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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1335806 |
審判番号 | 不服2017-6364 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-05-01 |
確定日 | 2018-01-16 |
事件の表示 | 特願2012-249652「半導体エピタキシャルウェーハの製造方法、半導体エピタキシャルウェーハ、および固体撮像素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月29日出願公開、特開2014- 99476、請求項の数(19)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成24年11月13日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成27年 8月11日 審査請求 平成28年 5月31日 拒絶理由通知(起案日) 平成28年 8月 2日 意見書の提出 平成29年 1月30日 拒絶査定(起案日) 平成29年 5月 1日 拒絶査定不服審判の請求 第2 原査定の概要 平成29年1月30日付けの拒絶査定(以下「原査定」という。)の概要は次のとおりである。 「この出願については,平成28年 5月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由1.によって,拒絶をすべきものです。 なお,意見書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 備考 ●理由1(特許法第29条第2項)について ・請求項 1-19 ・引用文献等 1-11 出願人は,意見書において, 「しかしながら,引用文献1では,(i)に既述のとおり,Si基板3の主表面および裏面に,Si基板3と同元素であるSi注入層2,4をそれぞれ設けることを,課題解決のための必須の解決手段としています。」と主張している。 しかしながら,引用文献1は,少なくともイオン注入を用いてゲッタリング層を形成する点については開示されているものであり,引用文献1に記載の発明において,引用文献1に記載のイオン注入ゲッタリング層形成手段に代えて,他のイオン注入法によるゲッタリング層形成手段を用いること,あるいは,引用文献1に記載の発明において,引用文献1に記載のイオン注入ゲッタリング層形成手段に加えて,他のイオン注入法によるゲッタリング層形成手段を用いることに格別の困難性は認められない。 そして,クラスターイオンを照射して,ゲッタリング層を形成することは,引用文献2-4に記載のように,一般的な技術手段であるから,請求項1-2,7-8に係る発明は,引用文献1-4から,進歩性を有しない。 なお,出願人は,意見書において,「引用文献3は,集積回路,すなわち「デバイス形成工程」において,半導体基板の一部領域にクラスターイオンを注入するものであります。」と主張しているが,引用文献3の段落【0001】には,半導体ウェハへの分子イオン注入について記載がなされている。 また,出願人は,意見書において,「引用文献4は,デバイス形成工程において,集積回路中のソース/ドレイン領域中にクラスター炭素イオンを注入するものであります。」と主張しているが,引用文献4の段落【0005】,【0014】-【0016】には,炭素クラスタイオンを注入して,ゲッタリング層を形成すること,モノマーイオンに比べて,シリコン基板の表面近くにより高いドーズ量で注入が出来るというゲッタリング技術が記載されている。 また,炭素イオンを注入し,濃度プロファイルの半値幅を100nm以下とすることなどは,引用文献10(特に,段落【0052】-【0053】及び第11図参照。半導体ウェーハに炭素クラスターイオンを注入し,熱処理後においても,注入された炭素イオンの深さ方向濃度プロファイルの半値幅が100nm以下(第11図から明らか。)であること,濃度ピークを深さ20?30nm程度の位置とすること(【0053】,第11図),濃度プロファイルのピークが2E21atoms/cm^(3)であること(【0053】)も記載されている。),引用文献11(特に,特許請求の範囲,段落【0068】-【0069】,【0090】,【0110】-【0131】及び第1-2,7,10図参照。半導体エピタキシャルウェーハ及びその製造方法において,半導体ウェーハに炭素イオンを注入してゲッタリング層を形成すること,その後,エピタキシャル層を形成した場合に,注入された炭素イオンの深さ方向濃度プロファイルの半値幅が100nm以下(第10図から明らか。)であること,濃度ピーク深さが150nm程度以下であること(第10図から明らか。),ピーク炭素濃度が1E19atoms/cm^(3)以上であること(第10図から明らか。)が記載されている。)に記載のように,周知技術である。 そして,その余の点については,先に述べたとおりであるから,請求項1-19に係る発明は,引用文献1-11から,進歩性を有しない。 よって,出願人の主張は採用できない。 <引用文献等一覧> 1.特開昭61-166032号公報 2.特開2003-163216号公報 3.特表2009-540531号公報 4.特表2009-518869号公報 5.特開平06-163556号公報 6.特開2001-177086号公報 7.特開2008-294245号公報 8.特開2012-059849号公報 9.特開2011-151318号公報 10.特開2010-062529号公報 11.国際公開第2011/125305号(周知技術を示す文献。)」 第3 本願発明 本願の請求項1-19に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明19」という。)は,本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1-19に記載された事項により特定される,以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 半導体ウェーハのおもて面に第1クラスターイオンを,裏面に第2クラスターイオンを照射して,該半導体ウェーハのおもて面に,前記第1クラスターイオンの構成元素からなる第1改質層を形成し,該半導体ウェーハの裏面に,前記第2クラスターイオンの構成元素からなる第2改質層を形成する第1工程と, 前記半導体ウェーハの前記第1改質層上にエピタキシャル層を形成する第2工程と, を有することを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項2】 前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハである請求項1に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項3】 前記半導体ウェーハ中のドーパント元素のピーク濃度が,前記エピタキシャル層中のドーパント元素のピーク濃度よりも高い請求項1または2に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項4】 前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハのおもて面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハであり,前記第1工程において前記第1改質層は前記シリコンエピタキシャル層のおもて面に形成され,前記第2改質層は前記シリコンウェーハの裏面に形成される請求項1に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項5】 前記第1工程の後,前記半導体ウェーハに対して結晶性回復のための熱処理を行うことなく,前記半導体ウェーハをエピタキシャル成長装置に搬送して前記第2工程を行う請求項1?4のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項6】 前記第1工程の後,前記第2工程の前に,前記半導体ウェーハに対して結晶性回復のための熱処理を行う請求項1?4のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項7】 前記第1および/または第2クラスターイオンが,構成元素として炭素を含む請求項1?6のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項8】 前記第1および/または第2クラスターイオンが,構成元素としてドーパント元素をさらに含み,前記ドーパント元素は,ボロン,リン,砒素およびアンチモンからなる群より選択された1または2以上の元素である請求項7に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項9】 前記第1クラスターイオンの照射条件は,炭素1原子あたり加速電圧が50keV/atom以下,クラスターサイズが100個以下,炭素のドーズ量が5.0×10^(15)atoms/cm^(2)以下である請求項7または8に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項10】 前記第2クラスターイオンの照射条件は,炭素1原子あたりの加速電圧が50keV/atom以下,クラスターサイズが100個以下,炭素のドーズ量が1.0×10^(14)atoms/cm^(2)以上である請求項7?9いずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。 【請求項11】 半導体ウェーハと,該半導体ウェーハのおもて面に形成された,該半導体ウェーハ中に所定元素が固溶してなる第1改質層と,前記半導体ウェーハの裏面に形成された,前記半導体ウェーハ中に所定元素が固溶してなる第2改質層と,前記第1改質層上のエピタキシャル層と,を有し, 前記第1改質層および第2改質層における前記所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下であることを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項12】 前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハである請求項11に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項13】 前記半導体ウェーハ中のドーパント元素のピーク濃度が,前記エピタキシャル層中のドーパント元素のピーク濃度よりも高い請求項11または12に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項14】 前記半導体ウェーハが,シリコンウェーハのおもて面にシリコンエピタキシャル層が形成されたエピタキシャルシリコンウェーハであり,前記第1改質層は前記シリコンエピタキシャル層のおもて面に位置し,前記第2改質層は前記シリコンウェーハの裏面に位置する請求項11に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項15】 前記半導体ウェーハのおもて面からの深さが150nm以下の範囲内に,前記第1改質層における前記濃度プロファイルのピークが位置し,前記半導体ウェーハの裏面からの深さが150nm以下の範囲内に,前記第2改質層における前記濃度プロファイルのピークが位置する請求項11?14のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項16】 前記第1改質層における前記濃度プロファイルのピーク濃度が,1×10^(15)atoms/cm^(3)以上であり,前記第2改質層における前記濃度プロファイルのピーク濃度が,1×10^(15)atoms/cm^(3)以上である請求項11?15のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項17】 前記第1および/または第2改質層に固溶した前記所定元素が炭素を含む請求項11?16のいずれか1項に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項18】 前記所定元素がドーパント元素をさらに含み,前記ドーパント元素は,ボロン,リン,砒素およびアンチモンからなる群より選択された1または2以上の元素である請求項17に記載の半導体エピタキシャルウェーハ。 【請求項19】 請求項1?10のいずれか1項に記載の製造方法で製造されたエピタキシャルウェーハまたは請求項11?18のいずれか1項に記載のエピタキシャルウェーハの,おもて面に位置するエピタキシャル層に,固体撮像素子を形成することを特徴とする固体撮像素子の製造方法。」 第4 引用例及び引用発明 1 引用例1について (1)引用例1の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開昭61-166032号公報(以下「引用例1」という。)には,「半導体基板」(発明の名称)に関して,図面とともに,以下の事項が記載されている(下線は,参考のため,当審において付したものである。以下同様である。)。 ア「従来の技術 従来,半導体基板のゲッター効果を得るために,半導体基板の裏面にドーパントのイオンを注入するか,或いは,拡散するという方法をとっている。半導体基板へドーパントのイオン注入あるいは,拡散を行なって,不純物をSi結晶内に入れることにより,半導体基板の裏面にSi結晶の歪みが発生する。この結晶の歪みが,遷移元素に対するゲッターの核となり,遷移元素が半導体装置の活性域に拡散して半導体装置に不良が生じるのを防ぐ。」(第1頁下左欄第12行?第1頁下右欄第2行) イ「発明が解決しようとする問題点 前述した様な従来の構造では,半導体基板の裏面で存在するSi結晶の歪みによるゲッター作用を利用したものであるため,半導体基板の主表面,即ち,半導体装置の活性域では,ゲッター効果は低いものとなる。そこで,半導体装置の活性域近傍でゲッター効果のある層を形成する必要がある。」(第1頁下右欄第3?9行) ウ「問題点を解決するための手段 上記問題点を解決するために本発明では,半導体基板の主表面及び裏面にSi注入層を有し,かつ,前記主表面の前面には,Si注入層上にエピタキシャル成長層をそなえたものである。こうすることにより,半導体基板の裏面でのゲッター効果に加えて,半導体装置の活性域近傍でのゲッター効果も得られ,半導体装置不良の原因となる遷移元素が活性域に侵入することが強く抑えられる。」(第1下右欄第10行?18行) エ「作 用 半導体基板の主表面及び裏面にSiを注入することにより,基板の主表面と裏面の両方にSi結晶の歪みが生じ,遷移元素が近傍に存在した場合,この歪みにゲッタリングされる。