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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16H
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 F16H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F16H
管理番号 1336686
審判番号 不服2017-1397  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-01 
確定日 2018-02-06 
事件の表示 特願2012-201297「トルクコンバータのロックアップ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 3月27日出願公開、特開2014- 55642、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年9月13日の出願であって、平成27年7月29日付けで拒絶理由が通知され、平成27年10月5日に意見書が提出され、平成28年3月18日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月25日に意見書が提出されたが、平成28年10月28日付け(発送日:平成28年11月1日)で拒絶査定され、これに対し、平成29年2月1日に拒絶査定不服審判の請求がされ、平成29年9月26日付けで当審において拒絶理由が通知され、平成29年12月1日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成28年10月28日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1、2、4-6に係る発明は、以下の引用文献A-Cに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A 特開2004-124984号公報
B 特開2011-169442号公報
C 特開2009-250288号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審において平成29年9月26日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、次のとおりである。
(1) 請求項1、2及び5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(2) 請求項1-3及び5に係る発明は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(3) 特許法第36条第6項第2号
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項6に記載された「前記第1プレーの外周部」の「第1プレー」は、「第1プレート」の誤記と認められる。
よって、請求項6-7に係る発明は明確でない。


引用文献等一覧
1 特開2011-169442号公報(拒絶査定時の引用文献B)


第4 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成29年12月1日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1-6は次のとおりの発明である。

「[請求項1]
エンジン側の部材に連結されるフロントカバーとトルクコンバータのタービンとの間に配置され、前記フロントカバーからのトルクを前記タービンに機械的に伝達するためのロックアップ装置であって、
軸方向に移動自在なピストンを有し、前記フロントカバーからのトルクを伝達又は遮断するクラッチ部と、
前記クラッチ部からトルクが入力される1枚の第1プレートと、
前記第1プレートと相対回転自在に配置され、前記タービンに連結された1枚の第2プレートと、
前記第1プレートと前記第2プレートとを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材と、
前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材と、
前記第1プレート及び前記第2プレートの軸方向の相対移動を規制するための規制機構と、
を備え、
前記規制機構は、
前記第1及び第2プレートの一方に形成された複数のスリットと、
前記第1及び第2プレートの他方に軸方向に延びて形成され、それぞれ前記複数のスリットを貫通する複数の突起と、
前記複数の突起の前記スリットを貫通した部分に装着され、前記スリットが形成されたプレートの側面に当接可能な規制部材と、
を有する、
トルクコンバータのロックアップ装置。
[請求項2]
前記スリットは周方向に延びる円弧状に形成されており、
前記突起は、前記スリット内に円周方向に隙間をあけて挿入されている、請求項1に記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
[請求項3]
前記規制部材はスナップリングであり、
前記スリットが形成されたプレートの側面には、軸方向に突出し、前記スナップリングの円周方向の両端に当接して前記スナップリングの回転を禁止する1対のストッパが形成されている、
請求項1又は2に記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
[請求項4]
前記第1プレートは、それぞれ軸方向一方側に突出して形成され前記複数の弾性部材を収納する複数の第1収納部を有し、前記第1収納部の回転方向の端面は前記弾性部材の回転方向の端面に当接可能であり、
前記第2プレートは、それぞれ軸方向他方側に突出して形成され前記複数の弾性部材を前記第1収納部とともに収納する複数の第2収納部を有し、前記第2収納部の回転方向の端面は前記弾性部材の回転方向の端面に当接可能である、
請求項1から3のいずれかに記載のトルクコンバータのロックアップ装置。
[請求項5]
エンジン側の部材に連結されるフロントカバーとトルクコンバータのタービンとの間に配置され、前記フロントカバーからのトルクを前記タービンに機械的に伝達するためのロックアップ装置であって、
軸方向に移動自在なピストンを有し、前記フロントカバーからのトルクを伝達又は遮断するクラッチ部と、
前記クラッチ部からトルクが入力される1枚の第1プレートと、
前記第1プレートと相対回転自在に配置され、前記タービンに連結された1枚の第2プレートと、
前記第1プレートと前記第2プレートとを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材と、
前記ピストンに固定された入力プレートと、
前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材と、
前記第1プレート及び前記第2プレートの軸方向の相対移動を規制するための規制機構と、
を備え、
前記規制機構は、
前記第1及び第2プレートの一方に形成された複数のスリットと、
前記第1及び第2プレートの他方に軸方向に延びて形成され、それぞれ前記複数のスリットを貫通する複数の突起と、
前記複数の突起の前記スリットを貫通した部分に装着され、前記スリットが形成されたプレートの側面に当接可能な規制部材と、
を有する、
トルクコンバータのロックアップ装置。
[請求項6]
前記入力プレート及び前記第1プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の外周側弾性部材の外周部及び軸方向一方側を支持するとともに、前記複数の外周側弾性部材のうちの少なくとも2つの外周側弾性部材を直列に作用させるためのサポート部材をさらに備えた、請求項5に記載のトルクコンバータのロックアップ装置。」

