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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22F
管理番号 1336191
異議申立番号 異議2017-700577  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-07 
確定日 2018-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6038459号発明「焼結軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6038459号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6038459号(以下「本件特許」という。)は、その出願が、平成24年1月31日(優先権主張 平成23年9月22日 日本(JP))にされ、平成28年11月11日にその特許権の設定登録がされ、平成28年12月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
そして、本件特許の請求項1?4に係る特許に対し、平成29年6月8日受付で特許異議申立人一條淳(以下「申立人」という。)により特許異議申立書(以下「申立書」という。)が提出され、当審において平成29年8月28日付けで取消理由が通知され、同年10月30日付けで特許権者より意見書が提出されたものである。

2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下それぞれ「本件発明1?4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
鉄組織と銅組織と遊離黒鉛とを含有する焼結軸受において、
銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合し、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成し、
銅の含有量が均一になったベース部と、ベース部の表面を覆い、ベース部よりも銅の含有量を大きくした表面層とを備え、
表面層の軸受面に銅組織と鉄組織を形成し、軸受面における銅組織を面積比で60%以上にし、
軸受面の鉄組織をフェライト相で形成し、
焼結体における銅の含有量を18重量%以上、40重量%以下としたことを特徴とする焼結軸受。
【請求項2】
鉄組織と銅組織と遊離黒鉛とを含有する焼結軸受において、
銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合し、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成し、
銅の含有量が均一になったベース部と、ベース部の表面を覆い、ベース部よりも銅の含有量を大きくした表面層とを備え、
表面層の軸受面に銅組織と鉄組織を形成して、軸受面における銅組織を面積比で60%以上にし、
軸受面の鉄組織を、フェライト相と、フェライト相の粒界に存在するパーライト相とで形成して、鉄組織でのフェライト相に対するパーライト相の割合を面積比で5?20%とし、
焼結体における銅の含有量を18重量%以上、40重量%以下としたことを特徴とする焼結軸受。
【請求項3】
銅に対する低融点金属の割合を、重量比で10%未満にした請求項1または2に記載の焼結軸受。
【請求項4】
遊離黒鉛の含有量を、ベース部よりも表面層で大きくした請求項1?3何れか1項に記載の焼結軸受。」

3 申立理由の概要
申立人は、証拠として、下記甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の申立理由1?申立理由4によって請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。
甲第1号証:特開2010-77474号公報
甲第2号証:特開2011-94167号公報
甲第3号証:特開2003-221606号公報
甲第4号証:特開2003-120674号公報

申立理由1
本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第1?4号証に記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

申立理由2
本件特許の請求項1?4に係る発明は、物の発明であるが「銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合し、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成し」という製造方法による発明特定事項を含むものであるから、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、その特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。

申立理由3
本件特許の請求項1?4に係る発明は、「アスペクト比13.3以上の扁平銅粉」という発明特定事項を有し、アスペクト比の上限が規定されておらず、発明の詳細な説明の記載とも一致していないので、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、また、発明の詳細な説明に記載された発明であるともいえないので、その特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

申立理由4
本件特許の請求項2には、「軸受面の鉄組織を、フェライト相と、フェライト相の粒界に存在するパーライト相とで形成して、鉄組織でのフェライト相に対するパーライト相の割合を面積比で5?20%とし」と記載されているが、発明の詳細な説明にその測定手法が記載されていないため、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるともいえないので、その特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものである。

4 取消理由の概要
当審において、請求項1?4に係る特許に対して、通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

取消理由1
本件特許の請求項1?4に係る発明は、「アスペクト比13.3以上の扁平銅粉」という発明特定事項を有し、アスペクト比の上限が規定されておらず、発明の詳細な説明の記載とも一致していないので、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、また、発明の詳細な説明に記載された発明であるともいえないので、その特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

取消理由2
本件特許の請求項2には、「軸受面の鉄組織を、フェライト相と、フェライト相の粒界に存在するパーライト相とで形成して、鉄組織でのフェライト相に対するパーライト相の割合を面積比で5?20%とし」と記載されているが、発明の詳細な説明にその測定手法が記載されていないため、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるともいえないので、その特許は、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものである。

なお、3の申立理由3、4は、上記取消理由1、2において採用されている。

5 甲号証の記載
(1)甲第1号証について
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第1号証には以下の事項が記載されている(なお、下線は当審が付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下同様。)。