主表面側にも裏面同様にSiを注入することにより,半導体装置での活性域でのゲッター効果は,従来の裏面にのみゲッター核を形成した場合より大きなものが得られる。 また,本発明と同様なゲッター効果を得るために,ドーパントイオンを主表面と裏面とに注入した場合は,ドーパントが拡散して,半導体装置の活性域となるエピタキシャル成長層の比抵抗を変化させる可能性があるが,本発明の様に,ゲッター核を形成するのに,ドーパント原子ではなく,Siを用いれば,基板の比抵抗が変わることもない。」(第1頁下右欄第19行?第2頁上左欄第15行) オ「実 施 例 以下に本発明の実施例を示す。 図面は,本発明における半導体基板の断面図である。同図において,1はエピタキシャル成長層,2はSi注入層,3は基板,4は裏面のSi注入層である。 基板の主表面と裏面にSiを注入して,Si結晶中に歪みを多く含んだ層を形成する。主表面については,この歪み層の上にエピタキシャル成長層を成長させる。この様にして半導体基板を形成する。」(第2頁上左欄第16行?第2頁上右欄第6行) カ「発明の効果 以上の様に,本発明は,基板の主表面と裏面との両方にSiを注入して結晶の乱れた層即ちゲッター核を含有する層を形成することにより,主表面,裏面相方からのゲッター効果が得られるので,その実用的効果は大である。」(第2頁上右欄第7?12行) (2)引用例1に記載された発明 ア 引用発明1 第4の1(1)ア?カから,引用例1には,半導体基板の形成方法の発明として,次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。 「半導体基板の主表面と裏面にSiを注入して,前記半導体基板の主表面及び裏面の両方に,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層を形成する工程と, 前記半導体基板の主表面の前記Si注入層上にエピタキシャル成長層を形成する工程と, を有することを特徴とする半導体基板の形成方法。」 イ 引用発明2 また,第4の1(1)ア?カから,引用例1には,半導体基板の発明として,次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 「半導体基板と, 前記半導体基板の主表面と裏面の両方に形成された,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層と, 前記半導体基板の主表面の前記Si注入層上に形成されたエピタキシャル成長層と, を備えることを特徴とする半導体基板。」 2 引用例2について (1)引用例2の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開2003-163216号公報(以下「引用例2」という。)には,「エピタキシャルシリコンウエハおよびその製造方法」(発明の名称)について,図1とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0005】 【発明が解決しようとする課題】 ……(中略)…… 【0007】本発明の目的は,デバイス活性領域に近い場所において,つまり,エピ層直下のイオン注入によるゲッタリングサイトとして設けることで,エピタキシャルウエハのゲッタリング能力を付与するとともに,そのゲッタリング能力を強化するために,従来よりも注入量を増大させても,注入起因によるエピ層の結晶欠陥を発生させない製造方法の提供である。また,デバイスプロセスの前段から後段にわたって強いゲッタリング能力を維持するための技術の提供である。」 イ 「【0008】 【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,本発明者らは前記エピタキシャルシリコンウエハにおいて,主表面側に注入する下地シリコン基板によってエピ層表面の結晶欠陥の発生しないドーズ量条件は拡大することを見出した。通常のミラーウエハにおいて,エピ層欠陥が発生しない注入条件は特開2001-77119公報となるが,下地シリコン基板に炭素もしくは窒素,または窒素と炭素を同時に添加したシリコン基板を用いることで,エピ層への結晶欠陥の発生が抑制されると共に,欠陥が発生しない注入量が増大することを見出した。この注入量はどのイオンについても同じであり欠陥発生は注入深さと注入時の注入原子のピーク体積濃度で記載することができることを見出した。注入ピーク濃度は注入ドーズ量とほぼ正比例の関係にあるが注入深さが深いときは浅いときよりも多くの注入量が必要になる。おおよそ1E17/cm^(3)は1E13/cm^(2)であり,1E21/cm^(3)は1E17/cm^(2)の注入ドーズ量が対応する。また,もしもプロセスの後段で注入欠陥によるゲッタリング能力が低下した場合でも,炭素および窒素が添加されたシリコン基板もしくは窒素と炭素が同時に添加されたシリコン基板を使うことにより,プロセス前段は注入欠陥,プロセス後段ではIG効果で,デバイス活性領域はプロセスの前段から後段まで強いゲッタリングの能力を持った基板で保証される。」 ウ 「【0032】 【発明の実施の形態】以下,本発明を,図面を参照しつつ実施形態に基づき説明する。 【0033】上記目的を達成するために,以下の手順で実施する(図1参照)。 【0034】注入イオン種と加速エネルギーで決まる飛程距離の最頻値(濃度ピーク)が下地シリコン基板1のエピタキシャル成長面3(以下,「エピタキシャル層堆積用基板表面」と称する。)(図1(A)参照)から30nm以上1.2μm以下の深さとなるように,イオン注入する。また,注入装置による注入時に金属汚染がある場合には,該エピタキシャル層堆積用基板表面3にシリコン酸化膜2を形成させる(図1(B)参照)。該酸化膜2を形成する場合には50nm以下で形成しておくことが重要である。酸化膜形成の理由は,上記したようにイオン注入による金属汚染が多い場合,その混入の防止のためである。金属汚染の混入により,後に形成されるエピタキシャル層5に結晶欠陥が入る可能性があり,その場合には少なくとも10nm以上あることが望ましい。金属汚染が少ない場合には酸化膜を形成する必要はない。ただし,洗浄により形成される自然酸化膜はパーティクル付着などの防止に有効である。よって注入前の洗浄にて,表面を親水性にすることは有効である。フッ酸による疎水性でも問題はない。飛程距離の最頻値がエピタキシャル層堆積用基板表面3から30nmよりも深い位置になるようにする理由は,30nm未満ではエピタキシャル成長中に表面に残留した欠陥が転写もしくはそれが起因でエピ層に欠陥が発生するためである。加速エネルギーは,少なくとも30keV以上で注入を行なう(図1(C)参照)。注入加速エネルギーが低すぎると金属をゲッタリングする結晶欠陥の発生率が低下するため,ゲッタリング能力が低下する。また,数MeVもの高い加速エネルギーで作製すると,深さが深い分だけ注入欠陥領域は表面から遠ざかるものの,エピタキシャル層堆積用基板表面のダメージも大きくエピ層への欠陥が発生してしまう。さらにイオン注入装置能力とデバイス活性領域から遠ざかるために,最適製造条件が規定される。ドーズ量も同様に,低すぎるとイオン注入結晶欠陥6の量が低下する(図1(D)参照)。高すぎるとエピタキシャル層に結晶欠陥が転写されるため,その最適領域が存在する。注入ドーズ量のピーク濃度は,SIMS(二次イオン質量分析)により同定できる。注入量は各イオンすべてにおいて,ピーク体積濃度が1E17?1E21/cm^(3)の範囲にあれば問題ないが,特に1E18?1E21/cm^(3)の範囲のものが最もゲッタリングに効果があり,下地シリコン基板に炭素,もしくは窒素,または窒素および炭素が添加されたものを用いることで,結晶欠陥が発生しない。 【0035】上記内容で,エピタキシャル層の結晶欠陥はライトエッチングと光学顕微鏡により観察できる。これをウエハの面内全体を評価する場合,高感度のパーティクルカウンターを用いる。結晶欠陥が発生しないことの定義は,0.2μm以上の欠陥が零であることである。0.2μm未満の計測もできるが,その場合は結晶欠陥とごみとの区別が難しく,その場合でも0.5個/cm^(2)以下である。 【0036】これまでの何も添加しない通常の下地シリコン基板では,注入によってダメージを受けた下地シリコン基板はそのドーズ量を増加させて注入欠陥を大量に導入した場合,エピ層に欠陥を発生させてしまった。しかし,炭素単独,もしくは窒素単独,または窒素と炭素を同時に添加した下地シリコン基板では,従来のエピ層欠陥が発生するドーズ量よりも1?2桁以上もの注入ドーズ量を導入しても結晶欠陥はエピ層に発生しない。この効果とは別に,炭素添加,窒素添加および窒素と炭素同時添加基板は,デバイスプロセスの初期段階は基板全体の析出が遅れるが,デバイスプロセスが進むにつれて,その密度および量は徐々に増加するため,デバイスプロセス初期でもゲッタリング能力を発揮するイオン注入と炭素や窒素および窒素と炭素同時添加したシリコンウエハを使用することで,全デバイスプロセスを通して金属ゲッタリングに有効なエピ層が無欠陥のエピタキシャルシリコンウエハとなる。 【0037】炭素添加量は低すぎると転位などの欠陥抑制効果は少なく,5E15/cm^(3)以上が良い。さらに確実にその効果を狙うには1E16/cm^(3)以上が望ましい。また炭素濃度が5E17/cm^(3)を超えると炭素によるエピ層劣化も考えられ,5E17/cm^(3)以下が望ましい。また,窒素単独添加では,窒素の添加量が1E13/cm^(3)以上あることで,炭素持たない高温析出効果を生じるが,1E15/cm^(3)を超えるとエピ層自体に結晶欠陥が発生してしまう。しかしながらイオン注入することでエピ層へ転位が発生する窒素の限界濃度が増加し,2E15/cm^(3)まで引き上げることができる。さらに窒素と炭素同時添加では,両方の析出の効果で十分析出するとともに,エピ層欠陥が発生させない範囲を拡大させられる。転位が発生する窒素の限界濃度は窒素単独添加の2E15/cm^(3)から1E16/cm^(3)まで増加させることができる。しかしながら窒素が1E16/cm^(3)を超えると結晶育成自体の制御しにくくなる。 【0038】また,下地シリコン基板がp型である場合は,ボロンイオン(B^(+))やフッ化ボロンイオン(BF_(2)^(+))などを注入することで同型の注入原子層を形成することができる。これにより,p/p^(+)と同様の効果をもつ構造を形成できる。もちろん,p型においても,ヘリウムイオン(He^(+)),炭素イオン(C^(+)),一酸化炭素イオン(CO^(+)),窒素イオン(N^(+)),酸素イオン(O^(+)),フッ素イオン(F^(+)),ネオンイオン(Ne^(+)),シリコンイオン(Si^(+)),アルゴンイオン(Ar^(+)),ゲルマニウムイオン(Ge^(+))等を注入しても強いゲッタリング能力が得られる。n型の基板である場合は,リンイオン(P^(+)),砒素イオン(As^(+))やアンチモンイオン(Sb^(+))などを注入することで欠陥層と同型の注入原子層を形成することができる。これにより,n/n^(+)と同様の効果をもつ構造を形成できる。もちろん,n型においても,ヘリウムイオン(He^(+)),炭素イオン(C^(+)),一酸化炭素イオン(CO^(+)),窒素イオン(N^(+)),酸素イオン(O^(+)),フッ素イオン(F^(+)),ネオンイオン(Ne^(+)),シリコンイオン(Si^(+)),アルゴンイオン(Ar^(+)),ゲルマニウムイオン(Ge^(+))等を注入しても強いゲッタリング能力が得られる。 【0039】酸化膜形成は,熱酸化膜や化学酸化膜等,金属汚染の少ないクリーンな環境において形成された緻密な酸化膜であることが重要である。 【0040】イオン注入後,酸化膜をフッ酸にて除去し,金属除去,パーティクル除去に有効な洗浄を行う。酸化膜がない場合においても上記洗浄を実施することで表面に付着した金属やパーティクルの除去が可能となる。これは,エピタキシャル成長前の基板洗浄と兼ねることができる。 【0041】その後,酸化膜が除去されたエピタキシャル層堆積用基板表面上にエピタキシャル成長法によりシリコンエピタキシャル層を堆積する。エピタキシャル成長における1000?1200℃では,飛程付近でのイオン種による転位等の結晶欠陥は消滅せず,逆に二次欠陥等の生成が起こる。ここで,常圧エピタキシャル成長装置によるランプ加熱を用いたエピタキシャル成長の方がより作用効果を発揮できる。 【0042】なお,本発明に係るエピタキシャルシリコンウエハにおいては,前記したイオン注入により,エピタキシャル層堆積用基板表面から深さ30nm以上1.2μm以下の領域に,結晶欠陥層6が形成されるが,(図1(D)参照),この「深さ」は該基板表面3から結晶欠陥層6の中心までの距離を指すものである。そしてこの結晶欠陥層は,上記数値領域内にその中心を有するものであれば,その厚みはいかなるものであっても良い。」 エ 「【0043】 【実施例】以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。これは単なる例示に過ぎず,本発明はこれらの実施例の記載によって制限されるものではない。 【0044】(実施例1)抵抗率10Ωcm程度のp型(100)の8インチシリコン基板を準備した。以下の手順で,各種エピタキシャルシリコンウエハを作製した。まず,炭素濃度が5×10^(15)atoms/cm^(3)のものと5×10^(17)atoms/cm^(3)の2種類,窒素濃度が1×10^(13)atoms/cm^(3)のものと2×10^(15)atoms/cm^(3)の2種類,窒素と炭素添加基板は,窒素が1×10^(13)atoms/cm^(3)で炭素が5×10^(15)atoms/cm^(3)のものと窒素が1×10^(13)atoms/cm^(3)で炭素が5×10^(17)atoms/cm^(3)のものまた窒素が1×10^(16)atoms/cm^(3)で炭素が5×10^(15)atoms/cm^(3),窒素が1×10^(16)atoms/cm^(3)で炭素が5×10^(17)atoms/cm^(3)のものを準備した。これらの試料について,以下の手順で行なった。なお,ゲッタリング評価にはニッケルを故意汚染した試料を用いて評価している。イオン種は注入欠陥が発生する請求項記載のどのイオンについてでも構わないが,この中からボロンイオン,カーボンイオン,アルゴンイオン,シリコンイオンについて示すことにする。 【0045】1) まず,上記イオンが透過し,酸化膜50nmおよび酸化膜を作成しない試料に飛程距離がそれぞれ30nmおよび1.2μmとなるように加速エネルギーを設定して,試料を作成した。その注入原子のピーク濃度が,約1×10^(17),1×10^(18),1×10^(20)および1×10^(21)/cm^(3)の4水準を作成した。 【0046】2) 次に,酸化膜を形成したものは0.5%の希フッ酸により酸化膜を除去し,アンモニア過酸化水素水洗浄,塩酸過酸化水素水洗浄等による金属やパーティクルの除去を行い,ランプ加熱の常圧エピタキシャル成長装置にて,1100?1150℃の温度で5μmのシリコンエピタキシャル成長を行った。 