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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C08L 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L |
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管理番号 | 1336799 |
審判番号 | 不服2016-15557 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-10-18 |
確定日 | 2018-01-24 |
事件の表示 | 特願2014-504307「安定化されたポリアミド組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月18日国際公開、WO2012/140099、平成26年 6月19日国内公表、特表2014-514405〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年4月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年4月13日、フランス共和国(FR))を国際出願日とする特許出願であって、平成27年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成28年5月24日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月13日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年10月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲についての手続補正書が提出され、同年12月8日付けで前置報告がされ、平成29年4月3日に上申書が提出されたものである。 第2 補正の却下の決定 [結論] 平成28年10月18日にされた手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成28年10月18日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、 「【請求項1】 少なくとも、 - 熱可塑性ポリアミド樹脂と、 - 式: (R_(1))NH-R-(OH)n (I) [式中、 - nが2以上であり、またはR_(1)がアルコール官能基を有する場合、nが1以上であり、 - Rが、N、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を場合により含む置換または非置換脂肪族、脂環式またはアリールアルキル炭化水素系基であり、 - 前記アルコール官能基が脂肪族炭素によって保持され、 - R_(1)が水素原子であるかまたはN、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換脂肪族炭化水素系基である]によって表わされる式(I)の化合物とを混合することによって得られる熱、光および/または悪天候に対する安定化のための組成物。」 を 「【請求項1】 少なくとも、 - 熱可塑性ポリアミド樹脂と、 - 式: (R_(1))NH-R-(OH)n (I) [式中、 - nが2以上であり、またはR_(1)がアルコール官能基を有する場合、nが1以上であり、 - Rが、N、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を場合により含む置換または非置換脂肪族、脂環式またはアリールアルキル炭化水素系基であり、 - 前記アルコール官能基が脂肪族炭素によって保持され、 - R_(1)が水素原子であるかまたはN、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換脂肪族炭化水素系基である]によって表わされる式(I)の化合物とを混合することによって得られる熱、光および/または悪天候に対する安定化のための組成物であって、少なくとも1つの強化剤または増量剤を含むことを特徴とする、組成物。」とする補正(以下、「補正事項1」という。なお、下線は補正箇所を示すためのものである。)を含むものである。 2 本件補正の目的、新規事項の有無及び発明の特別な技術的特徴の変更の有無について 上記補正事項1は、補正前の請求項1に、補正前の請求項10に規定した「少なくとも1つの強化剤または増量剤を含むことを特徴とする、」との事項を追加して特定したものであり、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、上記補正事項1で追加された事項は、出願当初の特許請求の範囲の請求項10にも記載があり、願書に最初に添付した明細書及び特許請求の範囲の範囲内でしたものであることは明らかであるから、同法第17条の2第3項に規定する要件も満たすものであり、発明の特別な技術的特徴を変更する補正でもないから、同法第17条の2第4項の規定も満たすものでもある。 3 独立特許要件違反の有無について 上記2のとおりであるから、補正事項1を含む本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下検討する。 (1) 本願補正発明 本願補正発明は、平成28年10月18日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも、 - 熱可塑性ポリアミド樹脂と、 - 式: (R_(1))NH-R-(OH)n (I) [式中、 - nが2以上であり、またはR_(1)がアルコール官能基を有する場合、nが1以上であり、 - Rが、N、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を場合により含む置換または非置換脂肪族、脂環式またはアリールアルキル炭化水素系基であり、 - 前記アルコール官能基が脂肪族炭素によって保持され、 - R_(1)が水素原子であるかまたはN、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換脂肪族炭化水素系基である]によって表わされる式(I)の化合物とを混合することによって得られる熱、光および/または悪天候に対する安定化のための組成物であって、少なくとも1つの強化剤または増量剤を含むことを特徴とする、組成物。」 (2) 引用文献に記載された事項及び引用発明 ア 本願の優先日前に頒布された刊行物であることが明らかな特開2005-343991号公報(平成27年11月19日付け拒絶理由通知において引用された引用文献1である。以下、「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア) 「【請求項1】 (A)ポリアミド樹脂、 (B)無機充填材及び/又は顔料及び (C)下記一般式(1)で表されるアミノアルコール類 を含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。 【化1】 [式中のnは、0?5の整数を示す。 R^(1)?R^(5)は、水素原子、-CH_(2)CH_(2)OH、-CH_(2)CH(CH_(3))OHからなる群のいずれかであり、かつ少なくとも1つは、-CH_(2)CH_(2)OH又は-CH_(2)CH(CH_(3))OHである。] 【請求項2】 前記ポリアミド樹脂(A)が、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド6,6及びこれらを含む共重合体からなる群から選ばれる請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。 【請求項3】 請求項1又は2記載のポリアミド樹脂組成物からなることを特徴とする成形品。」 (イ) 「【0001】 本発明は、ポリアミド樹脂に無機充填材や顔料を高濃度で配合しても、流動性に優れたポリアミド樹脂組成物に関する。」 (ウ) 「【0010】 本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂に無機充填材や顔料を高濃度で配合しても、流動性に優れ、良好な成形性を有する。また、高い機械強度を有するが、溶融時の流動性が低い高分子量のポリアミド樹脂を用いても高い流動性が得られるため、高い機械強度を有する成形品を得ることもできる。そのため、高い磁気特性を得る目的で高濃度に磁性粉を配合したボンド磁石や、コストダウンの目的で高濃度に顔料を配合した着色用マスターバッチに非常に有用である。」 (エ) 「【0011】 本発明を以下に詳しく説明する。本発明で用いられるポリアミド樹脂(A)としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド11、ポリアミド4,6、ポリアミド4,12、ポリアミドMXD、芳香族ポリアミド、ポリアミドエラストマー及びこれらの共重合体が挙げられる。これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド12、ポリアミド6,6及びその共重合体が好ましい。これらのポリアミド樹脂は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。また、溶融時の流動性が低い高分子量のポリアミド樹脂を用いても高い流動性が得られるため、従来は使用が困難であった高分子量のポリアミド樹脂も用いることができる。 【0012】 本発明で用いられる成分(B)の無機充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、マイカ、ワラストナイト、珪酸カリウム、ハイドロタルサイト、ゼオライト、シリカ、アルミナ、ガラス(フレーク状、球状、バルーン等)、カーボンファイバー、金属及びこれらの合金(鉄、アルミニウム、ニッケル、銅、タングステン等)、磁性粉(フェライト系、ネオジウム-鉄-ボロン系、サマリウム-コバルト系、サマリウム-鉄-窒素系、アルミニウム-ニッケル-コバルト系)等が挙げられる。これらの無機充填材は、単独で用いることも2種以上を併用することもできる。 【0013】 本発明で用いられる成分(B)の顔料は、例えば、酸化物系(亜鉛華、酸化チタン、弁柄、鉄黒、酸化クロム等)、・・・カーボンブラック、・・・が挙げられる。これらの顔料は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。また、これらの顔料は、上記の無機充填材と併用することもできる。」 (オ) 「【0016】 本発明で用いられるアミノアルコール類(C)は、下記一般式(1)で表されるものである。