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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02C |
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管理番号 | 1336736 |
審判番号 | 不服2017-4286 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-03-27 |
確定日 | 2018-02-13 |
事件の表示 | 特願2012-266382「眼鏡レンズ設計方法および眼鏡レンズ製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年6月19日出願公開,特開2014-112154,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続の経緯 特願2012-266382号(以下「本件出願」という。)は,平成24年12月5日の特許出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成28年 6月21日付け:拒絶理由の通知 平成28年 8月26日 :意見書の提出 平成28年 8月26日 :手続補正書の提出 (この手続補正書による補正を,以下「本件補正」という。) 平成29年 1月 5日付け:拒絶の査定(以下「原査定」という。) 平成29年 3月27日 :拒絶査定不服審判の請求 2 本願発明 本件出願の請求項1-請求項6に係る発明(以下「本願発明1」-「本願発明6」という。)は,本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1-請求項6に記載された事項により特定されるとおりの,以下のものである。 「【請求項1】 遠方視状態である眼鏡装用者を撮像手段により撮像する遠方視画像撮像工程と, 近方視状態である前記眼鏡装用者を撮像手段により撮像する近方視画像撮像工程と, 前記遠方視画像撮像工程により撮像された遠方視画像に基づいて,遠方視状態における眼の位置に関連する遠方視パラメータを計測する遠方視パラメータ計測工程と, 前記近方視画像撮像工程により撮像された近方視画像に基づいて,近方視状態における前記眼鏡装用者から前記眼鏡装用者の注視点までの距離である近方作業距離を計測する近方作業距離計測工程と, 前記遠方視パラメータ計測工程により計測した遠方視パラメータと,前記近方作業距離計測工程により計測した近方作業距離と,前記眼鏡装用者の眼鏡処方値とを用いた光線追跡計算によって,眼鏡レンズを設計する設計工程と, を有し, 前記設計工程では, 前記遠方視パラメータに基づいて,前記光線追跡計算によって,近方視状態での瞳孔間距離と,近方視状態における前記眼鏡レンズに対する瞳孔の高さである近方視フィッティング高さとが算出され, 前記光線追跡計算で算出されたパラメータに基づいて,前記眼鏡レンズにおける近用のアイポイントが設定される眼鏡レンズ設計方法。 【請求項2】 請求項1に記載の眼鏡レンズ設計方法において, 前記設計工程では,前記光線追跡計算によって,前記眼鏡装用者の左右の視線がそれぞれ左右の眼鏡レンズを透過する透過位置を算出し,前記左右の眼鏡レンズにおいて,前記透過位置でのレンズ特性に類似性を持たせるように設計する眼鏡レンズ設計方法。 【請求項3】 請求項1または2に記載の眼鏡レンズ設計方法において, 前記遠方視パラメータは,遠方視状態での瞳孔間距離,片眼瞳孔間距離,および瞳孔の高さの少なくとも1つである眼鏡レンズ設計方法。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ設計方法において, 前記眼鏡処方値は,球面度数,乱視度数,乱視軸度および加入度の少なくとも1つである眼鏡レンズ設計方法。 【請求項5】 請求項1?4のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ設計方法において, 前記眼鏡装用者は,前記遠方視画像撮像工程および前記近方視画像撮像工程において撮像される際,度数が入っていない眼鏡を装用した状態である眼鏡レンズ設計方法。 【請求項6】 請求項1?5のいずれか一項に記載の眼鏡レンズ設計方法により設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造方法。」 