加した後の廃水の吸引濾過を行なって処理水を得る、重金属を含む廃水(原水)の処理装置において、濾過槽内の中空糸膜フィルターの下方には散気管を設け、10分間に一度10秒間散気管より60Nl/minの流速でエアーの散気を行い、中空糸膜フィルターのエアー洗浄を行なう、重金属を含む廃水(原水)の処理装置又は処理方法。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されているということができる。

VII-1-2 対比・判断
ア 本件訂正特許発明1、6について
甲2発明と本件訂正特許発明1、6とを対比する。
○甲2発明の「重金属を含む廃水(原水)」、「重金属」、「反応槽」、「難溶化」、「難溶化析出剤を添加した後の廃水」、「濾過槽」、「中空糸膜フィルター」、「吸引濾過」、「散気管」は、本件訂正特許発明1、6の「廃水」、「廃水中に含まれる重金属」、「不溶化処理手段」、「不溶化」、「不溶化処理手段から流れてきた廃水」、「膜分離手段」、「膜モジュール」、「濾過」、「洗浄手段」にそれぞれに相当する。

○甲2発明の「濾過槽内の中空糸膜フィルターの下方には散気管を設け、10分間に一度10秒間散気管より60Nl/minの流速でエアーの散気を行い、中空糸膜フィルターのエアー洗浄を行なう」と、本件訂正特許発明1、6の「洗浄手段は、膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、ブロアを作動させて膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している」とは、「洗浄手段は、間欠的に、膜モジュールにエアを吹き付けるようになっている」という点で一致している。

上記より、両者は、「廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段と、この不溶化処理手段の下流側に設けられ、不溶化処理手段から流れてきた廃水を濾過するための膜分離手段と、を備えており、この膜分離手段には、廃水を濾過するための膜モジュールと、この膜モジュールにエアを吹き付けて膜モジュールを洗浄するための洗浄手段とが設けられており、洗浄手段は、間欠的に、膜モジュールにエアを吹き付けるようになっている、廃水処理装置又は廃水処理方法。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件訂正特許発明1、6は、「洗浄手段は、膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、ブロアを作動させて膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している」のに対して、甲2発明は、「濾過槽内の中空糸膜フィルターの下方には散気管を設け、10分間に一度10秒間散気管より60Nl/minの流速でエアーの散気を行い、中空糸膜フィルターのエアー洗浄を行なう」点。

<相違点2>
本件訂正特許発明1、6は、「膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプ」を備え、この膜分離手段には、「ブロアーを有する」洗浄手段とが設けられているのに対して、甲2発明は、この特定がない点。

