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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B25J
管理番号 1336570
審判番号 不服2016-1010  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-01-25 
確定日 2018-01-17 
事件の表示 特願2012-37867「関節ロボット手首」拒絶査定不服審判事件〔平成24年9月13日出願公開、特開2012-176488〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下、「本願」という。)は、平成24年2月23日(パリ条約による優先権主張、2011年2月24日、イタリア)の外国語書面による出願であって、
平成26年3月12日に審査請求がなされ、
平成27年1月29日付けで拒絶理由通知(同年2月3日発送)がなされ、
これに対して同年4月15日に意見書が提出されると共に手続補正がなされ、
同年9月25日付けで拒絶査定がなされた(謄本送達同年10月6日)。

これに対して、「原査定を取り消す、本願は特許すべきものであるとの審決を求める」ことを請求の趣旨として平成28年1月25日に審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、
同年6月15日付けで上申書が提出されたものである。


2.平成28年1月25日にされた手続補正の適否
(1)本件補正
平成28年1月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成27年4月15日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項10の記載

「 【請求項1】
第1の端部および第2の端部を含む第1の本体(12)であって、該第1の本体(12)の前記第1の端部は、第1の軸(IV)の周りに回転可能なロボット構成要素に配設されることを企図するものと、
第1の端部および第2の端部を含む第2の本体(14)であって、該第2の本体(14)の前記第1の端部は、前記第1の本体(12)の前記第2の端部に、前記第1の軸(IV)に対して傾斜した第2の軸(V)の周りに回転可能に配設されるものと、
第1の端部および第2の端部を含む第3の本体(16)であって、該第3の本体(16)の前記第1の端部は、前記第2の本体(14)の前記第2の端部に、前記第2の軸(V)に対して傾斜した第3の軸(VI)の周りに回転可能に配設されるものと、を含む関節ロボット手首(10)であって、
前記第1の軸(IV)および前記第3の軸(VI)は、共に、前記第2の軸(V)に実質的に直交し、前記第1の軸および前記第3の軸は、当該ロボット手首の少なくとも1つの位置において実質的に互いに一致し、
前記第1の本体は、前記第2の本体および前記第3の本体を向き、且つ、当該手首が配設された状態で実質的に前記第1の軸(IV)上に配置される第1の開口(20)を備えるベースを有する実質的にエルボ型の部分(18)を含み、
前記エルボ型の部分は、前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置されたオフセット部(22)を保持し、該オフセット部の上には前記第1の本体の前記第2の端部が設けられており、
前記第2の本体は、前記第2の本体の前記第2の端部に相当し、実質的に前記第3の軸(VI)上に位置する第2の開口(26)を有する片持ち梁部を含み、当該ロボット手首が配設された状態で、前記第1の開口および前記第2の開口は、当該ロボット手首の前記第3の本体(16)に接続された装置の供給および/または制御のためのケーブルおよび/またはチューブによって横断され、
当該ロボット手首は、さらに、前記第2の本体(14)および前記第3の本体(16)の前記第2の軸(V)および前記第3の軸(VI)の周りのそれぞれの回転を駆動する手段を含み、
前記第2の本体(14)および前記第3の本体(16)の回転を駆動する手段は、
前記第1の本体の前記オフセット部(22)に保持された第1のモータ(28)および第2のモータ(30)と、
前記第1のモータ(28)の出力軸の回転を前記第2の本体(14)に伝達するための第1の伝動手段、および、前記第2のモータ(30)の出力軸の回転を前記第3の本体(16)に伝達するための第2の伝動手段とを含み、
当該ロボット手首の前記エルボ型の部分と反対側の端部に、前記第1の本体の前記オフセット部(22)は、前記第1の本体の前記第2の端部に相当し、前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置され、その上に前記第2の本体が前記第2の軸(V)の周りに回転可能に配設されたフォーク型部(32)を有することを特徴とするロボット手首。
【請求項2】
前記第1の伝動手段は、前記フォーク型部の第1のアーム(32’)の中に前記第2の軸の周りに回転可能に配設された第1のシャフト(34)を含み、前記第1のシャフトは、前記第1のモータ(28)に回転接続されて前記第2の本体の回転駆動に適し、
前記第2の伝動手段は、前記フォーク型部の第2のアーム(32”)の中に配設され、前記第1のシャフトと同心の第2のシャフト(36)を含み、前記第2のシャフトは、前記第2のモータ(30)に回転接続されて前記第3の本体(14)の回転駆動に適する、請求項1に記載のロボット手首。
【請求項3】
前記第1のシャフトは、ベルト伝動によって前記第1のモータに回転接続されている、請求項2に記載のロボット手首。
【請求項4】
前記第2のシャフトは、ベルト伝動によって前記第2のモータに回転接続されている、請求項2または3に記載のロボット手首。
【請求項5】
前記片持ち梁部の中において、前記第2の本体は、前記第3の軸と平行な軸の周りに回転可能に配設され、前記第2の伝動手段の一部を形成するギア手段によって前記第2のシャフト(36)に回転接続されたシャフト(60)を含み、
前記片持ち梁部の前記シャフト(60)は、第1の端部に、前記ギア手段が係合した歯車(62)と、前記第1の端部と反対側の第2の端部に、前記第3の本体に堅固に接続された歯車(66)に係合する歯車(64)とを含む、請求項2から4のいずれかに記載のロボット手首。
【請求項6】
前記第2の本体は、前記第2の本体の前記第1の端部に相当し、前記フォーク型部の第1のアーム(32’)と第2のアーム(32”)との間の隙間に受け入れられ、前記第1のアームおよび前記第2のアームにより回転可能に支持されたベースケーシング(42)を含み、前記ベースケーシング(42)は、前記第1のシャフト(34)および前記第2のシャフト(36)を、それぞれ前記ケーシングの反対側の第1の開口(44)および第2の開口(46)を通して受け入れるのに適し、前記第1のシャフトは前記ベースケーシ
ングの回転を駆動し、前記ベースケーシングは、前記第2のシャフト(36)の回転を、前記第2の本体(24)の前記片持ち梁部の中に収容された前記第2の伝動手段の伝動要素に伝達するのに適したギア手段を収容する、請求項2から5のいずれかに記載のロボット手首。
【請求項7】
前記ベースケーシング(42)と前記第1のシャフト(34)との間に、前記第1のアームに支持され、前記第1のシャフトを前記ケーシングに回転接続するのに適した減速手段(58)が介設されている、請求項6に記載のロボット手首。
【請求項8】
前記ギア手段は、
前記ベースケーシング(42)の中に、前記第3の軸(VI)に対して平行で離れた軸の周りに回転可能に配設されたシャフト(68)を含み、前記ギア手段の前記シャフトは、第1の端部に、前記第2の軸(36)に保持された歯車(72)と係合するかさ歯車(70)を保持し、
その入力において、前記ギア手段の前記シャフトの第2の端部に接続され、その出力において、前記第2の本体(24)の前記片持ち梁部の中に収容された前記第2の伝動手段の伝動要素の回転の伝達のための歯車に接続された減速手段(74)を含む、請求項6または7に記載のロボット手首。
【請求項9】
かさ歯車(74)が、前記第1のモータの出力軸に固定され、そして、第3のシャフト(82)に保持され、且つ、前記オフセット部の中に前記第2の軸(V)に対して平行で離れた軸の周りに回転可能に配設されたかさ歯車(80)に係合しており、前記第3のシャフト(82)は、前記歯車と反対側の一端に、前記第1のシャフト(34)に保持されたプーリ(88)に伝動ベルトによって回転接続されたプーリ(84)を有し、
かさ歯車(90)が、前記第2のモータの出力軸に固定され、そして、前記オフセット部の中の前記第3のシャフトと反対側に配設された第4のシャフト(94)に保持され、且つ、前記第2の軸に対して平行で離れた軸の周りに回転可能なかさ歯車(92)に係合しており、前記第4のシャフトは、前記かさ歯車と反対側の一端に、前記第2のシャフト(36)に保持されたプーリ(100)に伝動ベルトによって回転接続されたプーリ(96)を有する、請求項2から4のいずれかに記載のロボット手首。
【請求項10】
前記第1のモータおよび前記第2のモータは、前記オフセット部の中で、実質的に互いに同心である、請求項1から9のいずれかに記載のロボット手首。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正前の請求項」という。)

