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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01B |
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管理番号 | 1335830 |
審判番号 | 不服2017-3127 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-03-02 |
確定日 | 2018-01-16 |
事件の表示 | 特願2012-254612「巻尺」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月5日出願公開、特開2014-102166、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成24年11月20日の特許出願であって、平成28年5月18日付けで拒絶理由通知がされ、同年6月20日付けで手続補正がされ、同年11月29日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成29年3月2日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成28年11月29日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 1 本願請求項1-3に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明、及び引用文献2に記載の周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.中国特許出願公開第102261876号明細書 2.特開2005-114132号公報(周知技術を示す文献) 第3 本願発明 本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成29年3月2日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び2は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 円筒状に形成され、テープを巻き取るドラムと、 前記ドラムの内部に配置され、ハンドル操作によって回転される回転体と、 前記ドラムと前記回転体との間に配置された回転伝達機構とを備え、 前記回転伝達機構は、前記ドラムの内周面に形成された収納部に収納されており、前記収納部内において移動可能なボールと、前記ボールを付勢する圧縮コイルばねとを含み、 ハンドル操作により前記回転体が、前記ボールに対してコイルばねが配置されている方向である第1方向に回転された場合に、前記コイルばねに付勢されている前記ボールが前記回転体の外周面を押圧することによって前記回転体の回転が前記ドラムに伝達されることにより、前記テープが前記ドラムに巻き取られるとともに、そのテープの巻き取り時に前記ドラムが強制的に停止された場合に、前記ボールが回転されることまたは前記回転体が前記ボールに対して摺動されることにより、前記回転体が前記ドラムに対して滑りながら回転するように構成され、かつ、 前記テープが引き出されることにより前記ドラムが前記第1方向とは反対の第2方向に回転された場合に、前記ボールによる前記回転体の外周面の押圧が解除されることによって前記ドラムの回転が前記回転体に伝達されないことにより、前記回転体に対して前記ドラムが遊転されるように構成されている巻尺であって、 前記収納部には、前記回転体の外周面側に傾斜するガイド部が形成され、 前記ボールが前記ガイド部によりガイドされることにより、前記ボールが前記回転体の外周面を押圧し、 前記ボールが前記ガイド部から退避する方向に移動することにより、前記ボールによる前記回転体の外周面の押圧が解除されるように構成されていることを特徴とする巻尺。 【請求項2】 請求項1に記載の巻尺において、 前記回転伝達機構は、前記圧縮コイルばねを支持する支持部材をさらに含み、前記ボールが前記圧縮コイルばねに対して前記第2方向側に配置されるとともに、前記支持部材が前記圧縮コイルばねに対して前記第1方向側に配置されていることを特徴とする巻尺。」 