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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
管理番号 1336042
審判番号 不服2016-4402  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-24 
確定日 2018-01-04 
事件の表示 特願2014-100058「金属結晶含有のアルギン酸モノマー、金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー及び金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日出願公開、特開2014-224258〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成26年5月14日(パリ条約の例による優先権主張2013年5月14日台湾(TW)、2014年4月25日台湾(TW))の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。
平成27年 1月 7日付け 拒絶理由通知
平成27年 5月11日 意見書提出・手続補正・物件提出
平成27年11月16日付け 拒絶査定
平成28年 3月24日 審判請求・手続補正
平成28年 5月10日 手続補正(方式)
平成29年 2月 6日付け 拒絶理由通知
平成29年 5月 8日 意見書提出

第2 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成28年3月24日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1、7、12、13は次のとおりである。
「【請求項1】第1アルギン酸モノマーと、少なくとも1つの第1金属結晶とを含み、
前記第1アルギン酸モノマーは、第1ウロン酸分子と第2ウロン酸分子とが結合して構成され、前記第1ウロン酸分子の炭素鎖の2番目の炭素(C2)が第1カルボニル基に置き換わり、前記第1ウロン酸分子の炭素鎖の1番目の炭素(C1)と前記第2ウロン酸分子の炭素鎖の4番目の炭素(C4)とが第1モノマー間グリコシド結合を形成し、
前記少なくとも1つの第1金属結晶は、前記第1ウロン酸分子と前記第2ウロン酸分子との間に形成されることを特徴とする金属結晶含有のアルギン酸モノマー。」

「【請求項7】第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー又は第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを含む金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーであって、
前記第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーは、請求項1から6のいずれか1つに記載の2つの前記第1アルギン酸モノマーと、少なくとも1つの第2金属イオンと、少なくとも1つの第1金属結晶とを含み、前記2つの第1アルギン酸モノマーは逆平行状態となり、前記少なくとも1つの第2金属イオンは前記2つの第1モノマー間グリコシド結合の間に結合し及び前記少なくとも1つの第1金属結晶は前記第1アルギン酸モノマー内に形成され、あるいは
前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーは、請求項1から6のいずれか1つに記載の1つの前記第1アルギン酸モノマーと、1つの第2アルギン酸モノマーと、少なくとも1つの第2金属イオンと、少なくとも1つの第1金属結晶とを含み、前記第1アルギン酸モノマーと第2アルギン酸モノマーは逆平行状態となり、前記第2アルギン酸モノマーは、第3ウロン酸分子と、第4ウロン酸分子と、第2モノマー間グリコシド結合とを含み、前記少なくとも1つの第2金属イオンは前記第1モノマー間グリコシド結合と前記第2モノマー間グリコシド結合との間に結合し、前記少なくとも1つの第1金属結晶は前記第1アルギン酸モノマー内に形成されることを特徴とする金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー。」

「請求項12】複数の請求項1に記載の金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと、少なくとも1つの第2アルギン酸高分子とを含む金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルであって、
前記第2アルギン酸高分子は、複数の第2アルギン酸モノマーが重合してなるものであり、
前記請求項1から6のいずれか1つに記載の複数の金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと前記第2アルギン酸高分子は、複数の第2金属イオンを通して、交互に結合し請求項7から11のいずれか1つに記載の第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーと第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成し、
前記金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルにおいて、前記第2アルギン酸高分子は、前記複数の第2金属イオンを通して、複数の第1金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと結合し複数の前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成し、
各前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの前記第1金属結晶には、前記第1金属結晶を中心として複数の第1型金属結晶含有のアルギン酸モノマーが凝集し、さらに複数の前記第1金属結晶と前記第2金属イオンとによって複数の前記第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー及び複数の前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーが反覆架橋することにより、網状アルギン酸塩ヒドロゲルを形成し、前記第1金属結晶が前記アルギン酸塩ヒドロゲル内に安定に形成されることを特徴とする金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル。」

「【請求項13】金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法であって、
少なくとも1つの第1アルギン酸高分子を含む第1溶液を提供する工程と、
前記第1アルギン酸高分子を加水分解・酸化することにより、請求項1から6のいずれか1つに記載の複数の第1アルギン酸モノマーを形成する工程と、
複数の第1金属イオンを前記第1溶液に加え、かつ前記複数の第1金属イオンを還元させることにより、前記複数の第1アルギン酸モノマー内に複数の第1金属結晶を形成する工程と、
少なくとも1つの第2アルギン酸高分子と複数の第2金属イオンとを前記第1溶液に加える工程と、
前記複数の第1金属結晶を含む前記複数の第1アルギン酸モノマーと、前記第2アルギン酸高分子と、前記複数の第2金属イオンとを反応させることにより、請求項12に記載の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを形成する工程と、を含むことを特徴とする金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法。」(以下、請求項1、7、12、13に係る発明を「本願発明1」、「本願発明7」、「本願発明12」、「本願発明13」といい、これらを併せて「本願発明」ということがある。)

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、理由1?3からなる。
その理由2の概要は、この出願は、請求項1?20に係る発明に関し、発明の詳細な説明の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない、というものである。
その理由3の概要は、この出願は、請求項1?20に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない、というものである。

第4 当審の判断

当審は、当審が通知した拒絶の理由のとおり、この出願は、請求項1、7、12、13に係る発明に関し、発明の詳細な説明が、当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。
また、同じく、この出願は、請求項1、7、12、13に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 理由2(特許法第36条第4項第1号)について

(1)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」とし、その第1号で、「経済産業省令の定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。特許法第36条第4項第1号は、明細書のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び当業者の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造することができ、かつ、使用できなければならないと解される。
また、物の製造方法の発明では、その物を製造すること、その方法により生産した物の使用について、具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載がない場合には、明細書及び図面の記載及び当業者の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を製造すること、その方法により生産した物の使用ができる程度にその発明が記載されてなければならないと解される。
したがって、以下、この観点に立って、本願発明の実施可能要件について検討する。

