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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01G
管理番号 1336189
異議申立番号 異議2017-700958  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-05 
確定日 2018-01-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6107832号発明「Li-Ni複合酸化物粒子粉末及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6107832号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6107832号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年10月15日(優先権主張 平成24年10月17日)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月17日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人歌代豊(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6107832号の請求項1?7の特許に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、独立項である本件特許発明1、その本件特許発明1を直接又は間接的に引用する本件特許発明5及び6は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
組成がLi_(x)Ni_(1-y-a-b)Co_(y)M1_(a)M2_(b)O_(2)(1.00≦x≦1.10、0<y≦0.25、0<a≦0.25、0≦b≦0.10、M1はAl、Mnから選ばれる少なくとも一種の元素、M2はZr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素)であるLi-Ni複合酸化物であって、X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下であることを特徴とするLi-Ni複合酸化物粒子粉末。」
「【請求項5】
リチウム化合物の粉末とNi-Co水酸化物粒子粉末とを混合し、得られた混合物を焼成するLi-Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法であって、前記Ni-Co水酸化物粒子粉末は、金属元素の硫酸塩水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/l以下、かつ(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6以上になるように制御して得られることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のLi-Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法。
【請求項6】
リチウム化合物の粉末とNi-Co水酸化物粒子粉末とアルミニウムの化合物の粉末及び/又はジルコニウムの化合物の粉末を混合し、得られた混合物を焼成するLi-Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法であって、前記Ni-Co水酸化物粒子粉末は、金属元素の硫酸塩水溶液と、アンモニア水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液とを混合し、反応槽中のアンモニア濃度が1.4mol/l以下、かつ(反応槽中のアンモニア濃度)/(反応槽中の余剰の水酸基濃度)が6以上になるように制御して得られることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載のLi-Ni複合酸化物粒子粉末の製造方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第3号証(以下「甲1」?「甲3」という。)を提出し、請求項1?7に係る特許について、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、特許法第113条第2号の規定に該当し、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものであると主張している。
甲1:特開2010-64944号公報
甲2:特開2011-181527号公報
甲3:特許5672442号公報

そして、その具体的理由を整理すると、以下のとおりである。
1 申立理由1
(1)本件特許発明1?4及び7は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。
(2)本件特許発明1?3及び7は、甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、本件特許発明4は、甲1に記載された発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明である。

2 申立理由2
(1)本件特許発明5は、甲3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明である。
(2)本件特許発明5は、甲3に記載された発明に基づいて、本件特許発明6は、甲3に記載された発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者であれば容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項に違反して特許された発明である。

3 申立理由3
甲3発明の製造方法で製造されたリチウム複合酸化物粒子粉末は、本件特許発明1?4の構成を満たす蓋然性が高いことから、本件特許発明1?4は、甲3に記載された発明である、又は、甲3に記載された発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当する発明、又は、特許法第29条第2項に違反して特許された発明であるとも主張している。

4 申立理由4
申立理由4は、本件特許発明1並びにそれを引用する本件特許発明2?4及び7について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないことを理由としたものであり、要すれば、以下のとおりである。
本件特許発明1で「X線回折のりートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下」と特定されているが、発明の詳細な説明において具体的に実施され効果が確認されているのは実施例1?23であり、その積の最小値は930.0(実施例2)で、その積の最大値は1276.8(実施例6)である。そして、リチウムサイトのメタル席占有率(%)と結晶子サイズ(nm)の積が「700以上、1400以下」には、メタル席占有率(%)と結晶子サイズが様々な大きさの場合も含むものであるから、実施例1?23に開示された内容(最小値が930.0、最大値が1276.8)から、「700以上、1400以下」の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件特許発明1はサポート要件を満たしておらず、それを引用する本件特許発明2?4及び7もサポート要件を満たしていないことから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 甲号証の記載事項
1 甲1について
(1)甲1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付した。
(甲1ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質に適したリチウムニッケル複合酸化物及びそれを用いた非水系電解質二次電池に関するものである。」