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について 引用文献1には、次の記載がある。(下線は当審による。以下同様。) (1) 「 (当審訳:[0034] 図1から図3が示すように、本実施例のフレーム式長尺鋼製巻き尺は、ハンドル1、面板2、巻き尺芯盤アセンブリ3、錐形くい4、クランクハンドル5、巻き尺帯6およびガイドレール7等の主要部材を含む。面板2はY形の金属面板を採用し、面板2は2つであり、それぞれ巻き尺芯盤アセンブリ3の両側に設けられ、面板2の上端の2つの分岐の第1支持片に第1通り穴21が設けられ、ハンドル1上に当該第1通り穴21に対応する第2通り穴1aが設けられ、面板2とハンドル1は固定部材13により一緒に固定連接され、同様にして、錐形くい4上に面板2の第2支持片の第1通り穴21に対応する第3通り穴41が設けられ、面板2は錐形くい4と固定部材13により一緒に固定連接される。このようにして、ハンドル1、巻き尺芯盤アセンブリ3および錐形くい4は両側の面板2にクランプされ、このような構造は金属面板2の材質の剛性を十分に発揮し、全体の強度を向上させ、従来構造の鋼製巻き尺と比べて、さらに大きな巻き尺帯の重量と衝撃力に耐えることができる。このほかに、巻き尺帯6を均一に巻き尺芯盤32上に巻くことができることを保証するために、巻き尺帯6の軸方向の逸脱幅を制限し、保持フレーム33の下方にガイドレール7を設け、ガイドレール頭部71を保持フレーム33内に挿入し、ガイドレール尾部72を錐形くい4の位置決め溝42内に挿入し、ガイドレール7はU字形の金属条であり、ガイドレール7のガイド方向長さは巻き尺帯6の巻き取った後の径方向の長さよりも長くする。 [0035] 面板2の中間に中心穴22が開設され、巻き尺芯盤アセンブリ3は軸方向に中心穴22に嵌め込まれ、面板2の外側にそれぞれ穴を有する第1カバー8および第2カバー12が設けられ、第1カバー8および第2カバー12を設置することにより、一方では巻き尺の外観を整えることができ、他方では保持フレーム33に対する固定作用により、巻き尺芯盤32の軸方向の逸脱をさらに防止することができる。 [0036] クランクハンドル5は巻き尺芯盤32と連接され、巻き尺芯盤32を伴って共に回転する装置であり、ハンドル51、ハンドルキャップ52、連接盤53、ロック軸54およびバネ55等の部品で構成される。そのうち、連接盤53は円盤形の装置であり、連接盤53において巻き尺芯盤32の片側に向かって連接回転軸531が延伸し、連接回転軸531の中心にはネジ穴532(図9および図10を参照)が設置され、連接回転軸531は順次第1カバー8およびクランクハンドル5寄りの側の面板2を貫通した後に巻き尺芯盤32内部に入り、巻き尺体の別の面において皿形カバー10およびネジ11を用いて上記ネジ穴532を通じて固定され、クランクハンドル5は巻き尺芯盤32の軸方向の間隙と組み合わされる。クランクハンドル5を設置することにより、巻き尺はさらに使用しやすくなり、既に引き出した巻き尺帯6を回収したい場合、クランクハンドル5を動かせばよい。) (2) 「 」 (当審訳:[0038] 巻き尺芯盤32は円盤形の装置であり、断面はI状を呈し、両側の平面は摩擦平面322であると定義され、巻き尺芯盤32の外リングの円周面321は巻き尺帯6を巻くことに用いられ、巻き尺芯盤32の中心軸方向に対称的に第1回転軸323が設置され、第1回転軸323はそれぞれ第1回転軸の外側リング3231および第1回転軸の内側リング3232に分けられ、そのうち第1回転軸の内側リング3232はクランクハンドル5の連接回転軸531の径方向の間隙と組み合わされ、第1回転軸の外側リング3231は制動リング31の第2回転軸311の第2回転軸の内側リング3111の軸方向の間隙と組み合わされることに用いられる。第1回転軸の内側リング3232は貫通穴であり、貫通穴の断面形状は方形、円形または内側で噛み合うラチェット歯形状を呈することができ、後者の2種類の形状はクランクハンドルの単一方向の伝動機構を実現することができ、単一方向の伝動機構は図9および図10に示されるとおりである。) (3) 「 」 (当審訳:[0044] 図10が示すように、巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232の形状は円柱形に設計され、クランクハンドル5の連接回転軸531も円柱形に設計され、第1回転軸の内側リング3232の径方向の間隙と組み合わされる。