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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1335680
審判番号 不服2016-19308  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-26 
確定日 2018-01-10 
事件の表示 特願2014-124600「仮想機器管理装置、仮想機器管理方法及び仮想機器管理プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 1月12日出願公開、特開2016- 4433、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成26年6月17日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年12月 4日 :出願審査請求書の提出
平成28年 3月16日付け :拒絶理由の通知
平成28年 5月13日 :意見書,手続補正書の提出
平成28年10月 7日付け :拒絶査定
平成28年12月26日 :審判請求書,手続補正書の提出
平成29年 3月23日 :前置報告
平成29年 5月22日 :上申書の提出

第2 原査定の概要
原査定(平成28年10月7日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

<理由2(特許法第29条第2項)について>
本願請求項1-8に係る発明は,以下の引用文献1-4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2009-282714号公報
2.米国特許出願公開第2013/0232504号明細書
3.特開2011-232916号公報
4.特開2011-233146号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって請求項1,7,8の「前記障害の生じた物理機器以外の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,特定した複数の前記物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択(部,工程,手順)」を「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択(部,工程,手順)」に変更する補正(以下,「補正事項1」という。),
および,請求項1,7,8の「選択された前記物理機器それぞれに前記仮想機器のそれぞれの再配置を,物理機器への仮想機器の作成を制御するクラウドコントローラに依頼する依頼(部,工程,手順)」を「選択された前記物理機器それぞれに前記仮想機器のそれぞれの再配置を,並行して行うように,物理機器への仮想機器の作成を制御するクラウドコントローラに依頼する依頼(部,工程,手順)」に変更する補正(以下,「補正事項2」という。)は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるか,また,当該補正は新規事項を追加するものではないかについて検討する。
まず,上記補正事項1は,補正前の請求項1,7,8の「選択(部,工程,手順)」について,「前記障害の生じた物理機器以外の物理機器」を「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器」に限定し,「前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,」を追加し,「特定した複数の前記物理機器の物理資源」を「特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,上記補正事項1は,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
次に,上記補正事項2は,補正前の請求項1,7,8の「依頼(部,工程,手順)」について,「前記仮想機器のそれぞれの再配置を,」を「前記仮想機器のそれぞれの再配置を,並行して行うように,」に限定するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,また,上記補正事項2は,当初明細書等に記載された事項であり,新規事項を追加するものではないといえる。
そして,「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように,補正後の請求項1-8に係る発明は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1-8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は,平成28年12月26日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
障害の生じた物理機器を検出する検出部と,
前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部と,
選択された前記物理機器それぞれに前記仮想機器のそれぞれの再配置を,並行して行うように,物理機器への仮想機器の作成を制御するクラウドコントローラに依頼する依頼部と
を備えたことを特徴とする仮想機器管理装置。」

第5 引用文献,引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2009-282714号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

A 「【0026】
[動作]
次に前述のように構成した仮想マシンコンピュータシステムの電源障害発生時の全体動作を図2を参照して説明する。
[全体動作]
本実施形態による仮想マシンコンピュータシステムのフェールセーフ装置150は,図2に示す如く,無停電電源装置一覧テーブル部110及び仮想化サーバ一覧テーブル部10の電源障害検出有無に未検出フラグを設定するステップ210と,予め設定された無停電電源装置監視スケジュールに従って無停電電源装置監視部115を用いてサーバの電源状態を監視し,電源障害有無を確認するステップ215と,該ステップ215によって電源障害を検出したか否かを判定するステップ220と,該ステップ220により電障害有りと判定したとき,仮想化サーバ監視部125を用いて電源障害を検出した無停電電源装置に対応する仮想化サーバの一覧を仮想化サーバ一覧テーブル部120から検索して抽出するステップ225と,該ステップ225により抽出した仮想化サーバの数が0以上か否かを判定するステップ230と,該ステップ203において0以上(電源障害が発生した仮想化サーバが有る)と判定したとき,仮想マシン移動処理部135を用いて仮想マシンのフェールオーバを仮想マシンの優先度や必要とするリソースに応じて実行するステップ235と,シャットダウン処理部140を用いて前記フェールオーバを行った障害が発生した仮想マシンのシャットダウン(停止)を行うステップ245とを実行し,前記ステップ210に戻るように動作する。
【0027】
このように本実施形態によるフェールセーフ装置150は,無停電電源装置監視部115を用いて電源障害が発生している仮想化サーバを検出する工程と,電源障害が発生している判定したとき,仮想化サーバ監視部125が仮想化サーバ一覧テーブル部120を参照し電源障害が発生した仮想化サーバの識別子を判定する工程と,この電源障害が発生した仮想化サーバ上の仮想化マシンを他の仮想化サーバに割り当てる(移動させる)フェールオーバ処理を実行する工程と,前記電源障害が発生した仮想化サーバをシャットダウンさせる工程とを順次行うことによって,障害が発生した仮想化サーバ上の仮想化マシンを他の仮想化サーバに移動した後に障害が発生した仮想化サーバをシャットダウンすることができる。」

