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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1336800
審判番号 不服2016-16815  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-11-09 
確定日 2018-01-24 
事件の表示 特願2015-502137「内燃機関の作動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月 3日国際公開、WO2013/143687、平成27年 4月27日国内公表、特表2015-512482〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2013年3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年3月28日、(DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成27年11月11日付けで拒絶理由が通知され、平成28年2月15日に意見書が提出されるとともに、特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成28年7月7日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成28年11月9日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成28年11月9日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成28年11月9日付けの手続補正を却下する。

[理由]

[1]補正の内容

平成28年11月9日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成28年2月15日付けで提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし5を下記の(b)に示す請求項1ないし4と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし5

「【請求項1】
少なくとも1つの噴射装置によって、少なくとも1つの第1の燃料噴射が、内燃機関の少なくとも1つの燃焼室内に直接実行され、燃料と空気から成る混合気の点火が、点火装置によって前記燃焼室内で実行され、前記内燃機関は、前記燃焼室に配置されている、前記内燃機関の少なくとも1つの吸気バルブの少なくとも1つの第1のバルブリフトによる少なくとも1つの第1の作動モードか、又は前記第1のバルブリフトよりも小さい少なくとも1つの第2のバルブリフトによる少なくとも1つの第2の作動モードかの、どちらか一方を選択して作動する、自動車の内燃機関の作動方法であって、
前記第2の作動モードにおける前記混合気の吸気移動を支援するため、少なくとももう1つの燃料噴射が、時間的には前記点火の前に、直接、前記燃焼室内に実行され、
前記もう1つの燃料噴射が、時間的には前記少なくとも1つの第1の燃料噴射後に実行される
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第2の作動モードにおいて、前記点火としてマルチスパーク点火が実行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記内燃機関が、前記第2の作動モードにおいて、均質燃焼モードで作動することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の作動モードにおける前記内燃機関の負荷設定が、選択的に及び/又は前記内燃機関の回転数-負荷ポイントに応じて、前記内燃機関のインテークマニホールド内に配置されている少なくとも1つのスロットルバルブによって、及び/又は吸気バルブを作動するカムシャフトの位相調整によって、及び/又は前記内燃機関に割り当てられている少なくとも1つのエグゾーストターボチャージャの過給レベルによって実行されることを特徴とする、請求項1?請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記内燃機関の少なくとも1つの温度を特徴づける少なくとも1つの値が設定可能なしきい値を超えた場合、前記内燃機関が前記第2の作動モードで作動することを特徴とする、請求項1?請求項4のいずれか一項に記載の方法。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4

「【請求項1】
少なくとも1つの噴射装置によって、少なくとも1つの第1の燃料噴射が、内燃機関の少なくとも1つの燃焼室内に直接実行され、燃料と空気から成る混合気の点火が、点火装置によって前記燃焼室内で実行され、前記内燃機関は、前記燃焼室に配置されている、前記内燃機関の少なくとも1つの吸気バルブの少なくとも1つの第1のバルブリフトによる少なくとも1つの第1の作動モードか、又は前記第1のバルブリフトよりも小さい少なくとも1つの第2のバルブリフトによる少なくとも1つの第2の作動モードかの、どちらか一方を選択して作動する、自動車の内燃機関の作動方法であって、
前記第2の作動モードにおける前記混合気の吸気移動を支援するため、少なくとももう1つの燃料噴射が、時間的には前記点火の前に、直接、前記燃焼室内に実行され、
前記もう1つの燃料噴射が、時間的には前記少なくとも1つの第1の燃料噴射後に実行され、
前記もう1つの燃料噴射は、点火直前に実行され、それによって点火時点において混合気の渦が発生し、
前記第2の作動モードにおいて、前記点火としてマルチスパーク点火が実行される
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記内燃機関が、前記第2の作動モードにおいて、均質燃焼モードで作動することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の作動モードにおける前記内燃機関の負荷設定が、選択的に及び/又は前記内燃機関の回転数-負荷ポイントに応じて、前記内燃機関のインテークマニホールド内に配置されている少なくとも1つのスロットルバルブによって、及び/又は吸気バルブを作動するカムシャフトの位相調整によって、及び/又は前記内燃機関に割り当てられている少なくとも1つのエグゾーストターボチャージャの過給レベルによって実行されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記内燃機関の少なくとも1つの温度を特徴づける少なくとも1つの値が設定可能なしきい値を超えた場合、前記内燃機関が前記第2の作動モードで作動することを特徴とする、請求項1?請求項3のいずれか一項に記載の方法。」
(なお、下線は補正箇所を示すために請求人が付したものである。)

