• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01K
審判 全部無効 産業上利用性  A01K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01K
管理番号 1335352
審判番号 無効2012-800093  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-01 
確定日 2017-11-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2664261号「ヒト疾患に対するモデル動物」の特許無効審判事件についてされた平成25年10月 4日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成25年(行ケ)第10311号、平成27年 2月19日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2664261号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-10]、[11-19]について訂正することを認める。 特許第2664261号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2664261号の請求項1?19に係る発明についての出願は、平成1(1989)年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1988年10月5日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、以降の主な経緯は次のとおりである。
なお、以下、甲各号証及び乙各号証を甲又は乙と各号証の番号を組み合わせて甲1等のように表すこととする。

平成 9年 6月20日 特許権の設定登録
平成10年 4月15日付け 特許異議申立書
(平成10年異議第71767号)
平成11年 3月30日 訂正請求書
平成11年 5月14日付け 訂正を認め、特許を維持する旨の決定
平成11年12月 6日付け 異議決定公報発行
平成24年 6月 1日付け 無効審判請求書(請求人)(甲1?甲8)
平成24年 9月20日付け
(平成24年9月21日差出)答弁書(被請求人)(乙1?24)
平成24年 9月20日付け
(平成24年9月21日差出)訂正請求書(被請求人)
平成24年10月 2日 手続補正書(被請求人)
平成24年10月 2日 上申書(被請求人)
平成24年11月29日付け 平成24年9月21日提出の訂正請求書に
係る手続についての手続却下の決定(当審)
平成25年 1月29日付け
(平成25年1月30日差出)上申書(請求人)
平成25年 2月13日付け 審理事項通知書(当審)
平成25年 2月26日 手続補正書(被請求人)
平成25年 2月26日 上申書(被請求人)(乙6)
平成25年 4月 4日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
(甲9?14)
平成25年 4月 4日 上申書(被請求人)
平成25年 4月 4日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
(乙25?51)
平成25年 4月16日 上申書(被請求人)(乙39の2)
平成25年 4月18日 口頭審理
平成25年 4月24日 上申書(被請求人)
平成25年 4月24日 上申書(被請求人)(乙52)
平成25年 6月 7日付け 上申書(請求人)(甲15?18)
平成25年 6月 7日付け 上申書(被請求人)(乙53?67)
平成25年 7月 1日付け 上申書(請求人)
平成25年 7月30日 上申書(被請求人)
平成25年 8月 5日付け 上申書(請求人)
平成25年 8月13日 上申書(被請求人)
(乙68の1?73の2)
平成25年 8月27日付け 上申書(請求人)
平成25年10月 4日付け 本件審判の請求は成り立たない旨の審決
(以下、「原審決」という)
平成27年 2月19日 知的財産高等裁判所において審決取消しの
判決言渡
(平成25年(行ケ)第10311号)
平成28年 6月10日 訂正請求申立書
平成28年 7月21日 訂正請求書(被請求人)
平成28年 8月29日 手続補正書(方式)(被請求人)
平成29年 1月13日 上申書(被請求人)
平成29年 1月17日付け 上申書(請求人)
平成29年 2月13日 手続補正書(方式)(被請求人)
平成29年 2月24日 審決の予告

第2 平成28年7月21日付け訂正請求書による訂正について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
被請求人が平成28年7月21日付け訂正請求書(平成29年2月13日付け手続補正書(方式)により、請求の趣旨及び請求の理由が補正されている)により請求する訂正は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?19について訂正することを求めるものである。
ここで、訂正前の本件特許の明細書、特許請求の範囲は、平成11年12月6日付けで発行された異議決定公報(以下、「本件異議決定公報」という)の明細書、特許請求の範囲に記載された事項により特定される。
そして、訂正の内容は、(1)請求項1?10からなる一群の請求項に係る訂正(訂正事項1?10)、(2)請求項11?19からなる一群の請求項に係る訂正(訂正事項11?19)、及び(3)発明の詳細な説明の訂正(訂正事項20?38)であって、以下のとおりである(下線部分は訂正箇所)。

(1)請求項1?10からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「相当する器官中へ移植された脳」とあるのを、「相当する器官中へ正位移植された、脳」に、「得られた腫瘍組織」とあるのを、「得られたヒト腫瘍組織」に、「免疫欠損を有する、モデル動物。」(審決注:「免疫欠損を有するモデル動物。」の誤記と認める)とあるのを、「免疫欠損を有する、モデル動物。」に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「動物」とあるのを、「前記動物」に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「ヒト腫瘍組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍組織」に、「から得られる」とあるのを、「からなる群から得られるいずれかの腫瘍組織である」に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「腫瘍組織」とあるのを、「前記腫瘍組織」に、「ヒト腎臓から得られる、」とあるのを、「ヒト腎臓から得られるヒト腫瘍腎組織である、」に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「ヒト腫瘍腎組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍腎組織」に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「腫瘍細胞」とあるのを、「前記腫瘍組織」に、「ヒト胃から得られる、」とあるのを、「ヒト胃から得られるヒト腫瘍胃組織である、」に訂正する。

キ.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「ヒト腫瘍胃組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍胃組織」に訂正する。

ク.訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「腫瘍組織」とあるのを、「前記腫瘍組織」に、「ヒト結腸から得られる、」とあるのを、「ヒト結腸から得られるヒト腫瘍結腸組織である、」に訂正する。

ケ.訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「腫瘍結腸組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍結腸組織」に訂正する。

コ.訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「腫瘍組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍組織」に訂正する。

(2)請求項11?19からなる一群の請求項に係る訂正
ア.訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11に「移植されたヒト腫瘍組織」とあるのを、「正位移植された前記ヒト腫瘍組織」に訂正する。また、特許請求の範囲の請求項11に「免疫欠損を有する実験動物を準備し;」とあるのを、「免疫欠損を有する、実験動物を準備し;」に訂正する。

イ.訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12に「実験動物」とあるのを、「前記実験動物」に訂正する。

ウ.訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13に「ヒト腫瘍組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍組織」に訂正する。また、「から得られる」とあるのを、「からなる群から得られるいずれかの腫瘍組織である」に訂正する。

エ.訂正事項14
特許請求の範囲の請求項14に「腫瘍組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍組織」に、また、「得られる、」とあるのを、「得られるヒト腫瘍腎組織である、」に訂正する。

オ.訂正事項15
特許請求の範囲の請求項15に「ヒト腫瘍腎組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍腎組織」に訂正する。

カ.訂正事項16
特許請求の範囲の請求項16に「腫瘍細胞」とあるのを、「前記ヒト腫瘍組織」に、「得られる、」とあるのを、「得られるヒト腫瘍胃組織である、」に訂正する。

キ.訂正事項17
特許請求の範囲の請求項17に「ヒト腫瘍胃組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍胃組織」に訂正する。

ク.訂正事項18
特許請求の範囲の請求項18に「腫瘍組織」とあるのを、「前記ヒト腫瘍組織」に、「得られる、」とあるのを、「得られるヒト腫瘍結腸組織である、」に訂正する。

ケ.訂正事項19
特許請求の範囲の請求項19に「腫瘍結腸組織」とあるのを、「前記腫瘍結腸組織」に訂正する。

(3)発明の詳細な説明の訂正
ア.訂正事項20
本件異議決定公報の12頁15行目の「効力の試験」を「効果の試験」に、同公報の12頁16行目の「化学的敏感性試験」を「化学的感受性試験」に訂正する。

イ.訂正事項21
本件異議決定公報の12頁19行目の「試みは」を「試みでは、」に、同公報同頁20行目の「に作製し」を「で作製され」に訂正する。

ウ.訂正事項22
同公報の12頁22?23行目の「動物系中で」を「動物系の中で」に、同公報同頁24行目の「なお他の」を「なお、他の」に訂正する。同頁24行目の「腫瘍モデル動物は自然発生腫瘍」を「腫瘍モデル動物は、自然発生腫瘍」に訂正する。

エ.訂正事項23
同公報の12頁25?26行目の「しかし、これらの齧歯動物のモデル動物はしばしば、同じ物質を受けるヒト披験者とは非常に異なって化学療法剤に応答した。」を「しかし、これらの齧歯動物のモデル動物は、しばしば化学療法剤に反応し、同じ物質の投与を受けるヒト披験者とは非常に異なっていた。」に訂正する。

オ.訂正事項24
同公報の12頁27行目の「動物は」を「動物では、」に、同頁27?28行目の「を用いた」を「が用いられた」に、同頁28行目の「細胞」を「免疫細胞」に訂正する。同頁28行目の「その結果外来移植組織」を「その結果、外来移植組織」に訂正する。

カ.訂正事項25
同公報の12頁29行目の「明確に」を「明確には」に、同公報13頁の2行目の「皮膚の下に皮下的に」を「皮膚の下、皮下に」に訂正する。

キ.訂正事項26
同公報の13頁2行目の「移植されたときにヒト腫瘍が」を「移植されたときに、ヒト腫瘍が」に訂正する。同頁5?6行目の「腫瘍はしばしば、大部分移植の部位」を「腫瘍は、しばしば、大部分移植された部位」に、「供与体中で非常に転移性であっても」を「供与体中で非常に転移性が高くても、」に、同頁7行目の「動物は、前記齧歯動物の」を「動物は、すでに記載した齧歯動物の」に、訂正する。同頁4行目の「生着率又は頻度は個々の」を「生着率又は頻度は、個々の」に、同頁5行目の「モデル動物において、生着した」を「モデル動物において生着した」に訂正する。

ク.訂正事項27
同公報の13頁7行目の「皮下ヌードマウスのヒト腫瘍モデル動物」を「皮下ヌードマウスヒト腫瘍モデル動物」に、同頁8行目の「欠点を有し」を「欠点を有しており」に、同頁9行目の「欠いた」を「欠いていた」に、同頁10行目の「前記不足」を「前記欠点」に、同頁10?11行目の「本発明はヒト中」を「本発明は、ヒト中」に、同頁11行目の「ヒト中に」を「ヒト中で」、同頁11行目の「進行に全くよく似た能力を有する」を「進行を非常によく再現する能力を有する」に訂正する。

ケ.訂正事項28
同公報の13頁14行目の「主目的はヒト」を「主目的は、ヒト」に、同頁16?18行目の「本発明の主観点によれば、ヒト器官から得られて動物の相当する器官中へ移植された腫瘍組織塊を有し、移植された組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有するヒト腫瘍疾患に対する新規非ヒトモデル動物が提供される。」を「本発明の主観点によれば、ヒト腫瘍疾患に対する新規非ヒトモデル動物が提供される。前記動物には、ヒト器官から得られた腫瘍組織塊が当該動物の相当する器官中へ移植されており、前記動物は、前記移植された組織が増殖し、そして転移し得るに十分な程度の免疫欠損を有している。」に訂正する。

コ.訂正事項29
同公報の13頁19行目の「本発明の他の観点はヒト腫瘍疾患に対する非ヒトモデル動物を作製させる方法」を「本発明の他の観点は、ヒト腫瘍疾患に対する非ヒトモデル動物を作製する方法」に、同頁20行目の「提供し、該方法は移植された」を「提供する。当該方法は、移植された」に、同頁20行目の「腫瘍組織を前記動物中」を「腫瘍組織が前記動物中」に、同20?21行目の「増殖及び転移させるに足る」を「増殖し、そして転移し得るに十分な程度の」に訂正する。

サ.訂正事項30
同公報の13頁25?26行目の「移植された組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する実験動物中へヒト腫瘍組織塊を移植する」を「移植された組織を増殖及び転移させるのに十分な免疫欠損を有する実験動物に、ヒト腫瘍組織塊を移植する」に、同頁27行目の「実験動物はT細胞免疫」を「実験動物は、T細胞免疫」に、同頁28行目の「として示され」を「と呼ばれ」に、同公報の14頁6?9行目の「ここに使用されるヒト腫瘍組織には、例えばヒトの腎臓、肝臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺、睾丸及び脳中に生ずる病理学的に診断される腫瘍である外科的に得られた新鮮な試料の組織が含まれる。」を「ここで使用されるヒト腫瘍組織には、外科的に得られた新鮮な試料の組織、例えば、ヒトの腎臓、肝臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺、睾丸及び脳に生じ、病理学的に腫瘍であると診断されたものが含まれる。」に訂正する。

シ.訂正事項31
同公報の14頁3行目の「配置は正位移植により」を「配置は、正位移植により」に、同頁5行目の「という語は」を「いう語は、」に、同頁6行目及び10行目の「ここに」を「ここで」に、同頁10行目の「それらの移植は」を「それらの移植は、」に、及び同頁10行目の「包合する」を「包含する」に訂正する。

ス.訂正事項32
同公報の14頁9行目の「そのような腫瘍には癌腫」を「そのような腫瘍には、癌腫」に、同頁14?15行目の「例えば10%ウシ胎児血清及び適当な」を「例えば、10%ウシ胎児血清及び、適当な」に訂正する。同頁15行目の「抗生物質例えばゲンタマイシンを」を「抗生物質、例えば、ゲンタマイシンを」に、同頁16?17行目の「組織を含む培地は次いで約4℃に冷却される。組織は」を「当該組織を含む培地を、次いで約4℃に冷却する。当該組織は」に訂正する。

セ.訂正事項33
同公報の同頁18行目の「適当に」を「適切に」に、同頁18?19行目の「大きさの塊に形成することにより移植のために準備される。」を「大きさの塊に形成し、移植のために準備する。」に訂正する。同頁19?20行目の「試料の大きさは約0.1×0.5cmから約0.2×0.6cmまで変動することができる。」を「試料の大きさは、約0.1×0.5cmから約0.2×0.6cmまで変動させることができる。」に、同頁20?22行目の「適当な大きさの試料の形成に使用される技術は鉗子などで所望の大きさの片に引き裂くことにより組織を適当な大きさに引き裂くことが含まれる。」を「適当な大きさの試料の形成に使用される技術は、鉗子などで所望の大きさの片に引き裂くことにより、組織を適当な大きさに引き裂くことが含まれる。」に訂正する。

ソ.訂正事項34
同公報の14頁28行目の「腫瘍組織の移植の前に、選ばれた免疫欠損動物は適当な麻酔薬で麻酔される。」を「腫瘍組織の移植の前に、選ばれた免疫欠損動物を適当な麻酔薬で麻酔する。」に、同頁29行目?15頁1行目の「肺組織を除いて前記すべての器官組織の移植が、エチルエーテルを用いる普通の麻酔法により便宜に行なわれる。」を「肺組織を除いて、前記すべての器官組織の移植が、エチルエーテルを用いる普通の麻酔法により簡便に行なわれる。」に訂正する。同公報の15頁3行目の「移植は移植部位」を「移植は、移植部位」に、同頁4行目の「若干のゆるい縫合が薬上に置かれ」を「若干のゆるい縫合糸を葉上に置き」に、同頁5行目の「切開される」を「切開する」に、「切り口」を「切開口」に、同頁6行目の「腫瘍上に」を「腫瘍上で」に訂正する。

タ.訂正事項35
同公報の15頁8行目の「方法は受容」を「方法は、受容」に、同頁18行目及び20行目の「切り口」を「切開口」に、同頁9行目の「近い器官」を「近い当該器官」に、同頁23?25行目の「移植は18番ゲージ針を睾丸に縦軸に沿って挿入」を「移植は、18番ゲージ針を睾丸に縦軸に沿って挿入」に、同公報の16頁20行目の「腫瘍映像化は動物に標識抗腫瘍抗体例えば放射性同位体」を「腫瘍映像化は、動物に標識抗腫瘍抗体、例えば、放射性同位体」に訂正する。

チ.訂正事項36
同公報の16頁21行目の「抗体に腫瘍内で局在する時間を許し」を「抗体を腫瘍内である時間局在させ」に、同頁21?22行目の「次いで放射線デテクターを用いて」を「次いで、放射線デテクターを用いて」に、同頁22行目の「動物の体中に」を「動物の体内で」に訂正する。

ツ.訂正事項37
同公報の16頁27行目の「本発明のモデル動物はまた新抗腫瘍剤をスクリーニングして」を「本発明のモデル動物はまた、新抗腫瘍剤をスクリーニングして」に、同頁29行目の「該モデル動物はまた癌患者」を「該モデル動物はまた、癌患者」に訂正する。同公報の17頁1行目の「敏感性」を「感受性」に、同頁4行目の「実証衝撃」を「実証された衝撃」に、同頁10行目の「外科のための」を「外科手術のための」に、同頁11行目の「各動物中に切開を行ない腎臓に到達した。」を「各動物に腎臓に到達する切開を行った。」に、同頁18?19行目の「含まれた。」を「含まれていた。」に訂正する。

テ.訂正事項38
同公報の18頁3行目の「マウスを切開して胃に到達した。」を「マウスに、胃に到達する切開を行なった。」に、同頁4行目及び6行目の「切り口」を「切開口」に、同頁17行目の「縫合で」を「縫合して」に、同頁20?21行目の「転移しなかったと思われなかった。」を「転移しなかったとは思われなかった。」に、同頁22?24行目の「けれども、一定の変更及び改変を請求の範囲内で行なうことができる」を「が、請求の範囲内で一定の変更及び改変を行なうことができる」に訂正する。

