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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1336491
審判番号 不服2017-1265  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-30 
確定日 2018-01-30 
事件の表示 特願2012-273192「発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 6月30日出願公開、特開2014-120550、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年12月14日の出願であって、平成28年7月11日付けで拒絶理由通知(同年同月19日送付)がされ、同年9月7日付けで意見書とともに手続補正書が提出され、同年11月1日付けで拒絶査定(同年同月8日送達)がされ、これに対し、平成29年1月30日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成28年9月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの本願発明1は、その請求項1に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
上面、側面及び下面を有し且つ前記側面が前記下面から前記上面に向かって広がるように傾斜する半導体構造と、前記半導体構造の下面側に設けられた正電極及び負電極と、前記半導体構造の側面に設けられた反射膜と、を備え、前記半導体構造の上面側から光を取り出す発光素子であって、
前記半導体構造は、その上面において、内側に設けられた粗面領域と、外側に設けられた平坦領域と、を有し、
前記反射膜は、前記半導体構造の側面全域に設けられている発光素子。」

第3 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(進歩性)について
・請求項:1-6
・引用文献等:1-4
・備考:
引用文献1(特に[0019]-[0064]及び図1-7)には、半導体構造の上面に、内側に設けられた粗面領域と外側に設けられた平面領域とを有する発光素子が記載されている。また、フリップチップとすることも記載されている(フリップチップについては、引用文献2(特に図6)も参照されたい。)。
引用文献3(特に[0023]及び図3,4)や引用文献4(特に[0083]-[0090]及び図15,16)に記載されているように、Alを含む金属反射層や誘電体多層膜を組み合わせて反射層を形成することも知られている。
よって、請求項1-3,5,6に係る発明は、引用文献1-4に記載された発明から容易に想到し得るものである。また、請求項4に係る発明について規定された数値範囲に臨界的な意義は認められず、引用文献1に記載された発明における平坦領域は素子構造等に応じて適宜設計されるものであるから、設計変更にすぎない。

●理由2(実施可能要件)について
・請求項:1-6
・備考:
発明の詳細な説明([0012])には、「平坦領域」の機能について「平坦領域10aでは、上面に対して浅い角度で入射する光(入射角が大きい光)の取出しは全反射によって抑制され、上面に対して深い角度で入射する光(入射角が小さい光)が優先的に取り出される。この結果、発光素子全体として、斜め方向から観察される光の強度が大きくなるものと考えられる。」と記載されている。

しかしながら、上記記載に基づくと、平坦領域に浅い角度で入射する光、すなわち斜め方向に出射しようとする光は全反射されるのであるから、浅い角度で入射する光が出射する平坦領域のない発光素子のほうが斜め方向から観察される光は大きい。例えば、臨界角より大きな角度(斜め方向90°に近い角度)では、平坦領域のない発光素子のほうが出射効率が高い。
よって、平坦領域の機能に関する上記説明は矛盾を含んでいる。

また、上記説明の評価として図4に平坦領域ありの実施例と、平坦領域なしの比較例の相対強度の測定結果が示されている。
図4bを参酌すると、どの角度においても、実施例のほうが比較例よりも相対強度が大きくなっている。すなわち、単純に発光素子から出射される光の量が大きくなっている。
しかしながら、上記段落[0012]の説明にもあるように、平坦領域があると、浅い角度で入射した光は全反射されるのであるから、臨界角以上の角度では平坦領域なしの比較例よりも相対強度は低くなるはずである。また、全反射された光は半導体構造等によって一部は吸収されるので、角度全体において比較例よりも相対強度が高くなることはない。
よって、図4の測定結果も上記段落[0012]の記載に対して矛盾を含んでいる。

このように、発明の詳細な説明の記載は矛盾を含んでいるので、この出願の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1-6に係る発明を実施できる程度に十分かつ明確に記載したものでない。

<引用文献等一覧>
1.特開2012-69680号公報
2.特開2008-205229号公報
3.特開平11-87771号公報
4.特開2007-273975号公報」

また、平成28年11月1日付け拒絶査定の備考欄には、次の記載がある。
「●理由1(特許法第29条第2項)について
・請求項:1-4
・引用文献等:1-5
出願人は意見書において、「引用文献1では、LLOの際に発生するN2ガスを素子部20の外部に放出しやすくするために、保護層15を敢えてテーパ面の一部に設けています(引用文献1の【0024】、【0045】参照。)。したがいまして、引用文献1においては、本願発明の特徴部である「側面の全面に反射膜が設けられている」という構成を得ることはできず、むしろ「側面の全面に反射膜を設ける」ことに対し阻害要因があると考えられます。」と主張している


しかしながら、引用文献1の他に、例えば引用文献5(特に[0039]-[0043]及び図5-7)にもLLOの際に発生するN2ガスを外部に放出する構成が記載されており、LLOの際にN2ガスを放出することは当業者にとって周知の事項であるから、N2ガスの放出路は適宜設計される事項である。(あるいは、引用文献5に記載された発明において、引用文献1のように成長基板に光取り出しのための凹凸構造を半導体層と接する部分に設けておくことも容易に想到し得るものである。)
よって、LLOの際のN2ガスの放出を考慮して、かつ、側面全体に反射膜を設けることに格別の創意工夫は認められないので、上記主張は採用しない。