このようなアミノアルコール類は、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン等のエチレンジアミン類に、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを付加させることにより得られる。本発明では、前記アミノアルコール類(C)は、流動性向上剤として働く。なお、一般式(1)中のnが6以上のものは、ポリアミド樹脂組成物の溶融時の流動性を向上する効果が低いため好ましくない。」 (カ) 「【0018】 前記アミノアルコール類(C)は、前記エチレンジアミン類1分子中に、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドが1つ以上付加したものであるが、特に末端1級アミンに付加したものは、ポリアミド樹脂組成物の溶融時の流動性の向上効果が高くなるので好ましい。また、末端の1級アミンへのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加数が1?3のものが好ましく、さらには、末端1級アミンへの付加数が1?2のものが最も流動性を向上するので、特に好ましい。なお、付加するエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの間で、流動性向上の効果に差がないため、これらの2種を付加させたものも用いることができる。 【0019】 ポリアミド樹脂組成物の溶融時の流動性の向上効果を充分に得るため、前記アミノアルコール類(C)のポリアミド樹脂組成物中の配合比率は、0.05質量%以上が好ましい。また、曲げ強度等の機械特性やマスターバッチとして用いた際の希釈性が要求される場合には、成分(B)の無機充填材や顔料の種類によって異なるが、前記アミノアルコール類(C)のポリアミド樹脂組成物中の配合比率は、概ね1.5質量%以下にするのが好ましい。」 (キ) 「【0027】 (実施例4) ポリアミド6,6(宇部興産株式会社製の製品名ウベスタ2015B)59.15質量部、ガラス繊維(日東紡績株式会社製の製品名「CS3PE454」)40質量部をシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製の製品名「KBE-903」)0.5質量部で処理したもの、フェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の製品名「イルガノックス1098」)0.1質量部及び1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタン(日本乳化剤工業株式会社製の製品名「アミノアルコールA-EAD」)0.25質量部をミキサーで混合後、押出機で混練、賦形して、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。また、同様にして1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタンを配合しないポリアミド樹脂組成物のペレットも得た。 【0028】 (実施例5) ポリアミド12(宇部興産株式会社製の製品名「ウベスタ1013」)24.15質量部、シリカ(マイクロン製の製品名「S-CO」)75質量部をシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製の製品名「KBE-903」)0.5質量部で処理したもの、フェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の製品名「イルガノックス1098」)0.1質量部、ステアリン酸マグネシウム(大日化学工業株式会社製の製品名「ダイワックスMS」)0.15質量部及びトリエチレンテトラミンのエチレンオキサイド2分子付加物(トリエチレンテトラミン1分子にエチレンオキサイド2分子を付加反応させた生成物から低沸点成分を除去した混合物で、主成分は1,4-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)トリエチレンジアミン)0.1質量部をミキサーで混合後、押出機で混練、賦形して、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。また、同様にしてトリエチレンテトラミンのエチレンオキサイド2分子付加物を配合しないポリアミド樹脂組成物のペレットも得た。」 (ク) 「【0029】 以下の実施例6?8は、成分(B)として顔料を高濃度に配合したマスターバッチの例である。 【0030】 (実施例6) ポリアミド6(宇部興産株式会社製の製品名「ウベスタP-1011F」)23.7質量部、酸化チタン(デュポン株式会社製の製品名「タイピュアR101」)75質量部をシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製の製品名「KBE-903」)0.5質量部で処理したもの、フェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の製品名「イルガノックス1098」)0.1質量部、ステアリン酸マグネシウム(大日化学工業株式会社製の製品名「ダイワックスMS」)0.2質量部及び1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタン(日本乳化剤工業株式会社製の製品名「アミノアルコールA-EAD」)0.5質量部をミキサーで混合後、押出機で混練、賦形して、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。