2 訂正の可否の判断
(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的
訂正事項1は、請求項1のモデル動物について、訂正前の「相当する器官中へ移植された」を訂正後の「相当する器官中へ正位移植された」として、また、「得られた腫瘍組織」を「得られたヒト腫瘍組織」として、「移植」及び「腫瘍組織」について限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否
訂正事項1は、請求項1に発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ.新規事項の追加の有無
訂正事項1は、本件異議決定公報発の14頁3?6行目の以下の記載
「本発明による免疫欠損実験動物中の腫瘍組織の配置は正位移植により行なわれる。これは、その組織塊が以前に占有していた位置に移植される移植組織塊に関する。本発明において正位移植という語はヒトの器官の新生物腫瘍組織を免疫欠損実験動物の相当する器官中へ移植することを示すために使用される。」
に基づいてなされたものである。
したがって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

エ.独立特許要件の適否
本件特許無効審判事件においては、全ての請求項が無効審判の請求の対象とされているので、訂正事項1に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は適用されない。

(2)訂正事項2?10について
ア.訂正の目的
訂正事項2?10はそれぞれ、請求項2?10の記載を明確にする誤記の訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否
訂正事項2?10はそれぞれ、請求項2?10の記載を明確にするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ.新規事項の追加の有無
訂正事項2?10はそれぞれ、請求項2?10の記載を明確にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

エ.独立特許要件の適否
「第2 2(1)エ.独立特許要件の適否」と同様に、訂正事項2?10に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は適用されない。

(3)訂正事項11について
ア.訂正の目的
訂正事項11は、請求項11の方法について、訂正前の「移植されたヒト腫瘍組織」を訂正後の「正位移植された前記ヒト腫瘍組織」とするものである。
そして、当該訂正事項11は、「移植」について限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、「ヒト腫瘍組織」について記載を明確にするものであるから、同法同条同項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否
訂正事項11は、請求項11において発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであり、また、請求項11の記載を明確にするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ.新規事項の追加の有無
「第2 2(1)ウ.新規事項の追加の有無」と同様に、訂正事項11は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

エ.独立特許要件の適否
「第2 2(1)エ.独立特許要件の適否」と同様に、訂正事項11に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は適用されない。

(4)訂正事項12?19について
ア.訂正の目的
訂正事項12?19はそれぞれ、請求項12?19の記載を明確にする誤記の訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否
「第2 2(2)イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否」と同様に、訂正事項12?19は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ.新規事項の追加の有無
「第2 2(2)ウ.新規事項の追加の有無」と同様に、訂正事項12?19は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

エ.独立特許要件の適否
「第2 2(2)エ.独立特許要件の適否」と同様に、訂正事項12?19に関して、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件は適用されない。

(5)訂正事項20?22,25?26,29,31,33?38について
ア.訂正の目的
訂正事項20?22,25?26,29,31,33?38はそれぞれ、発明の詳細な説明の記載を明確にする誤記の訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の誤記の訂正を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否
訂正事項20?22,25?26,29,31,33?38はそれぞれ、発明の詳細な説明の記載を明確にするものであり、特許請求の範囲のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ.新規事項の追加の有無
訂正事項20?22,25?26,29,31,33?38はそれぞれ、発明の詳細な説明の記載を明確にするものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

(6)訂正事項23,28について
ア.訂正の目的
訂正事項23,28はそれぞれ、発明の詳細な説明の記載を明確にするための明瞭でない記載の釈明であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否
「第2 2(5)イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否」と同様に、訂正事項23,28は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ.新規事項の追加の有無
「第2 2(5)ウ.新規事項の追加の有無」と同様に、訂正事項23,28は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

(7)訂正事項24,27,30,32について
ア.訂正の目的
訂正事項24,27,30,32はそれぞれ、発明の詳細な説明の記載を明確にするための誤記の訂正、及び明瞭でない記載の釈明であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第2号の誤記の訂正、及び同法同条同項ただし書第3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否
「第2 2(5)イ.特許請求の範囲の実質上の拡張または変更の存否」と同様に、訂正事項項24,27,30,32は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

ウ.新規事項の追加の有無
「第2 2(5)ウ.新規事項の追加の有無」と同様に、訂正事項24,27,30,32は、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

(8)小括
上記(1)?(7)のとおり、訂正事項1?38に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号?第3項に掲げる事項を目的とするものであり、しかも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に違反するものでもないので、本件訂正を認める。

第3 本件発明
「第2 平成28年7月21日付け訂正請求書による訂正について」のとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許第2664261号の請求項1?19に係る発明(以下、各々「本件発明1」?「本件発明19」という。また、これらをまとめて「本件発明」または「本件発明1?19」という場合がある)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?19に記載された事項によりそれぞれ特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物であって、前記動物が前記動物の相当する器官中へ正位移植された、脳以外のヒト器官から得られたヒト腫瘍組織塊を有し、前記移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する、モデル動物。
【請求項2】前記動物が無胸腺マウスである、請求項1に記載のモデル動物。
【請求項3】前記ヒト腫瘍組織がヒトの肝臓、腎臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺又は睾丸からなる群から得られるいずれかの腫瘍組織である、請求項2に記載のモデル動物。
【請求項4】前記腫瘍組織がヒト腎臓から得られるヒト腫瘍腎組織である、請求項3に記載のモデル動物。
【請求項5】前記ヒト腫瘍腎組織がマウスの腎臓の腎皮質中へ移植される、請求項4に記載のモデル動物。
【請求項6】前記腫瘍組織がヒト胃から得られるヒト腫瘍胃組織である、請求項3に記載のモデル動物。
【請求項7】前記ヒト腫瘍胃組織がマウスの胃中に、胃の内部粘膜ライニングと胃の外部腹膜コートとの間に移植される、請求項6に記載のモデル動物。
【請求項8】前記腫瘍組織がヒト結腸から得られるヒト腫瘍結腸組織である、請求項3に記載のモデル動物。
【請求項9】前記ヒト腫瘍結腸組織がマウスの大腸の盲腸中に移植される、請求項8に記載のモデル動物。
【請求項10】前記ヒト腫瘍組織が女性ヒト胸部から得られる、請求項3に記載の雌モデル動物。
【請求項11】ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物を作製する方法であって;正位移植された前記ヒト腫瘍組織を前記動物中で増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する、実験動物を準備し;
脳以外のヒト器官からの腫瘍組織塊の試料を免疫欠損動物の相当する器官中へ移植する、ことを含む方法。
【請求項12】前記実験動物が無胸腺マウスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】前記ヒト腫瘍組織がヒトの肝臓、腎臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺又は睾丸からなる群から得られるいずれかの腫瘍組織である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】前記ヒト腫瘍組織がヒト腎臓から得られるヒト腫瘍腎組織である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】前記ヒト腫瘍腎組織がマウスの腎臓の腎皮質中に移植される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】前記ヒト腫瘍組織がヒト胃から得られるヒト腫瘍胃組織である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】前記ヒト腫瘍胃組織がマウスの胃中に、胃の内部粘膜ライニングと胃の外部腹膜コートとの間に移植される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】前記ヒト腫瘍組織がヒト結腸から得られる腫瘍結腸組織である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】前記腫瘍結腸組織が無胸腺マウスの大腸の盲腸中に移植される、請求項18に記載の方法。」

第4 請求人の主張
1 無効理由の概要
本件発明1?19をいずれも無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、口頭審理(口頭審理陳述要領書及び調書を含む)及び上申書において、下記「2 証拠方法」に示した証拠方法を提出するとともに、次に示す無効理由を主張している。無効理由についての主張を整理すると次のとおりである。

(1)無効理由1[特許法第29条第1項柱書違反(発明未完成)]
本件発明1?19は、その技術内容が当業者が反復実施してその目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないものであるので、発明未完成であり、特許法第29条第1項柱書の規定する要件を満たしていない。従って、本件発明1?19についての特許は、いずれも特許法第123条第1項に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書11頁11?20行目)

(2)無効理由2[特許法第36条第3項違反(実施可能要件違反)]
訂正後の明細書(以下、「本件明細書」という)では、本件発明の目的及び効果である腫瘍の転移の有無が確認されておらず、かつ、いかなる構成によれば本件発明の目的が達成され、及び効果が奏されるかの記載も無い。すなわち、本件明細書に記載された発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとは言えないので、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていない。従って、本件発明1?19についての特許は、いずれも特許法第123条第1項に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書11頁21行目?12頁8行目)

(3)無効理由3[特許法第36条第4項第1号違反(サポート要件違反)]
本件明細書では、本件発明の目的及び効果である腫瘍の転移の有無が確認されておらず、かつ、いかなる構成によれば本件発明の目的が達成され、及び効果が奏されるかの記載も無い。すなわち、本件明細書には”移植された腫瘍組織塊が転移する”という作用効果を裏付ける記載は全く無いから、当業者において本件発明の課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるということはできず、また、本件出願時の技術常識に照らし、当業者において本件課題が解決されるものと認識し得るということもできない。このため、本件明細書において、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明に記載又は開示された技術的事項の範囲を超えているので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。従って、本件発明1?19についての特許は、いずれも特許法第123条第1項に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書12頁9?21行目)

(4)無効理由4[特許法第36条第4項第2号違反(クレームの構成要件的機能に関する記載要件違反)]
本件明細書には、「転移」についての技術的課題を解決する方法、つまり転移を起こすための必要不可欠な技術的事項が記載されておらず、本件発明の構成を全て備える本件明細書の実施例では、本件発明の目的及び効果である腫瘍の転移が起こらなかった蓋然性が高いと考えられる。このため、本件発明の非ヒトモデル動物が転移の能力を有することを前提とした本件明細書の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を全て記載したものではないと認められるので、特許法第36条第4項第2号に規定する要件を満たしていない。従って、本件発明1?19についての特許は、いずれも特許法第123条第1項に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書12頁22行目?13頁7行目)

(5)無効理由5[特許法第29条第1項第3号違反(新規性)又は特許法第29条第2項違反(進歩性)]
本件発明1?19は、いずれも、以下の、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、又は特許法第29条第2項の規定に違反する発明であることの無効理由を有するので、特許法第123条第1項に該当し、無効とすべきものである。(審判請求書13頁8?13行目)

(5-1)無効理由5-1
本件発明1?3,10?13は、甲1に記載された発明、又は少なくともこれから当業者が容易に想到し得た発明であり、本件発明4?9,14?19は甲1に記載の発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。(審判請求書13頁最終行?14頁3行目)

(5-2)無効理由5-2
本件発明1?3,6,11?13,16は、甲2に記載された発明、又は少なくともこれから当業者が容易に想到し得た発明であり、本件発明4?5,7?10,14?15,17?19は、甲2に記載の発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。(審判請求書14頁5?8行目)

(5-3)無効理由5-3
本件発明1?19は、甲3に記載の発明及び甲1・甲2に記載の各技術(並びに技術常識)に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。(審判請求書14頁11?13行目)

(5-4)無効理由5-4
本件発明1?19は、甲4に記載の発明及び甲1・甲2に記載の各技術(並びに技術常識)に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。(審判請求書14頁15?17行目)

仮に、請求項1の「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」が、皮下継代を経たものを含むとして解釈した場合、次の無効理由(5-5)及び(5-6)が加わる。(審判請求書14頁下から3行目?15頁2行目)

(5-5)無効理由5-5
本件発明1?3,11?13は、甲3に記載された発明、又は少なくともこれから当業者が容易に想到し得た発明であり、本件発明4?10,14?19は甲3に記載の発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。(審判請求書15頁5?9行目)

(5-6)無効理由5-6
本件発明1?3,11?13は、甲4に記載された発明、又は少なくともこれから当業者が容易に想到し得た発明であり、本件発明4?10,14?19は甲4に記載の発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得た発明である。(審判請求書15頁10?14行目)

(5-7)無効理由5-7
上記無効理由5-1及び無効理由5-2と同じ無効理由が存在する。(審判請求書15頁15行目?16頁2行目)

2 証拠方法 (甲1?甲18)
甲1 :Journal of the National Cancer Institute, vol.55, no.6,
1975年12月, pp.1461-1466、及びその抄訳
甲2 :日本癌学会総会記事第35回総会,昭和51年10月, 171頁演題624
甲3 :医学のあゆみ,104巻,1978年1月7日,31?33頁
甲4 :肝臓,21巻,3号,1980年3月25日,303?315頁
甲5 :新英和中辞典,研究社, 4版, 1977年,66頁
甲6 :東京地方裁判所平成11年(ワ)第15238号事件
(平成13年12月20日判決)
甲7 :東京高等裁判所平成14年(ネ)第675号事件
(平成14年10月10日判決)
甲8 :東京地方裁判所平成21年(ワ)第31535号事件
(平成24年4月27日判決)
甲9 :e-Gov(http://www.e-gov.go.jp/)から入手した法令の抜粋
甲10:参議院法制局のウェブサイト,法制執務コラム集
「経過規定と旧法令の効力-「なお従前の例による」と
「なおその効力を有する」-」
http://houseikyoku.sangiin.go.jp/coluinn/coluran051.htm
のプリントアウト
甲11:CANCER RESEARCH,vol.38, 1978, pp.2651?2652、及びその抄訳
甲12:医学のあゆみ,96巻,5号,1976年1月31日,288,289及び291頁
甲13:肝臓,21巻,3号,1980年3月25日,303?304頁
甲14:入癌とヌードマウス,1982年4月20日,319頁
甲15:LONGMAN Advanced AMARICAN DICTIONARY,2000,
xviii?xix頁及び54?55頁
甲16:日本実用英語学会論叢, No.15, 2009年9月,29?38頁
甲17:ネイティブ英語運用辞典,1996年,638?639頁
甲18:知的財産高等裁判所平成24年(ネ)第10054号事件の
平成24年7月26日付け控訴理由書(第1部:特許侵害論),
1頁及び47?48頁

第5 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書及び調書を含む)及び上申書において、本件審判請求は成り立たない、審判費用は、請求人の負担とするとの審決を求め、下記「2 証拠方法」に示した証拠方法を提出するとともに、請求人の主張する無効理由は理由がなく、本件発明に係る特許は、特許法第123条第1項の規定により無効にされるものではない、と反論している。

