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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B23K
審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1337023
異議申立番号 異議2017-700698  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-07-18 
確定日 2017-12-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6060739号発明「パワーモジュール用基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6060739号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 特許第6060739号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6060739号の請求項1?6に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成25年 3月 5日に特許出願され、平成28年12月22日に特許権の設定登録がされ、平成29年 1月18日に特許掲載公報が発行され、その後、同年 7月18日付けで本件特許に対し、特許異議申立人である飯田進(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年 9月12日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月17日付けで意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)があり、これに対して申立人から同年11月29日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである。

(1)訂正事項1

本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0042】における「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」を「0.01?0.35MPa」に訂正する。

(2)訂正事項2

本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0043】における「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」を「0.01?0.35MPa」に訂正する。

(3)訂正事項3

本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0044】における「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」を「0.01?0.35MPa」に訂正する。

2 訂正の目的の適否,新規事項の追加の有無,特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア そもそも、単位の換算は当業者の技術常識であるところ、本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0042】にある「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」という記載における前半部分の「0.01?0.35MPa」という圧力範囲を「kgf/cm^(2)」を単位とする圧力範囲に換算すると「Pa」と「kgf/cm^(2)」の関係は、例えば、申立人が提出した甲第7号証(国際科学振興財団編,科学大辞典,丸善株式会社,昭和60年 3月 5日発行,1501頁)における「圧力の換算」と題する表にあるように、
1Pa=1.01972×10^(-5)kgf・cm^(-2)
であるから、上記前半部分の「0.01?0.35MPa」という圧力範囲の換算結果は、小数第1位までの値で「0.1?3.6kgf/cm^(2)」となり、上記記載の後半部分の「(1?35kgf/cm^(2))」という圧力範囲とは異なる。
したがって、上記段落【0042】の「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」という記載に接した当業者は、前半部分の「0.01?0.35MPa」という記載と後半部分の「(1?35kgf/cm^(2))」という記載のいずれかに誤りがあることを理解する。

イ ここで、特許請求の範囲及び本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0017】,【0018】には、圧力の単位として「MPa」が単独で記載されている一方で「kgf/cm^(2)」を単位とする圧力範囲は、段落【0042】,【0043】,【0044】に、MPaで記載された圧力範囲に対する括弧書きという補足的な形態で記載されているのみであるから、特許請求の範囲及び本件訂正前の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、本件特許における圧力の主たる単位はMPaであって、括弧書きで付されたkgf/cm^(2)を単位とする圧力範囲の記載は補足的なものにすぎないことを理解する。

ウ 以上によれば、本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0042】にある「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」という記載における「0.01?0.35MPa」という記載に誤りはなく、「(1?35kgf/cm^(2))」という括弧書きの記載に単位換算の誤りに起因する誤記があることは、当業者にとって明らかである。

エ したがって、訂正事項1に係る本件訂正は、本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0042】にある「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」という記載から、誤記である「(1?35kgf/cm^(2))」という括弧書きの記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2,3について

訂正事項2,3に係る本件訂正についても、訂正事項1に係る本件訂正と同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正請求による訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅金属板とセラミックス基板とを接合するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
Ag、活性金属及び樹脂を含有してなるろう材層を有し、単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量は、Agが1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされるろう付用シートの一方の面に、前記ろう材層と接触するように支持基材を積層してなるシート構成体を用意し、
前記銅金属板に前記シート構成体の前記支持基材とは反対側の表面を接触させて加熱圧着することにより前記銅金属板と前記シート構成体とが積層された金属板積層体を形成する金属板積層工程と、
前記金属板積層体を前記支持基材ごと回路パターン形状に打抜き加工する打抜工程と、
打抜き加工後の前記金属板積層体から前記支持基材を剥がして前記ろう材層を露出させ、
該ろう材層を前記セラミックス基板に接触させ、
これらの積層方向に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で加熱することにより前記銅金属板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成し、
該溶融金属領域を凝固させることにより前記銅金属板と前記セラミックス基板とをろう付けして、前記銅金属板と前記セラミックス基板との接合部に厚み15μm以下のAg-Cu共晶層を形成する接合工程
とを備えることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項2】
銅又は銅合金からなる銅金属板とセラミックス基板とを接合するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
Ag、活性金属及び樹脂を含有してなるろう材層を有し、単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量は、Agが1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされるろう付用シートの一方の面に、前記ろう材層と接触するように支持基材を積層してなるシート構成体を用意し、
前記シート構成体を回路パターン形状に打抜き加工する打抜工程と、
打抜き加工後の前記シート構成体の前記支持基材とは反対側の表面を予め回路パターン形状に形成された前記銅金属板に接触させて加熱圧着することにより、前記銅金属板と前記シート構成体とが積層された金属板積層体を形成する金属板積層工程と、
前記金属板積層体から前記支持基材を剥がして前記ろう材層を露出させ、
該ろう材層を前記セラミックス基板に接触させ、
これらの積層方向に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で加熱することにより前記銅金属板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成し、
該溶融金属領域を凝固させることにより前記銅金属板と前記セラミックス基板とをろう付けして、前記銅金属板と前記セラミックス基板との接合部に厚み15μm以下のAg-Cu共晶層を形成する接合工程
とを備えることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項3】
前記活性金属は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項4】
前記ろう材層にCuが含まれており、前記Agと前記Cuとの配合比率は、Agが100重量部に対し、Cuが1を超え100以下の重量部とされていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記ろう材層の一方の面に、樹脂層が積層されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記ろう材層の厚みと前記樹脂層の厚みとを合計した総厚みが、300μm以下であることを特徴とする請求項5に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。」

2 取消理由の内容

平成29年 9月12日付けで当審から特許権者に通知した取消理由の内容は以下のとおりである。

「第3 取消理由

(実施可能要件)本件特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。



発明の詳細な説明の【0042】【0043】【0044】における『0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))』という記載では『0.01?0.35MPa』と『1?35kgf/cm^(2)』が異なる圧力範囲となっており整合していない。
その理由は、特許異議申立書第27頁第2行?第28頁第1行に記載のとおりである。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1?6に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。」

3 当審の判断

(1)取消理由通知に記載した取消理由について

ア 取消理由通知において引用した申立理由の概要

取消理由通知において引用した特許異議申立書第27頁第2行?第28頁第1行に記載された申立理由の概要は、以下のとおりである。

(ア)本件特許公報の段落【0042】には「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))の圧力で加圧」と記載されているが、甲第7号証の記載によれば、1?35kgf/cm^(2)=0.1?3.5MPaとなるから、上記記載における「(1?35kgf/cm^(2))」という記載は、本件発明1,2の「0.01?0.35MPa」をkgf/cm^(2)の単位に換算したものではなく、当該「0.01?0.35MPa」のうちの好ましい範囲にも該当しない不明瞭な記載である。