【0047】3) 続いて,得られたエピタキシャルシリコンウエハ表面に,ニッケルをそれぞれスピンコート汚染により5×10^(12)atoms/cm^(2)の故意汚染を施した。この場合も汚染していなものも比較として用意した。 【0048】4) 1000℃で60分,窒素雰囲気で拡散熱処理を施した後,ゲート酸化膜を300Å形成した。この試料の酸化膜中およびエピタキシャル層および注入欠陥層を含む注入原子層でのニッケルの濃度をフッ酸およびフッ硝酸液を用い段階エッチングと原子吸光分析にて回収量の評価を行なった。モニターによる汚染量をあらかじめ原子吸光分析により求めておき,その量を100%とする。酸化膜,エピタキシャル層,注入原子層および欠陥層,基板からのニッケルの濃度を求めた。 【0049】5) 各種イオン注入と下地シリコン基板によるのニッケル回収量結果を表1?5に示す。注入したサンプルすべてにおいて注入欠陥付近で90%以上のニッケルが回収され,飛程距離がそれぞれ30nmおよび1.2μmの試料において各イオン注入のピーク体積濃度1×10^(17)?1×10^(21)/cm^(3)の範囲でゲッタリング能力が優れている。酸化膜があってもなくてもそのゲッタリング能力はほとんど変わらず,ライトエッチング液により3μmエッチングして光学顕微鏡観察したが,エピ層表面の結晶欠陥はなかった。 【0050】なお,本実施例ではニッケルについてのゲッタリング能力を示しているが,鉄や銅等の金属についてもイオン注入による注入欠陥は有効なゲッタリングサイトになる。」 3 引用例3について (1)引用例3の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特表2009-540531号公報(以下「引用例3」という。)には,「イオンビーム装置およびイオン注入方法」(発明の名称)について,図1?図19とともに次の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,半導体ウェハおよびその他の基板ターゲットへのイオン注入に関する。特に,周期表のC,Si,GeおよびSnのようIV族の両側にあるB,P,As,Sb,In元素のような,電気的ドーパント種の原子を複数含む,分子イオンの効率的な注入に関する。また,たとえばアモルファス化,ドーパント拡散制御,ストレスエンジニアリング,欠陥ゲッタリングなどの半導体基板の改変を行うための,S,Si,Geのような原子を複数含む分子イオンの効率的な注入に関する。このような分子の注入,特に,関心原子の大きな,すなわち4より大きい多重度の分子の注入は,60nmおよびそれ以下の臨界的な集積回路の製造に有効である。本発明は,また,一般的に使用されている単一原子ドーパントイオンに好適な注入装置の注入ビームライン構成,および,特に,多目的の注入装置のビームライン構成,上述の3つのクラスのイオンの注入に有効な構成に関する。」 イ 「【0077】 説明される特徴として,商用のイオン注入装置のためのビームラインおよびイオン源システムが提供され,60nmおよびそれ以下の臨界的な寸法の集積回路の製造に必要とされる,高ドーズ,低エネルギー注入への挑戦に適合することができる。ソースから生成されるB_(10)H_(X)^(+),またはB_(18)H_(X)^(+)の強いボロハイドライドイオンビームは,ポリゲートおよびソースドレインエクステンション注入のような低エネルギー,高ドーズ応用での,商業的に許容できるウェハスループットを達成するために用いられる。イオン源からウェハへのビーム輸送要素は,注入エネルギー2-4keVで30pmAより大きいウェハボロン電流を達成する,また,200eV程度の低エネルギーで3pmAより大きい電流を達成するように構成される。これらの高電流は,低エネルギーで,ウェハの直前で減速する必要なく達成される。従って,ウェハまたは他のターゲット表面へのビームの衝突は,エネルギー的に極めて純粋であり,一般に浅い接合注入の品質を低下させる高エネルギーの素子が無い。」 ウ 「【発明を実施するための形態】 【0091】 ここで図面を参照すると,図面では,同一の部分は同一の参照符号で示され,機能的に類似の部分は図1の参照符号にアクセントをつけて示されており,これらの図は,特に分子イオンを注入するのに有効なイオン注入装置の実施形態を概略的に示している。ここで分子イオンは,B,P,As,Sb元素のような電気的ドーパント種の原子を複数含み,これらは,周期表のC,Si,GeおよびSnのIV族元素の両側に位置する。また,図面は,半導体基板を実施化するために修正するのに有効なC,Si,Ge元素のような原子を複数含む分子イオンの効率的な注入のための実施形態を示す。基板の修正は,たとえば,アモルファス化,ドーパント拡散制御,ストレスエンジニアリング,欠陥ゲッタリングなどである。このような分子イオンは,臨界的な寸法である60nmおよびそれ以下の寸法の集積回路を製造するのに有効である。以下において,このようなイオンを集合的に「クラスター」イオンと記載する。 【0092】 1価の電荷のクラスターイオンの化学構造は,一般式 M_(m)D_(n)R_(x)H_(y)^(+) (1) で示され,ここでMはC,SiまたはGeのような基板の材料改変に有効な原子であり,Dは,基板中に電荷キャリアを注入するためのB,P,As,SbまたはInのようなドーパント原子(周期表のIIIまたはIV族)であり,Rは,ラジカル,リガンド,または分子であり,Hは水素原子である。一般的に,RまたはHは,安定なイオンを生成または形成するために必要とされる完全な化学構造の一部であり,注入プロセスのためには特に必要ではない。一般に,Hは,注入プロセスに特に有害ではない。これは,Rにも同様に当てはまる。たとえば,Feのような金属原子,またはBrのような原子を含むRは望ましくない。上述の式において,m,n,x,yは0以上の整数であり,mとnの和は2以上,すなわちm+n≧2である。イオン注入の特別の関心は,高いMおよび/またはD原子多重度を持つ,すなわちm+n≧4のクラスターイオンである。これは,低エネルギー,高ドーズ注入のための改良された効率のためである。 【0093】 材料改変のために用いることができるクラスターイオンの例は,ベンゼン環から派生する,C_(7)H_(y)^(+),C_(14)H_(y)^(+),C_(16)H_(y)^(+),およびC_(18)H_(y)^(+)である。ドーピングに使うことができるクラスターイオンの例は, ・ボロハイドライドイオン:B_(18)H_(y)^(+),B_(10)H_(y)^(+) ・カルボランイオン:C_(2)B_(10)H_(y)^(+),C_(4)B_(18)H_(y)^(+) ・フォスフォラスハイドライドイオン:P_(7)H_(y)^(+),P_(5)(SiH_(3))_(5)^(+),P_(7)(SiCH_(3))_(3)^(+) ・ヒ素ハイドライドイオン:As_(5)(SiH_(3))_(5)^(+),As_(7)(SiCH_(3))_(3)^(+) である。 【0094】 当業者は,上述の例のリスト以外のクラスターイオンを用いることができる可能性があることを認識できる。これには,材料改変のためのSiおよびGeを含むイオン,ドーパント原子の異なる量および同位体のイオン,異なる等軸構造のイオンが含まれる。また,2価の電荷のクラスターイオンでは,一般により小さい歩留まりになり,この場合,高ドーズ,低エネルギー注入にそれほど有効でない。」 (2)引用例3に記載された事項 第4の3(1)ア?ウから,引用例3には,次の事項が記載されているといえる。 「関心元素の複数の原子を含むクラスターイオンは,半導体ウェハへの電気的ドーパント種のイオン注入や欠陥ゲッタリングなどの半導体基板の改変を行うために用いられ,低エネルギー,高ドーズの注入を達成できることから,ソースドレインエクステンション注入など一般に浅い注入を行うために用いられること。」 4 引用例4について (1)引用例4の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特表2009-518869号公報(以下「引用例4」という。)には,「炭素クラスターの注入により半導体デバイスを製造するためのシステムおよび方法」(発明の名称)について,図1?図17とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0014】 炭素注入(ゲッタリング注入) 炭素注入は,かねて欠陥または汚染物をゲッタリングする方法として用いられてきた。例えば,Stolk et alおよびUeda et alの上記参考文献参照。欠陥はシリコン中のBおよびPの拡散を一時的に増大させることが示されているので,格子間欠陥の捕捉は拡散を制限するための方法の候補であると考えられてきた。従来のプロセスでは,CO_(2)またはCOガス源のいずれかが従来のプラズマイオン源に用いられている。C^(+)のビームを発生させ,注入を工業的イオン注入システムで実施することができる。CO_(2)またはCOガスを使用すると,従来のプラズマ源の有効寿命は短くなる。これは,酸化作用および該源に見いだされる絶縁体の炭素トラッキングが原因である。 【0015】 炭素インプラントの従来の施用の一つは,高エネルギー(MeV)の炭素をシリコン中に深く,トランジスタ構造から離して注入することにより,金属不純物のゲッタリングを提供することである。シリコン中では,存在するあらゆる金属原子が,おもに漏れを増大させることにより活性構造の電気性能を低下させる可能性がある。活性デバイス領域から金属不純物を除去する方法は数多く研究されている。用いられているアプローチの一つは,活性デバイスから離してシリコン中に炭素を注入することである。シリコン中の炭素は不純物トラップとして働くので,炭素と相互作用する金属原子はすべて高温を経てもその位置にそのまま残る。このメカニズムはゲッタリングとよばれ,炭素インプラントはゲッタリングの選択肢の一つである。 【0016】 発明の概要 簡潔に述べると,本発明は,集積回路中のPMOSトランジスタ構造の製造において基板にホウ素,ヒ素およびリンをドープする場合に,炭素クラスターを基板中に注入してトランジスタの接合特性を改善することを包含するプロセスに関する。この新規アプローチに由来するプロセスは二つある:(1)USJ形成のための拡散制御;および(2)ストレスエンジニアリングのための高ドーズ量炭素注入。USJ形成のための拡散制御を,PMOS中のソース/ドレイン構造のホウ素または浅いホウ素クラスターインプラントと併せて説明する。より詳細には,C_(16)H_(X)^(+)のようなクラスター炭素イオンを,これに続くホウ素インプラントとほぼ同じドーズ量でソース/ドレイン領域中に注入し;その後,好ましくはB_(18)H_(X)^(+)またはB_(10)H_(X)^(+)のようなホウ化水素クラスターを用いて浅いホウ素インプラントを行って,ソース/ドレインエクステンションを形成する。これに続くアニーリングおよび活性化において,炭素原子による格子間欠陥のゲッタリングによりホウ素の拡散は低減する。Stolk et al.およびRobertson et alの上記参考文献では,一時的に増大したホウ素の拡散はシリコン格子中の格子間欠陥によりもたらされると主張されている。」 イ 「【0032】 ストレスエンジニアリング 上記参考文献Ang,et alで議論されているように,シリコン中のトランジスタのソース/ドレイン領域中に組み込まれる炭素はSi_(x)C_(y)材料を形成することができ,該材料は,純粋なシリコンに格子不整合をもたらし,したがって,トランジスタチャネルに機械的に応力を加え,キャリヤ移動度を増大させることが示されている。Si_(x)C_(y)材料はシリコンより小さな格子を有するので,この材料は,NMOSトランジスタの移動度を改善するのに有用な引張応力をチャネルに作り出す。したがって,本発明の重要な観点に従って,NMOSトランジスタのソース/ドレイン領域中でシリコンをSi_(x)C_(y)に選択的に転化する手段として,例えばC_(16)H_(10)^(+)での炭素クラスター注入を用いて高ドーズ量インパクトを実施する。所定のイオン電流においてC_(16)H_(10)のようなクラスターを使用すると炭素のドーズ量が16倍になり,高ドーズ量での極浅インプラントが可能になる。 【0033】 注入によりSi_(x)C_(y)材料を形成するさらなる利点は,注入装置によりもたらされる制御である。イオン注入は一般に,装置の精度および制御が他の形態の半導体処理装置の能力を大きく上回るため,半導体製造において有効なプロセスである。詳細には,提案した用途に関し,炭素濃度の綿密なプロファイルをインプラントのエネルギーおよびドーズ量の制御により詳細に管理することができる。実際,インプラント段階の手順をさまざまなドーズ量およびエネルギーと共に予見して,炭素プロファイルを任意の望ましいプロファイルの輪郭に合わせることができる。どのような詳細なプロセスがもっとも有利な結果をもたらすか明らかでないため,イオン注入により利用可能な炭素プロファイルの制御により,最終的なトランジスタの性質の詳細な最適化が可能になる。 【0034】 ストレスエンジニアリングで炭素を組み込むために炭素のクラスターを用いることの他の利点は,クラスター注入の自己非晶質化(self-amorphization)の特徴に関する。適切な応力を発生させるために,包含される炭素はSiC格子構造との置換部位を占有しなければならない。置換部位における包含の程度は,炭素を組み込む手段と材料の暴露温度の両方に依存する。従来の炭素組込手段は,エピタキシャルかモノマーインプラントかに関わらず,炭素を結晶質構造に加えることを包含するが,クラスター炭素インプラントは自己非晶質化層を提供する。クラスター炭素インプラントにより形成した非晶質層は再結晶化しなければならないが,これはドーパントインプラントのアニーリングにより自動的に達成される。しかしながら,再結晶化プロセスは置換部位中への炭素の組込を促進する。そのようなプロセスは,再結晶化プロセスで周知である置換部位中へのドーパント原子の組込と同様である。 【0035】 ストレスエンジニアリングを施したSiC格子をCMOSのプロセスの流れに組み込む方法 ストレスエンジニアリングを施したデバイスを作り出すために,本発明は,ホウ素またはホウ素クラスターのS/DインプラントまたはSDEインプラント)を実施する前に,P型の深いソース/ドレイン領域中へのかなり深い炭素インプラントを,例えば炭素1個あたり約10keV,1E15/cm^(2)?5E15/cm^(2)という高ドーズ量で実施することを含む。これは,モノマー炭素インプラントまたはクラスター炭素インプラントのいずれかであることができる。好ましい態様はクラスター炭素インプラントを含む。炭素クラスターがポリシリコンゲート構造中に注入されるのを回避するために,ゲートポリ(gate poly)上面上に窒化物キャップを付着させてもよい。