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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1336193
異議申立番号 異議2017-700818  
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-31 
確定日 2017-12-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6088277号発明「廃石膏ボードの利用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6088277号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第6088277号は、平成25年2月7日に出願された特願2013-22721号の特許請求の範囲に記載された請求項1?7に係る発明について、平成29年2月10日に設定登録がされたものであり、その後、全請求項に係る特許に対し、特許異議申立人 高橋昌嗣(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2.本件発明の認定

本件特許の請求項1?7に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

【請求項1】
廃石膏ボードを構成する石膏成分を焼成して半水石膏を得る焼成工程、焼成工程で得られた半水石膏から晶析により二水石膏を再生する晶析工程、及び、晶析工程より得られた再生二水石膏を以下の少なくとも1つの工程に供給する後処理工程を含むことを特徴とする廃石膏ボードの利用方法。
(1)再生二水石膏を、セメント系固化材原料として使用する工程;
(2)再生二水石膏を焼成して再生半水石膏とし、石膏ボード原料、セメント原料、セメント系固化材原料又は石膏系固化材原料として使用する工程;
(3)再生二水石膏を焼成して再生無水石膏とし、セメント原料又はセメント系固化材原料として使用する工程;
【請求項2】
前記廃石膏ボードが、生産時に又は建造物の新築内装工事で排出された端材、および、建造物の改装、改築又は解体現場より排出された石膏ボード廃材からなる群より選ばれた少なくとも一つである、請求項1記載の廃石膏ボードの利用方法。
【請求項3】
前記石膏成分が、廃石膏ボードを収集する収集工程;収集した廃石膏ボードを、異物を含む廃石膏ボードと異物を含まない廃石膏ボードとに分けて収容する受入工程;異物を含む廃石膏ボードより異物を除去する異物除去工程;異物を含まないか又は異物を除去された廃石膏ボードを破砕してボード原紙と石膏破砕物とに分離する破砕分離工程;により得られた廃石膏破砕物である請求項1記載の廃石膏ボードの利用方法。
【請求項4】
前記(1)の工程が、再生二水石膏を、廃石膏ボードを構成する石膏成分の一部を破砕したものと混合して、セメント系固化材原料として使用する工程である、請求項1記載の廃石膏ボードの利用方法。
【請求項5】
前記(2)の工程が、前記再生半水石膏を、廃石膏ボードを構成する石膏成分の一部を焼成して半水石膏としたものと混合して、石膏ボード原料、セメント原料、セメント系固化材原料又は石膏系固化材原料として使用する工程である、請求項1記載の廃石膏ボード
の利用方法。
【請求項6】
前記(3)の工程が、前記再生無水石膏を、廃石膏ボードを構成する石膏成分の一部を焼成して無水石膏としたものと混合して、セメント原料又はセメント系固化材原料として使用する工程である、請求項1記載の廃石膏ボードの利用方法。
【請求項7】
更に、排煙脱硫石膏、化学副産石膏、天然二水石膏又は天然無水石膏を、前記(1)?(3)の少なくとも一つの工程に使用する請求項1記載の廃石膏ボードの利用方法。

第3.申立理由の概要

申立人は、証拠として次の甲第1?6号証(以下、「甲1?6」という。)を提出し、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反(以下、「申立理由1」という。)してされたものであり、また、同法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていない(以下、「申立理由2」という。)特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである旨主張している。

甲1:「解体廃石膏ボードの再資源化技術開発 成果報告書」
社団法人石膏ボード工業会、平成13年3月、全文
甲2:特開2012-46704号公報
甲3:特開平10-45446号公報
甲4:特開2011-195379号公報
甲5:特開2012-91992号公報
甲6:無機マテリアル学会編「セメント・セッコウ・石灰ハンドブック」
技報堂出版、1995年11月1日発行、400-401,718-719頁

第4.申立理由1について

1.甲1に記載された発明

(1)申立人は、本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)について、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、又は、甲1に記載された発明及び甲2?5に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであると主張している。
そこで検討するに、甲1には次の記載がある。

摘示1-1(27頁「第4章 4.1」)
「4.1 改質技術開発の目的
・・・・・
良質な大形二水石膏への改質法については、直接廃石膏ボード粉砕物を加熱して半水石膏として再利用することも考えられるが、得られた半水石膏の粒径は小さいため凝結の促進、強さの低下等石膏硬化体の物性にいちじるしく影響する。・・・したがって、良質な大形二水石膏結晶の製造のためには湿式プロセスが有効であり、村上によって開発された独自の技術である大形二水石膏を合成する半水・二水石膏湿式リン酸製造法、・・・また安江の石膏廃材から二水石膏を合成するための結晶化学的考察が解体廃石膏ボードの改質技術の開発の確立に多くの示唆を与える。
本技術開発においては、二水石膏_(<)=^(>)半水石膏の可逆反応を利用する湿式プロセスによって解体廃石膏ボードから良質の大形二水石膏結晶へと省エネルギーで改質する改質条件、製造プロセスと設備について検討を行った。」

