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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J |
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管理番号 | 1336473 |
審判番号 | 不服2015-21198 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-30 |
確定日 | 2018-01-12 |
事件の表示 | 特願2013-141723「固体物体と気体とに関わる過程を強めて層流底層を減少させる方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月14日出願公開、特開2013-230472〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2005年(平成17年)8月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年8月13日、デンマーク、2005年1月7日、デンマーク)を国際出願日とする特願2007-525171号の一部を、平成25年7月5日に新たな特許出願としたものであって、平成25年8月5日付けで手続補正書が提出され、平成26年6月27日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月5日付けで、意見書及び手続補正書が提出され、同年7月28日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年11月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がされ、平成28年10月28日付けで当審より拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年5月1日付けで意見書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?8に記載された発明は、平成27年1月5日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。 「固体物体と気体とが関連する過程を強めるための方法であって、 音波装置の前に、前記固体物体を配置する工程と、 前記固体物体の表面上を前記気体が流れるように前記気体を導く工程と、 前記音波手段によって、少なくとも前記固体物体の表面に、140デシベルまたはそれ以上の強度を有する高い強度の音波または超音波を当てて、それにより前記高い強度の音波または超音波が、前記物体の表面へ伝搬する媒体である前記気体に対して直接当てられて、前記固体物体の表面において層流底層が除去または最小化される工程とを備える方法。」 3.当審拒絶理由の概要 当審拒絶理由の概要は、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭55-135212号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 4.引用例・周知例について (1)引用例の記載(下線は、当審が付与した。) 引用例には、「周波数変調器」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は、当審が付与した。)。 ア 「本発明は周波数変調器に関する。」(3頁右上欄16行) イ 「広義にて本発明は、駆動流体により生じる音波の角周波数および振幅が実質的に装置でのインピーダンスを高めることなく任意に変化できる周波数変調器として特徴付けできる。この周波数変調器は実質的に円形な断面を有するとともに内部に流体を回転させるように給送するための手段を有するスワール室を含む。スワール室内には流体の旋回流すなわちボルテツクスが形成される。このスワール室と同軸的に整列されて圧縮室が形成され、この圧縮室は実質的に円形な断面を有するとともにスワール室の後流位置に配置され、圧縮室の断面はスワール室の断面と同じか小さくされる。圧縮室内では流体の角周波数が確立され、フオンネグツトによつて彼のボルテツクス音発生装置の説明の中で教示されているように増大され得る。周波数変調器はさらに少くとも2個の変調室を有しており、これらの変調室もまた実質的に円形な断面を有するとともに、圧縮室の下流位置に配置される。この変調室は圧縮室の断面に比較して等しく(D=d)、あるいは大きく(D<d)とされることができる〔ここでDは圧縮室すなわち出口開口の直径(式1(当審注:省略))であり、dは周波数変調室の直径である〕。