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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C11B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C11B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C11B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C11B
管理番号 1336159
異議申立番号 異議2017-700215  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-03 
確定日 2017-12-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5989037号発明「精製油脂の製造方法、油脂中のアルデヒド類量を低減させる方法、油脂の曝光臭を低減させる方法、及び大豆油の耐冷性を改善する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5989037号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕、5、6について訂正することを認める。 特許第5970335号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5989037号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成26年6月23日に特許出願され、平成28年8月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人荒井夏代により特許異議の申立てがされたものである。
本件特許異議の申立てに係る手続きの経緯は以下のとおりである。
平成29年 3月 3日 :特許異議の申立て
平成29年 6月 1日付け:取消理由通知
平成29年 8月 4日 :訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
平成29年 8月15日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
平成29年 9月22日 :意見書の提出(特許異議申立人)

2.訂正請求について
(1)訂正の趣旨
平成29年8月4日に提出された訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。また、本件訂正請求書による訂正を、以下「本件訂正」という。)は、特許第5989037号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?6について訂正することを求めるものである。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1 請求項1?4について
特許請求の範囲の請求項1に、「大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上の油脂」と記載されているのを、「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂」と訂正する。

イ 訂正事項2 請求項5について
特許請求の範囲の請求項5に、「大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上」と記載されているのを、「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上」と訂正する。
なお、本件訂正請求書の7(2)イ.「訂正事項2」の項目及び同ウ.「訂正の理由」の項目には、訂正前の請求項5の記載が、「・・・1種以上『の油脂』」であるように記載されているが、訂正前の請求項5には、「前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上『である』」と記載されているから、明らかな誤記と認められる。
また、本件訂正請求書の上記両項目には、訂正後の請求項5の記載が、「・・・1種以上『の油脂』」であるように記載されているが、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項5には、「前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上『である』」と記載されているから、明らかな誤記と認められる。

ウ 訂正事項3 請求項6について
特許請求の範囲の請求項6に、「大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上の油脂」と記載されているのを、「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂」と訂正する。
なお、本件訂正請求書の7(3)イ.「訂正事項3」の項目及び同ウ.「訂正の理由」の項目には、訂正前の請求項6の記載が、「・・・1種以上『の油脂』」であるように記載されているが、訂正前の請求項6には、「前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上『である』」と記載されているから、明らかな誤記と認められる。
また、本件訂正請求書の上記両項目には、訂正後の請求項6の記載が、「・・・1種以上『の油脂』」であるように記載されているが、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項6には、「前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上『である』」と記載されているから、明らかな誤記と認められる。

(3)訂正の適否についての判断
ア 訂正事項1について
訂正前の請求項1には、「原料油脂は、大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上の油脂」であることが特定されている。これに対して、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた原料油脂の選択肢から「パーム系油」を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正は、新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

イ 訂正事項2及び3について
訂正事項2、3も、それぞれ訂正前の請求項5、6に記載されていた原料油脂の選択肢から「パーム系油」を削除するものであるから、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記訂正は、いずれも新規事項を追加するものではなく、カテゴリーや対象、目的を拡張し、又は変更するものでもないことも明らかであるから、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

ウ 一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1?4は、請求項2?4が請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。また、訂正事項1により訂正された後の請求項2?4は、いずれも訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正される。よって、訂正事項1は一群の請求項に対して請求されたものといえるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。
また、訂正事項2に係る訂正前の請求項5、及び訂正事項3に係る訂正前の請求項6は、いずれも他の請求項に引用されていない独立形式の請求項であるから、訂正事項2及び3は、いずれも請求項ごとに請求されたものであり、特許法第120条の5第3項の規定に適合するものである。

エ 独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1?7に対して特許異議の申立てがされているので、訂正事項1?3に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

オ 小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項、第4項、並びに同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1?4〕、5、6について訂正を認める。

3.本件発明について
本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
原料油脂を脱臭する脱臭工程を含み、
前記脱臭工程は、205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、前記原料油脂と、水蒸気とを接触させる接触工程を含み、
前記原料油脂は、大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂であり、
前記原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して1.0?7.0質量%であり、
前記脱臭工程の前に、前記原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させる脱色工程をさらに含む、精製油脂の製造方法。
[請求項2]
前記原料油脂の構成脂肪酸中のリノール酸に対するオレイン酸の比率(オレイン酸/リノール酸)が5.0以下である請求項1に記載の精製油脂の製造方法。
[請求項3]
前記精製油脂が、曝光臭の発生が抑制された精製油脂である、請求項1又は2に記載の精製油脂の製造方法。
[請求項4]
前記脱臭工程はトレイ式脱臭装置で行われる、請求項1から3のいずれか1項に記載の精製油脂の製造方法。
[請求項5]
原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させた後に、205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、前記原料油脂と水蒸気とを接触させ、
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上である、油脂中のアルデヒド類量を低減させる方法。
[請求項6]
原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させた後に、205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、前記原料油脂と水蒸気とを接触させ、
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上である、油脂の曝光臭を低減させる方法。
[請求項7]
205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、原料油脂と、水蒸気とを接触させ、前記原料油脂は大豆油であり、
前記接触の前に、前記原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させる、大豆油の耐冷性を改善する方法。」

4.取消理由の概要
訂正前の請求項1?7に係る特許に対して平成29年6月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(新規性)
本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
理由2(進歩性)
(2-i)本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は当該発明と周知技術(甲第2、3、8、9号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(2-ii)本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された甲第4号証に記載された発明及び周知技術(甲第3、7、8号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
理由3(委任省令要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許の請求項1、5?7に係る発明において、脱臭工程における温度条件の上限を225℃とすることについて、どのような技術上の意義を有するのかを当業者が理解できるように記載されているとはいえないから、本件特許は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由4(サポート要件)
(4-i)大豆油又はフラックス油以外の植物油を原料油脂として用いる場合を含む本件特許の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できることを認識できるものではないから、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(4-ii)脱色工程における水の存在量の下限を100ppmとすることが特定された本件特許の請求項1?6、及び活性白土との接触時の水の存在量を550ppmに比して増減させた100?15000ppmとすることが特定された本件特許の請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できることを認識できるものではないから、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

<引用文献等一覧>
甲第1号証:特開2011-72192号公報
甲第2号証:安田耕作、渡辺寿,「油脂精製工程における問題点」,油化学,日本,社団法人日本油化学会,1967年,第16巻,第5号,259?266頁
甲第3号証:特開昭56-21555号公報
甲第4号証:特開2010-202774号公報
甲第7号証:加藤秋男編著,「パーム油・パーム核油の利用」,初版第1刷,日本,株式会社幸書房,1990年7月31日,52、54、55頁
甲第8号証:特開2009-100734号公報
甲第9号証:特開2011-62093号公報
(以下、「甲第1号証」?「甲第9号証」をそれぞれ「甲1」?「甲9」という。まとめて、「甲号証」ということもある。)

5.取消理由通知に記載した取消理由についての判断
(1)甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1-a)「[請求項1]
分別後に脱臭処理が施されていないパーム軟質油と、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が1?25質量%の、パーム系油以外の植物油とを、15:85?55:45の比率にて混合して得た調合油に、230?260℃の温度条件にて脱臭処理を施すことを特徴とする食用油の製造方法。」

(甲1-b)「[0001]
本発明は、食用油の製造方法に関し、更に詳しくはパーム軟質油とパーム系油以外の植物油とを調合した食用油の製造方法に関する。
[背景技術]
[0002]
パーム油は、安価であり、しかも安定した供給が可能であることから、近年、様々な商品への使用が期待されている。特に、精製パーム油を分別したパーム軟質油は、液状画分であり、淡白な風味と高い酸化安定性とを有することから、その利用価値は高いといえる。
[0003]
ところで、パーム油等の植物油には、その種類によって特徴があり、複数種を組み合わせることで、より優れた特性を有する食用油が得られる場合がある。この性質を使用した食用油が調合油である。しかしながら、パーム軟質油と他の液状油とを混合した調合油では、パーム軟質油由来の成分による濁りや結晶の析出が生じるため、パーム軟質油を少量しか含有させることができず、その結果、パーム軟質油の特性を調合油において活かすことが困難であった。そこで、最近では、このような結晶の生成を抑制する試みがなされている。」

(甲1-c)「[発明が解決しようとする課題]
[0006]
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、パーム軟質油を含有する食用油であって、耐冷性に優れ、低温下にて保存しても濁りや結晶の析出が生じ難く、更に生風味も良好な食用油を製造することにある。
[0007]
本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねたところ、通常、パーム軟質油は、3つの構成脂肪酸のうち1つがパルミチン酸であるトリアシルグリセロールを多く含むが、脱臭処理を施すと分子間エステル交換が生じ、3つの構成脂肪酸の全てがパルミチン酸であるトリパルミトイルグリセロール(以下、PPPと称する。)が生じることを見出した。PPP量の増加は、濁りや結晶の析出を招き、食用油の商品価値を低下させることから、望ましくない。
[0008]
そこで更に、鋭意研究を重ねたところ、分別後に脱臭処理を施していないパーム軟質油と、パーム系油以外の液状の植物油とを混合した調合油に、脱臭処理を施した食用油は、分別前に脱臭処理を施したパーム軟質油と、脱臭処理を施したパーム系油以外の液状の植物油とを混合したものに比して、低温下での濁りや結晶の析出が生じ難いことを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、以下のようなものを提供する。
・・・
[発明の効果]
[0014]
本発明によれば、パーム軟質油を多く含有するにもかかわらず、耐冷性に優れ、低温下にて保存しても濁りや結晶の析出が生じ難く、更に生風味も良好で、商品価値の高い食用油を製造することができる。」

(甲1-d)「[0023]
[調合後の脱臭処理]
本発明では、上記調合油に対して、230?260℃の温度条件にて脱臭処理を施すことを特徴とし、240?260℃の温度条件にて脱臭処理を施すことが好ましい。ここでいう脱臭処理とは、上記ケミカル精製又はフィジカル精製のいずれかにおける脱臭処理をいう。脱臭処理の方法は、温度条件が230?260℃であれば、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、フィジカル精製による脱臭処理であれば、油に対して0.5?5.0質量%の水蒸気を、230?260℃で30?120分間吹き込み、有臭成分と遊離脂肪酸とを同時に除去する、減圧水蒸気蒸留による方法が挙げられる。また、装置としては、バッチ式、トレイ式、薄膜式等が挙げられる。なお、本発明では、上記調合油に対して上記脱臭処理を施せばよく、該脱臭処理の前に、上記調合油に対してケミカル精製における脱酸処理、脱色処理、脱ロウ処理のいずれか1種以上を施してもよいし、フィジカル精製における脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理のいずれか1種以上を施してもよい。」

