ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02C 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02C 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 F02C |
---|---|
管理番号 | 1335434 |
審判番号 | 不服2016-16269 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-01 |
確定日 | 2017-12-13 |
事件の表示 | 特願2012- 44910「高温ガス経路部品及び高温ガス経路タービン部品を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月27日出願公開、特開2012-184763〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年3月1日(パリ条約による優先権主張2011年3月7日、アメリカ合衆国)の出願であって、平成24年4月13日に明細書、特許請求の範囲及び図面についての翻訳文が提出され、平成27年2月27日に特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、平成28年1月29日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月9日に意見書が提出されるとともに明細書について補正する手続補正書が提出されたが、平成28年6月29日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成28年11月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、平成28年12月13日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出されたものである。 第2 平成28年11月1日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成28年11月1日付けの手続補正を却下する。 [理由1] 1 補正の内容 平成28年11月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年2月27日に提出された手続補正書により補正された)下記の(1)の記載を下記の(2)の記載に補正するものである。 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし8 「【請求項1】 タービン(100)の高温ガス経路部品(200、300)を製造する方法であって、当該方法が、 部材(202、302)の表面内に冷却チャンネル(206、308)を形成するステップと、 前記部材(202、302)の表面(204、304)に層(208、402)を配置して前記冷却チャンネル(206、308)を包囲するステップであって、該層(208、402)が部材(202、302)の冷却すべき部分に配置されるステップと、 前記層(208、402)を前記表面(204、304)に接合するステップであって、前記部材(202、302)及び前記層(208、402)を加熱することを含むステップと を含んでおり、前記層(208、402)を接合するステップが、前記層(208、402)と前記表面(204、304)との間にろう付けフィラー金属を配置し、前記層(208、402)、前記部材(202、302)及び前記ろう付けフィラー金属を所定温度まで加熱するステップを含む、方法。 【請求項2】 前記所定温度が1800°F(982℃)よりも高い温度を含む、請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記ろう付けフィラー材料が金属箔を含む、請求項1又は請求項2記載の方法。 【請求項4】 前記冷却チャンネル(206、308)を形成するステップが、前記部材(202、302)内に冷却チャンネル(206、308)を機械加工又はインベストメント鋳造するステップを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。 【請求項5】 前記層(208、402)を配置するステップが、0.8mm未満の厚さ(216)を有して前記層(208、402)を配置するステップを含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。 【請求項6】 冷却チャンネル(206、308)が表面(204、304)内に形成された部材(202、302)と、 前記部材(202、302)の表面(204、304)上に配置されて前記冷却チャンネル(206、308)を包囲する層(208、402)であって、前記層(208、402)の厚さ(216)が0.8mm未満であり、前記部材(202、302)及び前記層(208、402)を加熱することにより前記表面(204、304)に接合される層(208、402)と、 前記層(208、402)と前記表面(204、304)との間に配置されたろう付けフィラー金属と を備える高温ガス経路部品。 【請求項7】 前記ろう付けフィラー金属、前記部材(202、302)及び前記層(208、402)が、2125°F(1163℃)よりも高い所定温度まで加熱される、請求項6記載の部品。 