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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 E04B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 E04B |
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管理番号 | 1336122 |
異議申立番号 | 異議2017-700120 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-02-09 |
確定日 | 2017-11-14 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5970306号発明「建物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5970306号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、4、5〕について訂正することを認める。 特許第5970306号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5970306号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成24年9月12日に特許出願され、平成28年7月15日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人齋藤貴広(以下「申立人」という。)より請求項1ないし5に対して特許異議の申立てがされ、平成29年5月19日付けで取消理由(発送日同年5月24日)が通知され、その指定期間内である同年7月20日に意見書の提出及び訂正請求がされ、これに対して申立人より同年9月7日に意見書の提出がされたものである。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 平成29年7月20日付け訂正請求書による訂正の内容は以下のとおりである。(下線は訂正箇所を示す。) なお、訂正請求書の3頁6-7行には、「・・・屋内空間の一部により形成され、・・・」との記載がある。これに対して、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1には「・・・屋外空間の一部として形成され、・・・」と記載されており、また、訂正請求書の3頁下から2行、同5頁5行及び同5頁28行にも「・・・屋外空間の一部として形成され、・・・」と記載されている。このことから、訂正請求書の3頁6-7行の上記「・・・屋内空間の一部により形成され、・・・」は、「・・・屋外空間の一部として形成され、・・・」と記載すべきところの明らかな誤記と扱うこととする。 (訂正事項) 特許請求の範囲の請求項1に 「梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされることにより、それら離し置きされたユニットセットの間には前記下階部と前記上階部とのそれぞれに梁及び柱を結合してなる建物ユニットの存在しない空間部が形成され、それら上下階の前記各空間部により前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置されていることを特徴とする建物」と記載されているのを、 「梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされることにより、それら離し置きされたユニットセットの間には前記下階部と前記上階部とのそれぞれに梁及び柱を結合してなる建物ユニットの存在しない空間部が形成され、それら上下階の前記各空間部により前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間は、半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成され、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置され、 前記階段部の幅寸法は前記離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法に設定されていることを特徴とする建物」 に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項4及び5についても同様に訂正する。 2 訂正の適否 当審では、訂正事項のうち、一つ目の下線部(「前記吹き抜け空間は、半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成され、」)を訂正事項の<1>といい、二つめの下線部 (「前記階段部の幅寸法は前記離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法に設定されている」)を訂正事項の<2>といい、以下検討する。 (1)訂正の目的の適否について ア 訂正事項の<1>は、吹き抜け空間を形成するに際して、半屋外空間又は屋外空間との位置関係につき特に限定されていないものから、「半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成」する点に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 訂正事項の<2>は、階段部の幅寸法の設定につき、何ら限定しないものから、「前記離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法に設定」 に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 ウ まとめ 上記ア、イのとおり、訂正事項の<1>及び<2>はいずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、訂正事項の全体についても、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 (2)実質上特許請求の範囲の範囲を拡張し、又は変更するか否かについて 上記(1)で説示したように、訂正事項の<1>は、吹き抜け空間を形成するに際して、半屋外空間又は屋外空間との位置関係を限定したものであり、また、訂正事項の<2>は、階段部の幅寸法を限定したものであるから、訂正事項の全体についても実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて ア 訂正事項の<1>について 願書に添付した特許請求の範囲の請求項5には、「吹き抜け空間」が「前記吹き抜け空間は、前記ユニット対向方向と直交する方向において半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで隣接しており、前記仕切壁には、前記吹き抜け空間を前記半屋外空間又は前記屋外空間と連通させる建物開口部が設けられ」ている点が記載されており、明細書の段落【0043】には、「一階部分14では、吹き抜け空間17が仕切壁41によってアルコーブ18と仕切られている。・・・」と記載されており、段落【0045】には、「仕切壁41には、玄関スペース43とアルコーブ18とを連通する玄関口42が形成されている。」と記載されている。 また、願書に添付した図2及び3には、吹き抜け空間17と、一階居室U1,U2及び2階居室U3,U4とを有する居室空間が,仕切壁41を含む壁によって囲まれている点、吹き抜け空間17が他の部屋と同じように屋内に位置するように形成されている点が示されている。 よって、訂正事項の<1>は明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されているといえる。 イ 訂正事項の<2>について 願書に添付した明細書の段落【0047】には、「階段ユニット50は、一階部分14と二階部分15との間を行き来するための階段部を構成するものであり、・・・」との記載があり、段落【0048】には、「階段ユニット50は、その幅寸法が離し置きされたユニットセット24の間の離間距離L3と同じか又はそれよりも若干小さい寸法に設定されており」と記載されている。 よって、訂正事項の<2>は、明細書に記載されているものであるといえる。 ウ まとめ 上記のとおり、訂正事項の<1>及び<2>はいずれも明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されているものである。 エ 異議申立人の意見書における訂正事項の<1>に対する主張について 異議申立人は、平成29年9月7日付け意見書において、「吹き抜け空間」は、下階部と上階部とに跨がる空間であるにもかかわらず、図3(b)から明らかなように、2階の吹き抜け空間17は、「半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部」にはなっていないことや、2階の吹き抜け空間17は、四方が二階居室U3,U4,U5と長尺建物ユニット20Yに囲まれており、吹き抜け空間17と「半屋外空間又は屋外空間」との間に挟まれる「仕切壁」は存在しないとして、訂正事項の<1>の根拠となる記載は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面にはない旨を主張している。 しかしながら、上記アで説示したとおり、願書に添付した特許請求の範囲の請求項5には、「吹き抜け空間」が「前記吹き抜け空間は、前記ユニット対向方向と直交する方向において半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで隣接しており、前記仕切壁には、前記吹き抜け空間を前記半屋外空間又は前記屋外空間と連通させる建物開口部が設けられ」ているという点が記載されており、上記仕切壁の存在しない態様が図3(b)に示されているからといって、上記請求項5に記載された事項が開示されていないことにならないのであるから、異議申立人の上記主張を採用する事ができない。 また、訂正前の請求項1、4,5は、請求項4,5が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。 3 小括 したがって、上記訂正請求による訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1,4,5]について訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 請求項1?5に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、訂正請求書に添付された、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりのものである(下線は訂正箇所を示す)。 なお、請求項2及び3については、訂正されていない。 