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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63B
管理番号 1336474
審判番号 不服2016-15953  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-26 
確定日 2018-01-12 
事件の表示 特願2015-3036号「自動車運搬船のバーシャルバルクヘッド代替構造」拒絶査定不服審判事件〔平成28年7月14日出願公開、特開2016-128282号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯及び本願発明
本願は、平成27年1月9日の出願であって、平成28年1月20日付けで拒絶理由が通知され、同年3月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月17日付けで拒絶査定がされ、同年10月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

そして、本願の請求項1ないし4に係る発明は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、平成28年10月26日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。

<本願発明>
「パーシャルバルクヘッドを廃止した自動車運搬船において、全ての積載車両が走行する乗り込み甲板を含む上下2層又は3層の車両デッキの船側を深さの深い横隔壁とし、前記乗り込み甲板を含む上下2層又は3層上の車両デッキの船側を前記横隔壁より深さの浅い横隔壁としたことを特徴とする自動車運搬船のパーシャルバルクヘッド代替構造。」

第2.刊行物
1.刊行物に記載された事項及び引用発明
(1)原査定の拒絶理由で引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-103506号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。
(1a)「【請求項1】
船体の横方向に配設されるウェブフレームを具備してなる自動車運搬船の船殻構造において、
前記ウェブフレームをボックス断面構造にしたことを特徴とする自動車運搬船の船殻構造。」

(1b)「【0001】
本発明は、自動車専用の輸送船である自動車運搬船(PCC;Pure Car Carrier)の船殻構造に関する。」

(1c)「【0002】
従来より、自動車を専用に運搬するための自動車運搬船(図4参照)が知られている。この種の自動車運搬船1は、一般的には背の高い船体構造となるので、船体側壁2のラッキング変形に対して十分な強度を確保する必要がある。このため、自動車運搬船1の船殻構造においては、たとえば図5に示すように、通常ウェブフレームと呼ばれる骨格部材が設けられている。
図示した従来のウェブフレーム3は、自動車運搬船1の船体横(幅)方向中心に向けて長く(深く)立設された壁型の部材であることから、ディープウェブフレームとも呼ばれている。図示の例では、自動車運搬船1の船体縦(長手)方向に適当な間隔をもって左右対称に3箇所配設されている。なお、図中の符号4は甲板、5は床板である。
【0003】
また、自動車運搬船の船殻構造においては、従来よりラッキング変形に対応するため乗込甲板の下に隔壁を設けたものがある。この隔壁は自動車の移動通路を狭めて荷役構率を著しく悪化させる原因となるため、この隔壁を不要とすることにより荷役効率の向上を図った船殻構造が提案されている。」

(1d)「【0004】
上述したように、自動車運搬船1の船殻構造においては、背の高い船体側壁2のラッキング対策として設けられたウェブフレーム3が船体中央方向へ突出し、比較的狭い開口面積を残して自動車の積載空間を長手方向に区分する壁部材となる。このような壁部材が存在することにより、船内の積載空間で積荷の自動車を移動させる通路が狭められるので、荷役作業の効率を低下させる原因となって好ましくない。
【0005】
このように、背の高い船体構造のためラッキング変形に対する対策が必要となる自動車運搬船1においては、船内における荷役作業の妨げとならないよう大きな開口面積が得られ、しかも、ラッキング変形に対して十分な強度を確保できる船殻構造が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、船内における荷役作業を妨げることなく、ラッキング変形に対する船体強度を十分に確保することができる自動車運搬船の船殻構造を提供することにある。」

(1e)「【0009】
上述した本発明の自動車運搬船の船殻構造によれば、ウェブフレームをボックス断面構造にしたので、船体中央方向への突出量を小さくし、かつ、十分な強度を得ることができる。このため、船内の積載空間を長手方向に区分するウェブフレーム設置部分の開口面積を大きく(間口を広く)することができるので、積荷である自動車の船内移動が容易になり、荷役作業を高効率化するという顕著な効果が得られる。
また、ボックス断面構造の内部空間を有効に利用して換気流路にすれば、換気流路の設置スペース分だけ船内の積荷空間が増加し、積荷の自動車積載可能台数が増加して積載効率を向上させることができる。」

