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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1337027
異議申立番号 異議2017-700658  
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-03-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-27 
確定日 2017-12-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6055400号発明「鋼材およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6055400号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正することを認める。 特許第6055400号の請求項1?6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6055400号の請求項1?6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年12月26日に特許出願され、平成28年12月9日に特許権の設定登録がされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成29年6月27日に特許異議申立人 岡林茂により特許異議の申立てがされ、同年8月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月6日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から同年11月16日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?4のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「Mn:0.2?2.0%」とあるのを、「Mn:1.01?2.0%」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。

(2) 訂正事項2
請求項1に「P :0.20%以下、」とあるのを、「P :0.011?0.20%、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?6も同様に訂正する。)。

(3) 訂正事項3
請求項1に「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.30 ・・・(2)」とあるのを、「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.16 ・・・(2)」に訂正する。

(4) 訂正事項4
発明の詳細な説明の【0062】に「No.3?26、28、30、37は、いずれも本発明で規定する要件を満足する例」とあるのを、「No.3、5?17、19、21?26、37は、いずれも本発明で規定する要件を満足する例」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1の訂正は、「Mn」の下限値を「0.2%」(当審注:「%」は「質量%」の意味である。以下同様である。)から「1.01%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項1に関連する記載として、願書に添付した明細書の【0060】の【表2】のNo.21には、「Mn」の含有量が「1.01質量%」であることが記載されているから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

(2) 訂正事項2の訂正は、「P」の含有量の下限値が特定されていなかったものを、「0.011%」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項2に関連する記載として、願書に添付した明細書の【0059】の【表1】のNo.10には、「P」の含有量が「0.011質量%」であることが記載されているから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

(3) 訂正事項3による訂正は、請求項1の「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」の上限値を「0.30」から「0.16」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項3に関連する記載として、願書に添付した明細書の【0052】には、「上記円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数との比(円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数/短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数;硫化物系介在物比)」と記載されており、【0061】の【表3】のNo.14には、当該硫化物系介在物比が「0.16」であることが記載されている、すなわち、請求項1の「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」が「0.16」であることが記載されているから、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当しない。

(4) 訂正事項4は、訂正事項1?3による訂正によって、実施例ではなくなった、実施例4、18、20、28、30を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)そして、訂正事項1?4は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?6〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
C :0.38?0.8%(質量%の意味。以下同じ。)、
Si:0.01?2.0%、
Mn:1.01?2.0%、
P :0.011?0.20%、
S :0.015?0.12%、
Al:0.002?0.1%を含有し、
更に、
Ca:0.0001?0.01%、
Mg:0.0001?0.01%、
Zr:0.01?0.5%、
Te:0.001?0.05%、および
REM:0.001?0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記Mnおよび前記Sは下記式(1)の関係を満足し、
残部が鉄および不可避不純物からなる鋼材であり、
該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、下記式(2)の関係を満足することを特徴とする鋼材。
[Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1)
上記式(1)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.16 ・・・(2)
【請求項2】
更に他の元素として、
Cu:1%以下、
Ni:2%以下、
Cr:2%以下、および
Mo:2%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の鋼材。
【請求項3】
更に他の元素として、
V :0.5%以下、
Ti:0.5%以下、
Nb:0.5%以下、および
W :2%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の鋼材。
【請求項4】
更に他の元素として、
Pb:0.3%以下、
Bi:0.3%以下、
Sn:0.02%以下、および
Sb:0.02%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1?3のいずれかに記載の鋼材。
【請求項5】
更に他の元素として、
N:0.02%以下を含有する請求項1?4のいずれかに記載の鋼材。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の鋼材を製造する方法であって、
請求項1?5のいずれかに記載の成分組成を満足する溶鋼を鋳造して鋼材を製造するにあたり、鋳造開始から凝固完了までの鋳片中央部の平均冷却速度を7℃/分以下とすることを特徴とする鋼材の製造方法。」

第4 取消理由の概要
請求項1?6に係る特許に対して平成29年8月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。
1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2項)
請求項1、5、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、また、請求項1?6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、請求項1、5、6に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また、請求項1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、その特許は取り消されるべきものである。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)
本件特許の請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
したがって、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、その特許は取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2004-300458号公報
甲第2号証:特開2004-107694号公報
甲第3号証:特開2005-256082号公報
甲第4号証:特開2007-162128号公報
甲第5号証:特開2005-163118号公報
甲第6号証:本件特許発明が特許される過程で、平成28年6月21日付けで審査官から通知された拒絶理由通知書
甲第7号証:本件特許発明が特許される過程で、平成28年8月19日付けで提出された意見書

なお、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由は、全て取消理由に採用されている。

第5 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第1号証には、「高周波焼入部の低温耐衝撃特性に優れた高周波焼入用鋼及び棒鋼」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(1a) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ステアリングラック、歯車などの高周波焼入部品(特に歯部が高周波焼入された部品)を製造するのに有用な高周波焼入部の低温耐衝撃特性に優れた高周波焼入用鋼及び棒鋼、並びにこれら高周波焼入用鋼、棒鋼などから製造される高周波焼入部品に関するものである。」

(1b) 「【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高周波焼入部の高い焼入れ硬さを維持しながら、前記高周波焼入部の低温耐衝撃特性をも改善できる高周波焼入用鋼及び棒鋼、並びにこれら高周波焼入用鋼、棒鋼などから製造される高周波焼入部品を提供する点にある。」

(1c) 「【0014】
すなわち、本発明に係る高周波焼入部の低温耐衝撃特性に優れた高周波焼入用鋼は、C:0.30?0.5%(質量%の意、以下同じ)、Si:0.01%以上、0.40%未満、Mn:0.05?1.5%、S:0.06%以下(0%を含まない)、P:0.010%以下(0%を含まない)を含有し、残部はFe及び不可避不純物(例えば0.05%以下のAl、0.02%以下のN)からなることを要旨とするものである。この高周波焼入用鋼は、さらに、Pb:0.3%以下(0%を含まない)、Bi:0.2%以下(0%を含まない)、Te:0.1%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、REM:0.01%以下(0%を含まない)、Zr:0.3%以下(0%を含まない)などを適宜含有していてもよい。好ましい高周波焼入用鋼は、長径30μm以上の硫化物系介在物が、2mm×2mmの視野当たり、平均22個以下となっているものであり、例えば棒鋼であれば、表面から直径(D)方向に深さD/8となる部分の硫化物系介在物が前記のようになっている。」

(1d) 「【0021】
P:0.010%以下(0%を含まない)
Pも前記Sと同様、本発明にとって極めて重要な元素である。低温耐衝撃特性が所定のP量を境にして急激に向上することについては全くの驚きであった。P量はこの臨界性を考慮して、0.010%以下、好ましくは0.009%以下、さらに好ましくは0.008%以下とする。一方、Pを低減し過ぎても効果が飽和し、かつ脱Pコストが高くなるだけである。従ってP量は、0%超、好ましくは0.003%以上、さらに好ましくは0.005%以上、特に0.007%以上とする。
【0022】
不可避不純物
不可避不純物としては、原料(鉄鉱石など)に由来するもの、製銑・製鋼方法に由来するもの、リサイクル鋼に由来するものなどがあり、Al、N、Oなどが代表的である。特にAl及びNは重要であるため、好ましくは以下の範囲に設定する。
【0023】
Al:0.05%以下(0%を含まない)
Alは脱酸のために添加される場合があり、かかる場合は必ず鋼中に残存する。しかしAlが多くなると酸化物系介在物が増大して疲労特性が低下する。また理由は明らかでないが、Alが多くなると低温靭性が低下する傾向がある。従ってAl量は、好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下、特に0.025%以下とする。」

(1e) 「【0035】
硫化物系介在物の長さは、鋳造時の冷却速度を調整することによって制御できる。硫化物系介在物の長さを上記範囲に制御する場合、冷却速度は、例えば0.3?9℃/分程度、好ましくは0.6?6℃/分程度、さらに好ましくは1.0?4℃/秒程度の範囲から選択するのが推奨される。」

