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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1336977 |
審判番号 | 不服2017-752 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-18 |
確定日 | 2018-02-20 |
事件の表示 | 特願2014- 62394「炭化珪素装置および炭化珪素装置の形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月30日出願公開,特開2014-207444,請求項の数(15)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成26年3月25日を出願日とする出願(パリ条約優先権主張,平成25年3月26日,アメリカ合衆国,(以下,左の日を「本願優先日」という。),平成25年9月23日,アメリカ合衆国)であって,その手続の経緯は以下のとおりである。 平成26年 3月26日 審査請求 平成27年 2月12日 拒絶理由通知 平成27年 7月 1日 意見書・手続補正書 平成28年 2月24日 拒絶理由通知 平成28年 5月26日 意見書・手続補正書 平成28年 9日13日 拒絶査定(以下,「原査定」という。) 平成29年 1月18日 審判請求・手続補正書 平成29年 9月12日 拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。) 平成29年12月12日 意見書・手続補正書 第2 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。なお,「第2」における引用文献1ないし7は,「第5」以降の原審引用文献1ないし7に対応する。 (進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ●理由(特許法第29条第2項)について ・請求項1?7,13?14 ・引用文献1?4 ・備考 本願の請求項1の記載によれば,同請求項における「遮断領域」とは,「前記炭化珪素基板の前記主面は前記無機パッシベーション層構造の前記遮断領域内では前記無機パッシベーション層構造により覆われておらず」との事項を満たすものである。一方,引用文献2の図2によれば,引用文献2の「炭化珪素半導体基板1」(本願の「炭化珪素基板」に相当。)主面の一部(エッジ)は「絶縁膜4」(本願の「無機パッシベーション層構造」に相当。)により覆われていないことが見て取れる。そうすると,引用文献2の「絶縁膜4」は,「前記炭化珪素基板の前記主面は前記無機パッシベーション層構造の前記遮断領域内では前記無機パッシベーション層構造により覆われておらず」との事項を満たすものであり,この点について,本願の請求項1と引用文献2に差異は認められない。 そこで,本願の請求項1と引用文献2を比較すると,引用文献2には,「前記無機パッシベーション層構造に隣接する成形材料層とを含み」「前記成形材料層は前記無機パッシベーション層構造の前記遮断領域を貫通する」との事項が記載されていない点で,本願の請求項1と相違する。 しかしながら,上記拒絶理由通知書において指摘したとおり,炭化珪素装置をエポキシ樹脂等の成形材料層で被覆することは,引用文献1,3?4にも記載された周知の技術であるから,引用文献2に当該周知技術を適用することは,当業者が容易になし得たことである。そして,引用文献1に当該周知技術を適用すれば,引用文献1の図2に開示された構造からみて,「成形材料層」が「無機パッシベーション層構造に隣接」し「無機パッシベーション層構造の前記遮断領域を貫通する」との事項を自然に充足することは,明らかである。 したがって,本願の請求項1は引用文献1?4から容易になし得たものである。また,本願の請求項2?7,13?14の事項は,いずれも引用文献1?4のいずれかに記載された事項であるから,本願の請求項2?7,13?14についても上記と同様に,引用文献1?4から容易になし得たものである。 平成28年5月26日付け意見書において出願人は,引用文献には「遮断領域」について記載も示唆もない旨主張しているが,上記検討のとおり,引用文献2の「炭化珪素半導体基板1」が「絶縁膜4」に覆われていない領域を有することは図2から明らかであり,当該領域が本願における「遮断領域」に相当することは明らかである。出願人の主張は採用できない。 ・請求項8?12,15 ・引用文献1?7 ・備考 炭化珪素装置において,エッジ領域内に位置する少なくとも1つのエッジ終端領域を設ける構成は,引用文献5(段落[0040]?[0049]及び図1?2),引用文献6(段落[0048]?[0049]及び図6F?6J),及び,引用文献7(段落[0019]?[0023]及び図1)に記載された周知の構成であるから,引用文献1において当該周知の構成を採用することは,当業者が適宜なし得たことである。また,請求項9?12については,特に引用文献6(「薄い炭化ケイ素層120」が本願の「炭化珪素表面層」に相当。)を参照。 本願の請求項8?12,15は引用文献1?7から容易になし得たものである。 以上のとおり,本願の請求項1?15は引用文献1?7から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2013-26249号公報 2.特開2012-235171号公報 3.特開2012-151354号公報 4.国際公開第2006/38644号 5.特開2003-101039号公報 6.特表2009-524217号公報 7.特開2012-156153号公報 第3 当審拒絶理由通知の概要 当審拒絶理由通知の概要は以下のとおりである。なお,「第3」における引用文献1,2は,「第5」以降の当審引用文献1,2に対応する。(下線部は当審にて付与した。) 1.(サポート要件)本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 2.