(甲1-e)「[0028]
[製造例1]パーム軟質油(脱色油)の製造方法
パームの原油に対して脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を施し、得られた油を分別したRBDパーム軟質油(RBDパームオレイン油,ヨウ素価:65,INTERCONTINENTAL SPECIALTY FATSSDN.BHD社製)に、該RBDパーム軟質油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。
[0029]
[製造例2]パーム軟質油(脱臭油)の製造方法
製造例1の方法にて製造したパームオレイン油(脱色油)に、該脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、220?270℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、パームオレイン油(脱臭油)を得た。
[0030]
[製造例3]大豆油(脱色油)の製造方法
大豆抽出原油(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸量:15.6質量%)に、該大豆抽出原油に対して0.1質量%のリン酸を添加した後、リン酸と遊離脂肪酸とを中和するのに必要な量の1.1倍量の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加し、遠心分離によりガム質と石けんとを除去して、一次脱酸油を得た。次いで、該一次脱酸油に対して0.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加した後、遠心分離によりガム質と石けんとを更に除去し、温水にて洗浄して脱酸油を得た。そして、該脱酸油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。
・・・
[0034]
[実施例1]調合油:パーム軟質油(脱色油)+大豆油(脱色油)
製造例1に記載の方法により製造したパーム軟質油(脱色油)600gと製造例3に記載の方法により製造した大豆油(脱色油)900gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、230℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、実施例1の食用油を得た。」

(甲1-f)「[0043]
[比較例1]調合油:パーム軟質油(脱臭油)+大豆油(脱臭油)
製造例1に記載の方法により製造したパーム軟質油(脱色油)600gと製造例3に記載の方法により製造した大豆油(脱色油)900gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、220℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、比較例1の食用油を得た。」

(甲1-g)「[0061]
[食用油の評価:耐冷性]
上記の食用油(実施例1?9,比較例1?15,参考例1,2)100gを、100g用の遮光処理を施していない透明容器に充填した。そして、該透明容器に充填した食用油を、1?7℃の温度条件下で7?20日間保持した後、照度1000lux以上の蛍光灯下で、目視にて、曇りや結晶の析出の有無を確認した。なお、食用油に曇りや結晶の析出が認められず、清澄な場合を○、曇りや結晶の析出が認められた場合を×とした。
[0062]
[食用油の評価:生風味]
上記の食用油(実施例1?9,比較例1?15,参考例1,2)について、生風味の評価を行った。生風味の評価には、常温状態の食用油を用い、専門パネラーが各食用油を1?2ml程度、口に含み、行った。
[0063]
[表1]

[0064]
パーム軟質油と調合する植物油として大豆油を用い、脱臭条件の検討を行った(表1)。パーム軟質油(脱色油)と大豆油(脱色油)とを混合し、調合油とした後に、230?250℃の温度条件にて脱臭処理を施した食用油(実施例1?3)は、同じ温度条件にてそれぞれ脱臭処理を施したパーム軟質油(脱臭油)と大豆油(脱臭油)とを混合して得られた食用油(比較例2?4)に比べて、PPP量の増加が抑制された。また、低温条件にて一定期間保持しても、食用油に曇りや結晶の析出が認められなかった。更に、生風味も良好であった。パーム軟質油(脱色油)と大豆油(脱色油)とを混合し、調合油とした後に、脱臭処理を施した食用油であっても、220℃の温度条件にて脱臭処理を施した食用油(比較例1)では、食用油に曇りや結晶の析出は認められなかったが、生風味がやや悪かった。また、270℃の温度条件にて脱臭処理を施した食用油(比較例5)では、生風味は良好であったが、食用油に曇りや結晶の析出が認められた。」

イ 甲2に記載された事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2-a)「Franzkら^(46))は活性白土で水分を含んだ油の漂白を行って油中の水分は0.8%までは漂白能力に影響することがなく,漂白前の乾燥工程は不要としている。」(第263頁右欄21?24行)

ウ 甲3に記載された事項
甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3-a)「特許請求の範囲
1) 油脂の精製工程において常法により原油に脱酸処理を施した脱酸油に白土を加え、更に水又は酸性物質の1%ないし飽和水溶液を脱酸油に対して0.1?2.0%添加し攪拌して脱色を行ない、次いで白土を除去し、常法により脱臭を行なうことを特徴とする油脂の精製法。」

(甲3-b)「本発明者等は油脂の脱色工程の改良につき鋭意研究の結果、アルカリ精製法または水蒸気蒸留法などの常法により脱酸処理を施した脱酸油に白土と共に水又は酸性物質の水溶液の適量を添加攪拌することにより、白土の脱色力を低下させることなく優れた脱色効果を発揮し、油脂中のクロロフィルなどの色素、燐、鉄などの無機物質が効率よく除去され、しかもこれら不純物を吸着した白土のろ過(当審注:原文では、「ろ」は、さんずいに「戸」と書く漢字である。)が極めて容易になるなどの顕著な効果を奏することを発見し本発明を完成した。」(第2頁左上欄3?12行)

エ 甲4に記載された事項
甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4-a)「[請求項1]
アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油、及び/又は蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油から選ばれる2種以上の植物油を混合して得た調合油に、脱臭処理を施すことを特徴とする食用油の製造方法。
・・・
[発明が解決しようとする課題]
[0005]
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好且つ安定な風味を有する食用油の製造方法、及び該方法により製造された食用油を提供することにある。
[課題を解決するための手段]
[0006]
本発明者らは、鋭意研究の結果、脱酸の処理を施した植物油を混合して得た調合油に、脱臭の処理を施すことにより、脱臭の処理を施した植物油を混合して調合油とするよりも、風味が良くなることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
・・・
[発明の効果]
[0014]
本発明によれば、アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油、及び/又は蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油から選ばれる2種以上の植物油を混合して得た調合油に、脱臭処理を施すことで、脱臭処理が施された植物油を混合するよりも、生風味・加熱臭が良好であり、且つ光に対する風味安定性に優れる調合油を得ることができる。」

(甲4-b)「[0018]
植物油の精製は、通常、図1に示すケミカルリファイニングにより行われる。すなわち、原料となる植物を圧搾・抽出した原油が、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。一般に、調合油は、最終精製工程である脱臭処理を経た精製油を2種以上混合することによって得られるが、本発明では、良好な風味の調合油を得るために、アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油、及び/又は蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油から選ばれる2種以上の植物油を混合して得た調合油に、脱臭処理を施す。
[0019]
本発明において、アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油とは、上記ケミカルリファイニングにおいて行われる、水酸化ナトリウム等のアルカリによる遊離の脂肪酸の除去(脱酸処理)がなされた植物油であって、脱臭処理が施されていないものをいう。例えば、図1に示す脱酸処理が施された植物油、脱酸処理及び脱色処理が施された植物油、脱酸処理、脱色処理、及び脱ろう処理が施された植物油が挙げられる。また、蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油とは、図2に示すフィジカルリファイニングにおいて行われる、蒸留による遊離の脂肪酸の除去(脱酸・脱臭処理)がなされた植物油をいう。例えば、図2に示す脱酸・脱臭処理が施された植物油、脱酸・脱臭処理が施された後、更に分別された植物油が挙げられる。フィジカルリファイニングとは、パーム油やヤシ油等でよく利用されている精製方法であり、原料となるパームやヤシ等を圧搾した原油が、脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。フィジカルリファイニングは、ケミカルリファイニングとは異なり、脱酸処理にアルカリを使用せず、最後の脱酸・脱臭処理が薄膜式減圧水蒸気蒸留装置等により行われる。
[0020]
なお、本願明細書において、「脱酸油」とは、遊離の脂肪酸をアルカリにより除去(脱酸処理)した油脂であって、且つ脱酸処理の後に脱色、脱ろう、及び脱臭の処理が施されていない油脂のことをいう。また、「脱色油」とは、活性白土や活性炭等による脱色処理が施された油脂であって、且つ脱色処理の後に脱臭処理が施されていない油脂のことをいう。更に、「RBD:Refined Bleached Deodorized」とは、図2に示すフィジカルリファイニングによる精製がなされた油脂であり、アルカリによる脱酸処理ではなく、蒸留による脱酸・脱臭処理が施された油脂のことをいう。なお、該油脂は、図2に示すように、脱酸・脱臭処理の後に分別されてもよい。」

(甲4-c)「[0021]
本発明の製造方法では、植物油は、植物由来の油脂であれば、特に限定されるものではなく、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ヒマワリ油、紅花油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、ブドウ種子油、クルミ油、エゴマ油、小麦胚芽油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、パーム系油等が挙げられる。また、遺伝子組換えの技術を用いて品種改良した植物、例えば、大豆、菜種、コーン、ヤシ、パーム、オリーブ、亜麻仁、ひまわり、紅花、綿実等に由来するものであってもよい。これらの中でも、大豆油、菜種油、及びパーム系油が、本発明の風味改善効果が顕著に発揮される点において好ましい。パーム系油としては、パーム油、パーム油の分別油であるパーム軟質油(パームオレイン)、パーム硬質油(パームステアリン)、これらを水素添加、分別、エステル交換したもの等が挙げられる。」

(甲4-d)「[0023]
本発明の製造方法では、上記調合油に対して、最終的に脱臭処理を施せばよく、該脱臭処理の前に、必要に応じて、アルカリによる脱酸処理、脱色処理、及び脱ロウ処理から選ばれる処理を施してもよい。例えば、標準的な植物油の精製工程に従い、調合油に対して、アルカリ脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理を施した後、脱臭処理を施してもよく、また、脱色処理、脱ろう処理を施した後、脱臭処理を施してもよい。本発明では、アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油、及び/又は蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油から選ばれる2種以上の植物油を混合して得た調合油に対して、脱臭処理を施すことにより、脱酸処理を施していない原油の段階で混合した調合油に対して、アルカリ脱酸処理、脱色処理、脱臭処理を施したものや、標準的な精製工程を全て経た精製油を混合して得た調合油に比して、風味が良好となる。
[0024]
本発明の製造方法では、脱臭処理の方法は、特に限定されるものではなく、油脂の精製において通常行われる減圧水蒸気蒸留が挙げられる。該方法では、例えば、油脂に対して0.5?10質量%の水蒸気を、220?260℃で40?100分間吹き込む。また、該方法では、バッチ式、トレイ式、薄膜式等の装置を用いることができる。
[0025]
以下、本発明の実施形態に係る食用油の製造方法について、図面(図3?図6)を参照しながら説明する。なお、本発明は、これらの実施形態によって限定されることはない。
[0026]
図3は、本発明の第1の実施形態に係る食用油の製造工程を示す図である。本発明の第1の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理を施した、いわゆる脱酸油と、フィジカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を施し、更に分別した、いわゆるRBDと、を混合して得た調合油に対して、脱色処理、脱臭処理を施すことで得られる。
[0027]
図4は、本発明の第2の実施形態に係る食用油の製造工程を示す図である。本発明の第2の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理を施した、いわゆる脱色油と、フィジカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を施し、更に分別した、いわゆるRBDと、を混合して得た調合油に対して、脱臭処理を施すことで得られる。
[0028]
図5は、本発明の第3の実施形態に係る食用油の製造工程を示す図である。本発明の第3の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理を施した、いわゆる脱酸油と、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理を施した、いわゆる脱酸油と、を混合して得た調合油に対して、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理を施すことで得られる。なお、脱ろう処理は、必要に応じて施される。
[0029]
図6は、本発明の第4の実施形態に係る食用油の製造工程を示す図である。本発明の第4の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理を施した、いわゆる脱色油と、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理を施した、いわゆる脱色油と、を混合して得た調合油に対して、脱ろう処理、脱臭処理を施すことで得られる。なお、脱ろう処理は、必要に応じて施される。」