【請求項8】 前記冷却チャンネル(206、308)が、前記部材(202、302)内に前記冷却チャンネル(206、308)をインベストメント鋳造すること、前記部材(202、302)内に前記冷却チャンネル(206、308)を機械加工すること、及び水ジェットを用いることからなる群から選択される手段で形成される、請求項6又は請求項7記載の部品。」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし8 「【請求項1】 タービン(100)のシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品(200、300)を製造する方法であって、当該方法が、 部材(202、302)の表面内に冷却チャンネル(206、308)を形成するステップと、 前記部材(202、302)の表面(204、304)に層(208、402)を配置して前記冷却チャンネル(206、308)を包囲するステップであって、該層(208、402)が部材(202、302)の冷却すべき部分に配置されるステップと、 前記層(208、402)を前記表面(204、304)に接合するステップであって、前記部材(202、302)及び前記層(208、402)を加熱することを含むステップと を含んでおり、前記層(208、402)を接合するステップが、前記層(208、402)と前記表面(204、304)との間にろう付けフィラー金属を配置し、前記層(208、402)、前記部材(202、302)及び前記ろう付けフィラー金属を所定温度まで加熱するステップを含む、方法。 【請求項2】 前記所定温度が1800°F(982℃)よりも高い温度を含む、請求項1記載の方法。 【請求項3】 前記ろう付けフィラー材料が金属箔を含む、請求項1又は請求項2記載の方法。 【請求項4】 前記冷却チャンネル(206、308)を形成するステップが、前記部材(202、302)内に冷却チャンネル(206、308)を機械加工又はインベストメント鋳造するステップを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。 【請求項5】 前記層(208、402)を配置するステップが、0.8mm未満の厚さ(216)を有して前記層(208、402)を配置するステップを含む、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。 【請求項6】 冷却チャンネル(206、308)が表面(204、304)内に形成された部材(202、302)と、 前記部材(202、302)の表面(204、304)上に配置されて前記冷却チャンネル(206、308)を包囲する層(208、402)であって、前記層(208、402)の厚さ(216)が0.8mm未満であり、前記部材(202、302)及び前記層(208、402)を加熱することにより前記表面(204、304)に接合される層(208、402)と、 前記層(208、402)と前記表面(204、304)との間に配置されたろう付けフィラー金属と を備える、タービン(100)のシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品。 【請求項7】 前記ろう付けフィラー金属、前記部材(202、302)及び前記層(208、402)が、2125°F(1163℃)よりも高い所定温度まで加熱される、請求項6記載の部品。 【請求項8】 前記冷却チャンネル(206、308)が、前記部材(202、302)内に前記冷却チャンネル(206、308)をインベストメント鋳造すること、前記部材(202、302)内に前記冷却チャンネル(206、308)を機械加工すること、及び水ジェットを用いることからなる群から選択される手段で形成される、請求項6又は請求項7記載の部品。」(下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。) 2 本件補正の目的 本件補正は、請求項1についてみると、本件補正前の請求項1に記載した発明における「タービンの高温ガス経路部品」という発明特定事項を、「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」という発明特定事項にし、タービンの高温ガス経路部品の種類を限定するものである。 したがって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、実質的に、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであるとともに、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)引用刊行物 ア 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開昭64-15328号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、次の事項が記載されている。なお、促音、拗音は小文字で記した。 (ア)「〔産業上の利用分野〕 本発明は積層冷却耐熱合金板を用いたガスタービン燃焼器の拡散熱処理方法に関する。 〔従来の技術〕 第4図に従来公知のガスタービン燃焼器内筒の一例を示す。同図(a)は全体図、(b)はV-V矢視断面図である。