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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C22C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C22C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C22C |
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管理番号 | 1337019 |
異議申立番号 | 異議2016-701124 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-12-08 |
確定日 | 2017-12-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5931554号発明「アルミニウム合金材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5931554号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5931554号の請求項2、3に係る特許を維持する。 特許第5931554号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5931554号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成24年4月13日の出願であって、平成28年5月13日にその特許権の設定登録がなされ、平成28年6月8日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、特許異議申立人森野泰正により特許異議申立てがされ、当審において平成29年3月17日付けで取消理由を通知し、同年5月12日付けで特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され、同年6月21日付けで異議申立人より意見書が提出され、当審において同年8月8日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、同年10月6日付けで特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され、当該訂正請求について異議申立人に意見を求めたところ、異議申立人からは応答がなかったものである。 なお、平成29年10月6日付けで訂正請求がされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、同年5月12日付けの訂正請求は、取り下げられたものとみなす。 第2 平成29年10月6日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の適否について 1 訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 イ 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上である請求項1に記載のアルミニウム合金材。」とあるのを、「化学組成において、Si:0.3?1.2質量%、Mg:0.4?1.2質量%、Fe:0.2?0.7質量%、Ti:0.005?0.1質量%、Cu:0.2?0.45質量%、Cr:0.05?0.25質量%、Mn:0.05?0.3質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、 金属間化合物のうちの円相当直径が0.12?0.25μmのものを中サイズとし、金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、任意の断面のSEM観察による170μm^(2)の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であり、小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上であり、 JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。」と訂正する(請求項3についても同様に訂正する。)(なお、下線部は訂正箇所である。以下、同様。)。 ウ 訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する中サイズ金属間化合物と小サイズ金属間化合物の合計個数に対して中サイズ金属間化合物の占める割合が30%以下である請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。」とあるのを、 「金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する中サイズ金属間化合物と小サイズ金属間化合物の合計個数に対して中サイズ金属間化合物の占める割合が30%以下である請求項2に記載のアルミニウム合金材。」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 ア 訂正事項1について 訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 イ 訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったところ、請求項1との引用関係を解消して、独立形式の請求項へ改めるための訂正であって、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。 さらに、訂正事項2は、アルミニウム合金材の強度および伸びが「JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上であること」を特定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり(「JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上であること」の点については、【0027】の記載に基づくものである。)、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 ウ 訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1、2の記載を引用する記載であったところ、請求項1との引用関係を解消して、請求項2のみを引用する請求項へ改めるための訂正であって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 なお、本件特許異議申立ては、訂正前の請求項1?3の全てについて申立てがされているので、特許法第120条の5第9項のとおり、いわゆる独立特許要件の規定の適用はない。 