(イ)本件発明1,2の「0.01?0.35MPa」という圧力範囲には、特別な加圧手段を伴わない常圧(1atm=0.1MPa)も含まれ、また、本件特許公報の実施例の記載には、加圧工程の説明がないから、本件発明1,2における「加圧した状態」とは加圧手段を要するのか否かが不明確である。

(ウ)以上のことから、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本件特許は、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

イ 当審の判断

(ア)前記「ア」「(ア)」の申立理由について

前記「第2」のとおり、本件訂正によって、本件訂正前の発明の詳細な説明の段落【0042】,【0043】,【0044】における「0.01?0.35MPa(1?35kgf/cm^(2))」という記載から、当業者にとって明らかな誤記であると認められる「(1?35kgf/cm^(2))」という記載が削除されたから、前記「ア」「(ア)」の申立理由は本件訂正によって解消した。

(イ)前記「ア」「(イ)」の申立理由について

a 本件発明1,2における「これらの積層方向に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で加熱すること」に関し、本件訂正後の発明の詳細な説明には以下の記載がある。なお「・・・」は記載の省略を表す。
「【0042】
(接合工程)
次に・・・これらの積層方向(厚み方向)に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。ここで、真空加熱炉内の圧力は10^(-6)Pa以上10^(-3)Pa以下の範囲内に設定し、加熱温度は790℃以上850℃以下の範囲内に設定している。
・・・」

b 前記「a」の記載によれば、本件発明1,2の「銅金属板」,「ろう材層」及び「セラミックス基板」が積層された積層体(以下「積層体」という。)の接合工程では、積層体は、積層方向(厚み方向)に0.01?0.35MPaの圧力範囲に加圧された状態で真空加熱炉内に装入して加熱され、真空炉内の圧力(以下「炉内圧力」という。)は当該圧力範囲を大きく下回る10^(-6)Pa以上10^(-3)Pa以下に設定されているから、特段の加圧手段を用いない場合は、積層体は上記炉内圧力の範囲で加圧されるのにとどまり、積層体を上記圧力範囲で加圧することはできない。
したがって、積層体を上記圧力範囲に加圧した状態で真空炉内に装入して加熱するためには、当該圧力範囲に常圧(0.1MPa)が含まれることとは無関係に、加圧手段による加圧が必要になることは当業者にとって明らかなことである。

c このような加圧手段について、本件訂正後の発明の詳細な説明には具体的な記載はされていない。
しかし、例えば、申立人が提出した甲第3号証(特開2003-55059号公報)に「本発明で使用されるセラミックス基板、金属板、活性金属を含むろう材等については従来のもので充分であ・・・る。」(【0010】),「接合時の加熱条件は、活性金属法又はメタライズ法によるユニットの積層体の場合には、1×10^(-5)Torrの高真空下、温度800?950℃、0.1?1時間であ・・・る。」「【0016】」,「加圧方法はセラミックス基板に垂直な方向であり、その方法等は特に限定するものではない。重しを載せる方法、治具等を用いて機械的に挟み込む方法等が採用される。」(【0025】)と記載されているように、本件特許の出願時において、上記加圧手段として、重しを載せる方法、治具等を用いて機械的に挟み込む方法等は、当業者に周知の手段であったと認められる。

(ウ)小括

以上のとおりであるから、本件訂正後の発明の詳細な説明は、本件発明1,2及びこれらを引用する本件発明3?6を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできず、本件特許は、特許法第36条第4項第1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

(エ)意見書における申立人の主張について

a 平成29年11月29日付け意見書において申立人は以下の主張をしている。
(a)本件発明の圧力範囲には常圧(1atm=0.1MPa)が含まれているから、常圧より低い圧力にすることが、雰囲気を減圧下にすることを示しているのか、例えば、甲第3号証に記載されるように重しを載せることを示しているのか不明である。
(b)実施例3と比較例3とを比較すると、比較例3では単位面積当たりのAg含有量が1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下の範囲から外れる0.5mg/cm^(2)であるものの、ろう付け用シートの厚み(13μm)は実施例3のろう付け用シートの厚み(12μm)と同程度であるから、比較例3においても厚さ15μm以下のAg-Cu共晶層が得られるように見受けられるにもかかわらず、それぞれの接合工程における具体的条件が記載されていないために厚さ15μm以下のAg-Cu共晶層が得られる条件が不明のままであるから、当業者は、銅金属板とセラミックス基板との接合部に厚み15μm以下のAg-Cu共晶層を形成するために必要なAg及び活性金属の単位面積当たりの含有量、並びに、接合工程における加圧力を設定することに過度の試行錯誤を必要とする。

b 前記(a)の主張が、本件訂正後の発明の詳細な説明の段落【0042】の記載を正解しないことによるものであって根拠を欠くことは、前記「(イ)」で検討したとおりである。

c 前記(b)の主張についても、本件訂正後の発明の詳細な説明の段落【0063】の表3によれば、比較例3では、単位面積当たりのAg含有量(0.5mg/cm^(2))が実施例3よりも少ないことに起因して初期接合率が実施例3の97.1%を大きく下回る48.7%となっており、これは、銅金属板とセラミックス基板との接合部にAg-Cu共晶層が均一に形成されていないことを意味するから、当業者であれば、両者の差違は明確に理解することができる。
そして、本件発明では、銅金属板とセラミックス基板との接合部に厚み15μm以下のAg-Cu共晶層を形成すること、そのために必要なAg及び活性金属の単位面積当たりの含有量、並びに積層体を加熱する際の積層方向の圧力が特定されており、加熱温度の範囲についても、本件訂正後の発明の詳細な説明の段落【0042】に「加熱温度は790℃以上850℃以下の範囲内に設定している」と記載されているから、当業者は、銅金属板とセラミックス基板との接合部に厚み15μm以下のAg-Cu共晶層を形成するために必要なAg及び活性金属の単位面積当たりの含有量、並びに、接合工程における加圧力を設定することに過度の試行錯誤を必要とするとはいえない。

d 以上のとおり、意見書における申立人の主張には、いずれも理由がないから、これを採用することはできない。

(2)取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について

ア 証拠方法

甲第2号証:特開2005-213107号公報
甲第3号証:特開2003-55059号公報
甲第4号証:特開2003-192462号公報
甲第5号証:特開2004-335928号公報
甲第6号証:特開平6-177513号公報