3 原査定の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本願発明1-本願発明6は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1:特開2007-93636号公報 引用文献2:特開2001-145613号公報(周知技術を示す文献) 引用文献3:国際公開第2010/090144号 第2 当合議体の判断 1 引用文献1の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載 本件出願の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には,以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 眼鏡装用者に適した眼鏡を作製するために必要な眼鏡装用パラメータを測定する眼鏡装用パラメータ測定装置において, 眼鏡フレームを装用した眼鏡装用者を遠方視状態または近方視状態に設定し,この近方視状態では,眼球回旋角と近方視目的距離の少なくとも一方を任意に変更可能とする固視手段と,この固視手段により遠方視状態または近方視状態に設定された眼鏡装用者を撮影装置により撮影し,その画像を取り込む画像入力手段と,この画像入力手段によって得られた撮像画像に基づき上記眼鏡装用パラメータを計測し演算する計測演算手段とを有し, 上記計測演算手段が計測し演算する眼鏡装用パラメータは,遠方視瞳孔間距離,近方視瞳孔間距離,遠方視眼鏡装用距離,近方視眼鏡装用距離,眼鏡フレーム装用角度,眼球回旋角,近方視目的距離の少なくとも1つであり, 更に,上記計測演算手段により得られた眼鏡装用パラメータと,レンズの屈折率,眼鏡レンズ形状データ,眼鏡レンズ処方データ,レイアウトマークデータのうちのいずれかを含む眼鏡レンズのレンズ情報と,玉型形状データ,玉型中心間距離,フレームあおり角のうちのいずれかを含む眼鏡フレームのフレーム情報とを用いて,上記眼鏡レンズの眼鏡フレームに対するレイアウト情報を決定するレイアウト手段を有することを特徴とする眼鏡装用パラメータ測定装置。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は,眼鏡フレームを装用した眼鏡装用者の画像を撮像し,その画像から眼鏡を作製するために必要とされる様々な眼鏡装用パラメータを測定し,眼鏡レンズの眼鏡フレームに対するレイアウト情報を決定等する眼鏡装用パラメータ測定装置,眼鏡レンズ及び眼鏡に関する。 【背景技術】 【0002】 眼鏡の作製では,眼鏡処方値と眼鏡フレームの選択と眼鏡装用者に関連した様々な眼鏡装用パラメータとに応じて光学設計を行い,その設計値に基づいて製造された眼鏡レンズを眼鏡フレームの形状に合わせて枠入れするように切削することが必要である。眼鏡装用者に関連した眼鏡装用パラメータとしては,遠方視瞳孔間距離,近方視瞳孔間距離,遠方視装用距離(頂点間距離),眼鏡フレーム装用角度等である。 …(省略)… 【発明が解決しようとする課題】 …(省略)… 【0008】 本発明の目的は,上述の事情を考慮してなされたものであり,眼鏡の作製に必要な眼鏡装用パラメータを高精度に測定し,この眼鏡装用パラメータの計測値,眼鏡レンズのレンズ情報及び眼鏡フレームのフレーム情報を用いて,眼鏡レンズの眼鏡フレームに対するレイアウト情報を得ることで,眼鏡装用者個々人に最適な専用の眼鏡レンズまたは眼鏡を製作できる眼鏡装用パラメータ測定装置を提供することにある。」 ウ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0027】 以下,本発明を実施するための最良の形態を,図面に基づき説明する。 図1は,本発明に係る眼鏡装用パラメータ測定装置の一実施の形態と他の機器との接続関係を示す図であって,眼鏡店または眼科医院等における通信回線図である。図2は,図1における眼鏡装用パラメータ測定装置を,一部を破断して示す側面図である。図3は,図2のIII矢視図である。」 (当合議体注:図1-図3は以下の図である。) 【図1】 【図2】 【図3】 エ 「【0028】 図1に示す眼鏡装用パラメータ測定装置30は,眼鏡装用者に適した眼鏡を作製するための眼鏡装用パラメータを測定し,眼鏡レンズの眼鏡フレームに対するレイアウト情報を決定し,レンズ加工情報を算出するものであり,測定装置本体31と装置制御用端末32とを有して構成される。ここで,上記眼鏡装用パラメータは,遠方視瞳孔間距離,近方視瞳孔間距離,遠方視眼鏡装用距離,近方視眼鏡装用距離,眼鏡フレーム装用角度,眼球回旋角,近方視目的距離の少なくとも1つである。 …(省略)… 【0032】 さて,前記測定装置本体31は,図2に示すように,湾曲形状の一対の軌道フレーム36を備えたフレームユニット33と,軌道フレーム36上を移動する可動ユニット34と,眼鏡装用者である被検者10の顔を位置決めする位置決めユニット35とを有して構成される。 【0033】 フレームユニット33は,基台37に支柱フレーム38が立設され,上記軌道フレーム36が基台37に立設されると共に支柱フレーム38に立て掛けられて支持される。各軌道フレーム36の軌道面にラックレール39が敷設されている。 上記基台37には,図3にも示すように,位置決めユニット35の位置決めメインフレーム40及び位置決めサブフレーム41が立設される。位置決めメインフレーム40の上部に,被検者10の顎を載せる顎受け台42と,被検者10の額を当てる額当て部43が設けられる。額当て部43は,額当て支柱44を介して顎受け台42に支持され,この額当て支柱44に,被検者10の眼の高さを一致させるための基準マーク45が設けられている。 【0034】 ところで,前記可動ユニット34のユニットフレーム46には,図4及び図5に示すように,同期回転可能な一対の駆動ギア47が回転自在に配設され,この駆動ギア47の図における上方に,同じく一対の駆動ギア48が回転自在に配設される。