2 証拠方法(乙1?乙73の2)
乙1 :ステッドマン医学大辞典, メジカルレビュー社,3版5刷,
平成7年3月10日,630?631頁
乙2 :実験医学別冊 BioScience用語ライブラリー 免疫,
株式会社羊土社,1刷,1995年11月1日,14?17頁
乙3 :実験医学別冊 BioScience用語ライブラリー 免疫,
株式会社羊土社,1刷,1995年11月1日,18?19頁
乙4 :リーダーズ英和辞典,株式会社研究社,28刷,1997年,
866?867頁
乙5 :サイエンス編集部編,別冊 サイエンス がん,
株式会社日経サイエンス,1981年11月20日,98?110頁
乙6 :済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,8?11頁
乙7 :ステッドマン医学大辞典,メジカルレビュー社,3版5刷,
平成7年3月10日,738?739頁
乙8 :ステッドマン医学大辞典,メジカルレビュー社,3版5刷,
平成7年3月10日,752?753頁
乙9 :済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,24?28頁
乙10:Cancer Res., vol.48, 1988年12月1日, pp.6863?6871、
及びその抄訳
乙11:現代生物学入門3 構造機能生物学,株式会社岩波書店,1刷,
2011年1月27日,112?119頁
乙12:実験医学別冊 BioScience用語ライブラリー 免疫,
株式会社羊土社,1995年11月1日,62?63頁
乙13:高井 義美・秋山 徹編集,
がん研究のいま 2 がん細胞の生物学,
財団法人東京大学出版会,初版,2006年2月21日,5頁
乙14:サイエンス編集部 編,別冊 サイエンス がん,
株式会社日経サイエンス,1981年11月20日,85?97頁
乙15:日消外会誌, 22巻11号,1989年,pp.2563?2568
乙16:病気の地図帳,株式会社講談社,13刷,1998年1月9日,60頁
乙17:済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,57?59頁
乙18:済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,42?45頁
乙19:済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,3?7頁
乙20:済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,12?17頁
乙21:済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,29?33頁
乙22:笠井 憲雪,吉川 泰弘,安居院 高志 編,現代実験動物学,
株式会社朝倉書店, 初版4刷,2011年2月20日,111頁
乙23:済木育夫及び愛甲 孝編集,がん転移研究の実験手法,
株式会社金芳堂,1版1刷,2008年8月1日,18?23頁
乙24:現代化学,1980年11月号,62頁
乙25:審査基準 第IV部,1?12頁
乙26の1:Cancer Res., vol.41, 1981年10月, pp.3995-4000
乙26の2:被請求人代理人よる乙26の1の抄訳
乙27の1:Cancer Res, vol.48, 1988年4月1日, pp.1946-1948
乙27の2:被請求人代理人よる乙27の1の抄訳
乙28の1:Cancer and Metastasis Reviews, vol.5, 1986, pp.29-49
乙28の2:被請求人代理人よる乙28の1の抄訳
乙29の1:Update Series Comprehensive Textbook of Oncology,
volume number 3, issue number 1, 1996, p.1-10
乙29の2:被請求人代理人よる乙29の1の抄訳
乙30の1:Cancer Res, vol.48, 1988年12月1日, pp.6863-6871
乙30の2:被請求人代理人よる乙30の1の抄訳
乙31の1:Cancer Res, vol.46, 1986年8月, pp.4109-4115
乙31の2:被請求人代理人よる乙31の1の抄訳
乙32の1:Br. J. Cancer, vol.37, 1978, pp.199-212
乙32の2:被請求人代理人よる乙32の1の抄訳
乙33の1:Cancer Res, vol.40, 1980年12月, pp.4682-4687
乙33の2:被請求人代理人よる乙33の1の抄訳
乙34の1:Eur. J. Cancer. Clin. Oncol., Vol.21, No.10, 1985,
pp.1253-1260
乙34の2:被請求人代理人よる乙34の1の抄訳
乙35の1:Sheldon Penman作成の宣誓書, 2001年8月24日
乙35の2:被請求人代理人よる乙35の1の全訳
乙36:加藤勝治編集,縮刷 医学英和大辞典,株式会社南山堂,
10版10刷,1980年9月20日,p.120「appearance」の項
乙37:小川伸,英和 プラスチック工業辞典,株式会社工業調査会,
5版2刷,1992年5月25日, p.47「appearance」の項
乙38:THE NEW SHORTER OXFORD ENGLISH DICTIONARY
ON HISTORICAL PRINCIPLES, VOLUME1 A-M,
Clarendon Press-Oxford, 1993, p97-98 「appear」の項
乙39の1:江川泰一郎,英文法解説-改訂新版-,株式会社金子書房,
改訂新版55刷,昭和55年2月25日,p.146?147
乙39の2:江川泰一郎,英文法解説-改訂新版-,株式会社金子書房,
改訂新版55刷,昭和55年2月25日,p.150?151
乙40:被請求人代理人作成の本件特許明細書のセンテンスの構文を
説明する図,2013年
乙41:伊東忠彦監修,
ESSENTIALS OF DRAFTING U.S. PATEN SPECIFICATIONS AND CLAIMS
米国特許明細書の書き方,社団法人発明協会,2版2刷,
2005年7月14日, pp.17?28
乙42:審査基準 第I部第1章 3.2,14?15頁
乙43:吉藤幸朔著,熊谷健一補訂,特許法概説[第13版],
株式会社有斐閣,13版1刷,1998年12月10日,110?111頁
乙44:被請求人代理人によるインターネット検索の結果,
出力日2013年2月15日
乙45:被請求人代理人によるインターネット検索の結果,
出力日2013年2月15日
乙46:宮城信行ら,日本消化器病学会雑誌,79巻10号,
昭和57年10月,1911?1917頁
乙47:市川平三郎ら,別冊サイエンス がん,
株式会社日経サイエンス,1981年11月20日,138?151頁
乙48:吉藤幸朔著,熊谷健一補訂,特許法概説[第13版],
株式会社有斐閣,13版1刷,1998年12月10日,62?63頁
乙49:吉藤幸朔著,熊谷健一補訂,特許法概説[第13版],
株式会社有斐閣,13版1刷,1998年12月10日,84?86頁
乙50:被請求人代理人作成のガン細胞用移植針とマウスの実寸大の図,
2013年3月
乙51:中釜 斉ら編集,無敵のバイオテクニカルシリーズ
マウス・ラット実験ノート,株式会社羊土社,3刷,
2011年7月25日,104?106, 158頁
乙52:インターネット検索による夏目製作所作成の
「注入・注射器」の頁,出力日2013年4月17日
乙53:下里幸雄ら編集,人癌とヌードマウス,医歯薬出版株式会社,
1版1刷,昭和57年4月20日,iii-x, 1?353頁
乙54の1:Int.J.Cancer, vol.49, 1991, pp.938-939
乙54の2:被請求人代理人よる乙54の1の訳文
乙55:上村賢治ら著,生物統計学入門,株式会社オーム社,1版1刷,
平成20年8月25日,216?217頁
乙56:上村賢治ら著,生物統計学入門,株式会社オーム社,1版1刷,
平成20年8月25日,2?5頁
乙57の1:Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.88,1991年10月, pp.9345-9349
乙57の2:被請求人代理人による乙57の1の訳文
乙58:吉藤幸朔著,熊谷健一補訂,特許法概説[第13版],
株式会社有斐閣,13版1刷,1998年12月10日,52?57頁
乙59:高義美ら編集,がんの研究のいま2 がん細胞の生物学,
財団法人東京大学出版会,初版,2006年2月21日,94?95頁
乙60:江角浩安ら編集,実験医学,Vol.27, No.2(増刊),
株式会社羊土社,2刷,2010年2月15日,198(326)頁
乙61の1:Cancer Research, Vol.19, 1959年6月, pp.515-520
(なお,頁の付されていない図面が添付されている。)
乙61の2:被請求人代理人よる乙61の1の抄訳
乙62の1:医学のあゆみ,vol.201, No.10, 2002年6月8日, pp.790-798
乙62の2:医学のあゆみ,vol.201, No.11, 2002年6月15日, pp.863-867
乙63の1:医学のあゆみウェブページの写し,
http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/corrigenda.aspx ,
2003年10月?2013年1月版までの正誤表,
出力日2013年5月10日
乙63の2:「放射線化学」論文投稿の手引き,発行日不明
乙63の3:Journal of Nuclear and Radiochemical Science投稿ガイド
http://www.radiochem.org/publ/guidepj.html ,
出力日2013年5月10日
乙63の4:Japanese Journal of Applied Physucs vol.49 (2010)
の誤記訂正頁069201-1,019201-1,089202-1頁
乙64:医学のあゆみ,136巻,6号,昭和61年2月8日,393-399頁
乙65:平成24年(ネ)10054号の控訴人第二準備書面,
平成25年4月30日
乙66:平成24年(ネ)10054号の控訴人第四準備書面,
平成25年5月2 日
乙67:Sambrook,Joseph Fritsch, T. Maniatis,
Molecular Cloning A LABORATORY MANUAL SECOND EDITION,
Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, p.16.45?16.46
乙68の1:Int.J.Cancer, Vol.51, 1992, pp.989-991
乙68の2:被請求人代理人よる乙68の1の抄訳
乙69の1:Int.J.Cancer, Vol.51, 1992, pp.992-995
乙69の2:被請求人代理人よる乙69の1の抄訳
乙70の1:Int.J.Cancer, Vol.52, 1992, pp.987-990
乙70の2:被請求人代理人よる乙70の1の抄訳
乙71の1:ANTICANCER RESEARCH, Vol.13, 1993, pp.901-904
乙71の2:被請求人代理人よる乙71の1の抄訳
乙72の1:ANTICANCER RESEARCH, Vol.13, 1993, pp.1999-2002
乙72の2:被請求人代理人よる乙72の1の抄訳
乙73の1:Cancer Research, Vol.53, 1993年3月, pp.1204-1208
乙73の2:被請求人代理人よる乙73の1の訳文

第6 当審の判断
1 本件発明
「第3 本件発明」で認定したとおりである。

2 無効理由5-1[特許法第29条第2項違反(進歩性)]について
(1)知的財産高等裁判所における判示
知的財産高等裁判所は、平成27年2月19日言渡の判決(平成25年(行ケ)第10311号)において、「第4 1(5-1)無効理由5-1」につき、以下のとおり判示した。

「1 本件発明について
本件明細書の記載によれば,本件発明は,次のとおりのものと理解される。
外来移植細胞を拒絶する能力を失った胸腺のないマウス(ヌードマウス,無胸腺マウス,無胸腺ヌードマウス)にヒト腫瘍を皮下移植したモデル動物は,従来の齧歯動物のモデル動物よりも良好であったが,ヒト腫瘍組織が実際にマウス中に腫瘍を形成した生着率又は頻度が,個々の供与体及び腫瘍の型により変動したほか,大部分が移植の部位で増殖し,もとの腫瘍が供与体中で非常に転移性であってもまれにしか転移しなかったという実質的な欠点,すなわち,皮下移植されたヒト腫瘍組織が転移能力を欠くという欠点があった(3頁6?15行目)。そのため,ヒト中に生ずるような腫瘍疾患の進行に全くよく似た能力,すなわち,増殖に加えて転移をするヒト腫瘍組織を有するヒト腫瘍疾患に対するモデル動物の作製という課題があった(3頁18?20行目)。そこで,本件発明は,上記課題を解決するために,脳以外のヒト器官から得られたヒト腫瘍組織を,細胞ごとに分離せず,塊のまま腫瘍組織が本来もつ「三次元的構造」を維持し,免疫欠損動物の相当する器官へ移植(同所移植,正位移植)するという構成を採用することによって(4頁3?20行目),ヒト中に生ずるような腫瘍疾患の進行に全くよく似た能力,すなわち,増殖に加えて転移するヒト腫瘍組織を有する転移に対する非ヒトモデル動物を作製した(3頁22行?4頁1行目)。

2 取消事由5(甲1発明に基づく進歩性又は新規性欠如)について
事案にかんがみ,まず,取消事由5について検討する。
(1) 取消事由5-1(無効理由5-1に対する判断の誤り?本件発明の認定の誤り)について
原告は,本件発明における「転移」とは,発明の効果であって,発明の構成ではない旨を主張する。
しかしながら,本件発明の属する技術分野において,モデル動物とは,ヒトの疾患を動物で再現するためのものであり,薬物の作用効果を確認するため等の実験に用いられるものであるところ,本件発明は,上記1に認定のとおりであるから,本件発明1及び本件発明11の「ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物」とは,「ヒト腫瘍疾患の転移」を再現できるものに「非ヒトモデル動物」を特定するものである。そして,本件発明1の「移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損」及び本件発明11の「移植されたヒト腫瘍組織を前記動物中で増殖及び転移させるに足りる免疫欠損」とは,免疫欠損の程度が「移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る」ものであることを特定するものである。
したがって,本件発明にある「転移」は,いずれも本件発明を特定するために必要な事項であるから,本件発明の構成といえる。
以上のとおり,原告の主張は,採用することができない。
よって,取消事由5-1は,理由がない

(2) 取消事由5-2(無効理由5-1に対する判断の誤り?一致点・相違点の認定の誤り)について
原告は,仮に,「転移」が本件発明の構成であったとしても,本件発明における「転移」とは,「生着」又は「浸潤」と同程度の技術的意義しかないものである旨を主張する。
しかしながら,「転移(metastasis)」とは,原発腫瘍から離脱した悪性細胞が,血管,リンパ管等を介して,そこから離れた場所へ移動して全身に広がって,コロニーを多発的に形成することをいい(甲23,39,41,44),一般的な技術用語であって,その用語の意義が相紛れることはない。「生着」とは,腫瘍組織が移植先に生きて定着することを,「浸潤」とは,腫瘍組織が隣接組織を破壊しながら成長し,その境界が不明なことをいう。本件明細書の発明の詳細な説明においては,「これらのモデル動物において,生着した腫瘍はしばしば,大部分移植の部位で増殖し,もとの腫瘍が供与体中で非常に転移性であってもまれにしか転移しなかった。」(3頁13?15行目),「この実施例の5匹のマウスはその後なお6か月生存している。組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、移植腫瘍を観察した。各事例において腫瘍が生着したと認められた。これは移植腫瘍組織が隣接組織に侵潤ママしたことを意味する。」(7頁18?21行目),「この移植外科を行なった5匹のマウス中の4匹は3?4か月生存し、良好な健康であると思われる。組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、腫瘍が生着したことが観察された。腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったと思われなかった。」(8頁21?24行目)との記載があり,「生着」と「浸潤」をほぼ同義に用いているものの,少なくとも,「転移」と,「生着」又は「浸潤」とは明確に使い分けをしているものであって,「生着」又は「浸潤」を,「転移」と表現しているわけでないことは明らかである。
そうすると,本件発明において,「転移」と,「生着」又は「浸潤」とが同程度の技術的意味で用いられているということはできない。なお,この点は,明細書の記載の問題であり,実施例IIIにおいて実際に転移が確認されているか否かとは別の事柄である。
そして,甲1発明は,「20?25日齢の無菌雌ヌードマウスの#4鼠径部乳腺脂肪体は,乳首原基痕跡,及び脂肪体の鼠径部リンパ節までの隣接部分の外科的切除によって宿主上皮を除去され,浸潤性腺管癌と診断されたヒト乳腺組織を前記除去箇所に移植し,そして,移植から2ヵ月後の脂肪体の切片は,腫瘍が活発に活動し,脂肪体へ浸潤を始めているヌードマウス。」と認定されているものであるから,本件発明1?19と甲1発明とを対比すると,少なくとも,甲1発明が,「転移モデルに対する非ヒトモデル動物」とはいえない点で相違する。
したがって,一致点・相違点の認定及びこの相違点を前提に本件発明1?19は甲1発明ではないとした審決の認定・判断には,誤りはない。
以上のとおり,原告の主張は,採用することができない。
よって,取消事由5-2は,理由がない。

(3) 取消事由5-3(無効理由5-1に対する判断の誤り?相違点の判断の誤り)について
ア 公知文献の記載
(ア) 甲1
甲1には,次の記載がある(訳文は乙13による。明らかな誤記は補正した。)。
「速報: ヌードマウスの隔清された乳腺脂肪体中におけるヒト正常乳房組織及び腫瘍乳房組織の生長
H.C.オウゼン及びR.P.カスター」
「要約
異形成及び腫瘍性のヒト乳房組織は,ヌードマウスの隔清された乳腺脂肪体(CFP)中でうまく生長した。マウスを無菌アイソレーター中に入れ,乳腺脂肪体を隔清した。準備したマウスを無菌環境から取り出し,それらのCFP中にヒト乳房組織を移植し,その後,滅菌層流ラック中で維持した。
人における悪性腫瘍の進行の実験的な調査は,倫理的及び道徳的に制限されている。こうした研究を広く行うための手段は,ヌードマウスによって提供されるかもしれない。ヌードマウスは,遺伝的な胸腺形成異常により,すべての細胞性免疫の応答性を欠損している;ヌードマウスは,潜在的にヒトの腫瘍が生長するかもしれない『試験管』として価値がある。従来の問題点は,ヌードマウスの生存期間の短さであった。しかしながら,無菌条件下で飼育することによって,かれらは実質的に正常な生存期間を有し,彼らの使用についてのこの大きな欠点は除かれた。
我々は,ヌードマウスの隔清された乳腺脂肪体(CFP)がヒト乳房組織の生長(正常であれ,腫瘍であれ)について受容可能か否かの決着をつけたかった。もしそうであるならば,上記部位はヒトの乳房試料の生長にとって理想的なはずであり,そして,このモデルは,上皮内小葉がん,線維嚢胞性疾患及び初期のステージIのがん等のヒトの乳房の病変組織の生長の調査に有用なはずである。」
「材料と方法
マウス? 雌のヌードマウスを,ヒトの組織を移植するまで,無菌環境下で飼育して維持した。これらのマウスは,我々の無菌コロニー中の兄弟x姉妹交配によって得た。
レシピエント(被受容動物)が6?8週齢になったとき(それらの#4乳腺脂肪体の隔清後3?4週のとき)に,無菌環境から出してヒトの乳房組織片を各々のCFP中に移植した。すべての移植は,垂直な,滅菌空気の流れのあるフード(Biogard hood;The Baker Co.,Inc.,Sanford,Me.)中で,滅菌条件下に行った。移植片を移植後,上記マウスを,滅菌ラミナーフローラック中(Carworth Farms,New City,N.Y.)で,屠殺又は病気になるまで飼育した。CFP中のヒト組織を他のヌードマウスのCFP中に移植するか,又はヒトの組織を含む脂肪体全部を摘出し,全組織標本作成及び/又は組織学的切片作成用に調製した。
受容体の乳腺のない乳腺脂肪体の調製? 無菌アイソレーター内で,Slemmerによって記載された方法をすべて行った。20?25日齢の無菌ヌードマウス(雌)の上記#4鼠蹊部乳腺脂肪体を,乳首原基及び鼠蹊部リンパ節の部位に隣接する部位を外科的に切除することによって,宿主の上記を取り除いた。この方式で取り除いた場合,乳腺脂肪体は上記宿主からの乳房の上皮性増殖は全く起こらないことが示された。十分に除去されなかった脂肪体では,残存する乳腺が,上記脂肪体が除去された近位に由来する切除縁から生じ,独特な枝分かれパターンを取りつつ鼠蹊部リンパ節を越えることが認められた。

