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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
管理番号 1336407
審判番号 訂正2017-390101  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2017-09-28 
確定日 2017-12-14 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5900485号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5900485号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判に係る特許第5900485号(以下、「本件特許」という。)は、2012年7月13日(優先権主張2011年7月15日 日本国、2011年7月15日 日本国、2012年6月1日 日本国)を国際出願日とするものであって、その請求項1ないし8に係る発明は、平成28年3月18日に特許権の設定登録がなされ、平成29年9月28日に本件訂正審判の請求がなされたものである。
さらに、当審において平成29年10月16日付けで訂正拒絶理由を通知したところ、同年11月8日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。

第2 平成29年11月8日付け手続補正書の適否について
平成29年11月8日付け手続補正書による補正は、当審が訂正拒絶理由通知により訂正の要件を満たしていないとした平成29年9月28日付け審判請求書(以下、「本件審判請求書」という。)の「6 請求の理由」における訂正事項1及び訂正事項3ないし5を削除するとともに、本件審判請求書に添付された訂正明細書の記載において、訂正事項1及び訂正事項3ないし5によって訂正しようとした記載を、設定登録時の明細書の記載に戻すものである。
これらの補正は、いずれも、訂正事項の削除に該当し、審判請求書の要旨を変更するものではないから、特許法第131条の2第1項の規定を満たすものである。

第3 審判請求の趣旨及び訂正の内容
本件審判の請求の趣旨は、本件特許の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであり、その訂正内容は、次のとおりである。

訂正事項2
本件特許の明細書の段落【0063】に「軸受剛性(基本静定格荷重Cor)、耐クリープ性能、軸受寿命を測定した」と記載されているのを、「軸受剛性(基本静定格荷重Cor)、耐クリープ性能、軸受寿命を評価した」に訂正する。

第4 当審の判断
1 訂正の目的の適否について
訂正事項2に係る訂正前の段落【0063】の「そして、これらの円すいころ軸受の軸受剛性(基本静定格荷重Cor)、耐クリープ性能、軸受寿命を測定した。」との記載によれば、円すいころ軸受の「軸受剛性」、「耐クリープ性能」、「軸受寿命」は、いずれも「測定」されるものと解釈できる。
しかしながら、「軸受剛性」は計算式で求められるもの(段落【0068】)であり、「耐クリープ性能」はクリープ発生荷重から評価されるもの(段落【0073】)であるから、訂正事項2に係る訂正前の段落【0063】の記載と矛盾する。そうであれば、訂正事項2に係る訂正前の段落【0063】の「軸受剛性(基本静定格荷重Cor)、耐クリープ性能、軸受寿命を測定した」との記載は、明瞭でない記載に該当する。
これに対し、訂正事項2に係る訂正後の段落【0063】の「軸受剛性(基本静定格荷重Cor)、耐クリープ性能、軸受寿命を評価した」との記載は、軸受剛性の評価に関する段落【0069】-【0072】の記載、耐クリープ性能の評価に関する段落【0073】-【0077】の記載及び軸受寿命に関する段落【0078】-【0080】の記載と整合する。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第3項に掲げる、明瞭でない記載の釈明を目的としたものに該当する。

2 新規事項の有無について
本件特許の明細書の段落【0069】の「軸受剛性の評価は、」との記載、段落【0070】の【表2】の「軸受剛性の評価」という項目の記載、段落【0073】の「耐クリープ性は、内輪にクリープが発生するクリープ発生荷重から評価した。」との記載、段落【0076】の「次に、軸受け寿命とその評価について表3に示す。」との記載及び段落【0077】の【表3】の「軸受寿命の評価」という項目の記載からみて、訂正事項2に係る訂正後の段落【0063】の「軸受剛性(基本静定格荷重Cor)、耐クリープ性能、軸受寿命を評価した」との記載は、設定登録時の明細書に対して何ら新たな技術事項を導入するものではないから、訂正事項2に係る訂正は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第5項の規定を満たすものである。

3 特許請求の範囲の拡張又は変更の有無について
訂正事項2に係る訂正は、上記1で述べたとおり,明細書の記載の整合を図るためのものであり、訂正の前後で特許請求の範囲に記載された発明の拡張又は変更なく、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第126条第6項の規定を満たすものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書き第3項に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項及び第6項の規定を満たすものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
転がり軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関し、特に、車両重量の重いダンプトラック、鉱山・建機用ダンプトラック、ホイールローダ等のホイール、一般産業機械用のプラネタリなど、外輪回転で使用される転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重量の重い車両の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する転がり軸受としては、負荷容量が大きく、剛性の高い円すいころ軸受が好適に使用されている。このような円すいころ軸受では、通常、外輪とハウジングは締め代を持って圧入されることで固定され、内輪と軸部材は極僅かなすきま、又は締め代を持って固定され、互いの相対回転が防止されているが、転動体の移動に伴う荷重変化等によってこれらが相対回転してしまう、クリープ現象が発生することがある。特に、外輪回転荷重条件で使用される転がり軸受において、P/C(P:軸受荷重、C:基本動定格荷重)が0.13を超える重荷重条件で使用される場合は、静止輪である内輪にクリープ現象が発生することがある。このクリープ現象は、円すいころ軸受に限らず、一般産業機械用のプラネタリなど外輪回転荷重条件で使用される円筒ころ軸受、自動調心ころ軸受でも発生することがある。
