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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1335611
審判番号 不服2016-14509  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-28 
確定日 2018-01-09 
事件の表示 特願2012-187929「シリコン膜形成方法,およびシリコン膜形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月13日出願公開,特開2014- 45143,請求項の数(8)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年8月28日の出願であって,平成27年10月2日付けで拒絶理由通知がされ,同年12月7日に意見書と手続補正書が提出され,平成28年6月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がされ,平成29年6月15日付けで拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)がされ,同年8月28日に意見書と手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年6月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

この出願の請求項1ないし13に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開昭60-218839号公報
2.特開2007-254651号公報
3.特開2001-156055号公報
4.特開2001-148347号公報
5.国際公開第2012/002995号
6.米国特許出願公開第2011/0061733号明細書
7.特表2011-500470号公報
8.特開2011-29421号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1 この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項1,13の「前記原料タンクに充填されるためのシクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下である」は不明瞭は記載である。
すなわち,「各金属元素」の「金属元素」が,どのような元素を含み,あるいは含まないかを,一義的に明確に理解することができない。(例えば,「Si」を,金属元素と分類する文献もあり,「金属元素」の定義の外延について,当業者において,明確な意見の一致があるとは認められない。)
そこで,本願の発明の詳細な説明の記載を検討すると,明細書には,以下の記載がある。
・「【0053】前記シクロヘキサシラン梱包体中の各金属元素の含有量は,好ましくは10ppm以下,より好ましくは5ppm以下,さらに好ましくは1ppm以下,さらにより好ましくは0.1ppm以下である。本発明において,各金属元素は,シクロヘキサシラン化合物を合成する際の反応原料に含有されていた不純物または製造工程でのコンタミネーションに由来するものであり,各金属元素としては,例えばリチウム,ナトリウム,カリウム,ルビジウム,セシウム,ベリリウム,マグネシウム,カルシウム,ストロンチウム,バリウム,チタン,クロム,マンガン,鉄,コバルト,ニッケル,銅,銀,亜鉛,カドニウム,ホウ素,アルミニウム,ガリウム,リン,ヒ素等を挙げることができ,また,塩素,臭素等も前記定義に含まれていてもよい。シクロヘキサシラン梱包体中の各金属元素の含有量は,少ないほど得られるシリコン膜は純度が高くなる。」
そうすると,発明の詳細な説明を参酌しても,「例えば・・・等を挙げることができ」と,代表的な金属元素が例示されているだけであって,「金属元素」の定義は明確でなく,しかも,前記説明において,「また,塩素,臭素等も前記定義に含まれていてもよい」とあることから,さらに,「金属元素」の定義が不明確となっている。
したがって,請求項1,13の「各金属元素の含有量が10ppm以下である」との記載は,発明の詳細な説明を参酌しても明確に理解することができない。
また,請求項1を引用する各請求項の記載も同様の理由で明確でない。

(2)「シクロヘキサシラン梱包体」の「梱包体」が,どのような技術的特徴を特定しようとしているのか,明確に理解することができない。
すなわち,「前記原料タンクに充填されるためのシクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下である」との特定と,「前記原料タンクに充填されるためのシクロヘキサシランの各金属元素の含有量が10ppm以下である」との特定との間に,どのような技術的な相違があるのかを理解することができない。

(3)請求項11は,「請求項1?10のいずれかに記載の方法に使用され,原料タンクに充填されるための」という技術的事項によって特定された,「シクロヘキサシラン梱包体」という「物」の発明であるが,前記「請求項1?10のいずれかに記載の方法に使用され,原料タンクに充填されるための」という技術的事項が,「シクロヘキサシラン梱包体」という「物」の,どのような構造・特性等を特定しているのかを理解することができない。(すなわち,例えば,「シクロヘキサシラン梱包体」を所持していた場合に,当該「シクロヘキサシラン梱包体」の,どのような構造・特性等を測定することによって,この「シクロヘキサシラン梱包体」が,本願の請求項11に係る発明の「シクロヘキサシラン梱包体」であるか否かを判断することができるのか理解できない。)
また,請求項11を引用する請求項12も,同様の理由で不明確である。

2 この出願は,発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求項1ないし10に係る発明は,「シリコン膜形成方法」という方法に係る発明であるから,発明の詳細な説明の記載は,当業者が,前記請求項に記載された方法によってシリコン膜を形成することができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要するものである。
また,請求項11,12は,「シクロヘキサシラン梱包体」という物の発明であり,請求項13は,「シリコン膜形成装置」という物の発明であるから,発明の詳細な説明の記載は,当業者が,前記各請求項に記載された物を作れ,かつ,その物を使用できるものであることを要するといえる。
そこで,本願の明細書及び図面の記載を検討すると,発明の詳細な説明には,「実施例1」において,「シクロヘキサシランを従来公知の方法により製造し」(【0057】)と記載されているだけであって,各金属元素の含有量が10ppm以下であるシクロヘキサシラン梱包体を製造する具体的な方法,あるいは,シクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量を10ppm以下とするための具体的な精製方法(精製条件)のどちらも記載されていない。
また,発明の詳細な説明には,各金属元素の含有量を10ppm以下であるシクロヘキサシラン梱包体を,本願の出願前において,当業者が容易に入手することが可能で有ったこと(例えば,全ての金属元素の含有量が明記されたデータシートが添付された,市販されている商品の名称等)も記載されていない。
そして,技術常識に照らして,熱重合・光重合しやすいことが知られているシクロヘキサシランを,全ての金属元素のそれぞれが,いずれも,10ppm以下となるように,製造もしくは精製する方法が周知であったとも認められない。
したがって,当業者が,「シクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下である」とする発明特定事項を含む請求項1ないし13に係る発明を実施しようとした場合に,当該「各金属元素の含有量が10ppm以下である」「シクロヘキサシラン梱包体」を得るために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるものと認められるから,発明の詳細な説明の記載は,本願の請求項1ないし13に記載された発明を,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
(なお,本願の発明の詳細な説明の【0057】における,「実施例1」の「シクロヘキサシランを従来公知の方法により製造し」との記載が,特段の工夫・操作を行うことなく「従来公知の方法により」「シクロヘキサシラン」を製造することで,「各金属元素の含有量が10ppm以下」のものが得られることを説明しているのであって,また,このことが技術常識といえるのであれば,上記の拒絶理由は存在しないので,その旨を意見書において説明されたい。)

3 この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許権者が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高判平成17年11月11日(平成17年(行ケ)10042号)「偏光フィルムの製造法」大合議判決を参照。) 。
以下,上記の観点に立って,本願のサポート要件について検討する。

