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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B60C 審判 全部申し立て 2項進歩性 B60C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B60C 審判 全部申し立て 特174条1項 B60C |
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管理番号 | 1337021 |
異議申立番号 | 異議2017-700200 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-02-28 |
確定日 | 2017-12-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5981108号発明「乗用車用空気入りラジアルタイヤ及びその使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5981108号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-14〕について訂正することを認める。 特許第5981108号の請求項1-14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5981108号の請求項1-14に係る特許についての出願は、平成23年7月28日に特許出願され、平成28年8月5日に特許の設定登録がされ、その後、平成29年2月28日に特許異議申立人 山内生平(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年5月17日付けで取消理由が通知され、同年7月24日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、同年9月5日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年10月10日に意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正請求の趣旨及び訂正内容 本件訂正請求の趣旨は、特許第5981108号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?14について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正後の変更部分を示す。 1 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、「トレッド端に隣接するトレッド幅方向最外側陸部」と記載されているのを、「前記タイヤ赤道面上に位置する陸部とは異なるトレッド幅方向最外側陸部」に訂正する(請求項1の記載を直接的または間接的に引用する請求項2-14も同様に訂正する。)。 2 訂正事項2 特許請求の範囲の請求項13に、「トレッド端に隣接するトレッド幅方向最外側陸部」と記載されているのを、「前記トレッド幅方向最外側陸部」に訂正する(請求項13の記載を引用する請求項14も同様に訂正する。)。 第3 訂正の適否についての判断 1 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の「トレッド端に隣接するトレッド幅方向最外側陸部」との事項について、平成29年5月17日付けの取消理由通知において明確でない旨の指摘を受けたことに対して、同年7月24日付けの意見書及び同年10月10日付けの意見書における主張も勘案すると、「前記タイヤ赤道面上に位置する陸部とは異なるトレッド幅方向最外側陸部」との事項とし、「トレッド幅方向最外側陸部」が「タイヤ赤道面上に位置する陸部」とは溝などで分断された構成であることを明確にするまたは減縮するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、上記の特定により同法同条第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 訂正事項2は、訂正事項1に併せて請求項1と請求項13の記載の整合をとるものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 2 新規事項について 訂正事項1、2は、願書に添付した【図6】等に記載した事項より導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1、2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 3 拡張・変更の存否について 上記1のとおり、訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、上記の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 4 一群の請求項について 訂正事項1は、訂正前の請求項1-14を訂正するものであり、訂正事項2は、訂正前の請求項13-14を訂正するものであって、訂正前の請求項2-14は請求項1を直接的又は間接的に引用するため、請求項1-14は一群の請求項である。 したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項に適合するものである。 5 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-14〕について訂正を認める。 