B 「【0030】
[仮想化サーバ監視部の動作]
次に本実施形態による仮想化サーバ監視部125の動作を図4を参照して説明する。本仮想化サーバ監視部125は,前記ステップ235において,仮想化サーバの電源障害カウンタの値に「0」を代入するステップ410と,仮想化サーバ一覧テーブル部120から仮想化サーバの識別子に対応した仮想化サーバ情報(図8)を1件読み出すステップ420と,前記仮想化サーバ一覧テーブル部120からの最終データ読み込み済みか否かを判定するステップ430と,該ステップ430において最終読み込み済みと判定したとき,仮想化サーバの電源障害カウンタの値を+1カウントアップするステップ480と,前記ステップ430において最終読み込み済みでないと判定したとき,無停電電源装置識別子が一致する無停電電源装置の情報(図7)を無停電電源装置一覧テーブル部110から抽出し,この抽出した無停電電源装置の電源障害検出有無情報740を仮想化サーバ一覧テーブル部120の電源障害検出有無情報840として格納するステップ440と,前記電源障害検出有無情報840が「電源障害中」か否かを判定し,「電源障害中」でないと判定したときに前記ステップ420に戻るステップ450と,該ステップ450において「電源障害中」と判定したとき,仮想化サーバの電源障害カウンタを+1カウントアップするステップ470とを順次実行する。
【0031】
これら一連の処理によって本実施形態による仮想化サーバ監視部125は,仮想化サーバ一覧テーブル部120から読み出した無停電電源装置の識別子の無停電電源装置の電源障害検出有無情報を無停電電源装置一覧テーブル部110から抽出し,前記読み出した電源障害検出有無情報が「電源障害中」のとき,この障害情報を仮想化サーバ一覧テーブル部120に格納することによって,仮想化サーバの電源障害を仮想化サーバ一覧テーブル部120に更新(反映)することができる。
【0032】
[仮想マシン移動部の動作]
本実施形態によるシャットダウン処理部140は,前記ステップ245において,図5に示す如く,仮想化サーバ管理サーバ185が電源障害が発生した仮想化サーバか否かを判定し,仮想化サーバ管理サーバ185が電源障害の対象サーバと判定したときに処理を終了するステップ510と,該ステップ510において仮想化サーバ管理サーバ185が電源障害の対象サーバでないと判定したとき,仮想化サーバ一覧テーブル部120から電源障害中の仮想化サーバを1件読み出すステップ520と,電源障害中の仮想化サーバを仮想化サーバ一覧テーブル部120から全て読込み済みか否かを判定し,読み出し済みでないと判定したときに処理を終了するステップ530と,仮想マシン一覧テーブル部130から電源障害中の仮想化サーバ162上で稼働中且つフェールオーバ後も電源障害の影響を受けない仮想マシン識別子を1件読み出すステップ540と,仮想マシン一覧テーブル部130からフェールオーバ先識別子を読み出し,仮想化サーバ管理サーバ185にフェールオーバ処理を依頼するステップ560と,仮想マシン一覧テーブル部130の仮想化サーバ識別子をフェールオーバ先の仮想化サーバに変更するステップ565と,仮想マシン一覧テーブル部130のフェールオーバ先の設定を,フェールオーバ前の仮想化サーバに変更するステップ570とを順次実行する。
【0033】
これら一連の処理によって本実施形態によるシャットダウン処理部140は,前記障害が発生した仮想マシンを仮想マシンの優先度や必要とするリソースに応じて他の仮想化サーバにフェールオーバすることができる。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「仮想マシンコンピュータシステムのフェールセーフ装置であって,
仮想化サーバの電源状態を監視し,電源障害を検出したか否かを判定する無停電電源装置監視部と,
前記無停電電源装置監視部が電源障害有りと判定したとき,電源障害を検出した無停電電源装置に対応する仮想化サーバの一覧を仮想化サーバ一覧テーブル部から検索し,検索した仮想化サーバが有るか否かを判定する仮想化サーバ監視部と,
前記仮想化サーバ監視部が電源障害が発生した仮想化サーバが有ると判定したとき,前記仮想化サーバのフェールオーバ先の仮想化サーバを選択し,前記仮想化サーバ上で稼働中の仮想マシンのフェールオーバを仮想マシンの優先度や必要とするリソースに応じて,仮想化サーバ管理サーバに実行を依頼する仮想マシン移動処理部と,
前記仮想マシン移動処理部が前記仮想化サーバ管理サーバを用いて前記フェールオーバを行った,障害が発生した仮想マシンのシャットダウン(停止)を行うシャットダウン処理部と
を備えたフェールセーフ装置。」

2 その他の文献について
また,引用文献2(米国特許出願公開第2013/0232504号明細書)の段落【0002】-【0006】,【0093】-【0097】には,「それぞれが資源容量を有する複数の処理ユニットで構成する分散処理システムにおいて,処理ユニットに障害が発生した場合,障害が発生した処理ユニットの処理ジョブを他の処理ユニットに移動し,各処理ユニットは,割当可能容量の他に,確保容量を有し,障害の発生した処理ユニットの処理ジョブの移動先として,確保容量を使用する」旨の技術が記載されている。
引用文献3(特開2011-232916号公報)の段落【0066】には,「複数の物理サーバで仮想サーバを稼動させる計算機システムにおいて,仮想サーバを物理サーバ間で移行する際,移行先の物理サーバとして,空きリソースが大きい順に候補を選択する」旨の技術が記載されている。
引用文献4(特開2011-233146号公報)の段落【0022】,図1Aには,「クラウド・コンピューティング環境を提供するシステムにおいて,ウェブアプリケーションが開発されたコンテナVMをホストするサーバがハード障害を起こしたことが原因で,ウェブアプリケーションが停止したと認識すると,ヘルスマネージャーは,異なるサーバで動作する異なるコンテナVM内にウェブアプリケーションを再配備するために,クラウド・コントローラへ要求する」旨の技術が記載されている。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。
ア 引用発明は,「仮想化サーバの電源状態を監視し,電源障害を検出したか否かを判定する無停電電源装置監視部」と,「前記無停電電源装置監視部が電源障害有りと判定したとき,電源障害を検出した無停電電源装置に対応する仮想化サーバの一覧を仮想化サーバ一覧テーブル部から検索し,検索した仮想化サーバが有るか否かを判定する仮想化サーバ監視部」とを備えるところ,「仮想化サーバ」は,それ自体が電源障害の監視対象となる“物理機器”とみることができるから,引用発明の「仮想化サーバ」は本願発明1の「物理機器」に相当するといえる。
そして,引用発明では,「仮想化サーバ監視部」が「無停電電源装置監視部が電源障害有りと判定したとき」,「電源障害を検出した無停電電源装置に対応する仮想化サーバ」を判定しているといえるから,引用発明の「無停電電源装置監視部」及び「仮想化サーバ監視部」は,“障害の生じた物理機器を検出する検出部”としての機能を含むといえる。
そうすると,引用発明の「仮想化サーバの電源状態を監視し,電源障害を検出したか否かを判定する無停電電源装置監視部」及び「前記無停電電源装置監視部が電源障害有りと判定したとき,電源障害を検出した無停電電源装置に対応する仮想化サーバの一覧を仮想化サーバ一覧テーブル部から検索し,検索した仮想化サーバが有るか否かを判定する仮想化サーバ監視部」と,
本願発明1の「障害の生じた物理機器を検出する検出部」とに実質的な相違はないといえる。