また、同様にして1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタンを配合しないポリアミド樹脂組成物のペレットも得た。 【0031】 (実施例7) ポリアミド6(宇部興産株式会社製の製品名「ウベスタP-1011F」)58.5質量部、カーボンブラック(三菱化学株式会社製の製品名「#30」)40質量部をシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製の製品名「KBE-903」)0.5質量部で処理したもの、フェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の製品名「イルガノックス1098」)0.1質量部、ステアリン酸マグネシウム(大日化学工業株式会社製の製品名「ダイワックスMS」)0.2質量部及びN-(β-アミノエチル)エタノールアミン(日本乳化剤工業株式会社製の製品名「アミノアルコールEA」)0.7質量部をミキサーで混合後、押出機で混練、賦形して、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。また、同様にしてN-(β-アミノエチル)エタノールアミンを配合しないポリアミド樹脂組成物のペレットも得た。 【0032】 (実施例8) ポリアミド6(宇部興産株式会社製の製品名「ウベスタP-1011F」)57.7質量部、カーボンブラック(三菱化学株式会社製の製品名「#30」)40質量部をシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製の製品名「KBE-903」)0.5質量部で処理したもの、フェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の製品名「イルガノックス1098」)0.1質量部、ステアリン酸マグネシウム(大日化学工業製ダイワックスMS)0.2質量部及びN-(β-アミノエチル)エタノールアミン(日本乳化剤工業株式会社製の製品名「アミノアルコールEA」)1.5質量部をミキサーで混合後、押出機で混練、賦形して、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。また、同様にしてN-(β-アミノエチル)エタノールアミンを配合しないポリアミド樹脂組成物のペレットも得た。」 (ケ) 「【0040】 (流動性の評価) 上記の実施例1?8及び比較例1?5で、成分(C)を配合したポリアミド樹脂組成物と成分(C)を配合しなかったポリアミド樹脂組成物のそれぞれのメルトフローレート(MFR)を所定条件(実施例1?4、比較例1?3:270℃×98MPa、実施例5,6、比較例4,5:280℃×21.2MPa)で、メルトインデクサー(東洋精機製セミオートメルトインデクサー)を用いて測定した。得られたMFR値を用いて次式より算 出されるMFR比から、以下の基準で流動性を評価した。 ◎:顕著に改善(MFR比が20以上) ○:かなり改善(MFR比が10以上20未満) △:若干改善(MFR比が5を超えて10未満) ×:改善なし(MFR比が5以下) 【0041】 【数1】 」 (コ) 「【0043】 【表1】 【0044】 【表2】 ・・・ 【0046】 表1及び2中の流動性向上剤の略号は、それぞれ以下のものを表す。 EA:N-(β-アミノエチル)エタノールアミン PA:N-(β-アミノエチル)イソプロパノールアミン A-EAD:1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタン TETA-2EO:トリエチレンテトラミンのエチレンオキサイド2分子付加物 【0047】 表1及び2の結果から、本発明のポリアミド樹脂組成物は、無機充填材や顔料を高濃度で配合した場合においても、流動性向上剤としてアミノアルコール類(C)を配合することにより、飛躍的に溶融時の流動性が向上することが分かった。」 イ 引用発明 上記記載事項(ア)?(コ)、特に(ア)、(キ)の実施例4、(ケ)、(コ)からみて、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「(A)ポリアミド樹脂としてポリアミド6,6、 (B)無機充填材としてガラス繊維 (C)下記一般式(1)で表されるアミノアルコール類として1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタン を含有するポリアミド樹脂組成物。 【化1】 [式中のnは、0?5の整数を示す。 R^(1)?R^(5)は、水素原子、-CH_(2)CH_(2)OH、-CH_(2)CH(CH_(3))OHからなる群のいずれかであり、かつ少なくとも1つは、-CH_(2)CH_(2)OH又は-CH_(2)CH(CH_(3))OHである。]」 (3) 対比・判断 本願補正発明と引用発明を比較する。 引用発明の「ポリアミド樹脂としてポリアミド6,6」、「無機充填剤としてガラス繊維」は、本願補正発明の「熱可塑性ポリアミド」、「少なくとも1つの強化剤または増量剤」に相当する。