また、訂正前の請求項2、3は、それぞれ訂正前の請求項1を引用しており、訂正事項1による請求項1の削除に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1-3に対応する訂正後の請求項1-3は一群の請求項である。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?3についての訂正を認める。 第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 化学組成において、Si:0.3?1.2質量%、Mg:0.4?1.2質量%、Fe:0.2?0.7質量%、Ti:0.005?0.1質量%、Cu:0.2?0.45質量%、Cr:0.05?0.25質量%、Mn:0.05?0.3質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、 金属間化合物のうちの円相当直径が0.12?0.25μmのものを中サイズとし、金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、任意の断面のSEM観察による170μm^(2)の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であり、小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上であり、 JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。 【請求項3】 金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する中サイズ金属間化合物と小サイズ金属間化合物の合計個数に対して中サイズ金属間化合物の占める割合が30%以下である請求項2に記載のアルミニウム合金材。」 第4 取消理由について 1 取消理由の内容 本件訂正請求による訂正前の、平成29年5月12日付け訂正請求により訂正された本件請求項1ないし3に記載された発明に係る特許に対し、当審において、平成29年8月8日付け取消理由通知(審決の予告)により通知した取消理由は、以下のとおりである。 「第3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 化学組成において、Si:0.3?1.2質量%、Mg:0.4?1.2質量%、Fe:0.2?0.7質量%、Ti:0.005?0.1質量%、Cu:0.2?0.45質量%、Cr:0.05?0.25質量%、Mn:0.05?0.3質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、 金属間化合物のうちの円相当直径が0.12?0.25μmのものを中サイズとし、金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、任意の断面のSEM観察による170μm2の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であり、小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。 【請求項3】 金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する中サイズ金属間化合物と小サイズ金属間化合物の合計個数に対して中サイズ金属間化合物の占める割合が30%以下である請求項2に記載のアルミニウム合金材。」 第4 取消理由について 「本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 具体的理由は、特許異議申立書の第25頁第13行?第27頁第12行参照のこと。」 そして、その具体的内容は概略、以下のとおりである。 「ア 本件特許に係る発明の課題は、「・・・強度と所望形状への成形をするための伸びとを高いレベルで兼ね備えたアルミニウム合金材が求められている」というものである。 イ そして、本件特許の請求項1は、「SEM観察による170μm2の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であ」ることを規定しており、 中サイズ金属間化合物の個数のみが規定され、 (X)小サイズ金属間化合物の個数が非常に少ないアルミニウム材や (Y)円相当直径0.25μmを超える大きなサイズの金属間化合物の個数が多いアルミニウム合金材も含むものとなっている。 ウ 本件特許の表1?4を確認すると、中サイズ金属間化合物の個数が100個以下となる実施例は、全て小サイズ金属間化合物の個数が多く、前記(X)や(Y)のアルミニウム材が、『強度』と『伸び』に優れていることは確認できない。 エ 本件特許の表1?4以外の箇所においても、前記(X)や(Y)のアルミニウム材が、『強度』と『伸び』に優れていると判断できるような記載ないし示唆は存在しない。 加えて、本件特許の出願時において、小サイズ金属間化合物の個数が少ないと『強度』と『伸び』が向上するといった技術常識や、大サイズ金属間化合物の個数が多いと『強度』と『伸び』が向上するといった技術常識も存在しない。 オ 以上より、本件特許の請求項1に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていることから、本件請求項1の記載は、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしていない。 カ 本件請求項2,3には、大サイズ金属間化合物について規定されておらず、本件請求項2、3に係る発明は、上記(Y)のアルミニウム材を含んでいるものの、このアルミニウム材が前記の課題を解決できるとは当業者であろうと判断できない。 キ 以上より、本件特許の請求項2、3に係る発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えていることから、本件請求項1の記載は、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしていない。 2 判断 本件訂正は認められるので、本件請求項2、3に係る発明は、上記「第3」のとおりである。 