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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60C |
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管理番号 | 1336494 |
審判番号 | 不服2017-2929 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-02-28 |
確定日 | 2018-02-01 |
事件の表示 | 特願2011-250007号「バリア層を有する空気入りタイヤ及びその製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年6月7日出願公開、特開2012-106728号、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成23年11月15日(パリ条約による優先権主張2010年11月15日、米国)の出願であって、平成27年11月9日付けで拒絶理由通知がされたのに対し、平成28年5月11日付けで意見書が提出されたものの、平成28年10月26日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。これに対し、平成29年2月28日に拒絶査定不服審判請求がされたものである。 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願請求項1、11、20に係る発明は、以下の引用文献1-5に基いて、請求項2、3、12、13に係る発明は、以下の引用文献1-6に基いて、請求項4、5、14、15に係る発明は、以下の引用文献1-5、7に基いて、請求項6-10、16-19に係る発明は、以下の引用文献1-9に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献 1.特開平10-29407号公報 2.特開2009-214632号公報 3.特開2008-168553号公報 4.特開2006-240200号公報 5.特開平10-35232号公報 6.特開2010-208090号公報 7.特開平8-132553号公報 8.特開2002-80644号公報 9.特開平10-81108号公報 第3 本願発明 本願請求項1-20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明20」という。)は、特許請求の範囲の請求項1-20に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「タイヤトレッドと; タイヤ層と;そして バリア層と を含むタイヤであって、 前記タイヤ層は、前記タイヤトレッドの内側に円周方向に配置され、突合せ継ぎを画定するために相互に隣接して位置する第一の端部及び第二の端部を含み、 前記バリア層は、前記タイヤトレッドの内側に円周方向に配置され、前記タイヤ層に隣接して位置し、前記バリア層は第一の端部及び第二の端部を含み、前記バリア層の第一の端部の部分は第二の端部に約1.5cm以上重なって重ね継ぎを画定しており、 前記バリア層の第一の端部は前記突合せ継ぎの間に受容されてその先に伸びているため、前記タイヤ層の第一の端部が前記重ね継ぎの間に挟み込まれていることを特徴とするタイヤ。」 なお、本願発明2-20の概要は以下のとおりである。 本願発明2-10は、本願発明1を減縮した発明である。 また、本願発明11は、本願発明1の「バリア層」について、さらにその材料、厚さを限定した発明であり、本願発明12-19は、本願発明11を減縮した発明である。 さらに、本願発明20は、本願発明1に対応する製造方法の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である。 第4 引用文献等 1.引用文献1について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。 「【0010】 【発明の実施の形態】本発明の空気入りタイヤは、図1に示されるように、左右一対のビードコア10,10間にカーカス層11が装架され、トレッド部12においては2層のベルト層13,13がタイヤ1周に亘って配置されている。タイヤ内壁面には、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムが内貼りされてカーカス層11の内面を実質的に覆う空気透過防止層14が形成されている。」 「【0011】カーカス層11では、図2に示されるように、タイヤ周方向EE’の一端部と他端部とが重なり合ってタイヤ幅方向に延びるスプライス部15を形成しており、このスプライス部15において外側カーカス層11uと内側カーカス層11dとの間に空気透過防止層14が挟み込まれている。・・・」 したがって、上記引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「左右一対のビードコア10,10間にカーカス層11が装架され、トレッド部12においては2層のベルト層13,13がタイヤ1周に亘って配置されており、タイヤ内壁面には、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムが内貼りされてカーカス層11の内面を実質的に覆う空気透過防止層14が形成されている空気入りタイヤであって、 カーカス層11では、タイヤ周方向EE’の一端部と他端部とが重なり合ってタイヤ幅方向に延びるスプライス部15を形成しており、このスプライス部15において外側カーカス層11uと内側カーカス層11dとの間に空気透過防止層14が挟み込まれている、 空気入りタイヤ。」 2.