また、引用発明の「一般式(1)で示されるアミノアルコール類としての1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタン」は、本願補正発明の式(I)の化合物において、R_(1)が「2-ヒドロキシエチルアミノエチル」、つまり「アルコール官能基を含み、Nを含む置換脂肪族炭化水素」であり、Rが「エチレン」、つまり「非置換脂肪族」であり、n=1の場合に相当し、具体的には、【0022】に例示された「N,N’-ビス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン」に該当する。 すると、本願補正発明と引用発明は、 「少なくとも、 - 熱可塑性ポリアミド樹脂と、 - 式: (R_(1))NH-R-(OH)n (I) [式中、 - nが2以上であり、またはR_(1)がアルコール官能基を有する場合、nが1以上であり、 - Rが、N、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を場合により含む置換または非置換脂肪族、脂環式またはアリールアルキル炭化水素系基であり、 - 前記アルコール官能基が脂肪族炭素によって保持され、 - R_(1)が水素原子であるかまたはN、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換脂肪族炭化水素系基である]によって表わされる式(I)の化合物とを混合することによって得られる組成物であって、少なくとも1つの強化剤または増量剤を含むことを特徴とする、組成物。」 である点で一致し、本願補正発明では組成物について「熱、光および/または悪天候に対する安定化のための」組成物との特定がされているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点で、両発明は一応相違している。 上記相違点について検討する。 一応の相違点に係る「熱、光および/または悪天候に対する安定化のための」との特定について、本願明細書の発明の詳細な説明には、段落【0001】に「本発明は、少なくとも1つのアミン官能基と少なくとも2つの脂肪族ヒドロキシル官能基とを含む化合物を使用することによって熱、光および/または悪天候に対して安定化されるポリアミドに関する。安定化化合物をポリアミドに添加して安定化されたポリアミド組成物を形成してもよい。」との記載があり、また、段落【0005】に「本出願人は、少なくとも1つのアミン官能基および少なくとも2つの脂肪族ヒドロキシル官能基を含有する化合物を使用することによって、熱、光および/または悪天候への長い曝露後に機械的性質が非常によく維持され得る新規なポリアミド組成物を開発した。」との記載がされている。これらの記載からみれば、一応の相違点に係る特定は、組成物の性質を示すことは明らかであり、組成物の成分が一致すれば、自ずと発揮されるものと認められる。 そうすると、本願補正発明と引用発明は、組成物として相違しないから、一応の相違点である特定の有無によって相違するものではない。また、仮に、両発明が当該相違点で相違するとしても、相違点に係る特定は当業者が容易になし得たものである。 よって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。また、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることはできない。 4 まとめ 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、補正却下の決定の[結論]のとおり決定する。 第3 本願発明について 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年5月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「少なくとも、 - 熱可塑性ポリアミド樹脂と、 - 式: (R_(1))NH-R-(OH)n (I) [式中、 - nが2以上であり、またはR_(1)がアルコール官能基を有する場合、nが1以上であり、 - Rが、N、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を場合により含む置換または非置換脂肪族、脂環式またはアリールアルキル炭化水素系基であり、 - 前記アルコール官能基が脂肪族炭素によって保持され、 - R_(1)が水素原子であるかまたはN、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換脂肪族炭化水素系基である]によって表わされる式(I)の化合物とを混合することによって得られる熱、光および/または悪天候に対する安定化のための組成物。」 第4 原査定の拒絶理由の概要 原査定の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・請求項1-17 ・引用文献等 1 1.特開2005-343991号公報 」 第5 当審の判断 1 引用発明 原査定の拒絶理由に引用された引用文献1は、第2 3 (2)において、独立特許要件の違反の検討において用いた引用文献1であり、第2 3 (2) アで示した記載がなされており、第2 3 (2) イで認定したとおりの引用発明が記載されている。以下、再掲する。 「(A)ポリアミド樹脂としてポリアミド6,6、 (B)無機充填材としてガラス繊維 (C)下記一般式(1)で表されるアミノアルコール類として1,2-ビス(2-ヒドロキシエチルアミノ)エタン を含有するポリアミド樹脂組成物。 【化1】 [式中のnは、0?5の整数を示す。 