第5 引用文献
1 引用文献1・引用発明
当審拒絶理由に引用された引用文献1には、図面(特に[図1]、[図2]及び[図12]-[図15]参照。)とともに次の事項が記載されている。
(1)「[0012]
〔第1実施形態〕
<トルクコンバータの全体構成>
図1を用いてトルクコンバータ1(流体式動力伝達装置の一例)の全体構成について説明する。図1の左側にはエンジン(図示せず)が配置され、図の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。図1に示すO-Oがトルクコンバータ1およびロックアップ装置7の回転中心線である。なお、第1実施形態では、流体式動力伝達装置としてトルクコンバータを例に説明するが、流体式動力伝達装置はステータを有しない流体継手などの他の装置であってもよい。
[0013]
トルクコンバータ1は、エンジン側のクランクシャフト(図示せず)からトランスミッションの入力シャフト(図示せず)に動力を伝達するための装置であり、クランクシャフトに連結されるフロントカバー2と、インペラー3と、タービン4と、ステータ5と、ロックアップ装置7と、を備えている。
[0014]
フロントカバー2は、環状のカバー本体10と、カバー本体10に固定された環状の支持プレート2aと、カバー本体10に固定された円板状のバックプレート2bと、を有している。支持プレート2aは、ロックアップ装置7の第2摩擦プレート52(後述)を軸方向に移動可能かつ一体回転可能に支持しており、第2摩擦プレート52の半径方向内側に配置されている。バックプレート2bは支持プレート2aの半径方向外側に配置されており、ロックアップ装置7の第1摩擦プレート51(後述)に近接して配置されている。ロックアップ装置7の連結状態ではバックプレート2bは第1摩擦プレート51と摺動する。」

(2)「[0019]
<ロックアップ装置>
図1に示すように、ロックアップ装置7は、フロントカバー2とタービン4とを機械的に連結するための装置であり、トルクコンバータ1のフロントカバー2とタービン4との間の空間に配置されている。図1および図2に示すように、ロックアップ装置7は、ピストン30と、複数のスプリング33(弾性部材の一例)と、第1摩擦プレート51と、第2摩擦プレート52と、ドリブンプレート35(ドリブン部材の一例)と、連結リング60(連結部材の一例)を有している。」

(3)「[0021]
(1)ピストン30
ピストン30は、フロントカバー2とタービン4との間の空間を軸方向に2分割するように配置されている。ピストン30によりフロントカバー2とタービン4との間の空間は、第1空間Aおよび第2空間Bに概ね分割されている。ピストン30は、タービン4により軸方向に移動可能かつ回転可能に支持されており、圧力の変化に応じて軸方向に移動するようになっている。具体的には、第1空間Aと第2空間Bとの間に圧力差が生じると、ピストン30はフロントカバー2およびタービン4に対して軸方向に移動する。」

(4)「[0025]
図1および図2に示すように、リティーニングプレート37は、ピストン本体36にリベット40により固定されており、スプリング33を弾性変形可能に支持している。具体的には、リティーニングプレート37は、ピストン本体36に固定された環状の固定部37aと、固定部37aの外周部に配置された支持部37bと、を有している。固定部37aはピストン本体36のタービン4側に配置されている。固定部37aの内周部はピストン本体36に固定されている。図2および図3に示すように、固定部37aには複数の開口37cが形成されている。開口37cは連結リング60の連結中間部62および爪部先端63と同じ円周方向位置に配置されている。連結中間部62は開口37cに挿入されている。」

(5)「[0027]
図2に示すように、支持部37bはスプリング33を回転方向に弾性変形可能に支持している。支持部37bの断面形状は概ねC字状であり、スプリング33は支持部37bの内部に収容されている。図2および図3に示すように、支持部37bには複数の当接部37dが形成されている。当接部37dは、支持部37bの内部に迫り出した部分であり、スプリング33の端部を回転方向に支持している。
[0028]
(2)スプリング33
スプリング33はピストン30とタービン4とを回転方向に弾性的に連結している。スプリング33はリティーニングプレート37の支持部37bに収容されている。スプリング33の端部は当接部37dにより回転方向に支持されている。スプリング33は隣り合う当接部37dの間に配置されている。また、隣り合うスプリング33の間にはドリブンプレート35の突起35cが軸方向に挿入されている。ピストン30とタービン4とが相対回転すると、当接部37dと突起35cとの間でスプリング33は回転方向に圧縮される。」