(1f)「【0010】
以下、本発明に係る自動車運搬船の船殻構造について、その一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、上述した図5の従来構造と同一の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図1は、自動車運搬船の船殻構造に係る第1の実施形態について、その概略構成を示す水平断面図である。自動車運搬船(以下、「船体」と呼ぶ)1は、各種フレーム部材を組み合わせた骨格に外板や甲板等を取り付けた構成とされる。このようなフレーム部材の中には、船体側壁2のラッキング変形に対して十分な強度を確保する目的で設けられるボックス断面構造のウェブフレーム10がある。なお、以下の説明において、縦(長手)方向は船体1が前進または後退する進行方向または前後方向のことであり、さらに、横方向は船体1の幅方向、上下方向は船体1の高さ方向のことである。
【0011】
このウェブフレーム10は、二つの矩形断面を船体1の縦方向に並べた中空のボックス断面構造を有し、船体1の船体側壁2に沿って上下方向に延在する強度部材である。図示の例では、左右の船体側壁2にそれぞれ3箇所ずつ(合計6箇所)のウェブフレーム10が船体2の縦方向に適当な間隔をもって配設されている。なお、ウェブフレーム10の設置箇所については、船体1の寸法及び形状等に応じて適宜変更される。
ウェブフレーム10の矩形断面は、凹状部材10aを区分する中仕切板10bを備えた断面形状が略ヨ字状のフレーム部材を船体側壁2に連結することで形成される。この場合のボックス断面形状は、ラッキング変形の入力条件等諸条件が同じ船体1において、従来技術である壁型のディープウェブフレームと同等以上の断面係数になるよう設定すればよい。
【0012】
また、ボックス断面形状のウェブフレーム10は、所望の断面係数を確保し、かつ、船体1の横方向へ突出する寸法Wfを最小とすることが好ましい。
これは、船体側壁2の内壁面に左右対称となるよう配設されたウェブフレーム10の対向面間隔(間口)Wを最大限に確保することにより、積荷である自動車の船内移動を容易にして荷役作業の効率を向上させるためである。すなわち、船体1の積載空間内では、ボックス断面形状のウェブフレーム10を設けたことにより、通路幅を規定する間口Wが大幅に狭められるようなことはなく、従って、自動車が船内で走行移動する通路幅を十分に確保して効率のよい荷役作業を行うことができる。
【0013】
ところで、船体1の積載空間は床板5で仕切られた多階層構造とされるが、積載空間の各階層には換気が必要となる。従来の船体1においては、専用の換気ダクト(換気流路)が設けられていたので、このようなダクト設置スペースの確保は、自動車を積載可能な有効容積を低減させている。」

(1g)「【0015】
また、上述したウェブフレーム10は、船体1の背が高いため船体側壁2も上下方向に長くなる。このため、ウェブフレーム10の上端部(甲板)側と下端部(船底)側とを比較すると、ラッキングの応力に大きな差が生じてくる。
そこで、図2に示す第2の実施形態では、ウェブフレーム10Aのように、大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′を上端部側の幅寸法Wfより大きくした2段階のボックス断面形状を採用している。この場合、ウェブフレーム10Aは、上述した第1の実施形態と同様に、二つの矩形断面を船体1の縦方向に並べた中空のボックス断面形状とされる。
【0016】
この結果、ウェブフレーム10Aは、条件の厳しい上端部側より下端部側の断面係数を大きくすることができるので、積載空間へ向けた横方向の突出を最小限に抑えてラッキングに対する応力を十分に確保し、船体側壁2の強度を向上させることができる。なお、図2のウェブフレーム10Aは2段階のボックス断面形状としたが、必要に応じて3段階以上としてもよい。
このような構成とすれば、船体側壁2の下部強度を十分に確保できるので、たとえば船底部のバラストタンク上方に配設され、船体1の縦方向を分割する水密隔壁(図示省略)に対しても比較的大きな開口面積の荷役通路を形成することができる。
【0017】
また、上述した実施形態では、ウェブフレーム10,10Aの断面形状が二つの矩形断面を船体1の縦方向に並べた中空のボックス断面形状であったが、これに限定されることはない。他の断面形状としては、たとえば図3に示す変形例のように、一つの矩形断面形状を有するウェブフレーム10Bとするなど、横方向の突出を抑制して大きな断面係数を得ることができればよい。」

以上の記載事項及び図示内容を総合すると引用例1には以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。

「自動車運搬船1において、積載空間は床板5で仕切られた多階層構造とされており、船体側壁2に設けられたウェブフレーム10Aは、大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′を上端部側の幅寸法Wfより大きくした2段階のボックス断面形状とされる自動車運搬船1の船殻構造。」

