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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1336788
審判番号 不服2016-7647  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-25 
確定日 2018-01-24 
事件の表示 特願2013-142872「膨潤性の制御放出経口剤形の胃における滞留性を増強するための錠剤の形状」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月31日出願公開、特開2013-224324〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成13年2月26日(パリ条約による優先権主張 2000年6月20日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2002-503260号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成25年7月8日に新たな特許出願としたものであって、平成25年8月6日に手続補正書及び上申書が提出され、平成26年4月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月22日に意見書、手続補正書が提出され、同年11月26日付けで上申書が提出され、平成27年4月7日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年10月14日に意見書が提出されたが、平成28年1月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、同年6月8日付けで審判請求書の請求の理由の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
平成28年5月25日付けの手続補正は、補正前(平成26年10月22日付け手続補正書)の請求項1?27のうち、請求項2?27を削除するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる事項を目的とするものである。
よって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年5月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
胃及び上部胃腸管に限定される領域の少なくとも一部に薬物を放出させるための制御放出経口薬物剤形であって、その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックスを含んで成り、当該マトリックスが水の吸収によって寸法の制限無く両方の直交軸に沿って膨潤し、非環状の形状であり、等しくない長さの第一及び第二の直交軸を有し、軸の長い方が、前記マトリックスが膨潤していない場合に最大3.0cmの長さであり、そして軸の短い方が、水中に浸してから1時間以内に少なくとも1.2cmの長さに達し、当該マトリックスが、平面に投影された場合に楕円形又は平行四辺形の形状を有する、剤形。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成27年4月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その理由1は以下のとおりである。

「1.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
●理由1(進歩性)について
・請求項1-27
・引用文献1、2
・備考
・・・
<引用文献等一覧>
1.国際公開第98/11879号
2.Journal of Pharmaceutical
Sciences,1993,Vol.82,No.8,p.854」

第4 当審の判断
1 引用例及びその記載事項
(1)本出願の優先日前である平成10(1998)年3月26日に頒布された刊行物である「国際公開第98/11879号」(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されているものと認められる。
なお、引用例1は英文で記載された刊行物であるので、その記載事項は本審決による翻訳文のみを示し、その英文の記載は省略する。翻訳文は、特表2001-500879号公報を参考にしたので、対応箇所も併記する。
また、以下、下線は本審決によるものである。

(1a)「本発明は、一般に、薬理学の分野に関し、そして特に、胃内に滞留され、そして可溶性に乏しい薬物又は不溶性の粒子状物質を数時間かけて徐々に送達する薬物投薬形態に関する。より特定すると、本発明は、可溶性に乏しい薬物、不溶性又は粒子状物質、及び疎水性増強剤によって可溶性が低下される可溶性薬物を、胃腸(G.I.)管に送達するように設計された、膨潤性ポリマーシステムを提供する。薬物又は粒子状物質は、ポリマーが徐々に浸食するにつれて胃に放出され、したがって、薬物又は不溶性の粒子状物質が送達される速度は、ポリマー浸食の速度により決定される。」(1頁2?10行;6頁5?13行)

(1b)「本発明における使用に適切なポリマーは、胃液から水分を吸収した結果としての膨潤特性を有し、そして数時間の期間をかけて徐々に浸食する。ポリマーの浸食は体液と投薬形態の表面との相互作用から生じるので、浸食は膨潤プロセスと同時に開始される。本明細書中で用いられる語句「胃液との接触の際に開始される浸食」は、胃液に曝露された投薬形態の表面での胃液の接触から生じる浸食をいう。膨潤及び浸食は同時に生じるが、最大の膨潤を達成するための速度は、投薬形態が完全に浸食する速度よりも速くあるべきである。より詳細には、膨潤は、粒子が胃の中に滞留するのを可能にするに充分に速い速度であるべきであるが、一方、浸食は、送達される薬物の所望の投薬を提供する速度であるべきである。」(5頁32行?6頁9行;10頁最下行?11頁9行)

(1c)「本明細書中で用いる用語『食物供給態様』は、胃における食物の存在により患者に典型的に誘導される状態をいう。ここで、食物は、2つのシグナルを生じる。一方のシグナルは、胃の膨満から生じるといわれ、そして他方は胃の中での食物に基づく化学シグナルであるといわれる。一旦食物供給形態が誘導されると、大きな粒子は、より小さな粒子よりも長い期間で胃に滞留することが決定されている。したがって、食物供給態様は、典型的には、胃における食物の存在により患者において誘導される。」(6頁25?31行;11頁下から5行?12頁2行)