を、

「 【請求項1】
第1の端部および第2の端部を含む第1の本体(12)であって、該第1の本体(12)の前記第1の端部は、第1の軸(IV)の周りに回転可能なロボット構成要素に配設されることを企図するものと、
第1の端部および第2の端部を含む第2の本体(14)であって、該第2の本体(14)の前記第1の端部は、前記第1の本体(12)の前記第2の端部に、前記第1の軸(IV)に対して傾斜した第2の軸(V)の周りに回転可能に配設されるものと、
第1の端部および第2の端部を含む第3の本体(16)であって、該第3の本体(16)の前記第1の端部は、前記第2の本体(14)の前記第2の端部に、前記第2の軸(V)に対して傾斜した第3の軸(VI)の周りに回転可能に配設されるものと、を含む関節ロボット手首(10)であって、
前記第1の軸(IV)および前記第3の軸(VI)は、共に、前記第2の軸(V)に実質的に直交し、前記第1の軸および前記第3の軸は、当該ロボット手首の少なくとも1つの位置において実質的に互いに一致し、
前記第1の本体は、前記第2の本体および前記第3の本体を向き、且つ、当該手首が配設された状態で実質的に前記第1の軸(IV)上に配置される第1の開口(20)を備えるベースを有する実質的にエルボ型の部分(18)を含み、
前記エルボ型の部分は、前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置されたオフセット部(22)を保持し、該オフセット部の上には前記第1の本体の前記第2の端部が設けられており、
前記第2の本体は、前記第2の本体の前記第2の端部に相当し、実質的に前記第3の軸(VI)上に位置する第2の開口(26)を有する片持ち梁部を含み、当該ロボット手首が配設された状態で、前記第1の開口および前記第2の開口は、当該ロボット手首の前記第3の本体(16)に接続された装置の供給および/または制御のためのケーブルおよび/またはチューブによって横断され、
当該ロボット手首は、さらに、前記第2の本体(14)および前記第3の本体(16)の前記第2の軸(V)および前記第3の軸(VI)の周りのそれぞれの回転を駆動する手段を含み、
前記第2の本体(14)および前記第3の本体(16)の回転を駆動する手段は、
前記第1の本体の前記オフセット部(22)に保持された第1のモータ(28)および第2のモータ(30)と、
前記第1のモータ(28)の出力軸の回転を前記第2の本体(14)に伝達するための第1の伝動手段、および、前記第2のモータ(30)の出力軸の回転を前記第3の本体(16)に伝達するための第2の伝動手段とを含み、
当該ロボット手首の前記エルボ型の部分と反対側の端部に、前記第1の本体の前記オフセット部(22)は、前記第1の本体の前記第2の端部に相当し、前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置され、その上に前記第2の本体が前記第2の軸(V)の周りに回転可能に配設されたフォーク型部(32)を有し、
前記第1の伝動手段は、前記フォーク型部の第1のアーム(32’)の中に前記第2の軸の周りに回転可能に配設された第1のシャフト(34)を含み、前記第1のシャフトは、前記第1のモータ(28)に回転接続されて前記第2の本体の回転駆動に適し、
前記第2の伝動手段は、前記フォーク型部の第2のアーム(32”)の中に配設され、前記第1のシャフトと同心の第2のシャフト(36)を含み、前記第2のシャフトは、前記第2のモータ(30)に回転接続されて前記第3の本体(14)の回転駆動に適することを特徴とするロボット手首。
【請求項2】
前記第1のシャフトは、ベルト伝動によって前記第1のモータに回転接続されている、請求項1に記載のロボット手首。
【請求項3】
前記第2のシャフトは、ベルト伝動によって前記第2のモータに回転接続されている、請求項1または2に記載のロボット手首。
【請求項4】
前記片持ち梁部の中において、前記第2の本体は、前記第3の軸と平行な軸の周りに回転可能に配設され、前記第2の伝動手段の一部を形成するギア手段によって前記第2のシャフト(36)に回転接続されたシャフト(60)を含み、
前記片持ち梁部の前記シャフト(60)は、第1の端部に、前記ギア手段が係合した歯車(62)と、前記第1の端部と反対側の第2の端部に、前記第3の本体に堅固に接続された歯車(66)に係合する歯車(64)とを含む、請求項1から3のいずれかに記載のロボット手首。
【請求項5】