(6)「[0074]
〔第4実施形態〕
第4実施形態に係るロックアップ装置307について説明する。なお、前述の構成と実質的に同じ機能を有する構成については、同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
[0075]
<構成>
前述の第1?第3実施形態では、連結部材の一部または全部がピストン30のタービン4側に配置されているが、連結部材全体がピストン30のフロントカバー2側に配置されていてもよい。
[0076]
例えば、図12?図14に示すロックアップ装置307は、ドリブンプレート335(ドリブン部材の一例)と、ワイヤリング360(連結部材の一例)と、を有している。ドリブンプレート335は、概ね環状の固定部335aと、複数の突出部335bと、複数の突起35cと、を有している。ドリブンプレート235は一体形成されている。固定部335aはタービン4に固定されている。突出部335bは、固定部335aの内周部から軸方向に延びている。具体的には、突出部335bは、固定部335aから軸方向に延びるドリブン連結部335dと、ドリブン連結部335dの端部に設けられたドリブン爪部335eと、を有している。ドリブン連結部335dはリティーニングプレート37の開口37cに挿入されている。ドリブン爪部335eはドリブン連結部335dの端部が半径方向内側に折り曲げられ形成されている。ドリブン爪部335eは、リティーニングプレート37のフロントカバー2側に配置されており、ドリブン連結部335dの端部から半径方向内側に延びている。
[0077]
ワイヤリング360は、ドリブンプレート335とピストン30とを軸方向に弾性的に連結している。具体的には、ワイヤリング360は、突出部335bに引っ掛けられており、ドリブン爪部335eとリティーニングプレート37との間に挟み込まれている。ワイヤリング360はリティーニングプレート37のタービン4と反対側(フロントカバー2側)に配置されている。ワイヤリング360は、切欠き361が形成されたC字形状を有しており、半径方向に弾性変形可能となっている。リティーニングプレート37には固定部37aからフロントカバー2側に突出した位置決め部337gが形成されている。位置決め部337gは例えばプレス加工により形成されている。ワイヤリング360の切欠き361には、この位置決め部337gが嵌め込まれているので、ワイヤリング360はリティーニングプレート37と一体回転する。
[0078]
組み付けの際、ワイヤリング360は半径方向内側に弾性変形された状態で複数の突出部335bに引っ掛けられる。ドリブン爪部335eおよびワイヤリング360は外周爪部30cよりも半径方向外側に配置されている。ワイヤリング360の内径はピストン本体36の外径よりも大きい。ドリブン爪部335eとピストン本体36との間にはワイヤリング360を挿入できる程度の隙間が確保されている。」

上記記載事項及び図示内容を総合し、技術常識を加味して、本願発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「エンジン側の部材に連結されるフロントカバー2とトルクコンバータ1のタービン4との間に配置され、前記フロントカバー2とタービン4とを機械的に連結するためのロックアップ装置7であって、
軸方向に移動するピストン30を有し、前記フロントカバー2からのトルクを伝達又は遮断するバックプレート2b、第1摩擦プレート51,第2摩擦プレート52及びピストン30と、
前記バックプレート2b、第1摩擦プレート51,第2摩擦プレート52及びピストン30からトルクが入力され、ピストン本体36とリベット40で固定される、1枚のリティーニングプレート37と、
前記リティーニングプレート37と相対回転自在に配置され、前記タービン4に連結された1枚のドリブンプレート335と、
前記リティーニングプレート37と前記ドリブンプレート335とを回転方向に弾性的に連結する複数のスプリング33と、
前記リティーニングプレート37及び前記ドリブンプレート335の軸方向の相対移動を規制するための規制機構と、
を備え、
前記規制機構は、
前記リティーニングプレート37に形成された複数の開口37cと、
前記ドリブンプレート335に軸方向に延びて形成され、それぞれ前記複数の開口37cを貫通する複数の突出部335bと、
前記複数の突出部335bに引っ掛けられ、前記複数の突出部335bの前記開口37cを貫通したドリブン爪部335eと前記開口37cが形成されたリティーニングプレート37との間に挟み込まれるワイヤリング360と、
を有する、トルクコンバータ1のロックアップ装置7。」