(1d)「薬物/ポリマー混合物は、多数の粒子の形態にある。固体薬物は、好ましくはポリマーに均一に分散されるが、そうである必要はない。混合物又は分散液中の薬物対ポリマーの重量比は、通常では約2:3?9:1、好ましくは約3:2?9:1、そして最も好ましくは約4:1?9:1である。粒子は円柱状又は球形の形、好ましくは円柱状であるが、それほど規則的ではない顆粒の形であってもよい。
膨潤した粒子は、患者が食物供給態様(すなわち、食物の存在)にある場合、胃でのそれらの滞留を促進するサイズのものである。これは通常約2?約22mm、好ましくは約8?18mmの範囲(球形粒子の直径又は不揃いの形の粒子の最大寸法として測定される)にあるが、より大きくてもよい。典型的に、粒子がそれらの元の直径の2倍に2?約4時間で膨潤するので、最初の粒子サイズは通常約3?11mm、好ましくは約4?10mmの範囲である。粒子が投薬期間の間に徐々に浸食するので、それらの膨潤容量は投薬期間にわたって減少する。
粒子は従来の技術により摂取のために充填塊の中に形成され得る。例えば、粒子は、「硬充填カプセル」又は「軟弾性カプセル」として、公知のカプセル化手順及び材料を使用してカプセル化され得る。カプセル化される材料は、胃液中で高度に溶解性であるべきであり、その結果、粒子は、カプセルが摂取された後迅速に胃の中に分散される。カプセル又は錠剤のいずれにせよ、各単位用量は、好ましくは膨潤した場合に胃の滞留能力を増強するサイズの粒子を含む。単位用量あたりの粒子数に関して、サイズ0カプセルへの添加に有用な量は、2?5個の球形又は円柱状ペレット、3?7mmの直径、及び4?11mmの長さである。サイズ0カプセルは、このようなペレットを、3つは6.5mmの長さ;2つは10mmの長さ;4つは5mmの長さ;又は5つは4mmの長さで含有し得る。理想的には、投薬形態は、約6.6mmの直径及び約10.2mmの長さの2つの円柱状ペレットを含有するサイズ0ゼラチンカプセルからなる。」(11頁21行?12頁15行;17頁5行?18頁1行)

(1e)「従来の投薬形態からの薬物の用量は、薬物濃度及び投与頻度の観点で特定される。対照的に、本発明の投薬形態は、連続的な制御放出により薬物を送達するので、開示されるシステムにおいて使用される投薬量は、薬物放出速度及び放出期間により特定される。このシステムの連続的な制御送達特性は、(a)患者に必要なレベルのみが提供されるので薬物の副作用の低減を可能にし、そして(b)1日の投与回数の低減を可能にする。」(13頁12?18行;19頁2?7行)

(1f)「1.患者の胃、十二指腸、及び上小腸へ可溶性に乏しい薬物を放出するための制御放出経口薬物投薬形態であって、該薬物投薬形態が以下:(i)胃液からの水の吸収を介して大きさに制限なく膨潤して、粒子のサイズを増大させ、食物供給態様が誘導された該患者の胃での胃滞留を促進し、(ii)数時間の期間にわたって徐々に浸食し、該浸食は該胃液との接触に際して開始し、そして(iii)該期間に相応する速度での該浸食の結果として、該患者の胃、十二指腸、及び上小腸に該薬物を放出するポリマー内に分散された該薬物の複数の固体粒子を含む、制御放出経口薬物投薬形態。
・・・
6.前記薬物が、ニフェジピン、アシクロビル、アルプラゾラム、フェニトイン、カルバマゼピン、ラニチジン、シメチジン、ファモチジン、クロザピン、ニザチジン、オメプラゾール、ゲムフィブロジル、ロバスタチン、及びニトロフラントインからなる群より選択されるメンバーである、請求項1に記載の投薬形態。
7.前記薬物が、Helicobacter pylori除菌剤である、請求項1に記載の投薬形態。
8.前記除菌剤が、次サリチル酸ビスマス、クエン酸ビスマス、アモキシシリン、テトラサイクリン、クラリスロマイシン、チアンフェニコール、メトロニダゾール、オメプラゾール、ラニチジン、シメチジン、ファモチジン、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるメンバーである、請求項7に記載の投薬形態。
・・・
11.前記固体粒子が、膨潤前の最大の大きさにおける長さで約6?13mmである、請求項1に記載の投薬形態。
12.前記固体粒子が、膨潤前の最大の大きさにおける長さで約7?11mmである、請求項1に記載の投薬形態。
13.前記固体粒子が、膨潤前の直径で約3?10mmである、請求項1に記載の投薬形態。
14.前記固体粒子が、膨潤前の直径で約5?7mmである、請求項1に記載の投薬形態。」(21頁2行?22頁19行;2頁2行?3頁13行)

