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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01J
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J
管理番号 1335415
審判番号 不服2017-1319  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-31 
確定日 2018-01-09 
事件の表示 特願2012-185220「放電ランプ用陰極」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月13日出願公開、特開2014- 44811、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年8月24日の出願であって、平成28年5月24日付けで拒絶理由が通知され、平成28年7月14日付けで手続補正書及び意見書が提出され、平成28年10月21日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、平成29年1月31日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成29年9月7日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年10月25日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年10月25日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に特定される発明であり、本願発明は以下のとおりである。

「【請求項1】
一端に尖頭を有する電子放出部焼結体と高融点金属製母材とからなる放電ランプ用陰極であって、 前記電子放出部焼結体の前記一端に対向する他端が、前記高融点金属製母材の先端部に埋設あるいは溶接され、 前記放電ランプ用陰極は針状にとがっている形状・構造であって、 前記尖頭の先端は、前記尖頭の先端角度が95°の円錐立体角を有し、 前記尖頭の先端部形状が半球状であり、かつこの半球寸法半径が0.05mm?0.5mmである ことを特徴とする放電ランプ用陰極。」

第3 引用文献の記載事項
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2005-166382号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1)「【0018】
さらに、陰極本体は易電子放出物質を含有させた多孔質高融点金属材料で構成され、先端部分が尖頭状に形成されていればその製造方法は特に限定されない。例えば、この陰極本体は高融点金属材料の粉体と易電子放出物質の粉体とを混合して焼結してもよく、高融点金属材料の粉体を焼結し、焼結体に易電子放出物質を含浸させるようにしてもよい。特許請求の範囲において「易電子放出物質を含有させた多孔質高融点金属材料で製作され」とはこのことを意味している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図3は本発明に係るガス放電灯の好ましい実施形態を示し、これは100W高圧水銀ランプに適用した例である。ガス放電灯では例えば透明石英ガラス製のバルブ10の両端に陰極口金11及び陽極口金12が設けられ、又バルブ10の中間にはガス封入部17が形成され、ガス封入部17内には例えば水銀20mgとグロー放電始動用の希ガスであるアルゴンガス266×10^(2)Pa(200torr)とが封入されている。
【0020】
バルブ10のガス封入部17には陰極14と陽極13とが相互に対向して配設されてバルブ10に支持され、陰極14及び陽極13は接続金属導体、例えばモリブデン箔16、15によって口金11、12の外部端子に接続されており、外部端子間に電圧を印加することによって陰極14と陽極13との間にグロー放電が起こり、水銀が蒸発した時にグロー放電からアーク放電に移行し、アーク放電が維持されるようになっている。
【0021】
陽極は例えばタングステンを用いて断面ほぼ円形の棒状に製作されている。また、陰極14は陰極本体140と基体141とから構成され、基体141は高融点金属材料、例えばモリブデンを用いて製作されている。この基体141は全体が例えば1.8mm径の断面ほぼ円形の棒状をなし、先端部は円錐台状にテーパー加工され、その先端面には嵌込み凹部141Aが凹設されている。
【0022】
陰極本体140は例えば易電子放出物質、例えばバリウムを含有する多孔質高融点金属材料、例えば多孔質タングステンを用いてほぼ円柱状に製作され、先端部分は円錐尖頭状にテーパー形成されている。この陰極本体140は基体141の嵌込み凹部141A内に嵌め込まれて固定され、こうして陰極14の先端部分は円錐尖頭状に形成されている。」

(2)上記(1)から、引用文献1には、
「先端部分が尖頭状に形成され高融点金属材料の粉体と易電子放出物質の粉体とを混合して焼結した陰極本体と高融点金属材料を用いて製作されている基体とから構成されたガス放電灯の陰極であって、この陰極本体は基体の嵌込み凹部内に嵌め込まれて固定され、この基体は全体が断面ほぼ円形の棒状をなし、先端部は円錐台状にテーパー加工され、その先端面には嵌込み凹部が凹設されているガス放電灯の陰極。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2002-260589号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、互いに対向位置する陰極および陽極の他に少なくともキセノンから成る封入物を含む放電管を備え、陰極が陽極側の円錐状端部部分を有し、陽極が円筒状中央部分と陰極側の円錐台状端部部分とを有するショートアーク形高圧放電ランプに関する。」