1ア 「【請求項1】
軸の外周面を支持する軸受面を有する鉄系焼結軸受であって、焼結合金の全体組成が、質量比で、Cu:2.0?9.0%、C:1.5?3.7%、残部:Feおよび不可避不純物からなり、
軸受の内部は、面積率でフェライトが20?85%および残部がパーライトからなる鉄合金相中に、軸受の軸方向に対して交差する方向に延在する銅相と、黒鉛相および気孔が分散する金属組織を示し、
前記軸受面に、銅相が8?40%の面積率で露出していることを特徴とする鉄系焼結軸受。
【請求項2】
型孔を有するダイと、前記型孔内に配置されるコアロッドと、前記ダイの型孔と前記コアロッドの外周とに摺動自在に嵌合する下パンチとから構成されるキャビティに原料粉末を充填し、この原料粉末を、前記ダイの型孔と前記コアロッドの外周とに摺動自在に嵌合する上パンチと前記下パンチとにより圧粉成形し、得られた圧粉体を焼結する鉄系焼結軸受の製造方法において、
前記原料粉末は、平均粒径が20?150μmである扁平状の銅粉を2.0?9.0質量%と、平均粒径が40?80μmの黒鉛粉を1.5?3.7質量%とを鉄粉に添加し混合したものであり、
前記焼結の温度は950?1030℃であることを特徴とする鉄系焼結軸受の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

1イ 「本発明は、モータの軸受や複写機等の紙送りローラ軸の軸受等に使用して好適な鉄系焼結軸受およびその製造方法に係り、特に、軸受の摩耗量を少なくし、しかもシャフトの摩耗量も低減する技術に関する。」(【0001】)

1ウ 「従来より軸受には、焼結合金製のものが多用されている。焼結合金は含浸した潤滑油による自己潤滑性を付与できるため、耐焼付き性と耐摩耗性が良好で広く用いられている。たとえば特許文献1には、Cu:10?30%、残部:Feからなる鉄銅系焼結合金層を摺動面に設けた軸受が開示されている。
【特許文献1】特開平11-117940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近年、銅の価格は高騰しているため、特許文献1のように銅を10?30%使用する技術では製造コストが割高で実用的ではない。このため、鉄を主成分とする軸受のニーズが高まってきている。しかしながら、鉄を主成分とする軸受の場合には、焼付き易く、また、相手部品であるシャフトを傷付け易いという欠点がある。特に、熱処理を施していない硬さが低いシャフトと鉄を主成分とする軸受とを組み合わせて用いる場合、上記の現象は顕著となる。
したがって、本発明は、優れた耐摩耗性を有するとともに、鉄銅系焼結合金軸受に匹敵する耐焼付き性および相手部品への攻撃緩和性を有する鉄系焼結合金軸受およびその製造方法を提供することを目的としている。」(【0002】?【0005】)

1エ 「銅粉の粒径
本発明の鉄系焼結軸受の製造方法では、原料粉末に扁平状の銅粉を混合してキャビティに充填する。そして、ダイキャビティ内を原料粉末が落下する際に、コアロッドに銅粉がまとわり付き、コアロッドに銅粉が張り付いた状態となる。これにより、軸受内部と比較して摺動特性が求められる軸受内径面に露出する銅相の量が多くなる。本発明では、Cu量の全てを扁平状の銅粉として与えることにより、軸受内径面に露出する銅相の量を確保しつつ、軸受内部のCu量を低減することができる。」(【0009】)

1オ 「黒鉛粉の添加量
黒鉛粉末の添加量が少ないと、鉄合金相中のフェライトの量が多くなり、硬さが低くなって軸受の摩耗量が増大する。また、固体潤滑効果が低下する。一方、黒鉛粉末の添加量が多いとパーライトの量が増えて鉄部の硬さの上昇を招くとともに、金属粉同士の結合が阻害され材料強度が低下するために、シャフトおよび軸受の摩耗量が増大する。よって、黒鉛粉の添加量は1.5?3.7%とする。
焼結温度
本発明では、鉄合金相中に黒鉛相を形成するため、焼結温度は重要である。焼結温度が低いと、鉄合金相中のフェライトの量が多くなり、硬さが低くなって軸受の摩耗量が増大する。一方、焼結温度が高いとパーライトの量が増えて硬さが硬くなるため、シャフトの摩耗量が増大するとともに鉄合金相の強度が低下して軸受の摩耗量が増大する。よって、焼結温度は950?1030℃とする。」(【0014】?【0015】)

1カ 「【表1】

」(【0019】)

1キ 「(2)評価
上記試料に対して軸受の内径面の銅相の面積率、鉄合金基地中のフェライト面積率、硬さ、圧環強さ、および軸受とシャフトの摩耗量を測定した。摩耗量の測定は、水平にしたモータの回転軸にS45C製のシャフトを取り付け、このシャフトをハウジングに取り付けた軸受に隙間を持たせて挿入し、ハウジングに垂直方向の荷重を与えた状態でシャフトを回転させて行った。この試験の周囲の温度は80℃に保持し、シャフトの回転数を3000rpm、負荷面圧を1MPaとした。軸受およびシャフトの摩耗量は、試験前の内径および外径の寸法と、1000時間運転後の寸法との差とした。以上の結果を表2に示す。
【表2】