(甲1イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
上記問題を解決するため、本発明者らは種々研究を進めた結果、以下の知見を得るに至った。
化合物の化学量論性は、X線回折のリートベルト解析(例えば、R.A.Young,ed.,“The Rietveld Method”,Oxford University Press(1992))における化合物の各イオンの席占有率を指標として用いることで評価可能であり、六方晶系の化合物の場合には、3a、3b、6cサイトにおいて、LiNiO_(2)が完全な化学量論組成の場合には3aサイトはLi、3bサイトはNi、6cサイトはOが、それぞれ100%の席占有率を示す。
【0029】
即ち、3aサイトのLiイオンの席占有率が97%以上であるようなリチウムニッケル複合酸化物は化学量論性に優れ、二次電池用活物質に対する指標として、このLi席占有率を考慮した場合、Liは脱離、挿入が可能なためLi欠損が生じても結晶の完全性が維持でき、従って、現実的には3aサイトの非リチウムイオンの混入率をもって化学量論性或いは結晶の完全性を示すと考えられる。」

(甲1ウ)「【0037】
更に、正極活物質の粉末が、小さな一次粒子が集合して二次粒子を形成している場合、個々の一次粒子をある程度成長させることによって二次粒子内部の一次粒子どうしの間に細かな隙間を形成することができ、それによって、その隙間に電解液がしみ込んで二次粒子内部まで電解液を介してLiイオンを供給することが可能となる。その結果、二次粒子全体にLiイオンが拡散する速度が速くなり、不可逆容量が低減するものである。
その場合の一次粒子の成長具合は、X線回折図形の003ピークから計算される結晶子径で判断することが可能で、結晶子径が73?200nmの範囲にあれば、充填性及び充放電特性を両立させる正極活物質が得られる。」

(甲1エ)「【実施例】
【0055】
以下に、本発明の実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
各実施例及び比較例の正極活物質Li_(x)Ni_((1-y-z))Co_(y)M_(z)O_(2)の組成、未反応リチウム除去処理前の比表面積及びX線回折パターンのリートベルト解析から得られたLi主体層のLi席占有率、更に未反応リチウム除去処理を施した後の比表面積並びにX線回折パターンのリートベルト解析から得られたLi主体層のLi席占有率を表1に示す。
【0056】
各実施例及び比較例の正極活物質を用いて図1に示すような2032型のコイン電池10を作製し、電池評価を行った。
正極活物質粉末70質量%にアセチレンブラック20質量%及びPTFE10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し正極3とした。負極1にはリチウム金属を用い、電解液には1MのLiClO_(4)を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業製)を、セパレータ2に含浸して用い、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で作製した。図1において、4はガスケット、5は負極缶、6は正極缶、7は集電体である。
【0057】
この作製したコイン電池を24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cm^(2)としてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。この方法で得られた初期充放電容量、不可逆容量を表2に示す。
【0058】
(実施例1)
x=1、y=0.15、z=0.03となるように、Niの15at%をCoに、3at%をAlに置換したLiNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)O_(2)を合成するために、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸アルミニウムの混合物を、Ni、Co、Alのモル比が82:15:3になるよう適宜溶解させ、原料水溶液を作製した。
次に、この原料水溶液にアルカリ水溶液を注いで、共沈法でNi_(0.82)Co_(0.15)Al_(0.03)(OH)_(2)で固溶してなる金属複合水酸化物を得た。この得られた複合水酸化物の沈殿をろ過後、さらに水洗・ろ過し、大気雰囲気中で乾燥させ、更に電気炉を用いて700℃で10時間熱処理し、Ni、Co、Alのモル比が82:15:3で固溶してなる金属複合酸化物を得た。
【0059】
この金属複合酸化物と、市販の水酸化リチウム一水和物(FMC社製)とを、Liと金属元素(Ni+Co+Al)のモル比[Li/Ni+Co+M]が1.00となるように混合した後、混合機(不二パウダル社製スパルタンリューザー)を用いて十分混合し、ステンレス製の匣鉢を用い、昇温速度2°C/min、酸素雰囲気中で450℃、5時間保持した後、続けて750℃で20時間焼成し、室温まで炉冷して、焼成物である中間生成体を得て、これを解砕、分級した後、BET法を用いて粉末の比表面積を測定した。
次に、未反応リチウムの除去処理として、中間生成体と同じ重量の純水を加えて室温で30分撹拌し、未反応リチウムの除去を行い、これをろ過、真空乾燥してリチウムニッケル複合酸化物を得た。得られたリチウムニッケル複合酸化物を、BET法を用いて比表面積を測定した。
【0060】
この中間生成体をSEM観察したところ、一次粒子の平均粒径が0.2μmであり、これら一次粒子が複数集合して球状の二次粒子となっていることが確認された。又CuのKα線を用いたX線回折で分析したところ、六方晶型層状構造を有した所望の正極活物質であることが確認できた。この粉末X線回折パターンのリートベルト解析から、3aサイトのLiの席占有率を求めた。・・・」