それが構成するローラの停止機構は具体的には以下の原理にしたがう。連接回転軸の回転方向を時計回りに設定し、連接回転軸531上に4つの中心対称のL形切り欠き534が開設され、第1回転軸の内側リング3232と楔形を形成し、楔形内にローラ58が配置され、両者の間に第2バネ59が設置され、バネ59はローラ58を楔形の死角に押しつけ、停止機構を形成する。) (4) 「図5 」 (5) 「図10 」 (6)段落[0038]の「単一方向の伝動機構は図9および図10に示されるとおりである。」の記載、段落[0044]に記載の技術事項、及び図10から、段落[0044]に記載の「ローラ58」及び「第2バネ59」は、「単一方向の伝動機構」の構成要素であり、「巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232」と「連接回転軸531」との間に配置されていると認められる。 (7)図10から、段落[0044]に記載の「両者の間に第2バネ59が設置され」の「両者」とは、「連接回転軸531」と「ローラ58」であると認められる。 (8)上記(7)を踏まえると、段落[0044]に記載の「連接回転軸の回転方向を時計回りに設定し・・・バネ59はローラ58を楔形の死角に押しつけ、停止機構を形成する。」とは、「連接回転軸531」を時計方向に回転させた際に、「ローラ58」が「第2バネ59」により楔形の死角に押しつけられ、「ローラ58」が「巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232」を押圧することによって、「連接回転軸531」の回転が「巻き尺芯盤32」に伝達することと認められる。 (9)段落[0036]の記載「既に引き出した巻き尺帯6を回収したい場合、クランクハンドル5を動かせばよい。」、段落[0044]の記載「連接回転軸の回転方向を時計回りに設定し・・・停止構造を形成する」、及び上記(8)から、引用文献1に記載の巻き尺は、「連接回転軸531」を時計回りに回転させた場合に、「巻き尺芯盤32」も回転し、巻き尺帯6を回収すると認められる。 (10)図10から、段落[0044]に記載の「時計回り」とは、「ローラ58」に対して「第2バネ59」が配置されている方向のことであると認められる。 したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「円盤形であり、外リングの円周面321が巻き尺帯6を巻くことに用いられる巻き尺芯盤32と(段落[0038])、 巻き尺芯盤32内部に入る、クランクハンドル5を構成する部品である連接盤53の連接回転軸531と(段落[0036] )、 巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232と連接回転軸531との間に配置された単一方向の伝動機構とを備え(上記(6))、 単一方向の伝動機構は、連接回転軸531上に開設された4つの中心対称のL形切り欠き534と第1回転軸の内側リング3232とで形成される楔形内に配置されており、ローラ58と、連接回転軸531とローラ58との間に設置され、ローラ58を押しつける第2バネ59とを含み(段落[0044]、上記(7))、 連接回転軸531がローラ58に対して第2バネ59が配置されている方向に回転された場合に、第2バネ59に押しつけられているローラ58が楔形の死角に押しつけられ、ローラ58が巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232を押圧することによって連接回転軸531の回転が巻き尺芯盤32に伝達されることにより、巻き尺帯6が巻き尺芯盤32に回収される、(上記(8)ないし(10))、 フレーム式長尺鋼製巻き尺。」 2 引用文献2について 引用文献2には、次の記載がある。 「【0016】 軸6の大径部11に前記の一方向クラッチ2が嵌合される。一方向クラッチ2は、クラッチ輪12の内径に周方向に一定の間隔をおいて所要数のポケット13が形成され、各ポケット13にローラ14が収納される。ポケット13は、その底面と一方の内端面との間に軸6との間でクサビ形部15が形成される。また、ローラ14と他方の端部間にばね16が介在され、ローラ14をクサビ形部15の狭小方向に軽く付勢しローラ14の作動を安定化させる。ローラ14は、軸6がクラッチ輪12に対してクサビ形部15のクサビ角の狭小方向に回転した場合(図1(a)の矢印A参照)、その方向に移動し噛込みが生じて係合状態となる。