炭素をP型ソース/ドレイン(S/D)領域中に注入した後,低温アニールを用いると,Si格子の置換部位を炭素に占有させることができる。約600℃?900℃のスパイクアニール,例えば5 sec RTA処理で,所望の結果が得られる可能性がある。約80kVの引出においてC_(7)H_(X)^(+)注入を用いた10keV実効Cインプラントの後,700℃,900℃および1100℃ RTAアニールを用いて,裸のSiウエハ上でわれわれが得たデータを,図10に示す。最低温度でのアニールが最良の結果,すなわち歪みの最高値をもたらした。このアニールの後,図12?17に要点をまとめたCMOS構造を実施して,ストレスエンジニアリングを施した完成デバイスを作成することができる。窒化物キャップまたは他のマスクバリヤを炭素注入に先立ちポリゲート上に付着させた場合,バリヤを除去してからS/D構造に注入する。」 ウ 「【0040】 図3は,6kV(ホウ素1個あたり300eVの実効インプラントエネルギーをもたらす)で引き出したB_(18)H_(X)^(+)によりシリコン中に注入したホウ素の二次イオン質量分析法(SIMS)での深さプロファイルおよび活性化プロファイルに対するC_(16)H_(X)^(+)共注入の効果を示している。B_(18)H_(X)^(+)のドーズ量5.6E13,すなわちホウ素の実効ドーズ量(注入されたB18とよぶ)1E15の注入された状態でのプロファイルを,Axcelis Summit高速熱アニーリングシステム(AxcelisのRapid Thermal Annealingシステムの説明については,例えばwww.axcelis.com/products/summitXT.html参照)で5秒間にわたり950℃でアニールした。アニール後のホウ素プロファイルを(B18)とよぶ。実効接合深さは,アニール中にホウ素の拡散が一時的に増大するため,約10nmから約25nmまで拡散した(接合深さの基準点として5E18cm^(-2)のドーパント濃度を使用)。他のウエハは,炭素クラスターC_(16)H_(X)^(+)を用いて1keV,2keV,3keV,4keVまたは5keVのいずれかの実効炭素ドーズ量の1E15ドーズ量で最初に注入し,このプロセスでアニールした。(B18+1keV C)および(B18+5keV C)に関するアニールしたホウ素のSIMSプロファイルを図3に示す。これらの接合深さははるかに浅く,炭素インプラントがホウ素拡散を順調に制限したことを示している。これらのプロファイルの形状はまた,まったく異なっている。約15nmのもっとも浅い(炭素がない場合の25nmの接合深さと比較して)アニールされた接合は(B18+1keV C)により得られたが,非常に急激で箱のような接合はプロセス(B18+5keV C)により約18nmの接合深さで得られた。 ……(中略)…… 【0043】 図6は,さまざまな炭素+ホウ素インプラント条件でのアニール後の接合深さを示している。予想どおり,300eVでのホウ素接合は500evでの接合より浅い。もっとも浅い接合は,約2keVの炭素インプラントエネルギーの場合である。炭素に起因する漏れの発生リスクは,浅い(S/Dエクステンション領域)接合の方がより深い(深いS/D領域)接合においてより低下する可能性があるので,炭素をより深くではなくより浅く注入することは有利である。理想的には,漏れを最小限に抑えるために,炭素をもっとも浅いホウ素インプラントと同じ程度にすることが望ましい。炭素のクラスターを使用すると,もっとも低い注入エネルギーにおいてモノマー炭素より高いドーズ量での浅い炭素インプラントが可能になる。 ……(中略)…… 【0046】 図9は,3つの異なるドーズ量(2E15,4E15および8E15原子/cm^(2))に関する10keVでのC_(7)H_(7)インプラントのSIMSプロファイル(炭素濃度対深さ)を示している。図10は,ドーズ量2e15で700℃,900℃および1100℃において5secにわたりアニールしたC_(7)H_(7)インプラント(炭素原子1個あたり10keV)のラマンスペクトルを示している。各試料に関しラマンピークのシフトを測定し,Gダイン/cm^(2)での応力値に変換した。得られた値は,700℃でのより低いアニール温度が,より高いアニール温度と比較してより高い応力値を与えたことを示している。この炭素分子インプラントを用いて,かなりの置換炭素を達成しうることが示されている。」 エ 「B_(18)H_(X)^(+)によりシリコン中に注入したホウ素の二次イオン質量分析法(SIMS)での深さプロファイルおよび活性化プロファイルに対するC_(16)H_(X)^(+)共注入の効果を示す図である。」(段落【0062】)図3には,炭素クラスターイオンの共注入の有無,及び,アニーリングの有無で場合分けした4つのプロファイルが示されているが,どのプロファイルも,深さ0Å近傍の位置でピーク濃度は1E+21atoms/ccと1E+22atoms/ccの中間値であり,深さ100Åの位置での濃度は1E+20atoms/cc以下であることが記載されている。 したがって,B_(18)H_(X)^(+)によりシリコン中に注入したホウ素の二次イオン質量分析法(SIMS)での深さプロファイルの半値幅は,炭素クラスターイオンを共注入した場合も,しない場合も,100nm以内であることは明らかである。 オ 「3つの異なるドーズ量(2E15,4E15および8E15原子/cm^(2))に関する10keVでのC_(7)H_(7)インプラントのSIMSプロファイル(炭素濃度対深さ)を示す図である。」(段落【0062】)図9には,3つの異なるドーズ量でのC_(7)H_(7)インプラントのSIMSプロファイルが示されており,最も傾きがなだらかなドーズ量2E15原子/cm^(2)のプロファイルは,ピーク濃度が4E+20atoms/ccであり,濃度が2E+20atoms/ccにおける半値幅は約40nmであることが記載されている。 したがって,C_(7)H_(7)インプラントのSIMSプロファイルにおける半値幅は,いずれのドーズ量であっても100nm以下であることは明らかである。 (2)引用例4に記載された技術事項 ア 第4の4(1)ア?イから,引用例4には,次の技術事項が記載されていると認められる。 「集積回路中のPMOSトランジスタ構造の製造において基板にホウ素,ヒ素およびリンをドープする場合に,炭素クラスターを基板中に注入してトランジスタの接合特性を改善することを包含するプロセスであって, P型の深いソース/ドレイン領域中へのかなり深い炭素インプラントを,前記ドープを実施する前に,C_(7)H_(7)^(+)のようなクラスター炭素インプラントにより,炭素1個あたり約10keV,1E15/cm^(2)?5E15/cm^(2)というドーズ量で実施した後に, ホウ化水素クラスターを用いて浅いホウ素インプラントを行って,ソース/ドレインエクステンションを形成し, これに続き,Si格子の置換部位を炭素に占有させるとともに,炭素原子による格子間欠陥のゲッタリングによりホウ素の拡散を低減させるために,アニーリングおよび活性化を行うことで, ソース/ドレイン領域中に組み込まれる炭素がSi_(x)C_(y)材料を形成することでNMOSトランジスタの移動度を改善する引張応力をチャネルに作り出す,ストレスエンジニアリングを施したSiC格子をCMOSのプロセスの流れに組み込む方法。」 イ また,第4の4(1)ウ?オから,引用例4には,次の技術事項が記載されている。 「3つの異なるドーズ量(2E15,4E15および8E15原子/cm^(2))及び10keVで炭素クラスター(C_(7)H_(7))をイオン注入すると,いずれのドーズ量であっても,C_(7)H_(7)インプラントのSIMSプロファイルの半値幅は100nm以下であること, ホウ素クラスター(B_(18)H_(X)^(+))を6kVでシリコン中に注入すると,C_(16)H_(X)^(+)を共注入した場合もしない場合もアニール後のホウ素プロファイルの半値幅は100nm以内であるが,C_(16)H_(X)^(+)を共注入した場合は,アニール後のホウ素プロファイルは,炭素インプラントがホウ素拡散を制限するため接合深さがはるかに浅くなること。」 5 引用例5について (1)引用例5の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開平6-163556号公報(以下「引用例5」という。)には,「半導体装置」(発明の名称)について,図1?図2とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0002】 【従来の技術】ゲッタリング効果とラッチアップフリー効果とを得るために従来の半導体装置では,半導体基板中の不純物濃度を高くしている。以下図2を用いて説明する。 【0003】例えば,高濃度のボロンを不純物とするシリコン単結晶から成るP^(+)型シリコン基板1Aの表面上に,ボロンを不純物とするP型エピタキシャル層3を形成する。この構造におけるP^(+)型シリコン基板1Aの濃度は,8.0×10^(18)個/cm^(3)程度に製造し,そして,P型エピタキシャル層3の濃度は,7×10^(14)個/cm^(3)程度である。以上の様な構造におけるP^(+)型シリコン基板1Aにより高性能なゲッタリング効果そして,ラッチアップフリー効果が期待できる。」 イ 「【0007】 【実施例】次に本発明について図面を参照して説明する。 【0008】図1は本発明の一実施例の断面図である。 【0009】ボロンを不純物とするシリコ単結晶,例えばその濃度を1.0×10^(12)個/cm^(3)程度の低濃度のP型シリコン基板1の表面に,やはりボロンを8.0×10^(18)個/cm^(3)程度含み,深さ5μm程度のP^(+)型不純物層2を形成する。このP^(+)型不純物層2は,シリコンのエピタキシャル成長,又はガス拡散によって形成することができる。続いて,このP^(+)型不純物層2の表面に,ボロンを不純物とし,濃度が7×10^(14)個/cm^(3)程度のP型エピタキシャル層3を形成する。」 6 引用例6について (1)引用例6の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開2001-177086号公報(以下「引用例6」という。)には,「撮像素子及びその製造方法」(発明の名称)について,図1?図4とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0002】 【従来の技術】従来より,通常の撮像素子において,基板のSi中に取り込まれる重金属類(Fe,Cu,Ni,Ca,Zn,Mo等)が撮像部分の光電交換を行うフォトセンサ部の近辺に存在すると,撮像画面上で白キズの発生原因となる。これらの重金属は,撮像素子の製造過程で加えられる熱により拡散するものである。そこで従来より,例えば図4に示すように,重金属類のフォトセンサ部への影響をなくすため,撮像素子を形成したエピタキシャル成長基板(Siをエピタキシャル成長させた基板)10の内部にゲッタ層12を設けるようにしている。 【0003】このゲッタ層12は,CイオンやNイオン等のイオン注入によって形成したものであり,エピタキシャル成長の前工程で形成され,エピタキシャル成長層14より深部(基板10の裏面近傍)に,エピタキシャル成長基板10の全面にわたって形成されている。なお,図4において,エピタキシャル成長基板10の上層部には,撮像素子を構成するフォトセンサ部やCCD転送部(共に図示せず)等が形成されている。また,エピタキシャル成長基板10の表面には,配線電極や遮光膜,さらにはマイクロレンズ等を配置した上部成膜層16が設けられている。また,このような撮像素子は,中央の撮像領域18Aとその周辺の素子分離領域18Bとに分かれており,撮像領域18Aには,各フォトセンサ部に対する受光膜や遮光膜,マイクロレンズやCCD垂直転送部等が配置され,素子分離領域18Bには,CCD水平転送部,出力アンプ,リセットゲート,素子保護トランジスタ等が配置されている。」 7 引用例7について (1)引用例7の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開2008-294245号公報(以下「引用例7」という。)には,「エピタキシャルウェーハの製造方法およびエピタキシャルウェーハ」(発明の名称)について,図1?図5とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0023】 以下,本発明について図1を用いてさらに詳細に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。 まず,単結晶シリコンウェーハ11を準備する。このシリコンウェーハのいずれか一方の主表面に高電流イオン注入機を用いて,炭素イオン注入を行って,シリコンウェーハに炭素注入層12を形成する。炭素イオンのドーズ量としては1×10^(13)?5×10^(15)atoms/cm^(2)とすることができる。 上記の範囲のドーズ量とすることで,炭素イオン注入後に行う熱処理が短時間であっても,ウェーハの結晶性の回復を図ることが可能である。また,酸素析出を促進するためにも,上記ドーズ量の範囲が好ましい。 【0024】 その後,炭素イオン注入によって乱れたシリコンウェーハの結晶性を回復させるために熱処理を行う。熱処理は,急速加熱・急速冷却(RTA)装置を用いて行う。この熱処理は,アンモニアまたは窒素を含む雰囲気で行う。 上記のようにアンモニアまたは窒素を含む雰囲気でRTA装置による熱処理を行うことによって,短い熱処理時間でも結晶性の回復を図ることが可能である。またアンモニアまたは窒素を含ませることによって,熱処理中にウェーハに空孔を注入することができ,これによって酸素をより効率的に析出させ,BMD(Bulk MicroDefect)層13を形成させる。この形成したBMD層13に重金属等の不純物をゲッタリングさせることが可能となる。上記のようにすることで短時間の工程であっても強力なゲッタリング能力を備えたエピタキシャルウェーハを得ることができる。 【0025】 アンモニアを含む雰囲気で行う際のアンモニアの濃度は0.5?3%とすることができる。窒素を含む雰囲気で行う場合は窒素濃度は100?1000ppmの窒化ガスを添加した雰囲気とすることができる。 前述のような濃度範囲とすることで,空孔を注入する際に,ウェーハ中に入る窒素の総量を不必要に増加させることなく,空孔を十分量注入することが可能となる。ここでさらに,窒素添加雰囲気に100ppm以下の微量酸素雰囲気で熱処理を行うことによっても,上記と同様の効果を得ることができる。 【0026】 熱処理条件として,処理温度は1100℃?シリコン融点温度とすることができる。特に望ましくは1100?1250℃である。処理時間としては10?60秒とすることができる。前述の熱処理条件とすることで,ウェーハの結晶性を確実に回復させると共に,短時間の処理とすることができる。よって工程を短くすることが可能となり,コスト低減を図ることが可能となる。 