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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M |
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管理番号 | 1335741 |
審判番号 | 不服2016-17450 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-11-22 |
確定日 | 2017-12-28 |
事件の表示 | 特願2012-204564「有害物質の吸入抑制製品」拒絶査定不服審判事件〔平成26年4月3日出願公開、特開2014-57724〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年9月18日の出願であって、平成28年5月20日付けで拒絶の理由が通知され、平成28年7月28日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲及び明細書について補正がなされたが、平成28年8月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。 これに対し、平成28年11月22日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし3に係る発明は、上記平成28年7月28日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。(以下請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 「【請求項1】 アレルゲンや病原性ウイルス等の有害物質を人間が吸入してしまうのを抑制する有害物質の吸入抑制製品において、 上記有害物質に対してクーロン力を与える電荷を持った電荷物質を含み、 上記電荷物質が分散した液体を人間の頬、おでこ、耳及び首に向けて噴霧して上記電荷物質を人間の頬、おでこ、耳及び首に直接付着させるための噴霧機構を備えていることを特徴とする有害物質の吸入抑制製品。」 第3 引用文献記載の発明及び事項 これに対して、原査定の平成28年5月20日付け拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特表2011-527344号公報(以下「刊行物1」という。)には以下の発明又は事項が記載されていると認められる。なお、下線は当審において付したものである。 1 刊行物1に記載された事項 刊行物1には、「静電的に帯電した多目的経鼻適用製品及び方法」に関して、以下の事項が記載されている。 (ア)「【要約】 副鼻腔炎及びアレルギー性鼻炎を改善するために設計され、いくつかの化学物質を既存の製品と組合せることにより製造され、それによって相乗効果及び寛解をもたらす、一群の製品。当該化学物質は、鼻の周囲に静電場を作り出し、アレルゲンまたは汚染物質が鼻孔に入って使用者に反応、疾病、又は不快感引き起こすことを防ぐ。従って、本発明は、鼻に直接適用される製品のみならず、顔に適用され、従って鼻の周囲及び鼻道に適用される製品を含む。これらの製品としては、鼻腔用スプレー、リンス、洗浄液、日焼け止め剤、鼻用テープ(nasal strip)、(薬用及び非薬用の)綿棒、ティッシュ、ペーパータオル、化粧品、及び香料が挙げられるが、限定されない。一般の鼻腔用スプレーには、しばしば生理食塩水が含まれる。化粧品には、迷彩塗料又は演劇用化粧品が含まれる。本発明の主な機能は、鼻内にスプレーされるか、或いは顔、鼻、又は鼻道のいずれかに適用された場合、有害な気中浮遊微小粒子が鼻に入ることを防ぐことである。」 (イ)特許請求の範囲の請求項1ないし5 「【請求項1】 ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用される製品であって、 ・前記製品が種々の化学物質を含み、 ・前記製品が初期製品に変更を加えることによって作り出され、且つ ・初期製品の改善が、ヒトの鼻孔又はヒトの鼻部付近に静電場を作り出す、有効量の更なる化学物質を取り入れることを含み、 ・ヒトの鼻孔又は鼻部に、同様に帯電した気中浮遊微小粒子を寄せ付けず、且つ逆帯電した気中浮遊微小粒子は誘引し、 ・そのことによりヒトの副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の症状が改善される、 製品。 