イ 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要

申立人は、本件特許の出願の出願日前に頒布された刊行物である前記「ア」の甲第2号証?甲第6号証(以下、「甲2?甲6」と略記する。)を提出し、特許異議申立書の第7頁第8行?第27頁第1行において、本件発明1?6は進歩性を有さない旨の特許異議申立理由を主張するところ、その概要は以下のとおりである。

(ア)本件発明1及びこれを引用する本件発明3?6は、甲2に記載された発明に、甲3及び甲5、甲3?甲5、又は、甲3?甲6に記載された公知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(イ)本件発明1及びこれを引用する本件発明3?6は、甲6に記載された発明に、甲3及び甲5、又は、甲3?甲5に記載された公知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ウ)本件発明2及びこれを引用する本件発明3?6は、甲2に記載された発明に、甲3?甲5、又は、甲3?甲6に記載された公知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(エ)本件発明2及びこれを引用する本件発明3?6は、甲6に記載された発明に、甲3?甲5に記載された公知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 当審の判断

(ア)本件発明1及びこれを引用する本件発明3?6の進歩性について

本件発明1は、「ろう材層と接触するように支持基材を積層してなるシート構成体」を用意した上で、「銅又は銅合金からなる銅金属板」「に前記シート構成体の前記支持基材とは反対側の表面を接触させて加熱圧着することにより前記銅金属板と前記シート構成体とが積層された金属板積層体を形成する金属板積層工程」と、これに続く「前記金属板積層体を前記支持基材ごと回路パターン形状に打抜き加工する打抜工程」という一連の工程を備えているところ、前記「ア」の甲2?甲6のいずれを参照しても、上記の一連の工程に相当する工程は記載も示唆もされていない。
そして、上記の一連の工程を備える本件発明1は「取り扱い性を阻害することなくAg-Cu共晶層の厚みを薄く形成でき、セラミックス基板に生じる割れを抑制することができるとともに、銅金属板とセラミックス基板とを確実に接合することができる」(本件訂正後の発明の詳細な説明の段落【0019】)という格別の効果を奏する。
したがって、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て備える本件発明3?6は、甲2?甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明2及びこれを引用する本件発明3?6の進歩性について

本件発明2は、「ろう材層と接触するように支持基材を積層してなるシート構成体」を用意した上で、「前記シート構成体を回路パターン形状に打抜き加工する打抜工程」と、これに続く「打抜き加工後の前記シート構成体の前記支持基材とは反対側の表面を予め回路パターン形状に形成された」「銅又は銅合金からなる銅金属板」「に接触させて加熱圧着することにより、前記銅金属板と前記シート構成体とが積層された金属板積層体を形成する金属板積層工程」という一連の工程を備えているところ、前記「ア」の甲2?甲6のいずれを参照しても、上記の一連の工程に相当する工程は記載も示唆もされていない。
そして、上記の一連の工程を備える本件発明2は「取り扱い性を阻害することなくAg-Cu共晶層の厚みを薄く形成でき、セラミックス基板に生じる割れを抑制することができるとともに、銅金属板とセラミックス基板とを確実に接合することができる」(本件訂正後の発明の詳細な説明の段落【0019】)という格別の効果を奏する。
したがって、本件発明2及び本件発明2の発明特定事項を全て備える本件発明3?6は、甲2?甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第4 結論