[2]本件補正の目的

本件補正は、特許請求の範囲の請求項1に関して、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項である「もう1つの燃料噴射」について、「点火直前に実行され、それによって点火時点において混合気の渦が発生」することを限定し、「第2の作動モード」について、「点火としてマルチスパーク点火が実行される」ことを限定するものであり、かつ、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
そして、本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものを含んでいるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

[3]独立特許要件の判断

1.刊行物

(1)刊行物1

ア 刊行物1の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-360524号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

「【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る燃焼制御装置の一実施形態が適用された火花点火筒内噴射エンジンの基本構成図である。図において、エンジン1には、ピストン2、吸気弁3、排気弁4が備えられる。吸気は、AFM(空気流量計)20から絞り弁19に入り、分岐部であるコレクター15より吸気管10,吸気弁3を介してエンジン1に供給される。燃料は、燃料噴射弁5から、エンジン(気筒)1の燃焼室21に噴射供給され、点火コイル7、点火プラグ6で点火される。エンジン1の排気は、排気弁4から排気管11を介し、三元触媒12で浄化され排出される。
【0023】
ECU(エンジンコントロールユニット)9には、エンジン1のクランク角度信号θやエンジンの回転速度(回転数)Ne、AFM20の空気量信号、排気の酸素濃度を検出する酸素センサ13の信号等が入力される。また、コントロールユニット9からは、燃料噴射弁5へは燃料噴射信号が、点火プラグへは点火信号が、EGR通路を開閉するEGR弁14へは開閉制御信号が、それぞれ供給されるとともに、吸気弁3及び排気弁4に付設された可変動弁機構16、17にも弁制御信号が出力される。
【0024】
前記可変動弁機構16、17としては、種々のタイプのものを使用でき、例えば、(A)吸気弁3の開弁時期と弁リフト量、並びに、排気弁4の閉弁時期と弁リフト量、を変更できるようにしたもの、(B)吸気弁3及び又は排気弁4の開時期と閉時期とを同時に移動させることができるようにしたもの、(C)吸気弁3の開時期と弁リフト量、並びに、前記排気弁4の開時期と閉時期を変更できるようにしたもの、等が使用される。
【0025】
かかる構成のもとで、コントロールユニット9は、吸入空気量等のエンジン負荷とエンジン回転数に基づいて、エンジン1の運転状態が、図3に示される部分負荷域(アイドルを含む低負荷低回転域)及び基準負荷域のいずれにあるかを判断し、各領域に応じて、吸気弁3及び排気弁4の弁開閉態様(開閉時期、リフト量)並びに燃料噴射弁5による燃料噴射態様(燃料噴射時期、燃料噴射量、噴射回数)を変更するようにされる。この場合、コントロールユニット9は、部分負荷域にあるときは、混合気の燃焼時の空燃比が気筒全体で略理論空燃比となるように、言い換えれば、混合気の燃焼がストイキ燃焼となるように前記弁開閉態様及び燃料噴射態様を制御するようにされる。なお、混合気をストイキ状態で燃焼させるようにすることで、燃料を早く噴射して気化混合時間を長くとれる。それに対し、成層リーンバーンでは、拡散を防止するため、噴射から点火までを比較的短くする必要がある。
【0026】
図2は、可変動弁機構16、17として前記(A)の吸気弁3の開弁時期と弁リフト量、並びに、排気弁4の閉弁時期と弁リフト量、を変更できるようにしたものが使用された場合の、基準負荷域及び部分負荷域にあるときにおける吸気弁3及び排気弁4の弁開閉態様(開閉時期、リフト量)並びに燃料噴射弁5による燃料噴射態様(噴射回数、燃料噴射時期)の一例を示したものである。
【0027】
図2では、横軸に排気行程上死点を0度としたクランク角をとり、縦軸に吸気弁3、排気弁4の行程(リフト量)をとって、基準負荷域にあるときにおける弁開閉態様及び燃料噴射時期を破線で示し、部分負荷域にあるときにおける弁開閉態様及び燃料噴射時期を実線で示している(後述の図6、図7、図9?図17も同様)。