(2)前提となる事実関係等
ア 本願の特許請求の範囲の記載
本願の請求項1ないし13に記載された発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明13」という。また,これらを併せて「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。
「【請求項1】原料タンクに収容したシクロヘキサシランを送出ラインを通じて気化器に向けて送出し,気化器でシクロヘキサシランを気化させ,反応室で気化したシクロヘキサシランを化学蒸着によりシリコン膜にするシリコン膜形成方法であって,前記送出ラインにおいて,加圧不活性ガスでシクロヘキサシランを圧送または吸引により,シクロヘキサシランが原料タンクから気化器へ送り出され,前記原料タンクに充填されるためのシクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下である,シリコン膜形成方法。
【請求項2】前記原料タンクの温度が,50℃以下に維持される請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記原料タンクの材質が,光不透過性の高強度安定材料であり,耐圧性0.05MPa以上を有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】前記送出ラインに介挿される液体流量制御器により,シクロヘキサシランの送出量が制御される請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】前記気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化される請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】前記噴出口によって,シクロヘキサシランが微粒子状または霧状に噴出される請求項5記載の方法。
【請求項7】前記噴出口の温度が,100℃以下に維持される請求項5記載の方法。
【請求項8】前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される請求項5?7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】前記化学蒸着が,低圧CVD法またはプラズマCVD法である請求項1?8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】モノシランガスとシクロヘキサシランガスとを反応室に供給してシリコン膜が形成される請求項1?9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】請求項1?10のいずれかに記載の方法に使用され,原料タンクに充填されるためのシクロヘキサシラン梱包体。
【請求項12】各金属元素の含有量が,10ppm以下である請求項11記載のシクロヘキサシラン梱包体。
【請求項13】シクロヘキサシランを収容するための原料タンクと,前記原料タンクに連結し前記シクロヘキサシランを液体のまま前記原料タンクから送り出すための送出ラインと,前記送出ラインに接続し,シクロヘキサシランを気化するための気化器と,気化したシクロヘキサシランを化学蒸着によりシリコン膜にするための反応室とを有し,前記送出ラインにおいて,加圧不活性ガスでシクロヘキサシランを圧送または吸引により,シクロヘキサシランが原料タンクから気化器へ送り出され,前記原料タンクに充填されるためのシクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下であることを特徴とする,シリコン膜形成装置。」

イ 本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,上記文献のいずれにおいても,シクロヘキサシランを使用して液体のまま送出ラインを介して気化器に移送・気化して,CVD法を行ったことは開示されていない。特に特許文献5において,シクロヘキサシランは,真空ポンプのバブリングにより直接チャンバーに導入されているが,バブリングする際に加熱するためにシクロヘキサシランが固形化してノズル等が詰まり,しいては適切な量の気化シクロヘキサシランを送出することができず,質の高いシリコン膜を形成することができないという問題が生じる可能性がある。
加えて,シクロヘキサシランは,粘度が低く,無色透明な液体であるが,熱重合,光重合しやすく,重合化すると粘度が高くなると共に,分子量も大きくなる傾向があり,CVD法を行う反応室に均一な量の気化シクロヘキサシランを安定的に供給することができないといった問題があった。
【0007】
本発明は,シクロヘキサシランを使用しても,安定的に気化シクロヘキサシランガスを供給でき,化学蒸着法を採用した時に高速成膜,低温成膜および高ステップカバレージが可能となるシリコン膜形成技術を提供することを課題とする。」

ウ 本願発明の課題
本願明細書の記載(前記イ)によれば,本願発明の課題は,「安定的に気化シクロヘキサシランガスを供給」することを目的とするものと認められる。

(3)検討
上記(2)アのとおり,本願の請求項1は,「原料タンクに収容したシクロヘキサシランを送出ラインを通じて気化器に向けて送出し,気化器でシクロヘキサシランを気化させ」と特定するだけであって,気化器の構造・種類を特定していない。
そうすると,請求項1の気化器は,バブリング法を用いる気化器,又は,ベーキング法を用いる気化器を含有するものと認められる。
しかしながら,原料タンクから,送出ラインを介して,バブリング法を用いる気化器等への原料材料の送り出しを,加圧不活性ガスの圧送により行ったとしても,バブリングする際の加熱によるシクロヘキサシランの固形化によるノズル等の詰まりは解消されない。
してみれば,請求項1に記載された事項によって特定される発明によっては,本願発明に係る,「安定的に気化シクロヘキサシランガスを供給」するという課題を解決することができると,当業者が認識することはできない。
すなわち,請求項の記載には,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されておらず,あるいは,請求項の記載は,発明の詳細な説明において効果があることが示された範囲を超えている。
請求項1を引用する請求項2ないし12,及び,請求項13も同様といえる。
したがって,本願明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本願出願当時の技術常識に照らしても,請求項1ないし13の記載によって特許を請求しようとする範囲の全てにおいて,本願発明の課題を解決できると当業者が認識することはできないというべきである。
そうすると,本願の特許請求の範囲の記載は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び本願の出願当時の技術常識に照らして,当業者が本願明細書に記載された本願発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており,サポート要件に適合しないものというべきである。

4 この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


・請求項1-13
・引用文献等1-7

・備考
・請求項1,請求項13について
引用文献1には,「適宜の気化装置」(第3ページ左下欄第17行)でシクロヘキサシランを気化させ,反応室において気化したシクロヘキサシランを原料として,CVD法によりシリコン膜とする成膜方法が記載されている。(特に,第1頁左下欄,第2頁右上欄?右下欄,第3頁左下欄?右下欄,第1表(実施例3),第2表(実施例8)参照。)
引用文献1には,原料を原料タンクに収容し,送出ラインを通じて気化器に向けて送出する記載はない。
しかしながら,原料タンクに収容した前駆体原料を,送出ラインを通じて,加圧不活性ガスを用いて,気化器に向けて送り出す機構は,
引用文献2の,特に,段落[0151],図1等,
引用文献3の,特に,段落[0015],[0029],[0039],[0043]?[0047],図1等,
引用文献4の,特に,段落[0022]?[0026],[0031],[0037]?[0043],[0049],[0056],[0061],図1,2等,に記載されているように周知の機構である。
したがって,引用文献1の「適宜の気化装置」として,引用文献2?4に記載された,原料タンクに収容した前駆体原料を,送出ラインを介して,加圧不活性ガスを用いて,気化器へ送り出す機構を備えた周知の気化装置を用いることは,当業者にとって容易である。