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
パワーモジュール用基板の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅金属板とセラミックス基板とを接合するために使用されるろう付用シート構成体を用いたパワーモジュール用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール用基板として、絶縁層となるセラミックス基板の一方の面に、半導体チップ等の電子部品が接合されて回路層となる銅又は銅合金からなる銅金属板が積層された構成のものが知られている。そして、この種のパワーモジュール用基板において、銅金属板とセラミックス基板との接合は、活性金属ろう材を用いたろう付け法により行うことができる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、セラミックスに対して活性金属であるTiを含むろう材(Ag‐Cu‐Ti系)を、銅金属板とセラミックス基板との間に配置し、これらの積層体を加圧した状態のまま真空中で加熱することにより、ろう材中の活性金属であるTiによりセラミックス基板の表面にTiの窒化物等を形成し、Ag‐Cu共晶層を介して銅金属板とセラミックス基板とを接合することができる。そして、このろう材は、ペーストや箔の形態で用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008‐24561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ろう材箔を用いる場合は、ろう材箔の厚みを薄くすると取り扱い性が悪くなることから、一定の厚みを確保する必要がある。このため、Ag‐Cu共晶層が厚く形成される。
そして、Ag‐Cu共晶層は非常に硬いことから、銅板とセラミックス基板との接合部に、銅金属板とセラミックス基板との熱膨張係数の差に起因するせん断応力が作用したときに、厚く形成されたAg‐Cu共晶層及び銅金属板の変形が抑制され、セラミックス基板に割れ等が発生し、ヒートサイクル性が低下することが問題であった。
また、ろう材ペーストを用いる場合においても、銅金属板又はセラミックス基板にろう材ペーストを均一に塗布するためには一定の厚みを確保する必要があり、Ag‐Cu共晶層が厚く形成され、ろう材箔の場合と同様の問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、取り扱い性を阻害することなくAg‐Cu共晶層の厚みを薄く形成でき、セラミックス基板に生じる割れを抑制することができるとともに、銅金属板とセラミックス基板とを確実に接合することができるパワーモジュール用基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパワーモジュール用基板の製造方法に好適に用いてなる銅又は銅合金からなる銅金属板とセラミックス基板との接合に用いるろう付用シートは、Ag、活性金属及び樹脂を含有してなるろう材層を有し、単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量は、Agが1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされる。
【0008】
ろう付用シートにはAg及び活性金属が含まれていることから、銅金属板とセラミックス基板との間に配置して加熱した際に、セラミックス中の窒素や酸素、炭素と活性金属とが反応してセラミックス基板の表面に窒化物又は酸化物の層を形成することができるとともに、Ag成分が銅金属板側に拡散することにより、CuとAgとの反応による溶融金属領域が形成され、この溶融金属領域が凝固することで、銅金属板とセラミックス基板とが接合される。
この場合、Agの単位当たりの含有量が1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属の単位当たりの含有量が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされていることから、活性金属によるセラミックス基板表面の窒化物又は酸化物の層と、AgとCuとの共晶組織とを、確実に形成でき、銅金属板とセラミックス基板とを接合することができる。このように、窒化物又は酸化物の層を介してセラミックス基板と銅金属板とを接合することができるので、セラミックス基板と銅金属板との接合強度の向上を図ることができる。
【0009】
そして、これらAg及び活性金属に樹脂を混合してろう付用シートを形成することで、一定の厚みを確保しながらもAg及び活性金属の配合比率を低くしたろう付用シートを形成することができる。これにより、ろう付用シートの取り扱い性を阻害することなく、銅金属板とセラミックス基板との間に介在する単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量を低減させることができる。
したがって、銅金属板とセラミックス基板との接合部において、溶融金属領域が必要以上に形成されることがなく、接合後(凝固後)に形成されるAg‐Cu共晶層の厚みを薄くすることができ、ヒートサイクル時に生じるセラミックス基板の割れの発生を抑制することができる。
【0010】
なお、乾燥して溶剤を除去し、ろう付用シートとした際に金属粉末が60質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。60質量%未満では金属粉末の含有率が少なく、金属粒子間の距離が開くため、金属元素の拡散が十分に進行せず接合性が悪化するおそれがある。また、80質量%を超えると樹脂の含有率が少なくなり、シートとして取り扱える強度を保持できなくなるおそれがある。
また、活性金属の含有量が0.5mg/cm^(2)未満では、窒化物又は酸化物の層を確実に形成することができず、セラミックス基板と銅金属板との接合強度が低下するおそれがある。また、活性金属の含有量が6mg/cm^(2)を超えると、銅金属板へ拡散するAg量が十分に確保できず、セラミックス基板と銅金属板とを接合できなくなるおそれがある。
【0011】
なお、ろう付用シートに含まれる樹脂は、ろう付け時に熱分解されるため、銅金属板とセラミックス基板との接合に影響しない。また、ろう付用シートに含まれるAg及び活性金属は、Ag粉末と活性金属の粉末とを混合したものであってもよいし、Agと活性金属との合金粉末であってもよいし、それらを混合したものであってもよい。
【0012】
本発明に用いるろう付用シートにおいて、前記活性金属は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることが好ましい。
Ti、Hf、Zr、Nbといった元素は、窒化物や酸化物を形成しやすい元素であり、セラミックス基板の表面に窒化物又は酸化物の層を確実に形成することができる。よって、セラミックス基板と窒化物又は酸化物の層とが強固に結合することになり、セラミックス基板と銅金属板とを確実に接合することができる。
【0013】
本発明に用いるろう付用シートにおいて、前記ろう材層にCuが含まれており、前記Agと前記Cuとの配合比率は、Agが100重量部に対し、Cuが1を超え100以下の重量部とされているとよい。
この場合、ろう材層にCuを含有しているので、Ag‐Cu共晶組織を形成し易くなる。
【0014】
本発明に用いるろう付用シートにおいて、前記ろう材層の一方の面に、樹脂層が積層されているとよい。
ろう材層の上に樹脂層を重ねた二層構造のろう付用シートを形成することで、銅金属板もしくはセラミックス基板に熱圧着して仮止めすることが可能となり、接合時に位置ずれを起こし難くなる。
【0015】
本発明に用いる樹脂層を重ねた二層構造のろう付用シートにおいて、前記ろう材層の厚みと前記樹脂層の厚みとを合計した総厚みが、300μm以下であるとよい。
ろう材層と樹脂層との総厚みが300μmを超えると、樹脂の分解により発生する炭素残渣の量が多くなり、溶融金属領域とセラミックス基板の反応を阻害して初期接合率が低下するおそれがある。
【0016】
本発明に用いるろう付用シート構成体は、前記ろう付用シートの一方の面に前記ろう材層と接触するように支持基材を積層してなる。
ろう付用シートを支持基材上に重ねてろう付用シート構成体を形成しておくことで、ろう付用シートの取り扱い性が向上するので、ろう付用シートを銅金属板の所望の位置に容易に積層することができる。
また、銅金属板を、ろう付用シートと支持基材とを積層した状態で回路パターン形状に加工することもできるので、ろう付用シートを容易に回路パターン形状に形成でき、ろう付けに必要なAg量及び活性金属量を銅金属板とセラミックス基板との間に介在させることができ、確実に接合することができる。
【0017】
本発明は、銅又は銅合金からなる銅金属板とセラミックス基板とを接合するパワーモジュール用基板の製造方法であって、Ag、活性金属及び樹脂を含有してなるろう材層を有し、単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量は、Agが1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされるろう付用シートの一方の面に、前記ろう材層と接触するように支持基材を積層してなるシート構成体を用意し、前記銅金属板に前記ろう付用シート構成体の前記支持基材とは反対側の表面を接触させて加熱圧着することにより前記銅金属板と前記ろう付用シート構成体とが積層された金属板積層体を形成する金属板積層工程と、前記金属板積層体を前記支持基材ごと回路パターン形状に打抜き加工する打抜工程と、打抜き加工後の前記金属板積層体から前記支持基材を剥がして前記ろう材層を露出させ、該ろう材層を前記セラミックス基板に接触させ、これらの積層方向に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で加熱することにより前記銅金属板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成し、該溶融金属領域を凝固させることにより前記銅金属板と前記セラミックス基板とをろう付けして、前記銅金属板と前記セラミックス基板との接合部に厚み15μm以下のAg‐Cu共晶層を形成する接合工程とを備えることを特徴とする。
銅金属板にろう付用シート構成体を接合した後に、回路パターン形状に打抜き加工することで、銅金属板のセラミックス基板との接合面全域にろう付用シートが貼り付けられた状態とされ、銅金属板とセラミックス基板とのろう付けに必要な金属粉末量を確実に銅金属板とセラミックス基板との間に介在させることができる。
【0018】
本発明は、銅又は銅合金からなる銅金属板とセラミックス基板とを接合するパワーモジュール用基板の製造方法であって、Ag、活性金属及び樹脂を含有してなるろう材層を有し、単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量は、Agが1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされるろう付用シートの一方の面に、前記ろう材層と接触するように支持基材を積層してなるシート構成体を用意し、前記ろう付用シート構成体を回路パターン形状に打抜き加工する打抜工程と、打抜き加工後の前記ろう付用シート構成体の前記支持基材とは反対側の表面を予め回路パターン形状に形成された前記銅金属板に接触させて加熱圧着することにより、前記銅金属板と前記ろう付用シート構成体とが積層された金属板構積層体を形成する金属板積層工程と、前記金属板積層体から前記支持基材を剥がして前記ろう材層を露出させ、該ろう材層を前記セラミックス基板に接触させ、これらの積層方向に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で加熱することにより前記銅金属板と前記セラミックス基板との界面に溶融金属領域を形成し、該溶融金属領域を凝固させることにより前記銅金属板と前記セラミックス基板とをろう付けして、前記銅金属板と前記セラミックス基板との接合部に厚み15μm以下のAg‐Cu共晶層を形成する接合工程とを備えることを特徴とする。
ろう付用シート構成体の状態で回路パターン形状に形成することで、ろう付用シートを容易に回路パターン形状に形成することができるとともに、加工後のろう付用シートは支持基材に積層された状態で取り扱うことができるので、ろう付用シートを銅金属板の所望の位置に容易に積層することができる。したがって、銅金属板とセラミックス基板とのろう付けに必要な金属粉末量を確実に銅金属板とセラミックス基板との間に介在させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、取り扱い性を阻害することなくAg‐Cu共晶層の厚みを薄く形成でき、セラミックス基板に生じる割れを抑制することができるとともに、銅金属板とセラミックス基板とを確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態のろう付用シートを積層したろう付用シート構成体を説明する概略説明図である。
【図2】本発明の第2実施形態のろう付用シートを積層したろう付用シート構成体を説明する概略説明図である。
【図3】本発明のろう付用シートを用いて製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板の概略説明図である。
【図4】図3における回路層とセラミックス基板との接合界面の要部断面図である。
【図5】ろう付用シート構成体を用いたパワーモジュール用基板の製造方法の第1実施形態を説明する要部断面図である。
【図6】ろう付用シート構成体を用いたパワーモジュール用基板の製造方法の第2実施形態を説明する要部断面図である。
【図7】パワーモジュール用基板を用いたヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を説明する概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るろう付用シート、ろう付用シート構成体及びパワーモジュール用基板の製造方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
第1実施形態のろう付用シート1aは、例えば図3に示すようなパワーモジュール用基板9を構成する銅又は銅合金からなる銅金属板2(回路層2a)とセラミックス基板3との接合に用いるものであり、図1に示すように、Ag、活性金属及び樹脂を含有してなるろう材層11を有するものである。
また、ろう付用シート1aの単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量は、Agが1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされている。
【0022】
そして、活性金属は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることが好ましく、本実施形態のろう付用シート1aでは、活性金属としてTiを含有している。
Ti、Hf、Zr、Nbといった元素は、窒化物や酸化物を形成しやすい元素であり、銅金属板2とセラミックス基板3との接合時に、セラミックス基板3の表面に窒化物又は酸化物の層を確実に形成することができる。
また、活性金属としてはTiH_(2)、ZrH_(2)等の活性金属元素の水素化物を使用することができる。この場合、活性金属元素の水素化物の水素が還元剤として作用するので、銅金属板2とセラミックス基板3との接合時に、銅金属板2の表面に形成された酸化膜等を除去でき、Agの拡散及び窒化物又は酸化物の層の形成を確実に行うことができる。
【0023】
また、ろう付用シートには、Ag粉末と活性金属の粉末とを混合したものを使用することもできるし、Agと活性金属との合金粉末を使用することもできるし、それらを混合した粉末を使用することもできる。本実施形態においては、Ag及びTi(活性金属)を含む金属粉末として、AgとTiとの合金粉末を使用することとしており、この合金粉末は、例えば、アトマイズ法によって作製することができる。
【0024】
樹脂は、銅金属板2とセラミックス基板3との接合時の昇温過程において熱分解され、完全に除去されるものが好ましく、例えば、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂などが好適に用いられる。
ポリ(メタ)アクリル系樹脂の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレ-ト、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)オキシアルキレン(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどに代表される(メタ)アクリル酸エステル系モノマーから選ばれる1種以上のモノマーを重合して得られる樹脂が挙げられる。
セルロース系樹脂としては、酢酸セルロース、及び酪酸セルロースなどのセルロースエステル、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどが挙げられる。
ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどが挙げられる。