(2)発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

ア「【0003】・・・【発明が解決しようとする課題】
【0004】本発明は、低濃度の銀結晶を含み、高抗菌力をもち、かつ銀結晶及び/又は銀イオンを安定に放出できるアルギン酸高分子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】本発明の1つの目的は、金属結晶含有のアルギン酸モノマーを提供することにある。本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマーは、第1アルギン酸モノマーと少なくとも1つの第1金属結晶とを含む。第1アルギン酸モノマーは、第1ウロン酸分子と第2ウロン酸分子とが結合して構成され、第1ウロン酸分子の炭素鎖の2番目の炭素(C2)に第1カルボニル基が形成され、第1ウロン酸分子の炭素鎖の1番目の炭素(C1)と第2ウロン酸分子の炭素鎖の4番目の炭素(C4)とが第1モノマー間グリコシド結合を形成する。第1金属結晶は、第1ウロン酸分子と第2ウロン酸分子との間に形成される。
【0006】本発明のもう1つの目的は、金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを提供することにある。本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーは、2種類がある。第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーは、2つの前記第1アルギン酸モノマーと、第2金属イオンと、少なくとも1つの第1金属結晶とを含み、前記2つの第1アルギン酸モノマーは、逆平行(anti-parallel)状態となり、第2金属イオンを通して形成される(図2A‐2Cに示す第1型アルギン酸塩モノマー200'参照)。また、第2金属イオンは、2つの第1モノマー間グリコシド結合の間に結合し、かつ隣接の化学結合されていない水酸基、カルボニル基及びカルボキシル基と結合する。第1金属結晶は、前記第1アルギン酸モノマーの2つのウロン酸の間に形成される。さらに、第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーは、1つの第1アルギン酸モノマーと第2アルギン酸高分子の1つの第2アルギン酸モノマーとが逆平行状態となり、第2金属イオンを通して結合され形成される(図2Dから2Eに示すアルギン酸塩モノマー200''参照)。各第2アルギン酸モノマーは、修飾されていない第2アルギン酸高分子(複数の第2アルギン酸モノマーが重合してなる長鎖高分子)であり、第3ウロン酸分子と第4ウロン酸分子とが結合してなり、そのうち、第3ウロン酸分子の炭素鎖の1番目の炭素(C1)と第4ウロン酸分子の炭素鎖の4番目の炭素(C4)とが第2モノマー間グリコシド結合を形成する。隣接する2つの第2アルギン酸モノマーの間に第2分子間グリコシド結合が形成される。第2金属イオンは、第1モノマー間グリコシド結合と第2モノマー間グリコシド結合との間に結合し、かつ隣接の化学結合されていないグリコシド結合、水酸基、カルボニル基及びカルボキシル基と結合する。第1金属結晶は、第1アルギン酸モノマーの第1ウロン酸と第2ウロン酸との間に形成される。
【0007】本発明のもう一目的は、金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを提供することにある。本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルは、複数の前記金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと、少なくとも1つの第2アルギン酸高分子とを含み、第2アルギン酸高分子は、複数の第2アルギン酸モノマーが重合してなるものであり、複数の第2金属イオンを通して、交互に結合し前記第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーと第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成し、金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルにおいて、前記少なくとも1つの第2アルギン酸高分子は、前記複数の第2金属イオンを通して、複数の第1金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと結合し複数の前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成し、各前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの前記第1金属結晶には、前記第1金属結晶を中心として複数の第1型金属結晶含有のアルギン酸モノマーが凝集し、さらに複数の前記第1金属結晶と前記第2金属イオンとによって複数の前記第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー及び複数の前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーが反覆架橋することにより、網状アルギン酸塩ヒドロゲルを形成し、前記第1金属結晶が前記アルギン酸塩ヒドロゲル内に安定に形成される。
【0008】本発明のさらにもう1つの目的は、金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法を提供することにある。本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法は、下記工程を含む。先ず、少なくとも1つの第1アルギン酸高分子を含む第1溶液を提供する。第1アルギン酸高分子に複数の前記第1アルギン酸モノマーを形成する。選択的に(1)水酸化物を含むアルカリ性加水分解・酸化剤(hydrolyzing agent)又は(2)自動酸化剤(auto-oxidant)を含む弱酸性加水分解・酸化剤を加えて第1アルギン酸高分子を加水分解・酸化することにより、複数の前記第1アルギン酸モノマーを形成する。そのうち、一部の第1アルギン酸モノマーの第1ウロン酸のC2水酸基は、酸化され第1カルボニル基に形成される。次いで、複数の第1金属イオンを第1溶液に加え、かつ還元剤を加えて第1金属イオンを還元することにより、前記第1アルギン酸高分子の前記第1アルギン酸モノマー内に複数の第1金属結晶を形成する。次いで、少なくとも1つの第2アルギン酸高分子と複数の第2金属イオンとを第1溶液に加えることにより、第1金属結晶を含む第1アルギン酸モノマーと、第2アルギン酸高分子と、第2金属イオンとを反応させ、アルギン酸塩ヒドロゲルを形成する。そのうち、アルギン酸塩ヒドロゲルは、複数の前記金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを含む。」

イ「【0009】本発明の実施例において、前記第2ウロン酸分子には、第1カルボキシル基が形成され、前記第1金属結晶は、前記第1カルボニル基と前記第1カルボキシル基との間に配置される。
【0010】本発明の実施例において、前記第2ウロン酸分子には第2カルボニル基が形成され、前記第1金属結晶は、前記第1カルボニル基と前記第2カルボニル基との間に配置される。
【0011】本発明の実施例において、前記第1ウロン酸分子、前記第2ウロン酸分子、前記第3ウロン酸分子及び前記第4ウロン酸分子は、それぞれα-L-グルロン酸及びb-D-マンヌロン酸から選択される。
【0012】本発明の実施例において、前記第1金属結晶は、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、銀(Ag)及び金(Au)から選択される。
【0013】本発明の実施例において、前記第1金属結晶の寸法は20ナノメートル以上である。
【0014】本発明の実施例において、前記第1アルギン酸高分子を加水分解・酸化することにより、複数の前記第1アルギン酸モノマーを形成する工程は、前記第1アルギン酸高分子を加水分解することにより、それぞれ少なくとも1つの水酸基を有する複数のアルギン酸モノマーを形成する工程と、一部の前記水酸基を酸化することで前記第1カルボニル基を形成することにより、前記アルギン酸モノマーを前記第1アルギン酸モノマーに形成する工程と、を含む。
【0015】本発明の実施例において、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをアルカリ性加水分解・酸化剤として又は弱酸に自動酸化剤を混合したものを弱酸性加水分解・酸化剤として選択する。
【0016】本発明の実施例において、前記自動酸化剤は、過酸化水素(hydrogen peroxide)、アスコルビン酸(ascorbate)、亜硫酸塩(sulphites)又はポリフェノール類(polyphenols)である。
【0017】本発明の実施例において、前記第1金属イオンは、鉄イオン、亜鉛イオン、銅イオン、銀イオン及び金イオンから選択される。
【0018】本発明の実施例において、前記第2金属イオンは、カルシウムイオン、銅イオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン及び亜鉛イオンから選択される。
【0019】本発明の実施例において、複数の第1金属結晶を形成する工程は、一部の第1金属イオンが第1カルボニル基に結合し、第1カルボニル基に結合している第1金属イオンと、第1カルボニル基に結合していない第1金属イオンとを還元することにより、前記第1カルボニル基に結合している複数の第1金属原子種晶と、複数の第1金属原子とを形成し及び第1金属原子が第1金属原子種晶に凝集して第1金属結晶を形成することを含む。
【0020】本発明の実施例において、前記第1金属イオンを還元する工程は、還元剤として、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH_(4);Sodium borohydride)、アスコルビン酸(Ascorbate)、澱粉(Starch)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グルコース(Glucose)又はクエン酸(Citrate)を用いる。」