(2)原査定の拒絶理由で引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-153242号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(2a)「【0016】
・・・
さらに、図2?図7に示すように、満載喫水線WLの直ぐ下方に位置する第3車両甲板14cと満載喫水線WLから上方に2段目の第5車両甲板(水密甲板、乗込み用甲板ともいう)14eとの間に、第1区画壁体31により所定幅の第1区画室32が船体外板1aに沿って設けられるとともに、この第1区画室32の船体中心寄りで且つ満載喫水線WLより2段下方の第2車両甲板14bと満載喫水線WLの直ぐ上方の第4車両甲板14dとの間には、第2区画壁体33により所定幅の第2区画室34が当該第1区画室32および船側部バラストタンク22に沿って配置されている。なお、図5は第2車両甲板14bの直ぐ上方位置での水平断面図、図6は第3車両甲板14cの直ぐ上方位置での水平断面図、図7は第4車両甲板14dの直ぐ上方位置での水平断面図である。」

第3.対比・判断
1.対比
本願発明と引用発明を対比すると、
(1)後者の「自動車運搬船1」と前者の「パーシャルバルクヘッドを廃止した自動車運搬船」とは、「自動車運搬船」という限度で共通し、後者の「自動車運搬船1の船殻構造」と前者の「自動車運搬船のパーシャルバルクヘッド代替構造」とは、「自動車運搬船の船倉構造」という限度で共通する。
(2)後者の「積載空間は床板5で仕切られた多階層構造」における「積載空間」は自動車の積載空間といえるから(記載事項(1d)を参照。)、「床板5」は車両甲板といえるものであり、前者の「車両デッキ」は、平成28年10月26日付け手続補正により全文補正されている本願明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0014】及び段落【0015】に「車両積載デッキ(車両甲板)」と記載されているように車両甲板を意味するから、後者の「積載空間は床板5で仕切られた多階層構造」における「床板5」は前者の「車両デッキ」に相当する。
(3)後者の「船体側壁2」は前者の「船側」に相当する。
(4)第2の実施形態の前提となる第1の実施形態を説明している記載事項(1f)段落【0010】の「船体側壁2のラッキング変形に対して十分な強度を確保する目的で設けられるボックス断面構造のウェブフレーム10がある。」との記載及び【図1】を参酌すると、船体側壁2にウェブフレーム10を設けた箇所は、船体側壁2をウェブフレーム10としたといえるから、【図2】に示す第2の実施形態においても、同様に船体側壁2にウェブフレーム10Aを設けた箇所は、船体側壁2をウェブフレーム10Aとしたといえるところ、
後者の「大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′を上端部側の幅寸法Wfより大きくした2段階のボックス断面形状とされる」「船体側壁2に設けられたウェブフレーム10A」のうち、「大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′」の「ウェブフレーム10A」は、「下端部側の幅寸法Wf′を上端部側の幅寸法Wfより大きくした」ものであるから、前者の「全ての積載車両が走行する乗り込み甲板を含む上下2層又は3層の車両デッキの船側」とした「深さの深い横隔壁」との対比において、「複数層の車両デッキの船側」とした「深さの深い補強構造」の限度で共通し、後者の「幅寸法Wf」の「ウェブフレーム10A」と、前者の「前記乗り込み甲板を含む上下2層又は3層上の車両デッキの船側」とした「前記横隔壁より深さの浅い横隔壁」との対比において、「前記複数層上の車両デッキの船側」とした「前記補強構造より深さの浅い補強構造」の限度で共通する。
したがって、後者の「積載空間は床板5で仕切られた多階層構造とされており、船体側壁2にウェブフレーム10Aを設け、ウェブフレーム10Aは大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′を上端部側の幅寸法Wfより大きくした2段階のボックス断面形状とされる」ことと、前者の「全ての積載車両が走行する乗り込み甲板を含む上下2層又は3層の車両デッキの船側を深さの深い横隔壁とし、前記乗り込み甲板を含む上下2層又は3層上の車両デッキの船側を前記横隔壁より深さの浅い横隔壁とした」こととは、「複数層の車両デッキの船側を深さの深い補強構造とし、前記複数層上の車両デッキの船側を前記補強構造より深さの浅い補強構造とした」ことの限度で共通する。

以上によれば、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「自動車運搬船において、複数層の車両デッキの船側を深さの深い補強構造とし、前記複数層上の車両デッキの船側を前記補強構造より深さの浅い補強構造とした自動車運搬船の船倉構造。」

<相違点1>
「深さの深い補強構造」及び「深さの浅い補強構造」に関し、
本願発明は、「補強構造」が「横隔壁」であるのに対し、
引用発明は、「ボックス断面形状とされる」「ウェブフレーム10A」である点。
<相違点2>
「深さの深い補強構造」の配置に関し、
本願発明は、「全ての積載車両が走行する乗り込み甲板を含む上下2層又は3層の車両デッキの船側」であるのに対し、
引用発明は、「ウェブフレーム10A」の「大きな応力が作用する下端部側」であり、「船体側壁2」に対する配置が特定されていない点。
<相違点3>
本願発明は、「パーシャルバルクヘッドを廃止した自動車運搬船」における「自動車運搬船のパーシャルバルクヘッド代替構造」であるのに対し、
引用発明の「自動車運搬船1の船殻構造」は、かかる事項が特定されていない点。

2.相違点についての判断
(1)相違点1について
本願発明の「深さの深い横隔壁」及び「深さの浅い横隔壁」における両者の「横隔壁」において、その具体的な構造は特定されていないこと、「横隔壁」の具体的な構造は様々であり、軽量化や配管の挿通等のためにボックス断面形状となる場合もあり得ること、また、本願明細書の段落【0009】に「ラッキング変形防止の強度上必要な付近を、いわば、二重船底と同じような骨組構造の船側とし、当該船側部は膨大な数の積載自動車固縛用資材等を格納する倉庫として有効利用することができる」と記載されているように、ラッキング変形防止のための補強構造を倉庫として利用すること、つまりボックス断面形状とすることが示唆されていることを勘案すると、本願発明の「横隔壁」として、ボックス断面形状のものが排除されるものとはいえない。
よって、上記相違点1に係る本願発明の構成は、実質的な相違点とはいえない。
また、本願発明の「横隔壁」を例えば、【図5】(B)から看取されるような中実構造の板状の壁と限定解釈したとしても、引用発明の「ボックス断面形状とされる」「ウェブフレーム10A」を、引用例1の記載事項(1g)【0017】の「他の断面形状としては、たとえば図3に示す変形例のように、一つの矩形断面形状を有するウェブフレーム10Bとするなど、横方向の突出を抑制して大きな断面係数を得ることができればよい。」との記載に基づき、大きな断面係数を得るという観点から所定厚さの中実構造の板状の壁に変更し、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
引用例2の記載事項(2a)に記載されているように、複数の甲板で仕切られた多階層構造を有する自動車運搬船において、該複数の甲板のうちの一つを乗込み甲板とすることは従来周知の技術といえる。また、引用例1の記載事項(1c)段落【0003】に「自動車運搬船の船殻構造においては、従来よりラッキング変形に対応するため乗込甲板の下に隔壁を設けたものがある。」と記載されているように、ラッキング変形に対応して乗込み甲板を支持する支持構造の強度を上げることは技術常識であることが当業者であれば容易に理解できる。
他方、引用発明の「大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′」の「ウェブフレーム10A」は、引用例1の記載事項(1g)【0015】の「ウェブフレーム10は、船体1の背が高いため船体側壁2も上下方向に長くなる。このため、ウェブフレーム10の上端部(甲板)側と下端部(船底)側とを比較すると、ラッキングの応力に大きな差が生じてくる。そこで、図2に示す第2の実施形態では、ウェブフレーム10Aのように、大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′を上端部側の幅寸法Wfより大きくした2段階のボックス断面形状を採用している。」との記載によれば、船体側壁2に大きな応力が作用する箇所に配置されるものと理解できるから、引用発明に乗り込み甲板を設ける際に、上記技術常識を踏まえ、ラッキング変形に対応して乗込み甲板を支持する支持構造の強度を上げるために、乗り込み甲板の床板5の船体側壁2を「大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′」の「ウェブフレーム10A」とすることに技術的な困難性はない。また、該乗り込み甲板が全ての積載車両が走行する場合において、その必要な強度に合わせて、該乗り込み甲板を含む上下2層又は3層の床板5の船側を「大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′」の「ウェブフレーム10A」とすることも当業者であれば適宜になし得ることである。
よって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(3)相違点3について
(1-1)本願発明の「パーシャルバルクヘッドを廃止した自動車運搬船」における「自動車運搬船のパーシャルバルクヘッド代替構造」の技術的意味は、本願明細書の段落【0007】に記載されている「自動車運搬船について、パーシャルバルクヘッド(部分横隔壁)を廃止して、パーシャルバルクヘッド(部分横隔壁)の船内突出による船側部分のデッドスペースをなくし、これにより、積載車両台数の増加及び積載車両の自走走行のスロープウエイについて配置の自由度を増加させて積み込み車両の自走走行性に便宜な荷役効率の向上を図ると共に、パーシャルバルクヘッドがなくなってもラッキング変形に対し、充分に対応できる自動車運搬船のパーシャルバルクヘッド代替構造を提供すること」を達成するために、同段落【0015】に「本実施例1に係る自動車運搬船のパーシャルバルクヘッド代替構造においては、前記乗り込み甲板3eより1層上の車両デッキ(車両積載甲板)3g直下の2,3層の車両積載甲板3d、・・・3fの船側については、深さの深い、例えば、1500?1800mmの深さの横隔壁からなる船側部10とし、さらに、その上部の車両デッキ3g・・・3nには深さの深いパーシャルバルクヘッドを配置することなく、深さの浅い前記ウエブフレーム2で船側を構成したものである。」と記載されているように、深さの深いパーシャルバルクヘッドを配置した車両デッキより上の車両デッキに該パーシャルバルクヘッドを配置することなく、深さの浅いウエブフレームを配置した構造にあると解される。