本件特許発明1 「【請求項1】 梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされることにより、それら離し置きされたユニットセットの間には前記下階部と前記上階部とのそれぞれに梁及び柱を結合してなる建物ユニットの存在しない空間部が形成され、それら上下階の前記各空間部により前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間は、半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成され、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置され、 前記階段部の幅寸法は前記離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法に設定されていることを特徴とする建物」 本件特許発明2 「【請求項2】 梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされ、それら離し置きされたユニットセットの間に前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置されており、 前記ユニット対向方向と直交する方向に前記吹き抜け空間と隣接して前記ユニットセットがさらに設けられており、 そのユニットセットの階間部分において上下に隣接する上階ユニットの上階床梁及び下階ユニットの下階天井梁のうちいずれかが前記離し置きされたユニットセットの間に跨がるように設けられた階段支持梁となっており、前記階段部は、その下端部に床上又は基礎上に載置される載置部を有し、その上端側に前記階段支持梁に引っ掛け支持される引っ掛け部を有していることを特徴とする建物。」 本件特許発明3 「【請求項3】 梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされ、それら離し置きされたユニットセットの間に前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置されており、 前記離し置きされたユニットセットのうちの一方である第1ユニットセットに対して、前記ユニット対向方向と直交する方向に隣接してさらに前記ユニットセットとしての第2ユニットセットが設けられており、 前記第2ユニットセットは、前記ユニット対向方向の長さが前記第1ユニットセットよりも長くされており、前記ユニット対向方向において前記第1ユニットセットよりも前記吹き抜け空間側に延出した延出部を有しており、 前記延出部の延出長さは前記吹き抜け空間の前記ユニット対向方向の長さと同じとされていることを特徴とする建物。」 本件特許発明4 「【請求項4】 前記離し置きされたユニットセットにおいて互いに対向する各側面部にはそれぞれ間仕切壁が設けられており、 それら各間仕切壁によって、前記階段部により形成される昇降通路スペースの側面が規定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建物。」 本件特許発明5 「【請求項5】 前記吹き抜け空間は、前記ユニット対向方向と直交する方向において半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで隣接しており、 前記仕切壁には、前記吹き抜け空間を前記半屋外空間又は前記屋外空間と連通させる建物開口部が設けられており、前記階段部は、前記建物開口部に挿通可能に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建物。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して平成29年5月19日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)請求項1及び4に係る特許に対して(新規性の欠如) 本件特許は、その出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 甲第1号証:特開2009-57716号公報 (2)請求項1?5に係る特許に対して(進歩性の欠如) ア 本件特許発明1は、甲1発明及び甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 イ 本件特許発明2は、甲1発明ないし甲5発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである 。 ウ 本件特許発明3は、甲1発明及び甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 エ 本件特許発明4は、甲1発明及び甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 オ 本件特許発明5は、甲1発明及び甲5発明、又は、甲1発明と甲4発明及び甲5発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 甲第1号証:特開2009-57716号公報 甲第2号証:特開平8-13612号公報 甲第3号証:特開平3-72140号公報 甲第4号証:特開2004-316169号公報 甲第5号証:特開11-81480号公報 3 判断 (1)特許法第29条第1項第3号について(新規性の欠如) ア 甲第1号証の記載 甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。 甲1発明 「梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされる事により、それら離し置きされたユニットセットの間には前記下階部と前記上階部とのそれぞれに梁及び柱を結合してなる建物ユニットの存在しない空間部が形成され、それら上下階の前記各空間部により前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置され、階段部の幅寸法が、離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離の半分より小さい寸法に設定されており、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされ、それら離し置きされたユニットセットの間に前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており 前記離し置きされたユニットセットにおいて互いに対向する各側面部にはそれぞれ間仕切り壁が設けられており、 それら各間仕切り壁によって、前記階段部により形成される昇降通路スペースの側面が規定されているユニット式建物 」 イ 判断 (ア)本件特許発明1について a 本件特許発明1と甲1発明の対比 本件特許発明1と甲1発明を対比すると、以下の一致点で一致し、相違点1,2で相違する。 (a)一致点 「梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされることにより、それら離し置きされたユニットセットの間には前記下階部と前記上階部とのそれぞれに梁及び柱を結合してなる建物ユニットの存在しない空間部が形成され、それら上下階の前記各空間部により前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置されていることを特徴とする建物。」 (b)相違点 <相違点1> 吹き抜け空間が、本件特許発明1では、半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成されているのに対して、甲1発明では、半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成されていない点。 <相違点2> 階段部の幅寸法が、本件特許発明1では、前記離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法に設定されているのに対して、甲1発明では、離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離の半分より小さい寸法に設定されている点。 b 結論 上記a(b)のとおり、甲1発明では、吹き抜け空間が半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成されていないので、相違点1が存在するといえる。また、甲1発明の階段部の幅寸法が、離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離の半分より小さい寸法であることから、この幅寸法が、本件特許発明1の「離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法」に該当しないことは明らかであるので、相違点2が存在する。 以上のことから、本件特許発明1と甲1発明とは、同一であるとはいえない。 (イ)本件特許発明4について 上記(ア)のとおり、本件特許発明1が甲1発明と同一ではないのであるから、本件特許発明1の構成の全てを具備する本件特許発明4は、甲1発明と同一であるとはいえない。 (2)特許法第29条第2項について(進歩性の欠如) ア 本件特許発明1について (ア)本件特許発明1と甲1発明との対比 一致点及び相違点については、上記(1)のイ(ア)a(a)及び(b)のとおりである。 (イ)相違点についての判断 事案に鑑み相違点2から検討する。 a 相違点2について 訂正前の請求項1に係る特許に対して通知した取消理由で引用した甲第4号証には、ユニット建物の1階の部分を構成する第1建物ユニットと第3建物ユニットが互いに離間していて、その間にピロティSが形成されており、第1建物ユニットと第3建物ユニットが対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて階段7が配置されている点が記載されている。 しかしながら、甲第4号証の「第1建物ユニット」及び「第3建物ユニット」は、いずれも本件特許発明1の「上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセット」ではなく、また、甲第4号証の「ピロティS」は、本件特許発明1の「離し置きされたユニットセット」の下階部と上階部とのそれぞれに形成された「空間部」が、下階部と上階部とに跨がる「吹き抜け空間」にも該当しない。よって、甲第4号証には、階段7(本件特許発明1の「階段部」に相当する。)は記載されているものの、「ユニットセット」、及び「吹き抜け空間」に設けられた「階段部」が記載されているとはいえない。 したがって、甲第4号証には、相違点2に係る本件特許発明1の構成が開示されているとはいえない。 以上のとおりであるから、甲1発明に甲第4号証に記載されている事項を適用し、相違点2に係る本件特許発明1の構成にすることは、当業者が容易に想到することではない。 b 異議申立人の意見書における主張について 異議申立人は、平成29年9月7日付け意見書で、同書に添付する参考資料1(特開2012-26105号公報)の図3には、「階段部の幅が、吹き抜け空間の幅と同じか又はそれより若干小さい寸法」の「平面視において長尺状でかつ矩形状をなした階段部」が開示されること、甲第2号証の図1、甲第3号証の第1図及び第4図には、「階段部の幅が、離し置きされたユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法」の廻り階段が開示されていること、及びこれらの開示された構成は「吹き抜け空間において階段部の側方に中途半端な無駄スペースが発生するのを回避することができる」点で本件特許発明1と同じ効果を奏していることを主張する。 ところで、甲第1号証の図1には、階段部を、建物ユニット2と建物ユニット1との間において、建物ユニット2側に隣接させて配置するとともに、階段部を建物ユニット1に対して階段部そのものの幅以上の間隔をあけて配置する点が示されている。すなわち、階段部の幅寸法が、離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離の半分より小さい寸法に設定されている。