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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1335669
審判番号 不服2017-611  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-16 
確定日 2017-12-21 
事件の表示 特願2012-167650「電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日出願公開,特開2014- 27557〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は,平成24年7月27日の出願であって,平成28年6月3日付けで拒絶理由が通知され,同年8月5日付けで手続補正がされたが,同年10月13日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成29年1月16日に拒絶査定不服審判が請求されたものであり,その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成28年8月5日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

(本願発明)
「基準電位部と,給電部と,第1接続部と,前記第1接続部と電気的に接続される処理部とを有するメイン基板と,
第2接続部と,前記第2接続部と電気的に接続される電子部品とを有するサブ基板とを備え,
前記第1接続部と前記第2接続部が信号線で接続されることにより,前記処理部と前記電子部品が電気的に接続され,
前記サブ基板は,前記メイン基板に積層され,所定形状のアンテナエレメントが形成され,
前記アンテナエレメントは,前記信号線とは異なる接点を利用して前記給電部と電気的に接続され,
前記サブ基板は,前記メイン基板の端部の近傍に積層されており,
前記アンテナエレメントは,前記サブ基板における,前記メイン基板の前記端部側の端辺の近傍にのみ形成される電子機器。」

2.引用発明
原査定の拒絶理由に引用された国際公開第2005/062416号(以下,「引用文献」という。)には,「携帯無線機」の発明に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「 1. 所定の回路が実装され接地パターンを有する本基板と,この本基板と所定の間隔を隔てて対向配置され,所定の回路が実装されるとともに,接地パターンを有する別基板と,前記本基板に設けられ前記別基板の接地パターンに給電する給電部を備え,前記別基板をアンテナ素子として用いることを特徴とする携帯電話機。」(7頁,請求の範囲,第1項)

イ 「本発明の実施の形態1について説明する。図1は本発明の実施の形態1に係る携帯電話機の構成を示す図である。本基板7aにはROM,RAM,A/DおよびD/A変換部,PCM変調部,キー操作部,ディスプレイ等の機能を実現した回路が実装されているが詳細については省略する。また,別基板7bは逆Fアンテナのアンテナ素子として機能するとともに,RF回路が実装されている。本基板7a上の回路と別基板7b上のRF回路とはフレキシブルケーブル8によって接続されている。」(2頁18?23行)

ウ 「フレキシブルケーブル8は複数の信号線とGND線とが束になっており,本基板7a上の回路と別基板7b上のRF回路とを接続するだけでなく,含まれているGND線を逆Fアンテナの短絡部として用いる。本実施の形態1では,別基板7bをアンテナ素子として用いるために,このフレキシブルケーブル8のGND線と所定の間隔だけ離れた位置に本基板7a上の給電点9を設け,そこから給電する構成となっている。本基板7aはその他,マイク2,スピーカ3,電池4,ディスプレイ5,キー操作部6等の携帯電話の各要素とピン等によって接続され,筐体1に内蔵されている。本基板7aと別基板7bはともに多段に構成されたものを用いることで基板の面積を小さくすることができる。」(2頁24行?3頁5行)

エ 「別基板7bにはRF回路を実装するが,その場合,例えば,マイク2から入力された音声はPCM符号化され,さらに各通信方式に従って符号化されて,フレキシブルケーブル8を介して別基板7b上のRF回路に入力される。RF回路では中間周波数の符号化された信号を無線周波数に変換し,変換後の信号はフレキシブルケーブル8を介して50Ωを保ったまま本基板側へ伝送され,給電点9からアンテナ素子として作用する別基板7bに設けられたGNDパターン11へ給電され,GNDパターン11から空中に放射される。」(3頁6?11行)