(明確性)本件出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 3.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・理由 1(サポート要件) ・請求項 1?15 本願の請求項1及び14に係る発明における技術的課題は,炭化珪素装置の半導体表面では,1.5MV/cmを越える範囲の電界が炭化珪素装置のエッジ領域において発生する可能性があり,ポリイミドのような良好な降伏耐性(>)3MV/cm)を有する材料のパッシベーションが必要であるが,ポリイミドパッシベーション膜には,炭化珪素の腐食を引き起こし得る湿気を集積してしまうので,パッシベーション膜の耐圧と耐湿を課題としたものである(明細書段落【0003】,【0004】参照)。 前記技術的課題を解決するためには,炭化珪素基板の少なくとも1つの領域が2.3MV/cmの電界を含む一方で,炭化珪素基板に対して配置された無機パッシベーション構造の表面における電界が,炭化珪素装置の特定の能動状態,換言すれば,炭化珪素装置が通常または目的動作条件下で最大全電流を供給するまたは定格電流を供給する状態(定格電流とは,当該定格電流について,装置により到達されるべき寿命の50%を越える間,能動状態において装置が供給することができる電流ことをいう。)において,無機パッシベーション層構造の表面における電界が500kV/cmより低くなるように構成される炭化珪素装置およびその形成方法であることが必須と認められる。(無機パッシベーション層構造の表面における電界が500kV/cmより低くなる構造だけでは,1.5MV/cmを越える範囲の電界が炭化珪素装置のエッジ領域において発生した場合,耐圧特性を満足しない点に留意。明細書段落【0007】,【0035】?【0037】) しかし,請求項1及び14には,前記下線部分の記載が特定されておらず,技術的課題を解決するための手段が反映されていないため,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することとなっている。 したがって請求項1及び請求項14は,サポート要件を満たしていない。 また,請求項1を引用する請求項2ないし13,請求項14を引用する請求項15にも同様の拒絶理由が存する。 ・理由 2(明確性) ・請求項 1?15 請求項1及び請求項14において「炭化珪素装置の能動状態」という記載は,どのような状態を意味するのか,明らかでない。 また,請求項1を引用する請求項2ないし13,請求項14を引用する請求項15にも同様の拒絶理由が存する。 ・理由 3(進歩性) ・請求項 1-13 ・引用文献 1,2 引用文献1の,特に,【0014】?【0025】及び図2には, 炭化珪素半導体基板1と, 横方向に,前記基板1の主面を少なくとも端部を除き覆う絶縁膜4(請求項1において「横方向に前記炭化珪素基板の主面を少なくとも部分的に覆う無機パッシベーション層構造」に相当)を備えた炭化珪素装置(以下,「引用装置発明1」という。) が開示されている。 請求項1に係る発明と引用文献1とを比較すると以下の点で相違する。 (相違点1) 請求項1に係る発明では,無機パッシベーション層構造に隣接する成形材料層を含み,前記無機パッシベーション層構造は少なくとも1つの遮断領域を含み,前記成形材料層は前記無機パッシベーション層構造の遮断領域を貫通しているのに対して,引用発明1には,成形材料層を有しない点。 (相違点2) 請求項1に係る発明では,前記成形材料層に接触する前記無機パッシベーション層構造の表面における電界が前記炭化珪素装置の能動状態において500kV/cmより低くなるように構成されるのに対して,引用装置発明1は,基板表面上に形成される絶縁膜4の表面の電界について,特に留意していない点。 以下,前記各相違点について検討する。 (相違点1について) 炭化珪素基板を用いた半導体素子をパッケージする際,当該半導体素子を保護するために,エポキシ等の封止材(請求項1において「成形材料層」に相当)を用いて成形・封止することは,半導体素子の実装技術として常套手段であり,引用装置発明1において,当該常套手段を採用することに格別な困難性は認められず,当該常套手段を採用した際に,エポキシ等の封止材は,端面において絶縁膜4を通り抜けて直接基板に接する構成(請求項1において「前記成形材料層は前記無機パッシベーション層構造の遮断領域を貫通している」に相当)に至る。 (相違点2について) 引用文献2の,【0019】,【0020】及ぶ図4には,半導体素子をパッケージする際,チップ表面に発生する電界に留意するという技術的事項が開示されており,引用装置発明1において,当該技術的事項に配慮して,絶縁膜4に印加される電界をできるだけ低くなるように構成すること(請求項1において「500kV/cmより低くなるように構成すること」に相当する。)は,当業者が容易に想到し得た事項である。 また,請求項1を引用する請求項2?13に係る発明においても,同様の拒絶理由が存する。 ・理由 3(進歩性) ・請求項 14,15 ・引用文献 1,2 引用文献1の,特に,【0014】?【0025】及び図2には,以下の発明(以下,「引用形成方法発明1」という。)が記載されている。 横方向に,基板1の主面を少なくとも端部を除き覆う絶縁膜4(請求項14において「横方向に前記炭化珪素基板の主面を少なくとも部分的に覆う無機パッシベーション層構造」に相当)を形成する工程を含む炭化珪素装置の製造方法。 請求項14に係る発明と,引用形成方法発明1とを対比すると以下の各点で相違する。 (相違点1) 請求項14に係る発明では,無機パッシベーション層構造に隣接して成形材料層を形成する工程を含み,前記無機パッシベーション層構造は少なくとも1つの遮断領域を含み,前記成形材料層は前記無機パッシベーション層構造の遮断領域を貫通しているのに対して,引用形成方法発明1には,成形材料層を形成する工程を有しない点。 (相違点2) 請求項14に係る発明では,前記成形材料層に接触する前記無機パッシベーション層構造の表面における電界が前記炭化珪素装置の能動状態において500kV/cmより低くなるように構成されるのに対して,引用形成方法発明1は,基板表面上に形成される絶縁膜4の表面の電界について,特に留意していない点。 