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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1335416
審判番号 不服2014-23430  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-17 
確定日 2017-12-13 
事件の表示 特願2010-501592「保護装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月 9日国際公開、WO2008/120005、平成22年 7月15日国内公表、特表2010-523190〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年(2008年) 4月 3日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2007年 4月 3日(以下,「優先日」という。),英国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成24年10月12日付け 拒絶理由の通知
平成25年 2月13日 意見書、手続補正書の提出
平成25年11月15日付け 拒絶理由(最後)の通知
平成26年 4月10日付け 応対記録
平成26年 5月19日 意見書、手続補正書の提出
平成26年 7月11日付け 補正却下、拒絶査定
平成26年11月17日 審判請求書の提出
平成27年 1月 6日 手続補正書(審判請求理由の補充)の提出
平成28年 6月 7日付け 拒絶理由の通知(当審)
平成28年11月14日 意見書、手続補正書の提出
平成28年11月29日 上申書の提出
平成28年12月19日付け 拒絶理由の通知(当審)
平成29年 6月 9日 意見書、手続補正書の提出


第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1?15に係る発明は、平成29年 6月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載されたとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の通りである。

【請求項1】
保護装置の操作方法であって、前記保護装置は消毒チャンバーを有し、
該チャンバーから流体を排出する前に、UV線源に曝すことにより該チャンバー内で該流体を消毒及び/又は滅菌する工程を含み、
前記UV線源のUV照射線量が5?200J/m^(2)の範囲である、方法。


第3 当審の拒絶理由の概要
平成28年12月19日付けの当審の拒絶理由は、本願発明について、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。


引用文献1:特公平4-14990号公報
引用文献2:向阪信一 他,”紫外放射による殺菌作用”,1992年, 照明学会誌第76巻,第7号,p.49-51
( 参考:インターネット
<https//www.jstage.jst.go.jp/article/jieij1980/76/7
/ 6_7_361/_pdf > 参照)
引用文献3:特公昭59-40028号公報
引用文献4:特開2000-116758号公報


第4 当審の判断
当審は、上記拒絶の理由のとおり、本願発明は、引用文献1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 引用文献の記載事項
引用文献1?4には、以下の事項が記載されていると認められる。

(1)引用文献1
1a「1 赤外線、紫外線、熱などの放射を遮断する絶縁物からなる縦長の筐体1から構成され、上記筐体の下部および上部にはそれぞれ赤外線ランプ2および紫外線ランプ(UVA-UVB-UVC)3を収容し、上記筐体の壁面には、処理すべき空気を対流の作用により取り込むための吸気口4を上記赤外線ランプの高さの位置に設け、処理済み空気の排気口5を上記吸気口よりも高い位置に設け、さらに、上記排気口を上記筐体の中間の高さに設けて上記排気口よりも上方に空気溜まり6を形成することにより上記空気溜まり内部に空気を閉じ込めてより長時間にわたつて上記ランプの照射作用を受けさせるとともにこの空気の一部を処理済み空気に混合するように構成したことを特徴とし、アレルギー征圧を目的として空気中に存在する細菌その他の物質を弱体化させ、変性させ、または弱体化させるとともに変性させる装置。」(請求項1)

1b「3 上記吸気口4および上記排気口5の直径を任意の大きさに設定する構成、上記吸気口と上記排気口の直径を自由に代える構成、上記吸気口と上記排気口との配置間隔を任意に設定する構成、およびこの配置間隔を自由に変えられるような構成の少なくともひとつの構成により、空気に対する上記ランプの照射時間を調節できるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のアレルギー征圧を目的として空気中に存在する細菌その他の物質を弱体化させ、変性させ、または弱体化させるとともに変性させる装置。」(請求項3)

1c「5 上記筐体1内部に配置したベンチレータから構成される強制空気循環装置を設けることにより、空気に対するランプの照射時間を調節できるようにしたことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載のアレルギー征圧を目的として空気中に存在する細菌その他の物質を弱体化させ、変性させ、または弱体化させるとともに変性させる装置。」(請求項5)