オ 「本基板7aと別基板7bとの間隔hは短い方が小型化が図られるが,一方間隔hが長い方がアンテナ特性は向上する。そのため,間隔hは携帯電話機の構造条件とアンテナ特性とのバランスによって決定される。別基板7bは図2(a)に示したように縦a×横bの大きさで実装され,アンテナ素子となるGNDパターン11を含む。このGNDパターン11の一辺の長さa,bは,その和a+bが使用電波の波長λに対してλ/4以上の長さである。なお,別基板7b上のGNDパターン11の形状は必ずしも長方形である必要はなく,図2(b)のように別の形状であってもよく,本基板7aや別基板7bに搭載する回路やデザインによって適宜決定される。図2(b)の場合には,図に示したように縦横の辺の合計a+b1+b2がλ/4以上であることを要する。さらに,例えば,図2(c)に示すように,GNDパターン11の1箇所が開いた形状の場合には,GNDパターンの全長がλ/4以上であればよく,その分図2(a),(b)と比べて小型化が可能である。」(3頁15?25行)

カ 「本基板7aと別基板7bとを接続するフレキシブルケーブル8のGND線と給電ピン12との間隔は所望のアンテナ特性に応じて決定される。なお,フレキシブルケーブル8に含まれる信号線,GND線は複数あるため,これらがアンテナ特性を劣化させる場合には,本基板7aおよび別基板7b上でこれらの信号線,GND線をチョークコイルに接続して高周波をカットすればよい。フレキシブルケーブル8は,本基板7aと別基板7bと一体型,または,いずれか一方がコネクタタイプまたは両方コネクタの構造で接続される。」(3頁26行?4頁5行)

キ 「また,本実施の形態では,別基板7bに実装するのはRF回路としたが,その他,制御回路,音響用のマイク,スピーカの回路,ベースバンド回路,外部メモリー用回路,キー操作用回路等であってもよい。その場合,これらの回路は,RF回路のように高周波を発生することがないため,シールドケース13は不要となる。また,給電は本基板に実装されたRF回路から行うのでフレキシブルケーブルにRF信号用の信号線は不要となる。」(4頁10?14行)

ク 「また,さらに,フレキシブルケーブル8による短絡を無くすことでモノポールアンテナとして動作させることもできる。その場合には,別基板7bと重なる本基板7a上の部分にはGNDパターンを配置しない方がアンテナ特性が向上する。」(4頁20?22行)

ケ 「以上のように,別基板7bのGNDパターン11に給電し,フレキシブルケーブル8のGND線をアンテナの短絡部とすることで,逆Fアンテナの特性が得られ,個別に内蔵アンテナを設ける必要が無くなり,従来の携帯無線機とくらべ小型化を図ることができる。」(4頁23?25行)

コ 第2図

引用文献の上記記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用文献には,特に第2図の本基板7aと別基板7bとフレキシブルケーブル8を備えた携帯無線機について以下の事項が記載されている。
ここで,第2図(a)において,上記カで,本基板7aと別基板7bの両方がコネクタ構造で接続される場合,前記本基板7aに前記フレキシブルケーブル8が接続されるコネクタを「本基板側コネクタ」と称し,前記別基板7bに前記フレキシブルケーブル8が接続されるコネクタを「別基板側コネクタ」と称することは任意である。さらに,
a 上記アと第2図(a)より,本基板(第2図(a)の「本基板7a」)は,所定の回路,接地パターン,本基板側コネクタ及び給電部(同「給電点9」)を有し,別基板(同「別基板7b」)は,所定の回路,別基板側コネクタを有している。
そして,上記キには,本基板7aに実装された「所定の回路」を「RF回路」とし,別基板7bに実装された「所定の回路」を「音響用のマイク,スピーカの回路」とする例が記載されている。さらに,上記エの,「マイク2から入力された音声はPCM符号化され,さらに各通信方式に従って符号化されて,フレキシブルケーブル8を介して別基板7b上のRF回路に入力される。RF回路では中間周波数の符号化された信号が無線周波数に変換し,変換後の信号はフレキシブルケーブル8を介して50Ωを保ったまま本基板側へ伝送され,」の記載からみて,前記「音響用のマイク,スピーカの回路」は,音声をPCM符号化し,さらに各通信方式に従って符号化するものといえ,符号化された音声はフレキシブルケーブル8を介して中間周波数の符号化された信号を無線周波数に変換するRF回路に入力されるといえる。そうすると,前記「RF回路」と前記「本基板側コネクタ」とは電気的に接続され,前記「音響用のマイク,スピーカの回路」と前記「別基板側コネクタ」とは電気的に接続されて,前記「RF回路」と前記「音響用のマイク,スピーカの回路」が電気的に接続されるといえる。
b 前記別基板7bは,上記ア及び第2図(a)より,前記本基板7aと所定の間隔を隔てて対向配置され,上記オより,逆Fアンテナのアンテナ素子となるGNDパターン11を含むことが見て取れる。そして,GNDパターン11は,第2図(c)のような形状を含み,該形状を「所定の形状」と称することは任意である。
c 前記GNDパターン11は,上記カより,フレキシブルケーブル8のGND線と所定の間隔だけ離れた位置の本基板7a上の給電点9から給電する構成を有するから,前記フレキシブルケーブル8とは異なる接点を利用して前記給電点9と電気的に接続されているといえる。
d 第2図(a)より,前記別基板7bは,前記本基板7aの端部の近傍に対向配置されること,及び,前記GNDパターン11は,前記別基板7bにおける,前記本基板7aの前記端部の一辺の近傍を含めて形成されることが見て取れる。