これらの駆動ギア47及び48が軌道フレーム36のラックレール39に噛み合っている。また,ユニットフレーム46には,駆動ギア47と48の反対側にガイドローラ49が回転自在に軸支され,これらのガイドローラ49が軌道フレーム36の背面レール部50に嵌合されている。」 (当合議体注:図4及び図5は以下の図である。) 【図4】 【図5】 オ 「【0035】 ユニットフレーム46には更に回旋用モータ51が設置され,この回旋用モータ51のモータシャフトにウォーム52が回転一体に取り付けられる。このウォーム52は,一対の駆動ギア47を連結するシャフトに設けられたウォームホイール53に噛み合い,回旋用モータ51の駆動力がウォーム52及びウォームホイール53を介して駆動ギア47へ伝達され,更にタイミングベルト54を介して駆動ギヤ48へ伝達される。駆動ギヤ47及び48が軌道フレーム36のラックレール39に噛み合って回旋用モータ51により回転駆動され,このときガイドローラ49が軌道フレーム36の背面レール部50を転動することで,可動ユニット34は軌道フレーム36の湾曲形状に沿って回旋移動する。図2に示すように,この可動ユニット34の回旋移動の中心が,位置決めユニット35により位置決めされた被検者10の眼球の回旋点12となるように設計されている。 【0036】 図4及び図5に示すように,可動ユニット34のユニットフレーム46には駆動ねじ55が,その軸回りに回転自在に立設される。この駆動ねじ55に,発光ダイオード(LED)などの光源56を支持する光源支持部57が螺合される。上記ユニットフレーム46には光源用モータ58が設置され,この光源用モータ58の駆動力は,タイミングベルト59を経て駆動ねじ55へ伝達され,当該駆動ねじ55を回転させる。これにより,光源支持部57を介して光源56が,後述のレンズ60に対し接近または離反する方向に移動可能に設けられる。 【0037】 上記レンズ60は可動ユニット34のユニットフレーム46に設置され,このレンズ60の光軸上に上記光源56が配置される。これらのレンズ60及び光源56を有する可動ユニット34が,眼鏡フレームを装用した眼鏡装用者を遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設置する固視手段を構成する。これらの遠方視状態と近方視状態のそれぞれの測定位置の設定は,光源56をレンズ60に対し接近または離反して移動させると同時に,可動ユニット34を軌道フレーム36の湾曲形状に沿って回旋移動させることにより実現される。 【0038】 つまり,図6に示すように,光源56とレンズ60との間隔を任意の距離とすることにより,眼鏡装用者である被検者10に遠方視状態と近方視状態の光源56の像を固視灯(遠方視目的物,近方視目的物)として観察させる。と同時に,可動ユニット34を軌道フレーム36の湾曲形状に沿って回旋移動させることにより,遠方視状態測定位置(図6(A))では,被検者10における被検眼11の略水平方向の遠方視軸17上に光源56の像を発生させ,近方視状態測定位置(図6(B))では,被検者10における被検眼11の遠方視軸17から下方へ所定の眼球回旋角θだけ回旋させた近方視軸18上に,光源56の像を発生させる。これらにより,遠方視状態と近方視状態のそれぞれの測定位置の設定が実現される。 【0039】 特に,図6(B)に示す近方視状態測定位置では,可動ユニット34が軌道フレーム36の湾曲形状に沿って任意の位置まで回旋移動することで眼球回旋角θが任意に変更可能とされ,更に,光源56とレンズ60との距離が調整されることで近方視目的距離NLが任意に変更可能とされる。尚,これらの眼球回旋角θと近方視目的距離NLはいずれか一方が変更可能に構成されてもよい。また,光源56は,本実施形態では,レンズ60に対し接離されて遠方視用と近方視用とで兼用されているが,遠方視用の光源と近方視用の光源とを別々に設けてもよい。」 (当合議体注:図6は以下の図である。) カ 「【0040】 図4及び図5に示すように,可動ユニット34のユニットフレーム46には,レンズ60の図における下方に,ビームスプリッタとして機能するハーフミラー61が配置される。このハーフミラー61は,光源56から発した光を反射して位置決めユニット35側へ向かわせるべく45°に傾斜して配置される。そして,ユニットフレーム46においてハーフミラー61の後方に,撮影装置としての正面用撮像カメラ62が設置される。この正面用撮像カメラ62は,撮像レンズを有する例えばCCDカメラなどである。 【0041】 前記可動ユニット34は,図2に示すように,被検者10の眼球(被検眼11)の回旋点12を中心に軌道フレーム36の湾曲形状に沿って回旋移動するとき,この可動ユニット34に設置された正面用撮像カメラ62を同様に回旋移動させる。このとき,正面用撮像カメラ62の光軸は,図6に示すように,被検者10の遠方視軸17または近方視軸18に常時一致した状態に保持される。従って,この正面用撮像カメラ62は,可動ユニット34により遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設置された被検者10の顔の正面を,ハーフミラー61を通して撮影してその画像を取り込む。