(甲4-e)「[0033]
[製造例1]大豆油(脱酸油、脱色油、脱臭油)の製造方法
大豆抽出原油に、該大豆抽出原油に対して0.1質量%のリン酸を添加した後、リン酸と遊離脂肪酸とを中和するのに必要な量の1.1倍量の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加し、遠心分離によりガム質と石けんとを除去して、一次脱酸油を得た。次いで、該一次脱酸油に対して0.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加した後、遠心分離によりガム質と石けんとを更に除去し、温水にて洗浄して脱酸油を得た。そして、該脱酸油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。そして、該脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、脱臭油を得た。」

(甲4-f)「[0034]
[製造例2]パームオレイン油(RBD、脱色油、脱臭油)の製造方法
パームの原油に対して脱ガム処理、脱色処理を施した後、530パスカルの真空下、210℃で90分水蒸気を約3%吹き込み(脱酸・脱臭処理)、得られた油を分別し、RBDパームオレイン油を得た。次いで、該RBDパームオレイン油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。そして、該脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、脱臭油を得た。」

(4-g)「[0035]
[製造例3]菜種油(脱酸油、脱色油、脱臭油)の製造方法
菜種圧抽原油に、該菜種圧抽原油に対して0.1質量%のリン酸を添加した後、リン酸と遊離脂肪酸とを中和するのに必要な量の1.1倍量の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加し、遠心分離によりガム質と石けんとを除去して、一次脱酸油を得た。次いで、該一次脱酸油に対して0.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加した後、遠心分離によりガム質と石けんとを更に除去し、温水にて洗浄して脱酸油を得た。そして、該脱酸油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。そして、該脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、脱臭油を得た。」

(甲4-h)「[0036]
[実施例1]調合油:大豆油(脱酸油)+パームオレイン油(RBD)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(脱酸油)900gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(RBD,ヨウ素価:68)600gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去し(脱色処理)、得られた脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、実施例1の食用油を得た。
[0037]
[実施例2]調合油:大豆油(脱色油)+パームオレイン油(脱色油)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(脱色油)720gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(脱色油,ヨウ素価:68)480gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、実施例2の食用油を得た。
[0038]
[実施例3]調合油:大豆油(脱酸油)+菜種油(脱酸油)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(脱酸油)900gと製造例3に記載の方法により製造した菜種油(脱酸油)600gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、実施例1と同等の方法により脱色・脱臭処理を行い、実施例3の食用油を得た。
[0039]
[実施例4]調合油:大豆油(脱色油)+菜種油(脱色油)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(脱色油)720gと製造例3に記載の方法により製造した菜種油(脱色油)480gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、実施例2と同等の方法により脱臭処理を行い、実施例4の食用油を得た。
[0040]
[実施例5]調合油:菜種油(脱酸油)+パームオレイン油(RBD)
製造例3に記載の方法により製造した菜種油(脱酸油)900gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(RBD,ヨウ素価:68)600gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、実施例1と同等の方法により脱色・脱臭処理を行い、実施例5の食用油を得た。
[0041]
[実施例6]調合油:菜種油(脱色油)+パームオレイン油(脱色油)
製造例3に記載の方法により製造した菜種油(脱色油)720gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(脱色油,ヨウ素価:68)480gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、実施例2と同等の方法により脱臭処理を行い、実施例6の食用油を得た。」

(甲4-i)「[0042]
[比較例1]調合油:大豆油(原油)+パームオレイン油(RBD)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(原油)1200gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(RBD,ヨウ素価:68)800gとを混合し、得られた調合油に対して0.1質量%のリン酸を添加した後、リン酸と遊離脂肪酸とを中和するのに必要な量の1.1倍量の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加し、遠心分離によりガム質と石けんとを除去して、一次脱酸油を得た。次いで、該一次脱酸油に対して0.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加した後、遠心分離によりガム質と石けんとを更に除去し(脱酸処理)、温水にて洗浄して脱酸油を得た。そして、該脱酸油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去し(脱色処理)、脱色油を得た。そして、該脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、比較例1の食用油を得た。
[0043]
[比較例2]調合油:大豆油(脱臭油)+パームオレイン油(脱臭油)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(脱臭油)600gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(脱臭油,ヨウ素価:68)400gとを混合し、比較例2の食用油を得た。
[0044]
[比較例3]調合油:大豆油(原油)+菜種油(原油)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(原油)1200gと製造例3に記載の方法により製造した菜種油(原油)800gとを混合し、得られた調合油に対して、比較例1と同等の方法により、脱酸・脱色・脱臭処理を行い、比較例3の食用油を得た。
[0045]
[比較例4]調合油:大豆油(脱臭油)+菜種油(脱臭油)
製造例1に記載の方法により製造した大豆油(脱臭油)600gと製造例3に記載の方法により製造した菜種油(脱臭油)400gとを混合し、比較例4の食用油を得た。
[0046]
[比較例5]調合油:菜種油(原油)+パームオレイン油(RBD)
製造例3に記載の方法により製造した菜種油(原油)1200gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(RBD,ヨウ素価:68)800gとを混合し、得られた調合油に対して、比較例1と同等の方法により、脱酸・脱色・脱臭処理を行い、比較例5の食用油を得た。
[0047]
[比較例6]調合油:菜種油(脱臭油)+パームオレイン油(脱臭油)
製造例3に記載の方法により製造した菜種油(脱臭油)600gと製造例2に記載の方法により製造したパームオレイン油(脱臭油,ヨウ素価:68)400gとを混合し、比較例6の食用油を得た。」

(甲4-j)「[0048]
[曝光処理]
上記の食用油(実施例1?6及び比較例1?16)について、曝光処理を行った。上記の食用油の新油200gを500mL共詮つき三角フラスコに入れ、蛍光灯(強度:7000lux)の光を40時間照射し、曝光油を得た。
[0049]
[食用油の評価:風味及び臭気]
上記の食用油(実施例1?6及び比較例1?6)について、風味及び臭気の評価を行った。評価は、10名の専門パネラーが常温状態の食用油を1?2ml程度、口に含み、表1に示す評価基準(1?5の5段階評価)に従い、行った。そして、パネラー全員の評価点数の平均値を算出し、小数点第2位を四捨五入して評価点とした。評価結果を表2?4に示す。
[0050]
[表1]

[0051]
[表2]

[0052]
大豆油(脱酸油)とパームオレイン油(RBD)との調合油を脱臭処理したもの(実施例1)は、大豆油(脱臭油)とパームオレイン油(脱臭油)との調合油(比較例2)に比して、生風味、加熱臭ともに良好な結果を示した。この傾向は、新油、曝光油ともに認められた。また、大豆油(脱色油)とパームオレイン油(脱色油)との調合油を脱臭処理したもの(実施例2)についても、実施例1と同様の結果を示した。しかしながら、大豆油(原油)とパームオレイン油(RBD)との調合油を脱臭処理したもの(比較例1)は、比較例2と変わらない結果を示した。
[0053]
[表3]

[0054]
大豆油(脱酸油)と菜種油(脱酸油)との調合油を脱臭処理したもの(実施例3)は、大豆油(脱臭油)と菜種油(脱臭油)との調合油(比較例4)に比して、生風味、加熱臭ともに良好な結果を示した。また、大豆油(脱色油)と菜種油(脱色油)との調合油を脱臭処理したもの(実施例4)についても、実施例3と同様の結果を示した。しかしながら、脱酸処理の工程を経ていない大豆油(原油)と菜種油(原油)との調合油を脱臭処理したもの(比較例3)は、比較例4と変わらない結果を示した。
[0055]
[表4]

[0056]
菜種油(脱酸油)とパームオレイン油(RBD)との調合油を脱臭処理したもの(実施例5)は、菜種油(脱臭油)とパームオレイン油(脱臭油)との調合油(比較例6)に比して、生風味、加熱臭ともに良好な結果を示した。また、菜種油(脱色油)とパームオレイン油(脱色油)との調合油を脱臭処理したもの(実施例6)についても、実施例5と同様の結果を示した。しかしながら、菜種油(原油)とパームオレイン油(RBD)との調合油を脱臭処理したもの(比較例5)は、比較例6と変わらない結果を示した。
[0057]
表2?4の結果より、脱酸処理の工程を経た油脂を混合して調合油とした後、脱臭処理することにより、脱臭処理した油脂を調合するよりも、風味の良い調合油が得られることが分かった。」

(甲4-k)「[図1]

[図2]



オ 甲7に記載された事項
甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7-a)「現在のように,この物理精製法が特にマレーシアを中心に,パーム油,パーム核油の精製に採用されるようになったのは,
1) 果実の収穫から採油までの工程がスムーズに行われ,
2) リパーゼによる品質劣化対策や粗原油の酸化防止対策が充分になされ,
3) 品質が安定してきたこと,
4) 粗原油はガム質,リン脂質の含量が少なく,
5) また加熱で退色するカロテン以外の色素が少ないこと,
などの理由によるところが大きい.なかでも4)の,他の油脂に比べてパーム油,パーム核油が,粗原油の段階でガム質,リン脂質の含量が少ないことが,特にこの物理精製法にマッチした理由とされている.
・・・
物理精製法は,端的にいって,対象とする油脂の種類によって適,不適があり,この点,パーム油,パーム核油がこの方式に適している好例である.・・・
次に,この物理精製法に適した前処理条件の具体例を述べる.物理精製に供される原料油について,リン脂質や重金属の含量がどの程度であるかを知ることは大変重要なことであり,前処理工程でこれらをいかに低減できるかがポイントの1つである.
たとえばAlfa-Laval社は,物理精製に使用する粗原油およびその前処理条件として,
1) 非水和リン脂質が0.1%以下,鉄分2ppm以下の粗原油には,濃リン酸を加えた後,白土を加えて脱色する方法(dry-pretreatment)が良い.
2) 非水和リン脂質が0.5?0.1%,鉄分2ppm以下の粗原油には,wet-pretreatmentか,あるいはまたsuper degumingを必要とする.
などを挙げている.
Wet-pretreatmentについては,KockおよびZschau^(5))は,脱色の条件と白土の種類を検討し,リン分30ppmを含む油脂に1%の水を加えて,1%の白土で脱色し,リン分を5ppmに減らすことができたと報告している.
・・・なお,Zschau^(7))は,脱色工程で酸および水を加えて120℃で脱色することによって,表3.1のように,鉄分を大幅に減らすことができたと報告している.」(第52頁6?16行、第54頁1行?第55頁1行)