熱処理の回数は一回でも十分だが,特に回数に制限はない。結晶性の回復を重視する場合は2?3回繰り返すことができる。 【0027】 その後,炭素イオンを注入した面に,エピタキシャル層14を形成する。エピタキシャル層14の形成には一般的な条件を用いることができる。 たとえば,H_(2)をキャリアガスとしてSiHCl_(3)等のソースガスをチャンバー内に導入し,サセプタ上に配置した上記ゲッタリング能力が高くかつ炭素注入層を有し,RTA処理したウェーハ上に,1050?1250℃程度でCVD法により,エピタキシャル成長することができる。」 8 引用例8について (1)引用例8の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開2012-59849号公報(以下「引用例8」という。)には,「シリコンエピタキシャルウェーハおよびシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法」(発明の名称)について,図1?図3とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0028】 そしてこのような炭素イオン注入層が2層以上あれば,ウェーハバルク部からの拡散を抑制して十分にシリコンエピタキシャル層の酸素濃度を低減させたものとすることができ,シリコンエピタキシャル層の最表面部は酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下となったシリコンエピタキシャルウェーハとすることができる。このようなシリコンエピタキシャルウェーハは,撮像素子等のデバイスの作製に用いる場合,表層に存在する酸素や炭素によって酸素ドナー・炭素ドナーが発生してVthが変化することや,炭素起因の欠陥の発生による白キズ発生が従来に比べて抑制されるため,高性能で高品質な撮像素子の製造に適したシリコンエピタキシャルウェーハとすることができる。 ……(中略)…… 【0031】 ここで,図1(a)に示すように,炭素イオン注入層12が3層以上(12a,12b,12c)である場合は,シリコン単結晶基板11の酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上であるものとすることができる。 このようにシリコン単結晶基板の酸素濃度が14ppma(JEIDA)以上と高濃度では,炭素イオン注入層が3層以上であると,バルク中からの酸素の拡散がより確実に抑制されたものとなり,より確実にシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度が5ppma(JEIDA)以下と低いシリコンエピタキシャルウェーハとなる。 【0032】 上記のような,本発明のシリコンエピタキシャルウェーハは,以下に示すようなシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法によって製造することができるが,もちろん本発明はこれらに限定されるものではない。図2は,本発明のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法の一例を示した工程フローである。 【0033】 (工程1) まず,図2の工程1に示すように,酸素濃度が7ppma(JEIDA)以上のシリコン単結晶基板を準備する。ここで準備するシリコン単結晶基板は,酸素濃度7ppma(JEIDA)以上であれば良く,その導電型や結晶方位や結晶径等は,適宜選択することができるが,導電型はN型のほうが望ましい。例えばCZ法で育成したシリコン単結晶棒からスライスして作製したものを用いればよい。 【0034】 (工程2) 次に,図2の工程2に示すように,先に準備したシリコン単結晶基板を洗浄することができる。この洗浄はSC2溶液によって仕上げることが望ましく,これによって基板表面に薄い酸化膜を形成することができる。この酸化膜は不純物付着防止に効果的であり,また後の炭素イオン注入工程でのチャネリング防止に好適である。 【0035】 (工程3)?(工程6) その後,図2の工程3に示すように,シリコン単結晶基板に対して,炭素イオン注入を行って,炭素イオン注入層を形成する。 【0036】 その後,図2の工程4に示すように,シリコンエピタキシャル層を形成するために,表面を清浄にするべく,洗浄(例えばHF洗浄の後に,SC1+SC2による洗浄)を行うことができる。 【0037】 その後に,図2の工程5に示すように,先の炭素イオン注入によって乱れた結晶性を回復させるために,結晶性回復熱処理を行うことができる。 この結晶性回復熱処理の実施形態は特に限定されず,枚葉式エピタキシャル成長装置での熱処理(例えば水素雰囲気で,昇温速度30?60℃/sec,温度1130℃)とすることができ,また独立した熱処理装置で実施することもできる。 【0038】 その後,図2の工程6に示すように,シリコンエピタキシャル層をエピタキシャル成長させる。 このエピタキシャル成長の条件は特に限定されず一般的なものでよく,例えば,H_(2)をキャリアガスとしてSiHCl_(3)等のソースガスをチャンバー内に導入し,サセプタ上に配置した基板の主表面上に,1050?1250℃程度でCVD法により,エピタキシャル成長させることができる。 【0039】 この工程2?工程6は,シリコンエピタキシャルウェーハを完成させるまでに2回以上行って,2層以上の炭素イオン注入層を形成する。 この時の炭素イオン注入条件は,加速エネルギーは50?100keV(注入深さは0.1?0.5μm)程度が望ましい。また,イオン注入回数や炭素イオンドーズ量は,準備したシリコン単結晶基板の酸素濃度に応じて,適宜変更することができる。」 イ 「【0046】 以下,実験例を示して本発明をより具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。 (実験例1) 酸素濃度18ppma(JEIDA)のシリコン単結晶基板6枚を準備し,そのうち5枚に対して,加速電圧80keV,5×10^(15)atoms/cm^(2)の条件で炭素イオン注入を行って,炭素イオン注入層を形成した。その後,1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。 次にエピタキシャル層を形成した5枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後,更に,残りの4枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで1×10^(15)atoms/cm^(2)の条件で炭素イオンを注入し,1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。 次にエピタキシャル層を形成した4枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後,更に,残りの3枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×10^(14)atoms/cm^(2)の条件で炭素イオンを注入し,1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。 次にエピタキシャル層を形成した3枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後,更に,残りの2枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×10^(14)atoms/cm^(2)の条件で炭素イオンを注入し,1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成した。 次にエピタキシャル層を形成した2枚のシリコン単結晶基板から1枚取り出した後,更に,残りの1枚のシリコン単結晶基板に対して加速電圧50keVで5×10^(14)atoms/cm^(2)の条件で炭素イオンを注入し,1130℃で厚さ5μmのシリコンエピタキシャル層を形成して,計5種類のシリコンエピタキシャルウェーハを製造した。 また,1枚のシリコン単結晶基板に対しては,炭素イオン注入を行わずに,同条件でシリコンエピタキシャル層を形成し,シリコンエピタキシャルウェーハを製造した。 そして計6枚(炭素イオン注入層が0?5層)のシリコンエピタキシャル層の最表面部の酸素濃度を計測した。その結果を図3に示す。」 9 引用例9について (1)引用例9の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開2011-151318号公報(以下「引用例9」という。)には,「半導体装置およびその製造方法」(発明の名称)について,図1?図7とともに次の事項が記載されている。 ア 「【0031】 次に,本実施の形態における半導体装置100の製造手順を説明する。図2および図3は,本実施の形態における半導体装置の製造手順を示す工程断面図である。 まず,基板1に素子分離絶縁膜2を形成する。素子分離絶縁膜2は,たとえば,フィールド酸化膜とすることができる。つづいて,基板1上にゲート絶縁膜3を形成する。次いで,ゲート絶縁膜3上にゲート電極4を形成する。その後,ゲート電極4およびゲート絶縁膜3をマスクとして,イオン注入により基板1表面に不純物をドーピングし,ソース・ドレイン拡張領域5を形成する。つづいて,CVD(化学気相成長:Chemical Vapor Deposition)法でたとえばシリコン酸化膜等の絶縁膜を全面に堆積し,異方性エッチングにより,ゲート絶縁膜3およびゲート電極4の側壁に,サイドウォールスペーサ6を形成する。これにより,図2(a)に示した構成の半導体装置100が得られる。 【0032】 次いで,ゲート電極4およびサイドウォールスペーサ6をマスクとして,イオン注入により基板1表面に不純物をドーピングし,熱処理によって活性化して,深いソース・ドレイン領域7を形成する(図2(b))。 【0033】 この後,ゲート電極4およびサイドウォールスペーサ6をマスクに用いて,異方性のエッチングにより,ソース・ドレイン領域7を部分的にエッチングし,掘り込み領域11を形成する(図2(c))。ここで,掘り込み領域11は,基板1とソース・ドレイン領域7とのPN接合に達しないように形成する。つまり,掘り込み領域11は,基板1が露出しないように形成することができ,掘り込み領域11の底部および側面にソース・ドレイン領域7が露出するようにする。 【0034】 つづいて,掘り込み領域11の底部に露出したソース・ドレイン領域7表面に,不純物を浅くイオン注入して熱処理を加え,シリサイド層14を構成する金属元素のゲッタリングサイトとして機能するゲッタリング層12を形成する(図3(a))。ゲッタリング層12は,基板1とソース・ドレイン領域7とのPN接合に達しないように形成する。また,この際,ゲッタリング層12の表面にアモルファス層が残留しないように熱処理を行う。これにより,後の埋め戻し工程におけるシリコンの選択成長を容易に行うことができる。 【0035】 本実施の形態において,イオン注入する不純物は,当該不純物を半導体中にイオン注入することにより,シリサイド層14を構成する金属元素のゲッタリングサイトとして機能する領域が形成される元素とすることができる。イオン注入する不純物は,たとえばカーボン,酸素,窒素,フッ素,または希ガス元素の少なくとも一つを含む構成とすることができる。 【0036】 本実施の形態において,イオン注入する不純物は,たとえばカーボンとすることができる。カーボンは,シリコン中でいくつかの形態のSi-Cクラスタを形成し,このSi-Cクラスタが歪み場を誘起して金属元素をゲッタリングすることができる。また,カーボンは,シングルカーボンイオンとすることもできるが,シングルカーボンイオンではなく,クラスタカーボンイオンとすることもできる。クラスタカーボンイオンとしては,たとえば,C_(7)H_(7),C_(14)H_(14),C_(16)H_(10)等とすることができる。クラスタカーボンを用いることにより,不純物を浅く注入することができ,ゲッタリング層12が,基板1とソース・ドレイン領域7とのPN接合に達しないように形成しやすくすることができる。 【0037】 つづいて,ソース・ドレイン拡張領域5およびソース・ドレイン領域7と同導電型の不純物をドーピングしながら,選択成長法により掘り込み領域11上に結晶層を形成して,せり上げソース・ドレイン領域13を形成する(図3(b))。 【0038】 次いで,基板1上の全面に金属層を形成し,熱処理によって,当該金属層がシリコンと接している部分で金属層の金属元素とシリコンとを反応させ,シリサイド層14を形成する。その後,未反応の金属層を除去する(図3(c))。ここで,金属層は,ニッケル層とすることができる。この場合,シリサイド層14は,ニッケルシリサイドとすることができる。本実施の形態において,シリサイド層14は,ゲッタリング層12と接しないように形成される。 ……(中略)…… 【0041】 本実施の形態において,シリサイド層14とゲッタリング層12とが離れて形成されている。そのため,シリサイド層14を形成する際に,ゲッタリング層12の存在がシリサイド層14に影響を与えることがない。これにより,シリサイド層14を良好に接続することができ,シリサイド層14と半導体電極10との界面抵抗を低く保つことができる。 【0042】 また,ゲッタリング層12の存在がシリサイド層14に影響を与えないため,シリサイド層14のでき栄えを気にすることなく,ゲッタリング層12の形成条件を選択することができる。 【0043】 さらに,シリサイド層14を形成する際に,ゲッタリング層12が形成されているため,シリサイド層14またはこれを形成するための金属層からの金属元素の拡散を抑制し,リーク電流および寄生抵抗を小さくすることができる。」 10 引用例10について (1)引用例10の記載事項 本願の出願前に頒布され,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された特開2010-62529号公報(以下「引用例10」という。)には,「半導体装置の製造方法」(発明の名称)について,図1?図16とともに次の事項が記載されている。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 n型FETを形成する半導体装置の製造方法であって, シリコンを主成分とする半導体基板の表面に,前記半導体基板の素子領域を区画する素子分離絶縁膜を形成し, 前記半導体基板の前記素子領域上に,ゲート絶縁膜を形成し, 前記ゲート絶縁膜上に,ゲート電極を形成し, 前記素子領域のうち前記ゲート電極を挟むソース/ドレイン・コンタクト領域となる領域に,炭素クラスターイオン,炭素モノマーイオン,または,炭素を含んだ分子状のイオンをイオン注入することにより,前記ソース/ドレイン・コンタクト領域となる前記領域を非晶質化し, さらに,非晶質化された前記領域に,n型の不純物として砒素および燐のうち少なくとも一つをイオン注入することにより,前記ソース/ドレイン・コンタクト領域となる不純物注入層を形成し, 熱処理により,前記不純物注入層中の前記炭素および前記不純物を活性化する ことを特徴とする半導体装置の製造方法。」 