尚,上記ハーフミラー61の透過と反射の比率は,7:3を用いているが,特に定めるものではない。また,このハーフミラー61と位置決めユニット35に位置決められる被検者10の眼との距離は,約70cmに設定されている。 【0042】 図2及び図3に示すように,位置決めユニット35の位置決めサブフレーム41に側面用撮像カメラ63,ミラー64及び65が設置される。側面用撮像カメラ63は,顎受け台42の図3における左下方に設置され,撮像レンズを有する例えばCCDカメラである。ミラー64はこの側面用撮像カメラ63の近傍に,ミラー65は額当て部43の近傍に,それぞれ45°に傾斜して設置される。可動ユニット34により遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設定された被検者10の顔の側面は,図7に示すように,ミラー65,ミラー64に順次反射されて側面用撮像カメラ63により撮影され,その画像が取り込まれる。上記正面用撮像カメラ62,ハーフミラー61,側面用撮像カメラ63,ミラー64及び65が,撮像入力手段として機能する。 …(省略)… 【0049】 この装置制御用端末32が実行する眼鏡装用パラメータ測定の手順を,図20に示すフローチャートを参照してまず概略して説明し,後に詳細に説明する。」 (当合議体注:図20は以下の図である。) キ 「【0050】 まず,眼鏡装用パラメータ測定装置30に電源を投入して装置制御用端末32を起動させ(S1),正面用撮像カメラ62及び側面用撮像カメラ63による撮像画像の倍率補正のためのキャリブレーションを,必要に応じて実行する(S2)。次に,外部から顧客個人データ,レンズ処方データ,眼鏡フレームデータを入力し,近方視目的距離NLと眼球回旋角θを任意に入力する(S3)。 【0051】 その後,眼鏡装用者である被検者10の眼を位置決めユニット35の基準マーク45(図3)に一致させて,被検者10の眼の上下方向の位置合わせを実行する(S4)。この状態で,約5メートル前方に固視灯を点灯させ,被検者10の遠方視状態における顔の正面及び側面の画像を撮影する(S5)。 【0052】 次に,固視灯を点灯した状態で,近方視目的距離NLと眼球回旋角θを任意に変更させ,被検者10に適した近方視状態を確認させながら,これらの近方視目的距離NL及び眼球回旋角θを決定する(S6)。この状態で,被検者10の近方視状態における顔の正面及び側面の画像を撮影する(S7)。 【0053】 撮像された遠方視及び近方視の画像と,外部より入力されたデータに基づき,眼鏡装用パラメータ(遠方視瞳孔間距離FPD,近方視瞳孔間距離NPD,遠方視眼鏡装用距離A,近方視眼鏡装用距離B,眼鏡フレーム装用角度α)を計測し演算する(S8)。そして,これらの測定された眼鏡装用パラメータを,撮像画像と共に装置制御用端末32内に保存し,眼鏡店端末70を介して顧客データベース71に保存する(S9)。 【0054】 この眼鏡装用パラメータ測定装置30による上述の動作S1?S9の後,眼鏡店端末70は,顧客データベース71に保存された眼鏡作製のために必要な眼鏡装用者個々人のデータ(顧客個人データX,眼鏡レンズ処方データY,眼鏡フレームデータZ,眼鏡装用パラメータV等)を眼鏡製造業者の工場サーバー(不図示)へ送信して,眼鏡レンズまたは眼鏡を発注する(S10)。上述の各動作を更に詳説する。 …(省略)… 【0064】 [近方視状態の撮影(S6,S7)] 遠方視状態の正面及び側面の顔画像撮像後,装置制御用端末32の撮影メニュー画面(図11)で近方視ボタン69を選択すると,可動ユニット34が図6(A)の遠方視状態測定位置から図6(B)の近方視状態測定位置まで,被検眼11の回旋点12を中心に軌道フレーム36に沿って回旋移動すると共に,可動ユニット34の光源56がレンズ60の光軸上を移動して,本実施形態では被検者10の前方30?50cmの間に空中像(実像)を形成させ,この像を固視灯として被検者10に観察させる。 【0065】 仮に,被検者10の近方視での眼球回旋角θ,近方視目的距離NLが分かっている場合で,データ入力画面(図10)を用いてそれらの数値が既に入力されている場合には,上記眼球回旋角θ,近方視目的距離NLに固視灯の空中像が形成されるように,固視灯である光源56を可動ユニット34により回旋移動させ,且つレンズ60の光軸上で移動させる自動制御を設けている。被検者10がこの固視灯を観察していることを図14に示す撮影画面(近方視)で確認すると共に被検者10の眼が図14中にある上下の基準線内に入っていることを確認した後,装置制御用端末32のモニターに表示されている撮影ボタン77を操作して,正面用撮像カメラ62にて被検者10の近方視状態の正面顔画像を撮像する。 …(省略)… 【0066】 被検者10の近方視状態での眼球回旋角θ及び近方視目的距離NLが分かっていない場合には,図14の撮影画面(近方視)の「近方視距離」「近方視角度」の欄に任意の数値を入力し,セットボタン78を操作して,上記入力数値に適合する位置まで光源56を可動ユニット34により回旋移動させ,且つレンズ60の光軸上で移動させる。この状態から,眼球回旋角θ及び近方視目的距離NLを変更して被検者に適した近方視状態を確認させ,この近方視状態における眼球回旋角θ及び近方視目的距離NLを,求めるべき眼球回旋角θ及び近方視目的距離NLとして検出する。