なお,金属不純物の含有量をできるだけ減らすことは当業者にとって当然の配慮で有るから,シクロヘキサシランを用いた成膜技術において,各金属元素の含有量を10ppm以下に抑えることは周知の技術的ニーズということできる。
そして,本願の発明の詳細な説明には,【0057】の「実施例1」に,「シクロヘキサシランを従来公知の方法により製造し」と記載されているだけであって,「各金属元素の含有量を10ppm以下」とすることに特段の工夫・操作が必要であることが記載されていないことに照らせば,「従来公知の方法により製造」された「シクロヘキサシラン」は,「各金属元素の含有量が10ppm以下」であるとも理解される。
してみれば,シリコン膜の成膜にあたり,成膜の材料として,「従来公知の方法により製造」される「各金属元素の含有量が10ppm以下」の「シクロヘキサシラン」を用いることは格別のことではないといえるから,「各金属元素の含有量が10ppm以下」であるとの本願発明に係る特定事項は,実質的な相違点でないか,仮に相違点であってあったとしても,当業者が適宜なし得た程度の事項にすぎないものと認められる。

・請求項2について
引用文献5の,段落[0065]等の記載から,原料タンクの温度を,50℃以下に維持することは,適宜なし得たことである。

・請求項3?5について
光不透過性の高強度安定材料からなる材質,例えば,ステンレス,鉄,アルミニウム等で構成されたタンクは周知である。また,液体流量制御器については,引用文献2-4に記載されている。

・請求項6について
ミスト化することについては,引用文献4の,段落[0037],[0043]等に記載されている。

・請求項7について
100℃以下の温度に保つことは,引用文献5に記載されている。

・請求項8について
気化の際に減圧下で行うことは周知である。

・請求項9について
引用文献2には,プラズマCVDについての示唆,引用文献4については,減圧(低圧)CVDについての示唆が,それぞれなされている。

・請求項10について
モノシランガスとシクロヘキサシランガスとを反応室に供給してシリコン膜を形成することについては,引用文献6の,特に,段落[0008],[0009],[0014]等参照のこと。

・請求項11について
シラン系の原料を,引用文献7(特に,図1及び図面説明箇所)には,シラン系原料を容器に入れて梱包体として輸送することが記載されており,引用文献1に記載のシクロヘキサシランを輸送する際に,引用文献7に記載の容器に入れて,梱包体とすることは,当業者にとって容易である。

・請求項12について
金属不純物の含有量をできるだけ減らすことは当業者にとって当然の配慮で有り,金属の含有量を10ppm以下にすることは,当業者にとって格別なこととはいえない。

・効果について
上記3のとおり,本願の各請求項に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された課題を解決するものとはいえない。したがって,本願の各請求項に記載された発明特定事項によって奏される効果は格別のものとは認められない。


<引用文献等一覧>
1.特開昭60-218839号公報
2.特開2007-254651号公報
3.特開2001-156055号公報
4.特開2001-148347号公報
5.国際公開第2012/002995号(日本語訳は,対応する日本国公表特許公報である特表2013-537705号公報の記載を参照されたい。)
6.米国特許出願公開第2011/0061733号明細書
7.特表2011-500470号公報

第4 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は,平成29年8月28日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1ないし8は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
原料タンクに収容したシクロヘキサシランを送出ラインを通じて気化器に向けて送出し,気化器でシクロヘキサシランを気化させ,反応室で気化したシクロヘキサシランを化学蒸着によりシリコン膜にするシリコン膜形成方法であって,前記送出ラインにおいて,加圧不活性ガスでシクロヘキサシランを圧送または吸引により,シクロヘキサシランが原料タンクから気化器へ送り出され,
前記気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持されることを特徴とする,シリコン膜形成方法。
【請求項2】
前記原料タンクの温度が,50℃以下に維持される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記原料タンクの材質が,光不透過性の高強度安定材料であり,耐圧性0.05MPa以上を有する請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記送出ラインに介挿される液体流量制御器により,シクロヘキサシランの送出量が制御される請求項1?3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記噴出口によって,シクロヘキサシランが微粒子状または霧状に噴出される請求項1?4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記化学蒸着が,低圧CVD法またはプラズマCVD法である請求項1?5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
モノシランガスとシクロヘキサシランガスとを反応室に供給してシリコン膜が形成される請求項1?6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
シクロヘキサシランを収容するための原料タンクと,前記原料タンクに連結し前記シクロヘキサシランを液体のまま前記原料タンクから送り出すための送出ラインと,前記送出ラインに接続し,シクロヘキサシランを気化するための気化器と,気化したシクロヘキサシランを化学蒸着によりシリコン膜にするための反応室とを有し,前記送出ラインにおいて,加圧不活性ガスでシクロヘキサシランを圧送または吸引により,シクロヘキサシランが原料タンクから気化器へ送り出され,
前記気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持されることを特徴とする,シリコン膜形成装置。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
平成29年6月15日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献1(原査定の引用文献1)には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は,当審で付与した。以下同じ。)

「2.特許請求の範囲
基体を収容した室内に,一般式:Si_(n)H_(2n)(式中,nは3,4,5又は6である。)で表わされる環状水素化ケイ素化合物又は該環状水素化ケイ素を他の水素化ケイ素で置換した化合物及び周期律表第III族又は第V族に属する元素を成分とする化合物の気体状雰囲気を形成し,光エネルギーを利用することによって前記化合物を励起して分解し,前記基体上に前記元素でドーピングされたシリコンを含有する堆積膜を形成することを特徴とする堆積膜形成方法。」(特許請求の範囲)

「本発明で使用する前記一般式の環状水素化ケイ素化合物は,具体的には・・・Si_(6)H_(12)で表わされるシクロヘキサシランであり,・・・でもよい。」(第2ページ左下欄第10-16行)

「6乃至9は,ガス供給源であり,前記一般式で示される環状水素化ケイ素化合物及び不純物元素を成分とする化合物のうち液状のものを使用する場合には,適宜の気化装置を具備させる。気化装置には加熱沸騰を利用するタイプ,液体原料中にキャリアーガスを通過させるタイプ等があり,何れでもよい。」(第3ページ左下欄第14-20行)

「実施例2?4
Si_(5)H_(10)の代りに・・・Si_(6)H_(12)・・・を用いた以外は,実施例1と同一のa-Si膜を形成した。」(第5ページ右下欄第17-20行)

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

・引用発明1
基体を収容した室内に,Si_(6)H_(12)で表わされる環状水素化ケイ素化合物であるシクロヘキサシラン,及び,周期律表第III族又は第V族に属する元素を成分とする化合物の気体状雰囲気を形成し,光エネルギーを利用することによって前記化合物を励起して分解し,前記基体上に前記元素でドーピングされたシリコンを含有する堆積膜を形成することを特徴とする堆積膜形成方法。

・引用発明2
基体を収容した室内に,Si_(6)H_(12)で表わされる環状水素化ケイ素化合物であるシクロヘキサシラン,及び,周期律表第III族又は第V族に属する元素を成分とする化合物の気体状雰囲気を形成し,光エネルギーを利用することによって前記化合物を励起して分解し,前記基体上に前記元素でドーピングされたシリコンを含有する堆積膜を形成する堆積膜形成装置。