1d「本発明は、アレルギー征圧を目的として空気中に存在する細菌その他の物質(バクテリア、ウイルス、胞子などのアレルゲン物質を含む)を弱体化させおよび/または変性させる装置に関する。すなわち、本発明の装置は、健康に寄与すべく案出される装置の分野に属し、特に、使用者自身が簡単に操作できるような構成を備えたものである。」(3欄39行?4欄2行)
1e「[従来の技術]
従来知られている通り、多くの病気、特に呼吸器系の病気は、空気中に浮遊する細菌その他の物質に起因するものであり、これらの細菌や物質は免疫機能の弱まつたおよび/または免疫機能に何らかの傷害を受けた人間に吸入されると、人体を攻撃して種々の病理症状を引き起こし、健康を損ねることになる。」(4欄3行?10行)

1f「[問題点を解決するための手段]
本発明の目的は、・・・ アレルギー征圧を目的として空気中に存在する細菌その他の物質を弱体化させおよび/または変性させる装置を提供することである。
・・・・・
[発明の効果]
上述したように、本発明による装置は、細菌その他の物質を弱体化したり、我々が呼吸する空気中に浮遊する物質を変性させたりすることによつて環境に働きかけ、人間の健康を冒すアレルギーやその他の病気の要因の大部分を除去し大幅に減衰させ、攻撃要因による生体の侵害作用をより有効に阻止する手段を提供するものである。これらの効果に加えて、本装置の連続使用により、肉体の抵抗力強化が促進され、予防接種と同等の効果をあげるとともに、家庭内空気の清浄化にも役立つものである。」(4欄18行?5欄7行)

1g「[実施例]
以下、図面を参照して本発明によるアレルギー征圧を目的として空気中に存在する細菌その他の物質(バクテリア、ウイルス、胞子などのアレルゲン物質を含む)を弱体化させおよび/または変性させる装置について説明する。第1図において、上記装置は、赤外線および紫外線放射などを遮断する物質からなる縦長の筐体1から構成され、赤外線ランプ2および紫外線ランプ(UVA-UVB-UVC)3がそれぞれ筐体1の下部および上部に収容されている。筐体1の壁面には、赤外線ランプの高さに吸気口4が設けられている。この吸気口4を通して、処理すべき空気が対流により取り込まれる。吸気口4より高い位置に排気口5が設けられている。この排気口5を、筐体1の壁面の中間の高さに設けて筐体1内部の排気口5よりも上方の位置に空気溜まり6を構成する。この空気溜まり6内部に留まつた空気はより長時間にわたつてランプの照射作用を受けることになる。この空気の一部分ベンチュリ管によつて滞留しない処理済み空気の流れに混合され、このようにして、装置から放出される空気の状態を調節している。」(5欄13行?35行)

1h「処理すべき空気をランプからの照射にさらす時間を調節する他の方法としては、異なる出力定格のランプを設置することにより、空気に対して異なる強度で作用させるとともに、吸気口と排気口の間の空気の速度を早めたり遅くしたりして、処理すべき空気に対する装置の作用を所望のレベルに調節できるようにする方法がある。
装置内部の空気循環速度、ひいては空気をランプから発生する赤外線および紫外線放射にさらす時間を調節する別の方法としては、装置内に可変電気抵抗を設けて内部熱量を所望の循環速度に対応したレベルに調節するとともに細菌などの弱体化・変性を促進する方法がある。
同様の目的のために、強制空気循環システムを設けてもよい。これは、装置内部の適当当(当審注:原文のまま)な位置にベンチレータを設置して吸気口4から取り入れた空気を吸引するようにしたものである。」(6欄13行?29行)