【0028】
この例では、基準負荷域及び部分負荷域にあるときのいずれにおいても、排気弁4の開時期は膨張行程の終盤(-180度以前)とされるとともに、吸気弁3の閉時期は圧縮行程の初頭(+180度以降)とされ、また、基準負荷域にあるときにおける排気弁4の閉時期及び吸気弁3の開時期は共に排気行程の略上死点(略0度)とされ、このときはリフト量も大きくされる。
【0029】
それに対し、部分負荷域にあるときにおいては、両弁3、4のリフト量が基準負荷域にあるときより小さくされ、排気弁3の閉時期が基準負荷域にあるときより早められて排気行程の後半(早閉じ)とされ、吸気弁3の開時期が基準負荷域にあるときより遅くされて吸気行程の前半(遅開き)とされる。より詳しくは、排気弁3の閉時期が略-45度で、吸気弁3の開時期が、排気行程上死点(0度)を中心に前記排気弁4の閉時期と対称なクランク角位置、つまり、略+45度とされている。
【0030】
一方、燃料噴射時期は、基準負荷域にあるときは、吸気行程前半とされ、部分負荷域にあるときは、エンジンの運転状態に基づいて算出される燃料噴射量に応じて1回噴射と2回噴射に分けられる。詳しくは、算出された燃料噴射量が燃料噴射弁5の最小制御可能量の2倍未満である場合は、1回噴射とされ、その燃料噴射時期は、前記基準負荷域にある場合と同じ吸気行程前半とされ、前記最小制御可能量の2倍以上である場合は、2回噴射とされ、前記燃料噴射(量)を2回に分割して行う。この場合、1回目の噴射時期は、排気弁4が閉じられた後の排気行程後半とされ、2回目の噴射時期は、点火プラグ6による点火時期の直前である圧縮行程後半とされている。なお、この場合、各回の燃料噴射量を同じに(均等に分割)してもよいし、2回目の燃料噴射量(第2燃料噴射量)を固定し(いつも一定にし)、1回目の燃料噴射量(第1燃料噴射量)を運転状態に応じて増減するようにしてもよい(第2燃料噴射は、混合気の点火を容易とするための成層化を主目的としており、このときの噴射量を変えると点火時期等を変更する必要が生じる)。
【0031】
上記のように吸気弁3及び排気弁4の弁開閉態様並びに燃料噴射弁5による燃料噴射態様が設定されたもとでの、エンジン1の各部の動作、作用効果を、エンジン1の運転状態が部分負荷域にあり、燃料噴射が2回行われる場合の例(第1実施例)について説明する。
【0032】
本例(第1)においては、排気弁4が排気行程上死点に達する前の排気行程後半(略-45度)で閉じるので、排気(既燃ガス)が燃焼室21に残留(内部EGR)し、この残留排気中に燃料噴射弁5から1回目の燃料噴射(第1燃料噴射)が行われ、噴霧8が燃焼室22に形成される。このときは、残留排気の温度は高く、かつ、ピストン2が上昇を続けているが、吸気弁3はまだ閉じているので、排気が燃焼室21内で圧縮される。このため、燃料噴射弁5から噴射された燃料は、排気の熱で加熱されて気化されるとともに、ピストン2が排気行程上死点に達するまでは、さらに圧縮加熱され、これにより、燃料の気化、ラジカル化が促進される。
【0033】
排気行程上死点を過ぎると、ピストン2は下がり始め、吸気行程になる。しかし、吸気弁3は閉状態を保ち、排気弁4が閉じた排気行程上死点に対称なクランク角まで閉じている。このように、排気弁4の閉時期と吸気弁3の開時期を排気上死点を中心に対称な角度にすることにより、排気行程後半で圧縮に要した負の仕事を吸気行程前半の膨張仕事(正の仕事)で回収でき、エンジン1の効率を保つことができる。
【0034】
その後、吸気弁3が開き、新気が燃焼室21に吸入されるが、一旦気化した燃料は略そのままの気化状態が維持される。そして、吸気弁3が開いた後再び閉じるまでの吸気行程?圧縮行程初頭においては必要量の新気が吸入され、圧縮行程において気化した燃料が混合せしめられた残留排気及び新気の混合気が圧縮され、圧縮行程後半において再度燃料が噴射される(第2燃料噴射)。この第2燃料噴射により、点火プラグ6近くには気筒全体よりも濃い目の混合気が形成され(気筒全体ではストイキ)、点火プラグ6で点火せしめられて燃焼され、燃焼ガス(排気)は、排気弁4が開かれる膨張行程の後半から排気行程後半に、排気管11に排出され、三元触媒12により有害成分(HC、NOx等)が除去されて浄化された後、外部に排出され、これで一燃焼サイクルが完了する。」(段落【0022】ないし【0034】)