(2)本出願の優先日前である平成5(1993)年8月に頒布された刊行物である「Journal of Pharmaceutical Sciences,Vol.82,No.8,p.854」(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されているものと認められる。
なお、引用例2は英文で記載された刊行物であるので、その記載事項は本審決による翻訳文のみを示し、その英文の記載は省略する。

(2a)「胃の幽門口より大きな未消化固形剤形の十二指腸への進入は、食後妨げられることが知られている。なぜなら、これら剤形は胃の内容物を一掃するための消化の終わりにおける消化間欠伝播性収縮(IMMC)活動の再開を待たねばならないからである。」(左欄21?26行)

(2b)「消化段階の後に簡単に排出することができる直径値の安全限界内に留まるように注意する必要もある。ヒトの平均静止幽門径は、わずか12.8±7.0mmであるため、排出されない大きさに達した非崩壊性の硬質剤形から望ましくない胃の閉塞が被験者に生じる可能性がある。」(右欄15?20行)

2 引用例に記載の発明
引用例1には、上記1(1f)の請求項1からみて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「患者の胃、十二指腸、及び上小腸へ可溶性に乏しい薬物を放出するための制御放出経口薬物投薬形態であって、該薬物投薬形態が以下:(i)胃液からの水の吸収を介して大きさに制限なく膨潤して、粒子のサイズを増大させ、食物供給態様が誘導された該患者の胃での胃滞留を促進し、(ii)数時間の期間にわたって徐々に浸食し、該浸食は該胃液との接触に際して開始し、そして(iii)該期間に相応する速度での該浸食の結果として、該患者の胃、十二指腸、及び上小腸に該薬物を放出するポリマー内に分散された該薬物の複数の固体粒子を含む、制御放出経口薬物投薬形態。」

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「制御放出経口薬物投薬形態」と本願発明の「制御放出経口薬物剤形」について
ア 引用発明は、「患者の胃、十二指腸、及び上小腸へ可溶性に乏しい薬物を放出するための制御放出経口薬物投薬形態」であるところ、「可溶性に乏しい薬物」の具体例として、上記1(1f)の請求項6にはアシクロビルが、同請求項8にはクラリスロマイシン、チアンフェニコールなどが例示されている。
一方、本願発明も、「胃及び上部胃腸管に限定される領域の少なくとも一部に薬物を放出させるための制御放出経口薬物剤形」であるところ、「薬物」について本願明細書には、「これらの薬物は、溶解度において、水に多少溶けにくいものから高度に可溶性のあるものに及ぶ」(【0013】)こと、「本発明が適用され得る低溶解度薬物は、サキナビル、リトナビル、ネルフィナビル、チアンフェニコール、シプロフロキサシン、炭酸カルシウム、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、セフタジジム、アシクロビル、ガンシクロビル、シクロスポリン、ジゴキシン、パクリタクセル、鉄塩、トピラメート、及びケトコナゾールである」(【0032】)ことが説明されている
したがって、両発明の対象とする送達領域及び薬物は同じである。

イ 引用発明の「制御放出」は、上記1(1a)及び(1e)のとおり、薬物を数時間かけて徐々に送達するものであり、薬物放出速度及び放出期間により特定されるものである。
一方、本願発明の「制御放出」は、本願明細書によれば、「本発明の1つの目的として、制御された様式で、長期間に及んで薬物を放出することが挙げられる」(【0001】)、「制御放出は、マトリックスの浸食の制御された速度及び多くの薬物を放出するためにマトリックスが浸食する必要性によって少なくとも部分的に達成される」(【0025】)と説明されている。
したがって、両発明の制御放出とは同じことを意味する。