2 引用文献A
拒絶査定に引用された引用文献Aには、図面(特に[図1]-[図3]参照。)とともに次の事項が記載されている。

「[0015]
[発明の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[トルクコンバータの基本構造]
図1は本発明の一実施形態が採用されたトルクコンバータ1の縦断面概略図である。トルクコンバータ1は、エンジンのクランクシャフト2からトランスミッションの入力シャフト3にトルクを伝達するための装置である。図1の左側に図示しないエンジンが配置され、図1の右側に図示しないトランスミッションが配置されている。図1に示すO-Oがトルクコンバータ1の回転軸である。
[0016]
トルクコンバータ1は、フロントカバー5と、3種の羽根車(図示しないインペラ、タービン6、ステータ7)を含むトーラス形状の流体作動室8と、ロックアップ装置9とから構成されている。
フロントカバー5は、円板状の部材であり、内周部がクランクシャフト2に固定されている。フロントカバー5の外周部には、トランスミッション側に延びる外周側筒状部5aが形成されている。この外周側筒状部5aの先端にインペラのインペラシェル11の外周縁が溶接によって固定されている。この結果、フロントカバー5とインペラとによって、内部に作動油が充填された流体室が形成されている。インペラは周知の構造であり、主に、インペラシェルと、その内側に固定された複数のインペラブレードと、インペラシェルの内周部に固定されたインペラハブとから構成されている。
[0017]
タービン6は流体室内でインペラに軸方向に対向して配置されている。タービン6は、主に、タービンシェル15と、そのインペラ側の面に固定された複数のタービンブレード16と、タービンシェル15の内周縁に固定されたタービンハブ17とから構成されている。タービンハブ17はフランジ部17aとボス部17bとから構成されており、タービンシェル15とタービンハブ17とは、タービンハブ17のフランジ部17aおいて、複数のリベット18によって固定されている。
[0018]
また、タービンハブ17のボス部17bの内周面には、入力シャフト3に係合するスプラインが形成されている。これにより、タービンハブ17は入力シャフト3と一体回転するようになっている。
[ロックアップ装置の構造]
ロックアップ装置9は、タービン6とフロントカバー5との間の空間に配置されており、必要に応じて両者を機械的に連結するための機構である。このロックアップ装置9は、クラッチ及び弾性連結機構の機能を有し、主に、フロントカバー5の側方に配置されたクラッチ機構20と、クラッチ機構20とタービン6との間に配置されたドライブプレート21と、ドライブプレート21とタービン6との間に配置されたドリブンプレート22と、ドライブプレート21とドリブンプレート22とを円周方向に弾性的に連結する複数のトーションスプリング23とから構成されている。
[0019]
クラッチ機構20は、フロントカバー5とドライブプレート21との間でトルクの伝達及び遮断を行うための機構であり、クラッチ部25と、ピストン26とを有している。
クラッチ部25は、一端がフロントカバー5の側面に溶接固定されたケース30と、軸方向に交互に配置された複数の入力クラッチプレート31及び出力クラッチプレート32と、クラッチ出力部材33とを有している。
[0020]
ケース30は筒状に形成されており、円周方向に等間隔で複数の溝を有している。この溝はトランスミッション側から所定の長さで形成されている。クラッチプレート31,32はそれぞれ環状に形成されており、入力クラッチプレート31の外周にはケース30の溝に係合するラグが形成され、出力クラッチプレート32の内周にはスプライン歯等の複数の内歯が形成されている。これらのクラッチプレート31,32はケース30内で軸方向移動自在であり、ケース30に設けられたバックプレート34及び止め輪35により移動が規制されている。また、出力クラッチプレート32の両側面には摩擦フェーシングが貼り付けられている。クラッチ出力部材33は、外周円筒部33aと、外周円筒部33aの一端から内周側に延びる円板状側面部33bと、側面部33bの内周端部にエンジン側に延びるように設けられた内周円筒部33cとを有している。外周円筒部33aの外周面にはスプライン軸等の外歯が形成されており、この外歯に出力クラッチプレート32の内歯が噛み合っている。また、ハブフランジ17のフランジ部17aの外周端には、エンジン側に延びる筒状部17cが形成され、さらに筒状部17cの端部には外周側に延びる環状のストッパ部17dが形成されている。そして、クラッチ出力部材33の内周円筒部33cは、ハブフランジ17の筒状部17cに摺動自在に支持され、かつストッパ部17dによって軸方向の移動が規制されている。」

上記記載事項及び図示内容を総合し、技術常識を加味して、本願発明1の記載振りに則って整理すると、引用文献Aには、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「エンジンのクランクシャフト2に連結されるフロントカバー5とトルクコンバータ1のタービン6との空間に配置され、前記フロントカバー5からのトルクを前記タービン6に機械的に伝達するためのロックアップ装置9であって、
軸方向に移動自在なピストン26を有し、前記フロントカバー5からのトルクを伝達及び遮断するクラッチ部25と、
前記クラッチ部25からトルクが入力される1枚のドライブプレート21と、
前記ドライブプレート21と相対回転自在に配置され、前記タービン6に連結された1枚のドリブンプレート22と、
前記ドライブプレート21と前記ドリブンプレート22とを円周方向に弾性的に連結する複数のトーションスプリング23と、
前記ドライブプレート21及び前記ドリブンプレート22の軸方向の相対移動を規制するためのストッパ部17dと、
を備える、
トルクコンバータ1のロックアップ装置9。」