摘示1-2(65頁「第4章 4.4.6」)
「4.4.6 解体廃石膏ボードから大形二水石膏合成のための最適条件
・・・・・
これまでの結果を整理し、廃石膏ボードから大形二水石膏を合成するための条件を図4-35に示す。廃石膏ボードを10mass%硫酸ナトリウム水溶液中に懸濁液濃度33mass%(水/廃石膏ボード重量比=2/1)となるように添加する。これを95?100℃で1?2時間保持することにより二水石膏を脱水転移させ、半水石膏懸濁液とした。これを降温速度0.5℃・min^(-1)で冷却させ、80℃において平均粒径40μm程度の二水石膏種結晶(柱状及び板状の混合)を廃石膏ボードに対して1mass%添加した。さらに、この懸濁液を温度50?60℃まで低下させ、1?3時間保持した。これをろ過し、所定温度の温水で洗浄することにより良質な大形二水石膏を合成した。・・・」

摘示1-3(129頁「第6章 6.2」)
「6.2 改質前後の廃石膏を用いた石膏ボードの試作と評価
6.2.1 はじめに
ここでは、廃石膏ボードから回収した石膏を粉砕及びスラリー化により不純物を除去した後、得られた石膏を、脱水、再水和反応により再結晶化、大形化した、改質技術分科会で得られた改質石膏を用いて、石膏ボードを試作することにより、石膏ボード用原料石膏(焼き石膏として)及び石膏ボード製品としての評価を行った。・・・」

(2)以上の記載によれば、甲1には、廃石膏ボードから回収した石膏を再結晶化し大形化した改質石膏を焼き石膏として石膏ボード用原料として利用すること(摘示1-3)、及び、当該改質石膏が、廃石膏ボードを硫酸ナトリウム水溶液中で加熱保持して半水石膏懸濁液とし、これを冷却中に二水石膏種結晶を添加して保持することで得られた大形二水石膏であることが記載されている。
してみると、甲1には、廃石膏ボードの利用方法として。次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「廃石膏ボードを硫酸ナトリウム水溶液中で加熱保持して半水石膏懸濁液とする工程、半水石膏懸濁液に二水石膏種結晶を添加して冷却保持して大形二水石膏を得る工程、得られた大形二水石膏を焼き石膏として石膏ボード用原料として利用する工程を含む廃石膏ボードの利用方法。」

2.対比・判断

(1)本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「半水石膏懸濁液に二水石膏種結晶を添加して冷却保持して大形二水石膏を得る工程」は、本件発明の「半水石膏から晶析により二水石膏を再生する晶析工程」に相当し、甲1発明の「得られた大形二水石膏を焼き石膏として石膏ボード用原料として利用する工程」は、本件発明の「再生二水石膏を焼成して再生半水石膏とし、石膏ボード原料として使用する工程」に相当するから、本件発明のうち、
「半水石膏から晶析により二水石膏を再生する晶析工程、及び、晶析工程より得られた再生二水石膏を以下の工程に供給する後処理工程を含む廃石膏ボードの利用方法。
再生二水石膏を焼成して再生半水石膏とし、石膏ボード原料として使用する工程」
の点は、甲1発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点:本件発明が、「廃石膏ボードを構成する石膏成分を焼成して半水石膏を得る焼成工程」を含むのに対し、甲1発明は、「廃石膏ボードを硫酸ナトリウム水溶液中で加熱保持して半水石膏懸濁液とする工程」を含む点。

(2)ここで、申立人は上記相違点について、本件明細書には、「焼成」を、乾式で行うか湿式で行うかについて記載がないから、技術常識に基づき、湿式も含まれるので、実質的な相違点ではない旨主張している。
しかしながら、本件明細書【0017】には、
「(焼成)
次に、上記の前処理を経て得られた廃石膏破砕物は、適当な大きさ、例えば、平均粒径0.5?50mm、好ましくは、1?20mmに調整して焼成工程に供され、かかる工程で焼成されて半水石膏(CaSO_(4)・1/2H_(2)O)となる。」
と記載されており、懸濁液にして湿式で行うことについて記載も示唆もない。
そして、申立人が甲6として提出した「セメント・セッコウ・石灰ハンドブック」の421頁には、
「6.2.1 焼きセッコウ
a.β型半水セッコウの製造
製造工程は原料処理,焼成,粉砕,熟成の工程からなる.原料の二水セッコウを加熱すると約130℃で結晶水が離脱し,β型半水セッコウが得られる.いわゆる,乾式製造法である.・・・」
と記載されており、単に「焼成」という場合、乾式を意味することが技術常識と認められる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