そして、本件請求項2、3に係る発明は、金属間化合物に関して、「金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、任意の断面のSEM観察による170μm^(2)の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であり、小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上である」こと、「金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する中サイズ金属間化合物と小サイズ金属間化合物の合計個数に対して中サイズ金属間化合物の占める割合が30%以下である」ことのみを特定事項とするものであって、「(Y)円相当直径0.25μmを超える大きなサイズの金属間化合物の個数が多いアルミニウム合金材も含むもの」になっている。 これに対し、本件明細書の【表1】には、下記のとおりの実施例1?11、比較例12?13が示されている。 この内、実施例6のアルミニウム合金材のSEM画像である下記図1を見ると、円相当直径が0.25μmを超える大きなサイズ金属間化合物が少なくとも1個確認できるが、該アルミニウム合金材は、引張強度、0.2%耐力が高く、良好な伸びを有するものである。 一方、本件明細書全体の記載を見ても、「(Y)円相当直径0.25μmを超える大きなサイズの金属間化合物の個数が多いアルミニウム合金材」が高い強度と良好な伸びを有していることは確認できず、また、大サイズ金属間化合物の個数が多いと『強度』と『伸び』が向上するといった技術常識も存在しない。 そうすると、大サイズの金属間化合物の個数の特定の有無にかかわらず、「・・・強度と所望形状への成形をするための伸びとを高いレベルで兼ね備えたアルミニウム合金材が求められている」との課題を解決するといえるには、アルミニウム合金材について、高い強度と良好な伸びを有することの特定を要するものと認められるところ(なお、【0027】には、「本発明において、高い強度とはJIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、良好な伸びとは同試験方法による伸びが15%以上である。」と記載されている。)、本件請求項2、3には、その特定がないことから、本件請求項2、3に係る発明は、上記課題を解決し得ないものを含んでいるといわざるを得ない。 したがって、本件請求項2、3の記載は、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしているとはいえない。 3 まとめ よって、本件請求項2、3に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」 2 判断 本件訂正は認められるので、本件請求項2、3に係る発明は、上記「第3」のとおりである。 そして、本件請求項2、3に係る発明は、金属間化合物に関して、「金属間化合物のうちの円相当直径が0.12?0.25μmのものを中サイズとし、金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、任意の断面のSEM観察による170μm^(2)の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であり、小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上であ」ること、及び「金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する中サイズ金属間化合物と小サイズ金属間化合物の合計個数に対して中サイズ金属間化合物の占める割合が30%以下である」ことに加え、「JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上であること」についても特定事項とするものである。 そうすると、本件発明に係るアルミニウム合金材は、「円相当直径0.25μmを超える大きなサイズの金属間化合物」を含む場合があったとしても、「JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上である」ものとして、「強度と所望形状への成形をするための伸びとを高いレベルで兼ね備えたアルミニウム合金材が求められている」との課題を解決するものであるといえる。 したがって、本件請求項2、3の記載は、サポート要件(特許法第36条第6項第1号)を満たしていないとはいえない。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由 特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 (1)本件請求項1?3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 よって、本件請求項1?3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するから、取り消すべきものである。 (2)本件請求項1?3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明(及び技術常識)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件請求項1?3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するから、取り消すべきものである。 2 甲各号証の記載事項 (1)甲第1号証(「6061 アルミニウム合金の結晶粒度に及ぼす熱間加工条件およびCrとZr含有量の影響」 軽金属 第58巻第4号(2008)p.151-156) (1a)「2 実験方法 2.1 実験用板材の作製 Table 1に示す組成の6061アルミニウム合金およびCr、Zr含有量を変えた計5種類の合金の70mm厚スラブをDC鋳造した。・・・ ・・・ 」(p151?152) (1b)「4.考察 溶体化処理後の結晶粒径と熱間圧縮条件を示すZパラメータとの間にFig.3に示す関係が見出された。この現象を理解するために、Zパラメータの値が大(1.79×1013s-1:573K-2s-1)、中(2.13×109s-1:673K-0.02s-1)、小(7.97×106s-1:773K-0.002s-1)の各条件で熱間圧縮、急冷した後の組織を観察した。・・・Zパラメータが大きい場合は、加工ひずみを蓄積したファイバ組織を呈するのに対して(a)、Zパラメータが中(b)あるいは小(c)の場合は、細かい再結晶粒組織を示す。これらの組織を透過電子顕微鏡で観察した結果がFig.6である。 ・・・ ・・・ 」(p.154) (2)甲第2号証(「JIS H4100(1988)」) (2a) 「 」 (3)甲第3号証(「アルミニウムおよびアルミニウム合金の電子顕微鏡直接観察」 軽金属 Vol.18. No.1 (1968) p.49?67) (3a)「普通の電子顕微鏡(加速電圧100kV程度)で金属を観察するには大別してつぎの2つの方法がある。