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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1335872
審判番号 不服2016-7258  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-18 
確定日 2017-12-27 
事件の表示 特願2014-534788「変換依存デブロッキングフィルタリングの実施」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月11日国際公開,WO2013/052835,平成26年11月27日国内公表,特表2014-531879〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 経緯
1.経緯
本件出願は,2012年(平成24年)10月5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年10月7日 米国,2011年11月1日 米国,2012年1月19日 米国,2012年6月22日 米国,2012年8月10日 米国,2012年9月12日 米国,2012年10月4日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は,以下のとおりである。

手続補正 :平成26年 8月 8日
手続補正 :平成26年 8月11日
拒絶理由通知 :平成27年 8月27日(起案日)
手続補正 :平成27年12月 8日
拒絶査定 :平成28年 1月13日(起案日)
拒絶査定謄本送達日 :平成28年 1月19日
拒絶査定不服審判請求:平成28年 5月18日
手続補正 :平成28年 5月18日

2.査定の概要
原査定の理由は,概略,次のとおりである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1
・引用文献等 1?4,7

・請求項 2,6?15,19?29,33?43,47?58,61?64,67?70,73?76,79
・引用文献等 1?8

1.特開2011-151431号公報
2.Zhongkang Lu, et.al., "CE4: Improvement on efficiency of high-level syntax in adaptive ROI conditions", [online], 17 Jan 2006, Joint Video Team (JVT) of ISO/IEC MPEG & ITU-T VCEG (ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 and ITU-T SG16 Q.6), Document: JVT-R043, [平成27年8月26日検索],インターネット〈URL:http://wftp3.itu.int/av-arch/jvt-site/2006_01_Bangkok/JVT-R043.zip〉
3.Andrey Norkin, "CE12: Cross-verification of deblocking filter parameter adjustment on a slice level (F143) by Ericsson",[online], 12 July 2011, Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11, Document: JCTVC-F530_r2(version 2), [平成27年8月26日検索],インターネット〈URL:http://phenix.it-sudparis.eu/jct/doc_end_user/documents/6_Torino/wg11/JCTVC-F530-v2.zip〉
4.米国特許出願公開第2008/0240252号明細書
5.Jungyoup Yang, et.al., "CE12: SK Telecom/SKKU Deblocking Filter", [online], 18 July 2011, Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11, Document: JCTVC-F258(version 2), [平成27年8月26日検索],インターネット〈URL:http://phenix.it-sudparis.eu/jct/doc_end_user/documents/6_Torino/wg11/JCTVC-F258-v2.zip〉
6.米国特許出願公開第2004/0184549号明細書
7.大久保榮監修,「インプレス標準教科書シリーズ 改訂三版H.264/AVC教科書」,第1版,2009年1月1日,株式会社インプレスR&D,第144?148,326?331頁,ISBN:978-4-8443-2664-9
8.特開2008-219870号公報」

第2 平成28年5月18日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年5月18日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により特許請求の範囲が補正されたが,そのうちの補正後の請求項1の記載は,以下のとおりである。なお,下線部は,補正箇所である。

【請求項1】
ビデオエンコーダがビデオデータを符号化する方法であって,
前記ビデオデータのブロックに変換を適用して,変換係数ブロックを生成することと,
量子化パラメータを適用して,前記変換係数ブロックを量子化することと,
前記量子化された変換係数ブロックに基づいてビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを生成することと,
前記量子化された変換係数ブロックからビデオデータの前記ブロックを再構成することと,
ビデオデータの再構成された前記ブロックにデブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われる少なくとも1つのオフセットを決定することと,少なくとも1つのオフセットは,t_(c)オフセット及びβオフセットのうちの1つ以上を備え,前記t_(c)オフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトとクロマアスペクトの両方について,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるオフセットを備え,前記βオフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトについて,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるオフセットを備える,
決定された前記少なくとも1つのオフセットに基づいて,ビデオデータの再構成された前記ブロックに対してデブロッキングフィルタリングを実施することと,
前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,前記PPSは前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す,
前記少なくとも1つのオフセットを,ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定することと,を備える,方法。

2.補正の適否
請求項1に係る補正事項は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「t_(c)オフセット」及び「βオフセット」について,「デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること」及び「デブロッキングフィルタリング強度を決定すること」の「一方又は両方」に使われるとしていたものを,「両方」に使われるとするものに限定を行うものである。
よって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,当該補正事項は,特許法第17条の2第3項に規定される願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり,単一性の要件を満たすものである。よって,特許法第17条の2第3項及び第4項に該当する。

そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

(1)補正発明
上記「1.(1)」に記載した補正後の請求項1には,「前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,前記PPSは前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す」と記載されている(説明のため,当審にて下線を付与した。)。
しかし,発明の詳細な説明の段落0051の『ビデオエンコーダ20は次いで,少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータのブロックの符号化バージョンを含む,単独で復号可能な単位(例えば,スライス)のヘッダ中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示すフラグを,ピクチャパラメータセット(PPS)中で規定することができる。幾つかの事例において,このフラグは,シンタックス表中で,「de-blocking_filter_control_present_flag」シンタックス要素として示すことができる。』との記載をみれば,下線部の「PPS」は,「フラグ」の誤記であることは明らかである。
このため,下線部以降の記載はフラグに関する記載であるものとして,補正発明を認定する。

よって,補正発明は,以下のとおりである。なお,説明のために当審にて,A?Jの記号を付与した。以下,「構成A」,「構成J」などと称することにする。なお,上記のフラグに関する誤記に対応する箇所について,当審にて下線を付与した。

A ビデオエンコーダがビデオデータを符号化する方法であって,
B 前記ビデオデータのブロックに変換を適用して,変換係数ブロックを生成することと,
C 量子化パラメータを適用して,前記変換係数ブロックを量子化することと,
D 前記量子化された変換係数ブロックに基づいてビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを生成することと,
E 前記量子化された変換係数ブロックからビデオデータの前記ブロックを再構成することと,
F-1 ビデオデータの再構成された前記ブロックにデブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われる少なくとも1つのオフセットを決定することと,
F-2 少なくとも1つのオフセットは,t_(c)オフセット及びβオフセットのうちの1つ以上を備え,
F-3 前記t_(c)オフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトとクロマアスペクトの両方について,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるオフセットを備え,
F-4 前記βオフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトについて,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるオフセットを備える,
G 決定された前記少なくとも1つのオフセットに基づいて,ビデオデータの再構成された前記ブロックに対してデブロッキングフィルタリングを実施することと,
H 前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,前記フラグは前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す,
I 前記少なくとも1つのオフセットを,ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定することと,
J を備える,方法。

(2)補正発明’
上記(1)の補正発明に関し,構成F-2は,「少なくとも1つのオフセットは,t_(c)オフセット及びβオフセットのうちの1つ以上を備え」るとしているから,「少なくとも1つのオフセット」が,「t_(c)オフセット」を備えず「βオフセット」を備えることを構成とする発明(以下,「補正発明’」という。)は,補正発明に含まれる。
そして,このような補正発明’には,「t_(c)オフセット」は構成として含まれないのであるから,「t_(c)オフセット」に関する構成である構成F-3についても,補正発明’の構成として含まれない。
そこで,まず,「t_(c)オフセット」に関する構成を含まない補正発明’について検討する。
補正発明’は,次のとおりである。なお,説明のために当審にて,A?Jの記号を付与した。以下,「構成A」,「構成J」などと称することにする。また,補正発明と同じ構成については,同じ記号を付与した。

A ビデオエンコーダがビデオデータを符号化する方法であって,
B 前記ビデオデータのブロックに変換を適用して,変換係数ブロックを生成することと,
C 量子化パラメータを適用して,前記変換係数ブロックを量子化することと,
D 前記量子化された変換係数ブロックに基づいてビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを生成することと,
E 前記量子化された変換係数ブロックからビデオデータの前記ブロックを再構成することと,
F-1 ビデオデータの再構成された前記ブロックにデブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われる少なくとも1つのオフセットを決定することと,
F-2’ 少なくとも1つのオフセットは,βオフセットを備え,
F-4 前記βオフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトについて,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるオフセットを備える,
G 決定された前記少なくとも1つのオフセットに基づいて,ビデオデータの再構成された前記ブロックに対してデブロッキングフィルタリングを実施することと,
H 前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,前記フラグは前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す,
I 前記少なくとも1つのオフセットを,ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定することと,
J を備える,方法。