円筒1、3、および円錐4、5、6をルーバ(louver)2を介して、それぞれA、B部でスポット溶接し、スリットCを有する尾筒接続筒7をD部でスポット溶接してガスタービン燃焼器内筒を作る。 第1図は第4図の燃焼器を改良したものであり、ニッケルろう付積層耐熱合金板を用いたガスタービン燃焼器内筒の一例である。同図(a)は全体図、(b)、(c)、(d)はそれぞれI-I、II-II、III-III矢視断面図である。溶接成形された積層耐熱合金板からなる5個の円筒をそれぞれ隣接する円筒に、例えばE部で周溶接したものである。 燃焼用空気は穴Fから、冷却用空気は穴Gから流入して細溝Hを経て穴Jから燃焼器内筒に流入する。2枚の耐熱合金板は接触面Kでろう付されている。穴Lは設計条件によって、燃焼ガスの希釈用として設けられる。 この第1図のガスタービン燃焼器内筒は第4図のものと比較して次の点で優れている。即ち、 (1) 冷却空気により板の両面を冷却する。 (2) 伝熱面積が大きく熱伝達効率が高い。 (3) このため冷却効果が増大し、冷却空気量を減少させることができる。 (4) 温度分布の不均一、局部過冷却がなくなる。 (5) スポット溶接に伴う強度低下部がない。 等の効果を得ることができる。 なお第2図はNiろう付積層耐熱合金板を使用したガスタービン燃焼器尾筒の一例である。同図(a)は全体図、(b)はIV-IV矢視断面図、(c)はM部拡大図である。3次元に成形された尾筒8はK面でろう付された板9,10によって構成される上半部と、1枚の成形板11とをN部で溶接して形成される。」(第1ページ左下欄第17行ないし第2ページ左上欄第16行) (イ)「(1) Niろう材によって接合された積層冷却耐熱合金板のミクロ組織は、第9図に示すように母材(A)、拡散層(B)、ろう接合部(C)、拡散層(B)、母材(A)の5層によって構成されている。拡散層とは、Niろうが加熱によりろう材中のNi、Cr、Si、Bなどが拡散現象によって母材に浸透して、母材とろうからなる合金を形成し、接合強度が高くなるが、この拡散が不十分なときには、接合強度が低くなる。〔顕微鏡写真ではろう材接合部にNi-Si-Bの共晶組織が残り、かつ、拡散層には拡散不十分な組織が非常に黒く(濃く)現出する。〕」(第2ページ右上欄第2ないし13行) (ウ)「〔実施例〕 表1に示す合金Xの薄板を用いて、第5図の燃焼器内筒の製作フローチャートに沿って試験片を作った。即ち、24×200×350mmの薄板にカッターを用いて深さ1.2mm、幅1.2mmの細溝を形成して細溝板となし、JIS Z 3265BNi-2の粉末ろう材を樹脂により厚さ約150μmのシート状に形成し、上記細溝板と0.8mmの板厚の上板との間にシート状ろう材を挟んでろう接合して積層冷却耐熱合金板材を製作した。この板材より、30?50×80?95mmの試験片を切り出し、曲げ半径約10mmで冷間曲げ加工を施した。」(第3ページ左下欄下から第3行ないし右下欄第10行) イ 上記ア及び図面の記載から分かること (ア)上記ア並びに第1図及び第2図の記載から、燃焼器の内筒ないし尾筒(その上半部)において、外側の耐熱合金板の表面内に細溝Hが形成され、外側の耐熱合金板の表面に内側の耐熱合金板を配置して前記細溝Hを包囲するとともに、該内側の耐熱合金板が外側の耐熱合金板の冷却すべき部分に配置されることが分かる。 (イ)上記ア並びに第1図及び第2図の記載から、内側の耐熱合金板を外側の耐熱合金板の表面に接合し、その際、外側の耐熱合金板及び内側の耐熱合金板を加熱することが分かる。 (ウ)上記ア並びに第1図、第2図及び第9図の記載から、内側の耐熱合金板を接合するにあたって、内側の耐熱合金板と表面との間にNiろう材を配置し、内側の耐熱合金板、外側の耐熱合金板及びNiろう材を加熱し、ろう付けを行うことが分かる。 (エ)上記ア並びに第1図、第2図及び第9図の記載、さらに、ろう付けに関する技術常識から、ろう付けの加熱温度は、例えば、Niろう材の融点より高く、外側及び内側の耐熱合金板の融点より低い、設定された温度(以下、「設定温度」という。)であることが分かる。 ウ 刊行物発明1 上記ア及びイを総合して、本願補正発明1の表現に倣って整理すると、引用刊行物には次の発明(以下、「刊行物発明1」という。)が記載されていると認められる。 <刊行物発明1> 「ガスタービンの燃焼器の内筒ないし尾筒を製造する方法であって、当該方法が、 外側の耐熱合金板の表面内に細溝Hを形成するステップと、 前記外側の耐熱合金板の表面に内側の耐熱合金板を配置して前記細溝Hを包囲するステップであって、該内側の耐熱合金板が外側の耐熱合金板の冷却すべき部分に配置されるステップと、 前記内側の耐熱合金板を前記表面に接合するステップであって、前記外側の耐熱合金板及び前記内側の耐熱合金板を加熱することを含むステップと を含んでおり、前記内側の耐熱合金板を接合するステップが、前記内側の耐熱合金板と前記表面との間にNiろう材を配置し、前記内側の耐熱合金板、前記外側の耐熱合金板及び前記Niろう材を設定温度まで加熱するステップを含む、方法。」 (2)対比 本願補正発明1と刊行物発明1とを対比すると、後者における「ガスタービン」は前者における「タービン」に相当し、以下同様に、「燃焼器の内筒ないし尾筒」は「高温ガス経路部品」に、「外側の耐熱合金板」は「部材」に、「細溝H」は「冷却チャンネル」に、「内側の耐熱合金板」は「層」に、「Niろう材」は「ろう付けフィラー金属」に、「設定温度」は「所定温度」に、それぞれ相当する。 