上記相違点について検討する。
<相違点1>について
甲2発明は、上記(甲2-1)ないし(甲2-4)、特に、上記(甲2-2)の「難溶化析出剤の添加により析出した重金属イオンの微粒子を、無機凝集剤の添加によりフロック化して肥大化させる」(【0016】)からして、重金属イオンの微粒子が肥大化することにより生成されたフロック(一般に、微細な懸濁粒子が凝集によって形成された塊のことをいう。例えば、特開2011-507271号公報の【0060】参照)が浮遊する液を膜濾過の対象液にする(フロックを膜分離する)ものである。
一方、甲第3号証記載の事項は、上記(甲3-1)ないし(甲3-3)からして、活性汚泥が浮遊する有機性の汚水を膜濾過の対象液にする(活性汚泥を膜分離する)と共に、濾過していないときと濾過しているときの両方において、分離膜モジュールに空気を吹き付けるものである。
また、甲第5号証記載の事項は、上記(甲5-1)及び(甲5-2)、特に(甲5-1)の「この洗浄の必要頻度は、一般にSS濃度に依存し、濃度が高いほど頻繁に行う必要があり、例えば活性汚泥のように、SS濃度が数千ppmに達する場合はバブリングによる洗浄を常時行いつつ濾過する必要がある。この場合はブロワーからの空気を散気装置4と貯溜室へと両者に同時に空気を供給すればよい。また、例えば河川水のように、SS濃度が数百ppm以下の場合には、常時バブリング洗浄を行う必要はなく、洗浄は間欠的に行えばよい。この場合は図3に示す如く、散気管4への配管途中に切換弁12を設け、濾過時には散気装置4への空気の供給を遮断し、濾過停止時に散気装置4へ空気を供給するようにすればよい。」(【0018】)からして、河川水(SS濃度が数百ppm以下)の場合には、濾過していないときのみにバブリング洗浄(膜モジュールへのエア吹き付け)を行ない、活性汚泥のようにSS濃度が数千ppmに達する場合には、バブリングによる洗浄を常時行いつつ濾過するものである。つまり、一般にフロック(浮遊物)が浮遊しているとは言い難い河川水を膜濾過の対象液にする場合、濾過していないときのみにバブリング洗浄するものであるということができる。
そうすると、甲2発明と、甲第3、5号証記載の事項とは、重金属イオンの微粒子が肥大化することにより生成されたフロックが浮遊する液を膜濾過の対象液にするか否かという点で(前提技術において)相違しているので、甲2発明に、甲第3、5号証記載の事項を適用する動機付けはないというべきである。
仮に、甲2発明と、甲第3号証記載の事項とが、浮遊物を膜分離するという点で一致するとみることにより、甲2発明に、甲第3号証記載の事項を適用したとしても、甲第3号証記載の事項は、濾過していないときと濾過しているときの両方において、分離膜モジュールに空気を吹き付けるものであるので、甲2発明において、「濾過していないときのみに分離膜モジュールに空気(エア)を吹き付ける」という事項を導き出すことはできない。
さらに、上記で示したように、甲2発明は、フロックを膜分離するものであるのに対して、甲第5号証記載の事項は、一般にフロックが浮遊しているとは言い難い河川水を膜濾過の対象液にするものである点で相違しているので、甲2発明に、甲第5号証記載の事項を適用する動機付けはない、つまり、甲2発明に、甲第5号証記載の事項の「濾過していないときのみにバブリング洗浄する(膜モジュールへエアを吹き付ける)」という事項を適用する動機付けはないというべきである。
したがって、上記相違点1に係る本件訂正特許発明1、6の発明特定事項は、甲2発明及び甲第3、5号証記載の事項に基いて当業者が容易に想起し得るものではない。

上記からして、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正特許発明1、6は、甲2発明及び甲第3、5号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

イ 本件訂正特許発明2、4、5、7、9について
本件訂正特許発明2、4、5、7、9と甲2発明とを対比すると、上記「ア」で示した<相違点1>と同様の「相違点」があるといえるので、本件訂正特許発明2、4、5、7、9も、本件訂正特許発明1、6と同じく、甲2装置発明及び甲第3、5号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ 小括
上記「ア」及び「イ」より、取消理由(α)(β)には、理由はない。

VII-2 申立理由(A)について
本件特許明細書には、「そこで本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、不溶化物によって中空糸膜フィルタが目詰まりするのを防止しつつ、中空糸膜フィルタを十分に洗浄することができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的とする。」(【発明が解決しようとする課題】【0006】)との記載があり、これからして、本件訂正特許発明は、「不溶化物によって中空糸膜フィルタが目詰まりするのを防止しつつ、中空糸膜フィルタを十分に洗浄することができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供する」ことを目的とするものであり、この目的を達成することが、本件訂正特許発明が解決しようとする課題(以下、「本件課題」という。)であるということができる。
ここで、本件特許明細書及び図面の記載(特に、【0077】ないし【0082】)からして、本件課題を解決する手段は、「洗浄手段は、膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、ブロアを作動させて膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であ」ること(事項)にあるということができる。
そして、本件訂正特許発明1、2、4ないし7、9は、上記事項を発明特定事項にするものであり、また、これを一般化または拡張するものではないので、本件訂正請求項1、2、4ないし7、9の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。
したがって、申立理由(A)には、理由はない。