●理由2(特許法第36条第4項第1号)について
・請求項:1-4
出願人は意見書において、「平坦領域において全反射された光は、側面に設けられた反射膜により反対側斜め上方に反射されることになるため、斜め方向における発光強度が大きな発光素子とすることができます。もちろん、反射膜で反射された光の一部は平坦領域で再度反射されたり粗面領域で散乱されたりするはずですが、図4に示されるように、平坦領域がない場合に比較して平坦領域がある場合は斜め方向における配向が明らかに強まっている事から側面に設けられた反射膜により斜め上方に反射する成分のほうが支配的であることがわかるため、当業者であれば、段落【0012】、【0021】、及び【0038】等の記載、並びに、図4(b)、図4(c)等から、請求項に係る発明を理解することができるものと思量いたします。」と主張している。

しかしながら、上記下線を付した部分や、全ての領域で平坦部があるものの方が平坦部がないものより強度が強い理由が何ら主張されていない。よって、意見書の主張を参酌しても、結局のところ、なぜ平坦部があるものの方が、反射による吸収が少ないと考えられる平坦部がないものより(平坦部以外の構成は全て同じであり、放出される合計の光子数やエネルギーは同じであるにも関わらず)全体の強度(図4の-90°?+90°の間の積分値)が大きくなる(エネルギー保存側が破れる)のか把握することができない。
したがって、この出願は、請求項1-4に係る発明について、当業者が実施できる程度に十分かつ明確に記載したものでない。

<引用文献等一覧>
1.特開2012-69680号公報
2.特開2008-205229号公報
3.特開平11-87771号公報
4.特開2007-273975号公報
5.特開2010-141084号公報(新たに引用された文献;周知技術を示す文献)」

第4 引用文献
1 引用文献1について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特開2012-69680号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付加した。以下同様。)。

(1) 「【特許請求の範囲】
(略)
【請求項3】
第1の半導体層、活性層及び第2の半導体層を含む素子部と、
前記第1の半導体層に形成された第1の電極と、
前記第2半導体層の上に形成された第2の電極と、
前記第2の電極の上に形成された接合層と、
前記接合層を介して前記素子部を支持する支持体と、を有し、
前記素子部は、前記第2の電極に対してテーパ状の傾斜面を備えるテーパ部、及び前記テーパ部によって囲まれた内側部からなり、
前記第1電極の形成面側の前記テーパ部の表面は平坦であり、前記第1電極の形成面側の前記内側部の表面は複数の凸部又は凹部からなる凹凸形状を有することを特徴とする半導体発光素子。」

(2) 「【0008】
LLO法を用いてGaN系の半導体成長層から成長用基板を完全に除去する場合、レーザ光照射時に支持体から接着用金属材料が飛散し、N_(2)ガスの放出経路に露出した半導体成長層の側面に金属材料が付着することがある。このような金属材料の付着は半導体発光素子のリーク不良を引き起こし、製造工程の歩留まりが低下する。
【0009】
このような問題点を解決するために、当該放出経路に露出した半導体成長層の側面の一部を保護膜によって被覆する方法が考えられる。かかる場合において、当該保護膜を容易且つ高精度に形成するために、当該放出経路幅が成長用基板に向かって徐々に狭くなるように半導体成長層の側面を成長用基板の表面に対して傾けることが重要になる。また、素子分割方法によっては、傾いた側面を意図せずとも設けられてしまう場合もある。
【0010】
しかしながら、上述したような成長用基板の凹凸パターン上に形成された半導体成長層からLLO法によって成長用基板を除去する場合は、凹凸パターンを有しない成長用基板上に形成された半導体成長層からLLO法によって成長用基板を除去する場合と比較して、GaN層の分解時に発生するN2ガスの圧力が半導体成長層の厚さ方向(すなわち、成長方向)にかかる。これは、凹凸パターンがない成長用基板と半導体成長層との界面においては、N_(2)ガスが半導体成長層の厚さ方向に直交する方向(以下、横方向と称する)に沿って外部に放出されやすいが、凹凸パターンがある成長用基板と半導体成長層との界面においては、当該凹凸パターンによってN_(2)ガスが横方向に放出されにくくなるためである。N2ガスの圧力が半導体成長層の厚さ方向にかかりやすくなると、上述したような放出経路の底部(すなわち、成長用基板が露出した部分)の周囲における半導体成長層の層厚は薄いため、かかる薄い層厚の部分にクラックが発生しやすくなり、半導体発光素子の歩留まり及び信頼性が低下する。
【0011】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、その目的は、凹凸パターンが表面に形成された成長用基板をLLO法によって除去する際に、金属材料等の異物の付着を防止しつつ、半導体成長層におけるクラックの発生を防止することができる半導体発光素子の製造方法及びこれよって製造される半導体発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
(略)
【0013】
また、上述した課題を解決するために、本発明の半導体発光素子は、第1の半導体層、活性層及び第2の半導体層を含む素子部と、前記第1の半導体層に形成された第1の電極と、前記第2半導体層の上に形成された第2の電極と、前記第2の電極の上に形成された接合層と、前記接合層を介して前記素子部を支持する支持体と、を有し、前記素子部は、前記第2の電極に対してテーパ状の傾斜面を備えるテーパ部、及び前記テーパ部によって囲まれた内側部からなり、前記第1電極の形成面側の前記テーパ部の表面は平坦であり、前記第1電極の形成面側の前記内側部の表面は複数の凸部又は凹部からなる凹凸形状を有することを特徴とする。」