ここで甲第1号証の図1の階段部と建物ユニット1との上記間隔の意義について検討すると、当該間隔は、階段部が存在しないところであって、ユニット建物の住人がユニット建物を利用する際の利便性の向上、すなわち、下階の住人が、ユニット建物Sの吹き抜け空間の図1中の上方から入り下方に通り抜けて入室したり、上階の住人がユニット建物Sの吹き抜け空間の図1中の下方から吹き抜け空間に入り、吹き抜け空間に配置された階段部にたどり着けるようにする意義があると考えるのが自然である。 異議申立人が主張するように、参考資料1、甲第2号証及び甲第3号証の各文献には、上記のような技術事項が開示されているとしても、甲第1号証の階段部と建物ユニット1との上記間隔の意義をふまえれば、参考資料1、甲第2号証及び甲第3号証の各文献に開示されている上記構成を適用し、上記間隔を無くしあるいはほとんど無くして、相違点2に係る本願特許発明1の構成のようにすること、すなわち、甲1発明の階段部の幅寸法を、「離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法」とすることに阻害要因があると言わざるを得ない。仮に、甲第2号証及び甲第3号証に開示された廻り階段の下方に住人が通行可能な部位があると考え、そして当該廻り階段部を、甲1発明の階段部に代えて適用することができたとしても、「平面視において長尺状でかつ矩形状をな」す「階段部」を構成する本件特許発明1に想到することができないことは明らかである。 以上のとおりであるから、異議申立人の主張を採用することはできない。 c まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2について (ア)本件特許発明2と甲1発明との対比 本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、以下の点で相違する。 a 相違点 (a)相違点3 「階段支持梁」が、本件特許発明2では、ユニット対向方向と直交する方向に吹き抜け空間と隣接して設けられたユニットセットの上階床梁又は下階天井梁が階段支持梁になるが、甲1発明では、「水平フレーム30の突出部30aが階段支持梁」である点。 (b)相違点4 「階段部」が、本件特許発明2では、上端側に階段支持梁に引っ掛け支持される引っ掛け部を有しているのに対して、甲1発明では、突出部30aの第二枠材32にボルトとナットで階段フレーム91が取り付けられる構成となっている点。 b 判断 (a)相違点3について 訂正前の請求項2に係る特許に対して通知した取消理由で引用した甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも、「階段支持梁」が、「ユニット対向方向と直交する方向に吹き抜け空間と隣接して設けられたユニットセット」の「上階床梁」又は「下階天井梁」が階段支持梁となっている点が開示されていない。 よって、甲第2号証ないし甲第5号証のいずれにも、相違点3に係る本件特許発明2の構成は開示されていない。 したがって、甲1発明に、甲第2号証ないし甲第5号証に開示された事項を適用することができたとしても、相違点3に係る本件特許発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到しうることではない。 (イ)まとめ したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1発明及び、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件特許発明3について (ア)本件特許発明3と甲1発明との対比 本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、以下の相違点がある。 a 相違点 (a)相違点5 本件特許発明3は、「離し置きされたユニットセットのうちの一方である第1ユニットセットに対して、ユニット対向方向と直交する方向に隣接してさらに第2ユニットセットが設けられている」構成となるが、甲1発明は、「間隔を置いて配置された一対の建物ユニット1,2の対向方向と直交方向の吹き抜け空間と隣接して設けられるのは、水平フレーム30」である点。 (b)相違点6 本件特許発明3は、第2ユニットセットが、ユニット対向方向の長さが第1ユニットセットよりも長くされて吹き抜け空間側に延出した延出部を有しており、延出部の延出長さが吹き抜け空間のユニット対抗方向の長さと同じとされているが、甲1発明は、第2ユニットセットをそもそも有していない点。 b 判断 上記相違点について検討する (a)相違点5について 訂正前の請求項3に係る特許に対して通知した取消理由で引用した甲第4号証には、ユニット建物の1階の部分を構成する第1建物ユニットと第3建物ユニットが互いに離間していて、その間にピロティSが形成されており、第1建物ユニットと第3建物ユニットが対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて階段7が配置されている点が開示されている。 しかしながら、甲第4号証に記載の「第1建物ユニット」及び「第3建物ユニット」は、いずれも本件特許発明3の「上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセット」ではなく、また、甲第4号証に記載の「ピロティS」は、本件特許発明3の「離し置きされたユニットセット」の下階部と上階部とのそれぞれに形成された「空間部」が、下階部と上階部とに跨がる「吹き抜け空間」にも該当しない。よって、甲第4号証には、「ユニットセット」及び、「吹き抜け空間」に設けられた「階段部」が開示されていない。 したがって、甲第4号証には、相違点5に係る本件特許発明3の構成が開示されているとはいえない。 以上のとおりであるから、甲1発明に甲第4号証に記載された事項を適用し、相違点5に係る本件特許発明3の構成にすることは、当業者が容易に想到することではない。 (イ)まとめ したがって、他の相違点を検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1発明及び甲第4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件特許発明4について 本件特許発明4は、本件特許発明1に従属し、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものである。したがって、本件特許発明1と同様の理由(上記ア参照)で、本件特許発明4は、甲1発明及び、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 本件特許発明5について 本件特許発明5は、本件特許発明1に従属し、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含むものである。したがって、本件特許発明1と同様の理由(上記ア参照)で、本件特許発明5は、甲1発明及び、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、加えて、訂正前の請求項5に係る特許に対して通知した取消理由で引用した甲第5号証をみても、相違点2に係る構成は開示されていない。 したがって、本件特許発明5は、甲1発明及び、甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされることにより、それら離し置きされたユニットセットの間には前記下階部と前記上階部とのそれぞれに梁及び柱を結合してなる建物ユニットの存在しない空間部が形成され、それら上下階の前記各空間部により前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間は、半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで設けられた屋内空間の一部として形成され、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置され、 前記階段部の幅寸法は前記離し置きされた各ユニットセットの間の離間距離と同じか又はそれよりも若干小さい寸法に設定されていることを特徴とする建物。 【請求項2】 梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされ、それら離し置きされたユニットセットの間に前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置されており、 前記ユニット対向方向と直交する方向に前記吹き抜け空間と隣接して前記ユニットセットがさらに設けられており、 そのユニットセットの階間部分において上下に隣接する上階ユニットの上階床梁及び下階ユニットの下階天井梁のうちいずれかが前記離し置きされたユニットセットの間に跨がるように設けられた階段支持梁となっており、 前記階段部は、その下端部に床上又は基礎上に載置される載置部を有し、その上端側に前記階段支持梁に引っ掛け支持される引っ掛け部を有していることを特徴とする建物。 【請求項3】 梁及び柱を結合してなる建物ユニットを複数有し、上下に隣り合う下階部と上階部とを備えるユニット式建物であって、 上下階の建物ユニットの組み合わせであるユニットセットが互いに離間して離し置きされ、それら離し置きされたユニットセットの間に前記下階部と前記上階部とに跨がる吹き抜け空間が形成されており、 前記吹き抜け空間には、前記下階部と前記上階部とを連絡する階段部が設けられており、 前記階段部は、平面視において長尺状でかつ矩形状をなしており、その長手方向を前記離し置きされたユニットセット同士が対向するユニット対向方向と直交する方向に向けて配置されており、 前記離し置きされたユニットセットのうちの一方である第1ユニットセットに対して、前記ユニット対向方向と直交する方向に隣接してさらに前記ユニットセットとしての第2ユニットセットが設けられており、 前記第2ユニットセットは、前記ユニット対向方向の長さが前記第1ユニットセットよりも長くされており、前記ユニット対向方向において前記第1ユニットセットよりも前記吹き抜け空間側に延出した延出部を有しており、 前記延出部の延出長さは前記吹き抜け空間の前記ユニット対向方向の長さと同じとされていることを特徴とする建物。 【請求項4】 前記離し置きされたユニットセットにおいて互いに対向する各側面部にはそれぞれ間仕切壁が設けられており、 それら各間仕切壁によって、前記階段部により形成される昇降通路スペースの側面が規定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建物。 【請求項5】 前記吹き抜け空間は、前記ユニット対向方向と直交する方向において半屋外空間又は屋外空間と仕切壁を挟んで隣接しており、 前記仕切壁には、前記吹き抜け空間を前記半屋外空間又は前記屋外空間と連通させる建物開口部が設けられており、 前記階段部は、前記建物開口部に挿通可能に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の建物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-11-02 |
出願番号 | 特願2012-200195(P2012-200195) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(E04B)
P 1 651・ 113- YAA (E04B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小池 俊次、河内 悠、古屋野 浩志 |
特許庁審判長 |
前川 慎喜 |
特許庁審判官 |
西田 秀彦 住田 秀弘 |
登録日 | 2016-07-15 |
登録番号 | 特許第5970306号(P5970306) |
権利者 | トヨタホーム株式会社 |
発明の名称 | 建物 |
代理人 | 加藤 雅博 |
代理人 | 加藤 雅博 |
代理人 | 山田 強 |
代理人 | 山田 強 |