(2)「【0011】寿命期間全体に亘って最適な輝度分布を得るために、陰極の円錐状端部部分の先端部が半球に形成され、その半球の半径R(mm)が関係式0.12×P+0.1≦R≦0.12×P+0.5(但し、Pはランプ電力(kW)である。)を満たしていると有利である。半球の直径が大きすぎると輝度が僅少になり、一方半球の直径が小さすぎると強い陰極燃焼による陰極消耗が生じる。」

(3)上記(1)及び(2)から、引用文献2には、
「円錐状端部部分の先端部が半球に形成されたショートアーク形高圧放電ランプの陰極。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

第4 対比・判断
1 対比
本願発明と引用発明1を対比すると、次のことがいえる。

(1)引用発明1の「先端部分が尖頭状に形成され高融点金属材料の粉体と易電子放出物質の粉体とを混合して焼結した陰極本体」は、本願発明の「一端に尖頭を有する電子放出部焼結体」に、引用発明1の「高融点金属材料を用いて製作されている基体」は、本願発明の「高融点金属製母材」に、引用発明1の「ガス放電灯の陰極」は、本願発明の「放電ランプ用陰極」に、それぞれ相当し、引用発明1の「この陰極本体は基体の嵌込み凹部内に嵌め込まれて固定」と、本願発明の「前記電子放出部焼結体の前記一端に対向する他端が、前記高融点金属製母材の先端部に埋設あるいは溶接」とは、「前記電子放出部焼結体の前記一端に対向する他端が、前記高融点金属製母材の先端部に埋設」の点で一致する。

(2)引用発明1において「陰極本体」は「先端部分が尖頭状に形成され」ており、「基体は全体が断面ほぼ円形の棒状をなし、先端部は円錐台状にテーパー加工され、その先端面には嵌込み凹部が凹設され」、「この陰極本体は基体の嵌込み凹部内に嵌め込まれて固定され」ているので、「陰極本体と」「基体とから構成されたガス放電灯の陰極」は、針状にとがっている形状・構造であるものと認められる。
そうすると、引用発明1の「『陰極本体と』『基体とから構成されたガス放電灯の陰極であって、』『基体は全体が断面ほぼ円形の棒状をなし、』『陰極本体』の『先端部分が尖頭状に形成され』」は、本願発明の「放電ランプ用陰極は針状にとがっている形状・構造である」に、相当する。

(3)上記(1)及び(2)から、本願発明と引用発明1との間には、次の一致点、相違点がある。

(一致点)
「一端に尖頭を有する電子放出部焼結体と高融点金属製母材とからなる放電ランプ用陰極であって、前記電子放出部焼結体の前記一端に対向する他端が、前記高融点金属製母材の先端部に埋設され、前記放電ランプ用陰極は針状にとがっている形状・構造である放電ランプ用陰極。」

(相違点)
放電ランプ用陰極が、本願発明では「前記尖頭の先端は、前記尖頭の先端角度が95°の円錐立体角を有し、前記尖頭の先端部形状が半球状であり、かつこの半球寸法半径が0.05mm?0.5mmである」のに対し、引用発明1ではそのような特定がない点。

2 判断
引用文献2には、上記相違点の構成は記載されていないから、上記相違点は、引用発明1に引用文献2に記載された技術を採用して容易に想到し得たものではない。そして、本願発明は上記相違点の構成を備えることで、「易電子放射物質を含浸させた含浸型電極である電子放出部焼結体からなる放電ランプ用陰極において、陰極からの安定した電子放出を実現し、長寿命で高安定な放電を維持すると伴に、高輝度の放電ランプ用陰極を提供することができる。」という本願明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び拒絶査定の判断
原査定は、請求項1に係る発明について、上記引用文献1に記載の発明において、上記引用文献2に記載の発明を採用することにより、当業者が容易に想到しうるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。しかしながら、上記のとおり、平成29年10月25日付けの手続補正で補正された請求項1に係る発明は、上記引用文献1に記載の発明及び上記引用文献2に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、特許法第36条第6項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとの拒絶理由を通知しているが、平成29年10月25日付けの手続補正で補正された結果、この拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2012-185220(P2012-185220)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01J)
P 1 8・ 121- WY (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 祐樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 野村 伸雄
松川 直樹
発明の名称 放電ランプ用陰極  
代理人 特許業務法人 松原・村木国際特許事務所  

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