2 引用文献2ないし8について
ア 平成29年6月15日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献2(原査定の引用文献2)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0147】
PECVD装置の一例として,図1に平行平板容量結合型PECVD装置を示す。図1に示す平行平板容量結合型PECVD装置1は,PECVD装置チャンバー内にシャワーヘッド上部電極と基板の温度制御が可能な下部電極,本発明のSi含有膜形成材料(以下プレカーサーと略す)をチャンバーに気化供給する気化器装置と高周波電源とマッチング回路から成るプラズマ発生装置,真空ポンプから成る排気系から成る。
【0148】
具体的には,このPECVD装置1は,PECVDチャンバー2,プレカーサーをチャンバー内に均一に供給する為のシャワーヘッドを有する上部電極3,Si基板等の薄膜形成用基板5を設置する為の温度制御装置8を有する下部電極4,プレカーサーを気化させるための気化装置9?15,プラズマ発生源であるマッチング回路6とRF電源7,チャンバー内の未反応物及び副生物を排気する為の排気装置16から成る。17,18は,アースである。
【0149】
プラズマ発生源であるマッチング回路6とRF電源7は,上部電極3に接続され,放電によりプラズマを発生させる。RF電源7の規格については,特に限定されないが,当該技術分野で使用される電力が1W?2000W,好ましくは10W?1000W,周波数が50kHz?2.5GHz,好ましくは100kHz?100MHz,特に好ましくは200kHz?50MHzのRF電源を用いることができる。
【0150】
基板温度は特に限定されるものでは無いが,-90?1,000℃,好ましくは0℃?500℃の範囲である。
【0151】
気化装置は,常温常圧で液体であるプレカーサー13を充填し,ディップ配管と上記不活性ガスにより加圧する配管15を備えている容器12,液体であるプレカーサー13の流量を制御する液体流量制御装置10,液体であるプレカーサー13を気化させる気化器9,上記不活性ガスを気化器経由でPECVD装置チャンバー内に供給する為の配管14とその流量を制御する気体流量制御装置11からなる。本気化装置は,気化器9からシャワーヘッドを備えた上部電極3に配管接続されている。」

図1は,平行平板容量結合型PECVD装置を示す図であって,上記記載を参酌すれば,同図から,
容器12に収容した,常温常圧で液体であるSi含有膜形成材料(プレカーサー13)を,ディップ配管を通じて気化器9に向けて送出し,気化器9で液体であるSi含有膜形成材料(プレカーサー13)を気化させ,PECVDチャンバー2で気化したSi含有膜形成材料(プレカーサー13)を化学蒸着によりシリコン膜にするシリコン膜形成装置(シリコン膜形成方法)であって,前記ディップ配管において,加圧した不活性ガスでSi含有膜形成材料(プレカーサー13)を圧送により,Si含有膜形成材料(プレカーサー13)が容器12から気化器9へ送り出される構造(方法)を見て取ることができる。

イ 平成29年6月15日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献3(原査定の引用文献3)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,例えば半導体製造において用いるテトラエトキシシランなどの液体材料を気化する方法および装置に関する。」

「【0015】前記液体材料供給ライン2は,次のように構成されている。すなわち,5は液体材料供給ライン2に設けられる原料タンクで,その内部には液体材料LMが気密に収容され,その上流側には,レギュレータ6を有する不活性ガス供給管7が接続されている。そして,N_(2) ,He,Arなどの不活性ガスが原料タンク5内の上部空間に図中のINより供給されることにより,液体材料LMが液体材料供給ライン2に押し出されるように構成されている。8は開閉弁9を介して原料タンク5の下流側に設けられる液体用流量計で,原料タンク5側から流れてくる液体材料LMの流量を計測するものである。この液体用流量計8として例えば公知の液体マスフローメータを用いることができる。そして,この液体用流量計8の検出結果は,装置全体を制御したり,検出信号などに基づいて演算を行う装置制御部10に送出される。なお,11は液体用流量計8と制御バルブ1との間に介装される開閉弁である。」