前記第2の本体は、前記第2の本体の前記第1の端部に相当し、前記フォーク型部の第1のアーム(32’)と第2のアーム(32”)との間の隙間に受け入れられ、前記第1のアームおよび前記第2のアームにより回転可能に支持されたベースケーシング(42)を含み、前記ベースケーシング(42)は、前記第1のシャフト(34)および前記第2のシャフト(36)を、それぞれ前記ケーシングの反対側の第1の開口(44)および第2の開口(46)を通して受け入れるのに適し、前記第1のシャフトは前記ベースケーシングの回転を駆動し、前記ベースケーシングは、前記第2のシャフト(36)の回転を、前記第2の本体(24)の前記片持ち梁部の中に収容された前記第2の伝動手段の伝動要素に伝達するのに適したギア手段を収容する、請求項1から4のいずれかに記載のロボット手首。
【請求項6】
前記ベースケーシング(42)と前記第1のシャフト(34)との間に、前記第1のアームに支持され、前記第1のシャフトを前記ケーシングに回転接続するのに適した減速手段(58)が介設されている、請求項5に記載のロボット手首。
【請求項7】
前記ギア手段は、
前記ベースケーシング(42)の中に、前記第3の軸(VI)に対して平行で離れた軸の周りに回転可能に配設されたシャフト(68)を含み、前記ギア手段の前記シャフトは、第1の端部に、前記第2の軸(36)に保持された歯車(72)と係合するかさ歯車(70)を保持し、
その入力において、前記ギア手段の前記シャフトの第2の端部に接続され、その出力において、前記第2の本体(24)の前記片持ち梁部の中に収容された前記第2の伝動手段の伝動要素の回転の伝達のための歯車に接続された減速手段(74)を含む、請求項5または6に記載のロボット手首。
【請求項8】
かさ歯車(74)が、前記第1のモータの出力軸に固定され、そして、第3のシャフト(82)に保持され、且つ、前記オフセット部の中に前記第2の軸(V)に対して平行で離れた軸の周りに回転可能に配設されたかさ歯車(80)に係合しており、前記第3のシャフト(82)は、前記歯車と反対側の一端に、前記第1のシャフト(34)に保持されたプーリ(88)に伝動ベルトによって回転接続されたプーリ(84)を有し、
かさ歯車(90)が、前記第2のモータの出力軸に固定され、そして、前記オフセット部の中の前記第3のシャフトと反対側に配設された第4のシャフト(94)に保持され、且つ、前記第2の軸に対して平行で離れた軸の周りに回転可能なかさ歯車(92)に係合しており、前記第4のシャフトは、前記かさ歯車と反対側の一端に、前記第2のシャフト(36)に保持されたプーリ(100)に伝動ベルトによって回転接続されたプーリ(96)を有する、請求項1から3のいずれかに記載のロボット手首。
【請求項9】
前記第1のモータおよび前記第2のモータは、前記オフセット部の中で、実質的に互いに同心である、請求項1から8のいずれかに記載のロボット手首。」(以下、この特許請求の範囲に記載された請求項を「補正後の請求項」という。)

に補正するものである。(下線は、請求人が付加したもの。)

(2)補正の適否

ア 特許法第17条の2第3項(新規事項)及び第5項(目的要件)に関する検討
本件補正前後の特許請求の範囲の記載を見比べると、請求項の数は、補正前の10から補正後の9へと減少し、補正後の請求項1に係る発明の記載は、補正前の請求項2の内容と等しく、全体の引用関係も補正前に請求項2に従属していた請求項をそのまま引き継いだ形を踏襲しているのが確認できるので、本件補正は特許法第17条の2第5項第1号に規定された、請求項の削除を目的とする補正であると認められる。また請求項の削除を目的とする関係上、同法同条第3項の規定に適合する補正であることは明らかである。

なお、本件補正は、前述の請求項の削除以外にも補正箇所が発生しているが、この補正は請求項を削除する補正に伴って引用する請求項の番号を修正するという、必然的に生じる他の請求項の形式的な補正であるから、請求項の削除を目的とする補正に含まれる。

イ 小結
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に適合する適法な補正である。


3.本願発明について

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年1月25日の手続補正により補正された上記特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおり特定されるものである。


4.引用文献及び引用文献に記載された技術的事項
(1)引用文献1及び引用発明
本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、平成27年1月29日付け拒絶理由において引用された、特開2009-28875号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に以下の技術的事項が記載されている(摘記中の下線は理解を助けるため、当審にて付与した。)。

A「【0016】
図1に示すロボット2は、ロボット本体ベース4上で第1回転軸回りを回転する旋回胴5と、旋回胴5の上部に第2の回転軸回りで回転自在に連結する上腕6と、上腕6の先端部に第3の回転軸回りで回転自在に連結する前腕7と、3軸の自由度を有する手首と、から成る合計6軸の自由度を持つハンドリングロボットである。手首は、第1?第3の手首要素8?10から構成されている。このロボット2は、ロボットコントローラ3からの指令に従い、手首先端に装着されたハンド15をハンドリングする部品の位置に、指定された姿勢で、目標位置まで移動するように、6軸の駆動部(関節)に各々装着されたサーボモータが、制御用ケーブルを介し、制御されている。」

B「【0023】
図3及び図4は、今回の発明の主となっている作業ツールとしてのハンド15に接続するハンドケーブル20の処理構造を示した図である。図1に示すハンドリングロボット2の例を示しているが、もちろん、アーク溶接ロボット2Aの場合でも同様となる。ハンド15と電磁弁ボックス12との間のハンドケーブル20は、図5に示す可撓性を有する導管13内に通されるようになっている。導管13は、一端が前腕7の内部に挿入された状態で、第2手首要素9に片持ち保持されている。」

C「【0031】
また、図6及び7には、前腕7の構造が示されている。一組のハイポイドピニオン32及びハイポイドギア31からなるギアセットと軸受34からなる第1減速装置30内の第1挿通孔34には、導管13の一端を保護する保護部材として、パイプ17が一体的に設けられている。前腕7の後部には、図3及び図4に示すように、電磁弁ボックス12が、前腕7後部の空間で、前腕7近傍に配置されている。これにより、手首要素8?10回転時の慣性を低減でき、ロボット2に対する負荷を小さくできる。また、電磁弁ボックス12と周辺装置との干渉を防ぐことができる。
【0032】
第2手首要素9又は第3手首要素10に搭載されたモータ用制御ケーブル21は、本ケーブル21の可動部(摺動部)での信頼性を確保する為、ハンドケーブル20とは、空間を分けて処理される。減速装置およびケーブル可動部処理は、モータの配置に影響なく第4軸方向の長さを最小にすることができる。これにより、ハンドケーブル20とモータ制御ケーブル21が絡むことはなくなり、モータ制御ケーブル21の可動部での信頼性を確保することができる。」

D「【0033】
次に、図8?10を参照しながら、第1?3手首要素8?10の内部構造と導管13を保持する導管保持部材24について説明する。図8及び図9に示すように、第1手首要素8には、第2、3の手首要素9,10を駆動する一対のモータ45,46が、第4回転軸C4に対してオフセットした位置で縦方向(第4回転軸方向)に並んで搭載されている。各モータ45,46の回転軸には、所定の減速比でモータの回転速度を減速する各一組のギアセット37,38,42,43を有する減速装置36,41が連結されている。第3のギアセット37,38には、一組のベベルギア40a,40bが噛合している。これにより、第2手首要素9は、第4回転軸C4に直交する第5回転軸C5回りを回転でき、第3手首要素10は、第5回転軸C5に直交する第6回転軸C6回りを回転できるようになっている。図示例では、第1手首要素8の第4回転軸C4と第3手首要素10の第6回転軸C6が同軸となる姿勢をとっており、ハンドケーブル20を通す導管13は直線になっている。」

E「【0036】
また、導管保持部材24は第2手首要素9の第5回転軸C5に対し、オフセットした位置で第2手首要素9に固定されている。従って、導管保持部材24の把持部26の筒部分のみが手首要素9の動作時に導管13に接触することはあるが、固定部25が接触することは避けられる。また、第2手首要素9および第3手首要素10の第2,3減速装置36,41及びモータ45,46は導管13に対し、オフセットした位置にあるので、導管13の動きを妨げることはない。また、第2手首要素9の第2挿通孔39の入り口では、導管13が把持部26の円筒部分に触れることはあっても、導管保持部材24のエッジにはあたらないよう、導管保持部材24の形状が工夫されている。」

また、【図3】及び【図4】の図示に拠ると、図中第2の手首要素9と第3の手首要素10との連結は互いの端面で連結されていることから、第2の手首要素9と第3の手首要素10との連結は片持ちでなされていることが看取できる。(認定事項ア)。
さらに、【図8】及び【図9】の図示に拠ると、図中第1の手首要素8と第2の手首要素9との連結は互いの端面で連結されていることから、第1の手首要素8と第2の手首要素9との連結は片持ちでなされていることが看取できる(認定事項イ)。
【図3】、【図4】、【図8】、【図9】の図示に拠ると、図中の導管13は、前腕7から第1の手首要素8及び第2の手首要素9を貫通し、先端は第3の手首要素10まで延びていることから、途中にある第1の手首要素8、第2の手首要素9、第3の手首要素10には当該導管13を通す開口が設けられており、特に【図4】では導管13が直線状に配されていることから、前腕7と第1の手首要素8との連結点の開口と、第2の手首要素9と第3の手首要素10との連結点の開口とは、互いに共通の回転軸C4及びC6上に位置すると看取できる。(認定事項ウ)

以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「作業用ツールを有するハンドリングロボット2であって、
前記ハンドリングロボット2は、ロボット本体ベース4上で旋回する旋回胴5と、旋回胴5の上部に回転自在に連結する上腕6と、上腕6の先端に回転自在に連結する前腕7と、3軸の自由度を有する手首とからなり、
前記手首は、第1?3の手首要素8?10とから構成され、
前記第1の手首要素8は、前記前腕7の第4回転軸C4に沿って配設された導管13内を開口を通して受け入れつつ、該第4回転軸C4に対してオフセットした位置にモータ45及び46を搭載し、該第1の手首要素8の端部に、前記モータ45の回転を伝達する減速装置36と、前記モータ46の回転を伝達する減速装置42を設けて前記第2の手首要素9を回転自在に片持ち支持するように構成することで、減速装置36が第2の手首要素9を第5回転軸C5回りに回転させるとともに、減速装置42が第2の手首要素9に回転自在に片持ちで連結した第3の手首要素10を第6回転軸C6回りに回転させるものであり、
前記第3の手首要素10は前記導管13の端部を受け入れる開口を有し、
前記第4回転軸C4は前記第6回転軸C6と同軸とされ、
前記第5回転軸C5は前記第4回転軸及び前記第6回転軸C6と直交するものであり、
前記第1の手首要素8に設けられた開口と、前記第3の手首要素10が有する開口とは、互いに同軸とされる第4回転軸C4及び第6回転軸上に位置する
ハンドリングロボット2。」

(2)引用文献2に記載された技術的事項
本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となり、平成27年1月29日付け拒絶理由において引用された、特開平5-131388号公報(以下、「引用文献2」という。)には、工業ロボットの手首装置に関して、図面と共に、手首基部4の先端に設けられた一対の突出部41、42により両持ちで回転可能に支持される中ケーシング5と、中ケーシング5の端部で回転可能に接続された手先ケーシング7が、第一の実施例から第四の実施例として記載され、該一対の突出部41、42は各々、中ケーシング5を揺動させる傘歯車54と、手先ケーシング7を回転させる傘歯車64とを軸承している。
また、手首基部4が配線を通す通路を含むように張り出し部49を形成した第五の実施例が、図5として記載され、当該実施例では中ケーシング5と手首基部4との接続は片持ち支持とされた記載となっている。

(3)引用文献3に記載された技術的事項
本願の優先日前に頒布又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2011-5635号公報(以下、「引用文献3」という。)には、図面と共に以下の技術的事項が記載されている。(摘記中の下線は理解を助けるため、当審にて付与した。)

F「【0001】
本発明は産業用の多関節ロボットに関する。」

G「【0015】
図5は本発明の第2の実施例を示す産業用ロボットの手首部の側面図であり、説明の便宜のため、手首部5の胴体6の右側面のカバーを取り除いて、内部機構が見えるように描いている。図において、51は揺動体7を駆動するモータであり、胴体6の内部に横向き、つまりR軸に対して直角、B軸に対して平行に取り付けられている。モータ51の出力軸にはプーリ52が取り付けられている。53は揺動体7に連結される減速機であり、胴体6の先端に取り付けられている。減速機53の入力軸にはプーリ54が取り付けられ、プーリ54とプーリ52の間にはタイミングベルト55が巻き掛けられている。つまりモータ51の動力はベルトプーリ機構を介して減速機53に伝えられて、揺動体7をB軸回りに回転駆動する。56は回転体8を駆動するモータであり、モータ51と同様に胴体6の内部に横向きに取り付けられている。モータ56の動力は胴体6の左側(紙面の裏側)に配置される別のベルトプーリ機構(図示せず)を介して回転体8を駆動する。また、モータ51とモータ56はR軸の中心から下にオフセットした位置に取り付けられている。これはR軸に沿って延びるコンジットケーブル12との干渉を避けるためである。
【0016】
図6は、図5に示した産業用ロボットの手首部の先端の内部機構を示す平断面図であり、図6においては、揺動体7をB軸まわりに90°回転させて、揺動体7を水平つまり、R軸とT軸が重なるような姿勢を取っている。なお、図5と共通する構成要素は同一の符号を付したので、説明を省略する。61はベルトであり回転体駆動用モータ(図5のモータ56に相当するが、図示していない)の動力をプーリ62に伝える。プーリ62には傘歯車63が取り付けられている。64は揺動体7にT軸に平行に軸支された伝動軸であり、伝動軸64の両端には傘歯車65、66が取り付けられ、傘歯車65は傘歯車63と噛み合っている。67は回転体8に取り付けられた傘歯車である。傘歯車67は傘歯車66と噛み合っている。このようにして前記回転体駆動用モータの動力は回転体8に伝えられる。回転体8には、T軸を中心とする円筒状の中空部があり、溶接トーチ9は前記中空部を貫通している。回転体8を貫通した溶接トーチ9の端部にはコンジットケーブル12が接続されている。コンジットケーブル12は二股状になった胴体6の部材22、23の間の空間に、R軸と同心に配設されている。また揺動体駆動用のベルトプーリ機構は部材22の内部に、回転体駆動用のベルトプーリ機構は部材23の内部にそれぞれ配置されている。
【0017】
図7は本発明の本発明の第3の実施例を示す産業用ロボットの三面図であり、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は右側面図である。基本的な構成は図1から図6に示した第1および第2の実施例と同一なので、共通する構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。揺動体7は、回転体8を支持する本体7aと、本体7aの左右(右側面で見て)にあって、第3軸(T軸)つまり回転体8の回転中心に平行に伸びる2つの部分7b、7cを備えて二股状を成している。部分7b、7cの先端は胴体6の左右の部材22、23にそれぞれ回転自在に支持され、揺動体7を両持ちで支持している。コンジットケーブル12は、部材22と部材23の間の空間と部分7aと7bの間の空間を通って回転体8に(さらにはその先に取り付けられる溶接トーチに)に延びている。13は部分7bに固定されたケーブルサポートである。ケーブルサポート13は部分7bと7cの間を塞ぐ板状の部材で、コンジットケーブル12が部分7bと7cの間からはみ出すのを抑制する拘束片として機能する。また胴体6の部材22と部材23の間には、2つの間を連結する連結片14があり、コンジットケーブル12が胴体6の下に垂れ下がるのを抑制している。このように、コンジットケーブル12の変形はケーブルサポート13と連結片14によって抑制されるので、揺動体7あるいは回転体8を大きく動作させてもコンジットケーブル12が手首5の外に大きくはみ出して、ワークや周辺装置と干渉することがない。また、揺動体7を真上に振り上げた(図7に示す状態から180°揺動させた状態)時に、コンジットケーブル12が胴体6の上にはみ出すように変形するが、ケーブルサポート13はこの変形を押える効果もある。
【0018】
以上説明した実施例は手首部5の揺動体7を胴体6の先端に両持ちで軸支したが片持ちで取り付けてもよい。つまり、図2に示した胴体6の2つの部材22、23のうちの一方の部材23を取り除いて、揺動体6を部材22に片持ちで支持する構造を選んでもよい。」