R^(1)?R^(5)は、水素原子、-CH_(2)CH_(2)OH、-CH_(2)CH(CH_(3))OHからなる群のいずれかであり、かつ少なくとも1つは、-CH_(2)CH_(2)OH又は-CH_(2)CH(CH_(3))OHである。]」 2 本願発明と引用発明との対比・判断 本件補正により補正された本願補正発明は、本願発明に「少なくとも1つの強化剤または増量剤を含むことを特徴とする」との事項を追加するものであり、第2 3 (3)で認定したことを踏まえれば、本願発明と引用発明とは、前記の追加した事項を除いた、 「少なくとも、 - 熱可塑性ポリアミド樹脂と、 - 式: (R_(1))NH-R-(OH)n (I) [式中、 - nが2以上であり、またはR_(1)がアルコール官能基を有する場合、nが1以上であり、 - Rが、N、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を場合により含む置換または非置換脂肪族、脂環式またはアリールアルキル炭化水素系基であり、 - 前記アルコール官能基が脂肪族炭素によって保持され、 - R_(1)が水素原子であるかまたはN、S、Oおよび/またはPなどのヘテロ原子を含んでいてもよい置換または非置換脂肪族炭化水素系基である]によって表わされる式(I)の化合物とを混合することによって得られる組成物」 において一致し、本願発明では、組成物について「熱、光および/または悪天候に対する安定化のための」との特定がされているのに対し、引用発明ではそのような特定がない点(以下、「相違点1」という。)で一応相違し、さらに、引用発明では「無機充填剤としてガラス繊維」を含むのに対し、本願発明ではこのような特定がない点(以下、「相違点2」という。)においても一応相違している。 まず、相違点1について検討するに、相違点1は、第2 3 (3)で検討した相違点と同じであり、実質的な相違点ではない。また、仮に実質的な相違点であるとしても、当業者が容易になし得たものである。 次に、相違点2について検討する。 本願発明は、「少なくとも、熱可塑性ポリアミド樹脂と、式:・・・[・・・]によって表わされる式(I)の化合物とを混合することによって得られる」組成物であり、少なくとも熱可塑性ポリアミド樹脂と式(I)の化合物とを混合した組成物であって、これら2成分以外に他の成分を含んでもよく、請求項10や段落【0057】?【0059】等の記載にもあるように、「少なくとも一つの強化剤又は増量剤を含んでもよい」ものである(本願明細書【0057】?【0059】、平成28年5月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項10、表1?3)。そして、本願発明の実施例においてガラス繊維が含まれる組成物が記載されていることを踏まえれば、引用発明の「ガラス繊維である無機充填剤」は、本願明細書において「含んでもよい」とされる「強化剤」に相当するから、これを含むことは実質的な相違点とはならない。 したがって、本願発明は、引用発明と同一であるか、仮にそうでないとしても、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。 第6 審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求書において、本願発明の熱安定性は、長時間の耐老化性質に関し、本願発明の実施例は、式Iの化合物をPA(ポリアミドに相当)に配合することにより、調合物の流動性の激しい増加並びに引っ張り強さと衝撃強さの双方の保持率の増大を可能とするものであり、一方、引用文献1には、流動性を改善することに焦点を絞っており、本願発明に係る効果の高温で長時間の老化後の機械特性の高い保持率について引用文献1は何ら開示及び示唆しておらず、本願発明は、新規性及び進歩性を有する旨の主張をしている。 しかしながら、第2及び第5で述べたように、本願発明及び本願補正発明は、組成物としてみた場合に引用発明と相違せず、引用文献1に記載された発明であるから、新規性は有しておらず、また、仮に、そうでないとしても進歩性を有するものではないから、上記審判請求書での主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることはできない。また、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもあるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることはできない。 したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-08-24 |
結審通知日 | 2017-08-29 |
審決日 | 2017-09-11 |
出願番号 | 特願2014-504307(P2014-504307) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L) P 1 8・ 572- Z (C08L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松浦 裕介、海老原 えい子、安田 周史 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
藤原 浩子 福井 美穂 |
発明の名称 | 安定化されたポリアミド組成物 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |