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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1336731
審判番号 不服2014-26368  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-24 
確定日 2018-01-29 
事件の表示 特願2008-538426「有機物質に由来する揮発性有機化合物の吸着」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 5月10日国際公開、WO2007/052074、平成21年 4月 2日国内公表、特表2009-513344〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成18年10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:平成17年11月 1日、英国)を国際出願日とする出願であって、原審にて平成26年 8月21日付けの拒絶査定がされ、同年12月24日にこの査定を不服とする本件審判の請求がされたものであり、これに対し、当審にて平成28年 1月13日付けの拒絶理由を通知したところ、同年 7月15日付けの意見書の提出と共に手続補正がされたものである。

第2.本願発明の認定

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年 7月15日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。

「パラジウムドーピングされた水素-ZSM-5の使用であって、
有機物質に由来する揮発性有機化合物(VOC)を吸着するものであり、
前記水素-ZSM-5のSi:Al比が22:1?28:1であり、
前記VOCが、-10℃?30℃の温度で吸着されてなる、使用。」


第3.当審通知の拒絶理由

当審にて通知した拒絶理由の一つは、
特開平9-249824号公報(以下、「引用例」という。)
を引用し、
「本願発明は、その優先権主張の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先権主張の基礎とされた先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」
というものである。

第4.引用例の記載

【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の具体的な実施形態を図面を参照しながら説明する。疎水性合成ゼオライトであるH型ZSM5を用いてシリカ/アルミナ比が56、92、430となるように粉を作成し、この粉4gについて27リットルの密閉ボックス内で清浄空気をパージした後、蒸留水を蒸発させて95%RH以上の高湿度雰囲気とし、中にアンモニアを蒸発させて100ppmの初期濃度とし、通風して粉を循環させ、濃度の変化をガスセンサーにて測定することによりこれらの吸着性能を測定した。図1がその結果を示すグラフである。シリカ/アルミナ比が高いほど疎水性が向上するとされているが、430では逆に吸着性能が低下しており、シリカ/アルミナ比は92以下で良い。
【0016】さらに、シリカ/アルミナ比が90の合成ゼオライトH型ZSM5を用い、この中心イオンの水素イオンを粉の重量比で1%を白金、パラジウム、銅、銀等のイオンでイオン交換させた。これらの各種臭気成分に対する吸着性能を見るために同上の方法により乾燥雰囲気のなかで各種ガスを発生させて、吸着性能を測定した。図2はアンモニア(初期濃度170ppm)、図3はトリメチルアミン(初期濃度90ppm)、図4は硫化水素、図5はエチルメルカプタン(初期濃度80ppm)、図6は硫化メチル(初期濃度100ppm)、図7は酢酸(初期濃度140ppm)、図8はアセトアルデヒド(初期濃度65ppm)、図9はエチレン(初期濃度1400ppm)に対するものである。なお、各図において、ブランクとは、密閉ボックス内に吸着剤を入れないときのガスセンサー値である。
【0017】これらのグラフより、銅イオン交換ZSM5、パラジウムイオン交換ZSM5は大抵の臭気に対して吸着性能が優れていることがわかる。なお、イオン交換率を重量比で1%以上にすれば、吸着性能がいずれの臭気に対しても活性炭と同等またはこれを凌賀するようになる。図5において、銅イオン交換ZSM5の重量比を0.5%から1%にすると、吸着性能が向上して活性炭とほぼ同等になることが判る。

【図1】

【図9】

第5.引用発明の認定

引用例の【0016】【図9】には、シリカ/アルミナ比が90の合成ゼオライトH型ZSM5の水素イオンを白金、パラジウム、銅、銀等でイオン交換させた吸着剤を用いエチレンの吸着性能を測定したこと、【0017】には、当該測定の結果、パラジウムイオン交換ZSM5の吸着性能が優れていたことが記載されている。
これによると、引用例には、本願発明の記載に則して整理すると、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「パラジウムでイオン交換されたH型ZSM5の使用方法であって、
エチレンを吸着するものであり、、
前記H型ZSM5のシリカ/アルミナ比が90である使用方法。」

第6.発明の対比

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「パラジウムでイオン交換されたH型ZSM5」「エチレン」は、それぞれ本願発明の「パラジウムドーピングされた水素-ZSM-5」「揮発性有機化合物(VOC)」に相当するから、本願発明は、
「パラジウムドーピングされた水素-ZSM-5の使用であって、
揮発性有機化合物(VOC)を吸着するものである使用。」
の点では、引用発明と一致し、次の点で両者は相違する。

相違点1:本願発明の揮発性有機化合物(VOC)が「有機物質に由来する」ものであるのに対し、引用発明のエチレンは由来が不明である点。

相違点2:本願発明の水素-ZSM-5の「Si:Al比が22:1?28:1」であるのに対し、引用発明のH型ZSM5のシリカ/アルミナ比が90(Si:Al比が45:1)である点。

相違点3:本願発明では、「VOCが、-10℃?30℃の温度で吸着されてなる」のに対し、引用発明では、エチレンの吸着時の温度が不明である点。

第7.相違点の判断

相違点1?3について検討する。

相違点1について
本願明細書【0002】には、有機物質に由来するVOCとして、熟成を引き起こす植物ホルモンであるエチレンが挙げられているが、当該エチレンを、青果物等の鮮度保持のために吸着除去することは、当業者に周知である(要すれば、特開平2-198629号公報、特開平3-280827号公報、特開2001-212418号公報等参照)。
してみると、引用発明において、エチレンを青果物等の有機物質に由来するものにすることは、周知技術から当業者が容易に想到し得た用途限定といえる。

相違点2について
引用例の【0015】には、引用発明で使用しているH型ZSM5のシリカ/アルミナ比について、92以下が良いことが記載され、【図1】には、該比が56と92の場合の吸着性能が略同等であることが記載されている。
してみると、引用発明において、シリカ/アルミナ比を56(Si:Al比が28:1)に変更することは、これらの記載から当業者が容易になし得た設計変更といえる。

相違点3について
引用例の【0015】【0016】には、引用発明による吸着試験を、27リットルの密閉ボックス内にて乾燥雰囲気のなかで実施したことは記載されているが、当該雰囲気の温度を制御したことは記載されていない。
してみると、引用発明における吸着時の温度が、温度制御を要する-10℃未満の低温や30℃を超える高温であったとは認められない。
すなわち、相違点3は実質的な差異ではない。

そして、当業者にとって、引用発明において相違点1,2を共に解消することは格別困難なことではないし、本願発明が相違点1,2によって予期し得ない効果を奏するわけでもない。
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は意見書で、本願発明は、Si:Al比が23:1付近において、優れた効果を奏する旨主張しているが、本願明細書の【0048】及び【図3】の記載によれば、優れた効果を奏するのは、SiO_(2):Al_(2)O_(3)比が23:1付近と認められる。
したがって、Si:Al比を22:1?28:1(SiO_(2):Al_(2)O_(3)比が46:1?56:1)に特定する本願発明の進歩性を、当該効果を参酌して判断することはできない。

第8.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、当審拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-09-20 
結審通知日 2016-09-23 
審決日 2016-10-11 
出願番号 特願2008-538426(P2008-538426)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三崎 仁平塚 政宏小川 知宏  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 大橋 賢一
中澤 登
発明の名称 有機物質に由来する揮発性有機化合物の吸着  
代理人 浅野 真理  
代理人 中村 行孝  
代理人 前川 英明  
代理人 勝沼 宏仁  

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