(甲1オ)表1及び表2として、以下の表が記載されている。
【表1】

【表2】


(2)甲1発明について
ア 表1及び表2について
甲1に記載されている発明を認定するにあたり、まず、表2について検討する。上記表2を参照するに、「初期放電容量」が「初期充電容量」より大きくなっており、放電容量が充電容量より大きいということは、自然法則にも反することであり、技術的に正当なものではない。また、表1についても、甲1に記載されている技術においては、摘記(甲1ウ)に記載されているとおり、結晶子径[nm]は200nm以下でなければならないところ、表1の実施例の結晶子径は、それよりいずれも1桁大きく200nmを上回るものしか記載されていないことから、表1は、甲1に記載されている技術を表すものとして正しく記載されているものとはいえない。
この点、表2において「初期放電容量」と「初期充電容量」は互いに逆に記載されたものと解すれば技術的に正当なものとなり、また、表1における結晶子径は、単位をオングストロームとした時の値を記載されたもの、すなわち、nmの単位としては一桁下げた数値として解すれば、甲1に記載されている技術と整合するものである。
なお、甲1は、特許出願の公開公報であるが、甲1の特許出願は、上記表1及び表2について技術的に正しく補正された上で特許権の設定登録がなされ、その特許公報の表1及び表2は、以下のように記載されている。
【表1】

【表2】

以上のことから、摘記(甲1オ)の表1の結晶子径[nm]の値は、一桁下げた数値として、表2の「初期放電容量」と「初期充電容量」とは互いに逆に記載されたものとして解することが相当である。

イ リチウムサイトのメタル席占有率(%)と結晶子サイズ(nm)の積について
上記表1のLi席占有率[%]は、摘記(甲1オ)からして、X線回折のリートベルト解析から得られるものであり、また、リチウムサイトのメタル席占有率(%)は、100からLi席占有率[%]の値を引いたものとなる。
してみると、表1の実施例1?8について、リチウムサイトのメタル席占有率(%)と結晶子サイズ(nm)の積を計算すると、実施例1:3.8(%)×98(nm)=372であり、以下同様に計算すると、実施例2:288、実施例3:189、実施例4:134、実施例5:106、実施例6:102、実施例7:133、実施例8:141である。

ウ 成分組成について
上記表1の実施例1?5及び8から、組成がLi_(x)Ni_(0.82)Co_(0.15)M_(0.03)O_(2)(1.00≦x≦1.10、MはAl、Mnから選ばれる一種の元素)であるリチウムニッケル複合酸化物粒子粉末が記載されている。

エ 甲1発明
上記ア?ウを踏まえれば、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「組成がLi_(x)Ni_(0.82)Co_(0.15)M_(0.03)O_(2)(1.00≦x≦1.10、MはAl、Mnから選ばれる一種の元素)であるリチウムニッケル複合酸化物であって、X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とX線回折図形の003ピークから計算される結晶子サイズ(nm)の積が、102以上、372以下であるリチウムニッケル複合酸化物粒子粉末。」

2 甲2について
(1)甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、体積容量密度が大きく、安全性が高く、充放電サイクル耐久性、及び低温特性に優れた、リチウム二次電池正極用のリチウム含有複合酸化物の製造方法、製造されたリチウム含有複合酸化物を含むリチウム二次電池用正極及びリチウム二次電池に関する。」