(3) 「【0016】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
先ず、図1(a)、(b)、(c)を参照しつつ、本実施例に係る半導体発光素子の構造を説明する。図1(a)は本実施例に係る半導体発光素子の断面図であり、図1(b)は半導体発光素子を構成する半導体成長層の拡大断面図であり、図1(c)は半導体発光素子を構成する半導体成長層のn側電極形成面の平面図である。
【0018】
図1(a)に示されているように、半導体発光素子10は、支持体11、接合層12、p側電極13、n側電極14、保護層15及び素子部20から構成されている。また、図1(b)に示されているように、素子部20は、p側電極13からn側電極14に向かって、p-GaN層21、p-AlGaNクラッド層22、活性層23及びn-GaN層24が順次積層された積層構造を有している。
【0019】
素子部20は、p側の表面を垂直にn側の表面まで投影させた領域である四角柱の形状をした内側部20aと、内側部20aの周囲を囲むように形成された外側部であるテーパ部20b(図1(a)の破線によって囲まれた部分)と、から構成されている。素子部20の内側部20aにおいて、p側電極13が形成された面(p側の表面)は平坦である。一方、n側電極14が形成された面(n側の表面)は一部が凹み、n側の表面は凹凸形状を有している。すなわち、内側部20aのn側の表面には複数の凹部25が形成されている。一方、素子部20のテーパ部20bにおいて、n側の表面は平坦である。すなわち、図1(a)、(c)に示されているように、素子部20のn側の表面は、内部20aの表面領域である凹凸面領域26と、テーパ部20bの表面領域である平坦面領域27とから構成されている。また、凹凸面領域26の形状は一辺が約1020マイクロメートル(μm)の正方形であり、平坦面領域27の幅は約10μmである。なお、本実施例においては、凹凸面は凹部25によって形成されていたが、凹部25に代えて複数の突起を形成することによって凹凸面を形成してもよい。
【0020】
凹部25は、図1(c)におけるx軸方向に7列、当該x軸と直交するy軸方向に7行、すなわち7行×7列のマトリックス状に形成されている。また、凹部25は円柱形状を有しており、その深さは約1μmであり、その底面の直径は約1μmである。凹部25同士の中心点間隔(ピッチ)は、約2μmである。素子部20の縁から最も外側に位置する凹部25までの距離は約20μmである。なお、図1においては凹部25を7行×7列に設けているが、これは簡略化して図示しているためであり、実際にはより多く、例えば約1000行×1000列である。なお、凹部25の形状は、角錐、円錐、レンズ形状、半球状等の種々の形状であってもよい。また、凹部25の寸法及び数量は、上述した内容に限定されず、半導体発光素子10の特性に応じて適宜調整することができる。例えば、凹部25の深さは1?2μm、底面の直径は0.5?3μm、ピッチは1?5μmの範囲に設定することができる。
【0021】
素子部20のテーパ部20bは、p側の表面からn側の表面に向かって素子部20の側部が徐々に広がる傾斜面(以下、テーパ面28と称する)を有している。また、テーパ部20bにおいて、n側の表面とテーパ面28とがなす角度は、例えば約30度である。なお、n側の表面(すなわち、平坦面領域27における表面)とテーパ面28とがなす角度は、例えば30度?40度の範囲内に設定することができる。
【0022】
支持体11は、シリコン等の半導体基板である。接合層12はAuSnNi合金から構成され、支持体11とp側電極13とを電気的に接続しつつ、支持体11とp側電極13及び保護層15の一部とを貼り合わせている。
【0023】
p側電極13は、p-GaN層21が位置する面(すなわち、p側の表面)に形成されている。また、n側電極14は、n-GaN層24が位置する面(すなわち、n側の表面)の凹凸面領域25上の中央部に形成されている。p側電極13はPt、Ag、Ti及びAuが順次積層された構造を有し、n側電極はTi、Pt及びAuが順次積層された構造を有している。
【0024】
保護層15は、二酸化シリコン(SiO_(2))からなる酸化膜である。保護層15は、テーパ面28の一部及び素子部20のp側の表面の一部に形成されている。テーパ面28の全面が保護層15によって覆われていない理由は、後述するレーザリフトオフ(LLO:Laser Lift Off)の際に発生するN_(2)ガスを素子部20の外部に放出しやすくしているためである。また、保護層15は、p側電極13の周囲を囲むように形成されている。」