ウ よって、引用発明の「患者の胃、十二指腸、及び上小腸へ可溶性に乏しい薬物を放出するための制御放出経口薬物投薬形態」は、本願発明の「胃及び上部胃腸管に限定される領域の少なくとも一部に薬物を放出させるための制御放出経口薬物剤形」に相当するといえる。

(2)引用発明の「固体粒子」と本願発明の「マトリックス」について
ア 引用発明の「(i)胃液からの水の吸収を介して大きさに制限なく膨潤して、粒子のサイズを増大させ、食物供給態様が誘導された該患者の胃での胃滞留を促進し、(ii)数時間の期間にわたって徐々に浸食し、該浸食は該胃液との接触に際して開始し、そして(iii)該期間に相応する速度での該浸食の結果として、該患者の胃、十二指腸、及び上小腸に該薬物を放出する」「ポリマー内に分散された該薬物の複数の固体粒子」は、上記1(1a)からも理解されるように、「固体粒子」が「ポリマー内に分散された該薬物」で構成されるものであって、「(i)胃液からの・・・(iii)・・・放出する」との発明特定事項は、ポリマーの特性を表しているといえる。

イ 一方、本願発明の「その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックス」、及び「当該マトリックスが水の吸収によって寸法の制限無く両方の直交軸に沿って膨潤」することについて、本願明細書には、
(ア)「モノリシック」について定義されたところはないので、「モノリシック」は、その一般的な意味である「一体となっている」ことを意味していると解される。
(イ)「マトリックス」について、「当該剤形は、膨潤性のある物体、好ましくは薬物が分散したポリマーマトリックスである」(【0014】)と説明され、さらに、「当該ポリマーは、水の吸収で、そしてそれにより、胃に達した場合には胃液との接触で膨潤する。本発明のある態様において、当該ポリマーは浸蝕性もある。浸蝕性ポリマーが使用される場合、当該ポリマーは、浸食速度が膨潤速度よりも実質的に遅いものである。幾つかの場合において、当該ポリマーの浸食は、胃に薬物を放出する手段として使用され、そして時には浸食と溶解/拡散の組み合わせが使用される」(【0014】)こと、「比較的低い溶解度の薬物にとって好ましいポリマーマトリックスが、浸食し、同時に薬物が放出されるものであるのは、拡散及び溶解が、有効な薬物放出速度にとって発生するのが遅すぎ、そして浸食が放出速度を増すためである。このように、制御放出は、マトリックスの浸食の制御された速度及び多くの薬物を放出するためにマトリックスが浸食する必要性によって少なくとも部分的に達成される」(【0025】)ことが説明されている。
(ウ)「寸法の制限無く両方の直交軸に沿って膨潤」することについて、「本発明の剤形の調製において有用な水膨潤性ポリマーは、非毒性であって、且つ水の吸収時に、そしてそれ故に胃液の吸収時に寸法の制限無く膨潤するポリマーを含む」(【0019】)と説明されている。
そうすると、本願発明の「その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックス」とは、薬物が分散したポリマーであり、そのポリマーは、胃液との接触で水を吸収して膨潤するとともに、浸食もするものであって、浸食の結果、比較的低い溶解度の薬物を放出する、固形で一体となっているものを意味するといえる。
また、「寸法の制限無く両方の直交軸に沿って膨潤」するとは、特定の方向のみに膨潤するものや、一部分のみが膨潤するものではないことを説明したものであって、大きさに制限なく膨潤することを意味するといえる。

ウ よって、引用発明の「(i)胃液からの水の吸収を介して大きさに制限なく膨潤して、粒子のサイズを増大させ、食物供給態様が誘導された該患者の胃での胃滞留を促進し、(ii)数時間の期間にわたって徐々に浸食し、該浸食は該胃液との接触に際して開始し、そして(iii)該期間に相応する速度での該浸食の結果として、該患者の胃、十二指腸、及び上小腸に該薬物を放出するポリマー内に分散された該薬物の複数の固体粒子」は、本願発明の「その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックス」であって「当該マトリックスが水の吸収によって寸法の制限無く両方の直交軸に沿って膨潤」するものであることに相当するといえる。