その後,上述の手順と同様にして撮影ボタン77を操作し,近方視状態の正面顔画像,側面顔画像を撮像カメラ62,63によりそれぞれ撮影する。 【0067】 例えば,一つの手法として近方視目的距離NLを固定し,光源56を可動ユニット34により回旋移動させて眼球回旋角θ(近方視角度)を変更し,眼鏡装用者に最適な眼鏡回旋角θを求める。その後,その眼鏡回旋角θを保持し,光源56をレンズ60の光軸上で移動させて近方視目的距離NLを変更し,最適な近方視目的距離NLを求める。この逆でも可能である。」 (当合議体注:図10及び図14は以下の図である。) 【図10】 【図14】 ク 「【0068】 [装用パラメータの計測・演算(S8)] このようにして取得した画像を用いて,眼鏡を作製するために必要とされる様々な眼鏡装用パラメータを計測し演算するには,装置制御用端末32のモニター上の操作メニュー画面(図12)で瞳孔間距離測定ボタン80A,装用角度・装用距離測定ボタン81を任意に選択し,それぞれの測定用プログラム(図9)を起動させる。 【0069】 瞳孔間距離測定ボタン80Aを選択すると,瞳孔間距離測定プログラムが起動すると同時に,図15及び図16(A)に示すように,遠方視状態の被検者10の正面顔を撮像した正面画像が装置制御用端末32のモニター上に表示される。この画像は,倍率補正(キャリブレーション)が実施されて上記モニター上に表示されている。そして,この遠方視状態の被検者10の正面画像上において,例えば以下のような検出方法で左眼82と右眼83の瞳孔中心位置を求め,この瞳孔中心の離間距離を遠方視瞳孔間距離FPDとする。」 (当合議体注:図15及び図16(A)は以下の図である。) 【図15】 【図16(A)】 ケ 「【0093】 次に,図20のステップ8において各種の眼鏡装用パラメータを計測し演算した後に,眼鏡レイアウトシミュレーション及びレンズ加工情報算出(図20のステップS11)を実行する場合について説明する。 …(省略)… 【0095】 この図29の画面には,フレーム形状105が表示されると共に,このフレーム形状105の玉型形状の横寸法AA,縦寸法BB及び玉型中心間距離BCLのそれぞれの値が表示され,更に,フレーム形状105のアンダーリム123と瞳孔中心97(または瞳孔中心96)との距離であるEPHの値が表示されている。また,この図29の画面には,眼鏡装用パラメータVとして遠方視瞳孔間距離FPD,左眼FPD及び右眼FPDのそれぞれの値が表示され,更に,近用視線が眼鏡レンズ13を通過する位置を表す近用アイポイント111が表示されている。この近用アイポイント111は,インセット量i(左眼,右眼),眼球回旋角θ,遠方視眼鏡装用距離bから算出されるものである。 【0096】 この図29の画面において,「レンズメーカー名」及び「レンズ商品名」の欄にレンズの種類を入力して眼鏡レンズ13を選択し,OKボタン112を操作すると,図30,図31に示すように,選択した所望の眼鏡レンズ13のレンズ画像113,120が図29の画像上に重ね合せて描画される。これらのレンズ画像113,120及び後述のレイアウトマークは,フレーム形状105の場合と同様に,フレームあおり角βや眼鏡フレーム装用角度αに応じて縦横比が変更して表示される。」 (当合議体注:図29及び図30は以下の図である。) 【図29】 【図30】 コ 「【0098】 図30の画像上で必要に応じて位置調整ボタン114を操作し,通常,左右のレンズ画像113を連動して,例えば0.5mm(または0.1mm)ピッチで上下方向に移動させる。また,レンズ画像113の左右方向の移動は,同じく位置調整ボタン114を操作することで,通常,左右のレンズ画像113を連動して内寄せ方向または外寄せ方向に,例えば0.5mm(または0.1mm)ピッチで調整する。 …(省略)… 【0102】 このようにして,眼鏡レンズ13と眼鏡フレーム14との組合せの適否,つまり眼鏡レンズ13の眼鏡フレーム14に対するレイアウトの適否を確認して,眼鏡レンズ13を決定する。この眼鏡レンズ13の眼鏡フレーム14に対するレイアウトの適否とこの適否に基づく眼鏡レンズ13の決定,この決定された眼鏡レンズ13の遠用アイポイント90の位置,並びに距離を変更することで近用アイポイント111の位置が変更される遠方視眼鏡装用距離A,近方視眼鏡装用距離Bなどが,レイアウト手段としての装置制御用端末32によりレイアウト情報として決定される。 …(省略)… 【0109】 上述の眼鏡レイアウトシミュレーションによって得られたレイアウト情報と,このレイアウト情報から算出されたレンズ加工情報は,図20のステップS9と同様にして,眼鏡装用パラメータV等と共に装置制御用端末32及び顧客データベース71に保存される。そして,これらのレイアウト情報及びレンズ加工情報は,図20のステップS9と同様にして,眼鏡レンズ,眼鏡の発注時に,図示しない眼鏡製造業者の工場サーバーへ眼鏡装用パラメータVなどと共に送信されて,眼鏡レンズ,眼鏡が作製される。眼鏡レンズを店舗内等で加工する場合には,上記レイアウト情報及びレンズ加工情報をレンズ加工機へ転送して眼鏡レンズを加工し,眼鏡を作製する。 【0110】 以上のように構成されたことから,上記実施の形態によれば次の効果(1)?(9)を奏する。 (1)光源56及びレンズ60を備えた可動ユニット34(図2)が,眼鏡装用者である被検者10を遠方視状態または近方視状態に設定し,この近方視状態では,眼球回旋角θと近方視目的距離NLの少なくとも一方を任意に変更可能とし,この遠方視状態または近方視状態に設定された被検者10を正面用撮像カメラ62及び側面用撮像カメラ63により撮影し,この得られた撮像画像に基づき装置制御用端末32が眼鏡装用パラメータを計測し演算する。更に,この装置制御用端末32は,撮像画像上において移動可能に表示されて,被検者10の瞳孔中心位置を検出するための瞳孔カーソル92及び93,並びに被検者10の角膜頂点位置を検出するための角膜カーソル97を有する。これらのことから,遠方視と近方視の眼鏡装用パラメータを高精度に測定できる。この結果,眼鏡装用パラメータ測定装置30により高精度に測定された眼鏡装用パラメータの少なくとも一つを用いて,眼鏡装用者個々人に最適な専用の眼鏡レンズを光学設計でき,この眼鏡レンズを組み込んで,当該眼鏡装用者個々人に最適な専用の眼鏡を製造できる。 …(省略)… 【0112】 (3)レイアウト手段として機能する装置制御用端末32が,眼鏡装用パラメータVの計測値と眼鏡レンズデータWと眼鏡フレームデータZとを用いて,眼鏡レンズ13の眼鏡フレーム14に対するレイアウトが可能であるかのレイアウト情報を決定することから,眼鏡装用者個々人に最適な専用の眼鏡レンズを設計して眼鏡を作製することができる。」 (2) 引用発明 引用文献1には,眼鏡装用パラメータ測定装置30等(図2)により図20に示すフローチャートの手順により眼鏡装用パラメータを測定し,図30に示されるような眼鏡レイアウトシミュレーション等を行うことにより,眼鏡装用者個々人に最適な専用の眼鏡レンズを設計する方法(【0112】)として,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「 眼鏡装用パラメータ測定装置30に電源を投入して装置制御用端末32を起動させ(S1), 外部から顧客個人データ,レンズ処方データ,眼鏡フレームデータを入力し,近方視目的距離NLと眼球回旋角θを任意に入力し(S3), 被検者10の眼の上下方向の位置合わせを実行し(S4),この状態で,約5メートル前方に固視灯を点灯させ,被検者10の遠方視状態における顔の正面及び側面の画像を撮影し(S5), 固視灯を点灯した状態で,近方視目的距離NLと眼球回旋角θを任意に変更させ,被検者10に適した近方視状態を確認させながら,これらの近方視目的距離NL及び眼球回旋角θを決定し(S6),この状態で,被検者10の近方視状態における顔の正面及び側面の画像を撮影し(S7), 撮像された遠方視及び近方視の画像と,外部より入力されたデータに基づき,眼鏡装用パラメータ(遠方視瞳孔間距離FPD,近方視瞳孔間距離NPD,遠方視眼鏡装用距離A,近方視眼鏡装用距離B,眼鏡フレーム装用角度α)を計測し演算し(S8), 眼鏡レイアウトシミュレーション及びレンズ加工情報算出を実行し(S11),近用アイポイント111は,インセット量i(左眼,右眼),眼球回旋角θ,遠方視眼鏡装用距離bから算出され, 測定された眼鏡装用パラメータ,撮像画像,眼鏡レイアウトシミュレーションによって得られたレイアウト情報及びレイアウト情報から算出されたレンズ加工情報を顧客データベース71に保存する(S9), 眼鏡装用者個々人に最適な専用の眼鏡レンズを設計する方法であって, 眼鏡装用パラメータ測定装置30は,測定装置本体31と装置制御用端末32とを有して構成され, 測定装置本体31は,湾曲形状の一対の軌道フレーム36を備えたフレームユニット33と,軌道フレーム36上を移動する可動ユニット34と,眼鏡装用者である被検者10の顔を位置決めする位置決めユニット35とを有して構成され, レンズ60及び光源56を有する可動ユニット34が,眼鏡フレームを装用した眼鏡装用者を遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設置する固視手段を構成し,光源56とレンズ60との間隔を任意の距離とすることにより,眼鏡装用者である被検者10に遠方視状態と近方視状態の光源56の像を固視灯(遠方視目的物,近方視目的物)として観察させ, 正面用撮像カメラ62は,可動ユニット34により遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設置された被検者10の顔の正面を,ハーフミラー61を通して撮影してその画像を取り込み, 可動ユニット34により遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設定された被検者10の顔の側面は,側面用撮像カメラ63により撮影される, 眼鏡レンズを設計する方法。」 2 対比及び判断 (1) 対比 本願発明1と引用発明を対比する。 ア 遠方視画像撮像工程 引用発明は,「被検者10の眼の上下方向の位置合わせを実行し(S4),この状態で,約5メートル前方に固視灯を点灯させ,被検者10の遠方視状態における顔の正面及び側面の画像を撮影し(S5)」という工程(以下「S4S5工程」という。)を具備する。