第4 特許異議の申立てについて 1 本件特許発明 特許第59811084号の請求項1-14に係る特許は、それぞれ、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1-14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1-14に係る特許発明(以下「本件特許発明1」-「本件特許発明14」という。)は、以下のとおりである。 「【請求項1】 一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列コードのプライからなるカーカスと、トレッドとを備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、 前記トレッドの踏面をトレッド幅方向に6つの領域に等分し、トレッド幅方向中央の2つの領域をセンタ部とし、該センタ部のトレッド幅方向両外側の他の4つの領域をショルダ部とするとき、 前記トレッド踏面に、前記センタ部の少なくとも一部分と、タイヤ赤道面を境界とする少なくとも片側のショルダ部の少なくとも一部分とに跨ってトレッド幅方向に延びる、少なくとも1本の横溝を有し、 前記横溝の各々は、前記センタ部でのトレッド周方向に対する傾斜角度θ1が、前記ショルダ部でのトレッド周方向に対する傾斜角度θ2より小さく、 前記タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下であり、前記タイヤの断面幅は、155mm以上であり、 前記トレッド踏面のネガティブ率は、20%以下であり、 前記タイヤは、回転方向が指定され、 前記横溝の各々は、タイヤ赤道面上に位置する陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向の逆方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であり、かつ、前記タイヤ赤道面上に位置する陸部とは異なるトレッド幅方向最外側陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であることを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項2】 前記横溝のトレッド周方向のピッチ間隔Pは、トレッド幅をTWとするとき、 P/TW≧0.2 を満たす、請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項3】 前記横溝の少なくとも一端がトレッド端に開口し、当該開口部での、前記横溝がトレッド周方向に対する傾斜角度θ2は、40°?75°である、請求項1又は2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項4】 タイヤ赤道面における、前記横溝の溝深さをδgとし、タイヤ赤道面における、前記トレッド踏面からタイヤ径方向最外側補強部材までのトレッドゴムの厚さをδtとするとき、 δg/δt ≦0.85 を満たす、請求項1?3のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項5】 前記タイヤのタイヤサイズは、155/55R21、165/55R21、155/55R19、155/70R17、165/55R20、165/65R19、165/70R18、155/45R21のいずれかである、請求項1?4のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項6】 前記横溝は、タイヤ赤道面を中心として対称に配置されている、請求項1?5のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項7】 前記横溝は、タイヤ赤道面を中心として非対称に配置されている、請求項1?5のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項8】 前記トレッド踏面に、周方向主溝を2本のみ設けてなる、請求項6又は7に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項9】 前記横溝のトレッド周方向のピッチ間隔Pは、トレッド幅をTWとするとき、 P/TW≦0.45 を満たす、請求項1?8のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項10】 前記トレッド踏面のネガティブ率が10%以上である、請求項1?9のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項11】 タイヤ赤道面における、前記横溝の溝深さをδgとし、タイヤ赤道面における、前記トレッド踏面からタイヤ径方向最外側補強部材までのトレッドゴムの厚さをδtとするとき、 δg/δt ≧0.65 を満たす、請求項1?10のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項12】 前記横溝は、タイヤ赤道面において、トレッド幅方向に延びている、請求項1?11のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項13】 前記タイヤは、回転方向が指定され、 トレッド周方向に隣接する2つの前記横溝に区画される、前記トレッド幅方向最外側陸部における、トレッド端側の2つの角部のうち、指定された前記タイヤ回転方向の逆方向側の角部は、鋭角である、請求項1?12のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項14】 請求項1?13のいずれか一項に記載のタイヤを、内圧を250kPa以上として使用することを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤの使用方法。