以下,前記各相違点について検討する。 (相違点1について) 炭化珪素基板を用いた半導体素子をパッケージする際,当該半導体素子を保護するために,エポキシ等の封止材(請求項14において「成形材料層」に相当)を用いて成形・封止することは,半導体素子の実装技術として常套手段であり,引用形成方法発明1において,当該常套手段を採用することに格別な困難性は認められず,当該常套手段を採用した際に,エポキシ等の封止材は,端面において絶縁膜4を通り抜けて直接基板に接する構成(請求項14において「成形材料層は無機パッシベーション層構造の遮断領域を貫通し」に相当)に至る。 (相違点2について) 引用文献2の,【0019】,【0020】及ぶ図4には,半導体素子をパッケージする際,チップ表面に発生する電界に留意するという技術的事項が開示されており,引用形成方法発明1において,当該技術的事項に配慮して,絶縁膜4に印加される電界をできるだけ低くなるように構成すること(請求項14において「500kV/cmより低くなるように構成すること」に相当する。)は,当業者にとって設計的事項である。 また,請求項14を引用する請求項15に係る発明においても,同様の拒絶理由が存する。 <引用文献等一覧> 1.特開2012-235171号公報 2.特開2005-277287号公報 第4 本願発明 本願請求項1ないし15に係る発明(以下,「本願発明1」ないし「本願発明15」という。)は,平成29年12月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 炭化珪素基板と, 横方向に前記炭化珪素基板の主面を少なくとも部分的に覆う無機パッシベーション層構造と, 前記無機パッシベーション層構造に隣接する成形材料層とを含む炭化珪素装置であって, 前記無機パッシベーション層構造は少なくとも1つの遮断領域を含み,前記炭化珪素基板の前記主面は前記無機パッシベーション層構造の前記遮断領域内では前記無機パッシベーション層構造により覆われておらず,前記成形材料層は前記無機パッシベーション層構造の前記遮断領域を貫通し, 炭化珪素基板の少なくとも1つの領域が少なくとも2.3MV/cmの電界を含む一方で,炭化珪素基板に対して配置された無機パッシベーション構造の表面における電界が,炭化珪素装置の特定の能動状態,換言すれば,炭化珪素装置が通常または目的動作条件下で最大全電流を供給するまたは定格電流を供給する状態(定格電流とは,当該定格電流について,装置により到達されるべき寿命の50%を越える間,能動状態において装置が供給することができる電流のことをいう。)において,500kV/cmより低くなるように構成される, 炭化珪素装置。 【請求項2】 前記成形材料層は前記炭化珪素基板の少なくとも主面全体に沿って延びる,請求項1に記載の炭化珪素装置。 【請求項3】 前記成形材料層は,エポキシ樹脂,シリカ,またはシリカゲルのうちの少なくとも1つを少なくとも主に含む,請求項1に記載の炭化珪素装置。 【請求項4】 前記成形材料層は,間にポリイミド材料の無い前記無機パッシベーション層構造に隣接して配置される,請求項1に記載の炭化珪素装置。 【請求項5】 前記無機パッシベーション層構造は少なくとも1つの第1層と第2層を含み,前記第1層は酸化珪素を少なくとも主として含み,前記第2層は窒化珪素を少なくとも主として含む,請求項1に記載の炭化珪素装置。 【請求項6】 前記第2層は前記成形材料層に隣接して配置される,請求項5記載の炭化珪素装置。 【請求項7】 前記炭化珪素基板は前記炭化珪素基板のエッジにおいて前記炭化珪素基板の能動領域を囲むエッジ領域を含み,前記無機パッシベーション層構造は,少なくとも前記エッジ領域内の前記炭化珪素基板と前記成形材料層に接触して配置される,請求項1に記載の炭化珪素装置。 【請求項8】 前記炭化珪素基板は前記炭化珪素基板のエッジにおいて前記炭化珪素基板の能動領域を囲むエッジ領域を含み,前記炭化珪素基板は,主として第1の導電型と,前記炭化珪素基板の前記能動領域を囲む前記エッジ領域内に位置する少なくとも1つのエッジ終端領域とを有するエピタキシャル炭化珪素層を含み,前記エッジ終端領域は第2の導電型を有する,請求項1に記載の炭化珪素装置。 【請求項9】 前記炭化珪素基板は,第1の導電型と,前記エピタキシャル炭化珪素層内に位置する第2の導電型を有する埋め込み横方向炭化珪素エッジ終端領域とを有するエピタキシャル炭化珪素層を含み,前記埋め込み横方向炭化珪素エッジ終端領域は前記第1の導電型を含む炭化珪素表面層により覆われる,請求項8に記載の炭化珪素装置。 【請求項10】 前記炭化珪素表面層は前記エピタキシャル炭化珪素層の一部であり,前記埋め込み横方向炭化珪素エッジ終端領域は,前記炭化珪素表面層に相当する前記エピタキシャル炭化珪素層の表面領域を通して前記エピタキシャル炭化珪素層中に前記第2の導電型のイオンを注入することにより作製される注入領域である,請求項9に記載の炭化珪素装置。 【請求項11】 前記炭化珪素表面層は前記埋め込み横方向炭化珪素エッジ終端領域を含む前記エピタキシャル炭化珪素層の上に堆積されるエピタキシャル層である,請求項9に記載の炭化珪素装置。 【請求項12】 前記炭化珪素表面層は前記炭化珪素装置のエッジ近くの前記埋め込み横方向炭化珪素エッジ終端領域の外側端から前記炭化珪素装置の能動領域まで横方向に延び,前記能動領域は前記炭化珪素表面層に覆わずに残される,請求項9に記載の炭化珪素装置。 【請求項13】 前記炭化珪素装置は,ショットキーダイオード,マージピンショットキーダイオード,pnダイオード,バイポーラトランジスタ,電界効果トランジスタ,金属酸化物半導体トランジスタ,または接合電界効果トランジスタを含む,請求項1に記載の炭化珪素装置。 【請求項14】 横方向に炭化珪素基板の主面を少なくとも部分的に覆う無機パッシベーション層構造を形成する工程と,前記無機パッシベーション層構造に隣接して成形材料層を形成する工程と,を含む炭化珪素装置の形成方法であって, 前記無機パッシベーション層構造は少なくとも1つの遮断領域を含み,前記炭化珪素基板の前記主面は前記無機パッシベーション層構造の前記遮断領域内では前記無機パッシベーション層構造により覆われておらず,前記成形材料層は前記無機パッシベーション層構造の前記遮断領域を貫通し, 炭化珪素基板の少なくとも1つの領域が少なくとも2.3MV/cmの電界を含む一方で,炭化珪素基板に対して配置された無機パッシベーション構造の表面における電界が, 炭化珪素装置の特定の能動状態,換言すれば,炭化珪素装置が通常または目的動作条件下で最大全電流を供給するまたは定格電流を供給する状態(定格電流とは,当該定格電流について,装置により到達されるべき寿命の50%を越える間,能動状態において装置が供給することができる電流のことをいう。)において,500kV/cmより低くなるように構成される,方法。 【請求項15】 少なくとも,第1の導電型を含む炭化珪素構造のエピタキシャル炭化珪素層を形成する工程と,前記エピタキシャル炭化珪素層内に位置する第2の導電型を含む埋め込み横方向炭化珪素エッジ終端領域を形成する工程とをさらに含み, 前記埋め込み横方向炭化珪素エッジ終端領域は前記第1の導電型を含む炭化珪素表面層により覆われるように形成される,請求項14に記載の方法。」 第5 引用文献,引用発明等 1 原査定の引用文献1について 原査定で引用された,特開2013-26249号公報(以下,「原審引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(下線は当審において付加した。以下同じ。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,半導体装置構造(または半導体集積回路装置)および半導体装置の製造方法におけるダイオードデバイス技術または製造技術に適用して有効な技術に関する。」 イ 「【0110】 次に,図28および図29に示すように,金属ベースシート16(ステンレスシート)上に集積された半導体チップ2,メタル端子(第1の外部リード9aおよび第2の外部リード9b),ワイヤ11a,11b等からなるチップ-端子集合体をモールド金型のキャビティ等にセットして,たとえばエポキシ系樹脂等を用いて,たとえばトランスファモールド(圧縮モールドでも良い)等により,金属ベースシート16の上面部分を封止して,レジン封止体10を形成する(図15のモールド工程62)。」 ウ 「【0138】 また,前記実施の形態では,シリコン単結晶基板等のシリコン系半導体基板上にPN接合を複数形成する例を具体的に説明したが,基板等の材質は,これに限らず,GaAs,SiGe,SiC,GaN,InP等でもよいことはいうまでもない。」 前記アないしウの記載から,原審引用文献1には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「ダイオードデバイス技術または製造技術において,エポキシ系樹脂等を用いて,トランスファモールド(圧縮モールドでも良い)等により,金属ベースシート16の上面部分を封止し,基板等の材質はSiCであるもの。」 2 原査定の引用文献2について 原査定で引用された特開2012-235171号公報(以下,「原審引用文献2」という。)は,当審拒絶理由通知の引用文献1と同一文献であるから,記載事項等については,後記8を参照のこと。 3 原査定の引用文献3について 原査定で引用された,特開2012-151354号公報(以下,「原審引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,炭化珪素(以下,SiCという)にて構成される半導体パワー素子を備えたSiC半導体装置に関するものである。」 イ 「【課題を解決するための手段】 【0008】 上記目的を達成するため,請求項1に記載の発明では,放熱板(2)の上に絶縁材(3)を介して配線パターン(4)に実装され,半導体パワー素子が形成されてなるSiCにて構成された第1半導体チップ(7)を備え,該第1半導体チップ(7)をモールド樹脂(11)にて覆ったSiC半導体装置において,モールド樹脂(11)のうち第1半導体チップ(7)の周囲を囲み該第1半導体チップ(7)に隣接している箇所の温度を検出する温度センサを備えていることを特徴としている。」 ウ 「【0033】 モールド樹脂11は,例えばシリコーン樹脂やエポキシ樹脂等,一般的な樹脂モールドに用いられる樹脂材料によって構成されている。このモールド樹脂11の耐熱温度は,例えば150?200℃となっており,SiCの耐熱温度(250℃程度)よりも低い温度となっている。」 前記アないしウの記載から,原審引用文献3には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「炭化珪素(以下,SiCという)にて構成される半導体パワー素子を備えたSiC半導体装置に関するもので,半導体パワー素子が形成されてなるSiCにて構成された第1半導体チップ(7)を備え,該第1半導体チップ(7)をモールド樹脂(11)にて覆ったSiC半導体装置において,モールド樹脂(11)は,エポキシ樹脂によって構成されている。」 4 原査定の引用文献4について 原査定で引用された,国際公開第2006/38644号(以下,「原審引用文献4」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「技術分野 [0001]本発明は,高耐電圧半導体素子を樹脂で覆って高耐電圧化をはかった半導体装置に関する。」 イ 「[0013]《第1実施例》 本発明の第1実施例の高耐電圧半導体装置及びその製造方法について図1から図7を参照して説明する。 図1は本発明の第1実施例の高耐電圧半導体装置である,耐電圧5kVの高耐電圧SiCダイオード装置の断面図である。図1において,パッケージを構成する金属基板1の中央部にSiCダイオード素子(チップ)2が高温半田等で接着されている。SiCダイオード素子2のアノード電極4はリード線4aでアノード端子5に接続されている。SiCダイオード素子2の力ソード電極6はリード線6aで力ソード端子7に接続されている。アノード端子5及び力ソード端子7は金属基板1からガラス等の絶縁材8により絶縁されている。 