3 引用文献C
拒絶査定に引用された引用文献Cには、図面(特に[図1]-[図3]参照。)とともに次の事項が記載されている。

「[0018]
トルクコンバータ1は、エンジンで発生した動力をトランスミッションへ流体を介して伝達するための装置であり、フロントカバー2とインペラ3とタービン4とステータ8とロックアップ装置9とを備えている。
[0019]
フロントカバー2にはエンジンから動力が入力される。インペラ3はフロントカバー2に固定されている。フロントカバー2とインペラ3とにより潤滑油で満たされた流体室が形成されている。
[0020]
流体室にはタービン4が設けられている。タービン4はトランスミッションの入力シャフトに連結されており、タービンシェル43と、タービンシェル43に固定された複数のタービンブレード42と、タービンシェル43に複数のリベット44により固定されたタービンハブ41とを有している。タービンハブ41は入力シャフトに連結されている。
[0021]
タービン4とインペラ3との間には、ステータ8が設けられている。タービン4とフロントカバー2との間にはロックアップ装置9が配置されている。
[0022]
<ロックアップ装置の構成>
図2?図4を用いてロックアップ装置9について説明する。図2はロックアップ装置9の断面概略図である。図3はロックアップ装置9の平面概略図である。図4はダンパー機構7の捩り特性線図である。
[0023]
ロックアップ装置9は、フロントカバー2とタービン4とを機械的に連結するための装置であり、ピストン5と、ドライブプレート6(入力部材の一例)と、ダンパー機構7と、を有している。
[0024]
ピストン5は、フロントカバー2と摩擦連結可能に設けられており、タービンハブ41により軸方向に移動可能に支持されている。ピストン5は、ピストン本体51と、ピストン本体51の外周部に固定された摩擦部材54と、ピストン本体51の外周部から軸方向に延びる筒状部53と、を有している。
[0025]
ドライブプレート6は、ダンパー機構7に動力を伝達するための部材であり、ピストン5のピストン本体51に固定されている。具体的には、ドライブプレート6は、環状の固定部61と、複数の爪部62と、を有している、固定部61はリベット55によりピストン本体51に固定されている。爪部62は、固定部61の外周部から軸方向トランスミッション側に延びており、ダンパー機構7の外側スプリングセット71(後述)と回転方向に当接可能である。
[0026]
ダンパー機構7は、図4に示すように2段階の捩り特性を有しており、複数の外側スプリングセット71(第1弾性部材の一例)と、複数の内側スプリングセット72(第2弾性部材の一例)と、中間部材73と、出力プレート74(出力部材の一例)と、を有している。
[0027]
外側スプリングセット71は、第1外側コイルスプリング71aと、第2外側コイルスプリング71bと、第1外側コイルスプリング71aの端部に装着されたスプリングシート79と、を有している。スプリングシート79はドライブプレート6の爪部62と回転方向に当接可能である。第2外側コイルスプリング71bは、第1外側コイルスプリング71aの内側に配置されており、第1外側コイルスプリング71aよりも回転方向の長さが短い。第1外側コイルスプリング71aは1段目および2段目で圧縮される。第2外側コイルスプリング71bは2段目でのみ圧縮される。
[0028]
内側スプリングセット72は、外側スプリングセット71の半径方向内側に配置されており、第1内側コイルスプリング72aと、第2内側コイルスプリング72bと、を有している。第1内側コイルスプリング72aは、第1内側コイルスプリング72aの内側に配置されており、第1内側コイルスプリング72aとほぼ同じ長さを有している。第1内側コイルスプリング72aおよび第2内側コイルスプリング72bは、1段目および2段目で圧縮される。
[0029]
外側スプリングセット71および内側スプリングセット72は、中間部材73により回転方向に弾性変形可能に保持されている。具体的には、中間部材73は、第1支持プレート75と、第2支持プレート76と、第1支持プレート75および第2支持プレート76を連結するリベット77と、を有している。
[0030]
第1支持プレート75は、外側スプリングセット71を保持する外側支持部75aと、内側スプリングセット72を保持する第1支持部75bとを有している。外側支持部75aの外周部は、ピストン5の筒状部53と概ね同じ半径方向位置に配置されている。より詳細には、外側支持部75aの最外周面75eは、筒状部53の内周面53aよりも半径方向外側に配置されている。外側支持部75aおよび外側スプリングセット71は、筒状部53よりも軸方向のトランスミッション側に配置されている。
[0031]
第2支持プレート76は、外側スプリングセット71の端部を支持する複数の第2支持部76aと、第1支持部75bとともに内側スプリングセット72を保持する複数の第3支持部76bと、半径方向内側に延びる複数の第1突出部76cと、を有している。
[0032]
第1支持プレート75と第2支持プレート76との軸方向間には、出力プレート74が相対回転可能に配置されている。出力プレート74は、リベット44によりタービンハブ
41に固定されており、本体部74aと、筒状部74bと、固定部74cと、第2突出部74dと、を有している。
[0033]
本体部74aは内側スプリングセット72と回転方向に当接可能である。筒状部74bは、軸方向に延びる筒状の部分であり、本体部74aの内周部からトランスミッション側へ延びている。筒状部74bは、第1支持プレート75の内周部75dと半径方向に当接可能である。筒状部74bにより中間部材73の半径方向の位置決めがされている。つまり、外側スプリングセット71、内側スプリングセット72および中間部材73は出力プレート74により支持されている。固定部74cは、筒状部74bの端部から半径方向内側に延びる部分であり、リベット44によりタービンハブ41に固定されている。」

上記記載事項及び図1-3の図示内容を総合し、技術常識を加味して、本願発明5の記載振りに則って整理すると、引用文献Cには、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「エンジン側の部材に連結されるフロントカバー2とトルクコンバータ1のタービン4との間に配置され、前記フロントカバー2からのトルクを前記タービン4に機械的に伝達するためのロックアップ装置9であって、
軸方向に移動自在なピストン本体51を有し、前記フロントカバー2からのトルクを伝達又は遮断するピストン5と、
前記ピストン5からトルクが入力される1枚の第2支持プレート76と、
前記第2支持プレート76と相対回転自在に軸方向に隣接して配置され、前記タービン4に連結された1枚の出力プレート74と、
前記第2支持プレート76と前記出力プレート74とを回転方向に弾性的に連結する複数の内側スプリングセット72と、
前記ピストン本体51に固定されたドライブプレート6と、
前記複数の内側スプリングセット72の外周側に配置され、前記ドライブプレート6と前記第2支持プレート76の外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外側スプリングセット71と、
前記第2支持プレート76及び前記出力プレート74の軸方向の相対移動を規制するための第1支持プレート75及びリベット77とを備え、第2支持プレート76と第1支持プレート75の軸方向間に出力プレート74が配置される、
トルクコンバータ1のロックアップ装置9。」


第6 対比、判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「エンジン」は、本願発明1の「エンジン」に相当し、以下同様に、「フロントカバー2」は「フロントカバー」に、「トルクコンバータ1」は「トルクコンバータ」に、「タービン4」は「タービン」に、「フロントカバー2とタービン4とを機械的に連結する」ことは「フロントカバーからのトルクを前記タービンに機械的に伝達する」ことに、「ロックアップ装置7」は「ロックアップ装置」に、「軸方向に移動する」ことは「軸方向に移動自在な」ことに、「ピストン30」は「ピストン」に、「バックプレート2b、第1摩擦プレート51,第2摩擦プレート52及びピストン30」は「クラッチ部」に、「リティーニングプレート37」は「第1プレート」及び「第1及び第2プレートの一方」に、「ドリブンプレート335」は「第2プレート」及び「第1及び第2プレートの他方」に、「スプリング33」は「弾性部材」に、「開口37c」は「スリット」に、「突出部335b」は「突起」に、「ワイヤリング360」は「規制部材」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「前記複数の突出部335bに引っ掛けられ、前記複数の突出部335bの前記開口37cを貫通したドリブン爪部335eと前記開口37cが形成されたリティーニングプレート37との間に挟み込まれる」状態の「ワイヤリング360」は、本願発明1の「前記複数の突起の前記スリットを貫通した部分に装着され、前記スリットが形成されたプレートの側面に当接可能」な状態の「規制部材」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは
「エンジン側の部材に連結されるフロントカバーとトルクコンバータのタービンとの間に配置され、前記フロントカバーからのトルクを前記タービンに機械的に伝達するためのロックアップ装置であって、
軸方向に移動自在なピストンを有し、前記フロントカバーからのトルクを伝達又は遮断するクラッチ部と、
前記クラッチ部からトルクが入力される1枚の第1プレートと、
前記第1プレートと相対回転自在に配置され、前記タービンに連結された1枚の第2プレートと、
前記第1プレートと前記第2プレートとを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材と、
前記第1プレート及び前記第2プレートの軸方向の相対移動を規制するための規制機構と、
を備え、
前記規制機構は、
前記第1及び第2プレートの一方に形成された複数のスリットと、
前記第1及び第2プレートの他方に軸方向に延びて形成され、それぞれ前記複数のスリットを貫通する複数の突起と、
前記複数の突起の前記スリットを貫通した部分に装着され、前記スリットが形成されたプレートの側面に当接可能な規制部材と、
を有する、トルクコンバータのロックアップ装置。」の点で一致し、次の相違点1で相違する。

[相違点1]
本願発明1は、「前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材」を備えるのに対し、引用発明は、このような構成を有しない点。

(2)相違点1についての判断
上記相違点1について検討する。

引用文献Aに記載された技術的事項の「ドライブプレート21」及び「ドリブンプレート22」は、本願発明1の「第1プレート」及び「第2プレート」に相当するが、引用文献Aに記載された技術的事項は、「ドライブプレート21」と「ドリブンプレート22」の軸方向間に配置される部材を有しない。

また、引用文献Cに記載された技術的事項の「第2支持プレート76」及び「出力プレート74」は、それぞれ本願発明1の「第1プレート」及び「第2プレート」に相当するが、引用文献Cに記載された技術的事項は、「第2支持プレート76」と「出力プレート74」が軸方向に隣接して配置される構造であるため、本願発明1の「中間部材」に相当する部材を有しない。

そうすると、引用文献A、Cに記載された技術的事項には、引用発明の「前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材」に相当する構成がない。

また、「前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材」を備えることが周知技術であったとも認められない。

本願発明1は、「前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材」を備えることにより、簡単な構成でかつ省スペースで、第1及び第2プレートを軸方向に位置決めできるとともに、相対回転自在に連結できるという効果(段落[0010]参照。)に加えて、「捩じり角度をより広くすることができる」(段落[0019]参照。)という格別顕著な効果を奏するものである。

そうすると、本願発明1は、当業者であっても、引用発明並びに引用文献A及びCに記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2-4について
本願発明1を含む本願発明2-4も、「前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材」を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用文献A及びCに記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明5について
(1)対比
本願発明5と引用発明とを対比すると、引用発明の「エンジン」は、本願発明5の「エンジン」に相当し、以下同様に、「フロントカバー2」は「フロントカバー」に、「トルクコンバータ1」は「トルクコンバータ」に、「タービン4」は「タービン」に、「フロントカバー2とタービン4とを機械的に連結する」ことは「フロントカバーからのトルクを前記タービンに機械的に伝達する」ことに、「ロックアップ装置7」は「ロックアップ装置」に、「軸方向に移動する」ことは「軸方向に移動自在な」ことに、「ピストン30」は「ピストン」に、「バックプレート2b、第1摩擦プレート51,第2摩擦プレート52及びピストン30」は「クラッチ部」に、「リティーニングプレート37」は「第1プレート」及び「第1及び第2プレートの一方」に、「ドリブンプレート335」は「第2プレート」及び「第1及び第2プレートの他方」に、「スプリング33」は「弾性部材」に、「開口37c」は「スリット」に、「突出部335b」は「突起」に、「ワイヤリング360」は「規制部材」に、それぞれ相当する。

また、引用発明の「前記複数の突出部335bに引っ掛けられ、前記複数の突出部335bの前記開口37cを貫通したドリブン爪部335eと前記開口37cが形成されたリティーニングプレート37との間に挟み込まれる」状態の「ワイヤリング360」は、本願発明5の「前記複数の突起の前記スリットを貫通した部分に装着され、前記スリットが形成されたプレートの側面に当接可能」な状態の「規制部材」に相当する。

そうすると、本願発明5と引用発明とは
「エンジン側の部材に連結されるフロントカバーとトルクコンバータのタービンとの間に配置され、前記フロントカバーからのトルクを前記タービンに機械的に伝達するためのロックアップ装置であって、
軸方向に移動自在なピストンを有し、前記フロントカバーからのトルクを伝達又は遮断するクラッチ部と、
前記クラッチ部からトルクが入力される1枚の第1プレートと、
前記第1プレートと相対回転自在に配置され、前記タービンに連結された1枚の第2プレートと、
前記第1プレートと前記第2プレートとを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材と、
前記第1プレート及び前記第2プレートの軸方向の相対移動を規制するための規制機構と、
を備え、
前記規制機構は、
前記第1及び第2プレートの一方に形成された複数のスリットと、
前記第1及び第2プレートの他方に軸方向に延びて形成され、それぞれ前記複数のスリットを貫通する複数の突起と、
前記複数の突起の前記スリットを貫通した部分に装着され、前記スリットが形成されたプレートの側面に当接可能な規制部材と、
を有する、トルクコンバータのロックアップ装置。」の点で一致し、次の相違点2で相違する。

[相違点2]
本願発明5は「前記ピストンに固定された入力プレートと、前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材」を備えるのに対し、引用発明は、このような構成を備えない点。