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1-14に係る特許に対して平成29年5月17日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 〔理由1〕 本件特許の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 〔理由2〕 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 〔理由3〕 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 〔理由4〕 平成28年6月27日に提出された手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 〔理由5〕 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 〔理由1〕に対して 引用文献1:特開2000-190706号公報 (異議申立人が提出した甲第1号証) 引用文献2:特開2004-224249号公報(同甲第3号証) 引用文献3:特開2005-67267号公報(同甲第4号証) 引用文献4:特開平4-43105号公報(同甲第5号証) 引用文献5:特開平4-126612号公報(同甲第6号証) 引用文献6:特開平5-338415号公報(同甲第7号証) 引用文献7:特開2006-321320号公報(同甲第8号証) 引用文献8:特開2005-219537号公報(同甲第12号証) 〔理由2〕、〔理由3〕について 請求項1に「トレッド端に隣接するトレッド幅方向最外側陸部」との記載があるが明確でない。 上記の指摘事項は従属する請求項2-14についても同様である。 よって、請求項1-14に係る発明は、明確でないし、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1-14に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものともいえない。 〔理由4〕、〔理由5〕について 請求項7に、「前記横溝は、タイヤ赤道面を中心として非対称に配置されている」(以下「事項A」という。)との記載がある。 一方、請求項7が引用する請求項1には、平成28年6月27日付け手続補正により、「前記横溝の各々は、タイヤ赤道面上に位置する陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向の逆方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であり」(以下「事項B」という。)との記載が追加された。 以上のことから、請求項7に係る発明は、事項Aと事項Bの両者を有するものということになるが、事項Aと事項Bの両者を有するものは、当初明細書等に記載されているとはいえないし、当初明細書等の記載から自明ともいえない。 また、同様に請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されているともいえない。 上記の指摘事項は従属する請求項8-14についても同様である。 3 取消理由についての判断 (1)〔理由1〕について ア 引用文献1の記載事項 取消理由で通知した引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。 (ア)「【請求項1】 左右一対のビード部と、両ビード部に跨がってトロイド状に延びるカーカス層と、前記カーカス層のクラウン部半径方向外側に配置されるトレッド部と、前記トレッド部の内側に配置されたベルト層と、を備えた空気入りタイヤであって、 前記カーカス層は、2枚以下のカーカスプライで構成され、前記カーカスプライに埋設されているコードのタイヤ赤道面に対する角度が70°?90°であり、少なくとも1枚のカーカスプライはビード部に埋設されたビードコアをタイヤ内側から外側へ巻き上げており、 前記ベルト層は2枚以下のベルトプライで構成され、少なくとも1枚のベルトプライは600kg/mm^(2)以上の弾性率を有するコードがタイヤ赤道面に対して実質的に0°の角度で螺旋状に巻回されており、 タイヤ最大幅が、装着すべき正規リムのリム径に対して、0.10?0.30倍の範囲にあることを特徴とする空気入りタイヤ。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、低エネルギーで走行する、例えば、ソーラーカー等の省エネルギー走行車両に好適な空気入りタイヤに関する。」 (ウ)「【0010】また、カーカスプライに埋設されているコードのタイヤ赤道面に対する角度が70°?90°、即ち、タイヤがラジアル構造となるため、バイアス構造のタイヤよりも転がり抵抗を少なくすることができる。なお、カーカスプライに埋設されているコードのタイヤ赤道面に対する角度が70°未満になると、タイヤが横力に対して弱くなる。」 (エ)「【0028】図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ10は、左右一対のビード部12、両ビード部12に跨がってトロイド状に延びるカーカス層14と、カーカス層のクラウン部半径方向外側に配置されるトレッド部16と、トレッド部16の内側に配置されたベルト層18とを備えている。 【0029】本実施形態のカーカス層14は、第1のカーカスプライ20及び第2のカーカスプライ22から構成されており、第1のカーカスプライ20及び第2のカーカスプライ22の各々の両端部分がビードコア24の回りをタイヤ内側から外側へ巻き上げられている。 【0030】また、第1のカーカスプライ20及び第2のカーカスプライ22は、何れも複数本のコード(例えば、ナイロン、ポリエステル、芳香族ポリアミド、高張力ビニロン等の有機繊維。図示せず。)を互いに平行に並べてゴムコーティングしたものであり、コードは、トレッド部16においてタイヤ赤道面CLに対する角度が70°?90°の範囲内にあり、第1のカーカスプライ20のコードと第2のカーカスプライ22のコードとは互いに反対方向に傾斜して交差している。 【0031】また、本実施形態のベルト層18は、第1のベルトプライ26及び第2のベルトプライ28の2枚のベルトプライで構成されている。 【0032】タイヤ径方向外側に配置される第1のベルトプライ26は、ゴムコーティングされた600kg/mm^(2)以上の弾性率を有するコード(図示せず。例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)等。)をタイヤ赤道面CLに対して実質的に0°の角度で螺旋状に巻回したものである。 【0033】一方、第2のベルトプライ28は、複数本の600kg/mm^(2)以上の弾性率を有するコード(図示せず。例えば、芳香族ポリアミド(アラミド)等。)を互いに平行に並べてゴムコーティングしたものであり、タイヤ赤道面CLに対する角度が15°?60°の範囲内にある。 【0034】また、この空気入りタイヤ10のタイヤ最大幅Wは、装着すべき正規リム30のリム径Dに対して、0.10?0.30倍の範囲にあり、従来のこの種のタイヤよりも幅狭になっている。」 イ 引用発明 上記ア及び【図1】の記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。 「左右一対のビード部12と、両ビード部12に跨がってトロイド状に延びるカーカス層14と、前記カーカス層14のクラウン部半径方向外側に配置されるトレッド部16と、前記トレッド部16の内側に配置されたベルト層18と、を備えた低エネルギーで走行する、例えば、ソーラーカー等の省エネルギー走行車両に好適な空気入りタイヤ10であって、 前記カーカス層14は、2枚以下のカーカスプライ20、22で構成され、前記カーカスプライ20、22に埋設されているコードのタイヤ赤道面に対する角度が70°?90°、即ち、タイヤがラジアル構造であり、少なくとも1枚のカーカスプライ20、22はビード部12に埋設されたビードコア24をタイヤ内側から外側へ巻き上げており、 前記ベルト層18は2枚以下のベルトプライ26、28で構成され、少なくとも1枚のベルトプライ26、28は600kg/mm^(2)以上の弾性率を有するコードがタイヤ赤道面に対して実質的に0°の角度で螺旋状に巻回されており、 タイヤ最大幅が、装着すべき正規リム30のリム径に対して、0.10?0.30倍の範囲にある空気入りタイヤ10。」 ウ 対比・判断 (ア)本件特許発明1について a 本件特許発明1と引用発明とを対比すると、後者の「ビード部12」は前者の「ビード部」に相当し、以下同様に、「カーカスプライ20、22」は「プライ」に、「カーカス層14」は「カーカス」に、「トレッド部16」は「トレッド」に相当する。 b 後者の「空気入りタイヤ10」は、「前記カーカスプライ20、22に埋設されているコードのタイヤ赤道面に対する角度が70°?90°、即ち、タイヤがラジアル構造であり」というものであるから、「空気入りラジアルタイヤ」といえるものである。 c そうすると、後者の「左右一対のビード部12と、両ビード部12に跨がってトロイド状に延びるカーカス層14と、前記カーカス層14のクラウン部半径方向外側に配置されるトレッド部16と、前記トレッド部16の内側に配置されたベルト層18と、を備えた低エネルギーで走行する、例えば、ソーラーカー等の省エネルギー走行車両に好適な空気入りタイヤ10」と、前者の「一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列コードのプライからなるカーカスと、トレッドとを備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤ」とは、「一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列コードのプライからなるカーカスと、トレッドとを備えた、空気入りラジアルタイヤ」の限度で一致するといえる。 d したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。 [一致点] 「一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列コードのプライからなるカーカスと、トレッドとを備えた、空気入りラジアルタイヤ。」 [相違点1] 「空気入りラジアルタイヤ」について、本件特許発明1が「乗用車用」であり、「前記タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下であり、前記タイヤの断面幅は、155mm以上であり」というものであるのに対し、引用発明は「乗用車用」であることの特定はなく、SW/OD及びタイヤ断面幅の特定がない点。 [相違点2] 「トレッド」の「溝」に関する構造について、本件特許発明1が、 「前記トレッドの踏面をトレッド幅方向に6つの領域に等分し、トレッド幅方向中央の2つの領域をセンタ部とし、該センタ部のトレッド幅方向両外側の他の4つの領域をショルダ部とするとき、 前記トレッド踏面に、前記センタ部の少なくとも一部分と、タイヤ赤道面を境界とする少なくとも片側のショルダ部の少なくとも一部分とに跨ってトレッド幅方向に延びる、少なくとも1本の横溝を有し、 前記横溝の各々は、前記センタ部でのトレッド周方向に対する傾斜角度θ1が、前記ショルダ部でのトレッド周方向に対する傾斜角度θ2より小さく、」 「前記トレッド踏面のネガティブ率は、20%以下であり、 前記タイヤは、回転方向が指定され、 前記横溝の各々は、タイヤ赤道面上に位置する陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向の逆方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であり、かつ、前記タイヤ赤道面上に位置する陸部とは異なるトレッド幅方向最外側陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状である」 との事項を有しているのに対し、引用発明は、当該事項の特定がない点。 e 次に上記相違点について検討する。 [相違点1]について 引用発明は「低エネルギーで走行する、例えば、ソーラーカー等の省エネルギー走行車両に好適な」ものであるが、乗用車用に用いることまでの記載ないし示唆は引用文献1にはない。 ここで、引用文献1において、実施例として具体的に記載されているものは、「実施例1のタイヤのサイズは52/100R17、実施例2のタイヤのサイズは60/100R17、実施例3のタイヤのサイズは120/60R17」(段落【0046】)というものであり、タイヤの断面幅は、それぞれ52mm、60mm、120mmであることから、いずれも「155mm以上」ではなく、通常用いられる17インチの乗用車用空気入りラジアルタイヤよりも明らかに細いものとなっている。 そして、各実施例の試験結果を示す【表1】は以下のとおりである。 上記【表1】を検討するに、引用発明が解決しようとする課題は、走行抵抗を低減することにあるところ(引用文献1の段落【0003】-【0006】)、一番タイヤが太い実施例3は、重量(指数)及び断面積(指数)は各実施例の中で一番大きい値となっており、かつ、転がり抵抗係数(指数)は各実施例の中で一番小さい値となっており、タイヤを太くすることによる他のメリットがあったとしても、本来の課題からみると不利になる方向となっていることが理解できる。 そうすると、引用文献1の記載に接した当業者が、引用発明を「タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下」であり、かつ、「タイヤの断面幅は、155mm以上」の「乗用車用」のものにあえて適用ないし転用しようとする動機付けは見当たらないといえる。 なお、各実施例における本件特許発明1の「SW/OD」に相当する値を計算してみると、実施例1が0.097・・・(=52/(52×1×2+17×25.4)、実施例2が0.109・・・(=60/(60×1×2+17×25.4)、実施例3が0.208・・・(=120/(120×0.6×2+17×25.4)となり、本件特許発明1の「タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下」という条件を一応満たすものではある。 しかしながら、引用発明は、タイヤのサイズに関しては「タイヤ最大幅」と「正規リムのリム径」との比を特定するものであって(【請求項1】)、技術思想として「SW/OD」に着目してなされたものとはいえず、さらに、本件特許明細書の段落【0002】-【0005】に記載される【背景技術】や、段落【0007】-【0008】に記載される【発明が解決しようとする課題】の記載からみて、本件特許発明1においては「タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下」という事項と「タイヤの断面幅は、155mm以上」という事項と「乗用車用」という事項は、技術的にみればセットで把握すべき事項と解するのが相当であるので、引用文献1にSW/ODが0.24以下という条件を満たす実施例が記載されているからといって、引用発明において上記相違点1に係る本件特許発明1の事項を有するものとすることは、当業者であっても容易に想到し得たということはできない。 [相違点2]について 引用文献1においては、その文中に具体的なトレッドパターンの記載はなく、【図1】にも溝を表す記載はない。一方、引用発明の用途として明示のあるソーラーカーに用いられるタイヤであるなら、溝を有するものも知られているが有さないものも知られている。 そうすると、空気入りタイヤにおいて、トレッド踏面に、センタ側の部分の少なくとも一部分と、タイヤ赤道面を境界とする少なくとも片側のショルダ側の部分の少なくとも一部分とに跨ってトレッド幅方向に延びる、少なくとも1本の横溝を有し、横溝の各々は、センタ側の部分でのトレッド周方向に対する傾斜角度が、ショルダ側の部分でのトレッド周方向に対する傾斜角度より小さくしたものは、例えば、引用文献2の【図5】、引用文献3の【図1】、引用文献4の第2図、引用文献5の第1図に示されるように、周知技術(以下「周知技術A」という。)といえるものであり、また、タイヤは、回転方向が指定され、横溝の各々は、タイヤ赤道面上に位置する陸部においては、横溝の各々より指定された前記回転方向の逆方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であり、かつ、トレッド端に隣接するトレッド幅方向最外側陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であるものも、例えば、引用文献2の【図5】、引用文献6の【図1】、引用文献7の【図1】に示されるように、周知技術(以下「周知技術B」という。)