(1-2)他方、引用発明は、引用例1の記載事項(1c)【0002】の「従来のウェブフレーム3は、自動車運搬船1の船体横(幅)方向中心に向けて長く(深く)立設された壁型の部材であることから、ディープウェブフレームとも呼ばれている。」との記載、記載事項(1d)【0004】の「ウェブフレーム3が船体中央方向へ突出し、比較的狭い開口面積を残して自動車の積載空間を長手方向に区分する壁部材となる。このような壁部材が存在することにより、船内の積載空間で積荷の自動車を移動させる通路が狭められるので、荷役作業の効率を低下させる原因となって好ましくない。」との記載によれば、船体中央方向へ突出し、船内の積載空間で積荷の自動車を移動させる通路が狭められる要因となるディープウェブフレームの存在を課題とし、記載事項(1e)【0009】に「ウェブフレームをボックス断面構造にしたので、船体中央方向への突出量を小さくし、かつ、十分な強度を得ることができる。このため、船内の積載空間を長手方向に区分するウェブフレーム設置部分の開口面積を大きく(間口を広く)することができるので、積荷である自動車の船内移動が容易になり、荷役作業を高効率化するという顕著な効果が得られる。」と記載されているように、ディープウェブフレームの代わりに「ボックス断面形状」の「ウェブフレーム10A」を配置するものであり、かつ、「大きな応力が作用する下端部側の幅寸法Wf′」の「ウェブフレーム10A」を配置した床板5より上の床板5に幅寸法Wf′より小さい寸法を有する「幅寸法Wf」の「ウェブフレーム10A」を配置するものであるから、上記(1-1)で検討した本願発明の「パーシャルバルクヘッドを廃止した自動車運搬船」における「自動車運搬船のパーシャルバルクヘッド代替構造」の技術的意味と上記相違点1で検討したように引用発明の「ボックス断面形状」の「ウェブフレーム10A」が本願発明の「横隔壁」と実質的に同一な構成であるか、当業者が容易に想到し得る構成であることを勘案すると、引用発明の「自動車運搬船1の船殻構造」も「パーシャルバルクヘッドを廃止した自動車運搬船1」における「自動車運搬船1のパーシャルバルクヘッド代替構造」といえる。
よって、上記相違点3係る本願発明の構成は、実質的な相違とはいえないか、当業者であれば容易に想到し得えたものである。

(4)作用効果について
本願発明の作用効果は、引用発明及び引用例1及び2に記載されている事項から当業者が予測できる範囲内のものであって、格別ではない。

3.小括
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例1及び2に記載されている事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-10-31 
結審通知日 2017-11-07 
審決日 2017-11-22 
出願番号 特願2015-3036(P2015-3036)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 健一中村 泰二郎  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 出口 昌哉
島田 信一
発明の名称 自動車運搬船のバーシャルバルクヘッド代替構造  
代理人 大滝 均  

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