イ 「【背景技術】 ……(中略)…… 【0005】 従来から認識されているように,炭素(Carbon)が添加されたシリコン(Si:C)技術は,シリコンに形成された高性能n型FETを製造するための有望な技術となっている。 【0006】 例えば,n型FETのチャネル領域に隣接するシリコン基板中にSi:Cを埋設した場合,チャネル領域に引張応力が印加される。これにより,電子の移動度が増加し,n型FETの性能を向上させることができる。 ……(中略)…… 【0015】 既述のようにして炭素モノマーイオンをイオン注入技術により打ち込んで埋め込みSi:C構造を形成した場合,炭素のSi中における固溶限は,3.5×10^(17)cm^(-3)(at melting point)と極めて低い。したがって,SiC析出させることなく,かつSi結晶を歪ませるため高濃度にSi中の格子置換位置に炭素を固溶させることは難しい。 【0016】 さらに,Si中における格子置換位置の炭素濃度は,1.0%?1.5%程度と低い。したがって,格子間位置の炭素濃度は,高いものとなっている。 【0017】 また,炭素イオン注入領域の結晶回復が不完全であることにより,接合リーク異常等のトランジスタ特性劣化が生じている。 【0018】 ここで,炭素イオン注入後のアモルファスSi層の結晶回復のためには,モノマーイオン注入よりも,ドーズレートを低減しセルフアニーリングを抑制可能な炭素クラスターイオン注入が有効であると考えられる。 【0019】 しかし,格子置換位置の高い炭素濃度を達成しつつ,完全な結晶回復を実現する炭素活性化手法はない。すなわち,既述のような従来技術では,n型FETの動作性能を向上させることができていない。」 ウ 「【0027】 次に,露出したp型のウェル拡散層領域103に,炭素クラスターイオンを,炭素のピーク濃度が2%以上となる条件でイオン注入技術により打ち込む。すなわち,該素子領域のうちゲート電極105を挟むソース/ドレイン・コンタクト領域となる領域に,炭素クラスターイオンをイオン注入することにより,ソース/ドレイン・コンタクト領域となる該領域を非晶質化する。なお,該炭素クラスターイオンは,C_(7)H_(7)またはC_(5)H_(5)の少なくとも何れか一方である。 【0028】 さらに,非晶質化された該領域に,n型の不純物として砒素および燐のうち少なくとも一つを1×10^(15)cm^(-2)以上のドーズ量でイオン注入技術により打ち込む。 【0029】 これにより,露出したシリコン基板101表面にn型のソース/ドレイン・コンタクト領域となる不純物注入層108を形成する(図5)。 ……(中略)…… 【0034】 次に,Xeフラッシュランプアニールによる高温極短時間熱処理を行う。このXeフラッシュランプアニールにより,シリコン基板101の基板表面温度が1200℃?1400℃の範囲に制御される。この処理時間は0.2m秒?2.0m秒である。 【0035】 これにより,n型のソース/ドレイン・コンタクト領域となる不純物注入層108中の炭素および不純物を活性化するとともに,n型のソース/ドレイン・エクステンション領域となる不純物注入層110中の炭素および不純物を活性化する。 【0036】 次に,シリコン窒化膜を堆積し,このシリコン窒化膜をRIE等により異方性エッチングする。これにより,シリコン窒化膜側壁111を形成する。その後,シリサイド技術により,ソース/ドレイン・コンタクト領域(不純物注入層)108の表面および多結晶ゲート電極105の表面に,ニッケルモノシリサイド(NiSi)膜112a,112bを形成する(図7)。 【0037】 次に,層間絶縁膜114をシリコン基板101上に形成する。さらに,この層間絶縁膜114中に,ニッケルモノシリサイド(NiSi)膜112a,112bに接続する配線層を形成する。これにより,トランジスタ素子である半導体装置100が完成する(図8)。 【0038】 このように,ソース/ドレイン・コンタクト領域108に,炭素クラスターイオン注入技術により,高濃度の炭素を打ち込み,非晶質化させる。これにより,該イオン注入時のセルフアニーリングが抑制され,後の熱処理により良好な結晶回復を達成できる。 【0039】 さらに,砒素や燐を炭素クラスターイオン注入の前後どちらか少なくとも一方にイオン注入技術により打ち込む。これにより,後述のように,炭素によるシリコン再結晶化(固相成長)速度の低下を補うことができる。 【0040】 さらに,炭素ならびに砒素や燐の活性化を高温極短時間熱処理で行う。これにより,結晶構造はシリコンと同様な極めて良好な結晶性を有し,格子置換位置の炭素濃度が高い歪み炭素添加シリコン結晶を,ソース/ドレイン・コンタクト領域に形成できる。 【0041】 結果として,n型FETのチャネル領域に引張応力が印加され,チャネル部分を流れるキャリア(電子)の移動度を増大させることが可能となる。すなわち,高性能なn型FETを得ることが可能となる。」 エ 「【0052】 ここで,図11は,炭素クラスターイオン(C_(7)H_(7))がイオン注入されたシリコン(100)基板の深さと,熱処理後の炭素濃度と,の関係を示す図である。なお,図11においては,Xeフラッシュランプアニールによりシリコン(100)基板の基板表面温度を,0.8m秒間,1250℃に制御することにより,シリコン(100)基板を熱処理した。 【0053】 図11に示すように,炭素クラスターイオンを注入したSi(100)基板を,Xeフラッシュランプアニールで熱処理することにより,深さ20nm?30nm近傍で,炭素濃度がピーク値(2×10^(21)cm^(-3))になっている。この炭素濃度がピーク値に到達している領域は,シリコン固相成長が止まっている領域であり,積層欠陥,双晶などの結晶欠陥が多数形成されている。なお,基板表面温度1350℃,処理時間0.8msecのレーザーアニールでも同様の結果が得られた。 【0054】 ここで,図12は,500℃の窒素雰囲気中における,(100)単結晶シリコン基板の固相成長速度の不純物濃度依存性を示す図である。 【0055】 図12に示すように,炭素は(100)単結晶シリコンの固相成長速度を減少させる。これにより,上述のように,固相成長が停止し,欠陥が生成される現象が現れる。 【0056】 一方,n型ドーパントとして用いることが可能な砒素または燐は,(100)単結晶シリコンの固相成長速度が増加する。 【0057】 そこで,n型ドーパントとして用いることが可能な砒素または燐を,炭素クラスターイオンを注入した領域にイオン注入する。さらに,Xeフラッシュランプアニールやレーザーアニールで達成される極めて熱非平衡である高温極短時間の熱処理により,炭素を活性化する。これにより,格子置換位置の高い炭素濃度を達成しつつ,結晶回復を行うことが可能となる。 【0058】 以上のように,本実施例に係る半導体装置の製造方法によれば,動作速度を向上させたn型FETを形成することができる」 オ 「炭素クラスターイオン(C_(7)H_(7))がイオン注入されたシリコン(100)基板の深さと,熱処理後の炭素濃度と,の関係を示す図」(段落【0014】)を示す図11には,炭素濃度のピーク値は2×10^(21)atom/cm^(2)であり,半値幅(炭素濃度1×10^(21)atom/cm^(2)における炭素濃度プロファイルの幅)は約30nmであることが記載されている。 (2)引用例10に記載された技術事項 ア 第4の10(1)ア?ウから,引用例10には,次の技術事項が記載されていると認められる。 「シリコンを主成分とする半導体基板の素子領域のうちゲート電極を挟むソース/ドレイン・コンタクト領域となる領域に炭素クラスターイオンを注入して非晶質化し,非晶質化された該領域にn型の不純物として砒素および燐のうち少なくとも一つをイオン注入した後に,Xeフラッシュランプアニールによる高温極短時間熱処理を行うことで注入した炭素及びn型の不純物を活性化することで,極めて良好な結晶性を有し,格子置換位置の炭素濃度が高い歪み炭素添加シリコン結晶を前記ソース/ドレイン・コンタクト領域に形成することで, チャネル領域に引張応力が印加され,チャネル部分を流れるキャリアの移動度を増大させることが可能な,高性能なn型FETの製造方法。」 イ また,第4の10(1)エ?オから,引用例10には,次の技術事項が記載されている。 「炭素クラスターイオン(C_(7)H_(7))がイオン注入されたシリコン(100)基板をXeフラッシュランプアニールで熱処理すると,炭素濃度のピーク値が2×10^(21)cm^(-3)であり,半値幅は約30nmである炭素濃度プロファイルが得られるが,前記炭素濃度がピーク値に到達している領域には積層欠陥,双晶などの結晶欠陥が多数形成されているところ, 前記炭素クラスターイオンを注入した領域に,(100)単結晶シリコンの固相成長速度を増加させるn型ドーパントとして砒素または燐をイオン注入すると,高温極短時間の熱処理により炭素を活性化でき,格子置換位置の高い炭素濃度を達成しつつ,結晶回復を行うことが可能となること。」 11 引用例11について (1)引用例11の記載事項 本願の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり,原査定の根拠となった平成28年5月31日付けの拒絶理由通知において引用された国際公開第2011/125305号(以下「引用例11」という。)には,「シリコンエピタキシャルウエーハ,シリコンエピタキシャルウエーハの製造方法,及び半導体素子又は集積回路の製造方法」(発明の名称)について,図1?図10とともに次の事項が記載されている。 ア 「[0068] 図10に,シリコン基板に炭素イオンを注入し熱処理をする前と後の炭素濃度プロファイルの変化を示す。図10に示した熱処理後の炭素濃度プロファイルは,単純なガウス形の拡散プロファイルになっていないことがわかる。このように,炭素イオンの拡散も空孔型拡散と格子間型拡散の両方の機構でおこると考えられる。そのため,炭素イオンを高濃度でシリコン基板に注入することにより,シリコン基板からエピタキシャル層へのドーパント(リン,ボロン)の浮き上がり現象をエピタキシャル成長工程と素子製造工程において抑制することが可能となる。結果として,縦型トランジスタのオン抵抗低減,リーク電流の低減が実現できるようになる。 [0069] また,一方で炭素イオンを1×10^(15)atoms/cm^(2)前後のドーズ量でイオン注入すると,その領域が強力なゲッタリングサイトとなることが知られている。そのため,上記の炭素イオン注入されたエピタキシャル層-シリコン基板領域は,安定かつ強力なゲッタリングサイトにもなり,この手法を用いたデバイスの歩留まり,電気特性の向上にも寄与するという副次的な効果も当然期待される。」 イ 「[0071] 以下,本発明について図を参照して詳細に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。図1は,本発明のシリコンエピタキシャルウエーハの概略の一例を示した図である。 図1(a)に示すように,本発明のシリコンエピタキシャルウエーハ1は,シリコン基板2にエピタキシャル層5が形成されたものである。 そして,少なくとも,シリコン基板2は,リンまたはボロンが2.0×10^(19)atoms/cm^(3)以上の濃度でドープされており,かつ少なくとも裏面2b側にCVD酸化膜4が形成され,表面2a側には表面から炭素イオンが注入されたことによる炭素イオン注入層3が形成されたものである。そして,炭素イオン注入層3が形成された側の表面2aにエピタキシャル層5が形成されたものである。 ……(中略)…… [0074] ここで,炭素イオン注入層3は,炭素イオンが3.0×10^(14)atoms/cm^(2)以上のドーズ量で注入されたものとすることができる。 炭素イオンのドーズ量が3.0×10^(14)atoms/cm^(2)以上の炭素イオン注入層を有するシリコンエピタキシャルウエーハであれば,イオン注入領域の炭素のピーク濃度を基板のドーパント濃度以上とすることが約束され,その結果シリコン基板表面側におけるリンまたはボロンの外方への拡散がより強く抑制されたものとすることができる。よって,より所望の値の抵抗率のエピタキシャル層を有するシリコンエピタキシャルウエーハとなる。なお,炭素イオンは,3.0×10^(14)atoms/cm^(2)以上3.0×10^(15)atoms/cm^(2)以下のドーズ量で注入されることが好ましい。 [0075] この場合,SiGeCヘテロバイポーラトランジスタの場合と同様に,エピタキシャル層への拡散を抑制するために,エピタキシャル層側に高濃度に炭素をドープした薄いエピタキシャル層を形成することによっても同じ効果が得られる。しかし,SiGe中とは異なり,シリコン中の炭素の固溶度はそれほど高くなく,無理にドープしようとすると,結晶欠陥が発生してしまうため,実用的には用いられない。 また,高濃度(10^(19)atoms/cm^(3)以上)のドーピング領域では,炭素起因ドナーが発生する。炭素濃度の1/100から1/1000のドナーが発生するので,n型層が形成されるという問題もある。10^(19)atoms/cm^(3)以上のボロンがドープされた基板に炭素イオンを注入した場合は,炭素ドナーによるn型反転層ができることはなく,抵抗率の変化も10%以下となる。」 ウ 「[0090] ここで,炭素イオンをシリコン基板表面に注入したときの注入エネルギーと形成される炭素濃度分布の関係を図7に示す。このように,注入エネルギーが低いほどシリコン基板表面近傍に炭素イオン注入層を形成することができる。」 エ 「実施例 [0110] 以下,実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。 [0111] (実施例1) 直径200mm,赤燐ドープ,抵抗率が1.2mΩcmのCZ単結晶からエピタキシャル用のシリコン基板を作製した。 そして裏面側に300nmの厚さのCVD酸化膜を形成した。 [0112] その後,このシリコン基板に大電流イオン注入装置を用いて炭素イオンの注入を行った。具体的には,シリコン基板のイオン注入を行う表面にはパッド酸化膜を形成せずに,5°のチルティングでチャネリング対策を行った。加速電圧を60keV,ドーズ量を1.0×10^(15)atoms/cm^(2)とした。 そしてイオン注入後に,RTA装置を用いて回復熱処理を行った。この熱処理条件は,昇温速度30℃/sec,窒素雰囲気1200℃,30秒とした。 [0113] その後,基板洗浄を実施し,エピタキシャル成長を行った。このエピタキシャル成長は,枚葉式反応機を用い,トリクロロシランをシリコンソースに用いて1150℃で厚さ5μmのエピタキシャル層を形成した。 