(1f) 「【0039】
実験例1
表1?2に示す組成の鋼を鋳造し、熱間圧延して冷却した後、焼入れ(加熱温度:860℃、冷却条件:水冷)・焼戻し(加熱温度600℃、保持時間:1時間)することにより、直径30mmの棒鋼を得た。なお実験系C(No.8?No.12)については鋳造時の冷却速度を0.01?12.0℃/秒の間で調整することで、MnSの大きさ及び個数を調整しており、他の鋼では前記冷却速度を2.5℃/秒とした。」

(1g) 「【0046】
【表2】



2 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第2号証には、「浸炭用鋼材及び浸炭処理部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高いねじり疲労強度が要求される自動車などの駆動系部品、特にシャフト類に用いられる浸炭処理または浸炭浸窒処理用鋼材に関するものである。」

(2b) 「【0015】
請求項3の発明は、化学組成が、更にCr:0.1?3.0%、Ni:0.1?3.0%、Mo:0.1?1.0%、Cu:0.1?2.0%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の浸炭用鋼材である。
【0016】
請求項4の発明は、化学組成が、更にTi:0.005?0.1%、Nb:0.005?0.1%、V:0.1?2.0%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の浸炭用鋼材である。
【0017】
請求項5の発明は、化学組成が、更にCa:0.0005?0.01%、Mg:0.0005?0.01%、Zr:0.0005?0.05%、Te:0.0005?0.05%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の浸炭用鋼材である。
【0018】
請求項6の発明は、化学組成が、更にPb:0.01?0.3%、Bi:0.01?0.3%のうち1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1?5の何れか1項に記載の浸炭用鋼材である。」

(2c) 「【0045】
【実施例】
本発明の作用効果を確認するため、化学組成を種々変更して溶製したビレットを圧延または鍛造温度、圧下率等を種々変更して鋼材を作成し、この鋼材中の介在物の形態、量および分布状態の測定を行った。また、この鋼材を機械加工してねじり疲労試験片を作製し、これを通常の浸炭処理およびショットピーニング処理を行った後、ねじり疲労試験を実施してねじり疲労強度を測定した。以下、さらに詳細に説明を行う。
【0046】
ビレットの溶製は、転炉または高周波誘導溶解炉で製造した溶鋼を鋳造して行った。転炉で溶製されたビレットは□155mm×約10mLの角柱形である。また、高周波誘導溶解炉で溶製されたビレットは上面がφ245mm、底面がφ210mm、高さが350mmの円錐台形であり、重量が約150kgである。」

3 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第3号証には、「浸炭処理部品の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「【0001】
本発明は、高いねじり疲労強度が要求される自動車などの駆動系部品、特にシャフト類の製造方法に関するものである。」

(3b) 「【0014】
請求項2の発明は、軸部を有し、該軸部に横穴を有する浸炭処理部品の製造方法であって、化学組成が、質量割合にてC:0.15?0.3%、Mn:0.2?1.0%、Si:0.35%以下、P:0.015%以下、S:0.01?0.03%、Cr:0.6?1.2%、Al:0.005?0.05%、N:0.002?0.05%、B:0.0005?0.005%を含むとともに残部が実質的にFeであり、かつ、圧延方向に平行な任意の断面において長径が3μm以上の介在物粒子の平均アスペクト比ARと前記介在物粒子の面積率Afと前記介在物粒子の分布指数Fが下式を満たす浸炭用鋼材を、概ね前記浸炭処理部品の形状に成形し、ついで浸炭処理又は浸炭窒化処理して、前記軸部の半径に対する、前記横穴の0.9?1mm深さの位置(前記横穴の端部の面取りを行っていない場合は当該横穴の端部から0.9?1mm深さの位置をいい、前記横穴の端部の面取りを行っている場合は当該面取りの端部から0.9?1mm深さの位置をいう。)における横穴内面の有効硬化層深さの比を0.015?0.08とすることを特徴とする浸炭処理部品の製造方法である。」

(3c) 「【0017】
請求項3の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にNi:0.1?1.5%、Mo:0.1?0.5%のうち1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の浸炭処理部品の製造方法である。
【0018】
請求項4の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にTi:0.005?0.1%、Nb:0.005?0.1%、V:0.1?0.5%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の浸炭処理部品の製造方法である。
【0019】
請求項5の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にCa:0.0005?0.01%、Mg:0.0005?0.01%、Zr:0.0005?0.05%、Te:0.0005?0.05%のうち1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1?4の何れか1項に記載の浸炭用部品の製造方法である。
【0020】
請求項6の発明は、前記浸炭用鋼材の化学組成が、質量割合にて更にPb:0.01?0.1%、Bi:0.01?0.05%のうち1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1?5の何れか1項に記載の浸炭用部品の製造方法である。」

(3d) 「【実施例】
【0031】
本発明の作用効果を確認するため、化学組成を種々変更して溶製したビレットを圧延または鍛造温度、圧下率等を種々変更して鋼材を作成し、この鋼材中の介在物の形態、量および分布状態の測定を行った。また、この鋼材を機械加工してねじり疲労試験片を作製し、これを通常の浸炭処理およびショットピーニング処理を行った後、横穴内面の有効硬化層深さを測定するとともに、ねじり疲労試験を実施してねじり疲労強度を測定した。以下、さらに詳細に説明を行う。
【0032】
ビレットの溶製は、転炉または高周波誘導溶解炉で製造した溶鋼を鋳造して行った。転炉で溶製されたビレットは□155mm×10mLの角柱形である。また、高周波誘導溶解炉で溶製されたビレットは上面がφ245mm、底面がφ210mm、高さが350mmの円錐台形であり、重量が約150kgである。」

4 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第4号証には、「鍛造性と結晶粒粗大化防止特性に優れた肌焼鋼およびその製造方法並びに浸炭部品」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「【0001】
本発明は、自動車などの輸送機器や、建設機械その他の産業機械などにおいて、浸炭処理して使用される機械部品用の素材となる肌焼鋼およびその製造方法並びに浸炭部品に関するものであり、特に、軸受やCVT用プーリー、シャフト類、歯車、軸付き歯車などの素材として浸炭処理して使用する際に、比較的高い温度で浸炭処理を行なった場合でも結晶粒が粗大化しない様な特性(以下、「結晶粒粗大化防止特性」ということがある)に優れると共に、鍛造時に割れが発生しないような優れた鍛造性を示す肌焼鋼とその製造方法、並びにこうした肌焼鋼を浸炭処理した浸炭部品に関するものである。」

(4b) 「【0011】
上記課題を解決することのできた本発明に係る肌焼鋼は、C:0.05?0.30%(「質量%」の意味、以下同じ)、Si:2.0%以下(0%を含まない)、Mn:1.0%以下(0%を含まない)、P:0.03%以下(0%を含む)、S:0.03%以下(0%を含む)、Cr:2.0%以下(0%を含まない)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、Nb:0.05?0.30%、Ti:0.05?0.10%、N:0.0080%以下(0%を含まない)、O:0.0020%以下(0%を含む)を満たし、残部は鉄および不可避不純物からなり、且つ鋼材中のNbおよびTiを含む複合窒化物の最大粒径が20μm以下であると共に、粒径が1μm以上、20μm以下である当該窒化物が1mm^(2)中に平均50個以下存在する点に要旨を有するものである。
【0012】
本発明の肌焼鋼には、必要によって更に、(a)Cu:1.0%以下(0%を含まない)および/またはNi:3.0%以下(0%を含まない)、(b)Mo:1.0%以下(0%を含まない)、(c)B:0.0005?0.0030%、(d)Ca:0.010%以下(0%を含まない)、(e)Pb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはBi:0.1%以下(0%を含まない)、(f)V:0.5%以下(0%を含まない)、Zr:0.5%以下(0%を含まない)およびW:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種または2種以上の元素、等を含有させることも有効であり、含有させる元素の種類に応じて肌焼鋼の特性が更に改善される。」