表2に示すように、銅箔粉の添加量が本発明の範囲を下回る試料No.1では、軸受の内径面における銅相の面積率が少ないためシャフトの摩耗が多くなった。また、銅箔粉の添加量が本発明の範囲を超える試料No.5では、軸受の強度が低下したために軸受の摩耗量が多くなった。試料No.6は、添加する銅粉として電解銅粉を使用しているが、軸受およびシャフト双方の摩耗量が多くなった。これは、軸受の内径面における銅相の面積率が低くなっていることから、コアロッドにまとわり付く銅粉の量が少なくなったためと考えられる。これに対して、本発明例である試料No.2?4では、軸受および軸の摩耗量が少ない。」(【0021】?【0023】)

1ク 「(3)組織観察
図1は本発明例の軸受内径面のSEM写真である。図1に示すように、本発明例の軸受内径面には、鉄合金相中に銅相と黒鉛相が分散し、銅相は軸受内径面に平行に配置されている。このような銅相により軸受内径面の銅相の面積率が増大し、上記したような摺動性能の向上が得られる。
【図1】本発明例の軸受内径面の光学顕微鏡写真である。」(【0028】?【0029】)

1ケ 「【図1】

」(図面)

(1-2)甲第1号証に記載された発明
上記(1-1)の摘記事項について検討する。
ア 上記1アによれば、甲第1号証は、請求項1として「軸の外周面を支持する軸受面を有する鉄系焼結軸受であって、焼結合金の全体組成が、質量比で、Cu:2.0?9.0%、C:1.5?3.7%、残部:Feおよび不可避不純物からなり、
軸受の内部は、面積率でフェライトが20?85%および残部がパーライトからなる鉄合金相中に、軸受の軸方向に対して交差する方向に延在する銅相と、黒鉛相および気孔が分散する金属組織を示し、
前記軸受面に、銅相が8?40%の面積率で露出していることを特徴とする鉄系焼結軸受。」について記載され、請求項2には、「原料粉末は、平均粒径が20?150μmである扁平状の銅粉を2.0?9.0質量%」を「鉄粉に添加し混合」して、上記鉄系焼結軸受を製造することが示されている。

イ 上記1エによれば、上記鉄系焼結軸受の製造方法では、原料粉末に扁平状の銅粉を混合してキャビティに充填し、ダイキャビティ内を原料粉末が落下する際に、コアロッドに銅粉がまとわり付き、コアロッドに銅粉が張り付いた状態となることで、軸受内部と比較して摺動特性が求められる軸受内径面に露出する銅相の量が多くなる。そして、甲第1号証に記載の上記鉄系焼結軸受の製造方法では、Cu量の全てを扁平状の銅粉として与えることにより、軸受内径面に露出する銅相の量を確保しつつ、軸受内部のCu量を低減することができる。

ウ 上記1カ及び1キによれば、本発明例として、請求項1に規定される条件を満足する鉄系焼結軸受とすることで、試験前の寸法と周囲温度80℃に保持し、シャフトの回転数を3000rpm、負荷面圧を1MPaで1000時間運転後の寸法との差を評価したところ、軸受および軸の摩耗量が少ない結果が得られている。

エ 上記1ク及び1ケによれば、上記鉄系焼結軸受内径面のSEM写真において、軸受け内径面には、鉄合金相中に銅相と黒鉛相が分散し、しかも、銅相は軸受内径面に平行に配置されていることにより軸受内径面の銅相の面積率が増大し、摺動性能の向上が得られている。

オ 上記1ア?1ケの記載事項を、上記ア?エの検討事項に基づいて、本発明例である試料番号03の鉄系焼結軸受に注目して、本件発明1の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。

「鉄系焼結軸受であって、
焼結合金の全体組成が、質量比で、Cu:5.0%、C:3.0%、残部:Feおよび不可避不純物からなり、
Cuは、全て扁平状の銅粉として与えられ、
軸受の内部は、面積率でフェライトが50%からなる鉄合金相中に銅相と黒鉛相が分散し、軸受内部と比較して摺動特性が求められる軸受内径面に露出する銅相の量が多く、
前記軸受面に、銅相は軸受内径面に平行に配置されていることにより軸受内径面の銅相が13.7%の面積率で露出していることを特徴とする鉄系焼結軸受。」(以下「甲1発明」という。)