したがって,上記引用文献には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が開示されていると認める。

(引用発明)
「接地パターンと,給電点と,本基板側コネクタと,前記本基板側コネクタと電気的に接続される,中間周波数の符号化された信号を無線周波数に変換するRF回路とを有する本基板と,
別基板側コネクタと,前記別基板側コネクタと電気的に接続される音響用のマイク,スピーカの回路とを有する別基板とを備え,
前記本基板側コネクタと前記別基板側コネクタがフレキシブルケーブルで接続されることにより,前記RF回路と前記音響用のマイク,スピーカの回路が電気的に接続され,
前記別基板は,前記本基板に所定の間隔を隔てて対向配置され,所定の形状で逆Fアンテナのアンテナ素子となるGNDパターンが形成され,
前記GNDパターンは,前記フレキシブルケーブルとは異なる接点を利用して前記給電点と電気的に接続され,
前記別基板は,前記本基板の端部の近傍に対向配置されており,
前記GNDパターンは,前記別基板における,前記本基板の前記端部の一辺の近傍を含めて形成される携帯無線機。」

3.対比
本願発明と引用発明とを技術常識を踏まえて対比する。
a 引用発明の「接地パターン」,「給電点」及び「本基板側コネクタ」は,それぞれ本願発明の「基準電位部」,「給電部」及び「第1接続部」に相当し,引用発明の「RF回路」は,「中間周波数の符号化された信号を無線周波数に変換」することを含むから本願発明の「処理部」に含まれる。よって,引用発明の「接地パターンと,給電点と,本基板側コネクタと,前記本基板側コネクタと電気的に接続されるRF回路とを有する本基板」は,本願発明の「基準電位部と,給電部と,第1接続部と,前記第1接続部と電気的に接続される処理部とを有するメイン基板」に含まれる。
b 引用発明の「別基板側コネクタ」は本願発明の「第2接続部」に相当し,引用発明の「音響用のマイク,スピーカの回路」は,電子的な回路であるから,本願発明の「電子部品」に含まれる。よって,引用発明の「別基板側コネクタと,前記別基板側コネクタと電気的に接続される音響用のマイク,スピーカの回路とを有する別基板」は,本願発明の「第2接続部と,前記第2接続部と電気的に接続される電子部品とを有するサブ基板」に含まれる。
c 引用発明の「フレキシブルコネクタ」は本願発明の「信号線」に相当するから,引用発明の「前記本基板側コネクタと前記別基板側コネクタがフレキシブルケーブルで接続されることにより,前記RF回路と前記音響用のマイク,スピーカの回路が電気的に接続され」は,本願発明の「前記第1接続部と前記第2接続部が信号線で接続されることにより,前記処理部と前記電子部品が電気的に接続され」に相当する。
d 引用発明の「前記別基板は,前記本基板に所定の間隔を隔てて対向配置され」について,別基板は本基板に重なる位置に配置される,すなわち積層されるといえるから,本願発明の「前記サブ基板は,前記メイン基板に積層され」に含まれる。また,引用発明の「逆Fアンテナのアンテナ素子となるGNDパターン」は本願発明の「アンテナエレメント」に含まれるから,引用発明の「前記別基板」は,「所定の形状で逆Fアンテナのアンテナ素子となるGNDパターンが形成され」は,本願発明の「前記サブ基板」は,「所定形状のアンテナエレメントが形成され」に含まれる。
e 上記c,dより,引用発明の「前記GNDパターンは,前記フレキシブルケーブルとは異なる接点を利用して前記給電点と電気的に接続され」は,本願発明の「前記アンテナエレメントは,前記信号線とは異なる接点を利用して前記給電部と電気的に接続され」に相当する。
f 上記dより,引用発明の「前記別基板は,前記本基板の端部の近傍に対向配置されており」は,本願発明の「前記サブ基板は,前記メイン基板の端部の近傍に積層されており」に含まれる。
g 本願発明の「前記アンテナエレメントは,前記サブ基板における,前記メイン基板の前記端部側の端辺の近傍にのみ形成される」と引用発明の「前記GNDパターンは,前記別基板おける,前記本基板の前記端部の一辺の近傍を含めて形成される」は,以下の相違点を除き,「前記アンテナエレメントは,前記サブ基板における,前記メイン基板の所定領域に形成される」点で共通する。
h 引用発明の「携帯無線機」は,本願発明の「電子機器」に含まれる。

したがって,本願発明と引用発明は,以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「基準電位部と,給電部と,第1接続部と,前記第1接続部と電気的に接続される処理部とを有するメイン基板と,
第2接続部と,前記第2接続部と電気的に接続される電子部品とを有するサブ基板とを備え,
前記第1接続部と前記第2接続部が信号線で接続されることにより,前記処理部と前記電子部品が電気的に接続され,
前記サブ基板は,前記本メイン基板に積層され,所定形状のアンテナエレメントが形成され,
前記アンテナエレメントは,前記信号線とは異なる接点を利用して前記給電部と電気的に接続され,
前記サブ基板は,前記メイン基板の端部の近傍に積層されており,
前記アンテナエレメントは,前記サブ基板における,前記メイン基板の所定領域に形成される
電子機器。」

<相違点>
一致点である「前記アンテナエレメントは,前記サブ基板における,前記メイン基板の所定領域に形成される」における「所定領域」について,本願発明では,「前記メイン基板の前記端部側の端辺の近傍のみ」の領域であるのに対し,引用発明では,「前記端部の一辺の近傍」を含むものの「端部の一辺の近傍」のみの領域ではない点。

4.判断
相違点について検討する。
例えば、特開平11-154815号公報(【0017】、【0027】、図1、図6-10参照)に記載されているように、基板に逆Fアンテナを搭載する場合に、該基板の一辺の近傍のみに前記逆Fアンテナを配置することは、周知技術であるから、引用発明の逆Fアンテナのアンテナ素子としてのGNDパターンを、周知技術を採用して基板の端部の一辺の近傍のみの領域に形成することは、当業者が適宜になし得たことである。
ここで、請求人が審判請求の理由で主張する効果について、本願明細書の【0028】を参照すると、メイン基板のグランド面に影響されることがなく、アンテナの放射効率をより改善することができるという効果は、「メイン基板の端部近傍に位置するように、サブ基板にアンテナエレメントのパターンを形成する」点の効果であり、この点は、GNDパターンが、本基板の端部の近傍に配置される別基板に形成されている引用発明にも共通する事項(上記一致点参照)である。さらに、引用文献の「本基板7aと別基板7bとの間隔h…が長い方がアンテナ特性は向上する。」(「2.引用発明」の項中のオの事項を参照)の記載から、引用発明が前記効果を奏することは明らかである。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-17 
結審通知日 2017-10-24 
審決日 2017-11-07 
出願番号 特願2012-167650(P2012-167650)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米倉 秀明  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 中野 浩昌
吉田 隆之
発明の名称 電子機器  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  

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