(3)引用文献の記載事項及び引用発明1
ア.引用文献1の記載事項及び引用発明1
(ア)引用文献1の記載事項
原審の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2011-151431号公報には,「画像処理装置および方法」(発明の名称)に関し,以下の事項が記載されている。なお,強調のために当審にて下線を付与した。

i.
【0006】
図1は,H.264/AVCに基づいた圧縮画像を出力とする画像符号化装置の構成例を示すブロック図である。
【0007】
図1の例において,画像符号化装置1は,A/D変換部11,画面並べ替えバッファ12,演算部13,直交変換部14,量子化部15,可逆符号化部16,蓄積バッファ17,逆量子化部18,逆直交変換部19,演算部20,デブロックフィルタ21,フレームメモリ22,スイッチ23,イントラ予測部24,動き予測・補償部25,予測画像選択部26,およびレート制御部27により構成されている。
【0008】
A/D変換部11は,入力された画像をA/D変換し,画面並べ替えバッファ12に出力し,記憶させる。画面並べ替えバッファ12は,記憶した表示の順番のフレームの画像を,GOP(Group of Picture)に応じて,符号化のためのフレームの順番に並べ替える。
【0009】
演算部13は,画面並べ替えバッファ12から読み出された画像から,予測画像選択部26により選択されたイントラ予測部24からの予測画像または動き予測・補償部25からの予測画像を減算し,その差分情報を直交変換部14に出力する。直交変換部14は,演算部13からの差分情報に対して,離散コサイン変換,カルーネン・レーベ変換等の直交変換を施し,その変換係数を出力する。量子化部15は直交変換部14が出力する変換係数を量子化する。
【0010】
量子化部15の出力となる,量子化された変換係数は,可逆符号化部16に入力され,ここで可変長符号化,算術符号化等の可逆符号化が施され,圧縮される。
【0011】
可逆符号化部16は,イントラ予測を示す情報をイントラ予測部24から取得し,インター予測モードを示す情報などを動き予測・補償部25から取得する。なお,イントラ予測を示す情報およびインター予測を示す情報は,以下,それぞれ,イントラ予測モード情報およびインター予測モード情報とも称する。
【0012】
可逆符号化部16は,量子化された変換係数を符号化するとともに,イントラ予測を示す情報,インター予測モードを示す情報などを符号化し,圧縮画像におけるヘッダ情報の一部とする。可逆符号化部16は,符号化したデータを蓄積バッファ17に供給して蓄積させる。
【0013】
例えば,可逆符号化部16においては,可変長符号化または算術符号化等の可逆符号化処理が行われる。可変長符号化としては,H.264/AVC方式で定められているCAVLC(Context-Adaptive Variable Length Coding)などがあげられる。算術符号化としては,CABAC(Context-Adaptive Binary Arithmetic Coding)などがあげられる。
【0014】
蓄積バッファ17は,可逆符号化部16から供給されたデータを,H.264/AVC方式で符号化された圧縮画像として,例えば,後段の図示せぬ記録装置や伝送路などの復号側に出力する。
【0015】
また,量子化部15より出力された,量子化された変換係数は,逆量子化部18にも入力され,逆量子化された後,さらに逆直交変換部19において逆直交変換される。逆直交変換された出力は演算部20により予測画像選択部26から供給される予測画像と加算されて,局部的に復号された画像となる。デブロックフィルタ21は,復号された画像のブロック歪を除去した後,フレームメモリ22に供給し,蓄積させる。フレームメモリ22には,デブロックフィルタ21によりデブロックフィルタ処理される前の画像も供給され,蓄積される。