(3)引用発明の「薬物投薬形態」は「複数の固体粒子を含む」ものに特定されている。
一方、本願発明の「制御放出経口薬物剤形」も「その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックスを含む」ものであるから、前記マトリックスを複数含むものを排除しない。
したがって、この点は相違点でないとも解し得る。
しかしながら、本願明細書には、「制御放出経口薬物剤形」に含まれる前記マトリックスの数について記載したところはなく、むしろ「当該剤形は、膨潤性のある物体、好ましくは薬物が分散したポリマーマトリックスである」(【0014】)と記載されていることからすると、「マトリックスを含む」との表現がされていても、本願発明は、「その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックス」そのものが「制御放出経口薬物剤形」であると解釈できる。

(4)以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点1?2を有する。

ア 一致点
「胃及び上部胃腸管に限定される領域の少なくとも一部に薬物を放出させるための制御放出経口薬物剤形であって、その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックスを含んで成り、当該マトリックスが水の吸収によって寸法の制限無く両方の直交軸に沿って膨潤する、剤形。」である点。

イ 相違点1
本願発明では、「制御放出経口薬物剤形」について、さらに、「非環状の形状であり、等しくない長さの第一及び第二の直交軸を有し、軸の長い方が、前記マトリックスが膨潤していない場合に最大3.0cmの長さであり、そして軸の短い方が、水中に浸してから1時間以内に少なくとも1.2cmの長さに達し、当該マトリックスが、平面に投影された場合に楕円形又は平行四辺形の形状を有する」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点。

ウ 相違点2
本願発明では、「制御放出経口薬物剤形」について、「その中に含まれる前記薬物と共に固形のモノリシックなマトリックスを含」むと特定されているのに対し、引用発明では、「制御放出経口薬物投薬形態」について、「ポリマー内に分散された該薬物の複数の固体粒子を含む」と特定されている点。

4 判断
相違点1?2は関連するのでまとめて検討する。

(1)引用発明の膨潤前の固体粒子について
ア 上記1(1d)及び1(1f)請求項11?14には、次のことが記載されている。
(ア)円柱状又は球形の形、好ましくは円柱状である。
(イ)膨潤前の最大の大きさにおける長さで約6?13mm、膨潤前の直径で約3?10mmである。
(ウ)固体粒子はカプセル化することができ、理想的には、約6.6mmの直径及び約10.2mmの長さの2つの円柱状ペレットを含有するサイズ0ゼラチンカプセルからなる。

イ 以上のことから、引用発明の膨潤前の固体粒子として、約6.6mmの直径及び約10.2mmの長さであるような、直径より長さが大きい円柱状の形状が例示されていることから、最大直径が約10mmで最大長さが約13mmの範囲内であって、直径より長さが大きい円柱状の形状の固体粒子とすることは、当業者が格別困難を要することなくなし得ることである。
そして、そのような固体粒子は、「非環状の形状であり、等しくない長さの第一及び第二の直交軸を有し、軸の長い方が、前記マトリックスが膨潤していない場合に最大3.0cmの長さで」あり、かつ「平面上に投影された場合」には、長方形の形状を有することは明らかであるところ、長方形が「平行四辺形」に含まれることも自明であるから、「当該マトリックスが、平面上に投影された場合に楕円形又は平行四辺形の形状を有する」ものとなる。

(2)引用発明の固体粒子の膨潤に関して
ア 引用発明の制御放出経口薬物投薬形態は、「胃液からの水の吸収を介して大きさに制限なく膨潤して、粒子のサイズを増大させ、食物供給態様が誘導された該患者の胃での胃滞留を促進」するものであるところ、「食物供給態様」とは、上記1(1c)に説明されているとおり、胃における食物の存在により患者に典型的に誘導される状態をいい、大きな粒子がより小さな粒子よりも長い期間で胃に滞留することができるものである。
そうすると、引用発明の「固体粒子」は、胃液からの水の吸収を介して、より大きな粒子に膨潤することで、食物供給態様が誘導された胃での滞留を促進するものである。

イ また、上記1(1b)及び1(1d)には、次のことが記載されている
(ア)膨潤は、粒子が胃の中に滞留するのを可能にするに充分に速い速度であるべきである。
(イ)膨潤した粒子は、患者が食物供給態様にある場合、胃での滞留を促進するサイズであって、通常約2?約22mmであるが、より大きくてもよい。
(ウ)典型的に、粒子はそれらの元の直径の2倍に2?約4時間で膨潤する。