【請求項2】 前記製品が、 ・鼻腔用スプレー、 ・鼻腔用リンス、 ・鼻腔用洗浄液、 ・ヒトの顔に適用するための香料、 ・ヒトの顔に適用するための化粧品、 ・ウェットペーパータオル、 ・ウェットティッシュ、及び ・スティックアプリケーター(stick applicators) からなる群から選択される、請求項1の製品。 【請求項3】 顔の迷彩塗料、又は演劇用化粧品である、請求項2の製品。 【請求項4】 製品の物理的状態が、 ・液体、 ・クリーム、 ・ローション、 ・ゲル、及び ・エアロゾル からなる群から選択される、請求項1の製品。 【請求項5】 更なる化学物質の少なくとも1つがカチオン性剤である、請求項1の製品。」 (ウ)特許請求の範囲の請求項11 「【請求項11】 カチオン性剤を含む鼻腔用スプレー溶液であって、当該溶液がヒトの鼻腔にスプレーされると、ヒトの鼻腔及びその付近に静電場が作り出され、そのことにより、ヒトに対する有害な気中浮遊微小粒子の影響が改善される、溶液。」 (エ)「【0002】 技術分野 本発明は、気中浮遊汚染物質を誘引できるか、又は寄せ付けなくできる静電場を作り出す化学物質と、ヒトの体に関連した種々の一般的な用途のために、別途開発された製品とを組合せることにより、製造された製品に関する。そのような製品の1つは、気中浮遊汚染物質の鼻道への流入の制限を可能にするためにカチオン性剤と組合わされ、現在、他の目的に用いられている、一群の鼻腔用スプレーである。これは、汚染物質を捕捉し、それらの体内への侵入を防ぐことにより、気中浮遊汚染物質の鼻道への流入を低減させる。第二の製品は顔に適用される化粧品であって、顔用化粧品、道化役用又は演劇用化粧品、或いは顔用迷彩塗料のような化粧品である。そのような製品は、気中浮遊汚染物質を捕捉し、それによって適用者の鼻道に侵入することを防ぐ。」 (オ)「【0003】 背景技術 本発明においては、静電荷(electostatic charged)を作り出す化学物質は、以前の製品の用途、及び効果を強化する特性を有する新たな製品を作るために、異なる用途のための製品と組み合わせられ得る。所望の静電特性を有するそのような製品は、概して: ・タイプI:原子レベルで所望の性質を与えることによって作り出される製品。効果又は強度が増強された新たな生理食塩液が一例である。 ・タイプII:公知の化学物質を分子レベルで混合することにより所望の性質を与えることによって作り出される製品。例えば、屋外の気中浮遊微小粒子を防ぐ(help)ために電荷が増強された、一般的な鼻用日焼け防止剤の製品。 ・タイプIII:主題発明の下の製品又は上記言及された先行技術のいずれかについての製品による単回及び/又は複数回の使用のための、予め保湿され、又は予め適用された、アプリケーター又は適用するための手段。たとえば、1日使用のための再シール可能なホイルの袋中で予め保湿された、フェルトチップアプリケーター。 ・タイプIV:上記タイプのいずれか2以上の製品のハイブリッド。例としては-抗菌性保湿ゲルに浸され、アレルギー又は感染性粒子の伝播に対抗するため静電特性が増強された、単回使用用のティッシュ;又は空気などから屋外のアレルゲンを濾過して除去する顔用迷彩塗料のスポンジ性アプリケーターゲル、 に分類され得る。 【0004】 これらの多目的製品は、組み合わされた各製品に共通して関連する媒体中で調製され得るか、又は、クリーム、ローション、ペーパータオル又はワイプ、化粧品又は塗料、スプレー、洗浄液、ゲル、ティッシュ、綿棒、フォームスワブ、マスクなどのようないずれかの態様で調製され得る。 【0005】 先行技術製品は、花粉症等の実質的な原因となる気中浮遊微小粒子を捕捉すること、及び有害微生物を死滅させるか、又はそれらの鼻への侵入を防ぐことに限られていた。それは前記使用と、他の無関係な顔又は鼻領域へ適用される製品とを組合せてはいなかったのである。」 (カ)「【0006】 花粉症の医学名であるアレルギー性鼻炎は、アレルゲンと呼ばれる空気中の微小物への人体の反応により引き起こされる。アレルゲンは一般的には無害であり、我々はそれらを絶えず吸い込み、吐き出している。ヒトがアレルギーに罹患すると、人体はこれらのアレルゲンが器官を攻撃していると考える。人体は、鼻道を刺激し、又は鼻道に炎症を起こすヒスタミンと呼ばれる化学物質を産生することにより応戦する。一般には、アレルギー性鼻炎は、深刻な健康問題を生じさせないが、それを罹っているヒトの生活を非常に不快なものにし得る。 【0007】 鼻詰まり、かゆみ及び/又は鼻水、くしゃみ、及び後鼻漏が、アレルギー性鼻炎のいくつかの最も一般的な症状である。これらの症状は季節性アレルゲン又は吸入された環境中刺激物質に対する、人体の自然な反応である。更に、鼻炎は特定の季節中に起こるか、又は1年中継続する。いかに長くアレルギー症状が続くかは、鼻炎のタイプに依存し得る。副鼻腔炎では、同様の症状がよく見られる。」 (キ)「【0008】 以下の5つのカテゴリー: ・鼻詰まり ・アレルギー ・副鼻腔感染症 ・鼻水 ・一般的な耳詰まり から成るアレルギー及び副鼻腔炎の罹患者は、鼻腔用スプレーを用いて寛解を得ることができる。 【0009】 更に、当該スプレーは5つの主な区分: ○抗ヒスタミンスプレー 処方薬のみ 塵埃及び花粉アレルギーに対して最も効果的 ○コルチコステロイド性鼻腔用スプレー 処方薬のみ 鼻詰まりを標的 炎症 腫れ物 抗炎症効果 ○クロモリンナトリウム鼻腔用スプレー 市販 目のかゆみを治療 鼻水 耳詰まりに対処しない ○鼻詰まり用スプレー 市販 鼻詰まり低減に役立つ 耳詰まりを緩和する ○塩溶液鼻腔用スプレー/塩洗浄液 全鼻腔用スプレー中、最も安全 鼻疾患予防対策 粘液蓄積を防止 鼻の保湿を持続、 に細分類される。」 (ク)「【0010】 鼻用テープ(nasal strip)、香料、日焼け止め剤、並びに迷彩塗料及び顔用化粧品等の化粧品等の、他の製品は顔に適用される。これらの製品は一般の用途を有する。それらはアレルギー罹患者の顔と同様に、アレルギーでない人の顔にも適用される。気中浮遊微小粒子アレルゲンの鼻への侵入及び鼻粘膜との接触が防止され得れば、アレルギー性鼻炎は大幅に緩和され得る。」 (ケ)「【発明の概要】 【0011】 本発明は、いくつかの化学物質と既存の製品とを組合せることにより副鼻腔炎及びアレルギー性鼻炎の症状を改善するために設計され、それによって相乗効果をもたらす、一群の新製品である。化学物質が鼻の周囲に静電場を作り出し、アレルゲン、又は汚染物質が鼻孔に侵入して使用者に反応、疾病、又は不快感引き起こすことを防ぐ。従って、本発明は、鼻に直接適用される製品のみならず、顔に適用され、従って鼻の周囲及び鼻道に適用される製品を含む。これらの製品としては、鼻腔用スプレー、日焼け止め剤、鼻用テープ(nasal strip)、(薬用及び非薬用の)綿棒、ティッシュ、ペーパータオル、化粧品、及び香料が挙げられるが、限定されない。一般の鼻腔用スプレーには、しばしば塩溶液が含まれる。化粧品には、迷彩塗料又は顔用化粧品が含まれる。しかし、これらは、これらの化学物質と効果的に組み合せられてもよいタイプの製品の例である。本発明の主な機能は、鼻内にスプレーされるか、又は顔に適用されるかのいずれかの場合に、有害な気中浮遊微小粒子が鼻に入ることを防ぐことである。」 (コ)「【発明を実施するための形態】 【0012】 発明の詳細な説明 本発明の多目的製品は、以下の特性: ・アレルゲン、汚染物質、及び他の混入物質が鼻道に入ることを防ぎ、それによってアレルギー反応及び他の有害反応を大幅に低減させる;及び ・顔及び鼻腔の周囲への適用に適した製品の例としては、 ○鼻腔用スプレー。鼻腔用スプレーは、アレルギー及び風邪の症状の寛解をもたらすこと、並びに医薬の投与に有用である。これらの鼻腔用スプレーの1つと静電荷とを組合せることにより、使用者はアレルギー症状を緩和又は治療のいずれかをすることができ、一方、同時に将来のアレルギー反応を予防することができる。 ○顔用迷彩塗料。顔用迷彩塗料は、軍隊が戦闘において、自身の変装のために用いる。当該塗料は顔全体を覆い、従って鼻の周囲に適用される。