(4c) 「【0058】
[実施例1]
表1,2に示す化学組成の鋼材を溶製炉で溶製し、鋳造時の冷却速度を変えて鋳造し、引き続き1200℃に加熱し、径:50mmの棒鋼に熱間鍛造し、1280℃にて60分間の溶体化処理を行なった。鋳造時の冷却速度は、異なるサイズの鋳型を用いることで変化させた。その後、実機圧延を模擬して900℃で焼きならし処理を行なった後、球状化処理を施し、鍛造材の断面のD/4(Dは棒鋼の直径を示す)位置からφ8mm×12mmの円柱状の試験片を作成した。」

5 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第5号証には、「機械構造軸部品とその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(5a) 「【0001】
本発明は、高周波焼入れを施される機械構造用部品で、例えば等速ジョイント用アウターレース・ドライブシャフトなど、曲げ強度およびねじり強度が要求される機械構造軸部品とその製造方法に関する。」

(5b) 「【0009】
そして本発明の機械構造軸部品は、
鋼材組成をFe:96質量%以上、C:0.45質量%以上0.55質量%以下、Si:0.02質量%以上0.15質量%以下、Mn:0.50質量%を超え1.20質量%以下、P:0.005質量%以上0.020質量%以下、S:0.005質量%以上0.030質量%以下、Cr:0.10質量%以上0.30質量%以下、Al:0.002質量%以上0.050質量%以下、Ti:0.020質量%以上0.050質量%以下、B:0.0005質量%以上0.0030質量%以下、Nb:0.020質量%以上0.100質量%以下、
となるように原料配合し、溶解後、
1200℃以上1400℃以下の温度範囲で、鋳片中心部の冷却速度が2℃/分以上となるように凝固させ、加熱温度を950℃以上1050℃以下、加工中の温度を800℃以上1050℃以下として製品圧延または鍛造を行って、軸状に形成され、高周波焼入れ、焼戻しを行って製造され、
軸の半径をa、中心からの距離をr、中心からの距離rにおける硬さをh(r)として、平均硬さをx(Hv)を、
【数1】

として定義したとき、ねじり強度をy(MPa)とすると、
y>2.5xとなることを特徴とする。」

(5c) 「【0013】
さらに前記鋼材として、必要に応じ、Mo:0.05質量%以上0.50質量%以下を含有したものを使用することもできる。Mo添加により粒界を強化することができる。
【0014】
また前記鋼材として、Pb:0.01質量%以上0.20質量%以下、Bi:0.01質量%以上0.10質量%以下、Ca:0.0005質量%以上0.0050質量%以下の少なくともいずれかを含有したものを使用することもできる。これらを含有させることにより、快削性を向上させることができる。」

(5d) 「【実施例】
【0036】
本発明の効果を調べるために、以下の実験を行った。表1に示す組成が得られるように原料を配合し、電気炉で70tonの鋼塊を溶製した後、鋳塊のサイズが370mm×510mmとなるように連続鋳造を行った。その後、直径50mmに圧延した。鋳造時は、1200℃以上1400℃以下の温度範囲で、鋳片中心部の冷却速度が2℃/分以上となるように凝固させ、圧延は、加熱温度を950℃以上1050℃以下、加工中の温度を800℃以上1050℃以下で行った。但し、比較例7のみ、7.1ton鋼塊鋳込みを行った。表1に本発明の発明例1ないし8と比較例1ないし10の各組成を示す。」

第6 判断
1 取消理由1(特許法第29条第1項第3号及び第2項)について
(1) 本件発明1と甲第1号証に記載された発明との対比・判断
ア 甲第1号証の【0046】の【表2】の実験No.19及び23には、Mnの含有量が、それぞれ0.84質量%、0.81質量%、Pの含有量が、それぞれ0.009質量%、0.0040質量%であることは記載されているものの、いずれも、本件発明1の「Mn:1.01?2.0%」、「P :0.011?0.20%」の範囲を満足していない。
また、甲第1号証に記載されている、その他の実験No.におけるMnとPの含有量を見ても、本件発明1の上記各範囲を満足しているものは記載されていない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

イ 本件発明1におけるPの含有量は0.011%?0.020%の範囲であるところ、甲第1号証の前記(1b)によれば、甲第1号証に記載された発明の課題は、「高周波焼入部の高い焼入れ硬さを維持しながら、前記高周波焼入部の低温耐衝撃特性をも改善できる高周波焼入用鋼及び棒鋼、並びにこれら高周波焼入用鋼、棒鋼などから製造される高周波焼入部品を提供する」ことであり、同(1d)の【0021】には、「P:0.010%以下(0%を含まない)
Pも前記Sと同様、本発明にとって極めて重要な元素である。低温耐衝撃特性が所定のP量を境にして急激に向上することについては全くの驚きであった。P量はこの臨界性を考慮して、0.010%以下・・・とする。」と記載されていることから、甲第1号証に記載された発明において、Pの含有量を、0.010%よりも多い0.011%?0.20%との範囲とすると、良好な低温耐衝撃性特性が得られなくなり、その結果、上記課題を解決できなくなるため、Pの含有量を0.011%?0.20%の範囲とすることには阻害要因があるといえる。
したがって、甲第2号証?甲第5号証に、Pの含有量を0.011%?0.20%の範囲とすることが記載されているとしても、甲第1号証に記載された発明において、Pの含有量を0.011?0.20%の範囲とすることは、当業者であれば容易に想到し得るものとはいえない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件発明2?6に係る発明について
本件発明2?6は、請求項1の全ての発明特定事項を有しているから、前記(1)で検討したのと同様の理由により、本件発明2?6は、甲第1号証に記載された発明であるといえないし、また、甲第1号証に記載された発明、及び、甲第2号証?甲第5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) まとめ
よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に違反してされたものではない。

2 取消理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(1) 特許異議申立人の特許異議申立書における主張について
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の33頁下から6行?36頁6行において、以下の主張をしている。
(ア) 本件特許明細書の実施例の記載からは、「硫化物系介在物比」が「0.20?0.30」の範囲である場合でも本件発明の課題を解決できることが定かでなく、本件発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(イ) Mn量とS量をそれぞれ「Mn:0.2?2.0%」「S :0.015?0.12%」に制御し、式(2)の左辺を「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」と補正したところで、「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]」の発生が抑制されることにはならない。
さらに、例えば、[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]が100、[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]が30である場合(以下、「例A」)、請求項1の式(2)を満たすことになるが、[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]が10、[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]が4である場合(以下、「例B」)とでは、微細な硫化物系介在物の数は例Bよりも例Aの方が多いため、例Aの方がバーニングが発生しやすいと考えられる(本件特許明細書の【0014】、【0018】、【0021】等参照)ものの、例Aは本件発明1の式(2)を満たし、本件発明の範囲内となり、例Bは同式(2)を満たさないため、本件発明の範囲外となるから、本件発明1?6は、その技術的意義が不明であり、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(当審注:本件訂正請求により、請求項1の「0.30」は、「0.16」に訂正されているから、上記例Aの「30」は、「16」と読み替えて、以下判断する。)

イ 本件発明
本件発明は、前記第3に記載したとおりのものであり、本件発明1を再掲すると以下のとおりである。
「C :0.38?0.8%(質量%の意味。以下同じ。)、
Si:0.01?2.0%、
Mn:1.01?2.0%、
P :0.011?0.20%、
S :0.015?0.12%、
Al:0.002?0.1%を含有し、
更に、
Ca:0.0001?0.01%、
Mg:0.0001?0.01%、
Zr:0.01?0.5%、
Te:0.001?0.05%、および
REM:0.001?0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記Mnおよび前記Sは下記式(1)の関係を満足し、
残部が鉄および不可避不純物からなる鋼材であり、
該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、下記式(2)の関係を満足することを特徴とする鋼材。
[Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1)
上記式(1)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.16 ・・・(2)」
(当審注:以下、上記「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」を「硫化物系介在物比」といい、上記「短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物」を「円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物」ともいう。)