移植? 一般的に,Slemmer の方法を,できる限り滅菌環境中でマウスを維持するように必要な修正を行い,Slemmerによって記載された方法に従った。準備された無菌マウスをアイソレーターから取り出し,垂直ラミナー滅菌フローフード中に置き,ペントバルビタール(0.01mL/kg体重;9%エタノール中,6.7mgのペントバルビタールナトリウム溶液)で麻酔し,滅菌手術板上にピンで固定した。無菌法により,上記#4CFPを,正中切開によって引き出した。よく研いだウォッチメーカーピンセット(watchmaker's forceps)を用いてCFP中にくぼみを形成し,ここに移植片を導入した。この移植片の大きさは,1×2× 2mmから1×2×10mmの範囲であった。腹部の切開部を7.5mmの創傷クリップで閉じた。宿主由来の乳腺の生長が見られたすべてのCFPを除外し,こうして,残っているCFP中の上皮性増殖は,明らかに移植されたヒト乳房組織から生じていた。」
「結果
ヌードマウスの肉眼的形態学及び組織学
・・・
ヌードマウスのCFP中におけるヒト乳房組織の生長
悪性ではないが異常な増殖をしている3つの乳房組織試料及び1つの乳がんの試料を,ヒトの生検試料から得た。
・・・
4) 第4の移植片は,浸潤性乳管癌(infiltrating ductal carcinoma)と診断されたヒトの乳房組織の生検検体から得られた(図9)。移植2か月後の組織切片より,生きのよい,上記脂肪体中に浸潤し始めた(infiltrating)腫瘍が示された。偶発的な有糸分裂像が見られた。マウスCFPの基本的な外観は,元のヒト生検検体と本質的に同じであった。かくして,ヒトの腫瘍及びヌードマウスのCFP中への移植片はいずれも類似の組織学パターン,例えば,異常な上皮の複数の層で裏打ちされた管,浸潤している(infiltrating)腫瘍細胞の筋,及び豊富な線維性の間質を示した。このヒト乳がんは,我々のヌードマウスのCFP中で,5つの移植世代の間生長した。順次の移植では,1つの脂肪体からのヒトの組織を2分割し,2つの別のCFP中に移植した。この結果,ヒトの組織の量は,もとの組織の量の32倍に増加した。」
「考察
ヌードマウスのCFP中におけるヒトの過形成性乳房組織及び腫瘍性乳房組織の生長についてのこれらの予備的な観察は,in vivo又はin vitroで非常に悪性度が高くても,免疫学的に損傷された異種の宿主中でヒトの乳房組織が生長することは非常に難しいという従来の結果と矛盾する。ヌードマウスの皮下に移植されたヒト乳房組織の生長は,また,限定的にしか生長しなかった。このため,3つの良性のヒト乳房過形成(例えば,乳腺線維嚢胞症)及び1つのヒト乳がんがヌードマウスのCFP中で生長したという単純な証明は,元の宿主を越える,ヒトの乳房の維持において,重要なステップかもしれない。
ヒトの乳房組織がヌードマウス中で広がり,生長し続けることのこれまでの失敗は,おそらく,組織を皮下へ移植したことによるものであろう。皮下の移植部位は,少なくとも同種のマウスモデルにおいては,ほとんどの乳房組織の生長に対して受容的ではない。
・・・
これらの予備的観察から,ヌードマウスCFPにおける将来の研究にとって,ヒトの乳房組織の生長及び挙動特性を,正常組織及び病変組織の双方に関係するデータを与えるという可能性を提供する。」

(イ) 甲3
甲3には,次の記載がある。
「ヒト肝癌のヌードマウス肝への移植」(31頁 標題)
「ヒト癌を担った動物は,その腫瘍の生物学的特性や種種の治療効果を研究するうえに理想的なモデルであるが,移植されたヒト癌が宿主動物で本来の性格が変わらないことが必要条件であり,原発臓器に発育することが望ましい。」(31頁左欄1?5行目)
「以来,種々なヒト癌のヌードマウスへの移植が試みられており,筆者らの1人は膵癌の移植に成功した。しかし,これらはすべて皮下組織へ移植されている。
われわれは1976年以来主として肝癌のヌードマウスへの移植を試みてきたが,最近はじめてヌードマウス肝へのヒト肝癌移植に成功したので報告する。」(31頁左欄9?15行目)
「実験方法
1976年10月より翌年7月まで当科で手術を行った肝癌8例中,切除を行った3例および試験切除のみに終わった4例の肝癌組織片を移植した。使用したマウスは雄あるいは雌のヌードマウスで,BALB/Cを遺伝的背景としており,実験動物中央研究所より供給されたものである。…
移植方法は,切除あるいはneedleで採取した肝癌組織を生理食塩水内で2mm角の組織片とし,これを両側の腹部ないし背部の皮下に,右側のものは肝外側区に近く移植針により移植した。」(31頁左欄16?28行目)
「実験成績
現在までに移植した肝癌組織は6症例からえられた7コで,肝芽腫1例,肝細胞癌5例である。このうち生着し継代移植可能となったものは3例あり,45歳男性の硬変合併肝癌で化学療法の前後に採取したもの(Hc-3,4),70歳男性の分化型肝癌(Hc-5)及び3歳男児の肝芽腫(Hb-1)で,それぞれ6代,2代および4代目累代中である。」(31頁左欄31行?同頁右欄3行目)
「AFP値は患者血清ではHc-4で8.2μg/mlであったが,移植ラットではSRIA法で陽性のものと陰性のものがあり,陽性例ではHb-4で2代目,3代目にのみ検出され,それぞれ10.1μg/ml ,9μg/mlであった。」(31頁右欄11?14行目)
「特筆すべきことは継代2代目のラット(「マウス」の誤記と認められる。)で,右側腹部深部に移植した腫瘍片が肝に移植されたことで,約1.5cmの腫瘤を形成した。腫瘤は塊状型で,左外側葉を残すのみで全葉にわたっていた。腹水,肝門部リンパ節転移は認めなかったが,右肺下葉に直径約2mmの球状の転移を認めた。
組織学的所見では肝内発育のものは皮下組織のものと異なり,腫瘍周囲の線維性被膜は薄く,出血性のところもあり多数のミトーゼがみられた。
肺転移巣の被膜は繊維細胞が一層にみられるにすぎず,周囲肺組織にはほとんど反応性変化はない。中心部は壊死に陥っていた。」(31頁右欄18行?32頁右欄7行目)」
「従来移植部位は背部,下肢などの皮下が用いられているが,これは腫瘍の周囲組織の反応様式が原発臓器とは異なってくることも考えられる。すなわち,通常皮下に発育したヒト肝細胞癌は球状を呈し,比較的厚い線維性の被膜により覆われているが,われわれの肝移植例では線維性被膜形成はほとんどなく,ところによっては出血性のみられるもので,皮下に発育したものとはやや様相を異にしており,しかも肺転移を伴っていた。
ヒト癌のヌードマウス移植では転移を認めなかったという報告がほとんどで,わずかにAの転移報告をみるのみで,継代2代目の肝細胞癌例で局所リンパ節に顕微鏡的な転移巣が発見されているが,肺転移例の報告はない。」(32頁右欄26行?33頁左欄10行目)
「ヌードマウスに移植されたヒト癌に転移がほとんどないのは免疫欠如動物であるためか,移植腫瘍の生物学的性格が変わったのか,あるいはSPF環境下でなかったため長期生存例が少なく,転移する以前に死亡したことなどが考えられるが,移植部位が皮下組織であることも1つの大きな要因となりうる。すなわち,原発臓器に移植されれば同じような転移を示す可能性もあり,われわれの肝移植肝細胞癌が肺転移を惹起したことはこれを明確に証明したものと考えたい。」(33頁左欄11?19行目)
「まとめ
ヒト肝癌のヌードマウス肝の移植に成功したので報告した。皮下移植のものと発育様式はやや異なり,腫瘍線維性被膜はなく,肺転移をきたしていた。」(33頁右欄1?4行目)

(ウ) 甲4
甲4には,次の記載がある。
「ヒト癌の生物学的特性の研究や種々の制がんの研究には細胞培養あるいは動物移植による方法が用いられるが,腫瘍の種類によってはこれらは必ずしも可能ではない。…とくにヒトがんを担った動物は,その腫瘍の生物学的特性や種々の治療効果を研究するうえに理想的なモデルであるが,移植されたヒトがんが宿主動物により本来の性格が変わらないことが必要条件である。」(303頁左欄2?11行目)
「一方,ヒト肝癌の研究はその細胞培養株の確立が困難であることより,臨床的研究と動物発生の肝癌により行われてきた。」(303頁左欄20行?同頁右欄2行目)
「このような観点より,著者はヒト肝癌をヌードマウスへ移植し,その継代を試みたところ,今回1継代移植系統を確立しえた。そこで,ヌードマウス移植ヒト肝癌の生物学的性格およびヒト肝癌研究の対象としての適否などについて,継代移植したが系統化できなかった他の14例とともに検討を加えた知見について報告する。」(303頁右欄3?8行目)
「1.実験動物
実験動物中央研究所においてSpecific Pathogen Free下で飼育されたBALB/c系ヌードマウス(nu/nu)の雄および雌で,生後5?7週のものを用いた。」(303頁右欄10?13行目)
「2.実験方法
北大第1外科に昭和51年11月より53年5月迄入院し,開腹手術を行った肝癌患者は16例であるが,このうち術中または切除標本よりヌードマウスに移植可能な肝腫瘍組織片を採取しえたのは14例15個あった。これらの組織片をヌードマウスへ初代移植し,生着したものはさらに継代移植した。
・・・
なお,移植系統は肝細胞癌をHc,肝芽腫をHbと記載し,移植した順にそれぞれ番号を付した。」(303頁右欄19行?304頁9行目)
「(a) 初代移植
腫瘍の部分切除あるいは肝切除標本より無菌的に肝腫瘍組織を採取し,これを生理食塩水内で剪刃とピンセットを用いて壊死部と血液成分を除去後2mm角以下に細切する。ついで,その組織片の1ないし数個を移植針を用いて,ヌードマウスの側腹部あるいは背部の皮下に移植した。」(304頁左欄11?17行目)
「(b) 継代移植
初代あるいは継代移植した腫瘍が一定の大きさに達した時期に,そのヌードマウスをエーテル麻酔下に心臓穿刺し,採血後無菌的に腫瘍を摘出した。この腫瘍はただちに生理的食塩水内に入れ,約2mm角に細切し,その1ないし数個を移植針を用いて,他の新しいヌードマウスの側腹部あるいは背部の皮下に移植した。…
これらの継代移植は腫瘍の出血,中心壊死,潰瘍形成などが少ない,直径が約1cmを越えた時点で行った。」(304頁左欄23?33行目)
「(c) ヌードマウス肝への移植
ヌードマウスをエーテル麻酔下に開腹し,前述の方法で作製した1?2mm角の組織片を外径2.5ないし1.5mmの移植針を用いて,肝中葉に移植した。また,ヌードマウス右側腹部肋骨弓下に移植針を挿入し,肝右葉外側区に腫瘍組織片を接触するようにして行ったものもある。」(304頁左欄34?39行目)
「右側腹部肋骨弓下に移植針を挿入して肝に移植を行ったのは10匹あるが,Hc-3の2代目とHc-5の3代目の2匹に成功したにすぎなかった。開腹下の肝への移植はHc-4の6代目の2匹に行った。いずれも生着したが,1匹は移植18日後,他の1匹は38日後にwasting diseaseとなり屠殺した。4匹とも屠殺後肝腫瘍の存在が確認された。また右肋骨弓下に移植したHc-3の2代目に,肺転移がみとめられた。」(306頁左欄16?23行目)
「初代移植成立した6例はいずれも継代し,全例2代目移植にも成功し,さらに継代移植を続けた」(306頁右欄1?2行目)
「また,肝に直接移植したもののAFP値がその他のものに比し10倍以上の高値を示したのは興味深く,腫瘍発生母地とAFP値については今後検討すべき課題であろう。肝癌を皮下と肝に移植するのでは,移植腫瘍の生着率や生物学的特性のうえでも何らかの相違があることが推測される。」(312頁左欄26?31行目)
「14症例より採取した15個の腫瘍組織をヌードマウスに継代移植した結果,つぎの結論がえられた。1)初代移植成功は肝細胞癌13例中5例,肝芽腫2例中1例であった。…4)生着した6例全例よりAFPが検出された。5)移植された肝細胞癌は胞巣形成が著明でないほかは原腫瘍に類似した像を示した。6)転移は肝に浸潤性腫瘍を形成した1匹のみにみられ,肺転移であった。7)核型分析,血清吸収試験,抗ヒトAFP血清による沈降反応などによりヒト由来のものであることが同定された。」(312頁右欄4?18行目)
「3)肉眼的所見
継代移植のため腫瘍を摘除した後及び他の原因で死亡したものは剖検し,腫瘍の性状と遠隔転移の有無などを肉眼的に観察した。」(304頁右欄13?16行目)
305頁Table1には,ヌードマウスに移植される肝癌の由来について,Hc-3が45歳男性の化学療法前のものであって,穿刺生検によって得られたものであることが記載されている。

イ 容易想到性
1(審決注:○内に1) ヌードマウスの皮下に移植されたヒト腫瘍は,浸潤や転移はほとんど見られないものであった(甲50〔1986〕)。このように,ヌードマウスの皮下で生長する腫瘍と原発臓器で生長する腫瘍との違いについては,[1]「従来移植部位は背部,下肢などの皮下が用いられているが,これは腫瘍の周囲組織の反応様式が原発臓器とは異なってくることも考えられる。すなわち,通常皮下に発育したヒト肝細胞癌は球状を呈し,比較的厚い線維性の被膜により覆われているが,われわれの肝移植例では線維性被膜形成はほとんどなく,ところによっては出血性のみられるもので,皮下に発育したものとはやや様相を異にしており,しかも肺転移を伴っていた。…すなわち,原発臓器に移植されれば同じような転移を示す可能性もあり,われわれの肝移植肝細胞癌が肺転移を惹起したことはこれを明確に証明したものと考えたい。」と記載されていること(甲3〔1978〕,32頁右欄26行?33頁左欄19行目),「皮下においては境界明瞭な腫瘍を形成し,浸潤性の増殖を示さないが,一旦筋肉へ侵入すると浸潤性の増殖を示すようになる。」と記載されていること(乙28〔1982〕,2頁2?4行目)などにかんがみると,本件特許の優先権主張日当時,ヌードマウスの皮下で生長したヒト腫瘍は,観察した際に線維性の被膜により覆われ境界明瞭な腫瘍を形成しているため,まれにしか浸潤や転移は生じないと認識されていたものと認められる。
2(審決注:○内に2) 上記ア(ア)の記載(特に「考察」の項)によれば,甲1は,ヒト悪性腫瘍の進行あるいは挙動特性を調査するための手段として同所移植を用いたものであり,審決が甲1発明として認定するとおり,切除された第4乳腺脂肪体に移植したヒト浸潤性乳管癌は,移植から2ヵ月後には,活発に活動し脂肪体へ浸潤を始めている。
3(審決注:○内に3) また,本件特許の優先権主張日当時,悪性腫瘍は,生体内において,[1]腫瘍の増殖,[2]隣接組織への浸潤,[3]血管やリンパ管を通じた他の組織への転移のように進行すると考えられており(甲23,41,43),一般には,腫瘍が浸潤していることを観察した状態では,浸潤の広がりが大きければある程度の確率(頻度)で転移が生じている,あるいは,そのまま時間が経過すれば浸潤が更に広がり,転移が生じる可能性も高くなることが(甲39,44?48),癌の進行プロセスについての技術常識として知られていたものと認められる。
4(審決注:○内に4) そして,上記(イ)(ウ)のとおり,甲3発明及び甲4発明は,ヌードマウスの皮下で継代培養されていたヒト腫瘍組織塊を,原発臓器へ移植(同所移植)すると,皮下で培養する場合と異なり,線維性被膜形成がほとんどなく浸潤性の腫瘍が形成され,転移が生じたというものである。
5(審決注:○内に5) 以上1(審決注:○内に1)?4(審決注:○内に4)を前提にすれば,[1]皮下継代を経ていない腫瘍を用いて同所移植が行われた結果,浸潤が生じている甲1発明について,[2]皮下継代された腫瘍を用いて甲1発明同様に同所移植が行われた結果,浸潤及び転移が生じている甲3発明及び甲4発明を参酌すれば,[3]甲1発明において,時間が経過して浸潤が更に広がれば,甲3発明及び甲4発明と同様に転移が生じる可能性が高いと予測することは,[4]当業者であれば容易になし得たことにすぎず,通常の創作能力の範囲内において試みを動機付けられる程度のものといえる。
そうであれば,甲1発明のヌードマウス(無胸腺マウス)において,甲3発明及び甲4発明の知見を適用して,ヒト腫瘍の転移に対するモデル動物とすること,すなわち,相違点に係る本件発明1,2,11及び12の構成とすることは,当業者であれば,容易に想到できることと認められる。