1i「このようにして装置が稼働されたとき、装置内部の温度は上昇し、対流および/またはベンチレータの作用によつて、室内の空気は筐体内に吸引され、上述した調節手段によつて調節された期間のあいだランプからの赤外線および紫外線放射にさらされ、充分処理されたのち、すなわち、空気中に浮遊する細菌などの物質が破壊あるいは変性されたのち、室内に戻つてゆく。
装置の使用者が処理済みの空気を呼吸するにつれて、主に呼吸器系に作用するアレルギーや他の病気の誘因となる侵略的要素に対する抵抗力が増進してゆく。」(7欄23行?34行)

1j「


」(第1図)

(2)引用文献2
2a「 紫外放射による殺菌作用は、紫外放射が細菌などの細胞核内のデオキシリボ核酸(DNA)に損傷を与えることによって生じます。・・・ 紫外放射による殺菌はDNAに損傷を与える作用を利用するため、微生物全般(細菌、カビ、ウィルスなど)に対して効果があります。」(49ページ左欄15行?22行)

2b「殺菌線を菌に照射した場合、生存菌数は照射時間に応じて指数関数的に減少します。例えば、生存菌数を10分の1にするのに照射時間が10秒かかったとすると、次の10秒でさらに10分の1になり、合計20秒の照射で100分の1になるといった具合いです。これを式で表わすと、次のようになります。
S=N/N_(0)=10^((-Et/D))
ここで、S:菌の生存率
N_(0):殺菌線照射前の生存菌数
N:殺菌線照射後の生存菌数
E:殺菌線の放射照度[W / m^(2)]
t:照射時間[sec]
D:D値(菌数を10分の1にする殺菌線エネルギー[J / m^(2)]) 殺菌効果は、殺菌線の放射照度E[W / m^(2)]と照射時間t[sec]の積(殺菌線の照射エネルギー[J / m^(2)])で決まり、同じ殺菌効果を得るためには、照射エネルギーを等しくすればよいことがわかります。また殺菌線に対する菌の感受性は、種類と環境条件によって異なり、ふつうD値(菌数を10分の1にする殺菌線エネルギー)で表わします。代表的な微生物のD値を表1に示します。一般に、細菌よりもカビのほうがD値が大きく(殺菌線に対して強く)、同じ細菌でも乾燥状態より水中の方がD値が大きくなります。
図3は、セラチア菌に照射エネルギーを変えて殺菌線を照射した時の、菌の成育状態を示したものです。
・・・
殺菌線を照射された菌は、DNAの損傷を受け活性を失っていますが、この菌に可視光線や近紫外線(UV-A)を照射すると、DNAが修復され再び活性化することが知られています。この現象は、光回復と呼ばれており、光放射のもつ不思議な効果の一つです。光回復は、菌の種類や光の照射量によっても異なりますが、光回復効果がある条件で殺菌を行うためには、殺菌線照射量を2?3倍にしなければならないという報告もあります。・・・」
(50ページ左欄21行?右欄9行)

2c「



2d 51ページの図3には、セラチア菌に対するUV殺菌効果に関して、UV照射エネルギ-が、15.8[J / m^(2)]、47.4[J / m^(2)]、94.8[J / m^(2)]に対して、それぞれ64%、98%、99%以上の殺菌率が得られたことが示されている。


(2)引用文献3
3a「・・・日光による消毒について・・・・「経験的」に使用されて来た。これは、太陽光線中の紫外線を利用したものであって、細菌が紫外線を受けることによりその細胞内の核酸が化学変化を起こし、その新陳代謝に障害をきたし、まず、不活生化して増殖能力を失い、その紫外線の照射量が多い場合には破壊して死滅してしまう。
これを応用したのが紫外線ランプである・・・」(4欄7行?15行)

3b「紫外線殺菌は、薬剤等による殺菌と異なり、全ての細菌に有効である。しかし、菌の種類により紫外線に対する抵抗力に差が有り、飲食物の汚染指標とされている大腸菌を99.9%殺すのに必要な紫外線量は90μW・min/cm^(2)で、例えば、殺菌線照度が90μW/cm^(2)のときは1分間照射、45μW/cm^(2)なら2分間照射すれば良い。これを、他の菌について以下に挙げる。
(当審注 1μW・min/cm^(2) =0.6J/m^(2))
(100μW・sec/cm^(2) = 1J/m^(2)))

菌 種 μW・min/cm^(2)
(1) グラム陰性菌
変 型 菌 63
赤 痢 菌(志賀菌) 71
赤 痢 菌(駒込BIII菌) 72
チフス菌 74
大腸菌 90
(2) グラム陽性菌
溶血連鎖球菌(A群) 124
白色ブドウ球菌 151
黄色ブドウ球菌 155
溶血連鎖球菌(D群) 176
腸 球 菌 248
馬鈴薯菌 299
同 上(胞子) 468
枯 草 菌 360
同 上(胞子) 554
結核菌 250
(3)酵 母 類
日本酒酵母 326
ビール酵母 314
生姜酵母 351
ウイリヤ属酵母 630
ピヒヤ酵母 640
(4)か び
緑色胞子(チーズ類に繁殖) 650
オリーブ色胞子(りんご、果物) 650
オリーブ胞子(みかん) 2,200
黒色胞子(全食品) 6,600
黄緑色胞子(穀物、土) 3,000
青緑色胞子(土、穀物、干草) 2,200
黒色胞子(果物、野菜) 5,550
灰白色胞子(肉) 850
白色胞子(クリーム、バター) 250
のごとくである。」(8欄39行目?9欄37行)

(4)引用文献4
4a「【0004】 細菌を99.9%殺菌するのに必要な殺菌線量
殺菌線は,細菌・かび・酵母・ヴィールス等に効果を期待できる。生存率をある一定の値にするための紫外線の照射量は,波長のほかに菌種・菌株の環境条件(温度,湿度など)によって異なる。波長250?260nmの紫外線によって生存率を0.1%とするために必要な照射量を各種の菌について求めたものを示すと、表1の通りである。
・・・
【0006】 表1は、常温・常湿の場合で、湿度が高くなると,菌の抵抗力が増すので,相対湿度が100%に近い場合は,表1の値の2倍程度の照射量が必要となる。
【0007】 紫外線で細菌がどのようにして死ぬかといえば,細菌が殺菌線によって照射された結果,細胞内の核酸(DNA)が変化し,新陳代謝に障害をきたし,不活性化して増殖力を失い死ぬといわれ,大きな照射量を与えられた場合は,細胞破壊を起こして死ぬといわれている。」

4b「 【表1】




2 引用文献1に記載された発明
摘記1d、摘記1g?1iによれば、引用文献1には、空気中に存在する細菌その他の物質を弱体化させおよび/または変性させる装置を操作する方法が記載されているといえる。
そして、摘記1a、1g、1h、1jなどによれば、上記装置は、筐体1に空気溜まり6を有し、当該空気溜まりにおいて紫外線ランプ3の照射に空気をさらすものである。その結果、空気中の細菌などの弱体化および/または変性が行われ、その後、空気溜まり6から空気が放出されるものである。
そうすると、本願発明の記載に則して整理すると、引用文献1には、
「装置の操作方法であって、前記装置は筐体を有し、
該筐体から空気を放出する前に、紫外線ランプの照射にさらすことにより該筐体内で該空気中に存在する細菌その他の物質を弱体化および/または変性する工程を含む、方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
本願発明の「保護装置」の「保護」に関して、本願明細書の「本発明は、フェイスマスク等の保護装置に関する。この装置は、感染から使用者を保護し、同時に今後の感染に対して使用者に免疫を与えることができる。」(【0001】)、「・・・手術用マスクは、直径5μm以下のサイズの粒子であるエアロゾルとして伝播する病原菌に対する保護には限界があるか、又は全く保護しない。」(【0006】)、「病原菌を含む空気媒介性微生物からの感染に対して、装置の使用者を保護する改良装置が必要とされている。この装置は、同時に使用者に免疫を与えることによって、その後の微生物への曝露に対して使用者を保護するのが好ましい。本発明では、空気中の微生物(群)を空気から物理的に取り除くのではなく無力化させる。「無力化させる」という用語は、微生物の病原性及び/又は毒性の低減を包含する。」(【0009】)などと記載されているから、本願発明の「保護」とは、微生物を「無力化」して、使用者の感染を防止するという意味を含むものであるといえる。
一方、引用発明の「装置」は、摘記1a、1d?1fなどによれば、細菌やその他の物質を吸引すると、人体に種々の病理症状を引き起こし、健康を損ねるので、これを防止するために、細菌その他の物質を「弱体化させおよび/または変性させ」ることで、「人間の健康を冒すアレルギーやその他の病気の要因の大部分を除去し大幅に減衰させ、攻撃要因による生体の侵害作用をより有効に阻止する手段を提供」するものであるから、細菌等の弱体化、又は変性により、細菌等の感染力や繁殖力が弱くなることが技術常識であることを考慮すれば、細菌その他の物質を弱体化および/または変性する引用発明の装置は、本願発明と同様に、細菌等の感染を防止して使用者に保護を与える機能を有するといえる。
そうすると、引用発明における「装置」は、本願発明の「保護装置」に相当する。

次に、本願発明の「消毒及び/又は滅菌する」ことに関して、本願明細書において、「「消毒」という用語は、存在する微生物の感染力を低減することを意味する」(【0024】)、「「滅菌」という用語は、存在する微生物の繁殖力を取り除くことを意味する」(【0025】)と記載され、さらに、「「消毒」及び「滅菌」」という用語は、「不活性化」という用語に包含される。」(【0027】)と記載されている。
一方、引用発明の「細菌その他の物質を弱体化および/または変性する」とは、上記のとおり、細菌その他の物質の感染力や繁殖力を弱めることを含むから、細菌その他の物質を不活性化しているといえる。
そうすると、引用発明の「細菌その他の物質を弱体化および/または変性する」とは、本願発明の「消毒及び/又は滅菌する」に相当するといえる。

そして、引用発明の「筐体」、「空気」、「放出」、「紫外線ランプの照射」は、本願発明の「消毒チャンバー」、「流体」、「排出」、「UV線源に曝すこと」にそれぞれ相当する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは、
「保護装置の操作方法であって、前記保護装置は消毒チャンバーを有し、
該チャンバーから流体を排出する前に、UV線源に曝すことにより該チャンバー内で該流体を消毒及び/又は滅菌する工程を含む、方法。」
の点で一致し、以下の点でのみ相違している。

(相違点)
本願発明は、「UV線源のUV照射線量が5?200J/m^(2)の範囲である」ことが特定されているのに対し、引用発明は、UV線源である紫外線ランプによる紫外線照射量は明らかでない点。

4 相違点についての判断
上記相違点について検討する。
引用発明において、上記3に記載したように、引用発明の「細菌その他の物質を弱体化および/または変性」させることは、細菌その他の物質を不活性化することであって、摘記2a、摘記3a、摘記4aによれば、微生物などに対する紫外線照射は、細菌などの細胞核内のDNAに損傷を与えることで、細菌などが増殖力を失って不活性化することを意味しているといえる。
そうすると、引用発明の紫外線の照射線量は、微生物が完全に殺滅除去された状態である「滅菌」を意味する照射線量までではないことは明らかであって、「微生物(群)の抗原が完全に破壊され」た状態(平成29年6月9日意見書「<3>本願が特許されるべき理由(1)理由1について」の欄 参照)ではなく、引用発明は、細菌を完全に破壊することを必ずしも要求するものではない。

次に、周知技術を示すために提示した文献である引用文献2?4をみると、摘記2b、2cには、生存菌数を10分の1にするUV照射線量、摘記3b、4bには、99.9%殺菌するのに必要なUV照射線量が記載されている。
これらの紫外線の照射線量を参照すると、上記相違点に係るUV照射線量は、細菌などの不活性化技術において、周知慣用の範囲に含まれるものであって、実際に、摘記2b、2c、3b、4bに記載される菌等に対する照射線量として「5?200J/m^(2)」のものが多数存在している。
例えば、摘記2cでは、以下のとおりである。
・「腸チフス菌」の D値(菌数を10分の1にする殺菌線エネルギー[J /m^(2)])は「21.4」
・「大腸菌」のD値は、「36.0(培養基上)、60.0(水中)」
・「破傷風菌」のD値は「49.0」
・「結核菌」のD値は、「100」

そして、不活性化に際して紫外線の照射線量をどの程度に設定するかは、摘記2b、2c、3b、4bなどの記載、及び技術常識によれば、空気中に存在する細菌などの種類、温度、湿度などの装置の使用環境、及びどの程度まで細菌などを不活性化させるかなどに応じて決定すべきものであるといえるから、引用発明において、アレルギーやその他の病気の要因の大部分を除去し大幅に減衰させ、また、予防接種と同等の効果を上げるために、細菌その他の物質を弱体化させおよび/または変性させるに際して、装置の使用環境に応じて紫外線の照射線量を最適化することは、当業者が当然に行うことにすぎない。

したがって、不活性化を行う紫外線の照射線量の周知慣用の範囲内である、上記相違点に係る「5?200J/m^(2)」のUV照射線量を設定することに格別の困難性は見出せない。

よって、本願発明は、引用文献1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


5 請求人の主張及び本願発明の効果について
請求人は、平成29年 6月 9日付け意見書において、「本願発明は、使用者に免疫を与えることによって、その後の微生物への曝露に対して使用者を保護する」ことを課題・目的とし、流体を消毒及び/又は滅菌し、当該流体および抗原に曝された使用者は、当該抗原に対する免疫を獲得することができるものであるのに対して、引用発明は、アレルギー征圧を目的とする点で本願発明と全く異なり、引用発明の装置により、空気中に浮遊する細菌などの物質は破壊あるいは変性されているため、当該空気はアレルギー反応を起こさない程度に充分清浄化され、アレルギー反応が起こらない、という意味においては、見かけ上は「予防接種と同様の効果をあげる」ものであると主張している。
しかし、上記4で記載したとおり、引用発明は、細菌を完全に破壊することを必ずしも要求するものではない。
また、摘記1fに「本発明による装置は、細菌その他の物質を弱体化したり、我々が呼吸する空気中に浮遊する物質を変性させたりすることによつて環境に働きかけ、人間の健康を冒すアレルギーやその他の病気の要因の大部分を除去し大幅に減衰させ、攻撃要因による生体の侵害作用をより有効に阻止する手段を提供する」、さらに「これらの効果に加えて、本装置の連続使用により、肉体の抵抗力強化が促進され、予防接種と同等の効果をあげる」と記載され、摘記1iに「処理済みの空気を呼吸するにつれて、主に呼吸器系に作用するアレルギーや他の病気の誘因となる侵略的要素に対する抵抗力が増進してゆく。」と記載されているのであるから、引用発明が、アレルギーを征圧するという効果に加えて、使用者の抵抗力、すなわち、免疫力が増加するという効果も奏することを示唆しているといえる。
したがって、本願発明の、使用者が抗原に対する免疫を獲得するという効果は、引用文献1の記載から当業者であれば予測可能なものといえる。

よって、請求人の主張は採用できない。


第5 結び
以上のとおりであるから、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-14 
結審通知日 2017-07-18 
審決日 2017-08-01 
出願番号 特願2010-501592(P2010-501592)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 吾一  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 中澤 登
後藤 政博
発明の名称 保護装置  
代理人 川口 嘉之  
代理人 丹羽 武司  
代理人 佐貫 伸一  

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