ウ まず、前記ア(イ)について検討する。
(ア) 訂正後の本件特許明細書(以下、単に「本件特許明細書」という。)には以下の記載がある。
「【0017】
[硫化物系介在物]
本発明の鋼材は、Mnを0.2?2.0%、およびSを0.015?0.12%の範囲で含有する。
【0018】
Mnは、Sと結合してMnSなどの硫化物系介在物を形成し、FeSの生成を抑制して加熱時におけるバーニングの発生を抑制する元素である。Mnが0.2%未満ではその効果が不充分である。従って、本発明では、Mn量は0.2%以上とする。Mn量は、0.5%以上が好ましく、より好ましくは0.7%以上である。しかし、Mn量が過剰になり、2.0%を超えると、円相当径が4μmを超える粗大な硫化物系介在物の他、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成するため、加熱時にバーニングが発生する。従って、本発明では、Mn量は2.0%以下とする。Mn量は、1.8%以下が好ましく、より好ましくは1.6%以下である。
【0019】
Sは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、MnSなどの硫化物系介在物を形成すると、被削性の向上に有効に作用する元素である。S量が0.015%未満ではこうした効果は不充分である。従って、本発明では、S量は0.015%以上とする。S量は、0.017%以上が好ましく、より好ましくは0.019%以上である。しかし、過剰に含有すると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物(例えば、MnSなど)が生成しやすくなり、バーニングの発生原因となるFeSを形成する。従って、本発明では、S量は0.12%以下とする。S量は、0.115%以下が好ましく、より好ましくは0.110%以下である。
【0020】
本発明の鋼材は、MnとSを上記の範囲で含有したうえで、Mn量およびS量が上記式(1)の関係を満足する必要がある。
【0021】
[Mn]/[S]の値が13.0を下回ると、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になり、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する。その結果、加熱時に部分溶融が生じ、バーニングが発生する。従って、本発明では、[Mn]/[S]は13.0以上とする。[Mn]/[S]は、13.5以上とすることが好ましく、より好ましくは14.0以上である。[Mn]/[S]の値の上限は特に限定されず、後述するように、鋼材に含まれ得るMn量の上限は2.0%で、S量の下限は0.015%であるから、[Mn]/[S]の上限は、133.3である。[Mn]/[S]は、好ましくは100以下であり、より好ましくは80以下、更に好ましくは50以下である。
【0022】
本発明の鋼材は、鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、上記式(2)の関係を満足することも重要である。なお、以下では、上記式(2)の左辺の値を硫化物系介在物比ということがある。
【0023】
円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が過剰に生成すると、加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも融点が低いFeSを生成する。低融点のFeSが過剰に生成すると、部分溶融を起こし、バーニングが発生する。従って、本発明では、上記硫化物系介在物比は、0.30以下とする。上記硫化物系介在物比は、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.15以下である。上記硫化物系介在物比の下限は特に限定されないが、例えば、0.01以上であればよく、より好ましくは0.02以上である。」

(イ-1) 前記(ア)の【0017】には、Mnについて、Sと結合してMnSなどの硫化物系介在物を形成し、FeSの生成を抑制して加熱時におけるバーニングの発生を抑制する元素であるところ、Mn量が0.2%未満ではその効果が不充分であるから、Mn量は0.2%以上とするが、Mn量が過剰になり、2.0%を超えると、円相当径が4μmを超える粗大な硫化物系介在物の他、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成するため、加熱時にバーニングが発生するので、Mn量は2.0%以下とすることが記載されている。
(イ-2) 同【0019】には、Sについて、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、MnSなどの硫化物系介在物を形成すると、被削性の向上に有効に作用する元素であるところ、S量が0.015%未満ではこうした効果は不充分であるから、S量は0.015%以上とするが、過剰に含有すると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物(例えば、MnSなど)が生成しやすくなり、バーニングの発生原因となるFeSを形成するので、S量は0.12%以下とすることが記載されている。
(イ-3) 同【0020】には、MnとSを上記の範囲で含有したうえで、Mn量およびS量が上記式(1)の関係を満足する必要があるとし、同【0021】には、[Mn]/[S]の値について、13.0を下回ると、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になり、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する結果、加熱時に部分溶融が生じ、バーニングが発生するので、[Mn]/[S]は13.0以上とすることが記載されている。
(イ-4) 同【0022】には、鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、式(2)の関係を満足することも重要であるとし、同【0023】には、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が過剰に生成すると、加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも融点が低いFeSを生成し、そのFeSが部分溶融を起こし、バーニングが発生するので、硫化物系介在物比は、0.30以下とすることが記載されている。

(ウ) 前記(イ-1)?(イ-4)の記載によれば、鋼材において、Mn量が2.0%を超える、又は、S量が0.12%を超えると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成して加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも低融点のFeSが生成する。また、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になると、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する。そして、加熱時にこれらFeSが部分溶融を起こすことにより、バーニングが発生するところ、Mn量を2.0%以下とし、S量を0.12%以下とすれば、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が生成しにくくなるため、FeSの生成を抑えられ、また、[Mn]/[S]を13.0以上とし、硫化物系介在物比を0.30以下とすれば、Mnに対して過剰なSよるFeSの生成を抑えられるため、FeSが部分溶融を起こしてバーニングが発生するのを防止できるといえる。
そうすると、本件発明には、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の個数について具体的には特定はされていないものの、Mn量及びS量の上限値をそれぞれ特定することによって、バーニングが発生するのを防止できる個数になっているものと認められる。

(エ) そして、特許異議申立人が主張する例Aは、同例Bよりも円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の個数が多いから、仮に、バーニングが発生するものであるとすると、前記(ウ)の検討によれば、当該例Aにおいて、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の個数は、バーニングが発生するのを防止できる個数になっているとはいえないから、例Aは、本件発明の範囲外となる。
一方、例Bは、本件発明の範囲外であるところ、仮に、バーニングが発生しないものであるとしても、本願発明は、バーニングが発生しないものを全て含んでいる必要はないから、例Bが、本件発明の範囲外であることは、本件発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるか否かの判断を左右するものではない。
したがって、例A及び例Bが、本件発明の技術的意義を不明にするものであるとはいえない。

エ 次に、前記ア(ア)について検討する。
(ア) 本件発明が解決しようとする課題は、「熱間加工前に加熱したり、高周波を用いて加熱したときに、バーニングを発生しない耐バーニング性に優れた鋼材、およびその製造方法を提供すること」(本件特許明細書【0008】)である。

(イ) 本件訂正請求により、請求項1の「[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]」(硫化物系介在物比)の上限は、「0.16」に訂正された。

(ウ) そして、本件特許明細書の【0061】の【表3】によれば、本件発明の成分組成の特定を満足する鋼材であって、「硫化物系介在物比」が0.16以下であるもの(No.3、5?17、19、21?26、37)は、いずれも「耐バーニング性」は「合格」となっており、これらの記載から、本件発明が、前記(ア)で示した課題を解決し得るものであることは、十分に裏付けられているといえる。

オ 以上のとおりであるから、特許異議申立人の前記ア(ア)及び(イ)の主張は採用できない。

(2) 特許異議申立人の平成29年11月16日付け意見書における主張について
ア 特許異議申立人は、意見書の4頁7行?6頁3行において、以下の主張をしている。
訂正後の実施例No.3、5?17、19、21?26、37の成分範囲と、訂正後の請求項1の成分範囲とを比較すると以下のとおりである(以下、「対比表1」という。)。
【対比表1】


上記対比表1に見られるように、訂正後の請求項1の各成分範囲において、特に四角で囲んだ上限値又は下限値は、実施例の最大値又は最小値に比べて大きくかけ離れた値であり、実施例でサポートされている範囲ではない、すなわち、「本件特許発明の成分範囲内では、短径が2μm以上の硫化物系介在物のみを対象に硫化物系介在物比を満足すれば、耐バーニング性に優れる鋼材となる」とはいえないことは明らかであるから、訂正後の請求項1?6に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