・・・ ・・・。第2の方法は厚さ2000?5000Åの金属薄膜をつくり、これに電子線を直接透過させて薄膜内部の構造を観察するもので、普通直接観察法または透過法と呼ばれているものである。」(p.49 左欄第2?12行) (4)甲第4号証(「高分解能FE-SEM/ESB/ASBの拓くあらたなナノ表面分析の世界」 軽金属 第56巻 第8号(2006)p.454?456) (4a)「最新の高分解能FE-SEMの重要な特徴の一つは、加速電圧がわずか100Vでも試料が観察できることである。・・・ ・・・加速電圧が数百Vでは、おそらく表面から1nm以下の際表面からの上方が得られていると推定される。」(p.457左欄下から3行?右欄第7行) (5)甲第5号証(「6062アルミニウム合金の力学的性質に及ぼす溶体化処理後の冷却速度の影響」 軽金属 第51巻第3号(2009)p.128?133) (5a)「 ・・・ ・・・ 2.実験方法 2.1 供試材 供試材は6061アルミニウム合金である。Table 1にその化学組成を示す。」(p.308) (6)甲第6号証(「6000系アルミニウム合金の人工時効挙動に及ぼす自然時効と復元処理の影響」 軽金属 第59巻 第3号(2009) p.128?133) (6a)「 ・・・ ・・・ 2.実験方法 試料は6061,6N01,6022合金の圧延板3種類を使用した。 ・・・ それぞれ分析組成と厚さ0.5mmまでの冷間圧延後の溶体化処理温度をTable 1に示す。」 (7)甲第7号証(特開2011-149096号公報) (7a)「【0016】 (Feについて) Feは、再結晶粒の粗大化を防止し、靱性向上に寄与する元素である。しかし多量に添加した場合、AlFeSi金属間化合物が過剰晶出することにより、Mg2Siの析出量が低減し強度低下を招く。また、AlFeSi金属間化合物が粗大化することで、破断の起点となり伸びを低下させる。Feの添加量は、おおむね0.40wt%以下が好ましい。 【0017】 (Cuについて) Cuは、Mg2Siの析出を緻密且つ微細にし、強度の向上に寄与する。また、粒界におけるPFZの狭小化により、伸び向上にも寄与する元素である。 ・・・ 【0019】 (Mnについて) Mnは、再結晶粒の粗大化を防止し、靱性向上に寄与する元素である。しかし多量に添加した場合、焼入れ感受性が高まり、溶体化処理後の冷却が緩慢であると強度が低下する。また、粗大晶出物が生じることで、加工性が低下するとともに破断の起点となり、伸びを低下させる。Mnの添加量は、おおむね1.00wt%以下が好ましい。 ・・・ 【0021】 (Crについて) Crは、再結晶粒の粗大化を防止し、靱性向上に寄与する元素である。しかし多量に添加した場合、焼入れ感受性が高まり、溶体化処理後の冷却が緩慢であると強度が低下する。また、粗大晶出物が生じることで、加工性が低下するとともに破断の起点となり、伸びを低下させる。Crの添加量は、おおむね0.30wt%以下が好ましい。」 (8)甲第8号証(「アルミニウム材料の基礎と工業技術」社団法人日本アルミニウム協会 昭和60年5月1日 第44頁) (8a)「i)粗大化合物粒子 アルミニウム合金には、再結晶防止、再結晶粒径の調整、強度の向上、応力腐食割れ防止などいろいろな目的で、Mn、Cr,Zrなどの遷移元素が添加される。・・・特に厚みのある大型鋳塊は、中心部で凝固時の冷却速度が遅くなるので、初晶として粗大な金属間化合物が晶出することがある。・・・ 粗大な金属間化合物の存在は、熱間加工性の低下、成形加工性、疲労強度、並びに靱性などの劣化の原因となるので、その生成を防止する必要がある。」(第2?9行) 3 甲第1号証記載の発明 上記(1a)及び技術常識によれば、実験用板材である6061アルミニウム合金(Table1におけるベース合金60)の化学組成は、「Si:0.65質量%、Fe:0.30質量%、Cu:0.31質量%、Mn:0.05質量%、Mg:1.00質量%、Cr:0.17質量%を含有し、残部Al及び不可避不純物」である。 なお、6061合金には、通常、0.01?0.03質量%のTiが含まれるものである(甲第5、6号証)。 また、上記(1b)によれば、該6061アルミニウム合金板材に対して、773K-0.002s-1の条件で熱間圧縮、急冷した後の合金板材の、ある断面の透過電子顕微鏡画像が(c)として示されている。 そして、該画像について、画像解析ソフト(WinRoof Ver.6.3三谷商事株式会社)を用いて画像解析を行い、各金属間化合物の面積と円相当径直径を求めると、以下のようになる。 そして、画像解析した部分の面積は、約38.6μm2であり、円相当直径が0.12?0.25μmの金属間化合物は12個であり、 0.05μm以上で0.12μm未満の金属間化合物は51個である。 そうすると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。 「化学組成において、Si:0.65質量%、Fe:0.30質量%、Cu:0.31質量%、Mn:0.05質量%、Mg:1.00質量%、Cr:0.17質量%、Ti:0.01?0.03質量%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなり、 特定の断面のTEM観察による約38.6μm^(2)の視野内に存在する金属間化合物のうちの、円相当直径が0.12?0.25μmの金属間化合物は12個であり、0.05μm以上で0.12μm未満の金属間化合物は51個であるアルミニウム合金板材。」(以下、「甲1発明」という。) 4 対比・判断 本件請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)と甲1発明を対比すると、甲1発明における「アルミニウム合金板材」は、本件発明2における「アルミニウム合金材」に相当する。 よって、両者は、以下の一致点、相違点を有する。 (一致点) 「化学組成において、Si:0.65質量%、Mg:1.00質量%、Fe:0.30質量%、Ti:0.01?0.03質量%、Cu:0.31質量%、Cr:0.17質量%、Mn:0.05質量%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなる、アルミニウム合金材。」 (相違点) 本件発明2では、「金属間化合物のうちの円相当直径が0.12?0.25μmのものを中サイズとし、金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、任意の断面のSEM観察による170μm^(2)の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であり、小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上であり、JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上である」のに対して、甲1発明では、「特定の断面のTEM観察による約38.6μm^(2)の視野内に存在する金属間化合物のうちの、円相当直径が0.12?0.25μmの金属間化合物は12個であり、0.05μm以上で0.12μm未満の金属間化合物は51個である」点。 ア 上記相違点について検討すると、甲第3、4号証の記載によれば、透過電子顕微鏡(TEM)による観察は、対象物の2000?5000Å(0.2?0.5μm)の深さ方向の情報を得るのに対して、SEMは、対象の最表面(1nm(0.001μm)以下)の情報を得るものであるから、同じ状態の観察対象に対しては、SEM観察の結果の方が、TEM観察の結果よりも金属間化合物の個数が多くなることはないといえる。 しかしながら、甲1発明のアルミニウム合金板材全体における金属間化合物の存在状態は明らかでないことから、ある特定の断面の約38.6μm^(2)の視野内に存在する金属間化合物のうちの、円相当直径が0.12?0.25μmの金属間化合物は12個であり、0.05μm以上で0.12μm未満の金属間化合物は51個であるとしても、任意の断面の170μm^(2)の視野内に存在する金属間化合物についての結果がどうなるかは不明である。 なお、異議申立人は、甲1発明のアルミニウム合金板材における任意の170μm^(2)の視野において観察した金属間化合物のうち、円相当直径が0.12?0.25μmの個数、及び0.05μm以上で0.12μm未満の個数を、特定の38.6μm^(2)の視野において観察した金属間化合物のうちの円相当直径が0.12?0.25μmの個数、及び0.05μm以上で0.12μm未満の個数に、それぞれ170/38.6を乗じたものとして認定している(異議申立書第8頁下から8行?第9頁第4行)が、上記のとおり、甲1発明のアルミニウム合金板材全体における金属間化合物の存在状態は明らかでないのであるから、このように認定できるかも不明である。 したがって、該相違点は実質的な相違点である。 イ また、本件発明の技術的意義は、本件明細書の【0001】、【0012】、【0029】、【表1】?【表4】によれば、強度と伸びが高いレベルで両立した、すなわち、「JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上」であるアルミニウム合金材とするために、化学組成と任意の断面の170μm^(2)視野内の中サイズ金属間化合物、及び小サイズ金属間化合物の個数分布を規定したものと認められる。 これに対し、甲第7、8号証に記載のとおり、6000系合金を含むアルミニウム合金材全般において、粗大な金属間化合物は、伸び、加工性、強度等を低下させることから、金属間化合物の微細化は、加工性、強度等を向上させるために一般的に要求される事項であるとはいえるものの、強度と伸びが高いレベルで両立するために、具体的に、任意の断面の170μm^(2)視野内の中サイズ金属間化合物、及び小サイズ金属間化合物の個数分布を規定し、「JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上」であるアルミニウム合金材とすることは、甲第2?8号証の記載を見ても、容易になし得ることとは認められない。 したがって、本件請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 そして、本件請求項2を引用する本件請求項3に係る発明についても同様である。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項2及び3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項2及び3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件特許の請求項1に係る特許に対して特許異議申立人森野泰正がした特許異議申立てについては、対象となる請求項が存在しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 化学組成において、Si:0.3?1.2質量%、Mg:0.4?1.2質量%、Fe:0.2?0.7質量%、Ti:0.005?0.1質量%、Cu:0.2?0.45質量%、Cr:0.05?0.25質量%、Mn:0.05?0.3質量%を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、 金属間化合物のうちの円相当直径が0.12?0.25μmのものを中サイズとし、円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、任意の断面のSEM観察による170μm^(2)の視野内に存在する中サイズ金属間化合物が100個以下であり、小サイズ金属間化合物の個数が中サイズ金属間化合物の個数の2倍以上であり、 JIS Z2241金属材料引張試験方法による0.2%耐力が420MPa以上であり、同試験方法による伸びが15%以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。 【請求項3】 金属間化合物のうちの円相当直径が0.05μm以上で0.12μm未満のものを小サイズとし、前記視野内に存在する中サイズ金属間化合物と小サイズ金属間化合物の合計個数に対して中サイズ金属間化合物の占める割合が30%以下である請求項2に記載のアルミニウム合金材。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-12-12 |
出願番号 | 特願2012-91543(P2012-91543) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C22C)
P 1 651・ 113- YAA (C22C) P 1 651・ 537- YAA (C22C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 松本 陶子 |
特許庁審判長 |
板谷 一弘 |
特許庁審判官 |
長谷山 健 鈴木 正紀 |
登録日 | 2016-05-13 |
登録番号 | 特許第5931554号(P5931554) |
権利者 | 昭和電工株式会社 |
発明の名称 | アルミニウム合金材 |
代理人 | 高田 健市 |
代理人 | 清水 久義 |
代理人 | 高田 健市 |
代理人 | 清水 義仁 |
代理人 | 杉浦 健文 |
代理人 | 清水 義仁 |
代理人 | 清水 久義 |
代理人 | 杉浦 健文 |