(2)相違点2についての判断
上記相違点2について検討する。

引用文献Aに記載された技術的事項の「ドライブプレート21」及び「ドリブンプレート22」は、本願発明5の「第1プレート」及び「第2プレート」に相当するが、引用文献Aの「ドライブプレート21」はクラッチ出力部材33に結合される部材であるため、引用文献Aに記載された技術的事項は、本願発明5の「入力プレート」に相当する構成を有しない。


引用文献Cに記載された技術的事項の「第2支持プレート76」、「出力プレート74」、「ドライブプレート6」及び「外側スプリングセット71」は、それぞれ本願発明5の 「第1プレート」、「第2プレート」、「入力プレート」及び「外周側弾性部材」に相当するから、本願発明5と引用文献Cに記載された技術的事項とは、「前記ピストンに固定された入力プレートと、前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材」を備える点で一致する。

しかしながら、引用発明の「リティーニングプレート37」は、ピストン本体36に固定され、ピストン30からトルクが入力されるものであるのに対して、引用文献Cに記載された技術的事項においては、ピストン本体51に固定された「ドライブプレート6」から「外側スプリングセット71」を介して「第2支持プレート76」にトルクを入力するものである。
そして、引用発明の「リティーニングプレート37」を、引用文献Cに記載された技術的事項の「第2支持プレート76」「外側スプリングセット71」及び「ドライブプレート6」の3つの部材に振り分ける動機付けはないから、引用発明に引用文献Cに記載された技術的事項を適用することは容易といえない。

また、引用文献Cに記載された技術的事項は、「前記第2支持プレート76及び前記出力プレート74の軸方向の相対移動を規制するための第1支持プレート75及びリベット77とを備え、第2支持プレート76と第1支持プレート75の軸方向間に出力プレート74が配置される」構成であるため、引用発明に引用文献Cに記載された技術的事項を適用した場合、「前記第2支持プレート76及び前記出力プレート74」の軸方向の相対移動を規制する「第1支持プレート75及びリベット77」が追加されるため、引用発明が有する「前記リティーニングプレート37及び前記ドリブンプレート335」の軸方向の相対移動を規制するための「開口37c」「突出部335b」及び「ワイヤリング360」からなる規制機構と、構造上の整合性がとれなくなる。

さらに、「前記ピストンに固定された入力プレートと、前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材」を備えることが周知技術であったとも認められない。

本願発明5は、簡単な構成でかつ省スペースで、第1及び第2プレートを軸方向に位置決めできるという効果(段落[0010]参照。)に加えて、「前記ピストンに固定された入力プレートと、前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材」を備えることにより、「捩り特性の多段化が容易になる」(段落[0023]参照。)という格別顕著な効果を奏するものである。

そうすると、本願発明5は、当業者であっても、引用発明並びに引用文献A及びCに記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明6について
本願発明5を含む本願発明6も、「前記ピストンに固定された入力プレートと、前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材と、」を備えるものであるから、本願発明5と同じ理由により、当業者であっても、引用発明並びに引用文献A及びCに記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
平成29年12月1日の手続補正により、請求項1-4は「前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材」を備えるものとなり、また、請求項5-6は「前記ピストンに固定された入力プレートと、前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材」を備えるものとなった。
これら「前記第1プレートと前記第2プレートとの軸方向間に前記両プレートと相対回転自在に配置され、前記複数の弾性部材のうちの少なくとも2つの弾性部材を直列に作用させるための中間部材」及び「前記ピストンに固定された入力プレートと、前記複数の弾性部材の外周側に配置され、前記入力プレートと前記第1プレートの外周部とを回転方向に弾性的に連結する複数の外周側弾性部材」は、原査定における引用文献A-Cには記載されておらず、本願出願前における周知技術でもないので、本願発明1-6は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Cに基いて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由についての判断

(1)特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項について
上記第6の1及び2のとおりであるから、当審での請求項1、2及び5に係る発明は引用文献1に記載された発明であるとした点及び請求項1-3及び5に係る発明は引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明することができたとした点は、平成29年12月1日の手続補正により解消した。

(2)特許法第36条第6項第2号について
平成29年12月1日の手続補正により、「前記第1プレーの外周部」の「第1プレー」との記載は、「第1プレート」と正されたため、誤記についての拒絶理由は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、本願発明1-6は、当業者が引用発明及び引用文献A、Cに記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-01-22 
出願番号 特願2012-201297(P2012-201297)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F16H)
P 1 8・ 113- WY (F16H)
P 1 8・ 537- WY (F16H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 日下部 由泰  
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 小関 峰夫
内田 博之
発明の名称 トルクコンバータのロックアップ装置  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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