といえるものであったとしても、そもそもの溝の存否自体が明らかとはいえない引用発明において、周知技術A、Bの両者を採用することは当業者であっても容易に想到し得たこととはいえないし、また、仮に採用し得たとしても、上記各周知例に「ネガティブ率は、20%以下」という事項の開示はなく、引用発明に周知技術A、Bの両者を採用した上で、さらにネガティブ率を20%以下に変更するということになり、引用発明において上記相違点2に係る本願特許発明1の事項を有するものとすることは、当業者であっても容易に想到し得たということはできない。 f よって、本件特許発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 (イ)本件特許発明2-14について 本件特許発明2-14は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、引用発明、周知技術及び引用文献8に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって、本件特許発明2-14は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。 (ウ)小括 以上のとおりであるから、理由1によっては、請求項1-14に係る特許を取り消すことはできない。 (2)〔理由2〕-〔理由5〕について 上記訂正事項1によって、訂正前の「トレッド端に隣接するトレッド幅方向最外側陸部」との事項を「前記タイヤ赤道面上に位置する陸部とは異なるトレッド幅方向最外側陸部」との事項とし、「トレッド幅方向最外側陸部」が「タイヤ赤道面上に位置する陸部」とは溝などで分断された構成であることが特定されたことによって、理由2、3は解消した。 また、平成29年7月24日付けの意見書及び同年10月10日付けの主張も参酌すると、「事項A」及び「事項B」の両者を有するものが、当初明細書等の記載から当業者にとって自明でないとまではいえず、また、本件特許明細書に記載されたものではないとまでもいえないことから、理由4、5も解消した。 以上のとおりであるから、理由2-5によっては、請求項1-14に係る特許を取り消すことはできない。 4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)異議申立人は、特許異議申立書の第20ページ下から5行-第21ページ第20行において、本件特許発明1と甲1発明の一致点と相違点1?6を主張している。 しかしながら、当審が認定する本件特許発明1と引用文献1(甲第1号証)に記載された引用発明との一致点、相違点は、上記3(1)ウ(ア)dのとおりであり、技術的にみれば、異議申立人の主張のように相互の関係なく相違点を6つに分けることは適切とはいえず、当該主張は採用できない。 (2)また、特許異議申立書の第23ページ第1-7行において、甲第2号証の【図1】及び甲第3号証の【図5】からトレッド踏面のネガティブ率が20%以下であることが看取できる旨主張している。 しかしながら、一般に、願書に添付された図面は、当該発明の技術内容を表現しているものであるが、発明の構成を理解し易くするための補助的作用を営むにすぎず、設計図面のような正確性を要求されるものではないものと解され、そして、甲第2号証及び甲第3号証には当該図面の各部材の寸法等の比率が正確に記載されたものであることの説明はない。 したがって、それら図面からネガティブ率が20%以下であることが看取できるとはいえず、当該主張は採用できない。 なお、仮にネガティブ率が20%以下であることの文章の明示がある証拠が別途存在していたとしても、上記3(1)ウ(ア)eの「[相違点2]について」で述べたとおりであり、そもそもの溝の存否自体が明らかとはいえない引用発明において、周知技術A、Bの両者を採用した上で、さらにネガティブ率が20%以下とすることは、当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。 (3)なお、甲第9-11号証については、本件特許発明1に対する証拠ではなく、各証拠の記載内容を検討しても、上記相違点1、2に係る本件特許発明1の事項を容易想到とすることの根拠となるような記載は見当たらない。 第5 むすび 以上検討したとおり、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1-14に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1-14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 一対のビード部間でトロイダル状に跨るラジアル配列コードのプライからなるカーカスと、トレッドとを備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、 前記トレッドの踏面をトレッド幅方向に6つの領域に等分し、トレッド幅方向中央の2つの領域をセンタ部とし、該センタ部のトレッド幅方向両外側の他の4つの領域をショルダ部とするとき、 前記トレッド踏面に、前記センタ部の少なくとも一部分と、タイヤ赤道面を境界とする少なくとも片側のショルダ部の少なくとも一部分とに跨ってトレッド幅方向に延びる、少なくとも1本の横溝を有し、 前記横溝の各々は、前記センタ部でのトレッド周方向に対する傾斜角度θ1が、前記ショルダ部でのトレッド周方向に対する傾斜角度θ2より小さく、 前記タイヤの断面幅SWと外径ODとの比SW/ODが0.24以下であり、前記タイヤの断面幅は、155mm以上であり、 前記トレッド踏面のネガティブ率は、20%以下であり、 