【0003】
本発明者らは、このクリープ現象について研究を進める中で、クリープ現象が、重荷重を受けることにより転動体荷重が大きくなり、転動体が通過する際の内輪軌道面における局所的な伸縮が大きくなることが原因であることを見出した。
【0004】
具体的には、内輪軌道面の負荷圏1点を見た場合に、内輪軌道面上に転動体がある状態では、転動体荷重の影響により内輪は半径方向に縮む一方で円周方向に伸び、転動体が通過した後は、内輪は元の形状に戻る。このため、転動体が通過するたびに、内輪は円周方向の伸縮を繰り返すことで、軸に対して内輪が回転するクリープ現象が発生する。このクリープ現象が生じると、軸の表面に摩耗が発生して、表面の摩耗粉が軸受内部に入り、早期はく離の原因になる。
【0005】
この重荷重条件でのクリープ現象を抑制するためには、軸の締め代を大きくすることが考えられる。
【0006】
また、特許文献1に記載の転がり軸受では、相手部材との嵌め合い面において、固定輪に軌道面の溝幅を超えない範囲で逃げ溝を形成している。これにより、転動体通過により軸受軌道輪が弾性変形した場合においても、固定輪を相手部材に接触させないことで、弾性変形が相手部材に伝わらないため、クリープ現象を抑制できることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2に記載の転がり軸受では、内輪及び外輪の肉厚を増加させることで、クリープ現象を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】日本国特開2006-322579号公報
【特許文献2】日本国特開2010-025155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、軸の締め代変更については、締め代を大きくした場合、軸受組込みの際に焼きばめ等が必要となり、著しく生産性が悪くなってしまう。
【0010】
また、特許文献1に記載の転がり軸受では、逃げ溝加工の工程を追加する必要があり製造コストが増加する。また、相手部材との接触範囲が極端に少なくなり、接触部の面圧が大きくなるため、相手部材に傷を付け、摩耗をさせてしまうという問題点がある。
【0011】
また、特許文献2に記載の転がり軸受では、内輪及び外輪の肉厚を増加させているため、ころ径が著しく小さくなり、軸受寿命を短くし、また軸受剛性も減少してしまうという問題があった。このため、この軸受を使用する際には、必要寿命、必要剛性を満足させるために、軸受のサイズを大きくする必要があり、装置全体の製造コストが嵩むという問題があった。
【0012】
本発明は、上述の様な事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、特別な加工を施すことなく、また軸受剛性を低下させることなく内輪のクリープ現象を抑制することができる外輪回転で使用される転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1)外周面にテーパ状の内輪軌道を有する内輪と、
内周面にテーパ状の外輪軌道を有する外輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に、転動自在に設けられる複数の円すいころと、を備えた、外輪回転で使用される転がり軸受であって、
前記各円すいころの軸線に沿ったころ長さの中央部におけるピッチ円直径をdm、前記ピッチ円直径の位置から該軸線に対して垂直に延びる垂直線が前記内輪軌道と交差する点での、前記内輪の径方向に関する寸法を内輪肉厚Hi、前記転がり軸受の断面中心径をdh、前記円すいころの長さを円すいころ長さL、前記円すいころの大径寸法と小径寸法の和の1/2を円すいころ径Dwとした場合に、
(a1)0.8≦Hi/Dw≦1.2、
(b1)1.01≦dm/dh≦1.05、
(c1)2.1≦L/Dw≦3.0、
の3つの条件を総て満たすことを特徴とする転がり軸受。
(2)隣り合う前記円すいころ間の距離をSとした場合に、Dw/dm≦S/dm≦0.11なる条件をさらに満たすことを特徴とする(1)に記載の転がり軸受。
(3)少なくとも前記内輪に浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理が施されており、
前記内輪が、0.1から0.7wt%の炭素を含む炭素鋼からなり、軌道表面層の残留オーステナイト量が20?45vol%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の転がり軸受。
(4)前記円すいころの長手方向を挟むように配置される一対の環状板と、
該一対の環状板を連結するための連結部材と、をさらに備え、
前記円すいころは両端面の中心に窪みを有し、
前記一対の環状板には、前記円すいころの回転を妨げずに、前記端面の窪みに嵌るピンを有することを特徴とする(1)?(3)のいずれかに記載の転がり軸受。
(5)外周面に内輪軌道を有する内輪と、
内周面に外輪軌道を有する外輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に、転動自在に設けられる複数の円筒ころと、を備えた、外輪回転で使用される転がり軸受であって、
前記各円筒ころのピッチ円直径をdm、内輪肉厚をHi、前記転がり軸受の断面中心径をdh、円筒ころ径をDwとした場合に、
(a2)0.6≦Hi/Dw≦1.8、
(b2)1.01≦dm/dh≦1.15、
の2つの条件を総て満たすことを特徴とする転がり軸受。
(6)少なくとも前記内輪に浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理が施されており、
前記内輪が、0.1から0.7wt%の炭素を含む炭素鋼からなり、軌道表面層の残留オーステナイト量が20?45vol%であることを特徴とする(5)に記載の転がり軸受。
(7)単一の中心を有する球状凹面である外輪軌道を、その内周面に形成した外輪と、
該外輪軌道と対向する1対の内輪軌道を、その外周面に形成した内輪と、
上記外輪軌道とこれら両内輪軌道との間に、2列に亙って転動自在に設けられた複数の球面ころとを備えた、外輪回転で使用される転がり軸受であって、