逆に軸6が反対方向に回転するとばね16に抗してローラ14が逆方向に移動して噛込みが外れ解除状態となる。解除状態において、ローラ14は軸に対してフリーとなり転動する。軸6が固定の場合は、クラッチ輪12がクサビ角の拡大方向(矢印B参照)に回転するとローラ14は係合状態となり、その反対方向に回転すると解除状態となる。なお、クラッチ輪12の外端部内径面にシール部材17が装着される。 」 「【0026】 図3(a)から(c)に示した実施例2は、前記の場合に比べ、一方向クラッチ2とトルクリミッタ3の組み合わせの関係が、逆になっている点で相違しているが、それ以外の構成は全て同じである。 【0027】 即ち、この場合は、トルクリミッタ3を形成する内外2本のOリング18、18が、一方向クラッチ2のクラッチ輪12と軸6の大径部11との間に介在され、各Oリング18は軸6の大径部11の外径面を滑り接触の対象とする。また、前記のクラッチ輪12はその外径面に所要数のポケット13が設けられ、各ポケット13の底面とハウジング1の内径面との間でクサビ形部15が形成される。作用も同様であるので説明を省略する。」 「図1 」 「図3 」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比すると次のことがいえる。 ア 引用発明の「巻き尺芯盤32」は、引用文献1の図5から厚みを有する円盤形であり、中心に貫通穴を有しているから、円筒状であると認められ、引用発明の「巻き尺帯6」は本願発明1の「テープ」に相当するから、引用発明の「円盤形であり、外リングの円周面321が巻き尺帯6を巻くことに用いられる巻き尺芯盤32」は、本願発明1の「円筒状に形成され、テープを巻き取るドラム」 に相当する。 イ 上記アを踏まえると、引用発明の「巻き尺芯盤32内部に入る、クランクハンドル5を構成する部品である連接盤53の連接回転軸531」は、本願発明1の「前記ドラムの内部に配置され、ハンドル操作によって回転される回転体」に相当する。 ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明の「巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232と連接回転軸531との間に配置された単一方向の伝動機構」は、本願発明1の「前記ドラムと前記回転体との間に配置された回転伝達機構」に相当する。 エ 引用発明の「ローラ58」の形状は、その文言、及び断面模式図である図10から、断面が円形状である円柱と認められ、第1回転軸の内側リング3232と連接回転軸531との間に形成される楔形の空間内を移動可能であると認められる。 よって、引用発明の「ローラ58と、ローラ58を押しつける第2バネ59」とを含む「単一方向の伝動機構」は、本願発明1の「前記ドラムの内周面に形成された収納部に収納されており、前記収納部内において移動可能なボールと、前記ボールを付勢する圧縮コイルばね」とを含む「回転伝達機構」と、断面が円形状の移動可能な物体と、前記物体を付勢するばねとを含む点で共通している。 オ 上記ア、イ、及びエを踏まえると、引用発明の「連接回転軸531がローラ58に対して第2バネ59が配置されている方向に回転された場合に、第2バネ59に押しつけられているローラ58が楔形の死角に押しつけられ、ローラ58が巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232を押圧することによって連接回転軸531の回転が巻き尺芯盤32に伝達されることにより、巻き尺帯6が巻き尺芯盤32に回収される」と、本願発明1の「ハンドル操作により前記回転体が、前記ボールに対してコイルばねが配置されている方向である第1方向に回転された場合に、前記コイルばねに付勢されている前記ボールが前記回転体の外周面を押圧することによって前記回転体の回転が前記ドラムに伝達されることにより、前記テープが前記ドラムに巻き取られる」とは、「ハンドル操作により前記回転体が、断面が円形状の物体に対してばねが配置されている方向である第1方向に回転された場合に、前記ばねに付勢されている前記断面が円形状の物体が、前記ばね及び断面が円形状の物体を備えていない方の部材を押圧することによって前記回転体の回転が前記ドラムに伝達されることにより、前記テープが前記ドラムに巻き取られる」点で共通している。 