しかし、訂正前の実施例No.3?26、28、30、37の成分範囲と、訂正前の請求項1の成分範囲とを比較すると以下のとおりである(以下、「対比表2」という。)。
【対比表2】


上記対比表2では、上記対比表1と同様に、四角で囲んだ上限値又は下限値は、実施例の最大値又は最小値に比べて大きくかけ離れた値となっているから、このことを根拠として、訂正前においても、請求項1?6に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとの主張ができたものと認められる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して、実質的に新たな内容を含むものであると認められるから、採用しない。

イ 特許異議申立人は、意見書の6頁4行?8頁17行において、本件訂正請求に付随して生じた事項として、以下の主張をしている。
訂正後の請求項1に係る発明において、式(1)は、[Mn]/[S]≧13.0と規定されており、[Mn]/[S]の上限値は規定されていないものの、Mn含有量の上限値とS含有量の下限値から[Mn]/[S]の上限値=133.3(本件特許明細書の【0021】)であり実質的に規定されているといえるところ、本件特許明細書の実施例においては、[Mn]/[S]が「13.1?25.5」のときには耐バーニング性が得られることが示されているが、「25.5超えから133.3」のときに耐バーニング性が得られることは示されていない、すなわち、本件特許明細書からでは、[Mn]/[S]が比較的高い値のときでも耐バーニング性が得られることまで一般化ないし拡張できるとはいえず、訂正後の請求項1に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

しかし、訂正前の請求項1に係る発明においても、式(1)は、[Mn]/[S]≧13.0と規定されており、Mn含有量の上限値(2.0%)とS含有量の下限値(0.015)から[Mn]/[S]の上限値=133.3(訂正前の本件特許明細書の【0021】)であるから、同上限値は実質的に規定されていたといえる。
一方、訂正前の明細書の実施例においては、[Mn]/[S]が「13.1?44.2」のときには耐バーニング性が得られることが示されているが、「44.2超え?133.3」のときに耐バーニング性が得られることは示されていないから、このことを根拠として、訂正前においても、本件特許明細書からでは、[Mn]/[S]が比較的高い値のときでも耐バーニング性が得られることまで一般化ないし拡張できるとはいえないとの主張はできたものと認められる。
したがって、特許異議申立人の上記主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して、実質的に新たな内容を含むものであると認められるから、採用しない。