また,引用発明の「可動ユニット34」は,「光源56とレンズ60との間隔を任意の距離とすることにより,眼鏡装用者である被検者10に遠方視状態と近方視状態の光源56の像を固視灯(遠方視目的物,近方視目的物)として観察させ」るものである。そして,引用発明の「可動ユニット34」の「正面用撮像カメラ62は,可動ユニット34により遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設置された被検者10の顔の正面を,ハーフミラー61を通して撮影してその画像を取り込み」という構成を具備する。 そうしてみると,引用発明の「遠方視状態」,「被検者10」,「正面用撮像カメラ62」及び「S4S5工程」は,それぞれ本願発明1の「遠方視状態」,「眼鏡装用者」,「撮像手段」及び「遠方視画像撮像工程」に相当する。そして,引用発明は,「S4S5工程」を具備する点において,本願発明1の「遠方視状態である眼鏡装用者を撮像手段により撮像する遠方視画像撮像工程」に相当する工程を具備するといえる。 イ 近方視画像撮像工程 引用発明は,「固視灯を点灯した状態で,近方視目的距離NLと眼球回旋角θを任意に変更させ,被検者10に適した近方視状態を確認させながら,これらの近方視目的距離NL及び眼球回旋角θを決定し(S6),この状態で,被検者10の近方視状態における顔の正面及び側面の画像を撮影し(S7)」という工程を具備する(以下「S6S7工程」という。)。 したがって,前記アと同様の検討により,引用発明は,「S6S7工程」を具備する点において,本願発明1の「近方視状態である前記眼鏡装用者を撮像手段により撮像する近方視画像撮像工程」に相当する工程を具備するといえる。 ウ 遠方視パラメータ計測工程 引用発明は,「撮像された遠方視及び近方視の画像と,外部より入力されたデータに基づき,眼鏡装用パラメータ(遠方視瞳孔間距離FPD,近方視瞳孔間距離NPD,遠方視眼鏡装用距離A,近方視眼鏡装用距離B,眼鏡フレーム装用角度α)を計測し演算し(S8)」という工程を具備する(以下「S8工程」という。)。 ここで,引用発明の「眼鏡装用パラメータ」のうち「遠方視瞳孔間距離FPD」が,撮像された遠方視の画像に基づいて計測されるものであることは,技術常識である(引用文献1の【0069】の記載からも確認できる事項である。)。 そうしてみると,引用発明の「遠方視」「の画像」は,本願発明1の「前記遠方視画像撮像工程により撮像された遠方視画像」の要件を満たし,また,引用発明の「遠方視瞳孔間距離FPD」は,本願発明1の「遠方視状態における眼の位置に関連する遠方視パラメータ」に該当する。また,引用発明の「S8工程」は,その工程中に「前記遠方視画像撮像工程により撮像された遠方視画像に基づいて,遠方視状態における眼の位置に関連する遠方視パラメータを計測する遠方視パラメータ計測工程」を含むものである。 エ 眼鏡レンズ設計方法 以上ア-ウの対比結果,並びに,引用発明及び本願発明1の全体の構成を勘案すると,引用発明の「眼鏡レンズを設計する方法」は,本願発明1の「眼鏡レンズ設計方法」に相当する。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。 「 遠方視状態である眼鏡装用者を撮像手段により撮像する遠方視画像撮像工程と, 近方視状態である前記眼鏡装用者を撮像手段により撮像する近方視画像撮像工程と, 前記遠方視画像撮像工程により撮像された遠方視画像に基づいて,遠方視状態における眼の位置に関連する遠方視パラメータを計測する遠方視パラメータ計測工程と, を有する, 眼鏡レンズ設計方法。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明は,以下の点で相違する。 (相違点1) 本願発明1は,「前記近方視画像撮像工程により撮像された近方視画像に基づいて,近方視状態における前記眼鏡装用者から前記眼鏡装用者の注視点までの距離である近方作業距離を計測する近方作業距離計測工程」を具備するのに対して,引用発明は,「固視灯を点灯した状態で,近方視目的距離NL…を任意に変更させ,被検者10に適した近方視状態を確認させながら…近方視目的距離NL…を決定し(S6)」ている点。 (相違点2) 本願発明1は,「前記遠方視パラメータ計測工程により計測した遠方視パラメータと,前記近方作業距離計測工程により計測した近方作業距離と,前記眼鏡装用者の眼鏡処方値とを用いた光線追跡計算によって,眼鏡レンズを設計する設計工程」を具備し,「前記設計工程では,前記遠方視パラメータに基づいて,前記光線追跡計算によって,近方視状態での瞳孔間距離と,近方視状態における前記眼鏡レンズに対する瞳孔の高さである近方視フィッティング高さとが算出され,前記光線追跡計算で算出されたパラメータに基づいて,前記眼鏡レンズにおける近用のアイポイントが設定される」のに対して,引用発明は,「眼鏡レイアウトシミュレーション及びレンズ加工情報算出を実行し(S11),近用アイポイント111は,インセット量i(左眼,右眼),眼球回旋角θ,遠方視眼鏡装用距離bから算出され」る点。 (3) 判断 事案に鑑みて,相違点1について検討する。 引用発明において,本願発明の「近方作業距離」及び「近方視画像」に対応するものは,「近方視目的距離NL」及び「近方視状態における顔の正面の画像」と考えられる。 