また、刊行物発明1における「ガスタービンの燃焼器の内筒ないし尾筒」は、本願補正発明1における「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」に、「タービンの高温ガス経路部品」という限りにおいて一致する。 したがって、本願補正発明1と刊行物発明1とは、 「タービンの高温ガス経路部品を製造する方法であって、当該方法が、 部材の表面内に冷却チャンネルを形成するステップと、 前記部材の表面に層を配置して前記冷却チャンネルを包囲するステップであって、該層が部材の冷却すべき部分に配置されるステップと、 前記層を前記表面に接合するステップであって、前記部材及び前記層を加熱することを含むステップと を含んでおり、前記層を接合するステップが、前記層と前記表面との間にろう付けフィラー金属を配置し、前記層、前記部材及び前記ろう付けフィラー金属を所定温度まで加熱するステップを含む、方法。」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 「タービンの高温ガス経路部品」に関し、 本願補正発明1においては、「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」であるのに対し、 刊行物発明1においては、「ガスタービンの燃焼器の内筒ないし尾筒」であり、シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択されるものではない点(以下、「相違点」という。)。 (3)判断 上記相違点について検討する。 刊行物発明1と略同様な冷却通路を備えるガスタービン構成部品は、燃焼器の内筒ないし尾筒に限られるものではなく、そのほかに種々のものがあることは周知である(以下、「周知事項」という。)。例えば、特開昭49-92413号公報(特に、第2ページ左下欄第13ないし18行及び第3図)、特開昭54-52215号公報(特に、第4ページ右上欄第6行ないし左下欄第14行、第2図及び第4図)、特開昭55-69704号公報(特に、第3図及び第4図)、特開2005-147132号公報(特に、段落【0009】)には、そのようなガスタービン構成部品として、シュラウド、ベーン、タービンバケット等が記載されている。刊行物発明1において、周知事項を適用ないし勘案して、相違点に係る本願補正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 補足すると、本願明細書には、例えば、「【0010】・・・一実施形態では、限定ではないが、シュラウド、ダイアフラム、ノズル、バケット及びトランジションピースを含む高温ガス経路部品は、・・・」、「【0015】・・・高温ガス経路に沿った例示的なタービン部品は、限定ではないが、シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムを含む。・・・」と記載されており、本願補正発明1が、「シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される」と範囲を限定したことに格別の技術的意義はない。 そして、本願補正発明1は、全体としてみても、刊行物発明1及び周知事項から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 したがって、本願補正発明1は、刊行物発明1及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 (4) まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。 [理由2] 1 補正の内容 理由1の1に記載したとおり、本件補正は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成27年2月27日に提出された手続補正書により補正された)(1)の記載を(2)の記載に補正するものである。 2 本件補正の目的 本件補正は、請求項6についてみると、本件補正前の請求項6に記載した発明における「高温ガス経路部品」という発明特定事項を、「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」という発明特定事項にし、高温ガス経路部品の種類を限定するものである。 したがって、特許請求の範囲の請求項6についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項6に係る発明の発明特定事項を限定したものであるとともに、本件補正前の請求項6に記載された発明と本件補正後の請求項6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項6に係る発明(以下、「本願補正発明6」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。 3 独立特許要件 (1)引用刊行物 ア 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用刊行物(特開昭64-15328号公報)には、理由1の3(1)アに記載したとおりの事項が記載されている。 イ 上記ア及び図面の記載から分かること (ア)上記ア並びに第1図及び第2図の記載から、燃焼器の内筒ないし尾筒(その上半部)において、外側の耐熱合金板の表面内に細溝Hが形成され、外側の耐熱合金板の表面上に内側の耐熱合金板を配置して前記細溝Hを包囲するとともに、該内側の耐熱合金板が外側の耐熱合金板の冷却すべき部分に配置されることが分かる。 (イ)上記ア並びに第1図及び第2図の記載から、外側の耐熱合金板を前記内側の耐熱合金板に接合し、その際、内側の耐熱合金板及び外側の耐熱合金板を加熱することが分かる。 (ウ)上記ア並びに第1図、第2図及び第9図の記載から、内側の耐熱合金板を接合するにあたって、内側の耐熱合金板と表面との間にNiろう材を配置し、内側の耐熱合金板、外側の耐熱合金板及びNiろう材を加熱し、ろう付けを行うことが分かる。 ウ 刊行物発明 上記ア及びイを総合して、本願補正発明6の表現に倣って整理すると、引用刊行物には次の発明(以下、「刊行物発明2」という。)が記載されていると認められる。 <刊行物発明2> 「細溝Hが表面内に形成された外側の耐熱合金板と、 前記外側の耐熱合金板の表面上に配置されて前記細溝Hを包囲する内側の耐熱合金板であって、前記外側の耐熱合金板及び前記内側の耐熱合金板を加熱することにより前記表面に接合される内側の耐熱合金板と、 前記内側の耐熱合金板と前記表面との間に配置されたNiろう材と を備える、ガスタービンの燃焼器の内筒ないし尾筒。」 (2)対比 本願補正発明6と刊行物発明2とを対比すると、後者における「細溝H」は前者における「冷却チャンネル」に相当し、以下同様に、「外側の耐熱合金板」は「部材」に、「内側の耐熱合金板」は「層」に、「Niろう材」は「ろう付けフィラー金属」に、「ガスタービン」は「タービン」に、「燃焼器の内筒ないし尾筒」は「高温ガス経路部品」に、それぞれ相当する。 また、刊行物発明2における「ガスタービンの燃焼器の内筒ないし尾筒」は、本願補正発明6における「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」に、「タービンの高温ガス経路部品」という限りにおいて一致する。 したがって、本願補正発明6と刊行物発明2とは、 「冷却チャンネルが表面内に形成された部材と、 前記部材の表面上に配置されて前記冷却チャンネルを包囲する層であって、前記部材及び前記層を加熱することにより前記表面に接合される層と、 前記層と前記表面との間に配置されたろう付けフィラー金属と を備える、タービンの高温ガス経路部品。」である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 「タービンの高温ガス経路部品」に関し、 本願補正発明6においては、「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」であるのに対し、 刊行物発明2においては、「ガスタービンの燃焼器の内筒ないし尾筒」であり、シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択されるものではない点(以下、「相違点1」という。)。 <相違点2> 本願補正発明6においては、「前記層の厚さが0.8mm未満」であるのに対し、 刊行物発明2においては、内側の耐熱合金板の厚さが特定されていない点(以下、「相違点2」という。)。 (3)判断 上記相違点について検討する。 <相違点1>について 刊行物発明2と略同様な冷却通路を備えるガスタービン構成部品は、燃焼器の内筒ないし尾筒に限られるものではなく、そのほかに種々のものがあることは周知である(すなわち、[理由1]における「周知事項」である。)。例えば、特開昭49-92413号公報(特に、第2ページ左下欄第13ないし18行及び第3図)、特開昭54-52215号公報(特に、第4ページ右上欄第6行ないし左下欄第14行、第2図及び第4図)、特開昭55-69704号公報(特に、第3図及び第4図)、特開2005-147132号公報(特に、段落【0009】)には、そのようなガスタービン構成部品として、シュラウド、ベーン、タービンバケット等が記載されている。刊行物発明2において、周知事項を適用ないし勘案して、相違点1に係る本願補正発明6の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 補足すると、本願明細書には、例えば、「【0010】・・・一実施形態では、限定ではないが、シュラウド、ダイアフラム、ノズル、バケット及びトランジションピースを含む高温ガス経路部品は、・・・」、「【0015】・・・高温ガス経路に沿った例示的なタービン部品は、限定ではないが、シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムを含む。・・・」と記載されており、本願補正発明6が、「シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される」と範囲を限定したことに格別の技術的意義はない。 <相違点2>について 本願補正発明6は、層の厚さについて0.8mm未満という数値範囲を限定しているが、本願明細書等をみても、上限値の0.8mmにどのような技術的意義があるのかについて(例えば、0.8mm内外の近傍における作用効果の定量的実証的差異)、特に説明がなく、かつ、該上限値に格別顕著な技術的意義があるとは認められない。また、ガスタービン燃焼室に関するが、引用刊行物(特に[理由1]3(1)ア(ウ))には、細溝板とろう接合される上板が0.8mmの板厚であると記載されていること、特開平7-27335号公報(段落【0020】等)には、平板状の耐熱耐食合金板11a及び溝付き耐熱耐食合金板11bについて、0.5?5mm板厚であると記載されていることからすると、0.8mmないしそれ未満の板厚のものは周知である(以下、「周知事項2」という。)