(2)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第2号証には次の事項が記載されている。

2ア 「【請求項1】
鉄と炭素との反応相を含むバックメタル層と、
このバックメタル層の表面を覆うように設けられ、前記バックメタル層よりも銅の割合が高い表層部と
を備え、遊離黒鉛が分散していることを特徴とする鉄銅系焼結摺動部材。
【請求項2】
含油軸受であることを特徴とする請求項1に記載の鉄銅系焼結摺動部材。
【請求項3】
前記反応相がパーライトを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の鉄銅系焼結摺動部材。
【請求項4】
銅を5?50重量%、融点が焼結温度以下である低融点金属を0.1?5重量%、黒鉛を0.5?5重量%含有し、残部が鉄および不可避不純物からなることを特徴とする請求項1にから3のいずれかに記載の鉄銅系焼結摺動部材。
【請求項5】
銅粉を含む鉄銅系原料粉末を成形金型の充填部に充填し加圧して圧粉体を成形する成形工程と、
この圧粉体を所定の焼結温度で焼結して焼結体を形成する焼結工程とを含み、
鉄と炭素との反応相を含むバックメタル層と、前記バックメタル層よりも銅の割合が高く前記バックメタル層の表面を覆う表層部とを形成し、遊離黒鉛を分散させる
ことを特徴とする鉄銅系焼結摺動部材の製造方法。
【請求項6】
前記焼結工程における前記焼結温度が850℃?1000℃であり、
前記銅粉は、アスペクト比が10以上である扁平銅粉を15%以上含み、
前記鉄銅系原料粉末は、前記銅粉、鉄粉、前記焼結温度以下で溶融する低融点金属粉、および黒鉛粉末を含み、重量%で前記銅粉を5?50%、前記低融点金属粉を0.1?5%、前記黒鉛粉末を0.5?5%、および不可避不純物を含み、
前記黒鉛粉末が前記鉄粉とともに鉄と炭素との反応相を形成し、かつ遊離黒鉛として前記焼結体中に分散するように前記焼結工程を制御することを特徴とする請求項5に記載の鉄銅系焼結摺動部材の製造方法。」(【特許請求の範囲】)

2イ 「低融点金属を0.1?5重量%とするのは、0.1重量%未満であるとバインダとしての機能が十分に得られず、5重量%を超えるとシャフトとのなじみが悪くなり、摺動相手への攻撃性が増加するからである。」(【0013】)

2ウ 「この製造方法において、前記焼結工程における前記焼結温度が850℃?1000℃であり、前記銅粉は、アスペクト比が10以上である扁平銅粉を15%以上含み、前記鉄銅系原料粉末は、前記銅粉、鉄粉、前記焼結温度以下で溶融する低融点金属粉、および黒鉛粉末を含み、重量%で前記銅粉を5?50%、前記低融点金属粉を0.1?5%、前記黒鉛粉末を0.5?5%、および不可避不純物を含み、前記黒鉛粉末が前記鉄粉とともに鉄と炭素との反応相を形成し、かつ遊離黒鉛として前記焼結体中に分散するように前記焼結工程を制御することが好ましい。」(【0016】)

2エ 「[実施例]
ここで、本発明に係る製造方法により製造した鉄銅系焼結摺動部材(含油軸受)の実施例および比較例について説明する。各実施例は、鉄、銅、錫(低融点合金)、黒鉛、およびフッ化カルシウム(固体潤滑剤)の割合、および焼結温度を本発明の範囲内で変更し、本発明の製造方法に従って製造した軸受10である。比較例は、鉄、銅、錫(低融点合金)、黒鉛、およびフッ化カルシウム(CaF_(2)、固体潤滑剤)の割合、および焼結温度のいずれかを本発明の範囲外の値に変更し、実施例と同様に成形工程および焼結工程を経て製造した軸受である。いずれも軸受も、内径8mm、外径18mm、長さ8mmとした。
表1に、各実施例および比較例の成分比および焼結温度を示す。
【表1】

」(【0035】?【0036】)


(3)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第3号証には次の事項が記載されている。

3ア 「【請求項1】 鉄系と銅系の原料粉末を成形金型の充填部に充填し、この原料粉末を加圧して圧粉体を成形し、この圧粉体を焼結してなる摺動部品において、前記銅系の原料粉末が前記鉄系の原料粉末よりアスペクト比が大きな偏平粉であり、表面側に銅が偏析していることを特徴とする摺動部品。
【請求項2】 摺動部の表面銅被覆率が60%以上であることを特徴とする請求項1記載の摺動部品。
【請求項3】 前記偏平粉のアスペクト比が10以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の摺動部品。
【請求項4】 前記銅系の原料粉末の割合が全体の20?70重量%であることを特徴とする請求項2記載の摺動部品。
【請求項5】 鉄系と銅系の原料粉末とを成形金型の充填部に充填し、この原料粉末を加圧して圧粉体を成形し、この圧粉体を焼結してなる摺動部品の製造方法において、前記銅系の原料粉末に前記鉄系の原料粉末よりアスペクト比が大きな偏平粉を用い、振動により前記充填部内の銅系の原料粉末を前記圧粉体の表面側に偏析することを特徴とする摺動部品の製造方法。」(【特許請求の範囲】)


(4)甲第4号証について
(4-1)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る優先日前に日本国内において頒布された、上記甲第4号証には次の事項が記載されている。