ii.
【0129】
[デブロックフィルタ]
次にデブロックフィルタについて説明する。デブロックフィルタ21は,動き補償ループ内に含まれ,復号画像におけるブロック歪を除去する。これにより,動き補償処理により参照される画像へのブロック歪の伝播が抑制される。
【0130】
デブロックフィルタの処理としては,符号化データに含まれる,Picture Parameter Set RBSP(Raw Byte Sequence Payload)に含まれるdeblocking_filter_control_present_flag,及び,スライスヘッダ(Slice Header)に含まれるdisable_deblocking_filter_idcという2つのパラメータによって,以下の(a)乃至(c)の3通りの方法が選択可能である。
【0131】
(a)ブロック境界,及びマクロブロック境界に施す
(b)マクロブロック境界にのみ施す
(c)施さない
【0132】
量子化パラメータQPについては,以下の処理を輝度信号に対して適用する場合は,QPYを,色差信号に対して適用する場合はQPCを用いる。また,動きベクトル符号化,イントラ予測,エントロピー符号化(CAVLC/CABAC)においては,異なるスライスに属する画素値は"not available"として処理するが,デブロックフィルタ処理においては,異なるスライスに属する画素値でも,同一のピクチャに属する場合は"available"であるとして処理を行う。
【0133】
以下においては,図9に示されるように,デブロックフィルタ処理前の画素値をp0?p3,q0?q3とし,処理後の画素値をp0'?p3',q0'?q3'とする。
【0134】
まず,デブロックフィルタ処理に先立ち,図9におけるp及びqに対して,図10に示される表のように,Bs(Boundary Strength)が定義される。
【0135】
図9における(p2,p1,p0,q0,q1,q2)は,以下の式(57)および式(58)により示される条件が成立する場合のみ,デブロックフィルタ処理が施される。
【0136】
Bs > 0 ・・・(57)
|p0-q0| < α; |p1-p0| < β; |q1-10| < β ・・・(58)
【0137】
式(58)のαおよびβは,デフォルトでは以下のようにQPに応じてその値が定められているが,符号化データの,スライスヘッダに含まれる,slice_alpha_c0_offset_div2及びslice_beta_offset_div2という2つのパラメータによって,図11に示されるグラフの矢印のように,ユーザがその強度を調整することが可能である。
【0138】
図12に示される表のように,αはindexAから求められる。同様に,βはindexBから求められる。このindexAおよびindexBは,以下の式(59)乃至式(61)のように定義される。
【0139】
qP_(aν)=(qP_(p)+qP_(q)+1)>>1 ・・・(59)
indexA=Clip3(0,51,qP_(aν)+FilterOffsetA) ・・・(60)
indexB=Clip3(0,51,qP_(aν)+FilterOffsetB) ・・・(61)
【0140】
式(60)および式(61)において,FilterOffsetA及びFilterOffsetBが,ユーザによる調整分に相当する。

iii.
【図11】

【図12】


(イ)引用発明1
上記i.?iii.の記載及びこの分野における技術常識を考慮して,引用文献1に開示された発明(以下,「引用発明1」という。)を認定する。

(i)上記i.の段落0006には,圧縮画像を出力する画像符号化装置について開示されている。
よって,引用文献1には,『画像符号化装置が,画像を符号化すること』が開示されているといえる。

(ii)上記i.の段落0009には,直交変換部が,画像に対して直交変換を行い,変換係数を出力することが開示されている。なお,画像の符号化を行う技術において,ブロック単位に符号化を行うことは,通常行われることである。
よって,引用文献1には,『画像のブロックに変換を適用して,変換係数のブロックを出力すること』が開示されているといえる。

(iii)上記i.の段落0009には,量子化部が,直交変換部の出力を量子化することが開示されている。なお,画像の符号化を行う技術において,量子化を行うときに,量子化パラメータを用いて量子化を行うことは,通常行われることである。
よって,引用文献1には,『量子化パラメータを適用して,変換係数のブロックを量子化すること』が開示されているといえる。

(iv)上記i.の段落0010?0014には,量子化部の出力について可逆符号化部で可逆符号化されること,及び,可逆符号化されたデータは伝送路などの復号側に圧縮画像として出力されることが開示されている。
よって,引用文献1には,『量子化された変換係数のブロックについて伝送路などの復号側に圧縮画像として出力するための画像のブロックの可逆符号化されたデータを生成すること』が開示されているといえる。

(v)上記i.の段落0015には,量子化部の出力を逆量子化及び逆直交変換して復号された画像を生成することが開示されている。
よって,引用文献1には,『量子化された変換係数のブロックから復号された画像のブロックを生成すること』が開示されているといえる。

(vi)上記ii.の段落0135?0140及び上記iii.の図11,図12には,βに関するオフセットであるslice_beta_offset_div2によってβが調整されること,調整されたβを含む特定の条件が満たされるときにデブロックフィルタ処理が行われること及びslice_beta_offset_div2によってβを調整することによりデブロックフィルタの強度が調整されることが開示されている。
また,上記ii.の段落0132には,輝度信号についてデブロックフィルタ処理を行うことが開示されている。
よって,引用文献1には,『復号された画像のブロックにデブロックフィルタ処理を行うかどうかを決定すること,及びデブロックフィルタ強度を決定することの両方のために使われるslice_beta_offset_div2を備え,デブロックフィルタ処理は輝度信号に対して行われるものである』ことが開示されているといえる。

(vii)上記(vi)で言及したように,slice_beta_offset_div2によって調整されたβを用いてデブロックフィルタ処理が行われるのであるから,slice_beta_offset_div2に基づいてデブロックフィルタ処理が行われているといえる。
また,上記i.の段落0015に記載されているように,デブロックフィルタ処理は,復号された画像のブロックに対して行われる。
よって,引用文献1には,『slice_beta_offset_div2に基づいて,復号された画像のブロックに対してデブロックフィルタ処理を行うこと』が開示されているといえる。

(viii)
上記ii.の段落0130?0131には,Picture Parameter Setに含まれるdeblocking_filter_control_present_flagを用いることが開示されている。
よって,引用文献1には,『Picture Parameter Setにdeblocking_filter_control_present_flagを規定すること』が開示されているといえる。

(ix)
上記ii.の段落0137には,スライスヘッダにslice_beta_offset_div2が含まれていることが開示されている。
よって,引用文献1には,『slice_beta_offset_div2を,スライスヘッダのシンタックス要素として規定すること』が開示されているといえる。

以上より,引用発明1を方法の発明として認定すると,引用発明1は,以下のとおりである。なお,説明のために当審にて,aないしjの記号を付与した。以下,「構成a」,「構成j」などと称することにする。

(引用発明1)
a 画像符号化装置が,画像を符号化する方法であって,
b 画像のブロックに変換を適用して,変換係数のブロックを出力することと,
c 量子化パラメータを適用して,変換係数のブロックを量子化することと,
d 量子化された変換係数のブロックについて伝送路などの復号側に圧縮画像として出力するための画像のブロックの可逆符号化されたデータを生成することと,
e 量子化された変換係数のブロックから復号された画像のブロックを生成することと,
f 復号された画像のブロックにデブロックフィルタ処理を行うかどうかを決定すること,及びデブロックフィルタ強度を決定することの両方のために使われるslice_beta_offset_div2を備え,デブロックフィルタ処理は輝度信号に対して行われるものである,
g slice_beta_offset_div2に基づいて,復号された画像のブロックに対してデブロックフィルタ処理を行うことと,
h Picture Parameter Setにdeblocking_filter_control_present_flagを規定することと,
i slice_beta_offset_div2を,スライスヘッダのシンタックス要素として規定することと,
j を備える,方法。

イ.引用文献2の記載事項及び引用文献2に開示された技術事項
(ア)引用文献2の記載事項
原審の拒絶の理由に引用文献2として引用された"CE4: Improvement on efficiency of high-level syntax in adaptive ROI conditions"には,以下の事項が記載されている。なお,強調のために当審にて◎を付与した。



」(第4頁?第7頁)


(イ)引用文献2に開示された技術事項
上記(ア)の記載及びこの分野における技術常識を考慮して,引用文献2に開示された技術事項を認定する。

上記(ア)のTable 1には,picture parameter setのシンタックスにおいて,deblocking_filter_control_present_flagがシンタックス要素として規定されることが記載されている。
また,上記(ア)のTable 2には,スライスヘッダのシンタックスにおいて,deblocking_filter_control_present_flagが0でない場合に,disable_deblocking_filter_idcがシンタックス要素として規定され,disable_deblocking_filter_idcが1でない場合に,slice_beta_offset_div2がシンタックス要素として規定されることが記載されている。
deblocking_filter_control_present_flagによって,スライスヘッダにdisable_deblocking_filter_idcがシンタックス要素として規定されるかどうかが定まり,さらに,disable_deblocking_filter_idcによって,スライスヘッダにslice_beta_offset_div2がシンタックス要素として規定されることが記載されているから,結果として,deblocking_filter_control_present_flagによって,スライスヘッダにslice_beta_offset_div2がシンタックス要素として規定されるかどうかが示されているといえる。
よって,引用文献2には,「ピクチャパラメータセットのdeblocking_filter_control_present_flagによって,スライスヘッダにslice_beta_offset_div2が規定されるかどうかが示されること」という技術事項が開示されている。

ウ.引用文献7の記載事項及び引用文献7に開示された技術事項
(ア)引用文献7の記載事項
原審の拒絶の理由に引用文献7として引用された「インプレス標準教科書シリーズ 改訂三版H.264/AVC教科書」には,以下の事項が記載されている。なお,強調のために当審にて◎を付与した。




(第328頁?第330頁)

(イ)引用文献7に開示された技術事項
上記(ア)の記載及びこの分野における技術常識を考慮して,引用文献7に開示された技術事項を認定する。

上記(ア)の表14-3には,ピクチャ・パラメータ・セットのdeblocking_filter_control_present_flagの値が1の場合,デブロッキング・フィルタの特性を変更するパラメータが伝送されることが記載されている。
また,上記(ア)の表14-5には,スライスヘッダのslice_beta_offset_div2の値がデブロッキング・フィルタの強度パラメータであることが記載されている。
デブロッキング・フィルタの強度パラメータであるslice_beta_offset_div2は,デブロッキング・フィルタの特性を変更するものであるから,deblocking_filter_control_present_flagによって,slice_beta_offset_div2が伝送されるか否かが定められている。そして,伝送する必要のないパラメータについて規定しないことは,画像を符号化する分野における技術常識である。

よって,引用文献7には,「ピクチャパラメータセットのdeblocking_filter_control_present_flagによって,スライスヘッダにslice_beta_offset_div2が規定されるかどうかが示されること」という技術事項が開示されている。

(4)対比
補正発明’と引用発明1とを対比する。

ア.補正発明’の構成A,Jと引用発明1の構成a,jとの対比
構成a,jの「画像符号化装置」,「画像を符号化する方法」は,明らかに,構成A,Jの「ビデオエンコーダ」,「ビデオデータを符号化する方法」と一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「ビデオエンコーダがビデオデータを符号化する方法」の点で,一致する。

イ.補正発明’の構成Bと引用発明1の構成bとの対比
構成bの「画像のブロック」,「変換」,「変換係数のブロック」は,明らかに,構成Bの「ビデオデータのブロック」,「変換」,「変換係数ブロック」と一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「前記ビデオデータのブロックに変換を適用して,変換係数ブロックを生成すること」の点で,一致する。

ウ.補正発明’の構成Cと引用発明1の構成cとの対比
構成cの「量子化パラメータ」,「変換係数のブロック」,「量子化」は,明らかに,構成Cの「量子化パラメータ」,「変換係数ブロック」,「量子化」と一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「量子化パラメータを適用して,前記変換係数ブロックを量子化すること」の点で,一致する。

エ.補正発明’の構成Dと引用発明1の構成dとの対比
構成dの「量子化された変換係数のブロック」,「伝送路などの復号側に圧縮画像として出力するための画像のブロックの可逆符号化されたデータ」は,明らかに,構成Dの「量子化された変換係数ブロック」,「ビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョン」と一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「前記量子化された変換係数ブロックに基づいてビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを生成すること」の点で,一致する。

オ.補正発明’の構成Eと引用発明1の構成eとの対比
構成eの「量子化された変換係数のブロック」,「復号された画像のブロック」,「生成」は,明らかに,構成Eの「前記量子化された変換係数ブロック」,「ビデオデータの前記ブロック」,「再構成」と一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「前記量子化された変換係数ブロックからビデオデータの前記ブロックを再構成すること」の点で,一致する。

カ.補正発明’の構成F-1,F-2’,F-4と引用発明1の構成fとの対比
構成fの「復号された画像のブロック」,「デブロックフィルタ処理」,「デブロックフィルタ強度」,「輝度信号」は,明らかに,構成F-1,F-4の「ビデオデータの再構成された前記ブロック」,「デブロッキングフィルタリング」,「デブロッキングフィルタリング強度」,「ルーマアスペクト」に一致する。

ここで,構成F-1は,「デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方」とするものであるから,「デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること」及び「デブロッキングフィルタリング強度を決定すること」の両方を構成とするものを含む。
そして,構成fの「slice_beta_offset_div2」は,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるものであるから,構成F-1,F-4の「少なくとも1つのオフセット」に一致する。
また,構成fにおけるデブロックフィルタ処理は,輝度信号に対して行われるものであるから,構成fの「slice_beta_offset_div2」は,ルーマアスペクトについて使われるオフセットであるといえ,さらに,βに関するオフセットである点で,構成F-2’,F-4の「βオフセット」と一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「ビデオデータの再構成された前記ブロックにデブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われる少なくとも1つのオフセットを決定することと,少なくとも1つのオフセットは,βオフセットを備え,前記βオフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトについて,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるオフセットを備える」点で,一致する。