VII-3 申立理由(F)について
本件特許明細書には、「吸引濾過を行う時間t_(1)と、曝気を行う時間t_(2)とは、上述した範囲の中で比例させることが好ましく、吸引濾過を行う時間t_(1)が短ければ曝気を行う時間t_(2)を短くし、一方で、吸引濾過を行う時間t_(1)が長ければ曝気を行う時間t_(2)を長くするのが良い。」(【0054】)との記載、及び、[実施例1 濾過時間(t1)5分 曝気時間(t2)30秒 曝気時間を濾過時間で割った比6(秒/分)(計算値)](【0078】【表1】、【0082】【表2】)、[実施例2 濾過時間(t1)20分 曝気時間(t2)300秒 曝気時間を濾過時間で割った比15(秒/分)(計算値)](【0078】【表1】、【0082】【表2】)であることの開示があり、これらは、t1が長く(短く)なればt2も長く(短く)なることについて、t1とt2の比が一定でない(両者の増減関係が非直線である)ものが実施例であることを示すものであり、また、一般に、2つのパラメーターの増減関係が非直線であっても比例関係とみる場合があることは、本件出願日前周知の事項(例えば、特開平1-294415号公報の6頁右欄2?3行及び第4図、特公昭47-37967号公報の1頁左欄17?22行及び第5図参照)であるといえるので、本件訂正請求項1、2、4?7、9の「吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している」との記載は、t1とt2の増減関係が非直線の比例関係であることを実質的に明示するものであるといえるので、本件訂正請求項1、2、4ないし7、9の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たすものである。
したがって、申立理由(F)には、理由はない。

VII-4 申立理由(B)について
VII-4-1 甲第1号証に記載の発明
上記(甲1-1)ないし(甲1-4)からして、甲第1号証には、「中和剤としての例えば水酸化ナトリウムを添加することにより凝集フロックを生成させた水溶液を、ヒ素を含む被処理水に添加して凝集フロックにヒ素を吸着させ、その上澄み液を膜浸漬槽に導入し、25分間の濾過、5分間の逆洗を1サイクルとし、逆洗の間は濾過を停止し、中空糸膜モジュールの下方に設置した散気管9からエアーバブリングを行い、膜面の洗浄を行うヒ素の除去処理装置又は除去処理方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

VII-4-2 対比・判断
本件訂正特許発明1、6と甲1発明とを対比する。
本件訂正特許発明1、6は、「廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段」を発明特定事項にするものであり、ここで、本件特許明細書には、「不溶化処理手段30は、酸化処理手段20にて酸化処理した廃水W_(0)中の重金属を不溶化処理し、不溶化物のフロックを生成するようになっている。なお、不溶化とは、廃水W_(0)中に浮遊している重金属を難溶解性化合物(不溶化物)とすることによって析出させることである。この不溶化処理手段30は、酸化処理手段20から送られた廃水W_(0)を溜める不溶化槽31と、不溶化槽31中の廃水W_(0)に不溶化剤を添加する不溶化剤添加手段32と、不溶化槽31中の廃水W_(0)の水質を検査する水質計33と、不溶化31中の廃水W_(0)を攪拌する攪拌翼34とを備えている。」(【0031】)、「不溶化処理手段30では、酸化処理された廃水W_(0)を不溶化処理手段30の不溶化槽31に移し、不溶化剤を添加して廃水W_(0)中の重金属を不溶化処理し、不溶化処理した重金属のフロックを不溶化槽31内で生成する。不溶化処理の方法としては、水酸化剤を用いた水酸化物法と、硫化剤を用いた硫化物法がある。なお、硫化物法の場合は硫化水素発生のおそれがあるため、不溶化処理としては水酸化物法が好ましい。」(【0045】)及び「水酸化物法は、水酸化剤(水酸化物イオン)と対象金属とを反応させ、溶解度の低い金属水酸化物として析出させる方法である。水酸化剤としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが用いられる。水酸化ナトリウムを用いるとスラッジ発生量が少なくなるためより好ましい。」(【0046】)との記載からして、本件訂正特許発明1、6は、例えば水酸化ナトリウムを不溶化剤として用いて重金属を難溶解性化合物(不溶化物)とすることによって析出させるものである。
一方、甲1発明は、中和剤としての例えば水酸化ナトリウムを添加することにより凝集フロックを生成させた水溶液を、ヒ素を含む被処理水に添加して凝集フロックにヒ素を吸着させるものであり、ヒ素を難溶解性化合物(不溶化物)とすることによって析出させるものであるとは言い難い。
そうすると、本件訂正特許発明1、6と、甲1発明とは、重金属を不溶化するものであるか否かという点で(前提技術において)相違しているので、本件訂正特許発明1、6は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって、申立理由(B)には、理由はない。

VII-5 申立理由(C)について
甲1発明は、上記「VII-4」で示したように、凝集フロックにヒ素を吸着させ、その上澄み液を膜浸漬槽に導入し、上澄み液を膜濾過するものであり、フロック(浮遊物)を膜分離するものであるとはいえない。
一方、甲第3号証記載の事項(発明)は、上記「VII-1」で示したように、活性汚泥(浮遊物)が浮遊する有機性の汚水を膜濾過の対象液にするものであり、活性汚泥(浮遊物)を膜分離するものである。
そうすると、甲1発明と、甲第3号証記載の事項(発明)とは、浮遊物を膜分離するものであるか否かという点で(前提技術において)相違しているので、甲1発明と、甲第3号証記載の事項(発明)とを組み合わせる動機付けはないというべきである。
したがって、本件訂正特許発明2、4、5、7、9は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、申立理由(C)には、理由はない。

VII-6 申立理由(D)について
上記「VII-1」で示したように、本件訂正特許発明1、6と、甲2発明とを対比すると、本件訂正特許発明1、6は、「膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、ブロワーを作動させて洗浄手段によって膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している」のに対して、甲第2号証記載の発明は、「濾過槽内の中空糸膜フィルターの下方には散気管を設け、10分間に一度10秒間散気管より60Nl/minの流速でエアーの散気を行い、中空糸膜フィルターのエアー洗浄を行なう」点(相違点1)で相違している。
ここで、上記「VII-1」で示したように、甲2発明は、フロック(浮遊物)を膜分離するものであり、また、甲5号証記載の事項は、一般にフロックが浮遊しているとは言い難い河川水を膜濾過の対象液にするものであり(フロックを膜分離するものではなく)、そして、上記「VII-5」で示したように、甲1発明は、フロックを膜分離するものであるとはいえないことからして、甲2発明と、甲1発明及び甲第5号証記載の事項とは、浮遊物を膜分離するものであるか否かという点で(前提技術において)相違しているので、甲2発明に、甲1発明及び甲第5号証記載の事項を適用する動機付けはないというべきであり、また、上記「VII-1」で示したように、甲2発明に、甲第3号証記載の事項を適用したとしても、甲第3号証記載の事項は、濾過していないときと濾過しているときの両方において、分離膜モジュールに空気を吹き付けるものであるので、甲2発明において、「濾過していないときのみに分離膜モジュールに空気(エア)を吹き付ける」という、本件訂正特許発明1、6の発明特定事項を導き出すことはできない。
さらに、甲第4、6、7号証記載の事項をも参酌したとしても、上記相違点1に係る本件訂正特許発明1、6の発明特定事項が、本件出願日前周知技術であるとはいえない。
そうすると、本件訂正特許発明1、6は、甲第2号証に記載された発明及び出願日前周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、申立理由(D)には、理由はない。

VII-7 申立理由(E)について
上記「VII-1」で示したように、甲2発明に、甲第3号証記載の事項(発明)を適用したとしても、甲第3号証記載の事項は、濾過していないときと濾過しているときの両方において、分離膜モジュールに空気を吹き付けるものであるので、甲2発明において、「濾過していないときのみに分離膜モジュールに空気(エア)を吹き付ける」という、本件訂正特許発明2、4、5、7、9の発明特定事項を導き出すことはできない。
そうすると、本件訂正特許発明2、4、5、7、9は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、申立理由(E)には、理由はない。

VII-8 その他
異議申立人の吉田秀平が提出した甲第1ないし7号証記載の事項及び本件の出願日前周知技術を勘案したとしても、本件訂正特許発明1、2、4ないし7、9は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないので、これをもって、本件訂正特許発明1、2、4ないし7、9を取り消すことはできない。

VII-9 まとめ
上記「VII-1」ないし「VII-8」からして、特許異議申立理由及び取消理由通知に記載した取消理由によっては、訂正後の請求項1、2、4ないし7、9に係る特許を取り消すことはできない。