小さい場合には、本発明の周波数変調器を流れる駆動流体によつて生じる波の角周波数および振幅は任意にマルチ化できる。マルチプライヤ-室および圧縮室の断面が等しい場合、駆動流体によつて生じる波の周波数は変調室の通過において変化されずに維持されるが、波の振幅は変調室から発散される流体波によつて行われる構造的あるいは破壊的な干渉にもとづいて変化する。変調室が圧縮室の断面より大きな断面を有する実施例においては、駆動流体によつて生じる波の周波数は減じる一方、その波の振幅は繰返して述べるが変調室から発散する波の相互の構造的あるいは破壊的な干渉によつて任意に変化できる。この説明においてさらに明らかとなるように、変調室の配置および形状はこのように流体の出方特性を制御し変化させるために変更することができる。 本発明は添付図面を参照してさらに詳しく明確となろう。 第1図には最も簡単な形態の周波数変調器が示されている。スワール室1は実質的に円形の断面を有し、これは流体が装置に流入して旋回流すなわちボルテツクスを形成する場所である。第1図において、接線方向入口ホール5が示されており、また矢符4で概略的に示すようにスワール室へ流体を給送してボルテツクスを形成するようになす何れかの装置が本発明の実施のために備えられている。 スワール室と同軸的に整列されて圧縮室2が配置されており、この圧縮室は実質的に円形の断面を有している。圧縮室のこの断面はしばしばスワール室の断面より小さくされ、ボルテツクスを圧縮する作用を与えて流れの角速度を高めるようになされる。圧縮室の下流位置には少くとも2つの変調室3が配置され、これらの変調室も実質的に円形の断面を有する。変調室はポートを通じて圧縮室と流体連通されており、ポートは変調室に対する接線方向に形成されて圧縮室内のボルテツクス流を個々のボルテツクス流に分流できるようになされている。既に述べたように、変調室の断面は圧縮室の断面よりも小さく、変調室3内に形成されたボルテツクスが流体の流れ4の方向と第2図の流体の流れ7の方向との比較によつて示されるように圧縮室内のボルテツクスと反対方向に回転するにも係わらず、角運動量保存の法則により角速度が高められる。変調室の断面が圧縮室の断面と等しい場合は、複合音波の振幅が各変調室から発散する流体の個々の波の振幅の間の空間的関係状態によつて変化されるにも係わらず、駆動流体の波の周波数を高めることはない。変調室の断面が圧縮室の断面より大きい場合には、得られる波の周波数は圧縮室内の波の周波数より低くなり、振幅も各変調室から発散される波の間の空間的関係状態によつて再び変化される。 圧縮室2および変調室3の重なり合う壁部は互いに交合つてポートを形成し、これらのポートは圧縮室/変調室の壁部によつて定められるシャープなナイフエツジ9により境界される。ナイフエツジ9は圧縮室2と変調室3との間の運動量損失の小さな接続を形成し、これは第3A図および第3B図に最も良く示されるように逆方向の高周波数ボルテツクス流25を形成して、変調室3が位相の同じな一定強度のオルガンパイプのような共鳴を生じるようになす。各変調室すなわち共鳴部はこの結果として乱れを生じ、この乱れは他の変調室と構造的な相互干渉を生じて、単一の共鳴室により発生する強度より非常に大きな強度の高エネルギー場を形成するようになす。」(4頁右下7欄行?5頁右下欄16行) ウ 「本発明の周波数変調器は一定のウルトラソニツク周波数の音響場を形成するのに使用できる。」(6頁左下欄7?8行) エ 「本発明は伝熱面に隣接する液体あるいはガスの層を破壊して伝熱能力を向上させるのにも使用できる。」(6頁右下欄9?11行) オ 「多くの処理状態のもとで、変調室から出る複合流体の結果的な波の振幅を最高に強化することがしばしば望まれる。」(8頁右上欄20行?左下欄2行) カ 図1「 」 (2)周知例について(下線は、当審が付与した。) ア 周知例1 当審拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である実願平1-45336号(実開平2-140186号)のマイクロフイルム(以下、「周知例1」という。)には、「伝熱効率を高める方法」(考案の名称)について、次の記載がある。 「〔利用分野〕 本考案はボイラー,熱交換器,反応器等,熱を伝え,又は熱交換する機器に関する。 〔従来の技術〕 従来,上記の機器において熱を伝え又は,熱交換する場合,流体に乱流を生じさせて伝熱効果を高める方法によっていた。 〔解決しようとする問題点〕 上記のように流体に乱流を生じさせても,伝熱壁の表面には極めて薄い層流の境膜が形成され,図1に示すように該境膜a,bが高温側から低温側に至る温度勾配に大きな影響を与えている。 即ち,該境膜が伝熱効率に大きな障害となっている。 