4ア 「【【請求項1】 軸受材料が焼結合金からなり、該焼結合金がSn及びPを含むCu合金相とFeのフェライト相とが面積比においてほぼ均等割合の混在状態を呈した断面組織で、0.7質量%以下の黒鉛粒子を含有し、サイジングされた軸受内周表面に露出する鉄部の面積が2?6%、有効多孔率20?30%、及び軸受の通気度が6?50×10^(-11)cm^(2)であり、気孔内には40℃における動粘度で61.2?74.8mm^(2)/sの合成油が含油されていることを特徴とする電動機用焼結含油軸受。」(【特許請求の範囲】)

4イ 「以上のような試験結果を踏まえ、発明の焼結含油軸受の構成、及びその構成を実現するための製造方法は、経験則から下記のような技術思想として導かれる。
(1)焼結合金は、銅合金相の中に鉄粒子が分散した複合組織とする。
(2)前記の体積割合つまり断面組織での割合は、両者の中間性質となるように約1:1の組織図形とする。
(3)軸受摺動面(内周面)は、鉄粒子の露出を少なくして銅合金面を主にすることにより軸摺動の初期なじみ性を良好にできるが、耐摩耗を考慮して鉄粒子の一部を所定程度まで露出点在させる。
(4)有効多孔率は、保油能を確保するためにできるだけ高めとする。
(5)軸受摺動面の油潤滑を確保するために、軸受内周面の気孔は、粒子間或いは相の間の比較的大きい気孔に加えて鉄相内及び銅合金相内にも気孔を点在する組織とする。
(6)軸受表面の露出鉄粒子を減少させるために、鉄粒子を銅合金で適度に包み込むものとし、原料に箔状の銅粉を使用する。
(7)鉄相及び銅合金層内に気孔を形成させるために、海綿状の還元鉄粉、及び粉末粒子径が小さい粉末の量が比較的多い銅粉を使用する。
(8)銅合金相は、比較的軟質なものとし、添加元素の数及び添加量の少ない材質とする。具体的にはSnとPとする。
(9)有効多孔率及び強度を確保するために液相焼結とし、低融点の錫粉とりん銅合金を用いる。
(10)摺動の際の油潤滑を補完するため、混合粉の特性、合金強度、潤滑油の汚れがでない範囲で、固体潤滑物質を焼結合金に含有させる。
(11)軸受摺動面の気孔が残存するように、サイジングする。
(12)焼結合金は、有効多孔率が比較的大きい(密度が低め)割には、鉄相内及び銅合金相内に気孔を設けた組織図形とすることにより、通気度は比較的低い状態とし、摺動による油の過剰な染み出しを抑制する。
(13)潤滑油は、低温特性、熱安定性に優れると共に高温環境にも適合する合成油を選択する。」(【0008】)

6 判断
(1)取消理由として採用した申立理由について
(1-1)取消理由1(申立理由3)について
ア 取消理由1は、上記4に示したとおり、本件特許の請求項1?4に係る発明が、「アスペクト比13.3以上の扁平銅粉」という発明特定事項を有し、当該アスペクト比の上限が規定されていないことに起因し、特許を受けようとする発明が不明確及び特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された発明ではないというものである。
したがって、以下、本件特許における、扁平銅粉のアスペクト比について検討する。

イ 本件特許明細書の【0008】には、解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)として、「本発明は、銅の使用量を削減して低コスト化を図ることができ、その一方で初期なじみ特性や静粛性が良好で、かつ高い耐久性を備える焼結軸受を提供することを目的する。」と記載されている。

ウ そして、上記イに示した課題を解決する手段として、【0009】?【0011】には、「上記目的を達成するため、本発明にかかる焼結軸受は、鉄組織と銅組織と遊離黒鉛とを含有する焼結軸受において、銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合し、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成し、銅の含有量が均一になったベース部と、ベース部の表面を覆い、ベース部よりも銅の含有量を大きくした表面層とを備え、表面層の軸受面に銅組織と鉄組織を形成し、軸受面における銅組織を面積比で60%以上にし、軸受面の鉄組織をフェライト相で形成し、焼結体における銅の含有量を18重量%以上、40重量%以下としたことを特徴とするものである。
扁平銅粉は原料粉の成形時に金型成形面に付着する性質を有し、そのため成形後の圧粉体は表層に多くの銅が含まれる一方、芯部では銅の含有量が少なくなる。従って、焼結後の焼結体には、銅の含有量の多い表面層と、これよりも銅の含有量が少ないベース部とが形成される。
このように表面層での銅の含有量を多くすることで、初期なじみ性および静粛性の向上を図ることができる。また、軸に対する攻撃性も低くなるので、耐久寿命が向上する。これらの作用効果は、表面層の表面に面積比で60%以上の銅組織(銅を主成分とする組織)を形成することで、より顕著に得ることができる。また、表面層の摩耗により鉄組織(鉄を主成分とする組織)を多く含むベース部が露出した際にも、鉄組織がフェライト相を主体とするため、銅の含有量が少なくても軸に対する攻撃性を弱くすることができ、耐久性が増す。」と記載され、【0018】には、「本発明にかかる焼結軸受は、鉄粉、扁平銅粉、および低融点金属粉を含む原料粉を混合して金型に充填し、扁平銅粉を金型表面に付着させた状態で原料粉を圧縮して圧粉体を成形し、圧粉体を焼結することで製造することができる。」と記載されている。

エ 一方、扁平銅粉については、本件特許明細書【0031】に「扁平銅粉は、水アトマイズ粉等からなる原料銅粉を搗砕(Stamping)することで扁平化させたものである。扁平銅粉としては、長さLが20μm?80μm、厚さtが0.5μm?1.5μm(アスペクト比L/t=13.3?160)のものが主に用いられる。ここでいう「長さ」および「厚さ」は、図2に示すように個々の扁平銅粉3の幾何学的な最大寸法をいう。扁平銅粉の見かけ密度は1.0g/cm^(3)以下とする。以上のサイズ、及び見かけ密度の扁平銅粉であれば、金型成形面に対する扁平銅粉の付着力が高まるため、金型成形面に多量の扁平銅粉を付着させることができる。」と記載されており、アスペクト比について「13.3?160」の範囲のものを用いることが示唆されてはいるものの、上記イで示した「扁平銅粉は原料粉の成形時に金型成形面に付着する性質を有し、そのため成形後の圧粉体は表層に多くの銅が含まれる一方、芯部では銅の含有量が少なくなる。従って、焼結後の焼結体には、銅の含有量の多い表面層と、これよりも銅の含有量が少ないベース部とが形成される。
このように表面層での銅の含有量を多くすることで、初期なじみ性および静粛性の向上を図ることができる。また、軸に対する攻撃性も低くなるので、耐久寿命が向上する。これらの作用効果は、表面層の表面に面積比で60%以上の銅組織(銅を主成分とする組織)を形成することで、より顕著に得ることができる。」という、上記イで示した課題を背景とする扁平銅粉が焼結軸受に含まれる技術的意義に関する記載を鑑みると、本件特許発明において、扁平銅粉は、「原料粉の成形時に金型成形面に付着する性質を有」するものであることが求められていると解される。

オ そして、「原料粉の成形時に金型成形面に付着する性質を有」するためには、一定程度の扁平の度合い、すなわち、粒子の長さ/厚さであるアスペクト比が一定程度の値を有することで生じるものと認められるから、扁平銅粉のアスペクト比の下限が規定されることが必要であり、上限値については、上記性質に影響を及ぼさないものといえる。

カ してみると、本件特許の請求項1?4に係る発明の「アスペクト比13.3以上の扁平銅粉」という発明特定事項について、このアスペクト比の上限値がないことをもって、本件特許の請求項1?4に係る発明が、上記イに示すような課題を解決するために上記ウのような手段を採用する以外の、どのような発明となるのか不明確になることはなく、また、同発明が、課題を解決できない部分を含むということもなく、発明の詳細な説明に記載されたものでないともいえない。
したがって、本件特許の請求項1?4に係る発明が、「アスペクト比13.3以上の扁平銅粉」という発明特定事項を有し、当該アスペクト比の上限が規定されていないことに起因して、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第6項第1号の規定に違反するものではない。

(1-2)取消理由2(申立理由4)について
サ 取消理由2は、上記4に示したとおり、本件特許の請求項2に、「軸受面の鉄組織を、フェライト相と、フェライト相の粒界に存在するパーライト相とで形成して、鉄組織でのフェライト相に対するパーライト相の割合を面積比で5?20%とし」と記載されているが、発明の詳細な説明にその測定手法が記載されていないため、当該請求項に係る発明が明確であるとはいえず、また、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるともいえないというものである。
したがって、以下、本件特許における、鉄組織でのフェライト相とパーライト相の割合を測定する点について検討する。

シ 本件特許明細書には、鉄組織におけるフェライト相とパーライト相に関して【0064】に、「この場合、鉄組織を、フェライト相とパーライト相の二相組織にすれば、硬質のパーライト相が耐摩耗性の向上に寄与し、高面圧下での軸受面の摩耗を抑制して軸受寿命を向上させることができる(第二の実施形態)。・・・フェライト相αFeに対するパーライト相γFe(γFe1+γFe2)の割合は、ベース部S2の任意断面において、面積比で5?20%とするのが望ましい。
パーライトの成長速度は、主に焼結温度に依存する。従って、上記の態様でパーライト相をフェライト相の粒界に存在させるためには、第一の実施形態よりも焼結温度を上げて820℃?900℃程度とし、かつ炉内雰囲気として炭素を含むガス、例えば天然ガスや吸熱型ガス(RXガス)を用いて焼結する。・・・」と記載されているが、鉄組織のフェライト相とパーライト相の割合に関する測定手法については記載がない。

ス しかしながら、本件特許の出願時前の刊行物である、乙第1号証(国際公開第2011/55651号)、乙第2号証(国際公開第2012/73485号)、乙第3号証(国際公開第2012/108460号)、乙第4号証(特開2009-97054号公報)、乙第5号証(特開2010-255082号公報)、乙第6号証(特開平08-74008号公報)、乙第9号証(特開2006-52468号公報)には、鉄組織からなる試験材料の表面を鏡面研磨し、ナイタールにてエッチングを行い、顕微鏡写真により画像解析することで、金属材料の鉄組織におけるフェライト相やパーライト相を測定することが記載されていることから、本件特許出願時において、鉄組織のフェライト相とパーライト相の割合に関する測定手法は技術常識であると認められる。

セ してみると、発明の詳細な説明には、請求項2に記載される発明特定事項である「軸受面の鉄組織を、フェライト相と、フェライト相の粒界に存在するパーライト相とで形成して、鉄組織でのフェライト相に対するパーライト相の割合を面積比で5?20%とし」に関する測定方法について記載されてはいないが、本件特許の出願時の技術常識に基づけば、上記発明特定事項の測定方法は理解できるため、当該請求項2に係る発明が不明確であるとはいえず、また、発明の詳細な説明が、当該請求項2に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。
したがって、本件特許の請求項2?4に係る発明は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものではないし、詳細な説明の記載は、同法第36条第4項第1号の規定に違反するものではない。

(2)取消理由として採用しなかった申立理由について
(2-1)申立理由1について
(2-1-1)本件発明1について
(2-1-1-1)本件発明1と甲1発明の対比
タ 甲1発明の「Cu」、「C」、「Fe」は、本件発明1における「銅組織」、「遊離黒鉛」、「鉄組織」にそれぞれ相当する。そして、甲1発明の「焼結合金の全体組成が、質量比で、Cu:5.0%、C:3.0%、残部:Feおよび不可避不純物からな」る「焼結軸受」は、本件発明1の「鉄組織と銅組織と遊離黒鉛とを含有する焼結軸受」に相当するものである。

チ 甲1発明の「Cuは、全て扁平状の銅粉として与えられ」は、本件発明1の「銅組織を」「扁平銅粉」「で形成し」に相当する。

ツ また、甲1発明の「軸受の内部」は、本件発明1の「ベース部」に相当し、甲1発明の「軸受の内部は、面積率でフェライトが50%からなる鉄合金相中に銅相と黒鉛相が分散し」という状態は、軸受内部における銅含有量に大きな変動はないものと考えられるから、本件発明1の「銅の含有量が均一になったベース部」という要件を満たすものである。

テ 甲1発明の「軸受内部と比較して摺動特性が求められる軸受内径面に露出する銅相の量が多く」は、本件発明1の「銅の含有量が」「ベース部の表面を覆い、ベース部よりも銅の含有量を大きくした表面層とを備え」に相当する。そして、甲1発明の「軸受内径面」は、本件発明1の「表面層」に相当するので、甲1発明の「軸受内径面の銅相が13.7%の面積率で露出している」状態において、銅相以外に露出している相は、残部として多量に含まれているFe、すなわち、鉄組織であるといえるから、甲1発明の「軸受面に、銅相は軸受内径面に平行に配置されていることにより軸受内径面の銅相が13.7%の面積率で露出している」は、本件発明1の「表面層の軸受面に銅組織と鉄組織を形成し」に相当する。

ト さらに、甲1発明の「鉄合金相」は、「面積率でフェライトが50%からなる」ので、甲1発明の「焼結軸受」は、本件発明1の「軸受面の鉄組織をフェライト相で形成し」を満足するものである。

(2-1-1-2)本件発明1と甲1発明の一致点と相違点
上記(2-1-1-1)の検討から、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余で一致する。

相違点1-1:本件発明1では、銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合するのに対し、甲1発明では、低融点金属を用いた結合はない点。
相違点1-2:本件発明1では、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成するのに対し、甲1発明では、銅組織を全て扁平同粉で形成しており、通常銅粉を含まず、また、扁平銅粉のアスペクト比が不明である点。
相違点1-3:本件発明1では、軸受面における銅組織が面積比で60%以上であるのに対し、甲1発明では、8?40%である点。
相違点1-4:本件発明1では、焼結体における銅の含有量を18重量%以上40重量%以下とするのに対し、甲1発明では、銅の含有量が5%である点。

(2-1-1-2-1)相違点についての判断
上記相違点のうち、まず、事案に鑑みて、相違点1-4から検討する。
ナ 鉄銅系の焼結軸受における銅の含有量として、甲第2号証には、銅を5?50重量%、甲第3号証には、20?70重量%とすることが記載されている。

ニ 一方、甲1発明が記載された甲第1号証には、上記5(1)(1-1)で摘記した1ウによると、「近年、銅の価格は高騰しているため、特許文献1のように銅を10?30%使用する技術では製造コストが割高で実用的ではない。」として、銅の含有量について、コストが上昇する課題が指摘されており、同摘記1エによると、これを受けて「本発明では、Cu量の全てを扁平状の銅粉として与えることにより、軸受内径面に露出する銅相の量を確保しつつ、軸受内部のCu量を低減することができる。」と記載されている。また、甲1号証の記載である上記5(1)(1-1)で摘記した1キには、銅箔粉の含有量が10重量%で構成された試料No.05が、「軸受の強度が低下したために軸受の摩耗量が多くなる」ことも示されている。

ヌ ここで、上記ニに示した銅の含有に関するコスト上昇を課題として、銅の含有量を低減すること図った甲第1号証に記載される甲1発明において、相違点1-4に係る発明特定事項を構成すること、すなわち、甲1発明において5%である銅の含有量を「18重量%以上40重量%以下」と増加させることは、甲1発明の技術的意義を損なうものである。また、甲第1号証には、銅泊粉の含有量、すなわち、銅の含有量について、請求項1に記載される「2.0?9.0%」より多い方に外れる10重量%である試料No.5において、所望の摩耗特性が得られないことも記載されている。

ネ したがって、甲第2号証及び甲第3号証に相違点1-4に係る発明特定事項が記載されているとしても、甲1発明に基づいて、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項を適用することは、当業者が容易になし得るものとはいえない。

ノ 以上のように、相違点1-1?1-3について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても引用発明1及び甲第2?4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(2-1-2)本件発明2について
(2-1-2-1)本件発明2と甲1発明の一致点と相違点
本件発明2は、上記2で示した発明特定事項を有するものであり、甲1発明と対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致する。

相違点2-1:本件発明2では、銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合するのに対し、甲1発明では、低融点金属を用いた結合はない点。
相違点2-2:本件発明2では、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成するのに対し、甲1発明では、銅組織を扁平同粉で形成しているが、通常銅粉を含むのか不明であり、また、扁平銅粉のアスペクト比が不明である点。
相違点2-3:本件発明2では、軸受面における銅組織が面積比で60%以上であるのに対し、甲1発明では、8?40%である点。
相違点2-4:本件発明2では、軸受面の鉄組織を、フェライト相と、フェライト相の粒界に存在するパーライト相とで形成して、鉄組織でのフェライト相に対するパーライト相の割合を面積比で5?20%とするのに対し、甲1発明では、パーライト相の割合がない点。
相違点2-5:本件発明2では、焼結体における銅の含有量を18重量%以上40重量%以下とするのに対し、甲1発明では、銅の含有量が5%である点。

(2-1-2-2)相違点についての判断
上記相違点2-5は、上記相違点1-4と同じものである。そして、上記(2-1-1-2-1)で検討したように、甲1発明において、この相違点に係る発明特定事項を構成すること、すなわち、銅の含有量を増加させることは、甲1発明の技術的意義を損なうものであるから、甲1発明に基づいて、甲第2号証及び甲第3号証に記載された事項を適用し、上記相違点2-5に係る発明特定事項を構成することは、当業者が容易になし得るものとはいえない。
よって、相違点2-1?2-4について判断するまでもなく、本件発明2は、当業者であっても引用発明1及び甲第2?4号証に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(2-1-3)本件発明3?4について
本件発明3?4は、本件発明1または2を引用するものであるから、甲1発明と対比すると、少なくとも上記相違点1-1?1-4または上記相違点2-1?2-5で相違するものである。そして、上記(2-1-1)または(2-1-2)で検討したと同様に、本件発明3?4についても、甲1発明及び甲第2?4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。

(2-2)申立理由2について
ハ 申立理由2は、上記3に示したとおり、本件特許の請求項1?4に係る物の発明が、「銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合し、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成し」という製造方法による発明特定事項を含むものであるから、特許を受けようとする発明が明確ではないというものである。

ヒ しかしながら、請求項1及び2に記載される「銅組織と鉄組織とを低融点金属で結合し、銅組織を通常銅粉とアスペクト比13.3以上の扁平銅粉とで形成し」という発明特定事項は、その前段ある「鉄組織と銅組織と遊離黒鉛とを含有する焼結軸受に」おける、鉄組織と銅組織の存在または結合している状態を表現するものであり、製造方法によって物の発明を特定するものとは認められない。

フ したがって、本件特許の請求項1?4に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2項の規定に違反するものではない。


6 むすび
したがって、取消理由及び特許異議申立ての理由によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-18 
出願番号 特願2012-18713(P2012-18713)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B22F)
P 1 651・ 536- Y (B22F)
P 1 651・ 537- Y (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 宮本 純
金 公彦
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6038459号(P6038459)
権利者 NTN株式会社
発明の名称 焼結軸受  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
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