前記各球面ころの軸線に沿ったころ長さの中央部におけるピッチ円直径をdm、前記ピッチ円直径の位置から該軸線に対して垂直に延びる垂直線が前記内輪軌道と交差する点での、前記内輪の径方向に関する寸法を内輪肉厚をHi、前記転がり軸受の断面中心径をdh、前記球面ころの最大径寸法をDwとした場合に、
(a3)0.8≦Hi/Dw≦2.0、
(b3)1.01≦dm/dh≦1.15、
の2つの条件を総て満たすことを特徴とする転がり軸受。
(8)少なくとも前記内輪に浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理が施されており、
前記内輪が、0.1から0.7wt%の炭素を含む炭素鋼からなり、軌道表面層の残留オーステナイト量が20?45vol%であることを特徴とする(7)に記載の転がり軸受。
【発明の効果】
【0014】
本発明の(1)に記載の転がり軸受によれば、内輪肉厚Hiと円すいころ径Dwとの比Hi/Dwを0.8≦Hi/Dw≦1.2とし、ピッチ円直径dmと転がり軸受の断面中心径dhとの比dm/dhを1.01≦dm/dh≦1.05とし、円すいころ長さLと円すいころ径Dwとの比L/Dwを2.1≦L/Dw≦3.0とすることで、基本静定格荷重が大きくなり、且つ内輪の剛性があがることで、転動体通過に伴う内輪弾性変形を小さくし、クリープ現象を抑制することができる。
【0015】
このため、内輪肉厚Hiと円すいころ径Dwとの比Hi/Dwが、0.4≦Hi/Dw≦0.6で、ピッチ円直径dmと円すいころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが0.97≦dm/dh≦1.01であり、且つ、円すいころ長さLと円すいころ径Dwとの比L/Dwが1.0≦L/Dw≦2.0である従来の円すいころ軸受と比べて、円すいころの基本静定格荷重が大きくなり、且つ円すいころ自体の剛性もアップすることから、内輪の変形が抑えられ、クリープ抑制が図られる。
【0016】
また、本発明の(2)に記載の転がり軸受によれば、隣り合う円すいころ間の距離Sとピッチ円直径dmとの比S/dmを、Dw/dm≦S/dm≦0.11とすることで、円すいころの数が増加するため、各円すいころの荷重は減少し、内輪軌道面の面圧が小さくなり、内輪の弾性変形をさらに抑制することができる。
なお、転動体数を増加させ、ころ間距離を小さくすると、保持器柱幅が小さくなり保持器破損を招くおそれがあるが、本発明ではころ径を小さくし、ころ重量を減少させ保持器柱部に掛かる荷重を小さくしている。このため、保持器柱幅を従来品より小さくすることを可能とし、ころ間距離についても通常より小さくすることが可能となっている。
さらに、円すいころ同士を近接させることにより、円すいころの荷重による内輪軌道面の円周方向の伸びが打ち消し合いクリープ現象を抑制することができる。
【0017】
また、本発明の(3)に記載の転がり軸受によれば、ころ径を小さくしている関係上、従来の円すいころ軸受よりも軸受寿命が短くなるが、この寿命低下分を補うことができ、軸受寿命を従来の円すいころ軸受と同等以上とすることができる。
【0018】
また、本発明の(4)に記載の転がり軸受によれば、円すいころにピンの貫通用の穴を設ける必要がないため、ころ径を小さくしてもころ割れを防止することができる。
【0019】
また、本発明の(5)に記載の転がり軸受によれば、内輪肉厚Hiと円筒ころ径Dwとの比Hi/Dwを0.6≦Hi/Dw≦1.8とし、ピッチ円直径dmと転がり軸受の断面中心径dhとの比dm/dhを1.01≦dm/dh≦1.15とすることで、内輪の剛性があがり、転動体通過に伴う内輪弾性変形を小さくし、クリープ現象を抑制することができる。
【0020】
また、本発明の(6)に記載の転がり軸受によれば、ころ径を小さくしている関係上、従来の円筒ころ軸受よりも軸受寿命が短くなるが、この寿命低下分を補うことができ、軸受寿命を従来の円筒ころ軸受と同等以上とすることができる。
【0021】
また、本発明の(7)に記載の転がり軸受によれば、内輪肉厚Hiと球面ころ径Dwとの比Hi/Dwを0.8≦Hi/Dw≦2.0とし、ピッチ円直径dmと転がり軸受の断面中心径dhとの比dm/dhを1.01≦dm/dh≦1.15とすることで、内輪の剛性があがり、転動体通過に伴う内輪弾性変形を小さくし、クリープ現象を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の(8)に記載の転がり軸受によれば、ころ径を小さくしている関係上、従来の自動調心ころ軸受よりも軸受寿命が短くなるが、この寿命低下分を補うことができ、軸受寿命を従来の自動調心ころ軸受と同等以上とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態の円すいころ軸受が車輪支持装置に適用された場合を示す断面図である。
【図2】図1の円すいころ軸受の軸方向の断面図である。
【図3】図1の円すいころ軸受の軸直交方向の部分断面図である。
【図4A】第2実施形態の円すいころ軸受の軸方向の断面図である。
【図4B】従来の円すいころ軸受の軸方向の断面図である。
【図5】第2実施形態の円すいころ軸受に組み込まれる円すいころと端面板を端面板側から見た図である。
【図6A】本発明の第3実施形態の円筒ころ軸受の軸方向の断面図である。
【図6B】従来の円筒ころ軸受の軸方向の断面図である。
【図7A】本発明の第4実施形態の自動調心ころ軸受の軸方向の断面図である。
【図7B】従来の自動調心ころ軸受の軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の転がり軸受の各実施形態に係る転がり軸受について、図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態の円すいころ軸受が車輪支持装置に適用された場合を示す断面図であり、図2は、該円すいころ軸受の軸方向の断面図であり、図3は、該円すいころ軸受の軸直交方向の部分断面図である。
【0026】
車輪支持装置10では、軸部材12の外周面と、ハウジング13の内周面との間に一対の円すいころ軸受1a,1bが配置されている。ハウジング13には、スタッドボルト14によって、ブレーキ装置のブレーキドラム(図示せず)や車輪のホイールディスク(図示せず)が取り付けられる。
【0027】
