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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01R
管理番号 1335746
審判番号 不服2017-3460  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-08 
確定日 2017-12-28 
事件の表示 特願2016-540077「地絡点標定システム及び計測装置」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年2月15日を国際出願日とする出願であって、平成28年8月31日付けの拒絶理由通知に対して平成28年10月18日付けで手続補正がなされたが、平成28年12月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年3月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成29年3月8日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成29年3月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項5】
配電系統の電力の状態に応じて変動する物理量を計測するための計測装置であって、
前記物理量を計測するために、配電線の各相にそれぞれ装着されるセンサと、
異相の配電線間の絶縁性を高めるべく前記センサを各相毎に覆う外箱と、
を有し、
前記外箱は金属製であり、各相の前記外箱がそれぞれ接地されてなる計測装置。」
とあったところを、

「【請求項4】
22kVの特別高圧配電系統の電力の状態に応じて変動する物理量を計測するための計測装置であって、
前記物理量を計測するために、配電線の各相にそれぞれ装着されるセンサと、
異相の配電線間の絶縁性を高めるべく前記センサを各相毎に覆う外箱と、
を有し、
前記外箱は、内部に絶縁ガスが封入されておらず、金属製であり、各相の前記外箱がそれぞれ接地されてなる計測装置。」
とすることを含むものである(下線は補正箇所を示す。)。

本件補正について検討する。
本件補正は、
(1)本件補正前の請求項5に記載した発明を特定するために必要な事項である「配電系統」について、「22kVの特別高圧配電系統」と限定し、
(2)本件補正前の請求項5に記載した発明を特定するために必要な事項である「外箱」について、「外箱は、内部に絶縁ガスが封入されておらず」と限定するものである。

上記(1)ないし(2)に係る補正は、本件補正前の請求項5に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものである。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項4に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

2 引用例及びその記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の国際出願日前に頒布された刊行物である実願昭61-162084号(実開昭63-67979号)のマイクロフィルム(昭和63年5月7日公開、以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。
a 「しかし、従来の箱型事故電流電圧検出装置によれば、箱型ハウジングの中に構成部品を三相一体構造にして収容しているため、小型化に限界があり、また、短絡時の内圧上昇が大きいという不都合がある。」(第3頁第1-5行)

b 「第1図は装柱状態を示し、電柱1の腕金2に各相毎に設けられる箱型事故電流電圧検出装置3が支持されている。箱型事故電流電圧検出装置3は箱型ハウジング4の両側壁にブッシング5が貫通した構成を有し、ブッシング5より伸びるリード線6は耐張碍子7に張架された配電線8に接続されている。箱型ハウジング4よりコネクター9を介して信号ケーブル10が伸びており、中継ボックス11からコネクター12を介して表示器13に接続されている。」(第4頁第2-12行)

c 「第2図より第4図は箱型事故電流電圧検出装置3を示し、箱型ハウジング4は、例えば、鋼板、ステンレス板より構成され、その両側壁よりブッシング(碍子)5が貫通している。」(第4頁第13-16行)

d 「左右のブッシング5は箱型ハウジング4の内部で対向しており、その対向部においてフレキシブル銅帯の接続導体22が左右のリード線6を接続している。接続導体22には、接続電線23、24を介してZnO素子を内蔵する耐電素子部25およびセラミックコンデンサを内蔵する電位センサ(PD)部26が接続されている。また、一方のブッシング6(当審注:5の誤記)の外周には、各相の電流を取り出し、3相電流の合成により零相電流を検出する変流器(CT)27が設けられ、他方のブッシング6(当審注:5の誤記)の外周には、順送、逆相の送電方向を検出する変流器28が設けられている。」(第5頁第2-15行)

e 「箱型ハウジング4は前述した耐電素子25、電位センサ26、変流器27、28等を収納するとともに短絡事故時の部品、破片等の飛散を防止する効果を有する。また、上部に設けられているパンチング板32も飛散防止の効果を有する。箱型ハウジング4の上部には、放圧板33が設けられ、パッキング34によって水密的に保持され、」(第6頁第1-8行)

f 「箱型ハウジングを各相毎に設けることによってコンパクト化を図り、」(第7頁第17-18行)