ウ 被告の主張について
(ア)「浸潤」について
被告は,「浸潤」には,「infiltrate」の場合と「invasion」の場合とがあり,前者(infiltrating)の記載しかない甲1からは,当業者は,基底膜を突き破るなど転移のプロセスである「浸潤(invasion)」と認識するものではない旨を主張するので,以下,検討する。
a 用語につき
「浸潤(infiltrate,invade)」とは,隣接組織を破壊しながら生長し,その境界が不明瞭なものと認められるが(甲42,45),甲11,乙6?8,23の1・2の記載をみても,基底膜を突き破るか否かを基準として「infiltrate」と「invade」との使い分けがされているとは認められない。
もっとも,甲39,40の下記記載は,浸潤を基底膜との関係において把握するものと認められる。
1(審決注:○内に1) 「病理学 病理組織細胞学」(甲39〔1995年〕)
「腫瘍の病期はその広がりによってあらわされる。…悪性腫瘍の病期は早期,進行期,末期にわけられる。…上皮内癌 carcinoma in situ は,表面上皮層に限局した癌で,基底膜を破っていない。…非浸潤癌 non-infiltrating cartinoma は,上皮内癌と同様の病変であるが,乳癌などに対して使用される.癌が導管または小葉内にのみ限局していて,その周囲の支持結合織(間質)に浸潤していない。早期浸潤癌は浸潤の浅い癌を示す。進行癌は腫瘍が間質に浸潤し大きく広がった時期の癌(浸潤癌)で,転移も見られることが多く,治癒しがたい。」(56頁11?21行目)
2(審決注:○内に2) 「現代の病理学 総論」(甲40〔昭和54年〕)
「c:上皮内癌 carcinoma in situ。上皮は癌化した細胞で置き換えられているが,基底膜を破っての浸潤は認められない。
d:浸潤癌 invasive carcinoma。基底膜を破っての深部への癌の浸潤…が認められる。」
(338頁図IX・10の説明)
しかしながら,逆に,甲42,甲54の下記の記載は,基底膜を破壊して進行した癌であることを示す浸潤癌も「infiltrative」と表現されている。
1(審決注:○内に1) 「図解病理学」(甲42〔昭62年〕)
「…浸潤性 infiltrative に発育するものがある。…悪性の腫瘍の増殖形式である…浸潤性発育の場合は周辺の組織の破壊を伴うのが普通である。」(89頁)
2(審決注:○内に2) 「最新医学大辞典」(甲54〔1992年〕)
「浸潤性増殖 infiltrative growth」:「 悪性腫瘍を良性腫瘍から鑑別する特徴の一つ。良性腫瘍の増殖様式が膨張性であり,腫瘍の境界が明瞭なのに対し,悪性腫瘍は周囲への浸潤と遠隔転移によって増殖するため,境界は多少とも不明瞭となる。」(714頁)
「浸潤癌 infiltrative cancer」:「 癌の形態学上での進展の程度を示すものであり,癌細胞が基底膜を破壊し,上皮下組織や隣接他臓器へ浸潤増殖しているものをいう。上皮内癌あるいは非浸潤癌と対応する語である。」(714頁)
また,甲55は,「invasion」を「The infiltration of adjacent tissues by a disease process,usually cancer(疾患プロセス〔通常,がん〕による,隣接組織への浸潤〔infiltration〕。」と定義付けている。
以上によれば,「infiltrate」と「invade」が,基底膜を突き破るか否かで明確に使い分けられているとの被告の主張を認めるに足りる証拠はないというべきである。

b 癌の進行プロセスにつき
前記のとおり,悪性腫瘍は,生体内において,1(審決注:○内に1)腫瘍の増殖,2(審決注:○内に2)隣接組織への浸潤,3(審決注:○内に3)血管やリンパ管を通じた他の組織への転移のように進行すると考えられていたが,基底膜を突き破っているか否かは,癌の種別に依るところはあるものの,病期による区別であり(甲39,40,41),基底膜を破っていない段階の腫瘍が,一律に,時間の経過にもかかわらず,そこで増殖や他組織への浸潤を停止するとする根拠は,本件各証拠からは認め難い。そして,ヒト腫瘍を移植したヌードマウスにおけるヒト腫瘍の進行も,ほぼ同様に進むと考えられていた。

c 「infiltrate」について
以上からすると,当業者は,「infiltrate」の用語から,当該悪性腫瘍が基底膜を破っていないものと直ちに認識するものではなく,また,「infiltrate」と表現された悪性腫瘍が転移を生じないものと認識することもないといえる。

d 甲1発明の「infiltrating」について
甲1には,上記ア(ア)のとおり,第4乳腺脂肪体において,乳首原基及び鼠蹊部リンパ節の部位に隣接する部位(すなわち乳管を含む乳腺とその周囲の乳腺脂肪体)を外科的に切除した後,3?4週間経過し,ヌードマウスが6?8週齢になったとき,切除された第4乳腺脂肪体(cleared fat pad;CFP)中にくぼみを形成し,ここに「浸潤性乳管癌(infiltrating ductal carcinoma)」と診断されたヒトの乳房組織の生検検体から得られた移植片を移植したところ,2か月後には,生きのよい,上記脂肪体中に浸潤し始めた(infiltrating)腫瘍が示され,マウスCFPの基本的な外観は元のヒト生検検体と本質的に同じであり,異常な上皮の複数の層で裏打ちされた管,浸潤している(infiltrating)腫瘍細胞の筋,及び豊富な線維性の間質を示したことが記載されている。

e 小括
甲1で用いた移植片の脂肪体中への浸潤(infiltrating)も,悪性腫瘍の典型的な性質である「浸潤」を意味しており,当業者は,その浸潤の範囲が広がれば血管やリンパ管などを通じて転移を生じる可能性が高いと理解するといえる。
被告の上記主張は,採用することができない。

(イ)「同所移植(正位移植)」について
被告は,甲1発明は,同所移植(正位移植)をするものではない旨を主張するから,以下,検討する。

a 甲1発明の移植方法につき
上記ア(ア)の記載によれば,甲1発明は,ヌードマウスの皮下に移植されたヒト乳房組織が限定的にしか成長しないという知見を前提に,雌ヌードマウスの鼠蹊部乳腺脂肪体から,乳首原基及び鼠蹊部リンパ節並びにその隣接部分(乳管を含む乳腺とその周囲の乳腺脂肪体)を外科的に切除してCFP(廓清された乳腺脂肪体)とし,浸潤性乳管癌(浸潤性腺管癌)と診断されたヒト乳房組織の移植片を,前記CFPに形成したくぼみの中に導入したところ,移植したヒト乳房組織から脂肪体への浸潤が見られたというものである。
甲1は,CFPの作製方法につき,「SLEMMER GL: Interactions of separate types of cells during normal and neoplastic mammary gland growth.(グレン・スレマー「正常及び腫瘍乳腺の成長期間中の別々の型の細胞の相互作用」) J Invest Dermatol 63:27-47,1974」(乙15の1)を引用し,その乙15の1は,「K.B.DeOme,L.J.Faulkin,JR.,Howard A.Bern,AND Phyllis B.Blair: Development of mammary tumors from hyperplastic alveolar nodules transplanted into gland-free mammary fat pads of female C3H mice.(K.B.・デオーム,L.J.ファウルキン,JR.,ハワード・A・バーン,フィリス・B.ブレア「雌のC3Hマウスの乳腺除去乳腺脂肪体中へ移植された過形成性腺房結節からの乳癌の進行」) Cancer Res 1959 19:515」(乙16の1)を引用するが(乙15の2),乙16の1(訳文は乙16の2により,明らかな誤記は補正した。)には,CFP作製について,次のとおりの記載があり,これによれば,甲1発明は,被告の主張するような移植をしたものではなく,甲1発明のCFPにおける毛細血管の血流やリンパ流は,阻害されていないと認められる(血流等により当該腫瘍の増殖や浸潤に必要な養分等が供給されていなければ浸潤は生じ得ないことからも,同様に考えられる。)。
「乳首の領域,リンパ節の腹側にある太い血管,並びに第4及び第5乳腺脂肪体の間を,それぞれ,焼灼した。…乳腺脂肪体の残りの部分は,血液循環はそのままであるが,宿主(マウス)の組織はなく,この状態で移植を受け入れるよう準備された,又は,皮弁を縫合して後日移植を行った。…彼らの研究は,第4脂肪体は,通常,3本の別々の血液供給路があること,及びここに記載された外科手術では残りの乳腺脂肪体の血流を妨げないことを示している。」(乙16の1の516頁右上欄5行?右下欄3行目)
また,ヌードマウスの切除された第4乳腺脂肪体(CFP)に乳腺が存在しないと,同所移植(正所移植)に当たらないと当業界で認識されていたことをうかがわせる証拠は示されていない。なお,マウスにおいて,乳房が胸部から鼠蹊部まで腹部面に広く展開しているのは周知の事実である。
そして,甲1には,ヒトの乳房組織を皮下に移植したことが従来の失敗の原因である一方,甲1発明の移植方法が,ヒト乳房組織の生長及び挙動特性に対するデータを与える可能性を提供するとの記載もある。
したがって,甲1の記載に接した当業者であれば,甲1発明は,腫瘍組織の単なる移植,生長を目的としたものではなく,増殖,浸潤,転移と進む悪性腫瘍の進行を調査する目的のために,皮下移植の方法に代えて,ヒト乳癌組織を,これに対応するヌードマウスの乳房器官内に直接移植した実験であると認識するものといえる。

b 本件発明の「正位移植」(同所移植)につき
本件明細書には,同所移植(正位移植)について,「その組織塊が以前に占有していた位置に移植される…ヒトの器官への新生物腫瘍組織を免疫欠損実験動物の相当する器官中へ移植すること」であると記載されている(4頁11?13行目)。
具体的には,同所移植は,肝臓,脾臓,肺等の器官からのヒト腫瘍組織塊を,受容体動物の相当する各臓器に切り口や欠損腔等を形成し,そこに腫瘍を配置した後,縫合することにより行われると記載されている。
そして,ヒト乳癌からの組織の移植は,「受容体雌動物の胸上にポケットを外科的に形成することにより行われる。」と記載されており(5頁19?20行目),受容体雌動物の乳管や小葉に直接はめ込むのではなく,単に「胸上」にポケットを形成して行うものである。ここでいう「胸上」とは,受容体雌動物の乳房器官全体のことを意味すると理解される。
したがって,本件発明において,少なくともヒト乳癌組織を移植する場合は,乳癌が「以前に占有していた位置」である「胸上」すなわち「乳房器官」のどこかに切り口や欠損腔等を形成し,ヒト乳癌組織を配置することを意図していると認められる。

c 小括
上記a,bからみると,本件発明と甲1発明とは,甲1発明においてヌードマウスの乳腺とその周辺を除去している点が,本件明細書に記載されたヒト乳癌組織の具体的な移植方法とは異なっている。しかし,甲1の切除された第4乳腺脂肪体(CFP)は,ヒト乳癌組織が以前占有していた位置である「胸上」(乳房器官)に相当する場所であるから,本件発明における「相当する器官中へ移植」したものに含まれることが明らかである。
被告の上記主張は,採用することができない。

エ まとめ
以上のとおりであるから,本件発明1,2,11及び12と甲1発明との相違点に係る審決の判断には,誤りがある。
したがって,取消事由5-3には,少なくとも,上記各発明について理由がある。

第6 結論
以上のとおり,取消事由5-3には理由があるところ,この結論は,甲1発明に基づく本件発明3?10,13?19の進歩性判断にも影響を及ぼす蓋然性が高い。
そこで,審決を全部取り消すこととし,主文のとおり判決する。」
(判決文30頁7行目?48頁23行目)

そして、上記判決は、行政事件訴訟法第33条第1項の規定により、本件特許無効審判事件について、当合議体を拘束する。

(2)本件発明1,2,11,12について
本件発明1は、上記判決において判断された、訂正前の請求項1に係る発明について、「移植」が「正位移植」であること、「腫瘍組織」が「ヒト腫瘍組織」であることを減縮する訂正をするものであるが、上記判決は、甲1発明がヌードマウスの乳房器官内にヒト乳癌組織を正位移植する発明であることを認定して判断されている。

そうすると、本件発明1についての判断も、上記判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を同じくするものであると解されるから、上記判決にいうとおり、本件発明1は、甲1発明、及び甲3、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明2,11,12についても同様である。

(3)本件発明3?10,13?19について
本件発明3,13は、13は、ヒト腫瘍組織が、ヒトの肝臓、腎臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺又は睾丸からなる群から得られるいずれかの腫瘍組織であることを限定するものであり、
本件発明4,14は、ヒト腫瘍組織がヒト腎臓から得られるヒト腫瘍腎組織であることを限定するものであり、
本件発明6,16は、ヒト腫瘍組織がヒト胃から得られるヒト腫瘍胃組織であることを限定するものであり、
本件発明8,18は、ヒト結腸から得られるヒト腫瘍結腸組織であることを限定するものであり、
本件発明9は、ヒト腫瘍組織が女性ヒト胸部から得られることを限定するものである。
また、本件発明5,7,8,15,17,18はそれぞれ、ヒト器官から得られた腫瘍組織塊を動物の相当する器官に移植することを含むものである。

ここで、甲1発明は、原審決において認定されているとおり、「20?25日齢の無菌雌ヌードマウスの#4鼠径部乳腺脂肪体は,乳首原基痕跡,及び脂肪体の鼠径部リンパ節までの隣接部分の外科的切除によって宿主上皮を除去され,浸潤性腺管癌と診断されたヒト乳腺組織を前記除去箇所に移植し,そして,移植から2ヵ月後の脂肪体の切片は,腫瘍が活発に活動し,脂肪体へ浸潤を始めているヌードマウス。」であり、ヒト乳がん組織が、マウスの乳房(胸部)に移植されたものである。

そして、上記判決のとおり、乳癌に関する上記甲1発明に、肝癌に関する甲3、甲4の知見を適用して、ヒト腫瘍の転移に対するモデル動物とすることは、当業者であれば容易に想到できるのであるから、乳癌以外の他の腫瘍組織についても同様に、ヒト腫瘍の転移に対するモデル動物を作製することは、当業者であれば容易に想到し得るものであると認められる。

よって、本件発明3?10,13?19も、甲1発明、及び甲3、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 他の無効理由について
上記「2 無効理由5-1[特許法第29条第2項違反(進歩性)]について」で述べたとおり、少なくとも無効理由5-1の進歩性については理由があるが、その余の無効理由について、以下に検討する。

(1)無効理由1[特許法第29条第1項柱書違反(発明未完成)]について
ア 本件明細書の記載事項
本件明細書には、転移に関連する実施例として次のような記載がある。
「実施例III
ヒト結腸から取出され、結腸癌として病理学的に診断されたヒト組織の試料を前記切り裂き操作により適当な大きさに調製した。4?6週令の5匹の無胸腺マウスを移植のための動物受容体として選んだ。外科のための準備中にマウスをエーテルで麻酔した。
それぞれの麻酔したマウスを切開して結腸に到着した。腔のポケットを内腔に入らないように注意して漿膜筋層中に外科的に形成した。約0.5×0.2cmの選んだ腫瘍塊をポケット中へ挿入し、次いでそれを縫合して閉じた。
この移植外科を行なった5匹のマウス中の4匹は3?4か月生存し、良好な健康であると思われる。組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、腫瘍が生着したことが観察された。腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったとは思われなかった。」(本件明細書8頁21行目?9頁3行目)

イ 実施例IIIから理解される事項
(ア)移植組織塊について
実施例IIIで移植する組織は、「ヒト結腸から取出され」た「結腸癌として病理学的に診断されたヒト組織」を「切り裂き操作により適当な大きさに調製された」との記載からみて、組織は塊となっており、本件発明1?10の「脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊」及び本件発明11?19の「脳以外のヒト器官からの腫瘍組織塊」に対応するものである。

(イ)相当する器官中へ移植について
無胸腺マウスという非ヒトモデル動物の結腸の「漿膜筋層中に外科的に形成した」「腔のポケット」に、結腸癌と診断された「約0.5×0.2cmの」「腫瘍塊」を挿入するものである。このように実施例IIIにおいては、結腸癌組織を胸腺マウスの結腸に対して移植がなされているものであるから、本件発明1?10の「前記動物の相当する器官」に対応する移植がなされている。
また、本件発明11?19の「免疫欠損動物の相当する器官」に対応する移植がなされている。

(ウ)転移について
実施例IIIにおいて「この移植外科を行なった5匹のマウス中の4匹は3?4か月生存」し、「組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、腫瘍が生着したことが観察された。」と記載されていることから、5匹の内1匹はいずれかの時点で死亡しているものの、少なくとも5匹のマウス中4匹は、腫瘍の生着が確認されたことは明白である。
また、1か月後にマウスが外科的に切開されたとき生着の確認と共に、他の器官への転移についても「腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったとは思われなかった。」と所見が述べられている。
この文は二重否定であり、否定を整理すると「腫瘍は他の器官に転移したと思われた。」と解される。
ここで、「思われた」と確定的でない表現があるが、
(i)本件明細書は、本件発明1?19の特定事項に「ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物」とあること。
(ii)発明の背景として従来は、「これらのモデル動物において生着した腫瘍は、しばしば、大部分移植された部位で増殖し、もとの腫瘍が供与体中で非常に転移性が高くても、まれにしか転移しなかった。従って、皮下ヌードマウスヒト腫瘍モデル動物は、すでに記載した齧歯動物のモデル動物よりも良好であるけれども、なお実質的な欠点を有しており、すなわち、皮下移植組織は転移する能力を欠いていた。」(本件明細書3頁19?23行)という問題点が記載されていたこと。
(iii)かかる問題点を解決したのが本件特許発明であり、「本発明の主観点によれば、ヒト腫瘍疾患に対する新規非ヒトモデル動物が提供される。前記動物には、ヒト器官から得られた腫瘍組織塊が当該動物の相当する器官中へ移植されており、前記動物は、前記移植された組織が増殖し、そして転移し得るに十分な程度の免疫欠損を有している。」(本件明細書4頁1?4行)と記載されていること。
との本件明細書の記載からすれば、転移させるに足る能力を有する非ヒトモデル動物の作製を狙っていたことは明白であり、それを確かめる実験として実施例IIIがある。
そして、実施例IIIは、
(iv)「この移植外科を行なった5匹のマウス中の4匹は3?4か月間生存」していることからも明らかなように、外科的手術に習熟し、本件特許発明の効果を確認し得る能力のある者が行ったものであることは自明な事項である。
(v)「腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったとは思われなかった。」との所見は、「組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、腫瘍が生着したことが観察された」との観察と同時に行われているから、目視で当該所見が得られているものと解される。
(vi)「この移植外科を行なった5匹のマウス中の4匹は3?4か月間生存」していることから、少なくとも5匹中4匹のマウスは前記組織移植の約1か月後の外科的切開に供され、そのとき「腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったとは思われなかった」との所見が示されている。
「いずれも」との記載からすると、少なくとも5匹のマウス中4匹からは、他の器官に転移していたと思われたとの所見が得られているものであって、複数匹のマウスで同じ所見が得られている。
なお、「5匹のマウス中の4匹は3?4か月間生存」との記載からすると、「組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開」することに供されたマウスはいずれも切開した箇所が閉じられ、5匹のマウス中の4匹は3?4か月間生存することとなったものと解される。

上記「(v)」に記載したように実施例IIIの所見は目視によるものであり組織検査のような厳格な検査が行われていないことから「思われ」るような所見となったのかもしれないが、下記刊行物A及びBに記載されているように、本件特許の優先権主張日前から目視により転移の確認を行うことも普通に行われており、実施例IIIの所見が目視によるものであるというだけで不確かであるとはいえない。加えて、外科的手術に習熟し、本件特許発明の効果を確認し得る能力のある者が、少なくとも5匹中4匹のマウスで、「腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったとは思われなかった。」と、転移といえるような所見を述べており、同時に4匹のマウスで偶然同じ所見が観察されるということは通例あり得ないことを考慮すれば、移植した腫瘍組織塊に由来する転移があったと解するのが自然であって、転移の有無が確認されていないとまではいえない。

刊行物A:特開昭62-294432号公報
「第二群のラットには”空の”リポソーム(すなわちMTPCholを配合しない)を注射し、第三群のラットは非処理のまゝとした。腫瘍細胞移植18日後に各群のラットを殺しそして肉眼で観察できる肺胞転移細胞数(the number of pulmonary metastases)を数えた。」(9頁右上欄4?9行目)

刊行物B:特開昭61-212590号公報
「B16-黒色腫の転移に及ぼす影響
B16-黒色腫の転移を治療するために雌のC57B1/6-マウス(1群当り10匹)に2×105個の生きているB16-黒色腫細胞を用いて原発性腫瘍を誘発させた。これらの腫瘍の切除後にB16-黒色腫は肺に転移しそして動物が死亡した。動物を腫瘍誘発後切除、第3、5、7、9、11および13日前または後に実施例7で得られた試験物質50mg/Kgで腹腔内処置した。肺における肉眼で視認しうる転移の数を原発性腫瘍の切除後第14、17、21、25および28日目に測定した。
第9表から判るように、B16-黒色腫の肺転移数は処置された動物群においては対応する対照動物におけるよりも明らかにより少なかった。」(13頁右下欄2行目?最終行)

ウ 国際出願時の明細書に基づく両当事者の主張について
本件明細書の「腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったと思われなかった。」との解釈について、両当事者共に、国際出願時の明細書の記載事項に基づく主張をしているが、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第7条の規定により、なお従前の例によるとされる平成6年改正前の特許法第184条の4第4項の規定によれば、国際出願日における外国語特許出願の明細書若しくは請求の範囲に記載された事項であって、国内書面提出期間が満了した時に翻訳文に記載されていないものは、国際出願日における外国語特許出願の明細書若しくは請求の範囲に記載されていなかったものとみなされるのであるから、国際出願日の明細書の記載は、本件明細書を解釈する根拠となり得ない。

エ 検討
(ア)本件発明1?10の「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」、及び本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」についての解釈について
本件発明1?10が規定する「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」について、これを定義する内容の記載は、同部分はもとより本件明細書の全体をみても存在しない。そこで、本件明細書の「発明の詳細な説明」の欄をみると、同欄には、以下の記載がある。

(本-1)「ここで使用されるヒト腫瘍組織には、外科的に得られた新鮮な試料の組織、例えば、ヒトの腎臓、肝臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺、睾丸及び脳に生じ、病理学的に腫瘍であると診断されたものが含まれる。そのような腫瘍には、癌腫並びに肉腫が含まれ、ここで行なわれるそれらの移植は、すべての段階、等級及び型の腫瘍を包含する。また、使用されるヒト腫瘍組織は、細胞ごとに分離せず、塊のまま移植する。腫瘍組織を塊のまま移植することにより腫瘍組織が本来もつ三次元的構造が維持されるので、より信頼性の高いヒト腫瘍モデル動物が得られる。」(本件明細書4頁20?28行目)
(本-2)「本発明はヒト腫瘍疾患に対する非ヒトモデル動物に関する。より詳しくは、本発明はヒトの器官から得られ、動物の相当する器官中へ移植された腫瘍組織をもつ非ヒトモデル動物に関する。」(本件明細書2頁23?25行目)
(本-3)「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊が当該動物の相当する器官中へ移植されており」(本件明細書4頁2?3行目)
(本-4)「ヒト器官からの腫瘍組織塊の試料」(本件明細書4頁7?8行目)
(本-5)「ヒト腫瘍組織塊を移植」(本件明細書4頁11行目)
(本-6)「移植の前に、ヒト腫瘍組織は、適当な栄養培地、例えば、10%ウシ胎児血清及び、適当な抗生物質、例えば、ゲンタマイシンを含むイーグル(Eagle)の最少必須培地中に置くことにより維持される。当該組織を含む培地を、次いで約4℃に冷却する。当該組織はこの方法で約24時間維持できる。」(本件明細書4頁29行目?5頁3行目)

そして、本件明細書の「発明の詳細な説明」欄にある実施例においては、ヒトの器官から得られた腫瘍組織は、直接、動物の相当する器官に移植されている(本件明細書7頁17行目以降)。また、本件明細書には、「本発明による免疫欠損実験動物中の腫瘍組織の配置は正位移植により行われる。・・・(略)・・・本発明において正位移植という語は、ヒトの器官の新生物腫瘍組織を免疫欠損実験動物の相当する器官中へ移植することを示すために使用される。」(本件明細書4頁17?20行目)とも記載されている。
上記記載はすべて、ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのものについてであり、これを他の動物において継代することについての記載がない。
これらの点からすると、「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」は、ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのものをいうと解するのが相当である。そして、腫瘍組織塊がこのようなものであれば、「腫瘍組織が本来もつ三次元的構造が維持される」のは当然のことであるといえる。

また、同様の理由により、本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」は、ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのものをいうと解するのが相当である。

(イ)正位移植について
本件発明1?19を実施するに当たり使用する手段は、「本発明による免疫欠損実験動物中の腫瘍組織の配置は正位移植により行なわれる。これは、その組織塊が以前に占有していた位置に移植される移植組織塊に関する。本発明において正位移植という語は、ヒトの器官の新生物腫瘍組織を免疫欠損実験動物の相当する器官中へ移植することを示すために使用される。」(本件明細書4頁17?20行目)とする記載に照らし、正位移植(審決注:「同所移植」ともいわれる)することであり、本件明細書4頁最終行?6頁26行目にわたり正位移植の手法が具体的に記載されていると共に、本件明細書7頁17行目?9頁3行目の実施例I?IIIに更に詳細に正位移植の工程が記載されている。

(ウ)目的とする技術的効果を挙げることができることについて
本件明細書に記載の上記正位移植により、目的とする技術効果を挙げることができるか検討すると、上記「3(1)イ 実施例IIIから理解される事項」に記したように、実施例IIIから、移植した腫瘍組織塊に由来する転移があったと解することができ、目的とする技術的効果が挙げられていることは明白である。

(エ)反復して技術的効果を挙げることができることについて
上記「3(1)イ(ウ)転移について」の(vi)に記したように、本件明細書の実施例IIIにおいて、少なくとも5匹中4匹のマウスで同じような転移といえるような所見が観察されているということは、反復して同じ結果が得られていることを示しているものといえる。

(オ)本件特許の出願後に頒布された刊行物について
本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙57の1には、結腸癌検体を使用した直接同所移植の事例が記載されている(乙57の1-3)。転移起きない検体もある(乙57の1-5)ものの、検体番号1701の右側結腸浸潤性(infiltrating)の粘液腺ガンでは、直接同所移植を2匹行った結果、1匹は死んだものの残りの1匹は、腸壁転移がある(乙57の1-4)旨が記載されており、検体から得たそのままの腫瘍組織を同所移植することにより、転移したことが確認されている。
本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙69の1には、組織学的に無傷な組織として、手術から直接得られた低分化型巨大細胞扁平上皮腫瘍2268を左肺に同所移植した結果、反対側の肺への転移が、リンパ節への転移とともに出現した旨(乙69の1-2)が記載されており、検体から得たそのままの腫瘍組織を同所移植することにより、転移したことが確認されている。
本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙71の1には、低分化型ヒト乳房腺管癌(Anticancer #2468)の外科検体(乙71の1-1)を用い、同所移植群の8匹中6匹(75%)で、肺に複数の転移性小節が生じていた(乙71の1-2)とする結果が得られており、検体から得たそのままの腫瘍組織を同所移植することにより、転移したことが確認されている。
本件特許の出願後に頒布された刊行物である乙72の1には、65歳の白人女性の側壁胸膜から得た新鮮な胸膜の腺癌検体(乙72の1-1)を移植に用い、表1(乙72-1-2)のような腫瘍が転移した結果が得られており、検体から得たそのままの腫瘍組織を同所移植することにより、転移したことがわかる。
以上のように、検体から得たそのままの腫瘍組織を同所移植することにより転移するという結果が多数報告されていることに照らせば、本件明細書の実施例IIIで観察された「腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったと思われなかった。」とする所見は、実際に転移であったことを強く裏付けるものである。加えて、反復して転移を起こし得ることも強く裏付けるものである。

(カ)小括
以上のことを総合すると、本件明細書の前記「正位移植」という手段は、外科的手術に習熟した者であれば簡単に行うことができる反復実施可能な手段であり、その手段により作製されたマウスにおいて、少なくとも5匹中4匹のマウスで転移といえるような所見が観察され、反復して同じ結果が得られていると本件明細書から理解されるから、本件発明1?19の技術内容は、当業者が反復実施して目的とする技術的効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されているものといえる。

よって、本件発明1?19が発明未完成であったとまではいえない。

(2)無効理由2[特許法第36条第3項違反(実施可能要件違反)]について
本件発明1?19の目的は、ヒト中に生ずるような腫瘍疾患の進行に全くよく似た能力、すなわち、ヒト腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る能力を有するヒト腫瘍疾患に対するモデル動物を作製することにあると、本件明細書から把握される。
また、本件発明1?19の効果は、脳以外のヒト器官から得られたヒト腫瘍組織を、細胞ごとに分離せず、塊のまま腫瘍組織が本来もつ三次元的構造を維持し、免疫欠損動物(ヌードマウス、無胸腺マウス、無胸腺ヌードマウス)の相当する器官中へ移植(同所移植、正位移植)するという構成を採用することによって、ヒト中に生ずるような腫瘍疾患の進行に全くよく似た能力、すなわち、ヒト腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る能力を有する転移に対する非ヒトモデル動物が作製され、提供されたことにあると、本件明細書から把握される。
加えて、本件明細書には、下記のとおり本件発明1?19の構成について、具体的な実施の手段が記載されている。

ア 腫瘍組織塊について
本件明細書には、本件発明1?19の「脳以外のヒト器官から得られた腫瘍組織塊」の入手手段について、本件明細書4頁最終行?5頁8行目に具体的に記載されている。

イ 免疫欠損を有する動物について
本件発明1?19の「免疫欠損を有する動物」の入手手段が、本件明細書4頁10?16行目に記載されている。

ウ 正位移植について
本件発明1?19の「相当する器官中へ移植」(正位移植)手段について、本件明細書5頁9行目?6頁26行目に、具体的にその手段が記載されている。
さらに、より具体的に、本件明細書の実施例III(本件明細書8頁21行目?9頁3行目)において、「ヒト結腸から取出され、結腸癌として病理学的に診断されたヒト組織の試料を前記切り裂き操作により適当な大きさに調製し」「4?6週令の5匹の無胸腺マウスを移植のための動物受容体として選」び、「マウスを切開して結腸に到着し」、「腔のポケットを内腔に入らないように注意して漿膜筋層中に外科的に形成し」「約0.5×0.2cmの選んだ腫瘍塊をポケット中へ挿入し、次いでそれを縫合して閉じ」ることにより、「この移植外科を行なった5匹のマウス中の4匹は3?4か月間生存し、良好な健康であると思われる。組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、腫瘍が生着したことが観察された。腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったとは思われなかった。」との結果が記載されている。

エ 小括
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、これに接した当業者が、本件発明1?10の「モデル動物」及び本件発明11?19の「モデル動物を作製する方法」の実施を可能とする程度に目的、構成及び効果の記載があるといえる。

(3)無効理由3[特許法第36条第4項第1号違反(サポート要件違反)]について
本件明細書の前記「正位移植」という手段は、臓器を問わず外科的手術に習熟した者であれば簡単に行うことができる反復実施可能な手段であり、上記「3(1)エ 検討」に記載したように、少なくとも5匹中4匹のマウスで転移といえるようなものが見いだされ、反復して転移するという結果が得られていることが本件明細書から理解される。
よって、本件発明1?19は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により、「従来、外来移植細胞を拒絶する能力を失った胸腺のないマウス(ヌードマウス、無胸腺マウス、無胸腺ヌードマウス)のモデル動物は、齧歯動物のモデル動物よりも良好であるけれども、ヒト腫瘍組織が実際にマウス中に腫瘍を形成した生着率又は頻度は個々の供与体及び腫瘍の型により変動し、大部分移植された部位で増殖し、もとの腫瘍が供与体中で非常に転移性が高くてもまれにしか転移しなかったという実質的な欠点、すなわち、皮下移植されたヒト腫瘍組織が転移能力を欠くという欠点があったことから、ヒト中で生ずるような腫瘍疾患の進行を非常によく再現する能力、すなわち、ヒト腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る能力を有するヒト腫瘍疾患に対するモデル動物の作製という」本件発明1?19の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。

(4)無効理由4[特許法第36条第4項第2号違反(クレームの構成要件的機能に関する記載要件違反)]について
上記「3(1)イ 実施例IIIから理解される事項」に記したように、本件明細書記載の実施例IIIは、移植した腫瘍組織塊に由来する転移があったと解するのが自然であって、転移の有無が確認されていないとまではいえない。
したがって、請求人の主張する「本件発明の非ヒトモデル動物が転移の能力を有することを前提とした本件明細書の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項を全て記載したものではないと認められる」との主張は失当である。

(5)無効理由5について
ア 無効理由5-1 [特許法第29条第1項第3号違反(新規性)]について
上記「2(1)知的財産高等裁判所における判示」に記載したとおり、判決は
「本件発明において、「転移」と「生着」又は「浸潤」とが同程度の技術的意味で用いられているということはできない」(判決文32頁18?19行目)こと、
そして、「本件発明1?19と甲1発明とを対比すると、少なくとも、甲1発明が「転移モデルに対する非ヒトモデル動物」とはいえない点で相違する」(判決文32頁最終行?33頁2行目)こと、
したがって、「一致点・相違点の認定及びこの相違点を前提に本件発明1?19は甲1発明ではないとした審決の認定・判断には、誤りはない」(判決文33頁3?4行目)こと
を判示しており、本件発明1?3,10?13についての判断も、上記判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断を同じくするものであると解されるから、上記判決にいうとおり、本件発明1?3,10?13は、甲1に記載された発明であるとすることはできない。

イ 無効理由5-2 [特許法第29条第1項第3号違反(新規性)又は特許法第29条第2項違反(進歩性)]について
(ア)甲2に記載された発明
甲2には、
「ヒト胃癌を使用してヌードマウスの腹壁および腹腔内移植を施行、その組織学的検索を行なった。
材料と方法:ヒト胃癌2症例を使用してヌードマウス(nu/nu?BALB/C/A/BOM, spf)に移植。胃癌原発巣はいづれも高分化型管状腺癌である。移植した腫瘍は、4代?6代の皮下継代腫瘍、他は原発巣及び2代皮下継代腫瘍である。移植腫瘍は5×5×5mmを細切して腹壁筋層内、筋層-腹膜間部、腹腔内、胃壁内に手術操作により移植した。conventional状態下で飼育、術後21-89日目に屠殺、癌浸潤状態を検索した。・・・(略)・・・
結論:ヌードマウスにおけるヒト胃癌の皮下継代の可能性はすでに多くの報告をみるが、系統的に腹腔内での移核実験は少ない。皮下継代腫瘍では限局性に増殖、浸潤傾向を示さないが、本実験方法では癌腫は腹壁筋層内、腹膜に浸潤、腹膜付着、骨盤腔内増殖、胃壁浸潤等が認められ、特に消化管では漿膜面より粘膜層へと浸潤する結果が得られた。浸潤像が得られた点、意義あるものと思われた。」(171頁左下欄 「624」の項目 5行目?最終行)
と記載されていることからみて、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という)が記載されていると認められる。

「ヌードマウス(nu/nu?BALB/C/A/BOM, spf)に、高分化型管状腺癌である胃癌の4代?6代の皮下継代腫瘍、他は原発巣及び2代皮下継代腫瘍を5×5×5mmを細切して腹壁筋層内、筋層-腹膜間部、腹腔内、胃壁内に手術操作により移植することで、癌腫は腹壁筋層内、腹膜に浸潤、腹膜付着、骨盤腔内増殖、胃壁浸潤等が認められたヌードマウス。」

(イ)対比
本件発明1?10と甲2発明を対比すると、動物が本件発明1?10は「ヒト腫瘍疾患の転移に対する」モデル動物であるのに対して、甲2発明は、腫瘍が浸潤したヌードマウスであり、転移については不明で、ヒト腫瘍疾患の転移の代わりとなって、転移に対する研究や試験に使用するためのモデル動物として認識できないものであって、「転移に対する非ヒトモデル動物」とはいえない点で少なくとも相違する。

本件発明11?19と甲2発明を対比すると、方法が本件発明11?19は「ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物を作製する方法」であるのに対して、甲2発明は、腫瘍が浸潤したヌードマウスは作製されているものの、ヒト腫瘍疾患の転移の代わりとなって転移に対する研究や試験に使用するためのモデル動物として認識できないものであって、「転移に対する非ヒトモデル動物」を作製する方法といえない点で少なくとも相違する。

(ウ)検討
上記相違点については、甲1発明と同様であって、上記「3(5)ア 無効理由5-1 [特許法第29条第1項第3号違反(新規性)]について」で述べたとおり、上記「2(1)知的財産高等裁判所における判示」において、判決は「本件発明において、「転移」と「生着」又は「浸潤」とが同程度の技術的意味で用いられているということはできない」(判決文32頁18?19行目)ことを判示している。
そうすると、甲2発明が、本件発明1?3,6の「ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物」といえないことは明白であり、甲2発明が、本件発明11?13,16の「ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物を作製する方法」ともいえないことは明らかである。
よって、本件発明1?3,6,11?13,16は甲2発明であるとはいえない。

しかし、上記相違点について、上記「2(2)本件発明1,2,11,12について」及び「2(3)本件発明3?10,13?19について 」に記した理由と同様の理由により、本件発明1?19は、甲2発明、及び甲3、甲4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 無効理由5-3 [特許法第29条第2項違反(進歩性)]について
(ア)甲3に記載された発明
甲3には、
「図3 組織所見(Hc-4) 肺転移巣 H-E染色」(32頁 図3)
との記載から、肺転移巣が確認されたのは、Hc-4であることが分かる。
そして、このHc-4とは、
「このうち生着し継代移植可能となったものは3例あり、45歳男性の硬変合併肝癌で化学療法の前後に採取したもの(Hc-3,4)、70歳男性の分化型肝癌(Hc-5)及び3歳男児の肝芽腫(Hb-1)で、それぞれ6代、2代および4代目累代中である。」(31頁左欄31行目?右欄3行目)
との記載からみて、45歳男性の硬変合併肝癌で化学療法の後に採取したものと理解される。
そして、「特筆すべきことは継代2代目のラット(審決注:「継代2代目のマウス」の誤記と解される)で、右側腹部深部に移植した腫瘍片が肝に移植されたことで、約1.5cmの腫瘤を形成した(図1)。腫瘤は塊状型で、左外側葉を残すのみで全葉にわたっていた。腹水、肝門部リンパ節転移は認めなかったが、右肺下葉に直径約2mmの球状の転移を認めた。」(31頁右欄18行目?32頁右欄1行目)
との記載からみて、移植された腫瘍は、45歳男性の硬変合併肝癌で化学療法の後に採取した肝癌腫瘍(Hc-4)をマウスに継代した2代目である。
また、「使用したマウスは雄あるいは雌のヌードマウス」(31頁左欄19?20行目)とあるから、移植に使用したマウスはヌードマウスである。

以上の事項を総合すると、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という)が記載されていると認められる。

「45歳男性の硬変合併肝癌で化学療法の後に採取した肝癌腫瘍(Hc-4)の継代2代目を、ヌードマウスの右側腹部深部に移植し、その結果腫瘍片が肝に移植されたことで、約1.5cmの腫瘤を形成し、右肺下葉に直径約2mmの球状の転移を認めたヌードマウス。」

(イ)対比
本件発明1?19と甲3発明をそれぞれ対比すると、移植する腫瘍が、本件発明1?10では「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」であり、また、本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」であって、いずれも上記「3(1)エ(ア)本件発明1?10の「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」、及び本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」についての解釈について」で言及したように、「ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのもの」であるのに対して、甲3発明では、「45歳男性の硬変合併肝癌で化学療法の後に採取した肝癌腫瘍(Hc-4)の継代2代目」、すなわち、培養した腫瘍組織塊である点で少なくとも相違する。

(ウ)検討
甲3には、「ヌードマウスに移植されたヒト癌に転移がほとんどないのは免疫欠如動物であるためか、移植腫瘍の生物学的性格が変わったのか、あるいはSPF環境下でなかったため長期生存例が少なく、転移する以前に死亡したことなどが考えられるが、移植部位が皮下組織であることも1つの大きな要因となりうる。」(33頁左欄11?16行目)との記載がある。

また、甲1、甲2はそれぞれ、上記「2(3)本件発明3?10,13?19について」及び上記「3(5)イ(ア)甲2に記載された発明」に記載したとおり、ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのものといえる組織を移植すると浸潤が生じていることが示されている。

そして、上記「2(1)知的財産高等裁判所における判示」において、判決は、
「本件特許の優先権主張日当時,悪性腫瘍は,生体内において,[1]腫瘍の増殖,[2]隣接組織への浸潤,[3]血管やリンパ管を通じた他の組織への転移のように進行すると考えられており(甲23,41,43),一般には,腫瘍が浸潤していることを観察した状態では,浸潤の広がりが大きければある程度の確率(頻度)で転移が生じている,あるいは,そのまま時間が経過すれば浸潤が更に広がり,転移が生じる可能性も高くなることが(甲39,44?48),癌の進行プロセスについての技術常識として知られていたものと認められる。」(判決文42頁5?11行目)
と判示している。

そうすると、甲3発明において、転移が起きる継代培養した腫瘍である「肝癌腫瘍(Hc-4)の継代2代目」に代えて、浸潤に関する甲1の「浸潤性腺管癌と診断されたヒト乳腺組織」や甲2の「高分化型管状腺癌である胃癌」の「原発巣」を、ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物とすべく採用することは、浸潤が更に広がれば転移が生じる可能性も高くなるという本件特許の優先権主張日当時の技術常識を考慮すれば、その動機はあったといえる。

よって、本件発明1?19は、甲3発明、及び甲1、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 無効理由5-4 [特許法第29条第2項違反(進歩性)]について
(ア)甲4に記載された発明
a 移植されたヒト肝癌について
甲4には、「右側腹部肋骨弓下に移植針を挿入して肝に移植を行ったのは10匹あるが、Hc-3の2代目とHc-5の3代目の2匹に成功したにすぎなかった。開腹したの肝への移植はHc-4の6代目の2匹に行った。いずれも生着したが、1匹は移植18日後、他の1匹は38日後にwastin diseaseとなり屠殺した。4匹とも屠殺後肝腫瘍の存在が確認された。また右肋骨弓下に移植したHc-3の2代目に、肺転移がみとめられた27)。」(306頁左欄16?23行目)と記載されている。
肺転移が認められた「Hc-3の2代目」とは、(303頁右欄19行目?304頁左欄9行目)によると、「北大第1外科に昭和51年11月より53年5月迄入院し、開腹手術を行った肝癌患者」由来のものであって、「移植系統は肝細胞癌をHc、肝芽腫をHbと記載し、移植した順にそれぞれ番号を付した。」ものであるから、ヒト肝細胞癌の2代目であることが理解される。
また、移植されたヒト肝癌は、「前述の方法で作製した1?2mm角の組織片を外径2.5ないし1.5mmの移植針を用いて、肝中葉に移植した。」(304頁左欄35?37行目)と記載され、ここに記載の「前述の方法」とは「継代移植した腫瘍が一定の大きさに達した時期に、そのヌードマウスをエーテル麻酔下に心臓穿刺し、採血後無菌的に腫瘍を摘出した。この腫瘍はただちに生理的食塩水内に入れ、約2mm角に細切」(304頁左欄24?27行目)することをいうから、移植されたヒト肝癌は、継代したヒト肝癌をヌードマウスの皮下から摘出し、1?2mm角の組織片としたものであることが理解される。

b 継代について
304頁左欄23?29行目に「(b)継代移植 初代あるいは継代移植した腫瘍が一定の大きさに達した時期に、・・・(略)・・・無菌的に腫瘍を摘出した。この腫瘍はただちに生理的食塩水内に入れ、約2mm角に細切し、その1ないし数個を移植針を用いて、他の新しいヌードマウスの側腹部あるいは背部の皮下に移植した。」と記載されているから、継代とは、腫瘍を継代用ヌードマウスの皮下に移植し継代した、すなわち、皮下継代するものであることが理解される。

c 肝への移植におけるマウスについて
304頁左欄34行目に「(c)ヌードマウス肝への移植」と記載されているから、肝へ移植されるものは、被移植用ヌードマウスであることが分かる。
なお、被移植用ヌードマウスも皮下継代用ヌードマウスも共に「実験動物中央研究所においてSpecific Pathogen Free下で飼育されたBALB/c系ヌードマウス(nu/nu)の雄および雌で、生後5?7週のもの」(303頁右欄11?13行目)であるが、前記したように移植目的と移植器官が異なるので、ヌードマウスに、被移植用と継代用という用途を付して区別することとする。

d 肝臓への移植と転移について
306頁左欄16?23行目の記載からすると、右側腹部肋骨弓下に移植針を挿入して肝に移植を行った結果、成功したのはHc-3の2代目とHc-5の3代目の2匹だけであることが分かる。そして、「右側腹部肋骨弓下に移植針を挿入して肝に移植を行」なった結果、「Hc-3の2代目に、肺転移がみとめられた」ことが理解される。
また、「右側腹部肋骨弓下に移植針を挿入して肝に移植を行った」とあるから、肝へ移植されていることは明白である。
なお、306頁左欄16?23行目には、「27)」が文献として引用されている。文献「27)」は、「内野純一,桑原武彦他:ヒト肝癌のヌードマウスへの移植,医学のあゆみ,104:31,1978.」(313頁右欄)であって、甲3に相当する。甲3においては、転移が成功したものは上記「3(5)ウ(ア)甲3に記載された発明」で言及したように、「45歳男性の硬変合併肝癌で化学療法の後に採取した肝癌腫瘍(Hc-4)の継代2代目」である。他方、甲4においては、肺転移を起こしたのは「Hc-3の2代目」である。そして、肺転移を起こした腫瘍について、甲3及び甲4の間で特段の矛盾はなく、甲3においては、その記載のとおり、Hc-4の2代目で肺転移が確認され、甲4においては、その記載のとおりHc-3の2代目で転移が確認されたものと理解される。

e 浸潤について
312頁右欄14?15行目に「6)転移は肝に浸潤性腫瘍を形成した1匹のみにみられ、肺転移であった。」と記載されている。甲4には、肺転移について記載されているのは、「右肋骨弓下に移植したHc-3の2代目に、肺転移がみとめられた」(306頁左欄22?23行目)もののみであるから、「右肋骨弓下に移植したHc-3の2代目」は、肺転移が認められるとともに、浸潤性の腫瘍が形成されたことが分かる。

f 小括
以上のことを総合すると、甲4には、次の発明(以下、「甲4発明」という)が記載されていると認められる。
「ヒト肝細胞癌Hc-3を継代用ヌードマウスで皮下継代したヒト肝細胞癌Hc-3の2代目の腫瘍を摘出し、1?2mm角の組織片としたものを、被移植用ヌードマウスの右側腹部肋骨弓下に移植針を挿入して肝に移植を行なうことで、浸潤性の腫瘍が形成されるとともに肺転移が認められたヌードマウス。」

(イ)対比
本件発明1?19と甲4発明をそれぞれ対比すると、移植する腫瘍が、本件発明1?10では「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」であり、また、本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」であって、いずれも上記「3(1)エ(ア)本件発明1?10の「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」、及び本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」についての解釈について」で言及したように「ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのもの」であるのに対して、甲4発明では、「ヒト肝細胞癌Hc-3を継代用ヌードマウスで皮下継代したヒト肝細胞癌Hc-3の2代目の腫瘍」、すなわち、培養した腫瘍組織塊である点で少なくとも相違する。

(ウ)検討
上記相違点については、上記「3(5)ウ(ウ)検討」において検討したのと同様であって、甲4発明において、転移が起きる継代培養した腫瘍である「ヒト肝細胞癌Hc-3を継代用ヌードマウスで皮下継代したヒト肝細胞癌Hc-3の2代目の腫瘍」に代えて、ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのものであって、浸潤に関する甲1の「浸潤性腺管癌と診断されたヒト乳腺組織」や甲2の「高分化型管状腺癌である胃癌」の「原発巣」を、ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物とすべく採用することは、浸潤が更に広がれば転移が生じる可能性も高くなるという本件特許の優先権主張日当時の技術常識を考慮すれば、その動機はあったといえる。

よって、本件発明1?19は、甲4発明、及び甲1、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ 無効理由5-5?無効理由5-7 [特許法第29条第1項第3号違反(新規性)又は特許法第29条第2項違反(進歩性)]について
上記「3(1)エ(ア)本件発明1?10の「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」、及び本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」についての解釈について」で言及したように、本件発明1?10の「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」は、ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのものと解するのが相当であり、本件発明11?19の「ヒト器官からの腫瘍組織塊」も、ヒトの器官から採取した腫瘍組織塊そのままのものをいうと解するのが相当である。

よって、予備的主張としてなされた無効理由5-5?無効理由5-7は、「ヒト器官から得られた腫瘍組織塊」は、皮下継代を経たものを含むとして解釈することを前提とするものであるから、検討を要しないものとなった。