図1及び図2に示すように、円すいころ軸受1a,1bは、内輪2と、外輪3と、複数の円すいころ4、保持器5と、を備える。内輪2は、外周面にテーパ状の内輪軌道2aと、内輪軌道2aの両側に小径側鍔部2b及び大径側鍔部2cと、を有し、外輪3は、内周面にテーパ状の外輪軌道3aを有する。複数の円すいころ4は、内輪軌道2aと外輪軌道3aとの間に、保持器5によって転動自在に設けられる。なお、円すいころ4の接触角αは、公知の円すいころ軸受の範囲のものが適用される。また、円すいころ軸受1a,1bは、概略同一形状であり、本実施形態では、異なるサイズのものが使用されているが、同一サイズのものが使用されてもよい。
【0028】
また、各外輪3は、ハウジング13に外嵌されており、インボード側の円すいころ軸受1bの内輪2を軸部材12の段部12aに突き当て、さらに、アウトボード側の円すいころ軸受1aの内輪2をその側方に設けられた内輪押さえ部15をナットもしくはボルトで締め上げる。これにより、各内輪2は、内輪軌道2aと外輪軌道3aとの距離が縮まる方向に、軸方向に押圧される事により、各円すいころ4に予圧が付与される。
【0029】
円すいころ4の材質としては、通常、浸炭鋼が使われるが、高炭素クロム軸受鋼(SUJ)を使用しても良い。また、保持器5の材質としては、通常、プレス保持器、ピンタイプ保持器が使用されるが、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)や、直鎖状ポリフェニレンサルファイド樹脂(Lw-PPS樹脂)を使用しても良い。特に、直鎖状ポリフェニレンサルファイド樹脂としては、溶融温度が310℃、剪断速度が200/secで700ポアーズ以上の高分子量からなる直鎖状ポリフェニレンサルファイド樹脂にガラス繊維を10?20重量%含む組成物や、直鎖状ポリフェニレンサルファイド樹脂77.0?97.0重量%と、ガラス繊維1.0?20重量%と、パーフルオロアルキル基とアルキル基とを有するオリゴマー2.0?3.9重量%と、からなる組成物のものが好ましい。このような保持器5を使用することで、高温や高速回転条件、高負荷条件等の苛酷な使用条件下で長期間の使用に耐えることができる。
【0030】
図2に一例として図示した保持器5は、プレス成形された金属製保持器であって、小径側環状部と大径側環状部が周方向に所定の間隔で配置された複数の柱部によって連結されており、小径側環状部と大径側環状部と隣り合う柱部とによって形成されたポケットに円すいころ4を保持している。
【0031】
ここで、図2及び図3に示すように、各円すいころ4の軸線xに沿ったころ長さの中央部におけるピッチ円直径をdm、ピッチ円直径の位置から該軸線xに対して垂直に延びる垂直線vが内輪軌道2aと交差する点での、内輪2の径方向に関する寸法を内輪肉厚Hi、円すいころ軸受の断面中心径をdh、円すいころ4の長さを円すいころ長さL、円すいころの大径寸法と小径寸法の和の1/2を円すいころ径Dw、隣り合う円すいころ4間の距離をSとする。
【0032】
なお、円すいころ4のピッチ円直径とは、内輪軌道2aと外輪軌道3a内に配置した複数の円すいころ4の軸線xに沿ったころ長さの中点を結んでできる円筒面の直径のことを称しており、円すいころ4のいずれを使用しても、ピッチ円直径は同一値を示す。また、円すいころ軸受の断面中心径dhは、円すいころ軸受の内径(内輪内周径寸法)をdと外径(外輪外周径寸法)をDとすると、(D+d)/2で表される。
【0033】
隣り合う円すいころ4間の距離Sは、ピッチ円直径上における距離であり、円すいころ4の数(転動体数とも呼ぶ。)をZとすると、以下の計算式(1)で与えられる。
S=(360/Z)・(π/180)・dm/2 ・・・(1)
【0034】
この場合、本実施形態の円すいころ軸受1a,1bでは、(a1)内輪肉厚Hiと円すいころ径Dwとの比Hi/Dwが、0.8≦Hi/Dw≦1.2、(b1)ピッチ円直径dmと円すいころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが、1.01≦dm/dh≦1.05、(c1)円すいころ長さLと円すいころ径Dwとの比L/Dwが2.1≦L/Dw≦3.0、の3つの条件を総て満たすように設定されている。
【0035】
このように本実施形態の円すいころ軸受1a,1bでは、軸の締め代を大きくする代わりに、内輪2の肉厚を厚くして内輪2の剛性を上げることにより、内輪2の変形が抑えられ、クリープ抑制が図られている。
【0036】
さらに、本実施形態の円すいころ軸受1a,1bでは、隣り合う円すいころ間の距離S(図3参照)とピッチ円直径dmとの比S/dmが、Dw/dm≦S/dm≦0.11を満たすように設定されている。
【0037】
これにより、円すいころ4の数が増加するため、各円すいころ4の荷重は減少し、内輪軌道2aの面圧が小さくなり、内輪2の弾性変形を抑制することができる。さらに、円すいころ4同士を近接させることにより、円すいころ4の荷重による内輪軌道2aの円周方向の伸びが打ち消し合いクリープ現象を抑制することができる。
【0038】
なお、隣り合う円すいころ4間の距離を小さくすると、保持器柱幅が小さくなり保持器5の破損を招くおそれがあるが、本発明では上述したように円すいころ径Dwを小さくし、円すいころ4の重量を減少させているので、保持器柱部に作用する荷重が小さくなる。従って、保持器柱幅を通常より小さくすることが可能となり、隣り合う円すいころ4間の距離を通常より小さくすることが可能となる。
【0039】
なお、ころ径を小さくしている関係上、軸受寿命が短くなるが、軸受寿命を確保したい場合には、少なくとも内輪を0.1?0.7wt%の炭素を含む炭素鋼から形成し、浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理を施し、軌道表面層の残留オーステナイト量を20?45vol%とすることが好ましい。
【0040】
<第2実施形態>
上記した第1実施形態では、一例としてプレス成形により一体形成された金属性保持器を用いたが、第2実施形態では円すいころの端面形状と保持器の構成が第1実施形態の円すいころ軸受と異なっており、それ以外の構成については、第1実施形態の円すいころ軸受と同一又は同等の構成を有している。以下第2実施形態の円すいころ軸受について説明するが、第1実施形態の円すいころ軸受と同一又は同等の構成部分について同一又は同等の符号を付してその説明を省略する。
【0041】
円すいころ軸受11は、図4Aに示すように、内輪2と、外輪3と、複数の円すいころ4Aと、保持器5Aと、を備える。内輪2は、外周面にテーパ状の内輪軌道2aと、内輪軌道2aの両側に小径側鍔部2b及び大径側鍔部2cと、を有し、外輪3は、内周面にテーパ状の外輪軌道3aを有する。複数の円すいころ4Aは、内輪軌道2aと外輪軌道3aとの間に、保持器5Aによって転動自在に設けられる。
【0042】
円すいころ4Aは、両端面の中心に窪みを有する。
【0043】
保持器5Aは、図5にも示すように、円すいころ4Aの長手方向を挟むように配置される一対の環状板51と、該一対の環状板51を連結するための連結部材としてのステー52と、を備える。一対の環状板51には、円すいころ4Aの回転を妨げずに、端面の窪みに嵌るピン53が形成される。
【0044】
ステー52は、円すいころ4Aに比べて小径に形成され、径方向に所定の間隔をあけてピッチ円直径を挟むように上下に配置される。なお、ステー52は、各円すいころ4A間に配置せずに、強度を考慮した上で数本置きに配置してもよい。ステー52及びピン53は、溶接、圧入、接着等の任意の手段で環状板51に固定される。また、円すいころ4Aの窪み及びピン53の接触部は粗さを極力小さくし、摩耗防止のためにリン酸マンガンなどの被膜処理を施すことが好ましい。
【0045】
このように保持器5Aを構成することで、第1実施形態の保持器5に比べて柱部を設けない分、円すいころ4Aの数をさらに増やすことができる。また、図4Bに示す従来の円すいころ軸受101の保持105のように、円すいころ104を貫通するピン53により一対の環状板51が連結されている場合、上記(a1)?(c1)の関係式を満たすように設計しようとすると、ころ割れが発生する可能性がある。本実施形態によれば、(a1)?(c1)の関係式を満たすことで、内輪2の肉厚を厚くして内輪2の剛性を上げることができ、それにより、内輪2の変形が抑えられ、クリープ抑制が図られる。また、隣り合う円すいころ間の距離S(図3参照)とピッチ円直径dmとの比S/dmが、Dw/dm≦S/dm≦0.11を満たすように設定して円すいころ4の数を増やすことができるため、内輪2の弾性変形を抑制するとともにクリープ現象を抑制することができる。
【0046】
<第3実施形態>
上記した第1及び第2実施形態では、車両重量の重いダンプトラック、鉱山・建機用ダンプトラック、ホイールローダ等のホイールなど、外輪回転で使用される転がり軸受として円すいころ軸受を例示したが、一般産業機械用のプラネタリなど、外輪回転で使用される円筒ころ軸受にも適用することができる。第2実施形態では円筒ころ軸受について説明する。
【0047】
円筒ころ軸受21は、図6Aに示すように、内輪22と、外輪23と、複数の円筒ころ24、保持器25と、を備える。内輪22は、外周面に内輪軌道22aを有し、外輪23は、内周面に外輪軌道23aと、外輪軌道23aの両側に鍔部23b、23cとを有する。複数の円筒ころ24は、内輪軌道22aと外輪軌道23aとの間に、保持器25によって転動自在に設けられる。
【0048】
なお、本実施形態では、NU形の円筒ころ軸受を例示しているが、NJ形、NU形等の鍔部の有無に関わらず本発明を適用できる。円すいころ24、保持器25の材質は第1実施形態と同様であり、保持器25は、もみ抜き保持器に限らず、プレス保持器、樹脂保持器等、任意の保持器形式を採用することができるとともに、総ころタイプのように保持器を省略してもよい。また、第2実施形態で説明した保持器5Aを用いてもよい。
【0049】
ここで、図6Aに示すように、各円筒ころ24のピッチ円直径をdm、内輪肉厚をHi、円筒ころ軸受の断面中心径をdh、円筒ころ24のころ径をDwとする。なお、円筒ころ24のピッチ円直径とは、内輪軌道22aと外輪軌道23a内に配置した複数の円筒ころ24の中点を結んでできる円筒面の直径のことを称しており、円筒ころ24のいずれを使用しても、ピッチ円直径は同一値を示す。また、円筒ころ軸受の断面中心径dhは、円筒ころ軸受の内径(内輪内周径寸法)をdと外径(外輪外周径寸法)をDとすると、(D+d)/2で表される。
【0050】
本実施形態の円筒ころ軸受21では、(a2)内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwが、0.6≦Hi/Dw≦1.8、(b2)ピッチ円直径dmと円筒ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが、1.01≦dm/dh≦1.15、の2つの条件を総て満たすように設定されている。
【0051】
内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwの比が小さいとクリープ抑制効果が小さく、また大きい場合には軸受寿命の低下率が大きくなる。このため、内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwは、0.8≦Hi/Dw≦1.5が好ましい。また、同様の理由により、ピッチ円直径dmと円筒ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhは、1.01≦dm/dh≦1.10が好ましい。
【0052】
このように、本実施形態の円筒ころ軸受21では、図6Bに示す従来の円筒ころ軸受に対しころ径を小さくし、内輪22の肉厚を厚くすることで、内輪22の剛性が上がることから、内輪22の変形が抑えられクリープ抑制が図られる。さらに、ころ径を小さくすることで、ころ数を増加させ、転動体荷重を減少させることが可能となり、これにより、さらなるクリープ抑制効果を得ることができる。
【0053】
なお、ころ径を小さくしている関係上、軸受寿命が短くなるが、軸受寿命を確保したい場合には、少なくとも内輪を0.1?0.7wt%の炭素を含む炭素鋼から形成し、浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理を施し、軌道表面層の残留オーステナイト量を20?45vol%とすることが好ましい。
【0054】
<第4実施形態>
続いて一般産業機械用のプラネタリなど、外輪回転で使用される自動調心ころ軸受について説明する。
【0055】
自動調心ころ軸受31は、図7Aに示すように、内輪32と、外輪33と、複数の球面ころ34、保持器35と、を備える。上記外輪33の内周面には、単一の中心を有する球状凹面である、外輪軌道33aを形成している。又、上記内輪32の外周面の幅方向両側には、それぞれが上記外輪軌道33aと対向する、1対の内輪軌道32a、32aを形成している。又、上記複数の球面ころ34は、その最大径部が各球面ころ34の軸方向中間部に存在するビヤ樽型(一般的には最大径部が軸方向中央部にある対称形)で、上記外輪軌道33aと上記1対の内輪軌道32a、32aとの間に、2列に亙って転動自在に配列されている。この様な各球面ころ34は、保持器35によって転動自在に設けられる。
【0056】
なお、球面ころ34、保持器35の材質は第1実施形態と同様であり、保持器35は、もみ抜き保持器に限らず、プレス保持器、樹脂保持器等、任意の保持器形式を採用することができる。
【0057】
ここで、図7Aに示すように、各球面ころ34の軸線xに沿ったころ長さの中央部におけるピッチ円直径をdm、ピッチ円直径の位置から該軸線xに対して垂直に延びる垂直線vが内輪軌道32aと交差する点での、内輪32の径方向に関する寸法を内輪肉厚Hi、自動調心ころ軸受の断面中心径をdh、球面ころ34の最大径寸法をころ径Dwとする。
【0058】
なお、球面ころ34のピッチ円直径とは、内輪軌道32aと外輪軌道33a内に配置した複数の球面ころ34の軸線xに沿ったころ長さの中点を結んでできる円筒面の直径のことを称しており、球面ころ34のいずれを使用しても、ピッチ円直径は同一値を示す。また、自動調心ころ軸受の断面中心径dhは、自動調心ころ軸受の内径(内輪内周径寸法)をdと外径(外輪外周径寸法)をDとすると、(D+d)/2で表される。
【0059】
本実施形態の自動調心ころ軸受31では、(a3)内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwが、0.8≦Hi/Dw≦2.0、(b3)ピッチ円直径dmと円筒ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが、1.01≦dm/dh≦1.15、の2つの条件を総て満たすように設定されている。
【0060】
内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwの比が小さいとクリープ抑制効果が小さく、また大きい場合には軸受寿命の低下率が大きくなる。このため、内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwは、1.0?1.8が好ましい。また、同様の理由により、ピッチ円直径dmと円筒ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhは、1.05?1.15が好ましい。
【0061】
このように、本実施形態の自動調心ころ軸受31では、図7Bに示す従来の自動調心ころ軸受に対しころ径を小さくし、内輪32の肉厚を厚くすることで、内輪32の剛性が上がることから、内輪32の変形が抑えられクリープ抑制が図られる。さらに、ころ径を小さくすることで、ころ数を増加させ、転動体荷重を減少させることが可能となり、これにより、さらなるクリープ抑制効果を得ることができる。
【0062】
なお、ころ径を小さくしている関係上、軸受寿命が短くなるが、軸受寿命を確保したい場合には、少なくとも内輪を0.1?0.7wt%の炭素を含む炭素鋼から形成し、浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理を施し、軌道表面層の残留オーステナイト量を20?45vol%とすることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明の効果について説明する。
<円すいころ軸受>
内径φ260mm、外径φ400mm、幅87mmの外観形状を有する3種類の円すいころ軸受を用意した。1つ目は、比較例1としてのISO規格(ISO355-1977)に準じた標準品(例えば日本精工型番:HR32052XJ、以下、従来標準軸受Aと呼ぶ。)、2つ目は、比較例2としての特許文献2に記載の円すいころ軸受(従来標準軸受Aの内輪及び外輪の肉厚を増加させたもの)、3つ目は、本発明の実施例1としての円すいころ軸受(従来標準軸受Aの内輪の肉厚を増加させたもの)である。そして、これらの円すいころ軸受の軸受剛性(基本静定格荷重Cor)、耐クリープ性能、軸受寿命を評価した。
【0064】
比較例1としての従来標準軸受Aは、内輪肉厚Hiが18.9mm、円すいころ径Dwが34.2mm、ピッチ円直径dmが331mm、断面中心径dhが330mm、円すいころ長さLが64mm、円すいころ数Zが27、隣り合う円すいころ間の距離Sが38.5mmであり、内輪肉厚Hiと円すいころ径Dwとの比Hi/Dwが0.6、ピッチ円直径dmと円すいころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが1.00、円すいころ長さLと円すいころ径Dwとの比L/Dwが1.9、且つ、隣り合う円すいころ間の距離Sとピッチ円直径dmとの比S/dmが0.12であった。
【0065】
比較例2としての特許文献2に記載の円すいころ軸受は、内輪肉厚Hiが28.0mm、円すいころ径Dwが17.5mm、ピッチ円直径dmが333.5mm、断面中心径dhが330mm、円すいころ長さLが52.5mm、円すいころ数Zが53、隣り合う円すいころ間の距離Sが19.8mmであり、内輪肉厚Hiと円すいころ径Dwとの比Hi/Dwが1.6、ピッチ円直径dmと円すいころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが1.01、円すいころ長さLと円すいころ径Dwとの比L/Dwが3.0、且つ、隣り合う円すいころ間の距離Sとピッチ円直径dmとの比S/dmが0.06であった。
【0066】
実施例1としての円すいころ軸受は、内輪肉厚Hiが26.8mm、円すいころ径Dwが25.6mm、ピッチ円直径dmが339mm、断面中心径dhが330mm、円すいころ長さLが64mm、円すいころ数Zが38、隣り合う円すいころ間の距離Sが28.0mmであり、内輪肉厚Hiと円すいころ径Dwとの比Hi/Dwが1.0、ピッチ円直径dmと円すいころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが1.03、円すいころ長さLと円すいころ径Dwとの比L/Dwが2.5、且つ、隣り合う円すいころ間の距離Sとピッチ円直径dmとの比S/dmが0.08であった。
【0067】
上記3種の円すいころ軸受の外観形状をまとめると以下の表1の通りである。
【表1】

【0068】
上記3種の円すいころ軸受について、軸受剛性(基本静定格荷重Cor)を以下の計算式(2)で求めた。
Cor = fo・i・Z・Dw・L・cosα ・・・(2)
ここで、foは係数、iは転動体列数、Zは転動体数、Dwは円すいころ径、Lは円すいころ長さ、αは外輪接触角である。
【0069】
軸受剛性(基本静定格荷重Cor)についてその評価とともに表2に示す。軸受剛性の評価は、基準となる軸受(本実施例では比較例1の従来標準軸受A)と比べて大きければ要求を満たし(○)、小さければ要求を満たさないもの(×)とした(以下、表5、7についてもそれぞれの比較例と比べて同様の基準で判断した。)
【0070】
【表2】

【0071】
上記条件で基本静定格荷重Corを計算した場合、比較例1の従来標準軸受Aの円すいころ軸受の基本静定格荷重Corを1とすると、実施例1の円すいころ軸受の基本静定格荷重Corが約1.1となり、剛性が上がっていることが確認できる。また、比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受では、基本静定格荷重Corが0.85となり、実施例1の円すいころ軸受は比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受に比べても、基本静定格荷重Corが大きいことが分かる。
【0072】
実施例1の円すいころ軸受では、比較例1の従来標準軸受Aに対し内輪の肉厚を厚くすることで内輪の剛性があがった。また、比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受では、比較例1の従来標準軸受Aに対し内輪及び外輪の肉厚を厚くすることでころ径が極端に小さくなり、これにともないころ長さが短くなるため、比較例1の従来標準軸受Aよりも基本静定格荷重Corが小さくなっている。従って、実施例1の円すいころ軸受では、ISO規格に則った比較例1の従来標準軸受A及び比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受に比べて基本静定格荷重Corが大きくなっている。
【0073】
次に、耐クリープ性能について説明する。耐クリープ性能は、内輪にクリープが発生するクリープ発生荷重から評価した。
実施例1の円すいころ軸受では、内輪の耐クリープ性能は比較例1の従来標準軸受Aに比べて8倍以上となり、比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受では、耐クリープ性能は比較例1の従来標準軸受Aに比べて3倍となった。実施例1の円すいころ軸受は比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受に比べても、耐クリープ性能が高いことが分かる。
【0074】
実施例1の円すいころ軸受では、基本静定格荷重が大きくなり、且つ内輪の剛性も上がることから、内輪の変形が抑えられ、クリープ現象が抑制されている。また、比較例1の従来標準軸受Aに比べて、転動体数を増加させ、ころ間距離を小さくしているので、各円すいころの荷重は減少する。これにより、内輪軌道面の面圧が小さくなり、内輪の弾性変形を抑制することで、さらにクリープ現象が抑制されている。さらに、ころ間距離を小さくすることにより、転動体荷重による内輪軌道面の円周方向の伸びが打消し合いクリープ現象を抑制することが可能となる。
【0075】
なお、比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受は、ころ径及びころ長さが極端に小さいため、内輪軌道面の面圧が大きくなり、本発明の実施例1の円すいころ軸受に比べて耐クリープ性能が劣る結果となった。
【0076】
次に、軸受寿命とその評価について表3に示す。この表は、比較例1の従来標準軸受Aの値を1とした場合の比で表している。軸受寿命の評価は、基準となる軸受(本実施例では比較例1の従来標準軸受A)の0.5以上であれば要求を満たし(○)、0.5未満であれば要求を満たさないもの(×)とした(以下、表5、7についてもそれぞれの比較例と比べて同様の基準で判断した。)
【0077】
【表3】

【0078】
実施例1の円すいころ軸受では、軸受寿命は比較例1の従来標準軸受Aに比べて0.7となり、比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受では、軸受寿命は比較例1の従来標準軸受Aに比べて0.2となった。実施例1の円すいころ軸受は比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受に比べて、軸受寿命が長いが、ころ径を小さくしている関係上、比較例1の従来標準軸受Aよりも軸受寿命が短くなっているが、寿命低下率は比較例1の従来標準軸受Aの約30%に抑えている。
【0079】
この寿命低下分に関しては、0.1?0.7wt%の炭素を含む炭素鋼からなる内輪に浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理を施し、軌道表面層の残留オーステナイト量を20?45vol%とすることで、軸受寿命を1.4とすることができた。
【0080】
外輪回転荷重にて使用される場合、内輪軌道面の面圧が高く、転動体通過に伴う応力繰返し数が多い内輪にはく離が発生することが分かっている。また、特に鉱山ダンプトラックにおいては、外部から異物が侵入する。この異物が転がり軸受の軌道面に損傷を与え転がり軸受の寿命を低下させている。このため、少なくとも内輪を0.1?0.7wt%の炭素を含む炭素鋼から形成し、浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理を施し、軌道表面層の残留オーステナイト量を20?45vol%とすることで、従来標準軸受Aと同等以上の軸受寿命とすることが可能となる。なお、表面残留オーステナイト量が45%を超えると、表面硬さを低下させることなり、逆に耐疲労性が低下してしまう。
【0081】
以上説明したように、本発明の場合、比較例1の従来標準軸受Aと比べて、外輪の肉厚を厚くしないで内輪の肉厚のみを厚くすることが、比較例2の特許文献2に記載の円すいころ軸受と大きく異なっている。トラックや鉱山・建機ダンプトラック、ホイールローダのホイール等、外輪回転荷重条件で使用されるころがり軸受においては、通常外輪のはめあいはタイトフィットで使用されるため、外輪のクリープ現象は内輪よりも軽微である。このため、本発明者は、外輪の肉厚を増加せずに、内輪の肉厚を増加させることで内輪のクリープ現象を防止することが可能であることを見出した。さらに、転動体数を増加させ、転動体荷重を下げることにより外輪軌道面の面圧が低下し、さらに転動体同士を接近させ、転動体荷重による外輪軌道面の円周方向の伸びを打消すことで、外輪のクリープ現象を防止することが可能であることを見出した。また、外輪の肉厚を増加させない分、ころ径を大きくできるため、軸受寿命の低下を最小限にすることが可能になるとともに、軸受剛性を比較例1の従来標準軸受Aよりも大きくすることが可能となった。
【0082】
<円筒ころ軸受>
内径φ100mm、外径φ215mm、幅73mmの外観形状を有する2種類の円筒ころ軸受を用意した。
比較例3としての従来標準軸受B(JIS B1533-1993に準じた標準品)は、内輪肉厚Hiが13.8mm、ころ径Dwが32.0mm、ピッチ円直径dmが159.5mm、断面中心径dhが157.5mm、ころ長さLが52mm、ころ数Zが13であり、内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwが0.43、ピッチ円直径dmと円筒ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが1.01であった。
【0083】
本発明の実施例2の円筒ころ軸受は、内輪肉厚Hiが25.8mm、ころ径Dwが20.0mm、ピッチ円直径dmが171.5mm、断面中心径dhが157.5mm、ころ長さLが52mm、ころ数Zが22であり、内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwが1.29、ピッチ円直径dmと円筒ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが1.09であった。
【0084】
上記2種の円筒ころ軸受の外観形状をまとめると以下の表4の通りである。
【表4】

【0085】
上記2種の円筒ころ軸受について、基本静定格荷重Corを上記の計算式(2)で求めた。また、軸受寿命についても測定した。
結果を評価と合わせて表5に示す。
【0086】
【表5】

【0087】
上記条件で基本静定格荷重Corを計算した場合、比較例3の従来標準軸受Bの円筒ころ軸受の基本静定格荷重Corを1とすると、実施例2の円筒ころ軸受の基本静定格荷重Corが約1.2となり、剛性が増加していることが確認できる。また、実施例2の円筒ころ軸受では、軸受寿命は比較例3の従来標準軸受Bに比べて0.6となった。この寿命低下分に関しては、0.1?0.7wt%の炭素を含む炭素鋼からなる内輪に浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理を施し、軌道表面層の残留オーステナイト量を20?45vol%とすることで、軸受寿命を1.2とすることができた。
【0088】
以上説明したように、本実施形態の場合も、外輪の肉厚を増加せずに、内輪の肉厚を増加させることで内輪のクリープ現象を防止することができ、さらに、転動体数を増加させ、転動体荷重を下げるとともに、転動体同士を接近させ、転動体荷重による内輪軌道面の円周方向の伸びを打消すことで、より確実に内輪のクリープ現象を防止することができる。
【0089】
<自動調心ころ軸受>
内径φ100mm、外径φ215mm、幅73mmの外観形状を有する2種類の自動調心ころ軸受を用意した。
比較例4としての従来標準軸受C(JIS B1535-1993に準じた標準品)は、内輪肉厚Hiが17.2mm、ころ径Dwが29.0mm、ピッチ円直径dmが162.5mm、断面中心径dhが157.5mm、ころ長さLが27.3mm、ころ数Zが15であり、内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwが0.60、ピッチ円直径dmと自動調心ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが1.03であった。
【0090】
本発明の実施例3として自動調心ころ軸受は、内輪肉厚Hiが28.7mm、ころ径Dwが17.0mm、ピッチ円直径dmが173.9mm、断面中心径dhが157.5mm、ころ長さLが27.3mm、ころ数Zが27であり、内輪肉厚Hiところ径Dwとの比Hi/Dwが1.68、ピッチ円直径dmと自動調心ころ軸受の断面中心径dhとの比dm/dhが1.10であった。
【0091】
上記2種の自動調心ころ軸受の外観形状をまとめると以下の表6の通りである。
【表6】

【0092】
上記2種の自動調心ころ軸受について、基本静定格荷重Corを上記の計算式(2)で求めた。軸受寿命についても測定した。
結果を評価と合わせて表7に示す。
【0093】
【表7】

【0094】
上記条件で基本静定格荷重Corを計算した場合、比較例4の従来標準軸受Cの自動調心ころ軸受の基本静定格荷重Corを1とすると、実施例3の自動調心ころ軸受の基本静定格荷重Corが約1.2となり、剛性が増加していることが確認できる。また、実施例3の自動調心ころ軸受では、軸受寿命は比較例4の従来標準軸受Cに比べて0.6となった。この寿命低下分に関しては、0.1?0.7wt%の炭素を含む炭素鋼からなる内輪に浸炭熱処理若しくは浸炭窒化処理を施し、軌道表面層の残留オーステナイト量を20?45vol%とすることで、軸受寿命を1.2とすることができた。
【0095】
以上説明したように、本実施形態の場合も、外輪の肉厚を増加せずに、内輪の肉厚を増加させることで内輪のクリープ現象を防止することができ、さらに、転動体数を増加させ、転動体荷重を下げるとともに、転動体同士を接近させ、転動体荷重による内輪軌道面の円周方向の伸びを打消すことで、より確実に内輪のクリープ現象を防止することができる。
【0096】
さらに、内輪2、22、32の内周面や、外輪3、23、33の外周面は、表面粗さを粗くし摩擦係数を増加させることで、クリープ現象を確実に抑制するようにしてもよい。或いは、内輪2、22、33の内周面に、マイクロショット等によって固体潤滑膜や撥油膜をコーティングしてもよい。
【0097】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変更、改良等が可能である。
【0098】
なお、本出願は、2011年7月15日出願の日本特許出願(特願2011-156750)及び日本特許出願(特願2011-156751)、及び2012年6月1日付出願の日本特許出願(特願2012-126481)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0099】
1 円すいころ軸受
2 内輪
2a 内輪軌道
3 外輪
3a 外輪軌道
4 円すいころ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-11-20 
結審通知日 2017-11-22 
審決日 2017-12-05 
出願番号 特願2013-501964(P2013-501964)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 上谷 公治  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 内田 博之
滝谷 亮一
登録日 2016-03-18 
登録番号 特許第5900485号(P5900485)
発明の名称 転がり軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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