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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1335666
審判番号 不服2016-10752  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-07-15 
確定日 2017-12-21 
事件の表示 特願2012-546062「多様な流動様式を有する気相重合法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日国際公開、WO2011/084628、平成25年 5月 2日国内公表、特表2013-515143〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2010年12月16日(パリ条約による優先権主張2009年12月21日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月31日付けの拒絶理由通知に応答して同年10月8日に手続補正書と意見書が提出され、平成27年3月27日付けの拒絶理由通知に応答して同年10月1日に手続補正書と意見書が提出されたが、平成28年3月8日付けで拒絶査定がされ、同年7月15日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月24日に審判請求書についての手続補正書(方式)が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?17に係る発明は、平成27年10月1日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリプロピレン又はプロピレンコポリマーを作製する方法であって、
a.2つ又はそれ以上の異なった流動様式を有する反応装置系においてプロピレンを重合する工程であって、前記流動様式の少なくとも1つが15%よりも大きい体積固体ホールドアップを有する工程と、
b.少なくとも1つの選択性制御剤(selectivity control agent)及び少なくとも1つの活性制限剤(activity limitin gagent)を含む混合外部電子供与体系を含む触媒系を前記反応装置系に加える工程であって、前記触媒系がさらにアルミニウム含有共触媒を含み、前記アルミニウム対混合外部電子供与体のモル比が0.5から4.0:1の範囲内にある工程と
を含む方法。」

3.原査定の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(理由2)という理由を含み、下記の点の内容として以下の点が指摘されている。
「活性制限剤がジ-n-ブチルセバケートなるジカルボン酸のジエステルと選択性制御剤がメチルシクロヘキシルジエトキシシランなるアルコキシシランとの特定の実施例の実証をもって、選択性制御剤や活性制限剤について何ら具体的な化合物の規定のない請求項1(及び引用する請求項9?17)はおろか、具体的な化合物の規定のある請求項2?8にまで出願時の技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとまではいえない。」

4.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号の規定(サポート要件)について
特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定されており、当該規定を満たすか否か(すなわち、特許請求の範囲の記載が、いわゆるサポート要件を満たすか否か)は、特許請求の範囲の記載と本願明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そして、請求項に係る発明が、本願明細書の発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていると判断される場合には、該請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえず、特許法第36条第6項第1号の規定に反するものとなるし、また、サポート要件の存在については、本願出願人すなわち審判請求人が証明責任を負うと解するのが相当である。
(2)本願発明が解決しようとする課題について
本願発明が解決しようとする課題に関し、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。(なお、下線は合議体による。)

「【0007】
反応装置系内で多重流動様式を操作することは、製品の多様性という利点をもたらす一方で、こうした反応装置系が更なる問題を引き起こす可能性がある。特に、一つの流動様式下で最適に働く触媒系が、別の流動様式下で稼働する際には同じようには働かない可能性がある。例えば、ある触媒系は、高速様式では適正に動作し得るが、低速又は高固体のホールドアップ様式では、動作上の問題、例えば、主に不十分な熱除去及び/又は静的付着(static adhesion)によって起こると考えられている粒子凝集及びポリマー「塊(chunks)」の形成などがあり得る。このような動作上の問題は、例えば欧州特許第1,720,913号、国際公開公報第2005/095465号、米国特許第7,405,260号に記載されている。したがって、多重様式反応装置系に伴う動作上の問題点を克服するために改良重合法を開発する必要がある。
【0008】
このような動作上の問題を解決するための従来の試みには、例えば、欧州特許第1,720,913号が含まれるが、これには、「粒子流を制御」し、反応装置の閉塞を防止するために、一定の質量流量で重合反応装置の充填移動層ゾーンの中に多数の液体流を継続的に供給することが記載されている。多重液体注入によって、方法は不要な複雑さを増し、費用が上がる。さらに、多重流動様式を含む多くの重合反応装置系では、プレ重合(pre-polymerization)を用いることが必要となる。プレ重合によって、触媒活性部位の分散を改善することができ、それによって、ポリマー粒子の凝集をもたらす可能性がある局部過熱の可能性を低下させることができるが、これも、さらなる投資と操作費用を増加させることになる。したがって、多重様式重合反応装置系における動作上の問題に対し、容易に適用することができ、比較的低い費用と動作上の複雑さが少ない解決策を見つける必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、2つ又はそれ以上の異なった流動様式を用いる気相重合法の改良である。本改良は、混合外部電子供与体供給を用いることを含む。」
「【0015】
本発明は、少なくとも1つの流動様式が比較的高い固体ホールドアップをもつ反応装置系にとって特に有益であり得る。固体ホールドアップが高くなるほど、一般的には、粒子凝集の可能性が高くなる。「固体ホールドアップ」という用語は、気固系における固体の体積割合を意味する。・・・いくつかの実施形態において、本発明は、少なくとも1つの流動様式が、0.15(又は15%)よりも大きい・・・固体ホールドアップをもつ(しかし、これらに限定されない)反応装置系とともに用いられる。」
「【0020】
・・・本発明は、以下を含む触媒組成物の使用を伴う:プロ触媒組成物;共触媒;並びに、少なくとも1つの活性制限剤(activity limiting agent)(ALA)及び少なくとも1つの選択性制御剤(SCA)を含む2つ又はそれ以上の異なった成分の混合外部電子供与体(M-EED)。」