5.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「第1の手首要素8」、「第2の手首要素9」、及び「第3の手首要素10」、「導管13」、「手首」は、各々、本願発明の「第1の端部および第2の端部を含む第1の本体(12)」、「第1の端部および第2の端部を含む第2の本体(14)」、及び「第1の端部および第2の端部を含む第3の本体(16)」、「ロボット手首の前記第3の本体(16)に接続された装置の供給および/または制御のためのケーブルおよび/またはチューブ」、「ロボット手首」に相当する。
また、前記相当関係が成立する3つの構成要素のそれぞれに関係する回転軸に関しても、引用発明の「第4回転軸C4」、「第5回転軸C5」、及び「第6回転軸C6」は、互いの回転軸同士の一致等の関係も含めて、各々本願発明の「第1の軸(IV)」、「第2の軸(V)」、及び「第3の軸(VI)」に相当するとともに、引用発明の「前記第4回転軸C4は前記第6回転軸C6と同軸とされ、」「前記第5回転軸C5は前記第4回転軸及び前記第6回転軸C6と直交する」関係は、本願発明の「前記第1の軸(IV)に対して傾斜した第2の軸(V)」及び「前記第1の軸および前記第3の軸は、当該ロボット手首の少なくとも1つの位置において実質的に互いに一致」に相当する。
さらに、引用発明の「モータ45」及び「モータ46」は、各々連結先の「第2手首要素9」/「第2の本体(14)」と「第3の手首要素10」/「第3の本体(16)」を回転駆動させる駆動源となる点で、本願発明の「第1のモータ(28)」及び「第2のモータ(30)」に相当する。
引き続き、引用発明の「前記第1手首要素8」が「該回転軸C4に対してオフセットした位置にモータ45及び46を搭載」することは、本願発明の「第1の本体(12)」が「エルボ型の部分(18)」を含むこと、及び「前記エルボ型の部分は、前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置されたオフセット部(22)を保持」することに相当する。
また、引用発明の「前記第1の手首要素8に設けられた開口と、前記第3の手首要素10が有する開口とは、互いに同軸とされる第4回転軸C4及び第6回転軸上に位置する」ことは、本願発明の「第1の本体」の「当該手首が配設された状態で実質的に前記第1の軸(IV)上に配置される第1の開口(20)」との特定事項、及び、「第2の本体」の「実質的に前記第3の軸(VI)上に位置する第2の開口(26)」との特定事項に相当する。
加えて、引用発明の「該第1手首要素8の端部に、前記モータ45の回転を伝達する減速装置36と、前記モータ46の回転を伝達する減速装置42を設けて前記第2手首要素9を回転自在に片持ち支持するように構成することで、減速装置36が第2手首要素9を第5回転軸C5回りに回転させるとともに、減速装置42が第2手首要素9に回転自在に連結した第3の手首要素10を第6回転軸C6回りを回転させるもの」とされることは、本願発明の「前記第2の本体(14)および前記第3の本体(16)の回転を駆動する手段は、
前記第1の本体の前記オフセット部(22)に保持された第1のモータ(28)および第2のモータ(30)と、
前記第1のモータ(28)の出力軸の回転を前記第2の本体(14)に伝達するための第1の伝動手段、および、前記第2のモータ(30)の出力軸の回転を前記第3の本体(16)に伝達するための第2の伝動手段とを含
」む点で共通する。

以上から、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

(一致点)
「第1の端部および第2の端部を含む第1の本体(12)であって、該第1の本体(12)の前記第1の端部は、第1の軸(IV)の周りに回転可能なロボット構成要素に配設されることを企図するものと、
第1の端部および第2の端部を含む第2の本体(14)であって、該第2の本体(14)の前記第1の端部は、前記第1の本体(12)の前記第2の端部に、前記第1の軸(IV)に対して傾斜した第2の軸(V)の周りに回転可能に配設されるものと、
第1の端部および第2の端部を含む第3の本体(16)であって、該第3の本体(16)の前記第1の端部は、前記第2の本体(14)の前記第2の端部に、前記第2の軸(V)に対して傾斜した第3の軸(VI)の周りに回転可能に配設されるものと、を含む関節ロボット手首(10)であって、
前記第1の軸(IV)および前記第3の軸(VI)は、共に、前記第2の軸(V)に実質的に直交し、前記第1の軸および前記第3の軸は、当該ロボット手首の少なくとも1つの位置において実質的に互いに一致し、
前記第1の本体は、前記第2の本体および前記第3の本体を向き、且つ、当該手首が配設された状態で実質的に前記第1の軸(IV)上に配置される第1の開口(20)を備えるベースを有する実質的にエルボ型の部分(18)を含み、
前記エルボ型の部分は、前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置されたオフセット部(22)を保持し、該オフセット部の上には前記第1の本体の前記第2の端部が設けられており、
前記第2の本体は、前記第2の本体の前記第2の端部に相当し、実質的に前記第3の軸(VI)上に位置する第2の開口(26)を有する片持ち梁部を含み、当該ロボット手首が配設された状態で、前記第1の開口および前記第2の開口は、当該ロボット手首の前記第3の本体(16)に接続された装置の供給および/または制御のためのケーブルおよび/またはチューブによって横断され、
当該ロボット手首は、さらに、前記第2の本体(14)および前記第3の本体(16)の前記第2の軸(V)および前記第3の軸(VI)の周りのそれぞれの回転を駆動する手段を含み、
前記第2の本体(14)および前記第3の本体(16)の回転を駆動する手段は、
前記第1の本体の前記オフセット部(22)に保持された第1のモータ(28)および第2のモータ(30)と、
前記第1のモータ(28)の出力軸の回転を前記第2の本体(14)に伝達するための第1の伝動手段、および、前記第2のモータ(30)の出力軸の回転を前記第3の本体(16)に伝達するための第2の伝動手段とを含むロボット手首。」