【0025】
なお、適度な可とう性を与えて取り回しを容易にするため、樹脂に可塑剤を添加することもできる。
可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジ‐n‐オクチルフタレート、ジ‐2‐エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート等のフタル酸エステル類、トリ‐2‐エチルヘキシルトリメリテート、トリ‐n‐アルキルトリメリテート、トリイソノニルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジ-2‐エチルヘキシルアジペート、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ‐2‐エチルヘキシルセバケート、ジ‐2‐エチルヘキシルマレート、アセチル‐トリ‐(2‐エチルヘキシル)シトレート、アセチル‐トリ‐n‐ブチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート等の脂肪族多塩基酸エステル類などが挙げられる。
【0026】
次に、ろう付用シート1aの製造方法について説明する。
まず、樹脂と、樹脂を溶解させる溶剤とを混合して、樹脂溶液を生成する。
この樹脂を溶解させる溶剤としては、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、α‐もしくはβ‐テルピネオール等のテルペン類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジエチルケトン、2‐ヘプタノン、4‐ヘプタノン等のケトン類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、n‐ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族/脂環式炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3‐メトキシブチルアセテート等の酢酸エステル類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のジアルキルグリコールエーテル等が挙げられ、これらを単独もしくは2種類以上を混合したものを使用することができる。
【0027】
そして、AgとTi(活性金属)とを含有する合金粉末と樹脂溶液と、可塑剤とを遊星式攪拌機等の攪拌機(図示略)により混合し、合金粉末入りのスラリーを形成する。続いて、スラリーを、アプリケーター(図示略)を使用して支持基材10上に一定の膜厚で塗布する。
最後に、塗布されたスラリーを支持基材10ごと乾燥することで、ろう付用シート1aが形成されるとともに、図1に示すように、支持基材10上にろう付用シート1aが積層されたろう付用シート構成体5aを形成することができる。
【0028】
なお、攪拌機としては、遊星式攪拌機、ボールミル、ディスパー等の種々の装置を用いることができ、合金粉末と樹脂溶液等を混合する手段は限定されるものではない。また、ろう付用シートの形成には、ロールコーターやブレードコーター、リップコーター、アプリケーター等の種々の装置を用いることができる。
また、支持基材10としては、例えば、離型処理が施されたPETフィルムを用いることができ、厚みは限定されない。
【0029】
図2は、本発明の第2実施形態のろう付用シートを示している。
このろう付用シート1bは、第1実施形態のろう付用シート1aと同様に、銅又は銅合金からなる銅金属板2とセラミックス基板3との接合に用いるものであり、図2に示すように、Ag、活性金属及び樹脂を含有してなるろう材層11を有するとともに、ろう材層11の一方の面に、樹脂層12が積層されてなる。樹脂層12は、Ag及び活性金属を含有せず、樹脂から構成されている。
また、ろう材層11の厚みと樹脂層12の厚みとを合計した総厚みは、300μm以下とすることが好ましい。総厚みが300μmを超える場合は、樹脂層12の分解により発生する炭素残渣量が多くなり、銅金属板2とセラミックス基板3との接合を阻害し、接合不良となるおそれがある。
また、上記の観点から、樹脂層12の厚みは100μm以下が望ましい。
なお、その他の構成については、第1実施形態のろう付用シート1aと同様である。
【0030】
第2実施形態のろう付用シート1bの製造方法について説明する。
このろう付用シート1bは、第1実施形態のろう付用シート1aのろう材層11の一方の面に、樹脂層12を積層することにより製造することができる。なお、支持基材10上にろう材層11を積層する部分については、第1実施形態のろう付用シート1aの製造方法と同様であり、説明を省略する。
【0031】
まず、樹脂と、樹脂を溶解させる溶剤とを混合して、樹脂層形成用樹脂溶液を生成する。樹脂層12を形成するための樹脂としては、ろう材層11を形成するために用いる前述のポリ(メタ)アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂などを好適に用いることができる。また、樹脂を溶解させる溶剤としては、第1実施形態に記載されるものを用いることができるが、樹脂層形成時においてろう材層11に樹脂層形成用樹脂溶液を塗布した際に、ろう材層11を溶かさない溶剤を選択することが好ましい。
【0032】
そして、支持基材10上にろう材層11を積層した後に、このろう材層11の表面に樹脂層形成用樹脂溶液を一定の膜厚で塗布する。そして、塗布された樹脂層形成用樹脂溶液を支持基材10及びろう材層11ごと乾燥することで、図2に示すように、ろう材層11と樹脂層12とが積層されたろう付用シート1bが形成されるとともに、支持基材10上にろう付用シート1bが積層されたろう付用シート構成体5bを形成することができる。
【0033】
次に、上述した第1実施形態のろう付用シート構成体5a又は第2実施形態のろう付用シート構成体5bを用いてパワーモジュール用基板を製造する方法について説明する。パワーモジュール用基板の製造方法においては、ろう付用シート構成体5a及び5bを総称して符号5を用いて説明し、ろう付用シート1a及び1bを総称して符号1を用いて説明する。
本実施形態におけるパワーモジュール用基板9は、図3に示すように、回路層2a(銅金属板2)とセラミックス基板3とが接合されてなるとともに、セラミックス基板3の裏面に接合された金属層4とを備えている。図3は、このパワーモジュール用基板9を用いて構成されたパワーモジュール100を示す。
【0034】
図3に示すパワーモジュール100は、回路層2aが配設されたパワーモジュール用基板9と、回路層2aの表面にはんだ層(図示略)を介して接合された半導体素子等の電子部品6と、ヒートシンク7とを備えている。
ここで、はんだ層は、例えばSn‐Ag系、Sn‐In系もしくはSn‐Ag‐Cu系のはんだ材で構成される。
【0035】
パワーモジュール用基板9を構成するセラミックス基板3は、回路層2aと金属層4との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN,Si_(3)N_(4),Al_(2)O_(3)等で構成されている。また、セラミックス基板3の厚みは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0036】
回路層2aは、セラミックス基板3の表面に銅金属板2が接合されることにより形成されている。回路層2aの厚みは、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.3mmに設定されている。また、回路層2aには、回路パターンが形成されており、その一方の面が、電子部品6が搭載される搭載面とされている。
本実施形態においては、回路層2a(銅金属板2)は、純度99.99質量%以上の無酸素銅(OFC)の圧延板とされている。
そして、セラミックス基板3と回路層2aとの接合に、ろう付用シート1が使用されている。
【0037】
金属層4は、図3に示すように、セラミックス基板3の他方の面に、アルミニウム板が接合されることにより形成されている。金属層4の厚みは0.6mm以上6.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
また、本実施形態においては、アルミニウム板(金属層4)は、純度99.99質量%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板とされている。
【0038】
ヒートシンク7は、パワーモジュール用基板9からの熱を放熱するためのものである。本実施形態においては、ヒートシンク7はアルミニウム又はアルミニウム合金により構成されており、具体的にはA6063合金の圧延板とされている。また、ヒートシンク7の厚みは1mm以上10mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、5mmに設定されている。
【0039】
図4に、セラミックス基板3と回路層2aとの接合界面の拡大図を示す。セラミックス基板3の表面には、ろう付用シート1に含有された活性金属(Ti)により、AlN等の窒化物系セラミックス基板の場合は窒化物(TiN)からなる窒化物層31が形成されている。なお、Al_(2)O_(3)等の酸化物系セラミックス基板の場合は酸化物(TiO)からなる酸化物層が形成される。
そして、図4においては、窒化物層31に積層するようにAg‐Cu共晶層21が形成されている。ここで、Ag‐Cu共晶層21の厚みは15μm以下となっている。
【0040】
〔パワーモジュール用基板の製造方法の第1実施形態〕
まず、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法の第1実施形態について説明する。
(金属板積層工程)
図5(a)及び(b)に示すように、銅金属板2にろう付用シート構成体5の支持基材10とは反対側の表面を接触させた状態とする。そして、銅金属板2とろう付用シート構成体5とを、その積層方向(厚み方向)に加熱圧着することにより、銅金属板2とろう付用シート構成体5とを積層し、これらが積層された金属板積層体8を形成する。
この際、ろう付用シート1を支持基材10上に重ねた状態で取り扱われるので、ろう付用シート1を容易に取り扱うことができ、ろう付用シート1を銅金属板2の所望の位置に容易に積層することができる。
【0041】
(打抜工程)
図5(c)に示すように、金属板積層体8を支持基材10ごと回路パターン形状に打抜き加工する。これにより、銅金属板2を回路パターン形状に形成するとともに、銅金属板2の片面に圧着されたろう付用シート1を回路パターン形状に沿って形成することができる。銅金属板2は、ろう付用シート1と支持基材10とを積層した状態で回路パターン形状に加工されることから、銅金属板2のセラミックス基板3との接合面全域にろう付用シート1が貼り付けられた状態とされ、銅金属板2とセラミックス基板3とのろう付けに必要なAg量及び活性金属量を、確実に確保することができる。
【0042】
(接合工程)
次に、図5(d)に示すように、打抜き加工後の金属板積層体8から支持基材10を剥がして、ろう付用シート1を露出させる。この際、図1及び図2に示すように、支持基材10側に積層されたろう材層11が露出することになる。そして、このろう材層11をセラミックス基板3の一方の面側に接触させ、図5(e)に示すように、銅金属板2とセラミックス基板3との間にろう付用シート1を介在させた状態とし、これらの積層方向(厚み方向)に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。ここで、真空加熱炉内の圧力は10^(-6)Pa以上10^(-3)Pa以下の範囲内に設定し、加熱温度は790℃以上850℃以下の範囲内に設定している。
この際、銅金属板2の一部がCuとAgとの反応によって溶融し、銅金属板2とセラミックス基板3との界面に、溶融金属領域が形成される。そして、この溶融金属領域を凝固させることにより、セラミックス基板3と銅金属板2とが接合される。
また、ろう付用シート1のAgは銅金属板2へ十分に拡散されており、樹脂はろう付け時に熱分解されるため、銅金属板2とセラミックス基板3との接合界面にろう付用シート1が残存することはない。また、上述のように、樹脂はろう付け時に熱分解されるため、銅金属板2とセラミックス基板3との接合に影響しない。
【0043】
(金属層接合工程)
次に、セラミックス基板3の他方の面に金属層4となるアルミニウム板を接合する。図7(a)に示すように、セラミックス基板3の他方の面側に、金属層4となるアルミニウム板を厚み5?50μmのろう材箔15を介して積層する。本実施形態では、ろう材箔15は、融点降下元素であるSiを含有したAl‐Si系ろう材により構成され、厚みが14μmとされている。
そして、セラミックス基板3、ろう材箔15、金属層4を積層方向に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で加熱炉内に装入して加熱する。加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
この際、ろう材箔15と金属層4の一部とが溶融し、金属層4とセラミックス基板3との界面に溶融金属領域が形成される。そして、この溶融金属領域を凝固させることにより、セラミックス基板3と金属層4とが接合され、セラミックス基板3に回路層2aと金属層4とが積層されたパワーモジュール用基板9が製造される。
【0044】
(ヒートシンク接合工程)
図7(b)に示すように、パワーモジュール用基板9の金属層4に、ヒートシンク7を厚み5?50μmのろう材箔15を介して積層する。
本実施形態では、ろう材箔15は、Al‐Si系ろう材により構成され、厚みが14μmとされている。
そして、パワーモジュール用基板9、ろう材箔15、ヒートシンク7を積層方向に0.01?0.35MPaの圧力で加圧した状態で加熱炉内に装入して加熱する。加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
この際、金属層4とヒートシンク7との界面に、それぞれ溶融金属領域が形成される。そして、この溶融金属領域を凝固させることにより、パワーモジュール用基板9とヒートシンク7とが接合され、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0045】
〔パワーモジュール用基板の製造方法の第2実施形態〕
次に、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法の第2実施形態について説明する。
(打抜工程)
まず、図6(a)に示すように、ろう付用シート構成体5を回路層2aの回路パターン形状に打抜き加工する。また、銅金属板2も回路パターン形状に打抜き加工しておく。
【0046】
(金属板積層工程)
次に、図6(b)に示すように、打抜き加工後のろう付用シート構成体5と銅金属板2との位置を合わせて、ろう付用シート構成体5の支持基材10とは反対側の表面を銅金属板2に接触させた状態とする。そして、銅金属板2とろう付用シート構成体5とを、その積層方向に加熱圧着することにより、図6(c)に示すように、銅金属板2とろう付用シート構成体5とを積層し、これらが積層された金属板積層体8を形成する。
この際、ろう付用シート1を支持基材10上に重ねた状態で取扱われるので、ろう材用シート1を容易に取り扱うことができ、ろう付用シート1を銅金属板2の所望の位置に容易に積層することができる。
【0047】
(接合工程)
次に、図6(d)に示すように、金属板積層体8から支持基材10を剥がしてろう付用シート1を露出させる。この際、図1及び図2に示すように、支持基材10側に積層されたろう材層11が露出することになる。そして、このろう材層11をセラミックス基板3の一方の面側に接触させ、図6(e)に示すように、銅金属板2とセラミックス基板3との間にろう付用シート1を介在させた状態とし、これらの積層方向に加圧した状態で真空加熱炉内に装入して加熱する。これにより、銅金属板2の一部がCuとAgとの反応によって溶融し、銅金属板2とセラミックス基板3との界面に、溶融金属領域が形成される。そして、この溶融金属領域を凝固させることにより、セラミックス基板3と銅金属板2とが接合される。
【0048】
なお、セラミックス基板3に金属層4を接合する金属層接合工程と、金属層4にヒートシンク7を接合するヒートシンク接合工程は、第1実施形態のパワーモジュール用基板の製造方法と同様であり、説明を省略する。
【0049】
以上のように、本発明によれば、Ag及び活性金属に樹脂を混合してろう付用シート1を形成することで、一定の厚みを確保しながらもAg及び活性金属の配合比率を低くしたろう付用シート1を形成することができる。これにより、ろう付用シート1の取り扱い性を阻害することなく、銅金属板2とセラミックス基板3との間に介在する単位面積当たりのAg及び活性金属の含有量を低減させることができる。
したがって、銅金属板2とセラミックス基板3との接合部において、溶融金属領域が必要以上に形成されることがなく、接合後(凝固後)に形成されるAg‐Cu共晶層の厚みを薄くすることができ、ヒートサイクル時に生じるセラミックス基板3の割れの発生を抑制することができる。
【0050】
