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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C04B |
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管理番号 | 1336181 |
異議申立番号 | 異議2017-700875 |
総通号数 | 218 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-02-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-14 |
確定日 | 2017-12-21 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6097266号発明「水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6097266号の請求項1、2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6097266号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成19年1月24日に出願した特願2007-13533号の一部を、平成24年12月4日に新たな特許出願としたものである特願2012-265407号について、さらにその一部を平成26年10月6日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 天野景昭により特許異議申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 特許第6097266号の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、2に記載された以下のとおりのものと認める。 【請求項1】 セメントクリンカーと石膏とを含む水溶性六価クロム低減セメント組成物であって、 セメント組成物中の、C_(3)A量が10?12質量%、C_(4)AF量が9?12質量%であり、 セメントクリンカー中の、全Cr量が65×10^(-4)?100×10^(-4)質量%であり、K_(2)O量が0.20?0.31質量%であることによって、K_(2)O量(質量%)と全Cr量(質量%)とが、全Cr量x10^(4)≦-222×K_(2)O量+172の関係を満たし、水溶性Cr(VI)含有量が10mg/kg(10x10^(-4)質量%)以下である、 ことを特徴とする水溶性六価クロム低減セメント組成物。 【請求項2】 K_(2)O量が0.20?0.26質量%である、請求項1記載の水溶性六価クロム低減セメント組成物。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、証拠として甲第1?5号証を提出し、請求項1、2に係る発明は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1、2に係る特許が取り消すべきものである旨を主張している。 第4 甲各号証の記載事項 特許異議申立人は、次の甲第1?5号証を提出した。 甲第1号証:平尾宙 他、「エコセメントの流動性および強度発現性に及 ぼす高炉スラグ微粉末の影響」、セメント・コンクリート 論文集、社団法人セメント協会、2004年2月10日、 No. 57/2003、p. 97?104 甲第2号証:貫上佳則 他、「セメントからのクロムの溶出特性を把握する ためのBCR逐次抽出条件の改良」、環境工学研究論文集 (第41回環境工学研究フォーラム)、社団法人土木学会、 平成16年11月25日、Vol.41、p. 651?658 甲第3号証:Lars HJORTH、The occurence and prevention of cement eczema、WORLD CEMENT、1995年、Vol.26、No.9、p. 93-96 甲第4号証:露本伊佐男 他、「X線吸収微細構造によるセメント中微量 重金属の化学状態の分析」、セメント・コンクリート、 社団法人セメント協会、平成15年7月10日、No.677 7月号、 p. 42?46 甲第5号証:多田克彦 他、「普通エコセメントを用いたコンクリートの 高性能化と長期強度改善に関する実験的研究」、セメント・ コンクリート論文集、社団法人セメント協会、 2006年2月20日発行、No. 59/2005、p. 537?544 特に、甲第1?4号証には、以下の記載がある。 1.甲第1号証 a「セメント産業による廃棄物再利用促進の一環として、2001年に都市ゴミ焼却灰を主原料とした「エコセメント」がJIS R 5214として規格化された。・・・普通エコセメントの物理的な性質は、普通ポルトランドセメントとほぼ同等であるが、・・・コンクリートの流動性がやや低く、水量は若干増加する傾向にある。」(97ページ左欄「1.はじめに」参照) b「使用した普通エコセメント(EC)、普通ポルトランドセメント(OPC)、高炉スラグ微粉末(BFS)および石灰石微粉末(LSP)の化学組成、鉱物組成、密度および比表面積をTable 1に示す。・・・試験用セメントは、Table 2に示すとおりBFSおよびLSPをECおよびOPCの内割で0?55質量%混合して作成した。」(97ページ右欄「2.1 使用材料」参照) c 「 ![]() 」 d「 ![]() 」 e「BFS混合量とECおよびOPCモルタルのフロー値との関係をFig.2に示す。BFS無混合のECのモルタルフロー値はOPCと比べて低い値であったが、混合量の増加とともにフロー値は徐々に増加した。」(98ページ右欄「3.1 モルタルフロー」参照) f「 ![]() 」 2.甲第2号証 g「3.1 対象試料 ・・・改良BCR法を用いて,市販のセメントあるいはセメント系固化材に対して試験を行った。対象試料は,普通ポルトランドセメント・・・エコセメントと・・・の合計9種類とした。 3.2 実験結果と考察 ・・・図-8に、各試料に対して改良BCR法を行った際のクロムの抽出結果を示す。・・・」(656ページ「3 改良BCR逐次抽出法によるセメントに含まれるクロムの存在形態の推定」参照) h「 ![]() 」 3.甲第3号証 i「All types of ordinary cement contain chromium in some modification and most of them contain water-soluble chromate. The total content of chromium compounds in cement is usually 20-100 ppm Cr, and the content of water-soluble chromate is 1-30 ppm Cr. When cement is mixed with water the highly soluble chromates such as the pottassium chromate will dissolve immediately,・・・」 (当審仮訳:全ての種類の普通セメントは、何らかの形態でクロムを含有しており、普通セメントの多くが水溶性のクロム酸塩を含んでいる。セメントに含まれるクロム化合物の総量は、通常、Cr原子換算で20-100 ppmであり、水溶性のクロム酸塩は、Cr原子換算で1-30 ppmである。 セメントが水と混合されると、クロム酸カリウムのような高い水溶性を有するクロム酸塩が速やかに溶解し、・・・) (94ページ左欄「Chromate in cement」参照) 4.甲第4号証 j「セメント協会提供の普通ポルトランドセメント標準試料を使用した。・・・本実験で注目したクロムは58.4 ppm(うち6価クロムは6.4ppm)・・・であった。」(43ページ「2-1 試料」参照) 第5 当審の判断 1.引用発明の認定 上記甲第1号証の摘示箇所a?c(特に、摘記箇所cのTable 1の「EC」参照)から、甲第1号証には、「C_(3)A量が15%、C_(4)AF量が12%、K_(2)O量が0.02%の普通エコセメント」(引用発明1)が記載されている。 2.対比・判断 (1)本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「普通エコセメント」は、セメント組成物の構成成分に係る技術常識からみて、セメントクリンカーと石膏を含むことが明らかであるから、本件特許発明1の「セメントクリンカーと石膏とを含む」「セメント組成物」に相当する。 また、引用発明1のC_(3)A量等は、上記甲第1号証の摘記箇所d等からみて、質量%であると認められる。 したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、下記の点で一致し、下記の点で相違する。 一致点:「セメント組成物中のC_(4)AF量が12質量%であるセメントクリンカーと石膏を含むセメント組成物」 相違点1:セメント組成物中のC_(3)A量が本件特許発明1では10?12質量%であるのに対して、引用発明1では15質量%であり、また、セメントクリンカー中のK_(2)O量が本件特許発明1では0.20?0.31質量%であるのに対して、引用発明1では0.02質量%である点。 相違点2:本件特許発明はセメントクリンカー中の全Cr量、全Cr量とK_(2)O量との関係式、水溶性Cr(VI)含有量を特定しているのに対して、引用発明1では不明であり、それにより、引用発明1が「水溶性六価クロム低減」セメント組成物であるか否かが不明である点。 (2)事案に鑑み、まず相違点1から検討する。 甲第1号証には、C_(3)A量とK_(2)O量とが開示されたセメント組成物が記載されているが、水溶性六価クロム低減の観点からみて、これらの量をどれくらいにするのが適切であるかについては説明されていない。特に、本件特許発明1においては、水溶性六価クロム量に影響を及ぼすK_(2)O量を特定の範囲に調整することが重要であるところ、甲第1号証は、K_(2)O量を本件特許発明1における特定範囲にまで増加させる動機付けを開示しておらず、甲第2?5号証を参照してもなお、K_(2)O量を本件特許発明1における特定範囲に調整することは、当業者にとって容易なこととはいえない。 なお、甲第3号証の摘記事項iから、K(カリウム)とCrとの化合物が水溶性であることは理解されるが、引用発明1において、K(K_(2)O)を低減させることでCrの溶出が抑止されることや、かかる抑止効果が見込めるK(K_(2)O)量は、甲第3号証において示唆されているとはいえない。 ところで、特許異議申立人は、本件特許発明1について、甲第1?5号証に記載された発明に基づき、当業者であれば容易に想到し得る旨を説明しているが、その理由は、要するに、(ア)甲第1号証に記載された普通エコセメント(以下、「EC」とする。)の一部を普通ポルトランドセメント(以下、「OPC」とする。)に置換することで上記の相違点1に係る技術的事項を満足させることができ、その結果、(イ)一般的にECやOPCに含まれる全Cr量や水溶性Cr(VI)量に基づいて、前記の(ア)で一部置換されたECの全Cr量や水溶性Cr(VI)量が導出され、これは、相違点2に係る技術的事項を満足させるものであるというものである。 そこで、OPCによるECの部分置換について検討する。 特許異議申立人は、ECの流動性がOPCよりも劣ることから、ECの流動性を高めるためにOPCでECの一部を置換する動機付けがある旨を主張している。そして、甲第1号証に記載されたECとOPCとの中間値を採用すると、C_(3)A量やK_(2)O量が本件特許発明1の特定範囲に入る旨を主張している。 しかしながら、甲第1号証では、流動性に劣るECに高炉スラグ微粉末や石灰石微粉末を混合して流動性の改善を図っていることが摘記事項d、eから明らかであり、OPCの混合により流動性を高めることは示唆されていない。そして、特許異議申立人が参考資料として提示した特開平7-215742号公報等や甲第2?5号証を参照しても、ECをOPCで置換することを具体的に示唆するものは見当たらない。加えて、仮にECとOPCとを混合することに当業者が想到したとしても、その混合比を1:1として、本件特許発明1に特定されるC_(3)A量やK_(2)O量に調整する動機付けがない。 そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、引用発明1及び甲第2?5号証の記載事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものとはいえない。 これは、本件特許発明1のK_(2)O量の範囲をさらに限定した本件特許発明2についても同様である。 したがって、本件特許発明1、2は、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により拒絶されるものではない。 なお、相違点2について付言すると、特許異議申立人は、引用発明1の全Cr量や水溶性Cr(VI)量を、甲第2?4号証の記載事項から特定しているが、甲第2?4号証に記載された全Cr量や水溶性Cr(VI)量の数値(範囲)に相違があることをみても、甲第1号証に記載されたEC及びOPCそれぞれの全Cr量や水溶性Cr(VI)量を具体的に想定することはできないというべきである。まして、甲第1号証に記載されたECとOPCとを混合し、全Cr量及び水溶性Cr(VI)量を本件特許発明1で特定される範囲に調整することは、甲第1?4号証において示唆されておらず、技術常識を参酌しても、当業者にとって容易なこととはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。 また、上記の理由の他に、本件請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-12-11 |
出願番号 | 特願2014-205341(P2014-205341) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C04B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 伊藤 真明、永田 史泰 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 蛭田 敦 |
登録日 | 2017-02-24 |
登録番号 | 特許第6097266号(P6097266) |
権利者 | 宇部興産株式会社 |
発明の名称 | 水溶性六価クロム低減セメント組成物の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人 津国 |