カ 甲8に記載された事項
甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8-a)「[0019]
・・・
食用油脂組成物の曝光臭の確認
使用する食用油脂組成物
パームオレイン〔ヨウ素価60〕(日清オイリオグループ(株)社製、商品名スーパーオレイン(S)、全構成脂肪酸中の不飽和結合を少なくとも一つ有する炭素数18の脂肪酸含量56.6質量%)、パームオレイン〔ヨウ素価68〕(INTERCONTINENTAL SPECIALTY FATS SDN.BHD社製、全構成脂肪酸中の不飽和結合を少なくとも一つ有する炭素数18の脂肪酸含量63.1質量%、構成脂肪酸中のオレイン酸含量48.4質量%、構成脂肪酸中のリノール酸含量14.4質量%、構成脂肪酸中のリノレン酸含量0.3質量%)及びキャノーラ油(菜種油)(日清オイリオグループ(株)社製、商品名日清キャノーラ油、構成脂肪酸中のオレイン酸含量61.0質量%、構成脂肪酸中のリノール酸含量質量19.6%、 構成脂肪酸中のリノレン酸含量10.3質量%)の各油脂を、単独又は以下の表1に示す配合で使用して評価を行った。」

キ 甲9に記載された事項
甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9-a)「[0033]
[表1]



(2)甲号証に記載された発明
ア 甲1に記載された発明
甲1には、パーム軟質油を多く含有するにもかかわらず、耐冷性に優れ、低温下にて保存しても濁りや結晶の析出が生じ難く、更に生風味も良好で、商品価値の高い食用油を製造することを課題とする(摘記甲1-c)食用油の製造方法、更に詳しくはパーム軟質油とパーム系油以外の植物油とを調合した食用油の製造方法が記載されており(摘記甲1-b)、具体的には、分別後に脱臭処理が施されていないパーム軟質油と、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が1?25質量%の、パーム系油以外の植物油とを、15:85?55:45の比率にて混合して得た調合油に、230?260℃の温度条件にて脱臭処理を施すことを特徴とする食用油の製造方法が記載されている(摘記甲1-a)。また、比較例1として、「製造例1に記載の方法により製造したパーム軟質油(脱色油)600gと製造例3に記載の方法により製造した大豆油(脱色油)900gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、220℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、比較例1の食用油を得た。」ことが記載されており(摘記甲1-f)、ここで、上記製造例1(パーム軟質油(脱色油)の製造方法)については、「パームの原油に対して脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を施し、得られた油を分別したRBDパーム軟質油(RBDパームオレイン油,ヨウ素価:65,INTERCONTINENTAL SPECIALTY FATSSDN.BHD社製)に、該RBDパーム軟質油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。」(摘記甲1-e)と記載されており、上記製造例3(大豆油(脱色油)の製造方法)については、「大豆抽出原油(構成脂肪酸中の飽和脂肪酸量:15.6質量%)に、該大豆抽出原油に対して0.1質量%のリン酸を添加した後、リン酸と遊離脂肪酸とを中和するのに必要な量の1.1倍量の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加し、遠心分離によりガム質と石けんとを除去して、一次脱酸油を得た。次いで、該一次脱酸油に対して0.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液(濃度:11%)を添加した後、遠心分離によりガム質と石けんとを更に除去し、温水にて洗浄して脱酸油を得た。そして、該脱酸油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。」(摘記甲1-e)と記載されている。そして、比較例1の食用油については、「パーム軟質油(脱色油)と大豆油(脱色油)とを混合し、調合油とした後に、脱臭処理を施した食用油であっても、220℃の温度条件にて脱臭処理を施した食用油(比較例1)では、食用油に曇りや結晶の析出は認められなかったが、生風味がやや悪かった。」(摘記甲1-g)との評価であったことが記載されている。
そうすると、甲1には、比較例1に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「パーム軟質油(脱色油)と大豆油(脱色油)とを混合し、調合油とした後に、脱臭処理を施す工程を含み、
前記脱臭処理は、約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、220℃で90分間吹き込む工程であり、
前記パーム軟質油(脱色油)は、パームの原油に対して脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を施し、得られた油を分別したRBDパーム軟質油に対して1.5質量%の活性白土を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去する工程により製造され、
前記大豆油(脱色油)は、大豆抽出原油からガム質と石けんとを除去した脱酸油に対して1.5質量%の活性白土を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去する工程により製造される、食用油の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 甲4に記載された発明
甲4には、風味が良好な調合油を製造することを課題とする(摘記甲4-c)食用油の製造方法が記載されており、具体的には、アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油、及び/又は蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油から選ばれる2種以上の植物油を混合して得た調合油に、脱臭処理を施すことを特徴とする食用油の製造方法が記載されている(摘記甲4-a)。また、製造例2(パームオレイン油(RBD、脱色油、脱臭油)の製造方法)として、「パームの原油に対して脱ガム処理、脱色処理を施した後、530パスカルの真空下、210℃で90分水蒸気を約3%吹き込み(脱酸・脱臭処理)、得られた油を分別し、RBDパームオレイン油を得た。次いで、該RBDパームオレイン油に対して1.5質量%の活性白土(水澤化学工業株式会社製)を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着させた後、ろ過により白土を除去して脱色油を得た。そして、該脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、脱臭油を得た。」ことが記載されている(摘記甲4-f)。ここで、製造例2の前段のパームオレイン油を得る工程には、「水蒸気を約3%吹き込み」と記載されているが、同後段の工程における「脱色油に対して約3質量%の水蒸気」との記載や、製造例1(摘記甲4-e)における「脱色油に対して約3質量%の水蒸気」との記載を参酌すると、前段における上記工程は、「脱色油に対して水蒸気を約3質量%吹き込」む工程の意味であると解することができる。
そうすると、甲4には、製造例2の前段の工程に基づいて、以下の発明が記載されているものと認められる。
「パームの原油に対して、脱ガム処理、脱色処理を施す工程の後、脱色油に対して、530パスカルの真空下、210℃で90分水蒸気を約3質量%吹き込む脱酸・脱臭処理を施す工程を含む、RBDパームオレイン油の製造方法。」(以下、「甲4発明」という。)

(3)理由1(新規性)及び理由2(2-i)(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「大豆油(脱色油)」、「パーム軟質油(脱色油)と大豆油(脱色油)とを混合」した「調合油」、「食用油」は、それぞれ本件発明1における「大豆油」、「原料油脂」、「精製油脂」に相当する。また、甲1発明における「脱臭処理を施す工程」は、温度条件が「220℃」、真空度が「約400パスカル」、水蒸気との接触時間が「90分間」、吹き込む水蒸気の量が「約3質量%」である点で、本件発明1における「脱臭工程」の「205?225℃」、「300?800Pa」、「53?100分間」、「原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して1.0?7.0質量%」という要件を満たすものである。さらに、甲1発明における「パーム軟質油(脱色油)」及び「大豆油(脱色油)」が、いずれも「脱臭処理を施す工程」の前に、「活性白土を添加し、減圧下110℃で20分間撹拌して色素を吸着」させる工程を含む方法により製造される点は、本件発明1における「脱臭工程の前に、前記原料油脂と、活性白土とを・・・接触させる脱色工程をさらに含む」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「原料油脂を脱臭する脱臭工程を含み、
前記脱臭工程は、220℃の温度条件にて、400Paの真空度で、90分間、前記原料油脂と、水蒸気とを接触させる接触工程を含み、
前記原料油脂は大豆油を含むものであり、
前記原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して約3質量%であり、
前記脱臭工程の前に、前記原料油脂と、活性白土とを接触させる脱色工程をさらに含む、精製油脂の製造方法。」である点で一致し、
相違点1:原料油脂が、本件発明1においては、「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂」であるのに対し、甲1発明においては「パーム軟質油(脱色油)と大豆油(脱色油)とを混合」した調合油である点
相違点2:原料油脂と活性白土とを接触させる脱色工程について、本件発明1においては、「原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させる」ことが特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようなことが明らかでない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1について
甲1には、甲1に記載された発明の背景技術として、パーム油が安価であり、しかも安定した供給が可能であり、特に、精製パーム油を分別したパーム軟質油は液状画分であり、淡白な風味と高い酸化安定性とを有することから、その利用価値が高いこと、及びパーム油等の植物油は、複数種を組み合わせることでより優れた特性を有する食用油が得られる場合があるが、パーム軟質油と他の液状油とを混合した調合油では、パーム軟質油由来の成分による濁りや結晶の析出が生じるため、パーム軟質油を少量しか含有させることができず、その結果、パーム軟質油の特性を調合油において活かすことが困難であったことが記載されており(摘記甲1-b)、このため、甲1に記載された発明は、「パーム軟質油を含有する食用油であって、耐冷性に優れ、低温下にて保存しても濁りや結晶の析出が生じ難く、更に生風味も良好な食用油を製造すること」(摘記甲1-c)を解決すべき課題として発明されたものであることが記載されている。そうすると、甲1に記載された発明においては、原料油脂はパーム軟質油を必須成分とし、かつ従来技術よりもより多く含有することが意図されているものと解され、具体的には、その請求項1において、「分別後に脱臭処理が施されていないパーム軟質油と、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が1?25質量%の、パーム系油以外の植物油とを、15:85?55:45の比率にて混合して得た調合油」(摘記甲1-a)を原料油脂として用いることが記載されている。
また、上記課題を解決する手段について、甲1には、分別後に脱臭処理を施していないパーム軟質油と、パーム系油以外の液状の植物油とを混合した調合油に、脱臭処理を施した食用油は、分別前に脱臭処理を施したパーム軟質油と、脱臭処理を施したパーム系油以外の液状の植物油とを混合したものに比して、低温下での濁りや結晶の析出が生じ難いことを見出し、発明を完成するに至ったことが記載されており(摘記甲1-c)、調合後の脱臭処理については、上記調合油に対して230?260℃の温度条件にて脱臭処理を施すことを特徴とし、脱臭処理の方法は、温度条件が230?260℃であれば、特に限定されるものではなく、常法により行うことができることが記載されている(摘記甲1-d)。
ここで、甲1に記載された比較例1(甲1発明)は、「製造例1に記載の方法により製造したパーム軟質油(脱色油)600gと製造例3に記載の方法により製造した大豆油(脱色油)900gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、220℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、比較例1の食用油を得た。」(摘記甲1-f)という製造方法であるところ、これに対応する実施例1として、脱臭処理の温度条件のみが異なる、「製造例1に記載の方法により製造したパーム軟質油(脱色油)600gと製造例3に記載の方法により製造した大豆油(脱色油)900gとを3Lのガラス容器に入れて混合し、得られた調合油に対して、約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、230℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、実施例1の食用油を得た。」(摘記甲1-e)という製造方法が記載されていることから、比較例1(甲1発明)は、甲1に記載された上記課題を解決する手段のうち、「230?260℃の温度条件にて脱臭処理を施す」構成が、作用効果にもたらす影響を評価するために設定されたものと解することができる。
そうすると、比較例1(甲1発明)は、上記課題を解決する手段のうちの原料油脂(調合油)の成分を変更することにより、実施例との対比を行うことまでは意図していない例であるといえるから、上記相違点1は実質的な相違点である。