「【0029】上述のように構成された液体材料気化装置の動作について説明する。この,不活性ガスを原料タンク5に供給すると,原料タンク5内の液体材料LMが加圧され,液体材料LMは液体材料供給ライン2を制御バルブ1方向に流れる。この液体材料LMの流量は,液体流量計8で計測され,この計測結果は,装置制御部10に入力される。そして,前記液体材料LMは,制御バルブ1内に導入される。そして,液体流量設定信号に応じた流量となるように,装置制御部10から制御信号が制御バルブ1に送られる。これにより,ピエゾアクチュエータ44が動作して,バルブ本体33の開度を調整する。これにより,制御バルブ1内に導入された液体材料LMは,図3に示すように,液体材料導入路23を経て液流路38に至り,さらに,図3および図5に示すように,液流路38からバルブシート37aとダイヤフラム35の弁部35bとの隙間を経て,適宜の温度になっている気液混合部39に入る。
【0030】一方,キャリアガス供給源12からのキャリアガスCGは,気体用流量制御装置16において流量制御されて制御バルブ1方向に送られ,この制御バルブ1内の気液混合部39に送られる。制御バルブ1内に導入されたキャリアガスCGは,図3に示すように,キャリアガス導入路24を経て気液混合部39に入る。
【0031】前記気液混合部39に入った液体材料LMとキャリアガスCGは互いに混合される。特に,気液混合部39に細長い溝41が形成されており,液体材料LMがこの溝41に流れこみながらキャリアガスCGと混合されるので,両者LM,CGが十分に混ざり合った気液混合体Mとなる。
【0032】そして,前記気液混合体Mは,気液混合部39の孔40を経てノズル部42からガス導出路25に向けて放出される。このとき,気液混合体Mのなかの液体材料LMが瞬間的に減圧されてガスとなる。このガスは,気液混合体M中のキャリアガスCGと混合し,混合ガスKGとなってガス導出路25を下流側に流れていく。このとき,ガス導出路25は,ヒータ26によって加熱されているので,結露が生ずることはない。
【0033】なお,前記キャリアガスCGは,前記ノズル部42の手前(上流側)において,圧力が高い状態となり,前記ヒータ26によって効率良く加熱・昇温されることになる。また,このように,キャリアガスCG自体の加熱効率が上昇するだけでなく,前記液体材料LMは,ノズル部42において強制的にキャリアガスCGと混合されることから,前記キャリアガスCGから液体材料LMへの熱伝達が効率良く行われることになる。これらのことから,前記ヒータ26から液体材料LMへの熱の伝達効率が上昇するため,液体材料LMの気化効率があがるとともに,気化した液体材料LMの流量を大きくし,液体材料LMを気化させるために必要な温度の低温化,ひいてはエネルギーコストの削減を図ることが可能となる。
【0034】また,前記気液混合体Mが気液混合部39からガス導出路25の下流側に向かう過程において,前記ノズル部42から放出され,気化した液体材料LMのガス濃度は,前記キャリアガスCGの存在によって低下することになり,これに伴って,気化した液体材料LMがガス導出路25内において液化・結露することを防止するために必要な温度も下がることから,ひいては,ガス導出路25を加熱するためのエネルギーコストを削減することが可能となる。また,前記液体材料LMは,ノズル部42からガス導出路25へ放出されて気化するときに,断熱膨張することによって熱を失うため,通常は気化効率が低下するが,本実施例においては,液体材料LMが失った熱を,液体材料LMと混合するキャリアガスCGによって補うことができ,これにより,液体材料LMの気化効率の向上が達成できる。
【0035】そして,前記混合ガスKGは,ガス導出路25の下流側のガス導出ライン4を経てユースポイントである反応炉20に供給される。このとき,混合ガスKGの流量は,ガス導出ライン4に介装された気体用流量計18によって計測され,その結果は装置制御部10に送られる。
【0036】上述のように,この発明の液体材料気化装置は,液体流量制御機能を備えた制御バルブ1内に形成した気液混合部39において,液体材料LMを流量制御しながらキャリアガスCGと混合し,このときの気液混合体Mを,気液混合部39に近接するノズル部42から放出して液体材料LMを減圧し気化するようにしているので,良好に混合された状態の気液混合体Mをノズル部42から放出することができ,気液混合体M中の液体材料LMを効率よくしかも安定した状態で気化し,一定濃度の蒸気を含むガスを安定して供給できる。
【0037】なお,本発明の液体材料気化装置では,液体材料LMの反応炉20までの運送を,高速で流すことが可能なキャリアガスCGにのせる(混合する)ことで行っていることから,液体材料LMを反応炉20まで高速で送ることができ,高速応答が要求される場合にも対応することができる。
【0038】図6は,上記液体材料気化装置によって,液体材料LMをガス化したときに得られた測定データで,制御バルブ1にキャリアガスCGの導入量を一定に保持しながら,液体材料LMの制御バルブ1への導入量を段階的に増加させていったときの,制御バルブ1から導出される混合ガスKGの変化を観察した結果を表すものである。
【0039】すなわち,キャリアガスCGを2000cc/分とし,液体材料LMとしてエタノールを1cc/分で反応炉20に供給する場合,制御バルブ1のヒータ26の温度が80℃のとき,ノズル部42の径を0.3mm,長さ0.6mmとすることにより,気液混合部39の圧力が30kpa程度となる。このとき気液混合部39における気液混合体Mをノズル部42から放出して,気液混合体M中の液体材料LMを減圧気化して反応炉20に供給したときの状態を観察したものである。」

「【0043】この発明は,上述の実施の形態に限られるものではなく,種々に変形して実施することができる。すなわち,液体材料導入路23やキャリアガス導入路24は,必ずしも鉤型状に形成する必要はなく,ストレートであってもよい。そして,ヒータ26はプレートヒータであってもよく,ヒータ26によるの加熱温度は,液体材料LMの種類などに応じて適宜設定できる。また,このヒータ26は,本体ブロック22の気液混合部39やガス導出路25の近傍を加熱できるようにしてあればよく,特に,ノズル部42から液体材料LMを放出することにより減圧させガスを好適に生成できる程度にしてあればよい。
【0044】そして,制御バルブ1における液体材料LMの流量制御を,ガス導出ライン4に設けられた気体用流量計18の出力に基づいて行うようにしてもよく,このようにした場合,より精度よく液体材料LMの流量を制御することができる。
【0045】また,アクチュエータ44として,電磁式のものやサーマル式のものを用いてもよい。
【0046】さらに,液体材料LMは,エタノールに限るものではなく,例えば,ペンタエトキシタンタル(PETa)や,トリメチルホスペェイト(TMPO)などでもよい。また,液体材料LMは,常温常圧で液体状態であるものに限られるものではなく,常温常圧で気体であっても適宜加圧することにより常温で液体となるようなものであってもよい。
【0047】しかも,反応容器20は真空容器でもよく,この場合ガス導出ライン4は減圧となってもよい。」

図1は,引用文献3に記載された発明に係る液体材料気化装置の全体構成を概略的に示す図であって,上記記載を参酌すれば,同図から,
原料タンク5に収容した液体材料LMを,液体材料供給ライン2を通じて液体材料気化装置に向けて送出し,液体材料気化装置で液体材料LMを気化させ,ガス導出路25で気化した液体材料LMを反応炉20に供給する液体材料気化装置(方法)であって,前記液体材料供給ライン2において,不活性ガスで液体材料LMを液体材料供給ライン2に押し出すことにより,液体材料LMが原料タンク5から液体材料気化装置へ送り出される構造(方法)を見て取ることができる。

ウ 平成29年6月15日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献4(原査定の引用文献4)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0022】図1に示す半導体製造システム22は,成膜を施す処理装置24と,これに供給する成膜ガスとして液体原料を気化させる気化器26とにより主に構成される。上記気化器26に対して液体原料を供給する原料供給系28は,金属酸化膜の原料として液体原料30,例えばCu(hfac)TMVS(銅含有錯体)を貯留する密閉状態の原料タンク32を有しており,タンク32は分解反応を防ぐために,加熱せずに室温に保たれている。
【0023】この原料タンク32の気相部には,加圧管36の先端が上部より導入されており,この加圧管36からは加圧気体として例えば圧力制御されたHeガスを原料タンク32内の気相部へ導入し得るようになっている。
【0024】また,この原料タンク32と上記気化器26の入口とは,例えばステンレス管よりなる液体原料供給通路38により連絡され,この気化器26の出口と上記処理装置24の天井部を連絡するようにして例えばステンレス管よりなる原料ガス通路40が設けられている。上記供給通路38の原料導入口38Aはタンク32内の液体原料30中に浸漬させて底部近傍に位置されて,液体原料30を通路38内に加圧搬送し得るようになっている。この液体原料供給通路38は,その途中に液体質量流量計42を介設して,気化器26内の弁体にて液体原料30の供給量を制御できるようになっている。
【0025】そして,この気化器26よりも下流側の原料ガス通路40には,例えばテープヒータよりなる保温用ヒータ44が巻回されており,成膜ガスの液化温度よりも高く,且つ分解温度よりも低い温度,例えば50?70℃の範囲内で保温するようになっている。
【0026】また,上記気化器26には,キャリアガス導入管46が接続されており,キャリアガスとして例えばArガスやHeガスのような不活性ガス,ここではHeガスを流量制御しつつ供給するようになっている。」