上記のように金属基板1上に構成されたSiC半導体素子2,リード線4a,6a及びアノード端子5及び力ソード端子7の金属基板1の上面からの突出部分を覆うように,熱硬化性の封止用の樹脂9を塗布する。 (中略) [0014]樹脂9としては一般的な熱硬化性樹脂を用いることができる。熱硬化性樹脂の例としてはエポキシ樹脂がある。(省略)」 前記ア,イの記載から,原審引用文献4には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「高耐電圧SiCダイオード装置において,金属基板1上に構成されたSiC半導体素子2と,金属基板1の上面からの突出部分を覆うように,熱硬化性の封止用の樹脂9を塗布し,熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂のもの。」 5 原査定の引用文献5について 原査定で引用された,特開2003-101039号公報(以下,「原審引用文献5」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,高耐圧半導体装置に関する。」 イ 「【0040】先ず,図1及び図2は,本発明の第1の実施形態にかかる高耐圧半導体装置を示している。図1は断面図であり,図2は上面図である。ここでは高耐圧半導体装置のひとつとして,ショットキーバリアダイオードを説明する。図2中A-Bで切った断面図が図1中A-Bに相当する。 【0041】図1に示すように,このショットキーバリアダイオードは,n^(-)型半導体層1と,n^(-)型半導体層1の表面に形成されたp^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9を具備している。 【0042】n^(-)型半導体層1の表面には,複数のp^(+)型高不純物濃度層からなる第1ガードリング層11が形成されている。これら第1ガードリング層11は,エッジターミネーション層9の周囲に位置するように形成されている。第1ガードリング層11は,エッジターミネーション層9と不純物濃度も同程度である。第1ガードリング層11は,複数層あるほうが効果を高くすることができる。 【0043】n^(-)型半導体層1の表面には,エッジターミネーション層9及び第1ガードリング層11を内部に含むようにp^(-)型低不純物層からなるリサーフ層10が形成されている。リサーフ層10は,エッジターミネーション層9及び第1ガードリング層11よりも低い不純物濃度である。」 ウ 「【0050】(中略)半導体層1として,SiC(シリコンカーバイド)を用いた。(省略)」 前記アないしウの記載から,原審引用文献5には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「高耐圧半導体装置のひとつとして,ショットキーバリアダイオードについて,ショットキーバリアダイオードは,n^(-)型半導体層1と,n^(-)型半導体層1の表面に形成されたp^(+)型高不純物濃度層からなるエッジターミネーション層9を具備し,n^(-)型半導体層1の表面には,複数のp^(+)型高不純物濃度層からなる第1ガードリング層11が形成され,エッジターミネーション層9及び第1ガードリング層11を内部に含むようにp^(-)型低不純物層からなるリサーフ層10が形成され,半導体層1として,SiC(シリコンカーバイド)を用いたもの。」 6 原査定の引用文献6について 原査定で引用された,特表2009-524217号公報(以下,「原審引用文献6」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,マイクロエレクトロニクスデバイスに関し,より詳細には,炭化ケイ素デバイスのためのエッジ終端に関する。」 イ 「【0048】 図6Fは,本発明のさらなる実施形態による,エッジ終端構造の製造方法を示している。図6Fに示すように,炭化ケイ素層30の上に,薄い炭化ケイ素層120が形成されている。炭化ケイ素層120は,注入層及び/又はエピタキシャル層でもよく,またその表面電荷補償領域及び/又は表面電荷補償層に関して前述したような厚さ及びドーピングレベルを有することもできる。 【0049】 図6Gは,マスク層140の形成及びパターン形成を示す図である。マスク層140は,従来のマスキング技術を利用して形成することができ,表面電荷補償領域に対応している。マスク中の窓(ウィンドウ)は,接合32及び/又はガードリング34に対応する。マスク層140をイオン注入マスクとして利用して,イオンが炭化ケイ素層30中に注入されて,接合32及び/又はガードリング34が設けられる(図6H)。次いで,マスク層140を除去し(図6I),絶縁層26を形成する(図6J)。絶縁層26は,例えば,熱酸化及び/又は酸化膜を堆積させることによって形成される。」 前記ア,イの記載から,原審引用文献6には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「炭化ケイ素デバイスのためのエッジ終端に関するエッジ終端構造の製造方法において,炭化ケイ素層30の上に,薄い炭化ケイ素層120が形成され,炭化ケイ素層120は,注入層及び/又はエピタキシャル層でもよく,マスク層140をイオン注入マスクとして利用して,イオンが炭化ケイ素層30中に注入されて,接合32及び/又はガードリング34が設けられ,マスク層140を除去し,絶縁層26を形成する。」 7 原査定の引用文献7について 原査定で引用された,特開2012-156153号公報(以下,「原審引用文献7」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 この発明は,炭化けい素等のワイドバンドギャップ半導体で作製された半導体素子を備えた半導体装置に関する。」 イ 「【0019】 図1は,この発明の半導体装置の実施形態の断面図である。この実施形態は,半導体素子としてSiC pn接合ダイオード(pinダイオード)10を備える。このSiC pn接合ダイオード10を銅製の支持体1の上面1Aに載置している。 【0020】 SiC pn接合ダイオード10は,n型SiC基板11と,n型SiC基板11上にエピタキシャル成長で形成されたn型SiCドリフト層12を有する。