ウ そして、上記1(2a)のとおり、食後は、胃の幽門口より大きな未消化の薬物の十二指腸への進入が妨げられることが知られていることから、食物供給態様の胃では、薬物のサイズが胃の幽門より大きければ、通常は胃に滞留するものと理解され、上記1(2b)によれば、ヒトの平均静止幽門径は12mm程度であることも知られている。

エ 以上のことから、引用発明の「固体粒子」について、上記(1)で検討したとおり、膨潤前は、最大直径が約10mmで最大長さが約13mmの範囲内であって、直径より長さが大きい円柱状の形状のものであり、かつ、胃の中に滞留するのを可能にするのに充分に速い速度で膨潤して、膨潤後には、ヒトの平均静止幽門径である12mmより大きいサイズの直径となるようなものとすることは、引用例1及び2の記載に基づいて当業者が容易になし得たことである。
そして、そのような膨潤の条件について、「軸の短い方が、水中に浸してから1時間以内に少なくとも1.2cmの長さに達」するものと特定することも、当業者が適宜なし得たことである。

(3)引用発明の「制御放出経口薬物投薬形態」が「複数の固体粒子を含む」ものであることについて
上記1(1d)には、理想的には、投薬形態は、約6.6mmの直径及び約10.2mmの長さの2つの円柱状ペレットを含有するサイズ0ゼラチンカプセルからなると記載されている。
しかしながら、上記1(1d)にはさらに、「カプセル化される材料は、胃液中で高度に溶解性であるべきであり、その結果、粒子は、カプセルが摂取された後迅速に胃の中に分散される」、「膨潤した場合に胃の滞留能力を増強するサイズの粒子を含む」と記載されているとおり、胃液からの水の吸収を介して膨潤して胃での胃滞留を促進するのは「固体粒子」である。
したがって、引用発明の「制御放出経口薬物投薬形態」に含まれる「複数の固体粒子」について、複数をまとめてカプセル化などすることなく、個々の「固体粒子」それ自体を「制御放出経口薬物剤形」とすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることにすぎない。

(4)次いで、本願発明の効果について検討する。
本願明細書には、本願発明の具体的な効果に関する事項として、「このことは、胃腸管中の食物の存在が経口投与されたネルフィナビルの吸収を実質的に増大せしめるという事実によって確認されている。ネルフィナビルのピーク血漿濃度及び血漿濃度-時間曲線下面積は、投与量が食事と一緒に又はその後に投与された場合、2?3倍以上である。このことは、胃の中の薬物の長期間保持に少なくとも部分的に起因していると思われる。」(【0044】)と記載されている。
しかしながら、本願明細書に記載された上記事項は、引用発明でいうところの「食物供給態様が誘導された」胃に滞留させることができたということと同じであって、引用発明から予測される効果を超えるものではない。

(5)請求人の主張についても検討する。
請求人は、平成28年6月8日付け審判請求書の手続補正書(方式)において、「本願発明は、従来技術で開示も示唆もされていなかった、長短軸のサイズ「及び」形状を有する膨潤経口剤形を特定するものであり、実際に、引例1又は2のいずれも、嚥下が容易でありながら幽門を通過することなく滞留することが可能な錠剤の設計という課題すら認識していません。対して本願発明者らは、斯かる課題を考慮した上で、鋭意検討の結果、これを解決しうる望ましい形状及びサイズを特定し、本願発明に想到したものであり、引例1及び2から当業者が容易に想到しうるものではない上に、引例1及び2から予測し得ない顕著な効果を有するものであるのは明らかです。」と主張する。
しかしながら、引用例1は、上記1(1d)にあるとおり、サイズ0カプセルを代表に示しているとおり、嚥下が容易である剤形を考慮していることは明らかであるし、経口薬剤の設計にあたり嚥下の容易性について検討することは、当業者が当然行うことである。そして、胃での滞留については既に検討したとおりである。
したがって、上記請求人の主張は採用しない。

(6)まとめ
よって、本願発明は、引用例1?2の記載に基づき当業者が容易になし得たものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1?2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-24 
結審通知日 2017-08-29 
審決日 2017-09-11 
出願番号 特願2013-142872(P2013-142872)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星 功介池上 京子高橋 樹理  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 関 美祝
安川 聡
発明の名称 膨潤性の制御放出経口剤形の胃における滞留性を増強するための錠剤の形状  
代理人 福本 積  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 武居 良太郎  
代理人 大島 浩明  

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