とともに、この程度の数値は当業者にとって特別なものではない。さらに、ガスタービンの高温ガス経路部品の冷却性からみると、高温ガス経路に面する内側の耐熱合金板等の高温ガス経路部品の厚さは薄い方が好適であることは明らかであることを合わせ考えると、刊行物発明2において、内側の耐熱合金板等の高温ガス経路部品の厚さを0.8mm未満とすることは適宜採用する設計的事項にすぎない。 そして、本願補正発明6は、全体としてみても、刊行物発明2、周知事項及び周知事項2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 したがって、本願補正発明6は、刊行物発明2、周知事項及び周知事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができない。 (3) まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成28年11月1日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし8に係る発明は、明細書、平成27年2月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)及び本願の請求項6に係る発明(以下、「本願発明6」という。)は、上記第2の[理由1]の1(1)に記載したとおりである。 2 引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された引用刊行物(特開昭64-15328号公報)及びその記載事項、並びに、刊行物発明1は、上記第2の[理由1]の3(1)に記載したとおりであり、刊行物発明2は、上記第2の[理由2]の3(1)に記載したとおりである。 3 対比・判断 (1)本願発明1について 本願発明1は、上記第2の[理由1]の3で検討した本願補正発明1において、「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」という発明特定事項について、「シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される」という発明特定事項を省いたものに相当する。 そして、省かれた「シュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される」という発明特定事項は、上記第2の[理由1]の3(2)において示した相違点に係る本願補正発明1の発明特定事項ということができるから、上記第2の[理由1]の3(2)及び(3)の検討を踏まえると、本願発明1は、刊行物発明1と格別異なるところはなく、刊行物発明1と同一であり、また、仮に同一でないとしても、刊行物発明1及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (2)本願発明6について 本願発明6は、上記第2の[理由2]の3で検討した本願補正発明6において、「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される高温ガス経路部品」という発明特定事項について、「タービンのシュラウド、ノズル、バケット及びダイアフラムからなる群から選択される」という発明特定事項を省いたものに相当する。 そして、本願発明6の発明特定事項を全て含む本願補正発明6が、上記第2の[理由2]の3に記載したとおり、刊行物発明2、周知事項及び周知事項2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願発明6と刊行物発明2とを対比すると、両者は実質的に、上記第2の[理由2]の3(2)で示した相違点2の点でのみ相違するのであるから、本願発明6は、刊行物発明2及び周知事項2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願発明6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第4 結語 第3のとおり、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができず、また、本願発明6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-07-11 |
結審通知日 | 2017-07-18 |
審決日 | 2017-07-31 |
出願番号 | 特願2012-44910(P2012-44910) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F02C)
P 1 8・ 121- Z (F02C) P 1 8・ 113- Z (F02C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 西中村 健一 |
特許庁審判長 |
佐々木 芳枝 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 槙原 進 |
発明の名称 | 高温ガス経路部品及び高温ガス経路タービン部品を製造する方法 |
代理人 | 荒川 聡志 |
代理人 | 田中 拓人 |
代理人 | 小倉 博 |
代理人 | 黒川 俊久 |