(相違点1)
「第1の本体」の「端部」とされる「第2の本体」との接続に関し、本願発明では「前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置され、その上に前記第2の本体が前記第2の軸(V)の周りに回転可能に配設されたフォーク型部(32)を有」するとしているのに対して、引用発明の対応する接続箇所は、「片持ち」にて「第1の手首要素8」が「第2の手首要素9」を支持している点。
(相違点2)
前記相違点1の相違に加えて、本願発明では「第1の伝動手段」及び「第2の伝動手段」に対して、「前記第1の伝動手段は、前記フォーク型部の第1のアーム(32’)の中に前記第2の軸の周りに回転可能に配設された第1のシャフト(34)を含み、前記第1のシャフトは、前記第1のモータ(28)に回転接続されて前記第2の本体の回転駆動に適し」及び「前記第2の伝動手段は、前記フォーク型部の第2のアーム(32”)の中に配設され、前記第1のシャフトと同心の第2のシャフト(36)を含み、前記第2のシャフトは、前記第2のモータ(30)に回転接続されて前記第3の本体(14)の回転駆動に適すること」との特定事項をさらに有しているのに対して、引用発明は係る事項を有していない点。


6.当審の判断

上記相違点1、2について検討する。
原審では相違点1に係る特定事項とされる「フォーク型部」に対して、引用文献2を示しつつ適宜成し得るとの拒絶理由を通知し、請求人は意見書にてギヤ37と42の存在を基にフォーク型部を形成できないとの主張を行ったものの、当該主張は採用されず拒絶査定とされた。請求人は本件審判を請求するに当たっても、同趣旨の主張を繰り返し行っているため、相違点1に係る構成の容易想到性について再度検討するとともに、相違点2に係る構成も含めて以下、検討する。

手首を模したロボット構造に関する公知の技術として、回転可能な接続に一対のフォークによる両持ちを採用する構造は、上記「4.」の(2)で示した引用文献2の「一対の突出部41、42」による「両持ち」での「支持」だけでなく、(3)に示す引用文献3に記載の公知技術が存在する。
当該引用文献3には、摘記事項Gに記載のとおり、請求人が主張するオフセット部を伴う前提にて、両持ちのフォーク部分に該当する「胴体6」の「二股状を成」すとされる「部材22、23」(【図6】。なお、【図7】では「部分7b」及び「部分7c」になる。)は、「部材22」側に、回転可能に接続される「揺動体7」の回転駆動を生じさせる「減速機53の入力軸」が配設される構造を示すばかりでなく、他方の「部材23」側には、「揺動体7」の先に配設された「回転体8」へ回転駆動を生じさせる「伝動軸64」へ動力を伝える「傘歯車63」の伝動軸が配設されていることをも示している。
そうすると、上記相違点1ないし2に係る本願発明の構成はいずれも公知技術となんら変わらない。
また、引用文献3の摘記事項Gの【0018】によれば、手首を模したロボット構造で、回転可能な接続構造として、両持ち支持も、片持ち支持も、どちらも当業者に知られており、どちらを採用してもよいことが理解できる。
とすれば、片持ち支持が示された引用発明に接した当業者であれば、公知の両持ち支持である引用文献2に記載の「一対の突出部41、42」による「両持ち」での「支持」とした公知技術への置換を試みる際、フォーク型部に相当する「一対の突出部41、42」の2箇所のそれぞれに「第1の伝動手段」及び「第2の伝動手段」相当を配することは公知の引用文献2及び3のいずれにも十分に開示されていることから見てなんら困難なこととは認められず、そのようにした結果は本願発明の構成と同一になることとなるので、当業者が容易に想到できたというべきである。

また、そのようにした作用効果は、本願発明の効果となんら違いはない。

以上のことから、上記相違点はいずれも格別のものではなく、そして、本願発明の奏する作用効果は、上記引用発明及び公知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