(4) 「【0044】
[保護層形成工程]
次に、素子部20のp側の表面及びテーパ面28を覆う保護層15を形成する。(図6(a))。図6は、半導体発光素子10の製造方法における各製造工程を示す断面図である。
【0045】
具体的には、先ず、素子部20及びサファイア基板30を覆うようにレジストを塗布し、その後にフォトリソグラフィによって当該レジストをパターニングする。本実施例においては、保護層15を形成する領域に開口が位置するようにレジストにパターニングを施す。続いて、スパッタリング、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法、又は蒸着法等の公知の成膜技術を用いてSiO_(2)を成膜する。ここで、電気的絶縁性、密着性及び強度を確保するために、SiO_(2)の層厚は約0.3μmである。更に、パターニングしたレジスト及び不要なSiO_(2)を除去することにより、保護層15が完成する。ここで、保護層15は、素子部20のp側の表面の一部及び素子部20のテーパ面28の一部を覆うように形成される。より具体的には、後述するLLO時における金属材料等の異物の付着、及び半導体成長層40の破壊等を考慮すると、保護層15は素子部20のp側の表面から活性層23の露出領域を少なくとも覆い、且つ、サファイア基板30に接触しないように形成されることが望ましい。例えば、サファイア基板30と保護層15との間に、N_(2)ガス放出経路確保のため約1μmの隙間が形成されることが好ましい。」

(5) 「【0064】
なお、本実施例においては上下に電極を設けたが、フリップチップとすることも考えられる。貼り合せ工程前にn側電極を露出させ、支持体側にn側電極、p側電極を区画して設けた状態で貼り合せることによりフリップチップとなる。このとき、n側電極及びp側電極の間は導通しないように、絶縁物が設けられていることが好ましい。」

(6) 図1は、次のものである。


(7) 上記(3)及び(5)の記載からみて、半導体発光素子を「フリップチップ」構造とした場合には、p側電極13とn側電極14とを、支持体側に貼り合わせることができる面、すなわち、積層構造の下面側に設けることが読みとれる。

(8) したがって、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 p側電極13と、n側電極14と、保護層15と、
前記p側電極13から前記n側電極14に向かって、p-GaN層21、p-AlGaNクラッド層22、活性層23及びn-GaN層24が順次積層された積層構造を有している素子部20を有し、
前記素子部20は、p側の表面を垂直にn側の表面まで投影させた領域である四角柱の形状をした内側部20aと、内側部20aの周囲を囲むように形成された外側部であるテーパ部20bと、から構成されており、前記テーパ部20bは、p側の表面からn側の表面に向かって素子部20の側部が徐々に広がる傾斜面であるテーパ面28を有しており、
前記保護層15は、前記テーパ面28の一部を覆うように形成され、
より具体的には、前記保護層15は前記素子部20のp側の表面から前記活性層23の露出領域を少なくとも覆い、
前記n側の表面は、凹凸面領域26と、前記凹凸面領域の周囲を囲むように形成された平坦面領域27とから構成され、
前記p側電極13と前記n側電極14は、前記積層構造の下面側に設けられている、
半導体発光素子。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献2(特開2008-205229号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0013】
(実施の形態1)
図1に本発明の半導体発光装置1を示す。半導体発光装置1は、サブマウント21上に、半導体発光素子10が固定されている構造である。
【0014】
サブマウント21には、引出電極22,23が形成されている。引出電極は半導体発光素子10へ電流を印加するための電極である。半導体発光素子のn型層の側に接続するn側引出電極22とp型層の側に接続されるp側引出電極23がある。さらに図1では、引出電極は、スルーホール26,27を介して裏面電極28,29へ接続されている。これによって裏面電極28,29から半導体発光素子へ電流を流す事が出来る。なお、裏面電極もn側裏面電極28とp側裏面電極29がある。
(略)
【0022】
図2に半導体発光素子10の断面図を、図3に基板上部方向からの平面図を示す。半導体発光素子10は、基板11、n型層12、活性層13、p型層14、n側電極16、p側電極17からなる。
【0023】
基板11は、発光層を保持する役目を負う。材質としては、絶縁性のサファイアを用いることができる。しかし、発光効率や発光する部分が窒化ガリウム(GaN)を母材とすることから、n型層12と基板11との界面での光の反射を少なくするために発光層と同等の屈折率を有するGaNやSiC、AlGaN、AlNを用いるのが好適である。
【0024】
発光層となるn型層12と活性層13とp型層14は基板11上に順次積層される。材質は特に制限はないが、窒化ガリウム系化合物であれば好ましい。具体的には、それぞれ、GaNのn型層12、InGaNの活性層13、GaNのp型層14である。なお、n型層12やp型層14としては、AlGaNやInGaNを用いてもよいし、n型層12と、基板11との間に、GaNやInGaNで構成したバッファ層を用いることも可能である。また、例えば、活性層13は、InGaNとGaNが交互に積層した多層構造(量子井戸構造)としてもよい。
【0025】
このように基板11上に積層したn型層12と活性層13とp型層14の一部から、活性層13とp型層14を除去し、n型層12を露出させる。この露出させたn型層12上に形成されたのが、n側電極16である。また、p型層14上に同じくp側電極17が形成される。つまり、活性層13とp型層14を除去し、n型層12を露出させることで、発光層とp側電極およびn側電極は基板に対して同じ側の面に形成することができる。
(略)
【0028】
半導体発光素子10の側面は、発光層側から射光面に向かって長さLが広がるような角度で傾斜面31が形成される。傾斜面31には、傾斜面全面に渡って反射層33が形成される。反射層33は、Al、Ag、Rh、Znなどの反射率の高い材料を用い、主としてスパッタ、蒸着、メッキといった手法で作製される。もちろん、反射層は、これらの微小粒を樹脂などの媒質に分散した塗料を塗布や印刷などの手法で形成してもよい。
【0029】
傾斜面31は、発光層から発せられた側面方向への光を射光面55方向へ反射させる。
従って、射光面55と傾斜面31とのなす角度34は、90度より小さい。この角度34が、大きくなると反射光が、射光面に対して浅い角度で入射することになるので、全反射する光が多くなる。つまり、半導体発光素子からの光取出し効率が低下する。
(略)
【0034】
図5には、図4で作製した発光素子部9を用いて半導体発光装置を作製する製造方法を示す。サブマウント21となる材料上に、引出電極22,23を形成する。必要に応じてスルーホールや、裏面電極も形成しておく。引出電極22,23にはバンプ24,25を形成しておく。そして、発光素子部9を溶着させる(図5(A))。
(略)
【0038】
(実施の形態2)
図6に本実施の形態の半導体発光装置2の構成を示す。半導体発光装置2は、射光面55に反射防止処理57が施される。反射防止処理を行なうことで、基板内を進む光で射光面に浅い角度で入射する光が全反射するのを防止し、半導体発光素子からの光取出し効率が向上する。
【0039】
図7に半導体発光装置2の製造方法を示す。発光素子部9を引出電極やバンプが形成されたサブマウント上に溶着し、補強材を充填した後、研磨するのは図5の場合と同じである(図7(C))。
【0040】
次に研磨した射光面55に微小な凹凸構造を形成する(図7(D))。微小な凹凸構造は射光面での全反射を防ぎ、光の取り出し効率を向上させる。」