また、上記のような比較例1(甲1発明)の位置づけからみて、甲1発明に対して、さらに原料油脂から「パーム軟質油」を除外し、「パーム系油以外の植物油」のみを原料油脂とする変更を加える動機付けがあるとはいえず、したがって、上記相違点1に係る構成に至ることは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
なお、甲2には、活性白土で油の漂白を行う場合、油中の水分は0.8%(8000ppm)までは漂白能力に影響することがなく、漂白前の乾燥工程は不要であることが記載され(摘記甲2-a)、甲3には、油脂の精製方法において、油脂に白土を加え、次いで油脂に対して0.1?2.0%(1000?20000ppm)の水を攪拌する脱色方法が記載され(摘記甲3-a)、甲8には、パームオレイン(パーム系油脂)が、その構成脂肪酸中にオレイン酸を48.4質量%及びリノール酸を14.4質量%含有することが記載され(摘記甲8-a)、甲9には、大豆油が、その構成脂肪酸中にオレイン酸を24重量%及びリノール酸を51重量%含有することが記載され(摘記甲9-a)ているが、これらの記載を参酌しても、当業者が甲1発明の原料油脂から「パーム軟質油」を除外することが動機付けられるものではないから、上記相違点1に係る構成に至ることは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
仮に、甲1の記載に基づいて、上記課題を解決する手段のうちの原料油脂(調合油)の成分を変更することにより、実施例との対比を行うことに当業者が思い至ったとしても、「精製パーム油を分別したパーム軟質油は液状画分であり、淡白な風味と高い酸化安定性とを有すること」(摘記甲1-b)が知られていること 及び比較例1の評価結果が「(比較例1)では、食用油に曇りや結晶の析出は認められなかったが、生風味がやや悪かった。」(摘記1-g)というものであることに鑑みれば、甲1発明の原料油脂(調合油)の成分から「パーム軟質油」を除外し、「パーム系油以外の植物油」のみを原料油脂とする変更を加えることによっては、食用油の生風味を比較例1よりも改善することはできないと予測される。しかし、本件特許明細書には、大豆油又はフラックス油を原料油脂として用いた実施例1?9、13により、油自体の風味及び調理に供した際の風味が良好な精製油脂を製造することができることが記載されており、原料油脂が「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂」である本件発明1により、パーム軟質油を原料油脂に含めなくとも、「風味が良好な精製油脂の製造方法が提供される」(本願特許明細書[0015])という効果が得られることを理解できるから、本件発明1は甲1の記載からは予測し得ない有利な効果を有するものといえる。また、そのような有利な効果は甲2、甲3、甲8、甲9の記載を参酌しても、予測することができない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年9月22日に提出した意見書において、「本件特許発明1は、パーム軟質油の使用を排除している訳ではないから、甲第1号証に記載の発明は、調合油に含まれる大豆油に着目すると、大豆油を220℃で脱臭していることに変わりはない。この点で、特許権者の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。そして、大豆油が220℃で脱臭されている以上、甲第1号証に記載の発明が本件特許発明1と同じ効果を奏することは明らかである。」(上記意見書の第4頁17?22行)と主張している。
しかし、本件発明1においては、「前記原料油脂は、大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂であり」と特定されているから、当該原料油脂の選択肢には「パーム軟質油」あるいはそれを含む調合油は含まれていないと解するのが妥当である。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)小活
上記のとおり、上記相違点1は実質的な相違点であるから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。よって、本件発明1は特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、上記のとおり、上記相違点1は甲1の記載及び周知技術(甲2、甲3、甲8、甲9)から当業者が容易に想到し得る構成ではないから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲1に記載された発明と周知技術(甲2、甲3、甲8、甲9)とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、いずれも本件発明1を引用する発明であり、甲1発明との対比においては、少なくとも上記5.(3)ア(ア)「本件発明1と甲1発明との対比」に記載した相違点1及び2の点で相違する。また、上記相違点1が実質的な相違点であり、かつ甲1、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載から当業者が容易に想到し得る構成でもないことは、上記5.(3)ア(イ)「相違点1について」において検討したとおりである。
よって、本件発明2?4は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明2?4は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲1に記載された発明と周知技術(甲2、甲3、甲8、甲9)とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明5?7について
本件発明5、6においては、いずれも原料油脂は「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上」であることが特定されており、本件発明7においては原料油脂が「大豆油」であることが特定されており、活性白土及び水との接触工程、並びに原料油脂と水蒸気との接触工程については、本件発明5?7のいずれも本件発明1と同様の条件であることが特定されている。そうすると、本件発明5?7と甲1発明との対比においては、少なくとも上記5.(3)ア(ア)「本件発明1と甲1発明との対比」に記載した相違点1及び2の点で相違する。また、上記相違点1が実質的な相違点であり、かつ甲1、甲2、甲3、甲8及び甲9の記載から当業者が容易に想到し得る構成でもないことは、上記5.(3)ア(イ)「相違点1について」において検討したとおりである。
よって、本件発明5?7は、いずれも甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明5?7は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲1に記載された発明と周知技術(甲2、甲3、甲8、甲9)とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 理由1(新規性)及び理由2(2-i)(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、当審が通知した理由1(新規性)及び理由2(2-i)(進歩性)の取消理由によって、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

(4)理由2(2-ii)(進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア)本件発明1と甲4発明との対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「原油」、「RBDパームオレイン油」は、それぞれ本件発明1における「原料油脂」、「精製油脂」に相当する。また、甲4発明における「脱酸・脱臭処理を施す工程」は、温度条件が「210℃」、真空度が「約530パスカル」、水蒸気との接触時間が「90分間」、吹き込む水蒸気の量が「約3質量%」である点で、本件発明1における「脱臭工程」の「205?225℃」、「300?800Pa」、「53?100分間」、「原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して1.0?7.0質量%」という要件を満たすものである。さらに、甲4発明において、「脱酸・脱臭処理を施す工程」が、パームの原油に対して「脱色処理を施す工程」の後、脱色油に対して行われる点は、本件発明1における「脱臭工程の前に・・・脱色工程をさらに含む」ことに相当する。
そうすると、両者は、
「原料油脂を脱臭する脱臭工程を含み、
前記脱臭工程は、210℃の温度条件にて、530Paの真空度で、90分間、前記原料油脂と、水蒸気とを接触させる接触工程を含み、
前記原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して約3質量%であり、
前記脱臭工程の前に、脱色工程をさらに含む、精製油脂の製造方法。」である点で一致し、
相違点1’:原料油脂が、本件発明1においては、「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂」であるのに対し、甲4発明においては「パームの原油」である点
相違点2’:脱色工程について、本件発明1においては、「原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させる」ことが特定されているのに対し、甲4発明においてはそのようなことが特定されていない点
で相違する。
そこで、上記相違点について検討する。

(イ)相違点1’について
(イ-1)フィジカルリファイニングについて
甲4発明は、「RBDパームオレイン油」の製造方法であるところ(摘記甲4-f)、甲4には、「『RBD:Refined Bleached Deodorized』とは、図2に示すフィジカルリファイニングによる精製がなされた油脂であり、アルカリによる脱酸処理ではなく、蒸留による脱酸・脱臭処理が施された油脂のことをいう。なお、該油脂は、図2に示すように、脱酸・脱臭処理の後に分別されてもよい。」(摘記甲4-b)と記載されている。また、フィジカルリファイニングについては、「フィジカルリファイニングとは、パーム油やヤシ油等でよく利用されている精製方法であり、原料となるパームやヤシ等を圧搾した原油が、脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。フィジカルリファイニングは、ケミカルリファイニングとは異なり、脱酸処理にアルカリを使用せず、最後の脱酸・脱臭処理が薄膜式減圧水蒸気蒸留装置等により行われる。」(摘記甲4-b)ことが記載されている。
さらに、甲7には、物理精製法について、「物理精製法は,端的にいって,対象とする油脂の種類によって適,不適があり,この点,パーム油,パーム核油がこの方式に適している好例である.」こと、及び「現在のように,この物理精製法が特にマレーシアを中心に,パーム油,パーム核油の精製に採用されるようになったのは,
1) 果実の収穫から採油までの工程がスムーズに行われ,
2) リパーゼによる品質劣化対策や粗原油の酸化防止対策が充分になされ,
3) 品質が安定してきたこと,
4) 粗原油はガム質,リン脂質の含量が少なく,
5) また加熱で退色するカロテン以外の色素が少ないこと,
などの理由によるところが大きい.なかでも4)の,他の油脂に比べてパーム油,パーム核油が,粗原油の段階でガム質,リン脂質の含量が少ないことが,特にこの物理精製法にマッチした理由とされている.」ことが記載されている(摘記甲7-a)。
そうすると、甲4発明は、原料油脂が「パームの原油」であることに対応して、パーム油、パーム核油の精製に適した油脂の精製方法である「フィジカルリファイニング」の方法で脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を順に施し、RBDパームオレイン油を製造する方法の発明であると解することができる。

(イ-2)甲4に記載された発明の課題及び解決手段について
甲4には、甲4に記載された発明が解決しようとする課題が、「良好且つ安定な風味を有する食用油の製造方法、及び該方法により製造された食用油を提供することにある。」ことが記載され(摘記甲4-a)、当該課題を解決する手段として、「アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油、及び/又は蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油から選ばれる2種以上の植物油を混合して得た調合油に、脱臭処理を施すことを特徴とする食用油の製造方法。」を採用することが記載されているところ(摘記甲4-a)、「アルカリによる脱酸処理が施され、且つ脱臭処理が施されていない植物油」とは、「ケミカルリファイニングにおいて行われる、水酸化ナトリウム等のアルカリによる遊離の脂肪酸の除去(脱酸処理)がなされた植物油であって、脱臭処理が施されていないものをいう。」(摘記甲4-b)こと、及び「蒸留による脱酸処理が施され、且つアルカリによる脱酸処理が施されていない植物油」とは、「フィジカルリファイニングにおいて行われる、蒸留による遊離の脂肪酸の除去(脱酸・脱臭処理)がなされた植物油をいう。」(摘記甲4-b)ことが記載されている。
また、その実施形態としては、第1?第4の実施形態が記載されており(摘記甲4-d)、
第1の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理を施した、いわゆる脱酸油と、フィジカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を施し、更に分別した、いわゆるRBDと、を混合して得た調合油に対して、脱色処理、脱臭処理を施すことで得られること、
第2の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理を施した、いわゆる脱色油と、フィジカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理を施し、更に分別した、いわゆるRBDと、を混合して得た調合油に対して、脱臭処理を施すことで得られること、
第3の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理を施した、いわゆる脱酸油と、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理を施した、いわゆる脱酸油と、を混合して得た調合油に対して、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理を施すことで得られること、
第4の実施形態に係る食用油は、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理を施した、いわゆる脱色油と、ケミカルリファイニングにおいて脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理を施した、いわゆる脱色油と、を混合して得た調合油に対して、脱ろう処理、脱臭処理を施すことで得られること、
が記載されている。
そうすると、甲4発明(RBDパームオレイン油の製造方法)は、上記第1の実施形態又は第2の実施形態における「RBD」を製造する方法に相当するから、甲4発明を実施するのみでは、甲4に記載された「良好且つ安定な風味を有する食用油の製造方法」を提供するという課題を解決することはできないと解される。