形成したエピタキシャル層の厚さを赤外線の干渉法で調べた結果,5.0?5.2μmの範囲であった。また,エピタキシャル層の抵抗率はショットキーダイオードによるCV法により測定した結果,ウエーハ中央で10.0Ωcmであった。 [0114] 作製したエピタキシャルウエーハについて,以下に示す様な評価を行った。 作製したエピタキシャルウエーハのエピタキシャル層の欠陥を,プレファレンシャルエッチングで評価した。 また,プレファレンシャルエッチングを行ったウエーハについて,オートドープの影響を比較的強く受ける外周10?20mmの位置からそれぞれチップを切り出し,それぞれ角度研摩を行い,スプレデイングレジスタンスによりドーパントプロファイルを測定した。ここでスプレデイングレジスタンスは補正データで抵抗値から不純物濃度に換算した。その結果を図3に示した。なお,エピタキシャル層の厚さはプレファレンシャルエッチングでエッチングした分,約1.0μm薄くなっている。」 オ 「炭素イオンの注入エネルギーと深さ方向の炭素濃度分布(ドーズ量:1×10^(15)atoms/cm^(2))を示す図である」(段落[0048])図7には,炭素イオンを注入したときの炭素濃度分布が示されており,注入エネルギーが低いほどシリコン基板表面に近い位置にピークを有することが記載されている。 また,「熱処理前と1100℃で1時間熱処理した後の本発明のエピタキシャルウエーハのエピタキシャル層-シリコン基板界面付近の炭素濃度分布(SIMS)の変化を示す図である」(段落[0048])図10から,シリコン基板に炭素イオンを注入し熱処理をした後は,濃度が10^(16)?10^(17)atoms/cm^(3)の間で立ち上がり,ピーク濃度が10^(19)atoms/cm^(3)付近であるという,炭素濃度プロファイルの傾向は把握できるものの,同図からはピーク濃度などの炭素濃度に関する情報を特定することができない。 (2)引用例11に記載された技術事項 ア 第4の11(1)アには,次の技術事項が記載されている。 「シリコン基板に炭素イオンを1×10^(15)atoms/cm^(2)前後のドーズ量でイオン注入すると,その領域が強力なゲッタリングサイトとなるため,シリコン基板からエピタキシャル層へのドーパント(リン,ボロン)の浮き上がり現象をエピタキシャル成長工程と素子製造工程において抑制できること。」 イ 第4の11(1)イ,エには,次の技術事項が記載されている。 「リンまたはボロンがドープされているシリコン基板2の表面2a側に炭素イオンを注入して炭素イオン注入層3を形成した後に,炭素イオン注入層3が形成された側の表面2aにエピタキシャル層5を形成してシリコンエピタキシャルウエーハ1を製造するに際して,前記炭素イオン注入層3を形成するための炭素イオンは,3.0×10^(14)atoms/cm^(2)以上3.0×10^(15)atoms/cm^(2)以下のドーズ量で注入されること。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明1の「半導体基板」,当該「半導体基板の主表面と裏面」は,それぞれ,本願発明1の「半導体ウェーハ」,当該「半導体ウェーハのおもて面」及び「裏面」に相当する。 一方,引用発明1において,「半導体基板の主表面と裏面にSiを注入」して「Si注入層」を形成しているが,技術常識を参酌すれば,前記「Si」をイオン化し,該「Si」イオンを加速電圧で加速して「半導体基板の主表面と裏面」にそれぞれ「注入」することで「Si注入層」を形成していると認められる。 これに対して,本願発明1は,「第1クラスターイオン」ないし「第2クラスターイオン」を「半導体ウェーハ」に照射して「該半導体ウェーハのおもて面」と「裏面」に「改質層」を形成している。 ここで,本願明細書の段落【0048】に「本明細書における「改質層」とは,照射するイオンの構成元素が半導体ウェーハ表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した層を意味する。」と,本願における「改質層」を定義している。この定義によれば,本願発明1の「第1改質層」ないし「第2改質層」とは,照射した「第1クラスターイオン」ないし「第2クラスターイオン」の構成元素が「半導体ウェーハ」表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶している層である。 そうすると,引用発明1の「Si注入層」と,本願発明1の「第1改質層」ないし「第2改質層」とは,照射されたイオンの構成元素により半導体ウェーハ表面に形成される照射層である点で共通する。 以上から,引用発明1の「半導体基板の主表面と裏面にSiを注入して,前記半導体基板の主表面及び裏面の両方に,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層を形成する工程」と,本願発明1の「半導体ウェーハのおもて面に第1クラスターイオンを,裏面に第2クラスターイオンを照射して,該半導体ウェーハのおもて面に,前記第1クラスターイオンの構成元素からなる第1改質層を形成し,該半導体ウェーハの裏面に,前記第2クラスターイオンの構成元素からなる第2改質層を形成する第1工程」とは,「半導体ウェーハのおもて面」に「イオン」を,「裏面」に「イオン」を照射して,「該半導体ウェーハのおもて面」に前記「イオン」の構成元素からなる第1照射層を形成し,「該半導体ウェーハの裏面」に前記「イオン」の構成元素からなる第2照射層を形成する「第1工程」である点で共通する。 イ 引用発明1の「前記半導体基板の主表面の前記Si注入層上にエピタキシャル成長層を形成する工程」と,本願発明1の「前記半導体ウェーハの前記第1改質層上にエピタキシャル層を形成する第2工程」とは,「前記半導体ウェーハ」の前記第1照射層上に「エピタキシャル層を形成する第2工程」である点で共通する。 ウ そして,引用発明1の「半導体基板の形成方法」は,当該「半導体基板」に「エピタキシャル成長層」が形成された「エピタキシャル」基板の形成方法ということができる。 したがって,引用発明1の「半導体基板の形成方法」は,以下に挙げる相違点を除き,本願発明1の「半導体エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法」に相当する。 エ したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「半導体ウェーハのおもて面にイオンを,裏面にイオンを照射して,該半導体ウェーハのおもて面に,前記イオンの構成元素からなる第1照射層を形成し,該半導体ウェーハの裏面に,前記イオンの構成元素からなる第2照射層を形成する第1工程と, 前記半導体ウェーハの前記第1照射層上にエピタキシャル層を形成する第2工程と, を有することを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハの製造方法。」 (相違点) (相違点1)本願発明1は「半導体ウェーハのおもて面に第1クラスターイオンを,裏面に第2クラスターイオンを照射」するのに対し,引用発明1は「半導体基板の主表面と裏面にSiを注入」する点。 (相違点2)本願発明1は「該半導体ウェーハのおもて面に,前記第1クラスターイオンの構成元素からなる第1改質層を形成し,該半導体ウェーハの裏面に,前記第2クラスターイオンの構成元素からなる第2改質層を形成する」のに対して,引用発明1は「前記半導体基板の主表面及び裏面の両方に,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層を形成する」点。 (相違点3)本願発明1は「前記第1改質層上にエピタキシャル層を形成する」のに対して,引用発明1は「主表面の前記Si注入層上にエピタキシャル成長層を形成する」点。 (2)相違点についての判断 上記相違点1ないし3のうち,相違点2について検討する。 ア 本願発明1は「該半導体ウェーハのおもて面に,前記第1クラスターイオンの構成元素からなる第1改質層を形成し,該半導体ウェーハの裏面に,前記第2クラスターイオンの構成元素からなる第2改質層を形成」している。 すなわち,第5の1(1)アで指摘した本願における「改質層」の定義によれば,「該半導体ウェーハのおもて面に,前記第1クラスターイオンの構成元素」が該半導体ウェーハ表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した「第1改質層を形成し」,「該半導体ウェーハの裏面に,前記第2クラスターイオンの構成元素」が半導体ウェーハ表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した「第2改質層を形成」している。 イ これに対し,引用発明1の「Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」が,仮に「注入」した「Si」が「Si結晶中」に入り込むことで「歪みを多く含んだ」状態になった層であるとしても,この「Si結晶中」に同じ元素である「Si」が入り込んだ状態が,「照射するイオンの構成元素が半導体ウェーハ表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した」(本願明細書の段落【0048】の記載)状態であるとは認められない。 ウ また,引用例1には,第4の1(1)エで摘記したように,「半導体基板」に「注入」する物質として,「Si」を用いること及び「ドーパントイオン」は「エピタキシャル成長層の比抵抗を変化させる可能性がある」ため好ましくないことが記載されているだけであって,前記「半導体基板」に「注入」する物質として「Si」以外のものは記載も示唆もされていない。 さらに,第4の1(1)イで摘記した,「ゲッター効果」を高めるために「半導体装置の活性域近傍でゲッター効果のある層を形成する必要がある」という「発明が解決しようとする問題点」を,引用発明1は,「Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」というゲッター作用を有する層のすぐ「上にエピタキシャル成長層を形成する」ことで既に解決している。 エ したがって,引用例1には,「半導体基板の主表面と裏面」に,「Si注入層を形成する」ことに代えて,クラスターイオンの構成元素が「半導体基板」表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した「改質層」を形成する動機付けがあるとは認められない。 オ 以上から,クラスターイオンを照射してゲッタリング層を形成することが引用例2?4及び9に記載されるように一般的な技術手段であり,また,クラスターイオンを照射すると,半導体層の結晶の格子間位置または置換位置にクラスターイオンの構成元素が固溶した「改質層」を形成できることが第4の4(1)と(2)及び第4の10(1)と(2)で指摘したように引用例4及び10に記載されて周知技術であるとしても,引用発明1において,特段の動機付けなく,「前記半導体基板の主表面及び裏面の両方に,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層を形成する」ことに代えて,「前記半導体基板の主表面及び裏面の両方」に,クラスターイオンの構成元素が「前記半導体基板」表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した「改質層」を形成することを,当業者が想起できたとは認められない。 カ また,引用例5?8及び11に記載された技術を参酌しても,引用発明1において,「前記半導体基板の主表面及び裏面の両方に,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層を形成する」ことに代えて,「前記半導体基板の主表面及び裏面の両方に」クラスターイオンの構成元素が「前記半導体基板」表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した「改質層」を形成することを,当業者が容易に想到できたとは認められない。 キ これに対して,本願発明1は,相違点2に係る構成を有することで, 「第1クラスターイオン16を照射した結果形成される第1改質層18は,第1クラスターイオン16の構成元素が半導体ウェーハ10の表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶して局所的に存在する領域であり,ゲッタリングサイトとして働く。同様に,第2クラスターイオン17を照射した結果形成される第2改質層19もゲッタリングサイトとして働く。その理由は,以下のように推測される。すなわち,クラスターイオンの形態で照射された炭素やボロンなどの元素は,シリコン単結晶の置換位置・格子間位置に高密度で局在する。そして,シリコン単結晶の平衡濃度以上にまで炭素やボロンを固溶すると,重金属の固溶度(遷移金属の飽和溶解度)が極めて増加することが実験的に確認された。つまり,平衡濃度以上にまで固溶した炭素やボロンにより重金属の固溶度が増加し,これにより重金属に対する捕獲率が顕著に増加したものと考えられる。」という本願明細書の段落【0042】に記載された格別の効果, 及び, 「クラスターイオンの形態で照射された元素は,エピタキシャル層20の形成過程で多少の熱拡散は起こる。このため,エピタキシャル層20形成後の炭素およびボロンの濃度プロファイルは,これらの元素が局所的に存在するピークの両側に,ブロードな拡散領域が形成される。しかし,改質層の厚みは大きく変化しない(後述の図5(A)参照)。その結果,炭素およびボロンの析出領域を局所的にかつ高濃度にすることができる。また,シリコンウェーハの表面近傍に改質層が形成されるため,より近接ゲッタリングが可能となる。その結果,より高いゲッタリング能力を得ることができるものと考えられる。」という本願明細書の段落【0048】に記載された格別の効果を奏するものである。 (3)小括 以上から,本願発明1は,相違点1及び相違点3について検討するまでもなく,引用例2ないし11に記載された技術を参照しても,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2 本願発明2ないし10について 本願発明2ないし10は,本願発明1の記載を引用しており,本願発明1をさらに限定した発明である。 したがって,本願発明1と同じ理由により,本願発明2ないし10は,引用例2ないし11に記載された技術を参照しても,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 3 本願発明11について (1)対比 本願発明11と引用発明2とを対比すると,次のことがいえる。 ア 引用発明2の「半導体基板」は,本願発明11の「半導体ウェーハ」に相当する。 