ここで,引用発明は,「固視灯を点灯した状態で,近方視目的距離NLと眼球回旋角θを任意に変更させ,被検者10に適した近方視状態を確認させながら,これらの近方視目的距離NL及び眼球回旋角θを決定し(S6),この状態で,被検者10の近方視状態における顔の正面及び側面の画像を撮影し(S7)」ている。すなわち,引用発明においては,近方視目的距離NLを決めてから(【0066】に記載のように入力してから),近方視状態における顔の正面の画像を撮影している。 そうしてみると,引用発明においては,「前記近方視画像撮像工程により撮像された近方視画像に基づいて,近方視状態における前記眼鏡装用者から前記眼鏡装用者の注視点までの距離である近方作業距離を計測する」必要性がない。 したがって,たとえ当業者といえども,引用発明において,相違点1に係る本願発明1の構成を採用することが容易に思到し得る事項であるということはできない。 ところで,引用文献1の【請求項1】には,「固視手段により遠方視状態または近方視状態に設定された眼鏡装用者を撮影装置により撮影し,その画像を取り込む画像入力手段と,この画像入力手段によって得られた撮像画像に基づき上記眼鏡装用パラメータを計測し演算する計測演算手段とを有し」,「上記計測演算手段が計測し演算する眼鏡装用パラメータは,遠方視瞳孔間距離,近方視瞳孔間距離,遠方視眼鏡装用距離,近方視眼鏡装用距離,眼鏡フレーム装用角度,眼球回旋角,近方視目的距離の少なくとも1つであり」と記載されている。 したがって,引用文献1の【請求項1】には,計測演算手段が撮像画像に基づいて近方視目的距離を計測し演算することが,一応,記載されているといえる。 しかしながら,引用発明は,計測演算手段が撮像画像に基づいて近方視目的距離を計測し演算する必要のない発明である。また,引用文献1には,このような引用発明を,計測演算手段が撮像画像に基づいて近方視目的距離を計測し演算する必要のある発明に替える動機付けとなるような記載はない。 加えて,引用発明は,「光源56とレンズ60との間隔を任意の距離とすることにより,眼鏡装用者である被検者10に遠方視状態と近方視状態の光源56の像を固視灯(遠方視目的物,近方視目的物)として観察させ」,「正面用撮像カメラ62は,可動ユニット34により遠方視状態または近方視状態のそれぞれの測定位置に設置された被検者10の顔の正面を,ハーフミラー61を通して撮影してその画像を取り込み」という構成を具備する。すなわち,引用発明においては固視灯と正面用撮像カメラ62は同位置にない。したがって,近方視状態における顔の正面の画像に基づいて,被検者10から正面用撮像カメラ62までの距離を計測又は演算したとしても,これを近方視目的距離NLとすることはできない。引用発明において,近方視状態における顔の正面の画像に基づいて近方視状態における被検者10から固視灯(の実像)までの距離である近方視目的距離NLを計測する(相違点1に係る本願発明1の構成を採用する)ためには,引用発明が前提とする眼鏡装用パラメータ測定装置30における固視灯や正面用撮像カメラ62の構成はもとより,引用発明が前提とする計測手順等も変更する必要があるといえる。しかしながら,引用文献1には,これらをどのように変更すべきか,その指針となる記載はない。したがって,引用発明において,相違点1に係る本願発明1の構成を採用することには,困難がともなうと考えられる。 (4) 小括 以上のとおり,引用発明は,相違点1に係る本願発明1の構成を採用する必要のない発明であり,また,引用文献1には,相違点1に係る本願発明1の構成を採用する必要のない引用発明において,あえて相違点1に係る本願発明1の構成を採用する動機付けとなるような記載も見当たらない。 したがって,本願発明1は,引用発明(周知技術及び引用文献3に記載された技術)に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということができない。 3 本願発明2-本願発明6について 本願発明2-本願発明6も,前記相違点1に係る本願発明1の構成を具備するものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても引用発明(周知技術及び引用文献3に記載された技術)に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということができない。 第3 むすび 以上のとおり,原査定の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。 また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-01-29 |
出願番号 | 特願2012-266382(P2012-266382) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(G02C)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 後藤 亮治 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 佐藤 秀樹 |
発明の名称 | 眼鏡レンズ設計方法および眼鏡レンズ製造方法 |
代理人 | 渡辺 隆男 |
代理人 | 永井 冬紀 |