(中略) 【0021】 また,SiC pn接合ダイオード10は,n型SiCドリフト層12上に形成されたp型SiCアノード層13を有する。(中略) 【0022】 このp型SiCアノード層13は,反応性イオンエッチング(RIE)により両端部を除去してメサ構造に加工する。(中略) 【0023】 次に,エッチングにより形成したメサ底部での電界集中を緩和するために,メサ底部に幅250μm,深さ0.7μmのp型JTE(ジャンクション・ターミネーション・エクステンション)15を設けた。このp型JTE15は,Alイオン注入により形成した。(省略)」 前記ア,イの記載から,原審引用文献7には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「炭化けい素等のワイドバンドギャップ半導体で作製された半導体素子を備えた半導体装置に関するもので,半導体素子としてSiC pn接合ダイオード(pinダイオード)10を備え,SiC pn接合ダイオード10は,n型SiC基板11と,n型SiC基板11上にエピタキシャル成長で形成されたn型SiCドリフト層12,n型SiCドリフト層12上に形成されたp型SiCアノード層13を有し,p型SiCアノード層13は,反応性イオンエッチング(RIE)により両端部を除去してメサ構造に加工し,メサ底部にp型JTE(ジャンクション・ターミネーション・エクステンション)15を設けた。」 8 当審の引用文献1について (1)当審引用文献1に記載事項 当審で引用された,特開2012-235171号公報(以下,「当審引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【0001】 本発明は,炭化珪素ショットキダイオードに関するものである。」 イ 「【0014】 本発明の炭化珪素ショットキダイオード10は,図2に示すようにn型の炭化珪素半導体基板1の表面に形成されるアノードのためのショットキ電極2と,該ショットキ電極2の周囲を取囲むべく,炭化珪素半導体基板1の表面にp型のガードリング3と,該ガードリング3上に延在すると共に当該ガードリング3の周囲を取囲むように炭化珪素半導体基板1の表面上に延在する絶縁膜4と,炭化珪素半導体基板1の裏面に形成されるカソードのための裏面電極5と,ショットキ電極2上に形成される半田とを備えており,ショットキ電極2は炭化珪素半導体基板1の表面上においてガードリング3に接し,かつ絶縁膜4上にも延在するように形成されている。」 ウ 「【0020】 炭化珪素半導体基板1のエピタキシャル層12の表面上に形成される絶縁膜4は,積層構造であり,例えば下から順に熱酸化膜を0.06μmの厚さ寸法およびPSGを1μmの厚さ寸法で形成後,更にその上に窒化膜を0.1μmの厚さ寸法で形成する。」 エ 「【0024】 また,ガードリング3の内側表面の例えば10μmには絶縁膜4が延在しておらず,この部位にはショットキ電極2の端部が延在している。ガードリング3の内側表面に延在するショットキ電極2により,ガードリング3およびショットキ電極2が電気的に接続される。」 (2)当審引用装置発明 前記アないしエから,当審引用文献1には,以下の発明(以下,「当審引用装置発明」という。)が記載されているものと認められる。 「炭化珪素ショットキダイオードに関するもので,炭化珪素ショットキダイオードは,n型の炭化珪素半導体基板の表面に形成されるアノードのためのショットキ電極と,該ショットキ電極の周囲を取囲むべく,炭化珪素半導体基板の表面にp型のガードリングと,該ガードリング上に延在すると共に当該ガードリングの周囲を取囲むように炭化珪素半導体基板の表面上に延在する絶縁膜と,ショットキ電極は炭化珪素半導体基板の表面上においてガードリングに接し,かつ絶縁膜上にも延在するように形成され,絶縁膜は積層構造であり,下から順に熱酸化膜,PSG,更にその上に窒化膜を形成し,ガードリングの内側表面には絶縁膜が延在しておらず,この部位にはショットキ電極の端部が延在している。」 (3)当審引用形成方法発明 前記アないしエから,当審引用文献1には,以下の発明(以下,「当審引用形成方法発明」という。)が記載されているものと認められる。 「炭化珪素ショットキダイオードに関するもので,炭化珪素ショットキダイオードは,n型の炭化珪素半導体基板の表面に形成されるアノードのためのショットキ電極と,該ショットキ電極の周囲を取囲むべく,炭化珪素半導体基板の表面にp型のガードリングと,該ガードリング上に延在すると共に当該ガードリングの周囲を取囲むように炭化珪素半導体基板の表面上に延在する絶縁膜と,ショットキ電極は炭化珪素半導体基板の表面上においてガードリングに接し,かつ絶縁膜上にも延在するように形成され,絶縁膜は積層構造であり,下から順に熱酸化膜,PSG,更にその上に窒化膜を形成し,ガードリングの内側表面には絶縁膜が延在しておらず,この部位にはショットキ電極の端部が延在している炭化珪素ショットキダイオードの形成方法。」 2 当審の引用文献2について 当審で引用された,特開2005-277287号公報(以下,「当審引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,半導体装置に関するものであり,特に,1つの半導体パッケージ内に高電圧駆動の半導体素子チップと低電圧駆動の半導体素子チップとが配置されている半導体装置に関するものである。」 イ 「【0014】 高電圧ICチップ2において,高電圧回路,これに接続された高電圧導入用ボンディングワイヤなどの高電圧回路部の周辺部分には高電圧印加による高電界が発生し,低電圧ICチップ3の回路内半導体素子動作に悪影響を及ぼす場合がある。その悪影響のメカニズムの一例として,高電圧導入用ボンディングワイヤから発生する高電界が周囲の封止材1である例えばモールド樹脂を分極させ,その電荷がチップ表面に集積して局所的に高電界化した結果,その個所に存在する半導体素子の閾値電圧を狂わせてリーク電流を大きくする,等が考えられる。」 ウ 「【0017】 以下,上記のように配置された電界緩和用ボンディングワイヤ5の作用について詳細に説明する。