(イ-3)甲4発明の原料油脂を変更することについて
甲4には、甲4に記載された食用油の製造方法において原料として用いることのできる植物油について、「植物由来の油脂であれば、特に限定されるものではなく、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ヒマワリ油、紅花油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、ブドウ種子油、クルミ油、エゴマ油、小麦胚芽油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、パーム系油等が挙げられる。」(摘記甲4-c)ことが記載されている。
また、上記5.(4)ア(イ)(イ-2)「甲4に記載された発明の課題及び解決手段について」において検討したとおり、甲4に記載された課題を解決する手段としては、「RBD」を用いる上記第1の実施形態又は第2の実施形態以外に、「ケミカルリファイニング」の方法で原料油脂に脱ガム処理、脱酸処理を施した脱酸油、又はさらに脱色処理を施した脱色油を用いる第3又は第4の実施形態を採用することができることが記載されている(摘記甲4-d)。
そこで、甲4発明の原料油脂として、「パームの原油」に代えて、上記例示された大豆油、コーン油、綿実油又は亜麻仁油を用いることができるかについて検討すると、上記5.(4)ア(イ)(イ-1)「フィジカルリファイニングについて」において検討したとおり、甲4発明の「フィジカルリファイニング」の方法は、パーム油やヤシ油等でよく利用されている精製方法であり(摘記甲4-b)、他の油脂に比べてパーム油、パーム核油は、粗原油の段階でガム質、リン脂質の含量が少ないことから、物理精製法にマッチした(摘記甲7-a)ものとされていること、及び物理精製法は、対象とする油脂の種類によって適、不適があり、パーム油、パーム核油はこの方式に適している好例(摘記甲7-a)とされれるものであるから、甲4発明の原料油脂を「パームの原油」とは異なる植物油、すなわち、粗原料油の段階でパーム原油よりもガム質、リン脂質の含量が多い植物油に変更することは、物理精製法に必ずしも適さない植物油を出発原料として選択することに当たり、甲4に記載された「良好且つ安定な風味を有する食用油の製造方法」の提供という課題の解決の点からは、望ましい変更に当たるとは考え難い。また、原料油脂の変更に合わせて、フィジカルリファイニングによる脱酸・脱臭処理の条件(温度、真空度、水蒸気との接触時間、及び吹き込む水蒸気の量)を調整するとしても、調整後の条件が本件発明1において特定される条件と一致するかどうか、上記の証拠からは明らかでないし、本件発明1において特定される処理条件が、「パームの原油」以外の植物油のフィジカルリファイニングによる処理条件として、本件特許の出願時において周知の技術的事項であったとも認められない。
よって、甲4発明において、単に原料油脂を置き換えることにより上記相違点1’に相当する構成に至ることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

(イ-4)甲4発明の精製法をケミカルリファイニングに変更することについて
念のため、甲4発明における原料油脂を「パームの原油」とは異なる植物油に変更するとともに、甲4発明の精製法をケミカルリファイニングに変更することについても検討する。
甲4には、ケミカルリファイニングについて、「原料となる植物を圧搾・抽出した原油が、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理を経ることで精製され、精製油となる。」精製法である旨が記載されており(摘記甲4-b)、ケミカルリファイニングの具体例としては製造例1(摘記甲4-e)が記載されているが、大豆抽出原油を脱酸処理、脱色処理した後、脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、脱臭油を得たことが記載されているから、脱臭処理における温度が250℃である点で、本件発明1の205?225℃という温度条件と相違している。また、原料油脂を菜種圧抽原油とする製造例3(摘記甲4-g)のケミカルリファイニングにおいても、「脱色油に対して約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込み(脱臭処理)、脱臭油を得た。」ことが記載されているから、脱臭処理における温度が250℃である点で、本件発明1の205?225℃という温度条件と相違している。そうすると、仮に、甲4発明における原料油脂を「パームの原油」とは異なる植物油に変更するとともに、甲4発明の精製法をケミカルリファイニングに変更することができるとしても、脱臭工程における温度条件が本件発明1において特定される205?225℃に設定されるか、明らかではない。

(イ-5)脱臭処理の温度条件について
本件特許明細書には、本件発明が「風味が良好な精製油脂の製造方法を提供すること」([0006])を解決しようとする課題とするものであること、脱臭工程の温度条件については、「温度条件が205℃以上であると、原料油脂の脱臭を十分に行うことができ、風味が良好な精製油脂が得られ、調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。温度条件が225℃以下であると、得られる精製油脂の風味の低減を抑制でき、調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。」([0018])こと、及び、その理由については、「通常、脱臭工程は、高い温度条件(240?260℃)下で行われるので、主に揮発成分であるにおい成分を油脂から除去できると考えられている。しかし、本発明によれば、意外にも、脱臭工程を従来よりも低い温度条件下で行うことによって、油脂中のにおい成分(特に、アルデヒド類)の量をより低減できる。これは、通常の脱臭工程においては、高温下で副産物等が生成してしまい、この副産物等が新たなにおいを生んでいた可能性を示す。他方、本発明によれば、このような副産物の生成を抑制できるものと推測される。」([0019])と記載されている。さらに、本件特許明細書には、脱臭工程の温度条件を220?210℃に設定した実施例1?13と、255℃又は180℃とした比較例1、2、5、6、8?14との比較により、本件発明1における温度条件が上記発明の課題解決にもたらす有利な効果を確認することができる。
これに対して、甲4においては、上記5.(4)ア(イ)(イ-4)「甲4発明の精製法をケミカルリファイニングに変更することについて」において検討したとおり、ケミカルリファイニングの具体例(製造例1、3)においては、脱臭工程における温度条件は250℃が採用されている。
また、甲4には、上記第1?第4の実施形態において、調合油に対して最終的に脱臭処理を施すこと、及び上記実施形態を採用することにより、風味が良好となる旨が記載されており(摘記甲4-d)、「脱臭処理の方法は、特に限定されるものではなく、油脂の精製において通常行われる減圧水蒸気蒸留が挙げられる。該方法では、例えば、油脂に対して0.5?10質量%の水蒸気を、220?260℃で40?100分間吹き込む。」ことが記載されている(摘記甲4-d)が、甲4に記載された実施例1?6及び対応する比較例1?6においては、調合油(又はその脱色油)に対して最終的に施す脱臭処理は、いずれも「約3質量%の水蒸気を約400パスカルの真空下、250℃で90分間吹き込」むという条件で行われているから(摘記甲4-h、4-i)、甲4の具体例において採用されている調合油に対する脱臭処理の温度条件も、本件発明1の温度条件と相違する。
さらに、甲4においては、脱臭処理の温度条件として「220?260℃」という温度範囲が一応記載されているものの、本件特許明細書に記載された「脱臭工程を従来よりも低い温度条件下で行うことによって、油脂中のにおい成分(特に、アルデヒド類)の量をより低減できる。」との課題及び作用効果については認識されているとはいえないから、甲4の具体例で採用された「250℃」より低い「220?225℃」の温度を積極的に採用することが当業者に動機付けられるとはいえないし、かつそのような温度範囲を選択することにより精製油の風味改善という有利な効果が得られることを、当業者が甲4の記載から予測し得たともいえない。
そうすると、上記相違点1’について、原料油脂を「パームの原油」とは異なる植物油に変更するとともに、甲4発明の精製法をケミカルリファイニングに変更することにより、本件発明1のようにすることについても、当業者が容易に想到し得たこととすることはできない。

(イ-6)周知技術(甲第3、8号証)との組合せについて
取消理由において引用した甲3(摘記甲3-a?甲3-b)及び甲8(摘記甲8-a)の記載を参酌しても、上記相違点1’について、原料油脂を「パームの原油」とは異なる植物油に変更すること、及び甲4発明の精製法をケミカルリファイニングに変更することにより、本件発明1のようにすることについて、当業者が容易に想到し得たこととすることはできない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年9月22日に提出した意見書において、「化学精製法と物理精製法はいずれも油脂の精製方法であり、化学精製法に代えて物理精製法することは周知である。例えば、甲第11号証・・・甲第12号証・・・。したがって、甲第4号証に記載の発明において、パームオレインに代えて大豆油を使用することは当業者にとって容易に想到し得る事項である。」(上記意見書の第11頁13?19行)、「2つの精製方法では、脱臭温度の違いや、目的とする油脂の種類の違い等に相違点があることは当然であり、その相違点だけに着目して物理精製法と化学精製法とを組み合わせることは容易ではないとすることは誤りである。物理精製に関する発明と化学精製に関する発明とを組み合わせることは容易であるか否かを判断するためには、精製の目的が異なるか否か、脱色の目的が異なるか否かで判断すべきである。」(上記意見書の第12頁26?31行)と主張している。
しかし、上記のとおり、甲4及び甲3、7、8の記載に基づいて、当業者が上記相違点1’の構成に至ることは当業者が容易に想到し得ることとはいえず、かつそれにより本件発明1は精製油の風味改善において有利な効果を奏するものと解される。また特許異議申立人が新たに提出した頁11及び頁12号証の記載を参酌しても、甲4発明の原料油脂として「パーム軟質油」以外の油脂を用い、かつその脱臭処理において本件発明1において特定されている「205?220℃」という温度条件を含む処理条件を採用することが、当業者にとって容易なことであるとはいえないし、そのような温度条件を採用することによる有利な効果を当業者が予測し得たとはいえない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)小活
上記のとおり、上記相違点1’は、取消理由において引用した甲4の記載及び周知技術(甲3、甲7、甲8)から当業者が容易に想到し得る構成ではないから、上記相違点2’について検討するまでもなく、本件発明1は甲4に記載された発明と上記周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、いずれも本件発明1を引用する発明であり、甲4発明との対比においては、少なくとも上記5.(4)ア(ア)「本件発明1と甲4発明との対比」に記載した相違点1’及び2’の点で相違する。また、上記相違点1が甲4、甲3、甲7及び甲8の記載から当業者が容易に想到し得る構成ではないことは、上記5.(4)ア(イ)「相違点1’について」において検討したとおりである。
よって、本件発明2?4は、いずれも甲4に記載されたと周知技術(甲3、甲7、甲8)とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