キ.補正発明’の構成Gと引用発明1の構成gとの対比
構成gの「slice_beta_offset_div2」,「復号された画像のブロック」,「デブロックフィルタ処理」は,明らかに,構成Gの「決定された前記少なくとも1つのオフセット」,「ビデオデータの再構成された前記ブロック」,「デブロッキングフィルタリング」と一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「決定された前記少なくとも1つのオフセットに基づいて,ビデオデータの再構成された前記ブロックに対してデブロッキングフィルタリングを実施すること」の点で,一致する。

ク.補正発明’の構成Hと引用発明1の構成hとの対比
構成hの「Picture Parameter Set」,「deblocking_filter_control_present_flag」は,明らかに,構成Hの「前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)」,「フラグ」に一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定する」点で,共通する。
しかし,PPSの「フラグ」が示すものに関し,補正発明’の「フラグ」は,「前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す」のに対し,引用発明1の「deblocking_filter_control_present_flag」は,どのようなものを示しているのかが明確でない点で,相違する。

ケ.補正発明’の構成Iと引用発明1の構成iとの対比
構成Iは,「ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定」するものであるから,「ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ」の一方のみに規定されることを構成とするものを含む。
そして,構成iの「slice_beta_offset_div2」は,「スライスヘッダ」にシンタックス要素として規定されるのであるから,「slice_beta_offset_div2」,「スライスヘッダ」は,構成Iの「少なくとも1つのオフセット」,「ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記ヘッダ」に一致する。

したがって,補正発明’と引用発明1とは,「前記少なくとも1つのオフセットを,ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定することと」の点で,一致する。

コ.小括
上記ア.?ケ.に検討したとおり,補正発明’と引用発明1とは,以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
ビデオエンコーダがビデオデータを符号化する方法であって,
前記ビデオデータのブロックに変換を適用して,変換係数ブロックを生成することと,
量子化パラメータを適用して,前記変換係数ブロックを量子化することと,
前記量子化された変換係数ブロックに基づいてビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを生成することと,
前記量子化された変換係数ブロックからビデオデータの前記ブロックを再構成することと,
ビデオデータの再構成された前記ブロックにデブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われる少なくとも1つのオフセットを決定することと,少なくとも1つのオフセットは,βオフセットを備え,前記βオフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトについて,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,及びデブロッキングフィルタリング強度を決定することの両方のために使われるオフセットを備える,
決定された前記少なくとも1つのオフセットに基づいて,ビデオデータの再構成された前記ブロックに対してデブロッキングフィルタリングを実施することと,
前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,
前記少なくとも1つのオフセットを,ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定することと,
を備える,方法。

(相違点)
PPSの「フラグ」が示すものに関し,補正発明’の「フラグ」は,「前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す」のに対し,引用発明1の「deblocking_filter_control_present_flag」は,どのようなものを示しているのかが明確でない点。

(5)判断
補正発明’の構成Hは,フラグが示すものに関し,「前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す」ものであるから,「前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダの一方のみに1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す」ものを構成とするものを含む。
ここで,「deblocking_filter_control_present_flagによって,スライスヘッダにslice_beta_offset_div2が規定されるかどうかが示される」技術は,上記「(3)イ.(イ)」で示した引用文献2,及び,「(3)ウ.(イ)」で示した引用文献7に開示されているように,本件出願前において,周知な技術である。
よって,引用発明1に引用文献2又は引用文献7に開示された周知技術を適用して,「deblocking_filter_control_present_flag」が示すものを,「slice_beta_offset_div2が,スライスヘッダにシンタックス要素として規定されるかどうかを示す」ものとすることで,相違点に係る構成のようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

(6)小括
以上より,補正発明’は,引用発明1並びに引用文献2又は引用文献7に開示された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして,上記のとおり,補正発明は,補正発明’を含むものであるから,補正発明は,補正発明’と同様に,引用発明1並びに引用文献2又は引用文献7に開示された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである
よって,補正発明は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反してなされたものであるから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明
1.本件発明
平成28年5月18日の手続補正は,上記「第2」において決定したようにしたように却下されたので,本件出願の請求項に係る発明は,平成27年12月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし79に記載された事項により特定されるものである。そして,そのうちの請求項1の記載は,以下のとおりである。