本考案はこの伝熱壁の表面に形成される境膜の影響を少なくしようとするものである。 〔問題解決のための手段〕 本考案は上記の問題点を解決するため,熱を伝える機器に直接超音波発信子を取り付けるか,熱媒体である流体に超音波が伝達されるように超音波発信子を取り付けて超音波を発信し,前記伝熱壁の表面に形成される境膜を振動させて撹(当審注:原文は旧書体。以下同じ。)拌し,熱の伝達を改善し,伝熱効率を高めようとするものである。 〔実施例〕 第1図は,従来の伝熱壁の断面図であり,伝熱による温度変化を表している。 1は伝熱壁である。 a及びbは伝熱壁1の両側の流体によって形成される境膜であり,該境膜の外側は乱流帯である。 t_(1),t’_(1),t_(a),t_(b),t’_(z),t_(z)は温度の変化を示す曲線である。 該曲線でもわかるように乱流帯ではあまり温度変化はないが,境膜a,bでは温度勾配はt_(1)からt_(a)へ,t_(b)からt’_(2)へ急激に降下している。 第2図は流体又は伝熱壁に直接超音波を加えて境膜a及びbを振動させて撹拌し,熱伝達を向上させた状態を示す断熱壁の断面図である。 この場合はt_(1)とt_(2)の温度差が減少し,熱伝導率が良くなることを示している。 第3図は熱交換器に超音波発信子を取り付けた例を示す断面図である。 2はシェル,3はカバー,4は熱交換用のチューブである。 5は超音波発信子であり,シェル2及びカバー3に取付け,チューブシート6及び流体を通してチューブ4に超音波を伝達している。」(明細書1頁9行?3頁15行) 「第1図 第2図 第3図 」 イ 周知例2 当審拒絶理由で引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2004-525635号公報(以下、「周知例2」という。)には、「製品をその表面処理によって消毒する方法および装置」(発明の名称)について、次の記載がある。 「【発明を実施するための最良の形態】 【0016】 本発明による方法を実施するための図1に示す消毒装置は、外側部分5および内側部分6を備えるディスク状のいわゆるディスク・ジェットとして形成された蒸気デバイス1を備え、同図中に断面図で表示されている。圧縮された水が、蒸気チャンバ10から、外側部分5および内側部分6によって画定された蒸気通路3を通って開口2へ通過し、開口2から蒸気が内側部分6内に設けられたキャビティ4に向かってジェットで放出される。蒸気は、蒸留または脱塩された水から作製されてもよい。蒸気の圧力が十分高い場合、キャビティ4へ供給される蒸気内に、キャビティ4の寸法によって定まる振動数の振動が発生する。キャビティ4の寸法を、たとえばその音響固有振動数が20kHzから25kHzの範囲であるように構成することによって、蒸気デバイス1は、蒸気の圧力が十分高い場合、開口2から音響振動を発生させる。蒸気の圧力をさらに増加させても、振動数は顕著には変化しないが、蒸気デバイス1によって伝達される音圧はかなり増加する。図1に示したタイプの蒸気デバイスは、約4気圧の蒸気圧で160dB_(SPL)(当審注:「dB_(SPL)」とは、「Sound Pressure Level」(音圧)のレベルを表す単位である。)までの超音波音圧を発生させることができる。蒸気デバイス1は、真鍮、アルミニウム、または適切なステンレス材料のステンレス鋼またはその他の十分硬い材料で作ることができる。材料は、蒸気デバイスが使用中に受ける音圧および温度に耐えるだけでよい。図1に動作方法も示されている。図1で、拡散した蒸気7が、キャビティ4によって振動させられる。拡散した振動する蒸気は、下のコンベア9のほうへ方向付けられ、コンベア9の上に、消毒される製品8、たとえば食料品が配置される。製品8は、所望の消毒度合に対応する所定の速度で移送される。放出された振動する蒸気は、任意選択で種子を消毒するために使用することができる。」 「【図1】 」 (2)引用発明の認定 上記「(1)ア」、「(1)ウ」及び「(1)エ」の記載から、引用例には「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる方法」が記載されているといえる。 また、上記「(1)イ」には、「駆動流体により生じる音波の角周波数および振幅が実質的に装置でのインピーダンスを高めることなく任意に変化できる周波数変調器」と記載されている。 そうすると、引用例には、 「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる方法。」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 5.対比・判断 本願発明と引用発明とを対比する。 