ウ 本件発明5?7について
本件発明5、6においては、いずれも原料油脂は「大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上」であることが特定されており、本件発明7においては原料油脂が「大豆油」であることが特定されており、活性白土及び水との接触工程、並びに原料油脂と水蒸気との接触工程については、本件発明5?7のいずれも本件発明1と同様の条件であることが特定されている。そうすると、本件発明5?7と甲4発明との対比においては、少なくとも上記5.(4)ア(ア)「本件発明1と甲4発明との対比」に記載した相違点1’及び2’の点で相違する。また、上記相違点1’が甲4、甲3、甲7及び甲8の記載から当業者が容易に想到し得る構成ではないことは、上記5.(4)ア(イ)「相違点1’について」において検討したとおりである。
よって、本件発明5?7は、いずれも甲4に記載されたと周知技術(甲3、甲7、甲8)とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

エ 理由2(2-ii)(進歩性)についてのまとめ
以上のとおりであるから、当審が通知した理由2(2-ii)(進歩性)の取消理由によって、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

(5)理由3(委任省令要件)について
ア 本件発明1、5?7について
本件発明1、5?7の脱臭工程における「205?225℃の温度条件」の技術上の意義について、本件特許明細書の[0018]には、「本発明における接触工程では、原料油脂と水蒸気とを、205?225℃・・・の温度条件にて接触させる。温度条件が205℃以上であると、原料油脂の脱臭を十分に行うことができ、風味が良好な精製油脂が得られ、調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。温度条件が225℃以下であると、得られる精製油脂の風味の低減を抑制でき、調理に供した際の風味の低減、及び他材料との風味バランスの悪化を抑制できる。」と記載され、また、[0019]には、「通常、脱臭工程は、高い温度条件(240?260℃)下で行われるので、主に揮発成分であるにおい成分を油脂から除去できると考えられている。しかし、本発明によれば、意外にも、脱臭工程を従来よりも低い温度条件下で行うことによって、油脂中のにおい成分(特に、アルデヒド類)の量をより低減できる。これは、通常の脱臭工程においては、高温下で副産物等が生成してしまい、この副産物等が新たなにおいを生んでいた可能性を示す。他方、本発明によれば、このような副産物の生成を抑制できるものと推測される。」と記載されている。さらに、これらの記載を裏付ける実験データとして、本件特許明細書には、脱臭工程の温度条件を220?210℃に設定した実施例1?13と、255℃又は180℃とした比較例1、2、5、6、8?14の実験データも記載されている。これらの記載に基づいて、当業者は本件発明1、5?7における温度条件の数値範囲の技術上の意義を理解することができるものといえる。
また、特許権者は、平成29年8月4日に提出した意見書に実験成績証明書を添付しているが、当該証明書に記載された実験データも、本件特許明細書の記載と矛盾するものではない。
さらに、平成29年6月1日付け取消理由において引用した甲1には、「分別後に脱臭処理が施されていないパーム軟質油と、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸の含有量が1?25質量%の、パーム系油以外の植物油とを、15:85?55:45の比率にて混合して得た調合油」という特定の混合油を用いて、230℃以上の温度条件で脱臭処理を行うことにより、生風味が良好な食用油が得られたことが記載されているが、甲1の記載に基づいても、本件発明1の特定の原料油脂についても230℃以上の温度条件にて脱臭処理を行うことにより、風味の良好な食用油を製造できることが、当該技術分野における技術常識であるということもできない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1、5?7における温度条件の数値範囲の技術上の意義を理解することができるように記載されたものといえる。

イ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年9月22日に提出した意見書において、「取消理由通知書において認定されている通り、230℃以上の温度条件にて脱臭処理を行ったとしても、通常は、風味の良好な食用油を製造できることが当該技術分野の技術常識といえる。」(上記遺意見書の第15頁10?12行)と主張しているが、甲1に記載されている発明は、上記のとおり、パーム軟質油を含む特定の混合油を用いて、230℃以上の温度条件で脱臭処理を行うことにより、生風味が良好な食用油が得られたというものであるから、甲1の記載を参酌しても、本件発明が技術上の意義を有さないということはできない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ 理由3(委任省令要件)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1、5?7は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、当審が通知した理由3(委任省令要件)の取消理由によって、本件請求項1、5?7に係る特許を取り消すことはできない。

(6)理由4(サポート要件)について
ア 理由(4-i)(サポート要件)について
(ア)本件発明1?6について
本件特許明細書の[0006]の記載からみて、本件発明の課題は、「風味が良好な精製油脂の製造方法を提供すること」にあるものと解され、また、[0005]の記載からみて、「特に、大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油及びパーム系油脂」の製造方法において、上記の課題解決のニーズがあるものと解される。
さらに、本件特許明細書の[0035]には、本件発明を適用する原料油脂について、「大豆油、コーン油、綿実油、フラックス油(亜麻仁油)及びパーム系油脂からなる群から選択される1種以上の油脂である」ことが記載されているが、[0036]には、「原料油脂の構成脂肪酸中のリノール酸に対するオレイン酸の比率(・・・「オレイン酸/リノール酸」・・・)が5.0以下、より好ましくは4.0以下、さらに好ましくは2.0以下、最も好ましくは1.0以下であると、本発明の効果を奏しやすいので好ましい。」こと、及び、「通常、「オレイン酸/リノール酸」は、大豆油では0.4?0.5、コーン油では0.4?0.6、綿実油では0.4?0.5、フラックス油では0.7?2.0、パーム系油脂では3.0?5.0である。」ことが記載されていることから、本件発明1における原料油脂の選択肢のうち、大豆油、コーン油及び綿実油は、「オレイン酸/リノール酸」の低いものであり、フラックス油がそれに次ぐものであり、本件訂正により本件発明1の原料油脂の選択肢から削除されたパーム系油は、上記の群のなかでは最も「オレイン酸/リノール酸」が高いものであることが理解できる。
そして、本件特許明細書には、原料油脂として大豆油(「オレイン酸/リノール酸」=0.45)を用いた実施例1?9([0054]表1、[0068]表5、[0074]表6)及びフラックス油(「オレイン酸/リノール酸」=0.94)を用いた実施例13([0082]表9)が、実際に上記課題を解決し得ることが記載されているとともに、べに花油(「オレイン酸/リノール酸」=5.5)を用いた比較例6、7及びひまわり油(「オレイン酸/リノール酸」=14.0)を用いた比較例8、9([0056]表3)では、風味が劣ることが記載されており、「表3に示される通り、原料油脂として、「オレイン酸/リノール酸」の値が高いべに花油及びひまわり油を使用しても、本発明の効果は得られにくい。これは、本発明の製造方法が、構成脂肪酸中のリノール酸に対するオレイン酸の比率が低い(例えば5.0以下)原料油脂の精製に適していることを示唆する。」([0059])と記載されている。
そうすると、当業者であれば、上記実施例及び比較例の結果と、上記[0035]?[0036]の説明に鑑みて、原料油脂が、実施例で実際に実験された大豆油及びフラックス油である場合に加え、「オレイン酸/リノール酸」が大豆油と同程度であるコーン油及び綿実油においても、上記課題を解決し得るものと理解することができるから、本件発明1?6において、原料油脂の選択肢とされているいずれの植物油を用いても、上記課題を解決し得るものと当業者は理解することができる。
また、特許権者は、平成29年8月4日に提出した意見書に実験成績証明書を添付しているが、当該証明書に記載された実験データも、本件特許明細書の記載と矛盾するものではない。
よって、本件発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、上記課題を解決し得るものとして実質的に記載されたものといえる。

(イ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年9月22日に提出した意見書において、「本件特許明細書には、確かに、「オレイン酸/リノール酸」が5.0以下である原料油脂は本件特許発明の効果が奏されやすいと記載されている。しかしながら、本件特許発明の効果が奏されやすいと記載されているだけであり、「オレイン酸/リノール酸」が5.0以下の油脂に関して必ず本件特許発明の効果が奏されるとは本件特許明細書の記載からは認められない。」(上記意見書の第16頁1?6行)と主張している。
しかし、上記5.(6)ア(ア)「本件発明1?6について」において検討したとおり、本件特許明細書の記載から、当業者は「オレイン酸/リノール酸」の値を目安として、上記課題を解決し得る原料油の種類を理解することができると合理的に推測できるから、コーン油及び綿実油についての具体的な実験データが記載されていないとしても、そのことによって本件発明1?6が発明の詳細な説明の記載によって十分に支持されていないとまではいえない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)理由(4-i)(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?6は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、当審が通知した理由(4-i)(サポート要件)の取消理由によって、本件請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。

イ 理由(4-ii)(サポート要件)について
(ア)本件発明1?6について
本件特許明細書の[0006]の記載からみて、本件発明の課題は、「風味が良好な精製油脂の製造方法を提供すること」にあるものと解される。
また、本件特許明細書の[0033]には、脱色工程の水の量について、「水の量が原料油脂に対して100ppm以上であると、原料油脂を十分に脱色できる。水の量が原料油脂に対して15000ppm以下であると、脱色効率を低下させずに原料油脂を脱色できる。」と記載されており、具体的には、水の量を4000ppmとした実施例1?5([0054]表1)、800ppmとした実施例6([0068]表5)、6000?400とした実施例7?9([0074]表6)、550ppmとした実施例11、12([0078]表7)、3400ppmとした実施例13([0082]表9)が、実際に上記課題を解決し得ることが記載されている。また、上記実施例のうち、水の量を400ppmとした実施例9は、油の風味評価、曝光臭及び風味の総合評価がいずれも良好(◎)であったのに対して、水の量を50ppmとした実施例10([0074]表6、水の量以外の処理条件は実施例9と同じ)は、油の風味評価においては良好(◎)であるものの、曝光臭の評価がやや劣り(△)、風味の総合評価において他の実施例よりやや劣る(○)ことが記載されている。
そうすると、当業者であれば、上記実施例及び比較例の結果と、上記[0033]等の説明に鑑みて、水の量が50ppmでは上記課題に照らして少々不足(△?○)であるものの、50ppmより増やした100ppm程度であれば上記課題を解決することができ、さらに400ppmまで増やせば、上記課題を十分に解決することができる(◎)ようになると理解することができる。
また、特許権者は、平成29年8月4日に提出した意見書に実験成績証明書を添付しているが、当該証明書に記載された実験データも、本件特許明細書の記載と矛盾するものではない。
よって、本件発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、上記課題を解決し得るものとして実質的に記載されたものといえる。

(イ)本件発明7について
本件特許明細書の[0014]の記載からみて、本件発明7の課題は、「大豆油の耐冷性を改善する」ことにあるものと解される。
また、本件特許明細書の[0041]には、本件発明7の「上記接触工程を少なくとも含む脱臭工程を含む本発明の製造方法によれば、大豆油の耐冷性を改善することができる。」こと、[0042]には、「大豆油の耐冷性を改善しようとする場合、上記接触工程を含む脱臭工程の前に、上記脱色工程を行ってもよい。」ことが記載され、脱色工程の水の量については、「水の量が原料油脂に対して100ppm以上であると、原料油脂を十分に脱色できる。水の量が原料油脂に対して15000ppm以下であると、脱色効率を低下させずに原料油脂を脱色できる。」([0033])と記載されている。
さらに、具体例としては、水の量を550ppmとした実施例11、12に対して、水の量を550ppmとした、かつ脱臭温度を255℃とした比較例12、14、及び水の量を6000ppmとし、脱臭温度を255℃とした比較例11、13が記載されており([0078]表8?[0079]表9)、「表8に示される通り、同一ロットの大豆油どうしを比較すると、本発明の製造方法から得られる大豆油においては、ゲル化するまでに要した時間が長く、大豆油の耐冷性が改善していることがわかる。」([0080])と記載されており、さらに、比較例11と比較例12(水分量相違は6000ppmと550ppm、脱臭温度はいずれも255℃)のゲル化時間はどちらも40時間であったのに対し、実施例11(水分量は比較例12と同じ、脱臭温度は220℃)のゲル化時間は62時間であったこと、及び比較例13、14と実施例12においても同様の傾向が読み取れる。
そうすると、当業者であれば、上記実施例及び比較例の結果から、ゲル化の抑制のためには脱臭工程における条件が特に重要であることを理解することができ、また、水分量が6000ppmである比較例11も、仮に脱臭温度を実施例と同じ220℃とすれば、比較例12から実施例11への変化と同様にゲル化時間が長くなると理解する。また、[0033]等の記載を参酌すると、水の量が550ppmである場合に限らず、100?15000ppmの範囲で、実施例11、12と同じようにゲル化時間の改善効果が得られると理解することができる。
さらに、特許権者は、平成29年8月4日に提出した意見書に実験成績証明書を添付しているが、当該証明書に記載された実験データも、本件特許明細書の記載と矛盾するものではない。
よって、本件発明7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、上記課題を解決し得るものとして実質的に記載されたものといえる。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成29年9月22日に提出した意見書において、「本件特許明細書には、水分量が100ppmにおいて本件特許発明の効果が奏されることが記載されておらず、且つ、油脂に対する水の量が100ppm程度の場合、十分な脱色効果等を発揮するかは技術常識とは言えない以上、特許権者の主張は誤りである。」(上記意見書の第16頁20?23行)と主張している。
しかし、上記5.(6)イ(ア)「本件発明1?6について」及び5.(6)イ(イ)「本件発明7について」において検討したとおり、本件特許明細書の記載から、当業者は実施例で採用された水分量に限らず、本件発明1?7において特定される範囲で上記課題を解決し得ると理解することができるから、水分量が100ppmの場合の実験データが本件特許明細書に記載されていないとしても、そのことによって本件発明1?7が発明の詳細な説明の記載によって十分に支持されていないとまではいえない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)理由(4-ii)(サポート要件)についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?7は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、当審が通知した理由(4-ii)(サポート要件)の取消理由によって、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。

6.特許異議申立理由について
(1)特許異議申立の要旨について
特許異議申立人が、特許異議申立書において申し立てている特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
申立理由1(新規性)
本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである(周知引例:甲2、甲8、9、10)。
申立理由2(進歩性)
(2-i)本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2、3、8、9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
(2-ii)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の優先日前日本国内又は外国において頒布された甲第4号証に記載された発明及び甲第3、5?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、上記請求項に係る特許は取り消すべきものである。
申立理由3(サポート要件)
本件特許明細書には、本件発明1?4に規定する原料のうち、パーム系油脂、コーン油又は綿実油を用いた実施例はない。また、本件発明5、6に関しても、フラックス油、パーム系油脂、コーン油又は綿実油を用た実施例はない。よって、本件特許の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2011-72192号公報(取消理由通知の甲1)
甲第2号証:安田耕作、渡辺寿,「油脂精製工程における問題点」,油化学,日本,社団法人日本油化学会,1967年,第16巻,第5号,259?266頁(取消理由通知の甲2)
甲第3号証:特開昭56-21555号公報(取消理由通知の甲3)
甲第4号証:特開2010-202774号公報(取消理由通知の甲4)
甲第5号証:国際公開第2012/130745号
甲第6号証:特表平9-500916号公報
甲第7号証:加藤秋男編著,「パーム油・パーム核油の利用」,初版第1刷,日本,株式会社幸書房,1990年7月31日,52、54、55頁(取消理由通知の甲7)
甲第8号証:特開2009-100734号公報(取消理由通知の甲8)
甲第9号証:特開2011-62093号公報(取消理由通知の甲9)
甲第10号証:阿部芳郎監修,「油脂・油糧ハンドブック」,初版第1刷,日本,株式会社幸書房,昭和63年5月25日,21頁
(以下、「甲第1号証」?「甲第10号証」をそれぞれ「甲1」?「甲10」という。まとめて、「甲号証」ということもある。)

(2)申立理由1(新規性)及び申立理由2(2-i)(進歩性)について
本件発明1?7についての申立理由1(新規性)及び本件発明1?4についての申立理由2(2-i)(進歩性)は、いずれも甲1を主引例とするものであり、取消理由通知に記載した理由1(新規性)及び理由2(2-i)(進歩性)の取消理由と主な論理付けは同じである。そうすると、上記5.(3)「理由1(新規性)及び理由2(2-i)(進歩性)について」において検討したとおりの理由により、申立理由1(新規性)及び申立理由2(2-ii)(進歩性)は、いずれも理由がないものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の第27頁において甲10を引用し、「例えば、甲第10号証に示すように、臭いの元であるアルデヒド類含有量を低減させることは、油脂精製(とくに脱臭工程)の目的そのものであり、油脂精製によって得られる効果である(同号証の21頁の表4.7参照)。
このように、甲第1号証は、本件特許発明5の前記要件Lを内在するものであるから、甲第1号証には、本件特許発明5の前記要件・・・が全て記載されている。したがって、本件特許発明5は甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号により拒絶されるべきものである。」と主張している。
しかし、甲10の上記記載を参酌しても、上記5.(3)「理由1(新規性)及び理由2(2-i)(進歩性)について」において検討した、本件発明1と甲1発明との相違点である相違点1を解消することはできないから、本件発明1と原料油脂の種類、活性白土及び水との接触工程、並びに原料油脂と水蒸気との接触工程について同じように特定されている本件発明5も、同じ理由により、相違点1を解消することはできない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(3)申立理由2(2-ii)(進歩性)について
本件発明1についての申立理由2(2-ii)(進歩性)は、甲4を主引例とするものであり、取消理由通知に記載した理由2(2-ii)(進歩性)の取消理由と主な論理付けは同じである。そうすると、上記5.(4)「理由2(2-ii)(進歩性)について」において検討したとおりの理由により、申立理由2(2-ii)(進歩性)は理由がないものである。
なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の第24頁において甲5、6を引用し、「物理精製と化学精製とが本質的に同じ形態であることは当該技術分野において周知である。例えば、甲第5号証には、『物理精製とは本質的に、化学精製の簡略形体である』と記載されている(甲第5号証の5頁1?2行参照)。また、甲第6号証には、『物理精製は、化学精製方法の変形と理解されている』と記載されている(同号証の8頁の1行参照)。更に、甲第7号証には、物理精製法はアルカリ精製法(化学精製法)の工程が簡略化されたものである旨記載されている(同号証の52頁の23?28行参照)。
油脂の物理精製と油脂の化学精製とが本質的には同じ形態である以上、油脂の物理精製に関する発明と油脂の化学精製に関する発明とを組み合わせることに何ら阻害要因はない。
したがって、優れた脱色効果を得るために甲第4号証に記載の発明と甲第3号証に記載の発明とを組み合わせて本件特許発明1の構成とすることは容易である。
よって、本件特許発明1は甲第3号証及び甲第4号証に記載の発明に基づき当業者が容易に想到できるものであるから、特許法第29条第2項により拒絶されるべきものである。」と主張している。
しかし、甲5及び甲6の上記記載を参酌しても、上記5.(4)「理由2(2-ii)(進歩性)について」において検討した、本件発明1と甲4発明との相違点である相違点1’について、原料油脂を「パームの原油」とは異なる植物油に変更すること、及び甲4発明の精製法をケミカルリファイニングに変更する等により、脱臭工程の温度条件を本件発明1に特定されている「205?225℃」にすることについて、当業者が容易に想到し得たこととすることはできない。
よって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)申立理由3(サポート要件)について
本件発明1?6についての申立理由3(サポート要件)は、取消理由通知に記載した理由4(4-i)(サポート要件)の取消理由と同じである。そうすると、上記5.(6)ア「理由(4-i)(サポート要件)について」において検討したとおりの理由により、申立理由3(サポート要件)は理由がないものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料油脂を脱臭する脱臭工程を含み、
前記脱臭工程は、205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、前記原料油脂と、水蒸気とを接触させる接触工程を含み、
前記原料油脂は、大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上の油脂であり、
前記原料油脂と接触させる水蒸気の量は、前記原料油脂に対して1.0?7.0質量%であり、
前記脱臭工程の前に、前記原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させる脱色工程をさらに含む、精製油脂の製造方法。
【請求項2】
前記原料油脂の構成脂肪酸中のリノール酸に対するオレイン酸の比率(オレイン酸/リノール酸)が5.0以下である請求項1に記載の精製油脂の製造方法。
【請求項3】
前記精製油脂が、曝光臭の発生が抑制された精製油脂である、請求項1又は2に記載の精製油脂の製造方法。
【請求項4】
前記脱臭工程はトレイ式脱臭装置で行われる、請求項1から3のいずれか1項に記載の精製油脂の製造方法。
【請求項5】
原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させた後に、205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、前記原料油脂と水蒸気とを接触させ、
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上である、油脂中のアルデヒド類量を低減させる方法。
【請求項6】
原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させた後に、205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、前記原料油脂と水蒸気とを接触させ、
前記原料油脂は大豆油、コーン油、綿実油、及びフラックス油からなる群から選択される1種以上である、油脂の曝光臭を低減させる方法。
【請求項7】
205?225℃の温度条件にて、300?800Paの真空度で、53?100分間、原料油脂と、水蒸気とを接触させ、前記原料油脂は大豆油であり、
前記接触の前に、前記原料油脂と、活性白土とを、前記原料油脂に対して100?15000ppmの水の存在下で接触させる、大豆油の耐冷性を改善する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-11-22 
出願番号 特願2014-128339(P2014-128339)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C11B)
P 1 651・ 537- YAA (C11B)
P 1 651・ 536- YAA (C11B)
P 1 651・ 121- YAA (C11B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 天野 宏樹
原 賢一
登録日 2016-08-19 
登録番号 特許第5989037号(P5989037)
権利者 日清オイリオグループ株式会社
発明の名称 精製油脂の製造方法、油脂中のアルデヒド類量を低減させる方法、油脂の曝光臭を低減させる方法、及び大豆油の耐冷性を改善する方法  
代理人 正林 真之  
代理人 正林 真之  

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