塵埃及び他のアレルゲンの侵入を防ぎ、アレルギーの発作を予防するために、この塗料は静電荷により強化され得、任務に当たる軍隊にとって非常に有用となる。 が挙げられるが、これらに限定されない、 を有する。」 (サ)「【0023】 更に、前記化学物質は、すべて顔への適用に用いられる、ワイプ、ペーパータオル、及びウェットティッシュに導入されてもよい。 【0024】 要約すると、クリーム、ローション、ゲル、液体、スプレー、ミスト、洗浄液、綿棒、ストリップ、ワイプ、ペーパータオル、ティッシュ、スティックの形態、又は他のいずれかの方法で、塩溶液、香料、日焼け止め剤、保湿剤、化粧品、迷彩塗料、及び外科手術用マスク等の製品は、意図された使用のために十分な静電荷と、適切に一体化され得る。」 2 刊行物1発明 (シ)上記記載事項(イ)の「鼻腔用スプレー」について、上記記載事項(ア)の「一般の鼻腔用スプレーには、しばしば生理食塩水が含まれる」、上記記載事項(イ)の「製品の物理的状態が」「液体」であるとの記載、上記記載事項(ウ)の「カチオン性剤を含む鼻腔用スプレー溶液」、及び、上記記載事項(キ)の「塩溶液鼻腔用スプレー/塩洗浄液」を踏まえると、該「鼻腔用スプレー」は、「カチオン性剤及び生理食塩水を含み、その物理的状態が液体である」ということができる。 (ス)上記認定事項(シ)の「鼻腔用スプレー」は、技術常識に照らせば、「鼻腔に向けて噴霧されるもの」であると認める。 そして、刊行物1の上記記載事項(ア)ないし(サ)並びに上記認定事項(シ)及び(ス)を、技術常識を踏まえて本願発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。(以下「刊行物1発明」という。) 「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用される製品であって、 前記製品が種々の化学物質を含み、前記製品が初期製品に変更を加えることによって作り出され、且つ、初期製品の改善が、ヒトの鼻孔又はヒトの鼻部付近に静電場を作り出す、有効量の更なる化学物質を取り入れることを含み、 ヒトの鼻孔又は鼻部に、同様に帯電した気中浮遊微小粒子を寄せ付けず、且つ逆帯電した気中浮遊微小粒子は誘引し、そのことによりヒトの副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の症状が改善されるとともに、 前記製品が、鼻腔用スプレー、鼻腔用リンス、鼻腔用洗浄液、ヒトの顔に適用するための香料、ヒトの顔に適用するための化粧品、ウェットペーパータオル、ウェットティッシュ、及びスティックアプリケーターからなる群から選択され、 前記鼻腔用スプレーは、前記更なる化学物質であるカチオン性剤及び生理食塩水を含み、その物理的状態が液体であって、鼻腔に向けて噴霧されるものである、製品。」 第4 対比 本願発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。 まず、刊行物1発明の「気中浮遊微小粒子」は、技術常識を踏まえれば、本願発明の「アレルゲンや病原性ウイルス等の有害物質」に相当し、以下同様に、「種々の化学物質」の1つである「静電場を作り出す、有効量の更なる化学物質」ないし「カチオン性剤」は「有害物質に対してクーロン力を与える電荷を持った電荷物質」に、「ヒトの鼻孔又は鼻部に、同様に帯電した気中浮遊微小粒子を寄せ付けず、且つ逆帯電した気中浮遊微小粒子は誘引し」は「アレルゲンや病原性ウイルス等の有害物質を人間が吸入してしまうのを抑制する」に、「更なる化学物質であるカチオン性剤及び生理食塩水を含み、その物理的状態が液体であ」る「スプレー」は「噴霧機構」により噴霧される「電荷物質が分散した液体」に、それぞれ相当する。 また、上記相当関係を踏まえると、刊行物1発明の「種々の化学物質を含み」「初期製品に変更を加えることによって作り出され」「初期製品の改善が」「静電場を作り出す、有効量の更なる化学物質を取り入れることを含み」「ヒトの鼻孔又は鼻部に、同様に帯電した気中浮遊微小粒子を寄せ付けず、且つ逆帯電した気中浮遊微小粒子は誘引」する「製品」は、本願発明の「アレルゲンや病原性ウイルス等の有害物質を人間が吸入してしまうのを抑制する有害物質の吸入抑制製品」であって「有害物質に対してクーロン力を与える電荷を持った電荷物質を含」む「有害物質の吸入抑制製品」に相当することは、明らかである。 