前記タイヤは、回転方向が指定され、 前記横溝の各々は、タイヤ赤道面上に位置する陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向の逆方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であり、かつ、前記タイヤ赤道面上に位置する陸部とは異なるトレッド幅方向最外側陸部においては、前記横溝の各々より指定された前記回転方向側に曲率中心を有するように湾曲した形状であることを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項2】 前記横溝のトレッド周方向のピッチ間隔Pは、トレッド幅をTWとするとき、 P/TW≧0.2 を満たす、請求項1に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項3】 前記横溝の少なくとも一端がトレッド端に開口し、当該開口部での、前記横溝がトレッド周方向に対する傾斜角度θ2は、40°?75°である、請求項1又は2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項4】 タイヤ赤道面における、前記横溝の溝深さをδgとし、タイヤ赤道面における、前記トレッド踏面からタイヤ径方向最外側補強部材までのトレッドゴムの厚さをδtとするとき、 δg/δt ≦0.85 を満たす、請求項1?3のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項5】 前記タイヤのタイヤサイズは、155/55R21、165/55R21、155/55R19、155/70R17、165/55R20、165/65R19、165/70R18、155/45R21のいずれかである、請求項1?4のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項6】 前記横溝は、タイヤ赤道面を中心として対称に配置されている、請求項1?5のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項7】 前記横溝は、タイヤ赤道面を中心として非対称に配置されている、請求項1?5のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項8】 前記トレッド踏面に、周方向主構を2本のみ設けてなる、請求項6又は7に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項9】 前記横溝のトレッド周方向のピッチ間隔Pは、トレッド幅をTWとするとき、 P/TW≦0.45 を満たす、請求項1?8のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項10】 前記トレッド踏面のネガティブ率が10%以上である、請求項1?9のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項11】 タイヤ赤道面における、前記横溝の溝深さをδgとし、タイヤ赤道面における、前記トレッド踏面からタイヤ径方向最外側補強部材までのトレッドゴムの厚さをδtとするとき、 δg/δt ≧0.65 を満たす、請求項1?10のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項12】 前記横溝は、タイヤ赤道面において、トレッド幅方向に延びている、請求項1?11のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項13】 前記タイヤは、回転方向が指定され、 トレッド周方向に隣接する2つの前記横溝に区画される、前記トレッド幅方向最外側陸部における、トレッド端側の2つの角部のうち、指定された前記タイヤ回転方向の逆方向側の角部は、鋭角である、請求項1?12のいずれか一項に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。 【請求項14】 請求項1?13のいずれか一項に記載のタイヤを、内圧を250kPa以上として使用することを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤの使用方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-12-04 |
出願番号 | 特願2011-166042(P2011-166042) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B60C)
P 1 651・ 55- YAA (B60C) P 1 651・ 121- YAA (B60C) P 1 651・ 536- YAA (B60C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 岡▲さき▼ 潤 |
特許庁審判長 |
和田 雄二 |
特許庁審判官 |
平田 信勝 一ノ瀬 覚 |
登録日 | 2016-08-05 |
登録番号 | 特許第5981108号(P5981108) |
権利者 | 株式会社ブリヂストン |
発明の名称 | 乗用車用空気入りラジアルタイヤ及びその使用方法 |
代理人 | 山口 雄輔 |
代理人 | 塚中 哲雄 |
代理人 | 杉村 光嗣 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 山口 雄輔 |
代理人 | 杉村 光嗣 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 塚中 哲雄 |