(甲2イ)「【0067】
[例1]実施例
・・・リチウム含有複合酸化物粉末を得た。得られた組成はLi_(0.995)Co_(0.975)Mg_(0.01)Al_(0.01)Ti_(0.005)O_(2)であった。・・・
[例3]実施例
・・・リチウム含有複合酸化物粉末を得た。得られた組成はLi_(1.004)Co_(0.974)Mg_(0.01)Al_(0.01)Zr_(0.01)O_(2)であった。・・・
[例5]実施例
・・・リチウム含有複合酸化物を得た。得られた組成はLi_(0.999)Co_(0.979)Mg_(0.01)Al_(0.01)Zr_(0.001)O_(2)であった。・・・
[例7]実施例
・・・リチウム含有複合酸化物粉末を得た。得られた組成はLi_(0.998)Co_(0.978)Mg_(0.011)Al_(0.01)Ti_(0.001)O_(2)であった。・・・
[例8]実施例
・・・リチウム含有複合酸化物粉末を得た。得られた組成はLi_(0.998)Co_(0.978)Mg_(0.011)Al_(0.01)Zr_(0.001)O_(2)であった。・・・
[例9]実施例
・・・リチウム含有複合酸化物粉末を得た。得られた組成はLi_(0.998)Co_(0.978)Mg_(0.01)Al_(0.01)Zr_(0.001)Ti_(0.001)O_(2)であった。・・・
[例10]実施例
・・・リチウム含有複合酸化物粉末を得た。得られた組成はLi_(0.997)Co_(0.977)Mg_(0.011)Al_(0.01)Zr_(0.001)Ti_(0.001)O_(2)であった。・・・」

3 甲3について
(1)甲3には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審において付した
(甲3ア)「【0091】
実施例1
<ニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子粉末の製造>
ドラフトチューブ、バッフル、羽根型攪拌機を具備した有効容積10Lの反応器内に、イオン交換水を8L張り、十分な攪拌をしながら、温度を40℃に調整し、pH=12.0となるように4mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。またアンモニア濃度が0.80mol/lとなるように4mol/lのアンモニア水溶液を滴下した。1.5mol/lの硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸マンガン混合水溶液を、平均で0.08mol/(l・hr)の供給速度とし、連続的に反応器に供給した。同時にpH=12、アンモニア濃度が0.8mol/lとなるように4mol/lの水酸化ナトリウム水溶液、4mol/lのアンモニア水溶液を連続的に供給した。速やかに生成したニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子スラリーの一部を連続的に反応器中段(反応液底部から50%の部分)から抜き出し、0.4Lの濃縮器で濃縮された濃縮スラリーを反応器中の反応スラリーの旋回流と同方向に戻し、目標平均粒子径まで成長させた。その時の反応器内のニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子濃度は4mol/lであった。
【0092】
反応後、取り出した懸濁液を、フィルタープレスを用いて水洗を行った後、150℃で12時間乾燥を行い、ニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子(ニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物粒子)を得た。・・・
【0093】
実施例2?8
組成、反応温度、pH、反応濃度を種々変化させた以外は前記実施例1と同様にしてニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子粉末を得た。」

(甲3イ)「【0103】
実施例9
<正極活物質の製造>
実施例1で得られたニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子粉末とリチウム化合物とを、リチウム/(コバルト+ニッケル+マンガン)のモル比が1.05となるように所定量を十分混合し、混合粉を大気中で、950℃で10時間焼成してリチウム複合酸化物粒子粉末を得た。・・・
【0110】
実施例10?16、比較例5、6
ニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子粉末の種類、リチウム/(コバルト+ニッケル+マンガン)のモル比及び焼成温度を種々変化させた以外は実施例9と同様にして、リチウム複合酸化物粒子粉末を得た。
【0111】
このときの製造条件、得られたリチウム複合酸化物粒子粉末の複合諸特性、及び電池特性を表3に示す。」

(甲3ウ)表3として、以下の表が記載されている。
【表3】


(2)甲3発明について
ア 成分組成について
上記表3の実施例9?12からして、組成がLi_(X)Ni_(0.49)Co_(0.20)Mn_(0.31)O_(z)(1.01≦x≦1.05)であるリチウム複合酸化物粒子粉末が記載されている。ここで、Ni、Co及びMnのモル比率は、上記表3のNi、Co、Mnのmol%の値を有効数字を2桁として四捨五入したものである。

イ 甲3発明
上記アを踏まえれば、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。
「硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸マンガン混合水溶液を連続的に反応器に供給し、同時にアンモニア濃度が0.8mol/lとなるように4mol/lの水酸化ナトリウム水溶液、4mol/lのアンモニア水溶液を連続的に供給し、生成したニッケル・コバルト・マンガン系化合物粒子粉末を水洗、乾燥を行いニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物粒子を得て、
ニッケル・コバルト・マンガン複合水酸化物粒子とリチウム化合物とを十分混合し、混合粉を大気中で焼成して、リチウム複合酸化物粒子粉末を得る、
組成がLi_(x)Ni_(0.49)Co_(0.20)Mn_(0.31)O_(z)(1.01≦x≦1.05)であるリチウム複合酸化物粒子粉末の製造方法。」

第5 申立理由についての判断
1 申立理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「組成がLi_(x)Ni_(0.82)Co_(0.15)M_(0.03)O_(2)(1.00≦x≦1.10、MはAl、Mnから選ばれる一種の元素)であるリチウムニッケル複合酸化物」「粒子粉末」は、本件特許発明1の「組成がLi_(x)Ni_(1-y-a-b)Co_(y)M1_(a)M2_(b)O_(2)(1.00≦x≦1.10、0<y≦0.25、0<a≦0.25、0≦b≦0.10、M1はAl、Mnから選ばれる少なくとも一種の元素、M2はZr、Mgから選ばれる少なくとも一種の元素)であるLi-Ni複合酸化物」「粒子粉末」とは、「組成がLi_(x)Ni_(0.82)Co_(0.15)M_(0.03)O_(2)(1.00≦x≦1.10、MはAl、Mnから選ばれる一種の元素)であるLi-Ni複合酸化物」「粒子粉末」の点で共通する。

(イ)してみれば、本件特許発明1と甲1発明とは、
(一致点)
「組成がLi_(x)Ni_(0.82)Co_(0.15)M_(0.03)O_(2)(1.00≦x≦1.10、MはAl、Mnから選ばれる一種の元素)であるLi-Ni複合酸化物であって、Li-Ni複合酸化物粒子粉末。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件特許発明1では「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下」であるのに対し、甲1発明では、「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とX線回折図形の003ピークから計算される結晶子サイズ(nm)の積が、102以上、372以下」である点。

イ 判断
(ア)相違点の判断
甲1発明の「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)」と「結晶子サイズ(nm)」の「積」は、「102以上、372以下」であり、本件特許発明1の「700以上、1400以下」の範囲から逸脱している。
さらに、甲1には、「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)」と「結晶子サイズ(nm)」の「積」で、リチウムニッケル複合酸化物粒子粉末の特性(発熱速度、初期充電容量)を制御するという技術思想が開示されていないことから、「102以上、372以下」を「700以上、1400以下」に上げる動機付けはない。
そして、上記甲2は、具体的にはLi-Ni系ではなく、Li-Co系のリチウム含有複合酸化物粉末についてのものであり、ましてや、「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)」と「結晶子サイズ(nm)」の「積」でリチウムニッケル複合酸化物粒子粉末の特性を制御するという技術思想は記載されておらず、甲3の記載事項を参照しても、その技術思想は記載されていない。
したがって、甲2又は甲3の記載事項を参照しても、甲1発明において「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)」と「結晶子サイズ(nm)」の「積」を「102以上、372以下」から「700以上、1400以下」に上げることにはならない。

(イ)効果について
本件特許発明1は、下記の4の表2に記載されているように、「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下」としたことにより、発熱速度を小さくして熱安定性に優れるものとすると同時に、初期放電容量を高くするという、当業者が予期し得ない効果が得られたものである。

ウ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。

(2)本件特許発明2?4及び7について
本件特許発明2?4及び7は、いずれも、本件特許発明1を引用してさらに限定した発明であるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明ではなく、甲1発明及び甲2又は甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものでもない。

(3)まとめ
本件特許発明1?4及び7は、甲1発明ではなく、本件特許発明1?3及び7は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、本件特許発明4は、甲1発明及び甲2、甲3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものともいえないことから、上記第3の申立理由1によっては、請求項1?4及び7に係る特許は取り消せない。

2 申立理由2について
(1)本件特許発明5及び6について
ア 対比
本件特許発明5及び6と甲3発明とを対比するに、本件特許発明5及び6は、上記第2で記載されているとおり、本件特許発明1を直接又は間接的に引用する発明であるから、少なくとも、「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下」の点で相違しているものである。

イ 判断
上記相違点は、実質的な相違点であり、上記1のイの判断で説示したとおり、甲3の記載事項、さらには甲1又は2の記載事項から、当業者が容易になし得たことではなく、それにより、発熱速度を小さくして熱安定性に優れるものとすると同時に、初期放電容量を高くするという、当業者が予期し得ない効果が得られたものである。

(2)まとめ
してみれば、本件特許発明5は、少なくとも上記相違点で甲3発明ではなく、本件特許発明5は甲3発明に基づいて、本件特許発明6は、甲3発明及び甲2に記載された事項に基づいて、少なくとも上記相違点が当業者が容易に発明することができたものともいえないことから、上記第3の申立理由2によっては、請求項5及び6に係る特許は取り消せない。

3 申立理由3について
(1)本件特許発明1?4と甲3発明とは、上記2(1)アで述べたように、少なくとも、「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下」の点で相違するものであり、そして、その相違点は、上記2(1)イで述べたように、甲3の記載事項、さらには甲1又は2の記載事項から、当業者が容易になし得たことではなく、それにより、発熱速度を小さくして熱安定性に優れるものとすると同時に、初期放電容量を高くするという、当業者が予期し得ない効果が得られたものである。

(2)なお、請求人は、甲3発明の製造方法で製造されたリチウム複合酸化物粒子粉末は、本件特許発明1?4の構成を満たす蓋然性が高いことを主張しているが、甲3発明の製造方法で製造されたリチウム複合酸化物粒子粉末に対して、X線回折のリートベルト解析を行って求めたリチウムサイトのメタル席占有率(%)及び結晶子サイズ(nm)の実験結果等を示していないことから、甲3発明の製造方法で製造されたリチウム複合酸化物粒子粉末が「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積が700以上、1400以下」を満たすものと判断できるほどの根拠はない。

(3)まとめ
してみれば、本件特許発明1?4は、甲3発明ではなく、甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものともいえないことから、上記第3の申立理由3によっては、請求項1?4に係る特許は取り消せない。

4 申立理由4について
本件特許明細書の実施例1?23及び比較例1?18の結果が示されたものが、以下の表2である
【表2】


これを参照するに、実施例1?23においては、「X線回折のリートベルト解析から得られるリチウムサイトのメタル席占有率(%)とリートベルト解析から得られる結晶子サイズ(nm)の積」(以下「積」という)が全て「700以上、1400以下」を満たしており、発熱速度(w/g・s)が0.06?0.15であり、初記放電容量(mAh/g)が185?208となっているのに対し、700未満である比較例5、9及び11(積:347.7?439.2)の発熱速度は0.20?0.35であり、また、1400を超える比較例2?4、6?8、10及び12?16(積:1466.4?1915.9)の発熱速度は0.28?0.34となっている。さらに、積が「700以上、1400以下」を満たす比較例1(積:782.1)、比較例17(923.8)及び比較例18(積:787.4)は、その発熱速度が、0.15、0.06及び0.06と低い値となっている。しかし、これら比較例1、17及び18については、組成が本件特許発明1で特定される組成を満たしていないことから、初期放電容量が181、171及び153と実施例に比較して低い値となっている。
してみれば、上記表2の結果を参照すれば、特に発熱速度という点において、積が「700以上、1400以下」の範囲で十分にサポートされているものといえる。そして、積が「700以上、1400以下」であることと、本件特許発明1で特定される組成であることと相まって、発熱速度が小さく、かつ、初期放電容量が大きいという、本件特許発明1の「非水電解質二次電池の正極活物質として用いた場合に、放電容量が高く、熱安定性に優れるLi-Ni複合酸化物粒子粉末を得ることを技術的課題とする」(【0014】)課題を解決できるものである。
よって、本件特許発明1並びにそれを引用する本件特許発明2?4及び7は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえないことから、上記第3の申立理由4によっては、請求項1?4及び7に係る特許は取り消せない。

第6 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許が、特許法第113条第2号又は同条第4号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-27 
出願番号 特願2014-542139(P2014-542139)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C01G)
P 1 651・ 537- Y (C01G)
P 1 651・ 113- Y (C01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 浅野 昭粟野 正明村岡 一磨  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 三崎 仁
山本 雄一
登録日 2017-03-17 
登録番号 特許第6107832号(P6107832)
権利者 戸田工業株式会社
発明の名称 Li-Ni複合酸化物粒子粉末及びその製造方法、並びに非水電解質二次電池  
代理人 岡田 数彦  

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