また、刊行物1発明の「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用」及び「鼻腔に向けて噴霧」は、「人間の頭頸部の一部に適用ないし付着」の限りにおいて、本願発明の「人間の頬、おでこ、耳及び首に向けて噴霧」及び「人間の頬、おでこ、耳及び首に直接付着」と共通する。 さらに、刊行物1発明の「鼻腔用スプレー、鼻腔用リンス、鼻腔用洗浄液、ヒトの顔に適用するための香料、ヒトの顔に適用するための化粧品、ウェットペーパータオル、ウェットティッシュ、及びスティックアプリケーターからなる群から選択され」る「製品」は、特に、「静電場を作り出す、有効量の更なる化学物質」を「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に」適用する手段としての「ウェットペーパータオル、ウェットティッシュ、及びスティックアプリケーター」に着目すれば、「電荷物質が分散した適用物質を人間の頭頸部の一部に適用して電荷物質を人間の頭頸部の一部に付着させるための適用手段を備えている有害物質の吸入抑制製品」である限りにおいて、本願発明の「上記電荷物質が分散した液体を人間の頬、おでこ、耳及び首に向けて噴霧して上記電荷物質を人間の頬、おでこ、耳及び首に直接付着させるための噴霧機構を備えている」「有害物質の吸入抑制製品」と共通する。 そうすると、本願発明と刊行物1発明とは、少なくとも形式的には、以下の点で一致し、相違する。 <一致点> 「アレルゲンや病原性ウイルス等の有害物質を人間が吸入してしまうのを抑制する有害物質の吸入抑制製品において、 上記有害物質に対してクーロン力を与える電荷を持った電荷物質を含み、 上記電荷物質が分散した適用物質を人間の頭頸部の一部に適用して上記電荷物質を人間の頭頸部の一部に付着させるための適用手段を備えている有害物質の吸入抑制製品。」 <相違点1> 電荷物質が分散した適用物質を適用して電荷物質を付着する部位(人間の頭頸部)に関して、 本願発明は、「人間の頬、おでこ、耳及び首」に適用するものであるのに対して、 刊行物1発明は、「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用」するものである点。 <相違点2> 本願発明の吸入抑制製品は、電荷物質が分散した適用物質に加えて、電荷物質を付着させるための適用手段を備えており、適用物質として「電荷物質を直接付着させるための噴霧機構」により噴霧される「液体」を、適用手段として「噴霧機構」をそれぞれ採用するものであるのに対して、 刊行物1発明の製品は、「鼻腔用スプレー、鼻腔用リンス、鼻腔用洗浄液、ヒトの顔に適用するための香料、ヒトの顔に適用するための化粧品、ウェットペーパータオル、ウェットティッシュ、及びスティックアプリケーターからなる群から選択され」るものであって、かかる選択肢のうち「鼻腔用スプレー」は、「カチオン性剤及び生理食塩水を含み、その物理的状態が液体であって、鼻腔に向けて噴霧される」ものの、「鼻腔用スプレー」の適用手段を更に含むか否かは、明らかではない点。 <相違点3> 本願発明は、有害物質の吸入抑制製品であるのに対して、 刊行物1発明の製品は、ヒトの鼻孔又は鼻部に、同様に帯電した気中浮遊微小粒子を寄せ付けず、且つ逆帯電した気中浮遊微小粒子は誘引し、そのことによりヒトの副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の症状が改善されるものである点。 第5 相違点の検討 1 相違点1について まず、刊行物1発明の技術的意義について検討する。刊行物1の記載事項によれば、次のとおりと考えられる。 (1)すなわち、刊行物1発明については、従来より、花粉症等の原因となる気中浮遊微小粒子の鼻への侵入を防ぐために、該粒子を誘引できる、又は寄せ付けなくできる静電場を鼻の周囲に作り出す化学物質は知られていたが、該化学物資の使用とは無関係な顔又は鼻領域へ適用される製品とを組み合わせることは行われていなかった(上記記載事項(オ))。 (2)そこで、該化学物質の使用とは無関係であり、ヒトの体に関連した種々の一般的な用途のために別途開発された既存の製品と、該化学物質とを組合わせることにより、相乗効果をもたらす新たな製品を提供するものが、刊行物1発明である(上記記載事項(ア)、(エ)、(オ)及び(ケ))。そして、刊行物1発明は、既存の製品の用途、及び効果を強化する特性として、気中浮遊微小粒子である、アレルゲン、汚染物質等が鼻道に入ることを防ぎ、それによってアレルギー反応及び他の有害反応を大幅に低減させる特性を有する(上記記載事項(オ)、(ケ)及び(コ))。 (3)該化学物質と組合わせる既存の製品としては、鼻に直接適用される製品のみならず、顔に適用され、従って鼻の周囲及び鼻道に適用される製品を含む。これらの製品の例としては、鼻腔用スプレー、日焼け止め剤、鼻用テープ、綿棒、ティッシュ、ペーパータオル、化粧品、及び香料が挙げられるが、限定されない(上記記載事項(ア)、(ケ)及び(コ))。 上記(1)?(3)を踏まえ、相違点1の阻害要因及び動機付けについて、更に検討する。 まず、相違点1の阻害要因について、刊行物1発明の「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用」とは、上記(1)?(3)を踏まえると、適用する部位を「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近」の「局所」に限定するものではなく、鼻の周囲又は鼻道に静電場が形成される限りにおいて、顔全体に適用することを排除するものではないと認められる。 次に、相違点1の動機付けについて検討する。 上記(3)によれば、該化学物質と組合わせる既存の製品の例として、顔全体に適用される、化粧品及び香料が挙げられているところ、一般的に、顔全体に適用される化粧水又は香水を噴霧する製品は、従来周知の技術事項である(例えば、特開2002-179166号公報の段落【0001】、【0002】及び図1、登録実用新案第3096966号公報の段落【0022】及び図4を参照)。 そして、従来周知の技術事項である該製品を用いて、化粧水又は香水を顔全体に噴霧すると、噴霧されたものが付着する部位は、鼻、頬及び額(おでこ)のみならず、耳及び首にも及び得るのは、化粧水及び香水の通常の使用態様に照らせば、明らかである。 さらに、化粧品及び香料のほかに、一般的に、鼻腔を含む顔に適用する医療用スプレーは、従来周知の技術事項である(例えば、特開2006-94964号公報の段落【0011】を参照)。ここで、刊行物1発明の「鼻腔用スプレー」に用いる生理食塩水は、洗浄や保湿という一般的な用途で用いられるものであって(上記記載事項(キ))、顔に噴霧する使用態様も排除されず、従来周知の該医療用スプレーに含まれるものと認められる。 そして、従来周知の技術事項である該医療用スプレーを該化学物質と組み合わせる場合においても、使用態様によっては、該スプレーが付着する部位は、鼻、頬及び額(おでこ)のみならず、耳及び首にも及び得る。 以上のことから、刊行物1発明を「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用」することに代えて、「人間の頬、おでこ、耳及び首」に適用することの動機は存在する。 したがって、刊行物1発明には、「人間の頬、おでこ、耳及び首」に適用することの動機があり、かつ、刊行物1発明の「ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用」が「人間の頬、おでこ、耳及び首」に適用することについての阻害要因にもならないことから、上記相違点1に係る本願発明の構成は、当業者にとって容易想到である。 2 相違点2について 刊行物1発明の製品は、「鼻腔用スプレー、鼻腔用リンス、鼻腔用洗浄液、ヒトの顔に適用するための香料、ヒトの顔に適用するための化粧品、ウェットペーパータオル、ウェットティッシュ、及びスティックアプリケーターからなる群」(以下「刊行物1製品群」という。)から選択されるものであるところ、上記1(1)?(3)を踏まえると、刊行物1製品群の中からいずれの製品を選択するのかは、適宜なし得るものである。 (1)そして、刊行物1製品群の中から、「ヒトの顔に適用するための香料」又は「ヒトの顔に適用するための化粧品」を選択する場合にあっては、一般的に、顔全体に適用される化粧水又は香水を噴霧する製品は、従来周知の技術事項である(例えば、特開2002-179166号公報の段落【0001】、【0002】及び図1、登録実用新案第3096966号公報の段落【0022】及び図4を参照)。 よって、刊行物1発明の「静電場を作り出す、有効量の更なる化学物質」と従来周知の技術事項である「顔全体に適用される化粧水又は香水を噴霧する製品」とを組み合わせることによって、該化学物質が分散する化粧水又は香水を噴霧して、該化学物質を顔全体に直接付着する噴霧機構を備えるようにすることは、当業者ならば容易になし得たことである。 (2)また、刊行物1製品群の中から「鼻腔用スプレー」を選択する場合にあっては、該「鼻腔用スプレー」の「スプレー」が、上記第4で示したとおり、本願発明の「電荷物質が分散した液体」に相当することを踏まえると、刊行物1発明が「鼻腔用スプレー」の適用手段たる「噴霧機構」を更に含むか否かが明らかではない点が相違点となる。しかし、該「噴霧機構」は、刊行物1発明が当然に備えるものといい得るものであり、また、仮に「当然に備える」とまでいえないとしても、該「噴霧機構」を備えるようにすることは、当業者にとって容易想到である。 そうすると、刊行物1製品群の中から、適宜、「ヒトの顔に適用するための香料」、「ヒトの顔に適用するための化粧品」又は「鼻腔用スプレー」を選択するとともに、必要に応じて、上記従来周知の技術事項を踏まえることで、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者にとって容易である。 3 相違点3について 刊行物1発明の製品は、「ヒトの副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎の症状が改善されるもの」であるところ、かかる症状の改善は、「ヒトの鼻孔又は鼻部に、同様に帯電した気中浮遊微小粒子を寄せ付けず、且つ逆帯電した気中浮遊微小粒子は誘引し、そのことにより」との発明特定事項からみて、気中浮遊微小粒子を寄せ付けず、又は誘引する「静電場を作り出す、有効量の更なる化学物質」の作用により当然に奏する効果を明示的に特定したものと認められる(この点は、刊行物1の上記記載事項(カ)にも示唆されている。)。 そうすると、相違点3は、実質的な相違点であるとはいえない。 4 請求人の主張について 請求人は、(a)刊行物1のスプレーは、特に副鼻腔炎及びアレルギー性鼻炎を改善するのに使用され、薬剤の噴霧範囲が鼻孔のみの狭い範囲に限られるため、ヒトの鼻孔又はヒトの顔の鼻部付近に局所的に適用される製品であり、(b)仮に、刊行物1の製品を広い範囲に適用する場合(顔に適用する場合)には、ワイプ等(上記記載事項(サ))を使用することが前提となっていることから、(c)刊行物1に接した当業者が、刊行物1のスプレーのスプレーを頬、おでこ、耳及び首に向けて適用することは想到し得ない旨主張する。 しかしながら、上記1(1)?(3)に示した刊行物1発明の技術的意義によれば、刊行物1のスプレーが鼻孔のみの狭い範囲に限られているとも、刊行物1の製品を広い範囲に適用する場合に、ワイプ等を使用することが前提となっているともいえない。よって、請求人の上記主張は、採用することができない。 5 小括 したがって、本願発明は、刊行物1発明及び上記従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-10-27 |
結審通知日 | 2017-10-31 |
審決日 | 2017-11-13 |
出願番号 | 特願2012-204564(P2012-204564) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61M)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鶴江 陽介 |
特許庁審判長 |
長屋 陽二郎 |
特許庁審判官 |
平瀬 知明 五閑 統一郎 |
発明の名称 | 有害物質の吸入抑制製品 |
代理人 | 特許業務法人前田特許事務所 |