(3) まとめ
よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鋼材およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間加工前や高周波を用いて加熱したときに、バーニングが発生しない鋼材、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間鍛造や熱間圧延などの熱間加工前には、変形抵抗を小さくして熱間加工しやすくするために、鋼片を、例えば、1200℃以上の高温に加熱する。また、高周波を用いた加熱時には、鋼片の温度が、例えば、1200℃以上の高温になることがある。しかし、加熱温度が目標温度を超えて高温に過熱されると、バーニングが発生する。バーニングとは、JIS G0201(2000年)によると、結晶粒界の融合によって引き起こされる組織や性質の非可逆的な変化であり、後の熱処理や機械加工又は加工と熱処理の組合せの作業で、初めにもっていた諸性質を回復できない現象と定義されている。バーニングが発生すると、材質が脆くなる。
【0003】
バーニングの発生を防止する方法としては、粒界に発生する偏析を低減することや、固相線温度を高くすることが考えられる。粒界に偏析が発生すると、偏析した成分によって局所的に凝固温度が低下するため、加熱時にバーニングが発生しやすくなる。また、固相線温度が低くなると、凝固温度が低くなるため、加熱時に鋼材の一部が溶融し、結晶粒界の融合が発生してバーニングが発生する。しかし、バーニングの発生を防止するために、鋼材の成分組成を調整する技術は検討されていなかった。
【0004】
そこで、バーニングの発生を防止するために、実操業では、加熱温度を下げ、過熱しないことが一般的である。即ち、加熱温度が、鋼材の固相線温度(凝固温度)に近づくとバーニングが発生するため、安全を見越して、加熱温度が固相線温度-130℃を超えないように制御していた。ところが、加熱温度を下げると、変形抵抗が大きくなるため、熱間加工しにくくなる。
【0005】
バーニングの発生を防止する技術ではないが、鋼材中に含まれるMnS系介在物に注目した技術が、特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示されている鋼材は、切りくず処理性と工具寿命の両方を改善できる機械構造用の鋼材である。この鋼材は、加工方向に平行な断面に存在する等価直径が4μm以上であるMnS系介在物が下記の(i)式および(ii)式を満足するものである。下記(i)式におけるLおよびWは、それぞれ、対象となるMnS系介在物の長径および短径を表し、アスペクト比は平均値としてのアスペクト比である。また、下記(ii)式におけるn、n1およびn2は、それぞれ、下記のMnS系介在物の個数を表す。
アスペクト比(L/W)<3 ・・・・・(i)
(n1+n2)/n≦0.2 ・・・・・(ii)
n:MnS系介在物の面積1mm^(2)当たりの個数
n1:MnS系介在物のうちで、Caを0.5質量%以上固溶しているものの面積1mm^(2)当たりの個数
n2:MnS系介在物のうちで、異種介在物を含むものの面積1mm^(2)当たりの個数
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-57021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1では、鋼材中のMnS系介在物に着目しているが、バーニングの発生については着目されていない。
【0008】
本発明の目的は、熱間加工前に加熱したり、高周波を用いて加熱したときに、バーニングを発生しない耐バーニング性に優れた鋼材、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る鋼材は、C:0.1?0.8%(質量%の意味。以下同じ。)、Si:0.01?2.0%、Mn:0.2?2.0%、P:0.20%以下、S:0.015?0.12%、Al:0.002?0.1%を含有し、更に、Ca:0.0001?0.01%、Mg:0.0001?0.01%、Zr:0.01?0.5%、Te:0.001?0.05%、およびREM:0.001?0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記Mnおよび前記Sは下記式(1)の関係を満足し、残部が鉄および不可避不純物からなるものである。下記式(1)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
[Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1)
そして、本発明の鋼材は、該鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、下記式(2)の関係を満足するところに要旨を有する。
[円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.30 ・・・(2)
【0010】
本発明の鋼材は、更に他の元素として、
(a)Cu:1%以下、Ni:2%以下、Cr:2%以下、Mo:2%以下、およびB:0.01%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、
(b)V:0.5%以下、Ti:0.5%以下、Nb:0.5%以下、およびW:2%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、
(c)Pb:0.3%以下、Bi:0.3%以下、Sn:0.02%以下、およびSb:0.02%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種、
を含有してもよく、また、
(d)Nは、0.02%以下の範囲で含有してもよい。
【0011】
本発明の鋼材は、上記成分組成を満足する溶鋼を鋳造して鋼材を製造するにあたり、鋳造開始から凝固完了までの鋳片中央部の平均冷却速度を7℃/分以下とすることにより製造できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼材の成分組成を適切に調整すると共に、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の生成を抑制するため、熱間加工前や高周波を用いて加熱しても、バーニングを発生しない耐バーニング性に優れた鋼材、およびその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、鋳造時における鋳片表面の中央部の平均冷却速度と、硫化物系介在物比との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、下記表3に示したNo.1の試験片表面を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で撮影した図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、熱間加工前や高周波を用いて加熱したときに、バーニングが発生することを防止するために、鋭意検討を重ねてきた。その結果、硫化物系介在物(例えば、MnS)がバーニングの発生に影響を及ぼすと考えられることが明らかになった。具体的には、硫化物系介在物のなかでも、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が、加熱時に分解し、生成したSは、Feと結合して硫化物系介在物よりも融点が低いFeSを形成すること、形成したFeSは加熱時に部分溶融し、バーニングが発生する原因になると考えられるという知見が得られた。
【0015】
そこで、本発明では、鋼材の成分組成のうち、特に、Mn量とS量が下記式(1)の関係を満足するように調整したうえで、下記式(2)を満足するように鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物の生成を抑制すればよいこと、また、硫化物系介在物中の硫黄(S)を安定化させて加熱時に分解しないようにするには、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有すればよいこと、を見出し、本発明を完成した。
[Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1)
[円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.30 ・・・(2)
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
[硫化物系介在物]
本発明の鋼材は、Mnを0.2?2.0%、およびSを0.015?0.12%の範囲で含有する。
【0018】
Mnは、Sと結合してMnSなどの硫化物系介在物を形成し、FeSの生成を抑制して加熱時におけるバーニングの発生を抑制する元素である。Mnが0.2%未満ではその効果が不充分である。従って、本発明では、Mn量は0.2%以上とする。Mn量は、0.5%以上が好ましく、より好ましくは0.7%以上である。しかし、Mn量が過剰になり、2.0%を超えると、円相当径が4μmを超える粗大な硫化物系介在物の他、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が多く生成するため、加熱時にバーニングが発生する。従って、本発明では、Mn量は2.0%以下とする。Mn量は、1.8%以下が好ましく、より好ましくは1.6%以下である。
【0019】
Sは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、MnSなどの硫化物系介在物を形成すると、被削性の向上に有効に作用する元素である。S量が0.015%未満ではこうした効果は不充分である。従って、本発明では、S量は0.015%以上とする。S量は、0.017%以上が好ましく、より好ましくは0.019%以上である。しかし、過剰に含有すると、円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物(例えば、MnSなど)が生成しやすくなり、バーニングの発生原因となるFeSを形成する。従って、本発明では、S量は0.12%以下とする。S量は、0.115%以下が好ましく、より好ましくは0.110%以下である。
【0020】
本発明の鋼材は、MnとSを上記の範囲で含有したうえで、Mn量およびS量が上記式(1)の関係を満足する必要がある。
【0021】
[Mn]/[S]の値が13.0を下回ると、鋼材中のMn量に比べてS量が過剰になり、SがMnによって固定されず、融点の低いFeSが多く生成する。その結果、加熱時に部分溶融が生じ、バーニングが発生する。従って、本発明では、[Mn]/[S]は13.0以上とする。[Mn]/[S]は、13.5以上とすることが好ましく、より好ましくは14.0以上である。[Mn]/[S]の値の上限は特に限定されず、後述するように、鋼材に含まれ得るMn量の上限は2.0%で、S量の下限は0.015%であるから、[Mn]/[S]の上限は、133.3である。[Mn]/[S]は、好ましくは100以下であり、より好ましくは80以下、更に好ましくは50以下である。
【0022】
本発明の鋼材は、鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、上記式(2)の関係を満足することも重要である。なお、以下では、上記式(2)の左辺の値を硫化物系介在物比ということがある。
【0023】
円相当径が4μm以下の微細な硫化物系介在物が過剰に生成すると、加熱時に分解し、SはFeと結合して、MnSよりも融点が低いFeSを生成する。低融点のFeSが過剰に生成すると、部分溶融を起こし、バーニングが発生する。従って、本発明では、上記硫化物系介在物比は、0.30以下とする。上記硫化物系介在物比は、好ましくは0.20以下であり、より好ましくは0.15以下である。上記硫化物系介在物比の下限は特に限定されないが、例えば、0.01以上であればよく、より好ましくは0.02以上である。
【0024】
上記硫化物系介在物とは、介在物の成分組成を分析したときに、鉄(Fe)を除いた合金元素の合計量を100質量%としたときに、Sを25質量%以上含有する介在物を意味する。上記鋼材に含まれる円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数の測定方法については、実施例の項で説明する。
【0025】
次に、本発明の鋼材に含まれるMnおよびS以外の成分について説明する。
【0026】
[C:0.1?0.8%]
Cは、鋼材の強度(最終製品の強度)を確保するために必要な元素であり、0.1%未満では鋼材の強度が低過ぎて機械構造用に用いることができない。従って本発明では、C量は0.1%以上とする。C量は、0.12%以上が好ましく、より好ましくは0.15%以上である。しかし、Cを過剰に含有すると強度が高くなり過ぎて、加工性が低下する。従って本発明では、C量は0.8%以下とする。C量は、0.75%以下が好ましく、より好ましくは0.70%以下である。
【0027】
[Si:0.01?2.0%]
Siは、固溶体硬化によって最終製品の強度を増加させるために必要な元素であり、本発明では、0.01%以上とする。Si量は、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.10%以上である。しかし、Si量が過剰になり、2.0%を超えると、Si含有酸化物が過剰に生成すると共に、固相線温度が低くなるため、加熱時にバーニングが発生しやすくなる。従って、本発明では、Si量は2.0%以下とする。Si量は、1.5%以下が好ましく、より好ましくは1.3%以下である。
【0028】
[P:0.20%以下(0%を含まない)]