図2(a)に平面図で示すような,電気絶縁性の封止材により封止された1つの半導体パッケージ内に高電圧ICチップ2と低電圧ICチップ3とが配置されている半導体装置をモデルとして,低電圧ICチップ3上の直線AB上での電界強度を計算した結果の一例を図4に示す。(省略)」 前記アないしウの記載から,当審引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる 「1つの半導体パッケージ内に高電圧駆動の半導体素子チップと低電圧駆動の半導体素子チップとが配置されている半導体装置に関するもので,高電圧回路部の周辺部分には高電圧印加による高電界が発生し,低電圧ICチップの回路内半導体素子動作に悪影響を及ぼす場合があり,1つの半導体パッケージ内に高電圧ICチップ2と低電圧ICチップ3とが配置されている半導体装置をモデルとして,低電圧ICチップ3上の直線AB上での電界強度を計算した結果を示すもの。」 第6 判断 1 サポート要件及び明確性について 平成29年12月12日の手続補正によって,請求項1及び14には, 「炭化珪素基板の少なくとも1つの領域が少なくとも2.3MV/cmの電界を含む一方で,炭化珪素基板に対して配置された無機パッシベーション構造の表面における電界が,炭化珪素装置の特定の能動状態,換言すれば,炭化珪素装置が通常または目的動作条件下で最大全電流を供給するまたは定格電流を供給する状態(定格電流とは,当該定格電流について,装置により到達されるべき寿命の50%を越える間,能動状態において装置が供給することができる電流のことをいう。)において」という技術的事項が追加されたことにより,サポート要件及び明確性に関する拒絶理由は解消した。 2 進歩性について (1)本願発明1について ア 本願発明1と当審引用装置発明の対比 (ア)当審引用装置発明の「n型の炭化珪素半導体基板」は,本願発明1の「炭化珪素基板」に相当する。 (イ)当審引用装置発明の「ガードリング上に延在すると共に当該ガードリングの周囲を取囲むように炭化珪素半導体基板の表面上に延在する絶縁膜」は,「積層構造であり」,当該炭化珪素半導体基板の表面上に延在することから,横方向に当該炭化珪素半導体基板の主面を少なくとも部分的に覆い,保護膜であるパッシベーション膜として機能するので,後記相違点(1)を除き,本願発明1の「横方向に前記炭化珪素基板の主面を少なくとも部分的に覆うパッシベーション層構造」に相当する。 (ウ)当審引用装置発明の「ガードリングの内側表面には絶縁膜が延在しておらず,この部位にはショットキ電極が延在している」ことから,「ガードリングの内側表面には絶縁膜が延在して」いない部位があり,「この部位」が本願発明1の「遮断領域」に相当するので,前記(イ)を考慮すると,本願発明1の「パッシベーション層構造は少なくとも1つの遮断領域を含み,炭化珪素基板の主面は前記パッシベーション層構造の前記遮断領域内では前記パッシベーション層構造により覆われておらず」という点で共通する。 そうすると,本願発明1と当審引用装置発明とは下記(エ)の点で一致し,(オ)の点で相違する。 (エ)一致点 「炭化珪素基板と, 横方向に前記炭化珪素基板の主面を少なくとも部分的に覆うパッシベーション層構造を含む炭化珪素装置であって, 前記パッシベーション層構造は少なくとも1つの遮断領域を含み,前記炭化珪素基板の前記主面は前記パッシベーション層構造の前記遮断領域内では前記パッシベーション層構造により覆われていない炭化珪素装置。」 (オ)相違点 相違点(1) 本願発明1では,パッシベーション層構造は,「無機パッシベーション層構造」であるのに対して,当審引用装置発明では,「絶縁膜は積層構造であり,下から順に熱酸化膜,PSG,更にその上に窒化膜を形成」したものであり,当該積層構造が,無機であることについて明記していない点。 相違点(2) 本願発明1では,「前記無機パッシベーション層構造に隣接する成形材料層とを含」み,「前記成形材料層は前記無機パッショベーション構造の遮断領域を貫通」するのに対して,当審引用装置発明では,成形材料層を有しない点。 相違点(3) 本願発明1では,「炭化珪素基板の少なくとも1つの領域が少なくとも2.3MV/cmの電界を含む一方で,炭化珪素基板に対して配置された無機パッシベーション構造の表面における電界が,炭化珪素装置の特定の能動状態,換言すれば,炭化珪素装置が通常または目的動作条件下で最大全電流を供給するまたは定格電流を供給する状態(定格電流とは,当該定格電流について,装置により到達されるべき寿命の50%を越える間,能動状態において装置が供給することができる電流のことをいう。)において,500kV/cmより低くなるように構成される」のに対して,当審引用装置発明では,基板表面上に形成される絶縁膜の表面の電界について,特に,明示されていない点。 イ 相違点についての検討 以下,相違点(3)について検討する。 相違点(3)に関する構成は,当審引用文献2には記載されておらず,示唆もされていない。 そして,当該相違点(3)を有することにより,本願発明1には以下の有利な効果を奏する。 すなわち,少なくとも2.3MV/cmの電界が炭化珪素基板内に発生するが,無機パッシベーション構造の外面における電界を500kV/cm未満に低減することができる。このようにして,ポリミイドより良好な耐湿性を有するポリミイド以外の様々な有機材料を,無機パッシベーション構造の上の追加パッシベーション層に利用することができる。または,成形材料は,無機パッシベーション構造に隣接して実現することができる。炭化珪素装置の破壊挙動と長期信頼性を改善することができる。(本願明細書【0008】参照)。 ウ まとめ したがって,本願発明1は,当審引用文献1および2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)本願発明2ないし13について 本願発明2ないし13は,本願発明1を引用し,本願発明1の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明1が当審引用文献1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2ないし13も当審引用文献1および2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。 (3)本願発明14について ア 本願発明14と当審引用形成方法発明の対比 前記(1)アを考慮すると,本願発明14と当審引用形成方法発明とは下記(ア)の点で一致し,下記(イ)の点で相違する。 (ア)一致点 横方向に炭化珪素基板の主面を少なくとも部分的に覆うパッシベーション層構造を形成する工程と,を含む炭化珪素装置の形成方法であって, 前記パッシベーション層構造は少なくとも1つの遮断領域を含み,前記炭化珪素基板の前記主面は前記パッシベーション層構造の前記遮断領域内では前記無機パッシベーション層構造により覆われていない,方法。 (イ)相違点 相違点(1) 本願発明14では,パッシベーション層構造は,「無機パッシベーション層構造」であるのに対して,当審引用形成方法発明では,「絶縁膜は積層構造であり,下から順に熱酸化膜,PSG,更にその上に窒化膜を形成」したものであり,当該積層構造が,無機であることについて明記していない点。 相違点(2) 本願発明14は,「前記無機パッシベーション層構造に隣接して成形材料層を形成する工程」を含むのに対して,当審引用形成方法発明は,成形材料層を形成する工程を含まない点。 相違点(3) 本願発明14は,「無機パッシベーション層構造に隣接して成形材料層を形成する工程を含み,炭化珪素基板の少なくとも1つの領域が少なくとも2.3MV/cmの電界を含む一方で,炭化珪素基板に対して配置された無機パッシベーション構造の表面における電界が,炭化珪素装置の特定の能動状態,換言すれば,炭化珪素装置が通常または目的動作条件下で最大全電流を供給するまたは定格電流を供給する状態(定格電流とは,当該定格電流について,装置により到達されるべき寿命の50%を越える間,能動状態において装置が供給することができる電流のことをいう。)において,500kV/cmより低くなるように構成される」のに対して,当審引用形成方法発明は,基板表面上に形成される絶縁膜の表面の電界について,特に,明示されていない点。 イ 相違点についての検討 以下,相違点(3)について検討する。 相違点(3)に関する構成は,当審引用文献2には記載されておらず,示唆もされていない。 そして,当該相違点(3)を有することにより,本願発明14には以下の有利な効果を奏する。 すなわち,少なくとも2.3MV/cmの電界が炭化珪素基板内に発生するが,無機パッシベーション構造の外面における電界を500kV/cm未満に低減することができる。このようにして,ポリミイドより良好な耐湿性を有するポリミイド以外の様々な有機材料を,無機パッシベーション構造の上の追加パッシベーション層に利用することができる。または,成形材料は,無機パッシベーション構造に隣接して実現することができる(本願明細書【0008】参照)。このように改善された破壊挙動と長期信頼性を有する炭化珪素装置を少ない労力で提供することができる(本願明細書【0095】参照)。 ウ まとめ したがって,本願発明14は,当審引用文献1および2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本願発明15について 本願発明15は,本願発明14を引用し,本願発明14の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明14が当審引用文献1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明15も当審引用文献1および2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。 第7 原査定について 平成29年12月12日付けの補正により,本願発明1,14は,「炭化珪素基板の少なくとも1つの領域が少なくとも2.3MV/cmの電界を含む一方で,炭化珪素基板に対して配置された無機パッシベーション構造の表面における電界が,炭化珪素装置の特定の能動状態,換言すれば,炭化珪素装置が通常または目的動作条件下で最大全電流を供給するまたは定格電流を供給する状態(定格電流とは,当該定格電流について,装置により到達されるべき寿命の50%を越える間,能動状態において装置が供給することができる電流のことをいう。)において,500kV/cmより低くなるように構成される」という技術的事項を有するものとなった。当該技術的事項は,原審引用文献1ないし7に記載されておらず,本願優先日前における周知技術でもないので,本願発明1,14は,当業者であっても,原審引用文献1ないし7に基づいて容易に発明できたものではない。 また,本願発明2ないし13,及び15は,各々本願発明1,14を引用し,各々本願発明1,14の発明特定事項を全て含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当するから,本願発明1,14が原審引用文献1ないし7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本願発明2ないし13,及び15も原審引用文献1ないし7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。 したがって,原査定の理由を維持することはできない。 第8 結言 以上のとおりであるから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-02-05 |
出願番号 | 特願2014-62394(P2014-62394) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(H01L)
P 1 8・ 121- WY (H01L) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 行武 哲太郎、小川 将之 |
特許庁審判長 |
飯田 清司 |
特許庁審判官 |
深沢 正志 大嶋 洋一 |
発明の名称 | 炭化珪素装置および炭化珪素装置の形成方法 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |