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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 D04H 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 D04H |
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管理番号 | 1335176 |
異議申立番号 | 異議2017-700880 |
総通号数 | 217 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-01-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-14 |
確定日 | 2017-12-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6106435号発明「繊維不織布、およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6106435号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6106435号についての出願は、平成23年7月29日(優先権主張平成22年7月29日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年3月10日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数12。)、その後、その請求項1に係る特許に対し、特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)から、特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第6106435号の請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「オレフィン系熱可塑性樹脂繊維からなる繊維不織布であって、 平均繊維径が0.01?0.5μmの前記オレフィン系熱可塑性樹脂繊維からなり、前記繊維不織布の平均孔径が0.01?10.0μmの範囲であり、かつ溶剤成分の量が、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法によって検出限界以下である、繊維不織布。」(以下「本件発明」という。) 第3 申立理由の概要 申立人は、甲第1号証(以下「甲1」という。)として特開2009-195898号公報、甲第2号証(以下「甲2」という。)として特開2009-62630号公報を提示し、本件発明は、甲1から新規性を有さず、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、本件発明に係る特許を取り消すべきであると主張し、また、本件発明は、甲1及び甲2から進歩性を有さず、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件発明に係る特許を取り消すべきであると主張している。 第4 刊行物の記載 1 甲1の記載事項 (1)特許請求の範囲 ア 請求項1 「親水剤が溶融ブレンドされた260℃以下の温度で溶融紡糸可能な少なくとも1種のポリオレフィン組成物から得られ、かつ平均繊維径が0.1?10.0μmの極細繊維からなる不織布を濾過材の少なくとも一部に用いたフィルター。」 イ 請求項2 「極細繊維の製法がメルトブロー方式である請求項1に記載のフィルター。」 ウ 請求項3 「平均流孔径(ASTM F316-86)が0.1?10.0μmである請求項1または2に記載のフィルター。」 エ 請求項6 「ポリオレフィン組成物に、分子量降下剤が配合されてなる、請求項1?5のいずれか1項に記載のフィルター。」 オ 請求項12 「シートフィルターである請求項1?11のいずれか1項に記載のフィルター。」 (2)明細書(実施例を除く) ア 段落【0010】発明が解決しようとする課題 「本発明の課題は、高い分離性能を持つフィルターであって、水系液体の濾過操作におけるエアロックやマイクロバブルの発生を解消し、通水不良と気泡発生の問題を改善したポリオレフィン極細繊維不織布を濾過材とする主としてシート状またはカートリッジ状のフィルターを提供することにある。」 イ 段落【0014】 「本発明のフィルターは、ポリオレフィンに親水剤が溶融ブレンドされた260℃以下の温度で溶融紡糸可能な少なくとも1種のポリオレフィン組成物を溶融紡糸して得られ、かつ平均繊維径が0.1?10.0μmの極細繊維からなる不織布(以下、極細繊維不織布という)を濾過材の少なくとも一部に用いて得られる。該不織布を濾過材の少なくとも一部に用いたフィルターはポリオレフィンの優れた耐溶剤性を持ちながら、水系液体への強い親和性を持つため、二次的な問題を生じることなく、エアロックやマイクロバブルの問題の解決が可能である。」 ウ 段落【0015】 「ポリオレフィン 本発明のフィルターの濾過材に用いられる極細繊維を構成するポリオレフィン組成物に用いられるポリオレフィンとしては、ポリプロピレン(単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリ-4-メチルペンテン-1等が例示できる。これらのなかでも、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、及びエチレン-プロピレン-ブテン共重合体(以下、ポリプロピレン類と総称する)が適度な溶融粘性を持つので親水剤の溶融ブレンドが容易であるので望ましい。」 エ 段落【0017】 「親水剤 本発明における親水剤は、溶融ブレンド時に容易に熱分解せず揮発しない界面活性剤等の親水剤を好ましく用いることができる。例えば、高級アルコール硫酸エステル塩類に代表されるアニオン系化合物、脂肪族アミン塩類に代表されるカチオン系化合物、エトキシル脂肪族アルコールに代表される非イオン系化合物等が挙げられる。」 オ 段落【0022】、【0024】 「分子量降下剤 本発明において、極細繊維用ポリオレフィン組成物は、親水剤の熱分解や揮発を抑制するため、260℃以下の温度で溶融紡糸可能である必要がある。 一般に、樹脂を溶融して紡糸する方法で極細繊維を得る場合、樹脂を高温で加熱して樹脂の溶融粘度を下げる必要がある。本発明で好ましく用いることのできるポリプロピレン類を例に取ると、広く一般的で、簡易に購入可能でペレット形状が良好な樹脂の多くはMFRが100以下と低いため、更に高温で加熱する必要がある。その加熱温度は親水剤の揮発または分解温度に達する場合があるので、その際は樹脂に対し分子量降下剤を添加するのが好ましい。分子量降下剤を使用したほうが、親水剤に負荷のかからない紡糸が可能である。・・・ ・・・尚、極細繊維用ポリオレフィン組成物におけるヒンダードヒドロキシルアミンエステル系分子量降下剤(有効成分)の添加量は、使用するポリオレフィンのMFR等によって適宜変更されるが、MFRが50?100(g/10min)の場合、0.01?0.10重量%が例示できる。」 カ 段落【0027】及び【0029】 「極細繊維及び極細繊維不織布 本発明における極細繊維不織布は極細繊維からなる不織布のことを言う。 本発明における極細繊維は、ポリオレフィン組成物の溶融紡糸によって得られる繊維で構成されていれば、いずれの製法でも構わない。特に、紡糸工程と不織布化工程を1工程で行う、メルトブロー法が望ましいが、これに限るものではない。メルトブロー法とは、樹脂を高温高圧空気と共に噴射し開繊配列して不織布を製造する方法であり、比較的容易に繊維径が数μm以下の極細繊維が得られ、得られた不織布も緻密なため本発明に適している。また、生産性、製造コスト等の点からも望ましい。」(【0027】) 「本発明における極細繊維の繊維径は、その平均値が0.1?10.0μmが好ましく、0.5?3.5μmがより好ましい。繊維径がこの範囲内であれば、紡糸の際に高温をかける必要がないため、繊維の強度が十分で切れにくく、後にフィルターとした時に繊維が脱落する等の問題も起きにくく、フィルターにしたときの濾過精度も良好である。 極細繊維の繊維径が小さいほど、繊維が形成する空隙が小さくなるのでフィルターとした時に平均流孔径と濾過精度は微小になる。一方で、繊維径が小さいほど、通液に必要とする圧力は増大し、本発明の技術を用いない場合にはエアロックやマイクロバブル発生の原因となる滞留エアが発生する確率は高くなる。したがって、構成する極細繊維の繊維径が小さくて平均流孔径と濾過精度が微小なフィルターほど本発明の効果が顕著に見られる。」(【0029】) キ 段落【0032】 「濾過材 本発明において、極細繊維不織布は紡糸後に余熱で繊維交点が接着されるため、そのままでもフィルターの濾過材として用いることができる他に、単層または複層でカレンダー加工、すなわち一対の加熱ロールで圧密して濾過材として使用しても良い。・・・」 ク 段落【0033】 「シートフィルター 本発明においては、前記濾過材を適当な大きさにカットしてシートフィルターとして使用することができる。 シートフィルターとして使用される濾過材の平均流孔径(ASTM F316-86)は0.1から10.0μmであることが好ましい。平均流孔径が上記の範囲内であれば生産が容易で、濾過精度も十分である。」 (3)甲1記載の実施例 ア 段落【0039】(決定注:見出し記号は変更した。) 「以下に本発明について実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。尚、実施例における試験方法は次の通りである。 (ア)平均繊維径:試験片の任意な位置を電子顕微鏡で写真撮影を行い、1枚の写真につき約20本の繊維の直径を測定し、これらを5枚以上の位置について行い、合計100本以上の繊維径を平均して求めた。 (イ)目付:・・・ (ウ)通気性:・・・ (エ)平均流孔径(μm): ASTM F316-86に基づいて、Perm-Porometer(POROUS MATERIALS INC.製)にて測定した。 (オ)濾過精度:・・・ (カ)エアロックとマイクロバブル発生の確認:・・・」 イ 実施例1(段落【0040】) 「ポリプロピレン(単独重合体、MFR:75、商品名SA08、日本ポリプロ社製)に対し、化学式CH_(3)(CH_(2))_(29)(OCH_(2)CH_(2))_(2.5)OHで表される有効成分を含む親水剤(チバ社製Irugasurf-HL560、有効成分60重量%)が3.0重量%、有効成分としてヒンダードヒドロキシルアミンエステル系化合物を含む分子量降下剤(チバ社製Irugatec-CR76、有効成分3.3重量%)が1.0重量%となるように添加し、メルトブロー用紡糸ノズル(ホール径0.3mm、1.0mmピッチ、501ホール)より、紡糸温度250℃で押し出し、360℃の加熱空気を用いてメルトブロー紡糸した。加熱空気の圧力、吐出量、不織布搬出速度を調節することで、目付13g/m^(2)の不織布(A)、及び目付40g/m^(2)の不織布(B)の2種類の不織布を作製した。次に、不織布(A)2枚と不織布(B)1枚を積層し、ロール温度120℃のカレンダーロールにて圧密処理し、親水性ポリプロピレン極細不織布からなるシートフィルターを得た。これを、直径142mmの円状に切り取り、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 ウ 実施例2(段落【0041】) 「親水剤(チバ社製Irugasurf-HL560)が5.0重量%、分子量降下剤(チバ社製Irugatec-CR76)が0.5重量%、紡糸温度230℃で押し出した以外は実施例1と同じ方法で紡糸して、目付50g/m^(2)の不織布(A)を作製した。次に、不織布(A)をロール温度120℃のカレンダーロールにて圧密処理し、親水性ポリプロピレン極細不織布からなるシートフィルターを得た。これを、直径142mmの円状に切り取り、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 エ 実施例3(段落【0042】) 「紡糸温度を200℃でとした以外は実施例2と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 オ 実施例4(段落【0043】) 「親水剤(チバ社製Irugasurf-HL560)の添加量を5.0重量%、分子量降下剤(チバ社製Irugatec-CR76)の添加量を0.5重量%とした以外は実施例1と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 カ 実施例5(段落【0044】) 「2種類の樹脂を鞘芯型複合繊維とできるメルトブロー用複合紡糸ノズルを用いて、芯側にポリプロピレン(単独重合体、MFR:75、商品名SA08、日本ポリプロ社製)、鞘側にエチレン-プロピレン共重合体(MFR:61、商品名PS4916、日本ポリプロ社製)を用いて、ポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体の両方に、親水剤(チバ社製Irugasurf-HL560)が3.0重量%、分子量降下剤(チバ社製Irugatec-CR76)が1.0重量%となるように添加した以外は、実施例1と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 キ 実施例6(段落【0045】) 「芯側のポリプロピレンに親水剤(チバ社製Irugasurf-HL560)を添加しなかった以外は、実施例5と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 ク 実施例7(段落【0046】) 「ノズル孔が2種類の樹脂を孔の交互の位置から押し出すように配置されたメルトブロー用混合繊維紡糸ノズルを用いて、2種類の樹脂としてポリプロピレン(単独重合体、MFR:75、商品名SA08、日本ポリプロ社製)とエチレン-プロピレン共重合体(MFR:61、商品名PS4916、日本ポリプロ社製)を用いて、ポリプロピレンとエチレン-プロピレン共重合体の両方に、親水剤(チバ社製Irugasurf-HL560)が3.0重量%、分子量降下剤(チバ社製Irugatec-CR76)が1.0重量%となるように添加した以外は、実施例1と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 ケ 実施例8(段落【0047】) 「ポリプロピレン(単独重合体、MFR:1800、パウダー状、商品名PP3546G、エクソンモービル社製)を用いて、分子量降下剤を用いなかった以外は、実施例1と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 コ 実施例9(段落【0048】) 「分子量降下剤として過酸化物2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製パーヘキサ25B)を0.03重量%使用した以外は、実施例1と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 サ 実施例10(段落【0049】) 「親水剤としてアルキルスルホン酸塩(三洋化成工業社製ケミスタット3033N)を2重量%使用した以外は、実施例1と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。」 シ 比較例1(段落【0050】) 「親水剤を添加しない以外は実施例1と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。実施例1?10と比較すると、エアロックとマイクロバブルが発生していることがわかる。」 ス 比較例2(段落【0051】) 「親水剤を添加しない以外は実施例3と同じ方法でシートフィルターを作製し、試験を実施した。測定結果は表1に示す。実施例3と比較すると、マイクロバブルが発生していることがわかる。」 セ 表1(段落【0064】) 「 」 2 甲2の記載事項 (1)請求項1 「レーザー光線を照射して熱可塑性樹脂を加熱溶融させる加熱溶融工程と、前記熱可塑性樹脂の溶融部に電圧を作用させて、前記熱可塑性樹脂を繊維状に伸長させる静電紡糸工程と、伸長された繊維をコレクターに捕集する捕集工程とを経て極細繊維を製造する方法であって、前記静電紡糸工程において、伸長する繊維を加熱して紡糸する極細繊維の製造方法。」 (2)段落【0002】 「近年、サブミクロン又はナノメータオーダの繊維径を有する繊維(ナノ繊維)は、高い比表面積と繊維形態とを活用した新規な材料を開発可能な点から注目されている。一般に、極細繊維を製造する方法としては、高分子の溶融液を高圧で押出すと共に熱風で吹き飛ばして極細(微細)繊維を製造するメルトブロー法がある。この方法においては、ノズル内の溶融物への圧力及び熱風によるせん断力によって極細繊維が製造される。しかし、このような方法では、直径1?10μmを有する極細繊維を製造できるものの、ナノ繊維の製造は困難である。」 (3)段落【0003】 「そこで、ナノ繊維を製造する方法として、高分子溶液又は高分子融液に高電圧を作用させて繊維を形成する静電紡糸法が利用されている。以下、前者の高分子溶液を用いる方法を溶媒型静電紡糸法(S-ELSP)と称し、後者の高分子融液を用いる方法を溶融型静電紡糸法(M-ELSP)と称する。なお、溶融型静電紡糸法は溶媒型静電紡糸法から派生した方法であるため、これらの紡糸原理は基本的には同一である。」 (4)段落【0017】 「従来の溶融型静電紡糸法では、電気的牽引力が小さいため、繊維が充分に微細化できない。さらに、コレクター上の気流に阻害されて繊維がコレクター上に均一に捕集できないため、均一な繊維集合体(シート状不織布)を得ることはできなかった。これに対して、本発明では、ホイッピングモーションを可能とする装置と条件によって、均一なシート状極細繊維不織布を得ることができる。特に、このようなシート状不織布を形成させるためには、ホイッピングモーションを生起させて、極細繊維が相互に重なり合って集積する必要があり、熱可塑性樹脂の溶融部に電圧を作用させて、伸長する繊維を熱可塑性樹脂の融点(又は軟化点)近傍の雰囲気で少なくとも30mm以上の通過距離を有する加熱部を経てから、綾振り機構を有するコレクターに捕集することにより、平均繊維径が5μm以下(特に50?1000nm程度)の極細繊維で構成された均一なシート状不織布を得ることができる。」 (5)段落【0024】、【0025】 「(加熱溶融工程) 熱可塑性樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂、ポリプロピレンなどのポリプロピレン系樹脂など)、・・・などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。 これらの熱可塑性樹脂のうち、電荷を先端の溶融部まで充分に到達させて静電牽引力を向上できる点から、高分子の主鎖又は側鎖に、官能基(極性基)を有する樹脂、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂などが好ましい。このような樹脂は、高温時の電気抵抗が下がり易く、極細繊維を形成し易い。さらに、ナノ繊維などの極細繊維を形成し易い点からは、低粘度の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが好ましい。これらの熱可塑性樹脂を使用すると、ナノメータサイズの繊維径でありながら、均一な径の極細繊維を製造できる。・・・」 (6)段落【0073】 「[極細繊維] 本発明では、このような溶融型静電紡糸方法により、繊維、特に繊維径の小さい極細繊維が得られる。極細繊維の平均繊維径は、例えば、5μm以下であり、好ましくは100nm?3μm程度である。このような平均繊維径を有する極細繊維には、例えば、50?1000nm(特に100?500nm)程度の繊維径を有する繊維が含まれていてもよい。さらに、熱可塑性樹脂の種類や製造条件などを調整することにより、均一なナノメータサイズを有する極細繊維を得ることもできる。本発明で得られる極細繊維は、ホイッピングモーションを発生させて採取するので、高速回転ドラムなどの特殊な採取方法を選択しない限り、シート状不織布を構成する極細繊維は反転部分(折り返し部分)を有しているのが特徴である。」 (7)段落【0087】 「本発明の方法で得られた極細繊維は、ナノ単位の径であるため、柔軟性に優れ、表面積が大きいため、吸液性や濾過性などの各種特性に優れる。従って、各種用途、例えば、絶縁材用セパレータなどのエレクトロニクス用部材、産業用資材(油吸着材、皮革基布、セメント用配合材、ゴム用配合材、各種テープ基材、エアフィルター、液体フィルターなど)、医療・衛生材(紙おむつ、ガーゼ、包帯、医療用ガウン、サージカルテープなど)、生活関連資材(ワイパー、印刷物基材、包装・袋物資材、収納材、フィルターなど)、衣料用材、内装用材(断熱材、吸音材など)、建設資材、農業・園芸用資材、土木用資材(土壌安定材、濾過用資材、流砂防止材、補強材など)、鞄・靴材などに使用できる。」 (8)実施例 ア 繊維径の測定方法(段落【0090】) 「コレクター上に約50mm角に切られたアルミホイルを置き、溶融静電紡糸を各種条件下で行い、アルミホイル上に作製された繊維堆積物を金スパッタコーティングした。このコーティング物の写真を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影し、ネガ上に見られる繊維を任意に30本選び、これらの繊維径をデジタイザーにより計測し、その平均値及び標準偏差を求めた。」 イ 実施例1 (ア)「(ベクトラ L920の溶融型静電紡糸)」(段落【0095】) (イ)「この装置を用いて、ベクトラから極細繊維が作製できる最適な印加電圧、中心部における加熱雰囲気温度(Ts)を融点付近の温度300℃、コレクター距離(Cd)、レーザー出力を見出し、それらの条件から得られる繊維をSEM(日立製作所(株)製、S-2300)で観察した結果を図4に示し、繊維直径分布図を図5示す。」(段落【0102】) (ウ)図5 「 」 ウ 実施例2 (ア)「(ポリ乳酸の溶融型静電紡糸)」(段落【0104】) (イ)「この装置を用いて、静電紡糸により作製される極細繊維シート形状を決定する因子として、レーザー出力(Lp)、中心部における雰囲気加熱の有無を変化させた実験を行った。すなわち、この実験では、コレクター距離を100mm、高電圧を放電直前の41kVと固定して、レーザー出力2?17Wを変化させ、加熱雰囲気温度(Ts)を150℃加熱した例と、加熱しない例とについて、繊維径、略円盤状の直径、ホイッピング挙動、及びシートの均斉性について調べた。結果を表1に示す。」(段落【0105】) (ウ)表1(段落【0106】) 「 」 エ 実施例3 (ア)「(半芳香族ポリアミド径樹脂の溶融型静電紡糸)」(段落【0108】) (イ)「図6は、実施例1と同条件において、加熱雰囲気温度(Ts)を室温、270℃、280℃、290℃、300℃、310℃、330℃と変えて繊維径との関係を示したグラフである。この実験結果から、融点を超えた温度領域でも安定したホイッピングモーションを伴って極細の繊維が得られることがわかる。」(段落【0109】) (ウ)図6 「 」 第5 判断 (1)新規性について ア 上記第4、1(1)アの記載からみて、申立人が主張するように、甲1には、平均繊維系を0.1?10.0μmとすることについて一応の記載がある。 イ しかしながら、上記第4、1(3)セの表1に記載された甲1の実施例においては、平均繊維径の下限は、0.9μmとなっており、また、前記第4、2(2)に摘記したように、甲1において用いられているメルトブロー法によって不織布を製造する場合、直径1μm未満の極細繊維とすることは困難とされており、甲1には本件発明のような平均繊維径が0.01?0.5μmであるオレフィン系繊維不織布が製造可能に開示されているということはできない。 ウ それに対して、本件発明においては、本件明細書の実施例1ないし4に記載されているように、当業者が製造可能に平均繊維径が0.01?0.5μmであるオレフィン系繊維不織布が開示されている。 ウ したがって、申立人が主張するように本件発明が甲1から新規性を欠くということはできない。 (2)進歩性について ア 上記(1)で検討したように、甲1には、平均繊維径を0.5μm以下とすることは実施可能に開示されていない。 イ 上記第4、2で検討したように、甲2には、平均繊維径を100?500nmとする開示(上記第4、2(6))は存在するが、製造可能に開示されているのは、平均繊維径が0.6μmのものが最細であると認められる(上記第4、2(8)ウ(ウ))。しかも、当該例は、高分子としてポリ乳酸を用いた例であるから、ポリオレフィン系繊維に溶融型静電紡糸方法を適用した場合に、平均繊維径が0.6μmの不織布が製造可能であるか否かも明らかでない。 ウ そうすると、甲1及び甲2のいずれにも、平均繊維径が0.01?0.5μmであるオレフィン系繊維不織布が製造可能に開示されているということはできない。したがって、甲1あるいは甲2に記載された発明を主引用例としても、「平均繊維径が0.01?0.5μmである」点は、当業者が容易に想到することができないということができる。 エ したがって、申立人が主張するように本件発明が進歩性を欠くということはできない。 (3)申立人の主張に対して ア 主張1 (ア)申立人は、特許異議申立書において、「甲1発明は、平均繊維径の範囲が0.1?10.0μmであることにより、十分な強度でフィルターとしたとき脱落しにくく、濾過精度が良好になることが読み取れる」旨主張する(11頁19?22行参照。)。 (イ)申立人の上記主張は、平均繊維径が0.01?0.5μmである本件発明の内、平均繊維径が0.1?0.5μmである範囲について、進歩性を欠くと主張していると解される。しかしながら、上記のように甲1においては、平均繊維径が0.1?0.5μmである場合の製造可能性や濾過精度について実証されていないのでこの主張は採用できない。また、この点を措くとしても、申立人の主張は、上位概念である「平均繊維径の範囲が0.1?10.0μm」である甲1と下位概念である「平均繊維径の範囲が0.1?0.5μm」である本件発明における上記主張部分との差異を考慮しておらず、失当である。 イ 主張2 (ア)また、申立人は、「甲1発明は、甲1の【0022】、【0024】に記載のとおり、所望の特性を得るために適宜の添加量にて分子量降下剤を添加して分子量を下げて、ナノ繊維を得られやすくすることが開示されている。」、「当業者は上記【0029】(決定注:【0024】の誤記と解される。)の開示を参照して、平均繊維径を細めることは困難なく想到し得る。」旨主張する(11頁23行?12頁4行)。 (イ)しかしながら、分子量降下剤は、親水剤の熱分解や揮発を押さえるためのものである(上記第4、1(2)オ)。そして、分子量降下剤の添加量の異なる甲1の実施例1(1重量%)と実施例4(0.5重量%)とでは、平均繊維径が0.9μmと1.1μmとで一応相違があるが、分子量降下剤を増やすことで平均粒子径が大きく変動すると認めるに足りない。よって、申立人の主張は理由がない。 第6 むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-11-28 |
出願番号 | 特願2012-526337(P2012-526337) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
Y
(D04H)
P 1 652・ 121- Y (D04H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
千壽 哲郎 |
特許庁審判官 |
井上 茂夫 門前 浩一 |
登録日 | 2017-03-10 |
登録番号 | 特許第6106435号(P6106435) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | 繊維不織布、およびその製造方法 |
代理人 | 鷲田 公一 |