引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2の、【請求項1】、段落【0002】、【0019】-【0022】及び【図2】の記載内容から、引用文献2には、「空気入りタイヤにおいて、シート状のタイヤ構成部材をタイヤ周方向に配置すると共に、そのタイヤ周方向の端部同士を突き合わせることによりスプライスさせた構成の技術」が記載されているといえる。 3.その他の引用文献について 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3-9には、それぞれ次の事項が記載されているといえる。 ・引用文献3-5 「タイヤのインナーライナー層(バリア層)を熱可塑性エラストマー組成物とした技術」(引用文献3の段落【0010】、引用文献4の段落【0011】、引用文献5の段落【0012】) ・引用文献6 「空気入りタイヤを構成するプライのプライ端部を角度のついたエッジとする技術」(【図4】、【図8】) ・引用文献7 「空気入りタイヤのインナーライナー層(バリア層)を最内層とした技術」(【図3】-【図5】) ・引用文献8 「Tダイ押出機で、タイヤのインナーライナー(バリア層)となる熱可塑性エラストマーのフィルムを作成する技術」(段落【0030】) ・引用文献9 「空気入りタイヤの空気透過防止層(バリア層)と隣接層との間に粘接着剤を介在させる技術」(段落【0029】) 第5 対比・判断 1.本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「空気入りタイヤ」は、本願発明1の「タイヤ」に相当するといえる。 イ 引用発明の「空気入りタイヤ」は、「左右一対のビードコア10,10間にカーカス層11が装架され、トレッド部12においては2層のベルト層13,13がタイヤ1周に亘って配置されており、タイヤ内壁面には、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムが内貼りされてカーカス層11の内面を実質的に覆う空気透過防止層14が形成されている」という構成であり、構造的、機能的にみて、引用発明の「トレッド部12」、「カーカス層11」及び「空気透過防止層14」は、それぞれ、本願発明1の「タイヤトレッド」、「タイヤ層」及び「バリア層」に相当するといえる。 ウ 引用発明の「カーカス層11」は、空気入りタイヤのトレッド部12の内側(【図1】)かつ、円周方向に配置されていることは当業者における技術常識からみて明らかである。そして、引用発明の「カーカス層11」の「タイヤ周方向EE’の一端部」及び「他端部」は、本願発明1の「タイヤ層」の「第一の端部」及び「第二の端部」に相当するといえる。したがって、引用発明の「カーカス層11では、タイヤ周方向EE’の一端部と他端部とが重なり合ってタイヤ幅方向に延びるスプライス部15を形成しており」は、上記イをも踏まえると、本願発明1の「前記タイヤ層は、前記タイヤトレッドの内側に円周方向に配置され、突合せ継ぎを画定するために相互に隣接して位置する第一の端部及び第二の端部を含み」との対比において、「前記タイヤ層は、前記タイヤトレッドの内側に円周方向に配置され、第一の端部及び第二の端部を含み」の限度で共通する。 エ 引用発明の「空気透過防止層14」は、「カーカス層11の内面を実質的に覆う」ように「熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムが内貼りされて」いるものであるから、空気入りタイヤのトレッド部12の内側(【図1】)かつ、円周方向に配置されていることは当業者における技術常識からみて明らかである。 したがって、引用発明の「タイヤ内壁面には、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂フィルムが内貼りされてカーカス層11の内面を実質的に覆う空気透過防止層14が形成されている」ことは、本願発明1の「前記バリア層は、前記タイヤトレッドの内側に円周方向に配置され、前記タイヤ層に隣接して位置し」ていることに相当する。 オ また、引用発明は、「カーカス層11では、タイヤ周方向EE’の一端部と他端部とが重なり合ってタイヤ幅方向に延びるスプライス部15を形成しており、このスプライス部15において外側カーカス層11uと内側カーカス層11dとの間に空気透過防止層14が挟み込まれている」ものであるから、引用発明の「空気透過防止層14」は、第一の端部及び第二の端部を含み、この第一の端部の部分は第二の端部に重なって重ね継ぎを画定しているといえる。 したがって、引用発明の、「このスプライス部15において外側カーカス層11uと内側カーカス層11dとの間に空気透過防止層14が挟み込まれている」ことは、本願発明1の、「前記バリア層は第一の端部及び第二の端部を含み、前記バリア層の第一の端部の部分は第二の端部に約1.5cm以上重なって重ね継ぎを画定しており」との対比において、「前記バリア層は第一の端部及び第二の端部を含み、前記バリア層の第一の端部の部分は第二の端部に重なって重ね継ぎを画定している」の限度で共通する。 カ 以上より、本願発明1と引用発明との一致点および相違点は次のとおりとなるといえる。 <一致点> 「タイヤトレッドと; タイヤ層と;そして バリア層と を含むタイヤであって、 前記タイヤ層は、前記タイヤトレッドの内側に円周方向に配置され、第一の端部及び第二の端部を含み、 前記バリア層は、前記タイヤトレッドの内側に円周方向に配置され、前記タイヤ層に隣接して位置し、前記バリア層は第一の端部及び第二の端部を含み、前記バリア層の第一の端部の部分は第二の端部に重なって重ね継ぎを画定している、 タイヤ。」 <相違点1> タイヤ層に関し、本願発明1は、「第一の端部及び第2の端部」が「突合せ継ぎを画定するために相互に隣接して位置する」ものであるのに対し、引用発明では、「カーカス層11では、タイヤ周方向EE’の一端部と他端部とが重なり合ってタイヤ幅方向に延びるスプライス部15を形成して」いるものである点。 <相違点2> バリア層の重ね継ぎの長さに関し、本願発明1では、「約1.5cm以上」であるのに対し、引用発明ではそのように特定されていない点。 <相違点3> バリア層の第一の端部に関し、本願発明1では、「前記突合せ継ぎの間に受容されてその先に伸びているため、前記タイヤ層の第一の端部が前記重ね継ぎの間に挟み込まれている」ものであるのに対し、引用発明では、「スプライス部15において外側カーカス層11uと内側カーカス層11dとの間に空気透過防止層14が挟み込まれている」ものである点。 (2)判断 相違点1について検討する。 上記「第4 2.」で述べたとおり、引用文献2には、「空気入りタイヤにおいて、シート状のタイヤ構成部材をタイヤ周方向に配置すると共に、そのタイヤ周方向の端部同士を突き合わせることによりスプライスさせた構成の技術」(以下、「引用文献2の技術」という。)が記載されている。 上記引用文献2の技術を引用発明の「カーカス層11」の「タイヤ周方向EE’の一端部と他端部」に適用することについて検討するに、引用発明は、樹脂フィルムをカーカス材に貼合わせた複合シートにしてタイヤ成形ドラムに巻き付け、その両端部を重ね合わせるようにスプライスした構成を前提として、加硫時に発生する剥離力によってカーカス層間に挟まれた樹脂フィルムが破壊するという問題点に着目して成された発明であるといえ(引用文献1の段落【0004】)、バリア層である樹脂フィルムがカーカス層間に挟まれているという構成が前提となっているといえる。そうだとすれば引用発明の「カーカス層11」の「タイヤ周方向EE’の一端部と他端部」に、上記引用文献2の技術である、周方向端部を突き合わせすることによりスプライスする技術を適用する動機付けがない(仮に、引用発明に上記引用文献2の技術を適用しても、その適用により得られる構成は、樹脂フィルムがカーカス層間に挟まれていない構成となるから、引用発明の課題を解決することができない(引用発明の前提となる課題が生じない)。また、引用発明のカーカス層には、樹脂フィルムが貼り合わされているものである(複合シート)から、その両者(カーカス層と樹脂フィルム)においてこと更、カーカス層のみを突き合わせるするスプライス構成とする理由がない。)。 したがって、引用発明において、上記引用文献2の技術を適用し、相違点1に係る本願発明1の構成と成すことは当業者といえども容易に想到することはできない。 また、上記「第4 3.」にあるように、引用文献3-5には、上記相違点1の構成を示す記載も示唆もないし、かかる構成が当業者にとって容易であるとする根拠もない。 よって、その他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献3-5に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。 2.本願発明11、20について 本願発明11は、本願発明1の「バリア層」について、さらにその材料、厚さを限定した発明であり、本願発明20は、本願発明1に対応する製造方法の発明であり、本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明である したがって、本願発明11、20も、上記「1.(1)」の相違点1で示した本願発明1での構成と同様の構成を備えるものといえるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献3-5に記載された事項に基いて容易に発明できたものとはいえない。 3.本願発明2-10、12-19について 本願発明2-10は本願発明1を減縮した発明であり、本願発明12-19は、本願発明11を減縮した発明である。 そして、引用文献6-9にも、上記「1.(1)」の相違点1で示した本願発明1での構成を示す記載も示唆もない。 したがって、本願発明2、3、12、13に係る発明は、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献3-6に記載された事項に基いて、本願発明4、5、14、15は、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献1-5、7に記載された事項に基いて、本願発明6-10、16-19は、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献3-9に記載された事項に基いて、当業者であっても容易に発明できたものとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1、10、20は、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献3-5に記載された事項に基いて、本願発明2、3、12、13に係る発明は、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献3-6に記載された事項に基いて、本願発明4、5、14、15は、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献1-5、7に記載された事項に基いて、本願発明6-10、16-19は、引用発明、引用文献2の技術及び引用文献3-9に記載された事項に基いて、当業者であっても容易に発明できたものとはいえない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-01-22 |
出願番号 | 特願2011-250007(P2011-250007) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(B60C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 田々井 正吾 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
尾崎 和寛 氏原 康宏 |
発明の名称 | バリア層を有する空気入りタイヤ及びその製造法 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 宮前 徹 |
代理人 | 野矢 宏彰 |
代理人 | 中西 基晴 |