「【0031】次に,図2乃至図5を参照して上記気化器26の構造を説明する。図2に示すようにこの気化器26は,上記液体原料供給通路38側から圧送されてくる液体原料30を一時的に貯留する液溜め室62と,原料ガス通路40側へ接続されて減圧雰囲気になされた気化室64と,上記液溜め室62と上記気化室64とを連通して液体源料を上記気化室64側へ流通させる細孔66と,この細孔66の液溜め室62側の液入口68を開閉する弁体70と,この弁体70の弁開度を制御するアクチュエータ手段72とにより主に構成されている。」

「【0037】一方,上記気化器本体74には,キャリアガス導入手段として,直径が例えば2mm程度のキャリアガス流路100が形成されており,そのガス噴射口102が上記気化室64内に臨ませて設けられている。そして,このキャリアガス流路100は,キャリアガス導入管46に接続されており,例えば気化器本体74の温度と同じ温度に加熱したHeガスをキャリアガスとして気化室64へ導入するようになっている。この場合,液体原料30のミスト化を促進させるためには,上記ガス噴射口102を細孔66の液出口104に対してできるだけ接近させて設けるのがよく,現行の加工技術を考慮すれば略5mm程度まで接近させることが可能である。
【0038】また,上記台座80と気化器本体74との間には,加熱手段としてリング板状の第1の加熱ヒータ106が介在されており,流入してくる液体原料30や,特にダイヤフラム84及び液体原料30の気化熱により冷却される傾向にある細孔66の部分を加熱し得るようになっている。そしそ,上記細孔66の近傍には,温度センサとして例えば第1の熱電対108が埋め込まれており,第1の温度制御部110はこの第1の熱電対108の検出値が所定の値を維持するように上記第1の加熱ヒータ106を制御するようになっている。
【0039】また,上記フランジ部76及び気化器本体74を貫通するようにして,加熱手段として棒状の第2の加熱ヒータ112が複数本埋め込まれており,このフランジ部76や気化器本体74を加熱するようにしている。この場合にも,上記気化器本体74には,温度センサとして第2の熱電対114が気化室64に接近させて埋め込まれており,第2の温度制御部116は,この第2の熱竃対の検出値が所定の値を維持するように上記第2の加熱ヒータ112を制御するようになっている。
【0040】ここで主要部の各寸法について簡単に述べると,気化室64の出口64Aの直径D1は12?20mm程度,細孔66の直径D2は0.5?2mm程度,その長さL1は5mm以下程度である(図3参照)。特に,細孔66内に貯留する液体原料の体積をより小さくするために,すなわち,この細孔66内の体積を例えば液体原料の流量の数秒以内の総流量程度に抑制するために,上記直径D2や長さL1はできるだけ小さく設定するのが好ましい。また,気化室64の長さL2は12?20mm程度に設定し,この出口64Aの直径D1と比較して,できるだけ圧力損失が少なくなるような寸法とする。
【0041】次に,以上のように構成された本実施例の動作について説明する。
【0042】まず,図1を参照して半導体製造システムによる成膜処理について説明する。まず,処理装置24の処理容器48内には,載置台52上に半導体ウエハWが載置されて所定のプロセス温度,例えば200℃程度に加熱維持されていると共に,真空引きによって所定のプロセス圧力,例えば1Torrに維持されている。一方,原料供給系28の原料タンク32内に貯留されているCu(hfac)TMVSのような液体原料30は,分解反応防止のため,室温に保たれている。この液体原料30は,加圧管36より供給される例えばHeなどの加圧ガスによって液体源料供給通路38内を圧送され,途中に介設した液体質量流量計42により流量検知されつつ気化器26へ導入される。液体流量信号は気化器内の弁体ヘフィードバックされ流量制御をする。この気化器26へ導入された液体原料は,後述するようにここで断熱膨張することにより気化されて原料ガスとなり,この原料ガスは,液化温度以上であって,分解反応温度以下の温度に加熱維持されている原料ガス通路40を流下して処理装置24のシャワーヘッド56から処理容器48内へ供給され,ここで例えばウエハWの表面に銅膜等を成膜することになる。
【0043】次に,図2及び図5を参照して上記気化器26の動作について説明する。図3は気化器の弁開度が全開状態を示し,図4は気化器の弁開度が半開状態を示し,図5は気化器の弁開度が全閉状態を示している。図2において,液体原料供給通路38を流れてきた液体原料30は,液流路90を介してダイヤフラム84で区画された微小容量の液溜め室62内へ流れ込む。この液体原料30は,図3及び図4に示すように,弁体として機能するダイヤフラム84が細孔66の液入口68に着座しておらずにこれより離れている場合には,この細孔66の流入口68から細孔66内を通過し,そして,他端の液出口104から減圧雰囲気になされている気化室64内に向けて放出される。そして,放出されると直ちに,断熱膨張によって液体原料30は非常に細かな液滴にミスト化されると同時に瞬時に気化され,原料ガスが発生することになる。また,これと同時に,キャリアガス流路100のガス噴出口102からは,キャリアガスとしてHeガスが噴射されている。この際,従来の気化器と異なり,気化室64の容積乃至体積は,非常に大きくなされているので,液体原料30を非常に効率的に気化させることができる。従って,微細なミストが気化室64の内壁面へほとんど付着することもなく,また,液体原料が気化室64内へ残留することもない。また,気体原料30を効率的に気化させることができることから,気化室64内で液体原料が熱分解することもなく,従って,分解による析出金属によって気化器自体が閉塞することも防止することができる。このように,供給した液体原料を,略完全に気化させて成膜に寄与させることができるので,設計値通りの膜厚の堆積膜を形成することが可能となる。」

「【0049】また,上記実施例では,弁体70としてダイヤフラム84を用いたが,これに限定されず,図8に示すように弁体70として金属薄板で蛇腹状に形成されて伸縮自在になされたベローズ120を用いるようにしてもよい。また,ここでは液体原料として,銅膜を成膜する際に使用するCu(hfac)TMVSを使用した場合を例にとって説明したが,これに限定されず,どのような液体にも適用することができ,例えばアルミニウムを成膜する際に用いるDMAH(ジメチルアルミニウムヘキサイド),酸化タンタル膜等を成膜する際に用いるTa(OC_(2)H_(5))_(5)(金属アルコキシド),TEOS原料等も使用することができる。」

「【0056】以上のように,本実施例による気化器26Aによれば,液体原料30をキャリアガスの噴出によって効率的に微細なミストとすることにより,液体原料を効率的に気化させることができる。」