第7 結び
以上のとおり、本件発明1?19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。よって、本件特許は無効とすべきものである。
よって、審判費用について、特許法第169条で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとして、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ヒト疾患に対するモデル動物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物であって、前記動物が前記動物の相当する器官中へ正位移植された、脳以外のヒト器官から得られたヒト腫瘍組織塊を有し、前記移植された腫瘍組織を増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する、モデル動物。
【請求項2】 前記動物が無胸腺マウスである、請求項1に記載のモデル動物。
【請求項3】 前記ヒト腫瘍組織が、ヒトの肝臓、腎臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺又は睾丸からなる群から得られるいずれかの腫瘍組織である、請求項2に記載のモデル動物。
【請求項4】 前記腫瘍組織がヒト腎臓から得られるヒト腫瘍腎組織である、請求項3に記載のモデル動物。
【請求項5】 前記ヒト腫瘍腎組織がマウスの腎臓の腎皮質中へ移植される、請求項4に記載のモデル動物。
【請求項6】 前記腫瘍組織がヒト胃から得られるヒト腫瘍胃組織である、請求項3に記載のモデル動物。
【請求項7】 前記ヒト腫瘍胃組織がマウスの胃中に、胃の内部粘膜ライニングと胃の外部腹膜コートとの間に移植される、請求項6に記載のモデル動物。
【請求項8】 前記腫瘍組織がヒト結腸から得られるヒト腫瘍結腸組織である、請求項3に記載のモデル動物。
【請求項9】 前記ヒト腫瘍結腸組織がマウスの大腸の盲腸中に移植される、請求項8に記載のモデル動物。
【請求項10】 前記ヒト腫瘍組織が女性ヒト胸部から得られる、請求項3に記載の雌モデル動物。
【請求項11】 ヒト腫瘍疾患の転移に対する非ヒトモデル動物を作製する方法であって:
正位移植された前記ヒト腫瘍組織を前記動物中で増殖及び転移させるに足る免疫欠損を有する、実験動物を準備し;
脳以外のヒト器官からの腫瘍組織塊の試料を免疫欠損動物の相当する器官中へ移植する、ことを含む方法。
【請求項12】 前記実験動物が無胸腺マウスである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】 前記ヒト腫瘍組織がヒトの肝臓、腎臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺又は睾丸からなる群から得られるいずれかの腫瘍組織である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】 前記ヒト腫瘍組織がヒト腎臓から得られるヒト腫瘍腎組織である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】 前記ヒト腫瘍腎組織がマウスの腎臓の腎皮質中に移植される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】 前記ヒト腫瘍組織がヒト胃から得られるヒト腫瘍胃組織である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】 前記ヒト腫瘍胃組織がマウスの胃中に、胃の内部粘膜ライニングと胃の外部腹膜コートとの間に移植される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】 前記ヒト腫瘍組織がヒト結腸から得られる腫瘍結腸組織である、請求項13に記載の方法。
【請求項19】 前記腫瘍結腸組織が無胸腺マウスの大腸の盲腸中に移植される、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
発明の背景
本発明はヒト腫瘍疾患に対する非ヒトモデル動物に関する。より詳しくは、本発明はヒトの器官から得られ、動物の相当する器官中へ移植された腫瘍組織をもつ非ヒトモデル動物に関する。
ヒト腫瘍疾患に代る代表的モデル動物に対する要求が長い間存在した。そのようなモデル動物は多くの目的に役立つことができよう。例えばそれは、ヒトにおける腫瘍疾患の進行を研究して適当な治療形態の発見を援助するために使用できよう。そのようなモデル動物はまた提案された新抗腫瘍物質の効果の試験に使用できよう。さらに、それは癌患者の腫瘍の個別化した化学的感受性試験に使用できよう。そのようなモデル動物の存在は薬物スクリーニング、試験及び評価を一層効率的にかつ非常に低コストにするであろう。
ヒトの腫瘍疾患に対するモデル動物の作製における若干の以前の試みでは、移植可能な動物腫瘍を用いた。これらは齧歯動物中で作製され、通常近交集団において、動物から動物へ移植された腫瘍であった。他の腫瘍モデル動物は少なくとも動物系の中で、発癌性であった種々の物質により動物中に腫瘍を誘発させることにより作製された。なお、他の腫瘍モデル動物は、自然発生腫瘍をもつ齧歯動物であった。しかし、これらの齧歯動物のモデル動物は、しばしば化学療法剤に反応し、同じ物質の投与を受けるヒト被験者とは非常に異なっていた。
約20年前に始められて開発された他の腫瘍モデル動物では、胸腺のないマウスが用いられた。これらの動物は免疫細胞に欠陥があり、その結果、外来移植組織を拒絶する能力を失なった。該マウスは明確には理解されていない理由のために、実質的に毛がなく、「ヌード」又は「無胸腺」マウスと称されるようになった。
これらのヌードマウスの皮膚の下、皮下に移植されたときに、ヒト腫瘍がしばしば増殖することが見いだされた。しかし、そのようなヒト腫瘍組織が実際にマウス中に腫瘍を形成した生着率又は頻度は、個々の供与体及び腫瘍の型により変動した。これらのモデル動物において生着した腫瘍は、しばしば、大部分移植された部位で増殖し、もとの腫瘍が供与体中で非常に転移性が高くても、まれにしか転移しなかった。従って、皮下ヌードマウスヒト腫瘍モデル動物は、すでに記載した齧歯動物のモデル動物よりも良好であるけれども、なお実質的な欠点を有しており、すなわち、皮下移植組織は転移する能力を欠いていた。
前記欠点のないヒト腫瘍疾患のモデル動物に対する要求を満たすために、本発明は、ヒト中で生ずるような腫瘍疾患の進行を非常によく再現する能力を有する新規モデル動物を開示する。
発明の概要及び目的
本発明の主目的は、ヒト腫瘍疾患に対する改良された非ヒトモデル動物を提供することである。
本発明の主観点によれば、ヒト腫瘍疾患に対する新規非ヒトモデル動物が提供される。前記動物には、ヒト器官から得られた腫瘍組織塊が当該動物の相当する器官中へ移植されており、前記動物は、前記移植された組織が増殖し、そして転移し得るに十分な程度の免疫欠損を有している。
本発明の他の観点は、ヒト腫瘍疾患に対する非ヒトモデル動物を作製する方法を提供する。当該方法は、移植されたヒト腫瘍組織が前記動物中で増殖し、そして転移し得るに十分な程度の免疫欠損を有する実験動物を準備し、ヒト器官からの腫瘍組織塊の試料を免疫欠損動物の相当する器官中へ移植することを含む。
発明の詳細な説明
本発明のモデル動物は、移植された組織を増殖及び転移させるのに十分な免疫欠損を有する実験動物に、ヒト腫瘍組織塊を移植することにより作製される。この使用に殊に適する実験動物は、T細胞免疫を有しない系統のマウスである。これらのマウスは、一般にヌードマウス又は無胸腺マウスと呼ばれ、容易に利用でき、チャールス・リバー・ラボラトリーズ(Charles River Laboratories,Inc.,Wilmington,Massachusetts)〔カタログ確認:Crl:nu/nu(CD-1)BR、同型接合28?42日令〕から商業的に入手できる。
本発明による免疫欠損実験動物中の腫瘍組織の配置は、正位移植により行なわれる。これは、その組織塊が以前に占有していた位置に移植される移植組織塊に関する。本発明において正位移植という語は、ヒトの器官の新生物腫瘍組織を免疫欠損実験動物の相当する器官中へ移植することを示すために使用される。ここで使用されるヒト腫瘍組織には、外科的に得られた新鮮な試料の組織、例えば、ヒトの腎臓、肝臓、胃、膵臓、結腸、胸部、前立腺、肺、睾丸及び脳に生じ、病理学的に腫瘍であると診断されたものが含まれる。そのような腫瘍には、癌腫並びに肉腫が合まれ、ここで行なわれるそれらの移植は、すべての段階、等級及び型の腫瘍を包含する。また、使用されるヒト腫瘍組織は、細胞ごとに分離せず、塊のまま移植する。腫瘍組織を塊のまま移植することにより腫瘍組織が本来もつ三次元的構造が維持されるので、より信頼性の高いヒト腫瘍モデル動物が得られる。
移植の前に、ヒト腫瘍組織は、適当な栄養培地、例えば、10%ウシ胎児血清及び、適当な抗生物質、例えば、ゲンタマイシンを含むイーグル(Eagle)の最少必須培地中に置くことにより維持される。当該組織を含む培地を、次いで約4℃に冷却する。当該組織はこの方法で約24時間維持できる。
選択した組織試料は選択した器官中の適切に準備した腔中への挿入に適する大きさの塊に形成し、移植のために準備する。試料の大きさは、約0.1×0.5cmから約0.2×0.6cmまで変動させることができる。適当な大きさの試料の形成に使用される技術は、鉗子などで所望の大きさの片に引き裂くことにより、組織を適当な大きさに引き裂くことが含まれる。
本発明による組織移植の実施に典型的に用いる顕微外科器具にはカストロビジョ(castrovijeo)針ホルダー、ジューアラ(jeweler)の鉗子(直及び曲)、虹彩鉗子、虹彩鋏並びに直及び曲組織鉗子が、各有歯及び各無歯のものを含めて、包含される。
腫瘍組織の移植の前に、選ばれた免疫欠損動物を適当な麻酔薬で麻酔する。肺組織を除いて、前記すべての器官組織の移植が、エチルエーテルを用いる普通の麻酔法により簡便に行なわれる。肺組織が移植される場合にはペントバルビタールが麻酔薬として使用される。
ヘパトームからの組織又はヒト肝臓からの腫瘍の移植は、移植部位として受容体動物の肝臓の尾状葉を用いて行なわれる。若干のゆるい縫合糸を葉上に置き、大きさ約0.2×0.5cmの腫瘍塊を収容するために縦方向に切開する。切開口中に腫瘍を配置した後、それを適所に確保するために縫合糸を腫瘍上できちんと引張る。
ヒト膵臓腫瘍からの組織を移植する方法は、受容体動物の膵臓中に、十二指腸に近い当該器官の頭部で切開することにより行なわれる。無血管領域を選ぶことに注意する。切開は選んだ領域中に行なわれ、約0.5×0.2cmの腫瘍塊が前記と同じ方法で移植される。すべての段階及びすべての等級の膵臓癌の組織をこの方法で移植することができよう。
ヒト乳癌からの組織の移植は受容体雌動物の胸上にポケットを外科的に形成することにより行なわれる。ポケットは好ましくは大きさ約0.2×0.5cmの腫瘍塊を収容するに足る大きさである。ポケット中に腫瘍を配置した後、ポケットを縫合で閉じる。すべての段階及び等級の乳癌をこの方法で移植することができよう。
受容体動物の前立腺中へのヒト前立腺癌の組織の移植は、前立腺中に切開口を外科的に形成し、次いで内腔中に大きさ約0.2×0.3cmの組織試料を配置することにより行なわれる。組織試料の配置後、切開口を適当な縫合で閉じる。移植組織が初めの位置から移動できないように2つの追加縫合が前立腺の頚部に置かれる。
受容体動物の睾丸中へのヒト睾丸癌の組織の移植は、18番ゲージ針を睾丸に縦軸に沿って挿入し、大きさ約0.1×0.5cmの腫瘍塊を針を通して導入することにより行なわれる。組織試料の端が穿刺のときに見えると、針をゆっくり引抜きその間可視腫瘍組織を鉗子で適所に保持する。針により作られた孔は次いで1針の縫合により閉ざされる。
受容体動物の肺中へ腫瘍肺組織を移植する準備中に、気管切開が行なわれ、シラスティック管が挿管される。その後次の移植操作のいずれかを用いることができる:
(1)気管切開管を肺葉(類)に達するまで進め;小細長(2×6mm)の腫瘍塊を管を通して導入し、次いで管を取出し、気管の創傷を縫合で閉じる;又は
(2)予防管を気管中へ挿入し;右胸上に小穿刺創傷を作り、右肺の葉を引き上げて胸部腔をふさぎ、それにより肺の虚脱を防ぎ;肺葉を基部で弱くクランプして2つの結紮糸を肺の上にゆるく置き;肺上に切り口を作り、約0.2×0.5cmの腫瘍をその中へ埋め、結紮糸をきちんと結び;肺葉を胸部腔中へ戻し、創傷を閉じる。
すべての段階及び等級の小細胞及び非小細胞肺癌の組織を前記操作のいずれかにより移植することができよう。
腫瘍ヒト脳組織を受容体動物脳中へ移植するために、バー孔を動物の頭頂頭蓋骨を通して作る。約0.2×0.4cmの腫瘍塊を選んで脳中へ移植する。次いで頭蓋骨中の孔を骨ロウにより封じる。
本発明のモデル動物はヒト腫瘍疾患の進行の研究において殊に有用である。これらの研究は、他の臨床試験モダリティ例えば診断映像化と組合せて、治療の最も適切な形態の選択に役立つ。
例えば、本発明のモデル動物を腫瘍映像化にかけると、臨床医は腫瘍増殖の一次及び二次両部位を確認し、動物上の腫瘍の全体的な広がりを推定することができる。腫瘍映像化は、動物に標識抗腫瘍抗体、例えば、放射性同位体で標識された抗体を注入し;抗体を腫瘍内である時間局在させ;次いで、放射線デテクターを用いて動物を走査することにより普通に行なわれる。コンピューターを動物の体内で検出された放射能の映像のコンパイルに使用するときコンピューターは放射線の強度に従って映像をカラーコードすることができる。抗体又はその代謝物質の蓄積が予想されない体の領域中の高い放射能の帯域は腫瘍の存在の可能性を示す。
本発明のモデル動物はまた、新抗腫瘍剤をスクリーニングして一次部位及び遠い転移部位における腫瘍に作用するか又は遠い転移の発生を防ぐそのような物質の能力を決定するために使用できる。該モデル動物はまた、癌患者の腫瘍の個別化した化学的感受性試験に有用であろう。
さらに本発明のモデル動物はヒト腫瘍疾患の進行に対するミトルション(mitrution)の効果の研究に有用である。これらの研究は健康な被験者に対する種々の欠失の実証された衝撃を考えると殊に重要であることができる。
実施例1
ヒト腎臓から切除した腫瘍の組織の外科的に得られた新鮮な試料を5匹の動物受容体の腎臓中へ移植した。腎細胞癌として病理学的に診断された組織試料は、前記引き裂き操作により適当な大きさに調製した。
4?6週令の5匹の無胸腺ヌードマウスを移植のための動物受容体として選んだ。外科手術のための準備中にマウスをエーテルで麻酔した。
各動物に腎臓に到達する切開を行った。各受容体腎臓の腎皮質の切除によりくさび状腔を形成し、約0.5×0.2cmの腫瘍組織の塊を欠損腔中に置いた。次いでマットレス縫合を用いて移植組織を適所に確保した。
この実施例の5匹のマウスはその後なお6か月生存している。組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、移植腫瘍を観察した。各事例において腫瘍が生着したと認められた。これは移植腫瘍組織が隣接組織に侵潤したことを意味する。このとき、組織学的分析を組織移植片で行なった。そのような分析には各動物から組織試料を取出し、試料を組織供与体の組織試料と比較することが含まれていた。
組織学的分析に対する組織試料の調製は、(1)試料をホルマリン中で固定し;(2)固定した試料をパラフィン中に埋め;(3)固定し埋めた試料の5ミクロンの切片を調製し;(4)切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色し;(5)各切断面中の組織構造を顕微鏡的に観察することにより行なった。
組織学的分析は、受容体動物中の組織が(1)その構造及び組織型を保持し、(2)ヒト供与体中の疾患の進行によく似ていることを示した。
実施例II
胃から切除し、胃癌として病理学的に診断されたヒト組織の試料を前記切り裂き操作により適当な大きさに調製した。
4?6週令の5匹の無胸腺ヌードマウスを移植のための動物受容体として選んだ。外科のための準備中にマウスをエーテルで麻酔した。
それぞれの麻酔したマウスに、胃に到達する切開を行なった。No.11小刀を用い、粘膜層に侵入しないように注意して胃壁中に切開口を作った。約0.5×0.2cmの腫瘍塊を受入れるに足る大きさのポケットを形成した。近似的にこの大きさの腫瘍を選び、ポケット中へ挿入し、切開口を7-0逢合糸を用いて閉じた。
この実施例の5匹のマウスは約3?4か月間生存し、他の点では異常がないと思われる。これらのマウスの胃の以後の外科切開は腫瘍が生着したことを証明した。
実施例III
ヒト結腸から取出され、結腸癌として病理学的に診断されたヒト組織の試料を前記切り裂き操作により適当な大きさに調製した。4?6週令の5匹の無胸腺マウスを移植のための動物受容体として選んだ。外科のための準備中にマウスをエーテルで麻酔した。
それぞれの麻酔したマウスを切開して結腸に到達した。腔のポケットを内腔に入らないように注意して漿膜筋層中に外科的に形成した。約0.5×0.2cmの選んだ腫瘍塊をポケット中へ挿入し、次いでそれを縫合して閉じた。
この移植外科を行なった5匹のマウス中の4匹は3?4か月間生存し、良好な健康であると思われる。組織移植の約1か月後にマウスを外科的に切開し、腫瘍が生着したことが観察された。腫瘍はいずれも、このとき他の器官に転移しなかったとは思われなかった。
本発明は平明な理解のために例示及び実施例によって若干詳細に記載されたが、請求の範囲内で一定の変更及び改変を行なうことができることは明らかであろう。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-06-16 
結審通知日 2017-06-20 
審決日 2017-07-07 
出願番号 特願平1-510569
審決分類 P 1 113・ 537- ZAA (A01K)
P 1 113・ 14- ZAA (A01K)
P 1 113・ 536- ZAA (A01K)
P 1 113・ 121- ZAA (A01K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
山本 匡子
登録日 1997-06-20 
登録番号 特許第2664261号(P2664261)
発明の名称 ヒト疾患に対するモデル動物  
代理人 柴田 富士子  
代理人 宅間 仁志  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 林 いづみ  
代理人 柴田 五雄  
代理人 林 いづみ  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 柴田 五雄  
代理人 柴田 富士子  
代理人 ▲高▼見 憲  
代理人 内田 公志  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