カ 引用発明の「フレーム式長尺鋼製巻き尺」は、本願発明1の「巻尺」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。 (一致点) 「円筒状に形成され、テープを巻き取るドラムと、 前記ドラムの内部に配置され、ハンドル操作によって回転される回転体と、 前記ドラムと前記回転体との間に配置された回転伝達機構とを備え、 前記回転伝達機構は、断面が円形状の移動可能な物体と、前記物体を付勢するばねとを含み、 ハンドル操作により前記回転体が、断面が円形状の物体に対してばねが配置されている方向である第1方向に回転された場合に、前記ばねに付勢されている前記断面が円形状の物体が、前記ばね及び断面が円形状の物体が配置されていない方の部材を押圧することによって前記回転体の回転が前記ドラムに伝達されることにより、前記テープが前記ドラムに巻き取られる、巻尺。」 (相違点) (相違点1) 本願発明1は「断面が円形状の物体」が「ボール」であるの対し、引用発明は「ローラ58」である点。 (相違点2)本願発明1は「断面が円形状の物体を付勢するばね」が「圧縮コイルばね」であるのに対し、引用発明は「第2バネ59」であり、圧縮コイルばねであるのか否か不明な点。 (相違点3) 本願発明1の「ボール」と「圧縮コイルばね」は、「前記ボールが前記ガイド部によりガイドされることにより、前記ボールが前記回転体の外周面を押圧し、前記ボールが前記ガイド部から退避する方向に移動することにより、前記ボールによる前記回転体の外周面の押圧が解除されるように」、「回転体の外周面側に傾斜するガイド部が形成され」た「ドラムの内周面に形成された収納部」に収納されており、「ハンドル操作により前記回転体が、前記ボールに対してコイルばねが配置されている方向である第1方向に回転された場合に」、「ボール」が「回転体の外周面」を押圧するのに対し、引用発明の「ローラ58」と「第2バネ59」は、「連接回転軸531上に開設された4つの中心対称のL形切り欠き534と第1回転軸の内側リング3232で形成される楔形内に配置され」ており、「連接回転軸531がローラ58に対して第2バネ59が配置されている方向に回転された場合に」、「ローラ58が楔形の死角に押しつけられ」ることにより、「ローラ58」が「巻き尺芯盤32の第1回転軸の内側リング3232」(本願発明1の「ドラム」に相当)を押圧する点。 (相違点4) 本願発明1は「そのテープの巻き取り時に前記ドラムが強制的に停止された場合に、前記ボールが回転されることまたは前記回転体が前記ボールに対して摺動されることにより、前記回転体が前記ドラムに対して滑りながら回転するように構成され」ているのに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。 (相違点5) 本願発明1は「前記テープが引き出されることにより前記ドラムが前記第1方向とは反対の第2方向に回転された場合に、前記ボールによる前記回転体の外周面の押圧が解除されることによって前記ドラムの回転が前記回転体に伝達されないことにより、前記回転体に対して前記ドラムが遊転されるように構成されている」のに対し、引用発明はそのような構成を有していない点。 (2)相違点についての判断 本願発明1の内容に鑑み、相違点3について検討する。 引用文献2には、ローラ14とばね16から構成される一方向クラッチ(引用発明のローラ58と第2バネ59とを含む「単一方向の伝動機構」に相当)を介して内側の部材及び外側の部材いずれか一方の部材の回転を他方の部材に伝達する技術が記載されている。 引用文献2の段落【0016】及び図1には、実施例1として、外側の部材(図1のクラッチ輪12)に形成されたポケット13にローラ14とばね16を収納した一方向クラッチであって、内側の部材(図1の軸6)がローラ14に対してばね16が配置されている方向と逆方向(図1のA方向)に回転された場合に、ローラ14がクサビ形部15のクサビ角の狭小方向に移動し、噛み込みが生じて係合状態となり、外側の部材(図1のクラッチ輪12)に回転が伝達され、内側の部材(図1の軸6)がローラ14に対してばね16が配置されている方向と逆方向に回転された場合に、解除状態となり回転が伝達されない一方向クラッチ(以下、「実施例1」という。)が記載されている。 引用文献2の段落【0026】、【0027】及び図3には、実施例2として、内側の部材(図3のクラッチ輪12)にローラ14とばね16が配置されており、外側の部材(ハウジング1)との間で回転を伝達する一方向クラッチ(以下、「実施例2」という。)