ウ「【0020】・・・【発明の効果】
【0021】本発明は、カルボニル基が形成されるように、アルギン酸モノマーの分子構造を修飾するため、金属結晶をアルギン酸モノマー内及びアルギン酸塩モノマー内に安定に形成することができる。これにより、金属結晶含有のアルギン酸モノマー及び金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成することができる。本発明に係る方法により製造される金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルは、長時間にわたって金属結晶及び/又は金属イオンを安定に放出することができる。よって、本発明は、食品、紡績及び生物医学等の産業に広く応用することができる。」

エ「【0021】・・・【図面の簡単な説明】
【0022】【図1】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマーの部分構造を示す図である。
【図1A】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマーの分子構造の一例を示す図である。
【図1B】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマーの分子構造のもう一例を示す図である。
【図1C】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマーの分子構造のされにもう一例を示す図である。
【図2】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの部分構造を示す図である。
【図2A】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの第1型の分子構造の一例を示す図である。
【図2B】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの第1型の分子構造のもう一例を示す図である。
【図2C】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの第1型の分子構造のさらにもう一例を示す図である。
【図2D】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの第2型の分子構造の一例を示す図である。
【図2E】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの第2型の分子構造のもう一例を示す図である。
【図3】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの部分構造を示す図である。
・・・・・
【0024】図1は、本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマー100の部分構造を示す図である。金属結晶含有のアルギン酸モノマー100は、第1アルギン酸モノマー10と第1金属結晶14とを含む。第1アルギン酸モノマー10は、第1ウロン酸分子11と第2ウロン酸分子12とが結合して構成される。説明の便宜のために、図1は、第1ウロン酸分子11及び第2ウロン酸分子12の炭素鎖の1番目から4番目の炭素(C1‐C4と表記)のみを示す。そのうち、第1ウロン酸分子11のC2には、第1カルボニル基112が形成され、第1ウロン酸分子11のC1と第2ウロン酸分子12のC4とが第1モノマー間グリコシド結合13を形成する。少なくとも1つの第1金属結晶14は第1ウロン酸分子11と第2ウロン酸分子12との間に形成される(図1に示す実線矢印参照)。
【0025】さらに、第1ウロン酸分子11及び第2ウロン酸分子12は、それぞれα-L-グルロン酸(α-L-guluronate)及びb-D-マンヌロン酸(β-D-mannuronate)から選択される。第1アルギン酸モノマー10は、第1ウロン酸分子11及び第2ウロン酸分子12により、G‐G、G‐M又はM‐Mの結合で形成される。図1A‐1Cは、それぞれ金属結晶含有のアルギン酸モノマー100の異なる分子構造を示す。図1A‐1Cに示すように、第1ウロン酸分子11及び第2ウロン酸分子12の炭素鎖の6番目の炭素(C6)にはカルボキシル基が形成される。また、前記カルボキシル基の2つの酸素原子間の破線は、自由価電子の2つの酸素原子間における共鳴状態を示す。
【0026】図1Aは、第1ウロン酸分子11及び第2ウロン酸分子12がすべてα-L-グルロン酸である場合を示す。即ち、第1アルギン酸モノマー10の分子構造は、G‐Gの組合せである。第1ウロン酸分子11のC2には、第1カルボニル基(C2=O)112が形成され、第2ウロン酸分子12の炭素鎖の6番目の炭素(C6と表記)には、第1カルボキシル基126が存在する。図1Aに示すように、第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図1Aに示す実線矢印参照)。
【0027】図1Bは、第1ウロン酸分子11がα-L-グルロン酸であり、第2ウロン酸分子12がb-D-マンヌロン酸である場合を示す。即ち、第1アルギン酸モノマー10の分子構造は、G‐Mの組合せである。第2ウロン酸分子12のC6には、第1カルボキシル基126が存在し、第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図1Bに示す実線矢印参照)。
【0028】次に、図1Cは、第1ウロン酸分子11及び第2ウロン酸分子12がb-D-マンヌロン酸である場合を示す。即ち、第1アルギン酸モノマー10の分子構造は、M‐Mの組合せである。図1Cに示すように、第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図1Cに示す実線矢印参照)。」

オ「【0029】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマー100は、例えば、下記方法により形成することが可能である。すなわち、先ず、少なくとも1つの第1アルギン酸高分子を含む第1溶液を提供する。前記第1アルギン酸高分子としては、天然褐藻から抽出されたアルギン酸ナトリウム(sodium alginate)により構成される市販品を用いることができる。第1アルギン酸高分子は、複数のアルギン酸モノマーが複数の第1分子間グリコシド結合により重合されてなる。各アルギン酸モノマーは、G‐G、G‐M又はM‐Mの結合の混合であってよい。本実施例において、第1溶液中の第1アルギン酸高分子の含量は、約2‐12%(w/v)であり、第1アルギン酸高分子に含まれるM/G比の範囲は、約17‐56%である。注意すべきは、この工程では、アルギン酸モノマーの分子構造における第1ウロン酸分子及び第2ウロン酸分子、即ち、α-L-グルロン酸(G)又はb-D-マンヌロン酸(M)は、C2及びC3にすべて水酸基(C-OH)が形成される。
【0030】次いで、第1アルギン酸高分子を加水分解・酸化することにより、第1アルギン酸高分子中のアルギン酸モノマーが加水分解され複数の図1A‐1Cに示す第1アルギン酸モノマー10を形成する。そのうち、第1アルギン酸モノマー10は、少なくとも第1ウロン酸分子11(G又はM)のC2上の水酸基が酸化され、第1カルボニル基112が形成される。加水分解により第1アルギン酸モノマー10を形成し、かつその水酸基を酸化し第1カルボニル基112を形成する工程は、下記の工程(1)又は工程(2)による。
(1)第1アルギン酸高分子に対して15‐25%重量比の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをアルカリ性加水分解・酸化剤として用いる、又は
(2)第1アルギン酸高分子に対して0.1‐3%重量比の自動酸化剤(auto-oxidant)を弱酸に混合したものを、弱酸性加水分解・酸化剤として用いる。前記自動酸化剤は、過酸化水素(hydrogen peroxide)、アスコルビン酸(ascorbate)、亜硫酸塩(sulphites)又はポリフェノール類を用いる。さらに、選択的に補助剤として0.1‐1mMの第1金属粒子溶液を第1溶液に加えることができる。前記第1金属粒子としては、市販の金属粒子あるいは電気化学的に還元された金属粒子などを用いることができる。第1金属粒子は、自動酸化剤と共役酸化還元剤を形成することができる。言及に値することは、第1金属粒子は本発明に係る第1金属結晶と同じく複数の第1金属原子凝集(agglomeration)から由来されるが、前記第1金属結晶は、すでに複数の修飾されたアルギン酸モノマーと安定した構造を形成するため、ここでは補助剤として作用しない。
【0031】次いで、第1溶液に第1金属イオンを加える。前記第1金属イオンは、好ましくはXI族遷移金属元素、例えば銅(Cu)、銀(Ag)及び金(Au)から選択される。第1溶液に加える第1金属イオンの濃度は、好ましくは、0.1‐3 mMである。第1金属イオンを加える方法として、前記遷移金属の化合物の溶液を用いることができる。遷移金属の化合物は、水に溶けて解離した時に正電荷をもつ第1金属イオンを形成する。第1カルボニル基の酸素原子は2対の価電子をもち、第1金属イオンは空の電子軌道を有するため、第1溶液中の第1金属イオンは第1カルボニル基に吸着され、その酸素原子にリガンド結合される。本実施例においては、弱酸と過酸化水素を混合したものを加水分解・酸化剤とすると共に、電気化学的に還元された銀粒子を酸化還元補助剤とし、かつ硝酸銀(silver nitrate、AgNO_(3))及び/又は炭酸銀(silver carbonate、Ag_(2)CO_(3))を第1金属イオン溶液とした。弱酸により第1溶液をpH4.5‐6.5に調節し、55‐130℃の温度で約0.5‐3時間反応させた。これにより、第1アルギン酸高分子を加水分解することにより複数の第1アルギン酸モノマーが形成され、かつ一部の第1アルギン酸モノマーの第1ウロン酸の水酸基が酸化され第1カルボニル基112が形成される。銀イオンが共存する条件下では、第1溶液中の一部の銀イオンが第1カルボニル基112に安定に結合できる。本実施例において、最終産物は前記第1アルギン酸モノマーに限らず、グリセリン酸(glycerate)又はピルビン酸(pyruvate)を生成されることも可能である。それらの生成は一部のb-D-マンヌロン酸が加水分解かつ酸化されるためである。加水分解の程度は、加える自動酸化剤の割合による。また、ここで加える銀粒子は、最終的に全部酸化され銀イオンの形態で存在する。前記銀イオンは後に第1金属結晶を形成するための材料となる。
【0032】次いで、適切な反応条件下で第1溶液に還元剤を加えることにより、前記複数の第1金属イオンの前記第1カルボニル基に第1金属結晶を形成させる。詳しくは、還元剤及び/又は第1アルギン酸モノマーのカルボキシル基(G又はMのC6カルボキシル基)の安定した協同作用により、第1カルボニル基112に結合している第1金属イオンは還元されると、結合型第1金属原子種晶になる。一方、第1カルボニル基に結合していない第1金属イオンは還元されると、遊離した第1金属原子になる。前記反応は、第1アルギン酸モノマーのウロン酸の酸化されなかった一部の二級の水酸基(ウロン酸のC2又はC3のいずれか)がカルボニル基、例えば、一部の第1カルボニル基112及び第2カルボニル基に酸化されることが伴う。ここで補足説明するが、前記第2カルボニル基は、第2ウロン酸のC3水酸基が酸化され形成されたC3カルボニル基であり、このC3カルボニル基も同じく第1金属結晶を第1カルボニル基112に協同安定させることができるが、第2ウロン酸にC3カルボニル基が形成される比率は、C2カルボニル基よりはるかに低いため、ここでは図示しない。遊離した第1金属原子は、第1カルボニル基112に結合している結合型第1金属原子種晶と自然に凝集し(co-aggregate)、第1金属結晶を形成し、第1アルギン酸モノマー内に固定される。本実施例において、還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH_(4);sodium borohydride)、アスコルビン酸(Ascorbic acid)、グルコース(Glucose)、澱粉(Starch)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びクエン酸(Citrate)から選択することができる。40‐60℃の温度で第1溶液に対して5‐30%の還元剤を加え、約1‐4時間反応させることにより、第1金属イオンが第1アルギン酸モノマー10の第1カルボニル基112上に形成され、図1A‐1Cに示す第1金属結晶14含有のアルギン酸モノマー100を形成する。以上より分かるように、本発明に係る方法によれば、アルギン酸高分子中に形成される金属結晶は、修飾されたアルギン酸モノマー内に安定に結合することができる。」

カ「【0033】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸モノマーを用いて金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成することができる。説明の便宜のために、本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの各種構造について、図2は、金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200の一部の構造のみを示す。金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200は、逆平行状態である2つのアルギン酸モノマー(図2は、1つの第1アルギン酸モノマー10と1つの第2アルギン酸モノマー20との組合せを示すが、2つの第1アルギン酸モノマー10の組合せであってもよい)と、少なくとも1つの第2金属イオン24と、少なくとも1つの第1金属結晶14とを含む。各第2アルギン酸モノマー20は、第3ウロン酸分子21と第4ウロン酸分子22とからなり、第3ウロン酸分子21のC1と第4ウロン酸分子22のC4が第2モノマー間グリコシド結合23を形成する。第3ウロン酸分子21及び第4ウロン酸分子22は、それぞれα-L-グルロン酸及びb-D-マンヌロン酸から選択される。各第2アルギン酸モノマー20は、第1アルギン酸モノマー10と同様に、第3ウロン酸分子21及び第4ウロン酸分子22はG‐G、G‐M又はM‐Mの組合せである。言及びに値することは、第2アルギン酸モノマー20の分子構造において、第3ウロン酸分子21及び第4ウロン酸分子22(即ち、G又はM)のC2及びC3はすべて水酸基(C‐OH)である。図2は、複数の第2アルギン酸モノマー20が重合してなる長鎖高分子である第2アルギン酸高分子の1つの第2アルギン酸モノマー20と1つの第1金属結晶14含有の第1アルギン酸モノマー10とが、逆平行状態(anti-parallel)になって形成するアルギン酸塩モノマー200の分子構造を示す概略図である。そのなか、ウロン酸分子の炭素鎖の1番目から4番目の炭素をC1‐C4と表記する。第2金属イオン24は、第1モノマー間グリコシド結合13と第2モノマー間グリコシド結合23との間に結合し、かつ隣接の化学結合されていない水酸基、カルボニル基及びカルボキシル基と結合する。第1金属結晶14は、第1アルギン酸モノマーの第1カルボニル基112に形成される(図2に示す実線矢印参照)。
【0034】図1A‐1Cに示す3つの異なる金属結晶含有のアルギン酸モノマーにより形成する3つの異なる金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーをそれぞれ図2A‐2Cに例示する(以下、第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200'と称する)。また、図2D‐2Eは第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200''の2つの異なる分子構造を例示する。しかし、本発明は、上記実施例に限定されない。説明すべきは、図2A‐2Eに示す第1アルギン酸モノマー10及び第2アルギン酸モノマー20の炭素鎖の6番目の炭素(C6)に形成されるカルボキシル基は、その2つの酸素原子間の破線は、自由価電子の2つの酸素原子間における共鳴状態を示し、また第1アルギン酸モノマー10及び第2アルギン酸モノマー20のC2カルボニル基/水酸基、C3カルボニル基/水酸基、C6カルボキシル基は、金属イオンと安定した錯体構造を形成することができる。
【0035】図2Aに示す金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200’は、第1アルギン酸モノマー10がG‐Gの組合せである。そのうち、第1ウロン酸分子11のC2には第1カルボニル基112が形成され、また、第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図2Aに示す実線矢印参照)。もう1つの第1アルギン酸モノマー10は、同様にG‐Gの組合せである。前記2つの第1アルギン酸モノマー10は、逆平行状態となり、第2金属イオン24は、2つの第1モノマー間グリコシド結合13の間に結合する。
【0036】また、図2Bに示す金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200'は、第1アルギン酸モノマー10がG‐Mの組合せであり、そのうち、第1ウロン酸分子11のC2には第1カルボニル基112が形成され、また、第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図2Bに示す実線矢印参照)。もう1つの第1アルギン酸モノマー10は、G‐Mの組合せである。前記2つの第1アルギン酸モノマー10は、逆平行状態となり、第2金属イオン24は、2つの第1モノマー間グリコシド結合13の間に結合する。
【0037】さらに、図2Cに示す金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200'は、第1アルギン酸モノマー10がM‐Mの組合せである。そのうち、第1ウロン酸分子11のC2には第1カルボニル基112が形成され、また第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図2Cに示す実線矢印参照)。もう1つの第1アルギン酸モノマー10は、M‐Mの組合せである。前記2つの第1アルギン酸モノマー10は、逆平行状態となり、第2金属イオン24は、2つの第1モノマー間グリコシド結合13の間に結合する。図2Cに示す構造では、立体障害のため、形成される第1金属結晶14は、不安定である。
【0038】図2Dに示す金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200''は、第1アルギン酸モノマー10がG‐Gの組合せである。そのうち、第1ウロン酸分子11のC2には第1カルボニル基112が形成され、また、第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図2Dに示す実線矢印参照)。第2アルギン酸モノマー20は、G‐Gの組合せであり、修飾されていないアルギン酸高分子内のアルギン酸モノマーである。2つのアルギン酸モノマー10、20は、逆平行状態となり、第2金属イオン24は、第1モノマー間グリコシド結合13と第2モノマー間グリコシド結合23との間に結合する。
【0039】さらに、図2Eに示す金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200''は、第1アルギン酸モノマー10がG‐Mの組合せである。そのうち、第1ウロン酸分子11のC2には第1カルボニル基112が形成され、また、第1金属結晶14は、第1カルボニル基112と第1カルボキシル基126との間に配置される(図2Eに示す実線矢印参照)。第2アルギン酸モノマー20は、G‐Mの組合せであり、修飾されていないアルギン酸高分子内のアルギン酸モノマーである。2つのアルギン酸モノマー10、20は、逆平行状態となり、第2金属イオン24は、第1モノマー間グリコシド結合13と第2モノマー間グリコシド結合23との間に結合する。
【0040】次いで、図3は、本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル300の部分構造を示す図である。金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル300は、少なくとも1つの第2アルギン酸高分子を含む。前記第2アルギン酸高分子は、複数の第2アルギン酸モノマー20が重合してなるものである。前記第2アルギン酸高分子は、複数の第2金属イオン24を通して、複数の第1アルギン酸モノマー10と逆平行状態となって複数の前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成する。各第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの第1金属結晶14に、第1金属結晶14を中心として複数の前記第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーが凝集し、また前記第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー及び第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーが架橋反応により網状のヒドロゲルを形成する。」

キ「【0041】以下に本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法を詳細に説明する。前記製造方法によれば、アルギン酸塩ヒドロゲルに図2A‐2Eに示す第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー及び第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成することができる。
先ず、第1アルギン酸高分子を含む第1溶液を提供する。前記第1アルギン酸高分子を用いて複数の図1A‐1Cに示す異なる金属結晶含有のアルギン酸モノマー100を製造することができる。本実施例において、第1溶液中の第1アルギン酸高分子の含量は約2‐10%重量比である。
【0042】次いで、第2アルギン酸高分子及び第2金属イオンを第1溶液に加える。第2アルギン酸高分子は、天然褐藻から抽出されたアルギン酸ナトリウムにより構成される市販品から選択することができる。第2アルギン酸高分子は、複数の第2アルギン酸モノマーが重合してなり、その分子量は第1アルギン酸高分子の分子量より大きくてよい。各第2アルギン酸モノマーは、第3ウロン酸分子と第4ウロン酸分子とが結合してなる。前記第3ウロン酸分子及び第4ウロン酸分子は、それぞれα-L-グルロン酸(G)及びb-D-マンヌロン酸(M)から選択される。各第2アルギン酸モノマーは、第1アルギン酸モノマーと同様に、第3ウロン酸分子及び第4ウロン酸分子はG‐G、G‐M又はM‐Mの組合せである。本実施例において、第1溶液に加える第2アルギン酸高分子の含量は、約3‐15%重量比である。
次いで、第1溶液と第2アルギン酸高分子とを十分に混合する。ここでは、第1アルギン酸モノマー内の第1金属結晶を安定させるため、少量のリン酸及び/又は水酸化ナトリウム溶液を選択的に加えることにより、第1溶液のpHを約4.5‐5.5に調整することができる。
【0043】第2金属イオンは、好ましくはアルギン酸モノマーと配位結合し錯体構造を形成できる多価金属イオン、例えばカルシウムイオン(Ca^(2+))、銅イオン(Cu^(2+))、ストロンチウムイオン(Sr^(2+))、バリウムイオン(Ba^(2+))及び亜鉛イオン(Zn^(2+))から選択される。第2金属イオンとしては、上述した金属の化合物の溶液を用いることができる。アルギン酸高分子は、水に溶けて陰イオン性高分子になるため、多価の正電荷を帯びた第2金属イオンは、迅速に第1アルギン酸モノマー及び第2アルギン酸高分子のグリコシド結合又は隣接しかつ第1金属イオンと作用していない他のカルボニル基、水酸基及びカルボキシル基と配位結合し、反応することにより第1金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを形成する。そのうち、前記グリコシド結合は、第1モノマー間グリコシド結合及び第2モノマー間グリコシド結合、及び/又は第1分子間グリコシド結合及び第2分子間グリコシド結合を含む。本発明に係る方法により製造された金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルは、複数の図2A‐2Eに示す第1金属結晶14含有のアルギン酸塩モノマー200’及び200''を含む。本実施例において、第2金属イオン溶液としては、塩化カルシウム溶液を用い、第1溶液に加える第2金属イオンの濃度は、20‐45%(重量比)が好ましい。形成された銀結晶含有のアルギン酸カルシウムヒドロゲルは、直接に紡糸ノズルから吐出させることにより、銀結晶含有のアルギン酸カルシウム繊維を製造することができる。また、前記銀結晶含有のアルギン酸カルシウムヒドロゲルは、乾燥させて銀結晶含有のアルギン酸カルシウムヒドロゲル粉末にすることにより、他の状態、例えばフィルムを製造するのに用いることも可能である。本発明は、繊維やフィルムの製造方法を制限しないため、詳しい説明を省略する」

ク「【0043】・・・【産業上の利用可能性】
【0044】本発明に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法によれば、アルギン酸塩ヒドロゲル内に形成された金属結晶は、結晶寸法が20ナノメートル以上であり、50‐250ナノメートルとすることも可能であるだけでなく、特定条件下で徐々に金属原子を放出することができる。具体的に、本発明に係る第1アルギン酸モノマーの酸解離定数(pKa)の値は5より小さいため、pH値が約5.5‐6.0の弱酸性環境(人体表皮のpH値に相当)では、第1及び/又は第2アルギン酸モノマー内のカルボキシル基がプロトン化されるため、第1金属結晶から第1金属原子が徐々に放出される。例えば、本発明に係る方法により製造された銀結晶含有のアルギン酸カルシウムの被覆材は、人体の創傷部位に貼付する時、銀結晶がアルギン酸カルシウム構造内に安定に形成され、かつその寸法は50‐250ナノメートルであるため、長時間にわたって銀結晶及び/又は銀イオンを放出することができる。したがって、アルギン酸カルシウムの生体適合性及び銀原子の抗菌性により、抗アレルギー、殺菌、保護、治癒促進等の効果を奏することができる。」

ケ「























(3)判断

ア 本願発明1について
本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを製造できるように記載されているかを検討する。

(ア)発明の詳細な説明には、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーの具体的な合成実施例は記載されていない。
加えて、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーとして製造して得られるものが、アルギン酸モノマーであって第1金属結晶が第1ウロン酸分子と第2ウロン酸分子との間に形成されていることを客観的に確認し得る解析結果は示されていない。

(イ)発明の詳細な説明の段落【0029】?【0032】(前記(2)オ)には、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを製造するための実施の態様として、かなり幅のある反応条件が示された大まかな製造の流れ(工程)が記載されているのみであり、第1アルギン酸高分子(市販品)を含む第1溶液を用意し、これを加水分解・酸化するに際し、第1アルギン酸高分子を含有する第1溶液用の溶媒の種類や適用量、加水分解・酸化剤の適用量(自動酸化剤を用いる場合、自動酸化剤を混合させる弱酸の種類や適用量も)、第1溶液に第1金属イオンを加える際の第1金属イオン溶液の溶媒の種類や適用量、第1アルギン酸高分子の加水分解・酸化反応及び第1溶液に還元剤を加え第1金属結晶を形成させる反応の各反応条件(反応温度、反応時間、攪拌の有無と強度)、反応後の処理及び得られたものの単離・精製方法については、本願明細書には何ら具体的に記載されておらず、図面をみてもこれらの助けにならない。
このような発明の詳細な説明の記載では、原料の第1アルギン酸高分子(市販品)が入手できるものであったとしても、第1アルギン酸高分子(市販品)を加水分解・酸化するための、第1アルギン酸高分子を含有する第1溶液用の溶媒の種類や適用量、加水分解・酸化剤の適用量、第1金属イオン溶液の溶媒の種類や適用量を、それぞれ適切に選択し、第1アルギン酸高分子の加水分解・酸化反応及び第1溶液に還元剤を加え第1金属結晶を形成させる反応の各反応条件(反応温度、反応時間、攪拌の有無と強度)、反応後の処理、得られたものの単離・精製方法等の手順を試行錯誤により決定して、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを製造する必要があり、その製造にあたり当業者に過度の負担を強いるものである。

(ウ)したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

イ 本願発明7について
本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを製造できるように記載されているかを検討する。

(ア)発明の詳細な説明には、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの具体的な合成実施例は記載されていない。
加えて、本願発明7において金属結晶含有においてアルギン酸塩モノマーについて、
a 第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーとして、
請求項1から6のいずれか1つに記載の2つの第1アルギン酸モノマーと、少なくとも1つの第2金属イオンと、少なくとも1つの第1金属結晶とを含んでいること、
前記2つの第1アルギン酸モノマーは逆平行状態となっていること、
前記少なくとも1つの第2金属イオンは前記2つの第1モノマー間グリコシド結合の間に結合していること、及び、
前記少なくとも1つの第1金属結晶は前記第1アルギン酸モノマー内に形成されていること、あるいは
b 前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーとして、
請求項1から6のいずれか1つに記載の1つの前記第1アルギン酸モノマーと、1つの第2アルギン酸モノマーと、少なくとも1つの第2金属イオンと、少なくとも1つの第1金属結晶とを含んでいること、
前記第1アルギン酸モノマーと第2アルギン酸モノマーは逆平行状態となっていること、
前記第2アルギン酸モノマーは、第3ウロン酸分子と、第4ウロン酸分子と、第2モノマー間グリコシド結合とを含んでいること、
前記少なくとも1つの第2金属イオンは前記第1モノマー間グリコシド結合と前記第2モノマー間グリコシド結合との間に結合していること、及び、
前記少なくとも1つの第1金属結晶は前記第1アルギン酸モノマー内に形成されること、
が特定されているが、それらを客観的に確認し得る解析結果は示されていない。

(イ)発明の詳細な説明の段落【0033】?【0039】(前記(2)カ)には、金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー200の一部の分子構造、第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー3種類の分子構造(図2A?2C)(前記(2)ケ)及び第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー2種類の分子構造(図2D?2E)(前記(2)ケ)の説明が記載されているのみであり、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの製造方法については、段落【0041】?【0043】(前記(2)キ)に金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを製造するための実施の態様としてかなり幅のある反応条件が示された大まかな製造の流れ(工程)が記載されている中で、「第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー又は第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを含む金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成することができる」(【0041】)(前記(2)キ)と記載されているにとどまり、金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成させる反応条件及び形成された物の単離・精製方法については、本願明細書に何ら具体的に記載されておらず、図面をみてもこれらの助けにならない。

このような発明の詳細な説明の記載では、金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成させるための反応条件及び形成された物の単離・精製方法等の手順を試行錯誤により決定して、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを製造する必要があり、その製造にあたり当業者に過度の負担を強いるものである。

(ウ)したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明7の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

ウ 本願発明12について
本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを製造できるように記載されているかを検討する。

(ア)発明の詳細な説明には、本願発明12に係る、複数の請求項1に記載の金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと少なくとも1つの第2アルギン酸高分子とを含む金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの、具体的な合成実施例は記載されていない。
加えて、本願発明12において金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルについて、
a 前記請求項1から6のいずれか1つに記載の複数の金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと前記第2アルギン酸高分子は、複数の第2金属イオンを通して、交互に結合し請求項7から11のいずれか1つに記載の第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーと第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成していること、
b 前記第2アルギン酸高分子は、前記複数の第2金属イオンを通して、複数の第1金属結晶含有の第1アルギン酸モノマーと結合し複数の前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを形成していること、及び、
c 各前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの前記第1金属結晶には、前記第1金属結晶を中心として複数の第1型金属結晶含有のアルギン酸モノマーが凝集し、さらに複数の前記第1金属結晶と前記第2金属イオンとによって複数の前記第1型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー及び複数の前記第2型金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーが反覆架橋することにより、網状アルギン酸塩ヒドロゲルを形成し、前記第1金属結晶が前記アルギン酸塩ヒドロゲル内に安定に形成されていること、
が特定されているが、それらを客観的に確認し得る解析結果は示されていない。

(イ)本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルは、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを含むものであり、前記アで述べたとおり、発明の詳細な説明の記載は、それを当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。
さらに、発明の詳細な説明の段落【0040】及び図3(前記(2)カ、ケ)には、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル300の部分構造の説明、段落【0041】?【0043】(前記(2)キ)には、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを製造するための実施の態様としてかなり幅のある反応条件が示された大まかな製造の流れ(工程)が記載されているにとどまり、該金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを製造するための具体的な反応条件及び得られたものの単離・精製方法については、本願明細書に何ら具体的に記載されておらず、図面をみてもこれらの助けにならない。
このような発明の詳細な説明の記載では、金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを製造するための反応条件、製造されたものの単離・精製方法等の手順を試行錯誤により決定して、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを製造する必要があり、その製造にあたり当業者に過度の負担を強いるものである。

(ウ)したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明12の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

エ 本願発明13について
本願発明13の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法を実施できるように記載されているかを検討する。

(ア)本願発明13は「金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法」の発明で、実質的に本願発明12の「金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル」の特定の製造方法の発明である。

(イ)そして、前記ウで述べたように、発明の詳細な説明は、本願発明12である金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを、当業者が製造し得るように記載されているとはいえないから、実質的に本願発明12の「金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル」の特定の製造方法の発明である本願発明13についても、発明の詳細な説明は、当業者がその実施をし得るように記載されているとはいえない。

(ウ)したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成29年5月8日提出の意見書の(2)において、本願明細書に本願発明1の製造方法の実施の態様(【0029】?【0032】)(前記(2)オ)として記載された、かなり幅のある反応条件が示された大まかな製造の流れ(工程)を繰り返し説明すると共に、本願出願前に頒布された文献(文献1:Applied Catalysis B-Environmental, vol.82, (2008), p.273-283, 文献2:Biomaterials, vol.24, (2003), p.5183-5190, 文献3:Carbohydrate Polymers, vol.79, (2010), p.660-664)及び本願出願後に頒布された文献(文献4:Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,vol.339,(2015),p.106-113)を示し、本願発明1である「金属結晶含有のアルギン酸モノマー」を製造することができること、したがって、本願発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものである旨、主張している。

しかしながら、前記(3)ア(イ)で述べたように、本願明細書の段落【0029】?【0032】(前記(2)オ)に記載されているのは、本願発明1の製造方法の実施の態様として、かなり幅のある反応条件が示された大まかな製造の流れ(工程)が記載されているにとどまり、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを製造するための具体的な製造方法は記載されていない。
また、意見書で述べている本願出願前に頒布された文献を検討するに、前記文献1は「新規Cu(II)- ポリ両性電解質不均一触媒の存在下での色除去のための過酸化水素の活性化に関する研究」(標題)についての論文、また前記文献2は「インスリン放出デバイスを目指した過酸化水素によるリン脂質ポリマーヒドロゲルの分解」(標題)についての論文であり、共にアルギン酸塩の解重合については何ら記載されていない。
文献3(Carbohydrate Polymers, vol.79, (2010), p.660-664)は、「組織工学のための過酸化水素解重合による低分子量アルギン酸塩の調製」(標題)に関する論文で、H_(2)O_(2)によるアルギン酸塩解重合により得られた低分子量アルギン酸塩の分子量は12.2×10^(3)(662頁左欄表1)とかなり大きな分子量の高分子化合物である。他方、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーの場合、本願の図1を参考におおよその分子量を計算すると、本願の図1に示される金属結晶を除くアルギン酸モノマー(審決注:C3に-OHが存在するものと仮定)の分子量は366(=C12個+O13個+H14個=12×12+16×13+1×14)である。このように、文献の表1に示されている低分子量アルギン酸塩は、本願発明1に記載のアルギン酸モノマーとはかなり異なるものである。
さらに、当該文献3の662頁右欄下から4行?663頁左欄10行の記載を見ると、H_(2)O_(2)(0.6%w/v)50℃で1時間反応させて得られた低分子量アルギン酸塩(140.9kDa:これも本願発明1に記載のアルギン酸モノマーの分子量とは大きく異なるものである)は、アルギン酸塩の重要な特徴の一つであるカルシウムイオンとのイオン結合形成に影響を与えなかったが、高濃度のH_(2)O_(2)又はより長い反応時間とったより厳しい解重合条件下(より低分子に解重合させる条件)では、得られたアルギン酸はカルシウムによる架橋はできなかったことが記載されており、これは、当該文献で得られている低分子量アルギン酸塩を、さらに解重合し低分子化しても、アルギン酸塩の重要な特徴の一つであるカルシウムイオンとのイオン結合を形成したアルギン酸塩を得ることができなかったことが示されているといえる。この特徴は、本願発明1である「金属結晶含有のアルギン酸モノマー」が金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーや金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの形成する上で重要な特徴であり、本願発明1はこの特徴を有していることが必要である。
そうすると、当該文献3を検討しても、本願発明1に係る「金属結晶含有のアルギン酸モノマー」を製造することができるとはいえない。
文献4(Journal of Molecular Catalysis A: Chemical,vol.339,(2015),p.106-113)は、本願出願後の文献であるが、念のため検討すると、「大型藻類由来アルギン酸塩の触媒水熱変換」(標題)に関する論文で、アルギン酸高分子を150℃?250℃で加熱加水分解すると、加水分解後β脱離により様々な有機酸に分解されたことは記載されているものの(107頁図1、109頁表1、110頁図4、111頁表2及び図5、112頁表3及び図6)、分解物として、ウロン酸2量体で-COOHの酸化されたカルボニル基を有するものは確認されておらず、本願発明1のアルギン酸塩の特徴の一つである「第1ウロン酸分子の炭素鎖の2番目の炭素(C2)が第1カルボニル基」(金属結晶の含有に寄与する基)を有するものではないといえる。それ故、当該文献4を検討しても、本願発明1に係る「金属結晶含有のアルギン酸モノマー」を製造することができるとはいえない。
したがって、発明の詳細な説明は、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを、当業者が製造し得るように記載されているとは依然としていえず、請求人の前記主張を採用することはできない。

(5)小括
以上のとおり、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1、本願発明7、本願発明12及び本願発明13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、この出願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

2 理由3(特許法第36条第6項第1号)について

(1)はじめに
特許法第36条第6項は「・・特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)である。

(2)特許請求の範囲の記載
本願発明1?本願発明13は、前記第2に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
前記1(2)に記載したとおりである。

(4)本願発明の課題
発明の詳細な説明の【発明が解決しようとする課題】の記載(【0004】)(前記(2)ア)、【課題を解決するための手段】(【0005】?【0008】)(前記(2)ア)、【発明の効果】の記載(【0021】)(前記(2)ウ)、本願発明の製造方法についての実施の態様の記載(【0029】?【0032】、【0041】?【0043】)(前記(2)オ、キ)及び【産業上の利用可能性】の記載(【0044】)(前記(2)ク)の記載からみて、本願発明1の解決しようとする課題は、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを提供すること、本願発明7の解決しようとする課題は、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを提供すること、及び、本願発明12の解決しようとする課題は、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できる金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを提供することであると認められ、本願発明13の解決しようとする課題は、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できる金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法を提供することであると認められる。

(5)判断

ア 本願発明1について

(ア)前記1(3)アに記載したように、発明の詳細な説明には、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーの具体的な合成実施例は記載されておらず、また、発明の詳細な説明は、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。
それ故、本願発明1の金属結晶含有のアルギン酸モノマーを提供し得るとはいえない。

(イ)そうすると、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載より、当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
また、当業者の技術常識からみて、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が本願発明1の課題を解決できると認識できるものであるともいえない。

(ウ)したがって、本願発明1が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいうことができないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

イ 本願発明7について

(ア)前記1(3)イに記載したように、発明の詳細な説明には、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーの具体的な合成実施例は記載されておらず、また発明の詳細な説明は、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。
それ故、本願発明7の金属結晶含有のアルギン酸塩モノマーを提供し得るとはいえない。

(イ)そうすると、本願発明7は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載より、当業者が本願発明7の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
また、当業者の技術常識からみて、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が本願発明7の課題を解決できると認識できるものであるともいえない。

(ウ)したがって、本願発明7が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいうことができないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

ウ 本願発明12について

(ア)前記1(3)ウに記載したように、発明の詳細な説明には、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの具体的な合成実施例は記載されておらず、また、発明の詳細な説明は、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルを、当業者が製造し得るように記載されているとはいえない。

また、発明の詳細な説明には、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルが、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できることについての試験実施例も記載されていない。
加えて、発明の詳細な説明には、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルが、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できるものであることを、当業者が理解できるように記載されているとはいえない。また、そのような記載がなくとも、当業者が本願出願時の技術常識を参酌し、本願発明12の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルが、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できるものであると理解することができたとも認められない。

(イ)そうすると、本願発明12は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載より、当業者が本願発明12の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
また、当業者の技術常識からみて、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が本願発明12の課題を解決できると認識できるものであるともいえない。

(ウ)したがって、本願発明12が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいうことができないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

エ 本願発明13について

(ア)前記1(3)エに記載したように、発明の詳細な説明には、本願発明13の金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法の具体的な実施例は記載されておらず、また、発明の詳細な説明は、本願発明13に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルの製造方法を当業者が実施し得るように記載されているとはいえない。

また、前記ウ(ア)に記載したように、発明の詳細な説明には、本願発明13に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルが、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できることについての試験実施例も記載されておらず、加えて、本願発明13に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルが、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できるものであることを、当業者が理解できるように記載されているとはいえない。また、そのような記載がなくとも、当業者が本願出願時の技術常識を参酌し、本願発明13に係る金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲルが、長時間にわたって金属結晶又は金属イオンを安定に放出できるものであると理解することができたとも認められない。

(イ)そうすると、本願発明13は、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないし、発明の詳細な説明の記載より、当業者が本願発明13の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
また、当業者の技術常識からみて、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも、当業者が本願発明13の課題を解決できると認識できるものであるともいえない。

(ウ)したがって、本願発明13が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいうことができないから、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

(6)小括
以上のとおり、本願発明1、本願発明7、本願発明12及び本願発明13が、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいうことができず、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1、7、12、13に係る発明について、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-02 
結審通知日 2017-08-08 
審決日 2017-08-22 
出願番号 特願2014-100058(P2014-100058)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C08B)
P 1 8・ 537- WZ (C08B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三木 寛  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 冨永 保
齊藤 真由美
発明の名称 金属結晶含有のアルギン酸モノマー、金属結晶含有のアルギン酸塩モノマー及び金属結晶含有のアルギン酸塩ヒドロゲル及びその製造方法  
代理人 村井 康司  
代理人 堀川 かおり  

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