「【0061】上述のような構成では,細孔66から吐出された液体原料30は,キャリアガス噴出管100Bからのキャリアガスの噴出によって微細な液滴にミスト化されて気化室64の空間に放出される。すなわち,細孔66から吐出された液体原料の液滴は,表面張力により大きな液滴となって気化室64の壁面を伝わって流れたり,大きな液滴のまま気化室64の空間に放出されたりすることなく,細孔66から吐出されとすぐに微細な液滴となって気化室64の空間に放出される。そして,液体原料の微細な液滴は瞬時に気化して材料ガスとなる。」

図1は,引用文献4に記載された発明の第1実施例による気化器を用いた半導体製造システムを示す概略全体構成図であって,上記記載を参酌すれば,同図から,
原料タンク32に収容した液体原料30を液体原料供給通路38を通じて気化器26に向けて送出し,気化器26で液体原料30を気化させ,気化室64で気化した液体原料30を処理容器48に導入する装置(方法)であって,加圧管36からは加圧気体として例えば圧力制御されたHeガスを原料タンク32内の気相部へ導入し,液体原料30が液体原料供給通路38内に加圧搬送し得る装置(方法)の構造を見て取ることができる。

エ 平成29年6月15日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献5(原査定の引用文献5)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「[0065] An apparatus is provided for depositing a Si-containing material, such as but not limited to, cyclohexasilane, trisilane, tetrasilane, disilane, pentasilane on a surface. A schematic diagram illustrating a preferred apparatus is shown in Figure 1. This apparatus 100 comprises a carrier gas source 102, a temperature controlled bubbler 112 containing liquid cyclohexasilane 106, and a gas line 103 operatively connecting the gas source 102 to the bubbler 112. A CVD chamber 120, equipped with an exhaust line 130, is operatively connected to the bubbler 112 by a feed line 115. The flow of cyclohexasilane, entrained in the carrier gas, that is vaporized cyclohexasilane 107, from the bubbler 112 to the CVD chamber 120, is preferably aided by a temperature regulation source (not shown) operatively disposed in proximity to the bubbler. The temperature regulation source maintains the cyclohexasilane 106 at a temperature in the range of about 10°C to about 70°C, preferably about 20°C to about 52°C, to thereby control the vaporization rate of the cyclohexasilane. Preferably, the CVD chamber 120 is a single-wafer, horizontal gas flow reactor. Preferably, the apparatus is also comprised of a manifold (not shown) operatively connected to the feed line 115 to control the passage of the cyclohexasilane 106 from the bubbler 112 to the CVD chamber 120, desirably in a manner to allow separate tuning of the gas flow uniformity over the substrate(s) housed in the chamber 120. Preferably, the feed line 115 is maintained at a temperature in the range of about 35°C to about 70°C, preferably about 40°C to about 52°C, to prevent condensation of the vaporized cyclohexasilane 107. 」(対応する日本国公表特許公報である特表2013-537705号公報の記載に基づく日本語訳:「[0065]非制限的な例として,シクロヘキサシラン,トリシラン,テトラシラン,ジシラン,ペンタシランのようなSi-含有材料を表面上に蒸着させるための装置が提供される。図1に好ましい装置の概略図を示した。この装置100は,キャリアガスソース102,液体シクロヘキサシラン106を含む温度調節型バブラー112,およびバブラー112にガスソース102を作動的に連結させるガスライン103を含んでなされる。排出ライン130が装着したCVDチャンバ120は,フィードライン115によってバブラー112に作動的に連結している。キャリアガス内で連行される蒸気化したシクロヘキサシラン107であるシクロヘキサシランのバブラー112からCVDチャンバ120への流れは,バブラー付近に作動的に配置された温度調節ソース(図示せず)によって援助されることが好ましい。温度調節ソースは約10℃?約70℃,好ましくは約20℃?約52℃の温度範囲でシクロヘキサシラン106の温度を維持することにより,シクロヘキサシランの蒸気化速度を調節する。好ましくは,CVDチャンバ120はシングル-ウエハの水平型気流反応器であることが好ましい。さらに好ましくは,この装置は,チャンバ120内に内蔵された基板の気流均一性を個別に同調させる方式により,バブラー112からCVDチャンバ120へのシクロヘキサシラン106の流れを制御することができるように,フィードライン115に作動的に連結したマニホールド(図示せず)も含むことが好ましい。好ましくは,蒸気化したシクロヘキサシラン107の凝縮を防ぐように,フィードライン115は約35℃?約70℃,好ましくは約40℃?約52℃の温度範囲で維持することが好ましい。」)

オ 平成29年6月15日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献6(原査定の引用文献6)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「[0008]In one embodiment, the invention provides a method of deposition for a solar grade amorphous silicon film (αSi:H) as a photoconductive film on a substrate, using」(「一態様において,本発明は,以下の材料を用いて,基板上に光導電膜として太陽電池グレードアモルファスシリコン膜(αSi:H)の成膜方法を提供する」)

「[0009]Silane; 」(シラン)

「[0014](c) cyclic silanes, selected from the group consisting of; cyclotrsilane Si_(3)H_(6), cyclotetrasilane Si_(4)H_(8), cyclopentasilane Si_(5)H_(10), cyclohexasilane Si_(6)H_(10), and mixtures thereof;」(「(c)シクロトリラシラン Si_(3)H_(6),シクロテトラシラン Si_(4)H_(8),シクロペンタシランSi_(5)H_(10),シクロヘキサシラン Si_(6)H_(10),及びこれらの混合物からなる群から選択される環状シラン」)

カ 平成29年6月15日付けの当審拒絶理由通知に引用された引用文献7(原査定の引用文献7)には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
空気感応性及び/又は感湿性の液状又は凝結可能な化合物を受容するための空樽(1)であって,接続ユニット(2)を備えている形式のものにおいて,
前記空樽は少なくとも300リットルの内部容積を有しており,かつ前記接続ユニット(2)は少なくとも1つの遮断機構(6)を含んでいることを特徴とする,化合物の受容のための空樽。」

「【請求項15】
前記空樽は,高純度又は超高純度の化合物を受容している請求項1から13のいずれか1項に記載の樽。
【請求項16】
前記樽は,高純度又は超高純度のケイ素化合物若しくはゲルマニウム化合物を受容している請求項15項に記載の樽。」

キ 原査定の引用文献8には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
鎖状の高次シラン化合物と,金属を含有する化合物と,前記高次シラン化合物よりも沸点が低く前記金属と相互作用する化合物からなる溶媒とを混合した塗布液を調整する工程と,
前記塗布液を用いて基板上に塗布膜を形成する工程と,
前記塗布膜中から前記溶媒を除去して乾燥させることにより,表面側において前記金属の含有量が多いシリコン薄膜を形成する工程とを行う
シリコン薄膜の成膜方法。」

