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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21D
審判 一部申し立て 2項進歩性  B21D
管理番号 1336178
異議申立番号 異議2017-700811  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-30 
確定日 2017-12-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6119848号発明「ブランク、成形板、プレス成形品の製造方法及びプレス成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6119848号の請求項1、2、3、13に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6119848号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成26年5月13日に特許出願され、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 高橋愛佳(以下、単に「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第6119848号の請求項1?13の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち、特許異議の申立に係る請求項1、2、3、及び13は以下のとおりである。

【請求項1】
平面視において、一対の外縁部のうちの少なくとも一方が、直線である直線外縁部と、前記直線外縁部から連続して他方の外縁部から離間していく外側に凹形状の曲線である曲線外縁部とを備えた天板部と、
前記外縁部から下方に折り曲げられ、前記直線外縁部に沿って形成された直縦壁部と前記曲線外縁部に沿って形成された曲縦壁部とを備えた縦壁部と、
前記直縦壁部から外側へ延び、前記直線外縁部に沿って形成された直線フランジ部と前記曲線外縁部に沿って形成された前記曲縦壁部から外側へ延びる曲線フランジ部とを備えたフランジ部と、
を備えた平面視でL字、T字、及び、Y字状のいずれかの形状の加工部品にプレス加工して製造される平板状のブランクであって、
前記加工部品の展開形状において前記フランジ部のエッジに相当する部位には余肉部が設けられており、前記余肉部には外側へ凸形状となる凸部と、前記凸部の両側に凹形状の第1凹部と第2凹部が形成され、少なくもとも前記凸部が前記曲線フランジ部のエッジに相当する部位に設けられているブランク。
【請求項2】
前記余肉部は、前記第1凹部と前記凸部の間、および前記凸部と前記第2凹部との間の少なくとも一方には、平面視で直線となる直線状部をさらに備える請求項1記載のブランク。
【請求項3】
請求項1又は2記載のブランクにプレス成形前の予加工を行った成形板。
【請求項13】
平面視において、一対の外縁部のうちの少なくとも一方が、直線である直線外縁部と、前記直線外縁部から連続して他方の外縁部から離間していく外側に凹形状の曲線である曲線外縁部とを備えた天板部と、
前記外縁部から下方に折り曲げられ、前記直線外縁部に沿って形成された直縦壁部と前記曲線外縁部に沿って形成された曲縦壁部とを備えた縦壁部と、
前記直縦壁部から外側へ延び、前記直線外縁部に沿って形成された直線フランジ部と前記曲線外縁部に沿って形成された前記曲縦壁部から外側へ延びる曲線フランジ部とを備えたフランジ部と、
を備え、
前記天板部の前記曲線外縁部側の端部の幅が150mm以上であり、引張強度が400MPa以上1600MPa以下である請求項1又は2に記載されたブランク又は該ブランクに予加工を行った成形板を素材として冷間で曲げ成形によりプレス成形されて得られるプレス成形品。

3.申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として、甲第1号証:国際公開第2011/145679号を示し、また従たる証拠として、甲第2号証:特開平7-290159号公報、甲第3号証:関根雄一郎外6名、「面内余肉を用いた高張力鋼板の伸びフランジ割れ対策」、平成23年度塑性加工春季講演会講演論文集、社団法人日本塑性加工学会、平成23年5月13日、p.357-358、甲第4号証:岩下優潮外5名、「面内余肉を用いた高張力鋼板の伸びフランジ割れ対策」、材料とプロセス、社団法人日本鉄鋼協会、平成23年3月1日、Vol.24、No.1、p.176、甲第5号証:永井康友、「不均等伸びフランジ変形の解析」、組成と加工、社団法人日本塑性加工学会、昭和58年3月20日、vol.24、no.266、p.247-253、及び甲第6号証:岩谷二郎外1名、「超高強度鋼板の伸びフランジ特性(第2報)」、平成20年度塑性加工春季講演会講演論文集、社団法人日本塑性加工学会、平成20年5月9日、p.281-282を提出し、次の2つの理由を示し、請求項1、2、3、及び13に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
理由1
請求項1、2、3、及び13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
理由2
請求項1、2、3、及び13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。

4.甲号証の記載
(1)甲第1号証には、「L字形状を有する部品のプレス成型方法」の発明が記載され、プレス成形に供される「素材金属板」として、L字の上側のフランジ部に余肉を設けたものを使用すること、その際、フランジの幅と余肉の幅の合計は25mm以上でありかつ100mm以下の形状とすることが記載されている。
(2)甲第2号証には、「円弧状入込み部を有する深絞り成形品の製造方法」と題して、円弧状の部分を有する成形品用ブランク4として、曲線フランジ部5の最奥部2aに対して45°の隣り合う両方の位置のフランジ幅を最奥部2aより短い幅にする技術的事項が記載されている。
(3)甲第3号証には、高張力鋼板へ伸びフランジ成形を施すに当たり、曲げ稜線部分に直線状の面内余肉(additional part)を設けると共に、直線状余肉部の端部の接続点から離れた箇所にくぼみを各々1箇所、あるいは2箇所設けるという技術的事項が記載されている。
(4)甲第4号証には高張力鋼板へ伸びフランジ成形を施すに当たり、曲げ稜線部分に直線状の面内余肉(additional part)を設けると共に、直線状余肉部の端部の接続点から離れた箇所(connecting part)にくぼみを2個設ける(Fig.4)技術的事項が記載されている。
(5)甲第5号証には、フランジ高さが一定なB型伸びフランジ用ブランクに関し、最適な肉盛り形状として図15に斜線で図示するブランクの中心軸に直角な直線AAで結んだ形状を基本とし、肉盛り端部AはRでなめらかに結ぶことが肝要という技術的事項が記載されている。
(6)甲第6号証には、超高強度鋼板のプレス成形に供するブランクとして、面内Rの部分に直線状の余肉を設け、フランジと余肉の交点には半径5mmのRを付与して繋いだ形状とされたブランクとする技術的事項が記載されている。

5.判断
事案に鑑み、まず理由2から検討する。
(1)理由2について
ア 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、当該甲第1号証には、「外側へ凸形状となる凸部と、前記凸部の両側に凹形状の第1凹部と第2凹部が形成され」たとする「余肉部」を備えた「ブランク」が記載されていない。この点は、従とされた甲第2号証ないし甲第6号証のいずれにも記載されていない。したがって、請求項1に係る発明は、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
申立人は、上記記載されていないとする「外側へ凸形状となる凸部と、前記凸部の両側に凹形状の第1凹部と第2凹部が形成され」たとする「余肉部」をブランクが備えるとした点、及び、ブランクがさらに「少なくとも前記凸部が前記曲線フランジ部のエッジに相当する部位に設けられている」とした点は、甲第1号証に記載の発明と対比した場合相違するものの、当該事項は甲第2号証のフランジ部の最奥部2aに対応する部位のフランジ幅F1の部分が請求項1に係る発明の「凸部」に相当し、フランジ幅F2の凹み7が請求項1に係る発明の「第1凹部」及び「第2凹部」に相当し、甲第1号証と甲第2号証とは共にプレス成形に関する技術同士であって適用しえる関係にあるから、甲第1号証及び甲第2号証に基づいて、本件の請求項1に係る発明は、当業者が容易に発明できたものであると主張しているが、甲第2号証の図1及び図3の、フランジ部5の実線図示は、2点鎖線と対比した際に余肉とされた部分が見当たらず、F2部分を2箇所切り欠いた形状のブランクを示したものであるから、本件の請求項1に係る発明が備えるとする上述の相違点に相当する形状のものではない。
さらに、申立人は、上記記載されていないとする「外側へ凸形状となる凸部と、前記凸部の両側に凹形状の第1凹部と第2凹部が形成され」たとする「余肉部」をブランクが備えるとした点、及び、ブランクがさらに「少なくとも前記凸部が前記曲線フランジ部のエッジに相当する部位に設けられている」とした点は、甲第3号証?甲第6号証にも記載されていると主張しているが、申立人が本件特許発明1の凸部に相当するとした、甲第3、4号証の余肉の直線部分、または甲第5号証の肉盛り(直線AAで結んだ部分)、あるいは甲第6号証の面内余肉ブランクは、いずれも「外側に凸形状となる」との事項を満足せず、また、本件特許発明1の凹部に相当するとした甲第3、4号証の直線部分の両側に設けるくぼみ、または甲第5号証の直線AAの端部のR部、あるいは甲第6号証の繋ぎR部は、いずれも余肉部に形成された凹部ではなく、余肉部ではない箇所に形成されたものであるから、余肉部に第1凹部と第2凹部が形成されるとした事項を満足しない。
よって、かかる主張は理由がない。
イ 請求項2、3及び13に係る発明について
請求項2、3及び13に係る発明は、請求項1に係る発明を更に減縮したもの、ないし、請求項1または2のブランクを素材として得られるプレス加工後の成形品であるから、上記請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、上記甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項から当業者が容易になし得るものではない。
ウ 理由2の小結
以上のとおり、請求項1、2、3、及び13に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)理由1について
申立人は、特許異議申立書において、請求項1、2、3の「ブランク」、及び請求項13の「プレス成形品」は、いわゆる「自由曲げ工法」というプレス加工方法に特有の課題を解決するものであるところ、これらの請求項の記載にはその用途や形状が「自由曲げ工法」に限定するとした記載がなされておらず、当該工法以外の一般的なプレス加工も含み得るものとなっているが、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、当該ブランク及びプレス成形品が自由曲げ工法以外にも適用することとした記載が無いから、特許請求の範囲の請求項1、2、3、及び13の記載は発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないと主張している。
しかしながら、請求項1の「ブランク」で課題を解決できることは明らかである。また、物の発明において、常に用途を限定しなければならない事情も存在せず、前記5.(1)理由2についてで検討したように、ブランクとして偶然一致し、用途による限定を加えないと技術思想上の違いが発生しないような他の物の発明が存在している事情はないことが明らかであり、用途を限定する事項を伴わせるべき重大な支障は本件特許に関しては見当たらないのであるから、用途の限定を有さない状態でその特許発明が記載されていたからといって、何らかの拡張ないし一般化が発生する余地はないから、かかる主張は理由がない。

6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、3、及び13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、2、3、及び13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-13 
出願番号 特願2015-517096(P2015-517096)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (B21D)
P 1 652・ 537- Y (B21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塩治 雅也本庄 亮太郎矢澤 周一郎細川 翔多  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 柏原 郁昭
西村 泰英
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6119848号(P6119848)
権利者 新日鐵住金株式会社
発明の名称 ブランク、成形板、プレス成形品の製造方法及びプレス成形品  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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