VIII.むすび
以上のとおり、訂正後の請求項1、2、4ないし7、9に係る特許を取り消すことはできず、また、他に訂正後の請求項1、2、4ないし7、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、訂正前の請求項3、8、10に係る特許は、訂正により削除されたため、該請求項3、8、10に対して、特許異議申立人の吉田秀平がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段と、
この不溶化処理手段の下流側に設けられ、不溶化処理手段から流れてきた廃水を濾過するための膜分離手段と、
この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、を備えており、
この膜分離手段には、廃水を濾過するための膜モジュールと、この膜モジュールにエアを吹き付けて膜モジュールを洗浄するためのブロワーを有する洗浄手段とが設けられており、
前記洗浄手段は、前記膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、前記ブロワーを作動させて前記膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、廃水処理装置。
【請求項2】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段と、
この不溶化処理手段の下流側に設けられ、不溶化処理手段から流れてきた廃水を濾過するための膜分離手段と、
この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、を備え、
この膜分離手段は、廃水を濾過するための少なくとも1つの膜モジュールと、
これら少なくとも1つの膜モジュールの下方に各々設けられ、当該膜モジュールに空気を吹き付けて膜モジュールを洗浄するための少なくとも2つの散気ユニットと、
これら少なくとも2つの散気ユニットの各々に連結された複数のバルブと、
これら複数のバルブに連結された空気の供給源であるブロワーとを有しており、
少なくとも2つの散気ユニットは、各膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ前記ブロワーを作動させることで、作動するようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールに空気を吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、廃水処理装置。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
少なくとも2つの散気ユニットの各散気ユニットをすべて同時に作動させないように制御する制御手段を有する、請求項2に記載の廃水処理装置。
【請求項5】
前記制御手段は、複数のバルブを同時に開かないように、当該複数のバルブを制御するように構成されている請求項4に記載の廃水処理装置。
【請求項6】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理手段と、この不溶化処理手段の下流側に設けられ、不溶化処理手段から流れてきた廃水を濾過するための膜分離手段と、この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプと、前記膜分離手段に設けられ、廃水を濾過するための膜モジュールと、この膜モジュールにエアを吹き付けて膜モジュールを洗浄するためのブロワーを有する洗浄手段と、を備えた廃水処理装置を用いた廃水処理方法であって、
前記膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ、前記ブロワーを作動させて前記洗浄手段によって前記膜モジュールにエアを吹き付けるようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールにエアを吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1と12はこの範囲の中で比例している、廃水処理方法。
【請求項7】
廃水中に含まれる重金属を不溶化処理する不溶化処理工程と、
廃水を濾過するための少なくとも1つの膜モジュール、これら少なくとも1つの膜モジュールの下方に各々設けられ、当該膜モジュールに空気を吹き付けて膜モジュールを洗浄するための少なくとも2つの散気ユニット、これら少なくとも2つの散気ユニットの各々に連結された複数のバルブ、及びこれら複数のバルブに連結された空気の供給源であるブロワーを有する膜分離手段、この膜分離手段を介して廃水を吸引濾過するための吸引ポンプによって不溶化物を含む廃水を濾過する工程と、を備える廃水処理方法であって、
少なくとも2つの散気ユニットは、各膜モジュールによって廃水を濾過していないときにのみ前記ブロワーを作動させることで、作動するようになっており、
吸引濾過を行う時間t1が5分?20分、前記膜モジュールに空気を吹き付ける時間t2が30秒?300秒であり、t1とt2はこの範囲の中で比例している、廃水処理方法。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
前記廃水処理方法は、前記少なくとも2つの散気ユニットの各散気ユニットをすべて同時に作動させないようにする、請求項7に記載の廃水処理方法。
【請求項10】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-10-31 
出願番号 特願2012-106145(P2012-106145)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C02F)
P 1 651・ 113- YAA (C02F)
P 1 651・ 121- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 豊永 茂弘
蛭田 敦
登録日 2016-06-10 
登録番号 特許第5946015号(P5946015)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 廃水処理装置及び廃水処理方法  
代理人 山本 泰史  
代理人 松下 満  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 丹澤 一成  
代理人 松下 満  
代理人 弟子丸 健  
代理人 丹澤 一成  
代理人 弟子丸 健  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 山本 泰史  

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