【請求項1】
ビデオエンコーダがビデオデータを符号化する方法であって,
前記ビデオデータのブロックに変換を適用して,変換係数ブロックを生成することと,
量子化パラメータを適用して,前記変換係数ブロックを量子化することと,
前記量子化された変換係数ブロックに基づいてビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを生成することと,
前記量子化された変換係数ブロックからビデオデータの前記ブロックを再構成することと,
ビデオデータの再構成された前記ブロックにデブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われる少なくとも1つのオフセットを決定することと,少なくとも1つのオフセットは,t_(c)オフセット及びβオフセットのうちの1つ以上を備え,前記t_(c)オフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトとクロマアスペクトの両方について,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われるオフセットを備え,前記βオフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトについて,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われるオフセットを備える,
決定された前記少なくとも1つのオフセットに基づいて,ビデオデータの再構成された前記ブロックに対してデブロッキングフィルタリングを実施することと,
前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,前記PPSは前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す,
前記少なくとも1つのオフセットを,ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定することと,を備える,方法。

ここで,請求項1には,「前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,前記PPSは前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す」と記載されている(説明のため,当審にて下線を付与した。)。
しかし,上記「第2 2.(1)」で言及したように,発明の詳細な説明の段落0051の記載をみれば,下線部の「PPS」は,「フラグ」の誤記であることは明らかである。
このため,下線部以降の記載はフラグに関する記載であるものとして,請求項1に係る発明(以下,「本件発明」という。)を認定する。

よって,本件発明は,以下のとおりである。なお,上記のフラグに関する誤記に対応する箇所について,当審にて下線を付与した。

(本件発明)
ビデオエンコーダがビデオデータを符号化する方法であって,
前記ビデオデータのブロックに変換を適用して,変換係数ブロックを生成することと,
量子化パラメータを適用して,前記変換係数ブロックを量子化することと,
前記量子化された変換係数ブロックに基づいてビデオビットストリームのためのビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを生成することと,
前記量子化された変換係数ブロックからビデオデータの前記ブロックを再構成することと,
ビデオデータの再構成された前記ブロックにデブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われる少なくとも1つのオフセットを決定することと,少なくとも1つのオフセットは,t_(c)オフセット及びβオフセットのうちの1つ以上を備え,前記t_(c)オフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトとクロマアスペクトの両方について,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われるオフセットを備え,前記βオフセットが,ビデオデータの再構成された前記ブロックのルーマアスペクトについて,デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること,又はデブロッキングフィルタリング強度を決定することの一方又は両方のために使われるオフセットを備える,
決定された前記少なくとも1つのオフセットに基づいて,ビデオデータの再構成された前記ブロックに対してデブロッキングフィルタリングを実施することと,
前記ビデオビットストリームのピクチャパラメータセット(PPS)にフラグを規定することと,前記フラグは前記少なくとも1つのオフセットが,ビデオデータの前記ブロックの符号化バージョンを含む単独で復号可能な単位のヘッダ及び前記PPSの一方又は両方に少なくとも1つのシンタックス要素として規定されるかどうかを示す,
前記少なくとも1つのオフセットを,ビデオデータの前記ブロックの前記符号化バージョンを含む前記単独で復号可能な単位の前記PPS及び前記ヘッダの一方又は両方の中の少なくとも1つのシンタックス要素として規定することと,を備える,方法。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1,2,7の記載事項は,上記「第2 2.(3)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本件発明は,上記「第2 2.(1)」で検討した補正発明から,「t_(c)オフセット」及び「βオフセット」について,「デブロッキングフィルタリングを実施するかどうかを決定すること」及び「デブロッキングフィルタリング強度を決定すること」の「一方又は両方」に使われるとしていたものを,「両方」に使われるとするものに限定する限定事項を削除したものである。
そうすると,本件発明の発明特定事項を全て含み,さらにこれを限定した発明である補正発明が,上記「第2 2.(5)」に記載したとおり,引用発明1並びに引用文献2又は引用文献7に開示された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明も,同様の理由により,引用発明1並びに引用文献2又は引用文献7に開示された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本件発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-07-25 
結審通知日 2017-08-01 
審決日 2017-08-15 
出願番号 特願2014-534788(P2014-534788)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
P 1 8・ 575- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保 光宏  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 冨田 高史
篠原 功一
発明の名称 変換依存デブロッキングフィルタリングの実施  
代理人 岡田 貴志  
代理人 井関 守三  
代理人 福原 淑弘  
代理人 蔵田 昌俊  

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