「【0015】
先ず,図1(1)に示すように,液体状の環状シラン化合物Aを用意する。ここで用意する環状シラン化合物は液体であって,組成式Si_(n)H_(2n)(n≦6)で表される物質であり,具体的にはシクロテトラシラン(Si_(4)H_(8)),シクロペンタシラン(Si_(5)H_(10)),シクロヘキサシラン(Si_(6)H_(12))である。ここでは一例として,シクロテトラシラン(Si_(4)H_(8))を環状シラン化合物Aとして用意する。」

「【0019】
ここで用いる金属化合物は,ルイス酸性の化合物である。ルイス酸とは,電子対を受け取ることのできる空軌道を有する化合物である。したがって,金属化合物には,遷移金属類を含む金属そのもの含まれる。このような金属化合物としては,具体的には塩化アルミニウム,塩化チタン,塩化ホウ素,有機リチウム化合物等が例示される。さらに塗布液L中における金属の含有量は,例えばここで作製するシリコン薄膜が,下層側で十分な半導体特性を示すと共に上層側で十分なコンタクト性を有するように適宜調整されれば良い。一例として塗布液L中における金属の含有量は,高次シラン化合物Bに対して1atoms%?10ppm程度であることとする。」

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明1の「『周期律表第III族又は第V族に属する元素』『でドーピングされたシリコンを含有する堆積膜』」は,本願発明1の「シリコン膜」の範疇に含まれるといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)
「シクロヘキサシランを,シリコン膜にするシリコン膜形成方法。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1は,「原料タンクに収容したシクロヘキサシランを送出ラインを通じて気化器に向けて送出し,気化器でシクロヘキサシランを気化させ,反応室で気化したシクロヘキサシランを化学蒸着によりシリコン膜にするシリコン膜形成方法であって,前記送出ラインにおいて,加圧不活性ガスでシクロヘキサシランを圧送または吸引により,シクロヘキサシランが原料タンクから気化器へ送り出される」という構成を備えるのに対して,引用発明1は,そのような構成を備えていない点。

(相違点2)本願発明1は,「気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される」という構成を備えるのに対し,引用発明1は,そのような構成を備えているか明らかでない点。

(2)相違点についての判断
・相違点2について
相違点2に係る本願発明1の「気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される」という構成は,上記引用文献2ないし8には記載されておらず,本願の出願日前において周知技術であるともいえない。
そして,本願発明1は,当該構成を備えることによって,バブリング時の加熱によるシクロヘキサシランの熱重合が抑制され,原料タンク,送出ライン等での配管の目詰まりを防ぐことができ,また,気化器には,熱重合の影響を受けていないシクロヘキサシランが安定して供給されることになり,シクロヘキサシランの熱重合による固形化により噴出口,気化ガス排出口等での配管の目詰まりも抑制することができることから,最終的に,過剰に熱重合されておらず固形物を含まない気化シクロヘキサシランを反応室に安定的に供給することができ,しいてはCVD法を採用した時に高速成膜および低温成膜が可能であり,また,高ステップカバレージを達成でき,高純度なシリコン膜を形成することができる(本願明細書【0019】)という格別の効果を奏するものと認められる。
したがって,本願発明1は,他の相違点について検討するまでもなく,引用発明1,引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし7について
本願発明2ないし7も,本願発明1の「気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される」と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1,引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明8について
本願発明8は,本願発明1に対応する装置の発明であり,本願発明1の「気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,当業者であっても,引用発明2,引用文献2ないし8に記載された技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

第7 特許法第36条第6項第2号(発明の明確性要件)について
(1)当審では,補正前の請求項1,13の「前記原料タンクに充填されるためのシクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下である」は不明瞭な記載である,との拒絶理由を通知しているが,平成29年8月28日付けの補正において,「各金属元素の含有量が10ppm以下である」との記載を削除する補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では,補正前の「シクロヘキサシラン梱包体」の「梱包体」が,どのような技術的特徴を特定しようとしているのか,明確に理解することができない,との拒絶理由を通知しているが,平成29年8月28日付けの補正において,「シクロヘキサシラン梱包体」との記載を削除する補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。

(3)当審では,補正前の請求項11に係る,「請求項1?10のいずれかに記載の方法に使用され,原料タンクに充填されるための」という技術的事項によって特定された,「シクロヘキサシラン梱包体」という「物」の発明を明確に理解することができない,との拒絶理由を通知しているが,平成29年8月28日付けの補正において,請求項11を削除する補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。

第8 特許法第36条第4項第1号(発明の実施可能要件)について
当審では,当業者が,「シクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下である」とする発明特定事項を含む請求項1ないし13に係る発明を実施しようとした場合に,当該「各金属元素の含有量が10ppm以下である」「シクロヘキサシラン梱包体」を得るために,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤,複雑高度な実験等をする必要があるものと認められるから,発明の詳細な説明の記載は,本願の請求項1ないし13に記載された発明を,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない,との拒絶理由を通知しているが,平成29年8月28日付けの補正において,「シクロヘキサシラン梱包体の各金属元素の含有量が10ppm以下である」とする発明特定事項を削除する補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。

第9 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
当審では,請求項1,請求項1を引用する請求項2ないし12,及び,請求項13に記載された事項によって特定される発明によっては,本願発明に係る,「安定的に気化シクロヘキサシランガスを供給」するという課題を解決することができると,当業者が認識することはできないとの拒絶理由を通知しているが,平成29年8月28日付けの補正において,「気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される」とする発明特定事項を付加する補正がされた結果,この拒絶の理由は解消した。

第10 原査定についての判断
平成29年8月28日付けの補正により,補正後の請求項1ないし8は,「気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される」という技術的事項を有するものとなった。
当該「気化器において,送出ラインからのシクロヘキサシランは,気化室内に設けられた噴出口,温度および/または圧力調節可能な気化室,および気化ガス排出口を通過して気化され,前記噴出口の温度が,100℃以下に維持され,前記気化室の圧力が,5kPa未満に維持される」という技術的事項は,原査定における引用文献1ないし8には記載されておらず,本願出願日前における周知技術でもないので,本願発明1ないし8は当業者であっても,原査定における引用文献1ないし8に基づいて容易に発明をすることはできない。
したがって,原査定を維持することはできない。

第11 むすび
以上のとおり,原査定の理由によって,本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-18 
出願番号 特願2012-187929(P2012-187929)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 537- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 須藤 竜也
加藤 浩一
発明の名称 シリコン膜形成方法、およびシリコン膜形成装置  
代理人 植木 久彦  
代理人 植木 久一  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 菅河 忠志  

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