Pは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であるが、被削性を改善するのに寄与する。しかし、Pを0.20%を超えて過剰に含有すると、粒界に偏析して固相線温度を低下し、加熱時にバーニングが発生しやすくなる。従って、本発明では、P量は、0.20%以下とする。P量は、0.15%以下が好ましく、より好ましくは0.12%以下である。
【0029】
[Al:0.002?0.1%]
Alは、脱酸元素として作用する元素であり、Al量が0.002%を下回ると、低融点の酸化物が生成し、加熱時に部分溶融が促進され、バーニングが発生する。従って、本発明では、Al量は0.002%以上とする。Al量は、0.003%以上が好ましい。しかし、過剰に含有すると、Al_(2)O_(3)が多く生成し、加工性が劣化する。従って、本発明では、Al量は0.1%以下とする。Al量は、0.075%以下が好ましく、より好ましくは0.060%以下である。
【0030】
[Ca:0.0001?0.01%、Mg:0.0001?0.01%、Zr:0.01?0.5%、Te:0.001?0.05%、およびREM(希土類元素):0.001?0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
Ca、Mg、Zr、Te、およびREMは、いずれも硫化物系介在物(例えば、MnSなど)中のSを安定化し、硫化物系介在物を粗大化することにより、加熱時にバーニングが発生するのを抑制する元素である。こうした作用を発揮させるには、Caは、0.0001%以上とし、好ましくは0.0003%以上、より好ましくは0.0004%以上とする。Mgは、0.0001%以上とし、好ましくは0.0003%以上、より好ましくは0.0004%以上とする。Zrは、0.01%以上とし、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.04%以上とする。Teは、0.001%以上とし、好ましくは0.002%以上とする。REMは、0.001%以上とし、好ましくは0.002%以上、より好ましくは0.003%以上とする。しかし、過剰に含有しても添加効果は飽和し、コスト高となる。従って、本発明では、Caは、0.01%以下とし、好ましくは0.0095%以下、より好ましくは0.0090%以下とする。Mgは、0.01%以下とし、好ましくは0.0095%以下、より好ましくは0.0090%以下とする。Zrは、0.5%以下とし、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下とする。Teは、0.05%以下とし、好ましくは0.045%以下とする。REMは、0.05%以下とし、好ましくは0.04%以下とする。上記元素は、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。
【0031】
上記REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味であり、これらの元素のなかでも、La、CeおよびYよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが好ましく、より好ましくはLaおよびCeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有するのがよい。
【0032】
本発明の鋼材は、上記元素を含有するものであり、残部は、鉄および不可避不純物である。
【0033】
本発明の鋼材は、更に、他の元素として、
(a)Cu、Ni、Cr、Mo、およびBよりなる群から選ばれる少なくとも1種、
(b)V、Ti、Nb、およびWよりなる群から選ばれる少なくとも1種、
(c)Pb、Bi、Sn、およびSbよりなる群から選ばれる少なくとも1種、
を含有してもよく、
(d)Nは0.02%以下の範囲で含有してもよい。
【0034】
各元素の好適な範囲は、次の通りである。
【0035】
[(a)Cu:1%以下(0%を含まない)、Ni:2%以下(0%を含まない)、Cr:2%以下(0%を含まない)、Mo:2%以下(0%を含まない)、およびB:0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
Cu、Ni、Cr、Mo、およびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させて最終製品の強度を高めるのに作用する元素であり、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。こうした作用を有効に発揮させるには、Cuは、0.1%以上が好ましく、より好ましくは0.2%以上である。Niは、0.2%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは1.0%以上である。Crは、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.10%以上、更に好ましくは0.5%以上である。Moは、0.2%以上が好ましく、より好ましくは0.3%以上である。Bは、0.0005%以上が好ましく、より好ましくは0.0010%以上である。しかし、これらの元素の含有量が過剰になると、鋼材の強度が高くなり過ぎて、加工性を劣化させることがある。従って、本発明では、Cuは、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下である。Niは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.8%以下、更に好ましくは1.7%以下である。Crは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.9%以下、更に好ましくは1.8%以下である。Moは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.0%以下である。Bは、0.01%以下が好ましく、より好ましくは0.008%以下、更に好ましくは0.005%以下である。
【0036】
[(b)V:0.5%以下(0%を含まない)、Ti:0.5%以下(0%を含まない)、Nb:0.5%以下(0%を含まない)、およびW:2%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
V、Ti、Nb、およびWは、Cと結合して炭化物を形成したり、Nと結合して窒化物を形成し、鋼材の強度向上に寄与する元素であり、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。こうした作用を有効に発揮させるには、Vは、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.10%以上である。Tiは、0.005%以上が好ましく、より好ましくは0.010%、更に好ましくは0.015%以上である。Nbは、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.08%以上、更に好ましくは0.10%以上である。Wは、0.2%以上が好ましく、より好ましくは0.5%以上、更に好ましくは0.7%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、形成される炭化物や窒化物が、鋼材の変形抵抗を上昇させ、加工性を低下することがある。従って、本発明では、Vは、0.5%以下が好ましく、より好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.30%以下である。Tiは、0.5%以下が好ましく、より好ましくは0.3%以下、更に好ましくは0.1%以下である。Nbは、0.5%以下が好ましく、より好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.3%以下である。Wは、2%以下が好ましく、より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.0%以下である。
【0037】
[(c)Pb:0.3%以下(0%を含まない)、Bi:0.3%以下(0%を含まない)、Sn:0.02%以下(0%を含まない)、およびSb:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる少なくとも1種]
Pb、Bi、Sn、およびSbは、いずれも被削性の改善に寄与する元素であり、単独で、或いは任意に選ばれる2種以上を含有してもよい。こうした作用を有効に発揮させるには、Pbは、0.03%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.15%以上である。Biは、0.03%以上が好ましく、より好ましくは0.08%以上、更に好ましくは0.10%以上である。Snは、0.002%以上が好ましく、より好ましくは0.005%以上、更に好ましくは0.010%以上である。Sbは、0.002%以上が好ましく、より好ましくは0.004%以上、更に好ましくは0.006%以上である。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、強度や加工性が低下することがある。従って、本発明では、Pbは、0.3%以下が好ましく、より好ましくは0.28%以下、更に好ましくは0.25%以下である。Biは、0.3%以下が好ましく、より好ましくは0.25%以下、更に好ましくは0.20%以下である。Snは、0.02%以下が好ましく、より好ましくは0.018%以下、更に好ましくは0.015%以下である。Sbは、0.02%以下が好ましく、より好ましくは0.015%以下、更に好ましくは0.010%以下である。
【0038】
[(d)N:0.02%以下(0%を含まない)]
Nは、鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、鋼材中の固溶N量が多くなり過ぎると、歪み時効による硬度上昇や、延性の低下を招き、加工性が劣化することがある。従って、本発明では、N量は、0.02%以下であることが好ましい。N量は、より好ましくは0.018%以下であり、更に好ましくは0.015%以下、最も好ましくは0.010%以下である。
【0039】
[製造条件]
次に、本発明に係る鋼材の製造方法について説明する。
【0040】
本発明の鋼材は、上記成分組成を満足する溶鋼を鋳造して鋼材を製造するにあたり、鋳造開始から凝固完了までの鋳片中央部の平均冷却速度を7℃/分以下とすることが重要である。平均冷却速度を7℃/分以下に抑えることにより、硫化物系介在物を成長させることができ、上記硫化物系介在物比を0.30以下にできる。その結果、加熱時にバーニングが発生することを防止できる。上記平均冷却速度は、6℃/分以下であることが好ましい。
【0041】
上記平均冷却速度は、例えば、鋳造時に用いる鋳型の大きさを調整することによって制御できる。即ち、鋳型の内径を大きくするほど、鋳片中央部の平均冷却速度は小さくなり、硫化物系介在物は粗大化する。一方、鋳型の内径を小さくするほど、鋳片中央部の平均鋳造速度は大きくなり、硫化物系介在物は微細化する。鋳型の内径は、例えば、350?1100mmであることが好ましく、より好ましくは450?1000mmである。
【0042】
上記平均冷却速度は、少なくとも鋳片の表面における平均冷却速度を7℃/分以下に制御すればよい。少なくとも鋳片の表面における平均冷却速度を7℃/分以下に制御すれば、鋳片中央部の平均冷却速度は7℃/分以下となる。鋳片の表面とは、例えば、鋳片の表面の中央部である。鋳片表面の中央部における平均冷却速度は、例えば、次の手順で測定すればよい。即ち、温度測定用の熱電対をアルミナ製の保護管に挿入したものを、押湯部の表面中央付近に設置し、鋳造開始時点から凝固完了時点までの温度と、冷却に要した時間に基づいて、平均冷却速度を求めることができる。また、上記平均冷却速度は、鋳片の中央部における平均冷却速度を計算により求め、この平均冷却速度を上記のように制御してもよい。
【0043】
鋳造後は、常法に従って、熱間加工等を行えばよい。例えば、850?1250℃程度に加熱した後、熱間加工により所望の線径とした後、放冷または空冷により冷却すればよい。この冷却時の平均冷却速度は、例えば、3℃/秒以下とすればよい。
【0044】
こうして得られた本発明の鋼材は、熱間鍛造や熱間加工前、または高周波を用いて高温に加熱しても、バーニングが発生しないものとなる。高温とは、例えば、固相線温度-150℃以上、固相線温度-100℃以下の範囲であり、特に、固相線温度-130℃以上、固相線温度-100℃以下の範囲である。
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0046】
溶鋼を鋳造し、下記表1、表2に示す成分組成(残部は、鉄および不可避不純物)の鋼材を製造した。下記表1、表2に示したMn量とS量に基づいて、Mn量とS量の比([Mn]/[S])を算出し、結果を下記表1、表2に示す。
【0047】
鋳造時における鋳造開始から凝固完了までの鋳片表面の中央部における平均冷却速度を次の手順で測定した。即ち、温度測定用の熱電対をアルミナ製の保護管に挿入したものを、押湯部の表面中央付近に設置し、鋳造開始時から凝固完了時までの温度と、冷却に要した時間に基づいて、平均冷却速度を算出した。
【0048】
鋳造時に用いた鋳型の内径は、200mm、300mm、450mm、または1000mmである。内径が200mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は30℃/分であった(下記表3のNo.39)。内径が300mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は20℃/分であった(下記表3のNo.38)。内径が450mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は5℃/分であった(下記表3のNo.1?36)。内径が1000mmの鋳型を用いたときの鋳片表面の中央部における平均冷却速度は1℃/分であった(下記表3のNo.37)。