(3)そこで上記相違点を検討するに、甲1には、良質な大形二水石膏製造のためには湿式プロセスが有効であって、廃石膏ボード粉砕物を加熱する方法は望ましくないこと(摘示1-1)が記載されている。
してみると、上記記載からみて、甲1発明において、廃石膏ボード懸濁液を加熱する湿式工程を、廃石膏ボード粉砕物を加熱する乾式工程に変更することには阻害要因があるといえる。
そして、申立人が提出した甲2?5に、当該阻害要因を解消し、甲1発明の工程変更を動機付けるような周知技術は記載されていないし、請求項5,6に係る発明について提出した甲6も同様である。

3.まとめ

以上のとおりであるから、本件発明は、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。請求項1を引用する請求項2?7に係る発明も同様である。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものではない。

第5.申立理由2について

1.サポート要件について

(1)申立人は、本件明細書【0008】に、発明が解決しようとする課題について、
「本発明は、廃石膏ボードから再生された再生石膏の大半を有用な資源とし、廃石膏ボードの再利用率を向上させることができる、廃石膏ボードの利用方法を提供することを目的とする。」
と記載され、【0005】に、背景技術として、
「・・・しかしながら、特許文献3に記載された方法では、廃石膏は粉砕されていないため、形状の大きいものを処理する場合に、廃石膏に含まれる界面活性剤等の有機成分の含有率を十分に低減することができず、この方法により再生された石膏は、前記と同様、多量のバージン石膏と混合された状態でなければ使用に供することができなかった。
更に、上記方法により得られる半水石膏は、結晶の平均粒径が非常に小さく、多孔質体である。そのため、これを石膏ボード原料として再利用するには、製造工程において石膏スラリーの流動性を確保するために、スラリーに使用する水の割合を、バージン石膏を用いるスラリーの場合よりも多くする必要がある。その結果、上記方法による再生石膏を100%用いて製造された石膏ボードは、その強度が不足するという重大な問題を有する。従って、石膏ボード原料のすべてを再生石膏とすることは難しく、現状ではバージン材料の一部代替に留まっている。」
と記載されているから、本件発明の課題である廃石膏ボードの再利用率を向上させるには、界面活性剤などの含有率が低減され、平均粒径が大きく緻密な石膏を得ることが必須の要件であるのに、請求項1には、焼成工程、晶析工程等の具体的な条件が規定されていないから、本件発明は、その課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えていると主張している。

(2)そこで検討するに、請求項1に記載された「焼成工程で得られた半水石膏から晶析により二水石膏を再生する晶析工程」について、本件明細書【0020】には、
「(晶析)
続く晶析工程では、上記のようにして得られた半水石膏を、種晶石膏として二水石膏を含有させた水性媒体中に溶解し、次いで、二水石膏を再生石膏として析出させる。」
と記載されている。
してみると、晶析のため、半水石膏を一旦溶媒中に溶解させれば、含有していた界面活性剤が遊離することや、二水石膏として析出させることで緻密で大きな結晶が得られることは、具体的な条件の規定をしなくとも、当業者に自明なことといえる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

2.実施可能要件について

(1)申立人は、本件明細書には、界面活性剤などの含有率が低減され、平均粒径が大きく緻密な石膏を得ることことにより、廃石膏ボードの再利用率を向上させた具体的な例が記載されていないし、係る石膏を得るための条件が本件特許の出願時の技術常識であったとも認められないから、本件明細書は、当業者が本件発明の方法を使用できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえないと主張する。

(2)そこで検討するに、本件明細書【0007】には先行技術文献として、
「【特許文献4】特開2010-13304号公報」
が記載され、【0015】には、
「・・・本発明において、再生二水石膏の製造方法としては、上記廃石膏ボードを構成する石膏成分を焼成して半水石膏を得る焼成工程と、焼成工程で得られた半水石膏から晶析により二水石膏を再生する晶析工程とを含むものであれば特に制限はなく、公知の方法が採用される。代表的な再生二水石膏の製造方法としては、前記特許文献4に示される方法が好適である。」
と記載されている。
してみると、本件明細書には、所望の石膏を得るための条件が、具体的な先行技術文献名を挙げて記載されていると認められる。
したがって、申立人の主張は採用できない。

3.まとめ

以上のとおりであるから、請求項1に記載された本件発明は、その課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものであり、本件明細書は、当業者が本件発明の方法を使用できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえる。請求項1を引用する請求項2?7に係る発明も同様である。
したがって、請求項1?7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号又は第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

第6.むすび

以上、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-12-07 
出願番号 特願2013-22721(P2013-22721)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C04B)
P 1 651・ 536- Y (C04B)
P 1 651・ 113- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮崎 大輔粟野 正明末松 佳記  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 瀧口 博史
大橋 賢一
登録日 2017-02-10 
登録番号 特許第6088277号(P6088277)
権利者 株式会社トクヤマ
発明の名称 廃石膏ボードの利用方法  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 小野 尚純  

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