上記の本願明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本願発明は、混合外部電子供与体を含む触媒組成物を用いた、2つ又はそれ以上の異なった流動様式を用いる気相重合法の改良に関するものであって(【0009】及び【0020】)、従来、流動様式の反応装置でポリマーを製造する方法においては、高速流動様式下では最適に働く触媒系が、大きい固体ホールドアップをもつような流動様式下では同じようには働かず、粒子凝集及びポリマー塊の形成などが生じ、動作上の問題が生じる問題があることが知られていた(【0007】)ところ、この問題を、多重液体注入等の複雑で費用のかかる方法を使用することなく、解決するものである(【0008】)。

そうすると、本願発明が解決しようとする課題は、
「2つ又はそれ以上の異なった流動様式を有する多重様式反応装置系であって、流動様式の少なくとも1つが15%よりも大きい体積固体ホールドアップを有し、粒子凝集やポリマー塊の形成などの動作上の問題が起こりやすい反応装置系を使用する場合であっても、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題のないポリプロピレン又はプロピレンコポリマー(以下、「ポリプロピレン等」ともいう。)の作製方法を提供すること」
であると認められる。

そこで、本願の出願時の技術常識に照らし、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本願発明により本願発明が解決しようとする課題が解決できることを認識できるかについて検討する。

(3)本願明細書の発明の詳細な説明の記載
本願発明が解決しようとする課題の解決手段に関し、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

a 混合外部電子供与体の機能に関し、【0013】には以下の記載がある。
「【0013】
本発明は、重合の動力学的特徴を十分に改変することができる特別な供与体混合物を使用して、凝集又は塊形成に伴う反応装置内の「ホット」スポットを除去することに関する。このようにして、反応装置は、ポリマー-粒子凝集及び生産装置(例えば重合用反応装置、生成物排出口、気体再生パイプ、コンプレッサー、熱交換器など)内の様々な場所で閉塞が起きるのを防ぐことができる。」

b ポリマーの作製に使用する触媒組成物に関し、【0012】及び【0020】?【0021】には、以下の記載がある。
「【0012】
本触媒組成物のプロ触媒(procatalyst)組成物は、チーグラー・ナッタプロ触媒組成物であってもよい。当分野において一般的に知られているため、任意の従来型チーグラー・ナッタプロ触媒を本触媒組成物において使用することができる。一つの実施形態において、チーグラー・ナッタプロ触媒組成物は、塩化チタン、塩化マグネシウム、及び場合により内部電子供与体を含有する。」
「【0020】
より具体的には、本発明は、以下を含む触媒組成物の使用を伴う:プロ触媒組成物;共触媒;並びに、少なくとも1つの活性制限剤(activity limiting agent)(ALA)及び少なくとも1つの選択性制御剤(SCA)を含む2つ又はそれ以上の異なった成分の混合外部電子供与体(M-EED)。本明細書において用いられる場合、「外部電子供与体」は、触媒の性能を修正するプロ触媒の形成とは独立して加えられる組成物である。本明細書において用いられる場合、「活性制限剤」は、触媒温度が閾値温度を超えたときに(例えば約85℃よりも高い温度で)触媒活性を低下させる組成物である。「選択性制御剤」は、ポリマーの立体規則性を向上させる組成物である。上記定義は互いに排他的なものではなく、単一の化合物が、例えば、活性制限剤と選択性制御剤の両方に分類されていてもよいことが理解されるべきである。
【0021】
本発明において使用するための混合外部電子供与体化合物は、好ましくは少なくとも1つのカルボン酸化合物を含む。カルボン酸化合物は、ALA成分であっても、及び/又はSCA成分であってもよい。」

c 混合外部電子供与体系を構成する選択性制御剤(SCA)について、【0022】?【0025】には、以下の記載がある。
「【0022】
選択性制御剤(SCA)は、以下の1つ又はそれ以上から選択され得る:アルコキシシラン、アミン、エーテル、カルボキシレート、ケトン、アミド、カルバメート、ホスフィン、ホスフェート、ホスファイト、スルホネート、スルホン、及び/又はスルホキシド。
【0023】
一つの実施形態において、外部電子供与体はアルコキシシランを含む。アルコキシシランは、一般式:SiR_(m)(OR’)_(4-m)(I)を有する。ただし、式中、Rは、独立して各別に水素又は場合により1つ又はそれ以上の14族、15族、16族もしくは17族のヘテロ原子を含有する1つ又はそれ以上の置換基で置換されているヒドロカルビル基もしくはアミノ基であり、該Rは、水素及びハロゲンを除いて最大20個までの原子を含有し;R’は、C_(1-4)アルキル基であり;mは0、1、2又は3である。一つの実施形態において、RはC_(6-12)アリールアルキル基もしくはC_(6-12)アラルキル基、C_(3-12)シクロアルキル基、C_(3-12)分岐型アルキル基、又はC_(3-12)環式もしくはC_(3-12)非環式のアミノ基であり、R’は、C_(1-4)アルキルであり、mは1又は2である。適切なシラン組成物の非限定的な例には、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジ-tert-ブチルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン、メチルシクロヘキシルジエトキシシラン、エチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、イソブチルイソプロピルジメトキシシラン、ジ-n-ブチルジメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、ジエチルアミノトリエトキシシラン、シクロペンチルピロリジノジメトキシシラン、ビス(ピロリジノ)ジメトキシシラン、ビス(ペルヒドロイソキノリノ)ジメトキシシラン及びジメチルジメトキシシランなどがある。一つの実施形態において、シラン組成物は、ジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPDMS)、メチルシクロヘキシルジメトキシシラン(MChDMS)又はn-プロピルトリメトキシシラン(NPTMS)及びこれらを任意に組み合わせたものである。
【0024】
一つの実施形態において、選択性制御剤成分は、2種類又はそれ以上のアルコキシシランの混合物であってもよい。更なる実施形態において、この混合物は、ジシクロペンチルジメトキシシラン及びメチルシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン及びテトラエトキシシラン、又はジシクロペンチルジメトキシシラン及びn-プロピルトリエトキシシランであってもよい。
【0025】
一つの実施形態において、混合外部電子供与体は、ベンゾエート、スクシネート及び/又はジオールエステルを含むことができる。一つの実施形態において、混合外部電子供与体は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンをSCAとして含む。別の実施形態において、混合外部電子供与体は、ジエーテルをSCA及びALAの両者として含む。」

d 混合外部電子供与体系を構成する活性制限剤(ALA)について、【0026】?【0029】には、以下の記載があり、また、【0030】にはジエーテルの具体例が、【0031】にはスクシネート組成物の具体例が、【0032】にはジオールエステルの具体例が、それぞれ記載されている。
「【0026】
混合外部電子供与体系は、活性制限剤(ALA)も含む。ALAは、重合反応装置の混乱を阻止さもなければ防止して、重合過程の継続性を確保する。一般的には、チーグラー・ナッタ触媒の活性は、反応装置の温度が上がるにつれて上昇する。また一般的には、チーグラー・ナッタ触媒は、製造されるポリマーの融解点温度付近で高い活性を維持する。発熱性重合反応によって生じた熱は、ポリマー粒子の凝集形成を引き起こして、最終的には、ポリマー製造過程の継続性の崩壊をもたらす可能性がある。ALAは、昇温時に触媒活性を低下させて、それにより反応装置の混乱を防止し、粒子凝集を低下(又は防止)し、重合反応過程の継続性を保証する。
【0027】
活性制限剤は、カルボン酸エステル、ジエーテル、ポリ(アルケングリコール)、ジオールエステル、及びこれらを組み合わせたものであってもよい。カルボン酸エステルは、脂肪族もしくは芳香族のモノカルボン酸エステルもしくはポリカルボン酸エステルであってもよい。適切なモノカルボン酸エステルの非限定的な例には、エチルベンゾエート、メチルベンゾエート、エチルp-メトキシベンゾエート、メチルp-エトキシベンゾエート、エチルp-エトキシベンゾエート、エチルp-イソプロポキシベンゾエート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアセテート、エチルp-クロロベンゾエート、ヘキシルp-アミノベンゾエート、イソプロピルナフサネート、n-アミルトルエート、エチルシクロヘキサノエート及びプロピルピバレートなどがある。
【0027】
活性制限剤は、カルボン酸エステル、ジエーテル、ポリ(アルケングリコール)、ジオールエステル、及びこれらを組み合わせたものであってもよい。カルボン酸エステルは、脂肪族もしくは芳香族のモノカルボン酸エステルもしくはポリカルボン酸エステルであってもよい。適切なモノカルボン酸エステルの非限定的な例には、エチルベンゾエート、メチルベンゾエート、エチルp-メトキシベンゾエート、メチルp-エトキシベンゾエート、エチルp-エトキシベンゾエート、エチルp-イソプロポキシベンゾエート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアセテート、エチルp-クロロベンゾエート、ヘキシルp-アミノベンゾエート、イソプロピルナフサネート、n-アミルトルエート、エチルシクロヘキサノエート及びプロピルピバレートなどがある。
【0028】
適切なポリカルボン酸エステルの非限定的な例には、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジ-n-プロピルフタレート、ジイソプロピルフタレート、ジ-n-ブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジ-tert-ブチルフタレート、ジイソアミルフタレート、ジ-tert-アミルフタレート、ジネオペンチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジ-2-エチルデシルフタレート、ジエチルテレフタレート、ジオクチルテレフタレート、及びビス[4-(ビニルオキシ)ブチル]テレフタレートなどがある。
【0029】
脂肪族カルボン酸エステルは、C_(4)-C_(30)脂肪酸エステルであってもよく、モノエステルもしくはポリ(2又はそれ以上の)エステルであってもよく、直鎖型もしくは分岐型であってもよく、飽和型もしくは非飽和型であってもよく、これらのいずれかを組み合わせたものであってもよい。また、C_(4)-C_(30)脂肪酸エステルは、14族、15族もしくは16族のヘテロ原子を含有する1つ又はそれ以上の置換基で置換されていてもよい。適切なC_(4)-C_(30)脂肪酸エステルの非限定的な例には、・・・などがある。更なる実施形態において、C_(4)-C_(30)脂肪酸エステルは、ラウレート、ミリステート、パルミテート、ステアレート、オレエート、セバケート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノアセテートもしくはジアセテート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノミリステートもしくはジミリステート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノラウレートもしくはジラウレート、(ポリ)(アルキレングリコール)モノオレエートもしくはジオレエート、グリセリルトリ(アセテート)、C_(4)-C_(20)脂肪族カルボン酸のグリセリルトリエステル、及びこれらの混合物などであってもよい。更なる実施形態において、C_(4)-C_(30)脂肪酸エステルはイソプロピルミリステート又はジ-n-ブチルセバケートである。」
(【0030】?【0032】の記載は省略する。)

e 外部電子供与体の反応装置への添加時期や場所に関し、【0033】?【0034】には、以下の記載がある。
「【0033】
各外部電子供与体成分は、別々に反応装置に加えることも、2つ又はそれ以上を予め一緒に混合し、その後、混合物として反応装置に加えることもできる。混合物には、1種類よりも多い選択性制御剤又は1種類よりも多い活性制限剤を用いることができる。一つの実施形態において、この混合物は、ジシクロペンチルジメトキシシランとイソプロピルミリステートであり、ジイソプロピルジメトキシシランとイソプロピルミリステートであり、ジシクロペンチルジメトキシシランとポリ(エチレングリコール)ラウレートであり、ジシクロペンチルジメトキシシランとイソプロピルミリステートとポリ(エチレングリコール)ジオレエートであり、メチルシクロヘキシルジメトキシシランとイソプロピルミリステートであり、n-プロピルトリメトキシシランとイソプロピルミリステートであり、ジメチルジメトキシシランとメチルシクロヘキシルジメトキシシランとイソプロピルミリステートであり、ジシクロペンチルジメトキシシランとn-プロピルトリエトキシシランとイソプロピルミリステートであり、ジイソプロピルジメトキシシランとn-プロピルトリエトキシシランとイソプロピルミリステートであり、ジシクロペンチルジメトキシシランとテトラエトキシシランとイソプロピルミリステートであり、ジシクロペンチルジメトキシシランとジイソプロピルジメトキシシランとn-プロピルトリエトキシシランとイソプロピルミリステートであり、及びこれらを組み合わせたものである。
【0034】
M-EEPは、別々に加える場合でも、予め混合して加える場合でも、反応装置の任意のポイントで加えることができるが、ALAは、凝集のリスクが最も高いと考えられる領域、例えば、固体ホールドアップが最も高く、FBDが最も高く、及び/又は気体速度が最も低い領域などに存在させるべきである。」

f 触媒組成物に含まれるアルミニウム共触媒について、【0035】には、以下の記載がある。
「【0035】
本触媒組成物は共触媒を含む。上記チーグラー・ナッタプロ触媒組成物とともに用いるための共触媒は、アルミニウム含有組成物であってもよい。適切なアルミニウム含有組成物の非限定的な例には、有機アルミニウム化合物、例えば、トリアルキルアルミニウム化合物、ジアルキルアルミニウムヒドリド化合物、アルキルアルミニウムジヒドリド化合物、ハロゲン化ジアルキルアルミニウム化合物、ジハロゲン化アルキルアルミニウム化合物
、ジアルキルアルミニウムアルコキシド化合物、及びアルキルアルミニウムジアルコキシド化合物であって、各アルキル基又はアルコキシド基に1?10個又は1?6個の炭素原子を含有するものなどがある。一つの実施形態において、共触媒は、C1-4トリアルキルアルミニウム化合物、例えばトリエチルアルミニウム(TEA)である。触媒組成物は、Al対(SCA+ALA)のモル比が0.5:1から25:1、又は1.0:1から20:1、又は1.5:1から15:1、又は約6.0未満、又は約5未満、又は4.5未満である。一つの実施形態において、Al対(SCA+ALA)のモル比は0.5:1から4.0:1である。全SCA対ALAのモル比は、0.01:1から20:1、0.10:1から5.00:1、0.43:1から2.33:1、又は0.54:1から1.85:1、又は0.67:1から1.5:1である。」

g 実施例(比較実施例を含む。)として、【0036】?【0038】には、以下の記載がある。
「【0036】
以下の実施例は、希薄高速流動化様式下で操作されるライザー(riser)部と充填移動層様式下で操作される降水部がある、米国特許第6,818,187号の図1に記載されたものと同様の二重様式反応装置内で行うことができる重合反応である。どちらの反応装置部も、同一の気体組成物と非常によく似た圧力で稼働する。ポリプロピレン・ホモポリマー製品又はプロピレン-エチレン・ランダムコポリマー製品が、分子量調節剤(molecular weight regulator)である水素存在下で作製される。
【0037】

【0038】
比較例A及びBから、一般的に用いられている「D-ドナー」では、充填移動層の流動様式をもつ反応装置部で凝縮が起こりやすいことが分かる。これは、このような濃密相非流動化様式においては、ポリマー粒子間での移動が相対的に非常に少なく、粒子から層への熱伝導能力が比較的低いという発熱性重合反応の性質に関係している。「D-ドナー」を本発明の混合電子供与体系に置き換えると、ポリプロピレンホモ製品(実施例A)及びプロピレン-エチレン・ランダムコポリマー製品(実施例B)の両方の製造について粒子凝縮が防止される。したがって、反応装置系の継続した無故障操作が達成される。」

(4)サポート要件についての判断
まず、ポリプロピレン等を、2つの異なった流動様式を有する反応装置系において作製した結果(反応装置動作性能)を具体的に開示する、実施例(上記g)の記載を中心に検討する。

本願発明のポリプロピレン等の作製に使用される「触媒系」(触媒組成物)について、本願明細書には、チーグラー・ナッタプロ触媒等のプロ触媒組成物、アルミニウム含有共触媒、並びに、少なくとも1つの活性制限剤(ALA)及び少なくとも1つの選択性制御剤(SCA)を含む混合外部電子供与体(M-EED)が含まれると記載されている(bの【0012】及び【0020】)。
そして、本願明細書には、実施例(A及びB)として、希薄高速流動化様式下で操作されるライザー部と充填移動層様式下で操作される降水部(これは、gの【0038】によれば、濃密相非流動化様式である。)を有する二重様式反応装置を使用して、ポリプロピレン・ホモポリマー又はプロピレン-エチレン・ランダムコポリマーを作製したこと(同【0036】)、触媒系として、触媒としての「Z-N」(チーグラー・ナッタ触媒を意味すると認められ、実施例の表1の欄中に記載の米国特許第6,825,146号の実施例1の記載によれば、これは、マグネシウム、チタン、アルコキシド及びハライド成分を含むプロ触媒前駆体をTiCl_(4)及びエチルベンゾエート電子供与体と接触させることにより調製したプロ触媒組成物を、さらに、TiCl_(4)、クロロベンゼン及び塩化ベンゾイルの混合物と接触させることにより交換・更なるハロゲン化を行い得られたプロ触媒組成物と、トリエチルアルミニウム助触媒と、エチルp-エトキシベンゾエート選択性制御剤とからなる。)、及び、供与体(混合外部電子供与体)としての「95モル%のDBS(ジ-n-ブチルセバケート)+5モル%の「Cドナー」(メチルシクロヘキシルジメトキシシラン)」(前者は、dの【0029】によれば活性制限剤であり、後者は、cの【0023】によれば、選択性制御剤である。)を使用したこと(【0037】の表1)、その結果、操作上の問題はなく、反応装置は数日間継続して稼働したこと(同左)が記載されている。また、比較例A及びBとして、供与体(混合外部電子供与体)が「D-ドナー」とも呼ばれる「DCPDMS(ジシクロペンチルジメトキシシラン)」(これは、cの【0023】によれば、選択性制御剤である。)であって、活性制限剤を含んでいない場合には、降水部で数時間以内に重度のポリマー凝縮が形成され、反応装置を洗浄のために一時停止する必要があったことが記載されている。

そうすると、本願明細書の実施例(及び比較例)の記載からは、希薄高速流動化様式及びこれとは異なった濃密相非流動化様式である充填移動層様式(これは、大きい体積固体ホールドアップを有すると解される。)を有する反応装置を使用して、ポリプロピレン等を作製する場合に、チーグラー・ナッタ触媒系を構成する混合外部電子供与体系として、選択性制御剤がメチルシクロヘキシルジメトキシシランなるアルコキシルシランを含み、活性制限剤がジ-n-ブチルセバケートなるジカルボン酸ジエステルを含む系(以下、「特定の混合外部電子供与体系」という。)を使用した場合には、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題なくポリプロピレン等を作製できることを当業者は理解できるといえるから、実施例の記載から当業者は、混合外部電子供与体系が、上記特定の混合外部電子供与体系である場合には、2つ又はそれ以上の異なった流動様式を有する多重様式反応装置系であって、流動様式の少なくとも1つが15%よりも大きい体積固体ホールドアップを有する、粒子凝集やポリマー塊の形成などの動作上の問題が起こりやすい反応装置系を使用する場合であっても、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題なくポリプロピレン等を作製でき、本願発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者は認識できるといえる。

しかしながら、本願発明は、2.で記載したとおりのものであり、触媒系に含まれる混合外部電子供与体系については、「少なくとも1つの選択性制御剤(selectivity control agent)及び少なくとも1つの活性制限剤(activity limitin gagent)を含む」と特定されており、選択性制御剤と活性制限剤の化学構造については何ら特定されていない。
実際、本願明細書中では、混合外部電子供与体を構成する「選択性制御剤」については、「ポリマーの立体規則性を向上させる」ものである旨の説明がされているのみであり(bの【0020】)、特定の化学構造のものに限定して解釈すべき記載は見当たらないし、「活性制限剤(ALA)」についても、「触媒温度が閾値温度を超えたときに(例えば約85℃よりも高い温度で)触媒活性を低下させる」ものであることが説明されているのみであり(bの【0020】)、特定の化学構造のものに限定して解釈すべき記載は見当たらない。

そこで、本願の出願時の技術常識を参酌して、上記実施例の記載(g)及び本願明細書の実施例以外の他の記載(特に、a?f)から、触媒系に含まれる混合外部電子供与体系が、任意の「少なくとも1つの選択性制御剤(selectivity control agent)」及び任意の「少なくとも1つの活性制限剤(activity limitin gagent)」を含むものである場合についても、実施例に記載されている特定の混合外部電子供与体系触媒系を使用する場合と同様に、本願発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるかについて検討する。

本願明細書には、本願発明について、一般的な記載として、該触媒系として「重合の動力学的特徴を十分に改変することができる特別な供与体混合物」つまり、特定の「混合外部電子供与体」を使用することで、「凝集又は塊形成に伴う反応装置内の「ホット」スポットを除去」して、反応装置の閉塞が起きるのを防ぐことができるものであると記載されている(aの【0013】)。
そして、前述のとおり、本願発明では、使用される触媒系に含まれる混合外部電子供与体系を構成する「選択性制御剤」の化学構造は特定されておらず、ポリマーの立体規則性を向上させる機能を有する無数の任意の化合物が包含されるが、明細書中には、その具体例として、アルコキシシラン、アミン、エーテル、カルボキシレート、ケトン、アミド、カルバメート、ホスフィン、ホスフェート、ホスファイト、スルホネート、スルホン、及び/又はスルホキシドといった総称で表現される広範な化合物群が記載されている(cの【0022】?【0025】)。
また、本願発明の方法で使用される混合外部電子供与体を構成する「活性制限剤」についても、前述のとおり、その化学構造は特定されておらず、触媒温度が閾値温度を超えたときに触媒活性を低下させる機能を有する無数の任意の化合物が包含されるが、明細書中には、その具体例として、カルボン酸エステル、ジエーテル、ポリ(アルケングリコール)、ジオールエステル、及びこれらを組み合わせたものとして種々の具体的化合物が記載されている(dの【0027】?【0032】)。
さらに、本願明細書には、外部電子供与体の反応装置への添加時期や場所についての記載(eの【0033】?【0034】)や、触媒組成物に含まれるアルミニウム共触媒(fの【0035】)についても記載されている。

そうすると、本願明細書には、本願発明のポリプロピレン等の作製方法に用いられる触媒系(触媒組成物)を構成する各成分の機能や具体的な化合物例は記載されており、また、「少なくとも1つの選択性制御剤及び少なくとも1つの活性制限剤を含む混合外部電子供与体系を含む触媒系」を使用することで、流動様式の少なくとも1つが15%よりも大きい体積固体ホールドアップを有し、粒子凝集やポリマー塊の形成などの動作上の問題が起こりやすい反応装置系を使用する場合であっても、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題のないポリプロピレン等の作製ができることについて、形式的には記載されているといえる(a?f)。

しかしながら、請求人自身も、本願明細書の【0007】に、
「一つの流動様式下で最適に働く触媒系が、別の流動様式下で稼働する際には同じようには働かない可能性がある。例えば、ある触媒系は、高速様式では適正に動作し得るが、低速又は高固体のホールドアップ様式では、動作上の問題、例えば、主に不十分な熱除去及び/又は静的付着(static adhesion)によって起こると考えられている粒子凝集及びポリマー「塊(chunks)」の形成などがあり得る。このような動作上の問題は、例えば欧州特許第1,720,913号、国際公開公報第2005/095465号、米国特許第7,405,260号に記載されている。」
と、言及しているように、従来、高速様式では適性に動作しても、低速又は高固体のホールドアップ様式の流動反応装置を使用した場合には、粒子凝集やポリマー塊が形成され、反応装置の動作に問題を生じることが知られており、ある流動様式下では最適に機能する触媒系が、これよりも熱除去や静的付着の点で劣る別の流動様式下では、同じようには機能しない可能性があることが当業者に認識されていた。
実際、上記【0007】に従来技術として記載されている国際公開公報第2005/095465号の2頁下から5行?3頁15行には、二つの重合ゾーンを有する反応装置を使用した気相重合方法において、固体密度の高い第二の重合ゾーンを有する気相重合方法では、重合熱が適切に除去されない場合に、ポリマー塊が形成されプラント操業を停止することになる旨が記載され、比較実施例Aでは、装置に格別の工夫をすることなく、従来から使用されていた触媒系である、チーグラー・ナッタ触媒と助触媒としてのトリエチルアルミニウム、外部供与体としてのジシクロペンチルジメトキシシランを使用した触媒系を用いてポリプロピレンを作製したところ、固体の密度の高い下降管内でポリマー塊が形成され、反応器の目詰まりが起きたことが記載されているし、欧州特許第1,720,913号や米国特許第7,405,260号にも同様の記載がされており、ある流動様式では問題なく使用されていた触媒系であっても、より大きい体積固体ホールドアップを有する流動様式を有する装置の場合には問題が生じることがあることが示されている。
そうすると、本願の出願時、当業者は、従来ポリプロピレン等の製造に好適に使用され、一般的な希薄高速流動様式等の反応装置系においては粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上も問題がないことが知られていた触媒系(外部供与体を含む)を使用する場合であっても、本願発明の様な、15%よりも大きい体積固体ホールドアップを有する流動様式を備えた粒子凝集やポリマー塊の形成などの動作上の問題が起こりやすい反応装置系を使用した場合にも、同様に、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題なくポリプロピレン等を作製できることを、認識できないと認められる。
(なお、この認定は、請求人も、平成27年10月1日付けの意見書の[1]において「触媒系の作用効果は、当業界において周知のように経験的なものであって、或る反応器条件の下で良好に働いても別の反応器条件の下では全く働かないということもあるものである。すなわち、或る環境の下で使用し得る触媒が、自動的に、他の環境の下でも同様に有効であるとは限らない」と述べていることとも符合する。)

また、原査定でも指摘しているとおり、重合体の製造方法に関する発明では、重合を行う反応器、重合条件に加えて、触媒や他の制御剤等の化学構造等の違いにより、予期し得ない作用効果が生じたり、逆に予測どおりの結果が得られないこともあることが一般に知られており、触媒の違いにより、立体選択性や重合活性が異なったり、また、触媒の活性が他の化合物や極性基の存在で失われる(被毒される)ことがあることも、本願の出願時周知であった(例えば、本願出願時の周知技術を示す文献である、高分子学会編集「新高分子実験学 全10巻 第2巻 高分子の合成・反応(1)-付加系高分子の合成-」(1995年6月15日第1刷発行)共立出版の278?286頁、305頁、309頁参照。)
このことは、原査定の拒絶理由において、引用文献1として引用された特表2007-505984号公報の【0003】?【0005】に、
「主としてプロピレン又はプロピレンとエチレンとの混合物の重合用に設計された触媒組成物には、一般的に、ポリマー特性、特にポリマー主鎖のタクチシティ(tacticity)又は立体規則性に影響を与える選択率制御剤が含有されている。・・・タクチシティ制御に加えて・・・その他の特性も、同様にSCAの使用によって影響を受ける。温度の関数としての触媒組成物の活性が、SCAの選択によって影響を受け得ることが観察された。しかしながら、しばしば、一つのポリマー特性に関して望ましい制御を与えるSCAは、追加の特性又は特徴に関して有効でないか又は有害である。逆に、1種のプロ触媒との組合せで有効であるSCAは、異なったプロ触媒と組合せて使用するとき有効でないかもしれない。
安息香酸エチルによって例示される芳香族モノカルボン酸のモノエステルを含有するチーグラー-ナッタプロ触媒組成物との組合せで、芳香族カルボン酸エステルのある種のアルコキシ誘導体、特にp-エトキシ安息香酸エチル(PEEB)の使用は、より低い総重合活性を有する劣った触媒組成物並びに比較的低いイソタクチシティ及び増加したオリゴマー含有量を有するポリマー(これらの全ては、一般的に望ましくない結果となる)になることが知られている。
しかしながら、都合の悪いことに、・・・アルコキシシランSCAは、安息香酸エチル内部電子供与体と組合せて使用するとき、一般的に自己消滅性(self-extinguishing)ではない触媒組成物になる。即ち、これらの組成物は、ポリマー粒子を、凝集塊を形成するようにする温度偏位を制御することが困難であるために、重合工程制御問題、特に、シート形成及び大きいポリマーチャンクの形成をもたらし得る。このような触媒組成物は「自己消滅性」ではない。むしろ、適度により高い反応温度で、これらは一層活性であり、工程を制御することが困難になる傾向がある。製造されるポリマーの軟化点又は融点に近い温度で、これらは顕著な活性をなお有し、そうして発熱重合反応から発生した熱が、凝集塊の生成に著しく寄与するようになる。・・・この状態で、継続する重合は過度の温度を生じ、反応器内容物全体が固体塊に溶融する結果になり、これはポリマー塊を除去するために、反応器を開くこと及び骨の折れる労力を必要とする。」
と、記載されており(下線は、合議体による。)、SCAの選択によっては、重合反応を制御することが困難となり、ポリマーチャンクが形成される場合があることや、触媒系を構成する他の成分が異なれば(プロ触媒の組成が変われば)同じSCAでも、比較的低いイソタクチシティ(合議体注;立体選択性の低下)及び増加したオリゴマー含有量といった望ましくない結果となることが記載されていることからも理解できる。
その上、本願発明の「活性制限剤」は、「昇温時に触媒活性を低下させ」る作用(つまり、触媒毒作用)を有するものであり(dの【0027】)、活性制限剤の具体的な種類によっては、触媒活性が低下しすぎて、重合反応が継続できなくなる可能性もある。

つまり、本願の出願時、ある流動様式を有する反応装置系において、ある特定の外部電子供与体を含む触媒系を使用して、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題を生じることなくポリプロピレン等のポリマーを作製できる場合には、これより高い体積固体ホールドアップを有する流動様式を備えた反応装置を使用した場合にも同様に、同じある特定の外部電子供与体を含む触媒系を使用することで、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題を生じることなくポリプロピレン等のポリマーを作製できる、というような技術常識が存在していたとはいえないし、また、本願の出願時、ある特定の外部電子供与体を含む触媒系が、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、高い体積固体ホールドアップを有する流動様式を備えた反応装置系で動作上の問題を生じることなくポリプロピレン等を作製できる場合には、これとは異なる外部電子供与体を含む触媒系を使用した場合にも、同様に、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題を生じることなくポリプロピレン等のポリマーを作製できる、というような技術常識が存在していたとも認められない。
むしろ、当業者は、触媒系に用いられる外部電子供与体化合物や他の触媒成分の違い、反応装置系の違いによって、重合反応によりポリマーを作製する際の粒子凝集やポリマー塊の形成に対する影響は変化し、反応装置の動作にも影響を与える可能性があると認識していたといえる。

そして、かかる当業者の認識(技術常識)に照らすと、当業者は、本願明細書のa?fで指摘した一般的な記載内容に基づいて、実施例(A及びB)に開示されている、特定の混合外部電子供与体系を含むチーグラー・ナッタ触媒系を使用した場合について奏される効果が、選択性制御剤及び活性制限剤の化学構造が特定されていない混合外部電子供与体系を含む本願発明の触媒系を使用した場合全般についてまで、奏されると推認することはできないし、まして、本願発明においては触媒系は、「混合外部電子供与体系を含む触媒系触媒系」と特定されており、触媒活性に影響を与える、触媒系中の他の触媒成分(例えば、プロ触媒)の種類についての特定もされていないのであるから、なおさらである。
また、仮に、本願明細書に記載されている種々の触媒系が、他の流動様式を有する反応装置系において、粒子凝集やポリマー塊の形成などの動作上の問題なくポリポロピレン等を作製できることが既知である場合であっても、これよりも大きい体積固体ホールドアップを有する本願発明の流動様式の反応装置系においても同様に、動作上の問題なくポリポロピレン等を作製できると、当業者は推認することはできない。
さらに、本願明細書中の他の記載を検討しても、本願発明により、実施例(A,B)において奏されているのと同様の効果が、本願発明により奏されることを推認させるような記載は見当たらない。

そうすると、本願の出願時の技術常識に照らし、特定の混合外部電子供与体系を含む触媒系を使用する場合の結果についての具体的な開示しかない本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、本願発明により、2つ又はそれ以上の異なった流動様式を有する多重様式反応装置系であって、流動様式の少なくとも1つが15%よりも大きい体積固体ホールドアップを有する、粒子凝集やポリマー塊の形成などの動作上の問題が起こりやすい反応装置系を使用する場合であっても、粒子凝集やポリマー塊の形成がなく、反応装置の動作上の問題のないポリプロピレン等の作製方法を提供するという、本願発明が解決しようとする課題が、解決できると認識することはできない。
よって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
そして、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明において、発明が解決しようとする課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものであるから、本願は、サポート要件を満たしているとはいえない。

(5)請求人の主張について
請求人は、審判請求書の請求の理由(平成28年 8月24日付けの手続補正書)の[III]の(2)において、以下の主張をしている。
「触媒が異なれば効果も異なるということについては、本願明細書の段落[0007]でも述べたように、出願人は充分に承知している。出願人は、このことを承知していたからこそ、実施例において例示したものと経験的に同効と考え得る多数のSCA及びALAを列挙して明細書の一般記述部分に記載した。当業者であれば、この列挙されたSCA及びALAが実施例において例示されたものと同効であることを、認識できる筈である。換言すれば、本願明細書を読んだ当業者は、本願明細書に記載されている触媒はすべて特許請求の範囲の方法に適用できるものと理解するであろう。
本願発明を開示又は示唆した公知文献が皆無であるという事実が示すように、本願特許請求の範囲に記載されている方法は、複数の流動様式を有する反応装置系においてSCAとALAとの組み合わせを含む混合外部電子供与体を使用することに関して、世界で最初のもの(パイオニア・インベンション)であり、そのような混合外部電子供与体系の使用によって所期の効果がもたらされることを述べた文献は無い。
若し、このような本願発明が実施例に示されたSCAとALAとの組み合わせ使用のみに限定されたとすれば、実施例に示された以外のSCAとALAとの組み合わせ使用が、発明者の意図に反して、保護されないこととなる。このような事態は、発明の開示の代償として特許権が与えられるという特許制度の趣旨に反するものである。
叙上の理由から、本願特許請求の範囲は、明細書の実施例の記載によってサポートされるだけでなく、明細書の一般記述部分の記載によってもサポートされると考えるべきものである。」

そこで、検討すると、まず、請求人が、「経験的に同効と考え得る多数のSCA及びALAを列挙して明細書の一般記述部分に記載した。・・・本願明細書を読んだ当業者は、本願明細書に記載されている触媒はすべて特許請求の範囲の方法に適用できるものと理解するであろう。」と主張する点については、本願発明は、既に述べたとおり、触媒系に含まれる混合外部電子供与体系については、「少なくとも1つの選択性制御剤(selectivity control agent)及び少なくとも1つの活性制限剤(activity limitin gagent)を含む」と特定されており、選択性制御剤と活性制限剤の化学構造については何ら特定されていないのであるから、請求人の主張は、その前提において間違っている。
そして、仮に、本願発明のSCA及びALAを、請求人が主張するように、明細書の一般記述部分に列挙される多数のSCA及びALAであると解する場合であっても、請求人も認めているとおり、触媒が異なれば効果も異なることが当業者の技術常識であって、実施例において示された特定の混合外部電子供与体系を含む触媒系を使用した場合の効果が、これとは異なる触媒系を使用した場合にも奏されると当業者が認識することができないことは、既に(4)で説示したとおりであり、請求人が主張するように「混合外部電子供与体系の使用によって所期の効果がもたらされることを述べた文献は無い」のであればなおのこと、所期の効果がもたらされることを具体的な実験結果で示す必要がある。
しかしながら、本願明細書に所期の効果がもたらされることが示されているのは、特定の化合物の組み合わせからなる、ただ1種の特定の混合外部電子供与体系を使用した場合のみである。
そして、サポート要件の存在については、本願出願人(審判請求人)が証明責任を負うと解するのが相当であるところ、請求人は、「当業者は、本願明細書に記載されている触媒はすべて特許請求の範囲の方法に適用できるものと理解する。」と主張するのみで、この主張の根拠を何ら具体的に示していない。
よって、この点の請求人の主張は採用できない。

また、請求人は、「実施例に示されたSCAとALAとの組み合わせ使用のみに限定されたとすれば、実施例に示された以外のSCAとALAとの組み合わせ使用が、発明者の意図に反して、保護されないこととなる。このような事態は、発明の開示の代償として特許権が与えられるという特許制度の趣旨に反するものである。」とも主張する。
しかしながら、特許制度は、発明を公開させることを前提に、当該発明に特許を付与して一定期間その発明を業として独占的、排他的に実施することを保障し、もって発明を奨励し、産業の発展に寄与することを趣旨とするものであり、ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は、本来、当該発明の技術内容を一般に開示すると共に、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲を明らかにするという役割を有するものであるから、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載しなければならないというべきであり、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載する場合は、公開されていない発明について独占的、排他的な権利が発生することになり、一般公衆からその自由利用の利益を奪い、ひいては産業の発展を阻害するおそれを生じ、上記の特許制度の趣旨に反することになる。
そして、本願発明が、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された発明とはいえないことは既に(4)で述べたとおりであるから、そのような場合に特許権を与えることは特許制度の趣旨に反することになる。
よって、この点の請求人の主張も採用できない。


5.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-20 
結審通知日 2017-07-26 
審決日 2017-08-08 
出願番号 特願2012-546062(P2012-546062)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉江 渉細井 龍史  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 藤原 浩子
渕野 留香
発明の名称 多様な流動様式を有する気相重合法  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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