g 第1図より、配電線8が、電柱1に取り付けられた腕金2により架設されていることが見て取れる。

したがって、上記引用例に記載された事項及び図面の記載を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている(括弧内は、認定に用いた引用例の記載箇所である。)。
「電柱1の腕金2に各相毎に設けられる箱型事故電流電圧検出装置3であって、
箱型事故電流電圧検出装置3は箱型ハウジング4の両側壁にブッシング5が貫通した構成を有し、ブッシング5より伸びるリード線6は配電線8に接続されており(b)、
配電線8は、電柱1に取り付けられた腕金2により架設されており(g)、
箱型ハウジング4は、鋼板より構成され(c)、
左右のブッシング5は箱型ハウジング4の内部で対向しており、その対向部においてフレキシブル銅帯の接続導体22が左右のリード線6を接続し、
接続導体22には、電位センサ(PD)部26が接続されており、
一方のブッシング5の外周には、各相の電流を取り出し、3相電流の合成により零相電流を検出する変流器(CT)27が設けられ、他方のブッシング5の外周には、順送、逆相の送電方向を検出する変流器28が設けられており(d)、
箱型ハウジング4は、耐電素子25、電位センサ26、変流器27、28等を収納し、箱型ハウジング4の上部には、放圧板33が設けられ、パッキング34によって水密的に保持される(e)
箱型事故電流電圧検出装置3。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、国際出願日前に頒布された刊行物である特開平9-163586号公報(平成9年6月20日公開、以下「周知例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。
「【0024】また、図2は本発明に用いた地絡事故方向検出装置2の構成を示すブロック図である。図において、R,S,Tは三相高圧配電線路、8は前記三相高圧配電線路に設置された単相または三相の変圧器、9は変圧器8の箱体を接地する接地線、10は接地線9の接地線電流Irを検出する変流器であり、10aは変流器10により検出された接地線電流Irから基準電流で差分することにより接地線電流変化分Itr信号を検出する差分演算部、11は三相高圧配電線路の地絡事故時の零相電流を検出する零相変流器である。」

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「電位センサ(PD)部26」、「変流器(CT)27」及び「変流器28」の計測対象である「配電線8」は、「電柱1」に架設されているので、本願補正発明の「配電系統」に相当する。
引用発明の「変流器(CT)27」は「各相の電流を取り出し」、「変流器28」は「順送、逆相の送電方向を検出」し、また、「電位センサ(PD)部26」は電圧を検出していることは明らかであるから、引用発明の「電位センサ(PD)部26」、「変流器(CT)27」及び「変流器28」は、電力の状態に応じて変動する物理量を計測しているといえ、さらに、「配電線8」は、「箱型事故電流電圧検出装置3」による物理量の計測対象であるといえる。
したがって、引用発明の、「配電線8」の電圧を検出する「電位センサ(PD)部26」、「配電線8」の「各相の電流を取り出」す「変流器(CT)27」及び「配電線8」の「順送、逆相の送電方向を検出する変流器28」が設けられた「箱型事故電流電圧検出装置3」と、本願補正発明の「22kVの特別高圧配電系統の電力の状態に応じて変動する物理量を計測するための計測装置」とは、「配電系統の電力の状態に応じて変動する物理量を計測するための計測装置」である点で共通する。

(2)引用発明の「箱型事故電流電圧検出装置3」は、「各相毎に設けられる」ので、引用発明の「電位センサ(PD)部26」、「変流器(CT)27」及び「変流器28」は、本願発明の「前記物理量を計測するために、配電線の各相にそれぞれ装着されるセンサ」に相当する。

(3)引用発明の「箱型事故電流電圧検出装置3」は、「各相毎に設けられる」ので、引用発明の「耐電素子25、電位センサ26、変流器27、28等を収納した」「箱型ハウジング4」と、本願補正発明の「異相の配電線間の絶縁性を高めるべく前記センサを各相毎に覆う外箱」とは、「前記センサを各相毎に覆う外箱」である点で共通する。

(4)引用発明の「箱型ハウジング4は、鋼板より構成され」「パッキング34によって水密的に保持され」と、本願補正発明の「前記外箱は、内部に絶縁ガスが封入されておらず、金属製であり、各相の前記外箱がそれぞれ接地されてなる」とは、「前記外箱は、金属製」である点で共通する。

すると本願補正発明と引用発明とは、次の(一致点)及び(相違点)を有する。
(一致点)
「配電系統の電力の状態に応じて変動する物理量を計測するための計測装置であって、
前記物理量を計測するために、配電線の各相にそれぞれ装着されるセンサと、
前記センサを各相毎に覆う外箱と、
を有し、
前記外箱は、金属製である計測装置。」

(相違点1)
配電系統が、本願補正発明は、「22kVの特別高圧配電系統」であるのに対して、引用発明は、そのような特定はない点。
(相違点2)
「外箱」が、「センサを各相毎に覆う」ことにより、本願補正発明は、「異相の配電線間の絶縁性を高め」ているのに対して、引用発明の「箱型ハウジング4」は、「各相毎に設けられる」が、異相の配電線間の絶縁性を高めることが、特定されていない点。
(相違点3)
本願補正発明の「外箱」は、「内部に絶縁ガスが封入されていない」のに対し、引用発明の「箱型ハウジング4」は、「パッキング34によって水密的に保持され」ているが、内部のガスについて特定されていない点。
(相違点4)
本願補正発明の「外箱」は、「各相の前記外箱がそれぞれ接地されて」いるのに対して、引用発明の「箱型ハウジング4」は、接地されているかどうか特定されていない点。