なお、請求人は審判請求書にて、
「(d)本願発明と引用発明の対比
本願発明は、要するに、
第1の本体(12)と、第2の本体(14)と、第3の本体(16)とを含む関節ロボット手首(10)であって、
前記第1の本体は、第1の開口(20)を備えるベースを有するエルボ型の部分(18)を含み、前記エルボ型の部分は前記第1の開口(20)の軸に対して横に並んで離れて配置されたオフセット部(22)を保持し、
前記第2の本体は、片持ち梁部を含み、
前記第1の本体の前記オフセット部に、第1のモータ(28)及び第2のモータ(30)が保持され、第1の伝動手段および第2の伝動手段を含み、
前記第1の本体の前記オフセット部は、前記第2の本体が回転可能に配設されたフォーク型部(32)を有し、
前記第1の伝動手段は、前記フォーク型部の第1のアーム(32’)の中に前記第2の軸の周りに回転可能に配設された第1のシャフト(34)を含み、前記第1のシャフトは、前記第1のモータ(28)に回転接続されて前記第2の本体の回転駆動に適し、
前記第2の伝動手段は、前記フォーク型部の第2のアーム(32”)の中に配設され、前記第1のシャフトと同心の第2のシャフト(36)を含み、前記第2のシャフトは、前記第2のモータ(30)に回転接続されて前記第3の本体(14)の回転駆動に適することを特徴としている。
引用文献1に記載のロボット2は、第1の手首要素8、第2の手首要素9、第3の手首要素10を有し、第1の手首要素は8はオフセット部を有している。
しかし、引用文献1のものは、本願発明と以下の点で相違している。
A.引用文献1のロボット2は、第2の手首要素9が第1の手首要素8の端部側面に回転可能に連結されているが、本願発明のように、第2の手首要素9が回転可能に配設されたフォーク型部を有しない。
B.このため、引用文献1のロボット2は、本願発明における「フォーク型部の第1のアーム(32’)の中に第2の軸の周りに回転可能に配設された第1のシャフト(34)」と、「フォーク型部の第2のアーム(32”)の中に配設され、第1のシャフトと同心の第2のシャフト(36)」とを有しない。
相違点Aに関し、引用文献2には、中ケーシング5が揺動軸心Eの回りに回転可能に配置された二つの突出部41,42を有する手首基部4が記載されている。この構成は、本願発明のフォーク型部と類似している。
しかし、引用文献2のフォーク型部の構成を引用文献1の発明に適用するには阻害事由がある。
第一に、引用文献2に記載されたものは、手首基部4にオフセット部がないため、手首基部4、中ケーシング5、手先ケーシング6の3つの要素が同軸になっている。引用文献2には、手首基部4が手先ケーシング6の軸心Fに対してオフセットし、中ケーシングに片持ち梁部を有する構成が記載されているが(図5)、このオフセット構成ではフォーク型部の構成は採用されていない。このことは、引用文献2のフォーク型部の構成(図1、図2)は、手首基部4(第1の手首要素)、中ケーシング5(第2の手首要素)、手先ケーシング6(第3の手首要素)の3つの要素が同軸になっている構成に対して適用されるものであって、引用文献1や本願発明のように、第1手首要素がオフセット部を有するため、第2手首要素に片持ち梁部を設けるとともに、当該片持ち梁部に第3の手首要素を設けて、第1の手首要素の軸と第3の手首要素の軸を一致させている構成には適用されないことを示唆するものである。
第二に、引用文献1に記載されたものは、図8、図9に示すように、第1手首要素8の端部に、第2手首要素9を駆動するモータ45のギアセット37,38のうちギア37と、第3手首要素10を駆動するモータ46のギアセット42,43のうちのギア42とが同軸で、かつ、内外に配置されている。このため、第1手首要素9の端部を引用文献1のように、それぞれにギアセットが組み込まれた2つの突出部を設けてフォーク型に形成することはできない。ギアセット37,38とギアセット42、43を有する突出部と、ギアセットがない突出部とを設けてフォーク型に形成することは考えられるが、これでは、本願発明のような「第1の手首要素8が回転可能に配設されたフォーク型部」とは言えない。
よって、引用文献1に記載されたものに引用文献2のフォーク型部を備える構成を適用する動機付けは無く、たとえ適用しても本願発明を想到することはできない。
相違点Bに関し、特許文献2には、二つの突出部41、42のうち、突出部41の中に軸心Eのまわりに回転可能に配置された軸53と、突出部42の中に軸心Eと同軸の軸63とを有する構成が記載されている。しかし、上に述べたように、引用文献1に記載されたものに引用文献2のフォーク型部を備える構成を適用する動機付けはない以上、引用文献2のフォーク型部の内部の軸の構成を引用文献1に記載されたものに適用する動機付けもない。
(e)拒絶査定における審査官の認定について
審査官殿は、「引用文献1に記載されたものにおけるギヤ37と42の配置は、第1手首要素8のオフセット方向と、第2手首要素9の回転軸である第5回転軸C5の方向との関係によって規定されるものである。多関節ロボットにおいて各関節の回転方向をどのようにするかは任意に選択し得る設計的事項であり、引用文献1に記載されたものにおいても第1手首要素8のオフセット方向に対して第5回転軸C5をどの方向にするかは設計的事項であって、第5回転軸C5を[図8]において紙面に垂直方向とすることで、引用文献2に記載された突出部41、42からなるフォーク型部の構成を適用することを妨げるものとは認められない。」と認定されている。
仮に、第5回転軸C5を[図8]において紙面に垂直方向とする場合、ギヤ37とギヤ38のセットと、ギヤ42とギア43のセットとを分離することはできないし、第5回転軸C5のかさ歯車40aを第3手首要素10のかさ歯車40bと連結することはできなくなる。
審査官のこの認定は、引用文献2の構成を引用文献1の発明に無理やり適用しようとする後知恵と言わざるを得ない。
(4)むすび
以上のように、本願発明は引用文献に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものではありません。」(審判請求書)
と主張している。
請求人の係る主張は、引用文献2のオフセット部を持つ形態にはフォーク型部が採用されていないことから見て、阻害事由がある旨、また動機付けを欠く旨を主張したものと見られるが、請求人が言う阻害事由は動力伝達系の配置を引用発明のままにしたとの前提から推測したものであり、当該前提は片持ち支持を採用した場合に必然的に生じるものであることを考えると、両持ち支持への変更を試みるときには当然2つの動力伝達系は2つの支持部の配置に合わせて移動するものと見られ、阻害事由を必ずしも形成するものではない。
また、動機付けに関する主張や、拒絶査定の認定を無理やりとする主張については、原審での説示が足りなかった可能性はあるにしても、上述のとおり手首を模した機構の接続に片持ち支持も両持ち支持も任意に選択し得る以上、請求人の主張は結論として妥当性を欠くというべきである。


7.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-16 
結審通知日 2017-08-22 
審決日 2017-09-04 
出願番号 特願2012-37867(P2012-37867)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B25J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧 初  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 西村 泰英
渡邊 真
発明の名称 関節ロボット手首  
代理人 山崎 宏  
代理人 前田 厚司  
代理人 前堀 義之  
代理人 田中 光雄  

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