イ 引用発明は,「前記仮想化サーバ監視部が電源障害が発生した仮想化サーバが有ると判定したとき,前記仮想化サーバのフェールオーバ先の仮想化サーバを選択し,前記仮想化サーバ上で稼働中の仮想マシンのフェールオーバを仮想マシンの優先度や必要とするリソースに応じて,仮想化サーバ管理サーバに実行を依頼する仮想マシン移動処理部」を備えるところ,「電源障害が発生した仮想化サーバ」の「フェールオーバ先の仮想化サーバを選択」することを含み,「フェールオーバ先の仮想化サーバ」は,再配置先の「仮想化サーバ」であることは明らかであるから,引用発明では,「電源障害が発生した仮想化サーバ」以外の「仮想化サーバ」のうち,再配置先の「仮想化サーバ」を特定するといえ,本願発明1の「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定」することとは,“障害の生じた物理機器以外の物理機器のうち,所定の物理機器を特定”する点で一致するといえる。
また,引用発明の「仮想マシン」は,「仮想化サーバ」上で稼働することから,本願発明1の「仮想機器」に相当するといえ,引用発明では,特定された“物理機器”の物理資源を,「電源障害が発生した」“物理機器”上で稼働する“仮想機器”の再配置先として選択するといえることから,本願発明1の「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定」することとは,“特定した前記所定の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する”点で一致するといえる。
そうすると,引用発明の「前記仮想化サーバ監視部が電源障害が発生した仮想化サーバが有ると判定したとき,前記仮想化サーバのフェールオーバ先の仮想化サーバを選択し,前記仮想化サーバ上で稼働中の仮想マシンのフェールオーバを仮想マシンの優先度や必要とするリソースに応じて,仮想化サーバ管理サーバに実行を依頼する仮想マシン移動処理部」と,
本願発明1の「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部」とは,後記する点で相違するものの,
“前記障害の生じた物理機器以外の物理機器のうち,所定の物理機器を特定し,特定した前記所定の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部”である点で共通しているといえる。

ウ 引用発明では,「仮想マシン移動処理部」が「前記仮想化サーバのフェールオーバ先の仮想化サーバを選択し」,「前記仮想化サーバ上で稼働中の仮想マシンのフェールオーバを」,「仮想化サーバ管理サーバに実行を依頼する」ところ,引用発明の「仮想化サーバ管理サーバ」と本願発明1の「クラウドコントローラ」とは,上位概念では,仮想機器を制御する“仮想機器制御部”である点で一致するといえることから,引用発明は,選択された“物理機器”に“仮想機器”の再配置を行うように,“仮想機器管理部”に依頼する「仮想マシン移動処理部」を備えているといえる。
そうすると,引用発明の「前記仮想化サーバ監視部が電源障害が発生した仮想化サーバが有ると判定したとき,前記仮想化サーバのフェールオーバ先の仮想化サーバを選択し,前記仮想化サーバ上で稼働中の仮想マシンのフェールオーバを仮想マシンの優先度や必要とするリソースに応じて,仮想化サーバ管理サーバに実行を依頼する仮想マシン移動処理部」と,
本願発明1の「選択された前記物理機器それぞれに前記仮想機器のそれぞれの再配置を,並行して行うように,物理機器への仮想機器の作成を制御するクラウドコントローラに依頼する依頼部」とは,後記する点で相違するものの,
“選択された前記物理機器に前記仮想機器の再配置を行うように,仮想機器管理部に依頼する依頼部”である点で共通しているといえる。

エ 上記ア乃至ウでの検討より,引用発明の「仮想マシンコンピュータシステムのフェールセーフ装置」は,「無停電電源装置監視部」,「仮想化サーバ監視部」,「仮想マシン移動処理部」を備え,「仮想マシン」を管理しているといえることから,本願発明1の「仮想機器管理装置」に対応するといえる。

したがって,本願発明1と引用発明との間には,次の一致点,相違点があるといえる。

(一致点)

「 障害の生じた物理機器を検出する検出部と,
前記障害の生じた物理機器以外の物理機器のうち,所定の物理機器を特定し,特定した前記所定の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部と,
選択された前記物理機器に前記仮想機器の再配置を行うように,仮想機器管理部に依頼する依頼部と
を備えたことを特徴とする仮想機器管理装置。」

(相違点)
(相違点1)
障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先に関し,
本願発明1では,「稼働中又は予備の物理機器」を複数特定するのに対して,引用発明では,「電源障害が発生した仮想化サーバ」の「フェールオーバ先の仮想化サーバを選択」するものの,「仮想化サーバ」を複数特定することについて言及されていない点。

(相違点2)
選択部に関し,
本願発明1では,「稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器」を特定し,「前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し」,特定した「物理機器の物理資源」を選択するのに対して,引用発明では,「フェールオーバ先の仮想化サーバを選択」するに当たり,「仮想化サーバ」の「空き容量」の有無,「稼働中」か「予備」かについて考慮していない点。

(相違点3)
依頼部に関し,
本願発明1では,「選択された前記物理機器それぞれに前記仮想機器のそれぞれの再配置を,並行して行うように,物理機器への仮想機器の作成を制御するクラウドコントローラに依頼する」のに対して,引用発明では,「仮想マシン移動処理部」が,「仮想化サーバ管理サーバ」に「仮想化サーバ上で稼働中の仮想マシンのフェールオーバ」の実行を依頼するものの,「仮想機器のそれぞれの再配置を,並行して行うように,物理機器への仮想機器の作成」をするよう「クラウドコントローラ」に依頼することについて言及されてない点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用発明では,「仮想化サーバのフェールオーバ先の仮想化サーバを選択」するところ,「フェールオーバ先の仮想化サーバ」は「電源障害が発生した仮想化サーバ」に代わる1台の「仮想化サーバ」であると認められるから,敢えて「フェールオーバ先の仮想化サーバ」を複数特定することの動機付けは直ちには認められない。
また,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0091】-【0092】の記載からすると,再配置先の物理機器を複数特定するのは,高速の復旧のためと解されるが,このような技術思想は引用文献2-4のいずれにも記載されておらず,障害の生じた仮想化サーバに配置された仮想マシンの再配置先として,複数の稼働中又は予備の仮想化サーバを選択する旨の技術が本願出願時に当該技術分野における周知技術であっとともいえない。
してみると,引用発明において,障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として,稼働中又は予備の物理機器を複数特定すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとはいえない。

イ 相違点2について
引用発明では,「仮想化サーバ監視部が電源障害が発生した仮想化サーバが有ると判定したとき,前記仮想化サーバのフェールオーバ先の仮想化サーバを選択」するところ,引用文献1の上記Bの段落【0032】の記載からすると,「フェールオーバ先の仮想化サーバ」は,例えば「仮想マシン一覧テーブル部」に指定されており,その選択に当たり,候補となる「仮想化サーバ」がフェールオーバの時点で「稼働中」か「予備」かを識別し,それらの「物理資源の空き容量」を勘案することの動機付けは直ちには認められない。
障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先に関連する技術として,引用文献3に記載のような,「複数の物理サーバで仮想サーバを稼動させる計算機システムにおいて,仮想サーバを物理サーバ間で移行する際,移行先の物理サーバとして,空きリソースが大きい順に候補を選択する」旨の技術が本願出願時に公知ではあったが,「移行先の物理サーバ」が移行時点で「稼働中」か「予備」かを識別して選択することについては言及されておらず,引用文献3に記載の技術を引用発明に適用できたとしても,上記相違点2に係る構成に到達するものではない。
そうすると,引用発明において,稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した物理機器の物理資源を選択すること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得たものであるとはいえない。

ウ まとめ
上記相違点3について判断するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2-6について
本願発明2-6は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明1の「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部」,と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 本願発明7について
本願発明7は,本願発明1に対応する「仮想機器管理方法」の発明であり,本願発明1の「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部」,と対応する構成である「選択工程」を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

4 本願発明8について
本願発明8は,本願発明1に対応する「仮想機器管理プログラム」の発明であり,本願発明1の「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部」,と対応する構成である「選択手順」を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
<理由2(特許法第29条第2項)について>
審判請求時の補正により,本願発明1-8は,
「前記障害の生じた物理機器以外の稼働中の物理機器のうち物理資源の空き容量のある物理機器を複数特定し,前記稼働中の物理機器の空き容量が無い場合は,予備の物理機器を特定し,特定した複数の前記稼働中又は予備の物理機器の物理資源を,前記障害の生じた物理機器に配置された仮想機器の再配置先として選択する選択部」と同一構成,または対応する構成を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。
したがって,原査定の理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり,本願発明1-8は,当業者が引用発明及び引用文献2-4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-12-21 
出願番号 特願2014-124600(P2014-124600)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 宏一  
特許庁審判長 仲間 晃
特許庁審判官 辻本 泰隆
佐久 聖子
発明の名称 仮想機器管理装置、仮想機器管理方法及び仮想機器管理プログラム  
代理人 渡部 比呂志  
代理人 豊田 義元  

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