4 判断
(1)相違点1について
22kVの特別高圧配電系統は、周知技術である。引用発明の「箱型事故電流電圧検出装置3」を、22kVの特別高圧配電系統での事故電流電圧の検出に適用し、上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
引用発明の「箱型事故電流電圧検出装置3」は、「箱型ハウジング4」が、「各相毎」に設けられれているので、三相一体構造型のように、三相の配電線を一個の箱型ハウジング内の限られた空間内に設ける必要がないので、異相の配電線間の絶縁性を高められているといえ、上記相違点2に係る本願補正発明の構成は、実質的な相違点ではない。

(3)相違点3について
引用発明の「箱型ハウジング4」は、「パッキング34によって水密的に保持され」ているが、内部にどのようなガスが封入されているか特定されていない。
そして、引用発明の「箱型ハウジング4」の内部で絶縁処理を行うか否か、及び、絶縁処理を行う場合にどのようなガスを用いるかは、箱型事故電流電圧検出装置3に求められる環境性能や、装置に求められる大きさなどを考慮して、適宜選択すれば良いことであり、引用発明の「箱型事故電流電圧検出装置3」を、22kVの特別高圧配電系統で使用する際に、SF6ガス等の絶縁ガスを使用しないことは、適宜なし得る設計的事項である。

また、請求人は、審判請求書「3.本願発明が特許されるべき理由」「(d)本願発明と引用発明との対比」「(1)本願発明と引用文献1との対比」において、
「引用文献1では、柱上の6600Vを対象としていると推測され、また、引用文献1は箱型ハウジングの小型化を目的としています(引用文献1のp3、p7等)。」として、
「箱型ハウジングを小型化すると、当然ながら、箱型ハウジングと配電線との距離が近くなり、アーク放電が生じやすくなります。またこのアーク放電は、配電線の電圧が高くなるほど発生しやすくなります。
そのため、引用文献1に記載されている小型の箱型ハウジングを22kV特別高圧配電系統に適用しようとする場合には、当業者であればこれまで通りにアーク放電防止用の絶縁ガスを用いるだろうと考えるのが通常です。
これに対し本願発明は、センサ箱の小型化を図るのではなく、絶縁ガスを用いないようにするものですので、引用文献1とは課題や目的がむしろ逆であり、そして引用文献1には22kVの特別高圧配電系統で用いられるセンサ箱においてSF6ガス等の絶縁ガスの封入を不要とするような記載も示唆もありません。
従って、仮に当業者が引用文献1に接したとしても、本願発明のように絶縁ガスを使用しないという着想を得ることはないと思料します。」と主張している。
しかしながら、引用発明の小型化は、箱型ハウジングの中に構成部品を三相一体構造にして収容している箱型事故電流電圧検出装置を(上記「2 (1)a」)、「各相毎に設けられる箱型事故電流電圧検出装置3」として、箱型ハウジングを各相毎に設けることによってコンパクト化を図るものであり(上記「2 (1)f」)、
「箱型ハウジング4」を「各相毎」に設けることで、箱型ハウジング4の内には、異相の構成部品が存在しない。
このことにより、引用発明は、箱型ハウジング4内の絶縁性が高められているといえ、引用発明における箱型ハウジング4の小型化により、アーク放電が生じやすくなったとはいえず、必ずしも、アーク放電防止用の絶縁ガスを用いる必要性があるとはいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

よって、引用発明において、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(4)相違点4について
高圧配電線路に使用する装置の箱体を、接地する技術は周知である(周知例(上記「2 (2)」))。
引用発明の「箱型事故電流電圧検出装置3」においても、上記周知技術を適用し、「箱型ハウジング4」をそれぞれ接地して、上記相違点4に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は引用発明及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5 本件補正についてのむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 [理由]1 本件補正」の本件補正前の「請求項5」として記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その国際出願日前に日本国内において、頒布された刊行物である.実願昭61-162084号(実開昭63-67979号)のマイクロフィルム(引用例)及び特開平9-163586号公報(周知例)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用例記載の事項
引用例の記載事項及び引用発明は、上記「第2 [理由] 2 引用例及びその記載事項」に記載したとおりである。

4 判断
本願発明は、本願補正発明から、上記「第2 [理由] 1 本件補正」で検討した本件補正に係る限定を削除するものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 [理由] 4 判断」に示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-30 
結審通知日 2017-10-31 
審決日 2017-11-13 
出願番号 特願2016-540077(P2016-540077)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01R)
P 1 8・ 575- Z (G01R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越川 康弘  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
須原 宏光
発明の名称 地絡点標定システム及び計測装置  
代理人 一色国際特許業務法人  

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