【0049】
また、下記表1、表2に示した成分組成と、下記式(a)に基づいて、固相線温度を算出し、結果を下記表3に示す。下記式(a)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
固相線温度(℃)=1536-(170×[C]+12.3×[Si]+6.8×[Mn]+124.5×[P]+183.9×[S]) ・・・(a)
【0050】
次に、鋳造して得られた鋳片を熱延加工して試験片を製造し、試験片に含まれる硫化物系介在物比を算出した。即ち、得られた鋳片を、900℃以上に加熱した後、鍛造比が約20となるように900?1200℃で熱延加工し、放冷して試験片を作製した。なお、上記鍛造比とは、熱延加工前における試験片の断面を、熱延加工後における試験片の断面で除した値である。具体的には、内径が200mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ45mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、20であった。内径が300mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ70mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、18であった。内径が450mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ95mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、22であった。内径が1000mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ230mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は、19であった。
【0051】
試験片の直径をD(mm)としたとき、得られた試験片のD/4位置における縦断面を、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Microanalyser;EPMA)で、倍率200倍で観察し、短径(幅)が2μm以上の全ての介在物の成分組成を分析した。成分組成を分析した介在物の個数が300個以上となるように、観察は複数の視野で行った。分析した介在物の成分組成について、鉄(Fe)を除いた合金元素の量を100質量%としたとき、S含有量が25質量%以上である介在物を、「短径が2μm以上の硫化物系介在物」とし、その個数を測定した。また、「短径が2μm以上の硫化物系介在物」のうち、円相当径が4μm以下の介在物を、「円相当径が4μm以下の硫化物系介在物」とし、その個数を測定した。
【0052】
上記円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数との比(円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数/短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数;硫化物系介在物比)を算出し、結果を下記表3に示す。
【0053】
ここで、鋳造時における鋳片表面の中央部の平均冷却速度と、硫化物系介在物比との関係を図1に示す。なお、図1には、内径が450mmの鋳型を用い、鋳片の中心における平均冷却速度を5℃/分とした例の代表例としてNo.3の結果、平均冷却速度を1℃/分としたNo.37の結果、平均冷却速度を20℃/分としたNo.38の結果、および平均冷却速度を30℃/分としたNo.39の結果を示した。
【0054】
次に、鋳造して得られた鋳片を熱延加工して試験片を製造し、所定の温度に加熱して30秒保持した後、バーニング発生の有無を評価した。具体的な評価手順は、下記の通りである。
【0055】
鋳造して得られた鋳片を、900℃以上の加熱温度で加熱した後、鍛造比が約400?600となるように900?1200℃で熱延加工し、放冷して試験片を作製した。上記加熱温度は、バーニングの発生の有無を評価するために、成分組成に基づいて算出される固相線温度-100℃?固相線温度-130℃を目安とした。具体的には、No.1?26、31?36は、C量が約0.4%近傍で類似するため、加熱温度は一律に1330℃とした。No.27、28は、C量が約0.15%近傍で類似するため、加熱温度は一律に1360℃とした。No.29、30は、C量が約0.7%近傍で類似するため、加熱温度は一律に1300℃とした。下記表3に加熱温度(℃)を示す。
【0056】
上記熱延加工は、具体的には、次の条件で行った。内径が200mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ9mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は494であった。内径が300mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ15mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は400であった。内径が450mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ18mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は625であった。内径が1000mmの鋳型を用いて得られた鋳片は、φ45mmに熱延加工した。このときの軸方向の鍛造比は494であった。
【0057】
得られた試験片を下記表3に示す温度に加熱し、この加熱温度で30秒間保持した後冷却した。冷却後の試験片表面を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で観察し、結晶粒界における溶融跡の有無を調べた。溶融跡は、結晶粒界に、空孔または酸化物が存在するか否かで評価した。即ち、結晶粒界に、酸化物および孔が無い場合を、耐バーニング性に優れると評価し、下記表3に、合格と表記した。結晶粒界に、酸化物または孔のうち何れか一つが有る場合を、耐バーニング性に劣ると評価し、下記表3に、不合格と表記した。
【0058】
また、下記表3に示したNo.1の試験片表面を、光学顕微鏡を用いて倍率400倍で撮影した図面代用写真を図2に示す。図2において、aは空孔、bは酸化物を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
上記表1?表3から次のように考察できる。No.3、5?17、19、21?26、37は、いずれも本発明で規定する要件を満足する例であり、鋼材の成分組成、鋼材に含まれるMn量およびS量の関係、並びに硫化物系介在物比が適切に制御できるため、加熱時にバーニングが発生しない。
【0063】
これに対し、No.1、2、27、29、31?36、38、39は、いずれも本発明で規定する要件を満足しない比較例である。以下、詳細に説明する。
【0064】
No.1と27は、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有しない例であり、硫化物系介在物に含まれるSを安定化できない。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0065】
No.29は、上記No.1と同様、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有しない例であり、硫化物系介在物に含まれるSを安定化できない。また、鋼材に含まれるMn量とS量の比も本発明で規定する範囲を外れる。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0066】
No.2は、Sを過剰に含有し、鋼材に含まれるMn量とS量の比が本発明で規定する範囲を外れる例である。また、Ca、Mg、Zr、Te、およびREMよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有しない例であり、硫化物系介在物に含まれるSを安定化できない。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0067】
No.31は、Sを過剰に含有し、鋼材に含まれるMn量とS量の比が本発明で規定する範囲を外れる例である。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0068】
No.33は、Mnを過剰に含有する例であり、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0069】
No.36は、鋼材に含まれるMn量とS量の比が本発明で規定する範囲を外れる例である。その結果、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【0070】
No.32は、Siを過剰に含有する例であり、No.34は、Pを過剰する例であり、No.35は、Al量が少な過ぎる例であり、いずれもバーニングが発生した。
【0071】
No.38と39は、鋳造時における平均冷却速度が大き過ぎた例であり、硫化物系介在物が粗大化し、硫化物系介在物比が本発明で規定する要件を外れ、バーニングが発生した。
【符号の説明】
【0072】
a 空孔
b 酸化物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C :0.38?0.8%(質量%の意味。以下同じ。)、
Si:0.01?2.0%、
Mn:1.01?2.0%、
P :0.011?0.20%、
S :0.015?0.12%、
Al:0.002?0.1%を含有し、
更に、
Ca:0.0001?0.01%、
Mg:0.0001?0.01%、
Zr:0.01?0.5%、
Te:0.001?0.05%、および
REM:0.001?0.05%よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記Mnおよび前記Sは下記式(1)の関係を満足し、
残部が鉄および不可避不純物からなる鋼材であり、
該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数と、該鋼材に含まれる短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数が、下記式(2)の関係を満足することを特徴とする鋼材。
[Mn]/[S]≧13.0 ・・・(1)
上記式(1)において、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
[短径が2μm以上の硫化物系介在物のうちの円相当径が4μm以下の硫化物系介在物の個数]/[短径が2μm以上の硫化物系介在物の個数]≦0.16 ・・・(2)
【請求項2】
更に他の元素として、
Cu:1%以下、
Ni:2%以下、
Cr:2%以下、および
Mo:2%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1に記載の鋼材。
【請求項3】
更に他の元素として、
V :0.5%以下、
Ti:0.5%以下、
Nb:0.5%以下、および
W :2%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の鋼材。
【請求項4】
更に他の元素として、
Pb:0.3%以下、
Bi:0.3%以下、
Sn:0.02%以下、および
Sb:0.02%以下よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1?3のいずれかに記載の鋼材。
【請求項5】
更に他の元素として、
N:0.02%以下を含有する請求項1?4のいずれかに記載の鋼材。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載の鋼材を製造する方法であって、
請求項1?5のいずれかに記載の成分組成を満足する溶鋼を鋳造して鋼材を製造するにあたり、鋳造開始から凝固完了までの鋳片中央部の平均冷却速度を7℃/分以下とすることを特徴とする鋼材の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-12-04 
出願番号 特願2013-269488(P2013-269488)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (C22C)
P 1 651・ 537- YAA (C22C)
P 1 651・ 121- YAA (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 静野 朋季  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 河本 充雄
金 公彦
登録日 2016-12-09 
登録番号 特許第6055400号(P6055400)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 鋼材およびその製造方法  
代理人 山尾 憲人  
代理人 山田 卓二  
代理人 山田 卓二  
代理人 佐々木 正博  
代理人 佐々木 正博  
代理人 山尾 憲人  
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