請求項1には「前記音波手段」と記載されているものの、「前記音波手段」という記載の前には、「音波手段」はなく、「前記音波手段」とは、前述されている「音波装置」を指すものと認められることから、引用発明の「周波数変調器」は、本願発明の「音波装置」及び「音波手段」に相当する。 また、請求項1には「前記物体」と記載されているものの、「前記物体」という記載の前には、「物体」自体はなく、「前記物体」とは、前述されている「固体物体」を指すものと認められることから、引用発明の「伝熱面」は、本願発明の「固体物体」及び「物体」に相当する。 そして、引用発明の「ガス」及び「ウルトラソニツク周波数の音響場」の音響は、本願発明の「気体」及び「超音波」に、それぞれ相当する。 さらに、 引用発明の「伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる方法」は、「伝熱面」(固体物体)と「ガス」(気体)との間の(とが関連する)伝熱能力(過程)を向上させる(強める)ものであるから、本願発明の「固体物体と気体とが関連する過程を強めるための方法」に相当する。 そして、引用発明の「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊」する構成と、本願発明の「音波手段によって、少なくとも固体物体の表面に、140デシベルまたはそれ以上の強度を有する高い強度の音波または超音波を当てて、それにより前記高い強度の音波または超音波が、前記物体の表面へ伝搬する媒体である前記気体に対して直接当てられて、前記固体物体の表面において層流底層が除去または最小化される工程」とは、「音波手段によって、超音波を当てる工程」である点で共通する。 そうすると、本願発明と引用発明とは、 「固体物体と気体とが関連する過程を強めるための方法であって、 前記音波手段によって、音波または超音波を当てる工程を備える方法。」である点で一致し、次の相違点1、2で相違する。 (相違点1) 本願発明は、「音波装置の前に、前記固体物体を配置する工程と、 前記固体物体の表面上を前記気体が流れるように前記気体を導く工程と、前記音波手段によって、少なくとも前記固体物体の表面に、」「高い強度の音波または超音波を当てて、それにより前記高い強度の音波または超音波が、前記物体の表面へ伝搬する媒体である前記気体に対して直接当てられて、前記固体物体の表面において層流底層が除去または最小化される工程とを備え」ているのに対し、引用発明は、周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させるものの、このような規定はされていない点。 (相違点2) 音波または超音波が、本願発明は、「140デシベルまたはそれ以上の強度を有する」ものであるのに対し、引用発明のウルトラソニツク周波数の音響場の音響(超音波)の強度は不明な点。 ここで、相違点について検討する。 (相違点1について) 引用発明の「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる」ことは、伝熱面に存在するガスの層を破壊するものであるから、技術常識に照らして、周波数変調器の前に、伝熱面(固体物体)を配置する工程と、伝熱面の表面上をガスが流れるように前記ガスを導く工程とを備えていることは明らかである。 一方、周知例1には、「ボイラー,熱交換器,反応器等,熱を伝え,又は熱交換する機器」において、「従来,上記の機器において熱を伝え又は,熱交換する場合,流体に乱流を生じさせて伝熱効果を高める方法によってい」るところ、「流体に乱流を生じさせても,伝熱壁の表面には極めて薄い層流の境膜が形成され」「境膜a,bが高温側から低温側に至る温度勾配に大きな影響を与えている」ことが記載され、第1図について、「第1図は,従来の伝熱壁の断面図であり,伝熱による温度変化を表している。 1は伝熱壁である。 a及びbは伝熱壁1の両側の流体によって形成される境膜であり,該境膜の外側は乱流帯である。」という記載がある。 そして、周知例1の「伝熱効率を高める方法」は、「この伝熱壁の表面に形成される境膜の影響を少なくしようとする」ために、「熱を伝える機器に直接超音波発信子を取り付けるか,熱媒体である流体に超音波が伝達されるように超音波発信子を取り付けて超音波を発信し,前記伝熱壁の表面に形成される境膜を振動させて撹拌し,熱の伝達を改善し,伝熱効率を高めようとするもの」であり、第2図には、「流体又は伝熱壁に直接超音波を加えて境膜a及びbを振動させて撹拌し,熱伝達を向上させた」ことが記載されている(上記「4.(2)ア」の下線部参照。)。 