が記載されている。 段落【0026】、【0027】には、一方の部材がいずれの回転方向に回転された場合に他方の部材に回転が伝達されるかは明記されていないものの、段落【0027】の記載「作用も同様であるので説明を省略する。」、及び段落【0016】の記載「ローラ14は、軸6がクラッチ輪12に対してクサビ形部15のクサビ角の狭小方向に回転した場合(図1(a)の矢印A参照)、その方向に移動し噛込みが生じて係合状態となる。」から、実施例2においても、ローラ14がクサビ形部15のクサビ角の狭小方向に移動する方向、例えば内側の部材(図3のクラッチ輪12)がローラ14に対してばね16が配置されている方向(図3のA方向)に回転された場合に、回転が外側の部材(ハウジング1)に伝達されると認められる。 よって、引用文献2に記載の実施例2と、引用発明とは、内側の部材にローラとばねが配置され、内側の部材がローラに対してばねが配置されている方向に回転された場合に、ローラが楔形部の楔角の狭小方向に移動し、回転が外側の部材に伝達される点で共通している。 これに対し、引用文献2には、ローラ14とばね16を外側の部材に設けた実施例1と、内側の部材に設けた実施例2とは作用が同様と記載されているから、ローラ14とばね16をいずれの部材に設けるかは当業者が適宜選択可能な設計事項である。 してみると、引用発明において、「連接回転軸531」に配置されていた「ローラ58」及び「ローラ58を押しつける第2バネ59」を、引用文献2に記載の実施例1のように、「巻き尺芯盤32」に形成したポケットに収納することは、同様の作用を奏する別構造の一方向クラッチへの単なる置換であるから、当業者が容易に想到しえたことである。 しかし、引用発明において「ローラ58」及び「ローラ58を押しつける第2バネ59」を「巻き尺芯盤32」に収納した巻尺は、引用文献2に記載の実施例1と同様に、「連接回転軸531」が、「ローラ58」に対して「第2バネ59」が配置されている方向と逆方向に回転された場合に、「ローラ58」が「連接回転軸531」を押圧し、回転が「巻き尺芯盤32」に伝達され、「連接回転軸531」が、「ローラ58」に対して「第2バネ59」が配置されている方向に回転された場合には、「ローラ58」は「連接回転軸531」を押圧せず、回転が伝達されないものとなる。 すなわち、相違点3に係る本願発明1の構成を備えることにならない。 したがって、相違点3に係る構成は、当業者が容易に思いつくものといえない。 以上により、他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。 2 本願発明2について 本願発明2は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明1の特定事項を全て含む発明であるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第6 原査定について 本願発明1は、審判請求時の補正により、上記相違点3に係る「ハンドル操作により前記回転体が、前記ボールに対してコイルばねが配置されている方向である第1方向に回転された場合に、前記コイルばねに付勢されている前記ボールが前記回転体の外周面を押圧することによって前記回転体の回転が前記ドラムに伝達されることにより、前記テープが前記ドラムに巻き取られる」構成を有するものとなっており、引用発明、引用文献2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1及び2は、当業者が引用文献1及び2に基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2017-12-27 |
出願番号 | 特願2012-254612(P2012-254612) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G01B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 眞岩 久恵 |
特許庁審判長 |
小林 紀史 |
特許庁審判官 |
▲うし▼田 真悟 清水 稔 |
発明の名称 | 巻尺 |
代理人 | 森岡 則夫 |
代理人 | 関口 久由 |
代理人 | 中川 正人 |
代理人 | 柳野 隆生 |
代理人 | 柳野 嘉秀 |