イ 引用発明2の「前記半導体基板の主表面」と「に形成された,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」と,本願発明11の「該半導体ウェーハのおもて面に形成された,該半導体ウェーハ中に所定元素が固溶してなる第1改質層」とは,「該半導体ウェーハのおもて面に形成された,該半導体ウェーハ中に所定元素」が混合してなる第1の「層」である点で共通する。 また,引用発明2の「前記半導体基板」の「裏面」形成された「Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」と,本願発明11の「前記半導体ウェーハの裏面に形成された,前記半導体ウェーハ中に所定元素が固溶してなる第2改質層」とは,「前記半導体ウェーハの裏面に形成された,前記半導体ウェーハ中に所定元素」が混合してなる第2の「層」である点で共通する。 そして,引用発明2の「前記半導体基板の主表面の前記Si注入層上に形成されたエピタキシャル成長層」と,本願発明11の「前記第1改質層上のエピタキシャル層」とは,前記第1の「層」上の「エピタキシャル層」である点で共通する。 ウ そして,引用発明2の「半導体基板」は,以下に挙げる相違点を除き,本願発明11の「半導体エピタキシャルウェーハ」に相当する。 エ したがって,本願発明11と引用発明2との間には,次の一致点,相違点があるといえる。 (一致点) 「半導体ウェーハと,該半導体ウェーハのおもて面に形成された,該半導体ウェーハ中に所定元素が混合してなる第1の層と,前記半導体ウェーハの裏面に形成された,前記半導体ウェーハ中に所定元素が混合してなる第2の層と,前記第1の層上のエピタキシャル層と,を有することを特徴とする半導体エピタキシャルウェーハ。」 (相違点) (相違点4)本願発明11は「該半導体ウェーハのおもて面」及び「裏面」に所定元素が「固溶してなる」「改質層」を有するのに対し,引用発明2は「前記半導体基板の主表面と裏面の両方」に「Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」を有する点。 (相違点5)本願発明11の「エピタキシャル層」は「該半導体ウェーハのおもて面」に形成された「改質層上」にあるのに対して,引用発明2の「エピタキシャル成長層」は「前記半導体基板の主表面の前記Si注入層上に形成された」点。 (相違点6)本願発明11は「前記第1改質層および第2改質層における前記所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である」のに対して,引用発明2は,そのような構成を有していない点。 (2)相違点についての判断 上記相違点4ないし6のうち,相違点4及び相違点6について検討する。 ア 相違点4について (ア)引用発明2は,「前記半導体基板の主表面と裏面の両方に形成された,Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」,すなわち,前記「Si注入層」は,「前記半導体基板」の「Si結晶中」に「Si」が注入して混合されて形成された「層」である。 しかし,引用発明2の前記「Si注入層」が注入前の「Si結晶」構造の形を保っているとしても,「Si結晶中」に同じ元素である「Si」が入り込んでいる前記「Si注入層」の状態が,「照射するイオンの構成元素が半導体ウェーハ表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶した」(本願明細書の段落【0048】の記載)状態であるとは認められない。 また,引用例1には,前記「半導体基板」に「注入」する物質として,「Si」を用いること及びドーパントイオンは好ましくないことが記載されているだけで,「Si」以外を用いることは記載も示唆もされていない。 さらに,引用発明2は,第4の1(1)イで摘記した,「ゲッター効果」を高めるために「半導体装置の活性域近傍でゲッター効果のある層を形成する必要がある」という「発明が解決しようとする問題点」を,「前記半導体基板の主表面の前記Si注入層上に形成されたエピタキシャル成長層」を備えることで既に解決している。 (イ)したがって,引用例1には,「半導体基板の主表面と裏面」に,「Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」を設けることに代えて,所定元素が固溶してなる「改質層」を設ける動機付けがあるとは認められない。 (ウ)以上から,クラスターイオンを照射してゲッタリング層を形成することが引用例2?4及び9に記載のように一般的な技術手段であり,また,クラスターイオンを照射すると,半導体層の結晶の格子間位置または置換位置にクラスターイオンの構成元素が固溶した「改質層」を形成できることが第4の4(1)と(2)及び第4の10(1)と(2)で指摘したように引用例4及び10に記載されて周知技術であるとしても,引用発明2において,特段の動機付けなく,「半導体基板の主表面と裏面」に,「Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」を設けることに代えて,所定元素が固溶してなる「改質層」を設けることを,当業者が想起できたとは認められない。 (エ)また,引用例5?8及び11に記載された技術を参酌しても,引用発明2において,特段の動機付けなく,「半導体基板の主表面と裏面」に,「Si結晶中に歪みを多く含んだSi注入層」を設けることに代えて,所定元素が固溶してなる「改質層」を設けることを,当業者が想起できたとは認められない。 (オ)これに対して,本願発明11は,相違点4に係る構成を有することで, 「第1クラスターイオン16を照射した結果形成される第1改質層18は,第1クラスターイオン16の構成元素が半導体ウェーハ10の表面の結晶の格子間位置または置換位置に固溶して局所的に存在する領域であり,ゲッタリングサイトとして働く。同様に,第2クラスターイオン17を照射した結果形成される第2改質層19もゲッタリングサイトとして働く。その理由は,以下のように推測される。すなわち,クラスターイオンの形態で照射された炭素やボロンなどの元素は,シリコン単結晶の置換位置・格子間位置に高密度で局在する。そして,シリコン単結晶の平衡濃度以上にまで炭素やボロンを固溶すると,重金属の固溶度(遷移金属の飽和溶解度)が極めて増加することが実験的に確認された。つまり,平衡濃度以上にまで固溶した炭素やボロンにより重金属の固溶度が増加し,これにより重金属に対する捕獲率が顕著に増加したものと考えられる。」という本願明細書の段落【0042】に記載された格別の効果, 及び, 「クラスターイオンの形態で照射された元素は,エピタキシャル層20の形成過程で多少の熱拡散は起こる。このため,エピタキシャル層20形成後の炭素およびボロンの濃度プロファイルは,これらの元素が局所的に存在するピークの両側に,ブロードな拡散領域が形成される。しかし,改質層の厚みは大きく変化しない(後述の図5(A)参照)。その結果,炭素およびボロンの析出領域を局所的にかつ高濃度にすることができる。また,シリコンウェーハの表面近傍に改質層が形成されるため,より近接ゲッタリングが可能となる。その結果,より高いゲッタリング能力を得ることができるものと考えられる。」という本願明細書の段落【0048】に記載された格別の効果を奏するものである。 イ 相違点6について (ア)本願発明11の「前記第1改質層および第2改質層における前記所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下である」という特徴は,本願発明11が「半導体エピタキシャルウェーハ」という物の発明であることから,素子を形成する原料ウェーハである「半導体エピタキシャルウェーハ」における,その上に「エピタキシャル層」を有する「改質層」の特徴であると認められる。 (イ)一方,第4の10(1)オ及び第4の10(2)イで示したように,引用例10の図11には,炭素クラスターイオン(C_(7)H_(7))をシリコン(100)基板にイオン注入したときの熱処理後の深さ方向の炭素プロファイルが約30nmの半値幅を有することが記載されている。 しかしながら,第4の10(1)エで摘記したように,引用例10には,「図11に示すように,炭素クラスターイオンを注入したSi(100)基板を,Xeフラッシュランプアニールで熱処理することにより,深さ20nm?30nm近傍で,炭素濃度がピーク値(2×10^(21)cm^(-3))になっている。この炭素濃度がピーク値に到達している領域は,シリコン固相成長が止まっている領域であり,積層欠陥,双晶などの結晶欠陥が多数形成されている。」(段落【0053】)と記載されるように,図11に示される炭素プロファイルは「積層欠陥,双晶などの結晶欠陥が多数形成されている」領域のプロファイルであるから,シリコンの格子位置が炭素で置換されて炭素がシリコン結晶に固溶することで結晶性を示す領域におけるプロファイルではない。 また,図11は,上記したように,素子を形成する原料ウェーハである「エピタキシャルシリコンウェーハ」における,前記「Si(100)基板」の炭素注入層側の表面上に「エピタキシャル層」を有する当該炭素注入層の濃度プロファイルを示していない。 以上から,引用例10には,Si(100)基板表面に炭素が固溶した「改質層」を形成し,その上に「エピタキシャル層」を有している当該「改質層」における炭素プロファイルの半値幅が100nm以下であることは,記載されていない。 (ウ)第4の11(1)ウで摘記したように,引用例11の図7には,炭素イオンをシリコン基板表面に注入したときの炭素濃度分布が記載されているにすぎない。 また,第4の11(1)ア,オで摘記したように,引用例11の図10には,シリコン基板に炭素イオンを注入し熱処理をする前と後の,エピタキシャル層-シリコン基板界面付近の炭素濃度プロファイルを示している。しかし,形成された炭素イオン注入層において炭素がシリコン基板に固溶しているのか,引用例11の記載からでは不明である。 そして,第4の11(1)オで記載したように,引用例11の図10からは,ピーク濃度などの炭素濃度に関する情報を特定することができない。したがって,炭素濃度がピーク濃度の1/2である炭素濃度プロファイルの幅である半値幅が,100nm以下であることが図10に記載されているとすることはできない。 以上から,引用例11には,シリコン基板表面に炭素が固溶した「改質層」を形成し,その上に「エピタキシャル層」を有している当該「改質層」における炭素プロファイルの半値幅が100nm以下であることは,記載されていない。 (エ)以上の(イ)及び(ウ)から,引用例10及び11には,素子を形成する原料ウェーハである「エピタキシャルシリコンウェーハ」における「エピタキシャル層」の下に形成された「改質層」に固溶された元素の濃度プロファイルの半値幅が100nm以下であることは,記載されていない。 そして,素子を形成する原料ウェーハである「エピタキシャルシリコンウェーハ」における「エピタキシャル層」の下に形成された「改質層」に固溶された元素の濃度プロファイルの半値幅が100nm以下であることは,引用例2ないし9には記載も示唆もされていない。 (オ)ところで,本願発明11において,「第1改質層および第2改質層における前記所定元素の深さ方向の濃度プロファイル」が特定できるのであるから,前記「第1改質層および第2改質層」の形成元である「半導体ウェーハ」の構成元素と「前記所定元素」とは異なるものと認められる。 これに対して,引用例1には,第4の1(1)イで摘記したように「半導体装置の活性域近傍でゲッター効果のある層を形成する必要がある。」ことは記載されているが,前記「ゲッター効果のある層」を「半導体基板」の構成元素とは異なる元素で形成すること,当該異なる元素を「半導体基板」に局所的に注入して,当該異なる元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅が小さい層を形成する必要があることは,記載も示唆もされていない。 したがって,引用発明2には,「半導体基板の主表面と裏面の両方に形成」される「注入層」を,「所定元素の深さ方向の濃度プロファイルの半値幅がともに100nm以下」である層とすることの動機付けがない。 (カ)そして,仮に引用発明2に引用例2ないし11に記載の技術(特に,引用例8ないし9に記載の技術)を適用することを想起できたとしても,上記(オ)の検討から,相違点6に係る構成を得ることはできない。 (キ)これに対して,本願発明11は,相違点6に係る構成を有することで,「実施例1?4は,おもて面および裏面において,炭素の濃度プロファイルの半値幅がいずれも100nm以下であるため」に,「炭素のモノマーイオン」を注入する「比較例1,2よりも優れたゲッタリング能力を表裏面において発揮していることが分かる。一方,比較例1,2では,おもて面側のみでしかNiを捕獲できておらず,そのゲッタリング能力も実施例1?4の表側のゲッタリング能力より劣る。」という,本願明細書の段落【0081】,【0082】及び【0085】に記載された格別の効果を奏するものである。 ウ 小括 以上から,本願発明11は,相違点5について検討するまでもなく,引用例2ないし11に記載された技術を参照しても,引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 4 本願発明12ないし18について 本願発明12ないし18は,本願発明11の記載を引用しており,本願発明11をさらに限定した発明である。 したがって,本願発明11と同じ理由により,本願発明12ないし18は,引用例2ないし11に記載された技術を参照しても,引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 5 本願発明19について 本願発明19は本願発明1又は本願発明11の記載を引用しており,本願発明1又は本願発明11をさらに限定した発明である。 したがって,本願発明1又は本願発明11と同じ理由により,本願発明19は,引用例2ないし11に記載された技術を参照しても,引用発明1又は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり,本願発明1-19は,当業者が引用発明1又は2,及び,引用例2ないし11に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 したがって,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-12-26 |
出願番号 | 特願2012-249652(P2012-249652) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 桑原 清 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
鈴木 匡明 加藤 浩一 |
発明の名称 | 半導体エピタキシャルウェーハの製造方法、半導体エピタキシャルウェーハ、および固体撮像素子の製造方法 |
代理人 | 川原 敬祐 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 福井 敏夫 |