イ 上記ア及び図面(特に、図1ないし図3)の記載より分かること

a)上記アの特に段落【0025】の記載によると、エンジン1は、基準負荷域か、又は部分負荷域かの、どちらか一方を選択して作動するものであることが分かる。

b)図2によると、第2燃料噴射が、時間的には第1燃料噴射後に実行されることが分かる。


ウ 刊行物1に記載された発明

したがって、上記ア及びイを総合すると、刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物1に記載された発明>

「燃料噴射弁5によって、第1燃料噴射が、エンジン1の燃焼室21内に噴射供給され、混合気の点火が、点火プラグ6によって前記燃焼室21内で実行され、前記エンジン1は、前記燃焼室21に配置されている、前記エンジン1の吸気弁3の第1のリフト量による基準負荷域か、又は前記第1のリフト量よりも小さい第2のリフト量による部分負荷域かの、どちらか一方を選択して作動する、エンジン1の作動方法であって、
前記部分負荷域における、第2燃料噴射が、点火時期直前に、前記燃焼室21内に実行され、
前記第2燃料噴射が、時間的には前記第1燃料噴射後に実行される方法。」

(2)刊行物2の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平3-279649号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。

a)「(産業上の利用分野)
本発明はエンジンの点火装置に関し、詳しくはエンジン1サイクル中に多点火を行なう点火装置に関するものである。
(従来の技術)
低温時、エンジンにリッチな混合気が供給され、点火プラグにくすぶり現象が生じると失火しやすいという問題がある。
このような時、点火プラグに電圧をかけて複数回放電を実行し、つまり多点火により、混合気を着火させて、低温時における失火の防止を図ったエンジンの着火方法がある(特開昭55-29028号公報参照)。
(発明が解決しようとする問題点)
上記従来技術では、低負荷時に着火し易くするためのスワール生成手段が設けられておらず、従ってスワール生成とは関係なく多点火が行なわれるもので、そのためバッテリの電圧低下や発電機の負荷の増大を招来するという問題があった。
本発明は以上のような点にかんがみてなされたもので、点火のための電力の消耗の低減と燃焼性の向上を図ったエンジンの多点火装置を提供しようとするものである。
(問題点を解決するための手段)
本発明は、実施例図面第1?4図に示すように、エンジン1サイクル中に複数回の点火を行なうエンジンの点火装置において、特定運転領域で吸気スワールを生成する手段11b,19を設けると共に、吸気スワールを生成しない運転領域のうち、燃焼性の悪い部分負荷M時にのみ複数点火を行なうようにしたものである。
(作用)
低負荷時には吸気スワール生成手段11b,19により燃焼室にスワールを生成して燃焼安定性を図ると共に、吸気スワールを生成しない運転領域のうち、着火性の悪いM時のみ複数点火を行なうことができ、点火のための電力消費を低減できる。」(第1ページ左下欄第12行ないし第2ページ左上欄第9行)

b)「エンジン負荷が増してスワールバルブ19が開かれて吸気の充填率が大きくなった点線Aより上の範囲では、もはやスワールは消える。しかし負荷が点線Aより大きいがそれ程負荷の大きくなく且高回転のハッチングで示す符号Mの範囲は、吸入空気量、燃料共にそれ程多くない燃焼性の悪い領域で、いわゆる部分負荷の領域であり、この領域では燃費よりも燃焼性を重視していわゆる多点火を行なう必要がある。なお、Mの範囲外では吸気の充填率が十分大きくスワールは消えていても燃焼安定性がよく多点火の必要はない。」(第2ページ左下欄第11行ないし右下欄第2行)

2.対比・判断

刊行物1に記載された発明における「燃料噴射弁5」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「少なくとも1つの噴射装置」に相当し、以下同様に、「第1燃料噴射」は「少なくとも1つの第1の燃料噴射」に、「エンジン1」は「内燃機関」あるいは「自動車の内燃機関」に、「燃焼室21」は「少なくとも1つの燃焼室」に、「噴射供給」されることは「直接実行」されることに、「混合気」は「燃料と空気から成る混合気」に、「点火プラグ6」は「点火装置」に、「吸気弁3」は「少なくとも1つの吸気バルブ」に、「第1のリフト量」は「少なくとも1つの第1のバルブリフト」に、「基準負荷域」は「少なくとも1つの第1の作動モード」に、「第2のリフト量」は「少なくとも1つの第2のバルブリフト」に、「部分負荷域」は「少なくとも1つの第2の作動モード」に、「第2の燃料噴射」は「少なくとももう1つの燃料噴射」あるいは「もう1つの燃料噴射」に、「点火時期直前」は「時間的には前記点火の前」にそれぞれ相当する。


してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「少なくとも1つの噴射装置によって、少なくとも1つの第1の燃料噴射が、内燃機関の少なくとも1つの燃焼室内に直接実行され、燃料と空気から成る混合気の点火が、点火装置によって燃焼室内で実行され、内燃機関は、燃焼室に配置されている、内燃機関の少なくとも1つの吸気バルブの少なくとも1つの第1のバルブリフトによる少なくとも1つの第1の作動モードか、又は第1のバルブリフトよりも小さい少なくとも1つの第2のバルブリフトによる少なくとも1つの第2の作動モードかの、どちらか一方を選択して作動する、自動車の内燃機関の作動方法であって、
第2の作動モードにおける、少なくとももう1つの燃料噴射が、時間的には点火の前に、直接、燃焼室内に実行され、
もう1つの燃料噴射が、時間的には少なくとも1つの第1の燃料噴射後に実行される、
方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>

本願補正発明においては、第2の作動モードにおける「混合気の吸気移動を支援するため、」少なくとももう1つの燃料噴射が、時間的には点火の前に、直接、燃焼室内に実行され、「もう1つの燃料噴射は、点火直前に実行され、それによって点火時点において混合気の渦が発生」するものであるのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、第2燃料噴射は、点火時期直前に実行されるものの、部分負荷域における混合気の吸気移動を支援するために実行されるものであるか、また、それによって点火時点において混合気の渦が発生するか不明である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

本願補正発明においては、「第2の作動モードにおいて、点火としてマルチスパーク点火が実行される」のに対し、
刊行物1に記載された発明においては、部分負荷域において、点火としてマルチスパーク点火が実行されるか不明である点(以下、「相違点2」という。)。

上記各相違点について検討する。

<相違点1>について
刊行物1において、第2燃料噴射において、点火時点において混合気の渦が発生することは明記がないが、エンジンの燃料噴射弁による燃料噴射によって混合気の渦が発生し、混合気の吸気移動を促進させることは技術常識であり、刊行物1に記載された発明において、混合気の吸気移動を支援するために第2燃料噴射は点火時期直前に実行されるものとし、混合気の渦を発生させるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2>について

刊行物2には、エンジンの点火装置に関して、燃焼性の悪い部分負荷の領域において、燃焼性を向上させるために、多点火を行う技術(以下、「刊行物2技術」という。)が開示されている。
そして、刊行物1に記載された発明においても、部分負荷域で燃焼性が悪いことは当然認識されていることであるから、燃焼性を向上させるために、部分負荷域において多点火を実行することは、当業者が容易になし得ることである。
ここで、刊行物1に記載された発明は、部分負荷域において、第2燃料噴射による渦が生じるものであるところ、刊行物2技術の多点火は、スワールを発生しないときに行うものであるが、刊行物2技術は、点火のための電力の消耗を低減するために、スワール発生時の多点火を制限するものであって、刊行物2の従来技術にあるように、スワール発生とは関係なく多点火を行うことも技術的に可能であるから、刊行物1に記載された発明において、電力の消耗の低減よりも燃焼性の向上を重視して、渦が生じているときに、多点火を行うものとしても格別不自然ではない。

なお、燃焼性が悪くなる低回転低負荷時などで、マルチスパーク点火を実行することは、上記刊行物2のほか、例えば、特開平2-146264号公報(特に、第2ページ左上欄第17行ないし右上欄第2行及び第5ページ左下欄第15行ないし右下欄第4行)に記載されるように周知でもある。

以上からすると、刊行物1に記載された発明において、刊行物2技術を適用して、相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば、容易に想到し得たことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明及び刊行物2技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件発明について

1.本件発明

平成28年11月9日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、平成28年2月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項1に記載されたとおりのものである。

2.刊行物

原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物1(特開2004-360524号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)のとおりのものが記載されている。

3.対比・判断

本件発明は、上記第2[理由][2]で検討した本件補正発明の発明特定事項のうち、「前記もう1つの燃料噴射は、点火直前に実行され、それによって点火時点において混合気の渦が発生し、」及び「前記第2の作動モードにおいて、前記点火としてマルチスパーク点火が実行される」という発明特定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び刊行物2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.まとめ
以上のとおり、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
上記第3のとおり、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-17 
結審通知日 2017-08-22 
審決日 2017-09-07 
出願番号 特願2015-502137(P2015-502137)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
P 1 8・ 575- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 和人  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 松下 聡
佐々木 芳枝
発明の名称 内燃機関の作動方法  
代理人 赤澤 日出夫  

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