3 引用文献3について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献3(特開平11-87771号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0023】本発明において、絶縁膜24の材料としては、少なくとも絶縁性であれば良く、例えばSiO_(2)、TiO_(2)、Al_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)等を用いることができる。好ましくは絶縁反射鏡膜、例えばSiO_(2)及びTiO_(2)を積層して形成した膜、SiO_(2)/Al/SiO_(2)のように絶縁膜と金属の積層によって形成した膜が好ましく、また単層の絶縁膜としては、サファイア及び窒化ガリウムの熱膨張係数に近い窒化シリコン(Si_(3)N_(4))が好ましい。ちなみに、各材料の熱膨張係数は、サファイアが7.5?8.5×10^(-6)/k、窒化ガリウムが3.2?5.6×10^(-6)/k、SiO_(2)が0.3?0.5×10^(-6)/k、窒化シリコンが2.5?3.0×10^(-6)/kであり、単層の絶縁膜としては、サファイアや窒化ガリウムの熱膨張係数に近い窒化シリコンが望ましく、単層膜として窒化シリコンを用いると信頼性が向上し好ましい。」

4 引用文献4について
原査定の拒絶理由に引用された引用文献4(特開2007-273975号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0083】
(実施の形態7)
次に、実施の形態7による発光素子について説明する。図15は、実施の形態7による発光素子の構造を示す断面図である。図15に示すように、実施の形態7による発光素子は、実施の形態1?4の発光素子の反射層2として、アルミニウム、銀又は銀合金からなる金属層23と、この金属層23の上に積層されたDBR24とによって構成される反射層2cを採用したことを特徴としている。この反射層2cにおけるDBR24の上に半導体層1が形成される。即ち、実施の形態7による発光素子は、実施の形態6による発光素子におけるDBRの下面にさらに金属層が積層された構成である。なお、実施の形態7において、実施の形態1?4と同一のものは、同一の符号を付し、その説明を省略する。
(略)
【0090】
以上説明したように実施の形態7による発光素子によれば、反射層2cがDBR24と金属層23とによって構成されたため、各層が補い合って0度から90度までの広い範囲の入射角にわたって反射層2cの反射率が高められ、光取り出し効率がより高められる。」

5 引用文献5について
原査定の拒絶査定の備考欄で引用された引用文献5(特開2010-141084号公報)には、図面ともに次の事項が記載されている。

(1) 「【0012】
上述した課題を解決するために、本発明の半導体発光素子の製造方法は、成長用基板の表面に半導体発光素子領域を画定する複数の分離溝を形成する溝形成工程と、分離溝を形成した成長用基板上に、第1の導電型を有し且つAl_(x)In_(y)Ga_(z)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる第1半導体層、活性層及び第2の導電型を有し且つAl_(x)In_(y)Ga_(z)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる第2半導体層を順次積層して成長層を形成する成長工程と、分離溝部分にエッチングを施して、成長層を分離する分離工程と、半導体発光素子領域に形成された成長層の表出面及び分離溝の底部に絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、第1の電極の表出した部分及び絶縁膜上にパッド電極を形成するパッド電極形成工程と、パッド電極を覆う金属層を分離溝の外部に形成する金属層形成工程と、レーザリフトオフ法によって成長用基板を成長層から剥離して成長層を表出させる剥離工程と、を有し、絶縁膜形成工程は、分離溝の内部の絶縁膜と分離溝の外部の絶縁膜とを離間して形成し、パッド電極形成工程は、分離溝の内部のパッド電極と分離溝の外部のパッド電極とを離間して形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、成長用基板の表面に半導体発光素子領域を画定する複数の分離溝を形成し、成長用基板上に成長層を形成し、成長層上に第1の電極を形成し、成長層を分離し、分離溝の内部と外部とにおいて離間した絶縁膜を形成し、分離溝の内部と外部とにおいて離間したパッド電極を形成し、パッド電極を覆う金属層を分離溝の外部に形成し、成長用基板を成長層から剥離することにより、成長用基板、成長層、絶縁膜、パッド電極及び金属層に囲まれた空隙を形成することができる。当該空隙を通して、成長用基板の剥離時に発生するガスが外部に放出されるので、成長用基板の剥離時における成長層表面でのクラック発生を防止することができる。また、上記半導体発光素子の製造方法によれば、成長層の側面を絶縁膜で覆い、更に当該絶縁膜をパッド電極及び金属層で覆うので、半導体発光素子の光取り出し効率及び放熱性の向上を図ることができる。」

(2)「【0028】
(絶縁膜形成工程)
成長層14がチップ毎に分離された後、凸部13上に形成された成長層13及びp電極15を覆うように、真空蒸着法又はスパッタ法等の公知の成膜技術によって絶縁膜17aが形成される。また、分離溝12の底面上には絶縁膜17bが形成されるが、分離溝12の深さが絶縁膜17bの成膜量よりも深いことから、成長層14の側面に形成された絶縁膜17aと分離溝12の底面上に形成された絶縁膜17bとは分離(段切れ)した状態となる。すなわち、分離溝12の内部の絶縁膜17bと分離溝12の外部の絶縁膜17aとは、分離している。絶縁膜17a、17bの材料としては、成長層14を構成する活性層14Dにおいて発光した光を反射することができる材料が望ましく、例えば、SiO_(2)を用いることができる。
【0029】
次に、絶縁膜17a上にレジストが塗布される。続いて、フォトリソグラフィによって当該レジストがパターンニングされる。更に、パターンニングされたレジストをマスクとして絶縁膜17aにドライエッチングが施され、絶縁膜17aに開口部18が形成される。開口部18が形成されることにより、p電極15が露出することになる。開口部18が形成された状態の断面図を図5(b)に示す。なお、絶縁膜17aは、成長層14の側面のみならず、p電極15の周囲にも形成されているため、成長層14を構成する活性層14Dにおいて発光した光が効率よく反射されることになる。」

(3) 「【0039】
(成長用基板剥離工程)
導電性支持体貼り合わせ工程の終了後、サファイア基板11が成長層14から剥離される。サファイア基板11の剥離には、レーザリフトオフ(Laser Lift Off:LLO)等の公知の手法を用いることができる。レーザリフトオフにおいては、サファイア基板11側からレーザが照射されることにより(図6(b))、レーザ光のエネルギーがサファイア基板11との界面付近の成長層14で吸収される。更に、吸収されたエネルギーが熱に変換されることにより、サファイア基板11上に形成されているGaN層が金属GaとN_(2)ガスに分解される。なお、レーザリフトオフにおいて使用されるレーザには、例えば、YAGレーザやエキシマレーザ等を用いることができる。
【0040】
また、図7は、図6(b)の破線で囲まれた領域7の拡大図である。図7に示されているように、レーザ光の照射によってサファイア基板11と成長層14と界面付近で発生したN_(2)ガスは、サファイア基板11と成長層14と界面付近からサファイア基板11と成長層14との空隙部分である分離溝12に流れ込むことになる。ここで、分離溝12はサファイア基板11の外部に連通しているので、分離溝12に流れ込んだN_(2)ガスは、分離溝12からウエハ外部へと放出される。これにより、レーザ光の照射によって発生したN_(2)ガスがサファイア基板11と成長層14と界面付近に滞留することがなくなり、N_(2)ガスの圧力による成長層14の破損を防止することができる。
【0041】
また、図2(b)に示されたように分離溝12を形成した場合にも、分離溝12はサファイア基板11の端部にまで形成されているので、レーザリフトオフ時に発生するN_(2)ガスを外部に放出することができる。
【0042】
一方、図3(a)に示されているような、チップ形成領域31のそれぞれが独立した1つの分離溝12によって囲まれるように、分離溝12が形成されている場合には、半導体発光素子の周辺(すなわち、分離溝12)に、N_(2)ガスが残留することになる。このため、図3(a)で示されたように分離溝12を形成する場合には、分離溝12に残留したN_(2)ガスの圧力により半導体発光素子の破損が発生しないように、分離溝12の大きさを調整する必要がある。
【0043】
また、図3(b)に示されたような、分離溝12の各々を隣接する他の分離溝12に連通させた場合には、分離溝12同士の連通により、レーザリフトオフ時に発生するN_(2)ガスをサファイア基板11の表面全体に分散することができる。かかるN_(2)ガスの分散により、チップ毎の破損を防止することができる。すなわち、チップ形成領域31のそれぞれから発生するN_(2)ガスの量に差がある場合においても、N_(2)ガスの発生量が多いチップのみが破損するような問題が無くなる。
【0044】
次に、導電性支持体22が貼り合わされたウエハを30度以上で加熱することにより、サファイア基板11を容易に剥離することができる(図6(c))。このような加熱によってサファイア基板11が容易に剥離することができる理由は、レーザ光の照射によってGaN層から分解された金属Gaの融点が比較的低い温度(約30℃)であり、金属Gaが容易に融点に到達するからである。なお、サファイア基板11が剥離された後には、n型半導体層14C又は下地GaN層14Bが表出する。
【0045】
(粗面化工程)
次に、前述の成長用基板剥離工程により露出した成長層14の表面に、光取り出し効率の向上に有効な突起23が形成される。具体的には、成長層14の表面が約50℃のKOH溶液(濃度:5mol/l)に約2時間浸される。本実施例においては、成長層形成工程中にサーマルクリーニングを施して低温バッファ層14Aを形成するなどの前処理を行っているため、サファイア基板11が剥離されることにより表出する成長層14の最表面は、N原子が配列したN面(C-面)によって構成されている。かかるC-面は、化学的に不安定であることからウェットエッチング処理による凹凸形成が可能である。また、上述したように、サファイア基板11上に成長する成長層14は、ウルツ鉱型(六方晶)の結晶構造を持つIII族窒化物半導体結晶である。従って、かかるウェットエッチング処理により、成長層14の露出した表面領域に複数の六角錐状の突起23が形成される(図8(a))。」

第5 当審の判断
1 理由1(進歩性)について
(1) 本願発明1について
ア 対比・一致点・相違点
本願発明1と引用文献1発明とを対比する。

(ア) 引用文献1発明の「p側電極13からn側電極14に向かって、p-GaN層21、p-AlGaNクラッド層22、活性層23及びn-GaN層24が順次積層された積層構造を有している素子部20」、及び、
「前記素子部20は、素子部20は、p側の表面を垂直にn側の表面まで投影させた領域である四角柱の形状をした内側部20aと、内側部20aの周囲を囲むように形成された外側部であるテーパ部20bと、から構成されており、前記テーパ部20bは、p側の表面からn側の表面に向かって素子部20の側部が徐々に広がる傾斜面であるテーパ面28を有」する構成は、
素子部20が、p-GaN層21、p-AlGaNクラッド層22、活性層23及びn-GaN層という半導体層からなる構造であり、前記素子部20は、n側の表面を上面とすると、p側の表面が下面であり、テーパ面が側面という位置関係となることからみて、
本願発明1の「上面、側面及び下面を有し且つ前記側面が前記下面から前記上面に向かって広がるように傾斜する半導体構造」に相当する。

(イ) 引用文献1発明の「前記p側電極13と前記n側電極14は、前記積層構造の下面側に設けられている」構成は、半導体発光素子の技術常識からみて「p側電極」が正電極、「n側電極」が負電極であることは明らかであるから、本願発明1の「前記半導体構造の下面側に設けられた正電極及び負電極」に相当する。

(ウ) 本願発明1の「前記半導体構造の側面に設けられた反射膜」と、引用文献1発明の「前記テーパ面28の一部を覆うように形成され」た「保護層15」は、「前記半導体構造の側面に設けられた膜」という点で一致する。

(エ) 引用文献1発明の「前記n側の表面は、凹凸面領域26と、前記凹凸面領域の周囲を囲むように形成された平坦面領域27とから構成される」ことは、本願発明1の「前記半導体構造は、その上面において、内側に設けられた粗面領域と、外側に設けられた平坦領域と、を有」することに相当する。

(オ) 引用文献1発明の「半導体発光素子」は、本願発明1の「発光素子」に相当する。

したがって、本願発明1と引用文献1発明とは、
(一致点)
「 上面、側面及び下面を有し且つ前記側面が前記下面から前記上面に向かって広がるように傾斜する半導体構造と、前記半導体構造の下面側に設けられた正電極及び負電極と、前記半導体構造の側面に設けられた膜と、を備えた発光素子であって、
前記半導体構造は、その上面において、内側に設けられた粗面領域と、外側に設けられた平坦領域と、を有している発光素子。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
前記半導体構造の側面に設けられた膜が、
本願発明1では、「反射膜」であり、かつ、「前記半導体構造の側面全域に設けられている」のに対し、
引用文献1発明では、「保護層15」であり、かつ、「前記素子部20のp側の表面から前記活性層23の露出領域を少なくとも覆」う構成である点。

(相違点2)
発光素子が、本願発明1では、「前記半導体構造の上面側から光を取り出す」ものであるのに対し、引用文献1発明の半導体発光素子は、光を取り出す方向について記載がない点。

イ 相違点についての検討
(ア) 上記相違点1について検討する。
a 引用文献1の段落【0024】に「保護層15は、二酸化シリコン(SiO_(2))からなる酸化膜である。保護層15は、テーパ面28の一部及び素子部20のp側の表面の一部に形成されている。テーパ面28の全面が保護層15によって覆われていない理由は、後述するレーザリフトオフ(LLO:Laser Lift Off)の際に発生するN_(2)ガスを素子部20の外部に放出しやすくしているためである。」と記載されている。

一方、半導体発光素子において、反射層は、発光素子の発光効率を高めるために配置するものであるため、反射を可能とする面積が大きな位置に配置するのが技術常識といえるものの、引用文献1の保護層15がテーパ面28の全面を覆わないものであるのは、レーザリフトオフを利用するので、N_(2)ガスを放出する経路を確保するためであり、仮に、反射層を設けるとしても保護層15を反射膜とし、かつ、「側面全域」に設けることには阻害要因がある。

また、引用文献2?4には、発光素子の一般的な反射膜の構成について記載されているものの、「半導体構造の側面に反射膜を形成するものではないため」、引用文献1の保護層に代えて、引用文献2?4に記載された反射膜を採用することの動機付けがあるとはいえない。

b 引用文献1発明は、段落【0010】?【0013】に記載されているように、「上述したような成長用基板の凹凸パターン上に形成された半導体成長層からLLO法によって成長用基板を除去する場合は、凹凸パターンを有しない成長用基板上に形成された半導体成長層からLLO法によって成長用基板を除去する場合と比較して、GaN層の分解時に発生するN_(2)ガスの圧力が半導体成長層の厚さ方向(すなわち、成長方向)にかかる。・・・(略)・・・N_(2)ガスの圧力が半導体成長層の厚さ方向にかかりやすくなると、上述したような放出経路の底部(すなわち、成長用基板が露出した部分)の周囲における半導体成長層の層厚は薄いため、かかる薄い層厚の部分にクラックが発生しやすくなり、半導体発光素子の歩留まり及び信頼性が低下する。」ことを課題とし、
当該課題を解決するために、「前記素子部は、前記第2の電極に対してテーパ状の傾斜面を備えるテーパ部、及び前記テーパ部によって囲まれた内側部からなり、前記第1電極の形成面側の前記テーパ部の表面は平坦であり、前記第1電極の形成面側の前記内側部の表面は複数の凸部又は凹部からなる凹凸形状を有する」ようにしたものである。

一方、引用文献5には、凹凸パターンを有さない成長用基板に形成した半導体成長層を除去する際に発生するN_(2)ガスを、成長用基板の表面に形成した分離溝により外部に放出して、成長用基板の剥離時における成長層表面でのクラック発生を防止する技術が記載されている。
したがって、引用文献1のような凹凸パターンを有する成長用基板に形成した半導体成長層を除去するものに、異なる成長用基板を用いた上記の技術を適用することに、技術的な困難性がある。

よって、引用文献1発明に、引用文献5に記載された反射膜を適用する動機があるとはいえない。

そして、本願発明1の「前記半導体構造の側面全域に設けられている」「反射膜」は、「前記半導体構造は、その上面において、内側に設けられた粗面領域と、外側に設けられた平坦領域」を有する構成と合わせて、斜め方向における相対発光強度を大きくする効果を奏するものである。

(イ) 上記のとおりであるから、本願発明1の相違点1に係る構成は、引用文献1発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得るものとはいえない。

ウ まとめ
相違点2について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本願発明2?本願発明4について
本願発明2?本願発明4も、本願発明1の相違点1に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献1発明及び引用文献2?5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 理由2(実施可能要件)について
原査定の拒絶理由で指摘した平坦領域の機能に関する点については、
審判請求書の「原査定の備考欄には『なぜ平坦部があるものの方が、反射による吸収が少ないと考えられる平坦部がないものより全体の強度が大きくなるのか把握することができない』と記載されています。しかしながら、本件明細書の段落[0037]に記載されているとおり、図4に示す配光特性はあくまで相対的なものであり、絶対的なものではありません。つまり、図4は、本願発明の発光素子(半導体構造の上面において外側が平坦部で内側が粗面となっているもの)の発光スペクトルにおける0度の発光強度と従来の発光素子(半導体構造の上面に平坦部がなく全域が粗面となっているもの)の発光スペクトルにおける0度の発光強度とを規格化して「1」としたときのデータであり、審査官殿が指摘されるように本願発明の発光素子の方が従来の発光素子よりも全体の発光強度が大きくなっているということではありません。図4から明らかなように、本願発明はあくまでも、従来の発光素子に比較して、正面方向における強度に対する斜め方向における強度の割合をより大きくすることができるというものです。
また、当業者であれば、本願明細書の段落[0012]、[0021]及び[0038]等の記載、並びに、図4(b)、図4(c)等から、本願発明おいて上記作用効果が得られることも当然に理解することができるはずです(詳細は、平成28年9月7日付意見書「3.」の「(2)」をご参照ください)。
以上のことから、本願は、請求項1?4に係る発明について、当業者が実施できる程度に十分かつ明確に記載したものであると思量致します。」との釈明により、本願の明細書の図4の実施例と比較例の相対発光強度の関係を理解することができ、その結果、拒絶の理由で指摘した平坦領域の機能に関する矛盾点が解消した。

第6 原査定について
1 理由1(進歩性)について
以上のとおり、本願発明1?本願発明4は、「前記半導体構造の側面に設けられた反射膜」であって、「前記反射膜は、前記半導体構造の側面全域に設けられている」という事項を有しており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?5に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

2 理由2(実施可能要件)について
以上のとおり、本願発明1?本願発明4は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しないから同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-15 
出願番号 特願2012-273192(P2012-273192)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 536- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 居島 一仁
近藤 幸浩
発明の名称 発光素子  

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