また、ろう付用シート1は、Agの単位当たりの含有量が1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属の単位当たりの含有量が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされていることから、活性金属によるセラミックス基板3表面の窒化物又は酸化物の層と、AgとCuとの共晶組織とを、確実に形成でき、銅金属板2とセラミックス基板3とを接合することができる。そして、窒化物又は酸化物の層を介してセラミックス基板3と銅金属板2とを接合することができるので、セラミックス基板3と銅金属板2との接合強度の向上を図ることができる。
【0051】
なお、乾燥して溶剤を除去し、ろう付用シートとした際に金属粉末が60質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。60質量%未満では金属粉末の含有率が少なく、金属粒子間の距離が開くため、金属元素の拡散が十分に進行せず接合性が悪化するおそれがある。また、80質量%を超えると、樹脂の含有率が少なくなり、シートとして取り扱える強度を保持できなくなるおそれがある。
また、活性金属の含有量が0.5mg/cm^(2)未満では、窒化物又は酸化物の層を確実に形成することができず、セラミックス基板3と銅金属板2との接合強度が低下するおそれがある。また、活性金属の含有量が6mg/cm^(2)を超えると、銅金属板2へ拡散するAg量が十分に確保できず、セラミックス基板3と銅金属板2とを接合できなくなるおそれがある。
【0052】
また、図2に示すように、ろう材層11の上に樹脂層12を重ねた二層構造のろう付用シート1bを形成した場合には、ろう付用シート1bを銅金属板2もしくはセラミックス基板3に熱圧着して仮止めすることが可能となり、接合時に位置ずれを起こし難くすることができ、より取り扱い性を向上することができる。
【0053】
なお、上記実施形態においては、ろう付用シート1はAgと活性金属と樹脂とにより構成されていたが、ろう材層11にCuが含まれるようにしてもよく、AgとCuとの配合比率は、Agが100重量部に対し、Cuが1を超え100以下の重量部とされているとよい。
この場合、ろう材層11にCuを含有しているので、Ag‐Cu共晶組織を形成し易くなる。
【実施例】
【0054】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
表1から表4に示す条件でろう付用シートを形成し、表3及び表4に示す各種ろう付用シートを用いて、セラミックス基板3と銅金属板2とを接合して、パワーモジュール用基板9を製造した。そして、これらのパワーモジュール用基板9について、初期接合率と、冷熱サイクル試験後のセラミックス割れを評価した。
【0055】
なお、表1には、ろう付用シートの製造に用いる樹脂溶液の構成を示しており、表2には、表1に示す種類の樹脂溶液と金属粉末とを組み合わせて形成したスラリーの組成を示している。また、表3に示すろう付用シートは、ろう材層11のみで形成したものであり、表4に示すろう付用シートは、ろう材層11に樹脂層12を重ねて形成したものである。
【0056】
(ろう付用シートの製造)
表3に示す実施例1のろう付用シートは、表1に示す樹脂溶液Aを用い、表2に示すスラリー(1)の組成により作製した。樹脂溶液Aは、表1に示すように、ポリブチルメタクリレート(平均重量分子量250000)40重量部を酢酸エチル60重量部中に溶解することにより作製した。また、表2に示すように、樹脂溶液A75重量部にAg粉末(粒径1μm)72重量部と、Cu粉末(粒径3μm)28重量部、Ti粉末(粒径10μm)20重量部、酢酸エチル135重量部を加え、遊星式攪拌機で攪拌することによりスラリー(1)を構成した。そして、このスラリー(1)を離型処理したPETフィルムの支持基材上にアプリケーターで100μm厚に塗布し、100℃で5分間乾燥することで、厚み23μmのろう材層11を形成し、実施例1のろう付用シートを形成するとともに、支持基材上にろう付用シートが積層されたろう付用シート構成体を形成した。なお、表3に示す実施例2?9及び比較例1?4のろう付用シートは実施例1と同様の方法で形成した。
【0057】
また、表4に示す樹脂層12を有する実施例10のろう付用シートは、表2に示すスラリー(1)により支持基材10上にろう材層11を形成した後に、さらにろう材層11上に表1に示す樹脂層形成用樹脂溶液Bを塗布して、100℃5分間乾燥することで、ろう材層11と樹脂層12とが積層されたろう付用シートを形成するとともに、支持基材10上にろう付用シートが積層されたろう付用シート構成体を形成した。なお、表4に示す実施例11,12及び比較例5のろう付用シートは、実施例10と同様の方法で形成した。
【0058】
(評価方法)
表3及び表4に示すろう付用シートを用いて、セラミックス基板3と銅金属板2とを接合することにより、パワーモジュール用基板9を製作した。
各パワーモジュール用基板9は、セラミックス基板3として30mm×30mmで厚み0.635mmのAlN板を、回路層2a(銅金属板2)として27mm×27mmで厚み0.3mmの純度99.99質量%以上の無酸素銅の圧延板を、金属層4として、28mm×28mmで厚み0.6mmの純度99.99質量%以上の4Nアルミニウムの圧延板を用いた。また、ヒートシンク7には、50mm×60mmで厚み5mmのアルミニウム合金(6063合金)の圧延板を用いた。
【0059】
そして、各パワーモジュール用基板について、初期接合率、冷熱後のセラミックス割れを評価した。
初期接合率は、超音波探傷により回路層2aとセラミックス基板3との接合界面、金属層4とセラミックス基板3との接合界面の接合状態を観察し、下記の(1)式より求めた。
初期接合率=接合面積/(回路層の面積+金属層面積)×100(%)…(1)
【0060】
セラミックス割れは、冷熱サイクル(-45℃←→125℃)を500回繰り返す毎にクラックの発生の有無を確認し、クラックが確認された回数で評価した。
また、各ろう付用シート中の各元素の存在量はろう付用シートを20mm×20mmに切断し、酸溶液に溶解した後、ICP‐AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)による各元素の定量値から計算した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
表3及び表4からわかるように、Agの単位面積当たりの含有量が1mg/cm^(2)以上15mg/cm^(2)以下とされ、活性金属(Ti)の単位面積当たりの含有量が0.5mg/cm^(2)以上6mg/cm^(2)以下とされた実施例1?9及び樹脂層を設けた実施例10?13においては、いずれも初期接合率が95%を超えており、銅金属板2とセラミックス基板3とを良好に接合することができた。また、セラミックス割れの評価においても、良好な結果が得られた。
また、実施例13は、ろう材層11の厚みが63μmで、樹脂層12の厚みが200μmとされ、ろう付用シートの総厚みが実施例10?実施例12と比べ増していることから、樹脂の分解により生じた炭素残渣により銅金属板2とセラミックス基板3との接合が阻害され、初期接合率が実施例1?12に比較して低下したと推察される。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
1,1a,1b ろう付用シート
2 銅金属板
2a 回路層
3 セラミックス基板
4 金属層
5,5a,5b ろう付用シート構成体
6 電子部品
7 ヒートシンク
8 金属板積層体
9 パワーモジュール用基板
10 支持基材
11 ろう材層
12 樹脂層
15 ろう材箔
21 Ag‐Cu共晶層
31 窒化物層
100 パワーモジュール
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-14 
出願番号 特願2013-43339(P2013-43339)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B23K)
P 1 651・ 536- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大畑 通隆  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 長谷山 健
河本 充雄
登録日 2016-12-22 
登録番号 特許第6060739号(P6060739)
権利者 三菱マテリアル株式会社
発明の名称 パワーモジュール用基板の製造方法  
代理人 青山 正和  
代理人 青山 正和  

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