そうすると、周知例1に記載された「伝熱効率を高める方法」は、超音波発信子(実質的に、超音波の周波数を変えることができる周波数変調器であると認められるもの)を用い、超音波(ウルトラソニツク周波数の音響場の音響)によって、伝熱壁の表面(伝熱面)に形成される境膜(伝熱面に隣接するガスの層)を振動させて撹拌し(破壊し)、熱の伝達を改善し,伝熱効率を高めようとする(伝熱能力を向上させる)ものであるから、引用発明と周知例1に記載されたものとは、「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる」点で共通する。 そして、周知例1に記載されたような技術常識に照らして、引用発明では、伝熱面(周知例1の伝熱壁)に隣接するガスには、伝熱面の表面に形成される境膜とその外側の乱流帯が形成されていることは明らかであり、該境膜は、その外側に乱流帯があるから、底流と呼ぶことができるものであって、該層流は、本願発明の「層流底層」に相当するということができる。 さらに、引用発明の「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる」ことにおいて、「ウルトラソニツク周波数の音響場」の音響は、「伝熱面に隣接するガスの層を破壊」するものといえることから、その音響は、高い強度のものであって、伝熱面に当てられるとともに、伝熱面の表面に形成される境膜(ガスの層流底層)にも直接当てられて、伝熱面に隣接するガスの層流底層を除去または最小化する工程を備えた、伝熱能力を向上させるものであるということができる。 以上のことから、引用発明の「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる」ことは、「周波数変調器(音波装置)の前に、伝熱面(前記固体物体)を配置する工程と、 伝熱面(前記固体物体)の表面上をガス(前記気体)が流れるようにガス(前記気体)を導く工程と、前記音波手段によって、少なくとも伝熱面(前記固体物体)の表面に、ウルトラソニツク周波数の音響場の音響(超音波)を当てて、それにより前記高い強度のウルトラソニツク周波数の音響場の音響(超音波)が、伝熱面(前記物体)の表面へ伝搬する媒体であるガス(前記気体)に対して直接当てられて、伝熱面(前記固体物体)の表面において層流底層が除去または最小化される工程とを備え」ていることに当たるといえ、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。 また、仮に、実質的な相違点だとしても、引用発明と周知例1に記載されたものとは、「周波数変調器を用い、ウルトラソニツク周波数の音響場を形成して、伝熱面に隣接するガスの層を破壊して伝熱能力を向上させる」点で共通するものであることからして、引用発明において、上記の点で共通する周知例1に記載されたように、伝熱面の表面に形成される境膜(層流底流)を破壊すること、つまり、上記相違点1に係る構成を備えることは、当業者が容易に想到し得るものである。 (相違点2について) 引用例には、「多くの処理状態のもとで、変調室から出る複合流体の結果的な波の振幅を最高に強化することがしばしば望まれる。」(「4.(1)オ」)と記載されており、引用発明の「ウルトラソニツク周波数の音響場」の音響(超音波)の振幅、すなわち、強度は、最高に強化することが望ましいということができる。 一方、160デシベルといった、大きな強度を有する超音波を発生する手段は、周知例2に記載された「蒸気デバイス1」に示されるように、本願の優先日前に周知である。 そうすると、大きな強度を有する超音波を発生する手段として、引用発明の「周波数変調器」を、「140デシベルまたはそれ以上の強度を有する超音波」を発生する、周知例2に記載された蒸気デバイス1のような装置とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (まとめ) したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-08-21 |
結審通知日 | 2017-08-22 |
審決日 | 2017-09-04 |
出願番号 | 特願2013-141723(P2013-141723) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B01J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 近野 光知 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
川端 修 原 賢一 |
発明の名称 | 固体物体と気体とに関わる過程を強めて層流底層を減少させる方法 |
代理人 | 松井 孝夫 |
代理人 | 岡部 讓 |
代理人 | 越智 隆夫 |
代理人 | 高橋 誠一郎 |